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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/06 20060101AFI20230404BHJP
   H01M 10/08 20060101ALI20230404BHJP
   H01M 10/12 20060101ALI20230404BHJP
   H01M 50/463 20210101ALI20230404BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20230404BHJP
   H01M 50/466 20210101ALI20230404BHJP
【FI】
H01M10/06 L
H01M10/08
H01M10/12 K
H01M50/463 B
H01M50/46
H01M50/466
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019550936
(86)(22)【出願日】2018-10-05
(86)【国際出願番号】 JP2018037305
(87)【国際公開番号】W WO2019087686
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2017211364
(32)【優先日】2017-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】京 真観
(72)【発明者】
【氏名】和田 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 賢
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-079734(JP,A)
【文献】特開2012-079432(JP,A)
【文献】国際公開第2014/128803(WO,A1)
【文献】特開平07-105929(JP,A)
【文献】国際公開第2016/204049(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/114316(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/06-10/18
H01M 4/14
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、負極板と、正極板および負極板の間に介在するセパレータと、電解液とを備え、
前記電解液中に、Naを0.03~0.3mol/L、および/または、Alを0.02~0.2mol/L含み、
前記セパレータは、前記負極板の側に第1リブを備え、
前記第1リブが前記セパレータの主面から突出する高さをh(mm)とし、前記電解液の利用率をU(%)として、Q=U/(h1/2)で表されるリブパラメータQが、300以下である、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記リブパラメータQが、150以上である、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記電解液の利用率が、70%~90%である、請求項1または2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記セパレータは、前記正極板の側に第2リブを備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記セパレータが袋状である、請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
前記セパレータは、前記負極板を収容している、請求項5に記載の鉛蓄電池。
【請求項7】
前記セパレータは、前記正極板を収容している、請求項5に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、負極板および正極板の間に介在するセパレータと、電解液とを含む。電解液には、一般に、硫酸水溶液が利用される。
【0003】
特許文献1には、電解液の利用率が75%以上の液式鉛蓄電池であって、電解液中におけるアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンの濃度が0.07~0.3mol/Lであり、負極電極材料の細孔容積が0.08~0.16mL/gである鉛蓄電池が記載されている。
【0004】
特許文献2には、正極板に充填する正極活物質量と負極板に充填する負極活物質量の充填量の合計をA、電解液中に含まれる硫酸量をB(完全充電され、劣化の進んでいない初期状態)としたとき、AとBの比率Y=B/Aと正極活物質密度X(g/cm)の間に一定の関係式を満たすようにして、負極における金属鉛の針状結晶の析出を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/128803号パンフレット
【文献】特開2000-130516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鉛蓄電池は、部分充電状態(PSOC)と呼ばれる充電不足状態で使用されることがある。例えば、充電制御やアイドリングストップ・スタート(ISS)の際には、鉛蓄電池がPSOCで使用されることになる。そのため、鉛蓄電池には、PSOC条件下でのサイクル試験において寿命性能(以下、PSOC寿命性能と言う)に優れることが求められる。
【0007】
PSOC状態で使用され続けると、電解液の成層化が進行し、正極活物質の軟化および正負極活物質への硫酸鉛の蓄積(サルフェーション)が促進され、短寿命になる。加えて、成層化した状態で長期間使用されることで、電解液中に溶解した鉛イオンが負極側で還元され、析出した鉛結晶がセパレータを貫通し、浸透短絡が発生する虞がある。
【0008】
アイドリングストップ(IS)向け電池では、高容量化、正極板の耐軟化性および負極板の耐サルフェーション性を確保するために、正負極活物質の量を増やすことが行われる。その場合、相対的に電解液の量が少なくなる。活物質に対して電解液量が少ないと、過放電時において電解液の比重が極端に低下し、浸透短絡が発生し易くなる。
【0009】
浸透短絡の抑制方法として、NaやAlなどの金属イオンを電解液に添加することが知られているが、電解液が相対的に少ない電池では、十分な効果が得られず、また、金属イオン量を増やすと充電受入性が低下し、サルフェーションが促進されるため、現状以上に金属イオン含有量を増加させることも困難である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面は、正極板と、負極板と、正極板および負極板の間に介在するセパレータと、電解液とを備え、
前記電解液中に、Naを0.03~0.3mol/L、および/または、Alを0.02~0.2mol/L含み、
前記セパレータは、前記負極板の側に第1リブを備え、
前記第1リブが前記セパレータの主面から突出する高さをh(mm)とし、前記電解液の利用率をU(%)として、Q=U/(h1/2)で表されるリブパラメータQが、300以下である、鉛蓄電池に関する。
【発明の効果】
【0011】
鉛蓄電池において、浸透短絡が抑制され、優れたPSOC寿命性能が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一側面に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す、一部を切り欠いた分解斜視図である。
図2】リブパラメータと浸透短絡発生確率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、正極板と、負極板と、正極板および負極板の間に介在するセパレータと、電解液とを備え、電解液中に、Naを0.03~0.3mol/L、および/または、Alを0.02~0.2mol/L含む。セパレータは、負極板の側に第1リブを備える。第1リブがセパレータの主面から突出する高さをh(mm)とし、電解液の利用率をU(%)として、Q=U/(h1/2)で表されるリブパラメータQが、300以下である。
【0014】
ここで、電解液の利用率(以下において、「液利用率」と称することがある)Uとは、セル室内の液量および濃度から測定される硫酸根量から液理論容量(硫酸根量(g)/3.657)を求め、求められた液理論容量で20時間率容量を除して得られる値を意味する。
【0015】
液利用率の算出方法を下記に記す。満充電された状態の電池において、電解液入りの単セルから極板群を取り出し、水洗および乾燥して硫酸分を除去する。硫酸分が除去できたかどうかはpH試験紙等で確認することができる。水洗に時間がかかるようであれば、極群を正極板、負極板、セパレータ、鉛接続部品に切断し、それぞれを水洗・乾燥してもよい。電解液入り単セル質量から、単セル分の水洗および乾燥後の極板群、電槽および蓋の質量を差し引いたものを単セルの電解液量とする。
次に、電解液の比重を測定し、電解液量及び測定した比重から硫酸根量を計算する。算出した硫酸根量(g)を3.657で除算して液理論容量(Ah)を求め、得られた液理論容量で20時間率容量を除して求められる値を電解液の利用率とする。20時間率容量は、SBA S 0101:2014に準拠して求める。
【0016】
また、第1リブがセパレータの主面から突出する高さ(第1リブの高さ)hは、セパレータの主面の負極板と対向する領域に設けられた複数の第1リブ高さを平均することにより求められる。
【0017】
リブパラメータQは、液利用率Uを、第1リブの高さhの平方根で除算した値として表される。液利用率Uが高いほど、また、第1リブの高さhが低いほど、浸透短絡が発生し易い環境となる。このとき、リブパラメータQは増加する。したがって、リブパラメータQを小さくするほど、浸透短絡は抑制される。
【0018】
しかしながら、本願発明者らは、液利用率Uを単に第1リブ高さhで除算するのではなく、液利用率U(%)を第1リブ高さh(mm)の平方根で除算して得られるリブパラメータQを一定値以下(300以下)に制限することで、液利用率によらず、劇的に浸透短絡が抑制されることを見出した。
【0019】
鉛蓄電池では、放電時には、正極および負極の双方で硫酸鉛が生成するとともに正極では水が生成する。一方、充電時には、硫酸鉛と水から、金属鉛、二酸化鉛、および硫酸が生成する。
【0020】
充電不足状態で使用され続けると、PSOC寿命の末期では、硫酸鉛の蓄積量が必然的に多くなるため、電解液の比重が小さくなる。この電解液の比重の低下は特に過放電時に顕著である。また、充電中に充分に電解液が攪拌されない場合、電解液の上部と下部で硫酸の濃度差が発生(成層化)する。このような環境下で使用を続けると、電解液の比重の低い上部で浸透短絡が発生し易くなる。
【0021】
セパレータは、負極板側に設けられた第1リブを備える。第1リブは、セパレータが負極板と密着するのを抑制し、負極板とセパレータの間に電解液を保持するための空間を確保する。第1リブにより、電解液の拡散性が高められ、浸透短絡を抑制することができる。これにより、優れたPSOC寿命性能の鉛蓄電池を実現できる。
【0022】
第1リブの高さを高くするほど、浸透短絡の抑制効果が高まる。第1リブの高さは、液利用率に応じて、リブパラメータQが一定値以下(300以下)になるように決定することで、浸透短絡を効果的に抑制することができる。
【0023】
また、第1リブは、負極近傍の電解液の拡散性を充電時および放電時の双方において維持し、充放電性能の低下を抑制する。第1リブにより、負極板近傍における電解液の拡散性が向上するため、負極近傍の電解液の放電時の比重低下が抑制され、放電性能の低下が抑制される。また、硫酸鉛の蓄積が抑制される。また、充電時においては、負極板から放出された硫酸は負極板とセパレータとの間の空間に拡散することができ、負極近傍の電解液の比重の増加が抑制されるため、充電効率が改善する。
【0024】
電解液は、Naを0.03~0.3mol/L、および/または、Alを0.02~0.2mol/L含む。
【0025】
電解液へのNa、K、MgまたはAlの添加は、浸透短絡を抑制し、過放電放置からの充電回復性を高める効果がある。一方で、Na、KまたはMgの添加は、充電受入性の低下を招き、負極における硫酸鉛の蓄積(サルフェーション)を促進させ易くなる。
電解液がNaを含む場合、Na含有量は0.03~0.3mol/Lであることが好ましい。Na含有量を0.03mol/L以上とすることで、浸透短絡抑制効果が得られる。一方で、硫酸鉛の蓄積を抑制する観点から、Na含有量を0.3mol/L以下とすることが好ましい。
同様に、電解液がAlを含む場合、Al含有量は0.02~0.2mol/Lであることが好ましい。Al含有量を0.02mol/L以上とすることで、浸透短絡抑制効果および硫酸鉛蓄積抑制効果が得られる。一方で、放電性能の低下を抑制する観点から、Al含有量を0.2mol/L以下とすることが好ましい。
【0026】
また、電解液には、Naおよび/またはAlに追加して、Li等のアルカリ金属イオン、または、アルカリ土類金属イオンが含まれていてもよい。なお、電解液中のNa、Al、あるいは他の金属イオンの含有量は、既化成の満充電状態の鉛蓄電池を分解し、電解液を抜き取り、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析を行うことにより求められる。より具体的には、ICP発光分析装置((株)島津製作所製、ICPS-8000)により原子吸光測定を行い、検量線により金属イオンの濃度を求める。
【0027】
リブパラメータの値が小さいほど、浸透短絡の抑制効果は大きくなるが、必要な第1リブの高さも高くなる。しかしながら、第1リブの高さを高くしながら同じ性能を維持するにはセパレータの総厚(セパレータのベース厚にリブ高さを加えた厚み)を厚くするか、セパレータの総厚を変化させない場合には、正極板の側に設けられるリブ(第2リブ)の高さを低くせざるを得ない。セパレータの総厚を厚くすることは、容量の低下を招くため、多数の正極板および負極板を積層した極板群が用いられるIS向け電池において、採用することは難しい。一方、正極側のリブを低くすることは、セパレータの酸化劣化を招き、短寿命となり易い。
【0028】
しかしながら、上記リブパラメータが150以上となる範囲であれば、IS向け電池において、容量の低下や、セパレータの酸化劣化を招くことなく、浸透短絡の抑制効果を最大限に享受できる。
【0029】
本発明の一態様によれば、電解液に、Naを0.03~0.3mol/L、および/または、Alを0.02~0.2mol/L含ませ、且つ、負極板側に第1リブを設け、リブパラメータが一定の範囲となるように、液利用率に応じて第1リブの高さを制御することによって、効果的に浸透短絡を抑制することができる。液利用率に応じて、浸透短絡抑制に必要な最小の第1リブの高さが得られることから、IS向け鉛蓄電池の設計が容易となる。液利用率Uは、70%~90%の範囲であることが好ましい。
【0030】
セパレータは、さらに、正極板の側に設けられた第2リブを備えていてもよい。第2リブは、セパレータが正極板と密着するのを抑制する。第2リブにより、正極板近傍における電解液の拡散性が向上するとともに、セパレータの酸化劣化を抑制することができるため、PSOC寿命性能をさらに向上させることができる。
【0031】
セパレータは、袋状であってもよい。袋状のセパレータを用いる場合、電解液が滞留し易くなるが、第1リブや第2リブを設けることで、セパレータ内の電解液の拡散性が高まり、PSOC寿命性能をさらに向上できる。正極では放電時に水が生成するため、正極板近傍の電解液比重の変化が負極板近傍よりも大きい。しかしながら、袋状のセパレータが正極板を収容していることで、正極板近傍の電解液の拡散性を高め、電解液の成層化を抑制し易くなる。一方、袋状のセパレータが、負極板を収容している場合には、正極格子の伸びによる短絡を抑制し易くなる。また、袋内に第1リブが形成されることで、負極板近傍の電解液の拡散性を高め、成層化を抑制し易くなる。
【0032】
鉛蓄電池は、正極板と負極板との間に介在する繊維マットを備えていてもよい。繊維マットを設ける場合、電極板が繊維マットで圧迫されて、電極板の周囲の電解液が少なくなるとともに拡散性も低下する。しかしながら、少なくともセパレータの負極板側に第1リブを設けることで、繊維マットを設ける場合でも、負極板近傍に電解液を保持することができるとともに、電解液の拡散性を向上できる。
【0033】
本明細書中、鉛蓄電池の満充電状態とは、液式の電池の場合、25℃の水槽中で、0.2CAの電流で2.5V/セルに達するまで定電流充電を行った後、さらに0.2CAで2時間、定電流充電を行った状態である。また、制御弁式の電池の場合、満充電状態とは、25℃の気槽中で、0.2CAで、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流が1mCA以下になった時点で充電を終了した状態である。
なお、本明細書中、1CAとは電池の公称容量(Ah)と同じ数値の電流値(A)である。例えば、公称容量が30Ahの電池であれば、1CAは30Aであり、1mCAは30mAである。
【0034】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0035】
(セパレータ)
セパレータは、微多孔膜で構成されたベース部と、ベース部の一方の主面から突出するリブを備える。より好ましくは、ベース部の他方の主面から突出するリブをさらに備えていてもよい。ベース部の一方の主面から突出するリブは、負極板側に位置するように配置される。この負極板側に位置するリブを第1リブと呼ぶ。ベース部の他方の主面から突出するリブは、正極板側(つまり、正極板に対向するよう)に配置される。この正極板側に位置するリブを第2リブと呼ぶ。第1リブにより負極板近傍における電解液の拡散性を高めることができるため、PSOC寿命性能をさらに向上することができるとともに、浸透短絡を抑制できる。
【0036】
セパレータは、ポリマー材料で形成される。少なくともベース部は、多孔性のシートであり、多孔性のフィルムと呼ぶこともできる。セパレータは、ポリマー材料で形成されたマトリックス中に分散した充填剤(例えば、シリカなどの粒子状充填剤、および/または繊維状充填剤)を含んでもよい。セパレータは、耐酸性を有するポリマー材料で構成することが好ましい。このようなポリマー材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好ましい。
【0037】
セパレータのベース部の平均細孔径は、例えば、0.01μm以上0.5μm以下であり、0.03μm以上0.3μm以下であることが好ましい。平均細孔径がこのような範囲である場合、低い電気抵抗と優れた耐短絡性能とを両立することができるため、有利である。
【0038】
セパレータの平均細孔径は、水銀圧入法により求めることができる。より具体的には、セパレータを、測定容器に投入し、真空排気した後、圧力を加えて水銀を満たし、この時の圧力およびセパレータに押し込まれた水銀容積との関係から細孔分布を求め、この細孔分布から平均細孔径を求める。平均細孔径の測定には、島津製作所(株)製の自動ポロシメータ(オートポアIV9505)を使用する。
【0039】
ベース部の平均厚みは、例えば、100μm以上300μm以下であり、150μm以上250μm以下であることが好ましい。ベース部の平均厚みがこのような範囲である場合、高容量を確保しながら、第1リブおよび必要に応じて第2リブの高さを確保し易くなる。
ベース部の平均厚みは、セパレータの断面写真において、任意に選択した5箇所についてベース部の厚みを計測し、平均化することにより求められる。
【0040】
第1リブは、セパレータの負極板と対向する側の面に形成されている。
第1リブの平均の高さは、上述のリブパラメータQが一定値以下となるように、液利用率Uに応じて決定される。リブパラメータQが上記条件を満たす限りにおいて、第1リブの平均高さは、例えば、0.05mm以上であり、0.07mm以上であることが好ましい。第1リブの平均高さがこのような範囲である場合、電解液をより拡散し易くなる。高容量を確保する観点から、第1リブの平均高さは、リブパラメータQが上記条件を満たす限りにおいて、例えば、0.40mm以下であり、0.20mm以下であることが好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0041】
なお、第1リブの高さとは、第1リブの所定の位置におけるベース部の一方の主面から第1リブの頂部までの距離を言う。ベース部の主面が平面でない場合には、セパレータを、第1リブ側を上にして平置きしたときに、ベース部の一方の主面の最も高い位置から、第1リブの所定の位置における第1リブの頂部までの距離を第1リブの高さとする。第1リブの平均高さは、ベース部の一方の主面において、第1リブの任意に選択される10箇所において計測した第1リブの高さを平均化することにより求められる。
【0042】
ベース部の一方の主面において第1リブのパターンは特に制限されず、第1リブは、ランダムに形成されていてもよく、ストライプ状、曲線状、格子状などに形成されていてもよい。電解液をより拡散し易くする観点からは、ベース部の一方の主面において、複数の第1リブがストライプ状に並ぶように形成することが好ましい。ストライプ状の第1リブの向きは特に制限されず、例えば、複数の第1リブは、負極板の高さ方向や幅方向に沿って形成してもよい。電解液の比重は、電極板の上下で差が生じ易いため、電解液の拡散性をより高める観点からは、複数の第1リブを、負極板の高さ方向に沿ってストライプ状に形成することが好ましい。
【0043】
なお、負極板および正極板の一端部には、通常、極板群から電流を取り出すための耳部が形成されている。この耳部を上にした状態における負極板や正極板の鉛直方向を、負極板や正極板の高さ方向と言うものとする。負極板や正極板の幅方向とは、高さ方向と直交し、負極板や正極板の主面を横切る方向である。
【0044】
ストライプ状や格子状の第1リブのピッチは、例えば、0.3mm以上10mm以下であり、0.5mm以上5mm以下であることが好ましい。セパレータが、このような範囲のピッチで第1リブが形成されている領域を含む場合、負極板近傍の電解液の拡散性を向上する効果が得られ易い。セパレータにおいて、負極板と対向する領域にこのようなピッチで第1リブが形成されていることが好ましい。例えば、負極板と対向する領域の面積の70%以上にこのようなピッチの第1リブが形成されていることが好ましい。セパレータの端部など、負極板と対向しない領域には、第1リブを形成しても形成しなくてもよく、複数の第1リブを密に(例えば、0.5mm以上5mm以下の平均ピッチで)形成してもよい。
【0045】
なお、第1リブのピッチとは、隣接する第1リブの頂部間距離(より具体的には、第1リブを横切る方向における隣接する第1リブの中心間距離)である。
第1リブの平均ピッチは、任意に選択される10箇所において計測した第1リブのピッチを平均化することにより求められる。なお、負極板と対向しない領域に第1リブが密に形成されている場合には、この領域を除いて平均ピッチを算出すればよい。負極板と対向しない領域の第1リブの平均ピッチは、この領域について上記と同様に算出できる。
【0046】
第2リブは、セパレータの正極板と対向する側の面に形成されている。第2リブの平均高さは、例えば、0.3mm以上であり、0.4mm以上であることが好ましい。第2リブの平均高さがこのような範囲である場合、セパレータの酸化劣化を抑制し易くなる。高容量を確保する観点から、第2リブの平均高さは、例えば、1.0mm以下であり、0.7mm以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
なお、第2リブの平均高さは、第1リブの場合に準じて求められる。第2リブの高さは、第1リブの場合に準じて、第2リブの所定の位置におけるベース部の他方の主面から第2リブの頂部までの距離を言う。
【0047】
第2リブのパターンや向きは、特に制限されず、例えば、第1リブについて記載したものから選択すればよい。ストライプ状や格子状の第2リブのピッチは、例えば、1mm以上15mm以下であり、5mm以上10mm以下であることが好ましい。セパレータが、このような範囲のピッチで第2リブが形成されている領域を含む場合、セパレータの酸化劣化を抑制する効果がさらに高まる。セパレータにおいて、正極板と対向する領域にこのようなピッチで第2リブが形成されていることが好ましい。例えば、正極板と対向する領域の面積の70%以上にこのようなピッチの第2リブが形成されていることが好ましい。セパレータの端部など、正極板と対向しない領域には、第2リブを形成しても形成しなくてもよく、複数の第2リブを密に(例えば、0.5mm以上5mm以下の平均ピッチで)形成してもよい。
なお、第2リブのピッチとは、隣接する第2リブの頂部間距離(より具体的には、第2リブを横切る方向における隣接する第2リブの中心間距離)である。第2リブの平均ピッチは、第1リブの平均ピッチに準じて算出できる。
【0048】
シート状のセパレータを、負極板と正極板との間に挟んでもよく、袋状のセパレータで負極板または正極板を収容することで、負極板と正極板との間にセパレータを介在させてもよい。袋状のセパレータを用いる場合には電解液が拡散しにくくなるが、第1リブや第2リブを設けることで拡散性が向上する。袋状のセパレータで負極板を収容する場合には、第1リブにより、負極板近傍の電解液の拡散性を高め易くなるとともに、正極集電体が伸びてもセパレータ破れによる短絡を抑制できる。袋状のセパレータで正極板を収容する場合には、電解液の成層化を抑制し易くなる。
【0049】
セパレータは、例えば、造孔剤(ポリマー粉末などの固形造孔剤、および/またはオイルなどの液状造孔剤など)とポリマー材料などとを含む樹脂組成物を、シート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して、ポリマー材料のマトリックス中に細孔を形成することにより得られる。リブは、例えば、押出成形する際に形成してもよく、シート状に成形した後または造孔剤を除去した後に、リブに対応する溝を有するローラで押圧することにより形成してもよい。充填剤を用いる場合には、樹脂組成物に添加することが好ましい。
【0050】
(電解液)
電解液は、水溶液に硫酸を含む。電解液は、必要に応じてゲル化させてもよい。電解液は、必要に応じて、鉛蓄電池に利用される添加剤を含むことができる。
本実施形態において、電解液は、Naを、0.03~0.3mol/Lの濃度で、および/または、Alを、0.02~0.2mol/Lの濃度で含む。
化成後で満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.10g/cm3以上1.35g/cm3以下である。
【0051】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板には、ペースト式とクラッド式がある。
ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。ペースト式正極板では、正極電極材料は、正極板から正極集電体を除いたものである。正極集電体は、負極集電体と同様に形成すればよく、鉛または鉛合金の鋳造や、鉛または鉛合金シートの加工により形成することができる。
【0052】
クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを具備する。クラッド式正極板では、正極電極材料は、正極板から、チューブ、芯金、および連座を除いたものである。
【0053】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、合金層は複数でもよい。芯金には、Pb-Ca系合金やPb-Sb系合金を用いることが好ましい。
【0054】
正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0055】
未化成のペースト式正極板は、負極板の場合に準じて、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。その後、未化成の正極板を化成する。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、硫酸を練合することで調製される。
未化成のクラッド式正極板は、芯金が挿入されたチューブに、添加剤と鉛粉またはスラリー状の鉛粉とを混合し、混合物を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。
【0056】
(負極板)
鉛蓄電池の負極板は、負極電極材料を含む。通常、鉛蓄電池の負極板は、負極集電体と、負極電極材料とで構成されている。負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いたものである。負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛または鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。負極集電体として負極格子を用いると、負極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0057】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。
【0058】
負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を含んでおり、防縮剤、カーボンブラックのような炭素質材料、硫酸バリウムなどを含んでもよく、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。有機防縮剤として、リグニンスルホン酸ナトリウム、あるいはビスフェノール系化合物などを用いることができる。
【0059】
充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0060】
負極電極材料は、炭素粒子を添加剤として含むことができる。炭素粒子は、通常、導電性を有している。炭素粒子としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどが挙げられる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ランプブラックなどが例示される。黒鉛としては、黒鉛型の結晶構造を含む炭素材料であればよく、人造黒鉛、天然黒鉛のいずれであってもよい。負極電極材料は、これらの炭素粒子を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0061】
炭素粒子は、セパレータの平均細孔径よりも小さい粒子径を有する炭素粒子(第1炭素粒子)を含むことが好ましい。
【0062】
第1炭素粒子は、カーボンブラックを含むことが好ましい。カーボンブラックなどの第1炭素粒子は、電解液中に流出し易い。しかしながら、電解液中に流出しても第1リブの作用によりセパレータの細孔がカーボンブラックなどの炭素粒子で閉塞されるのを抑制できる。また、カーボンブラックなどの第1炭素粒子を用いると、負極電極材料中に、より均一な導電ネットワークを形成し易くなる。
【0063】
負極電極材料に含まれる炭素粒子の含有量は、例えば、0.2質量%以上3.0質量%以下であり、0.3質量%以上2.5質量%以下であることが好ましい。炭素粒子の含有量がこのような範囲である場合、高容量を確保しながら導電ネットワークが広がり易い。
【0064】
負極板は、負極集電体に、負極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、鉛粉と有機防縮剤および必要に応じて各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで作製する。熟成工程では、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0065】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0066】
(繊維マット)
鉛蓄電池は、さらに、正極板と負極板との間に介在する繊維マットを備えていてもよい。繊維マットを配置する場合には、電極板が繊維マットで圧迫されて、電極板の周囲に電解液を保持し難くなる。本発明の上記側面では、セパレータに第1リブを設けるため、負極板近傍に電解液を確保し易くなり、電解液の高い拡散性を確保することができる。
【0067】
繊維マットは、セパレータとは異なり、シート状の繊維集合体で構成される。このような繊維集合体としては、電解液に不溶な繊維が絡み合ったシートが使用される。このようなシートには、例えば、不織布、織布、編み物などがある。
【0068】
繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などのポリエステル繊維など)、パルプ繊維などを用いることができる。ポリマー繊維の中では、ポリオレフィン繊維が好ましい。
【0069】
繊維マットは、繊維以外の成分、例えば、耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマーなどを含んでもよい。無機粉体としては、シリカ粉末、ガラス粉末、珪藻土などを用いることができる。ただし、繊維マットは、繊維を主体とする。例えば、繊維マットの60質量%以上が繊維で形成されている。
【0070】
繊維マットは、負極板と正極板との間に配置すればよい。負極板と正極板との間には、セパレータも配置されるため、繊維マットは、負極板と正極板との間において、例えば、負極板とセパレータとの間、および/またはセパレータと正極板との間に配置してもよい。電解液の成層化を抑制する観点からは、繊維マットは負極板と接するように配置することが好ましい。また、正極電極材料の軟化および脱落を抑制する観点からは、繊維マットは正極板と接するように配置することが好ましい。軟化および脱落の抑制効果が高まる観点からは、繊維マットは、正極板に圧迫した状態で配置することが好ましいが、この場合、負極板近傍の電解液が不足し易くなる。本実施形態では、セパレータの負極板と対向する側の面に第1リブを設けるため、繊維マットを正極板側に配置する場合でも、負極板近傍に電解液を確保することができる。
【0071】
図1に、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0072】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0073】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
〈鉛蓄電池A1〉
(1)負極板の作製
鉛粉、水、硫酸、カーボン、硫酸バリウム(BaSO)、硫酸錫(SnSO)、有機防縮剤、および補強材(スサ)を混合して、負極ペーストを作製した。負極ペーストを、負極集電体としてのPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子(格子段数:14.5段)の網目部に充填し、熟成、乾燥し、未化成の負極板を得た。有機防縮剤には、リグニンスルホン酸ナトリウムを用いた。
負極板の大きさは、幅100mm×高さ112mmであった。
【0075】
(2)正極板の作製
鉛粉、水、硫酸、三酸化アンチモン(Sb)、硫酸錫(SnSO)、および補強材を混練させて、正極ペーストを作製した。正極ペーストを、正極集電体としてのPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子(格子段数:14段)の網目部に充填し、熟成、乾燥し、未化成の正極板を得た。
正極板の大きさは、幅100mm×高さ112mmであった。
【0076】
(3)鉛蓄電池の作製
未化成の各負極板を、ポリエチレン製の微多孔膜で形成された袋状セパレータ(幅115mm×高さ115mm)に収容し、セル当たり未化成の負極板7枚と未化成の正極板6枚とで極板群を形成した。セパレータは、袋の内側に、ストライプ上の第1リブを複数有し、袋の外側に、ストライプ状の第2リブを複数有していた。複数の第1リブは、それぞれ、負極板の幅方向に沿って形成され、負極板に対向する領域において第1リブの平均高さは0.1mmであった。複数の第2リブは、それぞれ、正極板の高さ方向に沿って形成され、第2リブの平均高さは、0.7mmであり、正極板に対向する領域において第2リブのピッチは、10mmであった。また、セパレータのベース部の平均厚みは、0.2mmであった。セパレータの総厚は1.0mmであった。セパレータの平均細孔径は、0.1μmであった。
【0077】
極板群をポリプロピレン製の電槽のセル室に挿入し、電解液を注液して、電槽内で化成を施して、公称電圧12Vおよび公称容量が40Ah(20時間率)の液式の鉛蓄電池A1を組み立てた。電解液としては、20℃における比重が1.28である、硫酸を含む水溶液に、Naを0.1mol/L添加したものを用いた。電解液量は520g/セルであり、このうち硫酸が占める量は196g/セルであった。電解液中の硫酸量に基づき、鉛蓄電池の理論容量を求めると53.5Ah/セルとなる。20時間率容量は43.0Ah/セルであった。したがって、液利用率Uは80%と算出される。なお、液利用率は小数第3位を四捨五入(%単位での液利用率の小数第1位を四捨五入)して求めた。
【0078】
第1リブの高さh(mm)と液利用率U(%)から、リブパラメータQは、約250と評価された。
【0079】
化成後の正極板の厚さは、1.60mmであった。シート厚さ(エキスパンド格子の非展開部の厚さであり、例えば、耳部や枠骨部の厚さである)は、1.10mmであった。
また、化成後の正極板の質量は、耳部を除いて93.0g/枚であり、うち正極格子が占める質量は耳部を除いて37.0g/枚であり、正極活物質が占める質量は、56.0g(336g/セル)であった。正極活物質量に基づき、鉛蓄電池の理論容量を求めると75.3Ah/セルとなる。正極電極材料の密度は4.00g/mLであり、正極電極材料の比表面積および細孔容積は、それぞれ、6.80m/gおよび0.14mL/gであった。
【0080】
正極電極材料中において、酸化アンチモン、硫酸錫、および補強材は、化成後の正極活物質100質量%に対して、それぞれ0.035質量%、0.13質量%、0.09質量%含まれていた。なお、酸化アンチモンおよび硫酸錫の含有量は、それぞれ正極電極材料中のSnおよびSbの含有量から換算した値である。
【0081】
化成後の負極板の厚さは、1.40mmであった。シート厚さ(エキスパンド格子の非展開部の厚さであり、例えば、耳部や枠骨部の厚さである)は、0.90mmであった。
また、化成後の負極板の質量は、耳部を除いて75.0g/枚であり、うち負極格子が占める質量は耳部を除いて32.0g/枚であり、負極活物質が占める質量は、42.0g(294g/セル)であった。負極活物質量に基づき、鉛蓄電池の理論容量を求めると76.1Ah/セルとなる。負極電極材料の密度は4.10g/mLであり、負極電極材料の比表面積および細孔容積は、それぞれ、0.54m/gおよび0.12mL/gであった。
【0082】
負極電極材料中において、カーボン、硫酸バリウム、硫酸錫、および補強材は、化成後の負極活物質100質量%に対して、それぞれ1.5質量%、0.9質量%、0.020質量%、および0.02質量%含まれていた。なお、硫酸錫の含有量は、負極電極材料中のSn含有量から換算した値である。
【0083】
また、極板群の最も端部側に位置する極板(負極板)と対向するセル室の内側壁には、極板群の位置をセル室内で固定するためのリブが設けられており、リブ間距離は29.0mmであった。
【0084】
〈鉛蓄電池B1~B24〉
上記の鉛蓄電池の製造において、電解液の量を調整し、液利用率が70%のもの、および、液利用率が90%のものを作製した。
また、セパレータの総厚およびベース厚を一定とし、第1リブおよび第2リブの高さを調整することで、リブパラメータQを125~400の範囲で変化させ、リブパラメータQが異なる鉛蓄電池を作製した。
このようにして、液利用率UとリブパラメータQの組み合わせが異なる複数の鉛蓄電池B1~B24を作成し、耐浸透短絡性を評価した。表1に、評価に用いた鉛蓄電池の液利用率とリブパラメータQの値を示す。
【0085】
[評価1:浸透短絡]
下記の条件で、鉛蓄電池の充放電を繰り返した。具体的には、25℃において、下記の(a)~(d)を1サイクルとして、5サイクル実施した。5サイクル後の電解液比重を測定し、浸透短絡が発生した電池の割合を調べた。
(a)定電流放電:0.05CA(終止電圧1.0V/セル)
(b)定抵抗放電:10Ωの抵抗に接続し、28日間放置する。
(c)定電圧充電:制限電流50Aおよび2.4V/セルの電圧で10分間充電する。
(d)定電流放電:0.05CAで27時間放電する。
【0086】
5サイクル終了後の鉛蓄電池の電解液の上部における比重を測定し、比重が1.1g/cm以下の場合、浸透短絡が発生したと判定した。
【0087】
鉛蓄電池B1~B24をそれぞれ20個作製し、上記の方法で浸透短絡が発生したか否かをしらべ、鉛蓄電池B1~B24について、浸透短絡が発生した確率を求めた。表1に、評価結果を示す。表1より、液利用率に依らず、リブパラメータQが300を境に浸透短絡発生確率が急激に増加していることが分かる。
【0088】
図2は、表1の結果をグラフにしたものである。図2より、リブパラメータQが300以下の範囲では、液利用率に依らず、リブパラメータQの増加に対して浸透短絡発生確率の増加はゆるやかであり、浸透短絡発生確率は10%以下に抑えられている。しかしながら、リブパラメータQが300を超えると、浸透短絡発生確率はリブパラメータQの増加と共に急激に増加している。
【0089】
一方で、リブパラメータQが150以下では、液利用率に依らず、浸透短絡は発生しなかった。リブパラメータQが150未満であると、第1リブの高さを相応に高くせざるをえず、容量の低下を招く。容量を維持するために、第1リブの高さを高くする代わりに第2リブの高さを低くすることも考えられるが、その場合にはセパレータの酸化劣化を招き易くなる。
【0090】
リブパラメータQを150以上300以下の範囲とすることで、容量の低下や、セパレータの酸化劣化による短寿命化を招くことなく、浸透短絡の抑制効果を最大限に享受することができる。
【0091】
なお、上記の結果は電解液にNaを0.1mol/L含む場合の結果であるが、Naの濃度が0.03~0.3mol/Lの範囲で、同様の効果が得られた。また、電解液にAlを含み、Alの濃度が0.02~0.2mol/Lの範囲においても、同様の効果が得られた。
【0092】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、制御弁式および液式の鉛蓄電池に適用可能であり、自動車もしくはバイクなどの始動用の電源として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0094】
1:鉛蓄電池
2:負極板
3:正極板
4:セパレータ
5:正極棚部
6:負極棚部
7:正極柱
8:貫通接続体
9:負極柱
11:極板群
12:電槽
13:隔壁
14:セル室
15:蓋
16:負極端子
17:正極端子
18:液口栓
図1
図2