(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】樹脂粉末混合物およびその製造方法、ならびに三次元造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/12 20060101AFI20230404BHJP
C08J 3/16 20060101ALI20230404BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20230404BHJP
B29C 64/314 20170101ALI20230404BHJP
B29C 64/321 20170101ALI20230404BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230404BHJP
B33Y 40/00 20200101ALI20230404BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20230404BHJP
B33Y 70/10 20200101ALI20230404BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20230404BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20230404BHJP
C08K 7/04 20060101ALI20230404BHJP
C08L 81/04 20060101ALI20230404BHJP
B29B 7/10 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
C08J3/12
C08J3/16
B29C64/153
B29C64/314
B29C64/321
B33Y10/00
B33Y40/00
B33Y70/00
B33Y70/10
C08J5/04
C08K3/36
C08K7/04
C08L81/04
B29B7/10
(21)【出願番号】P 2022530650
(86)(22)【出願日】2022-05-23
(86)【国際出願番号】 JP2022021062
【審査請求日】2023-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2021089043
(32)【優先日】2021-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】河井 梓
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 圭
(72)【発明者】
【氏名】岡本 尚代
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/011990(WO,A1)
【文献】特開平02-107666(JP,A)
【文献】特開2007-308612(JP,A)
【文献】国際公開第2006/059509(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/074353(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/126484(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/200332(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/12-3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a1)~(a3)を満たすポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]を含む樹脂粉末混合物。
(a1)発生ガス量が0.25wt%以下
(a2)メルトフローレートが5g/10min以上75g/10min以下
(a3)平均粒径が1μm以上100μm以下
【請求項2】
樹脂粉末の総量を100重量部として、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]を20重量部以上100重量部以下含む、請求項1に記載の樹脂粉末混合物。
【請求項3】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]および、以下の(b1)~(b3)を満たすポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[B]を含む、請求項
1に記載の樹脂粉末混合物。
(b1)発生ガス量が0.25wt%を超え0.40wt%以下
(b2)メルトフローレートが75g/10minを超え125g/10min以下
(b3) 平均粒径が1μm以上100μm以下
【請求項4】
樹脂粉末の総量を100重量部として、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[B]を1重量部以上50重量部以下含む、請求項3に記載の樹脂粉末混合物。
【請求項5】
炭素繊維、ガラス繊維、およびガラスビーズから選ばれる少なくとも1種の無機強化材を含有する、請求項
1に記載の樹脂粉末混合物。
【請求項6】
樹脂粉末混合物を100重量%として、前記無機強化材を5重量%以上40重量%以下含む、請求項5に記載の樹脂粉末混合物。
【請求項7】
前記無機強化材の最大寸法が、1μm以上400μm以下である、請求項
5に記載の樹脂粉末混合物。
【請求項8】
前記無機強化材が20×10
-4Ω・cm以下の体積固有抵抗率を有する炭素繊維である、請求項
5に記載の樹脂粉末混合物。
【請求項9】
平均粒径20nm以上500nm以下である無機粒子を含有する、請求項
1に記載の樹脂粉末混合物。
【請求項10】
樹脂粉末混合物100重量%として、前記無機粒子を0.1重量%以上0.5重量%以下含む、請求項9に記載の樹脂粉末混合物。
【請求項11】
前記無機粒子が、球状のシリカ微粒子である、請求項
9に記載の樹脂粉末混合物。
【請求項12】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]および樹脂粉末混合物を構成するその他の成分を、少なくとも容器を回転させる第1の回転軸と、該第1の回転軸による回転方向とは異なる方向に容器を前記第1の回転軸と共に回転させる第2の回転軸を含む複数の回転軸を有する容器に封入し、前記複数の回転軸を同時に回転させて混合することを特徴とする、請求項1~11のいずれかに記載の樹脂粉末混合物の製造方法。
【請求項13】
前記容器内に設けられた回転羽根で樹脂粉末混合物を構成する成分の凝集を解消しながら混合する、請求項12に記載の樹脂粉末混合物の製造方法。
【請求項14】
請求項1~11のいずれかに記載の樹脂粉末混合物を3Dプリンタに供給することを特徴とする、三次元造形物の製造方法。
【請求項15】
3Dプリンタが粉末床溶融結合法の3Dプリンタである、請求項14に記載の三次元造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や航空宇宙、産業、医療などの幅広い用途に適した三次元造形物を製造する方法、さらには、その材料として好適に用いられる樹脂粉末混合物、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
三次元造形は、形状の自由度が高い設計を可能とすることから、自動車や航空宇宙、産業、医療などの用途に広く展開されている。かかる造形方式としては、粉末床溶融結合方式が、精密造形や機械強度を実現できる点やサポート部材が不要であるという点で好適である。粉末床溶融結合方式の造形工程は、樹脂粉末を薄層に展開する薄層形成工程と、形成された薄層に、造形対象物の断面形状に対応する形状にレーザー光を照射して、その粉末を結合させる断面形状形成工程を順次繰り返すことにより造形物を製造する方法である。
【0003】
上記の樹脂粉末の素材としては、主にポリアミド12樹脂が多く用いられてきたが、近年、強度や耐熱性の要求が強まり、優れた機械特性や耐熱性などを有しているポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、PPS樹脂と称する場合がある。)に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂などの高機能性の素材適用が望まれている。
【0004】
例えば、特許文献1では、粉末床溶融結合方式に適切な再結晶化温度を持つポリアリーレンスルフィド樹脂を用いることで、結晶化による収縮を減らし、三次元造形物(以下、造形物と称する場合がある)の反りを抑制する技術を開示している。特許文献2では、ポリアリーレンスルフィド樹脂に無機粒子と無機強化材を添加することで、造形時の粉体流動性を損なわずに造形物の機械強度を向上する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6256818号公報
【文献】特開2017-043654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2では、射出成形と比較して、造形物の引張強度が低いという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、従来技術の問題に鑑み、造形物のボイドが少なく、引張強度に優れる三次元造形物を製造する方法、さらには、その材料として好適に用いられる樹脂粉末混合物、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、下記発明に至った。すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)以下の(a1)~(a3)を満たすポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]を含む樹脂粉末混合物。
(a1)発生ガス量が0.25wt%以下
(a2)メルトフローレートが5g/10min以上75g/10min以下
(a3)平均粒径が1μm以上100μm以下
(2)樹脂粉末の総量を100重量部として、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]を20重量部以上100重量部以下含む、(1)に記載の樹脂粉末混合物。
(3)前記ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]および、以下の(b1)~(b3)を満たすポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[B]を含む、(1)または(2)に記載の樹脂粉末混合物。
(b1)発生ガス量が0.25wt%を超え0.40wt%以下
(b2)メルトフローレートが75g/10minを超え125g/10min以下
(b3) 平均粒径が1μm以上100μm以下
(4)樹脂粉末の総量を100重量部として、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[B]を1重量部以上50重量部以下含む、(3)に記載の樹脂粉末混合物。
(5)炭素繊維、ガラス繊維、およびガラスビーズから選ばれる少なくとも1種の無機強化材を含有する、(1)~(4)のいずれかに記載の樹脂粉末混合物。
(6)樹脂粉末混合物を100重量%として、前記無機強化材を5重量%以上40重量%以下含む、(5)に記載の樹脂粉末混合物。
(7)前記無機強化材の最大寸法が、1μm以上400μm以下である、(5)または(6)に記載の樹脂粉末混合物。
(8)前記無機強化材が20×10-4Ω・cm以下の体積固有抵抗率を有する炭素繊維である、(5)~(7)のいずれかに記載の樹脂粉末混合物。
(9)平均粒径20nm以上500nm以下である無機粒子を含有する、(1)~(8)のいずれかに記載の樹脂粉末混合物。
(10)樹脂粉末混合物を100重量%として、前記無機粒子を0.1重量%以上0.5重量%以下含む、(9)に記載の樹脂粉末混合物。
(11)前記無機粒子が、球状のシリカ微粒子である、(9)または(10)に記載の樹脂粉末混合物。
(12)前記ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]および樹脂粉末混合物を構成するその他の成分を、少なくとも容器を回転させる第1の回転軸と、該第1の回転軸による回転方向とは異なる方向に容器を前記第1の回転軸と共に回転させる第2の回転軸を含む複数の回転軸を有する容器に封入し、前記複数の回転軸を同時に回転させて混合することを特徴とする、(1)~(11)のいずれかに記載の樹脂粉末混合物の製造方法。
(13)前記容器内に設けられた回転羽根で樹脂粉末混合物を構成する成分の凝集を解消しながら混合する、(12)に記載の樹脂粉末混合物の製造方法。
(14)(1)~(11)のいずれかに記載の樹脂粉末混合物を3Dプリンタに供給することを特徴とする三次元造形物の製造方法。
(15)3Dプリンタが粉末床溶融結合法の3Dプリンタである、(14)に記載の三次元造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発生ガス量が少ない樹脂粉末混合物、ならびにその樹脂粉末混合物を用いて三次元造形物とした際に、ボイドが少なく、引張強度に優れる造形物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明で使用する混合機の一例である、回転軸を2つ持つ混合機の概略斜視図である。
【
図2】本発明で使用する混合機の別の一例である、回転軸を2つ持つ混合機の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、実施形態とともに詳細に説明する。
本発明の樹脂粉末混合物は、以下の(a1)~(a3)の条件を満たすポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]を含む、樹脂粉末混合物である。
(a1)発生ガス量が0.25wt%以下
(a2)メルトフローレートが5g/10min以上75g/10min以下
(a3)平均粒径が1μm以上100μm以下
【0012】
造形物の強度や耐熱性の向上手段としては、上述したポリアリーレンスルフィド樹脂等を素材として用いる方法が知られている。しかしながら、一般的に、高い耐熱性を有する樹脂からなる樹脂粉末を造形物の素材として用いる場合、強いレーザー光照射により樹脂粉末を溶融する工程を含むため、樹脂中の低沸点オリゴマー由来の発生ガスにより、造形物内にボイドが生まれ、引張強度が低下するという問題があった。これに対し、樹脂構造や成形のメカニズムに着目し、樹脂中に微架橋を形成させることで、レーザー照射時のガス発生を抑制し、造形物の引張強度を向上できると着想した。一方、樹脂中に架橋を形成すると粘度も上昇し、逆に成形性が低下する問題があった。
【0013】
そこで、本願発明者らは、発生ガス量、メルトフローレート、平均粒径が特定の範囲となるポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]を含む樹脂粉末混合物を用いることで、上述のトレードオフを解消し、造形物の引張強度を向上させられることを見出し、本発明に至った。
【0014】
以下、樹脂粉末混合物を構成する各成分について説明する。
本発明の樹脂粉末混合物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]を含むことを必須とする。[A]とは、以下の(a1)~(a3)の条件をすべて満たすポリアリーレンスルフィド樹脂粉末である。
(a1)発生ガス量が0.25wt%以下
(a2)メルトフローレートが5g/10min以上75g/10min以下
(a3)平均粒径が1μm以上100μm以下
【0015】
かかる[A]を樹脂粉末混合物に配合することにより、ボイドレスで品位の良好な造形物が得られ、高い引張強度を発現することが可能となる。
【0016】
本発明におけるポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]の条件(a1)としては、[A]の発生ガス量0.25wt%以下であることが必要である。かかる範囲であれば、溶融した樹脂のガス発生を抑制でき、造形物中のボイドが減少し、その結果、造形物の引張強度を高めることができる。なお、欠陥が生じにくいボイドレスの造形物を得られることから、0.2wt%以下であることが好ましい。また、発生ガス量の下限は特に無いが、検出限界の下限は通常0.05wt%である。
【0017】
ここでいう発生ガス量とは、加熱によるポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]を構成するポリアリーレンスルフィド樹脂の重量減少の率を指す。具体的には、アルミカップ秤量皿(アズワン株式会社製5-361-01)に[A]10gを、320℃に予備加熱したオーブン(ヤマト科学株式会社製FO810、大気雰囲気下)で2時間加熱した際、ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]を構成するポリアリーレンスルフィド樹脂の一部が熱分解し、オリゴマー成分が揮発することによる樹脂の重量減少が生じるが、かかる重量減少の率を指したものである。かかる発生ガス量は、加熱前後の[A]の重量差を加熱前の[A]の重量で割り、100をかけて算出される。
【0018】
本発明におけるポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]の条件(a2)としては、[A]のメルトフローレートが5g/10min以上75g/10min以下であることが必要である。かかる範囲であれば、レーザー光照射後の溶融樹脂が下の層まで浸透し、層間の密着性が高まり、造形物の引張強度が維持できる。
【0019】
ここで、[A]のメルトフローレートとは、ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]を、ASTM-D1238-70に準ずる方法で315.5℃、5kg荷重の条件とし、測定した値である。
【0020】
本発明におけるポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]の条件(a3)としては、[A]の平均粒径が1μm以上100μm以下であることが必要である。1μm未満である場合、静電気により[A]の凝集が発生し、同様に粉末積層時に均一性が損なわれ三次元造形物の引張強度が低下する。100μmを超える場合、粉末積層時に均一性が損なわれ三次元造形物の引張強度が低下してしまう。平均粒径の好ましい下限は3μmであり、より好ましくは8μmであり、最も好ましくは15μmである。また、好ましい平均粒径の上限は95μmであり、より好ましくは、85μmであり、最も好ましくは70μmである。
【0021】
ここで、[A]の平均粒径とは、ミー(Mie)の散乱・回折理論に基づくレーザー回折式粒度分布計にて測定される粒度分布の小粒径側からの累積度数が50%となる粒径(d50)である。
【0022】
本発明におけるポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]は、発生ガスの成分となる低沸点のオリゴマーを除去できる観点から、熱処理されたものが好ましい。
【0023】
熱処理の方法としては窒素雰囲気下においての加熱や過酸化物などの架橋剤を添加しての加熱法が挙げられるが、窒素雰囲気下で加熱することが好ましい。また、発生ガスを効率的に除去するために撹拌するか粉末を薄く敷き詰めた状態で加熱することが好ましい。
【0024】
加熱処理の温度の下限は150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることがさらに好ましい。熱処理温度が150℃よりも低いと、低沸点オリゴマーを効率的に除去することが出来ない。熱処理の温度の上限としては、[A]を構成するポリアリーレンスルフィド樹脂の融点未満であることが好ましく、融点より5℃以上低い温度がより好ましく、融点より10℃以上低い温度がさらに好ましい。融点を超えると造形時に造形物周辺の粉末が溶融し、平均粒径および均一度が変化し、粉末の流動性が著しく損なわれてしまう恐れがある。熱処理の時間は、オリゴマーを十分に除去するために、1時間以上24時間以下が好ましく、2時間以上10時間以下がより好ましい。
【0025】
本発明におけるポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]の含有量は、樹脂粉末の総量を100重量部として、前記[A]を20重量部以上100重量部以下含むことが好ましい。また、引張強度を向上させるため、より好ましくは40重量部以上100重量部以下であり、最も好ましくは70重量部以上100重量部以下である。
【0026】
中でも、低沸点オリゴマーを効率よく除去できる点から、ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]はリサイクル樹脂粉末であることが好ましい。リサイクル樹脂粉末とは、3Dプリンタ装置に供給されて装置内で加熱された樹脂粉末のうち、造形に用いられなかった樹脂粉末を回収したものを指す。かかるリサイクル樹脂粉末は、例えば、粉末床溶融結合法の3Dプリンタ装置(株式会社アスペクト社製Rafael300HT)を用いて、250~275℃の窒素雰囲気下で、造形時間1~20時間造形した際に、造形に用いられなかった樹脂粉末を回収することで得ることができる。
【0027】
本発明においては、ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]以外の樹脂粉末として、ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[B]を含むことが好ましい。[B]とは、以下の(b1)~(b3)の条件をすべて満たすポリアリーレンスルフィド樹脂粉末である。
(b1)発生ガス量が0.25wt%を超え0.40wt%以下
(b2)メルトフローレートが75g/10minを超え125g/10min以下
(b3) 平均粒径が1μm以上100μm以下
【0028】
本発明におけるポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[B]の条件(b1)としては、引張強度を維持するため、[B]の発生ガス量が0.25wt%を超え0.40wt%以下であることが好ましい。
【0029】
本発明におけるポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[B]の条件(b2)としては、成形性の観点から、[B]のメルトフローレートが75g/10minを超え125g/10min以下であることが好ましい。
【0030】
本発明におけるポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[B]の条件(b3)としては、成形時の均一性を高めるため、[B]の平均粒径が1μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0031】
ここで、[B]の発生ガス量、[B]のメルトフローレート、[B]の平均粒径とは、[A]と同様の評価法および算出法により導かれる。
【0032】
本発明におけるポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[B]の含有量は、樹脂粉末の総量を100重量部として、前記[B]が1重量部以上50重量部以下であることが好ましい。また、造形物の引張強度や成形性とのバランスから、より好ましくは、1重量部以上30重量部以下、最も好ましくは1重量部以上20重量部以下である。[B]の割合が少ないほど、ガス発生量の多い樹脂の割合が少なくなるためボイド低減の面から効果的である。
【0033】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]および[B]の粒度分布(均一度)は、粉体圧がかかった際の圧縮度が低くなるため、4.0以下であることが好ましい。均一度は、好ましくは3.2以下であり、より好ましくは3.0以下であり、さらに好ましくは2.8以下であり、特に好ましくは2.5以下であり、著しく好ましくは2.0以下である。均一度の下限は、理論的には1.0であるが、現実的には1.1以上が好ましく、さらに好ましくは1.2以上であり、特に好ましくは1.3以上であり、著しく好ましくは1.4以上である。
【0034】
ここで、均一度とは、前述の方法により測定した粒度分布(ミー(Mie)の散乱・回折理論に基づくレーザー回折式粒度分布計にて測定される粒度分布)の小粒径側からの累積度数が60%となる粒径(d60)を小粒径側からの累積度数が10%となる粒径(d10)で除した値である。
【0035】
本発明におけるポリアリーレンスルフィド樹脂粉末を構成するポリアリーレンスルフィド樹脂は、式、-(Ar-S)-の繰り返し単位を主要構成単位とする、ホモポリマーまたはコポリマーである。Arは結合手が芳香環に存在する芳香環を含む基であり、下記の式(A)~式(K)などで表される二価の繰り返し単位などが例示されるが、中でも式(A)で表される繰り返し単位が特に好ましい。
【0036】
【0037】
ただし、式中のR1、R2は水素、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基およびハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい。
【0038】
また、本発明におけるポリアリーレンスルフィド樹脂は、上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンスルフィドスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィドケトン樹脂、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィド樹脂としては、ポリマーの主要構成単位としてp-フェニレンスルフィド単位を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンスルフィドスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィドケトン樹脂が挙げられる。最も好ましいのは、ポリフェニレンスルフィド樹脂である。
【0039】
本発明に用いるポリアリーレンスルフィド樹脂粉末の再結晶化温度は、150℃以上210℃以下であることが好ましい。ポリアリーレンスルフィド樹脂の再結晶化温度が150℃未満であるとレーザー光照射後の固化が著しく遅くなり、溶融樹脂の上部に粉末層を積層する際に均一な粉面を形成できない。また、ポリアリーレンスルフィド樹脂の再結晶化温度が210℃を超えると、レーザー光照射により溶融した樹脂が結晶化することで収縮・反りが発生する。粉末床溶融結合法においては、溶融樹脂に反りが発生すると、溶融樹脂の上部に粉末層を積層する際に反った溶融樹脂が引き摺られ、所望の形状の三次元造形物を得ることができない。ここで再結晶化温度は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を窒素雰囲気中、示差走査熱量計を用いて、50℃から340℃まで20℃/minで昇温後、340℃で5分間保持し、340℃から50℃まで20℃/minで降温した際の結晶化時の発熱ピークの頂点温度を指す。再結晶化温度の好ましい下限は150℃であり、より好ましくは153℃であり、さらに好ましくは155℃であり、特に好ましくは160℃である。再結晶化温度の好ましい上限は210℃であり、より好ましくは205℃であり、さらに好ましくは200℃であり、特に好ましくは195℃である。
【0040】
本発明の樹脂粉末は、上述した[A]、[B]以外の任意の樹脂粉末を用いることができる。例えば、エポキシ樹脂やアクリル樹脂などから構成される熱硬化性樹脂粒子、[A]、[B]以外のポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチルテレフタレート樹脂、プリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂などから構成される熱可塑性樹脂粒子が挙げられる。これらの樹脂粉末は1種類だけではなく、複数種を組み合わせて配合してもよい。
【0041】
本発明の樹脂粉末混合物は、造形物の引張強度を向上させるため、無機強化材を添加させることができる。
【0042】
本発明で用いる無機強化材の大きさは、特に制限されるものではないが、最大寸法が1μm以上400μm以下のものが使用できる。三次元造形物の引張強度をより発揮するには20μm以上がより好ましく、50μm以上がより好ましい。また、樹脂粉末混合物の流動性は無機強化材の寸法が大きいほど悪化してしまう観点から200μm以下が好ましく、170μm以下がさらに好ましい。ここで、最大寸法とは、電子顕微鏡を用いて無機強化材を観察し、1万倍以上10万倍以下に拡大した画像から、無作為に任意の100個の無機強化材を選び、それぞれの無機強化材の外側輪郭線上で2点の距離が最大になる長さを最大長さとして計測した値の個数平均値である。
【0043】
無機強化材が繊維状の場合、繊維径が0.1μm以上50μm以下であることが好ましい。繊維径のより好ましい下限は0.5μmであり、特に好ましくは1μmである。また、繊維径のより好ましい上限は40μmであり、特に好ましくは30μmである。
【0044】
本発明の無機強化材としては、タルク、ケイ酸含有化合物、鉱物、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、発泡ガラスビーズ、単結晶チタン酸カリ、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、無煙炭粉末、酸化チタン、酸化マグネシウム、チタン酸カリウム、マイカ、アスベスト、亜硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、硫化モリブデン、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維などが挙げられるが、好ましくは炭素繊維、ガラス繊維、ガラスビーズである。なお、これらの無機強化材は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
本発明で使用する炭素繊維の体積固有抵抗率は、低いほど粉末混合物として混合する際に、帯電による繊維の凝集が発生しにくくなるため、好ましい。体積固有抵抗率は、20×10-4Ω・cm以下であることが好ましい。ここで、体積固有抵抗率とは、ロービングより切り出した炭素繊維束の電気抵抗値を測定し、下式により求めた値である。
体積固有抵抗率=抵抗値(Ω)×炭素繊維束幅(mm)×炭素繊維束厚み(mm)×炭素繊維束長さ(mm)
【0046】
本発明における無機強化材の含有量は、樹脂粉末混合物を100重量%として、前記無機強化材を5重量%以上40重量%以下含むことが好ましい。なお、本願で樹脂粉末混合物とは、[A]、[B]および[A]、[B]以外の成分を含む樹脂粉末、無機強化剤、無機粒子、その他の成分の混合物、すなわち、すべての原料を混合した物を指す。無機強化材が5重量%以上であれば造形物のよい高い補強効果を得ることができるため好ましく、さらに10重量%以上が好ましく、15重量%以上がより好ましい。また、40重量%以下であれば三次元造形物の外観を損なうことなく良好な造形物が得られやすく、35重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましい。
【0047】
本発明において、樹脂粉末混合物の流動性を更に改善するために、無機粒子を添加することができる。樹脂粉末混合物の流動性は、樹脂粉末の粒径が小さいと近傍の粒子との相互作用により悪化するが、樹脂粉末よりも粒径の小さな無機粒子を添加することで粒子間距離を広げ、粉末混合物の流動性を改善することができる傾向にある。
【0048】
本発明における無機粒子の平均粒径は、20nm以上500nm以下のものが好ましい。無機粒子の平均粒径が500nm以下であれば、樹脂粉末混合物に対し、均一に分散しやすい。また、無機粒子の平均粒径が20nm以上であれば、樹脂粉末混合物の流動性を向上させる十分な効果が得られる。ここで、平均粒径は、上記の樹脂粉末の平均粒径と同様の方法で測定した値である。
【0049】
無機粒子の平均粒径の上限は、好ましくは400nmであり、より好ましくは300nmであり、特に好ましくは250nmであり、著しく好ましくは200nmである。下限は、好ましくは30nmであり、より好ましくは40nmであり、特に好ましくは50nmである。
【0050】
本発明の無機粒子としては、炭酸カルシウム粒子、シリカ(二酸化ケイ素)微粒子、溶融シリカ粒子、結晶シリカ粒子、アルミナ(酸化アルミニウム)粒子、アルミナ含有化合物粒子、アルミニウム粒子などが挙げられる。好ましくはシリカ微粒子が挙げられ、中でも人体への有害性の小さいアモルファスシリカ粒子が工業上極めて好ましい。
【0051】
無機粒子の形状としては、球状、多孔状、中空状、不定形状などがあり、本発明における無機粒子の形状は特に限定されるものではないが、良好な流動性を示すことから中でも球状であることが好ましい。
【0052】
この場合、球状とは真球だけでなく、歪んだ球も含む。なお、無機粒子の形状は、粒子を二次元に投影した時の円形度で評価する。ここで円形度とは、(投影した粒子像の面積と等しい円の周囲長)/(投影した粒子の周囲長)である。無機粒子の平均円形度は、0.7以上1.0以下が好ましく、0.8以上1.0以下がより好ましい、さらに好ましくは0.9以上1.0以下が好ましい。
【0053】
本発明の無機粒子の混合割合は、樹脂粉末混合物を100重量%として、前記無機粒子を0.1重量%以上0.5重量%以下が好ましく、より好ましくは0.1重量%以上0.3重量%以下であり、さらに好ましくは0.1重量%以上0.2重量%以下である。
【0054】
本発明の樹脂粉末の製造方法は、特に制限されるものではなく、重合で得られる粒子を樹脂粒子とすることもできるし、樹脂をペレットや繊維、フィルムを作製したものなどから粒子を得ることもできる。また、使用する樹脂粒子の形態に応じて後述の粉砕処理を行うことができる。また、溶媒に原材料を溶解させた後にスプレードライする方法、溶媒内でエマルジョンを形成した後で貧溶媒に接触させる貧溶媒析出法、溶媒中でエマルジョンを形成した後で有機溶媒を乾燥除去する液中乾燥法、粒子化したい樹脂成分とそれとは異なる樹脂成分とを機械的に混錬することにより海島構造を形成させ、その後に海成分を溶媒で除去する強制溶融混錬法も挙げられる。中でも、経済性の観点から粉砕処理が好適に用いられる。粉砕処理の方法に特に制限は無く、ディスクミル、ジェットミル、ビーズミル、ハンマーミル、ボールミル、サンドミル、ターボミル、冷凍粉砕が挙げられる。好ましくは、ターボミル、ジェットミル、冷凍粉砕などの乾式粉砕であり、さらに好ましくは冷凍粉砕である。
【0055】
本発明の樹脂粉末混合物は、樹脂粉末と添加物を均一に混合することが重要である。混合方法は特に制限されないが、樹脂粉末や無機強化材、無機粒子などを封入した容器ごと回転させる混合方法が混合物の回収や運用面において好ましく、少なくとも容器を回転させる第1の回転軸と、該第1の回転軸による回転方向とは異なる方向に容器を前記第1の回転軸と共に回転させる第2の回転軸を含む複数の回転軸を有する容器に封入し、前記複数の回転軸を同時に回転させて混合することが好ましい。複数の回転軸における回転軸同士の角度は特に限定されないが、回転軸が直角に交わるのが好ましい。上記複数の回転軸を有する混合機としては、例えば、複数の回転軸を持つクロスロータリーミキサーや、複数の回転軸を持つタンブラーミキサーを挙げることができる。混合容器の回転数は、回転方向に関わらず、3.5rpm以上35rpm以下が好ましく、より好ましくは15rpm以上30rpm以下である。混合時間は長時間であればあるほど均一混合に対し効果的であり、15分以上が好ましく、20分以上がより好ましい。また7分以下の短時間であると混合後も不均一な状態になるため造形物の強度が低下してしまう。
【0056】
上記複数の回転軸を有する混合機としては、例えば、
図1に示すような複数の回転軸を持つクロスロータリーミキサーや、
図2に示すような複数の回転軸を持つタンブラーミキサーを挙げることができる。複数の回転軸を持つクロスロータリーミキサーは、例えば
図1に示すように、樹脂粉末と添加物を封入した容器1を自転させる第1の回転軸2と、該第1の回転軸2による回転方向とは異なる方向に容器1を第1の回転軸2と共に回転させる第2の回転軸3を備えた混合機100である。複数の回転軸を持つタンブラーミキサーは、例えば
図2に示すように、樹脂粉末と添加物を封入した容器11を回転させる第1の回転軸12と、該第1の回転軸12による回転方向とは異なる方向に容器11を第1の回転軸12と共に回転させる第2の回転軸13を備えた混合機200である。混合機100、200ともに、3つ以上の回転軸を有する構造とすることも可能である。
【0057】
本発明において、繊維形状の無機強化材を用いる場合、容器内部に回転刃または攪拌翼が搭載されているものを用いるのが好ましい。これらを用いると繊維の凝集が解消し、より均一に混合することが可能である。回転刃または撹拌翼は1つの容器に対して1つ以上搭載されているものが好ましい。かかる回転数は100rpm以上1,000rpm以下が好ましく、400rpm以上700rpm以下がより好ましい。
【0058】
本発明の三次元造形物の製造方法は、上述した樹脂粉末混合物を3Dプリンタに供給して作製する。本発明の三次元造形物の造形方式としては、粉末床溶融結合法が好適である。
【0059】
粉末床溶融結合法とは、原料である樹脂粉末混合物の層を形成し、所望の造形物の断面に対応する位置をレーザー等の熱源によって溶融、溶着させ、その上にさらに樹脂粉末混合物の層を形成する操作を繰り返すことにより、3次元造形物を得る方式の3Dプリント手法である。
【0060】
なお、粉末床溶融結合法3Dプリンタに供供された樹脂粉末混合物は、適宜回収され、例えば、溶解析出させて粉末化して再生したり、目開き1mmの篩で樹脂粉末以外の溶融樹脂を取り除く処理を行ったものをそのまま、あるいは未使用の樹脂粉末混合物と混合し、再び3Dプリンタ装置に供給したりすることが可能である
【実施例】
【0061】
以下、本発明を、実施例及び比較例にて、具体的に説明する。なお、各種測定法は以下の通りである。
【0062】
<原料>
・ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末([A]および[B]等)
【0063】
[製造例1]
撹拌機付きの1リットルオートクレーブに、47重量%水硫化ナトリウム1.00モル、46重量%水酸化ナトリウム1.05モル、N-メチル―2ピロリドン(NMP)1.65モル、酢酸ナトリウム0.45モル、及びイオン交換水5.55モルを仕込み、常圧で窒素を通じながら225℃まで約2時間かけて徐々に加熱し、水11.70モルおよびNMP0.02モルを留出したのち、反応容器を160℃に冷却した。
【0064】
次に、p-ジクロロベンゼン(p-DCB)1.02モル、NMP1.32モルを加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、400rpmで撹拌しながら、160℃から240℃まで0.4℃/分の速度、240℃から270℃まで0.4℃/分の速度で二段階昇温した。270℃到達10分経過後に水0.75モルを15分かけて系内に注入した。270℃で120分経過後、200℃まで1.0℃/分の速度で冷却し、その後、室温近傍まで急冷して内容物を取り出した。
【0065】
内容物を取り出し、0.5リットルのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた固形物を1リットルの温水で数回洗浄した後、固形物のポリアリーレンスルフィドに対して0.45重量%の酢酸カルシウム・1水和物800gを加えて洗浄し、さらに1リットルの温水で洗浄、濾別してケークを得た。
【0066】
得られたケークを窒素気流下、120℃で乾燥後に粉砕し、発生ガス量0.34wt%、メルトフローレート150g/10min、平均粒径50μm、再結晶化温度178℃のPPS樹脂粉末(ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]、[B]以外:[C1])を得た。
【0067】
[製造例2]
製造例1で得られたPPS樹脂粉末10kg用いて、粉末床結合方式の3Dプリンタ(株式会社アスペクト製、Rafael300HT)を使用し、4mm×20mm×155mmの立体造形物の製造を行った。設定条件は、60WCO2レーザーを使用し、積層高さ0.1mm、レーザー走査間隔0.1mm、レーザー走査速度10m/s、レーザー出力35W、温度設定260℃(窒素雰囲気下)、造形時間5時間とした。造形終了後、造形に用いられなかった樹脂粉末を回収した(ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]:[A1])。この樹脂粉末の発生量ガス量は0.11wt%、メルトフローレートは45g/10min、平均粒径は50μm、再結晶化温度は178℃であった。
【0068】
[製造例3]
製造例2の製法を2回繰り返した。すなわち、製造例1で得られたPPS樹脂粉末に対して、温度260℃、10時間の熱履歴を受けた状態のPPS樹脂粉末を回収した(ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]:[A2])。この樹脂粉末の発生ガス量は0.02wt%、メルトフローレートは28g/10min、平均粒径は50μm、再結晶化温度は178℃であった。
【0069】
[製造例4]
撹拌機付きの1リットルオートクレーブに、47重量%水硫化ナトリウム1.00モル、46重量%水酸化ナトリウム1.05モル、NMP1.65モル、酢酸ナトリウム0.45モル、及びイオン交換水5.55モルを仕込み、常圧で窒素を通じながら225℃まで約2時間かけて徐々に加熱し、水11.70モルおよびNMP0.02モルを留出したのち、反応容器を160℃に冷却した。
【0070】
次に、p-DCB1.02モル、NMP1.32モルを加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、400rpmで撹拌しながら、160℃から240℃まで0.4℃/分の速度、240℃から270℃まで0.4℃/分の速度で二段階昇温した。270℃到達10分経過後に水0.75モルを15分かけて系内に注入した。270℃で130分経過後、200℃まで1.0℃/分の速度で冷却し、その後、室温近傍まで急冷して内容物を取り出した。
【0071】
内容物を取り出した後は製造例1と同様に洗浄、濾別、乾燥、粉砕し、発生ガス量0.34wt%、メルトフローレート110g/10min、平均粒径50μm、再結晶化温度178℃のPPS樹脂粉末(ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[B])を得た。
【0072】
[製造例5]
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム70.00モル、96%水酸化ナトリウム69.80モル、NMP115.50モル、酢酸ナトリウム23.10モル、及びイオン交換水583.3モルを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水821.1モルおよびNMP2.82モルを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。
【0073】
次に、p-DCB71.07モル、NMP94.50モルを加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温した。270℃で100分経過後、急冷した。内温が100℃へ到達したらオートクレーブの底栓弁を開放し、窒素で加圧しながら内容物を撹拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、減圧真空(-0.1MPa)下100℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去した。
【0074】
得られた内容物とイオン交換水76リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した76リットルのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。
【0075】
得られたケークおよびイオン交換水90リットルを撹拌機付きオートクレーブに仕込み、pHが7になるよう酢酸を添加した。オートクレーブ内部を窒素で置換した後、180℃まで昇温し、30分保持した。その後オートクレーブを冷却して内容物を取り出した。
【0076】
内容物をガラスフィルターで吸引濾過した後、これに70℃のイオン交換水76リットルを注ぎ込み吸引濾過してケークを得た。得られたケークを真空-0.1MPa下、60℃で乾燥後に粉砕し、発生ガス量0.18wt%、メルトフローレート1200g/10min、平均粒径50μm、再結晶化温度217℃のPPS樹脂粉末(ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]、[B]以外:[C2])を得た。
【0077】
[製造例6]
製造例1で得られたPPS樹脂粉末を金属バットに厚さ5cmに敷き詰めて熱風オーブン内に静置し、大気下270℃、2時間30分加熱し、ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]、[B]以外:[C3]を得た。この樹脂粉末の発生ガス量は0.36wt%、メルトフローレートは70g/10min、平均粒径は54μm、再結晶化温度は178℃であった。
【0078】
[製造例7]
撹拌機のついたオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム70.00モル、96%水酸化ナトリウム70.20モル、NMP140.00モル、酢酸ナトリウム26.67モル、及びイオン交換水583.3モルを仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水819.0モルおよびNMP2.82モルを留出したのち、反応容器を160℃に冷却した。
【0079】
次に、p-DCB70.24モル、NMP65.17モルを加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpm で撹拌しながら、200℃から250℃まで0.8℃ /分の速度で昇温し、250℃で70分保持した。次いで、250℃から278℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、278℃で78分保持した。オートクレーブ底部の抜き出しバルブを開放し、窒素で加圧しながら内容物を攪拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去した。
【0080】
得られた内容物およびイオン交換水76リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した7 6リットルのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。
【0081】
得られたケークおよびイオン交換水90リットルを、撹拌機付きオートクレーブに仕込み、オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持した。その後オートクレーブを冷却して内容物を取り出した。
【0082】
内容物をガラスフィルターで吸引濾過した後、これに70℃ のイオン交換水76リットルを注ぎ込み吸引濾過してケークを得た。得られたケークを窒素気流下、120℃で乾燥後に粉砕し、発生ガス量0.10wt%、メルトフローレート231g/10min、平均粒径300μm、再結晶化温度220℃のPPS樹脂粉末(ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]、[B]以外:[C4])を得た。
【0083】
[その他の成分]
樹脂粉末混合物に配合する樹脂粉末以外の成分としては、炭素繊維はZoltek株式会社製“PX35”を用い、ガラス繊維は日本電気硝子株式会社製EPG70MD-01Nを用い、無機粒子は信越化学工業株式会社製X-24-9600 QSG-170を用いた。
【0084】
[樹脂粉末混合物の混合方法]
本発明における樹脂粉末混合物の混合方法は、
図1に示したような2つの回転軸を持つクロスロータリーミキサーを使用した。樹脂粉末、無機粒子、および無機強化材を容器に封入し、連続横転運動(公転)および連続回転運動(自転)させながら混合した。
【0085】
<測定法>
[ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]、[B]および[C]の発生ガス量評価]
容器に10gのポリアリーレンスルフィド樹脂粉末を精秤し、320℃のオーブンで2時間加熱した。冷却後、重量を測定し、以下の式に従って発生ガス量を決定した。
(発生ガス量)=(加熱前の樹脂粉末の重量-加熱後の樹脂粉末の重量)/(加熱前の樹脂粉末の重量)×100(wt%)。
【0086】
[ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]、[B]および[C]のメルトフローレート]
ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末を用い、ASTM-D1238-70に順じ、315.5℃、5kg荷重で測定した。
【0087】
[ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末[A]、[B]および[C]の平均粒径]
ポリアリーレンスルフィド樹脂粉末の平均粒径は、レーザー回折・散乱方式粒度分布測定装置(日機装製、MT3300EXII)を用い、分散媒としてポリオキシエチレンクミルフェニルエーテル(商品名ノナール912A 東邦化学工業製)の0.5重量%水溶液を用いて測定した。具体的には、マイクロトラック法によるレーザーの散乱光を解析して得られる微粒子の総体積を100%として累積カーブを求め、小粒径側からの累積カーブが50%となる点の粒径(メジアン径:d50)を樹脂粉末の平均粒径とした。
【0088】
[三次元造形物の物性]
樹脂粉末混合物10kgを用いて、粉末床結合方式の3Dプリンタ(株式会社アスペクト製、Rafael300HT)を使用し、三次元造形物としてXY平面方向に長辺となるダンベル型試験片(4mm×20mm×155mm)を作成した。設定条件は、60WCO2レーザーを使用し、積層高さ0.1mm、レーザー走査間隔を0.1mm、レーザー走査速度を10m/s、レーザー出力を35W、温度設定は260℃とした。造形にかかる時間は5時間を要した。得られた試験片を用い、万能試験機(株式会社エーアンドデイ製、テンシロン万能試験機RTG―1250)にて引張強度を測定した。測定方法は、ISO-527-1に従い、5回測定した平均値を引張強度とした。また、引張試験後の試験片の破断面からボイドの発生状態を目視で観察し、0.3mm以上のボイドが10個以上観察されたものを×、10個未満のものを○として評価した。
【0089】
<実施例1~5、比較例1~7>
各表に示す樹脂粉末、無機粒子、および無機強化材の成分を所定量、配合・混合し、樹脂粉末混合物を得た。表1および表2に、成分と配合量を示す(表中における樹脂粉末の数字は、樹脂粉末の総量を100重量部として各成分の重量部を表す。無機粒子、および無機強化材の数字は、樹脂粉末混合物を100重量%とした各成分の含有量である)。
【0090】
次に、得られた樹脂粉末混合物を用いて三次元造形物の作製を行い、引張強度を測定した。各実施例および比較例の評価結果を表1および表2に示す。ただし、比較例7は、均一な粉面を形成できず、造形物の評価測定が出来なかった。
【0091】
【0092】
【0093】
実施例1~5は、比較例1~6と比較して、造形物のボイドが少なく、造形物の引張強度は高い値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、ボイドが少なく引張強度に優れる三次元造形物の製造方法、さらには、その材料として好適に用いられる樹脂粉末混合物およびその製造方法を提供するため、自動車や航空宇宙、産業、医療などの幅広い用途に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0095】
1、11 容器
2、12 第1の回転軸
3、13 第2の回転軸
100、200 混合機
【要約】
発生ガス量が0.25wt%以下、メルトフローレートが5g/10min以上75g/10min以下、平均粒径が1μm以上100μm以下であるポリアリーレンスルフィド樹脂粉末を含む樹脂粉末混合物、およびその製造方法、ならびにその樹脂粉末混合物を用いた三次元造形物の製造方法。本発明の樹脂粉末混合物を用いることにより、ボイドが少なく、引張強度に優れる三次元造形物を得ることができる。