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特許7255481液体膜の厚みの測定方法、測定装置、及びフィルムの製造方法
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  • 特許-液体膜の厚みの測定方法、測定装置、及びフィルムの製造方法 図1
  • 特許-液体膜の厚みの測定方法、測定装置、及びフィルムの製造方法 図2
  • 特許-液体膜の厚みの測定方法、測定装置、及びフィルムの製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】液体膜の厚みの測定方法、測定装置、及びフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/06 20060101AFI20230404BHJP
   B29C 55/20 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
G01B11/06 G
B29C55/20
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019528770
(86)(22)【出願日】2019-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2019020843
(87)【国際公開番号】W WO2019230632
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2018104586
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】中島 健太
(72)【発明者】
【氏名】内藤 展寛
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-267417(JP,A)
【文献】特開2012-239975(JP,A)
【文献】実開平02-022952(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
B29C 55/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールに沿ってベアリングが走行する機構を備えるテンター装置を用いてフィルムを延伸する工程を有するフィルムの製造方法であって、
前記レールの表面上に存在する液体膜に光を照射して得られる反射光をセンサーで検知し、前記反射光を、カーブフィッティングを用いた分光干渉方式により分析することにより、前記液体膜の厚みを測定する液体膜の厚みの測定方法を用いて測定した液体膜の厚みをh(μm)、前記レールの表面粗さをh(μm)、前記ベアリングの表面粗さをh(μm)としたときに、前記レール上における前記ベアリングの走路に、下記式1を満たす液体膜を形成することを特徴とする、フィルムの製造方法。
【数1】
【請求項2】
前記ベアリングの走路への液体供給量の調節により、前記式1を満たす範囲に液体膜の厚みh(μm)を制御することを特徴とする、請求項に記載のフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記液体膜が金属成分を含んでいる、請求項1又は2に記載のフィルムの製造方法
【請求項4】
前記液体膜の厚みが11μm以下である、請求項1~3のいずれかに記載のフィルムの製造方法
【請求項5】
前記レールの表面粗さが1.0μm以上2.5μm以下である、請求項1~のいずれかに記載のフィルムの製造方法
【請求項6】
前記レールが、テンター装置におけるクリップ装置が走行するクリップレールである、請求項1~5のいずれかに記載のフィルムの製造方法
【請求項7】
前記センサーが携帯型センサーである、請求項1~6のいずれかに記載のフィルムの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材の表面上に形成された液体膜の厚みを定量的かつ高精度に測定することができる測定方法、測定装置、及びテンター装置でのオイル飛散や異物発生を軽減することができるフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の部材が互いに接触する機構を有する装置においては、その稼動時における各部材の磨耗を軽減するために、部材間に液体膜(とくに、油膜)を形成することが一般的である。このとき、液体膜の厚みが小さすぎると、部材の磨耗軽減効果が不十分となり、装置の損傷が加速されてその耐久性が低下する。逆に、液体膜の厚みが大きすぎると、装置の稼動に伴い部材の周辺に液体が飛散するため、装置が物の生産装置であれば生産物に液体が付着し、その品質を損なう恐れがある。すなわち、このような装置を用いる場合、互いに接触する部材間の液体膜の厚みを測定して適度な範囲にあるか否かを確認することが重要であり、液体膜の厚みを測定する方法も検討されてきた。
【0003】
部材間の液体膜の厚みを測定する方法としては、例えば、ガラス球と、ガラス球の下方に配置された軌道輪の軌道溝との間に油膜を形成し、これに光を照射したときの反射光の干渉を利用して油膜厚さを測定する方法(特許文献1)や、光の干渉を利用して、反射光の輝度値から、弾性流体潤滑状態(EHL状態)の物質同士の接触部分を潤滑する潤滑剤の膜圧分布を測定する方法(特許文献2)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-25885号公報
【文献】特開2017-44587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、転がり軸受けのように、球状の部材とそれに対応する軌道溝を有する部材間の油膜を測定することはできるが、別形状の部材間の油膜を測定する際には適用できない。さらに、特許文献2に記載の技術は、部材の表面が極めて平滑でなければ測定精度が低下するため、適用可能な用途や部材の形状等が限定的である。
【0006】
そこで本発明の課題は、上記した従来技術の問題点を解決し、様々な形状の部材上に形成された液体膜の厚みを定量的かつ高精度に測定することができる測定方法、測定装置、及びその測定方法を用いたフィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、下記の構成からなる。
(1)部材の表面上に存在する液体膜に光を照射して得られる反射光をセンサーで検知し、前記反射光を、カーブフィッティングを用いた分光干渉方式により分析することにより、前記液体膜の厚みを測定することを特徴とする、液体膜の厚みの測定方法。
(2)前記液体膜が金属成分を含んでいる、(1)に記載の液体膜の厚みの測定方法。
(3)前記液体膜の厚みが11μm以下である、(1)又は(2)に記載の液体膜の厚みの測定方法。
(4)前記部材の表面粗さが1.0μm以上2.5μm以下である、(1)~(3)のいずれかに記載の液体膜の厚みの測定方法。
(5)前記部材が、ベアリングが走行するレールである、(1)~(4)のいずれかに記載の液体膜の厚みの測定方法。
(6)前記レールが、テンター装置におけるクリップ装置が走行するクリップレールである、(5)に記載の液体膜の厚みの測定方法。
(7)前記センサーが携帯型センサーである、(1)~(6)のいずれかに記載の液体膜の厚みの測定方法。
(8)(1)~(7)のいずれかに記載の測定方法により液体膜の厚みを測定する装置であって、少なくとも、部材の表面上に存在する液体膜に向けて光を照射する光照射手段、前記部材の表面および前記液体膜の表面からの反射光を検知する反射光検知手段、検知された反射光から反射率スペクトラムを実測するとともに、該実測反射率スペクトラムと、予め設定された、理論液体膜厚みに対応する複数の理論反射率スペクトラムとをカーブフィッティングにより比較し、実測反射率スペクトラムに最も近似する理論反射率スペクトラムに対応する理論液体膜厚みを液体膜厚みの測定値と判定可能な分析手段とを有することを特徴とする、液体膜の厚みの測定装置。
(9)レールに沿ってベアリングが走行する機構を備えるテンター装置を用いてフィルムを延伸する工程を有するフィルムの製造方法であって、
(1)~(7)のいずれかに記載の測定方法を用いて測定した液体膜の厚みをh(μm)、前記レールの表面粗さをh(μm)、前記ベアリングの表面粗さをh(μm)としたときに、前記レール上における前記ベアリングの走路に、下記式1を満たす液体膜を形成することを特徴とする、フィルムの製造方法。
【数1】

(10)前記ベアリングの走路への液体供給量の調節により、前記式1を満たす範囲に液体膜の厚みh(μm)を制御することを特徴とする、(9)に記載のフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、様々な形状の部材上に形成された液体膜の厚みを定量的かつ高精度に測定することができる測定方法、測定装置を提供することができる。さらに、本発明の測定方法や測定装置を用いて得られた結果を基に、テンター装置のクリップレール上の液体膜の厚みを制御してフィルムを製造することにより、オイルや金属粉の飛散に伴う不良品の発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】フィルム製造装置の一例に係るテンター装置におけるフィルム、クリップ装置、及びクリップレールを示す概略平面図である。
図2図1におけるI-I’線に沿う拡大断面図である。
図3】本発明に係る液体膜の厚みの測定装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明についてより具体的に説明する。
本発明の液体膜の厚みの測定方法は、部材の表面上に存在する液体膜に光を照射して得られる反射光をセンサーで検知し、検知された反射光を、カーブフィッティングを用いた分光干渉方式により分析することにより、液体膜の厚みを測定することを特徴とする。
【0011】
本発明の測定方法は、測定の利便性や簡便性の観点から、部材表面の液体膜に光を照射して得られる反射光をセンサーで検知することが重要である。このような態様とすることにより、後述するカーブフィッティングを用いた分光干渉方式により分析を行うのに必要な反射光の情報が得られ、液体膜の厚みを測定することができる。
【0012】
液体膜とは、部材上に形成された膜であって、部材の使用環境下において液体であるものをいう。具体例としては、油や水が液体として存在する条件下における油膜や水膜が挙げられる。本発明の測定方法は、より測定が困難である透明度の低い液体膜の測定にも用いることができるため、油膜の厚みの測定において利点が大きく発揮される。
【0013】
センサーは、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、液体膜が形成された部材を取り外したり移動させたりすることなく測定を行う観点から、携帯型センサーであることが好ましい。このような態様とすることにより、例えば後述するテンター装置のクリップレールのように、重量や大きさの面で取り外しが困難な部材上の液体膜の測定も容易となる。携帯型センサーとは、可動式であり、かつ光を検知することが可能なセンサーをいう。携帯型センサーの具体例としては、装置に組み込まれており、装置自体を自由に動かすことが可能なものの他、配線等を介して装置に取り付けられており、配線等の長さの範囲内で自由に動かすことが可能なもの等が挙げられる。
【0014】
携帯型センサーは、それ自体を動かすことが可能であればその重量や大きさは特に制限されないが、利便性を考慮すると軽く小さいものであることが好ましい。また、携帯型センサーとしては、光ファイバーのように光源と接続することで照射する光の入射が可能であり、かつ反射光の検出も可能であるものを用いることも好ましい。このような携帯型センサーを備える測定装置としては、例えば、フィルメトリクス社製の非接触分光膜厚測定システム(F20シリーズ)等が挙げられる。
【0015】
前述した照射光の入射と反射光の検出の2つの機能を備える携帯型センサーを使用する場合、反射光の検出精度を高めて測定精度を向上させる観点から、照射光と反射光の成す角をより0°に近づけることが好ましい。すなわち、部材の表面が平面形状であれば部材の表面と垂直に光を照射することが好ましく、曲面形状であれば測定点における接平面と垂直に光を照射することが好ましい。
【0016】
測定に当たり照射する入射光の周波数範囲は、本発明の効果を損なわない限り液体膜の成分に応じて適宜選択することができる。例えば、液体膜の主成分が油である場合、分析精度の観点から0Hzから1,000Hzの範囲とすることが好ましい。
【0017】
また、部材は表面上に液体膜を形成できるものであれば特に制限されないが、一般的に、複数の部材が擦れ合う箇所にその磨耗を軽減すべく油膜等の液体膜を形成する観点から、2つ以上の部材が擦れ合う部材であることが好ましい。このような部材としては、例えば、ベアリングの軸受けやベアリングが走行するレール等が挙げられる。
【0018】
レールは、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、テンター装置のクリップレールであることが好ましい。通常、テンター装置はフィルムの延伸に用いられるものである。そして、テンター装置のクリップレール上の液体膜は、部材の磨耗による粉末の飛散と液体膜成分の飛散に起因するフィルムの品質低下を軽減するために、その厚みを一定水準にコントロールする必要がある。本発明の測定方法は定量的かつ高精度に液体膜の厚みを測定可能なものであるため、その測定結果を基にテンター装置のクリップレール上の液体膜の厚みを管理することにより、フィルムの品質を向上させることができる。
【0019】
次に、テンター装置によりフィルムを延伸する機構について、図面を参照しながら具体的に説明する。図1は、フィルム製造装置の一例に係るテンター装置におけるフィルム、クリップ、及びクリップレールを示す概略平面図である。図1のテンター装置は、両側にスプロケット1とチェーン(図示しない)により駆動する複数のクリップ装置2を備える。テンター装置において、フィルム3はその幅方向両端部を、クリップレール4を走行するクリップ装置2に装着されたクリップ(図2に図示)で把持され、クリップに把持されたフィルム3は、クリップ装置2の走行に伴いテンター装置内を長手方向(矢印方向)に走行される。このとき、両側のクリップレール4の間隔が広がることで、フィルム3が幅方向に延伸される。なお、図1には示さないが、テンター装置は、延伸ゾーンの前にフィルム3を予熱する予熱ゾーンを有していてもよく、延伸ゾーンの後にフィルム3の熱処理を行う熱固定ゾーン、熱固定後のフィルム3を冷却する冷却ゾーンを有していてもよい。なお、幅方向とはフィルム面内で長手方向に直交する方向をいう。
【0020】
次いで、テンター装置のクリップレール4とクリップ装置2の間の液体膜について、図2を参照しながら具体的に説明する。図2は、図1におけるI-I’線に沿って見た断面図であり、クリップレールとベアリング、及び液体膜を表す。図2において、5はフィルム3の幅方向端部を把持するクリップを示しており、クリップ5は、連結部材6に装着されており、クリップ5と連結部材6はクリップ装置2を構成している。連結部材6内に複数のベアリング7が配設されており、複数のベアリング7がクリップレール4上を走行されることにより、クリップ装置2がクリップレール4に沿ってスムーズに走行できるようになっている。さらに、クリップレール4の表面上に液体膜8を形成することにより、クリップ装置2のクリップ5がフィルム3を把持しながらクリップ装置2がクリップレール4上を走行する際に、クリップレール4やベアリング7等の磨耗を軽減することができる。なお、図2に示す例では、1つのクリップ装置2において、クリップレール4を上下左右から挟みこむように合計6個のベアリング7を備えているが、ベアリング7の位置や個数は、クリップ装置2がスムーズに走行できる限り、上記構成には限定されない。
【0021】
本発明の測定方法は、前述のとおり、複数の部材が擦れ合う箇所に形成した液体膜の厚みの測定に好ましく用いることができる。この場合、液体膜が金属成分を含むこととなる。液体膜中の金属成分は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、ベアリングの軸受けやベアリングが走行するレール等の部材に多く用いられる観点から、鉄、ステンレス鋼又はこれらの化合物であることが好ましい。
【0022】
前記液体膜の厚みは、液体膜を形成させる部材に応じて適宜選択することができるが、複数の部材が擦れ合う箇所に液体膜を形成させる場合は液体が過剰となることによりその飛散が懸念されることがある。そのため、液体の飛散を軽減する観点から、液体膜の厚みは、11μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。液体膜の厚みを11μm以下とすることにより、液体膜を形成させた部材上を別の部材が走行することに起因する液体膜成分の飛散を軽減できる。なお、液体膜の厚みの下限値は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないものの、測定装置の検出限界を考慮すると1μm程度となる。
【0023】
液体膜を11μm以下又は上記の好ましい範囲とする方法は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、例えば、液体膜を形成させる部分の面積から、所望の厚みの液体膜を形成させるのに必要な液体の量を計算し、部材上に液体を滴下して、金属棒にワイヤーを巻き付けたメタリングバーやハケ等で引き伸ばす方法が挙げられる。なお、運転時に部材が高温下に配置されるために液体膜成分の蒸発が懸念される場合等は、運転時に液体膜が所望の厚みとなるように予め液体の滴下量を増やしたり、定期的に液体膜の厚みを測定しつつ液体量が不足する前に液体を補充したりしてもよい。また、運転中に液体を補充する場合は、ハケ等で液体を引き伸ばすことが困難であれば、装置の運転により液体を引き伸ばしてもよい。
【0024】
金属棒にワイヤーを巻き付けたメタリングバーを用いて液体膜を形成させる場合は、メタリングバーに巻き付けるワイヤーの太さを調節することにより液体膜の厚みを容易に調節することができる。より具体的には、ワイヤーの太さを小さくすることにより、液体膜の厚みを小さくすることができる。
【0025】
本発明の測定方法においては、部材の表面粗さが1.0μm以上2.5μm以下であることが好ましい。ここで、部材の表面粗さとは、上下運動が可能な針の先端を部材表面に設置し、これを部材表面上で5mmスライドさせた際の上下運動の大きさを測定して得られる表面粗さをいう。
【0026】
一般的に、ベアリングの軸受けやベアリングが走行するレール等の部材は、使用開始時における表面粗さが大きく、長期間使用することによって表面が磨耗により平滑化して、数年後には、その表面粗さが1.0μm未満に達することがある。また、公知の方法(例えば、特許文献2に記載の方法等)では、部材の表面粗さが1.0μm以上であると表面の液体膜の厚みの測定が困難なことがある。すなわち、部材の表面粗さが1.0μm以上であることにより、公知の方法では測定が困難なタイミングにおいても表面の液体膜の厚みを測定することが容易となり、本発明を用いる利点が大きくなる。一方、部材の表面粗さが2.5μm以下であることにより、測定精度が向上する。上記観点から、部材の表面粗さは1.0μm以上2.0μm以下であることがより好ましい。
【0027】
本発明の測定方法は、薄い液体膜の厚みを高精度かつ定量的に測定する観点から、反射光を、カーブフィッティングを用いた分光干渉方式により分析することにより、液体膜の厚みを測定することが重要である。ここで、カーブフィッティングとは、実測の反射率スペクトラムと、予め設定した膜構造レシピ(測定環境、液体膜と屈折率(n)、液体膜を形成した基材、及び予想される膜厚)を基に計算によって求めた理論上の反射率スペクトラムとをフィッティングすることにより膜厚を算出(判定)する方法をいう。より具体的には、予想される膜厚のみが異なる複数の膜構造レシピを基に計算によって求めた理論上の反射率スペクトラムを予め複数作成した後に、実測の反射率スペクトラムに最も近似する理論上の反射率スペクトラムを特定し、この理論上の反射率スペクトラムにおける予想される膜厚を測定対象の膜の厚みとする方法である。このとき、膜構造レシピにおける予想される膜厚の範囲を広くすることで測定範囲を広くすることができ、膜構造レシピにおける予想される膜厚の間隔を狭めることで測定精度を高くすることができる。また、分光干渉方式とは光を照射し、反射した光の干渉度合いから膜厚を測定する測定方式をいう。カーブフィッティングを用いた分光干渉方式による分析が可能な装置としては、例えば、フィルメトリクス社製の非接触分光膜厚測定システム(F20シリーズ)等が挙げられる。
【0028】
ここでいう反射率スペクトラムとは、横軸を波長(nm)、縦軸を反射率(%)とするスペクトラムである。一般的に、反射率スペクトラムは膜の厚み、測定対象物の材質や屈折率、基材の材質や表面粗さ等によって変動するものであり、例えば、膜厚が大きいほど反射率スペクトラムにおける波数が多くなることや、膜の屈折率が高いほど反射率の値が高くなる傾向がある。
【0029】
本発明の測定方法における測定波長範囲は、測定対象である液体膜の構成成分や膜厚等に応じて適宜設定することができるが、190nm以上1,700nm以下が好ましい。より具体的には、膜の厚みが小さい場合は上記範囲のうち低い波長帯域を含むことが好ましく、膜の厚みが大きい場合は上記範囲のうち高い波長帯域を含むことにより、測定精度を高くすることができる。これらの波長の光を照射する光源としては、例えば、波長380nm未満の低波長帯域であれば重水素光源を、波長380nm以上の帯域であればハロゲン光源を好適に用いることができ、これらを組み合わせて用いることで上記測定波長範囲全体をカバーすることができる。
【0030】
液体膜の厚みが前述した好ましい範囲(1μm以上11μm以下)と想定される場合であれば、本発明の測定方法における測定波長範囲は、380nm以上1,050nm以下が好ましい。測定波長範囲の下限を380nmとすることにより、重水素光源を用いる必要がないため測定コストを抑えることができ、測定波長範囲の上限を1,050nmとすることにより、上記範囲の液体膜の厚みの測定精度を十分に保つことができる。
【0031】
液体膜の厚みの測定方法としては、カーブフィッティングを用いた分光干渉方式の他に、レーザーを照射して光路差から油膜厚みを求める方法(レーザー法)や、高速フーリエ変換を用いた分光干渉方式による方法(FFT法)、液体膜に異なる複数の波長の光を照射して反射光の輝度値から複数の膜厚分布を推定する画像解析法等があるが、いずれも液体膜の厚みが小さくなると測定が困難である。
【0032】
次に、上記のような本発明の測定方法により液体膜の厚みを測定する本発明に係る液体膜の厚みの測定装置の一例について、図3を参照しながら説明する。図3は、部材11の表面上に存在する液体膜12の厚みを測定する液体膜12の厚みの測定装置の一例を示しており、符号13は、少なくとも光源(図示略)と分光器(図示略)を内蔵した分析装置本体、符号14は、少なくとも光を照射、検知する光ファイバーの先端部が装着されるとともに、光の照射エリアを調整可能なレンズ(図示略)が内蔵されたセンサーを、それぞれ示している。分析装置本体13に内蔵された光源に接続された光ファイバー15を通して送られてきた光は、センサー14に内蔵されたレンズで照射エリアが調整された後、照射光16として部材11の表面上の液体膜12に向けて照射される。したがって、分析装置本体13に内蔵された光源、該光源に接続された光ファイバー15、センサー14に内蔵されたレンズは、照射光16を含めて、本発明における光照射手段17を構成している。
【0033】
液体膜12の表面からの反射光18および部材11の表面からの反射光19は、センサー14によって受光、集光された後、光ファイバー20を通して分析装置本体13に内蔵された分光器に送られる。したがって、これらの部分は、反射光18、19を含めて、本発明における反射光検知手段21を構成している。
【0034】
分析装置本体13は、本発明における分析ソフトを内蔵したコンピュータ22へと接続されており、分析装置本体13とコンピュータ22を介して、反射光検知手段21によって検知された反射光から反射率スペクトラムを実測するとともに、該実測反射率スペクトラムと、予め設定された、理論液体膜厚みに対応する複数の理論反射率スペクトラムとをカーブフィッティングにより比較し、実測反射率スペクトラムに最も近似する理論反射率スペクトラムに対応する理論液体膜厚みを液体膜厚みの測定値と判定することが可能になっている。したがって、これら分析装置本体13とコンピュータ22は、内蔵された分析ソフトを含めて、本発明における分析手段23を構成している。このような構成を有する液体膜の厚みの測定装置を用いての測定方法については後述する。
【0035】
このように、本発明の測定装置は、部材表面の液体膜に光を照射して得られる反射光をセンサーで検知し、反射光を、カーブフィッティングを用いた分光干渉方式により分析することにより、前記液体膜の厚みを測定するものである。
【0036】
次に、本発明に係るフィルムの製造方法について説明する。本発明のフィルムの製造方法は、レールに沿ってベアリングが走行する機構を備えるテンター装置を用いてフィルムを延伸する工程を有するフィルムの製造方法であって、本発明の測定方法を用いて測定した液体膜の厚みをh(μm)、レールの表面粗さをh(μm)、ベアリングの表面粗さをh(μm)としたときに、レール上におけるベアリングの走路に、下記式1を満たす液体膜を形成することを特徴とする。
【数2】
【0037】
本発明のフィルムの製造方法は、レールに沿ってベアリングが走行する機構を備えるテンター装置を用いてフィルムを延伸する工程を有するフィルムの製造方法である。ここで、「テンター装置を用いてフィルムを延伸する工程」とは、テンター装置を用いて少なくとも一方向にフィルムを延伸する工程をいう。
【0038】
テンター装置を用いてフィルムを延伸する工程を有するフィルムの製造方法の具体例としては、未延伸フィルムをロール式縦延伸機等で長手方向に延伸した後、テンター装置で幅方向に延伸する逐次二軸延伸法や、未延伸フィルムをテンター装置等で長手方向と幅方向に同時に延伸する同時二軸延伸法などが知られている。テンター装置における長手方向の延伸は、通常、テンター内を走行するクリップを加速させることにより行い、幅方向の延伸はフィルム幅方向の両端部を把持するクリップの幅を徐々に広げることによって行う。
【0039】
本発明のフィルムの製造方法は、フィルムの品質を向上させる観点から、本発明の測定方法を用いて測定した液体膜の厚みをh(μm)、上記レールの表面粗さをh(μm)、上記ベアリングの表面粗さをh(μm)としたときに、該レール上における該ベアリングの走路に、前記式1を満たす液体膜を形成することが重要である。以下、本発明の測定方法を用いて測定した液体膜の厚みh、該レールの表面粗さh、及び該ベアリングの表面粗さhについて、それぞれ単にh、h、及びhということがある。このとき、h及びhの測定は、いずれもレール上の液体供給ポイントからベアリングの走行方向と逆方向に30cmシフトした位置(以下、測定ポイントということがある。)で行うものとする。但し、レール上の液体供給ポイントが複数存在する場合には、測定ポイントに該当する全ポイントにて測定を行い、得られた全ての値の平均値をh及びhとするものとする。また、hについては、任意に選択した一つのクリップ装置のベアリング及びその両隣にあるクリップ装置のベアリングを対象に測定を行い、得られた値の平均値をhとするものとする。なお、h及びhの測定には、いずれも前述の方法を用いることができる。
【0040】
ここで、レール上におけるベアリングの走路とは、レール上において、テンター装置を稼動させたときにベアリングが走行する部分をいう。すなわち、液体膜が存在しない状態でテンター装置を稼動させたときに、ベアリングと接触するレール部分をいう。
【0041】
hの値が前記式1における下限値以上であることにより、ベアリングとレールの磨耗及びそれに伴う金属粉の飛散を軽減することができる。一方、hの値が前記式1における上限値以下であることにより、液体膜の成分の飛散を軽減することができる。すなわち、hの値を前記式1の範囲とすることにより、金属粉や液体膜成分の飛散が軽減され、これらに伴うフィルムの品質低下や不良品発生率を軽減することができる。
【0042】
また、テンター装置では、後述のとおりフィルムの予熱、延伸、熱処理、及び冷却等が行われ、これらの各工程における雰囲気温度やフィルムに吹き付けられるエアの強さは異なる。さらに、延伸倍率等を調節するために、ベアリングを備えたクリップ装置の走行速度や加速度も調節することがある。一般的に、フィルムに吹き付けられるエアの強さが強くなるほど、若しくはベアリングを備えたクリップ装置の走行速度や加速度が大きくなるほど、レール上の液体膜を形成する液体成分が飛散しやすくなり、それに伴ってベアリングとレールの磨耗に伴う金属粉の飛散も生じやすくなる。
【0043】
上記のように、金属粉や液体膜成分の飛散が生じやすい過酷な条件下においても、これらの飛散を軽減させる観点から、本発明のフィルムの製造方法は、下記式2を満たす液体膜を形成することが好ましい。
【数3】
【0044】
本発明のフィルムの製造方法においては、フィルムの品質を向上させる観点から、ベアリングの走路への液体供給量の調節により、前記式1を満たす範囲に液体膜の厚みh(μm)を制御することが好ましい。このような態様とすることにより、金属粉や液体膜成分の飛散が生じにくい条件下で長期間に亘ってフィルムの製造を行うことが容易となる。液体膜の厚みh(μm)を制御する手段は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、例えば、定期的に本発明の測定方法により液体膜の厚みh(μm)を測定し、その結果に併せて適宜液体供給量を調節する方法が挙げられる。
【0045】
以下、本発明のフィルムの製造方法について、ポリエステル樹脂を用いた逐次二軸延伸法を例に挙げて具体的に説明する。但し、これは本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれに限定されない。
【0046】
先ず、押出機を用いてポリエステル樹脂を溶融し、スリット状の吐出口を有する口金からシート状に押出し、冷却ロール状で冷却して未延伸ポリエステルフィルムを得る。続いて、この未延伸ポリエステルフィルムを、温度制御された数本のロールや赤外線ヒーター等によりポリエステル樹脂のガラス転移温度以上の温度に加熱し、前後するロールの周速差などを用いて長手方向に延伸する。このときの延伸倍率は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、好ましくは2~8倍である。なお、長手方向への延伸は1段階で行っても2段階以上で段階的に行ってもよい。
【0047】
こうして得られた一軸延伸ポリエステルフィルムは、その後、テンター装置で再びポリエステル樹脂のガラス転移温度以上に加熱(予熱)され、ベアリングを備えたクリップ装置が走行するレールの広がりに伴って幅方向に延伸される。幅方向の延伸倍率は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、ポリエステル樹脂がポリエチレンテレフタレート(以下、PETということがある。)の場合、好ましくは2~5倍である。
【0048】
長手方向と幅方向に延伸された二軸延伸ポリエステルフィルムは、引き続きテンター装置内で熱処理される。熱処理の温度は、ポリエステル樹脂がPETの場合、180℃~250℃の比較的高温で行うことができる。熱処理を行うことにより、その後の加工工程や高温下で最終製品として使用した際の寸法安定性が向上する。また、熱処理後に、長手方向及び/又は幅方向に、ポリエステルフィルムを1~10%弛緩させることにより、さらに寸法安定性を向上させることができる。
【0049】
テンター装置では、本発明の測定方法を用いて測定した液体膜の厚みをh(μm)、レールの表面粗さをh(μm)、ベアリングの表面粗さをh(μm)としたときに、レール上におけるベアリングの走路に、前記式1を満たす液体膜、好ましくは前記式2を満たす液体膜を形成する。本発明の測定方法を用いて測定した液体膜の厚みhが前記式1を満たすことにより、レールやベアリングの磨耗に伴う金属粉の飛散と、レール上をベアリングが走行する際の液体膜成分の飛散とが軽減されるため、これらに起因するフィルムの品質低下が軽減される。
【0050】
熱処理後の二軸延伸ポリエステルフィルムは、テンター装置内及びその後の搬送工程で冷却され、一旦広幅の巻き取り機で中間ロールとして巻き取られた後、スリッターにより、必要な幅と長さに裁断されて最終製品となる。
【実施例
【0051】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。但し、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0052】
[液体膜形成のための液体]
液体A:鉱油系潤滑油、“ダフニー”(登録商標)ハイテンプオイルC(出光興産社製)
液体B:アルキルジフェニルエーテル油、“モレスコハイルーブ”(登録商標)LZ-560(MORESCO社製)
液体C:エステル油、“プリミウムフルード”(登録商標)スペシャル(NOKクリューバー社製)。
【0053】
[部材]
部材A:2年間使用したステンレス鋼製クリップレール(表面粗さ:1.1μm)
部材B:未使用のステンレス鋼製クリップレール(表面粗さ:2.0μm以上2.4μm以下)
なお、各部材とも液体膜を形成させた部位の形状は平坦面である。
【0054】
[メタリングバー]
メタリングバーA:液体を引き伸ばした後に形成される液体膜の厚みの理論値が2.0μmとなるように設計されたもの。
メタリングバーB:液体を引き伸ばした後に形成される液体膜の厚みの理論値が4.0μmとなるように設計されたもの。
メタリングバーC:液体を引き伸ばした後に形成される液体膜の厚みの理論値が11.0μmとなるように設計されたもの。
各メタリングバーは、いずれも金属棒にワイヤーを巻き付けて作製した。液体を引き伸ばした後に形成される液体膜の厚みの調整は、ワイヤーの太さを調節することにより行った。なお、以下、液体を引き伸ばした後に形成される液体膜の厚みの理論値を、単に理論値ということがある。
【0055】
[測定及び評価方法]
実施例中における測定や評価は次に示すような条件、方法で行った。
【0056】
(1)液体膜の形成
各部材表面を清掃して金属粉等を除去した後、部材表面に液体を滴下した。その後、金属棒にワイヤーを巻き付けたメタリングバーをレール上に押し当てて液体を引き伸ばし、部材表面に液体膜を形成させた。
【0057】
(2)液体膜の厚み
(2-A)カーブフィッティングを用いた分光干渉方式(実施例で用いた方法)
非接触分光膜厚測定システムF20(フィルメトリクス社製)を用いて、以下の手順により測定した。先ず、下記のとおり予想される膜厚のみが異なる8種の膜構造レシピを設定し、装置に組み込まれている計算機能により、それぞれ理論上の反射率スペクトラムを求めた(以下、このように求めた反射率スペクトラムを理論反射率スペクトラムということがある。)。次いで、液体膜に光を照射して得られる反射光を携帯型センサーで検知し、反射率スペクトラムを取得した(以下、このように実測した反射率スペクトラムを実測反射率スペクトラムということがある。)。その後、下記の分析ソフトを用いて、それぞれの理論反射率スペクトラムと実測反射率スペクトラムをコンピュータの画面に表示させ、実測反射率スペクトラムと理論反射率スペクトラムをカーブフィッティングにより比較して、実測反射率スペクトラムに最も近似する理論反射率スペクトラムを特定し、この特定した理論反射率スペクトラムにおける予想される膜厚(理論反射率スペクトラムに対応する理論液体膜厚み)を測定対象の液体膜の厚みとした。このとき、測定条件は以下のとおりとした。なお、各実施例及び比較例における測定は3度実施し、その平均値を液体膜の厚みの実測値とした(但し、3度の測定で一度も測定値が得られなかった場合は、測定不可とみなした。)。
【0058】
<膜構造レシピ>
測定環境(Layer, Medium):Air
液体膜と屈折率(n)(Layer, 1):Generic、n=1.5
液体膜を形成した基材(Layer, Substrate):Stainless Steel
予想される膜厚:2μm±50%、3μm±50%、4μm±50%、5μm±50%、6μm±50%、8μm±50%、10μm±50%、11μm±50%の各範囲内の任意の膜厚を設定可能であるが、実施例では予想される膜厚を2μm、3μm、4μm、5μm、6μm、8μm、10μm、11μmの8種の膜厚を膜構造レシピとして設定し、各膜厚に対応する理論反射率スペクトラムを求めて、予めそれらの理論反射率スペクトラムとそれらに対応する理論膜厚(予想される膜厚)を設定した。より高精度の膜厚を測定したい場合には、上記膜構造レシピから、実測反射率スペクトラムが最も近似する理論反射率スペクトラムを特定し、この特定した理論反射率スペクトラムにおける予想される膜厚を特定し、その特定した予想される膜厚近辺の膜厚のレシピをより細かく設定して同様のカーブフィッティングを介した分析を行えばよい(例えば、特定された予想される膜厚が4μmと判定された場合には、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2μm等の膜厚とそれに対応する理論反射率スペクトラムの膜構造レシピを設定し、その中から実測反射率スペクトラムが最も近似する理論反射率スペクトラムを特定し、この特定した理論反射率スペクトラムにおける予想される膜厚を測定対象の液体膜の厚みとすればよい。)。
【0059】
<測定条件>
測定波長範囲:380nm~1,050nm
センサーヘッドと部材表面の距離:200mm
部材表面と照射光の成す角の大きさ:90°
分析ソフト、モード:FILMeasure、膜厚測定モード。
【0060】
(2-B)FFTを用いた分光干渉方式(比較例で用いた方法)
液体膜に光を照射して得られる反射光を携帯型センサーで検知し、前記反射光を、FFTを用いた分光干渉方式により分析することにより測定した。測定装置及び測定条件は以下のとおりとした。なお、各比較例における測定は3度実施し、その平均値を液体膜の厚みの実測値とすることとした(但し、3度の測定で一度も測定値が得られなかった場合は、測定不可とみなした。)。
【0061】
<測定装置>
測定装置:分光干渉変位タイプ 多層膜厚測定器 SI-T80(キーエンス社製)
<測定条件>
センサーヘッドと部材表面の距離:80mm
部材表面と照射光の成す角の大きさ:90°。
【0062】
(2-C)画像処理法(比較例で用いた方法)
液体膜に3種類の波長の光を照射し反射光の輝度値から複数の膜厚分布を推定することにより測定した。測定装置及び測定条件は以下のとおりとした。なお、各比較例における測定は3度実施し、その平均値を液体膜の厚みの実測値とした(但し、3度の測定で一度も測定値が得られなかった場合は、測定不可とみなした。)。
【0063】
<測定装置>
測定装置:表面形状測定装置 SP700-500(東レエンジニアリング社製)
カメラ:3波長マルチバンドパスフィルターカメラ(Basler社製 acA640-90uc(7.4μm/pix 640×480pix)。
【0064】
<測定条件>
対物レンズ:10倍
視野サイズ:0.47×0.36。
【0065】
(3)測定精度
上記「(2)液体膜の厚み」の各方法で測定した実測値を、「(1)液体膜の形成」に記載の理論値で除して得られた値(以下、「実測値/理論値」ということがある。)より以下の基準で評価し、Aのみを合格とした。なお、「実測値/理論値」が1.0に近いほど測定精度が高いことを意味する。
A:「実測値/理論値」が0.70以上1.30以下。
B:「実測値/理論値」がAの条件に該当しない、若しくは測定不可。
【0066】
(4)表面粗さ
小型表面粗さ測定機(品番:SJ-210 株式会社ミツトヨ製)を用いて、各部材のベアリング走行箇所の表面粗さを合計3回計測し、その平均値を各部材の表面粗さ(μm)とした。
【0067】
(5)金属粉の飛散の有無
走行フィルムの表面に接触するようにテンター装置の出口に不織布を取り付け、製造開始から8時間後に該不織布を目視にて観察した。以下の基準にて金属粉の飛散の有無を評価し、Aのみを合格とした。
A:不織布表面に金属粉の付着が観察されなかった。
B:不織布表面に金属粉の付着が観察された。
【0068】
(6)液体膜成分の飛散の有無
得られた最終製品ロールより100mのフィルムを巻き出して切り取り、これをサンプルとした。得られたサンプルを蛍光灯下で目視により観察し、以下の基準にて液体膜の飛散の有無を評価した。なお、評価は生産開始後2時間経過した後に得られた最終製品について行い、Aのみを合格とした。
A:液体膜成分の付着が観察されなかった。
B:液体膜成分の付着が観察された。
【0069】
(液体膜の厚み測定)
以下に液体膜の厚み測定の実施例及び比較例を示す。
【0070】
(実施例1)
各部材表面を清掃して予め金属粉等を除去した後、部材Aの表面に液体Aを滴下した。その後、メタリングバーAを押し当てて液体Aを引き伸ばし、部材表面に液体膜を形成させた。その後、「(2)液体膜の厚み」の「(2-A)カーブフィッティングを用いた分光干渉方式」に記載の方法により、その厚みを測定し、「(3)測定精度」に記載の方法により測定精度を評価した。評価結果を表1に示す。
【0071】
(実施例2~10)
部材、液体、メタリングバー、及び液体膜厚み理論値(μm)を表1のとおりとした以外は、実施例1と同様に測定を行った。測定結果を表1に示す。
【0072】
(比較例1)
実施例2と同様に液体膜を形成し、「(2)液体膜の厚み」の「(2-C)画像処理法」に記載の方法により、その厚みの測定を行ったが、測定値は得られなかった(表1)。
【0073】
(比較例2)
実施例10と同様に液体膜を形成し、「(2)液体膜の厚み」の「(2-C)画像処理法」に記載の方法により、その厚みの測定を行ったが、測定値は得られなかった(表1)。
【0074】
【表1】
【0075】
(フィルムの製造方法)
以下にフィルムの製造方法の実施例及び比較例を示す。なお、フィルムの製造方法に関しては、テンター装置のクリップレール上の液体膜の厚みの測定に本発明の測定方法を用いなかったもの(比較例3)に加え、本発明の測定方法により測定した当該液体膜の厚みが下記式1の範囲外であったもの(比較例4、5)も比較例とした。
【数4】
【0076】
(実施例11、比較例3)
PETペレットを十分に真空乾燥した後、押出機に供給して270~300℃で溶融し、T字型口金よりシート状に押出した。押出したシート状物を、静電印加キャスト法を用いて表面温度20~25℃のキャスティングドラムに巻き付けて冷却固化し、未延伸フィルムとした。この未延伸フィルムをロール式延伸機により80~100℃に加熱して長手方向に2倍延伸し、一軸延伸フィルムとした。その後、この一軸延伸フィルムの幅方向の両端部をクリップレールに沿って走行するクリップで把持してテンター装置の予熱ゾーン(雰囲気温度は120℃~130℃)に導いた。予熱ゾーンでフィルムを予熱した後、140℃の延伸ゾーンで幅方向に3倍延伸し、続いて230℃の熱処理ゾーンで熱処理を施した後、40~50℃の冷却を行い、厚み188μmの二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムを一旦中間ロールとして巻き取り、中間ロールよりフィルムを巻き出してスリッターにより裁断し、再度フィルムを巻き取ることにより、幅100cmのフィルムロールを得た。
【0077】
フィルムを生産している間に、「(2)液体膜の厚み」の「(2-A)カーブフィッティングを用いた分光干渉方式」に記載の方法(実施例11)、「(2-B)FFTを用いた分光干渉方式」に記載の方法(比較例3)により、テンター装置のクリップレール上の液体膜の厚みを測定した。なお、このときのクリップレールは部材Aを、液体膜を形成させる液体は液体Aを使用し、液体の供給量は液体膜の厚みが5μmとなるように調整した。また、クリップレールに液体を供給する液体供給ポイントは、両側のクリップレールとも1周あたり1箇所であり、液体膜の厚み測定は、該液体供給ポイントからベアリングの走行方向と逆方向に30cmシフトした位置にて行った。実施例11においては、測定結果が5μmであったが(目標の液体膜の厚みになっていることを確認できたが)、比較例3においては3回の測定のいずれも測定値が得られなかった(表2)。
【0078】
【表2】
【0079】
(実施例12、13、比較例4、5)
液体の供給量を調節することにより、液体膜の厚みを表3のとおりとした以外は「実施例11、比較例3」の項に記載の方法でフィルムを製造し、金属粉の飛散の有無、及び液体膜成分の飛散の有無を評価した。評価結果を表3に示す。なお、液体の供給量の調節は、フィルムのテンター装置のベアリングが走行するレールの液体膜の厚みを「(2-A)カーブフィッティングを用いた分光干渉方式」に記載の方法で計測しながら、給油用ギアポンプの回転数を段階的に調整することで行った。
【0080】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明により、様々な形状の部材上に形成された液体膜の厚みを定量的かつ高精度に測定することができる測定方法、測定装置を提供することができる。さらに、本発明の測定方法や測定装置を用いて得られた結果を基に、テンター装置のクリップレール上の液体膜の厚みを制御してフィルムを製造することにより、オイルや金属粉の飛散に伴う不良品の発生を抑えることができる。
【符号の説明】
【0082】
1:スプロケット
2:クリップ装置
3:フィルム
4:クリップレール
5:クリップ
6:連結部材
7:ベアリング
8:液体膜
11:部材
12:液体膜
13:分析装置本体
14:センサー
15、20:光ファイバー
16:照射光
17:光照射手段
18、19:反射光
21:反射光検知手段
22:コンピュータ
23:分析手段
図1
図2
図3