(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】回転軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/38 20060101AFI20230404BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20230404BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
F16C33/38
F16C33/58
F16C19/06
(21)【出願番号】P 2020545215
(86)(22)【出願日】2018-07-04
(86)【国際出願番号】 PL2018000067
(87)【国際公開番号】W WO2019098863
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-05-18
(32)【優先日】2017-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PL
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520171594
【氏名又は名称】クシュニエレヴィッチ、ズビグニェフ
(73)【特許権者】
【識別番号】520171608
【氏名又は名称】クシュニエレヴィッチ、マテウス
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】クシュニエレヴィッチ、ズビグニェフ
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-220720(JP,A)
【文献】特開2013-053734(JP,A)
【文献】特開2007-051683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/38
F16C 33/58
F16C 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転要素が荷重され、前記回転要素を分離するケージを装備され、前記回転要素が移動する軸受レース上に少なくとも1つの溝がある回転軸受であって、前記溝(4)の縁は、前記回転要素(3)の移動方向に対して4.5°から80°の角度αで配置され、前記ケージ(7)の中に、前記回転要素のための穴が斜めに作られ、角度βが、前記ケージの中心O1を前記回転要素(3)の中心O2と結ぶ直線と、周方向の穴の長さを定める前記ケージの前記穴の壁のうちの1つとの前記回転要素(3)の接触点においてこの要素へ延びる接線との角度であって、角度βは、値β>arctg μを有し、ここで、μは、前記回転要素(3)と、前記ケージ材料(7)との嵌合の滑り摩擦係数である構成において、
前記溝(4)は、前記回転要素が前記軸受レースの大径に向かって移動するように配置される
ことを特徴とする回転軸受。
【請求項2】
一方向に回転する前記軸受の場合、前記周方向における前記穴の長さを定める前記ケージの前記穴の前記壁のうちの
一方との、この要素の前記接触点において前記回転要素(3)へ延びる接線
と、前記周方向における前記穴の長さを定める前記ケージの前記穴の前記壁のうちの他方との、この要素の前記接触点において前記回転要素(3)へ延びる接線は、平行であることを特徴とする、請求項1に記載の回転軸受。
【請求項3】
両方向に回転する前記軸受の場合、前記周方向における前記穴の長さを定める前記ケージの前記穴の前記壁のうちの
一方との、この要素の前記接触点において前記回転要素(3)へ延びる接線
と、前記周方向における前記穴の長さを定める前記ケージの前記穴の前記壁のうちの他方との、この要素の前記接触点において前記回転要素(3)へ延びる接線は、収束することを特徴とする、請求項1に記載の回転軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールの形態を有する回転要素が、2つの軸受レース間を移動する回転軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
機械部品の構造構成要素として使用される回転軸受が知られている。回転軸受の設計は多様化しているが、いずれの場合も、2つの軸受レース間を移動する回転要素を含む。回転軸受の追加の構成要素は、回転要素を一定の相互距離に維持するセパレータ(ケージ)、シーリング要素などを含み得る。
【0003】
回転軸受は、シャフトの回転運動を提供し、その回転軸の一定の位置を維持し、また、荷重を伝達するため、運動に対する低い抵抗、安定した動作、動作の信頼性、耐摩耗性、または高い耐久性によって特徴付けられる必要がある。摩擦による最小限のエネルギ損失と、嵌合構成要素の振動に起因するノイズの低減とを実現するために、回転要素と嵌合する構造構成要素の軸受レースが研削され、その後、仕上げられる。しかしながら、回転要素の寸法のわずかな違いが、重要な問題を引き起こす。大量生産された回転要素は、そのサイズに関して分類されるが、実際には回転要素の絶対的な寸法均一性を達成することは不可能である。たとえば、直径が最大2μm異なるボールが、ボール軸受に挿入される。そのように組み立てられた軸受では、たとえば、速度が1000rpmの場合、レース上を移動する個々のボールは、1分間の動作中に20mmさえも異なる距離をカバーする場合がある。軸受の回転要素の不均等な荷重により、回転要素がカバーする距離にさらに違いが生じる。横方向の荷重のみを伝達する回転軸受では、荷重を伝達しない回転要素が移動し、カバーされる距離が均等になる。すべての回転要素が荷重される軸受では、軸受レースに対する回転要素のスピンにより、回転要素がカバーする距離の均等化が行われる。スピンが発生するためには、ケージまたは隣接するボールに作用するボールの力が、滑り摩擦力を超える値まで増加する必要がある。軸受の荷重が高いほど、滑り摩擦力が大きくなる。そのような場合、回転軸受のグリース塗りに使用されるグリースは、正しい嵌合を保証する必要な要因である。適切なグリース塗りの不足は、軸受の摩耗の主な要因である。摩擦係数の低い材料で作られたケージを有し、横方向の荷重のみを伝達する回転軸受は、グリース塗りなしで機能し得る。
【0004】
国際特許出願第2011105919号(特許文献1)の記載は、軸受レースを備えた2つのリングからなる軸受を開示しており、荷重された回転要素が移動し、回転要素の移動方向に向かって、横方向に配置された少なくとも1つの溝または凹部が、軸受レースのうちの1つに位置している。横方向の溝または凹部により、回転要素は、軸受レースのうちの1つと瞬間的に外れ、回転要素の異なる直径と、軸受の回転要素の不均等な荷重のために、ケージ力または隣接する回転要素力の影響下で移動できる。横方向の充填されていない溝または凹部を有する本発明による軸受の使用から生じる、回転要素とレースとの間の滑りの欠如は、グリース塗りなしで軸受の動作を可能にする。
【0005】
溝、特に横方向の溝、または軸受レースにくぼみまたは凹部がある軸受は、以下の特許明細書、すなわち、欧州特許公開第375938号(特許文献2)、米国特許公開第20080285903号(特許文献3)、米国特許第1334027号(特許文献4)、特開平7-197937号公報(特許文献5)にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際特許出願第2011105919号
【文献】欧州特許公開第375938号
【文献】米国特許公開第20080285903号
【文献】米国特許第1334027号
【文献】特開平7-197937号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
回転要素が荷重され、回転要素を分離するケージを装備され、回転要素が移動する軸受レース上に少なくとも1つの溝がある回転軸受は、本発明によれば、溝の縁が、回転要素の移動方向に対して4.5°から80°の角度αで配置されることを特徴とする。ケージの中に、回転要素のための穴が斜めに作られているため、ケージの中心を、回転要素のための穴の中心と結ぶ直線と、周方向における穴の長さを定めるケージの穴の壁のうちの1つとこの要素の接触点において回転要素の径方向に延びる接線との間の角度βは、値β>arctg μを有し、μは、回転要素材料と、ケージ材料との嵌合の滑り摩擦係数である。
【0008】
特定の方向に回転する軸受の場合、周方向における穴の長さを定めるケージの穴の壁のうちの1つとのこの要素の接触点において回転要素へ径方向に延びる接線は平行である。両方向に回転するベアリングの場合、接線は収束する。
【0009】
好ましくは、溝は、回転要素が軸受レースの大径に向かって移動するように配置される。
【0010】
好ましくは、軸受レースのうちの1つは、軸受の軸に基づく半径を有する扇形形状の球状キャップを有する。
【0011】
本発明による軸受では、軸受レースの一方における回転要素の移動に対して斜めに配置された溝により、回転要素は、溝のテーパのために、レースから瞬間的に外れ、軸受レースの大径、または小径に向かってシフトすることができる。この事実により、溝を残したまま軸受レースによって回転要素に加えられる力は減少する。軸受レースによって回転要素に加えられる力の欠如は、回転要素がカバーする距離の違いから生じる、回転要素とケージとの間の力を除去する可能性を与える。このシフトは、軸受レースの大径に向かって生じることが好ましく、これは、回転要素の溝から離れることを容易にする。その後、軸受の耐久性が約20%増加する。
【0012】
横方向の溝と比較して、斜めに配置された溝は、軸受レースによって回転要素に加えられる力を大幅に低減する。横方向の溝を有する軸受の移動抵抗トルクは、斜めの溝を有する軸受よりも約2倍大きい。
【0013】
次に、回転要素と、回転要素のための穴のテーパ面を備えたケージとの間に発生する力により、ケージを案内する軸受のリングに、ケージによって加えられる力を減少させる。これは、軸受の移動抵抗トルクを大幅に減少させる。内部リングの回転により、ケージの速度は、内部リングの速度よりも遅くなる。軸受の内部レースと接触すると、回転要素を分離するケージが加速され、回転要素を押す。その後、回転要素が、ケージの穴の後部と接触する。ケージによって回転要素に加えられる力の作用方向と、回転要素の、ケージとの接触点における回転要素への接線との間の角度に応じて、力の分布は、軸受の動作のために好適であることも、好適でないこともある。2つの力が発生する。第1の力は、ケージを内部リングから遠ざけ、第2の力は、ケージと回転要素との間の滑り摩擦力であり、ケージを内部リングに押し付ける。ケージを内部リングから遠ざける力が、回転要素とケージとの間の摩擦力よりも大きい場合、力の分布は、軸受の動作に好適である。この状況は、β>arctg μの条件が満たされる場合に生じ、ここで、μは、回転要素材料とケージ材料との嵌合の滑り摩擦係数であり、βは、ケージの中心を回転要素のためのケージ穴の中心と結ぶ直線と、この要素の、ケージまたはケージテーパとの接触点における回転要素への接線との間の角度である。
【0014】
本発明による軸受は、横方向の溝およびグリースを塗った軸受を備えた軸受よりも4~10倍低い軸受の移動抵抗トルクを有する。本発明による軸受は、油、液体潤滑剤、またはグリースでグリース塗りされた軸受に匹敵する耐久性を維持しながら、グリース塗りなしで動作する可能性を提供する。本発明による2つの回転軸受を使用する軸受配置は、20,000時間を超えて連続して作動し、50Nの縦荷重の下で25億回の回転を行った。現在、縦方向の力が荷重された既知のグリースを塗られていない軸受の耐久性は、わずか数百万回転までであり、Pb、MoS2タイプのグリースを塗ったものの耐久性は、50Nを超える縦荷重の下で、6000万回転を超えない。
【0015】
本発明による構造的解決策は、通常のボール軸受、テーパボール軸受、マグネトボール軸受、四点ボール軸受、縦方向および横方向の力を荷重されたスピンドル用ボール軸受に大きな効果をもたらす。
【0016】
本発明の主題は図面に示される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ケージを備えた通常のボール軸受の断面図である。
【
図2a】軸受レース上の回転要素の移動方向に対する右方向における溝の実施形態の断面図である。
【
図2b】軸受レース上の回転要素の移動方向に対する左方向における溝の実施形態の断面図である。
【
図3a】回転要素の大径方向へのシフトを示す図である。
【
図3b】回転要素の大径方向へのシフトを示す図である。
【
図4a】ケージの断片と、ケージによって回転要素に加えられる力とを示す図である。
【
図4b】ケージの断片と、ケージによって回転要素に加えられる力とを示す図である。
【
図5a】ケージの断片と、ケージによって回転要素に加えられる力とを示す図である。
【
図5b】ケージの断片と、ケージによって回転要素に加えられる力とを示す図である。
【
図6】ケージの断片と、ケージによって回転要素に加えられる力とを示す図である。
【
図7a】ケージの断片と、ケージによって回転要素に加えられる力とを示す図である。
【
図7b】ケージの断片と、ケージによって回転要素に加えられる力とを示す図である。
【
図8】右側の溝を備えた2つの軸受における軸受配置の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に示される本発明による軸受の実施形態は、単列ボール軸受である。軸受は、外部リング1と、内部リング2と、ボール3の形態を有する回転要素と、ケージ7とで構成される。回転要素は、外部軸受レース5と内部軸受レース6とで回転する。内部軸受レース6内に、斜めの溝4が作られる。溝4は、回転要素3の移動に対して斜めに位置しており、その動きは、
図2aおよび
図2bにおいて矢印で印されている。溝4の領域に入ると、回転要素3は、レース5、6から一時的に外れ、溝4のテーパによって、
図3aおよび
図3bに示されるように、直径d1から直径d2に、大径軸受レースに向かって移動する。これは、回転要素3が溝4を離れている間に、両方のレース5、6との、穏やかな嵌合の開始を可能にする。
【0019】
図4aから
図7bに示すように、回転要素3は、斜めに作られた穴におけるケージ7に配置され、ケージ7の中心O
1を回転要素3のための穴の中心O
2と結ぶ直線O
1O
2と、
周方向における穴の長さを定めるケージ7
の穴の壁のうちの1つとのこの要素の接触点にお
いて回転要素3へ
径方向に延びる接線
8との間のテーパ傾斜角βは、値β>arctg μを有し、ここで、μは、回転要素材料3とケージ材料7との嵌合の摩擦係数である。
【0020】
図4aに示すように、回転速度n
rで回転する内部リング2に案内されているケージ7で、ケージ7を上方に持ち上げる力
F1=Fs sinβは、ケージ7と回転要素3との間の接触点に発生する。この力の目的は、ケージ7を案内する軸受のリングに対するケージ7の影響を低減することである。この力は、回転速度n
bで回転する回転要素3と、これらの要素の接触点におけるケージ7との間の摩擦力である力Ft=Fn μよりも大きくなければならず、ここで、Fn=F
c cosβであり、F
cは、ケージ7によって回転要素3に加えられる力であり、μは、ケージ7の材料と、回転要素3の材料との嵌合の滑り摩擦係数である。β>arctg μという条件は、これらの式から得られる。ケージ7が、単にポリエーテルエーテルケトン(PEEK)で作られており、回転要素が100Cr6鋼で作られている場合、これらの材料間の滑り摩擦係数は、μ=0.4となる。次に、式β>arctg μにしたがって、ケージのテーパ傾斜角は、β>22°である必要がある。
【0021】
図4bは、ケージ7の瞬間角速度が、回転要素3の角速度よりも速い場合の力の分布を示す。
【0022】
図5aおよび
図5bは、軸受の内部リング2が両方向に回転する場合のケージ7と回転要素3との間の力の分布を示す。
【0023】
図6は、ケージ7を外部リング1に案内する場合のケージ7と回転要素3との間の力の分布を示し、内部リング2は、回転速度n
rで回転する。
【0024】
図7aおよび
図7bは、外部リング1上でケージ7を案内する場合のケージ7と回転要素3との間の力の分布を示し、内部リング2は回転速度n
rで両方向に回転する。
【0025】
図8には、右側の溝4を備えた2つの軸受の軸受配置の例が示される。軸受レース上を移動する回転要素3に対する溝4の方向は、溝4を通過する際の回転要素3とレースとの間の力の、より好ましい分布をもたらす。
力Fsによる軸受の予荷重を得るために、スプリング
9が使用される。
Faは、縦方向の力による軸受の外部荷重である。