(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】脆性材料基板の加工方法及び分断方法
(51)【国際特許分類】
C03B 33/027 20060101AFI20230404BHJP
B28D 5/00 20060101ALI20230404BHJP
C03B 33/037 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
C03B33/027
B28D5/00 Z
C03B33/037
(21)【出願番号】P 2020214458
(22)【出願日】2020-12-24
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114030
【氏名又は名称】鹿島 義雄
(72)【発明者】
【氏名】瀧田 陽平
(72)【発明者】
【氏名】池内 亮輔
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/204055(WO,A1)
【文献】特開2014-051048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 33/02 - 33/04
B28D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆性材料基板の表面に対し、前記基板の端縁から内側に離れた位置をスクライブ開始点として固定刃のスクライビングツールを押し付けてクラックを伴わないトレンチラインで閉曲線を画くように周回移動させ、前記スクライブ開始点まで戻ってスクライブラインを加工するとともに、前記スクライブラインに連続させて、前記
スクライブ開始点位置で0.5mm以下の曲率半径となる転向部Kを描いて転向した後に分離用スクライブラインを加工し、前記トレンチラインの溝に厚み方向に進行するクラックが誘導されるようにするスクライブ工程からなる脆性材料基板の加工方法。
【請求項2】
前記閉曲線は直線部分と曲線部分とが含まれ、前記
スクライブ開始点位置は直線部分に含まれる請求項1に記載の脆性材料基板の加工方法。
【請求項3】
前記分離用スクライブラインは、前記転向部Kで転向した後は直線に画かれ、前記転向部Kを挟んで前記閉曲線の前記
スクライブ開始点位置が含まれる直線部分と前記分離用スクライブラインの直線とのなす屈曲角度が20°~90°である請求項2に記載の脆性材料基板の加工方法。
【請求項4】
前記脆性材料基板は、板厚が200μm以下のガラス基板である請求項1~3のいずれか1項に記載の脆性材料基板の加工方法。
【請求項5】
脆性材料基板の表面に対し、前記基板の端縁から内側に離れた位置をスクライブ開始点として固定刃のスクライビングツールを押し付けてクラックを伴わないトレンチラインで閉曲線を画くように周回移動させ、前記スクライブ開始点まで戻ってスクライブラインを加工するとともに、前記スクライブラインに連続させて、前記
スクライブ開始点位置で0.5mm以下の曲率半径となる転向部Kを描いて転向した後に分離用スクライブラインを加工し、前記トレンチラインの溝に厚み方向に進行するクラックが誘導されるようにするスクライブ工程と、
前記スクライブラインに沿って応力を加えることにより前記閉曲線で囲まれた領域を切り出すブレイク工程とからなる脆性材料基板の分断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯端末用の液晶ディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイ(OLED)等の表示パネル、太陽電池パネル等に用いられるガラス基板等の脆性材料基板の加工方法及び分断方法に関する。特に本発明は、脆性材料基板に閉曲線を形成する分断用の溝を加工してこの閉曲線で囲まれた異形製品を切り出す分断方法に関する。なお、本明細書において「異形」とは直線以外の曲線を含む形状をいい、直線以外の曲線部分を含む閉曲線で囲まれた形状で切り出した製品を異形製品という。
【0002】
ガラス基板等の分断方法では、回転刃であるカッターホイール、あるいは、先の尖った固定刃を用いたスクライビングツールの刃先で基板表面上をスクライブすることにより、基板表面に線状の溝を形成する。この溝は、基板表面が塑性変形された切り欠きであり、線状の溝は「スクライブライン」と称されている。
【0003】
なお、本明細書において、回転刃ではなく、ダイヤモンド刃等のような先の尖った固定刃を用いて基板に塑性変形の溝を刻設する工具をスクライビングツールと称する。
【0004】
脆性材料基板Wから、
図4に示すような四隅の角部を2~10mm程度の比較的大きな曲率半径の円弧で丸めた四角形からなる閉曲線で囲まれた領域を切り出す場合、カッターホイール(回転刃)やスクライビングツール(固定刃)を用いて脆性材料基板Wの表面の開始点Pの位置からスクライブを開始し、上記四角形を画くようにして周回(一周)させ、再び開始点Pの位置に接する閉曲線のスクライブラインSL1を加工する。そして、閉曲線のスクライブラインSL1に続けて、開始点Pを通り過ぎて基板端Nまで一直線に延びる分離用スクライブラインSL2を一筆書きで形成する。
【0005】
スクライブラインは、
図6(b)に示すように、その刻設と同時に、スクライブラインSLから直下方向に延びるクラックCを伴わせることができる。このクラックCを伴ったスクライブラインをここでは「クラックラインCL」と称する。
【0006】
このクラックCを伴うクラックラインCLが形成されていれば、続くブレイク工程で基板を撓ませる等で機械的に応力を付与したり、局所加熱等で熱的に応力を付与したりすることによって、クラックラインCLのクラックCが厚み方向に進行して基板が完全分断され、閉曲線で囲まれた異形製品Aを切り出すことができる。
【0007】
このようなクラックラインCLの形成には、その起点となるトリガー(起点クラック)が必要である。トリガーは(基板の外側から)基板の端縁へのスクライビングツールまたはカッターホイール(回転刃)の刃先の乗り上げによって容易に形成することができる。これは基板の端縁においては刃先の乗り上げの際の衝撃等により局所的な破壊が生じるからである。さらに乗り上げた刃先が基板の表面上を移動することで、トリガーから刃先の移動方向にクラックラインCLを伸展させることができる。なお、基板の端縁からカッターホイールを転動させてスクライブする場合のように、基板の端縁も含めてスクライブするスクライブ加工方法を「外切り」と称する。一方、基板端縁から基板内側に離れた位置をスクライブ開始点とするスクライブ方法を「内切り」と称する。
【0008】
トリガーを形成する方法として、基板の端縁への刃先の乗り上げに依存しない方法もある。たとえばスクライビングツールやカッターホイールを保持するスクライブヘッドに振動発生部材を付設しておき、基板端縁から基板内側に離れたスクライブ開始点(「内切り」での開始点)に刃先を押し当て、刃先を振動させて基板に衝撃を加えることでトリガーを形成することができる(特許文献1参照)。
【0009】
しかしながら上記いずれの従来方法の場合でもトリガーを加工する際に、刃先と基板との間の衝撃が必要以上に強いと、刃先へのダメージ、基板の端縁での欠けの発生、基板の割れ等の不具合を招くことになるので、刃先の移動速度やスクライブ時の刃先荷重等のスクライブ条件に大きな制約を受けるといった問題点があった。
【0010】
そこで、本出願人は先に特許文献2において、以下に示すような加工方法を提案した。
すなわち、最初に固定刃のスクライビングツール、または、カッターホイールを用いて、基板表面の一端縁に近い箇所から他端縁に近い箇所まで、端縁を含まないようにスクライブして、クラックCを伴わない浅い溝状のスクライブラインSL(
図6(a)参照)を形成する。これにより、スクライブ開始点で強い衝撃が加わることなくスクライブ加工することができ、クラックCを伴わない溝状のスクライブラインSLを確実に加工できる。以下、クラックCを伴わない浅い溝状のスクライブラインSL(
図6(a)参照)を「トレンチラインTL」と称する。
【0011】
次いでトレンチラインTLの一端近傍位置で、当該トレンチラインTLに対して、特許文献2では直交する方向に刃先をスクライブさせることで「アシストライン」を形成する。このときアシストラインとトレンチラインTLとの交点位置近傍のトレンチラインTL側では、クラックCが厚さ方向に進行してクラックCが誘導される(
図6(b)参照)。そして交点位置を起点トリガーとしてトレンチラインTLに沿ってクラックCを伸展させることできるので、クラックラインCLを形成できるようになる。
【0012】
上記加工方法によれば、最初のスクライブラインを加工する際に、クラックCを伴うスクライブライン(すなわちクラックラインCL)を形成する必要がないため、スクライブ荷重(刃先荷重)についての選択可能なスクライブ条件の範囲(自由度)が低荷重側に広がる。すなわち、クラックCを伴わないトレンチラインTLの形成であれば、小さいスクライブ荷重で比較的容易にスクライブ加工できるようになる。その結果、スクライブ荷重を加え過ぎて基板が割れてしまうおそれがなくなる。特に基板の板厚が薄くなるほど割れにくくなる効果は顕著であり、200μm以下のガラス基板の加工では非常に有効である。しかも、トレンチラインTLでのスクライブは傷が少ない高品質の加工が可能になるので全周にわたって加工品質が向上する。また、低荷重であるため刃先の摩耗やダメージをも抑えることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2000-264656号公報
【文献】特許6249091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、脆性材料基板から
図4のような閉曲線で囲まれた異形製品Aを切り出す場合にも、最初に画くスクライブラインをトレンチラインで形成してからクラックを誘導してクラックラインに変化させることが望ましい。即ち、閉曲線のスクライブラインSL1を、クラックを伴わないトレンチラインTLとして加工した後、トレンチラインTLをクラックCの伴ったクラックラインCLに変化させるようにする。
【0015】
具体的には、カッターホイールやスクライビングツールを用いて「内切り」での開始点Pの位置からスクライブを開始し、四角形を描くように周回させ、再び開始点Pの位置で接する閉曲線のスクライブラインSL1を加工する。この周回するスクライブラインはクラックを伴わないトレンチラインとしてスクライブするが、周回移動して再び開始点Pの位置で接すると、(アシストラインを形成したときと同様に)そのときの衝撃や応力変化によって開始点P近傍のトレンチラインをクラックCを伴ったクラックラインCLに変化させることができる。そして、さらにスクライブラインSL1に続けて開始点P(以後、周回移動後の開始点Pの位置を接点Pともいう)の位置を経て基板端Nまで一直線に延びる分離用のスクライブラインSL2を一筆書きで形成する。
【0016】
しかし、実験によれば、上記の手法でスクライブ加工を行うと、ブレイク工程で応力を付与することにより異形製品Aを切り出したときに、
図5(b)の拡大図に示すように、接点Pの近傍部分に段状のバリB(ツノBともいう)が生じることが判明した。これは、接点Pの位置から直線状の分離用スクライブラインSL2を加工する際に、既に加工された閉曲線のスクライブラインSL1の近傍部分を通過することになり、この近傍部分は一周目のスクライブで生じた応力が残留しており、また、接点Pとの分岐部分でラインが重複したり、小さな亀裂が生じたりしていることがバリBの発生原因となっているものと考えられる。このようなバリBは製品の加工品質を著しく劣化し、不良品発生の大きな要因となる。
【0017】
そこで本発明は、閉曲線に沿ってスクライブラインを加工し、続いてブレイクしたときに生じるバリ発生の課題を解決し、脆性材料基板から異形製品を切り出す際にバリの発生を抑制し、高い歩留まりで良品を切り出すことができる脆性材料基板の加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するためになされた本発明の脆性材料基板の加工方法は、脆性材料基板の表面に対し、前記基板の端縁から内側に離れた位置をスクライブ開始点として固定刃のスクライビングツールを押し付けてクラックを伴わないトレンチラインで閉曲線を画くように周回移動させ、前記スクライブ開始点まで戻ってスクライブラインを加工するとともに、前記スクライブラインに連続させて、前記スクライブ開始点位置で0.5mm以下の曲率半径となる転向部Kを画いて転向した後に分離用スクライブラインを加工し、前記トレンチラインの溝に厚み方向に進行するクラックが誘導されるようにするスクライブ工程からなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、スクライブラインをクラックが伴わないトレンチラインとして形成するので、クラックを伴うスクライブラインとして加工する場合よりも低い荷重でのスクライブ条件を選択することができ、過荷重で加工することによる割れ等の不具合を解消することができる。
また、小さな曲率半径で転向することが可能なスクライビングツールを用いて、これを周回移動させて閉曲線を画くようにし、スクライブ開始点でトレンチラインに接したときに、その接点(開始点)位置で0.5mm以下の小さな曲率半径となる円弧状の転向部Kを画くことにより、閉曲線から直ちに離隔するようにして分離用スクライブラインを画いているので、分離用スクライブラインを、接点の直後の位置で閉曲線のスクライブラインから離隔させることができるようになる。したがって分離用スクライブラインと閉曲線のスクライブラインの交点近傍において、それぞれの残留応力の影響を受けにくくなり、閉曲線のスクライブラインにおけるバリの発生を抑えることができるようになり、バリが生じたとしても許容可能な程度の大きさに抑えることができる。
【0020】
上記発明において、前記閉曲線は直線部分と曲線部分とが含まれ、前記接点位置は直線部分に含まれるようにしてもよい。
接点位置で0.5mm以下の曲率半径となる転向部Kを描いて転向した後に基板端縁まで到達する分離用スクライブラインを加工するので、接点(開始点)位置を直線部分に設けても、分離用スクライブラインを閉曲線のスクライブラインから直ちに離隔させることができる。このように接点(開始点)を直線部分に設けるようにすれば切り出す異形製品のコーナー部分(曲線部分)の形状がどのようであっても、コーナーの形状と無関係に分離用スクライブラインの転向部Kの曲率半径を設定することができる。
ここで、前記分離用スクライブラインは、前記転向部Kで転向した後は直線状に画かれ、前記転向部Kを挟んで前記閉曲線の前記接点位置が含まれる直線部分と前記分離用スクライブラインの直線とのなす屈曲角度が20°~90°であるようにしてもよい。
分離用スクライブラインを、ブレイクが容易な直線形状にするには、閉曲線の直線部分と重ならないようにするため、閉曲線の直線部分と平行にならないようにする必要がある。後述する検証実験によれば具体的には屈曲角度を20°~90°とすればよいことが判明した。
【0021】
上記発明において前記脆性材料基板は、板厚が200μm以下のガラス基板であってもよい。
本発明により、板厚が200μm以下の技術的に分断加工が困難であるガラス基板であっても、バリ発生を抑えた分断加工が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明方法の第1の実施形態のスクライブ工程を示す説明図であって
図1(a)は基板全体を示し、
図1(b)は一部を拡大して示す図である。
【
図2】本発明方法の第2の実施形態のスクライブ工程を示す説明図である。
【
図3】本発明において用いられるスクライビングツールの一例を示す図である。
【
図4】本発明者等によって検証のためになされた実験的な分断方法を示す説明図である。
【
図5】
図4の分断方法による分断結果を説明するための拡大図である。
【
図6】
図6(a)は基板に形成されるクラックCのないスクライブライン(トレンチライン)を示し、
図6(b)はクラックCが含まれるスクライブライン(クラックラインCL)を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。本発明による加工対象基板としては、ガラス基板、セラミック基板、シリコン基板、化合物半導体基板、サファイア基板、石英基板などが挙げられるが、なかでも本発明が有効な基板は、スクライブ荷重を小さくして加工する必要がある板厚が薄い基板であり、特に200μm以下の薄いガラス基板である。
【0024】
本実施の形態においては、
図3に示すスクライビングツール1が用いられる。スクライビングツール1は、ホルダ1aに支持された四角錐台形状の部材からなる刃先部1bを備えており、刃先部先端の天面1cと、刃先部周囲の稜線1dとが結ぶ角部がそれぞれ刃先1e(固定刃)を形成している。
なお、刃先部1bは四角錘台の形態に代えて、三角錘台または五角錘台等の多角錘台として形成することもできる。また、角柱または多角形の板状の刃先部1bの角部に天面及び稜線を形成して刃先部1eとすることもできる。
【0025】
次に本実施の形態の分断方法について説明する。
<実施形態1>
基板分断の第一段階として次のようなスクライブ工程を行う。スクライブ工程として、
図1に示すように、ガラス基板W(以下単に基板という)の表面にスクライビングツール1で、四隅の角部を丸めた四角形の閉曲線で描かれるスクライブラインSL1を加工する。具体的には、上記四角形の閉曲線のうちの一つの辺(直線部分)の中間位置を開始点P1として、スクライビングツール1の刃先1eを押し当て、クラックを伴わない浅い溝状のトレンチライン(
図6(a))でスクライブを開始する。そして上記四角形を画くようにスクライビングツール1を周回移動させて、再び開始点P1の位置で接するまでトレンチラインのスクライブラインSL1を加工する(以後、周回移動した後の開始点P1の位置を接点P1ともいう)。
【0026】
上記スクライブ工程では、接点P1で閉曲線が完成したスクライブラインSL1に連続させて、接点P1の位置を起点とする0.5mm以下の小さな曲率半径Rとなる円弧状の転向部Kを画いてスクライブ方向を転向させた後、さらに連続させて基板端縁まで到達する分離用スクライブラインSL2を一筆書きで加工する。ここでは先端を尖らせた固定刃のスクライビングツール1を用いることで、回転刃に比べて転向部Kの曲率半径Rを十分に小さくして転向することができる。具体的には曲率半径Rを1mm~0.1mm、さらには、刃先を尖らせることによって0.1mmよりも小さい曲率半径Rで転向させることも可能となる。
【0027】
転向部Kで転向した後の分離用スクライブラインSL2は、基板Wの端縁まで到達させるようにする。このようにして基板Wの端縁に接したトレンチラインは、基板Wの端縁近傍のトレンチラインの溝に厚み方向に進行するクラックが誘導され、クラックCを伴うクラックラインCL(
図6(b))に変化する。この部分の分離用スクライブラインSL2は次のブレイク工程で容易にブレイクできるようにするために直線で描くのが好ましい。ただしブレイクに支障を来さない程度であれば曲線にすることもできる。
なお、クラックCは環境条件やスクライブ条件に応じて基板Wの端縁の近傍のみに短く形成されることも、分離用スクライブラインSL2及び閉曲線のスクライブラインSL1に沿って長く形成されることもありうるが、いずれの場合であっても、その後に応力付与により確実にトレンチライン全体に伸展させることができるので少なくとも端縁の近傍にクラックが誘導できていればよい。
【0028】
また、上記分離用スクライブラインSL2を直線状に画くとき、転向部Kを挟んで、スクライブラインSL1の接点P1が含まれる直線部分(接点P1で転向部Kと接する直線部分)と、分離用スクライブラインSL2の直線とのなす屈曲角度αは20°~90°の範囲となるように加工するのがバリを抑制する上で特に好ましい。
【0029】
そして、分離用スクライブラインSL2の基板Wの端縁部分に、クラックを伴うクラックラインCLが形成された後、機械的に基板を撓ませたり、あるいは、光照射、温熱、冷熱噴射等の熱を加えて基板に応力を付与するブレイク工程を行って、スクライブラインSL2から切り出し、さらにスクライブラインSL1に沿って閉曲線で囲まれた異形製品Aを切り出す。
【0030】
上記方法によれば、スクライブラインSL1をクラックが伴わないトレンチラインとして加工するので、最初からクラックを伴うスクライブラインを加工する場合よりも低いスクライブ荷重を選択することができる。また、分離用スクライブラインSL2が接点P1から0.5mm以下の小さな曲率半径Rで転向する転向部を設けるようにしたので、接点直後の位置で閉曲線から離隔させることができ、閉曲線のスクライブラインに沿って分離する際、分離用スクライブラインの影響や分離用スクライブライン近傍の応力が残留する領域の影響を受けにくくなる。その結果、バリの発生を抑えることができる。
【0031】
(検証実験1)
検証目的:閉曲線のスクライブラインSL1の開始点(接点)P1を、閉曲線の直線部分の中央付近とし、閉曲線のスクライブラインSL1の直線部分から分岐して転向する転向部Kの曲率半径Rを変数パラメータにして、端縁まで延びる直線状の分離用スクライブラインSL2を加工したときの発生するバリの大きさを検証する(
図1参照)。
基板板厚:50μm
スクライビングツールの押圧力:1.3N
スクライブ速度:10mm/sec(転向部0.1mm/sec)
屈曲角度:90°で固定
転向部Kの曲率半径:10mm、1mm、0.5~0.1mm
【0032】
検証結果を表1に示す。異形製品としての良否判定は、バリの大きさが15μm以上を不良、15-5μmを良、5μm未満を最良とする。
【表1】
【0033】
表1に見られるように、曲率半径Rが小さくなるほどバリの大きさは小さくなる傾向が見られた。特に曲率半径を0.4mm以下にするとバリ抑制の効果が顕著になった。
【0034】
<実施形態2>
実施形態1と同様のスクライビングツール1によるスクライブ加工を行うが、閉曲線のスクライブラインSL1の開始点(接点)P1を、閉曲線のスクライブラインSL1の直線部分の端、すなわち丸めた角部(コーナーの曲線部分)との境界位置とし、周回移動して、接点P1の位置で接する閉曲線のスクライブラインSN1を加工する。そしてスクライブラインSN1に連続するようにして、接点P1の位置から曲率半径Rの転向部で転向した後、好ましくは20°~90°の屈曲角度で基板端N1まで直線で延びる分離用のスクライブラインSL2を一筆書きで形成する。
この実施形態においても、先の実施形態1と同様に、バリの発生を抑制できる。
【0035】
(検証実験2)
検証目的:閉曲線のスクライブラインSL1の開始点(接点)P1を、閉曲線のスクライブラインSL1の直線部分の端(コーナーの曲線部分との境界位置)とし、分離用スクライブラインSL2の直線部分と、閉曲線のスクライブラインSL1の直線部分とがなす屈曲角度αを変数パラメータにして、発生するバリの大きさとの関係を検証する(
図2参照)。
基板板厚: 50μm
スクライビングツールの押圧力:1.3N
スクライブ速度:10mm/sec(転向部0.1mm/sec)
転向部Kの曲率半径:0.1mmで固定
屈曲角度α:0°、20°、45°、70°、90°
【0036】
検証結果を表2に示す。異形製品としての良否判定は、バリの大きさが15μm以上を不良、15-5μmを良、5μm未満を最良とする。
【表2】
【0037】
表2に見られるように、屈曲角度が0°(
図4の従来例に該当)である場合を除いて、20°~90°のいずれについてもバリは2μmとなり、バリ抑制の効果が顕著であった。
なお、図示を省略するが、開始点(接点)の位置が検証実験1のように直線部の中央である場合も、屈曲角度αが20°~90°の範囲では「良」以上の判定であり、抑制の効果が得られている。
【0038】
以上、本発明の代表的な実施例について説明したが、本発明は必ずしも上記記載の実施形態に特定されるものでない。例えば、上記実施形態では、厚みが50μmの基板を用いたが、本発明は基板の板厚が100μmよりも厚くなった場合でも適用できる。また、転向部において、スクライビングツールの押圧力を小さくしてもよい。
また、上記実施形態では、基板Wの端縁に分離用スクライブラインSL2が達することでトレンチラインの溝に厚み方向に進行するクラックが誘導されるようにしたが、クラックを誘導するためのクラックラインであるアシストラインを分離用スクライブラインSL2と交差するように形成してもよい。この場合、分離用スクライブラインSL2は基板Wの端縁から離れた場所に形成することができる。そして、分離用スクライブラインSL2とアシストラインが交差することで、アシストラインのクラックが分離用スクライブラインSL2の交点より誘導され、分離用スクライブラインSL2のトレンチラインがクラックCを伴うクラックラインCLに変化する。
さらに、本発明は、その目的を達成し、請求の範囲を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、ガラス基板等の脆性材料基板から異形製品を切り出す際に利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
A 分断される異形製品
C クラック
CL クラックライン
K 屈曲部の角部
N1 基板端
P1 スクライブ開始点(交点)
SL スクライブライン
SL1 閉曲線のスクライブライン
SL2 分離用スクライブライン
TL トレンチライン
W 基板
1 スクライビングツール