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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】剪断流を発生させる器具
(51)【国際特許分類】
   G01N 24/00 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
G01N24/00 510A
G01N24/00 510Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019111013
(22)【出願日】2019-06-14
(65)【公開番号】P2020204481
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】519147072
【氏名又は名称】エアープロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅瀬 謙治
(72)【発明者】
【氏名】森本 大智
(72)【発明者】
【氏名】保科 好秀
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-529518(JP,A)
【文献】特表2013-535006(JP,A)
【文献】菅瀬 謙治,世界最高感度Rheo-NMR装置の開発,豊田研究報告,第72号,公益財団法人豊田理化学研究所,2019年05月23日,p.208-209,インターネット<URL:https://www.toyotariken.jp/wp-content/uploads/report72_s23_sugase-1-1.pdf>
【文献】MORIMOTO et al.,High-Sensitivity Rheo-NMR Spectroscopy for Protein Studies,Analytical Chemistry,ACS Publications,2017年06月30日,Vol.89,p.7286-7290
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 24/00-24/14
G01N 11/00-11/16
G01N 19/00-19/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気共鳴装置の試料導入孔内において、前記試料導入孔の長軸を回転軸として回転可能な試料管内の試料に、剪断流を発生させる器具であって、
前記試料管内に先端が挿入される撹拌棒の後端を一端において保持し、側面に設けられた周状の溝に、前記溝から突出し弾性変形することにより前記試料導入孔の開口端に適合する外径を有する環状の弾性部材が配置される、筒状の撹拌棒保持部と、
前記撹拌棒保持部の他端に接続される棒状部材と、
前記棒状部材を介して前記撹拌棒保持部に接続される把持部と、
を備える器具。
【請求項2】
前記棒状部材は可撓性を有する、請求項1に記載の器具。
【請求項3】
前記試料導入孔に適合する外径を有し前記棒状部材を取り囲む環状部材をさらに備える、請求項1または2に記載の器具。
【請求項4】
前記把持部は、前記試料導入孔の前記長軸方向に沿った位置であって、前記試料導入孔内での前記撹拌棒の前記先端の位置を調整する先端位置調整機構を備える、請求項1から3のいずれかに記載の器具。
【請求項5】
前記撹拌棒保持部は、当該撹拌棒保持部の長軸に沿って挿入されている筒状の保護管を備え、前記保護管には当該保護管の長軸に沿って前記撹拌棒の前記後端が挿入されている、請求項1から4のいずれかに記載の器具。
【請求項6】
前記撹拌棒保持部は、前記保護管の前記長軸を前記撹拌棒保持部の前記長軸にあわせる保護管調整機構を備える、請求項5に記載の器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴装置内に配置された試料管内の試料に剪断流を発生させる器具に関する。
【背景技術】
【0002】
Rheo-NMR(以下、レオNMRと記載する)は、測定対象を含む試料に剪断流を発生させながら核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)を行う測定手法である。
【0003】
レオNMR測定によると、剪断流下にある試料の調査が可能となり、例えば、試料のずり速度(shear rate)やずり粘度(shear viscosity)、ずり流動化(shear-thinning)等といった、動的現象の特定および分析が可能となる。従来の多くのレオNMR測定では、例えばポリマーや食品を測定対象の試料としていた。近年では、例えば生体の機能や形状を、変形や流動性といった力学的側面から研究する学問分野であるバイオレオロジーの分野において、レオNMR測定により、例えば血管内の血液の流動性に関する分析がなされている。
【0004】
下記特許文献1には、レオNMR測定にて用いられるレオロジーユニットが記載されている。下記非特許文献1および非特許文献2には、レオNMR測定にて用いられるレオメータまたはクエットセル(Couette cell)が記載されている。
【0005】
また、非特許文献3に示されているように、レオNMR測定は既存のNMR装置を用いて行うことができる。測定対象の試料は、NMRチューブと呼ばれる試料管内に入れられる。試料管は、スピナーと呼ばれる回転部材に取り付けられ、NMR装置の所定の測定位置に配置される。NMR装置内に鉛直方向に設けられている試料導入孔の上部の開口端から、試料管より細い撹拌棒を試料導入孔内に挿入し、撹拌棒の先端を試料管内の試料に挿入する。多くの既存のNMR装置には、スピナーとスピナーを回転させる機構である駆動機構とが設けられている。NMR装置側に設けられたこの駆動機構を用いて、スピナーおよび試料管を撹拌棒に対して回転させることにより、試料に剪断流が発生する。このような環境下においてNMR測定を行うことにより、試料に対するレオNMR測定が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2016-529517号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Paul T. Callaghan and Elmar Fischer, “Rheo-NMR: a New Application for NMR Microscopy and NMR Spectroscopy”, [online], 2001年, Bruker Corporation, [2019 年3 月29 日検索],インターネット<URL:https://www.bruker.com/fileadmin/user_upload/8-PDF-Docs/MagneticResonance/NMR/Rheo-NMR_Report2001.pdf>
【文献】Patrick J. B. Edwards, Motoko Kakubayashi, Robin Dykstra, Steven M. Pascal, and Martin A. K. Williams, “Rheo-NMR Studies of an Enzymatic Reaction: Evidence of a Shear-Stable Macromolecular System”, Biophysical Journal, Volume 98, Issue 9, 5 May 2010, Pages 1986-1994.
【文献】Daichi Morimoto, Erik Walinda, Naoto Iwakawa, Mayu Nishizawa, Yasushi Kawata, Akihiko Yamamoto, Masahiro Shirakawa, Ulrich Scheler, and Kenji Sugase, “High-Sensitivity Rheo-NMR Spectroscopy for Protein Studies”, Analytical Chemistry, Volume 89, Issue 14, June 30, 2017, Pages 7286-7290.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
試料分析用の高分解NMR装置には、測定感度を向上させるために超伝導磁石が用いられている。数10テスラ以上の高磁場を発生させるために、超伝導磁石の周囲には液体ヘリウムや液体窒素等の冷媒が配設されている。その結果、超伝導磁石を用いるNMR装置は、全高が2メートルを超える大型の装置となっている。試料管の位置もNMR装置の外部からは見ることはできない。
【0009】
一方、試料が入れられてスピナーと共に回転される試料管は、外径が約5mm程度の筒状であり、撹拌棒の先端が挿入される内径も約4mm程度である。撹拌棒は、試料管よりもさらに細く、外径は約3mm程度である。
【0010】
このように、試料管の内径と撹拌棒の外径との隙間は約0.5mm程度と非常に狭い。試料管が配置されるNMR装置内の鉛直方向の位置と、鉛直方向に延伸する試料導入孔の開口端との間も数メートル程度離れている。数メートル離れた位置から約0.5mm以内の誤差で、NMR装置内の測定位置に配置された試料管内に、NMR装置の外部から試料導入孔の開口端を介して撹拌棒の先端を挿入することは困難であった。この際、撹拌棒の先端を試料管内に挿入するだけではなく、試料管の径の中心と撹拌棒の径の中心とを正確に合わせる必要があり、難易度はさらに増大する。
【0011】
また、NMR装置のモデルによっては、試料導入孔は、上部の開口端から下端に向けて径が僅かに増大する逆テーパ状になっている。試料導入孔がこのような逆テーパ状の場合、試料管が配置される位置において、試料管の径の中心と撹拌棒の径の中心との正確な位置合わせはさらに困難となる。
【0012】
本発明の目的は、試料に剪断流を発生させる器具であって、磁気共鳴装置内に配置された試料管内に、磁気共鳴装置の外部から撹拌棒の先端を容易に挿入することができる器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明は、例えば以下に示す態様を含む。
(項1)
磁気共鳴装置の試料導入孔内において、前記試料導入孔の長軸を回転軸として回転可能な試料管内の試料に、剪断流を発生させる器具であって、
前記試料管内に先端が挿入される撹拌棒の後端を一端において保持し、側面に設けられた周状の溝に、前記溝から突出し弾性変形することにより前記試料導入孔の開口端に適合する外径を有する環状の弾性部材が配置される、筒状の撹拌棒保持部と、
前記撹拌棒保持部の他端に接続される棒状部材と、
前記棒状部材を介して前記撹拌棒保持部に接続される把持部と、
を備える器具。
(項2)
前記棒状部材は可撓性を有する、項1に記載の器具。
(項3)
前記試料導入孔に適合する外径を有し前記棒状部材を取り囲む環状部材をさらに備える、項1または2に記載の器具。
(項4)
前記把持部は、前記試料導入孔の前記長軸方向に沿った位置であって、前記試料導入孔内での前記撹拌棒の前記先端の位置を調整する先端位置調整機構を備える、項1から3のいずれかに記載の器具。
(項5)
前記撹拌棒保持部は、当該撹拌棒保持部の長軸に沿って挿入されている筒状の保護管を備え、前記保護管には当該保護管の長軸に沿って前記撹拌棒の前記後端が挿入されている、項1から4のいずれかに記載の器具。
(項6)
前記撹拌棒保持部は、前記保護管の前記長軸を前記撹拌棒保持部の前記長軸にあわせる保護管調整機構を備える、項5に記載の器具。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、試料に剪断流を発生させる器具であって、磁気共鳴装置内に配置された試料管内に、磁気共鳴装置の外部から撹拌棒の先端を容易に挿入することができる器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態に係る剪断流発生器具を模式的に表した図である。
図2】一実施形態に係る剪断流発生器具の使用状態を説明するための模式的な断面図である。
図3図2に一点鎖線で囲む領域の部分拡大図である。
図4】一実施形態に係る撹拌棒保持部が磁気共鳴装置の試料導入孔内に挿入された状態を説明するための模式的な図である。
図5】一実施形態に係る撹拌棒および撹拌棒保持部の斜視図である。
図6】一実施形態に係る撹拌棒および撹拌棒保持部の分解斜視図である。
図7】一実施形態に係る撹拌棒保持部を表す図である。(A)は斜視図であり、(B)は半断面図である。
図8】一実施形態に係る撹拌棒保持部の保護管を表す図である。(A)は斜視図であり、(B)は半断面図である。
図9】一実施形態に係る把持部の斜視図である。
図10】一実施形態に係る把持部の分解斜視図である。
図11】一実施形態に係る把持部が磁気共鳴装置の試料導入孔の上端に係止された状態を説明するための半断面図である。
図12】一実施形態に係る把持部の調整ねじ部を表す図である。(A)は斜視図であり、(B)は半断面図である。
図13】一実施形態に係る把持部の調整ベース部を表す図である。(A)は斜視図であり、(B)は半断面図である。
図14】実施形態に係る把持部の調整ダイヤル部を表す図である。(A)は斜視図であり、(B)は半断面図である。
図15】一実施形態に係る把持部のダイヤル固定リングを表す図である。(A)は斜視図であり、(B)は半断面図である。
図16】一実施形態に係る把持部の調整ねじ頭部を表す図である。(A)は斜視図であり、(B)は半断面図である。
図17】他の実施形態に係る撹拌棒保持部の半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明および図面において、同じ符号は同じまたは類似の構成要素を示すこととし、よって、同じまたは類似の構成要素に関する重複した説明を省略する。
【0017】
図1は、一実施形態に係る剪断流発生器具を模式的に表した図である。図2は、一実施形態に係る剪断流発生器具の使用状態を説明するための模式的な断面図である。図3は、図2に一点鎖線で囲む領域の部分拡大図である。図4は、一実施形態に係る撹拌棒保持部が磁気共鳴装置の試料導入孔内に挿入された状態を説明するための模式的な図である。
【0018】
本発明の一実施形態に係る、試料に剪断流を発生させる器具10(以下、剪断流発生器具10と記載する)は、磁気共鳴装置90の試料導入孔91内において、試料導入孔91の長軸を回転軸として回転可能な試料管93内の試料Sに、剪断流を発生させる器具である。剪断流発生器具10は、試料管93内に先端が挿入される撹拌棒1の後端を一端において保持する撹拌棒保持部2と、撹拌棒保持部2の他端に接続される棒状部材3と、棒状部材3を介して撹拌棒保持部2に接続される把持部4とを備える。
【0019】
剪断流発生器具10は、磁気共鳴装置90の試料導入孔91内に挿入される器具である。以下において説明する、剪断流発生器具10を構成する各部には、常磁性ではない材質を用いることが好ましく、超伝導磁石が発生する磁場Bの不均一性(inhomogeneity)に悪影響を与えない程度の非磁性の材質(例えば、比透磁率が概ね1に近い材質)を用いることがより好ましい。
【0020】
撹拌棒1は、棒状の部材であり、先端が試料管93内の試料Sに挿入され、測定対象の試料Sに剪断流を発生させる。撹拌棒1は、例えばガラスや樹脂により形成されている。撹拌棒1は、親水性を有していても疎水性を有していてもよいが、疎水性を有することが好ましい。透磁率や疎水性の関係から、撹拌棒1は例えばPYREX GLASS(登録商標)等のガラス製であることが好ましい。
【0021】
撹拌棒保持部2は筒状の部材であり、側面に設けられた周状の溝21には、溝21から突出し弾性変形することにより試料導入孔91の開口端91aに適合する外径を有する環状の弾性部材22が配置される。撹拌棒保持部2は、例えばポリオキシメチレン、ジュラコン(登録商標)等の樹脂により形成されている。
【0022】
棒状部材3は、撹拌棒保持部2と把持部4との間に接続される部材である。棒状部材3と撹拌棒保持部2とは、例えばジョイントナット7を用いて接続される。棒状部材3は、複数の棒状部材3が接続部材6を介して接続されて一体化することができる。接続する棒状部材3の個数を変更することにより、一体化された複数の棒状部材3の長さを変更することができる。これにより、剪断流発生器具10の長さを変更することが可能となり、大きさ(高さ)が異なる種々の超伝導磁石に対応することが可能となる。
【0023】
好ましくは、棒状部材3は可撓性(または屈曲性)を有する。可撓性(または屈曲性)を有している素材を棒状部材3に用いることにより、高さが十分ではない部屋に設置されている磁気共鳴装置に対しても、試料管内に、磁気共鳴装置の外部から撹拌棒の先端を容易に挿入することが可能となる。棒状部材3は、例えば屈曲性を有するポリマーにより形成されている。
【0024】
把持部4は、棒状部材3を介して撹拌棒保持部2に接続される。把持部4は試料導入孔91の開口端91aの側に配置される。磁気共鳴装置90の試料導入孔91の上端91aにおいて把持部4が係止することにより、撹拌棒1の先端が、磁気共鳴装置90の所定の測定位置に配置されている試料管93内に配置される。把持部4は、例えばポリオキシメチレン、ジュラコン等の樹脂またはアルミニウム等の金属により形成されている。
【0025】
剪断流発生器具10は、試料導入孔91に適合する外径を有し棒状部材3を取り囲む環状部材5をさらに備えることができる。環状部材5によると、剪断流発生器具10を試料導入孔91に挿入する際に、試料導入孔91内での棒状部材3の径方向の位置ずれを低減することができる。
【0026】
試料導入孔91の上端91aには開口端フランジ94が設けられている。剪断流発生器具10は、撹拌棒1の先端から開口端フランジ94を通じて試料導入孔91内に挿入され、把持部4が開口端フランジ94の上端91aにおいて係止することにより、撹拌棒1の先端が、磁気共鳴装置90の所定の測定位置に配置されている試料管93内に挿入される。
【0027】
磁気共鳴装置90には、NMRチューブと呼ばれる試料管93と、スピナー92と呼ばれる回転部材と、スピナー92を回転させる駆動機構(図示せず)とが設けられている。試料管93はスピナー92に取り付けられており、駆動機構によりスピナー92が回転される。スピナー92および試料管93が撹拌棒1に対して回転されることにより、試料Sに剪断流が発生する。
【0028】
例示的には、撹拌棒1の先端から把持部4の後端までの剪断流発生器具10の寸法は、約1mないし2mであり、撹拌棒1の外径は約3mmである。例示的には、磁気共鳴装置90側の構成である試料管93の内径は約4mmであり、外径は約5mmである。
【0029】
磁気共鳴装置90の所定の測定位置の周囲には、磁場Bを発生させるための超伝導磁石(図示せず)と、プローブ(図示せず)とが設けられている。本実施形態では、試料導入孔91の長軸の方向は鉛直方向であり、磁場Bに沿った方向である。磁場Bは、試料S内に含まれている物質の磁気モーメントの量子化軸を規定するための磁場であり、例えば数10テスラ以上の高磁場である。
【0030】
図5は、一実施形態に係る撹拌棒および撹拌棒保持部の斜視図であり、図6は、一実施形態に係る撹拌棒および撹拌棒保持部の分解斜視図である。図7は、一実施形態に係る撹拌棒保持部を表す図である。(A)は斜視図であり、(B)は半断面図である。
【0031】
一実施形態に係る撹拌棒保持部2(2A)は筒状の部材である。撹拌棒保持部2Aは周状の溝21を側面に備え、周状の溝21には環状の弾性部材22が配置される。図4を参照して説明するように、環状の弾性部材22は、溝21から突出し弾性変形することにより試料導入孔91の開口端91aに適合する外径を有する。すなわち、環状の弾性部材22は、外径が試料導入孔91の開口端91aの径よりも僅かに大きく、弾性変形することにより外径が試料導入孔91の開口端91aに適合する。これにより、試料導入孔91の径と撹拌棒保持部2の径とのずれ(がた)を低減することができる。環状の弾性部材22は、例えばバイトン(登録商標)製のOリングである。環状の弾性部材22の材質は、バイトンに限らず、エラストマーやゴム等の弾性を有する材質であればよい。環状の弾性部材22には、潤滑性が良く伸縮性を有する材質を用いることが好ましい。
【0032】
撹拌棒保持部2Aの先端28側には、撹拌棒保持部2Aの長軸に沿った挿入孔23(23A)が設けられており、挿入孔23Aには筒状の保護管24が挿入される。保護管24の一端(剪断流発生器具10の先端側)は開口しており、保護管24の長軸に沿って撹拌棒1の後端が挿入される。撹拌棒保持部2Aの後端側には、ジョイントナット7との接続用のねじ山29が設けられている。
【0033】
挿入孔23Aの先端231側にはタップ孔26が設けられており、挿入孔23Aの後端232側には、空気抜き孔25(25A)が設けられている。挿入孔23Aと、タップ孔26と、空気抜き孔25Aとは連通している。挿入孔23Aに保護管24が挿入された状態において、挿入孔23Aの後端232と保護管24の先端244との間には隙間が設けられることが好ましい。本実施形態では、複数のタップ孔26が放射状に略等間隔で設けられている。
【0034】
タップ孔26内にホーローセット(セットネジまたはイモネジ)等のねじ部材(図示せず)がねじ込まれることにより、保護管24は挿入孔23内に固定される。また、タップ孔26は、ホーローセットと共に用いられることにより、保護管24の長軸を撹拌棒保持部2Aの長軸にあわせるための保護管調整機構として機能する。保護管調整機構によると、タップ孔26内にねじ込まれた複数のねじ部材が保護管24に当接する程度を調整することにより、撹拌棒保持部2Aの長軸と保護管24の長軸とが成す角度のずれを調整することができ、試料管93と撹拌棒1との径方向の位置ずれを調整することができる。
【0035】
図8は、一実施形態に係る撹拌棒保持部の保護管を表す図である。(A)は斜視図であり、(B)は半断面図である。
【0036】
保護管24の一端(剪断流発生器具10の先端側)には、保護管24の長軸に沿った撹拌棒挿入孔241が設けられている。保護管24の一端側の側面には、周状の溝242が設けられている。撹拌棒1の後端は、撹拌棒挿入孔241の一端241b側から挿入される。撹拌棒1と撹拌棒挿入孔241との間には、例えば接着剤が封入され、撹拌棒1は保護管24に固定される。撹拌棒挿入孔241の他端側には、空気抜き孔243が設けられている。撹拌棒1が破損した場合には、周状の溝242を持って保護管24を撹拌棒保持部2Aから引き出すことにより、保護管24を撹拌棒保持部2Aから取り出すことができる。保護管24は、例えばアルミニウム等の金属により形成されている。保護管24の表面はアルマイト処理されていてもよい。
【0037】
図9は、一実施形態に係る把持部の斜視図であり、図10は、一実施形態に係る把持部の分解斜視図である。図11は、一実施形態に係る把持部が磁気共鳴装置の試料導入孔の上端に係止された状態を説明するための半断面図である。
【0038】
把持部4は、調整ねじ部41と、調整ベース部42と、調整ダイヤル部43と、ダイヤル固定リング44と、調整ねじ頭部45とを備える。
【0039】
調整ねじ部41の棒状突出部412は雄ねじとなっており、調整ダイヤル部43の接続孔432、ダイヤル固定リング44の接続孔443、および調整ねじ頭部45の接続孔452は、調整ねじ部41の棒状突出部412に対応する雌ねじとなっている。
【0040】
調整ベース部42は、円筒フランジ部422の下面422bにおいて、開口端フランジ94の上端91aに係止する。調整ベース部42の貫通孔423には調整ねじ部41の棒状突出部412が挿入されており、調整ベース部42は、調整ねじ部41の棒状突出部412の軸方向に沿って自由に移動することが可能である。
【0041】
図9ないし図14を参照して説明するように、調整ねじ部41、調整ベース部42、および調整ダイヤル部43は、試料導入孔91の長軸方向に沿った位置であって、試料導入孔91内での撹拌棒1の先端の位置を調整するための先端位置調整機構として機能する。
【0042】
先端位置調整機構について説明する。調整ねじ部41と調整ダイヤル部43とは螺合しているため、調整ダイヤル部43を回転させると、調整ダイヤル部43調整ねじ部41の棒状突出部412に沿って上下し、調整ダイヤル部43と調整ねじ部41の円筒基部411との間の長さが変化する。一方、調整ダイヤル部43と調整ベース部42とは螺合されておらず、調整ダイヤル部43は調整ベース部42の上面に単に載置されている。調整ベース部42には貫通孔423が設けられており、調整ベース部42は、調整ねじ部41の棒状突出部412の軸方向に沿って自由に移動することが可能である。この結果、調整ベース部42に対して、調整ねじ部41の円筒基部411の上下方向の位置が変化する。
【0043】
調整用ネジ部41および調整ねじ頭部45は、例えばアルミニウム等の金属により形成されている。調整ベース部42、調整ダイヤル部43、およびダイヤル固定リング44は、例えばポリオキシメチレン、ジュラコン等の樹脂またはアルミニウム等の金属により形成されている。
【0044】
図12は、一実施形態に係る把持部の調整ねじ部を表す図である。(A)は斜視図であり、(B)は半断面図である。
【0045】
調整ねじ部41は、円筒基部411と、棒状突出部412と、接続孔413とを備える。円筒基部411と棒状突出部412とは一体化されている。円筒基部411には接続孔413を介して棒状部材3が接続される。棒状突出部412には、調整ベース部42と、調整ダイヤル部43と、ダイヤル固定リング44と、調整ねじ頭部45との接続用のねじ山が設けられている。
【0046】
図13は、一実施形態に係る把持部の調整ベース部を表す図である。(A)は斜視図であり、(B)は半断面図である。
【0047】
調整ベース部42は、円筒基部421と、円筒フランジ部422と、貫通孔423と、円筒空洞部424と、複数の取付孔425とを備える。円筒基部421と円筒フランジ部422とは一体化されている。円筒基部421は、開口端フランジ94の試料導入孔91に挿入可能となっている。円筒フランジ部422は下面422bにおいて、開口端フランジ94の上端91aに係止する。取付孔425には開口端フランジ94の係合突部941が挿入される。一対の取付孔425は貫通孔423を挟んで対向する位置に設けられており、調整ベース部42の回転を防止する。
【0048】
貫通孔423には調整ねじ部41の棒状突出部412が挿入される。貫通孔423の内壁にはねじ山は設けられておらず、調整ベース部42は、調整ねじ部41の棒状突出部412の軸方向に沿って自由に移動することが可能である。同様に、円筒空洞部424の内壁にはねじ山は設けられておらず、円筒空洞部424には、調整ダイヤル部43の円筒突出部434が単にはめ込まれる。
【0049】
このように、調整ベース部42は、円筒フランジ部422が下面422bにおいて、開口端フランジ94の上端91aに係止する。貫通孔423の内壁にはねじ山は設けられておらず、調整ベース部42は調整ねじ部41の棒状突出部412の軸方向に沿って自由に移動することが可能である。円筒空洞部424の内壁にはねじ山は設けられておらず、円筒空洞部424には、調整ダイヤル部43の円筒突出部434が単にはめ込まれる。これにより、調整ベース部42は、開口端フランジ94の上端91aを基準とした、調整ねじ部41の円筒基部411の高さ方向の位置調整の基準位置、すなわち撹拌棒1の先端の高さ方向の位置調整の基準位置を提供する。
【0050】
図14は、一実施形態に係る把持部の調整ダイヤル部を表す図である。(A)は斜視図であり、(B)は半断面図である。
【0051】
調整ダイヤル部43は、円筒基部431と、接続孔432と、円筒空洞部433と、円筒突出部434とを備える。円筒基部431と円筒突出部434とは一体化されている。接続孔432には雌ねじ加工がされており、調整ねじ部41の棒状突出部412が接続される。円筒空洞部433の内壁にはねじ山は設けられておらず、円筒空洞部433には、調整ベース部42の円筒フランジ部422の一部が単にはめ込まれる。同様に、円筒突出部434の側壁にはねじ山は設けられておらず、円筒突出部434は調整ベース部42の円筒空洞部424に単にはめ込まれる。
【0052】
円筒基部431を回転させることにより、調整ダイヤル部43と調整ねじ部41の円筒基部411との間の長さが調整可能である。これにより、開口端フランジ94の上端91aすなわち調整ベース部42を基準とした、試料導入孔91内での円筒基部411の高さ方向の位置が調整可能となり、撹拌棒1の先端の高さ方向の位置が調整可能となる。円筒基部431の側面には、長さ調整用の目盛りとしてダイアルのゲージを設けることができる。ゲージ(目盛り)は例えば彫刻により形成される。
【0053】
タップ孔435には、例えばホーローセットや固定ビスを挿入することができ、調整ダイヤル部43と調整ベース部42とを固定することができる。
【0054】
図15は、一実施形態に係る把持部のダイヤル固定リングを表す図である。(A)は斜視図であり、(B)は半断面図である。
【0055】
ダイヤル固定リング44は、円筒基部441,442と、接続孔443とを備える。ダイヤル固定リング44はいわゆるダブルナットとして機能し、調整ダイヤル部43の緩みを防止する。接続孔443には雌ねじ加工がされており、調整ねじ部41の棒状突出部412が接続される。円筒基部442の側面には滑り止めのローレット加工が施されている。円筒基部441,442を回転させることにより、円筒基部441の下面441bが調整ダイヤル部43に押し当てられる。
【0056】
図16は、一実施形態に係る把持部の調整ねじ頭部を表す図である。(A)は斜視図であり、(B)は半断面図である。
【0057】
調整ねじ頭部45は、円筒基部451と、接続孔452とを備える。円筒基部451の側面には滑り止めのローレット加工が施されている。接続孔452には雌ねじ加工がされており、調整ねじ部41の棒状突出部412が接続される。本実施形態では、接続孔452は円筒基部451を貫通せず、調整ねじ頭部45はいわゆる袋ナットになっている。タップ孔453には、例えばホーローセットや固定ビスが挿入され、調整ねじ頭部45と、調整ねじ部41の棒状突出部412とを固定する。
【0058】
以上、本発明の一実施形態に係る剪断流発生器具によると、試料に剪断流を発生させる器具であって、磁気共鳴装置内に配置された試料管内に、磁気共鳴装置の外部から撹拌棒の先端を容易に挿入することができる器具を提供することができる。
【0059】
撹拌棒保持部2の側面には、環状の弾性部材22が配置されている。環状の弾性部材22は、外径が試料導入孔91の開口端91aの径よりも僅かに大きく、弾性変形することにより外径が試料導入孔91の開口端91aに適合する。これにより、試料導入孔91の径と撹拌棒保持部2の径とのずれ(がた)を低減することができ、試料管93の径の中心と撹拌棒1の径の中心とを正確に合わせることができる。
【0060】
試料導入孔91は、上部の開口端91aから下端91bに向けて径が変化しない筒状の孔に限らない。試料導入孔91は、上部の開口端91aから下端91bに向けて径が僅かに増大する逆テーパ状の孔であってもよい。試料導入孔91がこのような逆テーパ状の孔であっても、逆テーパ状の孔の径に対応するように環状の弾性部材22が弾性変形する程度を調整することにより、試料導入孔91の径と撹拌棒保持部2の径とのずれ(がた)を低減し、試料管の径の中心と撹拌棒の径の中心とのずれを低減することができる。すなわち、試料導入孔91が逆テーパ状であることを見越して、環状の弾性部材22が弾性変形する程度を予め多めに調整しておけばよい。
[その他の形態]
【0061】
以上、本発明を特定の実施形態によって説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではない。
【0062】
図17は、他の実施形態に係る撹拌棒保持部の半断面図である。上記した実施形態では、撹拌棒保持部2Aは保護管24を介して撹拌棒1を保持しているが、図17に示すように、撹拌棒保持部2は保護管24を用いずに撹拌棒1を直接保持してもよい。
【0063】
撹拌棒保持部2Bにおいて、撹拌棒1の後端が挿入孔23(23B)に直接挿入される。挿入孔23(23B)はストッパ部27の付近において径が僅かに絞られている。これにより、撹拌棒1の後端はストッパ部27の手前まで挿入されるが空気抜き孔25Bには挿入されない。撹拌棒1と挿入孔23Bとの間には、例えば接着剤が封入され、撹拌棒1は撹拌棒保持部2に固定される。挿入孔23Bと空気抜き孔25Bとは連通している。
【0064】
周状の溝21を設ける位置は、上記した実施形態において図示した位置に限定されず、例えば撹拌棒保持部2A,2Bの先端28側であってもよい。設けられる溝21の数も2つに限定されず、1つであってもよいし3つ以上であってもよい。
【0065】
撹拌棒保持部2Aに設けられて保護管調整機構として機能するタップ孔26の数は、図示する3つに限定されず、1つまたは2つであってもよいし4つ以上であってもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 撹拌棒
2(2A,2B) 撹拌棒保持部
3 棒状部材
4 把持部
5 環状部材
6 接続部材
7 ジョイントナット
10 剪断流発生器具
21 溝
22 弾性部材
23(23A,23B) 挿入孔
24 保護管
241 撹拌棒挿入孔
243 空気抜き孔
244 先端
25(25A,25B) 空気抜き孔
26 タップ孔
27 ストッパ部
28 先端
29 ねじ山
41 調整用ネジ部
411 円筒基部
412 棒状突出部
413 接続孔
42 調整ベース部
421 円筒基部
422 円筒フランジ部
423 貫通孔
424 円筒空洞部
425 取付孔
43 調整ダイヤル部
431 円筒基部
432 接続孔
433 円筒空洞部
434 円筒突出部
435 タップ孔
44 ダイヤル固定リング
441,442 円筒基部
443 接続孔
45 頭部
451 円筒基部
452 接続孔
453 タップ孔
90 磁気共鳴装置
91 試料導入孔
91a 上端(開口端)
91b 下端
92 スピナー
93 試料管
94 開口端フランジ
941 係合突部
S 試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
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図10
図11
図12
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図14
図15
図16
図17