(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】微細孔径膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/00 20060101AFI20230404BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20230404BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20230404BHJP
B01D 71/32 20060101ALI20230404BHJP
B01D 71/36 20060101ALI20230404BHJP
B32B 5/32 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
C08J9/00 A CEW
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/32
B01D71/36
B32B5/32
(21)【出願番号】P 2020519576
(86)(22)【出願日】2019-05-08
(86)【国際出願番号】 JP2019018340
(87)【国際公開番号】W WO2019220960
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2018094025
(32)【優先日】2018-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(72)【発明者】
【氏名】片山 寛一
(72)【発明者】
【氏名】林 文弘
(72)【発明者】
【氏名】奥田 泰弘
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/111690(WO,A1)
【文献】特開平11-240918(JP,A)
【文献】国際公開第2005/061567(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00- 9/42
B01D61/00-71/82
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂を含む複数のコアシェル粒子を膜状に成形する工程と、
上記成形する工程により得られた膜をその融点以上に加熱して複数のコアシェル粒子を焼結する工程と、
上記焼結する工程により得られたフッ素樹脂膜を延伸する工程と
を備える微細孔径膜の製造方法であって、
上記コアシェル粒子は、コアと上記コアの外表面を被覆するシェルを有し、
上記焼結する工程の前の上記コアシェル粒子の平均粒子径が100nm以上1,000nm以下であり、
上記焼結する工程の前の上記コアシェル粒子における上記コアの体積に対する上記シェルの体積の比が2/98以上50/50以下であり、
上記コアのフッ素樹脂がテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体又はこれらの組み合わせであり、上記シェルのフッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンであり、
上記コアシェル粒子中のフッ素樹脂の第1融解熱量が68J/g以下であり、
上記微細孔径膜の(膜厚(μm)×空気透過速度(mL/sec/cm
2))/(孔の平均円相当径(μm))
2で表される透過性インデックスが100以上である微細孔径膜の製造方法。
【請求項2】
上記微細孔径膜のガレーが5秒以上100秒以下である請求項
1に記載の微細孔径膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、微細孔径膜及びその製造方法、多孔質樹脂膜複合体並びにフィルターエレメントに関する。本出願は、2018年5月15日出願の日本出願第2018‐094025号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を参照して援用するものである。本出願は、2013年11月28日に公開された特開2013-237808号公報及び2005年7月21日に国際公開されたWO2005/066402公報に記載された全ての記載内容を参照して援用するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂を主原料として形成された膜状の多孔質体であって、その孔径が微細な微細孔径膜は、耐薬品性及び耐熱性に優れるので、微細な粒子を除去するための濾過膜(フィルター)等として用いられている。
【0003】
微細孔径膜を製造する方法として、フッ素樹脂粒子を膜状に成形し、この成形品を融点以上に加熱して焼結させて無孔質膜状物を得、これを延伸して多孔質化する方法が知られており、このフッ素樹脂粒子として、変性ポリテトラフルオロエチレンの粉末を用い、この変性ポリテトラフルオロエチレンとして融解熱量が特定値以下のものを用いる方法(特開2013-237808号公報参照)及び上記フッ素樹脂粒子として、その内部側がポリテトラフルオロエチレンにより構成され、その外表面側が、上記ポリテトラフルオロエチレンより融解熱量が低いポリテトラフルオロエチレン、又はテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体若しくはテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルエーテル共重合体により構成される構造を有するものを用いる方法(国際公開第2013/153989号参照)が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-237808号公報
【文献】国際公開第2013/153989号
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様に係る微細孔径膜は、フッ素樹脂膜の延伸体からなる微細孔径膜であって、上記フッ素樹脂膜が、フッ素樹脂を含む複数のコアシェル粒子の焼結体を含み、上記コアシェル粒子は、コアと上記コアの外表面を被覆するシェルを有し、焼結前の上記コアシェル粒子の平均粒子径が100nm以上1,000nm以下であり、焼結前の上記コアシェル粒子における上記コアの体積に対する上記シェルの体積の比が2/98以上50/50以下であり、上記コアのフッ素樹脂がテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体又はこれらの組み合わせであり、上記シェルのフッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンであり、上記コアシェル粒子中のフッ素樹脂の第1融解熱量が68J/g以下である。
【0006】
別の本開示の一態様に係る微細孔径膜の製造方法は、フッ素樹脂を含む複数のコアシェル粒子を膜状に成形する工程と、上記成形する工程により得られた膜をその融点以上に加熱して複数のコアシェル粒子を焼結する工程と、上記焼結する工程により得られたフッ素樹脂膜を延伸する工程とを備え、上記コアシェル粒子は、コアと上記コアの外表面を被覆するシェルを有し、上記焼結する工程の前の上記コアシェル粒子の平均粒子径が100nm以上1,000nm以下であり、上記焼結する工程の前の上記コアシェル粒子における上記コアの体積に対する上記シェルの体積の比が2/98以上50/50以下であり、上記コアのフッ素樹脂がテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体又はこれらの組み合わせであり、上記シェルのフッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンであり、上記コアシェル粒子中のフッ素樹脂の第1融解熱量が68J/g以下である。
【0007】
別の本開示の一態様に係る多孔質樹脂膜複合体は、多孔質の支持体と、上記支持体上に固定された当該微細孔径膜とを備える。
【0008】
別の本開示の一態様に係るフィルターエレメントは、当該多孔質樹脂膜複合体を備える。
【0009】
ここで、「第1融解熱量」とは、コアシェル粒子について、室温から365℃まで10℃/分の速度で加熱する温度プロファイル(パターン1)による吸熱カーブの終端の温度(X℃)とX-48℃との間の区間を積分して求められる吸熱量(J)をコアシェル粒子中のフッ素樹脂の質量(g)で除して求められる値である。
また、「平均粒子径」は、動的光散乱法を用いて算出した値である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例におけるNo.1の微細孔径膜の表面の電子顕微鏡写真である。
【
図2】実施例におけるNo.2の微細孔径膜の表面の電子顕微鏡写真である。
【
図3】実施例におけるコアシェル粒子(A)のパターン1の温度プロファイルによる示差走査熱量測定の結果を示すチャートである。
【
図4】実施例におけるコアシェル粒子(A)のパターン3の温度プロファイルによる示差走査熱量測定の結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示が解決しようとする課題]
上記従来の微細孔径膜は、気孔率が小さいため、濾過膜として使用する場合、透過流量が小さくなるという不都合がある。
【0012】
本開示は、上記事情に基づいてなされたものであり、透過流量が大きい微細孔径膜を提供することを目的とする。
[本開示の効果]
【0013】
本開示の一態様に係る微細孔径膜は、透過流量が大きい。本開示の別の一態様に係る微細孔径膜の製造方法は、透過流量が大きい微細孔径膜を容易かつ確実に製造することができる。本開示のさらに別の一態様に係る多孔質樹脂膜複合体は、微細孔径膜の透過流量を維持しつつ、機械的強度を向上させることができる。本開示のさらに別の一態様に係るフィルターエレメントは、微細な異物を高い効率で除去することができる。
【0014】
[本開示の実施形態の説明]
本開示の一態様に係る微細孔径膜は、フッ素樹脂膜の延伸体からなる微細孔径膜であって、上記フッ素樹脂膜が、フッ素樹脂を含む複数のコアシェル粒子の焼結体を含み、上記コアシェル粒子は、コアと上記コアの外表面を被覆するシェルを有し、焼結前の上記コアシェル粒子の平均粒子径が100nm以上1,000nm以下であり、焼結前の上記コアシェル粒子における上記コアの体積に対する上記シェルの体積の比が2/98以上50/50以下であり、上記コアのフッ素樹脂がテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下、「FEP」ともいう)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以下、「PFA」ともいう)又はこれらの組み合わせであり、上記シェルのフッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」ともいう)であり、上記コアシェル粒子中のフッ素樹脂の第1融解熱量が68J/g以下である。
【0015】
当該微細孔径膜は、フッ素樹脂膜を延伸したものである。上記フッ素樹脂膜は、フッ素樹脂を含むコアシェル粒子を成膜し、焼結させて得られる。上記コアシェル粒子のコアのフッ素樹脂がFEP及び/又はPFAである。上記シェルのフッ素樹脂がPTFEである。本開示において、上記物性を有するコアシェル粒子を用いて、かつ上記コアがFEP及び/又はPFAであり、上記シェルがホモPTFEであることにより、造孔起点となるFEPやPFAをより均一に配置することができる。その結果、当該微細孔径膜は、より多くのかつより均一な微細孔を形成することができ、透過流量を大きくすることができると考えられる。
【0016】
当該微細孔径膜は、(膜厚(μm)×空気透過速度(mL/sec/cm2))/(孔の平均円相当径(μm))2で表される透過性インデックスが、100以上であるとよい。このような当該微細孔径膜によれば、透過流量をより大きくすることができる。
【0017】
本開示の別の一態様に係る微細孔径膜の製造方法は、フッ素樹脂を含む複数のコアシェル粒子を膜状に成形する工程と、上記成形する工程により得られた膜をその融点以上に加熱して複数のコアシェル粒子を焼結する工程と、上記焼結する工程により得られたフッ素樹脂膜を延伸する工程とを備え、上記コアシェル粒子は、コアと上記コアの外表面を被覆するシェルを有し、上記焼結する工程の前の上記コアシェル粒子の平均粒子径が100nm以上1,000nm以下であり、上記焼結する工程の前の上記コアシェル粒子における上記コアの体積に対する上記シェルの体積の比が2/98以上50/50以下であり、上記コアのフッ素樹脂がテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体又はこれらの組み合わせであり、上記シェルのフッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンであり、上記コアシェル粒子中のフッ素樹脂の第1融解熱量が68J/g以下である。
【0018】
当該微細孔径膜の製造方法によれば、コアのフッ素樹脂がFEP及び/又はPFAであり、シェルのフッ素樹脂がPTFEであるコアシェル粒子を成膜し、焼結させて得られるフッ素樹脂膜を延伸することにより、透過流量が大きい微細孔径膜を、容易かつ確実に製造することができる。
【0019】
(膜厚(μm)×空気透過速度(mL/sec/cm2))/(孔の平均円相当径(μm))2で表される微細孔径膜の透過性インデックスが、100以上であるとよい。このように、当該微細孔径膜の製造方法によれば、透過流量がより大きい微細孔径膜を製造することができる。
【0020】
本開示のさらに別の一態様に係る多孔質樹脂膜複合体は、多孔質の支持体と、上記支持体上に固定された当該微細孔径膜とを備える。当該多孔質樹脂膜複合体は、微細孔径膜の透過流量を維持しつつ、機械的強度を向上させることができる。
【0021】
本開示のさらに別の一態様に係るフィルターエレメントは、当該多孔質樹脂膜複合体を備える。当該フィルターエレメントは、微細な異物を高い効率で除去することができる。
【0022】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態に係る微細孔径膜、微細孔径膜の製造方法、多孔質樹脂膜複合体及びフィルターエレメントについて詳説する。
【0023】
<微細孔径膜>
当該微細孔径膜は、フッ素樹脂膜(以下、「フッ素樹脂膜(X)」ともいう)の延伸体からなる。フッ素樹脂膜(X)は、フッ素樹脂を含む複数のコアシェル粒子(以下、「コアシェル粒子(A)」ともいう)の焼結体を含む。
【0024】
当該微細孔径膜であるフッ素樹脂膜(X)の延伸体を得る方法としては、例えば後述の微細孔径膜の製造方法の延伸する工程における延伸方法等が挙げられる。フッ素樹脂膜(X)におけるコアシェル粒子(A)の焼結体を得る方法としては、例えば後述の微細孔径膜の製造方法の焼結する工程における焼結方法等が挙げられる。
【0025】
(コアシェル粒子(A))
コアシェル粒子(A)は、フッ素樹脂を含むコア(以下、「コア(a)」ともいう)と、このコア(a)の外表面側を被覆しフッ素樹脂を含むシェル(以下、「シェル(b)」ともいう)とを有する。
【0026】
焼結する前のコアシェル粒子(A)の平均粒子径の下限としては、100nmであり、150nmが好ましく、200nmがより好ましい。上記平均粒子径の上限としては、1,000nmであり、800nmが好ましく、600nmがより好ましい。コアシェル粒子(A)の平均粒子径を上記範囲とすることで、当該微細孔径膜の透過流量をより大きくすることができる。
【0027】
焼結する前のコアシェル粒子(A)におけるコア(a)の体積に対するシェル(b)の体積の比の下限としては、2/98であり、5/95が好ましく、10/90がより好ましい。上記比の上限としては、50/50であり、40/60が好ましく、30/70がより好ましい。コアシェル粒子(A)におけるコアとシェルとの体積比を上記範囲とすることで、当該微細孔径膜の透過流量をより大きくすることができる。
【0028】
コアシェル粒子(A)において、コア(a)のフッ素樹脂がFEP、PFA又はこれらの組み合わせであり、シェル(b)のフッ素樹脂がPTFEである。
【0029】
FEPは、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」ともいう)及びヘキサフルオロプロピレン(以下、「HEP」ともいう)の共重合体であり、下記式(I)で表される。
PFAは、TFE及びパーフルオロアルキルビニルエーテル(以下、「PAVE」ともいう)の共重合体であり、下記式(II)で表される。下記式(II)中、Rfは、パーフルオロアルキル基である。
【0030】
【0031】
【0032】
構造式(I)及び構造式(II)中のmの下限としては、1が好ましく、5がより好ましい。上記mの上限としては、500が好ましく、400がより好ましい。
【0033】
構造式(I)及び構造式(II)中のnは重合度を表す。nの範囲は特に限定されないが、nの下限としては、100が好ましく、500がより好ましい。上記nの上限としては、4,000が好ましく、2,000がより好ましい。
【0034】
Rfで表されるパーフルオロアルキル基としては、例えばトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、へプタフルオロプロピル基等が挙げられる。これらの中で、へプタフルオロプロピル基が好ましい。
【0035】
PTFEは、TFEの重合体である。PTFEは、本開示の効果を損なわない範囲において、TFE、HEP及びPAVE以外の他の単量体を少量共重合させたものでもよい。
【0036】
PTFEの重量平均分子量(Mw)の下限としては、10万が好ましく、20万がより好ましい。上記Mwの上限としては、5000万が好ましく、3000万がより好ましい。本明細書におけるMwは、示差走査熱量計により測定した第1融解熱量から算出した値である。
【0037】
これらの共重合体は、本開示の効果を損なわない範囲において、HFP又はPAVEに加えて、TFE、HFP及びPAVE以外の他の単量体を少量共重合させたものでもよい。また、これらの共重合体は、TFEにHFP及びPAVEの両方を共重合させたものでもよい。
【0038】
コアシェル粒子(A)中のフッ素樹脂の第1融解熱量の上限としては、68J/gであり、60J/gが好ましく、55J/gがより好ましい。上記第1融解熱量の下限としては、20J/gが好ましく、30J/gがより好ましい。フッ素樹脂の第1融解熱量を上記範囲とすることで、当該微細孔径膜の透過流量をより大きくすることができる。
【0039】
フッ素樹脂膜(X)は、コアシェル粒子(A)の焼結体を含む。焼結体は、例えば、後述の焼結する工程により得られる。焼結体を含むフッ素樹脂膜(X)は、通常無孔質膜である。
【0040】
本開示の微細孔径膜は、上記フッ素樹脂膜(X)の延伸体である。延伸体を得る方法は、後述の延伸する工程を採用することができる。本開示において、好ましくは一軸延伸である。また、延伸倍率の上限としては、8倍が好ましく、4倍がより好ましい。
【0041】
当該微細孔径膜の平均厚みの下限としては、0.1μmが好ましく、0.5μmがより好ましい。上記平均厚みの上限としては、100μmが好ましく、80μmがより好ましい。
【0042】
当該微細孔径膜における孔の平均最大径の下限としては、20nmが好ましく、30nmがより好ましい。上記平均最大径の上限としては、例えば120nmである。「孔の平均最大径」とは、個別の孔の最大径の平均値を意味する。
【0043】
当該微細孔径膜における孔の平均円相当径の下限としては、20nmが好ましく、25nmがより好ましい。上記平均円相当径の上限としては、例えば100nmである。「孔の平均円相当径」とは、個別の孔の面積から、「2×(孔の面積/π)1/2」により算出した平均値を意味する。
【0044】
当該微細孔径膜における孔の面積率の下限としては、1%が好ましく、3%がより好ましい。上記孔の面積率の上限としては、特に限定されないが、20%が好ましく、10%がより好ましい。「孔の面積率」とは、個別の孔の面積から、「視野中の孔の全面積×100/視野全体の面積」により算出した値(%)である。
【0045】
当該微細孔径膜における孔の平均最大径、孔の平均円相当径及び孔の面積率の算出に用いる個別の孔の最大径及び個別の孔の面積は、微細孔径膜の走査型電子顕微鏡(SEM)による表面SEM写真を用い、画像処理ソフトを用いて画像処理することにより、それぞれ求めることができる。
【0046】
当該微細孔径膜における孔の平均流量径の下限としては、20nmが好ましく、25nmがより好ましい。上記平均流量径の上限としては、100nmが好ましく、70nmがより好ましい。当該微細孔径膜における孔の平均流量径は、ASTM F-316に準拠した方法により測定される値である。
【0047】
当該微細孔径膜におけるガレーの上限としては、500秒が好ましく、100秒がより好ましく、25秒がさらに好ましい。上記ガレーの下限としては、5秒が好ましく、10秒がより好ましい。当該微細孔径膜におけるガレーは、JIS-P8117(2009)に準拠した方法により測定される値である。
【0048】
微細孔径膜の差圧0.1MPaにおける液体イソプロパノール(IPA)の透過速度の下限としては、0.1mL/min/cm2が好ましく、1mL/min/cm2が好ましい。上記透過速度の上限としては、例えば10mL/min/cm2である。
【0049】
当該微細孔径膜の透過性インデックスの下限としては、50が好ましく、100がより好ましく、200がさらに好ましい。上記透過性インデックスの上限としては、例えば10,000である。微細孔径膜の透過性インデックスとは、「(膜厚(μm)×空気透過速度(mL/sec/cm2))/(孔の平均円相当径(μm))2」で表される値である。
【0050】
(コアシェル粒子の製造方法)
コアシェル粒子(A)は、例えばコアとなるポリマーを重合により製造し、この重合終了後に、シェルとなるポリマーを形成するモノマーを加えて重合することにより製造することができる。また、コアシェル粒子(A)は、変性ポリテトラフルオロエチレンの粒子をコアとし、このコアの表面にホモPTFEのシェルを形成させることにより製造することができる。コアとしての、上記変性ポリテトラフルオロエチレンの粒子は、特に限定されない。例えば特開2013-237808号公報に記載の変性ポリテトラフルオロエチレンの粒子等を使用することができる。
【0051】
[用途]
当該微細孔径膜は、透過流量が大きいので、例えば微細な異物を除去するための濾過膜として好適に用いることができる。
【0052】
<微細孔径膜の製造方法>
以下、当該微細孔径膜の製造方法について説明する。当該微細孔径膜の製造方法は、フッ素樹脂を含む複数のコアシェル粒子(A)を膜状に成形する工程と、上記成形する工程により得られた膜をその融点以上に加熱して複数のコアシェル粒子(A)を焼結する工程と、上記焼結工程により得られたフッ素樹脂膜(X)を延伸する工程とを備える。
本開示の当該微細孔径膜の製造方法においては、膜状に成形する工程で用いる上記コアシェル粒子(A)は、上記焼結する工程の前の平均粒子径が100nm以上1,000nm以下であり、上記焼結する工程の前のコアシェル粒子(A)におけるコア(a)の体積に対するシェル(b)の体積の比が2/98以上50/50以下であり、上記コア(a)のフッ素樹脂がFEP、PFA又はこれらの組み合わせであり、上記シェル(b)のフッ素樹脂がPTFEであり、上記コアシェル粒子(A)中のフッ素樹脂の第1融解熱量が68J/g以下である。
【0053】
上記コアシェル粒子(A)については、上記微細孔径膜においてコアシェル粒子(A)として説明している。以下、各工程について説明する。
【0054】
[成形する工程]
本工程では、コアシェル粒子(A)を膜状に成形する。
【0055】
本工程は、例えばコアシェル粒子(A)を含有する組成物(以下、「組成物(P)」ともいう)を用いて行うことができる。
【0056】
組成物(P)は、コアシェル粒子(A)とともに、例えばポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマー、界面活性剤等を含有していてもよい。組成物(P)は、通常水等の水性媒体を含有する。
【0057】
本工程は、例えば平滑な基材上に、組成物(P)を、アプリケーター等を用いて膜状に塗工した後、ホットプレート等を用いて加熱し、水性媒体等を除去して乾燥させることにより行うことができる。
【0058】
平滑な基材とは、組成物(P)と接する側の表面に孔や凹凸が観測されない平滑性を有するものである。平滑な基材は、柔軟性を有し、膜の形成後、酸等による溶解除去が容易な点で、金属箔が好ましく、アルミ箔がより好ましい。
【0059】
[焼結する工程]
本工程では、上記成形する工程により得られた膜をその融点344℃以上に加熱して複数のコアシェル粒子(A)を焼結する。上記組成物(P)にポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマーや界面活性剤等が含有されていた場合は、焼結する工程において、これらも焼結する。
【0060】
焼結する工程の加熱における融点以上の温度の下限としては、350℃が好ましく、370℃がより好ましい。上記温度の上限としては、440℃が好ましく、420℃がより好ましい。上記加熱の時間の下限としては、10秒が好ましく、1分がより好ましい。上記時間の上限としては、120分が好ましく、60分がより好ましい。
【0061】
焼結する工程において、上記加熱の後の膜を、アニール処理することが好ましい。アニール処理の温度としては、例えば300℃以上330℃以下であり、アニール処理の時間としては、例えば0.1時間以上48時間以下である。
【0062】
このようにして、複数のコアシェル粒子(A)が焼結されたフッ素樹脂膜(X)が得られる。フッ素樹脂膜(X)は、通常無孔質膜である。
【0063】
当該微細孔径膜の製造方法において、成形する工程と焼結する工程とを同時に行うこともできる。すなわち、成形する工程における膜の加熱を、融点以上の温度で行うことにより、コアシェル粒子(A)の焼結を行ってもよい。
【0064】
[延伸する工程]
本工程では、上記焼結する工程により得られたフッ素樹脂膜(X)を延伸する。
【0065】
本工程におけるフッ素樹脂膜(X)の延伸は、従来のPTFEの延伸膜を得る際と同様の条件で行うことができる。上記延伸としては、通常一軸延伸が行われる。上記延伸は、1段階で行ってもよく、2段階以上の多段階で行ってもよい。
【0066】
上記延伸の延伸倍率の上限としては、8倍が好ましく、4倍がより好ましい。延伸温度としては、通常0℃以上150℃以下である。
上記延伸する工程により得られたフッ素樹脂膜(X)の延伸体は、微細な孔を有する膜(多孔質膜)である。
【0067】
<多孔質樹脂膜複合体>
当該多孔質樹脂膜複合体は、多孔質の支持体と、上記支持体上に固定された上述の当該微細孔径膜とを備える。
【0068】
当該多孔質樹脂膜複合体は、上述の当該微細孔径膜を多孔質の支持体上に固定したものであり、透過流量が大きいことに加えて、機械的強度にも優れる。この多孔質樹脂膜複合体は、微細孔径膜のみの場合と比べて、その使用時や加工する際のハンドリングが容易である。従って、この多孔質樹脂膜複合体は、微細粒子を濾過するための濾過膜として好適に用いることができる。
【0069】
多孔質の支持体は、複合体に機械的強度を付与するものであり、一方、複合体が濾過膜として用いられたときには、濾過膜としての特性、例えば処理能力、処理速度等を阻害しないことが好ましい。多孔質の支持体としては、機械的強度、耐薬品性、耐熱性等に優れるPTFE製の多孔質体が好ましく用いられ、かつその孔径がそれと組み合わされる微細孔径膜の孔径より大きく、また気孔率が高いことが好ましい。具体的には、PTFE膜を延伸して、100nm以上、好ましくは200nm以上の孔を形成して製造されたPTFE製多孔質体であって、充分な機械的強度を付与する厚さを有するものが好ましく用いられる。
【0070】
<フィルターエレメント>
当該フィルターエレメントは、上述の当該多孔質樹脂膜複合体を備える。当該フィルターエレメントは、上述の当該多孔質樹脂膜複合体を用いるので、透過流量が大きく、かつ機械的強度に優れるため、微細な異物を高い効率で除去することができる。
【0071】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【実施例】
【0072】
以下、実施例によって本開示をさらに具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
(フッ素樹脂の融解熱量の測定方法)
示差走査熱量計(島津製作所社の「DSC-60A」)を用い、以下に示す方法により測定した。
【0074】
サンプル5~30mgを、室温から365℃まで10℃/分の速度で加熱し(パターン1)、その後、365℃から100℃まで-1℃/分の速度で冷却し(パターン2)、その後、100℃から380℃まで10℃/分の速度で加熱した(パターン3)。パターン1、パターン3の温度プロファイルによる吸熱カーブの終端を起点とし、48℃の区間を積分して求めた吸熱量をそれぞれ第1融解熱量、第2融解熱量とした。
【0075】
(コアシェル粒子の平均粒子径の測定方法)
マイクロトラック・ベル株式会社製の粒度分布系「Nanotrac Wave II-EX150」を用い、体積累積分布から算出される平均粒子径D50を平均粒子径とした。
【0076】
[微細孔径膜の製造]
(No.1の微細孔径膜)
(コアシェル粒子の合成)
WO2005/066402公報の実施例1の乳化重合を参照して、コアシェル粒子を合成した。
これにより、コアがPFA、シェルがPTFEであるコアシェル粒子(以下、「フッ素樹脂粒子(A)」ともいう)のディスパージョンを得た。得られたディスパージョンにおけるフッ素樹脂粒子(A)の固形分濃度は60質量%であった。
(コアシェル粒子含有組成物の調製)
上記合成したフッ素樹脂粒子(A)のディスパージョン46.4質量%、4質量%ポリエチレンオキサイド溶液26.4質量%、界面活性剤(DIC社の「メガファック F-444」)0.8質量%及び純水26.4質量%を混合し、固形分濃度28質量%の混合液となるように調整し、組成物(P)を得た。
【0077】
フッ素樹脂粒子(A)における第1融解熱量は、
図3におけるパターン1による吸熱カーブの終端の温度(X=356℃)とX-48℃(=308℃)との間の区間を積分して吸熱量を求めた結果、65.88J/gであった。また、フッ素樹脂粒子(A)における第2融解熱量は、
図4におけるパターン3による吸熱カーブの終端の温度(X=340℃)とX-48℃(=292℃)との間の区間を積分して吸熱量を求めた結果、31.73J/gであった。なお、フッ素樹脂粒子(A)の平均粒子径は230nmであった。
【0078】
(成形する工程)
平均厚み50μmのアルミ箔(UACJ社、片面艶箔)をガラス平板の上に雛がないように広げて固定し、その艶面に、上記調製した組成物(P)を滴下した後、ステンレス鋼(日本ベアリング社)製のスライドシャフト(ステンレスファインシャフトSNSF型、外径20mm)を滑らすようにしてアルミ箔一面に均一になるように伸ばした。この箔を、ホットプレートを用いて60℃で60分間加熱することにより、平均厚み20μmの塗工膜を形成させた。
【0079】
(焼結する工程)
上記塗工膜を形成させたアルミ箔を、恒温槽を用いて、365℃で60分間保持した後、365℃から200℃まで1時間かけて降温することにより、焼結を行った。この焼結の後、恒温槽を用いて、320℃で6時間保持した後、320℃から200℃まで1時間かけて降温することにより、アニール処理を行った。このアニール処理の後、アルミ箔を塩酸により溶解除去することにより、焼結する工程後のフッ素樹脂膜を得た。
【0080】
(延伸する工程)
上記焼結する工程により得られたフッ素樹脂膜を50mm(延伸方向)×50mm(幅方向)の寸法に切断し、オートグラフを使用して、15℃で2.0倍の一軸延伸を行い(初期チャック間距離30mm、引張速度0.2m/分、引張距離:30mm)、No.1の微細孔径膜を得た。No.1の微細孔径膜の表面の電子顕微鏡写真を
図1に示す。
【0081】
(No.2の微細孔径膜)
特許文献(特開2013-237808号公報)の実施例2に記載の方法でフッ素樹脂粒子(B)を得た。これ以外は、No.1の微細孔径膜の製造と同様にして、No.2の微細孔径膜を製造した。
No.2の微細孔径膜の表面の電子顕微鏡写真を
図2に示す。
【0082】
[評価]
No.1及びNo.2の微細孔径膜について、平均厚み、孔の平均円相当径、孔の面積率、透過性インデックス、ガレー及び空気透過速度を、下記方法に従い測定した。評価結果を表1に合わせて示す。
【0083】
(平均厚み)
微細孔径膜の平均厚みについて、テクロック社の「標準型デジタルシックネスゲージ(型式SMD-565J)」を用い、アンビル径Φ10mm、測定力1.5N以下/Φ10mmで測定した。
【0084】
(孔の平均円相当径及び孔の面積率)
以下に示す方法により、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社の「SU8020」)にて観察した倍率1万倍の表面SEM写真(寸法2.9μm×4.2μm)を用い、画像処理ソフト(三谷商事社の「WinROOF2015」)を使用して、孔の面積を求め、この孔の面積の値から、孔の平均円相当径及び孔の面積率を算出した。
【0085】
(孔の面積)
上記画像処理ソフトを用い、倍率1万倍の表面SEM写真中の開孔部を二値化して孔の面積を算出した。
【0086】
(孔の平均円相当径)
上記求めた孔の面積の値を用い、「2×(孔の面積/π)1/2」により算出した個別値全体の平均値を孔の平均円相当径(nm)とした。
【0087】
(孔の面積率)
孔の面積率(%)は、孔の画像処理により求められる「視野中の孔全体の面積×100/視野全体の面積」により算出した。
【0088】
(透過性インデックス)
透過性インデックスは、「(膜厚(μm)×空気透過速度(mL/sec/cm2))/(孔の平均円相当径(μm))2」により算出した。透過性インデックスは、気孔率の大小を示す指標であり、透過性インデックスが100以上の微細孔径膜を濾過膜として用いた場合、膜を透過する流束(流量)を大きくすることができ、大きな処理速度を得ることができるので好ましい。
【0089】
(ガレー)
JIS-P8117(2009)に準拠して、王研式試験機にて100mLの空気を膜有効面積6.42cm2で、差圧1.22kPaで透過させるのに要する時間を測定し、ガレーの値を求めた。
【0090】
(空気透過速度)
空気透過速度は、上記測定したガレーの値から換算して求めた。
【0091】
【0092】
表1の結果より、上記構成を備えるNo.1の微細孔径膜は、上記構成を備えないNo.2の微細孔径膜に比べて、透過性インデックスが大きくなっていることが分かる。