IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱瓦斯化学株式会社の特許一覧

特許7255595カルボン酸エステル化合物、その製造方法、組成物、及び、香料組成物
<>
  • 特許-カルボン酸エステル化合物、その製造方法、組成物、及び、香料組成物 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】カルボン酸エステル化合物、その製造方法、組成物、及び、香料組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/753 20060101AFI20230404BHJP
   C07C 67/38 20060101ALI20230404BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20230404BHJP
   C11D 3/50 20060101ALI20230404BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20230404BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20230404BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20230404BHJP
   A23L 27/20 20160101ALI20230404BHJP
   D06M 13/228 20060101ALI20230404BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230404BHJP
【FI】
C07C69/753 Z CSP
C07C67/38
C11B9/00 U
C11D3/50
A61Q13/00 101
A61K8/37
A23L27/00 C
A23L27/20 E
D06M13/228
C07B61/00 300
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020530023
(86)(22)【出願日】2019-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2019021171
(87)【国際公開番号】W WO2020012806
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2018132789
(32)【優先日】2018-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】松浦 豊
(72)【発明者】
【氏名】袴田 智彦
【審査官】安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/133189(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/063433(WO,A1)
【文献】特開2012-140354(JP,A)
【文献】特開2012-140353(JP,A)
【文献】特開2018-132789(JP,A)
【文献】GOULET, Martin et al.,Non-amines, Drugs Without an Amine Nitrogen, Potently Block Serotonin Transport: Novel Antidepressan,Synapse,2001年,vol.42,p.129-140
【文献】XIE, Wenge et al.,Structure-Activity Relationship of Aza-Steroids as PI-PLC Inhibitors,Bioorganic & Medicinal Chemistry,2001年,vol.9,p.1073-1083
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物。
【化1】
(式中、R1は、-COORであり、ここでRは、炭素数1~4のアルキル基である。)
【請求項2】
請求項1に記載のカルボン酸エステル化合物を含有する、香料組成物。
【請求項3】
請求項1に記載のカルボン酸エステル化合物を含有する、組成物。
【請求項4】
化粧料用、食品添加物用、又は洗浄用組成物用に用いられる、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
フッ化水素の存在下、式(2)で表されるβ-カリオフィレンを一酸化炭素、次いで炭素数1~4の一価アルコールと反応させる工程を含む、式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物を製造する方法。
【化2】
【化3】
(式中、R1は、-COORであり、ここでRは、炭素数1~4のアルキル基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸エステル化合物、その製造方法、組成物、及び、香料組成物に関する。また、本発明は、より詳細には、7-(2,2-ジメチルシクロブチル)-5-メチルビシクロ[3.2.1]オクタン化合物のカルボン酸エステルに関する。
【背景技術】
【0002】
エステル類には、香料として有用な化合物があることが知られている。例えば、非特許文献1には、ローズ様の香気を有する酢酸ゲラニル、ジャスミン様の甘い香気を有するジャスモン酸メチル、フルーティな香調を有するフルテート、強いドライフルーティな香調を有する安息香酸メチル等が、調合香料素材として有用であることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】中島基貴 編、「香料と調香の基礎知識」、1995年、215ページ、235ページ、244~247ページ、産業図書株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、消費者の嗜好性は多様化しており、その要求は製品の香りにも及んでいる。このような多様性に対応するために、従来にない香料成分の開発が要求されてきている。
【0005】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、その目的は、香料成分として或いは調合香料素材として有用な化合物及びその製造方法、並びに該カルボン酸エステル化合物を含有する組成物及び香料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、かかる問題を解決するために鋭意検討し、種々の化合物を合成してその特性を評価した結果、式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物は、香料成分として或いは調合香料素材として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]
式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物。
【化1】
(式中、R1は、-COORであり、ここでRは、炭素数1~4のアルキル基である。)
[2]
[1]に記載のカルボン酸エステル化合物を含有する、香料組成物。
[3]
[1]に記載のカルボン酸エステル化合物を含有する、組成物。
[4]
化粧料用、食品添加物用、又は洗浄用組成物用に用いられる、[3]に記載の組成物。
[5]
フッ化水素の存在下、式(2)で表されるβ-カリオフィレンを一酸化炭素、次いで炭素数1~4の一価アルコールと反応させる工程を含む、式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物を製造する方法。
【化2】
【化3】
(式中、R1は、-COORであり、ここでRは、炭素数1~4のアルキル基である。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、カルボン酸エステル化合物が提供され、かかるカルボン酸エステル化合物は、香料成分として或いは調合香料素材として有用である。かかるカルボン酸エステル化合物を賦香成分或いは調合調香素材として用いることにより、例えば、香粧品類、健康衛生材料、日用品、雑貨品、繊維、繊維製品、衣料品、食品、医薬部外品、医薬品等の幅広い製品において、香りの多様化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】7-(2,2-ジメチルシクロブチル)-5-メチルビシクロ[3.2.1]オクタン-1-カルボン酸エチルエステルの1H-NMRのスペクトルデータを示す図である。上段のスペクトルデータは全体図であり、下段のスペクトルデータは、2.3ppm~0.6ppmの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されない。なお、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いる。例えば「1~100」との数値範囲の表記は、その上限値「100」及び下限値「1」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。
【0011】
[化合物]
本実施形態の化合物は、式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物である。本実施形態の化合物は、後述の実施例に述べるように、清潔感のあるフルーティ、アップル様香気を有しており、嗜好性が高く、優れた香気特性を有しており、香料成分として或いは調合香料素材として有用である。
【0012】
【化4】
(式中、R1は、-COORであり、ここでRは、炭素数1~4のアルキル基である。)
【0013】
式(1)における炭素数1~4のアルキル基としては、例えば、直鎖アルキル基及び分枝アルキル基が挙げられる。
上記炭素数1~4のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらのなかでも、Rは、エチル基であることが好ましい。
【0014】
なお、式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物として、数種類の異性体が存在し得るが、式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物は、異性体のいずれか1種の単一物であっても、これらが任意の割合で含まれる混合物であってもよい。異性体としては、具体的には、光学異性体、構造異性体等が挙げられる。
【0015】
[カルボン酸エステル化合物の製造方法]
本実施形態のカルボン酸エステル化合物は、フッ化水素(以下、単に「HF」とも記載する。)の存在下、式(2)で表されるβ-カリオフィレンを一酸化炭素、次いで炭素数1~4の一価アルコールと反応させることによって、製造することができる。式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物は、具体的には、下記反応経路に基づき合成される。式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物を下記反応経路に基づき合成することは、工業的に有利であり、経済性及び生産性が高められる。
【0016】
【化5】
【0017】
以下、本実施形態の好ましい製造方法について詳述する。
本実施形態の、式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物を製造する方法は、出発原料として式(2)で表される化合物を用い、これをHFの存在下、一酸化炭素と反応させ、主として、上記式(2)で表される化合物の骨格異性化及びカルボニル化により、式(3)で表される7-(2,2-ジメチルシクロブチル)-5-メチルビシクロ[3.2.1]オクタン化合物のアシルフロライドを得る第1段反応(以下、単に「カルボニル化反応」とも称する。)工程と、得られた式(3)のアシルフロライドとアルコールとを反応させてエステル化を行う第2段反応(以下、単に「エステル化反応」とも称する。)工程を含む。
【0018】
(式(2)で表わされる化合物)
式(2)で表わされる化合物は、β-カリオフィレンであり、市販品のものを使用することができる。また、式(2)で表わされる化合物は、異性体のいずれか1種の単一物であっても、これらが任意の割合で含まれる混合物であってもよい。ここで異性体としては、具体的には、光学異性体、構造異性体等が挙げられる。
【0019】
(HF)
カルボニル化反応において使用するHFは、カルボニル化反応において溶媒及び触媒として機能し、且つ、副原料でもあるため、実質的に無水のもの、すなわち、無水フッ化水素(無水フッ酸ともいう。また、以下、無水HFとも記載する。)であることが好ましい。なお、HFの使用量は、必要に応じて適宜設定でき特に限定されないが、主原料である式(2)で表される化合物に対して、好ましくは3~25モル倍であり、より好ましくは8~15モル倍である。HFのモル比を3モル倍以上25モル倍以下にすることにより、カルボニル化反応が効率良く進行し、不均化及び/又は重合等の副反応が抑制されて、目的物であるカルボニル化合物が高収率で得られる傾向にある。
【0020】
(一酸化炭素)
カルボニル化反応において使用する一酸化炭素としては、一般工業ガスとして流通している公知の一酸化炭素ガスを適宜用いることができ、特に限定されない。一酸化炭素ガスには、窒素及び/又はメタン等の不活性ガス等が含まれていてもよい。
なお、上述したカルボニル化反応は、一酸化炭素分圧が、0.5~5.0MPaの範囲で実施することが好ましく、1.0~3.0MPaの範囲で実施することがより好ましい。一酸化炭素分圧を0.5MPa以上とすることにより、カルボニル化反応が十分に進行し、不均化及び/又は重合等の副反応が抑制されて、目的物である脂環式カルボニル化合物が高収率で得られる傾向にある。また、一酸化炭素分圧を5.0MPa以下とすることにより、反応系(装置)への負荷が低減される傾向にある。
【0021】
(溶媒)
上記のカルボニル化反応においては、原料を溶解し且つHFに対して不活性な溶媒を使用してもよい。このような溶媒としては、特に限定されず、例えば、ヘキサン、ヘプタン、デカン等の飽和炭化水素化合物等が挙げられる。
溶媒の使用の有無及びその使用量は、その他の反応条件を考慮して適宜設定すればよく、特に限定されないが、重合反応を抑制して収率を高める観点から、主原料である式(2)で表される化合物に対して、0.2~2.0質量倍であることが好ましく、生産性及びエネルギー効率の観点から、0.5~1.0質量倍であることが好ましい。
【0022】
(アルコール)
また、上記のカルボニル化反応において、アルコールを使用してもよい。カルボニル化反応工程時にエステル化剤としてアルコールを添加することにより、カルボニル化反応において副反応を抑制できる傾向にある。ここで使用可能なアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、iso-ブタノール、tert-ブタノール等が挙げられる。
カルボニル化反応におけるアルコールの使用の有無及びその使用量は、その他の反応条件を考慮して適宜設定すればよく、特に限定されないが、主原料である式(2)で表される化合物に対して0.1~0.9モル倍であることが好ましく、より好ましくは0.2~0.9モル倍である。アルコールの使用量を0.1~0.9モル倍の範囲にすることで、カルボニル化反応が十分に進行し、不均化及び/又は重合等の副反応が抑制されて、この工程における目的物である脂環式カルボニル化合物(アシルフロライド)が高収率で得られる傾向にある。
【0023】
(カルボニル化反応条件)
上記のカルボニル化反応における反応温度は、特に限定されないが、反応速度を高めるとともに、副反応を抑制して収率を高め、さらに高純度の目的物を得る観点から、好ましくは-30℃~30℃であり、より好ましくは-20℃~20℃である。また、反応時間は、特に限定されないが、カルボニル化反応を十分に進行させるとともに効率を高める観点から、1~5時間であることが好ましい。ここで、カルボニル化反応は、反応効率を高める観点から加圧下で行うことが好ましい。なお、反応効率を高めるとともに設備負担を軽減する観点から、カルボニル化反応の圧力は、好ましくは1.0~5.0MPaであり、より好ましくは1.0~3.0MPaである。なお、カルボニル化反応の形式は、特に限定されず、例えば、回分式、半連続式、連続式等のいずれの方法であってもよい。また、反応終点は、特に限定されないが、一酸化炭素の吸収が認められなくなった時点を参照して定めればよい。
【0024】
上述したカルボニル化反応により、反応生成物(中間体)である式(3)で表されるアシルフロライドの他、HF並びに必要に応じて溶媒及びアルコール等が含まれる混合溶液(カルボニル化反応生成液)が得られる。
【0025】
次いで、生成した式(3)で表される脂環式カルボニル化合物(アシルフロライド)を、HFの存在下でアルコールと反応させることにより、式(1)で表されるカルボン酸エステルが得られる。なお、このエステル化反応は、生成した式(3)で表されるアシルフロライドを上記カルボニル化反応生成液から常法にしたがって一旦分離精製した後、再度HFの存在下でアルコールを加えることで実施することができるが、上記カルボニル化反応生成液に、HF及び/又はアルコールをさらに加えることで、上記カルボニル化反応から連続的に実施することもできる。
【0026】
エステル化反応におけるHFの好ましい使用量は、カルボニル化反応で説明したものと同一であり、ここでの重複した説明は省略する。
【0027】
エステル化反応において使用する副原料としてのアルコールとしては、カルボニル化反応で説明したものと同一のもの、すなわち、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、iso-ブタノール、tert-ブタノール等の一価アルコールが挙げられる。
また、エステル化反応におけるアルコールの使用量は、反応効率を高めて高純度な目的物を得る観点から、カルボニル化反応における使用量との合計で、主原料である式(2)で表される化合物に対して1.0~2.0モル倍であることが好ましい。エステル化反応におけるアルコールの使用量をかかる範囲内に設定することで、未反応のアシルフロライドが反応生成物中に残存することが少なくなり、目的とするエステル化合物と共にアシルフロライドが反応生成物中に残留することによる製品純度の低下が抑制される傾向にある。一方で、アルコールの使用量をかかる範囲内に設定することで、未反応のアルコールの残存割合が低減され、得られる目的物の分離(単離)が容易になるので、製品純度が高められる傾向にある。
また、未反応のアルコールの脱水反応により反応系内に水が副生し、この水は、HFと共沸するために回収HF中に蓄積される。この水が蓄積した回収HFが反応に再利用された場合、反応に悪影響を及ぼしたり、装置材料の著しい腐食を起こしたりする問題が起こる。アルコールの使用量を上記の好ましい範囲に設定することによって、上記問題が、軽減される傾向にある。
【0028】
ここで、高収率で、式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物を得る観点から、カルボニル化反応とエステル化反応の両工程でアルコールをそれぞれ所定量添加することが好ましい。この場合、カルボニル化反応においては主原料である式(2)で表される化合物に対して0.1~0.5モル倍とし、エステル化反応においてはアルコール量をさらに追加して、カルボニル化反応時添加分と合わせて主原料である式(2)で表される化合物に対して1.0~2.0モル倍となるように設定することがより好ましい。なお、得られた目的物を効率的に単離する観点から、エステル化反応において使用するアルコールと、カルボニル化反応で任意に用いられるアルコールとは、同一のものであることが好ましい。
【0029】
(エステル化反応条件)
上記のエステル化反応における反応温度は、特に限定されないが、副反応を抑制して収率を高める観点、及び添加アルコールの脱水反応による水副生抑制の観点から、-20℃以上10℃以下であることが好ましい。また、反応時間は、特に限定されないが、エステル化反応を十分に進行させるとともに効率を高める観点から、0.5~3時間であることが好ましい。ここで、エステル化反応は、反応効率を高める観点から加圧下で行うことが好ましい。なお、反応効率を高めるとともに設備負担を軽減する観点から、圧力は、好ましくは0.1~5.0MPa、より好ましくは1.0~3.0MPaである。なお、エステル化反応の形式は、特に限定されず、例えば、回分式、半連続式、連続式等のいずれの方法であってもよい。また、反応終点は、特に限定されないが、反応熱上昇が認められなくなった時点を参照して定めればよい。
【0030】
上述したエステル化反応により、式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物、HF並びに必要に応じて溶媒及びアルコール等が含まれる混合溶液(エステル化反応生成液)が得られる。このエステル化反応生成液には、式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物とHFとの錯体が含まれ得るが、例えば、エステル化反応生成液を加熱し、式(1)で表されるカルボン酸エステルとHFとの結合を分解させることにより、HFを気化分離し、回収、再利用することができる。なお、生成物の加熱変質及び/又は異性化等を抑制する観点から、この錯体の分解操作はできるだけ迅速に行うことが好ましい。錯体の熱分解を迅速に進めるためには、例えば、HFに不活性な溶媒、例えば、ヘプタン等の飽和脂肪族炭化水素及び/又はベンゼン等の芳香族炭化水素の還流下で、加熱することが好ましい。
【0031】
なお、式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物の単離は、常法にしたがって行うことができ、その方法は特に限定されない。例えば、エステル化反応生成液を氷水中に抜き出し、油相と水相を分離させた後、油相を水酸化ナトリウム水溶液及び蒸留水で交互に洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水を行い、さらに、エバポレーターを用いて低沸物等を除去した後、例えば、理論段数20段以上の精留塔を用いて精留を行うことにより、式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物を高純度で得ることができる。
【0032】
このようにして得ることのできる式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物は、単独で又は他の成分と組み合わせて、香料成分(賦香成分)として或いは調合香料素材として、例えば、香粧品類、健康衛生材料、日用品、雑貨品、繊維、繊維製品、衣料品、食品、医薬部外品、医薬品等の種々の用途において有効に使用することができる。
【0033】
また、式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物は、7-(2,2-ジメチルシクロブチル)-5-メチルビシクロ[3.2.1]オクタン部分の嵩高い環構造を有する新規な化合物である。ノルボルネン及びアダマンタン等の嵩高い環構造を有する化合物は、医薬、農薬、機能性樹脂、光学機能性材料及び電子機能性材料等の原料(有機合成における中間体を含む。)として有用な化合物であることが知られている。また、本実施形態の化合物はエステル構造を含んでおり、当該エステルを反応の起点とし所望の化合物へと誘導することもできる。さらに、式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物は、嵩高い環構造に加えて、剛直性、光透過性、高Tg、潤滑性(脂溶性)等を併せ持ち、これらを利用して、医薬、農薬、機能性樹脂、液晶及びレジスト等の光学機能性材料、電子機能性材料等の原料(有機合成における中間体を含む。)として有効に使用することもできる。
【0034】
[香料組成物]
本実施形態の香料組成物は、式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物を含有する。本実施形態の香料組成物は、式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物を含有するものである限り、如何なる他の成分を含有していてもよい。
本実施形態の香料組成物は、他の成分として、例えば、式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物以外の、他の香料成分(賦香成分)を含んでいてもよい。
【0035】
上述した他の香料成分としては、例えば、テルペン骨格等を有する炭化水素類、アルコール類、フェノール類、エステル類、アルデヒド類、ケトン類、アセタール類、ケタール類、エーテル類、ニトリル類、ラクトン類、ハイドロカーボン類、ムスク類、天然香料、天然精油又は天然抽出物、植物エキス、動物性香料等が知られており、また、例えば、香料化学総覧1,2,3(奥田治著、廣川書店出版)、合成香料(印藤元一著、化学工業日報社)、「特許庁、周知慣用技術集(香料)第III部香粧品香料、P26-103、平成13年6月15日発行」等に種々のものが記載されている。
【0036】
他の香料成分の具体例としては、
リモネン、α-ピネン、β-ピネン、テルピネン、セドレン、ロンギフォレン、バレンセン等の炭化水素類;
リナロール、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、テルピネオール、ジヒドロミルセノール、エチルリナロール、ファルネソール、ネロリドール、シス-3-ヘキセノール、セドロール、メントール、ボルネオール、β-フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、フェニルヘキサノール、2,2,6-トリメチルシクロヘキシル-3-ヘキサノール、1-(2-t-ブチルシクロヘキシルオキシ)-2-ブタノール、4-イソプロピルシクロヘキサンメタノール、4-メチル-2-(2-メチルプロピル)テトラヒドロ-2H-ピラン-4-オール、2-メチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール、2-エチル-4-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-2-ブテン-1-オール、イソカンフィルシクロヘキサノール、3,7-ジメチル-7-メトキシオクタン-2-オール等のアルコール類;
オイゲノール、チモール、バニリン、バニトロープ等のフェノール類;
リナリルホルメート、シトロネリルホルメート、ゲラニルホルメート、n-ヘキシルアセテート、シス-3-ヘキセニルアセテート、リナリルアセテート、シトロネリルアセテート、ゲラニルアセテート、ネリルアセテート、テルピニルアセテート、ノピルアセテート、ボルニルアセテート、イソボルニルアセテート、o-t-ブチルシクロヘキシルアセテート(フロラマット(製品名)ともいう)、p-t-ブチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、スチラリルアセテート、シンナミルアセテート、ジメチルベンジルカルビニルアセテート(酢酸ジメチルベンジルカルビニルともいう)、ジメチルベンジルカルビニルブチレート(酪酸ジメチルベンジルカルビニルともいう)3-ペンチルテトラヒドロピラン-4-イルアセテート、シトロネリルプロピオネート、トリシクロデセニルプロピオネート、アリルシクロヘキシルプロピオネート、エチル2-シクロヘキシルプロピオネート、ベンジルプロピオネート、ベンジルブチレート(酪酸ベンジルともいう)、シトロネリルブチレート、ジメチルベンジルカルビニルn-ブチレート、トリシクロデセニルイソブチレート、メチル2-ノネノエート、メチルベンゾエート、ベンジルベンゾエート、メチルシンナメート、メチルサリシレート、n-ヘキシルサリシレート、シス-3-ヘキセニルサリシレート、ゲラニルチグレート、シス-3-ヘキセニルチグレート、メチルジャスモネート、メチルジヒドロジャスモネート、メチル-2,4-ジヒドロキシ-3,6-ジメチルベンゾエート、エチルメチルフェニルグリシデート、メチルアントラニレート、フルテート等のエステル類;
n-オクタナール、n-デカナール、n-ドデカナール、2-メチルウンデカナール、10-ウンデセナール、シトロネラール、シトラール、ヒドロキシシトロネラール、ジメチルテトラヒドロベンズアルデヒド、4(3)-(4- ヒドロキシ-4-メチルペンチル)-3-シクロヘキセン-1-カルボアルデヒド、2-シクロヘキシルプロパナール、p-t-ブチル-α-メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p-イソプロピル-α-メチルヒドロシンナミックアルデヒド、p-エチル-α,α-ジメチルヒドロシンナミックアルデヒド、α-アミルシンナミックアルデヒド、α-ヘキシルシンナミックアルデヒド、ピペロナール、α-メチル-3,4-メチレンジオキシヒドロシンナミックアルデヒド等のアルデヒド類;
メチルヘプテノン、4-メチレン-3,5,6,6-テトラメチル-2-ヘプタノン、アミルシクロペンタノン、3-メチル-2-(シス-2-ペンテン-1-イル)-2-シクロペンテン-1-オン、メチルシクロペンテノロン、ローズケトン、γ-メチルヨノン、α-ヨノン、カルボン、メントン、ショウ脳、ヌートカトン、ベンジルアセトン、アニシルアセトン、メチルβ-ナフチルケトン、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノン、マルトール、エチルマルトール、7-アセチル-1,2,3,4,5,6,7,8-オクタヒドロ-1,1,6,7-テトラメチルナフタレン、ムスコン、シベトン、シクロペンタデカノン、シクロヘキサデセノン等のケトン類;
アセトアルデヒドエチルフェニルプロピルアセタール、シトラールジエチルアセタール、フェニルアセトアルデヒドグリセリンアセタール、エチルアセトアセテートエチレングリコールケタール類のアセタール類及びケタール類;
アネトール、β-ナフチルメチルエーテル、β-ナフチルエチルエーテル、リモネンオキシド、ローズオキサイド、1,8-シネオール、ラセミ体又は光学活性のドデカヒドロ-3a,6,6,9a-テトラメチルナフト[2,1-b]フラン等のエーテル類;
シトロネリルニトリル等のニトリル類;
γ-ノナラクトン、γ-ウンデカラクトン、σ-デカラクトン、γ-ジャスモラクトン、クマリン、シクロペンタデカノリド、シクロヘキサデカノリド、アンブレットリド、エチレンブラシレート、11-オキサヘキサデカノリド等のラクトン類;
オレンジ、レモン、ベルガモット、マンダリン、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミル、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、セダー、ヒノキ、ベチバー、パチョリ、ラブダナム等の天然精油又は天然抽出物;
等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらは、1種を単独で或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
また、本実施形態の香料組成物は、上述した他の香料成分以外に、必要に応じて、香粧品類、健康衛生材料、日用品、雑貨品、繊維、繊維製品、衣料品、食品、医薬部外品、医薬品等において用いられている、各種添加剤(香料成分として機能しないもの)を含有していてもよい。各種添加剤の具体例としては、例えば、ジプロピレングリコール、ジエチルフタレート、エチレングリコール、プロピレングリコール、メチルミリステート、トリエチルシトレート等の溶媒及び/又は分散媒、粉体(粉末)、液体油脂類、固体油脂類、ロウ、油溶性成分、シリコーン類、炭化水素類、高級脂肪酸類、高級アルコール類、低級アルコール類、多価アルコール類、エステル類、グリコール類、アルコールエーテル類、糖類、アミノ酸類、有機アミン類、高分子エマルジョン、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン類、ポリオキシエチレンラウリル硫酸エーテル等のアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、紫外線吸収剤、油ゲル化剤、保湿剤、水性成分、噴射剤、酸化防止剤、酸化防止助剤、美容成分、防腐剤、水溶性高分子、水、皮膜形成剤、褪色防止剤、香気保留剤、増粘剤、消泡剤、殺菌剤、消臭剤、染料、顔料、パール剤、キレート剤、ゲル化剤等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらは、1種を単独で或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
本実施形態の香料組成物は、被賦香成分の性状及び必要に応じて配合される各種添加剤に応じて、任意の形態で使用することができ、その使用形態は特に限定されない。例えば、液状、ゲル状、半固形状、ジェル状、固形状、粉末状、ミスト状、エアゾール状、エマルジョン状、サスペンション状の形態で使用することができる。また、本実施形態の香料組成物は、糸、織編物、織布、不織布、紙等の有機或いは無機繊維、樹脂、衣料素材、衣類等の基材に、噴霧、塗布、吸着、混合、分散、乳化、混練、担持、浸透或いは含浸等させた形態で使用することもできる。さらに、本実施形態の香料組成物は、マイクロカプセル等を用いて被賦香成分に付与することもできる。なお、本実施形態の式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物及び香料組成物は、ディフューザーを用いて、その香りを散布或いは拡散させることもできる。
【0039】
本実施形態の香料組成物中における式(1)で表されるカルボン酸エステル化合物の含有量は、目的とする香気の種類及び香気の強さ、併用される他の香料成分の種類及び量、所望する香気持続性、使用形態等に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、香料組成物の総量に対して0.01~90質量%であることが好ましく、0.1~50質量%であることがより好ましい。
【0040】
[用途]
式(1)で表わされるカルボン酸エステル化合物は、清潔感のあるフルーティ、アップル様香気を有しており、嗜好性が高く、優れた香気特性を有している。したがって、式(1)で表わされるカルボン酸エステル化合物は、香気成分(賦香成分)として、その他の成分に配合して使用することができることから、本実施形態の一つは、式(1)で表わされるカルボン酸エステル化合物を含有する組成物である。本実施形態の組成物は、式(1)で表わされるカルボン酸エステル化合物及びその他の任意の成分を含むものであれば特に制限されない。組成物の種類としては、特に制限されないが、化粧料組成物、食品添加物組成物、洗浄用組成物等が好適に挙げられる。
【0041】
また、式(1)で表わされるカルボン酸エステル化合物は、例えば、香粧品類、健康衛生材料、日用品、雑貨品、繊維、繊維製品、衣料品、食品、医薬部外品、医薬品等の各種製品の香気成分(賦香成分)として単独で又は調合香料素材として幅広く利用することができ、また、配合対象物の香気の改良を行うために使用することもできる。
【0042】
各種製品の具体例としては、例えば、フレグランス製品、基礎化粧品、仕上げ化粧品、頭髪化粧品、毛髪用化粧品、肌用化粧品、日焼け化粧品、薬用化粧品、石鹸、身体洗浄剤、入浴剤、洗剤、柔軟剤、漂白剤、消毒用洗剤類、消臭洗剤類、ファーニチアケアー、各種洗浄剤、ガラスクリーナー、家具クリーナー、床クリーナー、消毒剤、殺虫剤、漂白剤、エアゾール剤、消臭剤、芳香剤、消臭芳香剤、忌避剤、その他の雑貨類等が挙げられる。
【0043】
より具体的には、例えば、香水、パルファム、オードパルファム、オードトワレ、コロン類、フレグランスパウダー、練り香水、シャンプー、コンディショナー類、リンス類、リンスインシャンプー、ヘアートニック、ヘアークリーム類、ブリランチン、セットローション、ヘアーステック、ヘアーソリッド、ヘアーオイル、ヘアームース、ヘアージェル、ヘアーポマード、ヘアーリキッド、ヘアースプレー、ヘアカラー、ヘアパック、養毛剤、染毛剤、化粧水、乳液、ボディーローション、ボデーパウダー、ボディソープ、ハンドソープ、ハンドクリーム、ボディクリーム、アロマオイル、美容液、クリーム、乳液、パック、ファンデーション、おしろい、口紅、洗顔フォーム、洗顔クリーム、メイク落とし、パック、バニシングクリーム、クレンジングクリーム、コールドクリーム、マッサージクリーム、あぶらとり紙、ファンデーション、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ、口紅、下地料、粉おしろい、固形おしろい、タルカムパウダー、リップクリーム、頬紅、眉墨、アイパック、ネイルエナメル、エナメルリムバー、化粧石鹸、浴用石鹸、香水石鹸、透明石鹸、合成石鹸、液体石鹸、バスソルト、バスタブレット、バスリキッド、フォームバス、バスオイル、バスカプセル)、ミルクバス、バスジェリー、バスキューブ、制汗剤、リップクリーム、シェービングフォーム、アフターシェービングローション、シェービングジェル、育毛ローション、パーマネントウェーブ剤、薬用石鹸、薬用シャンプー、薬用皮膚化粧料、皿洗い洗剤、台所用洗剤、食器用洗剤、洗濯用洗剤、衣料用重質洗剤、衣料用軽質洗剤、液体洗剤、コンパクト洗剤、粉石鹸、ソフトナー類、ファーニチアケアー、消毒用洗剤類、消臭洗剤類、排水管用洗浄剤、酸化型漂白剤、還元型漂白剤、光学的漂白剤、エアゾール剤、固形状/ゲル状/リキッド状の消臭剤、固形状/ゲル状/リキッド状の芳香剤、固形状/ゲル状/リキッド状の消臭芳香剤、クレンザー、ガラスクリーナー、家具クリーナー、皮革クリーナー、床クリーナー、ハウスクリーナー、繊維用洗浄剤、皮革洗浄剤、トイレ洗浄剤、浴室用洗浄剤、ガラスクリーナー、カビ取り剤、ファーニチアケアー、ガラスクリーナー、家具クリーナー、床クリーナー、消毒剤、殺虫剤、歯磨、マウスウォッシュ、入浴剤、制汗製品、日焼け止めクリーム、パーマ液、脱毛剤、軟膏、パップ剤、軟膏剤、貼付剤、育毛剤、うがい薬、トイレットペーパー、ティッシュペーパー、香り紙、ルームフレグランス、アロマキャンドル、アロマオイル等が挙げられる。
【0044】
これら各種製品における使用量は、目的とする香気の種類及び香気の強さ、併用される他の香料成分の種類及び量、所望する香気持続性、使用形態、使用環境等に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、式(1)で表わされるカルボン酸エステル化合物として、0.001~50質量%が好ましく、0.01~20質量%がより好ましい。
【実施例
【0045】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において特に断りのない限り、「部」は「質量部」を表す。
【0046】
以下に、実施例における測定方法を示す。
<ガスクロマトグラフィー分析条件>
ガスクロマトグラフィーは、株式会社島津製作所製のガスクロマトグラフGC-2010とキャピラリーカラムとして信和化工株式会社製のULBON HR-1(0. 32mmφ×25m×0.50μm)を用いて実施した。なお、昇温条件としては、100℃から300℃まで5℃/min.で昇温した。
検出器:FID(検出器温度310℃)
カラム:HR-1 Capillary column
カラム温度:100℃(昇温速度5℃/分)
キャリアガス:N2 (流量1.8mL/分)
試料注入温度:310℃
試料注入量:0.2μL
注入口温度:310℃
保持時間:0分
【0047】
<カルボン酸エステル化合物の収率>
ガスクロマトグラフィー分析により、目的生成物である式(1)で表わされる化合物と、副生成物であるその異性体(この異性体には、式(1)で表わされる化合物は含まれない。)の面積割合(GC%)を求めた。なお、以下では、式(1)で表わされる化合物とその異性体との混合物を「異性体含有カルボン酸エステル化合物」と称する。
【0048】
<GC-MS>
株式会社島津製作所製のGC-MSスペクトル装置GCMS-QP2010 ULTRAを用いて実施した。
【0049】
1H-NMRスペクトル分析>
日本電子株式会社製のNMR装置ECA-500を用いて測定した。内部標準物質はテトラメチルシラン(TMS)を用いた。
【0050】
<実施例1>7-(2,2-ジメチルシクロブチル)-5-メチルビシクロ[3.2.1]オクタン-1-カルボン酸エチルエステルの合成
【0051】
【化6】
【0052】
磁力誘導撹拌式攪拌機と上部に3個の入口ノズル及び底部に1個の抜き出しノズルとを備え、ジャケットにより内部温度を調整可能な、内容積500mlのステンレス製オートクレーブを用いて実験を行った。
まず、オートクレーブ内部を一酸化炭素で置換した後、このオートクレーブ内部に無水HF100g(5.0モル)を導入し、液温を0℃にした後、オートクレーブ内部を一酸化炭素にて2.0MPaまで加圧した。そして、オートクレーブ内部の温度を0℃に且つ圧力を2.0MPaに保持しながら、オートクレーブ上部より式(2)で表されるβ-カリオフィレン102g(0.5モル)と、ヘプタン100gと、エタノール4.6g(0.1モル)の混合液を供給し、原料の供給終了後、1時間攪拌を継続した(カルボニル化反応工程)。
【0053】
次に、カルボニル化反応に引き続いて2.0MPa条件下で、オートクレーブ内部の温度を降温し、0℃に保ちながら、オートクレーブ上部よりエタノール23g(0.5モル)を供給し、原料の供給終了後、1時間攪拌を継続した(エステル化反応工程)。
その後、反応生成液をオートクレーブ底部より氷水中に抜き出し、油相と水相とを分離させた後、油相を回収し、この油相を2質量%水酸化ナトリウム水溶液100mlで2回、蒸留水100mlで2回洗浄し、さらに無水硫酸ナトリウム10gで脱水した。そして、最終的に得られた液からサンプルを採取し、このサンプルを用いてガスクロマトグラフィーを測定した。その結果、異性体含有カルボン酸エステル化合物の収率は、37.4%(GC面積%)であった。
【0054】
また、GC-MSで分析した結果、主生成物の分子量は278.4を示した。
さらに、重クロロホルム溶媒中での1H-NMR(1H-NMRのスペクトルデータを図1に示した。)、13C-NMR、HMQC、HMBC、INADEQUAT測定により、主生成物が7-(2,2-ジメチルシクロブチル)5-メチルビシクロ[3.2.1]オクタン-1-カルボン酸エチルエステルであることを確認した。なお、13C-NMR、HMQC、HMBC、INADEQUATの測定についても、1H-NMRの測定と同様の装置、サンプルを使用した。
1H-NMRにおいて、7-(2,2-ジメチルシクロブチル)-5-メチルビシクロ[3.2.1]オクタン-1-カルボン酸エチルエステルでの以下の特徴的なピークが観測された。
EtO基;-OCH2CH3のメチレンの水素:4.11ppm(q,J=7.5Hz,2H)
EtO基;-OCH2CH3のメチルの水素:1.25ppm(t,J=7.5Hz,3H)
3つのメチル基の水素:0.98ppm(s,3H)、0.96ppm(s,3H)、0.89ppm(s,3H)
なお、上記の化学シフト値はTMS基準であり、sはシグナルが単一線(シングレット)であることを表し、tはシグナルが三重線(トリプレット)であることを表し、qはシグナルが四重線(カルテット)であることを表す。
また、13C-NMRにおいて、7-(2,2-ジメチルシクロブチル)-5-メチルビシクロ[3.2.1]オクタン-1-カルボン酸エチルエステルのカルボニル基の炭素原子が、176.7ppmに観測された。
【0055】
<実施例2>
カルボニル化反応工程を-20℃で行ったこと以外は、実施例1と同様にカルボニル化反応工程とエステル化反応工程と反応生成液の処理を行った。
得られた液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、異性体含有カルボン酸エステル化合物の収率は、23.8%(GC面積%)であった。
【0056】
<実施例3>
カルボニル化反応工程を1.0MPaの一酸化炭素加圧下で行ったこと以外は、実施例1と同様にカルボニル化反応工程とエステル化反応工程と反応生成液の処理を行った。
得られた液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、異性体含有カルボン酸エステル化合物の収率は、18.9%(GC面積%)であった。
【0057】
実施例1~3で得られた、7-(2,2-ジメチルシクロブチル)-5-メチルビシクロ[3.2.1]オクタン-1-カルボン酸エチルエステルを含むサンプルは、清潔感のあるフルーティ、アップル様香気を有しており、嗜好性が高く、優れた香気特性を有していた。
【0058】
<実施例4>
表1に示す組成を持つ香料組成物95質量部に、実施例1で得られたカルボン酸エステル化合物を5質量部加え、実施例4の香料組成物を得た。表1に示す組成を持つ香料組成物はフルーツタイプの香料組成物であるが、実施例1で得られたカルボン酸エステル化合物を加えることによりフレッシュなフルーティー感を付与し、嗜好性の高いフルーツタイプの香料組成物を得ることができた。
【0059】
なお、実施例により得られた化合物、及び香料組成物の香気評価は、調香香料評価業務の熟練したパネラーにより行われた。
【0060】
【表1】
【0061】
本出願は、2018年 7月13日出願の日本特許出願(特願2018-132789号)に基づくものであり、それらの内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によるカルボン酸エステル化合物は、医薬、農薬、香料、機能性樹脂、光学機能性材料及び電子機能性材料等の分野で産業上の利用可能性を有する。
図1