(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】三相負荷按分方法及び不平衡電圧計算方法
(51)【国際特許分類】
G01R 29/16 20060101AFI20230404BHJP
H02J 3/26 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
G01R29/16 D
H02J3/26
(21)【出願番号】P 2019112005
(22)【出願日】2019-06-17
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】八田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 哲也
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-198033(JP,A)
【文献】特開2018-164363(JP,A)
【文献】特開2015-099058(JP,A)
【文献】特開昭56-137163(JP,A)
【文献】特開2016-182008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 29/16
H02J 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相配電線を有する配電系統の電圧不平衡を求めるための三相負荷按分方法において、
前記三相配電線の線間負荷が接続されるノードにおける線電流の計測値を、線間負荷を流れる線間電流の値に変換する変換ステップを有し、
前記変換ステップは、前記線電流の電流ベクトルから構成される三角形において、単相負荷力率を固定し、無効電力が等しくなる中心点から、各頂点へのベクトルを線間電流とするステップである、三相負荷按分方法。
【請求項2】
前記変換ステップは、
計測機能付き開閉器の計測値をベクトル値に変換する第1のサブステップと、
前記ベクトル値に含まれる線電流の電流ベクトルで構成される第1の三角形の各頂点から、等力率で直線を延ばして第2の三角形を形成する第2のサブステップと、
前記第2の三角形の重心を等力率等無効電力点とする第3のサブステップと、
前記等力率等無効電力点から前記第1の三角形の各頂点に伸ばしたベクトルを、各線間負荷の電流ベクトルとする第4のサブステップと、
を有する、請求項1に記載の三相負荷按分方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の三相負荷按分方法を用いて、線間電流の電流ベクトルを求めるステップと、
一次側の第1ノードでの前記線間電流と、二次側の第2ノードでの前記線間電流とから、前記第1ノードと前記第2ノードとの間の区間の通過電力を求めて該通過電力の差分をとり、前記区間の区間消費電力を求めるステップと、
前記区間消費電力を用いて不平衡電圧を計算するステップと、を有する不平衡電圧計算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相負荷按分方法及び不平衡電圧計算方法に関する。とりわけ、本発明は配電系統の電圧不平衡を求めるための三相負荷按分方法及び不平衡電圧計算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅用太陽光発電の導入量増加に伴い、配電系統において電圧不平衡の拡大が懸念されている。とりわけ、配電系統中で変電所から遠い地点において、配電線が長くなることによりインピーダンスが大きくなると、少しの負荷の偏りでも大きな電圧不平衡が発生する。不平衡率が高くなると、例えば需要先の電力機器が停止したり、モーターが焼損したりする怖れがある。
【0003】
電圧不平衡の発生状況は、現状、近年設置が進んでいる計測機能付き開閉器の計測値、具体的には三相間の線間電圧、線電流、力率を取得することにより確認可能である。
【0004】
電圧不平衡が拡大し対策が必要になると、一般的に単相柱上変圧器の接続相振替工事が実施される。工事設計時に、計測値に基づく正確な振替量を計算できれば効果的な工事が可能となるが、計測機能付き開閉器は、単相柱上変圧器に流れる電流を直接計測していないため、計測値である系統電流(線電流)を、線間負荷を流れる線間電流(相電流)に変換する計算が必要となる。
【0005】
従来、線電流を線間電流に変換するために、例えば非特許文献1に記載の方法では、一相の電流を既知とする仮定を置いて計算していた。また、その他の方法として、△結線における電流の零相分はないことを仮定し、線電流の電流ベクトルから構成される三角形の重心から当該三角形の各頂点へのベクトルを線間電流とする方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】内川、上村:「配電系統における太陽光発電出力と負荷カーブの分離方法の開発と電圧不平衡対策への適用」、電力中央研究所報告書,2009-07
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、非特許文献1に記載の方法では、一相の電流の値を知るために、別途計測器を取り付ける必要があり、これに伴って長い取付時間及び高いコストが発生する。
また、線電流の電流ベクトルから構成される三角形の重心から当該三角形の各頂点へのベクトルを線間電流の電流ベクトルとする方法では、計算式が簡単であるという利点があるものの、負荷が極端に偏っている場合、各線間の電流の力率が相間毎に大きく異なってしまうので、実態から大きく乖離すると考えられる。
【0009】
本発明は、線間電流の電流ベクトルを計算する際、比較的低いコストしか発生しないと共に、実態からの乖離が比較的小さな三相負荷按分方法及び不平衡電圧計算方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明は、次に記載する構成を備えている。
(1)三相配電線を有する配電系統の電圧不平衡を求めるための三相負荷按分方法において、前記配電系統を構成するノードであって、前記三相配電線の線間負荷が接続されるノードにおける線電流の計測値を、線間負荷を流れる線間電流の値に変換する変換ステップを有し、前記変換ステップは、前記線電流の電流ベクトルから構成される三角形において、単相負荷力率を固定し、無効電力が等しくなる中心点から、各頂点へのベクトルを線間電流とするステップである、三相負荷按分方法。
【0011】
(2) 前記三相負荷按分方法において、前記変換ステップは、計測機能付き開閉器の計測値をベクトル値に変換する第1のサブステップと、前記ベクトル値に含まれる線電流の電流ベクトルで構成される第1の三角形の各頂点から、等力率で直線を延ばして第2の三角形を形成する第2のサブステップと、前記第2の三角形に内接する円の中心を等力率等無効電力点とする第3のサブステップと、前記等力率等無効電力点から前記第1の三角形の各頂点に伸ばしたベクトルを、各線間負荷の電流ベクトルとする第4のサブステップと、を有してもよい。
【0012】
(3) (1)又は(2)の三相負荷按分方法を用いて、線間電流の電流ベクトルを求めるステップと、一次側の第1ノードでの前記線間電流と、二次側の第2ノードでの前記線間電流とから、前記第1ノードと前記第2ノードとの間の区間の通過電力を求めて該通過電力の差分をとり、前記区間の区間消費電力を求めるステップと、前記区間消費電力を用いて不平衡電圧を計算するステップと、を有する不平衡電圧計算方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、線間電流の電流ベクトルを計算する際、比較的低いコストしか発生しないと共に、実態からの乖離が比較的小さな三相負荷按分方法及び不平衡電圧計算方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る三相負荷按分方法を適用する配電系統の例を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る三相負荷按分方法で用いる電流・電圧ベクトル図の例を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る三相負荷按分方法で用いる線電流の計測値から相電流の電流ベクトルへの変換方法の例を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る三相負荷按分方法で用いる線電流の計測値から相電流の電流ベクトルへの変換方法の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔1.発明の概要〕
配電系統の不平衡電圧を計算するためには、区間消費電力の値が必要となる。この区間消費電力の計算には、線間負荷(相電流)の電流ベクトルが必要となり、線間負荷の電流ベクトルを求めるためには、線電流の計測値を線間負荷の電流ベクトルに変換する手順が必要となる。この変換として、線電流の電流ベクトルから構成される三角形において等力率等無効電力点を求め、この等力率等無効電力点から当該三角形の各頂点に伸ばしたベクトルを線間負荷の電流ベクトルとするのが、本発明の骨子である。
【0016】
〔2.区間消費電力の計算〕
上記のように、不平衡電圧は、計測機能付き開閉器の測定値から、各区間の線間負荷を求め、この線間負荷を潮流計算の入力値とすることにより求める。
【0017】
図1は、配電系統の例を示す。
図1に示すように、配電系統1が6つのノードから構成され、各ノードにおいて三相配電線10に線間負荷20が接続するとする。また、各ノードに計測機能付き開閉器30が設置され、当該計測機能付き開閉器30で、三相配電線10を流れる線電流の値が計測される。各ノードでの区間消費電力に含まれる有効電力をΔP
i、無効電力をΔQ
iとすると、線間負荷はΔP
iΔQ
iとなる。逆に言えば、各区間の線間負荷ΔP
iΔQ
iを求めるためには、各ノードでの区間消費電力に含まれる有効電力ΔP
i、及び無効電力ΔQ
iを求めればよい。
【0018】
図1に示すように、ノードiでの通過電力を、P
i+jQ
iとすると、このP
i+jQ
iは、ノードiからノード6までの消費電力である。また、ノードi-1での通過電力は、P
i-1+jQ
i-1となるが、これはノードi-1からノード6までの消費電力である。
【0019】
したがって、区間iの消費電力を求めるためには、ノードi-1での通過電力から、ノードiでの通過電力を差し引けばよい。すなわち、区間iでの消費電力ΔPi+jΔQiは、
ΔPi+jΔQi=(Pi-1-Pi)+j(Qi-1-Qi) (1)
であり、Pi=(Piab Pibc Pica)、Qi=(Qiab Qibc Qica)とすると、以下の数式(2)及び(3)が成立する。
ΔPi=(P(i-1)ab-Piab P(i-1)bc-Pibc P(i-1)ca-Pica) (2)
ΔQi=(Q(i-1)ab-Qiab Q(i-1)bc-Qibc Q(i-1)ca-Qica) (3)
【0020】
〔3.区間通過電力の計算〕
上記のように、区間iの消費電力を求めるためには、ノードiの区間通過電力を求める必要がある。ここで、ノードiでの区間通過電力P
i+jQ
iは、以下の数式(4)~((7)に示すように、線間電圧と線間電流との積となる。
【数1】
【0021】
したがって、ノードiの区間通過電力を求めるためには、ノードiの線間電流を求める必要があり、ノードiの線間電流を求めるためには、ノードiの計測機能付き開閉器の計測値であるスカラ量を、
図2に示す電流・電圧ベクトル図を用いてベクトル量に変換した上で、線電流の電流ベクトル
【数2】
を線間電流の電流ベクトル
【数3】
に変換する必要がある。
この線電流の電流ベクトルから線間電流の電流ベクトルへの変換の際、次項で説明する按分方法を用いる。
【0022】
〔線電流から線間電流への按分方法〕
線電流の電流ベクトルを線間電流の電流ベクトルに変換する際、線電流の電流ベクトルで構成される第1の三角形の各頂点から、等力率で直線を延ばして第2の三角形を形成し、第2の三角形の重心(ここでは、「「等力率等無効電力点」と呼称する)から、第1の三角形の各頂点に伸ばしたベクトルを、線間電流の電流ベクトルとする。
具体的な方法については、以下の通りである。
【0023】
図3に示すように、式(8)に示す線電流の電流ベクトルのうち、I
iaを示すベクトルが、
I
ia=(x
1,y
1) (10)
であり、I
icを示すベクトルが、
I
ic=(-x
2,-y
2) (-I
ic=(x
2,y
2)) (11)
であり、I
ibを示すベクトルが、
I
ib=-I
c-I
a (12)
であるとする。また、力率がcosθであるとする。
【0024】
3つの電流ベクトルI
ia,I
ib,-I
icによって構成される三角形の頂点のうち、I
ibと-I
icの交点である頂点(x,y)=(x
2,y
2)を通り、傾きがtanθの直線を引く。この直線を表す数式は、以下の式(13)となる。
【数4】
【0025】
同様に、I
iaと-I
icの交点である頂点(x,y)=(0,0)を通り、傾きがtan(θ-2π/3)の直線を引く。この直線を表す数式は、以下の式(14)となる。
【数5】
【0026】
同様に、I
iaとI
ibの交点である頂点(x,y)=(x
1,y
1)を通り、傾きがtan(θ+2π/3)の直線を引く。この直線を表す数式は、以下の式(15)となる。
【数6】
【0027】
次に、式13で表される直線と式14で表される直線の交点mc、式14で表される直線と式15で表される直線の交点ma、式15で表される直線と式13で表される直線の交点mbを求め、これら3点を頂点とする正三角形の重心mabcを求める。
【0028】
図4に示されるように、この重心m
abcから、元の三角形の頂点である、(x,y)=(x
1,x
2)、(x,y)=(x
2,y
2)、(x,y)=(0,0)へのベクトルを、それぞれ、線間電流の電流ベクトルである、I
iab,I
ibc,I
icaとする。
【0029】
以下、数式展開の詳細について説明する。
式(14)及び式(15)に加法定理を適用すると、以下の式(14’)及び式(15’)となる。
【数7】
【0030】
m
cは、式(13)及び式(14)=式(14’)の交点であるから、m
cの座標は、以下の連立方程式(16)の解となる。
【数8】
【0031】
m
cの座標(x,y)は、連立方程式(16)から求まる以下の式(17)によって表される。
【数9】
【0032】
同様にm
aは、式(14)=式(14’)及び式(15)=式(15’)の交点であるから、m
aの座標は、以下の連立方程式(18)の解となる。
【数10】
【0033】
m
aの座標(x,y)は、連立方程式(18)から求まる以下の式(19)によって表される。
【数11】
【0034】
同様にm
bは、式(13)及び式(15)=式(15’)の交点であるから、m
bの座標は、以下の連立方程式(20)の解となる。
【数12】
【0035】
m
bの座標(x,y)は、連立方程式(20)から求まる以下の式(21)によって表される。
【数13】
【0036】
m
a,m
b,m
cを頂点とする三角形の重心m
abcは、
m
abc=1/3×(m
a+m
b+m
c) (22)
であるから、m
abcの座標は、以下の式(23)によって表される。
【数14】
【0037】
このmabcを用いると、力率cosθのときの線間電流の電流ベクトルであるIiab,Iibc,Iicaは、以下の式となる。
Iiab=mabc-Iia=mabc-(x1,y1) (24)
Iibc=mabc-Iic=mabc-(x2,y2) (25)
Iica=mabc (26)
【0038】
式(24)、式(25)、及び式(26)を用いて、力率cosθのときの線間電流の電流ベクトルであるIiab,Iibc,Iicaを求めたら、上記の説明のフローを逆順に辿る、すなわち、ノードiの線間電流を用いてノードiの区間通過電力を求め、ノードiの区間通過電力を用いて区間iの区間消費電力を求め、区間iの区間消費電力に含まれる有効電力ΔPi及び無効電力ΔQiからノードiの線間負荷を求め、ノードiの線間負荷を潮流計算の入力値とすることにより、不平衡電圧を求めることが可能となる。更には、この不平衡電圧に基づいて、振り替えるべき単相負荷の振替量を求めることが可能となる。
【0039】
〔4.本実施形態の効果〕
本実施形態による三相負荷按分方法は、三相配電線を有する配電系統の電圧不平衡を求めるための三相負荷按分方法であって、前記三相配電線の線間負荷が接続されるノードにおける線電流の計測値を、線間負荷を流れる線間電流の値に変換する変換ステップを有し、前記変換ステップは、前記線電流の電流ベクトルから構成される三角形において、単相負荷力率を固定し、無効電力が等しくなる中心点から、各頂点へのベクトルを線間電流とするステップである。
これにより、線間電流の電流ベクトルを計算する際、比較的低いコストしか発生しないと共に、実態からの乖離が比較的小さな三相負荷按分方法を提供することが可能となる。
【0040】
また、本実施形態による三相負荷按分方法において、上記の線電流の値を線間負荷の電流ベクトルに変換するステップは、計測機能付き開閉器の計測値をベクトル値に変換する第1のサブステップと、このベクトル値に含まれる線電流の電流ベクトルで構成される第1の三角形の各頂点から、等力率で直線を延ばして第2の三角形を形成する第2のサブステップと、第2の三角形の重心を等力率等無効電力点とする第3のサブステップと、等力率等無効電力点から第1の三角形の各頂点に伸ばしたベクトルを、各線間負荷の電流ベクトルとする第4のサブステップと、を有する。
これにより、計測点通過電力の無効電力と区間内消費電力の無効電力を、三相平衡にできる。
【0041】
また、本実施形態による不平衡電圧計算方法は、上記の三相負荷按分方法を用いて、線間電流の電流ベクトルを求めるステップと、一次側の第1ノードでの前記線間電流と、二次側の第2ノードでの前記線間電流とから、前記第1ノードと前記第2ノードとの間の区間の通過電力を求めて該通過電力の差分をとり、前記区間の区間消費電力を求めるステップと、この区間消費電力を用いて不平衡電圧を計算するステップと、を有する。
これにより、高価な電圧不平衡対策機器を設置する必要なく、相間に電圧の偏りがない良質の電気を供給可能になると共に、電圧管理業務が容易になる。
【0042】
〔5.変形例〕
上記の実施形態では、数式を用いて等力率等無効電力点を求めたが、これとは異なる方法、例えば、作図をすることにより幾何学的に等力率等無効点を求めてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 配電系統
10 三相配電線
20 線間負荷
30 計測機能付き開閉器
mabc 等力率等無効電力点
Iiab,Iibc,Iica 相電流の電流ベクトル