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7255281触媒担持体の製造方法および繊維状炭素ナノ構造体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】触媒担持体の製造方法および繊維状炭素ナノ構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/00 20060101AFI20230404BHJP
   B01J 23/745 20060101ALI20230404BHJP
   C01B 32/162 20170101ALI20230404BHJP
【FI】
B01J37/00 F
B01J23/745 M
C01B32/162
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019059014
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020157229
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100136858
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 浩
(72)【発明者】
【氏名】本郷 孝剛
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-145340(JP,A)
【文献】特開2004-122057(JP,A)
【文献】特表2018-513083(JP,A)
【文献】特開2018-065122(JP,A)
【文献】国際公開第2018/151276(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C01B 32/00 - 32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状炭素ナノ構造体を製造する際に用いる触媒担持体を製造する触媒担持体の製造方法であって、
粒子状担体を遠心旋回流動させつつ鉛直方向に浮遊流動させる遠心浮遊流動工程と、
前記遠心浮遊流動工程において遠心浮遊流動する粒子状担体に対して触媒溶液を噴霧して、前記触媒溶液よりなる塗膜を前記粒子状担体の表面に形成する噴霧工程と、
前記塗膜を乾燥し、前記粒子状担体の表面に触媒層を形成する触媒層形成工程と、を含む、触媒担持体の製造方法。
【請求項2】
前記浮遊流動は、前記粒子状担体に対して気体を供給して鉛直方向に浮遊流動させることである、請求項1に記載の触媒担持体の製造方法。
【請求項3】
前記遠心浮遊流動する粒子状担体に対して、遠心旋回流動方向と同方向または逆方向の攪拌力を付与する攪拌工程をさらに含む、請求項1または2に記載の触媒担持体の製造方法。
【請求項4】
前記粒子状担体は、空隙率が10%以下であり、且つ、金属酸化物により構成されている、請求項1~3の何れかに記載の触媒担持体の製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物は、二酸化ジルコニウム、酸化アルミニウムまたはジルコンである、請求項4に記載の触媒担持体の製造方法。
【請求項6】
前記触媒層形成工程において、流動床またはロータリーキルンを用いて、前記塗膜を300℃以上の温度まで加熱し、前記粒子状担体の表面に触媒層を形成する、請求項1~5の何れかに記載の触媒担持体の製造方法。
【請求項7】
前記触媒溶液は、Fe、Mo、Co、およびAlの少なくとも一種の金属を含有する、請求項1~6の何れかに記載の触媒担持体の製造方法。
【請求項8】
前記触媒層形成工程において得た、表面に触媒層が形成された一次触媒粒子を遠心旋回流動させつつ鉛直方向に浮遊流動させる他の遠心浮遊流動工程と、
前記他の遠心浮遊流動工程において遠心浮遊流動する一次触媒粒子に対して触媒溶液を噴霧して、前記触媒溶液よりなる塗膜を前記一次触媒粒子の表面に形成する他の噴霧工程と、
前記塗膜を乾燥し、前記一次触媒粒子の表面に触媒層をさらに形成する他の触媒層形成工程と、を含む、請求項1~7の何れかに記載の触媒担持体の製造方法。
【請求項9】
請求項1~8の何れかに記載の触媒担持体の製造方法で得られた触媒担持体に対して原料ガスを供給して、前記触媒層上で繊維状炭素ナノ構造体を合成する工程を含む、繊維状炭素ナノ構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒担持体の製造方法および繊維状炭素ナノ構造体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下「CNT」と称することがある。例えば、非特許文献1を参照)などの繊維状炭素ナノ構造体は、機械的強度、摺動特性、柔軟性、半導体的および金属的導電性、熱伝導性などの種々の特性に優れ、かつ化学的安定性も高いため、幅広い用途への応用が進んでいる。
そこで、近年、このような優れた特性を有する繊維状炭素ナノ構造体を効率的に、かつ低コストで製造する方法が検討されている。
【0003】
ここで、カーボンナノチューブの製造方法としては、アーク放電法、レーザー蒸発法、化学気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition法)等が報告されている。中でも、CVD法は、上記特性に優れる単層カーボンナノチューブの大量合成、連続合成、および高純度合成に適した方法として多くの検討がなされている製造方法である(例えば、非特許文献2を参照)。
【0004】
例えば、特許文献1には、FeおよびAlからなる触媒を担持させた支持基板表面に対し、アセチレン、二酸化炭素、および不活性ガスからなる原料ガスを所定の分圧にて流通させることにより、支持基板上にカーボンナノチューブを合成させる技術が開示されている。
【0005】
さらに、より効率的なカーボンナノチューブの製造方法として、表面に触媒層が形成された粒子状担体を用いる流動床法が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2012/057229号
【非特許文献】
【0007】
【文献】S.Iijima, Nature 354, 56 (1991).
【文献】齋藤理一郎、篠原久典 共編 「カーボンナノチューブの基礎と応用」培風館、2004年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、粒子状担体の表面に触媒層を形成してなる触媒担持体の製造方法としては、粒子状担体の表面に触媒の原料ガスを吹き付ける乾式法や、粒子状担体の表面に触媒溶液を塗布する湿式法があるが、触媒層をより均一に形成することができる点で、湿式法が乾式法よりも優れているとされている。
しかしながら、従来の触媒担持体の製造方法では、粒子状担体の大きさが小さくなるにつれて、触媒層を均一に形成することが困難になり、必ずしも効率的にカーボンナノチューブを製造できないという問題があった。
また、湿式法の中には、粒子状担体を触媒溶液に浸漬する浸漬法があるが、この浸漬法では、粒子状担体同士間で液架橋して、粒子状担体同士がくっ付いてしまうことがあり、粒子状担体の表面に触媒層を均一に形成することができないことがあった。
したがって、粒子状担体の表面に、触媒層を均一に形成することが可能な触媒担持体の製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、遠心旋回流動しつつ鉛直方向に浮遊流動する、即ち、遠心浮遊流動する粒子状担体に対して、触媒溶液を噴霧すれば、粒子状担体の表面に触媒層を均一に形成することができることを見出し、本発明を完成させた。
なお、「遠心浮遊流動」とは、「転動流動」、「遠心転動」などと称されることもあり、「遠心旋回流動」と「浮遊流動」とを組み合わせた流動状態を指す。「遠心旋回流動」とは、周回方向(例えば、後述する図1Aおよび図1Bにおける遠心旋回流動方向X)に流動することを指す。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の触媒担持体の製造方法は、繊維状炭素ナノ構造体を製造する際に用いる触媒担持体を製造する触媒担持体の製造方法であって、粒子状担体を遠心旋回流動させつつ鉛直方向に浮遊流動させる遠心浮遊流動工程と、前記遠心浮遊流動工程において遠心浮遊流動する粒子状担体に対して触媒溶液を噴霧する噴霧工程と、前記触媒溶液を噴霧した粒子状担体を用いて、該粒子状担体の表面に触媒層を形成する触媒層形成工程と、を含む、ことを特徴とする。このように、遠心浮遊流動する粒子状担体に対して、触媒溶液を噴霧して触媒層を形成すれば、粒子状担体の表面に触媒層が均一に形成された触媒担持体が得られる。
【0011】
ここで、本発明の触媒担持体の製造方法は、前記浮遊流動は、前記粒子状担体に対して気体を供給して鉛直方向に浮遊流動させることであることが好ましい。粒子状担体に対して気体を供給すれば、効率よく粒子状担体を鉛直方向に浮遊流動させることができる。
【0012】
また、本発明の触媒担持体の製造方法では、前記遠心浮遊流動する粒子状担体に対して、遠心旋回流動方向と同方向または逆方向の攪拌力を付与する攪拌工程をさらに含むことが好ましい。遠心浮遊流動する粒子状担体に対して、遠心旋回流動方向と同方向または逆方向の攪拌力を付与すれば、粒子状担体の攪拌効率を向上させることができる。
【0013】
また、本発明の触媒担持体の製造方法では、前記粒子状担体は、空隙率が10%以下であり、且つ、金属酸化物により構成されていることが好ましい。粒子状担体の空隙率が10%以下であれば、触媒層をより均一に形成することができる。また、粒子状担体が金属酸化物により構成されていれば、耐熱性を向上させることができる。
【0014】
ここで、本発明の触媒担持体の製造方法では、前記金属酸化物は、二酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化アルミニウムまたはジルコンであってもよい。金属酸化物として、二酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化アルミニウムまたはジルコンを使用すれば、耐熱性をより向上させることができる。特に、二酸化ジルコニウム(ジルコニア)を含む酸化物は表面平滑性が高いため触媒層をより均一に形成できる。
【0015】
また、本発明の触媒担持体の製造方法では、前記触媒層形成工程において、流動床またはロータリーキルンを用いて、前記触媒溶液を噴霧した粒子状担体を300℃以上の温度まで加熱し、前記粒子状担体の表面に触媒層を形成してもよい。流動床またはロータリーキルンを用いて、前記触媒溶液を噴霧した粒子状担体を300℃以上の温度まで加熱すれば、焼成された触媒層を有する担持体が得られる。
【0016】
ここで、本発明の触媒担持体の製造方法では、前記触媒溶液は、Fe、Mo、Co、およびAlの少なくとも一種の金属を含有していてもよい。前記触媒溶液がFe、Mo、Co、およびAlの少なくとも一種の金属を含有すれば、繊維状炭素ナノ構造体を製造に適した触媒担持体を製造することができる。
【0017】
さらに、本発明の触媒担持体の製造方法では、前記触媒層形成工程において得た、表面に触媒層が形成された一次触媒粒子を遠心旋回流動させつつ鉛直方向に浮遊流動させる他の遠心浮遊流動工程と、前記他の遠心浮遊流動工程において遠心浮遊流動する一次触媒粒子に対して触媒溶液を噴霧する他の噴霧工程と、前記触媒溶液を噴霧した一次触媒粒子を用いて、該一次触媒粒子の表面に触媒層をさらに形成する他の触媒層形成工程と、を含んでいてもよい。このように、遠心浮遊流動する一次触媒粒子に対して、触媒溶液を噴霧して触媒層を形成すれば、粒子状担体の表面に複数の触媒層が均一に形成された触媒担持体が得られる。
【0018】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の繊維状炭素ナノ構造体の製造方法は、本発明の触媒担持体の製造方法で得られた触媒担持体に対して原料ガスを供給して、前記触媒層上で繊維状炭素ナノ構造体を合成する工程を含む、ことを特徴とする。このように、本発明の触媒担持体の製造方法で得られた触媒担持体に対して原料ガスを供給して、前記触媒層上で繊維状炭素ナノ構造体を合成することで、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素ナノ構造体を高効率で合成することができ、量産性に優れる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、粒子状担体の表面に触媒層を均一に形成することが可能な触媒担持体の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素ナノ構造体を高効率で合成することができ、量産性に優れる繊維状炭素ナノ構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A】本発明に従う触媒担持体の製造方法を実施するための遠心浮遊流動装置の一例の概略構成を示す断面図である。
図1B】本発明に従う触媒担持体の製造方法を実施するための転動流動装置(遠心浮遊流動装置)の一例の概略構成を示す断面図である。
図2】本発明に従う触媒担持体の製造方法を説明するための図である(その1)。
図3】本発明に従う触媒担持体の製造方法を説明するための図である(その2)。
図4】本発明に従う触媒担持体の製造方法を説明するための図である(その3)。
図5】本発明に従う触媒担持体の製造方法を説明するための図である(その4)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
ここで、本発明の触媒担持体の製造方法は、繊維状炭素ナノ構造体を製造する際に用いる触媒担持体を製造する際に用いることができる。また、本発明の繊維状炭素ナノ構造体の製造方法は、本発明の触媒担持体の製造方法で得られた触媒担持体を用いて、繊維状炭素ナノ構造体を製造する際に、好適に用いることができる。
【0022】
(触媒担持体の製造方法)
本発明の触媒担持体の製造方法は、繊維状炭素ナノ構造体を製造する際に用いる触媒担持体を製造する方法である。そして、本発明の触媒担持体の製造方法は、粒子状担体を遠心旋回流動させつつ鉛直方向に浮遊流動させる工程(遠心浮遊流動工程)と、この遠心浮遊流動工程において遠心浮遊流動する粒子状担体に対して触媒溶液を噴霧する工程(噴霧工程)と、触媒溶液を噴霧した粒子状担体を用いて、粒子状担体の表面に触媒層を形成する工程(触媒層形成工程)と、を含む。また、本発明の触媒担持体の製造方法は、任意に、遠心浮遊流動する粒子状担体に対して、遠心旋回流動方向と同方向または逆方向の攪拌力(旋回力)を付与する工程(攪拌工程)と、触媒層形成工程において得た、表面に触媒層が形成された一次触媒粒子を遠心旋回流動しつつ鉛直方向に浮遊流動させる工程(他の遠心浮遊流動工程)と、この他の遠心浮遊流動工程において遠心浮遊流動する一次触媒粒子に対して触媒溶液を噴霧する工程(他の噴霧工程)と、触媒溶液を噴霧した一次触媒粒子を用いて、該一次触媒粒子の表面に触媒層をさらに形成する工程(他の触媒層形成工程)と、を更に含む。
【0023】
<触媒担持体>
本発明の触媒担持体の製造方法により製造される触媒担持体は、粒子状担体と、当該粒子状担体の表面に担持された一層以上の触媒層とを有する。
ここで、触媒担持体は、反応場内において繊維状炭素ナノ構造体の合成および成長の仲介、促進、効率化などの働きをする。そして、触媒担持体は、特に限定されることなく、表面において、供給された原料ガスから炭素原料を取り込み、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素ナノ構造体を合成する役割を担う。より具体的には、例えば、触媒が微細な粒子状の形状を有する場合は、触媒粒子それぞれが、当該触媒粒子のサイズに応じた径を有するチューブ状などの構造を作りながら炭素を生成し続けることにより、繊維状炭素ナノ構造体が合成および成長される。
【0024】
〔粒子状担体〕
前記粒子状担体は、任意の材質からなる粒子形状を有し、当該担体表面に触媒を付着、固定、成膜、または形成などして担持するための母体構造を成す部分である。このように、粒子状担体を用いれば、通常、粒子状担体を用いて製造される触媒担持体も粒子状となる。
なお、「粒子状」とは、略粒子形状を形成していればよく、アスペクト比が10以下であることが好ましい。前記粒子状担体のアスペクト比が10以下であると、後述する触媒溶液を均一に噴霧することができる。
なお、本発明において、「粒子状担体のアスペクト比」は、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した粒子状担体100個の短径および長径を測定して求めることができる。
また、粒子状担体の構造としては、当該粒子状担体のみでもよく、当該粒子状担体の表面上に触媒を良好に担持するための任意の下地層を設けた下地層付き粒子状担体でもよい。前記下地層は、任意の材質からなり、例えば、粒子状担体の表面に1層、または2層以上形成されることができる。なお、粒子状担体上に触媒を良好に担持させて触媒担持体を有効に活用する観点からは、粒子状担体は、下地層付き粒子状担体であることが好ましい。
なお、下地層の組成は、特に制限されることなく、粒子状担体の種類、および後述する触媒の種類によって適宜選択することができる。また、形成する下地層の膜厚も、所望の触媒担持量によって適宜調節することができる。
【0025】
前記粒子状担体の空隙率は、10%以下であることが好ましい。前記粒子状担体の空隙率が10%以下であることで、より均一な触媒層を形成できる。
【0026】
前記粒子状担体の材質としては、特に制限されることはないが、金属酸化物を含むことが好ましく、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、ジルコニウム(Zr)、およびモリブデン(Mo)からなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有する金属酸化物を含むことがより好ましく、二酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化アルミニウム、ジルコン等の金属酸化物により構成されていることがさらに好ましい。前記粒子状担体が金属酸化物により構成されていることで、耐熱性を向上させることができる。また、二酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化アルミニウム、またはジルコンを金属酸化物として使用することで、耐熱性をより向上させることができる。
【0027】
前記粒子状担体の直径としては、特に制限されることはないが、50μm以上10mm以下であることが好ましい。前記粒子状担体の直径が、50μm以上であると、CNT合成後において、粒子状担体とCNTとの分離を容易に行うことができ、10mm以下であると、流動床を用いたCNT合成において、粒子状担体を浮遊させることができる。
【0028】
〔触媒〕
前記触媒は、上述した粒子状担体の表面に担持される。また、触媒は、触媒層として、粒子状担体の表面に直接的に担持されて触媒担持体を構成してもよく、また、上記下地層などを介して粒子状担体の表面に間接的に担持されて触媒担持体を構成(例えば、内側より、粒子状担体/下地層/触媒層)してもよい。更に、例えば、下地層および/または触媒層を、任意に複数層設けてもよい。
そして、触媒は、通常、触媒担持体の表面に存在して、繊維状炭素ナノ構造体の合成を促進する働きをする。
また、前記触媒は、所定の粒子径の金属微粒子を含んでいてもよい。
【0029】
<遠心浮遊流動工程>
本発明の触媒担持体の製造方法の遠心浮遊流動工程では、粒子状担体を遠心旋回流動させつつ鉛直方向に浮遊流動させることにより、粒子状担体を、螺旋状に転動させたり、回転(公転)させて効率よく攪拌することができる。
【0030】
〔遠心旋回流動〕
粒子状担体の遠心旋回流動は、円筒状のステーターの内側に水平に設置されたローターの上に粒子状担体を載置した状態でローターを回転させることにより、実現することができる。粒子状担体は、後述する図1A等の遠心浮遊流動装置では、遠心力によってステーターの内周面側に押し付けられつつローター上を転動し、後述する図1B等の転動流動装置では、遠心力によってステーター内中空部を浮遊流動する際に、ローターの回転軸を中心として回転(公転)する。
前記ローターの回転数としては、装置径の違いにより設定に差はあるが、50rpm以上1,000rpm以下程度が好ましい。
また、前記遠心旋回流動の際の温度としては、特に制限はなく、前記粒子状担体の種類、後述する触媒溶液の組成等に応じて適宜選択することができる。
【0031】
〔浮遊流動〕
前記粒子状担体を遠心旋回流動させて触媒層を形成する際に、前記粒子状担体を遠心旋回流動させながら、例えば、気体を吹き込むことなどにより鉛直方向に浮遊流動させる。このように、前記遠心旋回流動に加えて、前記浮遊流動を組み合わせた遠心浮遊流動を行うと、攪拌効率および乾燥効率が高くなるため作業効率が向上することや、触媒溶液を均一に塗布できること、などの利点が得られる。
例えば、(i)ローターとステーターとの間に一定の幅で設けられたスリットから遠心旋回流動している粒子に向けて浮遊流動エアーを吹き込んだり、(ii)粒子状担体は通過できないが気体は通過できるスクリーンをローターに設け、ローター下方から遠心旋回流動している粒子に向けて浮遊流動エアーを吹き込んだり、(iii)ローター近傍に設けられた管状の気体供給手段により遠心旋回流動している粒子に向けて浮遊流動エアーを吹き込んだり、(iv)遠心旋回流動している粒子に対して上下循環流乃至放射流を付与する邪魔板を、ステーターの内側であってローター近傍に設けたりすることにより、鉛直方向の浮遊流動を生じさせることができる。ここで、浮遊流動エアーの風量は、装置の種類および容量などの目的に応じて適宜選択することができる。
なお、浮遊流動エアーと邪魔板を組み合わせることもでき、これにより、より効率よく、鉛直方向の浮遊流動を生じさせることができる。
【0032】
前記浮遊流動エアー等の気体の温度は、室温以上100℃以下であることが好ましい。気体の温度が室温以上であれば、溶媒が乾燥しないで残留して粒子状担体が遠心浮遊流動装置に付着するのを防止して、均一塗工を可能にし、また、気体の温度が100℃以下であれば、静電気により、粒子状担体が遠心浮遊流動装置に対して付着するのを防止して、均一塗工を可能にする。
気体供給量(流速)としては、特に制限はなく、後述する図1Aの遠心浮遊流動装置を用いた場合は、10.0m/sec以上150m/sec以下が好ましく、後述する図1Bの転動流動装置を用いた場合は、100.0m/sec以上1500m/sec以下が好ましい。
後述する図1Aの遠心浮遊流動装置を用いた場合、気体供給量が10.0m/sec以上であれば、粒子状担体が浮遊した状態を保持して、十分な攪拌効果を得ることができ、150m/sec以下であれば、粒子状担体が飛散するのを防止することができる。
後述する図1Bの転動流動装置を用いた場合、気体供給量が100.0m/sec以上であれば、粒子状担体が浮遊した状態を保持して、十分な攪拌効果を得ることができ、1500m/sec以下であれば、装置上部への担体の付着を防ぐことができる。
前記粒子状担体に対して浮遊流動エアー等の気体を供給して、粒子状担体を鉛直方向に浮遊流動させる代わりに、或いは、加えて、邪魔板を設置することによっても、十分な攪拌効果を得ることができる。なお、邪魔板を設置する場合は、後述する噴霧手段の近傍ではなく、噴霧手段に対して反対側に設置することが好ましい。
【0033】
<噴霧工程>
本発明の触媒担持体の製造方法の噴霧工程では、遠心浮遊流動する粒子状担体に対して触媒溶液を噴霧することにより、粒子状担体の表面上に触媒溶液による塗膜を均一に形成することができる。
触媒溶液の粒子状担体への噴霧の方法としては、特に制限はなく、例えば、スプレーガン、噴霧ノズル等の噴霧手段から噴霧する方法などが好適に挙げられる。
触媒溶液の粒子状担体への噴霧の条件としては、特に制限はなく、公知の条件を採用することができ、その噴霧量、噴霧する霧粒子(ミスト)の大きさ、噴霧時間などを適宜選択することができる。前記噴霧にスプレーガン等を使用する場合、そのスプレー空気圧としては、例えば、0.1MPa以上0.5MPa以下程度が好ましい。
なお、2種以上の触媒溶液を噴霧する場合は、2種類以上の触媒溶液の混合液を1つの噴霧手段から噴霧してもよいし、別々の噴霧手段を用いて噴霧してもよいが、別々の噴霧手段を用いて噴霧することが好ましい。
【0034】
〔触媒溶液〕
前記触媒溶液に含まれる触媒成分としては、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、およびアルミニウム(Al)の少なくとも一種の金属を含有することが好ましい。前記触媒溶液が、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)の少なくとも一種の金属を含有することで、CNT合成の助触媒もしくは触媒として機能することができる。
前記触媒溶液に含まれる溶剤としては、アルコール、グリコール、ケトン、エーテル、エステル類、炭化水素類等種々の有機溶剤を使用することができるが、アルコール類を使用することが好ましい。これらの有機溶剤は単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。前記アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、などが、取り扱い性、保存安定性といった点で好ましい。
なお、前記触媒溶液では、触媒成分が溶剤に溶解することが好ましい。
【0035】
なお、遠心浮遊流動させつつ触媒溶液を噴霧する方法としては、ローター、エアー経路、および噴霧手段を備える遠心浮遊流動型コーティング装置を用いる方法が挙げられる。
ここで、遠心浮遊流動型コーティング装置としては、例えば、図1Aおよび図1Bに示す装置が挙げられる。
【0036】
ここで、図1Aに示す遠心浮遊流動装置200は、例えば、粒子状担体Aを所定の回転数で遠心旋回流動方向Xに遠心旋回流動させる遠心旋回流動部としてのローター20およびステーター21と、エアーチャンバー22から導入された高圧エアーを鉛直下方向から供給するために、ローター20とステーター21との間に、ローター20の底部外側全周に一定に設けられたスリット30と、粒子状担体Aに対して触媒溶液を噴霧する噴霧部としてのスプレー装置40と、触媒層が形成された触媒担持体を排出する触媒担持体排出口としての製品排出口60とを備えている。なお、スリット30は、「粒子状担体Aを鉛直方向に浮遊流動させる浮遊流動部」、並びに、「粒子状担体Aを乾燥させる乾燥部」、として機能する。
【0037】
また、図1Bに示す転動流動装置300は、例えば、粒子状担体Aを所定の回転数で遠心旋回流動方向Xに遠心旋回流動させる遠心旋回流動部としてのローター20およびステーター21と、エアーチャンバー22から導入された高圧エアーを鉛直下方向から供給するために、ローター20とステーター21との間に、ローター20の底部外側全周に一定に設けられたスリット30と、粒子状担体Aに対して触媒溶液を噴霧する噴霧部としてのスプレー装置40と、遠心旋回流動する粒子状担体に対して遠心旋回流動方向Xと同方向または逆方向(図1Bでは逆方向)の攪拌力(旋回力)を付与する攪拌部50とを備えている。なお、スリット30は、「粒子状担体Aを鉛直方向に浮遊流動させる浮遊流動部」、並びに、「粒子状担体Aを乾燥させる乾燥部」、として機能する。
【0038】
<遠心旋回流動部>
遠心旋回流動部としてのローター20は、円筒状のステーター21の内周側に水平に配置された円盤23と、円盤23を回転させる回転軸24とを有している。そして、通常、ローター20の回転軸24とステーター21の中心軸線とは同軸に配置されている。
遠心旋回流動部としてのローター20およびステーター21は、粒子状担体Aを所定の回転数で遠心旋回流動させるので、粒子状担体Aを均一に分散させることができる。
また、ステーター21を鉛直方向に対して傾斜させることで、処理可能な粒子状担体Aの量を増加させることができる。
【0039】
<浮遊流動部>
浮遊流動部としてのスリット30は、エアーチャンバー22から導入された高圧エアーを鉛直下方向から遠心旋回流動している粒子状担体Aに供給することで、遠心旋回流動している粒子状担体Aを鉛直方向に浮遊流動させて、粒子状担体Aの混合循環性を向上させることができる。
また、浮遊流動部は、スリット30に限定されるものではなく、例えば、高圧エアーを鉛直下方向から供給するエアーノズル(不図示)や、ステーター21の下部内側に設置された回転プレート(邪魔板;不図示)であってもよい。スリット30を設置する代わりに、エアーノズルや回転プレートを設置することによっても、粒子状担体Aを鉛直方向に浮遊流動させて、十分な攪拌効果を得ることができる。なお、スリット30またはエアーノズルと、回転プレートとを併用することにより、粒子状担体Aの流動性をより向上させることができる。
【0040】
<噴霧部>
噴霧部としてのスプレー装置40は、遠心浮遊流動する粒子状担体Aに対して触媒溶液を噴霧するので、粒子状担体Aに触媒溶液を均一に塗工することができる。
噴霧部としてのスプレー装置40が、定流量ポンプを備えていると、触媒溶液を定量的に送ることができ、ひいては、流量を容易に制御することができる。また、噴霧部としてのスプレー装置40が自動スプレーガンを備えていると、微細で均一なミストをスプレー塗布することができ、ひいては、団粒発生率が小さく、粒子径が均一で精緻なコーティングを実施することができる。
【0041】
<乾燥部>
乾燥部としてのスリット30は、エアーチャンバー22から導入された高圧エアーを鉛直下方向から粒子状担体Aに供給することで、噴霧部としてのスプレー装置40により噴霧された触媒溶液による塗膜が形成された粒子状担体Aを乾燥させることができる。
【0042】
そして、上述した構成を有する市販の装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、フロイント産業株式会社製「CFグラニュレーター」、「複合型流動層造粒コーティング装置(スパイラフロー)」などが好適に挙げられる。
【0043】
<触媒層形成工程>
本発明の触媒担持体の製造方法の触媒層形成工程では、触媒溶液を噴霧した粒子状担体を用いることにより、粒子状担体の表面に均一な触媒層が形成された触媒担持体を得ることができる。具体的には、粒子状担体の表面に付着した触媒溶液を乾燥し(乾燥ステップ)、任意に、焼成処理を施すことにより(焼成ステップ)、粒子状担体の表面に触媒層が形成された触媒担持体を得ることができる。
ここで、乾燥は、特に限定されることなく、粒子状担体を浮遊流動させるための気体を利用して行ってもよい。なお、乾燥は、露点以上100℃以下で行うことが好ましい。乾燥を露点以上で行うことにより、粒子状担体上への水の付着を防ぐことができる。
また、焼成は、噴霧された触媒溶液を乾燥させて得た粒子を遠心浮遊流動装置から取り出した後、流動床またはロータリーキルンを用いて行ってもよい。なお、焼成は、酸素雰囲気で行うことが好ましい。また、焼成温度はおよそ300℃以上が好ましい。焼成時間は5分間以上60分間以下が好ましく、5分間以上40分間以下がより好ましい。例えば、アルミニウム触媒を含む塗膜は、300℃以上で焼成させる必要があり、例えば、鉄触媒を含む塗膜は、80℃以上で焼成させる必要がある。
なお、触媒層の厚みは、通常、0.1nm以上100nmの範囲内である。アルミニウム触媒は助触媒として機能し、アルミニウム触媒を含む層の膜厚は10nm以上100nm以下であることが好ましく、鉄触媒は触媒として機能し、鉄触媒を含む層の膜厚は0.1nm以上10nm以下であることが好ましい。
【0044】
<攪拌工程>
本発明の触媒担持体の製造方法では、遠心浮遊流動工程の途中に、遠心浮遊流動する粒子状担体に対して、遠心旋回流動方向と同方向または逆方向の攪拌力(旋回力)を付与することにより、粒子状担体の攪拌効率を向上させることができる。
攪拌部50は、円盤23の内周側に水平に配置されたアジテーター51と、アジテーター51を回転させる回転軸52とを有している。そして、通常、ローター20の回転軸24と、アジテーター51を回転させる回転軸52とは同軸に配置されている。
攪拌部50は、円錐形状のアジテーター51の側面から略水平に配置された攪拌翼や邪魔板(バッフル)をさらに有していてもよい。
攪拌部50は、遠心浮遊流動する粒子状担体Aに対して、遠心旋回流動方向Xと同方向または逆方向の攪拌力(旋回力)を付与するので、粒子状担体Aの攪拌効率をさらに向上させることができる。
【0045】
なお、粒子状担体の表面に複数の触媒層を形成する場合、上述した工程に加え、以下に示す、他の遠心浮遊流動工程、他の噴霧工程、他の触媒層形成工程を行うことにより、粒子状担体の表面に複数の触媒層を形成することができる(例えば、後述する、図2図3よび図5)。
【0046】
<他の遠心浮遊流動工程>
本発明の触媒担持体の製造方法の他の遠心浮遊流動工程では、触媒層形成工程において得た、表面に触媒層が形成された一次触媒粒子を遠心旋回流動させつつ鉛直方向に浮遊流動させることにより、一次触媒粒子を、螺旋状に転動させたり、回転(公転)させて、効率よく攪拌することができる。
なお、他の遠心浮遊流動工程は、上述した遠心浮遊流動工程と同様に実施することができる。
【0047】
<他の噴霧工程>
本発明の触媒担持体の製造方法の他の噴霧工程では、前記他の遠心浮遊流動工程において遠心浮遊流動する一次触媒粒子に対して触媒溶液を噴霧することにより、一次触媒粒子の表面上に触媒溶液による塗膜を均一に形成することができる。
なお、他の噴霧工程は、上述した噴霧工程と同様に実施することができる。
【0048】
<他の触媒層形成工程>
本発明の触媒担持体の製造方法の他の触媒層形成工程では、触媒溶液を噴霧した一次触媒粒子を用いることにより、該一次触媒粒子の表面に均一な触媒層をさらに形成することができる。
【0049】
以下に、上述した方法を用いて触媒担自体を製造する手順の具体例を示す。なお、以下の具体例に限定されるものではなく、焼成を実施しなくてもよいし、一種一層構造でもよい。
図2は、本発明に従う触媒担持体の製造方法を用いて、粒子状担体/酸化アルミニウム層/鉄触媒層という構成を有する触媒担持体を製造する場合を説明するための図である。
図2において、まず、粒子状担体1を準備する(図2(a))。次に、準備した粒子状担体1を遠心浮遊流動させながら、触媒溶液としてのアルミニウム触媒含有溶液を噴霧し(噴霧工程)、乾燥することで、アルミニウム触媒を含有する塗膜2を形成して、表面に塗膜2が形成された塗膜付き粒子状担体3を作製する(図2(b))。次に、表面に塗膜2が形成された塗膜付き粒子状担体3を焼成して、粒子状担体1の表面に、酸化アルミニウム(Al)層4(触媒層)が形成された一次触媒粒子5を作製する(触媒層形成工程;図2(c))。最後に、一次触媒粒子5を遠心浮遊流動させながら、触媒溶液としての鉄含有溶液を噴霧し(他の噴霧工程)、乾燥することで、表面に鉄触媒を含有する塗膜6(触媒層)が形成された塗膜付き一次触媒粒子7(触媒担持体)を得る(他の触媒層形成工程;図2(d))。
【0050】
図3は、本発明に従う触媒担持体の製造方法を用いて、粒子状担体/酸化アルミニウム層/酸化鉄層という構成を有する触媒担持体を製造する場合を説明するための図である。
図3において、まず、粒子状担体1を準備する(図3(a))。次に、準備した粒子状担体1を遠心浮遊流動させながら、触媒溶液としてのアルミニウム触媒含有溶液を噴霧し(噴霧工程)、乾燥することで、アルミニウム触媒を含有する塗膜2を形成して、表面に塗膜2が形成された塗膜付き粒子状担体3を作製する(図3(b))。次に、表面に塗膜2が形成された塗膜付き粒子状担体3を焼成して、粒子状担体1の表面に、酸化アルミニウム層4が形成された一次触媒粒子5を作製する(触媒層形成工程;図3(c))。次に、一次触媒粒子5を遠心浮遊流動させながら、触媒溶液としての鉄含有溶液を噴霧し(他の噴霧工程)、乾燥することで、表面に鉄触媒を含有する塗膜6が形成された塗膜付き一次触媒粒子7を得る(図3(d))。最後に、塗膜付き一次触媒粒子7を焼成して、一次触媒粒子5の表面に酸化鉄層10(触媒層)が形成された触媒担持体11を得る(他の触媒層形成工程;図3(e))。
【0051】
図4は、本発明に従う触媒担持体の製造方法を用いて、粒子状担体/酸化アルミニウムおよび酸化鉄からなる触媒層という構成を有する触媒担持体を製造する場合を説明するための図である。
図4において、まず、粒子状担体1を準備する(図4(a))。次に、準備した粒子状担体1を遠心浮遊流動させながら、アルミニウム触媒および鉄触媒を含有する触媒溶液を噴霧し(噴霧工程)、乾燥することで、アルミニウム触媒および鉄触媒を含有する塗膜12を形成して、塗膜付き粒子状担体13を作製する(図4(b))。次に、塗膜付き粒子状担体13を焼成して、粒子状担体1の表面に、酸化アルミニウムおよび酸化鉄を含む触媒層14が形成された一次触媒粒子15(触媒担持体)を得る(触媒層形成工程;図4(c))。
【0052】
図5は、本発明に従う触媒担持体の製造方法を用いて、粒子状担体/酸化アルミニウムおよび酸化鉄からなる触媒層/酸化鉄層という構成を有する触媒担持体を製造する場合を説明するための図である。
図5において、まず、粒子状担体1を準備する(図5(a))。次に、準備した粒子状担体1を遠心浮遊流動させながら、アルミニウム触媒および鉄触媒を含有する触媒溶液を噴霧し(噴霧工程)、乾燥することで、アルミニウム触媒および鉄触媒を含有する塗膜12を形成して、塗膜付き粒子状担体13を作製する(図5(b))。次に、塗膜付き粒子状担体13を焼成して、粒子状担体1の表面に、酸化アルミニウムおよび酸化鉄を含む触媒層14が形成された一次触媒粒子15を得る(触媒層形成工程;図5(c))。次に、一次触媒粒子15を遠心浮遊流動させながら、触媒溶液としての鉄含有溶液を噴霧し(他の噴霧工程)、乾燥することで、鉄触媒を含有する塗膜16を形成して、塗膜付き一次触媒粒子17を作製する(図5(d))。最後に、塗膜付き一次触媒粒子17を焼成して、一次触媒粒子15の表面に酸化鉄層18が触媒層として形成された触媒担持体19を作製する(他の触媒層形成工程;図5(e))。
【0053】
(繊維状炭素ナノ構造体の製造方法)
本発明の繊維状炭素ナノ構造体の製造方法は、繊維状炭素ナノ構造体を製造する方法である。そして、本発明の繊維状炭素ナノ構造体の製造方法は、本発明の触媒担持体の製造方法により得られた触媒担持体に対して原料ガスを供給して、触媒層上で繊維状炭素ナノ構造体を合成する工程(合成工程)を含む。
【0054】
<繊維状炭素ナノ構造体>
繊維状炭素ナノ構造体としては、特に限定されることなく、例えば、アスペクト比が10を超える繊維状炭素ナノ構造体が挙げられる。具体的には、繊維状炭素ナノ構造体としては、CNT、気相成長炭素繊維などが挙げられる。
なお、本発明において、「繊維状炭素ナノ構造体のアスペクト比」は、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した繊維状炭素ナノ構造体100本の直径(外径)および長さを測定して求めることができる。
以下、本発明の製造方法で得られる繊維状炭素ナノ構造体がCNTを含む場合について説明するが、本発明がこれに限定されるものではない。
【0055】
<<カーボンナノチューブ>>
CNTは、グラフェンシートを筒状に巻いた構造を有し、アスペクト比の非常に大きい一次元構造を有する材料である(非特許文献1を参照)。ここで、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、CNTのみから構成されていてもよいし、CNTと、CNT以外の繊維状炭素ナノ構造体との混合物であってもよい。
【0056】
また、CNTとしては、特に限定されることなく、単層カーボンナノチューブおよび/または多層カーボンナノチューブとすることができるが、種々の機械的強度、電気的特性、熱伝導性などの特性を高める観点からは、CNTは、10層以下の層で構成されていることが好ましく、5層以下の層で構成されていることがより好ましく、単層カーボンナノチューブであることが更に好ましい。単層カーボンナノチューブ/多層カーボンナノチューブは、例えば、触媒の大きさ、触媒の組成、反応時間、原料ガス供給流量などの種々の反応条件を変更することにより、適宜調節することができる。
【0057】
[性状]
また、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の平均直径は、種々の用途により所望の値とすることができる。例えば、通常、上述した触媒中の金属微粒子の粒子径が1nm以上2nm以下程度であれば、CNTなどの平均直径は1nm程度に、金属微粒子の粒子径が30nm程度であれば、CNTなどの平均直径は20nm以上30nm以下程度に調節することが可能である。一般的には、CNTの平均直径が微細であるほど種々の特性は向上する。
なお、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の「平均直径」は、例えば、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した繊維状炭素ナノ構造体100本の直径(外径)を測定して求めることができる。
【0058】
また、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の平均長さは、種々の用途により所望の値とすることができるが、合成時における平均長さが1μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましい。合成時のCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の平均長さが1μm以上であれば、得られる繊維状炭素ナノ構造体に、種々の機械的強度、電気的特性、熱伝導性などの特性をより良好に発揮させることができるからである。また、合成時のCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の長さが長いほど、繊維状炭素ナノ構造体に破断や切断などの損傷が発生し易いので、合成時のCNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の平均長さは5000μm以下とすることが好ましい。
なお、CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の「平均長さ」は、例えば、合成反応時間を変更することにより、適宜調節することができる。
【0059】
<合成工程>
本発明の繊維状炭素ナノ構造体の製造方法では、本発明の触媒担持体の製造方法で得られた触媒担持体に対して原料ガスを供給して、前記触媒層上で繊維状炭素ナノ構造体を合成する、例えば、本発明の触媒担持体の製造方法で得られた触媒担持体の最外層の触媒層に対して原料ガスを供給して、触媒層上に繊維状炭素ナノ構造体を生成させ、生成した繊維状炭素ナノ構造体を化学気相法によって成長させることにより、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素ナノ構造体を高効率で合成、成長させることができ、量産性に優れる。
そして、合成工程においては、通常、触媒層および原料ガスの少なくとも一方を加熱するが、均一な密度で繊維状炭素ナノ構造体を成長させる観点からは、少なくとも原料ガスを加熱することが好ましい。加熱の温度は、400℃以上1100℃以下が好ましい。合成工程では、触媒担持体を収容する繊維状炭素ナノ構造体成長炉内に、原料ガス、任意に、不活性ガス、還元ガス、および/または触媒賦活物質を導入して行う。
【0060】
なお、繊維状炭素ナノ構造体の製造効率を高める観点からは、還元ガスおよび原料ガスをガスシャワーによって触媒層における触媒に供給するのが好ましい。
【0061】
-原料ガス-
原料ガスとしては、繊維状炭素ナノ構造体が成長する温度において炭素源を含むガス状物質が用いられる。中でも、メタン、エタン、エチレン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、プロピレンおよびアセチレンなどの炭化水素が好適である。この他にも、メタノール、エタノールなどの低級アルコール、アセトン、一酸化炭素などの低炭素数の含酸素化合物でもよい。これらの混合物も使用可能である。
【0062】
-不活性ガス-
原料ガスは不活性ガスで希釈されてもよい。不活性ガスとしては、繊維状炭素ナノ構造体が成長する温度で不活性であり、且つ、成長する繊維状炭素ナノ構造体と反応しないガスであればよく、触媒の活性を低下させないものが好ましい。例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオンおよびクリプトンなどの希ガス;窒素;水素;並びにこれらの混合ガスを例示できる。
【0063】
-還元ガス-
還元ガスとしては、例えば、水素ガス、アンモニア、水蒸気およびそれらの混合ガスを用いることができる。また、還元ガスは、水素ガスを、ヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガスなどの不活性ガスと混合した混合ガスでもよい。
【0064】
-触媒賦活物質-
繊維状炭素ナノ構造体の成長工程において、触媒賦活物質を添加してもよい。触媒賦活物質の添加によって、繊維状炭素ナノ構造体の生産効率や純度をより一層改善することができる。ここで用いる触媒賦活物質は、一般には酸素を含む物質であり、繊維状炭素ナノ構造体が成長する温度で繊維状炭素ナノ構造体に多大なダメージを与えない物質であることが好ましい。例えば、水、酸素、オゾン、酸性ガス、酸化窒素、一酸化炭素および二酸化炭素などの低炭素数の含酸素化合物;エタノール、メタノールなどのアルコール類;テトラヒドロフランなどのエーテル類;アセトンなどのケトン類;アルデヒド類;エステル類;並びにこれらの混合物が有効である。この中でも、水、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、およびエーテル類が好ましく、特に水が好適である。
【0065】
触媒賦活物質の体積濃度は、特に限定されないが微量が好ましく、例えば、水の場合、炉内への導入ガスにおいて、通常、10ppm以上10000ppm以下、好ましくは、50ppm以上1000ppm以下とする。
【0066】
-その他の条件-
成長工程における反応炉内の圧力、処理時間は、他の条件を考慮して適宜設定すればよいが、例えば、圧力は1×10Pa以上1×10Pa以下、処理時間は1分間以上60分間以下程度とすることができる。
【実施例
【0067】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
<触媒担持体の製造>
粒子状担体としてのジルコニアビーズ(ZrO2、体積平均粒子径D50:300μm)750gを、遠心浮遊流動装置(フロイント産業株式会社製「CF-LABO」)に投入し、図1Aに示すように、遠心浮遊流動させながら(ローター回転数300rpm、スリットエアー供給量45L/min、スリットエアー温度50℃)、溶媒としてのイソプロピルアルコール(IPA)(500g)に対して触媒としてのアルミニウムを1.2g含むアルミニウム触媒溶液をスプレーガンによりスプレー噴霧し(噴霧量3g/分間)、噴霧時間950秒間、スプレー空気圧10MPa)、噴霧後、スリットエアー(温度50℃)をさらに供給する(45L/minで180秒間)ことで、乾燥して、アルミニウム触媒溶液による塗膜をジルコニアビーズ上に形成した。次に、480℃で45分間焼成処理を行って、酸化アルミニウム層が形成された一次触媒粒子(図3(c))を得た。
さらに、得られた一次触媒粒子を遠心浮遊流動させながら(ローター回転数300rpm、スリットエアー供給量45L/min、スリットエアー温度50℃)、溶媒としてのIPA(170g)に対して触媒としての鉄を90mg含む鉄触媒溶液をスプレーガンによりスプレー噴霧し(噴霧量3g/分間、噴霧時間350秒間、スプレー空気圧10MPa)、噴霧後、スリットエアー(温度50℃)をさらに供給する(45L/minで180秒間)ことで、乾燥して、鉄触媒溶液による塗膜を一次触媒粒子上に形成した。次に、170℃で20分間焼成処理を行って、酸化鉄層がさらに形成された一次触媒粒子(触媒担持体)(図3(e))を得た。
【0069】
<カーボンナノチューブの合成>
上述で得られた触媒担持体に対し、20.0体積%-エチレンガス(C)/10体積%-水素ガス(H)/70体積%-窒素ガス(N)で構成される原料ガスを、常圧下、温度850℃の環境下、総流量1500sccmにて10分間、反応管内に供給した。このようにして原料ガスを供給することにより、触媒担持体を流動させた流動床法にて、触媒担持体上にカーボンナノチューブを合成した。
そして、カーボンナノチューブが合成された触媒担持体を用いて、下記の方法に従って、カーボンナノチューブの製造収率の算出を行った。その結果、カーボンナノチューブの製造収率は10%であった。
<<カーボンナノチューブの製造収率Y>>
反応場に供給するエチレン中に含まれる炭素原料の重量Gc-source(g)を、原料ガスの供給総流量F(sccm)、エチレン濃度CC2H4(体積%)、反応時間t(分間)、気体の標準状態でのモル体積V=22400(cc/mol)、および炭素のモル質量M≒12(g/mol)を用いて、下記式(I):
c-source(g)=
F×(CC2H4/100)×t×(1/V)×(M×2)・・・(I)
に従って算出した。
次に触媒担持体が有する触媒上に合成されたカーボンナノチューブの収量GCNT(g)を、電子天秤(島津製作所製、型番「AUW120D」)を用いて秤量した。なお、GCNTは、カーボンナノチューブが合成された触媒担持体全体の質量から、触媒担持体の質量を差し引くことにより求めた。そして、下記式(II):
カーボンナノチューブの製造収率Y(%)=
(GCNT/Gc-source)×100・・・(II)
に従って算出した。製造収率Yの値が高いほど、カーボンナノチューブの製造効率が高いことを示す。
【0070】
(実施例2)
実施例1において、触媒担持体の製造を下記のように行ったこと以外は、実施例1と同様に、カーボンナノチューブの合成、および、カーボンナノチューブの製造収率の算出を行った。その結果、カーボンナノチューブの製造収率は4%であった。
<触媒担持体の製造>
粒子状担体としてのジルコニアビーズ(ZrO2、体積平均粒子径D50:300μm)1800gを、転動流動装置(フロイント産業株式会社製「複合型流動層造粒コーティング装置(スパイラフロー)」)に投入し、図1Bに示すように、遠心浮遊流動(転動流動)させながら(ローター回転数400rpm、スリットエアー供給量860L/min、スリットエアー温度40℃)、溶媒としてのイソプロピルアルコール(IPA)(500g)に対して触媒としてのアルミニウムを1.2g含むアルミニウム触媒溶液をスプレーガンによりスプレー噴霧し(噴霧量10g/分間)、噴霧時間600秒間、スプレー空気圧36MPa)、噴霧後、スリットエアー(温度40℃)をさらに供給する(860L/minで120秒間)ことで、乾燥して、アルミニウム触媒溶液による塗膜をジルコニアビーズ上に形成した。次に、480℃で45分間焼成処理を行って、酸化アルミニウム層が形成された一次触媒粒子(図3(c))を得た。
さらに、得られた一次触媒粒子を遠心浮遊流動(転動流動)させながら(ローター回転数400rpm、スリットエアー供給量860L/min、スリットエアー温度40℃)、溶媒としてのIPA(170g)に対して触媒としての鉄を90mg含む鉄触媒溶液をスプレーガンによりスプレー噴霧し(噴霧量30g/分間、噴霧時間520秒間、スプレー空気圧36MPa)、噴霧後、スリットエアー(温度40℃)をさらに供給する(860L/minで120秒間)ことで、乾燥して、鉄触媒溶液による塗膜を一次触媒粒子上に形成した。次に、170℃で20分間焼成処理を行って、酸化鉄層がさらに形成された一次触媒粒子(触媒担持体)(図3(e))を得た。
【0071】
(比較例1)
実施例1において、触媒担持体の製造を下記のように行ったこと以外は、実施例1と同様に、カーボンナノチューブの合成、および、カーボンナノチューブの製造収率の算出を行った。その結果、カーボンナノチューブの製造収率は2%であった。
<触媒担持体の製造>
粒子状担体としてのジルコニアビーズ(ZrO2、体積平均粒子径D50:320μm)150gを、溶媒としてのIPA(500g)に対して触媒としてのアルミニウムを1.2g含むアルミニウム触媒溶液中に浸漬し(浸漬時間20秒間)、エアー(温度45℃)を供給する(50L/minで1000秒間)ことで、乾燥して、アルミニウム触媒溶液による塗膜をジルコニアビーズ上に形成した。次に、480℃で30分間焼成処理を行って、酸化アルミニウム層が形成された一次触媒粒子を得た。
さらに、得られた一次触媒粒子を、溶媒としてのIPA(170g)に対して触媒としての鉄を90mg含む鉄触媒溶液に浸漬し(浸漬時間20秒間)、エアー(温度45℃)を供給する(50L/minで1000秒間)ことで、乾燥して、鉄触媒溶液による塗膜を一次触媒粒子上に形成した。次に、170℃で20分間焼成処理を行って、酸化鉄層がさらに形成された一次触媒粒子(触媒担持体)を得た。
【0072】
実施例1および2では、比較例1と比較して、カーボンナノチューブの製造効率が高い。このことから、実施例1および2では、比較例1と比較して、粒子状担体の表面に触媒層をより均一に形成することができていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、粒子状担体の表面に触媒層を均一に形成することが可能な触媒担持体の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、カーボンナノチューブなどの繊維状炭素ナノ構造体を高効率で合成することができ、量産性に優れる繊維状炭素ナノ構造体の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 粒子状担体
2 塗膜
3 塗膜付き粒子状担体
4 酸化アルミニウム層
5 一次触媒粒子
6 塗膜
7 塗膜付き一次触媒粒子
10 酸化鉄層
11 触媒担持体
12 塗膜
13 塗膜付き粒子状担体
14 触媒層
15 一次触媒粒子
16 塗膜
17 塗膜付き一次触媒粒子
18 酸化鉄層
19 触媒担持体
20 ローター
21 ステーター
22 エアーチャンバー
23 円盤
24 回転軸
30 スリット
40 スプレー装置
50 攪拌部
51 アジテーター
52 回転軸
60 製品排出口
200 遠心浮遊流動装置
300 転動流動装置
A 粒子状担体
X 遠心旋回流動方向
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5