(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】ゲノム保存剤へ直接の高忠実度バイオエアロゾル凝結捕捉
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20230404BHJP
C12Q 1/689 20180101ALI20230404BHJP
C12Q 1/70 20060101ALI20230404BHJP
C12M 1/28 20060101ALI20230404BHJP
G01N 1/22 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
C12Q1/68
C12Q1/689 Z
C12Q1/70
C12M1/28
G01N1/22 A
G01N1/22 B
(21)【出願番号】P 2020555732
(86)(22)【出願日】2018-12-27
(86)【国際出願番号】 US2018067687
(87)【国際公開番号】W WO2019133718
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-09-09
(32)【優先日】2017-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】308032460
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ コロラド,ア ボディー コーポレイト
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF COLORADO,a body corporate
(73)【特許権者】
【識別番号】520232873
【氏名又は名称】エアロゾル デバイシーズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ヘルナンデス, マーク
(72)【発明者】
【氏名】キーディー, パトリシア ビー.
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0060155(US,A1)
【文献】特表2012-529268(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0134137(US,A1)
【文献】特表2013-536444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオエアロゾル物質をサンプリング、回収および安定化する方法であって、前記方法は、
a)
i)凝結増加チューブ
であって、前記凝結増加チューブは、ゲノム、トランスクリプトームまたはプロテオーム保存剤を含む、凝結増加チューブ;ならびに
ii)水蒸気およびバイオエアロゾル物質を含むエアロゾル流
を提供する工程;
b)前記エアロゾル流を
、前記チューブに、前記水蒸気が前記バイオエアロゾル粒子上で、吸収する、吸着するおよび/または凝縮する
ように方向付けて、微小液滴を形成する工程
であって、前記微小液滴は、前記チューブ内で前記保存剤に曝露されることを特徴とする、工程;ならびに
c)個々の
前記微小液滴および/または微小液滴の集塊を、ゲノム、トランスクリプトームまたはプロテオーム保存剤を含む
少なくとも1つの個々の滅菌DNA非含有容器へと収集する工程、
を包含し、前記微小液滴が収集されると同時に前記保存剤に曝露される、
方法。
【請求項2】
同時の保存および捕捉が、前記凝結増加チューブで起こる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程d)バイオエアロゾル粒子を、それらが空気中で存在するとおりに回収する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記バイオエアロゾル粒子が微生物核酸を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記バイオエアロゾル粒子の保存が定量的なものである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記凝結増加チューブが、使用前にRNA非含有およびDNA非含有である、請求項1に
記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本出願は、2017年12月29日出願の米国仮特許出願第62/611,907号(これは本明細書に参照により援用される)の利益を主張する。
【0002】
政府による支援の陳述
本発明は、全米科学財団により授与された助成金番号IIP-1721940の下で政府による支援で行われた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、一般には、バイオエアロゾルの特徴付け、ならびにより詳細には、それらの主要な生体ポリマープロフィール(脂質、炭水化物およびタンパク質)、およびより具体的なそれらの遺伝物質(DNA/RNA)(例えば、空中浮遊性のウイルス、細菌、真菌、および花粉)に基づくバイオエアロゾルを回収、定量、識別する、およびその代謝活性を評価するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
「バイオエアロゾル」は、生物学的起源の任意の空中浮遊性化合物として広く定義され、それらは、ここでは、任意の無傷の空中浮遊性細胞(とりわけ、任意の種類の空中浮遊性微生物、それらの空中浮遊性構成要素部分、および/または解離した空中浮遊性遺伝物質(別名:残存DNA)を含む)として定義される。バイオエアロゾルは、典型的には、水性の媒体および陸生の媒体中でのそれらの微生物対応物より顕著に低い濃度で存在し、これは、遺伝的分析方法を使用して特徴付けすることをより困難にする。バイオエアロゾルは、大気中(屋内および屋外の両方)に遍在する。バイオエアロゾルは、とりわけ、仕事場に、居住空間に、医療施設に、製造作業中に、動物処理施設に、酪農施設もしくは他の動物収容施設に、再生プラントもしくは堆肥化プラントに、埋め立て処分場に、下水プラントなどに、見出され得る。空中浮遊性微生物のバイオエアロゾルは、陸上のおよび海洋生態系の自然の一部であり、全体として大気中に存在するので、ヒトおよび動物において疾患、アレルギーおよび呼吸器の問題を引き起こし得る。バイオエアロゾルは、テロリストの武器としての使用を含め、生物兵器因子(biological warfare agent)としてのそれらの潜在的用途があることから、ますます恐れられている。
【0005】
多くのエアロゾルサンプリングおよび検出システムが存在する;しかし、それらのうちの大部分は、非生物学的物質の分析に使用され、それらの設計意図にも拘わらず、バイオエアロゾルまたはそれらの遺伝物質の生存度を、それらが空気中に浮遊して存在することから、信頼性高く保存できない。さらに、従来のエアロゾルサンプリングは、空中浮遊性の生物学的因子を、その同じサンプル容積中に一緒に配置されているそれらの無機対応物から分離および区別できない。空中浮遊性微生物を回収し、次いで、定量し、その後識別するためのその一般に使用されるサンプリング方法は、以下を包含する: Andersenインパクター[1]およびBurkardインパクターのようなサンプラーを使用する、アガーまたは別の固相表面上への空気の直接嵌入;直接濾過(例えば、表面空気システム(SAS));および遠心分離収集(例えば、Reuter遠心分離システム(RCS))。バイオエアロゾルはまた、液体培地への衝突(例えば、SKCバイオサンプラー)か、または他の旋回式液体サイクロンサンプラー(例えば、SpinConおよびその変形)によって収集され得る。多くの(バイオ)エアロゾルサンプラーが、空中浮遊性微生物細胞を回収するために具体的に設計されている一方で、これらのシステムが、収集の際に、その微生物細胞のストレス、またはそうでなければそれらの膜、生存度、内部生体ポリマープール(とりわけ、それらの遺伝物質を含む)がそれらの空中浮遊性の状態から恒久的にかつ顕著に変化されるようになるそれらの生理機能の改変という目立つ制限を共有することは明らかである。
【0006】
既存のバイオエアロゾル収集方法は、従って、処理後に、それらから引き出され得る定量的および定性的データに影響を及ぼす。従って、高効率かつ高忠実度のバイオエアロゾル捕捉のための改善された方法およびデバイスの継続したニーズがある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の要旨
本発明は、一般に、バイオエアロゾル、およびより詳細には、その後の検出および特徴付けのために、微生物バイオエアロゾルの生理学的および生化学的完全性を回収し、保存するためのシステムに関する。
【0008】
一実施形態において、本発明は、バイオエアロゾル物質をサンプリングすると同時に安定化する方法を企図し、上記方法は、a)i)凝結増加チューブ;ならびにii)水蒸気、および/または他の試薬蒸気、および混合もしくは純粋な物質、バイオエアロゾル物質を含むエアロゾル流、を提供する工程;b)上記エアロゾル流を上記チューブに、上記水蒸気または他の試薬蒸気が上記バイオエアロゾル粒子上で凝縮する条件下で方向付けて、微小液滴を形成する工程;ならびにc)全ての個々の液滴を、ゲノム、トランスクリプトーム、タンパク質および/または脂質保存剤を含む個々の滅菌RNA非含有およびDNA非含有容器へと収集する工程を包含する。一実施形態において、上記凝結増加チューブ捕捉は、上記エアロゾル流における過飽和の領域を含む壁が濡れたチューブを含む。一実施形態において、上記凝結増加チューブは、コンディショナーチューブ壁セクションに直接接続されたサンプル入り口を含む。一実施形態において、上記凝結増加チューブは、イニシエーターチューブ壁セクションを含む。一実施形態において、上記凝結増加チューブは、モデレーターチューブ壁セクションを含む。一実施形態において、上記凝結増加チューブは、テーパー状の開口部を含む。一実施形態において、上記テーパー状の開口部は、収集された(バイオ)エアロゾルを、末端収集ウェル、または液体(粘性に拘わらず)、ゲルもしくは固相(遺伝物質、タンパク質または脂質を保存するために使用されるものが挙げられるが、これらに限定されない)を含む他の容器へと方向付ける。一実施形態において、上記容器は、その後の生化学的または遺伝的分析のために使用されるチューブを含む。一実施形態において、上記容器は、ウェル、マイクロウェル、一連のマイクロウェル、チューブ、微小遠心分離チューブ、一連の微小遠心分離チューブ、タイターウェル、マイクロタイターウェル、一連のマイクロタイターウェル、マイクロタイタープレート、任意の数のウェルを有する生化学的および/もしくは遺伝的分析のために使用される他の容器(例えば、ELISAプレート、組織培養プレート、もしくはウイルスプラークプレート)を含む。一実施形態において、上記方法は、上記バイオエアロゾル遺伝物質の核酸(DNAおよび/またはRNA)精製、定量および配列決定をさらに含む。一実施形態において、上記方法は、上記バイオエアロゾル物質からの核酸の増幅、および上記核酸物質(DNAおよび/またはRNA)の定量をさらに含む。一実施形態において、上記方法は、上記バイオエアロゾル物質(タンパク質および脂質物質を含む)の(生)化学分析をさらに含む。一実施形態において、上記テーパー状の開口部は、遺伝物質、タンパク質または脂質を保存するために使用される化学物質で飽和されたか、吸収したか、または別の方法で保持する、末端固相収集部位または嵌入表面、中実膜フィルター、中実織布フィルター上へと、収集した(バイオ)エアロゾルを方向付ける。
【0009】
一実施形態において、本発明は、バイオエアロゾル検出システムを企図し、上記システムは、a)モデレーターチューブ壁セクションに直接接続されたサンプル入り口、続いて、生体適合性液体、生理学的保存剤、ゲノム保存剤、および/または生物学的色素を、連続して流動するサンプル容積の1またはこれより多くのバイオエアロゾルとともに凝縮するかまたは別の方法で結合するテーパー状の開口部を含む、凝結増加チューブ; b)上記テーパー状の開口部の下に配置された少なくとも1つの滅菌RNA/DNA非含有容器、嵌入表面またはフィルター材料;ならびにc)上記チューブからの上記連続して流動するサンプル容積の1またはこれより多くのバイオエアロゾルのサイズ増幅を可能にする増幅器、を含む。一実施形態において、上記チューブは、イニシエーターチューブ壁セクションをさらに含む。一実施形態において、上記チューブは、モデレーターチューブ壁セクションをさらに含む。一実施形態において、上記コンディショナーチューブ壁セクションは、水の凍結温度を数度上回るかもしくは水の凍結温度であるチューブ壁の冷たい領域、または上記イニシエーターを経て導入されかつ流動する凝縮試薬蒸気を含む。一実施形態において、上記イニシエーターチューブ壁セクションは、およそ35℃(または上記コンディショナー領域の温度を少なくとも25℃上回る)であるチューブ壁の温かい領域を含む。一実施形態において、上記モデレーターチューブ壁セクションは、およそ12℃であるが、この温度から、局所環境温度、および/または上記イニシエーターに導入され、これを経て流動する水または任意の試薬蒸気の凝結点に基づいて、バイオエアロゾル捕捉を最適化するように調節される、チューブ壁の冷たい領域を含む。
【0010】
蒸気をバイオエアロゾル上に凝縮させて、その場で微小液滴を形成する他の手段が存在する(Peter H. McMurry (2000) The History of Condensation Nucleus Counters, Aerosol Science & Technology, 33:4, 297-322 [2];米国特許第3738751号[3]、同第3806248号[4]、同第4449816号[5]、同第4790650号[6]、同第4868398号[7]、同第4950073号[8]、同第5675405号[9]、同第5855652号[10]、同第6506345号[11]、同第6567157号[12]、同第6980284号[13]、同第7777867号[14]、同第7828273号[15]、同第8449657号[16]、同第8465791号[17]、同第8603247号[18])。これらは、以下を含むが、これらに限定されない:a)少なくとも2つの温度領域(第1の領域は温かく、冷たい領域が続く)から構成される壁が濡れたチューブまたはチャンバを経る層流サンプリング、b)2またはこれより多くの蒸気流(各々異なる温度で保持される)の乱流混合、およびc)蒸気飽和チャンバの迅速な断熱拡張。
【0011】
本発明の他の目的、利点、および新規特徴、ならびに適用性のさらなる範囲は、添付の図面とともに、以下に続く詳細な説明において部分的に示されるか、部分的には、以下の試験の際に当業者に明らかになるか、または本発明の実施によって学習され得る。本発明の目的および利点は、添付の請求項において特に指摘される手段および組み合わせによって、実現および達成され得る。
【0012】
定義
本発明の理解を促進するために、多くの用語が、以下で定義される。本明細書で定義される用語は、本発明に関連する分野の当業者によって一般に理解されるとおりの意味を有する。「1つの、ある(a)」、「1つの、ある(an)」、および「上記、この、その(the)」のような用語は、単数の実体のみに言及することが意図されるのではなく、具体例が例証のために使用され得る包括的なクラスを含む。本明細書中の用語法は、本発明の具体的実施形態を記載するために使用されるが、それらの使用法は、請求項の中で概説される場合を除いて、本発明の範囲を定めるものではない。
【0013】
本明細書全体を通じて「一実施形態(one embodiment)」、「ある実施形態(an embodiment)」、または同様の文言の言及は、その実施形態と関連して記載される特定の特徴、構造、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。従って、本明細書全体を通じて、語句「一実施形態において」、「ある実施形態において」、および同様の文言の出現は、全て同じ実施形態に言及することもあるが、必ずしもそうでない。
【0014】
本明細書で使用される場合、用語「バイオエアロゾル(bioaerosol)」は、起源が生物学的である空中浮遊性粒子(例えば、空中浮遊性微生物)を記載するために、全体を通じて使用される。バイオエアロゾルは、生物学的物質が関わり、より大きな物質から小さな粒子を分離するために十分なエネルギー(例えば、風、水、空気、または機械的動作)を生成するほぼ任意のプロセスから形成され得る。
【0015】
本明細書で使用される場合、用語「ゲノム保存剤(genomic preservative)」とは、起源に拘わらず、DNAおよびRNAの生化学的構造を保存する、保護する、または別の方法で維持するように設計されかつ働く任意の化合物を記載するために、全体を通じて使用される。
【0016】
本明細書で使用される場合、用語、試薬蒸気(reagent vapor)は、異なる温度プロフィールが、水で記載されるとおりの凝結プロセスとともにそのプロセス(イニシエーター、モデレーター、テーパー状の開口部など)と関連付けられるが、相を変化させるように働くデバイスに導入されて、上記デバイスを経て粒子上に凝縮させる、粒度を増す、および上記で水に関して記載されるように粒子の捕捉を可能にする、水以外の任意の化合物を記載するために全体を通じて使用される。
【0017】
本明細書で使用される場合、用語「トランスクリプトーム保存剤(transcriptome preservative)」とは、RNAの生化学的構造を、起源に拘わらず全てのその形態(リボソーム、トランスファー、またはメッセンジャー)において保護するかまたは他の方法で維持することを記載するために全体を通じて使用される。
【0018】
本明細書で使用される場合、用語「微小液滴(microdroplet)」とは、液体の水もしくは他の試薬(いずれか単独)の空中浮遊性凝結物、または他の空中浮遊性粒子の表面上の凝結物を記載するために、全体を通じて使用される(ここで集塊の滴の特徴的な長さは、1ミリメートル未満である)。これは、粒子表面と会合する遊離水でない、空中浮遊性粒子に吸着および/または吸収される水蒸気が挙げられるが、これに限定されない。
【0019】
本明細書で使用される場合、用語「増幅する(amplify)」とは、任意の生体ポリマー(DNA、RNAまたはタンパク質が挙げられる)またはその前駆物質の配列を複製するための生化学的方法を記載するために全体を通じて使用され、これは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が挙げられるが、これに限定されない。
【0020】
本明細書で使用される場合、用語「RNA/DNA非含有容器(RNA/DNA-free container)」とは、DNAおよび/またはRNAのオリゴヌクレオチドとして、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅され得るか、または別の方法で検出され得る重合した遺伝物質を含まないようにした任意の容器、導管、ウェル、チューブまたは管を記載するために、全体を通じて使用される。
【0021】
本明細書で使用される場合、用語「マイクロウェル(microwell)」とは、各々、化学分析のために液体または固体を保持することが意図された、1リットル/分のサンプル流に対して体積が1ミリリットル未満である任意の容器、導管またはチューブを記載するために、全体を通じて使用される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
添付の図面は、本明細書に組み込まれかつ本明細書の一部を形成し、本発明のいくつかの実施形態を図示し、そして詳細な説明と一緒に、本発明の原理を説明するように働く。その図面は、本発明の好ましい実施形態を図示する目的に過ぎず、本発明を限定すると解釈されるべきではない。
【0023】
本発明は、図面を参照して以下の詳細な説明中の好ましい実施形態の中で記載される。その図面において、類似の番号は、同じまたは類似の要素を表す。
【0024】
【
図1】
図1は、凝結増加チューブ捕捉(CGTC)装置(米国特許第6,712,881号[19]、同第7,736,421号[20]、同第8,801,838号[21]、および同第9,610,531号[22])を使用する凝結捕捉プロセスの一実施形態を示す。
【0025】
【
図2】
図2は、CGTCから、直接顕微鏡観察(青色の四角)、直接蛍光粒子計数(サイトメトリー 赤色の四角);および標準的培養(緑色の四角)と並行して、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR 桃色の四角)によるDNAの微生物分析のために使用される保存剤を充填したマイクロウェルへと全細胞の空中浮遊性細菌の回収を示す。
【0026】
【
図3】
図3は、バイオエアロゾル捕捉のために使用される、従来の濾過および最も一般的な液体インピンジャー(SKC Biosampler)での同じバイオエアロゾルの同時サンプリングと比較して、CGTCから、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR・)によるDNAの微生物分析のために使用される保存剤を満たしたマイクロウェルへの全細胞の空中浮遊性細菌の回収を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
発明の詳細な説明
本発明の記載される特徴、構造、または特性は、1またはこれより多くの実施形態において任意の適切な様式で組み合わされ得る。以下の詳細な説明において、多くの具体的詳細が、本発明の好ましい実施形態の完全な理解を提供するために記載される。しかし、関連分野の当業者は、本発明がその具体的な詳細のうちの1またはこれより多くがなくても、または他の方法、構成要素、材料などを用いて実施され得ることを認識する。他の場合には、周知の構造、材料、または作業は、本発明の不明瞭な局面を回避するために詳細に示されていないかまたは記載されていない。
【0028】
バイオエアロゾルを検出および識別する公知の方法は、米国特許第6,806,464号[23](本明細書に参考として援用される)に開示される。蛍光技術を使用するエアロゾル飛行時間型質量分析計は、選択したバイオエアロゾル粒子を電離するために使用される。物質に特異的な波長を使用するレーザー照射は、蛍光に影響を及ぼす。蛍光検出器は、そのバイオエアロゾル粒子を選択するために使用され、第2のレーザーは、その蛍光検出器によって選択されたそのバイオエアロゾル粒子の電離をもたらす波長の光を発するために使用される。バイオエアロゾルを検出および識別するこのような方法は、むしろ複雑であり、比較的高価かつ複雑な装置に依拠する。さらに、これは、微生物の生存度に関する情報を提供できない破壊的な方法であり、実際的な適用において、属または種に関する遺伝子ベースの分類学情報を正確に提供し得るとは示されていない。
【0029】
バイオエアロゾルサンプリングのための他の方法は、嵌入または衝突に依拠する。これは、アガーを充填したプレート上での嵌入(例えば、Anderson Impactor(Copely Scientific)において使用されるもの)によって、または液体への衝突(例えば、All Glass Impinger(ACE Glass Incorporated)またはBioSampler(SKC Inc.)(米国特許第5,902,385号[24])(本明細書に参考として援用される)において使用されるもの)によってのいずれかで、慣性力を使用して達成される。慣性は、粒度の関数であることから、粒度は、バイオエアロゾルをサンプリングおよび定量する能力を決定するにあたって重要な役割を果たす;概して、サイズが大きいほど、収集効率は高い。
【0030】
インパクターは、エアロゾルを運ぶ気流を、収集媒体として働く嵌入プレートまたはフィルターに向かって方向付けるノズルを有するデバイスである。そのエアロゾル粒子の慣性は、その嵌入を駆動し、従って、その収集効率は、粒度が減少するにつれて減少する。その収集効率は、圧力を与えることによって、またはより高い速度を適用することによって、増大され得る。濾過は、そのガスがそのフィルター材料の開いた孔または構造を通過するにつれて、フィルター媒体上にその粒子を収集することによって、そのキャリアガスから粒子を分離する方法である。粒子は、嵌入、遮断または拡散によってそのフィルター媒体、およびその媒体上に以前に堆積した他の粒子と接触させられ、各々の除去機構は、粒度に強く依存する。嵌入および濾過は粒子を収集する際に非常に効率的であり得るが、これらのアプローチは、それらが収集される場合に、高速衝撃を経て空中浮遊性微生物にストレスを与え、細胞を乾燥させる;エアロゾル回収デバイスのこれらのタイプと関連する衝撃、剪断および乾燥の生理学的影響は、細胞損傷に関して巨大なアーチファクトを導入するので、任意の合理的な確実性の程度での生存度または定量的遺伝的分析には使用され得ない。従って、嵌入および濾過は、生存可能なバイオエアロゾルを観察するか、または遺伝的方法を使用する定量には使用できない。
【0031】
インピンジャーは、ノズルおよび水性の収集媒体を有する容器である。その入り口ノズルから出る気流は、その液体中に気泡を形成する。その気泡中のエアロゾル粒子は、その慣性に起因してその気泡を残し得るので、その収集効率は、その粒度が減少するにつれて減少する。利用可能なインピンジャー(例えば、All Glass Impingers)は、0.5μm未満の粒子に対して70%未満の効率を有する。BioSampler(これは、旋回ジェットを使用して改善されたバージョンである)は、0.3μmに対して80%効率をなお有するに過ぎない。記載されるように、実行可能なインパクターまたはインピンジャーのいずれかは、0.3μm未満のバイオエアロゾルに対して低い効率を有する。Hogan et al.(「Sampling Methodologies and Dosage Assessment Techniques for Submicrometer and Ultrafine Virus Aerosol Particles」, Applied Microbiology, 99, p. 1422-1434, 2005[25])によれば、MS2バクテリオファージを収集するためのBioSamplersおよびAll Glass Impingersの効率は、10%未満である。さらに、液体インピンジャーは、疎水性の空中浮遊性微生物(例えば、真菌胞子、Actinomycetes科に属する細菌が挙げられる(とりわけMycobateria種が挙げられる))が考慮される場合に実行可能な回収効率を有する。液体中で衝突したバイオエアロゾルは、インパクターにおいて収集されたそれらの対応物より小さな衝撃ストレスを経験するが、これらのデバイスはまた、顕著な生理学的ストレスを付与する。このストレスは、超音波速度に近いバイオエアロゾルによって実現され、大きな圧力は、収集のズルを経て低下し、インピンジャーレザバに一旦入ると、ストレスは、インピンジャー逆流、迅速な蒸発および低温(<10℃)によって実現される(これらの全ては、そのインピンジャー内容物のその後の遺伝的および生化学分析において不確実性を導入する)。
【0032】
従って、先行技術のこれらおよび他の課題を克服し、かつ高い捕獲効率を有し、生理学的ストレスを最小限にし、空中浮遊性微生物を保存剤へと、または保存剤で飽和されるか、吸収されるか、もしくは別の方法で会合した、高中実性を有する生体ポリマーを維持する表面(膜およびフィルターが挙げられるが、これらに限定されない)上に直接回収するバイオエアロゾル回収システムを提供する必要性がある。空中浮遊性微生物(バイオエアロゾル)をサンプリングするための最も一般的な代替手段の中には、エアフィルター、インパクター、および液体インピンジャーがある。これらのローテク収集方法は、安価で、容易かつ普及しているが、それらは、現代の空中生物学分析の課題に満ちている。フィルターは、収集する際に、空中浮遊性微生物に対して強い機械的および乾燥ストレスを与える。さらに、それらは、感度に非常に大きな影響を及ぼすさらなる処理(PCRおよび/または配列決定)のために、サンプルを溶離および希釈しなければならない;それらは、退屈な、非常に時間のかかる、複数工程の手動での処理を要求し;低い抽出効率を有し;汚染を生じやすい。低いバイオマス収量が原因で、フィルターベースの収集は、微生物活性をその場で観察することに関連する期間の間に、時間分解サンプルを回収することを不可能にする。
【0033】
本発明のデバイスの一実施形態は、周囲のバイオエアロゾルを、接触時に遺伝物質を保存する薄膜および液体へと直接濃縮するデバイスにおいて湿気を凝結させる。本発明の機構を理解するために必須ではないものの、そのバイオエアロゾルは、その後のDNA/RNA増幅および/または配列決定ならびに(生)化学分析に便利な小容積で、空気から収集されることから、この凝結プロセスが、バイオエアロゾル遺伝物質を安定化すると考えられる。
【0034】
本発明の一実施形態は、
図1において凝結増加チューブ捕捉(CGTC)装置を記載する模式図で示される。本発明の機構を理解するために必須ではないものの、このサンプリング方法が、層流下での温度を壁の濡れたチューブの中で調節して、そのエアロゾル流の中に過飽和の領域を作り出すと考えられる。その過飽和水蒸気は、これを拡張して、「霧」に類似であり得る微小液滴を形成して、バイオエアロゾル粒子上で吸収、吸着および/または別の方法で凝結する。その微小液滴は、独立したままであってもよいし、集塊になってもよい;しかしそれでも、各液滴はその後、ウェル、マイクロウェルもしくは任意の分析チューブ、またはゲノム(DNAおよびRNA)、トランスクリプトーム(任意の種類のRNA)、タンパク質および/もしくは脂質保存剤を有する閉じ込め手段への穏やかな、低速度衝突によって直接収集される。本発明の機構を理解するために必須ではないものの、このサンプラーが、ウイルス、細菌および真菌胞子のサイズ範囲の空中浮遊性微生物を>95%効率的に収集し、フィルターおよびインパクターによって導入されるストレスおよび分析回収の課題を回避すると考えられる。
【0035】
遺伝物質は、普及したハイスループットプラットフォームで、DNAおよびRNA定量および配列決定のためのサンプルを調製するために使用される液体保存剤中、CGCTウェルから無菌的に回収され得る。このCGCTデバイスは、携帯式であってもよく、実験室でおよび現場での用途がある。制御されたバイオエアロゾルチャンバ研究では、普遍的な細菌(16s rDNA)でのqPCRによって決定される場合の全遺伝子コピー数は、直接顕微鏡観察と定量的に比較したところ、再現性のある定量的一致があった。
【0036】
図2は、CGTCから、直接顕微鏡観察(青色の四角)、直接蛍光粒子計数(サイトメトリー 赤色の四角);および標準的培養(緑色の四角)と並行して、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR 桃色の四角)によるDNAの微生物分析のために使用される液体保存剤を充填したマイクロウェルへの、完全細胞の空中浮遊性細菌の回収を示す。
【0037】
図3は、従来のフィルター、液体インピンジャーおよび液体ゲノム保存剤中に直接収集するCGTCの回収を比較する。この比較において、そのフィルター、液体インピンジャーおよびCGTCは、同じ較正した供給源からのバイオエアロゾルを同時に収集した。標的アンプリコンとして16s rDNAを使用する定量的PCRによって判断されるように、液体保存剤へのCGTCは、従来の濾過および液体衝突と並べて比較した場合、少なくとも桁違いによい回収性能を有する。
【0038】
定量的PCRは、100~2000の間の空中浮遊性細胞が(10分間で)捕捉されれば成功することから、この保存剤捕捉状況においてCTGCを使用する異なるDNA配列の相対的存在量は、この目的のために開発された、容認された統計的バイオインフォマティクスアプローチを使用して、環境サンプルから微生物群落の構造へと還元され得る可能性があり得る。本発明の機構を理解するために必須ではないものの、それらが存在するとおりのその現場で、空中浮遊性微生物を特徴付け、それらの活性を評価し得ることは、この状況においてCTGCを使用してバイオエアロゾルトランスクリプトームの高忠実度の保存をもたらし得ると考えられる。エアロゾルDNA配列決定を偏らせるアーチファクトの物理的および一時的な収集、ならびに以前に禁止されたかまたは別の方法で強い影響を与えたRNA回収(具体的には、mRNA回収)は、ゲノムおよび/またはトランスクリプトーム保存剤が一時的粒子捕捉に使用されるこのCGTCプラットフォームにおいて、凝結収集によって軽減されるとさらに考えられる。本発明の機構を理解するために必須ではないものの、この構成において、CGTCは、以前は可能でなかった方法において、バイオエアロゾルからの損傷を生じないゲノムおよび/またはトランスクリプトーム回収を促進すると考えられる。
【0039】
従って、ゲノム保存剤へ直接の高忠実度のバイオエアロゾル凝結捕捉の特定の組成物および方法が、開示されている。しかし、既に記載されたもの以外の多くのさらなる改変が、本明細書において発明の概念から逸脱することなく可能であることは、当業者に明らかであるはずである。さらに、本開示を解釈するにあたって、全ての用語は、その状況と一致した最も広い考えられる様式で解釈されるべきである。特に、用語「含む、包含する(comprises)」および「含む、包含する(comprising)」は、非網羅的な様式で要素、構成要素、または工程に言及し、その参照した要素、構成要素、または工程が、明示的に言及されていない他の要素、構成要素、または工程とともに存在し得るか、またはこれらとともに利用され得るか、またはこれらと組み合わされ得ることを示すと解釈されるべきである。
【0040】
本発明は、これらの好ましい実施形態を参照しながら記載されてきたものの、他の実施形態は、同じ結果を達成し得る。本発明のバリエーションおよび改変は、当業者に明らかであり、添付の請求項において全てのこのような改変および均等物を網羅することが意図される。上記で引用された全ての出願、特許および刊行物の、ならびにその相当する出願の開示全体は、参考として援用される。
参考文献
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
バイオエアロゾル物質をサンプリング、回収および安定化する方法であって、前記方法は、
a)
i)凝結増加チューブ;ならびに
ii)水蒸気およびバイオエアロゾル物質を含むエアロゾル流
を提供する工程;
b)前記エアロゾル流を前記チューブに、前記水蒸気が前記バイオエアロゾル粒子上で、吸収する、吸着するおよび/または凝縮する条件下で方向付けて、微小液滴を形成する工程;ならびに
c)個々の微小液滴および/または微小液滴の集塊を、ゲノム、トランスクリプトームまたはプロテオーム保存剤を含む個々の滅菌DNA非含有容器へと収集する工程、
を包含する方法。
(項目2)
前記凝結増加チューブ捕捉は、前記エアロゾル流における過飽和の領域を含む壁が濡れたチューブを含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記凝結増加チューブは、コンディショナーチューブ壁セクションに直接接続されたサンプル入り口を含む、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記凝結増加チューブは、イニシエーターチューブ壁セクションを含む、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記凝結増加チューブは、モデレーターチューブ壁セクションを含む、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記凝結増加チューブは、テーパー状の開口部を含む、項目1に記載の方法。
(項目7)
1またはこれより多くのバイオエアロゾルを有する生体適合性液体は、前記テーパー状の開口部を経て方向付けられる、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記容器は、任意の容積のマイクロタイタープレートまたは培養プレートを含み、任意の粘性の任意のゲノム、トランスクリプトームまたはプロテオーム生物学的保存剤を含有する、ウェル、マイクロウェルまたは微小導管を含む、項目1に記載の方法。
(項目9)
前記容器は、任意の粘性のゲノム、トランスクリプトームまたはプロテオーム生物学的保存剤を含む、分析チューブまたは分析チューブのアレイを含む、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記バイオエアロゾル物質の核酸配列決定をさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目11)
前記バイオエアロゾル物質からの核酸の増幅および前記核酸物質の定量をさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目12)
前記バイオエアロゾル物質の化学分析をさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目13)
前記テーパー状の開口部は、遺伝物質、タンパク質または脂質を保存するために使用される化学物質で飽和されたか、吸収したか、または別の方法で保持する、末端固相収集部位もしくは嵌入表面、中実膜フィルター、中実織布フィルター上へと、収集したバイオエアロゾル物質を方向付ける、項目6に記載の方法。
(項目14)
バイオエアロゾル検出システムであって、
a)モデレーターチューブ壁セクションに直接接続されたサンプル入り口、続いて、バイオエアロゾルを生体適合性液体、またはゲノムもしくはプロテオーム保存剤へと、連続して流動するサンプル容積の1またはこれより多くのバイオエアロゾルとともに方向付けるテーパー状の開口部を含む、凝結増加チューブ;
b)前記テーパー状の開口部の下に配置された少なくとも1つの滅菌DNA非含有容器;ならびに
c)前記チューブへと前記連続して流動するサンプル容積の前記1またはこれより多くのバイオエアロゾルのサイズ増幅を可能にする増幅器、
を含むシステム。
(項目15)
前記コンディショナーチューブ壁セクションは、液体の水または上記液化した蒸気の凍結より数度上回るチューブ壁の冷たい領域を含む、項目14に記載のシステム。
(項目16)
前記チューブは、イニシエーターチューブ壁セクションをさらに含む、項目14に記載のシステム。
(項目17)
前記チューブは、モデレーターチューブ壁セクションをさらに含む、項目14に記載のシステム。
(項目18)
前記イニシエーターチューブ壁セクションは、およそ35℃であるチューブ壁の温かい領域を含む、項目16に記載のシステム。
(項目19)
前記モデレーターチューブ壁セクションは、およそ12℃であるが、望ましい相対湿度、試薬蒸気の露点、およびゲノムもしくはプロテオーム保存剤として使用される液体の粘性に応じて調節されるチューブ壁の冷たい領域を含む、項目17に記載のシステム。