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特許7255298ゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】ゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20230404BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20230404BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20230404BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20230404BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230404BHJP
【FI】
C08L9/00
C08L7/00
C08L33/04
B60C1/00 A
C08K3/013
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019070020
(22)【出願日】2019-04-01
(65)【公開番号】P2020169237
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】中川 隆太郎
【審査官】長岡 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-154585(JP,A)
【文献】特開2006-256203(JP,A)
【文献】特開2009-114149(JP,A)
【文献】特開2010-105509(JP,A)
【文献】特開2019-019202(JP,A)
【文献】特開2012-158710(JP,A)
【文献】特開2018-095733(JP,A)
【文献】特開2000-211315(JP,A)
【文献】ガンツパール 球状有機微粒子, [online],アイカ工業株式会社,2022年12月09日,https://www.aica.co.jp/products/functional-materials/organic-particles/ganz-paru/feature/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/00-21/02
C08L 33/00-33/26
C08K 3/00- 7/28
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブタジエンゴムを30質量部以上かつ天然ゴムおよび/または合成イソプレンゴムを30質量部以上含むジエン系ゴム100質量部に対し、無機充填剤を20質量部以上、平均粒径が15μm以下かつガラス転移温度が-20℃以下であるポリ(メタ)アクリル酸エステル多孔質粒子を1~15質量部、および可塑剤を10~70質量部含み、
ガラス転移温度が-60℃以下であり、かつ20℃における硬度が60以下である
ことを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル多孔質粒子の空隙率が、25~75%であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゴム組成物をトレッドに使用したスタッドレスタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤに関するものであり、詳しくは、破断強度および氷上性能を共に向上させ得るゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スタッドレスタイヤの氷上性能(氷上での制動性)を向上させるために多くの手段が提案されている。例えば、ゴムに硬質異物や中空ポリマーを配合し、これによりゴム表面にミクロな凹凸を形成することによって氷の表面に発生する水膜を除去し、氷上摩擦を向上させる手法が知られている(例えば特許文献1参照)。
しかし、中空ポリマーを配合するとトレッドゴム中に空洞が形成され、ゴム強度が低下するという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-35736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって本発明の目的は、破断強度および氷上性能を共に向上させ得るゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特定の組成を有するジエン系ゴムに対し、無機充填剤および特定の多孔質粒子を特定量でもって配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下の通りである。
【0006】
1.ポリブタジエンゴムを30質量部以上かつ天然ゴムおよび/または合成イソプレンゴムを30質量部以上含むジエン系ゴム100質量部に対し、無機充填剤を20質量部以上、平均粒径が15μm以下のポリ(メタ)アクリル酸エステル多孔質粒子を1~15質量部、および可塑剤を10~70質量部含み、
ガラス転移温度が-60℃以下であり、かつ20℃における硬度が60以下である
ことを特徴とするゴム組成物。
2.前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル多孔質粒子の空隙率が、25~75%であることを特徴とする前記1に記載のゴム組成物。
3.前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル多孔質粒子のガラス転移温度が、-20℃以下であることを特徴とする前記1または2に記載のゴム組成物。
4.前記1~3のいずれかに記載のゴム組成物をトレッドに使用したスタッドレスタイヤ。
【発明の効果】
【0007】
本発明のゴム組成物は、ポリブタジエンゴムを30質量部以上かつ天然ゴムおよび/または合成イソプレンゴムを30質量部以上含むジエン系ゴム100質量部に対し、無機充填剤を20質量部以上、平均粒径が15μm以下のポリ(メタ)アクリル酸エステル多孔質粒子を1~15質量部、および可塑剤を10~70質量部含み、ガラス転移温度が-60℃以下であり、かつ20℃における硬度が60以下であることを特徴としているので、破断強度および氷上性能を共に向上させることができる。
また、本発明のゴム組成物をトレッドに用いたスタッドレスタイヤは、優れた氷上性能を有し、また十分な破断強度も維持できることから、耐摩耗性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0009】
(ジエン系ゴム)
本発明で使用されるジエン系ゴムは、氷上性能向上の観点から、ポリブタジエンゴム(BR)を含み、また破断強度向上の観点から、天然ゴム(NR)および/または合成イソプレンゴム(IR)を含む。本発明では、該ジエン系ゴムの全体を100質量部としたときに、BRが30質量部以上を占め、かつNRおよび/またはIRが30質量部以上を占めることが必要である。なお、BRはジエン系ゴム100質量部中、30~70質量部であることが好ましく、NRおよび/またはIRが30~70質量部であることが好ましい。
【0010】
なおBR、NR、IR以外にも、必要に応じてゴム組成物に配合することができる任意のジエン系ゴムを用いることができ、例えば、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)等を配合してもよい。本発明で使用されるジエン系ゴムにおいて、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
【0011】
(無機充填剤)
本発明で使用される無機充填剤としては、例えばシリカ、クレー、マイカ、タルク、シラス、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム等を挙げることができる。
【0012】
(ポリ(メタ)アクリル酸エステル多孔質粒子)
本発明で使用されるポリ(メタ)アクリル酸エステル多孔質粒子は、公知のものであり、公知技術に基づき合成してもよいが、下記で説明するような市販品を利用することもできる。なお、本発明で言う(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸またはメタクリル酸を意味する。
【0013】
ポリ(メタ)アクリル酸エステル多孔質粒子は、本発明の効果を良好に奏するという観点から、空隙率が25~75%であることが好ましく、30~70%であることがさらに好ましい。なお空隙率は、以下の式により計算される。
[1-{ポリ(メタ)アクリル酸エステル多孔質粒子の比重/同一素材を用いかつ孔部を有しない中実のポリ(メタ)アクリル酸エステル粒子の比重}] × 100(%)
なおこれとは別に、SEM等により、例えば100個のポリ(メタ)アクリル酸エステル多孔質粒子の断面の空隙面積を画像解析により割り出し、粒子断面の平均面積に対する空隙の平均面積の割合を百分率として算出することによっても、空隙率を求めることができる。
【0014】
また、本発明で使用されるポリ(メタ)アクリル酸エステル多孔質粒子は、氷上性能向上の観点から、そのガラス転移温度が-20℃以下であることが好ましく、-30℃以下であることがさらに好ましい。なお本発明で言うガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)により20℃/分の昇温速度条件によりサーモグラムを測定し、転移域の中点の温度を指すものとする。
【0015】
また、本発明で使用されるポリ(メタ)アクリル酸エステル多孔質粒子は、平均粒径が15μm以下であることが必要である。平均粒径が15μmを超えると、破断強度が悪化する。該平均粒径は、1μm~15μmであるのが好ましく、3μm~12μmであるものがさらに好ましい。なおポリ(メタ)アクリル酸エステル多孔質粒子の平均粒径は、SEM等により、例えば100個の粒子の画像解析により求めることができる。
【0016】
本発明で使用されるポリ(メタ)アクリル酸エステル多孔質粒子は、市販されているものを使用することができ、例えば積水化成品工業株式会社製テクポリマーACP-8(平均粒径=10μm、Tg=-30℃、空隙率=40%)等が挙げられる。
【0017】
本発明で使用されるポリ(メタ)アクリル酸エステル多孔質粒子は、空隙の存在により、氷路面とタイヤトレッド面との間に発生する水の排水効果が大きくなり、結果として氷上性能が向上するものと考えられる。
【0018】
(可塑剤)
本発明で使用される可塑剤としては、例えば、カルボン酸エステル可塑剤、リン酸エステル可塑剤、スルホン酸エステル可塑剤、オイル等が挙げられる。
カルボン酸エステル可塑剤としては、公知のフタル酸エステル、イソフタル酸エステル、テトラヒドロフタル酸エステル、アジピン酸エステル、マレイン酸エステル、フマル酸エステル、トリメリット酸エステル、リノール酸エステル、オレイン酸エステル、ステアリン酸エステル、リシノール酸エステル等がある。
リン酸エステル可塑剤としては、公知のトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ-(2-エチルヘキシル)ホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、イソデシルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリトリルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、ジフェニルモノ-o-キセニルホスフェート等がある。
スルホン酸エステル可塑剤としては、公知のベンゼンスルホンブチルアミド、トルエンスルホンアミド、N-エチル-トルエンスルホンアミド、N-シクロヘキシル-p-トルエンスルホンアミド等がある。
オイルとしては、公知のパラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等の鉱物油系オイルが挙げられる。
【0019】
(ゴム組成物の配合割合)
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、無機充填剤を20質量部以上、平均粒径が15μm以下のポリ(メタ)アクリル酸エステル多孔質粒子を1~15質量部、および可塑剤を10~70質量部配合してなることを特徴とする。
【0020】
前記無機充填剤の配合量が20質量部未満であると、耐摩耗性が悪化する。
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル多孔質粒子の配合量が1質量部未満であると配合量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができな。逆に15質量部を超えると耐摩耗性が悪化する。
前記可塑剤の配合量が10質量部未満であると、氷上性能が悪化する。逆に70質量部を超えるとマイグレーション性が悪化する。
【0021】
前記無機充填剤の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、25~80質量部が好ましい。
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル多孔質粒子の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、2~12質量部が好ましい。
前記可塑剤の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、15~50質量部が好ましい。
【0022】
(その他成分)
本発明におけるゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、カーボンブラック、老化防止剤などのゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0023】
本発明のゴム組成物は、平均ガラス転移温度(平均Tg)が-60℃以下であり、かつ20℃における硬度が60以下であることが好ましい。このように平均Tgおよび硬度を規定することにより、氷上性能が向上する。
なお本明細書で言う平均Tgは、各成分のガラス転移温度に、各成分の重量分率を乗じた積の合計、すなわち加重平均に基づき算出される値である。なお計算時には各成分の重量分率の合計を1.0とする。また、前記各成分とは、ジエン系ゴム、可塑剤および樹脂を意味する。なお、樹脂は、ゴム組成物に含まれない場合もあり得る。また、ポリ(メタ)アクリル酸エステル多孔質粒子はここで言う樹脂に含まない。また硬度は、JIS K6253に準拠して測定される。
さらに好ましい前記平均Tgは、-62℃以下であり、さらに好ましい前記硬度は58以下である。
【0024】
また本発明のゴム組成物は従来の空気入りタイヤの製造方法に従って空気入りタイヤを製造するのに適しており、スタッドレスタイヤのトレッド、とくにキャップトレッドに適用するのがよい。
【実施例
【0025】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0026】
実施例1~3および比較例1~3
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練した後、混練物をミキサー外に放出させて室温冷却させた。その後、同バンバリーミキサーにおいて加硫促進剤および硫黄を加えてさらに混練し、ゴム組成物を得た。次に得られたゴム組成物を所定の金型中で160℃、20分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を得、以下に示す試験法で加硫ゴム試験片の物性を測定した。
【0027】
破断強度:JIS K6251に準拠して、上記加硫ゴム試験片から3号ダンベル状のサンプル片を打ち抜き、500mm/分の引張速度にて引張試験を行い、破断伸び(%)を測定した。結果は比較例1の値を100として指数表示した。この指数が大きいほど破断強度に優れることを示す。
氷上性能:上記加硫ゴム試験片を偏平円柱状の台ゴムにはりつけ、インサイドドラム型氷上摩擦試験機にて氷上摩擦係数を測定した。測定温度は-1.5℃、荷重5.5kg/cm、ドラム回転速度は25km/hである。結果は比較例1の値を100として指数で示した。指数が大きいほど、ゴムと氷の摩擦力が良好であり、氷上性能に優れることを示す。
結果を表1に併せて示す。
【0028】
【表1】
【0029】
*1:NR(TSR20。Tg=-73℃)
*2:BR(日本ゼオン株式会社製Nipol BR1220。Tg=-106℃)
*3:カーボンブラック(キャボットジャパン社製ショウブラックN339)
*4:シリカ(ローディア社製Zeosil 1165MP、CTAB比表面積=159m/g)
*5:ポリ(メタ)アクリル酸エステル多孔質粒子(積水化成品工業株式会社製テクポリマーACP-8、平均粒径=10μm、Tg=-30℃、空隙率=40%)
*6:微粒子(松本油脂製薬株式会社製マイクロスフェアーF100、平均粒径=10μm、Tg=-40℃、空隙率=0%)
*7:ポリ乳酸エステル多孔質粒子(東レ社製 トレパールSP200、平均粒径=200μm、Tg=-40℃、空隙率=40%)
*8:シランカップリング剤(Evonik Degussa社製Si69)
*9:オイル(昭和シェル石油株式会社製エキストラクト4号S。Tg=-41℃)
*10:老化防止剤(Solutia Europe社製SANTOFLEX 6PPD)
*11:ワックス(大内新興化学工業株式会社製パラフィンワックス)
*12:硫黄(鶴見化学工業株式会社製金華印油入微粉硫黄)
*13:加硫促進剤(大内新興化学工業株式会社製ノクセラーCZ-G)
【0030】
表1の結果から、実施例のゴム組成物は、ポリブタジエンゴムを30質量部以上かつ天然ゴムおよび/または合成イソプレンゴムを30質量部以上含むジエン系ゴム100質量部に対し、無機充填剤を20質量部以上、平均粒径が15μm以下のポリ(メタ)アクリル酸エステル多孔質粒子を1~15質量部、および可塑剤を10~70質量部含み、ガラス転移温度が-60℃以下であり、かつ20℃における硬度が60以下であるので、比較例1と比べると、破断強度および氷上性能が共に向上していることが分かる。
比較例2は、多孔質粒子ではない粒子を使用した例であるので、比較例1と比べると破断強度が悪化した。
比較例3は、平均粒径の大きいポリ乳酸エステル多孔質粒子を使用した例であるので、比較例1と比べると破断強度が悪化した。