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特許7255633パワーデバイス封止用樹脂組成物およびパワーデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】パワーデバイス封止用樹脂組成物およびパワーデバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/29 20060101AFI20230404BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20230404BHJP
   C08G 59/20 20060101ALI20230404BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20230404BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20230404BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20230404BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
H01L23/30 R
C08G59/20
C08G59/40
C08K3/36
C08K9/04
C08L63/00 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021079008
(22)【出願日】2021-05-07
(62)【分割の表示】P 2020519474の分割
【原出願日】2019-10-17
(65)【公開番号】P2021119248
(43)【公開日】2021-08-12
【審査請求日】2021-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2018206796
(32)【優先日】2018-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】北田 哲也
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-062172(JP,A)
【文献】国際公開第2006/011662(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/065152(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/015981(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/00 ~ 23/56
C08G 59/00 ~ 59/72
C08K 3/00 ~ 3/40
C08K 9/00 ~ 9/12
C08L 63/00 ~ 63/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、無機充填剤(B)、フェノール系硬化剤(C)および硬化促進剤(D)を含むパワーデバイス封止用樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂(A)は、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂およびo-クレゾールノボラックエポキシ樹脂から選択される少なくとも1つを含み、
前記無機充填剤(B)が、カップリング剤で表面修飾された球状溶融シリカを含み、
前記フェノール系硬化剤(C)は、フェノールアラルキル型フェノール樹脂を含み、
前記フェノール系硬化剤(C)に対する前記エポキシ樹脂(A)の量が、官能基のモル当量で0.9~1.5であり、
前記封止用樹脂組成物を、175℃、2分の条件で成形し、175℃、4時間の条件でアフターキュアして得られた、直径100mm、厚さ2mmの試験片について、以下(i)~(v)の順番に従って熱刺激脱分極電流法による測定を行ったときに得られる電流-時間曲線の半値幅が800秒以下である封止用樹脂組成物。
(i)電圧をかけずに5℃/分の速さで前記試験片の温度を150℃まで昇温する。
(ii)前記試験片の温度を150℃に維持したまま、500Vの一定電圧を30分印加する。
(iii)500Vの一定電圧を印加したまま、5℃/分の速さで前記試験片の温度を45℃まで降温する。
(iv)前記試験片の温度を45℃に維持したまま、電圧の印加を停止し、5分静置する。
(v)試験片に電圧をかけずに、3.5℃/分の速さで前記試験片を昇温し、この昇温時に流れる電流値を測定し、電流-時間曲線を得る。
【請求項2】
請求項1に記載の封止用樹脂組成物であって、
前記電流-時間曲線におけるピークの高さが、800pA以上である封止用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の封止用樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量が100~400g/eqである封止用樹脂組成物。
【請求項4】
基板と、前記基板上に搭載されたパワー素子と、前記電子素子を封止する封止材とを備え、
前記封止材が、請求項1~のいずれか1項に記載の封止用樹脂組成物の硬化物を含むパワーデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーデバイス封止用樹脂組成物およびパワーデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
各種の電子装置を封止するための封止用樹脂組成物として、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物が盛んに開発されている。
例えば、特許文献1には、成形時の粘度を低く保持すること等を目的として、特定の一般式で表されるエポキシ化合物と、特定の一般式で表されるフェノール樹脂と、無機充填材とを含む、半導体封止用のエポキシ樹脂組成物が記載されている。
また、特許文献2には、熱伝導性、難燃性、強度、成形性が良好で、成形時の金型からの離型性、バリの抑制に優れた環境対応型の封止用エポキシ樹脂組成物として、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック樹脂、トリフェニルホスフィン、特定の複数種のシリカ粒子の混合物、ホスファゼン化合物、並びに金属水和物および/またはホウ酸金属塩を必須成分とする封止用エポキシ樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-256475号公報
【文献】特開2012-067252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、パワーデバイス、特に高耐圧パワーデバイスの需要が拡大している。
例えば、運輸分野では、電気自動車(EV)の普及や、新興国での鉄道整備などにより、高耐圧パワーデバイスの需要が拡大している。また、民生分野でも、いわゆるエコ家電やスマートハウスの普及に伴い高耐圧パワーデバイスの需要が増大する傾向にある。
【0005】
高耐圧パワーデバイスの信頼性評価の方法として、高温逆バイアス試験という評価方法が知られている。この試験は、英語:High Temperature Reverse Biasの頭文字をとって、HTRB試験とも呼ばれる。
具体的には、HTRB試験では、封止材を含むパワーデバイス(封止材で封止されたパワー素子等)に対し、高温で長時間電圧を印加して、リーク電流の上昇具合や、降伏電圧の低下具合などが評価される。ここで、「高温」とは例えば150~175℃程度、「長時間」とは例えば数百時間程度、印加電圧は例えば数百~千ボルト程度である。
【0006】
あるパワーデバイスに対して電圧を印加してHTRB試験を一度行い、その後、そのパワーデバイスに対して再度電圧を印加したときに、リーク電流が増加したり、降伏電圧の低下が起こったりしたならば、HTRB試験「不合格」である。一方、HTRB試験の後でも、リーク電流の増加や降伏電圧の低下が起こらないパワーデバイスは、「HTRB耐性が優れている」と言える。
【0007】
HTRB耐性が優れているか否かは、もちろん、封止材で封止されているパワー素子等に依るところが大きい。一方で、本発明者の知見によれば、同じパワー素子であっても、封止に用いる封止用樹脂組成物を変えることにより、HTRB耐性は変化する。つまり、封止材(封止用樹脂組成物)を改良することで、パワーデバイスのHTRB耐性を高められると考えられる。
しかし、本発明者が知る限りにおいて、HTRB耐性という観点で、従来の封止用樹脂組成物の性能には改善の余地があった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明は、高温逆バイアス試験に対する耐性(HTRB耐性)が優れたパワーデバイスを製造可能な封止用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、様々な観点から、HTRB耐性を高めるための封止用樹脂組成物の設計、HTRB耐性に関わる因子等について検討した。検討の結果、封止用樹脂組成物の硬化物について、特定の条件で熱刺激脱分極電流法による測定を行ったときに得られる電流-時間曲線の半値幅が、HTRB耐性と密接に関係していることを知見した。
本発明者は、この知見に基づきさらに検討を進め、以下に提供される発明を完成させた。そして上記課題を解決した。
【0010】
本発明は、以下である。
【0011】
エポキシ樹脂(A)、無機充填剤(B)、フェノール系硬化剤(C)および硬化促進剤(D)を含むパワーデバイス封止用樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂(A)は、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂およびo-クレゾールノボラックエポキシ樹脂から選択される少なくとも1つを含み、
前記無機充填剤(B)が、カップリング剤で表面修飾された球状溶融シリカを含み、
前記フェノール系硬化剤(C)は、フェノールアラルキル型フェノール樹脂を含み、
前記フェノール系硬化剤(C)に対する前記エポキシ樹脂(A)の量が、官能基のモル当量で0.9~1.5であり、
前記封止用樹脂組成物を、175℃、2分の条件で成形し、175℃、4時間の条件でアフターキュアして得られた、直径100mm、厚さ2mmの試験片について、以下(i)~(v)の順番に従って熱刺激脱分極電流法による測定を行ったときに得られる電流-時間曲線の半値幅が800秒以下である封止用樹脂組成物。
(i)電圧をかけずに5℃/分の速さで前記試験片の温度を150℃まで昇温する。
(ii)前記試験片の温度を150℃に維持したまま、500Vの一定電圧を30分印加する。
(iii)500Vの一定電圧を印加したまま、5℃/分の速さで前記試験片の温度を45℃まで降温する。
(iv)前記試験片の温度を45℃に維持したまま、電圧の印加を停止し、5分静置する。
(v)試験片に電圧をかけずに、3.5℃/分の速さで前記試験片を昇温し、この昇温時に流れる電流値を測定し、電流-時間曲線を得る。
【0012】
また、本発明は、以下である。
【0013】
基板と、前記基板上に搭載されたパワー素子と、前記パワー素子を封止する封止材とを備え、
前記封止材が、上記の封止用樹脂組成物の硬化物を含むパワーデバイス。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高温逆バイアス試験に対する耐性(HTRB耐性)が優れたパワーデバイスを製造可能な封止用樹脂組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0016】
図1】パワーデバイスの一例を示す断面図である。
図2】パワーデバイスの一例(図1とは異なる)を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
煩雑さを避けるため、(i)同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合や、(ii)特に図2以降において、図1と同様の構成要素に改めては符号を付さない場合がある。
すべての図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応するものではない。
【0018】
本明細書中、「略」という用語は、特に明示的な説明の無い限りは、製造上の公差や組立て上のばらつき等を考慮した範囲を含むことを表す。
本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0019】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
本明細書における「有機基」の語は、特に断りが無い限り、有機化合物から1つ以上の水素原子を除いた原子団のことを意味する。例えば、「1価の有機基」とは、任意の有機化合物から1つの水素原子を除いた原子団のことを表す。
【0020】
<封止用樹脂組成物>
本実施形態のパワーデバイス封止用樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、無機充填剤(B)および硬化剤(C)を含む。
この封止用樹脂組成物を、175℃、2分の条件で成形し、175℃、4時間の条件でアフターキュアして得られた、直径100mm、厚さ2mmの試験片について、以下(i)~(v)の順番に従って熱刺激脱分極電流法による測定を行ったときに得られる電流-時間曲線の半値幅は、800秒以下である。
(i)電圧をかけずに5℃/分の速さで試験片の温度を150℃まで昇温する。
(ii)試験片の温度を150℃に維持したまま、500Vの一定電圧を30分印加する。
(iii)500Vの一定電圧を印加したまま、5℃/分の速さで試験片の温度を45℃まで降温する。
(iv)試験片の温度を45℃に維持したまま、電圧の印加を停止し、5分静置する。
(v)試験片に電圧をかけずに、3.5℃/分の速さで試験片を昇温し、この昇温時に流れる電流値を測定し、電流-時間曲線を得る。
【0021】
本実施形態の封止用樹脂組成物の説明の前に、まず、熱刺激脱分極電流法について説明する。
熱刺激脱分極電流法は、Thermally Stimulated Depolarization Currentの頭文字をとって、TSDC法とも呼ばれる。
TSDC法による測定は、通常、以下の手順で行われる。
(1)試料をある温度Tまで昇温し、一定の電圧Vを印加する。
(2)試料を(1)の状態に適当時間保持したのち、電圧Vを印加したまま試料を一定温度Tまで冷却する。これにより、試料中の分極を凍結する。
(3)温度Tのまま電圧を解除して、試料を一定時間静置する。
(4)試料を一定速度で昇温する。このときに試料から流れる電流(脱分極電流)を記録する。
【0022】
簡単に言うと、TSDC法とは、まず、試料に電圧を印加することで試料内部に分極を発生させ、その後、電圧をかけずにその試料を昇温して分極が緩和する際の電流(温度と脱分極電流の関係)を測定するというものである。
TSDC法による測定は、例えば、株式会社リガク製の装置:TS―POLARを用いて行うことができる。
【0023】
特に高分子試料においては、昇温の際の分極の緩和(脱分極電流の挙動)が、試料中の高分子の分子運動を反映したものとなる。換言すると、高分子試料においては、電気的な分極の緩和と高分子自体の構造緩和には対応関係がある。
【0024】
本発明者は、HTRB耐性が優れたパワーデバイスを製造可能な封止用樹脂組成物の検討に際し、HTRB耐性に関係するかもしれない様々な因子を検討した。検討の中で、種々の封止用樹脂組成物の硬化物を、TSDC法により測定して、脱分極電流の挙動と、HTRB耐性とが相関していないかについても検討した。
【0025】
検討を通じ、本発明者は、封止用樹脂組成物の硬化物をTSDC法により測定したときの、脱分極電流の電流-時間曲線(通常、1つのピークを有する山型の曲線である)のピークの幅、具体的には「半値幅」が、HTRB耐性の良し悪しと密接に関係しているらしいことを知見した。より具体的には、この半値幅が比較的小さい封止用樹脂組成物の硬化物で封止されたパワーデバイスが、良好なHTRB耐性を示すらしいことを知見した。
【0026】
この知見に基づき、本発明者は、脱分極電流の電流-時間曲線における半値幅が一定値以下となる硬化物を製造可能な、新たな封止用樹脂組成物を設計した。つまり、硬化物を特定条件(上述)での熱刺激脱分極電流法により測定したときに、電流-時間曲線における半値幅が800秒以下となる封止用樹脂組成物を新たに設計し、調製した。これによりHTRB耐性が優れたパワーデバイスを製造可能な封止用樹脂組成物を得ることができた。
【0027】
硬化物をTSDC法により測定したときの電流-時間曲線の半値幅が800秒以下となる封止用樹脂組成物により、HTRB耐性が優れたパワーデバイスが製造可能となる理由は必ずしも明らかでない。しかし、本発明者の知見、推測等に基づけば、以下のように説明することができる。
なお、以下説明は推測を含む。また、以下説明により本発明は限定的に解釈されるべきものではない。
【0028】
前述の事項の繰り返しとなるが、高分子試料において、TSDC法により測定される電流-時間曲線は、電圧が印加されて分極した高分子の、電圧印加が停止された後の構造緩和を反映する。
「高分子の構造緩和」と一口に言っても、(1)比較的小さな原子団(例えばヒドロキシ基などの極性基)の局所的な運動による構造緩和、(2)高分子側鎖の運動による構造緩和、(3)高分子鎖全体の運動による構造緩和、など、様々なモードがあり得る。そして、これら(1)~(3)等の構造緩和に由来する電流の総和として、電流-時間曲線は、通常、1つのピーク(極大)を有する山型の曲線となる。
【0029】
ここで、電流-時間曲線のピークの半値幅が「大きい」(例えば800秒超)ということは、上記(1)~(3)の構造緩和が「万遍なく」起こっていることに対応すると解釈できる。つまり、上記(1)~(3)等の構造緩和が起こる温度はそれぞれ異なり、それらの構造緩和による脱分極電流の総和が、「ブロードなピークの」電流-時間曲線として表されると考えられる。
【0030】
一方、電流-時間曲線の半値幅が「小さい」(例えば800秒以下)ということは、上記(1)~(3)のうち、少なくとも例えば(3)の構造緩和が少なく抑えられていることに対応すると解釈できる。
((1)や(2)の構造緩和が少なく抑えられている可能性もあるが、ヒドロキシ基などの小さな原子団そのものの運動を抑えることは原理上難しいから、(3)の構造緩和が少なく抑えられている可能性が高い。)
【0031】
電圧印加停止後の構造緩和が((3)のモードだけでも)抑えられているということは、そもそも、電圧を印加したときの分極や構造変化が一定程度抑えられているということを意味する。
つまり、電流-時間曲線の半値幅が小さい硬化物(そしてそのような硬化物を得るための封止用樹脂組成物)は、電圧印加時の分極が比較的小さい。その結果、そのような硬化物で封止されたパワーデバイスにおいては、HTRB試験におけるリーク電流の増加や降伏電圧の低下が抑えられると考えられる。
【0032】
また、別観点として、上記(1)や(2)の構造緩和は比較的低温で起こると考えられる。つまり、相対的に(1)や(2)の構造緩和が多く、(3)の構造緩和が少ない硬化物は、電圧印加後に電荷が「残りにくい」ということができる。電荷が残りにくい硬化物(およびそのような硬化物を得るための封止用樹脂組成物)によりパワーデバイスが封止されていることで、パワーデバイスのHTRB耐性が良好となると考えられる。
【0033】
なお、半値幅は800秒以下であればよいが、好ましくは780秒以下、より好ましくは750秒以下である。基本的には半値幅が狭いほどHTRB耐性は良化する傾向にある。
半値幅の下限値については特にないが、通常500秒以上、より具体的には600秒以上である。
【0034】
また、電流-時間曲線の極大値(ピークの高さ)について特に限定はないが、例えば750pA以上、好ましくは800pA以上、より好ましくは820pA以上である。なお、このピークの高さの上限については、例えば1500pA以下、好ましくは1350pA以下、より好ましくは1250pA以下である。
【0035】
本実施形態では、たとえば封止用樹脂組成物を調製する際の原材料の種類や配合量、封止用樹脂組成物の調製方法などを適切に選択することにより、硬化物を特定条件のTSDC法により測定したときの電流-時間曲線の半値幅を800秒以下とすることができる。
特に、封止用樹脂組成物の調製方法(製造方法)は重要である。同一または類似の原材料を用いたとしても、調製方法が不適切な場合には、硬化物の電流-時間曲線の半値幅を800秒以下とできない場合がある。
封止用樹脂組成物の調製方法(製造方法)の詳細については追って述べる。
【0036】
本実施形態の封止用樹脂組成物が含有する、または含有してもよい成分について説明する。
【0037】
(エポキシ樹脂(A))
本実施形態の封止用樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)を含む。
エポキシ樹脂としては、1分子内にエポキシ基を2個以上有する(つまり、多官能の)モノマー、オリゴマー、ポリマー全般を用いることができる。
エポキシ樹脂としては、特に、非ハロゲン化エポキシ樹脂が好ましい。
【0038】
エポキシ樹脂(A)としては、たとえばビフェニル型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂;フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂等のフェノールアラルキル型エポキシ樹脂;ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンの2量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂等のナフトール型エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等のトリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等の有橋環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0039】
エポキシ樹脂(A)は、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂(例えばo-クレゾールノボラックエポキシ樹脂)、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、およびトリフェノールメタン型エポキシ樹脂のうちの少なくとも1つを含むことがより好ましい。
また、パワーデバイスの反りを抑制する観点からは、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂およびノボラック型エポキシ樹脂のうちの少なくとも一つを含むことがとくに好ましい。さらに流動性を向上させるためにはビフェニル型エポキシ樹脂がとくに好ましく、高温の弾性率を制御するためにはビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂がとくに好ましい。
【0040】
エポキシ樹脂(A)としては、例えば下記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂、下記一般式(2)で表されるエポキシ樹脂、下記一般式(3)で表されるエポキシ樹脂、下記一般式(4)で表されるエポキシ樹脂、および下記一般式(5)で表されるエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含有するものを用いることができる。これらの中でも、下記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂、および下記一般式(4)で表されるエポキシ樹脂から選択される一種以上を含むものがより好ましい態様の一つとして挙げられる。
【0041】
【化1】
【0042】
一般式(1)中、
Arはフェニレン基またはナフチレン基を表し、Arがナフチレン基の場合、グリシジルエーテル基はα位、β位のいずれに結合していてもよい。
Arはフェニレン基、ビフェニレン基またはナフチレン基のうちのいずれか1つの基を表す。
およびRは、それぞれ独立に炭素数1~10の炭化水素基を表す。
gは0~5の整数であり、hは0~8の整数である。nは重合度を表し、その平均値は1~3である。
【0043】
【化2】
【0044】
一般式(2)中、
複数存在するRcは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1~4の炭化水素基を表す。
は重合度を表し、その平均値は0~4である。
【0045】
【化3】
【0046】
一般式(3)中、
複数存在するRおよびRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基を表す。
は重合度を表し、その平均値は0~4である。
【0047】
【化4】
【0048】
一般式(4)中、
複数存在するRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基を表す。
は重合度を表し、その平均値は0~4である。
【0049】
【化5】
【0050】
一般式(5)中、
複数存在するRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基を表す。
は重合度を表し、その平均値は0~4である。
【0051】
エポキシ樹脂(A)の数分子量は特に限定されず、流動性、硬化性などの観点から適宜選択すればよい。一例として数分子量は100~700程度である。
また、流動性などの観点から、エポキシ樹脂(A)の、150℃でのICI粘度は、0.1~5.0poiseであることが好ましい。
【0052】
封止用樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
【0053】
エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、好ましくは100~400g/eq、より好ましくは150~350g/eqである。なお、封止用樹脂組成物が複数のエポキシ樹脂(A)を含む場合、複数のエポキシ樹脂(A)全体としてのエポキシ当量が、上記数値となることが好ましい。
【0054】
封止用樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)の量の下限値は、封止用樹脂組成物の全体に対して、例えば3質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上とすることが特に好ましい。エポキシ樹脂(A)の含有量を上記下限値以上とすることにより、封止用樹脂組成物の流動性を向上させ、成形性の向上を図ることができる。
一方、エポキシ樹脂(A)量の上限値は、封止用樹脂組成物の全体に対して、例えば50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。エポキシ樹脂(A)の含有量を上記上限値以下とすることにより、封止用樹脂組成物を用いて形成される封止材を備えるパワーデバイスの、耐湿信頼性や耐リフロー性を向上させることができる。
【0055】
エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量を適切に選択したり、封止用樹脂組成物中のエポキシ樹脂(A)の量を適切に調整したりすることで、組成物中の硬化反応が最適化されやすくなる。そのため、よりHTRB耐性を高めやすくなると考えられる。
また、エポキシ当量やエポキシ樹脂の量を適切に調整することで、組成物の硬化/流動特性などを適切に調整することもできると考えられる。なお、硬化/流動特性は、例えばスパイラルフローやゲルタイムにより評価することができる。
【0056】
(無機充填剤(B))
本実施形態の封止用樹脂組成物は、無機充填剤(B)を含む。
無機充填剤(B)として具体的には、シリカ、アルミナ、チタンホワイト、水酸化アルミニウム、タルク、クレー、マイカ、ガラス繊維等が挙げられる。
【0057】
無機充填剤(B)としては、シリカが好ましい。シリカとしては、溶融破砕シリカ、溶融球状シリカ、結晶シリカ、2次凝集シリカ等を挙げることができる。これらの中でも特に溶融球状シリカが好ましい。
【0058】
無機充填剤(B)は、通常、粒子である。粒子の形状は、略真球状であることが好ましい。
無機充填剤(B)の平均粒径は、特に限定されないが、典型的には1~100μm、好ましくは1~50μm、より好ましくは1~20μmである。平均粒径が適当であることにより、硬化時の適度な流動性を確保すること等ができる。
無機充填剤(B)の平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(例えば、株式会社堀場製作所製の湿式粒度分布測定機LA-950)により体積基準の粒子径分布のデータを取得し、そのデータを処理することで求めることができる。測定は、通常、乾式で行われる。
【0059】
シリカ等の無機充填剤(B)には、あらかじめ(全成分を混合して封止用樹脂組成物を調製する前に)シランカップリング剤などのカップリング剤による表面修飾が行われていてもよい。
これにより、無機充填剤(B)の凝集が抑制され、より良好な流動性を得ることができる。また、無機充填剤(B)と他の成分との親和性が高まり、無機充填剤(B)の分散性が向上する。このことは、硬化物の機械的強度の向上や、マイクロクラックの発生抑制などに寄与すると考えられる。
【0060】
無機充填剤(B)の表面処理に用いられるカップリング剤としては、後述のカップリング剤(E)として挙げているものを用いることができる。なかでも、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等の1級アミノシランを好ましく用いることができる。
無機充填剤(B)の表面に、エポキシ樹脂(A)と反応しうる基(アミノ基等)を修飾させることで、封止用樹脂組成物中での無機充填剤(B)の分散性を高めることができる。
また、無機充填剤(B)の表面処理に使用するカップリング剤の種類を適宜選択したり、カップリング剤の配合量を適宜調整したりすることにより、封止用樹脂組成物の流動性や、硬化後の強度等を制御しうる。
【0061】
カップリング剤による無機充填剤(B)の表面処理は、例えば次のように行うことができる。
まず、ミキサーを用いて無機充填剤(B)とカップリング剤を混合攪拌する。混合攪拌には、公知のミキサー、例えばリボンミキサー等を用いることができる。ミキサーの稼働方法としては、(i)あらかじめ無機充填剤(B)とカップリング剤をミキサー内に仕込んだうえで羽根を回してもよいし、(ii)まずは無機充填剤(B)のみを仕込んで羽根を回しつつ、スプレーノズル等でミキサー内に少しずつカップリング剤を加えるようにしてもよい。
【0062】
混合攪拌の際には、ミキサー内を低湿度(例えば湿度50%以下)とすることが好ましい。低湿度とすることにより、無機充填剤(B)の表面に水分が付着するのを抑制することができる。さらに、カップリング剤に水分が混入し、カップリング剤同士が反応してしまうのを抑制することができる。
【0063】
次いで、得られた混合物をミキサーから取り出し、エージング処理し、カップリング反応を促進させる。エージング処理は、例えば、20±5℃、40~50%RHの条件下で、1日間以上(好ましくは1~7日間)放置することにより行われる。このような条件でおこなうことにより、無機充填剤(B)の表面にカップリング剤を均一に結合させることができる。
エージング処理の後、ふるいにかけ、粗大粒子を除去することにより、表面処理(カップリング処理)が施された無機充填剤(B)が得られる。
【0064】
封止用樹脂組成物は、無機充填材(B)を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
無機充填材(B)の含有量の下限値は、封止用樹脂組成物の全体に対して35質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、65質量%以上であることがさらに好ましい。
無機充填材(B)の含有量の上限値は、例えば、95質量%以下であることが好ましく、93質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることがさらに好ましい。
無機充填剤(B)の量を適切に調整することで、十分なHTRB耐性を得つつ、組成物の硬化/流動特性などを適切に調整することもできると考えられる。
【0065】
(硬化剤(C))
本実施形態の封止用樹脂組成物は、硬化剤(C)を含む。
硬化剤(C)としては、エポキシ樹脂(A)と反応しうるものであれば特に制限は無い。例えば、フェノール系硬化剤、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、メルカプタン系硬化剤などが挙げられる。
これらの中でも、耐燃性、耐湿性、電気特性、硬化性、保存安定性等のバランスの点から、フェノール系硬化剤が好ましい。
【0066】
・フェノール系硬化剤
フェノール系硬化剤としては、封止用樹脂組成物に一般に使用されているものであれば特に制限はない。例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂をはじめとするフェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール、α-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のフェノール類とホルムアルデヒドやケトン類とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂、上記したフェノール類とジメトキシパラキシレン又はビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂などのフェノールアラルキル樹脂、トリスフェニルメタン骨格を有するフェノール樹脂などが挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
・アミン系硬化剤
アミン系硬化剤としては、ジエチレントリアミン(DETA)やトリエチレンテトラミン(TETA)やメタキシリレンジアミン(MXDA)などの脂肪族ポリアミン、ジアミノジフェニルメタン(DDM)やm-フェニレンジアミン(MPDA)やジアミノジフェニルスルホン(DDS)などの芳香族ポリアミンのほか、ジシアンジアミド(DICY)や有機酸ジヒドララジドなどを含むポリアミン化合物などが挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
・酸無水物系硬化剤
酸無水物系硬化剤としては、ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)やメチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)や無水マレイン酸などの脂環族酸無水物、無水トリメリット酸(TMA)や無水ピロメリット酸(PMDA)やベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)、無水フタル酸などの芳香族酸無水物などが挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
・メルカプタン系硬化剤
メルカプタン系硬化剤としては、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、トリメチロールエタントリス(3-メルカプトブチレート)などが挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
・その他硬化剤
その他の硬化剤としては、イソシアネートプレポリマーやブロック化イソシアネートなどのイソシアネート化合物、カルボン酸含有ポリエステル樹脂などの有機酸類などが挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
硬化剤(C)については、異種のものを2種以上組み合わせて用いてもよい。例えば、フェノール系硬化剤とアミン系硬化剤とを併用すること等も本実施形態に含まれる。
【0072】
封止用樹脂組成物は、硬化剤(C)を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
硬化剤(C)の量は、封止用樹脂組成物全体に対して0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、1.5質量%以上であることが特に好ましい。
一方、硬化剤(C)の含有量は、封止用樹脂組成物全体に対して9質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、7質量%以下であることが特に好ましい。
硬化剤(C)の量を適切に調整することで、十分なHTRB耐性を得つつ、組成物の硬化/流動特性などを適切に調整することもできると考えられる。
【0073】
別観点として、硬化剤(C)の量は、エポキシ樹脂(A)の量との関係で適切に調整されることが好ましい。具体的には、いわゆる「モル当量」(反応性基のモル比)が適切に調整されることが好ましい。
例えば、硬化剤(C)がフェノール系硬化剤である場合、フェノール系硬化剤に対するエポキシ樹脂(A)の量は、官能基のモル当量(エポキシ基/ヒドロキシ基)で、好ましくは0.9~1.5、より好ましくは1.0~1.4、さらに好ましくは1.0~1.3、特に好ましくは1.01~1.20である。
【0074】
(硬化促進剤(D))
本実施形態の封止用樹脂組成物は、硬化促進剤(D)を含む。硬化促進剤(D)は、エポキシ樹脂(A)と、硬化剤(C)との反応(典型的には架橋反応)を促進させるものであればよい。
【0075】
硬化促進剤(D)としては、例えば、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7、ベンジルジメチルアミン、2-メチルイミダゾール等が例示されるアミジンや3級アミン、アミジンやアミンの4級塩等の窒素原子含有化合物から選択される1種類または2種類以上を含むことができる。
これらの中でも、硬化性を向上させる観点からはリン原子含有化合物を含むことがより好ましい。また、成形性と硬化性のバランスを向上させる観点からは、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等の潜伏性を有するものを含むことがより好ましい。
【0076】
有機ホスフィンとしては、例えばエチルホスフィン、フェニルホスフィン等の第1ホスフィン;ジメチルホスフィン、ジフェニルホスフィン等の第2ホスフィン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の第3ホスフィンが挙げられる。
【0077】
テトラ置換ホスホニウム化合物としては、例えば下記一般式(6)で表される化合物等が挙げられる。
【0078】
【化6】
【0079】
一般式(6)において、
Pはリン原子を表す。
、R、RおよびRは、それぞれ独立に、芳香族基またはアルキル基を表す。
Aはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる官能基のいずれかを芳香環に少なくとも1つ有する芳香族有機酸のアニオンを表す。
AHはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる官能基のいずれかを芳香環に少なくとも1つ有する芳香族有機酸を表す。
x、yは1~3、zは0~3であり、かつx=yである。
【0080】
一般式(6)で表される化合物は、例えば、以下のようにして得られる。
まず、テトラ置換ホスホニウムハライドと芳香族有機酸と塩基を有機溶剤に混ぜ均一に混合し、その溶液系内に芳香族有機酸アニオンを発生させる。次いで水を加えると、一般式(6)で表される化合物を沈殿させることができる。一般式(6)で表される化合物において、リン原子に結合するR、R、RおよびRがフェニル基であり、かつAHはヒドロキシル基を芳香環に有する化合物、すなわちフェノール類であり、かつAは該フェノール類のアニオンであるのが好ましい。上記フェノール類としては、フェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコールなどの単環式フェノール類、ナフトール、ジヒドロキシナフタレン、アントラキノールなどの縮合多環式フェノール類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSなどのビスフェノール類、フェニルフェノール、ビフェノールなどの多環式フェノール類などが例示される。
【0081】
ホスホベタイン化合物としては、例えば、下記一般式(7)で表される化合物等が挙げられる。
【0082】
【化7】
【0083】
一般式(7)において、
Pはリン原子を表す。
は炭素数1~3のアルキル基、Rはヒドロキシル基を表す。
fは0~5であり、gは0~3である。
【0084】
一般式(7)で表される化合物は、例えば以下のようにして得られる。
まず、第三ホスフィンであるトリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩とを接触させ、トリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩が有するジアゾニウム基とを置換させる工程を経て得られる。
【0085】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物としては、例えば、下記一般式(8)で表される化合物等が挙げられる。
【0086】
【化8】
【0087】
一般式(8)において、
Pはリン原子を表す。
10、R11およびR12は、炭素数1~12のアルキル基または炭素数6~12のアリール基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。
13、R14およびR15は水素原子または炭素数1~12の炭化水素基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよく、R14とR15が結合して環状構造となっていてもよい。
【0088】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるホスフィン化合物としては、例えばトリフェニルホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリナフチルホスフィン、トリス(ベンジル)ホスフィン等の芳香環に無置換またはアルキル基、アルコキシル基等の置換基が存在するものが好ましく、アルキル基、アルコキシル基等の置換基としては1~6の炭素数を有するものが挙げられる。入手しやすさの観点からはトリフェニルホスフィンが好ましい。
【0089】
また、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるキノン化合物としては、ベンゾキノン、アントラキノン類が挙げられ、中でもp-ベンゾキノンが保存安定性の点から好ましい。
【0090】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物の製造方法としては、有機第三ホスフィンとベンゾキノン類の両者が溶解することができる溶媒中で接触、混合させることにより付加物を得ることができる。溶媒としてはアセトンやメチルエチルケトン等のケトン類で付加物への溶解性が低いものがよい。しかしこれに限定されるものではない。
【0091】
一般式(8)で表される化合物において、リン原子に結合するR10、R11およびR12がフェニル基であり、かつR13、R14およびR15が水素原子である化合物、すなわち1,4-ベンゾキノンとトリフェニルホスフィンを付加させた化合物が封止用樹脂組成物の硬化物の熱時弾性率を低下させる点で好ましい。
【0092】
ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物としては、例えば下記一般式(9)で表される化合物等が挙げられる。
【0093】
【化9】
【0094】
一般式(9)において、
Pはリン原子を表し、Siは珪素原子を表す。
16、R17、R18およびR19は、それぞれ、芳香環または複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。
20は、基YおよびYと結合する有機基である。
21は、基YおよびYと結合する有機基である。
およびYは、プロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基YおよびYが珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。
およびYはプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基YおよびYが珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。
20、およびR21は互いに同一であっても異なっていてもよく、Y、Y、YおよびYは互いに同一であっても異なっていてもよい。
は芳香環または複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基である。
【0095】
一般式(9)において、R16、R17、R18およびR19としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ナフチル基、ヒドロキシナフチル基、ベンジル基、メチル基、エチル基、n-ブチル基、n-オクチル基およびシクロヘキシル基等が挙げられ、これらの中でも、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ヒドロキシナフチル基等のアルキル基、アルコキシ基、水酸基などの置換基を有する芳香族基もしくは無置換の芳香族基がより好ましい。
【0096】
一般式(9)において、R20は、YおよびYと結合する有機基である。同様に、R21は、基YおよびYと結合する有機基である。YおよびYはプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基YおよびYが珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。同様にYおよびYはプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基YおよびYが珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。基R20およびR21は互いに同一であっても異なっていてもよく、基Y、Y、Y、およびYは互いに同一であっても異なっていてもよい。このような一般式(9)中の-Y-R20-Y-、およびY-R21-Y-で表される基は、プロトン供与体が、プロトンを2個放出してなる基で構成されるものであり、プロトン供与体としては、分子内にカルボキシル基、または水酸基を少なくとも2個有する有機酸が好ましく、さらには芳香環を構成する隣接する炭素にカルボキシル基または水酸基を少なくとも2個有する芳香族化合物が好ましく、芳香環を構成する隣接する炭素に水酸基を少なくとも2個有する芳香族化合物がより好ましく、例えば、カテコール、ピロガロール、1,2-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,2'-ビフェノール、1,1'-ビ-2-ナフトール、サリチル酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、クロラニル酸、タンニン酸、2-ヒドロキシベンジルアルコール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,2-プロパンジオールおよびグリセリン等が挙げられるが、これらの中でも、カテコール、1,2-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレンがより好ましい。
【0097】
一般式(9)中のZは、芳香環または複素環を有する有機基または脂肪族基を表し、これらの具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基およびオクチル基等の脂肪族炭化水素基や、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基およびビフェニル基等の芳香族炭化水素基、グリシジルオキシプロピル基、メルカプトプロピル基、アミノプロピル基等のグリシジルオキシ基、メルカプト基、アミノ基を有するアルキル基およびビニル基等の反応性置換基等が挙げられるが、これらの中でも、メチル基、エチル基、フェニル基、ナフチル基およびビフェニル基が熱安定性の面から、より好ましい。
【0098】
ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物の製造方法は、例えば以下である。
メタノールを入れたフラスコに、フェニルトリメトキシシラン等のシラン化合物、2,3-ジヒドロキシナフタレン等のプロトン供与体を加えて溶かし、次に室温攪拌下ナトリウムメトキシド-メタノール溶液を滴下する。さらにそこへ予め用意したテトラフェニルホスホニウムブロマイド等のテトラ置換ホスホニウムハライドをメタノールに溶かした溶液を室温攪拌下滴下すると結晶が析出する。析出した結晶を濾過、水洗、真空乾燥すると、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物が得られる。
【0099】
封止用樹脂組成物は、硬化促進剤(D)を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
硬化促進剤(D)の含有量は、封止用樹脂組成物の全体に対して0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.10質量%以上であることがさらに好ましい。
一方で、硬化促進剤(D)の含有量は、封止用樹脂組成物の全体に対して2.0質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることがさらに好ましい。
硬化促進剤(D)の量を適切に調整することで、十分なHTRB耐性を得つつ、組成物の硬化/流動特性などを適切に調整することもできると考えられる。
【0100】
(カップリング剤(E))
本実施形態の封止用樹脂組成物は、好ましくは、カップリング剤(E)を含む。なお、ここでのカップリング剤(E)は、カップリング剤(E)単体として封止用樹脂組成物に含まれるものである。例えば前述の、無機充填剤(B)の表面処理に用いられた(無機充填剤(B)と結合した)カップリング剤は、ここでのカップリング剤(E)には該当しない。
【0101】
カップリング剤(E)としては、たとえばエポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン、メタクリルシラン等の各種シラン系化合物、チタン系化合物、アルミニウムキレート類、アルミニウム/ジルコニウム系化合物等の公知のカップリング剤を用いることができる。
より具体的には、以下を例示することができる。
【0102】
・シラン系カップリング剤
ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-[ビス(β-ヒドロキシエチル)]アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(β-アミノエチル)アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N-(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N-(ジメトキシメチルシリルイソプロピル)エチレンジアミン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミンの加水分解物等。
【0103】
・チタネート系カップリング剤
イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート等。
【0104】
封止用樹脂組成物がカップリング剤(E)を含む場合、1種のみのカップリング剤(E)を含んでもよいし、2種以上のカップリング剤(E)を含んでもよい。
カップリング剤(E)の含有量は、封止用樹脂組成物の全体に対して0.1質量%以上であることが好ましく、0.15質量%以上であることがより好ましい。カップリング剤(E)の含有量を上記下限値以上とすることにより、無機充填材の分散性を良好なものとすることができる。
一方で、カップリング剤(E)の含有量は、封止用樹脂組成物の全体に対して1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。カップリング剤(E)の含有量を上記上限値以下とすることにより、封止成形時における封止用樹脂組成物の流動性を向上させ、充填性や成形性の向上を図ることができる。
【0105】
(その他の成分)
本実施形態の封止用樹脂組成物は、さらに必要に応じて、イオン捕捉剤、難燃剤、着色剤、離型剤、低応力剤、酸化防止剤、重金属不活性化剤等の各種添加剤を含んでもよい。
【0106】
イオン捕捉剤(イオンキャッチャー、イオントラップ剤などとも呼ばれる)としては、例えば、ハイドロタルサイトを用いることができる。また、ビスマス酸化物やイットリウム酸化物などもイオン捕捉剤として知られている。
イオン捕捉剤を用いる場合、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
イオン捕捉剤を用いる場合、その量は、封止用樹脂組成物の全体に対して例えば0.01~0.5質量%、好ましくは0.05~0.3質量%である。
【0107】
難燃材としては、無機系難燃剤(例えば水酸化アルミニウム等の水和金属系化合物、住友化学株式会社等から入手可能)、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、有機金属塩系難燃剤などを挙げることができる。
難燃剤を用いる場合、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
難燃材の量は、封止用樹脂組成物の全体に対して例えば0~15質量%、好ましくは0~10質量%である。
【0108】
着色剤としては、具体的には、カーボンブラック、ベンガラ、酸化チタン等が挙げられる。
着色剤を用いる場合、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
着色剤を用いる場合、その量は、封止用樹脂組成物の全体に対して例えば0.1~0.8質量%、好ましくは0.2~0.5質量%である。
【0109】
離型剤としては、天然ワックス、モンタン酸エステル等の合成ワックス、高級脂肪酸もしくはその金属塩類、パラフィン、酸化ポリエチレン等が挙げられる。
離型剤を用いる場合、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
離型剤を用いる場合、その量は、封止用樹脂組成物の全体に対して例えば0.1~0.8質量%、好ましくは0.2~0.5質量%である。
【0110】
低応力剤としては、例えば、シリコーンオイル、シリコーンゴム、ポリイソプレン、1,2-ポリブタジエン、1,4-ポリブタジエン等のポリブタジエン、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ポリクロロプレン、ポリ(オキシプロピレン)、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、ポリオレフィングリコール、ポリ-ε-カプロラクトン等の熱可塑性エラストマー、ポリスルフィドゴム、フッ素ゴム等を挙げることができる。
これらの中でも、シリコーンゴム、シリコーンオイル、およびアクリロニトリル-ブタジエンゴム等が、曲げ弾性率や収縮率を所望の範囲に制御して、得られるパワーデバイスの反りの発生を抑える観点から、とくに好ましい。
低応力剤を用いる場合、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
低応力剤の量は、封止用樹脂組成物の全体に対して例えば0~5質量%、好ましくは0~3質量%である。
【0111】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ジブチルヒドロキシトルエン等)、イオウ系酸化防止剤(メルカプトプロピオン酸誘導体等)、リン系酸化防止剤(9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド等)などが挙げられる。
酸化防止剤を用いる場合、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
酸化防止剤を用いる場合、その量は、封止用樹脂組成物の全体に対して例えば0~3質量%、好ましくは0~2質量%である。
【0112】
重金属不活性化剤としては、例えば、アデカスタブCDAシリーズ(株式会社ADEKA社製)などを挙げることができる。
重金属不活性化剤を用いる場合、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
重金属不活性化剤の量は、封止用樹脂組成物の全体に対して、例えば0~1質量%、好ましくは0~0.5質量%である。
【0113】
(封止用樹脂組成物の製造方法)
前述したように、本実施形態の封止用樹脂組成物において、硬化物をTSDC法により測定したときの電流-時間曲線における半値幅を800秒以下とするには、封止用樹脂組成物の製造方法(調製方法)が非常に重要である。
【0114】
例えば、上述の各成分を、公知のミキサー等で混合し、さらにロール、ニーダーまたは押出機等の混練機で溶融混練し、そして冷却、粉砕することで封止用樹脂組成物を得ることができる。
封止用樹脂組成物の性状は、粉砕したままのパウダー状または顆粒状のもの、粉砕後にタブレット状に打錠成型したもの、粉砕したものを篩分したもの、遠心製粉法、ホットカット法などで適宜分散度や流動性等を調整した造顆方法により製造した顆粒状のもの等であることができる。
【0115】
本発明者の知見として、特に、
・まず、硬化剤(C)と硬化促進剤(D)とのみを、混合し溶融して(プリメルトして)、溶融混合物とし、
・その後、その溶融混合物を、他の成分(エポキシ樹脂(A)、無機充填剤(B)など)と混合する、
という手順で封止用樹脂組成物を製造することが好ましい。
【0116】
このような製造方法を採用することで、封止用樹脂組成物の硬化物について、特定の条件で熱刺激脱分極電流法による測定を行ったときに得られる電流-時間曲線の半値幅を、800秒以下としやすい。
この理由は必ずしも明らかではないが、以下のように説明することができる。
【0117】
硬化促進剤(D)は、硬化剤(C)の「近く」に存在してこそ硬化促進の機能を奏すると考えられる。
封止用樹脂組成物は、通常、固形または粘稠な液体であり、加熱硬化時の系中での成分の流動等は限定的である。よって、封止用樹脂組成物が硬化剤(C)と硬化促進剤(D)を含んでいたとしても、硬化剤(C)と硬化促進剤(D)の組成物中での分布が不均一である場合などは、硬化促進剤(D)が硬化剤(C)に十分に作用せず、その結果、エポキシ樹脂(A)と硬化剤(C)との架橋反応が十二分に進行しないと考えられる。そうすると、架橋が不完全なエポキシ樹脂(A)や硬化剤(C)が系中に若干残存すると考えられる。
このような、架橋が不完全なエポキシ樹脂(A)や硬化剤(C)は、架橋が不完全であるゆえ、電圧印加停止後の昇温により構造緩和しやすい。そして、その構造緩和により、電流-時間曲線のピークがブロードになりがちと考えられる。
【0118】
一方、硬化剤(C)と硬化促進剤(D)とをプリメルトして溶融混合物とすることで、硬化促進剤(D)が、硬化剤(C)の「近く」に存在しやすくなる。そうすると、上述のような、架橋が不完全なエポキシ樹脂(A)や硬化剤(C)が減少する。そして、電圧印加停止後の昇温による構造緩和が少なくなり、電流-時間曲線のピークの半値幅が狭くなると考えられる。
【0119】
硬化剤(C)と硬化促進剤(D)とのプリメルト工程は、例えば以下のような工程で行うことができる。
(1)硬化剤(C)のみを溶融する。溶融温度は例えば150~160℃程度とすることができる。
(2)溶融した硬化剤(C)に対し、温度を維持しつつ、硬化促進剤(D)を加える。その後、10~15分程度攪拌する。
(3)室温まで徐冷し、その後、粉砕する。
【0120】
また、本発明者の知見として、硬化剤(C)と硬化促進剤(D)とのプリメルトに加え、無機充填剤(B)として、シランカップリング剤などのカップリング剤による表面修飾を行ったものを用いて封止用樹脂組成物を調製することが好ましい。こうすることで、一層、封止用樹脂組成物の硬化物を、特定条件で熱刺激脱分極電流法で測定したときに得られる電流-時間曲線の半値幅を、800秒以下としやすい。
【0121】
この理由も必ずしも明らかではないが、例えば以下のように説明することができる。
無機充填剤(B)がカップリング剤により表面修飾されていることで、封止用樹脂組成物中の無機充填剤(B)と、樹脂成分とが結合形成する。無機充填剤(B)に結合した樹脂成分は、その運動性が抑えられる。そうすると、電圧印加停止後の昇温による構造緩和などが抑えられ、電流-時間曲線のピークの半値幅が狭くなると考えられる。
(ここで、「樹脂成分」とは、エポキシ樹脂(A)、硬化剤(C)、エポキシ樹脂(A)と硬化剤(C)との反応物のうちの1つまたは2つ以上を意味する。)
なお、カップリング剤による無機充填剤(B)の表面修飾の方法は、例えば前述のとおりである。特に、前述のエージング処理を十分に行うことで、適切に表面修飾がなされ、十二分なHTRB耐性を得やすくなる傾向にある。
【0122】
さらに、本発明者の知見として、硬化剤(C)がフェノール系硬化剤である場合には、前述のように、フェノール系硬化剤に対する前記エポキシ樹脂(A)の量(モル当量)を適切に調整することで、未架橋部位が少なくなり、運動/構造緩和しやすい極性基が少なくなると考えられる。このことにより、より良好なHTRB耐性を得やすくなると考えられる。
【0123】
(パワーデバイス)
本実施形態のパワーデバイスは、基板と、基板上に搭載されたパワー素子と、電子素子を封止する封止材とを備える。そして、封止材が、上記の封止用樹脂組成物の硬化物を含む。
【0124】
図1は、本実施形態のパワーデバイス100の一例を示す断面図である。
パワーデバイス100は、基板30上に搭載されたパワー素子20と、パワー素子20を封止している封止材50とを備えている。
パワー素子20は、例えば、SiC、GaN、Ga、ダイヤモンド等のいずれかにより形成されたパワー半導体素子である。
封止材50は、本実施形態の封止用樹脂組成物を硬化して得られる硬化物により構成されている。
【0125】
パワーデバイス100において、パワー素子20は、上述したように、例えば、SiC、GaN、Ga、またはダイヤモンドにより形成されたパワー半導体素子である。これは、200℃以上の高温で動作することができる。
パワーデバイス100は、本実施形態の封止用樹脂組成物を用いて形成された封止材50を備えることにより優れたHTRB耐性を示しうる。よって、200℃以上といった高温環境での長時間使用においても信頼性を高くすることができる。
なお、パワー素子20は、たとえば入力電力が1.7W以上であるパワー半導体素子とすることができる。
【0126】
図1においては、基板30が回路基板である場合が例示されている。この場合、図1に示されるように、基板30のうちのパワー素子20を搭載する一面とは反対側の他面には、たとえば複数の半田ボール60が形成されていてもよい。電子素子20は、基板30上に搭載され、かつワイヤ40を介して基板30と電気的に接続される。一方で、パワー素子20は、基板30に対してフリップチップ実装されていてもよい。ここで、ワイヤ40は、たとえば銅で構成される。
【0127】
封止材50は、例えばパワー素子20のうちの基板30と対向する一面とは反対側の他面を覆うようにパワー素子20を封止する。すなわち、本実施形態の封止用樹脂組成物は、基板30上に搭載されたパワー素子20の面のうち、基板30と対向する一面とは反対側の他面を覆うように封止することができる。図1においては、パワー素子20の上記他面と側面を覆うように封止材50が形成されている。
封止材50は、例えば封止用樹脂組成物をトランスファー成形法や圧縮成形法等の公知の方法を用いて封止成形することにより形成することができる。
【0128】
図2は、本実施形態のパワーデバイス100の一例を示す断面図であって、図1とは異なる例である。
図2のパワーデバイス100は、基板30としてリードフレームを使用している。この場合、パワー素子20は、たとえば基板30のうちのダイパッド32上に搭載され、かつワイヤ40を介してアウターリード34へ電気的に接続される。
パワー素子20は、図1の例と同様に、例えば、SiC、GaN、Ga、またはダイヤモンドにより形成されたパワー半導体素子である。
封止材50は、図1の例と同様、本実施形態の封止用樹脂組成物を用いて形成される。
【0129】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、実施形態の例を付記する。
1. エポキシ樹脂(A)、無機充填剤(B)、硬化剤(C)および硬化促進剤(D)を含むパワーデバイス封止用樹脂組成物であって、
前記封止用樹脂組成物を、175℃、2分の条件で成形し、175℃、4時間の条件でアフターキュアして得られた、直径100mm、厚さ2mmの試験片について、以下(i)~(v)の順番に従って熱刺激脱分極電流法による測定を行ったときに得られる電流-時間曲線の半値幅が800秒以下である封止用樹脂組成物。
(i)電圧をかけずに5℃/分の速さで前記試験片の温度を150℃まで昇温する。
(ii)前記試験片の温度を150℃に維持したまま、500Vの一定電圧を30分印加する。
(iii)500Vの一定電圧を印加したまま、5℃/分の速さで前記試験片の温度を45℃まで降温する。
(iv)前記試験片の温度を45℃に維持したまま、電圧の印加を停止し、5分静置する。
(v)試験片に電圧をかけずに、3.5℃/分の速さで前記試験片を昇温し、この昇温時に流れる電流値を測定し、電流-時間曲線を得る。
2. 1.に記載の封止用樹脂組成物であって、
前記電流-時間曲線におけるピークの高さが、800pA以上である封止用樹脂組成物。
3. 1.または2.に記載の封止用樹脂組成物であって、
前記無機充填剤(B)が、シリカを含む封止用樹脂組成物。
4. 3.に記載の封止用樹脂組成物であって、
前記シリカは、その表面がカップリング剤で修飾されたものである封止用樹脂組成物。
5. 1.~4.のいずれかに記載の封止用樹脂組成物であって、
前記硬化剤(C)がフェノール系硬化剤であり、当該フェノール系硬化剤に対する前記エポキシ樹脂(A)の量が、官能基のモル当量で1.01~1.20である封止用樹脂組成物。
6. 1.~5.のいずれかに記載の封止用樹脂組成物であって、
前記エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量が100~400g/eqである封止用樹脂組成物。
7. 基板と、前記基板上に搭載されたパワー素子と、前記電子素子を封止する封止材とを備え、
前記封止材が、1.~6.のいずれかに記載の封止用樹脂組成物の硬化物を含むパワーデバイス。
【実施例
【0130】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0131】
<素材の準備>
まず、用いた素材について説明する。
【0132】
(エポキシ樹脂)
E-1032H60:トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社)、エポキシ当量171
NC-3500:ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬社)、エポキシ当量205
YDCN-800-65:o-クレゾールノボラックエポキシ樹脂(新日鉄住金化学社)、エポキシ当量200
CNE195LL:o-クレゾールノボラックエポキシ樹脂(長春人造樹脂社)、エポキシ当量200
NC-3000:ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬社)、エポキシ当量276
【0133】
(無機充填剤)
S-CO:溶融球状シリカ(マイクロン社)、平均粒径20μm、比表面積1.7m/g
FMT-05:溶融破砕シリカ(フミテック社)、平均粒径:4.7μm、比表面積5.5m/g
SO-25R:溶融球状シリカ(アドマテックス社)、平均粒径0.5μm、比表面積6.0m/g
【0134】
(硬化剤)
MEH-7500:トリスフェニルメタン骨格を有するフェノール樹脂(明和化成社)、水酸基当量97
MEHC-7403H:ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型フェノール樹脂(明和化成社)、水酸基当量139
HE910-20:トリスフェニルメタン型フェノール樹脂(エアー・ウォーター社)、水酸基当量101
PR-51470:フェノールノボラック樹脂(住友ベークライト社)、水酸基当量104
PR-HF-3:フェノールノボラック樹脂(住友ベークライト社)、水酸基当量105
MEH-7851SS:ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型フェノール樹脂(明和化成社)、水酸基当量203
【0135】
(硬化促進剤)
TPP-BQ:4-ヒドロキシ-2-(トリフェニルホスホニウム)フェノラート(ケイ・アイ化成社)
C03-MB:テトラフェニルフォスフォニウム 4,4'-スルフォニルジフェノラート(住友ベークライト社)
【0136】
(着色剤)
カーボン#5:カーボンブラック(三菱ケミカル社)
【0137】
(カップリング剤)
GPS-M:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(JNC社製)
CF-4083:フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社)
【0138】
(離型剤)
C-WAX:カルナバワックス(東亜化成社)
【0139】
(イオン捕捉剤)
DHT-4H:ハイドロタルサイト(協和化学工業社)
【0140】
(重金属不活性化剤)
CDA-1M:2-Hydroxy-N-1H-1,2,4-triazol-3-ylbenzamideを主成分とする複合物(ADEKA社製)
【0141】
(低応力剤)
FZ-3730:シリコーンオイル(東レ・ダウコーニング社)
CF-2152:シリコーンゴム(東レ・ダウコーニング社)
【0142】
<実施例3、4、参考例1、2、5:封止用樹脂組成物の製造>
(硬化剤と硬化促進剤とのプリメルト)
まず、後掲の表1に記載の硬化剤を、150℃で溶融した。
これに、同じく表1に記載の硬化促進剤を混合し、その後10分間攪拌を継続した。
これを室温になるまで徐冷し、その後粉砕することで、硬化剤と硬化促進剤との溶融混合物を得た。
【0143】
(無機充填剤の表面修飾)
表1に記載の無機充填剤のうち、S-COに対し、以下のようにして表面修飾を施した。
まず、S-COをリボンミキサーで撹拌しながら、カップリング剤GPS-Mを滴下し加え、次にカップリング剤CF-4083を滴下し加えた。これらの質量比は表1に記載のとおりとした(実施例1であれば、62.00:0.20:0.20)。なお、攪拌は常温下で行った。
滴下終了後、撹拌を15分間継続した。
その後、3日間、20±5℃、40~50%RHの環境下で静置し、エージングさせることで、表面処理された無機充填剤(処理シリカ)を得た。
【0144】
(封止用樹脂組成物の製造)
まず、上記のようにして得られた硬化剤と硬化促進剤との溶融混合物、カップリング剤で表面修飾された処理シリカ、エポキシ樹脂、処理シリカ以外の無機充填剤、着色剤、離型剤、イオン捕捉剤、重金属不活性化剤および低応力剤を、常温でヘンシェルミキサーを用いて混合し、混合物を得た。
その後、その混合物を、70~100℃でロール混練し、混練物を得た。
得られた混練物を冷却し、その後、粉砕し、封止用樹脂組成物を得た。
【0145】
各成分の量比(質量部)は表1に記載のとおりである。
表1には、フェノール系硬化剤とエポキシ樹脂に関する、官能基のモル当量(エポキシ基/ヒドロキシ基)についても「Ep/OH比」として記載した。
表1中、硬化剤と硬化促進剤との溶融混合物の量については、用いた溶融混合物中に含まれる硬化剤および硬化促進剤の量として記載している。また、カップリング剤の量は、前述のように無機充填剤の表面修飾に用いたカップリング剤の量を記載している(封止用樹脂組成物の製造の際に、カップリング剤は新たには用いていない)。
【0146】
<比較例1~5:封止用樹脂組成物の製造>
硬化剤と硬化促進剤との溶融混合やシリカ粒子の表面修飾などの事前処理を行わず、表1に記載された各成分を記載された量比で混合し、混合物を得た。混合は、常温でヘンシェルミキサーを用いて行った。
その後、その混合物を、70~100℃でロール混練し、混練物を得た。
得られた混練物を冷却し、その後、粉砕し、封止用樹脂組成物を得た。
【0147】
(評価用の試験片の作製)
各実施例、各参考例および各比較例で得られた封止用樹脂組成物を、トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間2分の条件で金型に注入成形し、直径100mm、厚さ2mmの円形状に成形した。成形後、オーブンを用い、175℃、4時間の条件でアフターキュアを行った。その後、室温まで放冷し、評価用の試験片を得た。
【0148】
(TSDC測定)
上記で得られた評価用の試験片について、株式会社リガク製の装置:TS―POLARを用い、以下手順でTSDC測定を行った。
(1)試験片に電圧をかけずに、5℃/分の速さで、試験片の温度を150℃まで昇温した。
(2)試験片の温度を150℃に維持したまま、500Vの一定電圧を30分印加した。
(3)500Vの一定電圧を印加したまま、5℃/分の速さで、試験片の温度を45℃まで降温した。
(4)試験片の温度を45℃に維持したまま、電圧の印加を停止し、5分静置した。
(5)試験片に電圧をかけずに、3.5℃/分の速さで試験片を昇温した。この昇温時に流れる電流値を測定し、電流-時間曲線を得た。
【0149】
(HTRB試験:HTRB耐性の評価)
まず、定格電圧1200VのIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)素子を、パッケージ仕様:TO-247のフレームに半田を用いてダイボンディングし、そしてAlワイヤでワイヤボンディングした。これを、実施例、参考例または比較例の封止用樹脂組成物で封止し、HTRB評価用のパッケージを作成した。なお、封止用樹脂組成物の成形条件は175℃で2分、アフターキュア条件は175℃で4時間とした。
【0150】
エスペック社製の恒温槽(型式:ST-120)を150℃に設定し、恒温槽の中に上記のHTRB評価用パッケージを入れた。そして、松定プレシジョン社製の高圧電源(型式:HAR-2P300)を用いて、HTRB評価用パッケージに1080Vの電圧を1週間印加し続けた。
その後、恒温槽を常温に戻し、印可していた電圧を切り、HTRB評価用パッケージを恒温槽から取り出した。取り出したパッケージについて、岩通通信機社製カーブトレーサ(型式:CS-3200)を用いて耐圧を測定した。耐圧が1200V以上の場合はHTRB試験合格と判定し、耐圧が1200V未満の場合はHTRB試験不合格と判定した。
【0151】
なお、封止用樹脂組成物としての基本的性能を確認するため、以下のようにして、スパイラルフローおよびゲルタイムの測定も行った。
【0152】
(スパイラルフロー)
低圧トランスファー成形機(コータキ精機社製、KTS-15)を用いて、ANSI/ASTM D 3123-72に準じたスパイラルフロー測定用金型に、封止用樹脂組成物を注入し、流動長を測定した。このとき、金型温度は175℃、注入圧力は6.9MPa、保圧時間は120秒の条件とした。
スパイラルフローは、流動性のパラメータであり、数値が大きい方が、流動性が良好である。単位はcmである。
【0153】
(ゲルタイム)
175℃に制御された熱板上に封止用樹脂組成物を載せ、スパチュラで約1回/秒のストロークで練った。封止用樹脂組成物が熱により溶解してから硬化するまでの時間を測定し、ゲルタイムとした。ゲルタイムは、数値が小さい方が、硬化が速いことを示す。
【0154】
表1に封止用樹脂組成物の組成等を、表2に評価結果をまとめて示す。表1の各成分の量は質量部である。
前述のとおり、実施例3、4、参考例1、2、5においては、硬化剤と硬化促進剤との溶融混合物の量は、用いた溶融混合物中に含まれる硬化剤および硬化促進剤の量として記載している。また、同じく前述のとおり、実施例3、4、参考例1、2、5においては、カップリング剤の量は、前述のように無機充填剤の表面修飾に用いたカップリング剤の量を記載している。
【0155】
【表1】
【0156】
【表2】

【0157】
上表などより、特定の手順に従って得られる電流-時間曲線の半値幅が800秒以下である封止用樹脂組成物を設計し、その組成物によりパワー素子を封止することで、HTRB耐性が良好となることが示された。
より具体的には、(1)硬化剤と硬化促進剤とのプリメルト処理や、無機充填剤の表面処理(シランカップリング剤による処理およびエージング処理)を行うことで、エポキシ樹脂、無機充填剤、硬化剤および硬化促進剤を含み電流-時間曲線の半値幅が800秒以下である封止用樹脂組成物を製造することができ、(2)そして、その組成物によりパワー素子を封止することで、HTRB耐性が良好なパワーデバイスを製造することができることが示された。
【0158】
この出願は、2018年11月1日に出願された日本出願特願2018-206796号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
図1
図2