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特許7255850メタン、エタン、プロパン等のガス状アルカンからアルコール及びアルデヒド誘導体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】メタン、エタン、プロパン等のガス状アルカンからアルコール及びアルデヒド誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 27/16 20060101AFI20230404BHJP
   C07C 31/04 20060101ALI20230404BHJP
   C07C 31/08 20060101ALI20230404BHJP
   C07C 47/048 20060101ALI20230404BHJP
   C07C 47/06 20060101ALI20230404BHJP
   C07C 45/28 20060101ALI20230404BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20230404BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230404BHJP
【FI】
C07C27/16
C07C31/04
C07C31/08
C07C47/048
C07C47/06 Z
C07C45/28
B01J31/22 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019035326
(22)【出願日】2019-02-28
(65)【公開番号】P2020138929
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-12-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(CREST)「バイオインスパイアード二核金属メタン酸化触媒の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小寺 政人
(72)【発明者】
【氏名】辻 朋和
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 宏仁
(72)【発明者】
【氏名】和田 一仁
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0016127(US,A1)
【文献】特開2017-197451(JP,A)
【文献】特開2016-034904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 27/
C07C 31/
C07C 47/
C07C 45/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)又は(II)で示される化合物を配位子とする銅錯体の存在下で、過酸化水素により、メタン又はエタンを直接酸化してアルコールとアルデヒドを製造する方法(下記式中、R1~R9はメチレン基又はエチレン基を示す)。
【化1】
【請求項2】
前記配位子が、1,2-ビス(2-(ビス(2-ピリジルメチル)アミノメチル)6-ピリジル)エタン[6-hpa]、又は、トリス(2-ピリジルメチル)アミン[tmpa]である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記配位子が6-hpaである、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス状アルカンから直接且つ高選択的にアルコール、アルデヒドを製造する方法に関する。より具体的には、本発明は、特定の銅錯体を用いてガス状アルカンを直接酸化してアルコール、アルデヒドを高選択的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタンハイドレートは高圧・低温(0 ℃で2.6 MPa 以上)で安定なため、自然界において、陸域では気温の低いカナダ北部等の永久凍土地帯、海域では大陸縁辺部の数百m以上の海底下の高圧の堆積層中に存在する。その量は世界全体で、メタン換算で2~14 京m3、原始資源量として数百兆m3 と報告されている。日本近海にも多量のメタンハイドレートが存在し、資源として期待できる濃集帯の存在も確認されている。
【0003】
ガス状アルカンから直接的且つ高選択的にアルコール、アルデヒドを製造することは、ガス状アルカンの結合解離エネルギーが非常に大きく安定なガス状基質であるため非常に困難な反応プロセスである。そのため、ガス状アルカンを直接的且つ高選択的にアルコール、アルデヒドに変換(酸化)する方法の開発が望まれている。
【0004】
メタンからメタノールへの酸化は自然界ではメタン資化細菌に含まれるメタンモノオキシゲナーゼが行っている(非特許文献1)。一方、人工的にメタンからメタノールを製造する方法として、現在知られている製造方法としては、メタンを、鉄触媒の存在下、アセトニトリル溶媒中で、過酸化水素により酸化してメタノールを製造する方法(非特許文献2)等がある。しかし、文献2の方法は、溶媒としてアセトニトリルを用いており、メタンよりもアセトニトリルが酸化されやすいため、アセトニトリルの酸化によってメタノールが生成している可能性が高い。これを確認するためには、13C同位体からなるメタンガスを使用する必要があるが、そのような実験は行われていない。
【0005】
従って、現在までに、ガス状アルカンを直接的且つ高効率且つ高選択的にアルコール及びアルデヒドへ変換できる触媒の報告例はない。
【0006】
本発明者らは、特定の二核銅錯体を触媒として、非常に速い反応速度で、ベンゼンから高効率高選択的にフェノールを直接製造する方法を報告した(非特許文献3乃至8)。しかしながら、実用化の観点からは、さらに不活性なガス状アルカンへの展開が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】S.J.Lippard,J.M.Berg,"Principles of Bioinorganic Chemistry,"University Science Books,California(1994).
【文献】Georg Suss-Fink and co-workers Adv.Synth.Catal.2004,346,317
【文献】Angew. Chem. Int. Ed., 2017, 56, 7779-7782.
【文献】錯体化学会第65回討論会 講演要旨集
【文献】錯体化学会第66回討論会 講演要旨集
【文献】錯体化学会第67回討論会 講演要旨集
【文献】第49回酸化反応討論会 講演要旨集
【文献】第50回酸化反応討論会 講演要旨集
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、メタン、エタン、プロパン等のガス状アルカンをより効率よく直接酸化してアルコール及びアルデヒドを製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るアルコール及びアルデヒドの製造方法は、下記式(I)又は(II)で示される化合物を配位子とする銅錯体の存在下で、酸化剤により、ガス状アルカンを直接酸化してアルコール及びアルデヒドを製造する方法(下記式中、R1~R9はメチレン基又はエチレン基を示す)である。
【0010】
【化1】
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、メタン、エタン、プロパン等のガス状アルカンを効率よく直接酸化してアルコール及びアルデヒドを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ガス状アルカンをメタノール及びアルデヒドに変換する反応に使用する高圧反応装置の外観を説明する写真図である。
図2】ガス状アルカンをメタノール及びアルデヒドに変換する反応に使用する高圧反応装置内の流路を説明する図である。
図3】過酸化水素を封入する耐圧反応容器の外観を説明する写真図である。
図4】二核銅錯体が触媒するメタン酸化における触媒回転数の経時変化を示す図である。
図5】二核銅錯体が触媒するエタン酸化における触媒回転数の経時変化を示す図である。
図6】二核銅錯体が触媒するメタン酸化の反応開始から2.5時間後の溶液のGC-MSスペクトルを示す図である。
図7】二核銅錯体が触媒するエタン酸化の反応開始から2.5時間後の溶液のGC-MSスペクトルを示す図である。
図8】外部標準としてp-ニトロフェノールを添加して1HNMRを測定した結果を示す図である。
図9】単核銅錯体が触媒するメタン酸化における触媒回転数の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0014】
本発明者らは、前述の課題を解決するために検討を重ねた結果、非特許文献1に記載した特定の銅錯体を触媒として用いることにより、メタンからメタノールを高選択的に製造することに成功し、本発明を完成した。
【0015】
即ち、本発明は、下記式(I)又は(II)で示される化合物を配位子とする銅錯体の存在下で、酸化剤により、ガス状アルカンを酸化(水酸化)してアルコール、アルデヒドを製造する方法である。下記式中、R1~R9はそれぞれ独立して、メチレン基又はエチレン基を示す。
【0016】
【化2】
【0017】
式(I)に示す配位子及び式(II)に示す配位子は、銅(II)錯体を形成し、それぞれ、100℃未満の温度及び常圧下であっても、ガス状アルカンの一原子酸素化反応を触媒することができ、アルコール及びアルデヒドをより速やかに製造することができる。
【0018】
本発明においてより好ましい銅錯体の配位子は、1,2-ビス(2-(ビス(2-ピリジルメチル)アミノメチル)6-ピリジル)エタン[6-hpa]、又は、トリス(2-ピリジルメチル)アミン[tmpa]、であり、最も好ましい配位子は6-hpaである。
【0019】
【化3】
【0020】
下記にこれらを配位子とする銅錯体の構造を示す。
【0021】
【化4】
【0022】
本発明の銅錯体は、酸化反応を触媒することができる。本発明の銅錯体の酸化触媒活性は非常に高いため、メタン、エタンのように安定で反応しにくいガス状アルカンであっても、酸化によりアルコールやアルデヒドを製造することができる。現在までにこのような高い反応性、選択性を有するガス状アルカンの酸化触媒はない。
【0023】
本発明の酸化反応は、アセトニトリル等の極性有機溶媒中又は水中で行うことが好ましい。特に好ましくは完全水中が好ましい。また、酸化剤として過酸化水素を使用する場合、一般に過酸化水素は水溶液の形態で用いられ、且つ、反応によって水を生じるため、極性有機溶媒中に水が混入することになるが、水と極性有機溶媒の混合液中でも、本発明に係る酸化反応は十分に進行する。極性有機溶媒の体積1に対して、水の体積(反応開始時の体積)は任意で良い。
【0024】
本発明の酸化反応において銅錯体に対する基質(ガス状アルカン)は、使用する原料の種類や酸化条件によって適宜選択すればよい。用いる基質(ガス状アルカン)は極性溶媒に難溶であるため、高圧実験装置を用いて高圧下で行い、溶解させて反応を実施する。例えば、加圧する圧力を変化させることで、溶解する基質の濃度を制御することが出来る。好ましくは5.0 MPa~15 Mpaが特に好ましい。
【0025】
また、酸化剤(好ましくは過酸化水素)の添加量も、基質等の種類や酸化条件によって適宜調節すればよいが、例えば、特に好ましくは銅錯体1モルに対して100~1.25万モルの割合で添加することができる。
【0026】
反応を行う溶媒中の、触媒、基質、酸化剤の濃度は、反応のスケール、反応温度、使用する物質に応じて適宜選択することができる。例えば、触媒濃度は、10μ mol/L~500μ mol/L程度とすることができる。
【0027】
酸化反応を行う温度は25~70℃が好ましい。酸化反応は、5.0 MPa~15 Mpaの高圧下で行うことが好ましい
本発明で使用する好ましい酸化剤として、過酸化水素が挙げられる。過酸化水素は、入手が容易で安価な酸化剤であり、また、反応による副生成物として水しか生じないため、酸素分子以外ではアトムエコノミーが最も高く、最良の酸化剤である。
【0028】
本発明の触媒を用いた方法の例として、下記に示すように、ガス状アルカンをアルコール、アルデヒドに直接変換(酸化)する方法が挙げられる。本発明の触媒によれば、高圧下(10 MPa)・50℃程度の温度でガス状アルカンからアルコール、アルデヒドを製造することができる。
【0029】
【化5】
【0030】
本発明で使用できる基質には、ガス状アルカンだけでなく、シクロヘキサン、n-ヘキサン等の液状アルカンも含まれる。また、メタンのように反応点を一つ有する化合物だけでなく、複数有する化合物も含まれる。
【0031】
本発明で使用される配位子6-hpa又はtmpaの銅錯体は、非特許文献1に従って製造することができる。下記に6-hpaの合成ルートを例示する。tmpaは、2-クロロメチルピリジンと2-ピコリルアミンを塩基性条件下で反応させることによって製造することができるし、また、tmpaは市販されているため、市販品を利用してもよい。
【0032】
【化6】
【0033】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0034】
実施例では、特に記載のない試薬に関しては、和光純薬工業社製の試薬を購入後、そのまま使用した。
【0035】
[実施例1]ガス状アルカンの酸化(水酸化)によるアルコール、アルデヒドの生成反応(1)
触媒として6-hpa配位子の二核銅(II)錯体(以下、触媒1と称する)を、酸化剤として過酸化水素、高圧反応装置を用いて、以下の手順によりガス状アルカンをメタノール及びアルデヒドに変換した。高圧反応装置の外観を図1に、装置内の流路図を図2に、錯体、メタン、過酸化水素を封入する耐圧反応容器を図3に示す。
【0036】
触媒1を40 μM、過酸化水素を0.5 M水溶液となるように調製し、耐圧反応容器に0.5 mL加えた。また、耐圧反応容器には回転子も入れた。次に、耐圧反応容器を高圧反応装置に取り付け、10 MPaの圧力をかけガス状アルカン(メタン又はエタン)を導入し反応を開始した。この反応容器を完全に密閉した状態で50℃の恒温槽に浸し、所定の時間撹拌した。その後、耐圧反応容器を室温に戻してから溶液を取り出し、ショートシリカゲルカラムを通し触媒を除去した後、基準物質として1,4-ジオキサンを加え、GC-MSにより酸化生成物の定量をあらかじめ作成した検量線を用いて行った。この測定は3回以上行い、各時間における酸化生成物量から、各時間における触媒回転数(TON)の平均値を算出した。
【0037】
図4に二核銅錯体が触媒するメタン酸化における触媒回転数の経時変化、図5に二核銅錯体が触媒するエタン酸化における触媒回転数の経時変化、図6に二核銅錯体が触媒するメタン酸化の反応開始から2.5時間後の溶液のGC-MSスペクトル、図7に二核銅錯体が触媒するエタン酸化の反応開始から2.5時間後の溶液のGC-MSスペクトルを示す。
【0038】
また、この反応を重水(D2O)中で同様に行い、2.5時間後の溶液をショートシリカゲルカラムを通し触媒を除去した後、外部標準としてp-ニトロフェノールを添加し1HNMRを測定した結果を図8に示す。
【0039】
[実施例2] メタンの酸化によるメタノール及びホルムアルデヒドの生成反応(2)
触媒としてtmpaの銅(II)錯体(以下、触媒2又は単核銅錯体と称する)を、酸化剤として過酸化水素を用いて、以下の手順によりメタンをメタノール及びホルムアルデヒドに変換した。
【0040】
触媒2を40 μM、H2O2を0.5 M水溶液となるように調製し、耐圧反応容器に0.5 mL加えた。また、耐圧反応容器には回転子も入れた。次に、耐圧反応容器を高圧反応装置に取り付け、10 MPaの圧力をかけメタン(0.3 M)を水溶液中に溶かした。この反応容器を完全に密閉した状態で50℃の恒温槽に浸し、所定の時間撹拌した。その後、反応容器からサンプルを取り出し、ショートシリカゲルカラムを通し触媒を除去した後、基準物質として1,4-ジオキサンを加え、GC-MSにより酸化生成物の定量をあらかじめ作成した検量線を用いて行った。この測定は3回以上行い、各時間における酸化生成物量から、各時間における触媒回転数(TON)の平均値を算出した。図9に単核銅錯体が触媒するメタン酸化における触媒回転数の経時変化を触媒1と比較して示す。
【0041】
[実施例3]触媒濃度依存性の確認
触媒濃度がメタノール及びホルムアルデヒドの生成量に与える影響を調べるため、触媒1の触媒濃度を変化させた以外は実施例1及び実施例2と同様の方法で実験を行った。この結果、触媒濃度の増加に伴ってメタノールとホルムアルデヒドの生成量が増加した。
【産業上の利用可能性】
【0042】
アルコール及びアルデヒドの製造に利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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