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特許7255828新規複素環式化合物及びその塩、並びに、発光基質組成物
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  • 特許-新規複素環式化合物及びその塩、並びに、発光基質組成物 図1
  • 特許-新規複素環式化合物及びその塩、並びに、発光基質組成物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】新規複素環式化合物及びその塩、並びに、発光基質組成物
(51)【国際特許分類】
   C07D 277/42 20060101AFI20230404BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
C07D277/42 CSP
C09K11/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022534056
(86)(22)【出願日】2021-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2021024620
(87)【国際公開番号】W WO2022004744
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2020112102
(32)【優先日】2020-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(73)【特許権者】
【識別番号】592068200
【氏名又は名称】学校法人東京薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】牧 昌次郎
(72)【発明者】
【氏名】北田 昇雄
(72)【発明者】
【氏名】森屋 亮平
(72)【発明者】
【氏名】青山 洋史
(72)【発明者】
【氏名】伊集院 良祐
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-193584(JP,A)
【文献】特開2014-082947(JP,A)
【文献】SAITO, Ryohei,Synthesis and luminescence properties of Near-Infrared N-heterocyclic Luciferin analogues for in viv,Bull.Chem.Soc.Jpn.,2019年,92,608-618
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D、C09K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】
[式中、R、R及びRは、それぞれ独立して水素又は炭素数1~4のアルキル基であり、但し、RとRとは、互いに結合して環を形成してもよく、また、R及びRの一方は、Yと結合して環を形成してもよく、
Xは、Sであり、Y及びYは、それぞれ独立してN又はCRであり、但し、Y 及びY の一方は、Nであり、ここで、Rは、それぞれ独立して水素、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基又は炭素数2~4のアシル基であり、
nは、0~4の整数である]で表されることを特徴とする、複素環式化合物。
【請求項2】
下記構造式(1-1)又は(1-2):
【化2】
で表される、請求項に記載の複素環式化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の複素環式化合物の塩。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の複素環式化合物又は請求項に記載の塩を含むことを特徴とする、発光基質組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規複素環式化合物及びその塩、並びに、発光基質組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体内深部の可視化は、生命科学分野において、大きな課題となっており、生体内深部の可視化に、生物発光系を利用する研究が行われている。かかる生物発光系の中でも、ホタルの発光系は、発光効率に優れた系として知られている。該ホタルの発光系においては、発光基質であるホタルルシフェリン(LH2)が、発光酵素のホタルルシフェラーゼ(Luc)と、アデノシン三リン酸(ATP)及びマグネシウムイオン(Mg2+)の存在下、励起状態のオキシルシフェリンに変換され、該オキシルシフェリンが基底状態へと失活する際に波長が約560nmの黄緑色の光が発せられる。
【0003】
また、昨今、かかるホタルの発光系の発光基質の類似体として、多彩な発光波長を実現する化合物が合成されている。例えば、下記特許文献1~3には、ホタルルシフェリンと類似の分子構造を有する発光基質が開示されている。これらのホタルルシフェリン類似体の中でも、長波長の光を発する発光基質は、長波長光は生体内での透過率が高いため、生体内深部の病巣を可視化するための標識材料として有望である。例えば、下記特許文献1には、下記構造式(a)で表される化合物が、また、下記特許文献2には、下記構造式(b)で表される化合物が、また、下記特許文献3には、下記構造式(c)で表される化合物が、いずれも極大波長670nm程度の発光スペクトルを示すことが開示されており、これらの材料により、これまで光イメージングができなかった生体内深部の微小細胞の可視化が可能となっている。
【化1】
【0004】
また、下記非特許文献1には、上記構造式(a)又は(c)で表される化合物に特化した発光酵素として、ホタルの天然発光酵素であるホタルルシフェラーゼ(Luc)から遺伝子組み換えにより創製した発光酵素(AkaLuc)が開示されている。該特化酵素を使用することで、高輝度化が可能になり、マウスの肺にある1つの癌細胞や生きたままのマウスの脳の可視化や、霊長類のマーモセットの脳深部線条体の可視化が可能になる。このように、X線やMRIよりも桁違いに空間分解能が高く、精密に1細胞から可視化標識できる光イメージングは、生命科学の基盤ツールとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-184932号公報
【文献】特開2014-218456号公報
【文献】特開2015-193584号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Science,359,935-939(2018).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近赤外発光標識できる材料として、実用化されているものは、上記構造式(a)、(b)又は(c)で表される化合物等の少数の化合物に限られ、また、上記構造式(a)、(b)又は(c)で表される化合物は、上述の特化酵素と組み合わせないと、発光強度が一般に低く、高輝度の光を発することができない。
【0008】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決し、高輝度の光を発することが可能で、ホタル生物発光系における発光基質として利用可能な新規化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定構造の化合物又はその塩が、ホタル生物発光系における発光基質として機能する上、高輝度の光を発することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明によれば、下記一般式(1):
【化2】
[式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して水素又は炭素数1~4のアルキル基であり、但し、R1とR2とは、互いに結合して環を形成してもよく、また、R1及びR2の一方は、Y1と結合して環を形成してもよく、
Xは、S、O、NR4又はCH2であり、Y1及びY2は、それぞれ独立してN又はCR4であり、ここで、R4は、それぞれ独立して水素、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基又は炭素数2~4のアシル基であり、
nは、0~4の整数である]で表されることを特徴とする、複素環式化合物が提供される。
かかる本発明の複素環式化合物は、ホタル生物発光系における発光基質として機能する上、高輝度の光を発することができる。
【0011】
本発明の複素環式化合物の好適例においては、前記Y1及びY2の一方又は両方が、Nである。この場合、発光効率が向上する。
【0012】
本発明の複素環式化合物の他の好適例においては、前記Xが、Sである。この場合も、発光効率が向上する。
【0013】
本発明の複素環式化合物の中でも、下記構造式(1-1)又は(1-2):
【化3】
で表される化合物が特に好ましい。上記構造式(1-1)又は(1-2)で表される化合物は、より高輝度の光を発することができ、また、長波長の光を発することが可能であるため、生体内深部の可視化に有用である。
【0014】
また、本発明によれば、前記複素環式化合物の塩が提供され、該塩も、ホタル生物発光系における発光基質として機能する上、高輝度の光を発することができる。
【0015】
更に、本発明によれば、前記複素環式化合物又はその塩を含む発光基質組成物が提供され、該発光基質組成物は、発光酵素と共にホタル生物発光系を構成でき、また、高輝度の光を発することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高輝度の光を発することが可能で、ホタル生物発光系における発光基質として利用可能な複素環式化合物及びその塩を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】発光基質として、構造式(1-1)で表される化合物、構造式(1-2)で表される化合物、構造式(b)で表される化合物、又は天然のホタルルシフェリンを用いた発光系において、発光強度の最大値が1となるように正規化した発光スペクトルである。
図2】発光基質として、構造式(1-1)で表される化合物、構造式(1-2)で表される化合物、構造式(b)で表される化合物、又は天然のホタルルシフェリンを用いた発光系において、各波長における発光強度を示す発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の複素環式化合物及びその塩、並びに、発光基質組成物を、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0019】
<複素環式化合物及びその塩>
本発明の複素環式化合物は、下記一般式(1):
【化4】
で表されることを特徴とする。
本発明の複素環式化合物は、ジヒドロチアゾール環に加えて、5員の複素環をもう一つ有し、分子構造がホタルルシフェリンと類似しているため、ホタル生物発光系における発光基質として機能する。また、本発明の複素環式化合物は、上述した、構造式(a)、(b)又は(c)で表される化合物よりも、発光酵素のホタルルシフェラーゼ(Luc)に結合し易く、発光効率が高いため、高輝度の光を発することができる。
上記一般式(1)で表される複素環式化合物は、塩とすることもでき、該塩も、ホタル生物発光系における発光基質として機能する上、高輝度の光を発することができる。
【0020】
上記一般式(1)中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して水素又は炭素数1~4のアルキル基であり、但し、R1とR2とは、互いに結合して環を形成してもよく、また、R1及びR2の一方は、Y1と結合して環を形成してもよい。
ここで、炭素数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。発光効率の観点から、R1及びR2としては、メチル基が好ましい。また、同じく発光効率の観点から、R3としては、水素が好ましい。
また、R1とR2とが結合して、Nと共に形成する環は、三員環から七員環であることが好ましい。R1とR2とが結合して、Nと共に形成する基としては、下記式:
【化5】
で表される1-アザシクロプロピル基(三員環)、1-アザシクロブチル基(四員環)、1-アザシクロペンチル基(五員環)、1-アザシクロヘキシル基(六員環)、1-アザシクロヘプチル基(七員環)等が好ましい。
また、R1及びR2の一方がY1と結合して形成する環は、好ましくは五員環又は六員環であり、この場合、Y1はCR4であり、R1及びR2の一方と、R4とが結合して環構造が形成される。
【0021】
上記一般式(1)中、Xは、S、O、NR4又はCH2であり、Y1及びY2は、それぞれ独立してN又はCR4である。
なお、発光効率の観点から、Y1及びY2の一方又は両方は、Nであることが好ましい。また、同じく発光効率の観点から、Xとしては、Sが好ましい。
【0022】
上記一般式(1)中、X、Y1及びY2に関して、R4は、それぞれ独立して水素、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基又は炭素数2~4のアシル基である。なお、Y1及びY2の一方又は両方がCR4である場合、R4は水素であることが好ましい。
ここで、炭素数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
また、炭素数2~4のアルケニル基としては、ビニル基(CH2=CH-)、アリル基(CH2=CHCH2-)、1-プロペニル基(CH3CH=CH-)、イソプロペニル基(CH2=C(CH3)-)、1-ブテニル基(CH3CH2CH=CH-)、2-ブテニル基(CH3CH=CHCH2-)、3-ブテニル基(CH2=CHCH2CH2-)等が挙げられる。
また、炭素数2~4のアシル基としては、アセチル基(CH3-CO-)、プロピオニル基(CH3CH2-CO-)、ブチリル基(CH3CH2CH2-CO-)、イソブチリル基((CH32CH-CO-)、アクリロイル基(CH2=CH-CO-)、メタクリロイル基(CH2=C(CH3)-CO-)等が挙げられる。
【0023】
上記一般式(1)中、nはビニレン単位(-CH=CH-)の繰り返し数を示し、0~4の整数である。ここで、nの数が大きい程、発光波長が長くなる。
生体イメージングに最適な波長(即ち、生体透過性に適した波長)は、ヘモグロビン、酸化ヘモグロビン、水の散乱、吸収の影響を受けにくい、600~900nmであるので、生体内深部の可視化の観点から、nは2、3又は4であることが好ましく、また、合成容易性の観点から、nは2又は3であることが好ましい。
【0024】
上記一般式(1)で表される複素環式化合物としては、下記構造式(1-1)又は(1-2):
【化6】
で表される化合物が好ましく、構造式(1-2)で表される化合物が特に好ましい。上記構造式(1-1)又は(1-2)で表される複素環式化合物及びその塩は、ホタル生物発光系における発光基質として機能する上、より一層高輝度の光を発することができ、また、長波長の光を発することが可能であるため、生体内深部の可視化に特に有用である。また、構造式(1-2)で表される化合物及びその塩は、長波長の光を発することが可能であるため、生体内深部の可視化に極めて有用である。
【0025】
上記一般式(1)で表される複素環式化合物は、特に限定されるものではないが、以下のようにして合成することができる。
例えば、出発物質として、チアゾール-2-アミン、チアゾール-5-アミン、トリアゾール-2-アミン等のアミノ基を有する複素環式化合物を使用し、所望により、ヨードメタンと反応させて、ジメチルアミノ体を得たり、或いは、出発物質として、5-ブロモチアゾール等のハロゲン(ブロモ基等)を有する複素環式化合物を使用し、所望により、ジメチルアミンと反応させて、ジメチルアミノ体を得、次いで、ノルマルブチルリチウム等のアルキルリチウムと反応させた後、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等と反応させて、アルデヒド体を得る。次に、該アルデヒド体に対して、4-ホスホノクロトン酸トリエチル等を反応させて、所望により、オレフィン数を増やしつつ、エステル体を得る。次に、該エステル体を加水分解して、カルボキシル体を得る。次に、該カルボキシル体を、S-トリチル-D-システインメチルエステル(D-Cys(OMe)-STrt)と、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボイミド塩酸塩(EDC)と、N,N-ジメチルアミノピリジン(DMAP)によりアミド化させて、アミド体を得る。次に、該アミド体を、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(Tf2O)により、チアゾリン環化させてチアゾリンメチルエステル体を得る。次いで、所望により、チアゾリンメチルエステル体のメチルエステル部分を加水分解して、チアゾリン環を有するカルボキシル体を得る。また、出発物質を適宜変更したり、種々の置換基を導入したりする等して、或いは、他の合成経路を利用して、所望の複素環式化合物を得ることができる。
【0026】
上記一般式(1)で表される複素環式化合物は、塩とすることもでき、即ち、本発明の複素環式化合物の塩は、上記一般式(1)で表される複素環式化合物の塩である。かかる本発明の複素環式化合物の塩も、ホタル生物発光系における発光基質として機能する上、高輝度の光を発することができる。
ここで、本発明の複素環式化合物の塩は、酸との付加塩でも、塩基との付加塩でもよい。例えば、本発明の複素環式化合物と酸との付加塩における酸としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸、亜リン酸、亜硝酸、クエン酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、安息香酸、マンデル酸、ケイ皮酸、パモ酸、ステアリン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸、コハク酸、トリフルオロ酢酸等が挙げられ、また、酸付加塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、スルファミン酸塩、リン酸塩、硝酸塩、亜リン酸塩、亜硝酸塩、クエン酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、安息香酸塩、マンデル酸塩、ケイ皮酸塩、パモ酸塩、ステアリン酸塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンジスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、サリチル酸塩、コハク酸塩、トリフルオロ酢酸塩等が挙げられる。一方、本発明の複素環式化合物と塩基との付加塩における塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられ、また、塩基付加塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等が挙げられる。
【0027】
上記一般式(1)で表される複素環式化合物の塩は、水やpHが中性付近の緩衝液への溶解性に優れる。そのため、上記一般式(1)で表される複素環式化合物の塩は、水やpHが中性付近の緩衝液に高濃度で溶解させることができ、発光輝度を更に向上させることができる。
【0028】
<発光基質組成物>
本発明の発光基質組成物は、上述した一般式(1)で表される複素環式化合物又はその塩を含み、上述した一般式(1)で表される複素環式化合物又はその塩のみからなってもよい。本発明の発光基質組成物は、天然のホタルルシフェラーゼ(Luc)やその変異酵素等の発光酵素と共にホタル生物発光系を構成でき、また、高輝度の光を発することができる。
【0029】
上述した本発明の複素環式化合物及びその塩は、発光甲虫ルシフェラーゼ、アデノシン三リン酸(ATP)及びマグネシウムイオン(Mg2+)の存在する系に添加することによって、発光甲虫ルシフェラーゼにより酸化して発光する。なお、本発明の複素環式化合物及びその塩は、ATP及びMg2+と共に発光検出キット(発光基質組成物)として提供することもでき、また、該発光検出キットには、他の発光基質や適切なpHに調整した溶液を含めてもよい。
【0030】
本発明の複素環式化合物及びその塩を発光系に応用する場合、好適な発光強度を得るためには、本発明の複素環式化合物及びその塩を1μM以上の濃度で使用することが好ましく、5μM以上の濃度で使用することが更に好ましい。即ち、本発明の発光基質組成物は、上述した一般式(1)で表される複素環式化合物又はその塩を1μM以上の濃度で含むことが好ましく、5μM以上の濃度で含むことが更に好ましい。また、本発明の発光基質組成物のpH、並びに、発光系のpHは、好ましくは4~10、より好ましくは6~8であり、必要に応じて、pHを安定化するために、リン酸カリウム、トリス塩酸、グリシン、HEPES等の緩衝剤を含んでもよい。また、発光基質組成物(発光検出キット)が、ATPを含む場合、該ATPの濃度は、4μM以上が好ましく、20μM以上が更に好ましい。
【0031】
また、本発明の複素環式化合物及びその塩は、ホタル発光甲虫ルシフェラーゼ発光系において、種々の発光酵素(酸化酵素)によって発光させることができる。ルシフェラーゼは、北アメリカ産ホタル(Photinus pyralis)、鉄道虫(Railroad worm)等から単離されており、いずれも使用できる。また、使用可能な酸化酵素としては、ヒカリコメツキムシルシフェラーゼ、イリオモテボタルルシフェラーゼ、フラビン含有モノオキシゲナーゼ等も挙げられる。また、天然のホタルルシフェラーゼの変異酵素を、発光酵素として使用することもできる。
【0032】
本発明の複素環式化合物及びその塩を発光基質とする生物発光は、発光系にコエンザイムA(CoA)、ピロリン酸又はマグネシウムイオン(Mg2+)が存在すると、その発光が増強される。これらの化合物の発光増強効果は、発光系におけるCoA、ピロリン酸又はMg2+の濃度がそれぞれ5μM以上において顕著であり、濃度の増加に従って発光が増強される。
【0033】
ホタル生物発光系を測定/検出に使用するためには、酵素の失活を防止してプラトーな発光挙動を示すように、発光を安定化させることが好ましく、例えば、発光系にマグネシウムイオンを存在させることが好ましく、マグネシウムイオンとピロリン酸を共存させることが更に好ましい。なお、マグネシウムイオン単独の場合、発光安定化の観点から、発光系のマグネシウムイオン濃度は、0.5mM以上が好ましく、濃度の増加に従って発光の安定性が向上する。また、ピロリン酸マグネシウムを使用する場合、発光安定化の観点から、発光系のピロリン酸マグネシウム濃度は、10μM以上が好ましく、100μM以上が更に好ましい。なお、ピロリン酸とマグネシウムイオンとの割合は、当量比でなくてもよい。また、好適なマグネシウム塩としては、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等の無機酸塩、酢酸マグネシウム等の有機酸塩が挙げられる。また、好適なピロリン酸塩として、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属のピロリン酸塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属のピロリン酸塩、鉄のピロリン酸塩が挙げられる。
【0034】
本発明の複素環式化合物及びその塩は、生物学的測定/検出における発光標識として利用でき、例えば、アミノ酸、ポリペプチド、タンパク質、核酸等を標識するために使用できる。なお、本発明の複素環式化合物又はその塩をこれらの物質に結合させる方法は、当業者に周知であり、例えば、当業者に周知の方法を使用して、目的の物質のカルボキシル基やアミノ基に対して本発明の複素環式化合物又はその塩を結合させることができる。
【0035】
また、本発明の複素環式化合物及びその塩は、発光基質の発光によって発光甲虫ルシフェラーゼ活性を検出することを利用した測定/検出に利用することができる。例えば、ルシフェラーゼ遺伝子を導入した細胞又は動物に対して本発明の複素環式化合物又はその塩を投与することにより、インビボにおける標的遺伝子又はタンパク質の発現などを測定/検出することができる。なお、波長の長い光は、光透過性が高く、組織透過性も高い。従って、本発明の複素環式化合物及びその塩の中でも、長波長の発光を有する複素環式化合物及びその塩は、生体内深部を可視化するための標識材料として有用である。
【実施例
【0036】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0037】
<構造式(1-1)で表される化合物の合成>
<<N,N-ジメチルチアゾール-2-アミン(3)の合成>>
チアゾール-2-アミン(2)(1.00 g, 10.0 mmol)をTHF(30 mL)に溶解し、ヨードメタン(2.0 mL, 32 mmol)を加え撹拌した。この混合溶液を0℃に冷却し、NaH(オイル中60%, 1.61 g, 40.2 mmol)を少量ずつ加えて、50分間撹拌した。氷浴中にて、メタノールを加えて反応を終了させ、クロロホルム(100 mL × 3)で抽出、飽和食塩水で洗浄した後、減圧濃縮した。その後、得られた残渣をシリカカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル = 1/1)にて精製し、N,N-ジメチルチアゾール-2-アミン(3)(853 mg, 6.66 mmol, 67%)を茶色油状で得た。
【化7】
【0038】
・N,N-ジメチルチアゾール-2-アミン(3)の同定結果
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.19 (d, J = 3.7 Hz, 1H), 6.50 (d, J = 3.7 Hz, 1H), 3.11 (s, 6H).
13C NMR (101 MHz, CDCl3) δ 171.9, 139.8, 106.6, 40.3.
HR-MS: m/z: [M + H]+ C5H9N2Sの計算値 129.0486 ; 実測値 129.0491.
【0039】
<<2-(ジメチルアミノ)チアゾール-5-カルバルデヒド(4)の合成>>
N,N-ジメチルチアゾール-2-アミン(3)(763 mg, 5.95 mmol)を無水THF(15 mL)に溶解し、-80℃に冷却し、Ar雰囲気下で撹拌した。この混合溶液にn-BuLiのヘキサン溶液(1.6 M, 5.6 mL, 9.0 mmol)を少量ずつ滴下し、60分撹拌した。その後、無水DMF(1.5 mL)を加え、室温に昇温させてさらに90分撹拌した。原料消失を確認した後、氷浴中にて水を加えて反応を終了させ、クロロホルム(50 mL × 3)で抽出、飽和食塩水で洗浄した後、減圧濃縮した。その後、得られた残渣をシリカカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル = 1/1)にて精製し、2-(ジメチルアミノ)チアゾール-5-カルバルデヒド(4)(931 mg, 5.96 mmol)を黄色固体で定量的に得た。
【化8】
【0040】
・2-(ジメチルアミノ)チアゾール-5-カルバルデヒド(4)の同定結果
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 9.68 (s, 1H), 7.88 (s, 1H), 3.23 (s, 6H).
13C NMR (101 MHz, CDCl3) δ 180.7, 176.1, 153.9, 129.0, 40.6.
HR-MS: m/z: [M + Na]+ C6H8N2ONaの計算値 179.0255 ; 実測値 179.0261.
【0041】
<<エチル(2E,4E)-5-(2-(ジメチルアミノ)チアゾール-5-イル)ペンタ-2,4-ジエノエート(5)の合成>>
2-(ジメチルアミノ)チアゾール-5-カルバルデヒド(4)(452 mg, 2.89 mmol)をTHF(10 mL)に溶解し、4-ホスホノクロトン酸トリエチル(730 μL, 3.29 mmol)を加えて0℃で撹拌した。この混合溶液にNaH(オイル中60%, 237 mg, 5.91 mmol)を少量ずつ加えて、3時間撹拌した。氷浴中にて、エタノールを加えて反応を終了させ、酢酸エチル(80 mL × 3)で抽出、飽和食塩水で洗浄した後、減圧濃縮した。その後、得られた残渣をシリカカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル = 1/1)にて精製し、エチル(2E,4E)-5-(2-(ジメチルアミノ)チアゾール-5-イル)ペンタ-2,4-ジエノエート(5)(405 mg, 1.61 mmol, 55%)を黄色結晶で得た。
【化9】
【0042】
・エチル(2E,4E)-5-(2-(ジメチルアミノ)チアゾール-5-イル)ペンタ-2,4-ジエノエート(5)の同定結果
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.35 (dd, J = 15.2, 11.2 Hz, 1H), 7.22 (s, 1H), 6.88 (d, J = 15.2 Hz, 1H), 6.23 (dd, J = 15.2, 11.2 Hz, 1H), 5.82 (d, J = 15.2 Hz, 1H), 4.21 (q, J = 7.2 Hz, 2H), 3.15 (s, 6H), 1.30 (t, J = 7.2 Hz, 3H).
13C NMR (101 MHz, CDCl3) δ 171.2, 167.5, 144.9, 143.5, 131.3, 125.7, 123.2, 118.7, 60.3, 40.4, 14.5.
HR-MS: m/z: [M + H]+ C12H17N2O2Sの計算値 253.1011 ; 実測値 253.1012.
【0043】
<<(2E,4E)-5-(2-(ジメチルアミノ)チアゾール-5-イル)ペンタ-2,4-ジエン酸(6)の合成>>
エチル(2E,4E)-5-(2-(ジメチルアミノ)チアゾール-5-イル)ペンタ-2,4-ジエノエート(5)(323 mg, 1.28 mmol)をi-PrOH(10 mL)に溶解し、NaOH水溶液(1 M, 1 mL)を加えて加熱還流下で撹拌した。原料消失を確認した後、混合溶液を室温に下げた。さらに氷浴中で撹拌しながら、HCl水溶液で中和し、減圧濃縮した。その後、得られた残渣をシリカカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール = 5/1)にて精製し、(2E,4E)-5-(2-(ジメチルアミノ)チアゾール-5-イル)ペンタ-2,4-ジエン酸(6)(282 mg, 1.26 mmol, 98%)を黄色結晶で得た。
【化10】
【0044】
・(2E,4E)-5-(2-(ジメチルアミノ)チアゾール-5-イル)ペンタ-2,4-ジエン酸(6)の同定結果
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 7.32 (s, 1H), 7.23 (dd, J = 15.2, 11.2 Hz, 1H), 7.09 (d, J = 15.2 Hz, 1H), 6.30 (dd, J = 15.2, 11.2 Hz, 1H), 5.83 (d, J = 15.2 Hz, 1H), 3.09 (s, 6H).
13C NMR (101 MHz, DMSO-d6) δ 170.4, 167.9, 144.5, 144.0, 131.2, 124.9, 122.7, 119.4, 39.8.
HR-MS: m/z: [M + H]+ C10H13N2O2Sの計算値 225.0698 ; 実測値 225.0702.
【0045】
<<N-((2E,4E)-5-(2-(ジメチルアミノ)チアゾール-5-イル)ペンタ-2,4-ジエノイル)-S-トリチル-D-システイン酸メチル(7)の合成>>
(2E,4E)-5-(2-(ジメチルアミノ)チアゾール-5-イル)ペンタ-2,4-ジエン酸(6)(113 mg, 504 μmol)をDMF(8 mL)に溶解し、EDC(194.3 mg, 1.01 mmol)、DMAP(77.3 mg, 633 μmol)、D-Cys(OMe)-STrt HCl(258.1 mg, 623 μmol)を加えてAr雰囲気下にて室温で撹拌した。原料消失を確認した後、氷浴中で撹拌しながら水を加えた後、酢酸エチル(50 mL × 3)で抽出し、減圧濃縮した。その後、得られた残渣をシリカカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル = 1/2)にて精製し、N-((2E,4E)-5-(2-(ジメチルアミノ)チアゾール-5-イル)ペンタ-2,4-ジエノイル)-S-トリチル-D-システイン酸メチル(7)(273 mg, 468 μmol, 93%)を黄色結晶で得た。
【化11】
【0046】
・N-((2E,4E)-5-(2-(ジメチルアミノ)チアゾール-5-イル)ペンタ-2,4-ジエノイル)-S-トリチル-D-システイン酸メチル(7)の同定結果
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.39-7.36 (m, 6H),7.30-7.20 (m, 10H) 6.86 (d, J = 14.9 Hz, 1H), 6.22 (dd, J = 14.9, 11.2 Hz, 1H), 5.95-5.91 (m, 1H), 5.77 (d, J = 14.9 Hz, 1H), 4.75-4.71 (m, 1H), 3.72 (s, 3H), 3.15 (s, 6H), 2.73-2.65 (m, 2H).
13C NMR (101 MHz, CDCl3) δ 171.1, 171.0, 165.7, 144.3, 143.0, 142.0, 130.6, 129.5, 128.0, 126.9, 125.7, 123.1, 120.5, 66.9, 52.7, 51.1, 40.2, 34.1.
HR-MS: m/z: [M + H]+ C33H34N3O3S2の計算値 584.2042 ; 実測値 584.2044.
【0047】
<<(S)-2-((1E,3E)-4-(2-(ジメチルアミノ)チアゾール-5-イル)ブタ-1,3-ジエン-1-イル)-4,5-ジヒドロチアゾール-4-カルボン酸メチル(8)の合成>>
Ar雰囲気下、氷浴中でTf2O(60 μL, 366 μmol)をCH2Cl2(0.5 mL)に加えて撹拌した。ここに、CH2Cl2(2.5 mL)に溶解したN-((2E,4E)-5-(2-(ジメチルアミノ)チアゾール-5-イル)ペンタ-2,4-ジエノイル)-S-トリチル-D-システイン酸メチル(7)(101 mg, 173 μmol)をゆっくり滴下し、45分撹拌した。原料消失を確認した後、氷浴中で撹拌しながら飽和重曹水を加え中和し、クロロホルム(50 mL × 3)で抽出し減圧濃縮した。その後、得られた残渣をシリカカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル = 1/3)にて精製し、(S)-2-((1E,3E)-4-(2-(ジメチルアミノ)チアゾール-5-イル)ブタ-1,3-ジエン-1-イル)-4,5-ジヒドロチアゾール-4-カルボン酸メチル(8)(47.5 mg, 147 μmol, 85%)を茶黄色固体で得た。
【化12】
【0048】
・(S)-2-((1E,3E)-4-(2-(ジメチルアミノ)チアゾール-5-イル)ブタ-1,3-ジエン-1-イル)-4,5-ジヒドロチアゾール-4-カルボン酸メチル(8)の同定結果
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.20 (s, 1H), 6.88-6.80 (m, 2H), 6.48 (d, J = 15.4 Hz, 1H), 6.24 (dd, J = 14.8, 10.9 Hz, 1H), 5.16 (t, J = 9.0 Hz, 1H), 3.83 (s, 3H), 3.61-3.50 (m, 2H), 3.15 (s, 6H).
13C NMR (101 MHz, CDCl3) δ 171.5, 171.1, 170.1, 143.1, 142.8, 129.7, 125.8, 123.9, 123.0, 77.9, 52.9, 40.3, 34.7.
HR-MS: m/z: [M + H]+ C14H18N3O2S2の計算値 324.0840 ; 実測値 324.0838.
【0049】
<<(S)-2-((1E,3E)-4-(2-(ジメチルアミノ)チアゾール-5-イル)ブタ-1,3-ジエン-1-イル)-4,5-ジヒドロチアゾール-4-カルボン酸(1-1)の合成>>
(S)-2-((1E,3E)-4-(2-(ジメチルアミノ)チアゾール-5-イル)ブタ-1,3-ジエン-1-イル)-4,5-ジヒドロチアゾール-4-カルボン酸メチル(8)(23.6 mg, 73 μmol)を超純水(1 mL)に懸濁させ、6 M HCl(1 mL)を加え、その溶液を18時間室温で撹拌した。反応混合物に重曹を加え中和した後、減圧濃縮した。得られた残渣を自動分取中圧カラムクロマトグラフィー(Smart Flash EPCLC AI-580S, ULTRAPACK COLUMNS C18, H2O/メタノール = 9/1 → 1/9)で精製し、(S)-2-((1E,3E)-4-(2-(ジメチルアミノ)チアゾール-5-イル)ブタ-1,3-ジエン-1-イル)-4,5-ジヒドロチアゾール-4-カルボン酸(1-1)(29.5 mg, 95 μmol)を定量的に得た。
【化13】
【0050】
・(S)-2-((1E,3E)-4-(2-(ジメチルアミノ)チアゾール-5-イル)ブタ-1,3-ジエン-1-イル)-4,5-ジヒドロチアゾール-4-カルボン酸(1-1)の同定結果
1H NMR (500 MHz, CD3OD) δ 7.19 (s, 1H), 6.93-6.85 (m, 2H), 6.47 (d, J = 14.9 Hz, 1H), 6.34 (dd, J = 15.2, 10.6 Hz, 1H), 4.98-4.92 (m, 1H), 3.55-3.45 (m, 2H), 3.13 (s, 6H).
HR-MS: m/z: [M + H]+ C13H16N3O2S2の計算値 310.0684 ; 実測値 310.0682.
【0051】
<構造式(1-2)で表される化合物の合成>
<<N,N-ジメチルチアゾール-5-アミン(10)の合成>>
5-ブロモチアゾール(9)(1.72 g, 10.5 mmol)を1,2-ジメトキシエタン(DME)(30 mL)とDMF(20 mL)に溶解し、NHMe2(水中50%, 3.5 mL, 32 mmol)を加え撹拌した。ここに、tBuONa(2.03 g, 21.1 mmol)、Rh(cod)2BF4(87.5 mg, 215 μmol)、1,3-ジイソプロピルイミダゾリウムクロリド(81.5 mg, 432 μmol)を加え、Ar雰囲気下、80℃で16時間撹拌した。原料消失を確認した後、室温に下げ、シリカを用いて吸引濾過した。この濾液を水、食塩水で洗浄し、その有機層を濃縮し、N,N-ジメチルチアゾール-5-アミン(10)(1.08 g, 8.40 mmol, 80%)を茶色油状で得た。
【化14】
【0052】
・N,N-ジメチルチアゾール-5-アミン(10)の同定結果
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.08 (s, 1H), 6.85 (s, 1H), 2.92 (s, 6H).
13C NMR (101 MHz, CDCl3) δ 155.3, 139.0, 120.4, 43.8 × 2.
HR-MS: m/z: [M + H]+ C5H9N2Sの計算値 129.0486 ; 実測値 129.0486.
【0053】
<<5-(ジメチルアミノ)チアゾール-2-カルバルデヒド(11)の合成>>
N,N-ジメチルチアゾール-5-アミン(10)(1.80 g, 14.0 mmol)を無水THF(60 mL)に溶解し、-80℃に冷却し、Ar雰囲気下で撹拌した。この混合溶液にn-BuLiのヘキサン溶液(1.6 M, 14.0 mL, 22.4 mmol)を少量ずつ滴下した後、90分撹拌した。その後、無水DMF(4 mL)を加え、室温に昇温させてさらに2時間撹拌した。原料消失を確認した後、氷浴中にて水を加えて反応を終了させ、酢酸エチル(150 mL × 3)で抽出、飽和食塩水で洗浄した後、減圧濃縮した。その後、得られた残渣をシリカカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル = 1/1)にて精製し、5-(ジメチルアミノ)チアゾール-2-カルバルデヒド(11)(875 mg, 5.60 mmol, 40%)を黄色固体で得た。
【化15】
【0054】
・5-(ジメチルアミノ)チアゾール-2-カルバルデヒド(11)の同定結果
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 9.67 (s, 1H), 7.06 (s, 1H), 3.13 (s, 6H).
13C NMR (101 MHz, CDCl3) δ 182.1, 162.7, 148.6, 122.9, 42.9 × 2.
HR-MS: m/z: [M + Na]+ C6H8N2ONaSの計算値 179.0255 ; 実測値 179.0251.
【0055】
<<エチル(2E,4E)-5-(5-(ジメチルアミノ)チアゾール-2-イル)ペンタ-2,4-ジエノエート(12)の合成>>
5-(ジメチルアミノ)チアゾール-2-カルバルデヒド(11)(875 mg, 5.60 mmol)をTHF(50 mL)に溶解し、4-ホスホノクロトン酸トリエチル(90%)(1.67 mL, 6.72 mmol)を加えて氷浴中で撹拌した。この混合溶液にNaH(オイル中60%, 293 mg, 7.34 mmol)を少量ずつ加えて、15分撹拌した。氷浴中にて、エタノールを加えて反応を終了させ、酢酸エチル(150 mL × 3)で抽出、飽和食塩水で洗浄した後、減圧濃縮した。その後、得られた残渣をシリカカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル = 1/1)にて精製し、エチル(2E,4E)-5-(5-(ジメチルアミノ)チアゾール-2-イル)ペンタ-2,4-ジエノエート(12)(1.02 g, 4.03 mmol, 72%)を黄色結晶で得た。
【化16】
【0056】
・エチル(2E,4E)-5-(5-(ジメチルアミノ)チアゾール-2-イル)ペンタ-2,4-ジエノエート(12)の同定結果
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.38 (dd, J = 15.2, 11.3 Hz, 1H), 6.91 (d, J = 15.4 Hz, 1H), 6.76 (s, 1H), 6.70 (dd, J = 15.4, 11.3 Hz, 1H), 5.95 (d, J = 15.2 Hz, 1H), 4.22 (q, J = 7.1 Hz, 2H), 3.00 (s, 6H), 1.31 (t, J = 7.1 Hz, 3H).
13C NMR (101 MHz, CDCl3) δ 167.1, 156.7, 149.9, 143.8, 133.4, 126.3, 121.4, 120.9, 60.5, 43.4 × 2, 14.5.
HR-MS: m/z: [M + H]+ C12H17N2O2Sの計算値 253.1011 ; 実測値 253.1003.
【0057】
<<(2E,4E)-5-(5-(ジメチルアミノ)チアゾール-2-イル)ペンタ-2,4-ジエン酸(13)の合成>>
エチル(2E,4E)-5-(5-(ジメチルアミノ)チアゾール-2-イル)ペンタ-2,4-ジエノエート(12)(1.00 g, 3.96 mmol)をi-PrOH(35 mL)に溶解し、NaOH水溶液(5 M, 1 mL)を加えて加熱還流下で2.5時間撹拌した。原料消失を確認した後、混合溶液を室温に下げた。さらに氷浴中で撹拌しながら、HCl水溶液で中和し、減圧濃縮した。その後、得られた残渣をシリカカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール = 5/1)にて精製し、(2E,4E)-5-(5-(ジメチルアミノ)チアゾール-2-イル)ペンタ-2,4-ジエン酸(13)(911 mg, 4.06 mmol, 103%)を黄色結晶で定量的に得た。
【化17】
【0058】
・(2E,4E)-5-(5-(ジメチルアミノ)チアゾール-2-イル)ペンタ-2,4-ジエン酸(13)の同定結果
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 7.32 (dd, J = 15.2, 11.3 Hz 1H), 7.05 (d, J = 15.4 Hz, 1H), 6.87 (s, 1H), 6.79 (dd, J = 15.4, 11.3 Hz, 1H), 5.99 (d, J = 15.2 Hz, 1H), 2.96 (s, 6H).
13C NMR (101 MHz, DMSO-d6) δ 167.5, 156.4, 148.2, 143.4, 132.8, 125.8, 121.9, 120.5, 42.7 × 2.
HR-MS: m/z: [M - H]- C10H11N2O2Sの計算値 223.0541 ; 実測値 223.0533.
【0059】
<<N-((2E,4E)-5-(5-(ジメチルアミノ)チアゾール-2-イル)ペンタ-2,4-ジエノイル)-S-トリチル-D-システイン酸メチル(14)の合成>>
(2E,4E)-5-(5-(ジメチルアミノ)チアゾール-2-イル)ペンタ-2,4-ジエン酸(13)(904 mg, 4.03 mmol)をDMF(46 mL)に溶解し、EDC(1.53 g, 7.99 mmol)、DMAP(600 mg, 4.91 mmol)、D-Cys(OMe)-STrt HCl(2.01 g, 4.85 mmol)を加えてAr雰囲気下にて室温で16時間撹拌した。原料消失を確認した後、氷浴中で撹拌しながら水を加えた後、酢酸エチル(50 mL × 3)で抽出し、減圧濃縮した。その後、得られた残渣をシリカカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル = 1/2)にて精製し、N-((2E,4E)-5-(5-(ジメチルアミノ)チアゾール-2-イル)ペンタ-2,4-ジエノイル)-S-トリチル-D-システイン酸メチル(14)(1.73 g, 2.96 mmol, 73%)を黄色結晶で得た。
【化18】
【0060】
・N-((2E,4E)-5-(5-(ジメチルアミノ)チアゾール-2-イル)ペンタ-2,4-ジエノイル)-S-トリチル-D-システイン酸メチル(14)の同定結果
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.39-7.20 (m, 16H), 6.86 (d, J = 15.1 Hz, 1H), 6.76 (s, 1H), 6.70 (dd, J = 15.4, 11.3 Hz, 1H), 5.98 (d, J = 7.9 Hz, 1H, CONH), 5.89 (d, J = 14.9 Hz, 1H), 4.75-4.70 (m, 1H), 3.72 (s, 3H), 2.99 (s, 6H), 2.75-2.66 (m, 2H).
13C NMR (101 MHz, CDCl3) δ 171.1, 165.4, 156.5, 150.2, 144.4 × 3, 141.2, 132.9, 129.6 × 6, 128.2 × 6, 127.1 × 3, 126.3, 123.2, 120.8, 67.1, 52.8, 51.3, 43.4 × 2, 34.1.
HR-MS: m/z: [M + Na]+ C33H33N3O3NaS2の計算値 606.1861 ; 実測値 606.1862.
【0061】
<<(S)-2-((1E,3E)-4-(5-(ジメチルアミノ)チアゾール-2-イル)ブタ-1,3-ジエン-1-イル)-4,5-ジヒドロチアゾール-4-カルボン酸メチル(15)の合成>>
Ar雰囲気下、氷浴中でTf2O(400 μL, 2.44 mmol)をCH2Cl2(5 mL)に加えて撹拌した。ここに、CH2Cl2(10 mL)に溶解したN-((2E,4E)-5-(5-(ジメチルアミノ)チアゾール-2-イル)ペンタ-2,4-ジエノイル)-S-トリチル-D-システイン酸メチル(14)(714 mg, 1.22 mmol)をゆっくり滴下し、35分撹拌した。原料消失を確認した後、氷浴中で撹拌しながら飽和重曹水を加え中和し、クロロホルム(100 mL × 3)で抽出し減圧濃縮した。その後、得られた残渣をシリカカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル = 1/3)にて精製し、(S)-2-((1E,3E)-4-(5-(ジメチルアミノ)チアゾール-2-イル)ブタ-1,3-ジエン-1-イル)-4,5-ジヒドロチアゾール-4-カルボン酸メチル(15)(102 mg, 316 μmol, 26%)を茶黄色固体で得た。
【化19】
【0062】
・(S)-2-((1E,3E)-4-(5-(ジメチルアミノ)チアゾール-2-イル)ブタ-1,3-ジエン-1-イル)-4,5-ジヒドロチアゾール-4-カルボン酸メチル(15)の同定結果
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 6.89 (dd, J = 15.1, 10.7 Hz, 1H), 6.84 (d, J = 14.7 Hz, 1H), 6.75 (s, 1H), 6.71 (dd, J = 15.2, 10.7 Hz, 1H), 6.60 (d, J = 15.4 Hz, 1H), 5.17 (t, J = 9.3 Hz, 1H), 3.83 (s, 3H), 3.61 (dd, J = 11.0, 9.3 Hz, 1H), 3.54 (dd, J = 11.0, 9.3 Hz, 1H), 2.99 (s, 6H).
13C NMR (101 MHz, CDCl3) δ 171.4, 170.0, 156.5, 150.2, 141.7, 131.8, 127.1, 125.5, 120.8, 78.1, 53.0, 43.4 × 2, 34.8.
HR-MS: m/z: [M + H]+ C14H18N3O2S2の計算値 324.0840 ; 実測値 324.0831.
【0063】
<<(S)-2-((1E,3E)-4-(5-(ジメチルアミノ)チアゾール-2-イル)ブタ-1,3-ジエン-1-イル)-4,5-ジヒドロチアゾール-4-カルボン酸(1-2)の合成>>
(S)-2-((1E,3E)-4-(5-(ジメチルアミノ)チアゾール-2-イル)ブタ-1,3-ジエン-1-イル)-4,5-ジヒドロチアゾール-4-カルボン酸メチル(15)(140 mg, 434 μmol)を超純水(5 mL)に懸濁させ、6 M HCl(5 mL)を加え、その溶液を16時間室温で撹拌した。反応混合物に重曹を加え中和した後、減圧濃縮した。得られた残渣を自動分取中圧カラムクロマトグラフィー(Smart Flash EPCLC AI-580S, ULTRAPACK COLUMNS C18, H2O/CH3CN = 9/1 → 1/9)で精製し、(S)-2-((1E,3E)-4-(5-(ジメチルアミノ)チアゾール-2-イル)ブタ-1,3-ジエン-1-イル)-4,5-ジヒドロチアゾール-4-カルボン酸(1-2)(115 mg, 371 μmol, 85%)を黄色個体で得た。
【化20】
【0064】
・(S)-2-((1E,3E)-4-(5-(ジメチルアミノ)チアゾール-2-イル)ブタ-1,3-ジエン-1-イル)-4,5-ジヒドロチアゾール-4-カルボン酸(1-2)の同定結果
1H NMR (400 MHz, D2O) δ 6.97 (td, J = 15.2, 5.0 Hz, 1H), 6.84-6.81 (m, 3H), 6.59 (d, J = 15.2 Hz, 1H), 5.03 (t, J = 8.6 Hz, 1H), 3.65 (dd, J = 11.3, 9.3 Hz, 1H), 3.45 (dd, J = 11.0, 7.8 Hz, 1H), 2.95 (s, 6H).
13C NMR (126 MHz, DMSO-d6) δ 171.5, 162.7, 156.0, 149.1, 139.0, 130.2, 127.4, 126.9, 120.4, 83.3, 42.9 × 2, 35.5.
HR-MS: m/z: [M + H]+ C13H16N3O2S2の計算値 310.0684 ; 実測値 310.0680.
【0065】
<発光スペクトル測定>
上記のようにして合成した構造式(1-1)で表される発光基質及び構造式(1-2)で表される発光基質と、下記構造式(b)で表される発光基質と、下記構造式(d)で表される天然のホタルルシフェリン(LH2、和光純薬工業株式会社製)を用いて、発光スペクトルの測定を行った。なお、構造式(b)で表される発光基質は、特開2014-218456号公報(特許文献2)の実施例1に従って調製した。
【化21】
【0066】
<<測定装置>>
・発光スペクトル測定
ATTO株式会社製微弱発光蛍光スペクトル装置AB-1850を用いて、発光スペクトルを測定した。測定したスペクトルは、全て検出器の特性を補正したスペクトルである(データ間隔0.25nm、測定範囲400-750nm)。
【0067】
・pH測定
堀場製作所製F-23型ガラス電極式水素イオン濃度指示計を用いて、pH測定を行なった。
【0068】
<<試薬>>
・超純水
MILLIPORE製Milli-RX12αから採水したものを使用した。
【0069】
・Ppyルシフェラーゼ(北米産ホタルPhotinus pyralis由来)溶液
Promega社製の組み換え型(QuantiLum(登録商標)、カタログ番号E1701)を用いた。
【0070】
・ATP-Mg溶液
Sigma社製(カタログ番号00386-41)を用いた。
【0071】
・リン酸カリウム緩衝液(KPB溶液)
和光純薬工業株式会社製のリン酸水素二カリウム・12水和物(特級)とリン酸二水素カリウム・2水和物(特級)を超純水に溶かし、pHを調整して用いた。
【0072】
<<測定方法>>
室温下にて、KPB溶液(pH8.0、500mM)を5μL、発光基質溶液(100μM)を5μL、1mg/mLのPpyルシフェラーゼ溶液を5μL、200μMのATP-Mg溶液を10μL、混合し、発光スペクトルの測定装置(AB-1850)で180秒間発光スペクトルを測定した。発光強度は、このときのピークトップの数値で比較した。結果を図1及び図2に示す。
図1は、発光強度の最大値が1となるように正規化した発光スペクトルであり、図2は、各波長における発光強度を示す発光スペクトルである。
【0073】
<<結果>>
図1から、構造式(1-1)で表される発光基質は、ピークトップの波長が約630nmであり、構造式(1-2)で表される発光基質は、ピークトップの波長が約680nmであることが分かる。
また、図1及び図2から、構造式(1-1)で表される発光基質及び構造式(1-2)で表される発光基質は、発光強度が天然のホタルルシフェリンの約1/2倍であるものの、600nmを超える長波長の光を発することができ、生体内深部の可視化に有効であることが分かる。
また、構造式(1-1)で表される発光基質は、構造式(b)で表される発光基質よりも波長が短いものの、発光強度が約4倍強く、波長が短いことにより生体内物質による光吸収が増加するものの、発光強度が大幅に高く、生体内深部からの光の透過量が増加するため(光吸収の増加よりも、発光強度の増大の影響が大きいため)、生体内深部の可視化に有効であることが分かる。
また、構造式(1-2)で表される発光基質は、構造式(b)で表される発光基質と波長が同等で且つ発光強度が約4倍強く、生体内深部からの光の透過量が大幅に増加するため、生体内深部の可視化に特に有効であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の複素環式化合物及びその塩は、ホタル生物発光系における発光基質として利用できる。
図1
図2