(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20230404BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20230404BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230404BHJP
C08K 3/06 20060101ALI20230404BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20230404BHJP
C08K 5/548 20060101ALI20230404BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20230404BHJP
C08L 15/00 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
C08L9/00
B60C1/00 Z
C08K3/013
C08K3/06
C08K3/36
C08K5/548
C08L7/00
C08L15/00
(21)【出願番号】P 2019024267
(22)【出願日】2019-02-14
【審査請求日】2022-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】岡 美幸
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-218255(JP,A)
【文献】特開2005-281384(JP,A)
【文献】特表2014-501834(JP,A)
【文献】特開2003-321575(JP,A)
【文献】特開2015-199863(JP,A)
【文献】特開2011-132305(JP,A)
【文献】特開2017-179043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴム30質量%未満を含むジエン系ゴムに対して、2種類のシリカと、2種類の硫黄含有シランカップリング剤と、加硫向硫黄とが配合されたタイヤ用ゴム組成物であって、
前記2種類のシリカは高CTABシリカと低CTABシリカとからなり、
前記高CTABシリカは、CTAB吸着比表面積Cが190m
2 /g以上、且つ、CTAB吸着比表面積Cに対する窒素吸着比表面積Nの比N/Cが0.95~1.15であり、
前記低CTABシリカは、CTAB吸着比表面積Cが150m
2 /g~180m
2 /g、且つ、CTAB吸着比表面積Cに対する窒素吸着比表面積Nの比N/Cが1.0~1.15であり、
前記2種類の硫黄含有シランカップリング剤は高硫黄シランカップリング剤と低硫黄シランカップリング剤とからなり、
前記高硫黄シランカップリング剤中の硫黄の質量比率が0.1以上であり、
前記低硫黄シランカップリング剤中の硫黄の質量比率が0.1未満であり、
前記2種類のシリカの配合量の合計が前記ジエン系ゴム100質量部に対して60質量部~100質量部であり、
前記2種類の硫黄含有シランカップリング剤の配合量の合計が前記2種類のシリカの配合量の合計に対して6質量%~15質量%であり、
前記2種類の硫黄含有シランカップリング剤の配合量の合計に対する前記低硫黄シランカップリング剤の配合量の比率が0.05~0.15であり、
前記2種類の硫黄含有シランカップリング剤中の架橋に関与する硫黄の含有量S1と架橋に関与する前記加硫向硫黄の正味量S2との総和に対する架橋に関与する前記加硫向硫黄の正味量S2の比率S2/(S1+S2)が0.3~0.6であることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ジエン系ゴムに対して加硫促進剤が配合されており、前記加硫促進剤の配合量に対する前記加硫向硫黄の配合量の比率が0.2~0.4であることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記2種類のシリカの配合量の合計に対する前記高CTABシリカの配合量の比率が0.7~0.9であることを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記低硫黄シランカップリング剤中の硫黄の質量比率が0.05以上0.1未満であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
前記天然ゴム以外のジエン系ゴムとして末端変性ポリマーを含むことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として高温多湿環境下での使用が意図され、シリカおよびシランカップリング剤が配合されたタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高温多湿環境下などの過酷地域での使用が想定される空気入りタイヤでは、その環境下において長期に亘って耐久性が維持されることや、経時劣化しにくいこと、即ち耐老化性に優れることが求められる。例えば、耐久性を高める対策として、タイヤ用ゴム組成物に小粒径シリカを配合すること(例えば、特許文献1を参照)や、高強度ポリマーを配合することが提案されている。しかしながら、小粒径シリカや高強度ポリマーを使用した場合、得られるゴム組成物の加工性や発熱性の悪化が懸念される。そのため、加工性や発熱性を良好に維持しながら、高温多湿環境下での耐久性を向上し、経時劣化を防止する対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、シリカおよびシランカップリング剤が配合されたタイヤ用ゴム組成物であって、加工性や発熱性を良好に維持しながら、高温多湿環境下での耐久性を向上し、且つ、経時劣化を防止し、これら性能を両立することを可能にしたタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する本発明のタイヤ用ゴム組成物は、天然ゴム30質量%未満を含むジエン系ゴムに対して、2種類のシリカと、2種類の硫黄含有シランカップリング剤と、加硫向硫黄とが配合されたタイヤ用ゴム組成物であって、前記2種類のシリカは高CTABシリカと低CTABシリカとからなり、前記高CTABシリカは、CTAB吸着比表面積Cが190m2 /g以上、且つ、CTAB吸着比表面積Cに対する窒素吸着比表面積Nの比N/Cが1.0~1.15であり、前記低CTABシリカは、CTAB吸着比表面積Cが150m2 /g~180m2 /g、且つ、CTAB吸着比表面積Cに対する窒素吸着比表面積Nの比N/Cが1.0~1.15であり、前記2種類の硫黄含有シランカップリング剤は高硫黄シランカップリング剤と低硫黄シランカップリング剤とからなり、前記高硫黄シランカップリング剤中の硫黄の質量比率が0.1以上であり、前記低硫黄シランカップリング剤中の硫黄の質量比率が0.1未満であり、前記2種類のシリカの配合量の合計が前記ジエン系ゴム100質量部に対して60質量部~100質量部であり、前記2種類の硫黄含有シランカップリング剤の配合量の合計が前記2種類のシリカの配合量の合計に対して6質量%~15質量%であり、前記2種類の硫黄含有シランカップリング剤の配合量の合計に対する前記低硫黄シランカップリング剤の配合量の比率が0.05~0.15であり、前記2種類の硫黄含有シランカップリング剤中の架橋に関与する硫黄の含有量S1と架橋に関与する前記加硫向硫黄の正味量S2との総和に対する架橋に関与する前記加硫向硫黄の正味量S2の比率S2/(S1+S2)が0.4~0.7であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上記のように、比表面積(粒径)の異なる2種類のシリカと硫黄含有比率の異なる2種類の硫黄含有シランカップリング剤とを適切な配合比率で併用することで、得られるゴム組成物の物性を向上することができ、ゴム組成物の加工性と当該ゴム組成物を用いて空気入りタイヤを製造した際の操縦安定性とをバランスよく両立することが可能になる。更に、硫黄含有シランカップリング剤中の硫黄と加硫向硫黄とを上記のように配合してこれらのバランスを最適化し、硫黄含有シランカップリング剤に由来する活性の高い硫黄を多く供給することで、架橋効率を高めることができ、耐久性を向上することができる。
【0007】
尚、シリカのCTAB吸着比表面積Cは、JIS K6217‐3に基づいて測定するものとする。シリカの窒素吸着比表面積Nは、JIS K6217‐2に基づいて測定するものとする。硫黄含有シランカップリング剤中の硫黄の質量比率は、分子式から算出される理論値ではなく、実際のシランカップリング剤に含まれる平均硫黄数に基づいて算出した値である。例えば、シランカップリング剤が市販品の場合、その平均組成式から算出することができる。硫黄含有シランカップリング剤中の架橋に関与する硫黄量S1は、ゴム組成物中の硫黄含有シランカップリング剤に含まれる硫黄原子のうち架橋に関与する硫黄原子の数に基づいて算出したものであり、具体的にはシランカップリング剤中の架橋に関与する平均硫黄数Snと硫黄の分子量Smとシランカップリング剤の分子量Siから式Sn×Sm/Siにより求めた値とシランカップリング剤の配合量との積である。加硫向硫黄の正味量S2は、加硫向硫黄(油展品)の油分を除いた正味の質量である。
【0008】
本発明では、ジエン系ゴムに対して加硫促進剤が配合されており、加硫促進剤の配合量に対する加硫向硫黄の配合量の比率が0.2~0.4であることが好ましい。また、本発明では、2種類のシリカの配合量の合計に対する高CTABシリカの配合量の比率が0.7~0.9であることが好ましい。更に、本発明では、低硫黄シランカップリング剤中の硫黄の質量比率が0.05以上0.1未満であることが好ましい。更に、本発明では、天然ゴム以外のジエン系ゴムとして末端変性ポリマーを含むことが好ましい。これにより、ゴム組成物の物性が更に良好になり、加工性や発熱性を良好に維持しながら、高温多湿環境下での耐久性を向上し、且つ、経時劣化を防止し、これら性能を両立するには有利になる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、ゴム成分はジエン系ゴムであり、天然ゴムを必ず含む。天然ゴムとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常用いられるゴムを使用することができる。天然ゴムの配合量は、ジエン系ゴム100質量部中に30質量部未満、好ましくは10質量部~25質量部である。天然ゴムの配合量が30質量部以上であると、本発明の所望の効果が充分に得られない虞がある。
【0010】
本発明では、ゴム成分として、天然ゴム以外のジエン系ゴムを含んでもよい。ジエン系ゴムとしては、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン‐ブタジエンゴム、アクリロニトリル‐ブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム等のタイヤ用ゴム組成物に一般的に用いられるゴムを使用することができる。これらのジエン系ゴムは末端変性されたゴムであることが好ましい。末端変性基としては、例えばカルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基、アルコキシル基、シラノール基などが例示される。これら天然ゴム以外のジエン系ゴムのなかでも、特に、末端変性スチレン‐ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ブタジエンゴムを好適に用いることができる。これら他のジエン系ゴムは、単独又は任意のブレンドとして使用することができる。
【0011】
本発明のゴム組成物では、比表面積の異なる2種類のシリカが必ず配合される。以下の説明では、2種類のシリカのうち、CTAB比表面積が相対的に大きいものを高CTABシリカと言い、CTAB比表面積が相対的に小さいものを低CTABシリカと言う。2種類のシリカとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常使用されるシリカ、例えば湿式法シリカ、乾式法シリカ、或いは表面処理シリカなどを使用することができる。2種類のシリカは、市販されているものの中から適宜選択して使用することができる。また通常の製造方法により得られたシリカを使用することができる。2種類のシリカの配合量の合計は、ジエン系ゴム100質量部に対して60質量部~100質量部、好ましくは70質量部~90質量部である。このように2種類のシリカを合計で適切な量だけ配合することで加工性を向上することができる。使用されるシリカが1種類のみであると、2種類のシリカを併用することによる前述の効果が得られない。特に、後述のCTAB吸着比表面積の範囲を満たす高CTABシリカのみが配合されると加工性が低下する。逆に、後述のCTAB吸着比表面積の範囲を満たす低CTABシリカのみが配合されると操縦安定性が低下する。2種類のシリカの配合量の合計が60質量部未満であると操縦安定性が低下する。2種類のシリカの配合量の合計が100質量部を超えると加工性が低下する。
【0012】
このように比表面積の異なる2種類のシリカを配合するにあたって、高CTABシリカを低CTABシリカよりも多く配合することがこのましい。具体的には、2種類のシリカの配合量の合計に対する高CTABシリカの配合量の比率を、好ましくは0.7~0.9、より好ましくは0.7~0.8に設定するとよい。このように高CTABシリカを相対的に多く配合することで、ゴム組成物の物性が更に良好になり、加工性や発熱性を良好に維持しながら、高温多湿環境下での耐久性を向上し、且つ、経時劣化を防止し、これら性能を両立するには有利になる。2種類のシリカの配合量の合計に対する高CTABシリカの配合量の比率が0.7未満であると、耐久性やタイヤにした時の操縦安定性を充分に確保することが難しくなる。2種類のシリカの配合量の合計に対する高CTABシリカの配合量の比率が0.9を超えると、低CTABシリカの配合量が少なすぎて実質的に高CTABシリカのみが配合されたのと同等になるため、加工性を充分に確保することが難しくなる。
【0013】
前述のように2種類のシリカは比表面積が異なっているが、高CTABシリカのCTAB吸着比表面積Cは190m2 /g以上、好ましくは190m2 /g~220m2 /gである。また、低CTABシリカのCTAB吸着比表面積Cは150m2 /g~180m2 /g、好ましくは150m2 /g~170m2 /gである。更に、高CTABシリカのCTAB吸着比表面積Cに対する窒素吸着比表面積Nの比N/Cは0.95~1.15、好ましくは0.95~1.10である。また、低CTABシリカのCTAB吸着比表面積Cに対する窒素吸着比表面積Nの比N/Cは0.95~1.15、好ましくは0.95~1.10である。このように各シリカの比表面積を設定することで、比表面積の異なる2種類のシリカを併用することによる効果を良好に発揮することができる。また、各シリカの比N/Cを上記範囲に設定することで、シリカの分散性を効果的に高めることができる。高CTABシリカのCTAB吸着比表面積Cが190m2 /g未満であると、2種類のシリカの比表面積の差が小さくなり、実質的に低CTABシリカのみが配合された場合と同等になるため、比表面積の異なる2種類のシリカを併用することによる効果が充分に得られない。低CTABシリカのCTAB吸着比表面積Cが150m2 /g未満であると耐久性が低下する。低CTABシリカのCTAB吸着比表面積Cが180m2 /gを超えると、2種類のシリカの比表面積の差が小さくなり、実質的に高CTABシリカのみが配合された場合と同等になるため、比表面積の異なる2種類のシリカを併用することによる効果が充分に得られない。高CTABシリカの比N/Cが1.0未満であると耐久性が低下する。高CTABシリカの比N/Cが1.15を超えるとシリカの分散性を高めることができない。低CTABシリカの比N/Cが1.0未満であると耐久性が低下する。低CTABシリカの比N/Cが1.15を超えるとシリカの分散性を高めることができない。尚、上述のCTAB吸着比表面積Cと比N/Cから各シリカの窒素吸着比表面積Nの範囲は算出可能であるが、高CTABシリカの窒素吸着比表面積Nは例えば190m2 /g~220m2 /g、低CTABシリカの窒素吸着比表面積Nは例えば145m2 /g~180m2 /gに設定することが好ましい。
【0014】
本発明のゴム組成物では、硫黄含有比率の異なる2種類の硫黄含有シランカップリング剤が必ず配合される。以下の説明では、2種類の硫黄含有シランカップリング剤のうち、硫黄含有比率が相対的に大きいものを高硫黄シランカップリング剤と言い、硫黄含有比率が相対的に小さいものを低硫黄シランカップリング剤と言う。2種類の硫黄含有シランカップリング剤の配合量の合計は、前述の2種類のシリカ(高CTABシリカおよび低CTABシリカ)の配合量の合計に対して6質量%~15質量%、好ましくは8質量%~15質量%である。このように2種類の硫黄含有シランカップリング剤を前述の2種類のシリカに対して適度な量で併用することでシリカ分散性を向上することができる。使用される硫黄含有シランカップリング剤が1種類のみであると、2種類の硫黄含有シランカップリング剤を併用することによる前述の効果が得られない。特に、後述の硫黄含有比率の範囲を満たす高硫黄シランカップリング剤のみが配合されるとシリカ分散性が低下する。逆に、後述の硫黄含有比率の範囲を満たす低硫黄シランカップリング剤のみが配合されると耐久性が低下する。2種類の硫黄含有シランカップリング剤の配合量の合計が2種類のシリカの配合量の合計の6質量%未満であると、シリカの分散性を向上する効果が十分に得られない。2種類の硫黄含有シランカップリング剤の配合量の合計が2種類のシリカの配合量の合計の15質量%を超えると、シランカップリング剤同士の縮合等により配合量に見合った配合効果が得られない。また、2種類の硫黄含有シランカップリング剤の配合量の合計に対する低硫黄シランカップリング剤の配合量の比率が0.05~0.15、好ましくは0.07~0.12である。このように低硫黄シランカップリング剤の配合比率を設定することで耐久性を向上することができる。2種類の硫黄含有シランカップリング剤の配合量の合計に対する低硫黄シランカップリング剤の配合量の比率が0.05未満であると加工性が低下する。2種類の硫黄含有シランカップリング剤の配合量の合計に対する低硫黄シランカップリング剤の配合量の比率が0.15を超えると操縦安定性が低下する。
【0015】
前述のように2種類の硫黄含有シランカップリング剤は硫黄含有比率が異なっているが、高硫黄シランカップリング剤中の硫黄の質量比率は0.1以上、好ましくは0.15以上0.25以下であり、低硫黄シランカップリング剤中の硫黄の質量比率は0.1未満、好ましくは0.05以上0.1未満である。このように2種類の硫黄含有シランカップリング剤としてそれぞれ上記物性の硫黄含有シランカップリング剤を用いることで耐老化特性を向上することができる。高硫黄シランカップリング剤中の硫黄の質量比率が0.1未満であると、2種類の硫黄含有シランカップリング剤の物性差(硫黄含有比率の差)が実質的に無くなり操縦安定性が低下する。低硫黄シランカップリング剤中の硫黄の質量比率が0.1以上であると、2種類の硫黄含有シランカップリング剤の物性差(硫黄含有比率の差)が実質的に無くなり加工性が低下する。
【0016】
硫黄含有シランカップリング剤の種類は特に限定されないが、高硫黄シランカップリング剤としては、ビス‐(3‐トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド(TESPT)、ビス‐(3‐トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイドを例示することができ、低硫黄シランカップリング剤としては、3‐オクタノイルチオ‐1‐プロピルトリエトキシシラン(NXT)、3‐[エトキシビス(3,6,9,12,15‐ペンタオキサオクタコサン‐1‐イルオキシ)シリル]‐1‐プロパンチオール(Si363)などを例示することができる。なかでも、高硫黄シランカップリング剤として、ビス‐(3‐トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイドを採用し、低硫黄シランカップリング剤として、3‐オクタノイルチオ‐1‐プロピルトリエトキシシラン(NXT)や下記平均組成式で表されるポリシロキサンを採用することが好ましい。
【化1】
【0017】
本発明のゴム組成物では、加硫向硫黄が必ず配合される。加硫向硫黄とは、前述の硫黄含有シランカップリング剤中に含まれる硫黄ではなく、加硫剤として配合される硫黄を意味する。加硫向硫黄としては、タイヤ用ゴム組成物に一般的に用いられるものを使用することができる。前述の2種類の硫黄含有シランカップリング剤中の架橋に関与する硫黄の含有量をS1とし、架橋に関与する加硫向硫黄の正味量をS2としたとき、これらの総和(S1+S2)に対する架橋に関与する加硫向硫黄の正味量S2の比率S2/(S1+S2)が0.3~0.6、好ましくは0.3~0.4を満たすように加硫向硫黄は配合される。このように比率S2/(S1+S2)を設定することで、硫黄含有シランカップリング剤に由来する活性の高い硫黄を多く供給することができ、架橋効率を向上して、耐久性を高めることができる。比率S2/(S1+S2)が0.3未満であると耐久性が低下する。比率S2/(S1+S2)が0.6を超えると耐老化特性が低下する。加硫向硫黄の配合量は、比率S2/(S1+S2)が前述の範囲を見たいしていれば特に限定されないが、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは0.5質量部~1.6質量部、より好ましくは0.8質量部~1.3質量部にするとよい。
【0018】
本発明のゴム組成物は、上記のように、比表面積(粒径)の異なる2種類のシリカと硫黄含有比率の異なる2種類の硫黄含有シランカップリング剤とを適切な配合比率で併用することで、得られるゴム組成物の物性を向上することができ、ゴム組成物の加工性と当該ゴム組成物を用いて空気入りタイヤを製造した際の操縦安定性とをバランスよく両立することが可能になる。更に、硫黄含有シランカップリング剤中の硫黄と加硫向硫黄とを上記のように配合してこれらのバランスを最適化し、硫黄含有シランカップリング剤に由来する活性の高い硫黄を多く供給することで、架橋効率を高めることができ、耐久性を向上することができる。
【0019】
本発明のゴム組成物は、上記配合剤に加えて、更に、加硫促進剤を配合することが好ましい。加硫促進剤としては、タイヤ用ゴム組成物に一般的に用いられるものを使用することができ、例えば、N‐シクロヘキシル‐2‐ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CZ)、N‐tert‐ブチル‐2‐ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(NS)、テトラキス(2‐エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT‐N)、ジフェニルグアニジン(DPG)を例示することができる。加硫促進剤の配合量は、加硫促進剤の配合量に対する加硫向硫黄の配合量の比率が好ましくは0.2~0.4、より好ましくは0.25~0.35の範囲を満たすように調整するとよい。このように加硫促進剤を配合することで老化特性を向上することができる。加硫促進剤の配合量に対する加硫向硫黄の配合量の比率が0.2未満であると操縦安定性が低下する。加硫促進剤の配合量に対する加硫向硫黄の配合量の比率が0.4を超えると耐久性が低下する。尚、加硫向硫黄の配合量は、正味の硫黄配合量とする。
【0020】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述のシリカ以外の補強性充填剤を配合することもできる。補強性充填剤としては、例えば、カーボンブラック、クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、水酸化アルミニウム等を例示することができる。
【0021】
更に、本発明のタイヤ用ゴム組成物には、上記以外の他の配合剤を添加することもできる。他の配合剤としては、老化防止剤、可塑剤、加工助剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種配合剤を例示することができる。これら配合剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。このようなタイヤ用ゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0022】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
表1に示す配合からなる12種類のタイヤ用ゴム組成物(標準例1、比較例1~6、実施例1~5)を、それぞれ加硫促進剤および硫黄を除く配合成分を秤量し、1.8Lの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、温度150℃でマスターバッチを放出し室温冷却した。その後、このマスターバッチを1.8Lの密閉式バンバリーミキサーに供し、加硫促進剤および硫黄を加え2分間混合してタイヤ用ゴム組成物を調製した。尚、表1における「総シラン/総シリカ」の欄は、シリカの配合量の合計に対する硫黄含有シランカップリング剤の配合量の合計の割合(質量%)を示す。「低硫黄シラン/総シラン」の欄は、2種類の硫黄含有シランカップリング剤の配合量の合計に対する低硫黄シランカップリング剤の配合量の比率を示し、硫黄含有シランカップリング剤が1種類のみ配合された場合は「―」を表示した。「架橋に関与する硫黄量S1」の欄は、2種類の硫黄含有シランカップリング剤中の架橋に関与する硫黄の含有量を示す。「加硫向硫黄の正味量S2」の欄は、加硫向硫黄(油展品)の油分を除いた正味の質量を示す。「総硫黄量(S1+S2)」および「S2/(S1+S2)」の欄は、前述のS1とS2に基づいて算出した数値を示す。「加硫向硫黄/促進剤」の欄は、加硫促進剤の配合量に対する加硫向硫黄に含まれる正味の硫黄の配合量の比率を示す。
【0024】
得られたタイヤ用ゴム組成物について、下記に示す方法により、加工性(粘度)、加工性(ヤケの有無)、老化後硬度、操縦安定性、耐久性の評価を行った。
【0025】
加工性(粘度)
得られたゴム組成物のムーニー粘度を、JIS K6300に準拠して、ムーニー粘度計にてL型ロータ(38.1mm径、5.5mm厚)を使用し、予熱時間1分、ロータの回転時間4分、100℃、2rpmの条件で測定した。得られた結果は、標準例1の値を100とする指数として表1の「加工性(粘度)」の欄に示した。この指数値が小さいほどゴム組成物のムーニー粘度が小さく、加工性が優れることを意味する。
【0026】
加工性(ヤケ)
得られたゴム組成物を、JIS K6300に準拠して、L型ロータ(38.1mm径、5.5mm厚)を使用し、予熱時間1分、ロータの回転時間20分、125℃、2rpmの条件で混練した。混練後のサンプルを目視にて判定し、ヤケが発生していた場合を「有」、ヤケが発生していない場合を「無」として、表1の「加工性(ヤケの有無)」の欄に示した。
【0027】
老化後硬度
得られたゴム組成物を所定の金型中で160℃、20分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を作製し、各加硫ゴム試験片の老化処理前の硬度と、70℃×168時間の条件で老化処理を行った後の硬度を測定した。得られた結果は、各例における老化処理前の硬度を100とする指数で示した。この指数値が小さいほど、老化処理後の硬度変化(硬化)が小さく優れていることを意味する。
【0028】
操縦安定性
得られたゴム組成物をトレッド部に用いた空気入りタイヤ(タイヤサイズ:225/50R17)を作成し、各空気入りタイヤをリムサイズ17×7JJのホイールに組み付けて試験車両に装着し、空気圧を230kPaとし、舗装路面からなるテストコースを走行した際の操縦安定性について3人のテストドライバーによる官能評価を行った。評価結果は、従来例1の結果を3点(基準)とする5段階で評価し、各例について3人のテストドライバーの点数の平均値を示した。この点数が大きいほど、操縦安定性が優れてることを意味する。
【0029】
耐久性
得られたゴム組成物をトレッド部に用いた空気入りタイヤ(タイヤサイズ:225/50R17)を作成し、各空気入りタイヤをリムサイズ17×7JJのホイールに組み付けて、空気圧を230kPaとし、JIS D4230の耐久性能試験に準拠して、室内ドラム試験機(ドラム径:1707mm)を用いて、周辺温度35℃、負荷荷重7.4kNの条件で、走行速度を0km/hから0.5時間毎に5km/hずつ増加させて、タイヤが破壊するまでの走行距離を測定した。尚、走行速度が300km/hに達した場合は、それを最終速度として故障するまで走行させた。評価結果は、下記1~5の5段階で評価し、各例について3回の試験の平均値を示した。この点数が大きいほど、耐久性が優れてることを意味する。
1:走行距離が1000km未満
2:走行距離が1000km以上1500km未満
3:走行距離が1500km以上2000km未満
4:走行距離が2000km以上2500km未満
5:走行距離が3000km以上
【0030】
【0031】
表1において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、SIR20
・SBR1:スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol 1739
・SBR2:末端変性スチレンブタジエンゴム、旭化成社製TUFDENE E581
・CB:カーボンブラック、キャボットジャパン社製シヨウブラック N234
・シリカ1:Rhodia社製ZEOSIL PREMIUM 200MP(窒素吸着比表面積N=200m2 /g、CTAB吸着比表面積C=192m2 /g、比N/C=1.04)
・シリカ2:Solvay社製ZEOSIL 1165MP(窒素吸着比表面積N=163m2 /g、CTAB吸着比表面積C=155m2 /g、比N/C=1.05)
・シリカ3:EVONIK社製ULTRASIL VN3GR(窒素吸着比表面積N=178m2 /g、CTAB吸着比表面積C=148m2 /g、比N/C=1.20)
・シランカップリング剤1:ビス‐(3‐トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド(TESPT)、Evonik社製Si69(硫黄含有比率:0.23)
・シランカップリング剤2:(CH3 CH2 O)3 Si(CH2 )3 S-CO-(CH2 )6 CH3 、モメンティブパフォーマンスマテリアルズ社製NXT(硫黄含有比率:0.09)
・シランカップリング剤3:下記の方法で合成したポリシロキサン(硫黄含有比率:0.07)
・シランカップリング剤4:3-[エトキシビス(3,6,9,12,15-ペンタオキサオクタコサン-1-イルオキシ)シリル]-1-プロパンチオール、Evonik社製Si363(硫黄含有比率:0.03)
・オイル:昭和シェル石油社製エキストラクト4号S
・亜鉛華:正同化学工業社製酸化亜鉛 3種
・ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸
・老化防止剤:Solutia Europe社製Santoflex 6PPD
・加硫促進剤1:大内新興化学工業社製ノクセラーCZ‐G
・加硫促進剤2:FLEXSYS社製PERKACIT DPG
・加硫向硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粒硫黄(正味の硫黄含有量が95質量%)
【0032】
シランカップリング剤3の合成方法
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた2Lセパラブルフラスコに、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(信越化学工業製KBE‐846)を107.8g(0.2mol)、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業製KBE‐803)を190.8g(0.8mol)、オクチルトリエトキシシラン(信越化学工業製KBE‐3083)を442.4g(1.6mol)、エタノールを190.0g納めた後、室温にて0.5N塩酸37.8g(2.1mol)とエタノール75.6gの混合溶液を滴下した。その後、80℃にて2時間攪拌して濾過を行い、更に、5%KOH/EtOH溶液17.0gを滴下し80℃で2時間攪拌した。その後、減圧濃縮、濾過することで褐色透明液体のポリシロキサン480.1gを得た。GPCにより測定した結果、このポリシロキサンの平均分子量は840であり、平均重合度は4.0(設定重合度4.0)であった。また、酢酸/ヨウ化カリウム/ヨウ素酸カリウム添加‐チオ硫酸ナトリウム溶液滴定法によりメルカプト当量を測定した結果、730g/molであり、設定通りのメルカプト基含有量であることが確認された。以上の方法で得た下記平均組成式で示されるポリシロキサンをシランカップリング3とした。
【化2】
【0033】
表1から明らかなように、実施例1~5のタイヤ用ゴム組成物は、標準例1に対して、加工性を維持または向上し、老化後硬度を良好に維持し、タイヤにしたときの操縦安定性および耐久性を向上した。尚、実施例5では、試験片を用いた評価ではヤケが生じているが、実用上は特に問題の無い範囲である。
【0034】
一方、比較例1は、天然ゴムの配合量が多いため、加工性が低下した。比較例2は、高CTABシリカに相当するシリカのみが配合されたため、加工性が低下した。比較例3は、比N/Cが大きいシリカが配合されたため、タイヤにしたときの操縦安定性および耐久性が低下した。比較例4は、低硫黄シランカップリング剤に相当する硫黄含有シランカップリング剤のみが配合されたため、タイヤにしたときの操縦安定性および耐久性が低下した。比較例5は、比率S2/(S1+S2)が大きいため、老化後硬度を維持することができず、タイヤにしたときの耐久性も低下した。比較例6は、低硫黄シラン/総シランが大きいため、耐久性が低下した。