(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】車両ドア用保持装置
(51)【国際特許分類】
B60J 5/10 20060101AFI20230404BHJP
F16H 35/10 20060101ALI20230404BHJP
F16H 37/12 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
B60J5/10 Z
F16H35/10 Z
F16H37/12 Z
(21)【出願番号】P 2020039207
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2022-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 侑也
(72)【発明者】
【氏名】日比 和宏
(72)【発明者】
【氏名】門田 豪郎
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-223110(JP,A)
【文献】特開2009-140037(JP,A)
【文献】特開2000-062467(JP,A)
【文献】特開2004-156431(JP,A)
【文献】特開2021-092019(JP,A)
【文献】特開2020-186623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/00-5/12
F16H 35/10
F16H 37/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両ドアを全閉位置と全開位置との間の中間位置で保持する車両ドア用保持装置であって、
車体と上記車両ドアのいずれか一方に回転可能に設けられ、巻取り及び巻出しが可能なケーブル部材によって上記車体と上記車両ドアのいずれか他方に連結される回転ドラムと、
上記回転ドラムの回転をロックするロック状態と上記回転ドラムの回転を許容するアンロック状態とのいずれかに設定されるロック部と、
上記ロック部を駆動するためのトリガ機構部と、
上記回転ドラムの回転時のトルクを上記トリガ機構部にトルクリミッターを介して伝達するトルク伝達部と、
を備え、
上記トリガ機構部は、上記車両ドアの開閉時に上記トルク伝達部から伝達されたトルクによって上記回転ドラムに連動して第1位置と第2位置との間で移動する可動部材を有し、上記可動部材は上記車両ドアの上記中間位置における閉動作時に上記第1位置と上記第2位置との間で一方向に移動し、その移動を繰り返すたびに上記ロック部を上記ロック状態と上記アンロック状態に交互に切り替えるように構成されており、
上記トルク伝達部は、上記トリガ機構部の上記可動部材の移動が阻止された停止状態では伝達するトルクを上記トルクリミッターで遮断して上記可動部材と上記回転ドラムとの連動を解除するように構成されている、車両ドア用保持装置。
【請求項2】
上記トリガ機構部は、ハートカム形状のカム溝と、上記カム溝に係合するカムピンと、上記カムピンと上記可動部材とを連結するリンクアームと、を有し、上記可動部材が上記第1位置と上記第2位置との間で移動するときに上記カムピンが上記可動部材を介して上記カム溝に沿ってガイドされる動きを利用して上記ロック部を上記ロック状態と上記アンロック状態とのいずれかに設定するように構成されている、請求項1に記載の車両ドア用保持装置。
【請求項3】
上記トルク伝達部は、上記回転ドラムに連動して回転する駆動ギアを有し、上記駆動ギアには複数の係合歯が周方向に設けられており、
上記トリガ機構部の上記可動部材は、上記第1位置と上記第2位置との間でスライド可能であり、上記駆動ギアの複数の係合歯に噛み合うようにスライド方向に沿って設けられた複数のラック歯を有し、上記駆動ギアの回転を上記スライド方向の動きに変換するように構成されている、請求項1または2に記載の車両ドア用保持装置。
【請求項4】
上記トリガ機構部は、上記可動部材を上記第1位置と上記第2位置のそれぞれで停止させるストッパーを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の車両ドア用保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ドアを保持する車両ドア用保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミニバンなどの車両では、車両後方にバックドアを全開するのに十分なスペースが確保できない状況や、ユーザが全開位置にあるバックドアに手が届きにくい状況等が発生し得る。そこで、このような状況に対処するために、ユーザがバックドアを全開位置と全閉位置との間の任意の中間位置で保持できる技術が望まれている。
【0003】
下記の特許文献1には、この種の技術に関連する保持装置が開示されている。この保持装置は、概して、ケーブルを巻き取るための回転ドラムと、一端部が回転ドラムに係止され他端部がバックドアに係止されたケーブルと、回転ドラムをケーブル巻き取り方向に付勢するゼンマイばねと、回転ドラムのケーブル巻出し方向(バックドアの開方向)のみの回転を拘束する一方向回転状態と回転ドラムの両方向(バックドアの開方向及び閉方向)の回転を許容する拘束解除状態を切り替える回転制御機構と、を備えている。
【0004】
この保持装置によれば、バックドアを全開位置と全閉位置との間の任意の中間位置でいくらか閉じることによって、回転制御機構が一方向回転状態に設定される。これにより、回転ドラムのケーブル巻出し方向の回転が拘束されるため、ユーザはバックドアを中間位置で保持することが可能になる。また、バックドアを中間位置から全閉位置まで閉じることによって、回転制御機構が一方向回転状態から拘束解除状態に切り替わる。これにより、ユーザはバックドアを全閉位置から開けることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記の保持装置において、回転ドラムの回転角度によってはその回転をロックできる位置とロックできない位置がある。このため、バックドアをユーザの意向に応じた任意の中間位置で保持するのが難しい場合が生じ得る。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、車両ドアを任意の中間位置で保持できる車両ドア用保持装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
車両ドア用保持装置であって、
車体と上記車両ドアのいずれか一方に回転可能に設けられ、巻取り及び巻出しが可能なケーブル部材によって上記車体と上記車両ドアのいずれか他方に連結される回転ドラムと、
上記回転ドラムの回転をロックするロック状態と上記回転ドラムの回転を許容するアンロック状態とのいずれかに設定されるロック部と、
上記ロック部を駆動するためのトリガ機構部と、
上記回転ドラムの回転時のトルクを上記トリガ機構部にトルクリミッターを介して伝達するトルク伝達部と、
を備え、
上記トリガ機構部は、上記車両ドアの開閉時に上記トルク伝達部から伝達されたトルクによって上記回転ドラムに連動して第1位置と第2位置との間で移動する可動部材を有し、上記可動部材は上記車両ドアの上記中間位置における閉動作時に上記第1位置と上記第2位置との間で一方向に移動し、その移動を繰り返すたびに上記ロック部を上記ロック状態と上記アンロック状態に交互に切り替えるように構成されており、
上記トルク伝達部は、上記トリガ機構部の上記可動部材の移動が阻止された停止状態では伝達するトルクを上記トルクリミッターで遮断して上記可動部材と上記回転ドラムとの連動を解除するように構成されている、車両ドア用保持装置、
にある。
【発明の効果】
【0009】
上記の車両ドア用保持装置によれば、ユーザは車両ドアを全閉位置と全開位置との間の任意の中間位置で保持させたいときには、車両ドアを中間位置から閉じるように操作して閉動作させる。このとき、トリガ機構部の可動部材は第1位置と第2位置との間で一方向に移動し、その移動を繰り返すたびにロック部を回転ドラムのロック状態とアンロック状態に交互に切り替えることができる。このため、必要に応じて回転ドラムをロック状態に設定して車両ドアを任意の中間位置で保持したり、回転ドラムをアンロック状態に設定して車両ドアの保持を解除したりすることができる。
【0010】
また、可動部材の移動が阻止された停止状態では、トルク伝達部から伝達されるトルクがトルクリミッターで遮断されることによって、可動部材と回転ドラムとの連動が解除される。このため、可動部材が第1位置と第2位置との間で一方向に移動するまでは、可動部材が停止状態であっても回転ドラムの回転が継続的に許容されることになり、車両ドアは任意の範囲での開閉動作が可能になる。このため、車両ドアを任意の中間位置で閉動作させて可動部材を停止状態から一方向に動かすように切り替えることを利用して、回転ドラムの回転を自在にロックしたりアンロックしたりすることができる。つまり、車両ドアが任意の中間位置にあるとき、ロック部をロック状態とアンロック状態との間で動かすためのトリガ機構部の作動タイミングをユーザが意向に応じて適宜に設定することができる。
【0011】
以上のごとく、上記の態様によれば、車両ドアを任意の中間位置で保持できる車両ドア用保持装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】車体の後部を側方から視た側面図であって、実施形態1にかかるバックドアが任意の中間位置にあるときの様子を示す図。
【
図2】実施形態1の車両ドア用保持装置の初期状態を模式的に示す断面図。
【
図3】
図2の車両ドア用保持装置のドア開操作状態を模式的に示す断面図。
【
図4】
図2の車両ドア用保持装置のドア閉操作状態を模式的に示す断面図。
【
図5】
図2の車両ドア用保持装置のドア保持状態を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上述の態様の好ましい実施形態について以下に説明する。
【0014】
上記の車両ドア用保持装置において、上記トリガ機構部は、ハートカム形状のカム溝と、上記カム溝に係合するカムピンと、上記カムピンと上記可動部材とを連結するリンクアームと、を有し、上記可動部材が上記第1位置と上記第2位置との間で移動するときに上記カムピンが上記可動部材を介して上記カム溝に沿ってガイドされる動きを利用して上記ロック部を上記ロック状態と上記アンロック状態とのいずれかに設定するように構成されているのが好ましい。
【0015】
この保持装置によれば、トリガ機構部において、カムピンをハートカム形状のカム溝に沿ってガイドする簡単な構造のハートカム機構を利用して、ロック部をロック状態とアンロック状態とのいずれかに設定することができる。
【0016】
上記の車両ドア用保持装置において、上記トルク伝達部は、上記回転ドラムに連動して回転する駆動ギアを有し、上記駆動ギアには複数の係合歯が周方向に設けられており、上記トリガ機構部の上記可動部材は、上記第1位置と上記第2位置との間でスライド可能であり、上記駆動ギアの複数の係合歯に噛み合うようにスライド方向に沿って設けられた複数のラック歯を有し、上記駆動ギアの回転を上記スライド方向の動きに変換するように構成されているのが好ましい。
【0017】
この保持装置によれば、トルク伝達部の駆動ギアの回転をトリガ機構部の可動部材のスライド方向の動きに変換することによって、回転ドラムに連動させて可動部材を第1位置と第2位置との間で移動させることができる。
【0018】
上記の車両ドア用保持装置において、上記トリガ機構部は、上記可動部材を上記第1位置と上記第2位置のそれぞれで停止させるストッパーを有するのが好ましい。
【0019】
この保持装置によれば、可動部材はストッパーによって第1位置と第2位置のそれぞれで停止する。このため、可動部材を停止状態に設定するための構造を簡素化することができる。
【0020】
以下、車体と車両後部のバックドアとの間に取付けられる、車両ドア用保持装置の具体的な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
なお、この実施形態を説明するための図面において、特にことわらない限り、車両前方を矢印FRで示し、車両上方を矢印UPで示すものとする。また、車幅方向に相当する左右方向を矢印Xで示し、車長方向に相当する前後方向を矢印Yで示し、車高方向に相当する上下方向を矢印Zで示し、左右方向Xを中心とした周方向を矢印Dで示している。上下方向Zのうちの一方向を第1スライド方向Z1とし、その逆方向を第2スライド方向Z2とする。また、周方向Dのうちの一方向を第1回転方向D1とし、その逆方向を第2回転方向D2とする。
【0022】
(実施形態1)
図1に示されるように、車体1の後部2には、車両ドアとしてのバックドア6と、実施形態1の車両ドア用保持装置(以下、単に「保持装置」ともいう。)10と、が設けられている。
【0023】
バックドア6は、回動軸7を介して全閉位置P1から中間位置(「半開位置」ともいう。)P3を経て全開位置P2までの間で回動可能な跳上げ式の車両ドアである。このバックドア6の回動動作によって、最後列シート3の後方のラゲッジルーム4を開閉することができる。ラゲッジルーム4は、その後方がバックドア6によって区画され、その両側が左右のピラートリム5によって区画されている。
【0024】
このバックドア6は、右端部及び左端部のそれぞれが、既知の油圧式のダンパステー8によって車体1の後部2に連結されている。このため、ユーザによるバックドア6の開閉操作がダンパステー8によってアシストされるようになっている。例えば、ユーザがバックドア6から中間位置P3で手を離したとき、ダンパステー8はバックドア6が自重で全閉位置P1に向けて動くのを防ぐことができる。また、ダンパステー8によれば、ユーザがバックドア6を中間位置P3から全開位置P2に向けて跳ね上げるのに要する力を軽減できる。
【0025】
保持装置10は、全閉位置P1と全開位置P2との間の任意の中間位置P3でケーブル部材25を介してバックドア6を保持する機能を有する。ケーブル部材25は、金属製の素線を複数組み合わせたワイヤロープとして構成されている。必要に応じて、ワイヤロープをベルトや巻尺のような部材に変更することもできる。
【0026】
図2に示されるように、保持装置10は車体1に設けられている。この保持装置10は、車体1に固定されるケース10aを有し、このケース10aに、回転ドラム20と、トルク伝達部30と、ロック部40と、トリガ機構部50と、を含む複数の構成要素が収容されている。
【0027】
回転ドラム20は、ケース10aに左右方向Xに延びるように設けられた軸部20aを中心に回転可能な回転体として構成されている。この回転ドラム20は、巻取り及び巻出しが可能なケーブル部材25によってバックドア6に連結されている。この回転ドラム20は、いずれも同軸であり且つ一体化されたリール部21と、第1ギア部22と、第2ギア部23と、を有する。
【0028】
リール部21は、周方向Dの外周にケーブル部材25のための巻取り面を有し、回転ドラム20が軸部20aを中心に回転することによって、ケーブル部材25の巻取り及び巻出しが可能とされた部位である。このリール部21について、第1回転方向D1がケーブル部材25の巻出し方向であり、第2回転方向D2がケーブル部材25の巻取り方向である。このリール部21は、バネ部材24によって第2回転方向D2に常時に弾性付勢されている。
【0029】
第1ギア部22は、ロック部40のラチェット部材41に対応して設けられたラチェット用の歯車であり、この第1ギア部22には、その周方向Dの全周にわたって複数の係合歯22aが設けられている。複数の係合歯22aは、径方向の仮想線に対して傾いた方向に延びている。
図2では、便宜上、一部の係合歯22aの記載を省略している。
【0030】
第2ギア部23には、その周方向Dの全周にわたって複数の係合歯23aが設けられている。
図2では、便宜上、一部の係合歯23aの記載を省略している。本実施形態では、第2ギア部23が第1ギア部22よりも小径である場合について例示している。
【0031】
トルク伝達部30は、アイドルギア31と、駆動ギア32と、トルクリミッター35と、を有し、回転ドラム20の回転時のトルクをトリガ機構部50にトルクリミッター35を介して伝達する機能を有する。
【0032】
アイドルギア31は、回転ドラム20と駆動ギア32との間に介装された中間ギアである。このアイドルギア31は、ケース10aに回転ドラム20の軸部20aと平行に延びるように設けられた軸部31aを中心に回転可能な回転体として構成されている。このアイドルギア31には、その周方向Dの全周にわたって複数の係合歯31bが設けられている。
図2では、便宜上、一部の係合歯31bの記載を省略している。このアイドルギア31は、複数の係合歯31bにおいて回転ドラム20の第2ギア部23の複数の係合歯23aと噛み合う。このため、アイドルギア31は、回転ドラム20の回転時にこの回転ドラム20と連動して回転するように構成されている。
【0033】
駆動ギア32は、回転ドラム20及びアイドルギア31に連動して回転することで、後述の可動部材51を駆動するギアである。この駆動ギア32は、ケース10aにアイドルギア31の軸部31aと平行に延びるように設けられた軸部32aを中心に回転可能な回転体として構成されている。この駆動ギア32は、いずれも同軸である第1ギア部33及び第2ギア部34と、を有する。
【0034】
第1ギア部33には、その周方向Dの全周にわたって複数の係合歯33aが設けられている。
図2では、便宜上、一部の係合歯33aの記載を省略している。
【0035】
第2ギア部34には、その周方向Dの全周にわたって複数の係合歯34aが設けられている。この第2ギア部34は、複数の係合歯34aにおいてアイドルギア31の複数の係合歯31bと噛み合う。このため、駆動ギア32は、アイドルギア31の回転時にこのアイドルギア31と連動して回転するように構成されている。本実施形態では、第2ギア部34が第1ギア部33よりも小径である場合について例示している。
【0036】
トルクリミッター35は、駆動ギア32の第1ギア部33と第2ギア部34との間に設けられている。このトルクリミッター35は、過負荷時に伝達するトルクを遮断する機能を有する。このため、駆動ギア32において、周方向Dに作用するトルクが基準値を下回るときに第1ギア部33と第2ギア部34が周方向Dに一体回転する一方で、周方向Dに作用するトルクが基準値を超えたときに、トルクリミッター35の機能にしたがって第1ギア部33と第2ギア部34が相対回転可能な状態になる。
【0037】
トルクリミッター35の構造は特に限定されるものではないが、一例として、回転体としてのロータと、このロータがオイルを介して回転自在となるように収容されるステータと、を有する既知の構造の回転式オイルダンパーを採用することができる。このオイルダンパーの具体的な構造については、例えば、特開2001-234962号公報に開示の回転式オイルダンパーの構造を参照することができる。
【0038】
また、上記の回転式オイルダンパーに代わる構造として、第1ギア部33と第2ギア部34との間に介在するボール部材が過負荷時に離脱する構造や、電磁クラッチの制御によって過負荷時に第1ギア部33と第2ギア部34を切り離すような構造などを利用することもできる。
【0039】
ロック部40は、回転ドラム20の回転をロックするロック状態と回転ドラム20の回転を許容するアンロック状態とのいずれかに設定される。ロック部40は、ラチェット部材41と、このラチェット部材41に連結された支持アーム43と、を有する。
【0040】
ラチェット部材41は、係止爪42を有し、ケース10aに左右方向Xに延びるように設けられた軸部41aを中心に、回転ドラム20に対するロック位置からアンロック位置までの間で回動可能に構成されている。
【0041】
支持アーム43は、一端部に設けられた連結ピン43aがラチェット部材41に設けられた長穴41bに係合することによって、ラチェット部材41に連結されている。このとき、連結ピン43aは、ラチェット部材41の長穴41bを長手方向にスライドできるように構成されている。
【0042】
支持アーム43は、他端部に設けられた連結ピン43bを介して、トリガ機構部50の後述のリンクアーム56に連結されている。この支持アーム43は、ラチェット部材41を回転ドラム20に対するアンロック位置に向けて動かすように、バネ部材44によって常時に弾性付勢されている。
【0043】
このため、ラチェット部材41がバネ部材44から受ける弾性付勢力がトリガ機構部50から受ける荷重を上回るときに、ラチェット部材41がアンロック状態になる。これに対して、ラチェット部材41がトリガ機構部50から受ける荷重がバネ部材44から受ける弾性付勢力を上回るときに、ラチェット部材41は、軸部41aを中心に回転ドラム20に向けて回動して、その係止爪42が回転ドラム20の係合歯22aに係合したときにロック状態になる。
【0044】
トリガ機構部50は、ロック部40を駆動するためのものである。このトリガ機構部50は、可動部材51と、ハートカム機構53と、2つのストッパー58,59と、を有する。
【0045】
可動部材51は、上下方向Zに延在するラック部52を有し、第1位置Q1(
図5を参照)と第2位置Q2(
図2及び
図4を参照)との間でスライド可能である。ラック部52には、駆動ギア32の第1ギア部33に設けられている複数の係合歯33aと噛み合うように、スライド方向である上下方向Zに沿って複数のラック歯52aが設けられている。これにより、駆動ギア32の回転が可動部材51の上下方向Zの動きに変換される。このとき、可動部材51は、バックドア6の開閉時にトルク伝達部30から伝達されたトルクによって回転ドラム20に連動して第1位置Q1と第2位置Q2との間で移動するように構成されている。
【0046】
2つのストッパー58,59は、可動部材51を第1位置Q1と第2位置Q2のそれぞれで停止させる機能を有する。このため、可動部材51の上下方向Zの動きは、ラック部52の上下方向Zの両側に配置された2つのストッパー58,59によって阻止される。
【0047】
具体的には、可動部材51は、第2スライド方向Z2へスライドするときには、ラック部52がストッパー58に当接した第1位置Q1で停止状態となり、それ以上の第2スライド方向Z2へのスライドが阻止される。また、可動部材51は、第1スライド方向Z1へスライドするときには、ラック部52がストッパー59に当接した第2位置Q2で停止状態となり、それ以上の第1スライド方向Z1へのスライドが阻止される。
【0048】
ハートカム機構53は、ハートカム形状のカム溝54と、カム溝54に係合するカムピン55と、2つのリンクアーム56,57と、を有する。2つのリンクアーム56,57は、ハートカム機構53のカムピン55と可動部材51とを連結するためのものであり、リンクアーム56にカムピン55が設けられている。このとき、可動部材51は、2つのリンクアーム56,57を介して、ロック部40の支持アーム43に連結されている。
【0049】
カム溝54には、その溝経路上に、第1カム領域54aと、第2カム領域54bと、第3カム領域54cと、第4カム領域54dと、が含まれている。第1カム領域54a及び第3カム領域54cは、カム溝54のうち上下方向Zの最高所の領域とされる。第4カム領域54dは、カム溝54のうち上下方向Zの最低所の領域とされる。第2カム領域54bは、カム溝54のうち第1カム領域54a及び第3カム領域54cよりも低所であり且つ第4カム領域54dよりも高所に位置する領域とされる。
【0050】
なお、ハートカム機構53のより具体的な構造や変更例については、例えば、特開2009-140037号公報に開示のハートカム機構の構造を参照することができる。
【0051】
トリガ機構部50は、可動部材51が第1位置Q1と第2位置Q2との間で移動するときに、ハートカム機構53のカムピン55がカム溝54に沿ってガイドされる動きを利用してロック部40をロック状態とアンロック状態とのいずれかに設定するように構成されている。
【0052】
このとき、可動部材51の上下方向Zのスライド動作がカムピン55のカム溝54に沿った循環動作に変換され、更にロック部40の支持アーム43の上下方向Zのスライド動作に変換される。
【0053】
また、可動部材51は、バックドア6の中間位置P3(
図1を参照)における閉動作時に第1位置Q1と第2位置Q2との間で一方向(
図2中の第1スライド方向Z1)に移動し、その移動を繰り返すたびにロック部40をロック状態とアンロック状態に交互に切り替える。つまり、可動部材51のワンプッシュ動作に相当する動きを繰り返すことで、ロック部40をロック状態とアンロック状態に交互に切り替えることができる。
【0054】
一方で、トルク伝達部30は、トリガ機構部50の可動部材51の停止状態では伝達するトルクをトルクリミッター35で遮断して可動部材51と回転ドラム20との連動を解除するように構成されている。
【0055】
次に、
図2~
図5を参照しながら、上記の保持装置10の動作について説明する。
【0056】
(初期状態)
図2に示される保持装置10は、バックドア6が全閉位置P1(
図1を参照)にあるときの初期状態についてのものである。このとき、トリガ機構部50において、可動部材51は、ラック部52がストッパー59に当接した第2位置Q2にあり、ハートカム機構53のカムピン55は、カム溝54の第1カム領域54aにある。このとき、ロック部40はアンロック状態にある。
【0057】
なお、特に図示しないものの、この保持装置10には、初期状態でロック部40がロック状態になるのを阻止するためのキャンセラー機構が搭載されている。このキャンセラー機構の一例として、バックドア6が全閉位置P1に達したときに、アイドルギア31に連動して動く可動体、或いはアクチュエータによって動く可動体が、ロック部40をアンロック状態とするように付勢する構造を採用することができる。これにより、ユーザがバックドア6を全閉位置P1まで閉操作した後で全閉位置P1から開操作するときに、この開操作が阻止されるのをキャンセラー機構によって防ぐことができる。
【0058】
(ドア開操作状態)
図3に示される保持装置10は、ユーザがバックドア6を全閉位置P1から中間位置P3(
図1を参照)まで開操作したときのドア開操作状態についてのものである。このとき、バックドア6の開動作に連動して、回転ドラム20はケーブル部材25を巻き出しつつ軸部20aを中心に第1回転方向D1に回転する。また、これに連動して、駆動ギア32は軸部32aを中心に第1回転方向D1に回転する。
【0059】
トリガ機構部50では、可動部材51は、駆動ギア32の回転に伴って第1位置P1に向けて第2スライド方向Z2に下降し、ハートカム機構53のカムピン55は、カム溝54を二点鎖線で示される第1カム領域54aから実線で示される第2カム領域54bへとガイドされる。カムピン55がカム溝54の第2カム領域54bにあるとき、可動部材51は第2スライド方向Z2のスライド動作が阻止された停止状態にあり、またロック部40はアンロック状態にある。
【0060】
このとき、ユーザがバックドア6を更に開操作すると、停止状態の可動部材51に対して駆動ギア32が第1回転方向D1に回転しようとして過負荷状態になるため、駆動ギア32から可動部材51へのトルクの伝達がトルクリミッター35によって遮断される。これにより、可動部材51と回転ドラム20との連動が解除されるため、バックドア6を任意の中間位置P3まで開操作することが許容される。
【0061】
(ドア閉操作状態)
図4に示される保持装置10は、ユーザがバックドア6を任意の中間位置P3から一時的に閉操作したドア閉操作状態についてのものである。このとき、バックドア6の閉動作に連動して、回転ドラム20はケーブル部材25を巻き取りつつ軸部20aを中心に第2回転方向D2に回転する。また、これに連動して、駆動ギア32は軸部32aを中心に第2回転方向D2に回転する。
【0062】
トリガ機構部50では、可動部材51は、駆動ギア32の回転に伴って第2位置P2に向けて第1スライド方向Z1に上昇し、ハートカム機構53のカムピン55は、カム溝54を二点鎖線で示される第2カム領域54bから実線で示される第3カム領域54cへとガイドされる。カムピン55がカム溝54の第3カム領域54cにあるとき、可動部材51は、ストッパー59によって第1スライド方向Z1のスライド動作が阻止された停止状態にあり、またロック部40はアンロック状態にある。
【0063】
このとき、ユーザがバックドア6を更に閉操作すると、停止状態の可動部材51に対して駆動ギア32が第2回転方向D2に回転しようとして過負荷状態になるため、駆動ギア32から可動部材51へのトルクの伝達がトルクリミッター35によって遮断される。これにより、可動部材51と回転ドラム20との連動が解除されるため、バックドア6を閉操作することが許容される。
【0064】
(ドア保持状態)
図5に示される保持装置10は、ユーザがバックドア6の一時的な閉操作を止めることによってバックドア6の開閉操作がロックされたドア保持状態についてのものである。このとき、バックドア6がダンパステー8のアシスト力によって開方向に動くことによって、回転ドラム20はケーブル部材25を巻き出しつつ軸部20aを中心に第1回転方向D1に回転する。また、これに連動して、駆動ギア32は軸部32aを中心に第1回転方向D1に回転する。
【0065】
トリガ機構部50では、可動部材51は、駆動ギア32の回転に伴って第1位置P1に向けて第2スライド方向Z2に下降し、ハートカム機構53のカムピン55は、カム溝54を二点鎖線で示される第3カム領域54cから実線で示される第4カム領域54dへとガイドされる。カムピン55がカム溝54の第4カム領域54dにあるとき、可動部材51は、ストッパー58によって第2スライド方向Z2のスライド動作が阻止された停止状態にある。また、ロック部40は、可動部材51のスライド動作に伴ってラチェット部材41が軸部41aを中心に回転ドラム20に向けて回動し、その係止爪42が回転ドラム20の係合歯22aに係合することによって、ロック状態になる。その結果、バックドア6を任意の中間位置P3で保持することができる。
【0066】
図5のドア保持状態では、バックドア6の任意の中間位置P3から全閉位置P1に向かう閉操作は許容される。この閉操作の際、トリガ機構部50では、可動部材51は、第2位置P2に向けて第1スライド方向Z1に上昇し、ハートカム機構53のカムピン55は、カム溝54を第4カム領域54d(
図5を参照)から第1カム領域54a(
図2を参照)へとガイドされる。従って、この保持装置10は、ロック部40のラチェット部材41の係止爪42が回転ドラム20の係合歯22aとの係合を解除したアンロック状態に切り替わり、バックドア6が全閉位置P1に至るまで、
図2の初期状態と同様の状態を維持する。このため、ユーザがバックドア6を全閉位置P1まで閉操作すると、保持装置10は、
図2の初期状態に復帰する。
【0067】
これに対して、バックドア6を全閉位置P1に至るまでの間に閉操作を止めると、保持装置10は、
図3のドア開操作状態と同様の状態になり、ロック部40のアンロック状態が維持される。このように、保持装置10は、トリガ機構部50の可動部材51が第1スライド方向Z1への移動を繰り返すたびに、
図5のドア保持状態と
図3のドア開操作状態とが交互に切り替わるようになっている。その結果、ロック部40がロック状態とアンロック状態に交互に切り替わる。
【0068】
上述の実施形態1によれば、以下のような作用効果が得られる。
【0069】
上記の保持装置10によれば、ユーザはバックドア6を全閉位置P1と全開位置P2との間の任意の中間位置P3で保持させたいときには、バックドア6を中間位置P3から閉じるように操作して閉動作させる。このとき、トリガ機構部50の可動部材51は第1位置Q1と第2位置Q2との間で一方向である第1スライド方向Z1に移動し、その移動を繰り返すたびにロック部40を回転ドラム20のロック状態とアンロック状態に交互に切り替えることができる。このため、必要に応じて回転ドラム20をロック状態に設定してバックドア6を任意の中間位置P2で保持したり、回転ドラム20をアンロック状態に設定してバックドア6の保持を解除したりすることができる。
【0070】
また、可動部材51の停止状態では、トルク伝達部30から伝達されるトルクがトルクリミッター35で遮断されることによって、可動部材51と回転ドラム20との連動が解除される。このため、可動部材51が第1スライド方向Z1に移動するまでは、可動部材51が停止状態であっても回転ドラム20の回転が継続的に許容されることになり、バックドア6は任意の範囲での開閉動作が可能になる。このため、バックドア6を任意の中間位置P3で閉動作させて可動部材51を停止状態から第1スライド方向Z1に動かすように切り替えることを利用して、回転ドラム20の回転を自在にロックしたりアンロックしたりすることができる。
【0071】
つまり、本実施形態の保持装置10は、バックドア6が任意の中間位置P3にあるとき、ロック部40をロック状態とアンロック状態との間で動かすためのトリガ機構部50の作動タイミングをユーザが意向に応じて適宜に設定することを可能としたものである。
【0072】
従って、上述の実施形態1によれば、バックドア6を任意の中間位置P3で保持できる保持装置10を提供することができる。
【0073】
また、この保持装置10は、バックドア6を全開できないような狭所でバックドア6を任意の中間位置P3で停止させて荷物の出し入れを行うのに有効である。ユーザの体格を問わず、小柄なユーザでも、片手操作などの簡単な操作によってバックドア6を任意の中間位置P3で停止させることができる。
【0074】
上記の保持装置10によれば、トリガ機構部50において、カムピン55をハートカム形状のカム溝54に沿ってガイドする簡単な構造のハートカム機構53を利用して、ロック部40をロック状態とアンロック状態とのいずれかに設定することができる。
【0075】
上記の保持装置10によれば、トルク伝達部30の駆動ギア32の回転をトリガ機構部50の可動部材51のスライド方向の動きに変換することによって、回転ドラム20に連動させて可動部材51を第1位置Q1と第2位置Q2との間で移動させることができる。
【0076】
上記の保持装置10によれば、可動部材51はストッパー58,59によって第1位置Q1と第2位置Q2のそれぞれで停止する。このため、可動部材51を停止状態に設定するための構造を簡素化することができる。
【0077】
本発明は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変更が考えられる。例えば、上述の実施形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0078】
上述の実施形態では、ロック部40をアンロック状態とロック状態に交互に切り替えるために、可動部材51と連携するハートカム機構53を採用する場合について例示したが、これに代えて、ハートカム機構53と同様の機能を有する別の機構を採用することもできる。別の機構として、例えば、ノック式ボールペン構造を採用することができる。この構造では、ノック棒が一方向へのワンプッシュ動作を繰り返すたびに、替芯が、ノック棒と替芯との間に介在するカム機構を介してロック状態とアンロック状態に交互に切り替わるようになっている。この構造と対比した場合、可動部材51がノック棒に相当し、ロック部40が替芯に相当し、ハートカム機構53がカム機構に相当する。
【0079】
上述の実施形態では、トルク伝達部30にアイドルギア31及び駆動ギア32が設けられる場合について例示したが、これに代えて、アイドルギア31に相当する構成要素を省略して、回転ドラム20が駆動ギア32と直に係合する構造を採用することもできる。
【0080】
上述の実施形態では、保持装置10が車体1に取付けられ、ケーブル部材25の一端部11aがバックドア6に係止される場合について例示したが、これに代えて、保持装置10がバックドア6に取付けられ、ケーブル部材25の一端部11aが車体1に係止される構造を採用することもできる。
【0081】
上述の実施形態では、バックドア用の保持装置10について例示したが、車両用の他のドア、例えばバックドアに開閉可能に取付けられるガラスハッチ、車体1の天井パネルに開閉可能に取付けられるチルトアップサンルーフ、車体1の前部に開閉可能に取付けられるボンネット等のドアに、上記の保持装置10の構造を適用することもできる。
【符号の説明】
【0082】
1 車体
6 バックドア(車両ドア)
10 車両ドア用保持装置(保持装置)
20 回転ドラム
25 ケーブル部材
30 トルク伝達部
32 駆動ギア
33a 係合歯
35 トルクリミッター
40 ロック部
50 トリガ機構部
51 可動部材
52a ラック歯
54 カム溝
55 カムピン
56,57 リンクアーム
58,59 ストッパー
D 周方向
P1 全閉位置
P2 全開位置
P3 中間位置
Q1 第1位置
Q2 第2位置
Z1 第1スライド方向(一方向)