(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】ウォーム減速機及び電動アシスト装置
(51)【国際特許分類】
F16H 55/24 20060101AFI20230404BHJP
F16H 1/16 20060101ALI20230404BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
F16H55/24
F16H1/16 Z
B62D5/04
(21)【出願番号】P 2019099235
(22)【出願日】2019-05-28
【審査請求日】2022-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大澤 亮
(72)【発明者】
【氏名】石栗 聡
(72)【発明者】
【氏名】松本 壮太
(72)【発明者】
【氏名】石井 徹
(72)【発明者】
【氏名】清田 晴彦
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-237399(JP,A)
【文献】特開2016-199177(JP,A)
【文献】特開2016-16784(JP,A)
【文献】特開2006-44449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/16
F16H 55/24
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに回転自在に支持されて、外周面にホイール歯を有するウォームホイールと、
前記ハウジングに回転自在に支持されて、外周面に前記ホイール歯と噛合するウォーム歯を有するウォームと、
前記ウォームの先端部に外嵌された軸受と、
前記軸受を内嵌し、かつ、前記ハウジングの内側に前記ウォームホイールに対する遠近動を可能に配置されたホルダと、
前記ホルダを、前記ウォームホイール側に向けて弾性的に付勢するばね部材と、を備え、
前記ホルダは、自身の中心軸よりも前記ウォームホイールから遠い側に周方向に離隔して配置された1対の内側ばね保持部と、該1対の内側ばね保持部よりも、前記ばね部材による前記ホルダの付勢方向である第1方向に関して前記ウォームホイールから遠い側で、かつ、周方向に関して前記1対の内側ばね保持部同士の間に配置された外側ばね保持部とを有しており、
前記ばね部材は、径方向外側面を前記外側ばね保持部に接触させた基部と、該基部の周方向両端部から周方向に延出し、径方向内側面を前記1対の内側ばね保持部に弾性的に接触させた1対のアーム部と、該1対のアーム部の前記基部から遠い側の端部に接続され、かつ、径方向外側面を前記ハウジングの内周面に弾性的に接触させた1対の押付け部とを有する、
ウォーム減速機。
【請求項2】
前記ホルダは、前記ウォームの中心軸を含み、かつ、前記第1方向に平行な仮想平面を挟んだ両側の2箇所に配置された1対のホルダ側第1規制面と、前記第1方向に関して前記1対のホルダ側第1規制面よりも前記ウォームホイールから遠い側で、かつ、前記仮想平面を挟んだ両側の2箇所に配置された1対のホルダ側第2規制面とを有しており、
前記ハウジングは、前記1対のホルダ側第1規制面と対向する1対のハウジング側第1規制面と、前記1対のホルダ側第2規制面と対向する1対のハウジング側第2規制面とを有しており、
前記1対のホルダ側第1規制面と前記1対のハウジング側第1規制面との間に存在する隙間の和が、前記1対のホルダ側第2規制面と前記1対のハウジング側第2規制面との間に存在する隙間の和よりも小さくなっている、
請求項1に記載のウォーム減速機。
【請求項3】
前記ホルダ側第1規制面と前記ホルダ側第2規制面とのうちの少なくとも一方が、前記ホルダの軸方向に関する全幅にわたり存在している、
請求項2に記載のウォーム減速機。
【請求項4】
前記基部は、径方向内方に凹んだ凹部を有しており、該凹部を前記外側ばね保持部に係合させている、
請求項1~3のうちのいずれかに記載のウォーム減速機。
【請求項5】
前記ホルダは、前記ばね部材が前記ホルダに対して軸方向に変位することを規制する軸方向規制部を有する、
請求項1~4のうちのいずれかに記載のウォーム減速機。
【請求項6】
前記1対のアーム部のそれぞれが、前記基部の周方向両端部から、前記第1方向に関して前記ウォームホイールに近い側に向け鈍角に折れ曲がっている、
請求項1~5のうちのいずれかに記載のウォーム減速機。
【請求項7】
前記押付け部の径方向外側面が凸曲面である、
請求項1~6のうちのいずれかに記載のウォーム減速機。
【請求項8】
前記ばね部材は、前記1対の押付け部の前記基部から遠い側の端部に接続され、かつ、径方向外側面を凹面とした1対の係止部を有する、
請求項1~7のうちのいずれかに記載のウォーム減速機。
【請求項9】
前記ホルダは、前記1対のアーム部の前記基部から遠い側の部分同士の開き角を狭めた場合に前記1対の係止部のそれぞれの径方向外側面である凹面の内側空間と整合する箇所に、軸方向の係合孔を有する、
請求項8に記載のウォーム減速機。
【請求項10】
前記係合孔は、前記ホルダを軸方向に貫通している、
請求項9に記載のウォーム減速機。
【請求項11】
前記ばね部材は、板ばねである、
請求項1~10のうちのいずれかに記載のウォーム減速機。
【請求項12】
電動モータと、前記電動モータの動力を増大して操舵力伝達部材に伝達するウォーム減速機と、を備え、
前記ウォーム減速機が、請求項1~11のうちのいずれかに記載のウォーム減速機である、電動アシスト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォームとウォームホイールとを備えるウォーム減速機、及び、該ウォーム減速機を備える電動アシスト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のステアリング装置では、運転者の操作によりステアリングホイールを回転させると、該ステアリングホイールの回転は、ステアリングシャフトや中間シャフトを介して、ステアリングギヤユニットの入力軸に伝達される。そして、該入力軸の回転は、ステアリングギヤユニットのラック軸の直線運動に変換されることで、1対のタイロッドが押し引きされる。これにより、1対の操舵輪にステアリングホイールの操作量に応じた舵角が付与される。
【0003】
特開2004-306898号公報(特許文献1)には、電動モータを補助動力源として、運転者がステアリングホイールを操作するのに要する力を低減する電動パワーステアリング装置が開示されている。電動パワーステアリング装置は、電動モータのトルクを増大させるためのウォーム減速機を備える。ウォーム減速機は、ハウジングと、該ハウジングに回転自在に支持されて、外周面にホイール歯を有するウォームホイールと、ハウジングに回転自在に支持されて、外周面にホイール歯と噛合するウォーム歯を有するウォームとを備える。電動モータのトルクは、ウォームを介してウォームホイールに伝達されることにより増大されてから、ステアリングシャフトやステアリングギヤユニットの入力軸又はラック軸などの操舵力伝達部材に補助動力として付与される。これにより、運転者がステアリングホイールを操作するのに要する力が低減される。
【0004】
ところで、ウォーム減速機では、ホイール歯とウォーム歯との噛合部に、ウォーム減速機を構成する部品のそれぞれの寸法誤差や組立誤差などに基づいて、不可避のバックラッシュが存在する。該バックラッシュの存在に基づき、ステアリングホイールの回転方向を変える際に、噛合部で耳障りな歯打ち音が発生する場合がある。
【0005】
特開2004-306898号公報には、ホイール歯とウォーム歯との噛合部での歯打ち音の発生を抑えるために、ウォームの先端部を、ウォームホイール側に向けて付勢する構造が記載されている。特開2004-306898号公報に記載の構造は、ウォームの先端部に外嵌され、かつ、ウォームホイールに対する遠近動を可能に配置された予圧パッドと、該予圧パッドとハウジングとの間に設置されたねじりコイルばねを備える。該ねじりコイルばねは弾性変形しており、該ねじりコイルばねの弾性復元力によって、予圧パッドをウォームホイール側に向けて付勢している。これにより、ホイール歯とウォーム歯との噛合部のバックラッシュが抑えられ、歯打ち音の発生が抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特開2004-306898号公報に記載の構造では、ウォームの先端部がウォームホイールに対して遠近動できるようにするために、ウォームの先端部に外嵌された予圧パッドの外周面とハウジングの内周面との間に、全周にわたり隙間が設けられている。このため、ウォームの先端部は、該隙間の存在に基づいて、ウォームホイールに対して遠近動する方向と直角な径方向にも移動し得る。一方、このような方向の移動を抑制できれば、ステリングホイールの操作感のさらなる向上を図れる。
【0008】
本発明は、上述のような事情に鑑み、ウォームの先端部をウォームホイール側に付勢しているウォーム減速機において、ウォームの先端部がウォームホイールに対して遠近動する方向と直角な径方向に移動することを抑制できる構造を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のウォーム減速機は、ハウジングと、前記ハウジングに回転自在に支持されて、外周面にホイール歯を有するウォームホイールと、前記ハウジングに回転自在に支持されて、外周面に前記ホイール歯と噛合するウォーム歯を有するウォームと、前記ウォームの先端部に外嵌された軸受と、前記軸受を内嵌し、かつ、前記ハウジングの内側に前記ウォームホイールに対する遠近動を可能に配置されたホルダと、前記ホルダを、前記ウォームホイール側に向けて弾性的に付勢するばね部材とを備える。
前記ホルダは、自身の中心軸よりも前記ウォームホイールから遠い側に周方向に離隔して配置された1対の内側ばね保持部と、該1対の内側ばね保持部よりも、前記ばね部材による前記ホルダの付勢方向である第1方向に関して前記ウォームホイールから遠い側で、かつ、周方向に関して前記1対の内側ばね保持部同士の間に配置された外側ばね保持部とを有する。
前記ばね部材は、径方向外側面を前記外側ばね保持部に接触させた基部と、該基部の周方向両端部から周方向に延出し、径方向内側面を前記1対の内側ばね保持部に弾性的に接触させた1対のアーム部と、該1対のアーム部の前記基部から遠い側の端部に接続され、かつ、径方向外側面を前記ハウジングの内周面に弾性的に接触させた1対の押付け部とを有する。
【0010】
前記ホルダは、前記ウォームの中心軸を含み、かつ、前記第1方向に平行な仮想平面を挟んだ両側の2箇所に配置された1対のホルダ側第1規制面と、前記第1方向に関して前記1対のホルダ側第1規制面よりも前記ウォームホイールから遠い側で、かつ、前記仮想平面を挟んだ両側の2箇所に配置された1対のホルダ側第2規制面とを有しており、前記ハウジングは、前記1対のホルダ側第1規制面と対向する1対のハウジング側第1規制面と、前記1対のホルダ側第2規制面と対向する1対のハウジング側第2規制面とを有する構成を採用することができる。
この場合に、好ましくは、前記1対のホルダ側第1規制面と前記1対のハウジング側第1規制面との間に存在する隙間の和を、前記1対のホルダ側第2規制面と前記1対のハウジング側第2規制面との間に存在する隙間の和よりも小さくする。
好ましくは、前記ホルダ側第1規制面と前記ホルダ側第2規制面とのうちの少なくとも一方を、前記ホルダの軸方向に関する全幅にわたり存在させる。
【0011】
前記基部が、径方向内方に凹んだ凹部を有しており、該凹部を前記外側ばね保持部に係合させている構成を採用することができる。
【0012】
前記ホルダが、前記ばね部材が前記ホルダに対して軸方向に変位することを規制する軸方向規制部を有する構成を採用することができる。
【0013】
前記1対のアーム部のそれぞれが、前記基部の周方向両端部から、前記第1方向に関して前記ウォームホイールに近い側に向け鈍角に折れ曲がっている構成を採用することができる。
【0014】
前記押付け部の径方向外側面が凸曲面である構成を採用することができる。
【0015】
前記ばね部材が、前記1対の押付け部の前記基部から遠い側の端部に接続され、かつ、径方向外側面を凹面とした1対の係止部を有する構成を採用することができる。
この場合に、前記ホルダが、前記1対のアーム部の前記基部から遠い側の部分同士の開き角を狭めた場合に前記1対の係止部のそれぞれの径方向外側面である凹面の内側空間と整合する箇所に、軸方向の係合孔を有する構成を採用することができる。
【0016】
前記係合孔が、前記ホルダを軸方向に貫通している構成を採用することができる。
【0017】
前記ばね部材が板ばねである構成を採用することができる。
【0018】
本発明の電動アシスト装置は、電動モータと、前記電動モータの動力を増大して操舵力伝達部材に伝達するウォーム減速機とを備える。該ウォーム減速機は、本発明のウォーム減速機である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のウォーム減速機及び電動アシスト装置によれば、ウォームの先端部がウォームホイールに対して遠近動する方向と直角な径方向に移動することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態の第1例の電動アシスト装置を組み込んだ、コラムアシスト型の電動パワーステアリング装置を示す部分切断側面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態の第1例の電動アシスト装置を前方から見た部分切断斜視図である。
【
図4】
図4は、一部を分解した状態で示す
図3の右側部に相当する図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施の形態の第1例のホルダ、板ばね、及び先端側軸受の斜視図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施の形態の第1例のホルダ、板ばね、及び先端側軸受を軸方向から見た正面図である。
【
図12】
図12は、本発明の実施の形態の第1例のホルダの斜視図である。
【
図13】
図13は、本発明の実施の形態の第1例のホルダを軸方向から見た正面図である。
【
図14】
図12は、本発明の実施の形態の第1例の板ばねの斜視図である。
【
図15】
図15は、本発明の実施の形態の第1例に関して、ウォーム角度とウォームトルクに関する、板ばねの効果を表す特性線図である。
【
図16】
図16は、本発明の実施の形態の第2例に関する、
図6に相当する図である。
【
図17】
図17は、本発明の実施の形態の第3例に関する、
図6に相当する図である。
【
図18】
図18は、本発明の実施の形態の第3例に関する、
図9に相当する図である。
【
図19】
図19は、本発明の実施の形態の第4例に関する、
図6に相当する図である。
【
図20】
図20は、本発明の実施の形態の第4例に関する、
図7に相当する図である。
【
図21】
図21は、本発明の実施の形態の第5例の電動アシスト装置の一部を前方から見た部分切断斜視図である。
【
図23】
図23は、本発明の実施の形態の第5例に関する、
図6に相当する図である。
【
図24】
図24は、本発明の実施の形態の第5例に関する、
図7に相当する図である。
【
図26】
図26は、本発明の実施の形態の第5例のホルダ、板ばね、及び先端側軸受の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[実施の形態の第1例]
本発明の実施の形態の第1例について、
図1~
図15を用いて説明する。
本例は、本発明の電動アシスト装置を、コラムアシスト型の電動パワーステアリング装置に適用した例である。
【0022】
図1に示すように、電動パワーステアリング装置1では、運転者の操作によりステアリングホイール2を回転させると、ステアリングホイール2の回転は、ステアリングギヤユニット3の入力軸4に伝達される。入力軸4の回転は、ステアリングギヤユニット3の図示しないラック軸の直線運動に変換されることで、1対のタイロッド5が押し引きされる。これにより、1対の操舵輪にステアリングホイール2の操作量に応じた舵角が付与される。ステアリングホイール2は、ステアリングシャフト6の後端部に支持固定されており、ステアリングシャフト6は、ステアリングコラム7の内側に回転自在に支持されている。ステアリングシャフト6の前端部は、自在継手8aを介して中間シャフト9の後端部に接続され、中間シャフト9の前端部は、別の自在継手8bを介して、入力軸4に接続されている。
【0023】
電動パワーステアリング装置1は、運転者がステアリングホイール2を操作するのに要する力を低減すべく、ステアリングシャフト6に補助動力を付与する電動アシスト装置10を備える。電動アシスト装置10は、電動モータ11と、ウォーム減速機12を備える。すなわち、電動アシスト装置10は、電動モータ11の出力軸13のトルクを、ウォーム減速機12により増大させてから、ステアリングシャフト6に補助動力として付与する。
【0024】
ウォーム減速機12は、
図2~
図8に示すように、ハウジング14と、ハウジング14に回転自在に支持されて、外周面にホイール歯15を有するウォームホイール16と、ハウジング14に回転自在に支持されて、外周面にホイール歯15と噛合するウォーム歯17を有するウォーム18と、ウォーム18の先端部に外嵌された先端側軸受20と、先端側軸受20を内嵌したホルダ21と、ホルダ21をウォームホイール16側に向けて弾性的に付勢する、ばね部材である板ばね22とを備える。
【0025】
なお、以下の説明では、板ばね22がホルダ21を付勢する方向、すなわち、板ばね22がホルダ21を付勢する力P(
図6及び
図7参照)を表すベクトルの伸長方向(
図2~
図7の上下方向)を「第1方向」とし、ウォーム18の中心軸O
Wを含み、かつ、第1方向に平行な第1仮想平面をS
1(
図6及び
図7参照)とし、第1仮想平面S
1に直交する方向(
図2及び
図5の表裏方向、
図6及び
図7の左右方向)を「第2方向」とし、ウォーム18の中心軸O
Wを含み、かつ、第1仮想平面S
1に対して直交する第2仮想平面をS
2(
図6及び
図7参照)とする。
【0026】
ハウジング14は、例えば、アルミニウム合金、マグネシウム合金などの軽金属製、あるいは、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの合成樹脂(高分子材料)製、あるいは、該合成樹脂にガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などの強化繊維(補強材)を混入した強化合成樹脂製で、ウォームホイール16が収容されるホイール収容部23と、ウォーム18が収容されるウォーム収容部24とを備える。ウォーム収容部24の中心軸は、ホイール収容部23の中心軸に対して、ねじれの位置に配置されている。このようなハウジング14は、ステアリングコラム7の前端部に、ホイール収容部23の中心軸とステアリングコラム7の中心軸とが同軸となるように結合固定されている。
【0027】
ウォーム収容部24は、筒状で、軸方向両側が開口するとともに、軸方向中間部がホイール収容部23内に開口している。ウォーム収容部24の軸方向一方側の開口部は、蓋体25により塞がれており、ウォーム収容部24の軸方向他方側の開口部は、ハウジング14に結合固定された電動モータ11により塞がれている。
【0028】
なお、ウォーム収容部24、ウォーム18、及びホルダ21に関して、軸方向一方側は、
図2~5における右側であり、軸方向他方側は、
図2~5における左側である。また、ウォーム18に関して、軸方向一方側は先端側であり、軸方向他方側は基端側である。
【0029】
ウォーム収容部24は、軸方向一方側端部の内周面に、ホルダ保持部26を有する。ホルダ保持部26は、ウォームホイール16から遠い側の端部(
図5~
図7の上端部)に径方向外方に凹んだ副保持部28を有し、副保持部28から外れた残りの部分に、ウォーム収容部24の中心軸を中心とする円筒面である主保持部27を有する。
【0030】
ホルダ保持部26の主保持部27は、第2方向に関する両端部に、ハウジング側第1規制面29を有する。また、ホルダ保持部26の副保持部28は、第2方向に関して互いに対向する1対の内側面に、ハウジング側第2規制面30を有する。ハウジング側第2規制面30は、第2方向に対して直交する平坦面、すなわち、第1仮想平面S1に平行な面である。
【0031】
ウォームホイール16は、外周面にホイール歯15を有する。ウォームホイール16は、ホイール収容部23の内側に回転自在に支持されたステアリングシャフト6の前端部の周囲に、ステアリングシャフト6と一体に回転するように支持固定されている。なお、本例では、ウォームホイール16は、鉄鋼などの金属製で円輪板状の内側ホイール素子31の周囲に、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアセタール(POM)などの合成樹脂製、あるいは、該合成樹脂にガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などの強化繊維を混入した強化合成樹脂製で外周面にホイール歯15を有する外側ホイール素子32を結合固定してなる。
【0032】
ウォーム18は、鉄鋼などの金属製で、軸方向中間部外周面に、ウォーム歯17を有しており、先端部に、先端側軸受20が外嵌される円柱状の小径部33を有する。ウォーム18は、ウォーム歯17をウォームホイール16のホイール歯15に噛合させた状態で、基端側軸受19及び先端側軸受20により、ウォーム収容部24の内側に回転自在に支持されている。
【0033】
基端側軸受19は、玉軸受であり、ウォーム18の軸方向他方側部である基端側部をウォーム収容部24に対して回転自在に支持している。また、基端側軸受19は、ウォーム収容部24に対してウォーム18を揺動可能に支持している。また、ウォーム18の軸方向他方側端部である基端部は、カップリング34を介して、電動モータ11の出力軸13に接続されている。カップリング34は、出力軸13とウォーム18との間のトルクの伝達、及び、出力軸13に対するウォーム18の揺動を可能としている。なお、出力軸13とウォーム18との間のトルクの伝達、及び、出力軸13に対するウォーム18の揺動を可能にできる限り、出力軸13とウォーム18との接続方法は特に限定されず、例えばスプライン係合による接続方法を採用することもできる。
【0034】
先端側軸受20は、玉軸受であり、ウォーム18の先端部に備えられた小径部33に外嵌固定された内輪35と、内輪35の周囲に、内輪35と同軸に配置された外輪36と、内輪35の外周面に備えられた内輪軌道と外輪36の内周面に備えられた外輪軌道との間に転動自在に配置された、それぞれが転動体である複数個の玉37とを備える。なお、先端側軸受として、例えば、ころ軸受やニードル軸受などを用いることもできる。
【0035】
ホルダ21は、
図5~
図13に示すように、全体を環状に構成され、先端側軸受20を内嵌保持するとともに、ハウジング14のホルダ保持部26の内側に配置されている。ホルダ21は、例えば、アルミニウム合金、マグネシウム合金などの軽金属製、あるいは、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの合成樹脂製、あるいは、該合成樹脂にガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などの強化繊維を混入した強化合成樹脂製である。
【0036】
ホルダ21は、ホルダ筒部38と、ホルダフランジ部39と、ホルダ伸長部40とを有する。
【0037】
ホルダ筒部38は、略円筒状に構成されており、軸方向中間部内周面に、先端側軸受20の外輪36を内嵌保持する軸受保持部41を有する。ホルダ筒部38は、軸方向他方側部及び中間部のうち、第1方向に関してウォームホイール16から遠い側の端部に、径方向外側に突出する小径側突出部42を有する。小径側突出部42は、軸方向から見た形状が矩形であり、径方向外端面である先端面43と第2方向両側面である1対の側面44との接続部に、1対の内側ばね保持部45を有する。内側ばね保持部45のそれぞれは、先端面43と側面44とを滑らかに接続する円筒状凸面である。ホルダ筒部38は、軸方向他方側部及び中間部の外周面のうち、第1仮想平面S1を挟んで対称で、かつ、第2仮想平面S2よりもウォームホイール16から遠い側に位置する2箇所に、径方向内側に凹んだ切り欠き46を有する。
【0038】
ホルダフランジ部39は、略円輪状に構成されており、ホルダ筒部38の軸方向一方側部から全周にわたり径方向外方に突出している。ホルダフランジ部39は、ホルダ保持部26に略相似で、かつ、ホルダ保持部26よりも一回り小さい外周形状を有する。
【0039】
このようなホルダフランジ部39は、外周面のうちで第1方向に関してウォームホイール16に近い側の端部に、ホルダ保持部26の主保持部27と接触しない平坦面状の非接触部47を有する。また、ホルダフランジ部39は、第2方向に関する両端部に、径方向外方に突出する1対の凸部48を有する。そして、凸部48のそれぞれの径方向外端面(先端面)を、ホルダ側第1規制面49としている。ホルダ側第1規制面49は、円筒状凸面であり、その曲率半径は、ハウジング側第1規制面29の曲率半径と同じである。ただし、ホルダ側第1規制面49の曲率半径は、ハウジング側第1規制面29の曲率半径よりも小さく又は大きくすることもできる。
【0040】
また、ホルダフランジ部39は、第1方向に関してウォームホイール16から遠い側の端部に、径方向外側に突出する大径側突出部50を有する。大径側突出部50は、軸方向から見た形状が矩形であり、第2方向に関する幅寸法が、小径側突出部42よりも大きい。また、大径側突出部50は、第2方向に関して互いに反対側を向いた1対の外側面に、ホルダ側第2規制面51を有する。ホルダ側第2規制面51は、第2方向に対して直交する平坦面である。また、ホルダフランジ部39は、ホルダ側第2規制面51の径方向内側に隣接する部分に、当該部分がハウジング側第2規制面30の径方向内端縁部に存在する角部と接触しないようにするための逃げ凹部52を有する。
【0041】
ホルダ伸長部40は、半円柱状に構成されており、大径側突出部50の第2方向中央部から軸方向他方側に向けて伸長している。ホルダ伸長部40は、径方向内側面のうち、軸方向一方側端部である基端部を除く部分に、半円筒状凸面である外側ばね保持部53を有する。ホルダ伸長部40は、外側ばね保持部53の基端側に隣接する部分に、外側ばね保持部53の曲率中心軸を中心とする径方向に関して、外側ばね保持部53よりも外側に膨出した半円環状の膨出部54を有する。
【0042】
ホルダ21は、軸受保持部41に先端側軸受20の外輪36を内嵌保持し、かつ、ホルダ保持部26の内側に配置された状態で、大径側突出部50がホルダ保持部26の副保持部28の内側に配置されており、それ以外の部分が、ホルダ保持部26の主保持部27の内側に配置されている。
【0043】
板ばね22は、
図6、
図9~
図11、及び
図14に示すように、底辺のない台形形状を有する。また、板ばね22は、
図6に示すように、ホルダ21とホルダ保持部26との間に組み付けられている。なお、板ばね22に関して、「軸方向」及び「径方向」とは、特に断わらない限り、ホルダ21に関する「軸方向」及び「径方向」をいう。また、板ばね22に関して、「径方向外側」とは、ホルダ21の中心軸から遠い側をいい、「径方向内側」とは、ホルダ21の中心軸に近い側をいう。
【0044】
板ばね22は、例えば、圧延鋼、ステンレス鋼などの鋼材製や、銅合金、ニッケル合金、チタン合金などの非鉄金属製や、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの合成樹脂にガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などの強化繊維を混入した強化合成樹脂製である。板ばね22を強化合成樹脂製とする場合には、強化繊維の混入量によって板ばね22のばね定数を細かく調節することができる。
【0045】
板ばね22は、基部である基板部55と、それぞれがアーム部である1対のアーム板部56と、それぞれが押付け部である1対の湾曲板部57とを有する。基板部55は、第2方向に伸長する矩形平板状である。1対のアーム板部56は、それぞれが基板部55の第2方向両端部から周方向に延出した矩形平板状であり、より具体的には、それぞれが基板部55の第2方向両端部から第1方に関してウォームホイール16に近い側に同じ角度だけ鈍角に折れ曲がった矩形平板状である。1対の湾曲板部57は、1対のアーム板部56の先端部(基板部55と反対側の端部)に接続され、かつ、それぞれが径方向外側面を凸曲面とした部分円筒状である。
【0046】
このような板ばね22は、ホルダ21とホルダ保持部26との間に組み付けられた状態で、基板部55の径方向外側面の第2方向中央部が外側ばね保持部53に弾性的に接触しており、1対のアーム板部56の径方向内側面の基端側部が1対の内側ばね保持部45に弾性的に接触しており、1対の湾曲板部57の径方向外側面である凸曲面が主保持部27の第2方向両側部分のうち第2仮想平面S2よりもウォームホイール16から遠い側の部分に弾性的に接触している。すなわち、この状態で、1対のアーム板部56は、弾性的に曲げ変形している。そして、このように曲げ変形した1対のアーム板部56の弾性復元力によって、ホルダ21に、第1方向に関してウォームホイール16側を向いた弾性的な付勢力Pが加わっている。
【0047】
すなわち、板ばね22がホルダ21とホルダ保持部26との間に組み付けられた状態で、1対のアーム板部56の径方向内側面から1対の内側ばね保持部45に作用する弾性的な押し付け力は、それぞれが第1方向に関してウォームホイール16側を向いた第1方向成分(分力)と、それぞれが第2方向に関して互いに近づき合う方向を向いた第2方向成分(分力)を含んでいる。そして、このうちの第1方向成分が、付勢力Pとして、ホルダ21に加わっている。
【0048】
また、板ばね22の軸方向一方側端面は、基板部55の第2方向中央部に対応する部分のみが、軸方向規制部である膨出部54の径方向内端部に対して軸方向に接触又は近接対向しており、残りの部分はホルダ21に対して接触していない。また、1対の湾曲板部57の径方向外側面と主保持部27との接触部にグリースが塗布されている。
【0049】
また、ウォーム18からウォームホイール16にトルクを伝達していない状態で、ホルダ21は、ホルダ保持部26の内側で板ばね22により中立位置に保持されており、ホルダ21の外周面はホルダ保持部26と接触しておらず、ホルダ21の外周面とホルダ保持部26との間には、全周にわたり隙間が存在している。また、この状態で、ホルダ21の外周面とホルダ保持部26との間に存在する隙間は、ホルダ側第1規制面49とハウジング側第1規制面29との間に存在する隙間、及び、ホルダ側第2規制面51とハウジング側第2規制面30との間に存在する隙間が、残りの部分に存在する隙間よりも小さくなっている。さらに、この状態で、ホルダ側第1規制面49とハウジング側第1規制面29との間に存在する隙間が、ホルダ側第2規制面51とハウジング側第2規制面30との間に存在する隙間よりも小さくなっている。換言すれば、1対のホルダ側第1規制面49と1対のハウジング側第1規制面29との間に存在する隙間の和が、1対のホルダ側第2規制面51と1対のハウジング側第2規制面30との間に存在する隙間の和よりも小さくなっている。
【0050】
本例のウォーム減速機12を組み立てる際には、ホルダ21をホルダ保持部26の内側に挿入する前に、
図9~
図11に示すように、板ばね22をホルダ21に取り付ける。具体的には、板ばね22の基板部55の径方向外側面の第2方向中央部を外側ばね保持部53に弾性的に接触させるとともに、1対のアーム板部56の径方向内側面の基端側部を1対の内側ばね保持部45に弾性的に接触させる。また、板ばね22の軸方向一方側端面のうち基板部55の第2方向中央部に対応する部分を、膨出部54の径方向内端部に対して軸方向に接触又は近接対向させる。
【0051】
この状態での1対のアーム板部56同士の開き角(θ′)は、
図10に仮想線(二点鎖線)で示す板ばね22の単品の状態(自由状態)での1対のアーム板部56同士の開き角(θ)よりも大きくなっている(θ′>θ)。すなわち、板ばね22は、1対のアーム板部56同士の開き角が単品の状態よりも大きくなるように弾性変形した状態で、ホルダ21に取り付けられている。これにより、基板部55の径方向外側面の第2方向中央部が外側ばね保持部53に弾性的に接触するとともに、1対のアーム板部56の径方向内側面の基端側部が1対の内側ばね保持部45に弾性的に接触している。さらに、この状態で、板ばね22の1対の湾曲板部57の径方向外側面は、ホルダフランジ部39の外周面よりも径方向外側に突出し、かつ、その突出量が、ウォーム減速機12の組立状態での突出量よりも大きくなっている。
【0052】
次に、上述のように板ばね22を取り付けたホルダ21を、ホルダ21に内嵌保持した先端側軸受20とともに、
図4→
図3に示すように、ハウジング14のウォーム収容部24の軸方向一方側の開口部から、ホルダ保持部26の内側に挿入する。これにより、ホルダ21の大径側突出部50及びホルダ伸長部40を副保持部28の内側に配置するとともに、ホルダ21の残りの部分を主保持部27の内側に配置し、かつ、先端側軸受20の内輪35をウォーム18の先端部に備えられた小径部33に外嵌固定する。
【0053】
また、本例では、上述のように板ばね22を取り付けたホルダ21をウォーム収容部24の軸方向一方側の開口部からホルダ保持部26の内側に挿入する作業は、板ばね22の1対のアーム板部56の先端側部の開き角を弾性的に狭めることにより、板ばね22の1対の湾曲板部57の径方向外側面がホルダフランジ部39の外周面よりも径方向外側に突出しないようにした状態で行う。そして、挿入後、1対のアーム板部56の先端側部の開き角を少しだけ弾性的に復元させると、1対の湾曲板部57の径方向外側面が主保持部27の第2方向両側部分のうち第2仮想平面S2よりもウォームホイール16から遠い側の部分に弾性的に接触した状態となる。
【0054】
上述したような本例の電動アシスト装置10では、電動モータ11に通電することにより、ウォーム18からウォームホイール16にトルクを伝達すると、ホイール歯15とウォーム歯17との噛合部からウォーム18に噛み合い反力が加わる。該噛み合い反力には、第1方向成分(分力)だけでなく、第2方向成分(分力)も含まれる。噛み合い反力のうち、第2方向成分の向きは、ウォーム18が所定方向に回転する場合と、ウォーム18が所定方向と反対方向に回転する場合とで、互いに逆方向となる。すなわち、ウォーム18とウォームホイール16との間でトルクを伝達する際には、
図6及び
図7に示すように、ウォーム18の回転方向に応じて、ウォーム18の先端部に、噛み合い反力F
1又はF
2が加わる。
【0055】
以上に説明したような本例の電動パワーステアリング装置1では、板ばね22を構成する1対のアーム板部56のそれぞれの弾性復元力によって、ホルダ21に、第1方向に関してウォームホイール16側を向いた弾性的な付勢力Pが加わっている。このため、該付勢力Pがホルダ21及び先端側軸受20を介してウォーム18の先端部に付与されることで、ウォーム歯17がホイール歯15に向け付勢され、ウォーム歯17とホイール歯15との噛合部のバックラッシュが抑えられる。
【0056】
また、ウォーム減速機12の組立状態において、第1方向に関するウォーム18の位置は、ウォーム減速機12を構成する各部材の寸法誤差や組立誤差、ハウジング14や外側ホイール素子32を構成する樹脂材料の温度変化や吸水による寸法変化、ウォーム歯17及びホイール歯15の摩耗などによって変化する。本例では、このような変化に伴って、板ばね22の1対のアーム板部56の弾性変形量(湾曲量)が変化することにより、ウォーム歯17とホイール歯15との噛合部のバックラッシュを抑えつつ、該噛合部の摩擦力を適度な大きさに保つことができる。
【0057】
また、本例では、板ばね22の1対の湾曲板部57の径方向外側面が主保持部27の第2方向両側部分に弾性的に接触しているだけでなく、板ばね22の1対のアーム板部56の径方向内側面がホルダ21の1対の内側ばね保持部45に弾性的に接触している。この状態で、1対のアーム板部56の径方向内側面から1対の内側ばね保持部45に作用する弾性的な押付け力は、それぞれが第1方向に関してウォームホイール16側を向いた第1方向成分だけでなく、それぞれが第2方向に関して互いに近づき合う方向を向いた第2方向成分を含んでいる。このため、このような第2方向成分に基づいて、ウォーム18の先端部が第2方向に関して移動する(がたつく)ことを抑えられる。
【0058】
このように、本例では、1つの板ばね22を用いて、上述した付勢及び第2方向の移動の抑制を行えるため、これらの付勢及び第2方向の移動の抑制を別々のばねで行う場合に比べて、部品点数を少なくすることができる。
【0059】
また、本例では、ウォーム18とウォームホイール16との間でトルクを伝達する際に、ウォーム18に加わる噛み合い反力F1又はF2のうち、第1方向成分によって、ウォーム18の先端部が、第1方向に関してウォームホイール16から遠い側に移動する際には、板ばね22の1対のアーム板部56の弾性変形量を増大させることによって、当該移動を許容することができる。
【0060】
一方、ウォーム18に加わる噛み合い反力F1又はF2のうち、第2方向成分によって、ウォーム18の先端部が、第2方向に移動する際には、板ばね22の1対のアーム板部56のうち、当該移動の方向の前方に位置するアーム板部56の弾性変形量を増大させることによって、当該移動を許容することができる。
【0061】
また、本例では、ウォーム18からウォームホイール16にトルクを伝達していない状態で、ホルダ21の外周面とホルダ保持部26との間に存在する隙間は、ホルダ側第1規制面49とハウジング側第1規制面29との間に存在する隙間、及び、ホルダ側第2規制面51とハウジング側第2規制面30との間に存在する隙間が、残りの部分に存在する隙間よりも小さくなっている。さらに、この状態で、ホルダ側第1規制面49とハウジング側第1規制面29との間に存在する隙間が、ホルダ側第2規制面51とハウジング側第2規制面30との間に存在する隙間よりも小さくなっている。
【0062】
このため、噛み合い反力F
1(第1方向成分、及び、第2方向成分)によってウォーム18の先端部が第1方向及び第2方向に移動する際には、
図7において、まず、X
1部で、ホルダ側第1規制面49がハウジング側第1規制面29に接触する。次いで、該接触部を中心としてホルダ21が揺動することにより、X
2部で、ホルダ側第2規制面51がハウジング側第2規制面30に接触した後、X
3A部とX
3B部とのうちの少なくとも一方の部分で、ホルダ21の外周面がホルダ保持部26に接触する。これにより、ウォーム18の先端部の第1方向及び第2方向の移動を規制することができる。なお、X
3A部及びX
3B部に関しては、双方の部分の隙間を調節することにより、いずれか一方の部分のみで接触が行われるようにすることもできるし、双方の部分で接触が行われるようにすることもできる。また、双方の部分で接触が行われるようにする場合には、双方の部分で同時に接触が行われるようにすることもできるし、双方の部分で前後して接触が行われるようにすることもできる。
【0063】
これに対し、噛み合い反力F
2(第1方向成分、及び、第2方向成分)によってウォーム18の先端部が第1方向及び第2方向に移動する際には、
図7において、まず、第1仮想平面S
1を挟んでX
1部と鏡面対称な部分で、ホルダ側第1規制面49がハウジング側第1規制面29に接触する。次いで、該接触部を中心としてホルダ21が揺動することにより、第1仮想平面S
1を挟んでX
2部と鏡面対称な部分で、ホルダ側第2規制面51がハウジング側第2規制面30に接触した後、第1仮想平面S
1を挟んでX
3A部及びX
3B部と鏡面対称な部分のうちの少なくとも一方の部分において、ホルダ21の外周面がホルダ保持部26に接触する。これにより、ウォーム18の先端部の第1方向及び第2方向の移動を規制することができる。
【0064】
特に、本例では、上述したように、先にホルダ側第1規制面49がハウジング側第1規制面29に接触し、次にホルダ側第2規制面51がハウジング側第2規制面30に接触するため、ウォーム18の先端部の第2方向に関する移動が規制される際に、ウォーム歯17とホイール歯15との噛合部に作用する面圧(ウォームトルク)が急激に増大することを抑制できる。
【0065】
すなわち、本例の場合と異なり、ホルダ側第1規制面49がハウジング側第1規制面29に接触するのと同時に、ホルダ側第2規制面51がハウジング側第2規制面30に接触すると、ウォーム18の先端部の第2方向に関する移動の規制が急激に行われるため、
図15において、2点C
1、C
2間の破線αで示すように、ウォーム18の先端部の第2方向位置(ウォーム角度)の変化に対する噛合部の面圧(ウォームトルク)の変化量が急激に増大する。これに対して、本例のように、先にホルダ側第1規制面49がハウジング側第1規制面29に接触し、次にホルダ側第2規制面51がハウジング側第2規制面30に接触すると、ウォーム18の先端部の第2方向に関する移動の規制が緩やかに(段階的に)行われるため、
図15において、2点C
1、C
2間の実線βで示すように、先の接触(点C
1)と次の接触(点C
2)との間で、ウォーム18の先端部の第2方向位置(ウォーム角度)の変化に対する噛合部の面圧(ウォームトルク)の変化量を緩やかに増大させることができる。この結果、ウォーム18の先端部の第2方向に関する移動が規制される際に、ステアリングホイール2を操作する運転者に違和感を与えにくくすることができる。
【0066】
また、本例の場合と異なり、ホルダ側第1規制面49がハウジング側第1規制面29に接触するのと同時に、ホルダ側第2規制面51がハウジング側第2規制面30に接触すると、接触時の衝撃及び打音が大きくなりやすい。これに対して、本例では、先にホルダ側第1規制面49がハウジング側第1規制面29に接触し、次にホルダ側第2規制面51がハウジング側第2規制面30に接触するため、接触時の衝撃及び打音を小さく抑えることができる。
【0067】
また、本例では、ホルダ保持部26の内側でホルダ21が移動する際には、板ばね22の1対のアーム板部56の弾性変形量が変化することに伴い、板ばね22の1対の湾曲板部57の径方向外側面と主保持部27との接触部に滑りが生じるが、該接触部にはグリースが塗布されているため、該滑りを円滑に行わせることができる。
【0068】
また、本例では、板ばね22の形状が単純な台形形状であるため、板ばね22を低コストで造ることができる。また、本例では、板ばね22の1対のアーム板部56同士の開き角は、板ばね22をホルダ21に取り付けた状態で一定の大きさ(θ′)に規制される。このため、板ばね22の単品の状態での開き角(θ)の大きさを精度良く規制する必要がない。したがって、その分、板ばね22を低コストで造ることができる。
【0069】
また、本例では、板ばね22は、ホルダ21に対して、開き角が単品の状態よりも大きくなるように弾性変形した状態で、外側ばね保持部53及び1対の内側ばね保持部45の合計3箇所で保持されている。このため、板ばね22をホルダ21に対してがたつきなく取り付けることができる。
【0070】
また、本例では、板ばね22の軸方向一方側端面は、基板部55の第2方向中央部に対応する部分のみが膨出部54の径方向内端部に接触又は軸方向に近接対向しており、残りの部分はホルダ21に対して接触していない。このため、板ばね22の弾性変形量の変化がホルダ21によって妨げられることがなく、換言すれば、板ばね22によるホルダ21の付勢を適切に行うことができる。
【0071】
また、本例では、板ばね22を取り付けたホルダ21をホルダ保持部26の内側に挿入する作業は、板ばね22の1対のアーム板部56の先端側部同士の開き角を狭めながら行うが、この際に、板ばね22の1対の湾曲板部57をホルダの切り欠き46内に侵入させることができる。このため、板ばね22の1対のアーム板部56の先端側部同士の開き角を狭めやすい。
【0072】
また、本例では、ウォーム減速機12の組立状態で、板ばね22のうち、1対の湾曲板部57の径方向外側面のみが主保持部27の第2方向両側部分のうち第2仮想平面S2よりもウォームホイール16から遠い側の部分に弾性的に接触する。すなわち、ホルダ保持部26に対する板ばね22の接触部が一義的に定まる。このため、付勢力Pのばらつきを小さく抑えることができる。
【0073】
[実施の形態の第2例]
本発明の実施の形態の第2例について、
図16を用いて説明する。
【0074】
本例では、板ばね22aは、基板部55aの第2方向中間部に、板ばね係合部58を有する。板ばね係合部58は、ホルダ21の外側ばね保持部53に沿う半円筒形状を有する。そして、板ばね係合部58の径方向外側面である、径方向内方に凹んだ凹部を、外側ばね保持部53に係合させている。なお、本例では、互いに係合させる板ばね係合部58の径方向外側面と外側ばね保持部53とのそれぞれの断面形状を円弧形状としているが、本発明を実施する場合、互いに係合させる板ばね係合部の径方向外側面と外側ばね保持部とのそれぞれの断面形状は、例えば、U字形状(四角形状)やV字形状(三角形状)などの各種の形状を採用することができる。
【0075】
上述のような本例の構造では、板ばね係合部58を外側ばね保持部53に係合させることによって、ホルダ21に対して板ばね22aが第2方向にずれ動くことを防止できる。このため、付勢力P(
図6参照)の方向及び大きさを安定させることができる。
【0076】
また、本例の構造のように、板ばね係合部を外側ばね保持部に係合させることによって、ホルダに対して板ばねが第2方向にずれ動くことを防止できる構造を採用する場合には、板ばねを構成する1対のアーム板部の長さを、アーム板部ごとに異ならせることによって、付勢力の方向や大きさを調整することができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0077】
[実施の形態の第3例]
本発明の実施の形態の第3例について、
図17及び
図18を用いて説明する。
【0078】
本例では、ホルダ21aのホルダ伸長部40aは、外側ばね保持部53の軸方向他方側に隣接する部分に、径方向内側に突出する外側係合部59を有する。そして、軸方向規制部である外側係合部59を、板ばね22aを構成する板ばね係合部58の軸方向他方側端面に係合させている。また、ホルダ21aのホルダ筒部38aは、1対の内側ばね保持部45の軸方向他方側に隣接する部分に、径方向外方に突出する内側係合部60を有する。そして、軸方向規制部である内側係合部60のそれぞれを、板ばね22aのアーム板部56の軸方向他方側端面に係合させている。
【0079】
上述のような本例の構造では、外側係合部59を板ばね係合部58の軸方向他方側端面に係合させるとともに、内側係合部60のそれぞれをアーム板部56の軸方向他方側端面に係合させることによって、ホルダ21aに対して板ばね22aが軸方向他側にずれ動くことを防止できる。このため、付勢力P(
図6参照)の方向及び大きさを安定させることができる。また、板ばね22aがホルダ21aから軸方向他方側に脱落することを防止できる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例及び第2例と同様である。
【0080】
[実施の形態の第4例]
本発明の実施の形態の第4例について、
図19及び
図20を用いて説明する。
【0081】
本例では、板ばね22bは、1対の湾曲板部57の先端部に接続された、係止部である係止板部65を有する。係止板部65は、湾曲板部57の径方向内側に配置されており、径方向外側面が凹面となる部分円筒形状を有する。互いに接続された湾曲板部57及び係止板部65を軸方向から見た形状は円筒形である。また、ホルダフランジ部39aは、板ばね22bを構成する1対のアーム板部56の先端側部同士の開き角を狭めた場合に1対の係止板部65のそれぞれの径方向外側面である凹面の内側空間(特に、本例では、互いに接続された湾曲板部57と係止板部65との間に存在する円孔)と整合する箇所に、軸方向の係合孔61を有する。本例では、係合孔61のそれぞれは、ホルダフランジ部39aを軸方向に貫通している。
【0082】
上述したような本例の構造では、板ばね22bを取り付けたホルダ21bをハウジング14のホルダ保持部26の内側に挿入する際に、板ばね22bを構成する1対の係止板部65のそれぞれの径方向外側面である凹面(特に、本例では、互いに接続された湾曲板部57と係止板部65との間に存在する円孔)にプライヤーやピンなどの冶具を係合させれば、該冶具によって、板ばね22bを構成する1対のアーム板部56の先端側部同士の開き角を容易に狭めることができる。また、このように1対のアーム板部56の先端側部同士の開き角を狭めた状態で、前記冶具をホルダ21bの係合孔61に挿入して係合させれば、1対のアーム板部56の先端側部同士の開き角を狭めた状態を手放しで維持することができる。このため、板ばね22bを取り付けたホルダ21bをホルダ保持部26の内側に挿入する作業を容易に行える。また、係合孔61は、ホルダ21bを軸方向に貫通しているため、実施の形態の第1例の場合と同じ軸方向の向きで前記挿入の作業を行う場合に、前記冶具を係合孔61の内側から、軸方向に関してホルダフランジ部39aの背面側(板ばね22bの設置部と反対側)に抜き出すことができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例~第3例と同様である。
【0083】
[実施の形態の第5例]
本発明の実施の形態の第5例について、
図21~
図26を用いて説明する。
【0084】
本例では、
図21及び
図22に示すように、ハウジング14のホルダ保持部26に対するホルダ21cの軸方向に関する組み付け方向が、実施の形態の第1例の場合と逆になっている。
【0085】
ホルダ21cは、ホルダ側第1規制面49aを軸方向の全幅にわたり有する。このために、ホルダ21cは、ホルダ筒部38bのうち軸方向に関してホルダフランジ部39bから外れた部分の第2方向両端部から径方向外方に突出した1対の副凸部62を有する。そして、互いに連続した面である、副凸部62の径方向外側面、及び、ホルダフランジ部39bの凸部48の径方向外側面を、ホルダ側第1規制面49aとしている。
【0086】
ホルダ21cは、ホルダ側第2規制面51aを軸方向の全幅にわたり有する。このために、ホルダ21cは、大径側突出部50の径方向外側部の第2方向に関する全幅から軸方向一方側に張り出した平板状の庇部63を有する。そして、互いに連続した面である、庇部63の第2方向側面、及び、大径側突出部50の第2方向側面を、ホルダ側第2規制面51aとしている。なお、本例では、ホルダ伸長部40aの径方向外側部は、庇部63の第2方向中央部の径方向内側部に一体に結合されている。
【0087】
ホルダ21cは、小径側突出部42aの先端面43aの第2方向中間部に、径方向内側に凹入する凹部64を有する。
【0088】
また、本例の場合も、板ばね22cは、1対の湾曲板部57の先端部に接続された係止板部65aを有する。係止板部65aは、径方向外側面が凹面となる部分円筒形状を有する。ただし、本例では、係止板部65aは、湾曲板部57を挟んでアーム板部56と反対側に配置されており、互いに接続された湾曲板部57及び係止板部65aを軸方向から見た形状はS字形である。また、本例の場合も、ホルダフランジ部39bは、板ばね22cを構成する1対のアーム板部56の先端側部同士の開き角を狭めた場合に1対の係止板部65aのそれぞれの径方向外側面である凹面の内側空間と整合する箇所に、軸方向の係合孔61aを有する。本例では、係合孔61aのそれぞれは、ホルダフランジ部39bを軸方向に貫通している。
【0089】
上述したような本例の構造の場合も、板ばね22cを取り付けたホルダ21cをハウジング14のホルダ保持部26の内側に挿入する作業を、板ばね22cの係止板部65a及びホルダ21cの係合孔61aを利用して容易に行える。
【0090】
また、本例では、ホルダ21cは、ホルダ側第1規制面49a及びホルダ側第2規制面51aを軸方向の全幅にわたり有する。このため、ホルダ側第1規制面49aをハウジング側第1規制面29に接触させるとともに、ホルダ側第2規制面51aをハウジング側第2規制面30に接触させた状態での、ホルダ21cの剛性を向上させることができる。さらには、当該状態で、先端側軸受20の内輪35と外輪36とが傾きにくくなるため、先端側軸受20のトルクが増大することを抑えられる。なお、本例では、ホルダ側第1規制面49aとホルダ側第2規制面51aとのそれぞれを、ホルダ21cの軸方向に関する全幅にわたり存在させているが、本発明を実施する場合には、ホルダ側第1規制面とホルダ側第2規制面とのうちのいずれか一方のみを、ホルダの軸方向に関する全幅にわたり存在させることもできる。
【0091】
また、本例では、ホルダ21cは、小径側突出部42aの径方向外側面の第2方向中間部に、径方向内側に凹入する凹部64を有する。このため、板ばね22cをホルダ21cのホルダ伸長部40aと小径側突出部42aとの間に軸方向に挿入する作業を、板ばね22cの基板部55aを内径側が凸となり、外径側が凹となるように弾性的に撓ませながら行う場合に、基板部55aの第2方向中間部を凹部64の内側に進入させることができる。このため、当該挿入作業を容易に行える。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例~第3例と同様である。
【0092】
なお、本発明の電動アシスト装置は、コラムアシスト型の電動パワーステアリング装置に限らず、各種構造の電動パワーステアリング装置に組み込むことができる。具体的には、例えば、補助動力を付与する操舵力伝達部材として、ステアリングギヤユニットの入力軸(ピニオン軸)を採用した、ピニオンアシスト型の電動パワーステアリング装置や、補助動力を付与する操舵力伝達部材として、ステアリングギヤユニットのラック軸を採用した、ラックアシスト型の電動パワーステアリング装置に、本発明の電動アシスト装置を組み込むことができる。
【0093】
また、本発明のウォーム減速機は、電動アシスト装置に限らず、各種機械装置に組み込むことができる。
また、本発明のウォーム減速機を構成するばね部材は、板ばねに限らず、例えば、弾性を有する金属などの線材により構成されたばね部材であってもよい。
【符号の説明】
【0094】
1 電動パワーステアリング装置
2 ステアリングホイール
3 ステアリングギヤユニット
4 入力軸
5 タイロッド
6 ステアリングシャフト
7 ステアリングコラム
8a、8b 自在継手
9 中間シャフト
10 電動アシスト装置
11 電動モータ
12 ウォーム減速機
13 出力軸
14 ハウジング
15 ホイール歯
16 ウォームホイール
17 ウォーム歯
18 ウォーム
19 基端側軸受
20 先端側軸受
21、21a、21b、21c ホルダ
22、22a、22b 板ばね
23 ホイール収容部
24 ウォーム収容部
25 蓋体
26 ホルダ保持部
27 主保持部
28 副保持部
29 ハウジング側第1規制面
30 ハウジング側第2規制面
31 内側ホイール素子
32 外側ホイール素子
33 小径部
34 カップリング
35 内輪
36 外輪
37 玉
38、38a、38b ホルダ筒部
39、39a、39b ホルダフランジ部
40、40a ホルダ伸長部
41 軸受保持部
42、42a 小径側突出部
43、43a 先端面
44 側面
45 内側ばね保持部
46 切り欠き
47 非接触部
48 凸部
49、49a ホルダ側第1規制面
50 大径側突出部
51、51a ホルダ側第2規制面
52 逃げ凹部
53 外側ばね保持部
54 膨出部
55、55a 基板部
56 アーム板部
57、57a 湾曲板部
58 板ばね係合部
59 外側係合部
60 内側係合部
61、61a 係合孔
62 副凸部
63 庇部
64 凹部
65、65a 係止板部