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特許7255787組織適合特性を有する抗菌剤の組成物および使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】組織適合特性を有する抗菌剤の組成物および使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20230404BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230404BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20230404BHJP
   A61L 29/16 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
A61K38/16
A61K9/08
A61K47/42
A61L29/16
A61P31/04
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019166236
(22)【出願日】2019-09-12
(62)【分割の表示】P 2017194019の分割
【原出願日】2013-03-15
(65)【公開番号】P2019206596
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2019-10-03
【審判番号】
【審判請求日】2020-11-04
(31)【優先権主張番号】61/625,760
(32)【優先日】2012-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/625,757
(32)【優先日】2012-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/615,150
(32)【優先日】2012-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/716,242
(32)【優先日】2012-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514241663
【氏名又は名称】アミクローブ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(72)【発明者】
【氏名】ベヴィラクア,マイケル ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ベニテス,ディエゴ
(72)【発明者】
【氏名】ハンソン,ジャロッド エー.
【合議体】
【審判長】阪野 誠司
【審判官】藤原 浩子
【審判官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/027411(WO,A2)
【文献】Biofouling,2012年11月,Vol.28,No.10,p.1033-1061
【文献】PEPTIDES ,2006年,Vol,27,p.2104-2110
【文献】Current Medicinal Chemistry, 2011年, Vol.18, p.256-279
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K38/00-48/00
CA/Biosis/Medline/Embase(STN)、
JSTplus/JMEDplus/JST7580(JDream III)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオフィルムの治療のための医薬組成物であって:
バイオフィルム形成を支持することが出来る部位に適用する組成物であり、
前記部位が、バイオフィルムを含み、
前記組成物が、
少なくとも40アミノ酸残基の鎖長を有し、並びに正に帯電したアミノ酸残基の繰り返しのセグメント及び他の疎水性繰り返しアミノ酸残基のセグメントを有する、1つ以上の合成ポリペプチドを含み;
前記1つ以上の合成ポリペプチドが、中性のpHにおいてカチオン性であり;
前記1つ以上の合成ポリペプチドが、バイオフィルム中の微生物を阻害するか殺菌するものであり;及び
前記1つ以上の合成ポリペプチドが、水性媒体中において多量体を形成する
組成物。
【請求項2】
前記部位が、急性創傷、慢性創傷、失活した組織、及び外来性物体からなる群から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記外来性物体が、プロステーシスデバイス、メッシュ、人工呼吸器、及びカテーテルからなる群から選択される、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記メッシュが、移植可能なメッシュである、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記メッシュが、合成メッシュである、請求項3又は4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記組成物が、合成カチオン性ポリペプチドではない薬理的に許容可能なポリマーをさらに含む、請求項1~5の何れか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記1つ以上の合成ポリペプチドの抗菌活性が、100μg/mL以下の濃度で水性組成物において、標準的な60分間時間-殺菌アッセイ(time-kill assays)において、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)および大腸菌(Escherichia coli)の3l
og超の殺菌である、請求項1~の何れか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
創傷部位における、バイオフィルムの治療のための医薬組成物であって:
創傷部位において、バイオフィルムを接触させる組成物であり、
前記組成物が、
少なくとも40アミノ酸残基の鎖長を有し、並びに正に帯電したアミノ酸残基の繰り返しのセグメント及び他の疎水性繰り返しアミノ酸残基のセグメントを有する、1つ以上の合成ポリペプチドを含み;
前記1つ以上の合成ポリペプチドが、中性のpHにおいてカチオン性であり;
前記1つ以上の合成ポリペプチドが、バイオフィルム中の微生物を阻害するか殺菌するものであり;及び
前記1つ以上の合成ポリペプチドが、水性媒体中において多量体を形成する
組成物。
【請求項9】
前記創傷部位が、急性創傷、慢性創傷、及び失活した組織からなる群から選択される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記組成物が、合成カチオン性ポリペプチドではない薬理的に許容可能なポリマーをさらに含む、請求項又はに記載の医薬組成物。
【請求項11】
バイオフィルムの治療のための医薬組成物であって:
バイオフィルム形成を支持することが出来る医療器具上の部位に適用する組成物であり、
前記部位が、バイオフィルムを含み、
前記組成物が、
少なくとも40アミノ酸残基の鎖長を有し、並びに正に帯電したアミノ酸残基の繰り返しのセグメント及び他の疎水性繰り返しアミノ酸残基のセグメントを有する、1つ以上の合成ポリペプチドを含み;
前記1つ以上の合成ポリペプチドが、中性のpHにおいてカチオン性であり;
前記1つ以上の合成ポリペプチドが、バイオフィルム中の微生物を阻害するか殺菌するものであり;及び
前記1つ以上の合成ポリペプチドが、水性媒体中において多量体を形成する
組成物。
【請求項12】
前記部位が、プロステーシスデバイス、メッシュ、人工呼吸器、及びカテーテルからなる群から選択される、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記メッシュが、移植可能なメッシュである、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記メッシュが、合成メッシュである、請求項12又は13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記組成物が、合成カチオン性ポリペプチドではない薬理的に許容可能なポリマーをさらに含む、請求項1114の何れか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
創傷部位又は医療器具上のバイオフィルムの治療のための組成物の製造における1つ以上の合成ポリペプチドの使用であって:
前記1つ以上の合成ポリペプチドが:
少なくとも40アミノ酸残基の鎖長を有し、並びに正に帯電したアミノ酸残基の繰り返しのセグメント及び他の疎水性繰り返しアミノ酸残基のセグメントを有する、1つ以上の合成カチオン性ポリペプチドを含み;
中性のpHにおいてカチオン性であり;
バイオフィルム中の微生物を阻害するか殺菌するものであり;及び
水性媒体中において多量体を形成する
使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<すべての優先権出願の参照による援用>
本出願は、2012年3月23日出願の米国特許仮出願第61/615,150号、2012年4月18日出願の米国特許仮出願第61/625,757号、2012年4月18日出願の米国特許仮出願第61/625,760号、および2012年10月19日出願の米国特許仮出願第61/716,242号の利益を主張するものであり、これらの各々の開示事項は、認められる限りにおいてその全体が本明細書に参照により援用される。
【背景技術】
【0002】
バリアが破られると、感染が発生する。外科手術、外傷および熱傷、医療器具の使用(例:カテーテル挿入、人工呼吸)、慢性創傷(例:糖尿病性足部潰瘍)、および種々の疾患が、ヒトの自然防御バリアを破壊する。ほとんどすべての場合において、これらの「創傷」は、微生物によって汚染された状態となる。そして、創傷の表面形状(terrain)が、微生物の成長にとって非常に優れた環境を提供する。戦いが始まり、それは、塹壕での戦いである(trench warfare)。損傷した組織(「割れ目および裂け目」)、変化した血流および浸出物産生、局所体温、pH、および組織酸素供給の変化、ならびに共生細菌の欠如、これらすべてが寄与し得る。また、出血および血管漏出も、最終的には微生物の成長を助ける液体および栄養を提供し得る。細菌または真菌のコロニー形成、および/または感染の発症(overt infection)が起こり得る。微生物のバイオフィルムは、微生物がそれ自体の局所環境を作り出す手助けとなり得る。様々な外科手術、外傷、および医学的状況のすべてが、ヒトの自然防御バリアの破壊に関与しており、その予後が迅速な治癒から致死的な敗血症まであり得ることから、特別に注目されるに値するものである。
【0003】
自然バリアは、通常、皮膚、肺上皮、胃腸粘膜などのその解剖学的部位で称される。これらの名称は、認められていないレベルの単純なものも包含し得る。これらのバリアは、多くの場合、受動的でも能動的でもである。それらには、協同作用して微生物侵入に対する効果的な防御を提供する様々な細胞、分泌糖タンパク質、基質成分、および体液が関与し得る。ある部位では、常在性微生物が、他の考え得る侵入者に対するバリア作用に寄与している。ほとんどの状況下にて、これらの物理的および機能的バリアは、非常に効果的である。しかし、それらは、機械的または化学的攻撃によって比較的容易に破壊され得る。加えて、糖尿病性足部潰瘍または嚢胞性線維症で発生するように、特定の全身性疾患は、ヒトの自然バリアを弱め、破壊のリスクを高め得る。最後に、インフルエンザ、それに続く細菌性肺炎または腟トリコモナス、それに続く特定の性行為感染症(例:HIV)で発生するように、最初の感染が、二番目の感染に対するホストの防御を弱め得る。
【0004】
防御バリアが破られると、ホストは、通常は良性である共生生物から攻撃的な病原体まで、広範囲の様々な微生物による感染を受けやすくなる。一般的に、ヒトは、自分自身が、自身の創傷を汚染する微生物源である。ヒトの身体は、主として皮膚上、口腔中、および下部消化管内において、非常に数多くの細菌のホストとなっている。一人のヒト身体の空間内に、哺乳類細胞(1013)よりも多い細菌細胞(1014)が存在すると推定されている。このような微生物との密接な関係にも関わらず、ヒトの組織のほとんど(血液、皮下組織、筋肉、脳を含む)は、自然バリアが破壊されるまでは無菌状態に維持されている。微生物のその他の人間および環境源も、特に医療の状況において重要である。バリアが破壊されると、微生物による汚染、臨界レベルのコロニー形成、バイオフィルム形成、および/または感染の発症が起こり得る。多微生物性のコロニー形成および/または感染は、特定の状況下(例:糖尿病性足部潰瘍、複雑な腹腔内感染)において一般的であり、好気性菌、嫌気性菌、またはその両方が関与し得る。
【0005】
このような感染の予防および治療に対する先行技術の手法は、大きな弱点を示してきた。効果の不足および組織毒性の両方が問題となっている。抗菌剤は、多くの場合、正しい組織空間に到達することができず、および/または感染を予防もしくは治療するのに充分な時間にわたって活性を維持することができない。腹腔のような複雑な表面、または大きい熱傷は、特に効果的に扱うことが難しい。最後に、充分な抗菌剤を、特定の組織空間に安全に投与すること(腹腔鏡または関節鏡の装置によるなど)が問題であり得る。このような方法によって容易に投与される抗菌剤は、組織と結合して長時間にわたって活性を維持する能力が限定される溶液系の物質である傾向にある。
【0006】
バイオフィルムは特定の問題を提供する。細菌バイオフィルムの様々な抗菌剤手法に対する抵抗性、および有害な患者予後に対するその役割を示す証拠が増加しつつある。このような微生物集団は、多くの場合負電荷を有する(アニオン性)細胞外ポリマー物質をそれ自体が産生することを含むがこれに限定されないいくつかの機構を通して、従来の消毒剤および抗生物質に抵抗を示す。従来の抗菌剤によるこのような物質の貫通は、多くの場合限定される。例えば、急性創傷(例:外科手術および外傷)では、失活した組織および外来性物体(例:プロステーシスインプラント)が、バイオフィルムの形成を補助する場合があり、それによって、感染の発症の可能性が高められる。慢性創傷(例:糖尿病性足部潰瘍)では、バイオフィルムは、存続する場合があり、創傷治癒の遅延に繋がる。人工呼吸器およびカテーテルなどの医療器具は、バイオフィルム形成の部位であり得、感染源を提供し得る。
【0007】
初期感染の抗菌剤治療は、感染の経過を改変し、その結果として、より抵抗性であり、より危険である感染をもたらす場合がある。一般的な抗菌剤戦略は、広域抗生物質に対して抵抗性を有する細菌の発生を回避するために、選択的抗生物質(例:グラム陽性生物に対してのペニシリン)の使用が中心である。偶然にも、この重要な戦略は、個々の患者に対して不良な予後をもたらし得るものであり、ここで、標的化抗生物質が、攻撃的な異なる微生物(例:シュードモナス(Pseudomonas))の出現をもたらす。このようにして、治療された創傷が、「病原体のパレード(parade of pathogens)」の部位となり得るものであり、ここで、初期の支配的な微生物種(例:黄色ブドウ球菌(Staph aureus))が、第二の(例:MRSA、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、ならびに恐らくは、さらに第三および第四の微生物種(例:多剤耐性グラム陰性種)に置き換えられる。
【0008】
今日の先進医療の状況において有害な患者の予後の数が多いことが、このような感染の予防および治療での先行技術の欠点を明白にしている。いくつかの重要な弱点としては以下が挙げられる:
【0009】
1.組織環境中およびバイオフィルム上での低い抗菌活性;
【0010】
2.該当する組織空間への不適切な分布;
【0011】
3.存在する場合であっても限定されたバリア活性;
【0012】
4.抗菌活性の範囲が狭いことによって「病原体のパレード」を可能とすること;
【0013】
5.不適切な治療により、抗菌剤抵抗性がさらに助長されること;および/または
【0014】
6.組織毒性。
【0015】
創傷の感染およびその他のバリア破壊の状況は、一般的であり、損害は大きい。米国単
独で、毎年およそ1200万件の外傷性損傷が、救急診療で治療されている。加えて、5000万件超の外科手術が行われている(入院患者および外来患者)。米国保健福祉省は、一年に170万件超の医療関連感染があり、毎年およそ100000万人の死亡と300億ドルの医療コストをもたらしていると指摘している。これらの医療関連感染の多くは、バリアの破壊がきっかけである。例としては、外科手術部位感染(SSI)、カテーテル関連尿路感染、および人工呼吸器関連肺炎が挙げられる。褥瘡(床ずれ)および糖尿病性足部潰瘍に関連する慢性創傷は、それ自体の独特の問題を提示する。
【0016】
感染に加えて、いくつかのその他の創傷関連予後が、依然として大きな問題である。これらとしては、失血、組織接着/瘢痕、および不良な創傷治癒が挙げられる。そして、いくつかの場合では、公知の抗菌剤治療は、これらの問題を悪化させる。特定の抗菌剤創傷治療(抗生物質洗浄を含む)は組織の過剰な応答(例:組織接着または瘢痕)をもたらし得る。特定の消毒剤/抗菌剤は、創傷治癒を改変する場合があり、その結果、組織の応答が不充分となってしまう(例:不良な創傷治癒、不良な創傷力(wound strength))。
【0017】
創傷における効果的な止血も、依然として大きな問題である。止血剤は既に報告されており、外傷および外科手術を含む様々な状況で用いられている。ある状況では効果的であるが、これらの物質は、問題に対する理想的な解決策を与えるものではない。第一に、止血が不充分であり、出血が多すぎる場合があり、致命的な結果をもたらす可能性がある。このような場合のいくつかでは、初期止血は行われるが、その後、再出血が発生する。これは、線維素溶解活性に起因し得る。失血に起因する問題に加えて、組織中の血管外遊出した血液成分は、感染および外科手術後の組織接着と共にみられる線維化応答を含む追加的な有害な予後に寄与し得る。第二に、いくつかの場合では、止血剤は、血流中に入り込み、血管内での凝固(血栓症)を誘発することによって問題を引き起こし、致命的な予後となる可能性がある。第三に、いくつかの場合では、創傷治療剤(止血剤を含む)は、その後の感染部位として作用する場合があり、または接着形成および/もしくは組織瘢痕形成などの異常な組織応答をもたらす場合があり、その結果、有害な医療的予後となる。止血に対する改善された手法が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の実施形態によると、抗菌カチオン性ポリペプチドおよび第二の薬理学的に許容されるポリマーの混合物が、ヒトの自然防御バリアが破られた場合に発生する感染の治療および予防に用いられる。このような新規な組成物は、2つの機能:直接の抗菌活性およびバリア活性、を提供することができる。本発明の実施形態は、上述したこれまでの抗菌剤の1つ以上の弱点に対処するものである。特に、これまでの消毒剤および抗生物質のほとんどの効果が、懸濁液中の微生物を用いた溶液中での抗菌活性の特定(MICアッセイ)に基づいており、これによっては、組織中での効果を必ずしも示唆するものではなく、従って組織中での効果の特定から遠ざかるものであり得る結果が得られる。対照的に、発明者らは、特に組織表面および創傷の表面形状(「割れ目および裂け目」)における、広い抗菌活性についての剤の設計および選択に焦点を当てた。これには、アニオン性要素を示す特定の物質または細胞(例:微生物)の動きを阻害することができるカチオン性(正に帯電)要素を含有するバリアの形成が含まれる。1つの実施形態では、これらの組成物の合成カチオン性ポリペプチドは、少なくとも1つのカチオン性セグメントおよび少なくとも1つの疎水性セグメントを含有し、実質的に天然アミノ酸から成り、および広い抗菌性を有する(すなわち、グラム陽性およびグラム陰性細菌に対する)。それらはまた、部分的にはそれらの疎水性セグメントの相互作用に基づいて、自己組織化するように設計することもできる。さらに、合成ポリペプチドは、第二の薬理学的に許容されるポリマーと配合されて、直接の抗菌性を有し、効果的に組織を被覆する組成物が提供される。これらの混合物はまた、止血特性も示し得る。ある実施形態では、第二の薬理学的に許容される
ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)ではない。
【0019】
本発明の実施形態は、単独で用いられても、または類似の、もしくは補足的活性を提供するその他の物質と組み合わせて用いられてもよい。
【課題を解決するための手段】
【0020】
実施形態は、感染の予防、阻止、または治療のための水性組成物を提供し、それは:抗菌活性を有する1つ以上の合成カチオン性ポリペプチド;および抗菌活性を有する合成カチオン性ポリペプチドではない第二の薬理学的に許容されるポリマーを含む混合物を含み;ここで、1つ以上の合成カチオン性ポリペプチドおよび第二の薬理学的に許容されるポリマーの各量は、水性組成物の全体積に対して少なくとも約100μg/mLであり;ここで、第二の薬理学的に許容されるポリマーの量は、1つ以上の合成カチオン性ポリペプチドの重量に対して少なくとも約10重量%であり;およびここで、合成カチオン性ポリペプチドおよび第二の薬理学的に許容されるポリマーは、互いに水に混和性である。
【0021】
抗菌活性を有する1もしくは複数の合成カチオン性ポリペプチドおよび第二の薬理学的に許容されるポリマーは、1mg/mLの各ポリマー濃度にて水中で混合し、室温で24時間維持した後、目視による検査でポリマー成分の少なくとも約90%が互いに可溶性を維持する場合、互いに混和性であると見なされる。
【0022】
別の実施形態では、水性組成物中の1もしくは複数の合成カチオン性ポリペプチドの1つ以上は、少なくとも40アミノ酸残基の鎖長を有するセグメントを含む。
【0023】
別の実施形態では、水性組成物中の1もしくは複数の合成カチオン性ポリペプチドは、実質的にすべてが天然アミノ酸であるサブユニットを含む。
【0024】
別の実施形態では、水性組成物中の1もしくは複数の合成カチオン性ポリペプチドは、少なくとも5つの連続するカチオン性アミノ酸残基を含有する少なくとも1つのセグメント、および少なくとも5つの連続する疎水性アミノ酸残基を含有する少なくとも1つのセグメントを特徴とする。
【0025】
別の実施形態では、水性組成物中の第二の薬理学的に許容されるポリマーは、セルロース、アルギネート、コラーゲン、ポリマー界面活性剤、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリビニルピロリジノン(PVP)、フィブリン(フィブリノーゲン)、血液タンパク質、および組織タンパク質から成る群より選択される。
【0026】
別の実施形態では、水性組成物の抗菌活性は、100μg/mL以下の合成カチオン性ポリペプチドの濃度での標準的な60分間時間‐殺菌アッセイ(time-kill assay)において、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)および大腸菌(Escherichia coli)の3log超の殺菌である。
【0027】
別の実施形態では、水性組成物は、さらに、40mg/mL以下の全ポリマー濃度にて、生体外においてバイオフィルムを破壊または阻害する能力も特徴とする。
【0028】
別の実施形態では、水性組成物は、さらに、40mg/mL以下の全ポリマー濃度にて、2log超のアニオン性染料の拡散速度の減少によって測定されるバリア活性も特徴とする。
【0029】
別の実施形態では、水性組成物は、さらに、40mg/mL未満の全ポリマー濃度にて、少なくとも50Paの貯蔵弾性率も特徴とする。
【0030】
別の実施形態では、水性組成物は、さらに、40mg/mL未満の全ポリマー濃度における少なくとも50Paの貯蔵弾性率、および60N未満の圧力を用いて20gのニードルを通過する能力も特徴とする。
【0031】
別の実施形態では、水性組成物は、さらに、20gのニードルを通過する能力、および10分以内に貯蔵弾性率で測定されるその強度の少なくとも70%を回復する能力も特徴とする。
【0032】
別の実施形態では、水性組成物は、溶液、ゲル、クリーム、フォーム、またはドレッシング材の形態である。
【0033】
別の実施形態では、水性組成物は、さらに、ガーゼまたはスポンジが挙げられるがこれらに限定されないドレッシング材と組み合わされているか、または結合されていることも特徴とする。
【0034】
別の実施形態では、水性組成物は、凝血促進剤活性、止血促進剤活性、またはその両方を有する。
【0035】
別の実施形態では、水性組成物は、さらに、ステロイド、炎症促進剤、抗炎症剤、抗ざ瘡剤、保存剤 止血剤、血管新生剤、創傷治癒剤、抗癌剤、およびその他の抗菌剤から成る群より選択される薬理活性成分(API)も含む。
【0036】
別の実施形態は、感染の予防、感染の治療、局所的抗感染治療、微生物除菌のための治療、創傷治療、外科手術部位治療、外傷治療、熱傷治療、糖尿病性足部潰瘍の治療、眼の治療、膣内感染の治療、尿路感染の治療、手の消毒、プロステーシスデバイスおよび/またはインプラントのコーティング用、食物の保存、ならびに溶液の保存から成る群より選択されるいずれか1つ以上のための、本明細書で述べる水性組成物のいずれか1つの使用を提供する。
【0037】
別の実施形態は、感染の予防および/または治療のための方法を提供し、それは:対象患者の組織を、本明細書で述べる水性組成物のいずれかと接触させることを含む。
【0038】
別の実施形態では、方法は、さらに、創傷に陰圧を適用することも含む。
【0039】
別の実施形態では、方法は、さらに、他の抗生物質で全身的に、ならびに/または別の抗菌剤、および/もしくは抗生物質、抗バイオフィルム剤、界面活性剤、およびこれらの組み合わせから成る群より選択される少なくとも1つで局所的に、患者を治療することも含む。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】合成カチオン性ポリペプチド、Kx(rac‐L)yおよびKxy、の例を示す。これらのポリペプチドは、リジンアミノ酸のカチオン性セグメントおよびロイシンアミノ酸の疎水性セグメントを含有する。カチオン性セグメントは、細菌表面を含むアニオン性物質との多量体相互作用を提供する。疎水性セグメントは、水性媒体中で会合し、溶解状態の多量体、ミセル、シート、およびフィブリルなどの様々な構造の形成を引き起こす。これらの疎水性相互作用は、バリア形成において重要である。
図2A】アミンの開始剤を用いて合成された合成カチオン性ポリペプチドの例を示す表(表1)である。
図2B】有機金属Co(PMe34の開始剤を用いて合成された合成カチオン性ポリペプチドの例を示す表(表1)である。
図3】鎖延長実験のゲル浸透クロマトグラムである。
図4】代表的な脱保護ジブロックコポリペプチドのゲル浸透クロマトグラムである。
図5】モノマーの減衰全反射フーリエ変換赤外(ATR‐IR)インターフェログラムである。
図6】粗反応混合物および完全な重合の減衰全反射フーリエ変換赤外(ATR‐IR)インターフェログラムである。
図7A】代表的なペプチドのマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量スペクトルを示す。
図7B】代表的なペプチドのマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量スペクトルを示す。
図8】d‐TFA中での代表的な脱保護コポリペプチドの液体プロトン核磁気共鳴(H1‐NMR)スペクトルを示す。
図9】K100(rac‐L)20を用いた、表皮ブドウ球菌(RMA 18291)および大腸菌(ATCC 25922)に対する生体外抗菌時間‐殺菌アッセイ(60分間)を示す。
図10】K10040を用いた、表皮ブドウ球菌(RMA 18291)および大腸菌(ATCC 25922)に対する生体外抗菌時間‐殺菌アッセイ(60分間)を示す。
図11】10および100μg/mLの濃度でのK100(rac‐L)20および1:1 K100(rac‐L)20:Poloxamer 407溶液の黄色ブドウ球菌(29213)および緑膿菌(P. aeruginosa)(27853)に対する、5および60分後の生体外抗菌時間‐殺菌を示す表(表2)である。
図12】10および100μg/mLの濃度でのK100(rac‐L)20溶液の種々のグラム陽性およびグラム陰性細菌ならびに真菌に対する、60分間の接触時間後の生体外抗菌時間‐殺菌を示す表(表3)である。
図13】0.1~20mg/mLの濃度でのK100(rac‐L)20およびK10040が、生体外において(接触時間24時間)緑膿菌バイオフィルムに対して効果的であることを示す。
図14】10および100μg/mLの濃度でのK100(rac‐L)20を、他の比率の賦形剤:5:1 K100(rac‐L)20:Poloxamer 407、2:1 K100(rac‐L)20:HEC、および1:3 K100(rac‐L)20:Peg 400と共に用いた、黄色ブドウ球菌(29213)および緑膿菌(27853)に対する、5および60分後の生体外抗菌時間‐殺菌アッセイを示す。
図15】K10040(10μg/mL)単独で、およびセルロースエーテル(メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、およびヒドロキシエチルセルロース(HEC))との1:1の比率での組み合わせとして用いた、黄色ブドウ球菌(29213)に対する30分後の生体外抗菌時間‐殺菌アッセイを示す。
図16】60分間の接触時間後の、黄色ブドウ球菌(29213)、表皮ブドウ球菌(RMA 18291)、緑膿菌(27853)、および大腸菌(25922)に対する生体外抗菌時間‐殺菌アッセイを示す表(表4)である。10および100μg/mLの濃度でのK10040を、他の比率でのヒドロキシエチルセルロース:1:2 K100(rac‐L)20:HECおよび1:20 K100(rac‐L)20と共に試験した。
図17】バリアアッセイを示し、ここで、2%の合成カチオン性ポリペプチド製剤(K10040)が、48時間にわたって、着色したアニオン性染料の拡散の阻止に非常に効果的であることが示された。対照的に、この染料は、2% ポリエチレングリコール(10000)製剤中を容易に(5分間以内)拡散した。
図18】合成組織類似体であるVitroskin(登録商標)と結合する合成カチオン性ポリペプチドを示す。FITC-K100(rac‐L)20およびFITC-K10040の1%溶液を用いて実証されるように、適用されたFITC標識コポリペプチドの大部分が、Vitroskin(登録商標)と会合状態で維持されることが示された。比較として、標識BSAの大部分は、洗浄によって除去された。残留%は、1~10回の洗浄後のFITC蛍光(λexc=495nm、λem=521nm)を用いて特定され、除去されたパーセントを100%から差し引くことで算出された。
図19】Vitroskin(登録商標)表面上における、0および5回(5×1mL)の洗浄後の、黄色ブドウ球菌に対するK100(rac‐L)20およびK10040(100~3000μg/mL)の生体外抗菌活性を示す。Vitroskin(登録商標)の3cm×3cmの各ピースを、黄色ブドウ球菌共に60分間インキュベートした。
図20A】1% 合成カチオン性ポリペプチドの溶液と水中の1% ヒドロキシエチルセルロース(HEC、Natrosol HHX)との混合物に対する堅さ値を示す。
図20B】1% コポリペプチドの溶液と水での1% ヒドロキシエチルセルロース(HEC、Natrosol HHX)との混合物に対する接着仕事値を示す。
図21】純ポリペプチドおよびHEC混合物の合成カチオン性ポリペプチドテクスチャ分析プロファイルデータを示す表(表5)である。a.水中の1%(重量/重量)ポリペプチドに対する値。b.水中の1% ポリペプチド/1% HEC(重量/重量)に対する値。c.相互作用パラメータ:ΔF=F混合(ホ゜リ/HEC)-(Fホ゜リ+FHEC)。ここで、F混合(ホ゜リ/HEC)=1% ポリペプチド/1% HECの堅さ、Fホ゜リ=1% ポリペプチド溶液の堅さ、およびFHEC=水中の1% HEC(Natrosol HHX)の堅さ。類似のデータ処理を、接着仕事相互作用パラメータについても行った。
図22A】1% K10040/1% HECの相乗混合物および水中の1%での個々の成分のA)歪、およびB)周波数スイープを示す。■=1% K10040/1% HEC、●=1% K10040、および▼=1% HEC。G’値=黒塗り記号およびG”=白抜き記号。
図22B】1% K10040/1% HECの相乗混合物および水中の1%での個々の成分のA)歪、およびB)周波数スイープを示す。■=1% K10040/1% HEC、●=1% K10040、および▼=1% HEC。G’値=黒塗り記号およびG”=白抜き記号。
図23】合成カチオン性ポリペプチド溶液(抗感染溶液;左)および合成カチオン性ポリペプチドヒドロゲル(バリアゲル;右)が、ブタモデルにおける開放創の被覆に効果的であることを示している。合成カチオン性ポリペプチドは、蛍光標識した。
図24】げっ歯類感染モデルにおけるK100(rac‐L)20の抗菌活性を示す。ポリプロピレンメッシュを、続いて107のMRSA(33593)をラットの皮下に挿入した。15分後、10、2、もしくは0.4mg/mLのK100(rac‐L)20、または水を添加した。2日後、移植したメッシュおよび周囲組織を、MRSAの細菌数について分析した。
図25】開放創ブタモデルにおけるK100(rac‐L)20の抗菌活性を示す。各創傷を、細菌(表皮ブドウ球菌、緑膿菌(ブタ臨床分離株))で汚染した。2時間後、創傷を生理食塩水でリンスし、5mLの試験品または水で処理した。試験品:10、2、0.4mg/mLのK100(rac‐L)20、10mg/mL K100(rac‐L)20および水中の30mg/mL PEG400、ならびにコントロールとしての脱イオン水。試験品または水に浸漬したガーゼを創傷の上に置いた。処理の4時間後に創傷の生検を行った。
図26】開放創ブタモデルにおいて、K10040ヒドロゲルが感染を予防することを示す。各創傷に対して、ヒドロゲルを創面およびガーゼに適用した。ヒドロゲルに浸漬したガーゼを創傷の上に置いた。生理食塩水をコントロールとして用いた。15分後、各創傷を、細菌(表皮ブドウ球菌、緑膿菌(ブタ臨床分離株))で汚染した。ヒドロゲル試験品:K10040 10mg/mL、K10040 5mg/mLおよび10mg/mL HEC、K10040 2mg/mLおよび15mg/mL HEC、ならびにコントロールとして生理食塩水。ヒドロゲル適用の4時間後に創傷の生検を行った。
図27】医学的に許容されるスポンジ材と結合した合成カチオン性ポリペプチドを示す。この製品の概念は、止血および/または抗菌活性の送達を促進するために、コポリペプチドを創傷と接触させることができる1つの方法を示している。
図28】10および100μg/mLでのK10040および1:1 K10040およびHECの混合物による生体外全血凝血アッセイの結果を示す。コントロールは、10および100μg/mLでのHEC単独、ネガティブコントロールの生理食塩水、ならびにポジティブコントロールのトロンボプラスチン、TF(500μLの全血中50μL)とした。
図29】10および100μg/mLでのK10040および1:1 K10040およびHECの混合物による血小板凝集アッセイの結果を示す。コントロールは、10および100μg/mLでのHEC単独、ネガティブコントロールの生理食塩水、ならびにポジティブコントロールのコラーゲンとした。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の実施形態によると、抗菌カチオン性ポリペプチドおよび第二の薬理学的に許容されるポリマーの混合物を含む水性組成物が、ヒトの自然の防御バリアが破られた場合に発生する感染の治療および/または予防に用いられる。この新規な組成物は、2つの機能:直接の抗菌活性およびバリア活性、を示すことができる。本発明の実施形態は、上述したこれまでの抗菌剤の1つ以上の弱点に対処するものである。特に、発明者らは、これまでの消毒剤および抗生物質のほとんどが、懸濁液中の微生物を用いた溶液中での抗菌活性(MICアッセイ)、すなわち組織中での効果から遠ざかる方向であり得る方法に基づいているという認識からスタートした。対照的に、発明者らは、特に組織表面および創傷の表面形状(「割れ目および裂け目」)における、広い抗菌活性についての剤の設計および選択に焦点を当てた。これには、アニオン性要素を示す特定の物質または細胞(例:微生物)の動きを阻害することができるカチオン性(正に帯電)要素を含有するバリアの形成が含まれる。1つの実施形態では、これらの組成物の合成カチオン性ポリペプチドは、少なくとも1つのカチオン性セグメントおよび少なくとも1つの疎水性セグメントを含有し、実質的に天然アミノ酸から成り、および広い抗菌性を有する(すなわち、グラム陽性およびグラム陰性細菌に対する)。それらはまた、部分的にはそれらの疎水性セグメントの相互作用に基づいて、自己組織化するように設計することもできる。さらに、合成ポリペプチドは、第二の薬理学的に許容されるポリマーと配合されて、直接の抗菌性を有し、効果的に組織を被覆する組成物が提供される。これらの混合物はまた、止血特性も示し得る。ある実施形態では、第二の薬理学的に許容されるポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)ではない。
【0042】
本発明の実施形態は、単独で用いられても、または類似の、もしくは補足的活性を提供するその他の物質と組み合わせて用いられてもよい。
【0043】
合成カチオン性ポリペプチド
本明細書で述べる水性組成には、様々な合成カチオン性ポリペプチドを用いることができる。実施形態では、合成カチオン性ポリペプチドは、正に帯電したアミノ酸(例:リジン、アルギニン)の繰り返しユニットもしくは残基のセグメント、および疎水性アミノ酸(例:ロイシン、イソロイシン、バリン、アラニン)の繰り返しユニットもしくは残基の別のセグメントを含む。例としては、1つ以上の繰り返しリジンアミノ酸のセグメントまたはブロック、および1つ以上の繰り返しロイシンアミノ酸のセグメントまたはブロックから成る、全体構造がKxyであるコポリペプチドが挙げられる(図1)。種々の実施形態では、(1もしくは複数の)合成カチオン性ポリペプチドの1つ以上は、少なくとも4
0アミノ酸残基の鎖長を有するセグメントを含む。種々の実施形態では、(1もしくは複数の)合成カチオン性ポリペプチドは、実質的にすべてが天然アミノ酸であるサブユニットを含む。ある実施形態では、(1もしくは複数の)合成カチオン性ポリペプチドは、少なくとも5つの連続するカチオン性アミノ酸残基を含有する少なくとも1つのセグメント、および少なくとも5つの連続する疎水性アミノ酸残基を含有する少なくとも1つのセグメントを特徴とする。例えば、ある場合では、ポリペプチドは、少なくとも5つの連続する繰り返しリジンアミノ酸ユニットを含む1つ以上のセグメント、および少なくとも5つの連続する疎水性繰り返しアミノ酸(例:ロイシン)を含む1つ以上のセグメントを含む。ある場合では、カチオン性ポリペプチドは、50から200以上のリジンアミノ酸残基を含有するリジンブロックを有する比較的長鎖の分子であってよい。合成カチオン性ポリペプチドの例としては、K50(rac‐L)10、K50(rac‐L)20、K50(rac‐L)30、K50(rac‐L)40、K50(rac‐L)50、K5010、K5020、K5030、K5040、K5050、K100(rac‐L)10、K100(rac‐L)20、K100(rac‐L)30、K100(rac‐L)40、K100(rac‐L)50、K10010、K10020、K10030、K10040、K10050、K200(rac‐L)10、K200(rac‐L)20、K200(rac‐L)30、K200(rac‐L)40、K200(rac‐L)50、K20010、K200L20、K20030、K20040、K20050が挙げられる(図2(表1))。その他の合成カチオン性ポリペプチド(例:リジンセグメントがより長いもしくは短い、およびロイシンセグメントがより長いもしくは短い)も想定される。また、本発明は、カチオン性セグメントが、アルギニンなどのその他のアミノ酸を含んでよく、ならびに疎水性ブロックが、ロイシン、アラニン、バリン、および/またはイソロイシンが挙げられるがこれらに限定されない1つ以上の疎水性アミノ酸を含有してよいその他の合成カチオン性ポリペプチドも含む。ある場合では、セグメントの1つ以上が、疎水性および親水性アミノ酸を含むアミノ酸のランダム配列を有してよい。
【0044】
合成カチオン性ポリペプチドの例としては、米国特許第6,680,365号;同第6,632,922号;同第6,686,446号;同第6,818,732号;同第7,329,727号;米国特許出願公開第2008/0125581号;および米国特許出願公開第2011/048869号に記載のものが挙げられる。前述の特許および特許出願は、特に合成カチオン性ポリペプチドおよびそれを作製する方法を記述する目的で、参照により本明細書に援用される。
【0045】
高い再現性の極めて狭い多分散性を有する合成カチオン性ポリペプチドを製造する方法が開発され、そのようなポリマーは、抗菌活性およびバリア形成の必要性に適合する様々な仕様の通りに作製することができる。例えば、無水溶媒中の高品質α‐アミノ酸N‐カルボキシ無水物(NCA)をベンジルアミン開始剤と組み合わせることにより、高品質ブロックコポリペプチドが合成される。次に、これらのポリマーが、脱保護、および精製を受け、最終生成物が得られる。
【0046】
ペプチドの合成のモニタリング、ならびに得られたポリマー生成物のサイズ、特性、および残留不純物の分析の両方のために、いくつかの分析技術が開発され、洗練されてきた。赤外分光分析が、反応の進行のモニタリングのために用いられてよいが、サイズ排除ゲル浸透クロマトグラフィーが、プロセスの様々なステージでのポリマーの成長および状態のモニタリングのために用いられてよい。核磁気共鳴分光分析(NMR)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI‐MS)、および誘導結合プラズマ質量分析(ICP‐MS)などのその他の分析技術が、例えば一定の再現性および純度を確保するための追加の品質管理試験として用いられてよい(図3~8)。
【0047】
合成カチオン性ポリペプチドは、広範囲にわたる抗菌活性を示すように設計することができる(米国特許出願公開第2011/048869号参照)。合成カチオン性ポリペプ
チドは、1.0mg/mL以下の合成カチオン性ポリペプチド濃度での標準的な60分間時間‐殺菌アッセイにおいて、表皮ブドウ球菌および大腸菌の3log超の殺菌が得られる場合に、抗菌活性を有すると見なされる。実施形態では、合成カチオン性ポリペプチドは、100μg/mL以下の合成カチオン性ポリペプチド濃度での標準的な60分間時間‐殺菌アッセイにおいて、表皮ブドウ球菌および大腸菌の3log超の殺菌が得られる抗菌活性を有する。図9~12に示されるように、これらの合成カチオン性ポリペプチドの実施形態は、グラム陽性およびグラム陰性細菌の両方に対して、生体外での抗菌活性を示す。この活性は、水性媒体中の合成カチオン性ポリペプチドを用いた生体外での時間‐殺菌アッセイで示される。さらに、合成カチオン性ポリペプチドの実施形態は、図13に示されるように、生体外での抗バイオフィルム活性を示した。これらの効果は、バイオフィルムのマトリックス中に存在するアニオン性電荷とカチオン性ポリペプチドが結合することで部分的には説明することができる可能性が高い。加えて、合成カチオン性ポリペプチドの界面活性剤様の活性も、抗バイオフィルム効果に寄与し得る。また、本発明の組成物は、バイオフィルムの構造および/または電荷を変化させ得るものであり、そのことが、その他の剤(例:局所投与または全身投与された抗生物質)がバイオフィルムを貫通することを可能とし、それによって活性が高められるということも認識される。
【0048】
合成カチオン性ポリペプチドおよびその他のポリマーの混合物は、生体外にて抗菌活性を保持することができる。第二の薬理学的に許容されるポリマーは、抗菌活性を有する1つ以上の合成カチオン性ポリペプチドとは異なる。実施形態では、第二の薬理学的に許容されるポリマーは、それ自体はほとんどまたはまったく抗菌活性を持たない。例えば、実施形態では、第二の薬理学的に許容されるポリマーの抗菌活性は、(1もしくは複数の)合成カチオン性ポリペプチドの抗菌活性の10%未満である。
【0049】
水性媒体中における(1もしくは複数の)合成カチオン性ポリペプチドおよび第二の薬理学的に許容されるポリマーの個々の量は、少なくとも約100μg/mLであり、これより高くてもよく、例えば、約1mg/mL、約5mg/mL、または約10mg/mL、または約20/mL、または約40mg/mL、またはそれ以上である。水性組成物中の第二の薬理学的に許容されるポリマーの量は、1つ以上の合成カチオン性ポリペプチドの重量に対して少なくとも約10重量%であり、これより高くてもよく、例えば、同じ基準で、少なくとも約20重量%、少なくとも約30重量%、または少なくとも約50重量%である。水性組成物中の(1もしくは複数の)合成カチオン性ポリペプチドおよび第二の薬理学的に許容されるポリマーは、これらのポリマーが互いに混和性となるように選択される。上記で示したように、抗菌活性を有する(1もしくは複数の)カチオン性ポリペプチドおよび第二の薬理学的に許容されるポリマーは、1mg/mLの各ポリマー濃度にて水中で混合し、室温で24時間維持した後、目視による検査でポリマー成分の少なくとも約90%が互いに可溶性を維持する場合、互いに混和性であると見なされる。驚くべきことに、1mg/mLの濃度での水溶液および本明細書で述べる分子量では、典型的にはポリマーが互いに非混和性であることに起因して相分離が予測されるにも関わらず、水、(1もしくは複数の)合成カチオン性ポリペプチド、および第二の薬理学的に許容されるポリマーのそのような互いの混和性を達成することができる。本明細書で述べる水性組成物は、個々のポリマー成分を、当業者に公知の通常の混合方法を用いて、例えば室温にて撹拌しながら、水と相互混合することで作製することができる。
【実施例
【0050】
実施例1
図14~16に示されるように、合成カチオン性ポリペプチドの実施形態は、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、緑膿菌、および大腸菌に対する生体外での時間‐殺菌アッセイによって示されるように、他の薬理学的に許容されるポリマーの存在下にて、その抗菌活性の実質的にすべてを維持することが示された。これらの研究では、様々なセルロース系
の第二のポリマーを評価した。図11および13に示されるように、他の研究では、他の薬理学的に許容される(ポリマー界面活性剤)の存在下、生体外にて抗菌活性が維持されることが示された。実施形態では、水性組成物の抗菌活性は、100μg/mL以下の(1もしくは複数の)合成カチオン性ポリペプチド濃度での標準的な60分間時間‐殺菌アッセイにおいて、表皮ブドウ球菌および大腸菌の3log超の殺菌である。別の実施形態では、水性組成物は、されに、40mg/mL以下の全ポリマー濃度にて、生体外においてバイオフィルムを破壊または阻害する能力も特徴とする。
【0051】
合成カチオン性ポリペプチドおよび他のポリマーの混合物は、生体外において、高められた物理的および粘弾性特性を示すことができる。患者に用いるための組成物の開発において、体積、組織被覆面積、および/または生体適合性を高めると同時に抗菌活性を維持することの必要性が認識されている。合成カチオン性ポリペプチドの抗菌活性の少なくとも約80%(例:少なくとも90%)を維持し、好ましい実施形態では組織被覆も向上させる方法で、種々の合成カチオン性ポリペプチドを他の薬理学的に許容されるポリマーと混合した。合成カチオン性ポリペプチドの両性の性質および水溶液中でのその自己組織化によって、疎水性および水和された親水性物質の安定した相分離(崩壊(collapsed)または溶媒和)分散体が誘発されると考えられる。ある実施形態では、コポリペプチドの鎖長(例:重合度またはn>50)が、溶質および溶媒の拡散を遅延させる疎水性の部分的崩壊ポケット(partially collapsed pockets of hydrophobicity)のネットワークを提供すると考えられる。物質のバリア性は、水をトラップしてその移動度を低下させ、その結果として、水中に存在するいかなる溶質または粒子の通過をも劇的に遅延させるその物質の能力の産物である。ポリペプチドの長さは、バリア特性に強く影響を及ぼす(例:劇的に拡散を低下させることにより)。従って、(1もしくは複数の)合成カチオン性ペプチドと混合するための第二のポリマーの選択は、影響を及ぼす生物物理学的パラメータの破壊を回避し、水性組成物中での互いの可溶性を達成するために注意深く行われるべきである。当業者であれば、本明細書で提供される教示事項をガイドとする通常の実験を用いて、本明細書で述べる水性組成物を形成するためのポリマー成分および量を選択することができる。
【0052】
本明細書で述べる水性組成物の特性は、カチオン性ポリペプチドの(1もしくは複数の)第二の薬理学的に許容されるポリマーに対する量の比を制御することによって調節することができる。これらの第二のポリマーの限定されない例としては、セルロース(例:ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシメチルセルロース(HMC))、アルギネート、コラーゲン、ポリマー界面活性剤、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリビニルピロリジノン(PVP)、フィブリン(フィブリノーゲン)、または血液タンパク質もしくは組織タンパク質が挙げられる。ある実施形態では、第二の薬理学的に許容されるポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)ではない。組成物のバリアは、そのうちの少なくとも1つは抗菌性でもあるその個々の成分との動的平衡状態にあると考えられる。凝集物の浸出は、放出された物質がバリアの有効表面積を増大させ得るものであり、それが微生物とバリア物質との間の相互作用の効果を高め得るものであることから、有利であり得る(図17~19)。物質のバリア特性は、自己組織化したコポリペプチドマトリックスをさらに架橋させる極性バイオポリマーの相乗効果によって、さらに高めることができる。異なるバイオポリマーと配合することにより、物質の流動特性および機械特性、さらにはバリアの強度を、調節、および制御することができる。
【0053】
実施例2
テクスチャ分析プロファイルを用いて、ブロックコポリペプチド組成および疎水性エナンチオマー純度の、ブロックコポリペプチド/HEC混合物の機械特性に対する効果を特定した(図20)。個々の成分の堅さ値の測定から、水中のK10040の1%(重量/重
量)溶液が、2.94+/-0.25mNの堅さを有し、水中の1%(重量/重量)HECの溶液が、5.38+/-0.32mNの堅さを示すことが示された(図21(表5))。1%(重量/重量)K10040および1% HEC(重量/重量)を一緒に混合することにより、22.77+/-0.90mNの値まで堅さが大きく上昇する結果となったこれは、14.45mNの相互作用パラメータ値に相当し、個々の成分の相加的寄与から期待されるものと比較して170%を超える全体としての上昇に当たる。図20bに示されるように、類似の傾向が接着性に対しても観察された。比較のために、濃度1%(重量/重量)のジブロックコポリペプチドK100(rac‐L)40(ラセミ疎水性ブロックを含有)と濃度1%(重量/重量)のHECとの組み合わせも、堅さおよび接着性の向上を示したが、その増加は、エナンチオマー的に純粋な疎水性ブロックを含有するK10040の場合ほど顕著ではなかった。疎水性ブロックの長さも効果を及ぼすことが示された。1%(重量/重量)K10020および1%(重量/重量)HECの混合物は、いずれかのバイオポリマー単独と比較して堅さの上昇を示したが、その効果は、K10040よりも小さかった。興味深いことに、K10020は、接着仕事については逆に作用した。さらに、そのラセミ疎水性ブロックが短いK100(rac‐L)20は、まったく効果を示さなかった。リジンホモポリペプチド、K100およびK200も、HEC単独の堅さまたは接着性を高めることはなく、実際には、逆の活性を示すように思われた。
【0054】
実施例3
レオロジー測定により、K10040とHECとの間の相乗的相互作用がさらに支持される。図22において、振動歪スイープ(oscillatory strain sweep)および振動数依存スイープ(frequency dependent sweep)の両方で効果が見られる。単独では、1%(重量/重量)K10040は、比較的脆く弱いゲルの特性を示した。歪スイープ分析では、ゲルの脆い性質が、γ=0.01近辺での低歪率におけるゲルネットワークの分解によって観察され;振動数スイープ分析では、弾性率(1ラジアン/秒にてG’=22Pa)である弱いゲルの形成が示された。比較のために、1%(重量/重量)HECは、粘性流体により特徴的であるレオロジー特性を示した。1% HEC溶液の歪スイープ分析では、試験したすべての歪率を通して、弾性率(G’)よりも高い損失弾性率(G”)が示され(図21A)、振動数スイープでも、より高い振動数(約100ラジアン/秒)に到達するまで、G’よりも高いG”値が示された(図21B)。1%(重量/重量)K10040を1%(重量/重量)HECと混合することで、レオロジー特性の著しい変化が観察された。特に、混合物の歪スイープ分析では、直線粘弾性領域が1桁分延長され、γ=0.1近辺でG’の減少を示した。振動数スイープでは、1ラジアン/秒にてG’=141Paという弾性率の大きな相乗効果的増加を示し、これは、1%(重量/重量)K10040単独の弾性率(G’=22Pa)に対して7倍の増加である。
【0055】
本明細書で述べる水性組成物中のポリマー成分の量および種類は、種々の特性を達成するために選択することができる。実施形態では、水性組成物は、40mg/mL以下の全ポリマー濃度にて、2log超のアニオン性染料の拡散速度の減少によって測定されるバリア活性を特徴とする。実施形態では、水性組成物は、40mg/mL未満の全ポリマー濃度にて、少なくとも50Paの貯蔵弾性率を特徴とする。実施形態では、水性組成物は、40mg/mL未満の全ポリマー濃度にて、少なくとも50Paの貯蔵弾性率、および60N未満の圧力を用いて20gのニードルを通過する能力を特徴とする。実施形態では、水性組成物は、20gのニードルを通過する能力、および10分以内に貯蔵弾性率で測定されるその強度の少なくとも70%を回復する能力を特徴とする。当業者であれば、本明細書で提供される教示事項をガイドとする通常の実験を用いて、本明細書で述べる特性を有する水性組成物を形成するためのポリマー成分および量を選択することができる。
【0056】
実施例4
合成カチオン性ポリペプチドおよび他のポリマーの混合物は、生体内にて抗菌活性の向
上を示すことができる。特に、合成カチオン性ポリペプチドは、ミセル溶液として、およびヒドロゲルとして、生体内において組織の被覆に用いることができる(図23)。この組織被覆は、電荷相互作用を通して、カチオン性ペプチドが、損傷組織上に提示されるアニオン性電荷(ならびに細菌バイオフィルム中のアニオン性電荷)に結合することを含み得る。加えて、自己組織化および架橋が、組織に結合し、それを被覆する物質の量を増加させ得るものであり、従って、種々の生物学的活性および応答に影響を与え得る。
【0057】
図24に示されるように、これらの合成カチオン性ポリペプチドは、生体内において局所投与される場合、抗菌性である。生体内投与用の改善された製品の開発の探求において、これらの物質の組織結合および組織被覆特性が、その抗菌特性、その抗バイオフィルム特性、ならびに組織接着形成および組織再構築に対するその効果を含むその活性に大きな影響を与え得ることが認識された。合成カチオン性ポリペプチドの分子特性(例:長さ、電荷など)、さらにはそれが水性環境中で形成する構造(例:ミセル、シート、フィブリル、ヒドロゲル)が、組織結合および組織被覆に影響を与え得る。また、これらの合成カチオン性ポリペプチドを他のポリマーと混合して本明細書で述べる水性組成を形成することにより、水性媒体中および組織上でのその生物物理学的特性を様々な形で変化させることができることも認識された。従って、発明者らは、合成カチオン性ポリペプチドおよび他のポリマーの混合物を生体外で試験した。
【0058】
実施例5
合成カチオン性ポリペプチドと2つの異なるポリマー(ポリエチレングリコール400およびヒドロキシエチルセルロース)との混合物を含む水性組成物は、いずれも生体内において効果的であることが見出された。図25に示されるように、K100(rac‐L)20は、単独およびPEG400との組み合わせで、ブタ開放創治療モデルに効果的であった。図26に示されるように、K10040は、単独およびヒドロキシエチルセルロースとの組み合わせで、微生物汚染の予防に効果的であった。さらに、データから、混合物の高められた生物物理学的特性により、合成カチオン性コポリペプチド単独と比較して、生体内での抗菌活性を改善することができることが示唆される。本明細書で述べる水性組成物は、感染の予防、感染の治療、局所的抗感染治療、微生物除菌のための治療、創傷治療、外科手術部位治療、外傷治療、熱傷治療、糖尿病性足部潰瘍の治療、眼の治療、膣内感染の治療、尿路感染の治療、手の消毒、プロステーシスデバイスおよび/またはインプラントのコーティング用、食物の保存、ならびに溶液の保存を含むがこれらに限定されないいずれか1つ以上の治療および/または投与のために用いることができる。
【0059】
本明細書で述べる水性組成物は、その抗菌特性、そのバリア特性、またはその両方を向上させるために、種々の粘弾性特性を有する溶液、エマルジョン、粒子、またはヒドロゲルとして配合されてよい。1つの実施形態では、本明細書で述べる水性組成物は、水、生理食塩水、またはその他の水性媒体中の単一のリジン‐ロイシンブロックコポリペプチドが第二のポリマーと、通常はpoloxamer 407などの界面活性剤と混合された創傷洗浄品を含む。1つの実施形態では、本明細書で述べる水性組成物は、スプレーを用いて投与されて種々の組織を被覆することができる粘性流体/流動性ゲルを含んでよい。これは、開放性の、または腹腔鏡による手法で用いることが可能である。これらの物質は、それ単独で、またはその他の物質と組み合わせて、種々のドレッシング材または包帯に形成されてよい。これらとしては、ガーゼまたはスポンジなどの種々の材料を構成すること、またはコーティングすることを含んでよい。例としては、ガーゼまたはアルギネート包帯上のコーティングの形態である本明細書で述べる水性組成物(例:合成ブロックコポリペプチドKxLy含有)が挙げられる。別の例としては、本明細書で述べる水性組成物(例:合成ブロックコポリペプチドKxLyを単独で、またはコラーゲンなどの別のポリマーと共に含有)が比較的不活性であるスポンジ材(例:ポリアクリレート、ポリウレタン、またはポリヘマ(polyhema))の面にコーティングされた二層材が挙げられる(図2
7)。この場合、実施形態は、1つの面がコーティングされた長方形スポンジの外観、または全面がコーティングされた球状スポンジ(テニスボールを思わせる)の外観を有し得る。これは、止血が必要とされる出血創傷の治療に特に有利であり得る(図28~29)。
【0060】
実施形態は、対象の組織を本明細書で述べる水性組成物に接触させることを含む、例えば創傷への感染の予防および/または治療のための方法を提供する。別の実施形態は、さらに、治療された創傷に陰圧を適用することも含む。対象は、動物であってよく、好ましくはヒトである。実施形態では、対象は、さらに、抗生物質で全身的に、ならびに/または別の抗菌剤、および/もしくは抗生物質、抗バイオフィルム剤、界面活性剤、およびこれらの組み合わせから成る群より選択される少なくとも1つで局所的に治療される。
【0061】
本明細書で述べる水性組成物は、さらに、1つ以上の薬理活性成分(API)も含んでよい。そのようなAPIの例としては、ステロイド、炎症促進剤、抗炎症剤、抗ざ瘡剤、保存剤、止血剤、血管新生剤、創傷治癒剤、抗癌剤、およびその他の抗菌剤挙げられる。
図1
図2A
図2B
図3
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図7B
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