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特許7255896シクロホスファミド療法に対する応答者の予測
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】シクロホスファミド療法に対する応答者の予測
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/574 20060101AFI20230404BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230404BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20230404BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230404BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20230404BHJP
   A61K 35/768 20150101ALI20230404BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20230404BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
G01N33/574 A
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
A61K31/675
A61K45/00
A61K38/19
A61K35/768
A61K39/00 H
A61K39/395 N ZNA
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2020514307
(86)(22)【出願日】2018-05-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-16
(86)【国際出願番号】 AU2018050478
(87)【国際公開番号】W WO2018209404
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-05-18
(31)【優先権主張番号】2017901908
(32)【優先日】2017-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】506018639
【氏名又は名称】ロイヤル・メルボルン・インスティテュート・オブ・テクノロジー
【氏名又は名称原語表記】ROYAL MELBOURNE INSTITUTE OF TECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】プレバンスキー,マグダレナ
(72)【発明者】
【氏名】マドンド,ムトサ タテンダ
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-526709(JP,A)
【文献】特表2015-512616(JP,A)
【文献】国際公開第2013/114367(WO,A2)
【文献】FOUCHER, E. D. et al.,IL-34- and M-CSF-induced macrophages switch memory T cells into TH17 cells via membrane IL-1α,European Journal of Immunology,2015年,Vol.45,p.1092-1102
【文献】MADONDO, M. T. et al.,Low dose cyclophosphamide: Mechanisms of T cell modulation,Cancer Treatment Reviews,2016年,Vol.42,p.3-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/574
G01N 33/48
A61P 35/00
A61P 35/02
A61P 43/00
A61K 31/675
A61K 45/00
A61K 38/19
A61K 35/768
A61K 39/00
A61K 39/395
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いた治療に臨床的に応答するがん対象の同定を補助する方法であって、少なくとも1用量又は1サイクルのシクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体の投与後に該対象から得られた生物学的試料中のTeff細胞上のCCR4発現を検出することを含み、Teff細胞上のCCR4発現の上方調節は、該対象が治療に臨床的に応答することを示す、方法。
【請求項2】
Tsupp細胞ではなくTeff細胞上のCCR4発現の上方調節が、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いた治療に臨床的に応答する対象を同定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Teff細胞がTヘルパー細胞及び/又は細胞傷害性T細胞である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記Tsupp細胞が制御性T細胞(Treg)である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
検出することが、
(i)前記対象から得られた生物学的試料中のTeff細胞を、Teff細胞の表面上のCCR4に結合する薬剤とインビトロで接触させること、並びに
(ii)前記細胞上のCCR4の発現レベルを測定すること
を含み、前記Teff細胞上のCCR4発現の上方調節は、前記対象がシクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いたさらなるインビボ治療に臨床的に応答することを示す、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(ii)に従って測定されたCCR4の発現レベルを、シクロホスファミドを用いて前治療された対象からのTeff細胞上のCCR4の発現レベルと比較することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記対象が婦人科がんを有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
シクロホスファミドを以前に受けていないがん対象が、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いた治療に臨床的に応答するかどうかを予測する方法であって、該対象から得られた生物学的試料中のTeff細胞をインビトロでシクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体に曝露した後、Teff細胞上のCCR4発現を検出することを含み、曝露した後のTeff細胞上のCCR4発現の上方調節は、該対象が治療に応答することを示す、方法。
【請求項9】
前記対象が婦人科がんを有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
Tsupp細胞ではなくTeff細胞上のCCR4発現の上方調節が、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いた治療に臨床的に応答する対象を同定する、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記Teff細胞がTヘルパー細胞及び/又は細胞傷害性T細胞である、請求項8から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記Tsupp細胞が制御性T細胞(Treg)である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
発現を検出することが、
(i)前記生物学的試料をインビトロでシクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体に曝露すること、
(ii)前記対象からの生物学的試料中のTeff細胞を、Teff細胞の表面上のCCR4に結合する薬剤と接触させること、並びに
(iii)前記細胞上のCCR4の発現レベルを測定すること
を含み、前記Teff細胞上のCCR4発現の上方調節は、前記対象がシクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いた治療に臨床的に応答することを示す、請求項8から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(iii)に従って測定されたCCR4の発現レベルを、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体に予め曝露された対象からのTeff細胞上のCCR4の発現レベルと比較することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(iii)で決定されたCCR4の発現レベルを、対照の対象からのTeff細胞上のCCR4の発現レベルと比較することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記Teff細胞がインビトロでマホスファミドに3日間曝露される、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記対象が、
(i)シクロホスファミド又はその類似体、誘導体若しくは活性代謝物を用いて治療することができるがん;並びに/あるいは
(ii)CCL22を分泌するがん;並びに/あるいは
(iii)ホジキン及び非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、T細胞リンパ腫(菌状息肉腫)、多発性骨髄腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、ユーイング肉腫、乳がん、精巣がん、子宮内膜がん、卵巣がん;子宮がん、子宮頸がん、外陰がん又は膣がんを含む他の婦人科がん、及び肺がん、又はこれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択されるがん
を有する、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記生物学的試料が末梢血単核細胞(PBMC)を含む、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
がん対象の低用量シクロホスファミド治療の有効性の評価を補助する方法であって、第1の時点で該対象から得られたTeff細胞を含む第1の生物学的試料において、CCR4の発現レベルを検出すること、後の時点で該対象から得られたTeff細胞を含む第2の生物学的試料を用いてこの分析を反復すること、及び2つの時点でのCCR4の発現レベルを比較することを含み、
第1の生物学的試料が、少なくとも1用量のシクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を投与される前又は後に前記対象から得られたTeff細胞を含み、第2の生物学的試料が、少なくとも1用量のシクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を投与された後に前記対象から得られたTeff細胞を含み、
第1の試料と比較した第2の試料におけるTeff細胞上のCCR4発現の上方調節が、臨床的に有効な治療を示す、方法。
【請求項20】
対象における卵巣がんの退行又は進行の評価を補助するモニタリング方法であって、第1の時点で該対象から得られたTeff細胞を含む第1の生物学的試料において、CCR4の発現レベルを検出すること、後の時点で該対象から得られたTeff細胞を含む第2の生物学的試料を用いてこの分析を反復すること、及び2つの時点でのCCR4の発現レベルを比較することを含み、
第1の生物学的試料が、少なくとも1用量のシクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を投与される前又は後に前記対象から得られたTeff細胞を含み、第2の生物学的試料が、少なくとも1用量のシクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を投与された後に前記対象から得られたTeff細胞を含み、
第1の試料と比較した第2の試料におけるTeff細胞上のCCR4発現の上方調節が卵巣がんの退行を示す、方法。
【請求項21】
前記Teff細胞がCD4+TH1 T細胞及び/又はCD8+細胞傷害性T細胞を含む、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記Teff細胞がFoxP3-CD25-CD4+細胞及びCD8+T細胞を含む、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
低用量シクロホスファミドを含む、卵巣がん対象を治療するための医薬であって、前記対象が、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法により低用量シクロホスファミドに応答することが以前に同定又は予測されている、医薬。
【請求項24】
請求項1から18のいずれか一項に記載の低用量シクロホスファミドに応答する対象を同定又は予測する方法において使用するための、Teff細胞及びそれに結合するCCR4結合部分を含む複合体を含むキット。
【請求項25】
請求項1から18のいずれか一項に記載の方法において使用するための、Teff細胞上のCCR4発現を検出する試薬を含むキットであって、生物学的試料を回収する容器、並びにCD3、CD8、CD4、CD25、CCR4及びFoxP3からなる群から選択される表面抗原に結合する1つ以上の結合試薬を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に引用され又は参照されたすべての文書、及び本明細書に引用された文書において引用され又は参照されたすべての文書、及び本明細書において又は参照により本明細書に組み込まれたいずれもの文書において言及されたいずれもの製品のいずれもの製造業者の指示書、説明書、製品仕様書、及び製品シートは、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
この出願は、2017年5月19日に出願されたオーストラリア出願第AU2017901908号からの優先権を主張する。この出願の全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
開示の分野
本開示は、対象、特に低用量シクロホスファミドを用いた治療に応答する婦人科がんを有する対象を診断的又は予防的に予測するために、Tエフェクター細胞上のCCケモカイン受容体4(CCR4)発現を検出することに基づく。
【背景技術】
【0004】
婦人科がんは、女性の生殖管のがんであり、子宮頸がん、膣がん、外陰がん、子宮がん、及び卵巣がんが含まれる。世界的に、これらのがんは、毎年100万人を超える症例が診断されている女性におけるがん発生率の15%以上を占めている(Bray Fら, (2013年) 1;132巻(5号):1133-45頁)。年間死亡率は500,000人をわずかに下回り、報告されたすべての女性のがん関連死亡の14%に寄与する。子宮がん、子宮頸がん及び卵巣がんは、婦人科がんの中で最も一般的であるが、膣がん及び外陰がんは稀であり、女性の年間がん発生率の0.6%未満の原因である。
【0005】
オーストラリアの有病率パターンは、発展途上国における子宮頸がんの高有病率によって動かされている世界的な傾向とは異なる。平均して、オーストラリアの女性12人が毎日婦人科がんと診断されており、年間の総発生率は4,500を超え、女性のすべての報告されたがん症例の10%未満の原因である(Report to the nation-gynaecological cancer 2012年. In: Australia C, editor. Surry Hills, NSW2012)。子宮がんは最も蔓延しており、婦人科がんの症例の44%を占めるため、オーストラリアでは子宮がん及び卵巣がんが公衆衛生上の最大の懸念事項である。卵巣がんは症例の28%を占めているが、婦人科がんによる死亡の半数を超える原因である。
【0006】
婦人科がんによって引き起こされる早死は、経済に悪影響を及ぼす。婦人科がんは、女性のがんに起因する疾患の全負担の8%以上を占め、2012年には22,000人を超える障害調整生年数(DALY)であった。2004年から2005年の会計年度内に、婦人科がんの入院費用は6300万豪ドルであり、金銭の大半は、卵巣がん(2,500万豪ドル)、子宮がん(2,200万豪ドル)及び子宮頸がん(1,100万豪ドル)に費やされている。
【0007】
卵巣がん及び子宮がんの大部分は、散発的な体細胞突然変異が原因で発生するが、卵巣がんの5%及び子宮がんの10%には遺伝的根拠がある(Whang JDら, (1997年) 10月; 12巻(5号):383-9頁)。腫瘍形成における特定の遺伝子突然変異の役割は、まだほとんど不明であるが、しかし、腫瘍抑制遺伝子及び癌遺伝子には、一般的に疾患の発症に関連しているいくつかの遺伝的異常がある。散発的な卵巣がんを引き起こす最も一般的な体細胞突然変異は、p53遺伝子にある。p53の突然変異は、子宮がんでも頻繁に見られる。
【0008】
卵巣がん(OC)は、女性のがんによる死亡の5番目に多い原因である。これらの女性の半数以上は、現在、診断から5年以内に死亡している(Luvero Dら, (2014年) Therapeutic Advances in Medical Oncology 6巻:229-239頁)。卵巣がんには、上皮がん、卵巣の生殖細胞がん、及び卵巣間質がんを含むいくつかの形態がある。上皮性卵巣がんは、この疾患の最も一般的な形態を示す。
【0009】
卵巣がんは、主に、診断の年齢中央値が63歳の閉経後女性に影響する疾患である。しかしながら、この疾患はすべての年齢層の女性に影響を及ぼす可能性がある。
【0010】
卵巣がんのステージ決定は、局所化の程度対卵巣を越えた疾患の広がりに基づいている。第1ステージの卵巣がんは、一方又は両方の卵巣に限局している。第2ステージの疾患は、骨盤の拡張を有する一方又は両方の卵巣の腫瘍を伴う。第3ステージの疾患では、一方又は両方の卵巣に腫瘍を伴い、骨盤外の腹腔転移及び/又は所属リンパ節転移が顕微鏡で確認される。第4ステージの卵巣がんは、腹膜腔を越えた遠隔転移によって特徴付けられる。卵巣がんは進行した段階で診断される傾向があり、これは原発病変の局所的な位置によるものである。腫瘍が物理的な不快感を引き起こすのに十分に発達すると、症状のみが現れる。それでも、症状(腹痛又は骨盤痛、頻尿及び嘔吐を含む)はあいまいであり、他の疾患、例えば、胃炎、過敏性腸症候群又は尿路感染症と間違われることがよくあり得る。対照的に、子宮がんは、診察中の患者にしばしば見られる異常な膣出血の結果として早期に診断される。提示があれば、患者は、組織生検の組織学的分析を介して診断され、広がりと臓器の関与の程度に基づいて疾患がステージ決定される。
【0011】
卵巣がんは、卵巣上皮から腹膜腔への局所的な脱落を経て広がり、その後、腹膜への播種と腸及び膀胱への局所的な浸潤が続く。卵巣がんのリンパ節転移の存在は、診断された卵巣がんのすべてのステージで認められる。
【0012】
卵巣がんを有する患者の生存率は、疾患が診断されたステージの関数であり、進行した疾患では5年生存率が低下する。
【0013】
卵巣がんは、明白な臨床症状、最も顕著には腹痛、付属器の腫瘤、腹部膨満感及び尿意切迫感の出現に伴ってしばしば検出される。初期のステージ(すなわち、第1ステージ)での卵巣がんの検出は、標準的な外科手術及び化学療法を使用して約90%の治癒率をもたらす。
【0014】
初期のステージにおける卵巣がんを検出する現在のスクリーニング方法は不十分である。卵巣がんスクリーニングの現在の実践では、CA125と経膣超音波検査(超音波検査)の使用が採用される。CA125の血清レベルの上昇は、卵巣がんに関連付けられ、経膣超音波検査のその後の利用は、卵巣がんの存在の検出に役立つ。卵巣疾患の確認は、侵襲的手技、例えば、開腹に基づいている。しかしながら、感度の制限、特異性の制限、及び陽性予測値が3%未満という問題のため、CA125の使用は一般的な集団スクリーニングには効果がない(Bast (2003年) J. Clin Oncol. 21巻 (10 Suppl): 200-205)。
【0015】
婦人科がん、例えば、卵巣がんの第一選択治療は、2cm未満の残存病変を残すすべての肉眼的疾患を除去する減量手術を伴う。手術は、腹腔鏡下又は子宮全摘出術、両側卵管卵巣摘出術、及び疾患の広がりに基づくリンパ節郭清術を伴う場合がある。疾患のステージに応じて、手術後、子宮がん患者にはカルボプラチンとエピルビシン、又は卵巣がんにはカルボプラチンとパクリタキセルによる補助的放射線療法又は化学療法も推奨されることがある。場合によっては、患者は、医学的併存疾患の存在又は疾患の広がりの程度のために手術に適さないことがある。これらの患者は、子宮がんでは一次放射線療法を受け、卵巣がんでは化学療法を受ける。
【0016】
婦人科がんの第一選択治療は比較的成功しているが、疾患の再発がしばしば起こる。再発性疾患の第二選択治療は、放射線療法、ホルモン療法又は化学療法からなる。子宮がん及び卵巣がんの標準的な化学療法は、それぞれ白金ベースのシスプラチン及びカルボプラチンからなり、奏効率は約20%に留まる(Fung-Kee-Fung Mら, (2007年) Current oncology 10月;14巻(5号):195-208頁)。再発疾患を有する患者に対するその後の治療選択肢は、疾患の分類に基づいている。白金ベースの治療の最後のサイクルから6か月未満で疾患の再発が起こった場合、疾患は白金耐性とみなされるが、白金感受性疾患は治療から6か月を超えて再発する。白金耐性疾患の治療には、テキサン(ドキセタキセル及びパクリタキセル)、アントラサイクリン(ドキソルビシン及びリポソームドキソルビシン)、オキサザホスホリン(シクロホスファミド及びイホスファミド)、ゲムシタビン、エトピシド及びトポテカンを用いた治療を含む代替の化学療法戦略が使用され、各々は、それぞれ匹敵する奏効率が12~30%である(Handolias Dら, (2013年) Asia-Pacific journal of clinical oncology 2013年5月29日)。
【0017】
治療に対する患者の反応を評価するために使用される基準には、固形腫瘍の応答評価基準(RECIST)又は婦人科がん間群(GCIG)CA125の応答基準の2種類がある。RECIST基準は、コンピューター断層撮影(CT)又は磁気共鳴画像(MRI)を使用して、標的腫瘍の最大直径又は新しい病変のデノボ出現を測定し、GCICはCA125の血清レベルを測定する。両方の基準の組み合わせを用いて、患者の応答を完全応答(CR)、部分応答(PR)、安定疾患(SD)及び進行性疾患(PD)に分類することができる(Rustin GJら, (2011年) International journal of gynaecological cancer society 2月; 21巻(2号):419-23頁)。
【0018】
低用量シクロホスファミドは、しばしば、進行期及び/又は再発がん、例えば、再発卵巣がんの治療に使用される(Handoliasら(2013年) Asia Pac J Clin Oncol 12月(1巻): e154-e160)。しかしながら、低用量シクロホスファミドは、再発卵巣がんを有する女性のわずか25~44%に臨床的利益をもたらす(Liuら(2010年) J Immunother 33巻:53-59頁; Ghiringhelliら(2007年) Cancer Immunol Immunother 56巻(5号):641-8頁)。現在、誰がどの薬物に応答するかは不明であり、特定の薬物が作用しないと認識される時間までに、さらなる治療は効果的ではない場合がある。したがって、治療開始前、又は治療の最初のサイクルのいずれかで、低用量シクロホスファミドを用いた治療に応答する対象を予測できることは有益である。これにより、治療レジメンの早い段階で治療に応答する対象に低用量のシクロホスファミドを与え、治療に応答しないことが予測される対象を他の治療プロトコルに移行することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、化学療法治療に応答する対象を予測できる方法が当技術分野において必要とされる。特に、化学療法治療の恩恵を受ける対象を確実にスクリーニングする予後診断法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本開示は、低用量シクロホスファミド(又はその類似体、誘導体若しくは活性代謝物)を用いた治療に応答する対象を予測又は特定するための診断方法及び予後診断方法に基づく。特に、本開示は、婦人科がんを有する対象からのTエフェクター細胞(Teff)上のCCケモカイン受容体4(CCR4)発現が、低用量シクロホスファミドを用いた治療に応答する対象を選択的に同定することができるという驚くべき発見に基づいている。
【0021】
理論に束縛されることを望まずに、本発明者らは、シクロホスファミドを用いた治療がエフェクターCD4及びCD8 T細胞の卵巣がん環境を豊かにし、それにより、それらの活性が、例えば、チェックポイント阻害剤の使用によって、腫瘍部位で局所的に増強され得ることを示している。
【0022】
本開示は、いわゆる応答者患者(すなわち、シクロホスファミドに応答する患者)のサブセットを同定するための診断方法と予後診断方法の両方を提供する。本方法は、エフェクターCD4及びCD8 T細胞におけるCCR4上方調節が、婦人科がん、例えば、卵巣がんを有する対象のより良好な生存率の向上と関連付けられるという知見に基づく。
【0023】
診断方法(本明細書ではCCR4上方調節の前治療(CUP診断)と呼ばれる)を使用して、低用量シクロホスファミド(LDCy)を受けた後の早期に応答者患者を同定することができる。予後診断方法(本明細書ではCUP予後と呼ばれる)を使用して、LDCyを受ける前に応答者患者を同定することができる。両方の試験は、制御性T細胞(Treg)ではなくエフェクターCD4及びCD8 T細胞上の特異的なCCR4上方調節の検出に基づいている。これらの方法は、LDCy治療後に、有益なエフェクターT細胞が腫瘍に遊走する対象を同定する。このような対象は、例えば、それらの有益なエフェクターT細胞がTregによって腫瘍環境内で消えるのを防ぐチェックポイント阻害剤を用いて治療することができる。
【0024】
ほとんどのCD8 T細胞及びCD4 Tヘルパー1(TH1)細胞のメモリーエフェクター細胞は、通常、CCR4を発現しない。したがって、外部介入なしで、抑制性CCR4+ Tregは、有益なCD8 T細胞又はTH1細胞よりはむしろ、腫瘍の微小環境に優先的にリクルートされる。
【0025】
特に、本発明者は、シクロホスファミドの状態が、その類似体又は誘導体などと共に、シクロホスファミド治療に応答するがん対象の同定に有用であり得ることを発見した。
【0026】
したがって、一態様では、本開示は、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いた治療に臨床的に応答するがん対象を同定する方法を提供し、本方法は、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体の少なくとも1用量の投与後の対象からのTeff細胞上のCCR4の発現を検出することを含み、Teff細胞上のCCR4発現の上方調節は、対象が治療に臨床的に応答することを示す。
【0027】
特定の例では、対象は、少なくとも1サイクルのシクロホスファミド治療を受けている。
【0028】
一例では、対象は、婦人科がんを有する。別の例では、対象は、卵巣がんを有する。
【0029】
一例では、本方法は、低用量シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いたさらなる治療に応答する対象を同定する。一例では、本方法は、低用量シクロホスファミドの1つ以上のさらなる用量に応答する対象を同定する。
【0030】
一例では、本方法は、Teff及びTサプレッサー細胞(Tsupp)上のCCR4発現を検出することを含み、TsuppではなくTeff上のCCR4発現の上方調節は、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いた治療に臨床的に応答する対象を同定する。
【0031】
一例では、Teff細胞は、Tヘルパー及び/又は細胞傷害性T細胞である。さらなる例では、Teff細胞は、CD4+及びCD8+T細胞である。さらなる例では、Teff細胞は、CD4+CD25-T細胞である。なおさらなる例では、Teff細胞は、FoxP3-CD25-CD4+(Tconv)及びCD8+T細胞である。なおさらなる例では、Teff細胞はCD8+T細胞である。
【0032】
一例では、Tsupp細胞は、制御性T細胞(Treg)である。
【0033】
一例において、本方法は、低用量シクロホスファミドのもう1用量を以前に投与された対象からのTeff及びTsupp細胞上のCCR4発現の上方調節を検出することを含む。
【0034】
一例では、Teff細胞及びTreg細胞はCD3+T細胞である。一例では、Tヘルパー細胞は、以下のTH1細胞、TH2細胞、TH9細胞、TH17細胞、TH22細胞、及びTFH細胞のうちの1つ以上を含む。
【0035】
一例では、CD8+細胞はまたCD69+である。
【0036】
一例では、本方法は、対象から得られた生物学的試料中のTeff細胞上のCCR4の発現を検出することを含む。
【0037】
別の例では、検出することは、
(i)対象から得られた生物学的試料中のTeff細胞を、Teff細胞の表面上のCCR4に結合する薬剤と接触させること、及び
(ii)細胞上のCCR4の発現レベルを測定すること
を含み、Teff細胞上のCCR4発現の上方調節は、対象がシクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いたさらなるインビボ治療に臨床的に応答することを示す。
【0038】
一例では、本方法は、生物学的試料からTeff細胞を単離又は精製することをさらに含む。
【0039】
さらなる例において、本方法は、ステップ(ii)に従って測定されたCCR4の発現レベルを、シクロホスファミドを用いて前治療された対象からのTeff細胞上のCCR4の発現レベルと比較することを含む。これにより、Teff細胞のベースラインCCR4発現に関する情報を提供することができる。
【0040】
一例では、本方法は、Teff細胞を含む、対象からの生物学的試料を得ることをさらに含む。生物学的試料を得る方法は、当業者によく知られている。例えば、生物学的試料は血液試料である。
【0041】
Teff細胞を含む生物学的試料は、シクロホスファミドの少なくとも1回の投薬後の適切な時点で対象から得ることができる。例えば、生物学的試料は、シクロホスファミドが対象の免疫系、特に対象のTeff細胞の効果を発揮するのに十分な時間を有したときに得られる。別の例では、生物学的試料は、Teff細胞上のCCR4発現の上方調節が検出されるのに十分な時間を与えた後に得られる。例えば、生物学的試料は、低用量シクロホスファミドの投与の数日後又は数週間後の対象から得ることができる。例えば、生物学的試料は、シクロホスファミドの初回投薬から少なくとも7、14、18、20、又は28日後に対象から得ることができる。生物学的試料は、シクロホスファミドの初回投薬から1、2、3、4、5、6、7、又は8週間後に得ることができる。
【0042】
さらなる例では、本方法は、対象が、シクロホスファミド治療に臨床的に応答する対象として同定される場合、対象を低用量シクロホスファミドを用いて治療することをさらに含む。
【0043】
本開示の方法はまた、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いた治療に臨床的に応答する対象を予防的に同定するために使用することができ、このような対象は、シクロホスファミドを以前に受けていない。
【0044】
別の態様では、本開示はまた、以前にシクロホスファミドを受けていないがん対象が、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いた治療に臨床的に応答するかどうかを予測する方法を提供し、本方法は、対象から得られた生物学的試料中に存在するTeff細胞のインビトロでの曝露後、Teff細胞上のCCR4発現を検出することを含み、曝露後のTeff細胞上のCCR4発現の上方調節は、対象が治療に応答することを示す。一例では、本方法は、Teff細胞上のCCR4発現の上方調節を検出することをさらに含む。
【0045】
一例では、対象は、婦人科がんを有する。婦人科がんは、子宮がん、子宮内膜がん、卵巣がん、子宮頸がん、外陰がん又は膣がんからなる群から選択され得る。特定の例では、対象は、卵巣がんを有する。
【0046】
一例では、本方法は、低用量シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いた治療に臨床的に応答する対象を同定する。
【0047】
さらなる例では、対象は、アントラサイクリン、代謝拮抗剤、タキサン又は標的療法の1つ以上により以前に治療を受けた対象である。例えば、対象は、以下:エピルビシン、ドキソルビシン、パクリタキセル、ドセタキセル、5-フルオロウラシル、カペシタビン、ゲムシタビン、ビノレルビン、トラスツズマブ、ラパチニブ及びベバシズマブを含む薬剤の1つ以上を用いた治療を受けた対象である。
【0048】
一例では、対象は、非シクロホスファミド化学療法剤、例えば、白金剤に対して抵抗性である。
【0049】
一例では、本方法は、Teff及びTサプレッサー細胞(Tsupp)上のCCR4発現を検出することを含み、TsuppではなくTeff上のCCR4発現の上方調節は、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いた治療に臨床的に応答する対象を同定する。
【0050】
一例では、Teff細胞は、Tヘルパー及び/又は細胞傷害性T細胞である。さらなる例では、Teff細胞は、CD4+及びCD8+T細胞である。さらなる例では、Teff細胞は、CD4+CD25-T細胞である。なおさらなる例では、Teff細胞は、FoxP3-CD25-CD4+(Tconv)及びCD8+T細胞である。なおさらなる例では、Teff細胞は、CD8+T細胞である。一例では、CD8+T細胞はまたCD69+である。
【0051】
一例では、Tsupp細胞は、制御性T細胞(Treg)である。
【0052】
一例では、Teff及び/又はTsupp細胞は、対象から得られた生物学的試料内に存在する。
【0053】
一例では、発現の検出は、
(i)生物学的試料をインビトロでシクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体に曝露すること、
(ii)対象からの生物学的試料中のTeff細胞を、Teff細胞の表面上のCCR4に結合する薬剤と接触させること、及び
(iii)細胞上のCCR4の発現レベルを測定すること
を含み、Teff細胞上のCCR4発現の上方調節は、対象がシクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体による治療に臨床的に応答することを示す。
【0054】
さらなる例では、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体へのインビトロ曝露は、少なくとも24時間、少なくとも48時間、又は少なくとも72時間の期間にわたっている。一例では、インビトロ曝露は、約1日、約2日、若しくは約3日、又は3日を超える期間である。
【0055】
さらなる例では、生物学的試料は、インビトロでマホスファミド、イホスファミド又はトロホスファミドに曝露される。特定の例では、生物学的試料はインビトロでマホスファミドに曝露される。
【0056】
一例では、本方法は、生物学的試料からTeff細胞を単離又は精製することを含む。
【0057】
さらなる例では、本方法は、ステップ(iii)に従って測定されたCCR4の発現レベルを、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体に予め曝露された対象からのTeff細胞上のCCR4の発現レベルと比較することを含む。
【0058】
別の例では、本方法は、ステップ(iii)で決定されたCCR4発現のレベルを、対照の対象からのTeff細胞上のCCR4発現のレベルと比較することを含む。一例では、対照の対象(複数可)は、婦人科がん、より好ましくは卵巣がんを有する対象のプールされた集団から得られたTeff細胞における平均CCR4発現を指す。別の例では、対照の対象は化学療法未経験対象である。
【0059】
さらなる例では、本方法は、対象が、シクロホスファミド治療に臨床的に応答することが予測される場合、対象を低用量シクロホスファミドを用いて治療することをさらに含む。
【0060】
本開示の方法は、低用量シクロホスファミドを用いた治療に応答する対象を同定又は予測するために使用することができる。一例では、対象は、シクロホスファミド又はその類似体、誘導体若しくは活性代謝物を用いて治療することができるがんを有する。さらなる例では、対象は、C-Cモチーフケモカイン22(CCL22)を分泌するがんを有する。
【0061】
例えば、対象のがんは、ホジキン及び非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、T細胞リンパ腫(菌状息肉腫)、多発性骨髄腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、ユーイング肉腫、乳がん、精巣がん、子宮内膜がん、卵巣がん、他の婦人科がん(子宮がん、子宮頸がん、外陰がん又は膣がんなど)、肺がん、又はこれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0062】
特定の例では、対象は、卵巣がんを有する。
【0063】
一部の例では、対象は、初期のステージのがんを有する。一部の例では、対象は、高度治療難治性がんを有する。
【0064】
本開示による対象は、ヒトの男性又は女性であり得る。一例では、対象は、成人の対象(例えば、18歳以上の対象)である。
【0065】
本明細書に記載される方法は、好ましくは、低用量シクロホスファミド又はその類似体、誘導体若しくは活性代謝物を用いた治療に応答する対象を同定又は予測する。治療期間は、典型的には、治療する医師によって決定される。
【0066】
用語「低用量シクロホスファミド」は、治療する医師が理解する投薬量である。一例では、低用量シクロホスファミドは、実施例において本明細書に記載される用量を指す。理論に縛られることを望まないが、低用量シクロホスファミドは、有毒な高用量で投与した場合に、その薬剤の副作用の一部又はすべてを回避しながら、対象に臨床的利益を提供する化学療法の用量を指すものと理解される。一例では、低用量シクロホスファミドは、1日2回経口投与される、25~50mgの用量を指す。
【0067】
本明細書に記載される方法によるさらなる例では、Teff細胞上のCCR4発現の上方調節は、このような細胞を含む生物学的試料において検出される。生物学的試料は、好ましくは、エフェクターT細胞が存在する任意の試料であり、限定されないが、骨髄、脾臓、リンパ節、パイエル板、粘膜関連リンパ組織、腸関連リンパ組織、又は血液が含まれる。さらなる例では、生物学的試料は、血液試料、例えば、全血又は血清試料である。さらなる例では、生物学的試料は、末梢血単核細胞(PBMC)を含む。
【0068】
別の例では、生物学的試料は腹水である。別の例では、試料は、がんに罹患した臓器からの腫瘍浸潤リンパ球(TILS)である。一部の例では、生物学的試料は、赤血球を除去するために前処理される。生物学的試料が臓器、脾臓生検である場合、機械的手段を使用して(例えば、ピンセットで組織を引き離すことによって)組織から細胞懸濁液を調製することができる。細胞を濃縮するために、さらなる手段、例えば、遠心分離を使用することができる。他の例では、組織から細胞外マトリックス成分などを除去するために試料を処理することができる。
【0069】
一部の例では、生物学的試料は凍結保存され、後の分析のために保存される。
【0070】
Teff細胞上のCCR4発現の検出は、インビボ又はインビトロで実行され得る。
【0071】
別の例では、本明細書に記載される任意の方法によれば、方法は、
(i)対象からの生物学的試料であって、エフェクターT細胞を含む生物学的試料を得ること、及び
(ii)生物学的試料から細胞懸濁液を調製すること
をさらに含む。
【0072】
一部の例では、生物学的試料は、リンパ球細胞(例えば、Teff細胞)を精製し又は濃縮することができる。例えば、選別手法(例えば、FACS)を使用して、望ましくない細胞、例えば、マクロファージ、樹状細胞及びB細胞を除去することができる。一例では、細胞は、CD3の発現に基づいて選別される。別の例では、B細胞は、B細胞マーカー(例えば、B220)の発現に基づいて陰性選別される。別の例では、細胞は、磁気標識されたビーズ(例えば、Dynabeads)を用いて精製することができる。
【0073】
生物学的試料は、T細胞の少なくとも一部がTエフェクター細胞である不均一な細胞集団を含み得る。例えば、細胞集団は、少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも30%、又はそれ以上のTエフェクター細胞を含み得る。別の例では、生物学的試料は、Tエフェクター細胞の精製された又は濃縮された集団を含み得る。例えば、細胞集団は、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも60%、少なくとも70%、又はそれ以上のエフェクターT細胞を含み得る。
【0074】
細胞上のCCR4の発現の検出は、当技術分野において公知である方法に従って実施することができる。一例では、細胞上のCCR4の発現の検出は、フローサイトメトリーによって実行される。
【0075】
CCR4発現の上方調節の測定は、定性的又は定量的であり得る。CCR4発現レベルの差は、使用する方法に応じて、絶対値、比率又は倍率変化として表すことができる。
【0076】
本明細書に記載される任意の方法による一例では、Teff細胞は、CD4+及び/又はCD8+T細胞を含む。一例では、CD4+細胞は、Tヘルパー1(TH1)又はTH2細胞である。一部の例では、細胞は、CD4+エフェクターT細胞を含む。一部の例では、細胞の試料は、CD8+エフェクターT細胞を含む。別の例では、細胞は、従来のT(Tconv)細胞を含む。別の例では、Tconvは、CD4+TH1 T細胞及び/又はCD8+細胞傷害性T細胞を含む。さらなる例では、Teffは、CD25-CD4+細胞を含む。さらなる例では、Teffは、FoxP3-CD25-CD4+細胞を含む。さらなる例では、Teffは、CD8+細胞を含む。さらなる例では、Teffは、CD8+CD69+細胞を含む。別の例では、Teff細胞は、FoxP3-CD25-CD4+細胞とCD8+T細胞の組み合わせを含む。
【0077】
一部の例では、CCR4発現の上方調節は、定量的又は定性的に決定される。一部の例では、CCR4発現の上方調節は、シクロホスファミド又はその類似体、誘導体若しくは活性代謝物を用いたインビボでの治療の前後で同じ対象からのTeff細胞におけるCCR4の発現レベルを比較することにより決定される。
【0078】
一部の例では、CCR4の上方調節は、シクロホスファミド又はその類似体、誘導体若しくは活性代謝物へのインビトロ曝露の前後で同じ対象からのTeff細胞におけるCCR4の発現レベルを比較することにより決定される。
【0079】
一部の例では、Teff細胞上のCCR4発現は、シクロホスファミド治療の各サイクルの後に決定され得る。別の例では、対象が、毎日連続的なシクロホスファミドを受けている場合、Teff上のCCR4発現は、所定の時点(複数可)で決定され得る。例えば、シクロホスファミド治療の有効性をモニタリングするために、7日ごと、14日ごと、又は毎月、Teff細胞を含む生物学的試料を対象から得ることができる。CCR4の発現レベルが経時的に低下する場合、これは、対象が応答しておらず、例えば、代替の化学療法剤(複数可)を含む代替の治療形態を調査する必要があることを臨床医に警告する。したがって、一部の例では、本方法は、ベースライン又は治療前のレベルとの比較を必要としない。Teff細胞上のCCR4発現は、低用量シクロホスファミドのサイクル間で、又は対象が連続的な低用量シクロホスファミドを受けている場合は、一定の時間間隔で比較され得る。
【0080】
一部の例では、Teff細胞を含む生物学的試料は、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体の少なくとも1用量の投与前、あるいはシクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体への生物学的試料の曝露前(インビトロアッセイの場合)の、任意の時点で対象から得られ、Teff細胞上のCCR4の前処理又はベースラインレベルを提供する。
【0081】
一例では、ベースライン試料は、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体の少なくとも1用量の投与前、あるいはシクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体への曝露前の、少なくとも30日前、少なくとも20日前、少なくとも15日前、少なくとも2週間前、少なくとも1週間前、若しくは1週間未満前に得られる。
【0082】
本明細書に記載される予後診断方法に関して、生物学的試料は、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体への試料のインビトロ曝露前の任意の時点で対象から得ることができる。一部の例では、生物学的試料は、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体への試料のインビトロ曝露の少なくとも2週間前、1週間前、少なくとも72、48、24時間前又はそれよりも前に得ることができる。一部の例では、生物学的試料は、事前に凍結保存され、都合の良い時間で分析のために保存される。
【0083】
本明細書に記載される診断方法に関して、本方法は、任意のプロトコルに従って低用量シクロホスファミド療法を受けている対象における低用量シクロホスファミド応答者の同定を行う。一部の例では、対象は、対象から生物学的試料を得る前に2用量、3用量、4用量、5用量又はそれ以上のシクロホスファミドを受けている。一例では、生物学的試料は、低用量シクロホスファミドを用いた治療プロトコルを受けている対象から得られる。一例では、生物学的試料は、低用量シクロホスファミドのサイクルを受けている対象から得られる。別の例では、生物学的試料は、低用量シクロホスファミド治療のサイクル間にあるが、少なくとも1用量の低用量シクロホスファミドを受けた対象から得られる。
【0084】
一部の例では、Teff細胞上のCCR4の発現は、CCR4発現の適切な対照、前処理又はベースラインレベルと比較して、少なくとも1.5、2、3、4、5、6、7倍又はそれ以上で上方調節される。
【0085】
一部の例では、制御性T細胞上のCCR4の発現レベルと、細胞傷害性T細胞及び/又はヘルパーT細胞(すなわち、Teff細胞)上のCCR4の発現レベルの比を使用して、シクロホスファミド又はその類似体、誘導体若しくは活性代謝物に対して陽性に応答する対象を同定又は予測することができる。
【0086】
一部の例では、細胞傷害性T細胞及び/又はヘルパーT細胞(すなわち、Teff細胞)上のCCR4発現の比は、Treg上のCCR4発現と比較して、少なくとも2倍、少なくとも3倍、若しくは少なくとも4倍、又はそれ以上増加する。別の例では、CD4+T細胞(従来のT細胞、Tconv)上のCCR4発現は、Tregと比較して、少なくとも2倍、又は少なくとも3倍増加する。別の例では、CD8+T細胞上のCCR4発現は、Tregと比較して、少なくとも3倍、又は少なくとも4倍増加する。
【0087】
別の例では、CCR4の上方調節はパーセンテージとして表され得る。例えば、CCR4発現は、Tregと比較して5%、10%、15%、20%、50%、80%、100%、200%、300%、400%、500%若しくは600%、又はそれ以上増加する場合がある。
【0088】
本明細書に記載される方法は、シクロホスファミドに臨床的に応答する対象として対象が同定された場合に対象を治療するステップをさらに含む。
【0089】
当業者は、低用量シクロホスファミドを用いて患者を治療するためにいくつかの異なるプロトコルが利用可能であることを理解する。治療のスケジュール及び期間は、一般的に臨床医の裁量であり、対象の年齢及びがんのステージなどの要因に依存し得る。例えば、対象は、メトロノームのような低用量シクロホスファミド化学療法を受けることができる。メトロノーム化学療法とは、低用量で頻繁に、長期に薬物がない期間をなくして、反復して投与することを意味する。例えば、シクロホスファミドは、連続した3日間、連続した14日間又は連続した30日以上にわたって投与することができる。
【0090】
さらなる例では、対象は、周期的な低用量のシクロホスファミドを受けることができる。対象は、例えば、2~10、3~8、4~6などの任意の回数の治療サイクルを受けることができる。あるいは、対象は、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、18、20回、又はそれ以上の治療サイクルを受けることができる。
【0091】
他の例では、対象は、少なくとも3~7日の連続期間、低用量シクロホスファミドを受けることができ、その後、所定の期間、例えば1~2週間の休憩が続く。一例では、対象は、治療サイクルで2週間おきに低用量のシクロホスファミドを受けることができる。例えば、対象は、2週間間隔で3日間の連続したシクロホスファミドを毎日受けることができる。
【0092】
シクロホスファミドは、全身的又は経口的に対象に投与され得る。全身投与形態には、直接静脈内注射又は静脈内注入が含まれる。
【0093】
一例では、本方法は、治療有効量で低用量シクロホスファミドを用いて対象を治療することを含む。さらなる例では、シクロホスファミドは、免疫モジュレート効果を提供するのに十分な量で投与される。
【0094】
対象は、低用量シクロホスファミドを単回投薬又は分割投薬として受けることができる。一例では、対象は、シクロホスファミドを50~300mgの用量で毎日受けることができる。一例では、投与は、50mgで、経口による1日2回(朝と晩)である。
【0095】
本開示はまた、がん対象の低用量シクロホスファミド治療の有効性を評価する方法を提供し、本方法は、第1の時点でTeff細胞を含む第1の生物学的試料においてCCR4の発現レベルを検出すること、後の時点でTeff細胞を含む第2の生物学的試料を用いてこの分析を反復すること、及び2つの時点でのCCR4の発現レベルを比較することを含み、第1の試料と比較した、第2の試料のTeff細胞上のCCR4発現の上方調節は、臨床的に有効な治療を示す。
【0096】
一例では、第1の時点は、対象が、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体の少なくとも1用量を投与される前又は後である。
【0097】
本開示はまた、対象における卵巣がんの退行又は進行を評価するためのモニタリング方法を提供し、本方法は、第1の時点でTeff細胞を含む第1の生物学的試料においてCCR4の発現レベルを検出すること、後の時点でTeff細胞を含む第2の生物学的試料を用いてこの分析を反復すること、及び2つの時点でのCCR4の発現レベルを比較することを含み、第1の試料と比較した、第2の試料中のTeff細胞上のCCR4発現の上方調節は卵巣がんの退行を示す。
【0098】
一例では、第1の時点は、対象がシクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体の少なくとも1用量を受ける前又は後である。一例では、第1の時点は、治療前又はベースラインであり、第2の時点は、シクロホスファミド治療後である。別の例では、第1と第2の時点の両方が、対象におけるシクロホスファミド治療後である。
【0099】
一部の例では、CCR4発現のレベルは、健康な(非がん性)対象から得られたCCR4発現のベースラインレベルと比較される。他の例では、対象のシクロホスファミド応答をモニターするために、シクロホスファミドの各サイクルの前にTeff上のCCR4発現を測定することができる。
【0100】
一部の例では、本明細書に記載される方法は、チェックポイント阻害剤(複数可)、抗がんワクチン(複数可)、モノクローナル抗体、追加の化学療法剤(複数可)、サイトカイン、腫瘍溶解性ウイルス、キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法、及び免疫モジュレート剤(複数可)又はこれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択された治療剤を対象に投与することをさらに含む。チェックポイント阻害剤は、PD-1又はPD-L1を標的とするもの(例えば、PD-1又はPD-L1阻害剤)であり得る。一例では、PD-1又はPDL-1は、ペンブロリズマブ(キートルーダ)、ニボルマブ(オプジーボ)、及びアテゾリズマブ(テセントリク)からなる群から選択される。一例では、チェックポイント阻害剤は、CTLA-4を標的とする薬剤である。
【0101】
別の例において、追加の化学療法剤は、アドリアマイシン、ビンクリスチン、ドキソルビシン、カルボプラチン、若しくはメトトレキセート、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0102】
一例では、免疫モジュレート剤は、レナリドマイド及びポマリドマイド又はそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0103】
本明細書に記載される方法はまた、対象においてがんを治療する方法に使用することができる。
【0104】
別の態様では、本開示はまた、それを必要とする対象において婦人科がんを治療する方法を提供し、本方法は、
(i)本明細書に記載される方法を実施して、低用量シクロホスファミドに応答する対象を同定又は予測すること、及び
(ii)対象が低用量シクロホスファミドを用いた治療に臨床的に応答する対象であるものと同定又は予測される場合、対象にさらなる低シクロホスファミドを投与すること
を含む。
【0105】
一例では、本方法は、
(i)対象から得られた生物学的試料中のTeff細胞を、Teff細胞の表面上のCCR4に結合する薬剤と接触させること、及び
(ii)細胞上のCCR4の発現レベルを測定すること
をさらに含む。
【0106】
一例では、本方法は、生物学的試料からTeff細胞を単離又は精製することをさらに含む。
【0107】
本開示はまた、低用量シクロホスファミドを用いて卵巣がん対象を治療する方法を提供し、対象は、本明細書に記載される方法に従って低用量シクロホスファミドに応答することが以前に同定又は予測されている。
【0108】
別の態様では、本開示は、それを必要とする対象において卵巣がんを治療する方法を提供し、本方法は、
(i)シクロホスファミド治療、又はその類似体若しくは誘導体の少なくとも1用量又はサイクルの投与後の対象からのTeff細胞上のCCR4の発現を検出すること、
(ii)Teff細胞のCCR4発現の上方調節のレベルを測定すること、及び
(iii)対象がTeff細胞上のCCR4発現の上方調節を有する場合、対象に低シクロホスファミドをさらに投与すること
を含む。
【0109】
本開示はまた、本明細書に記載される方法に従って低用量シクロホスファミドに応答する対象を同定又は予測する方法において使用するための又は使用する場合、Teff細胞及びそれに結合するCCR4結合部分を含む複合体を提供する。
【0110】
本明細書に開示される方法は、他のスクリーニング方法と組み合わせて使用して、所定のがんと正に相関する1つ以上のバイオマーカーの発現に基づいてがん対象を同定することができる。一例では、対象から得られた生物学的試料は、卵巣がんにおいて過剰発現する1つ以上のバイオマーカーについてさらにスクリーニングされ得、バイオマーカーは、HE4、CA125、グリコデリン、MMP-7、Muc-1、PAI-1、CTHRC1、インヒビンA、PLAU-R、プロラクチン、KLK-10、KLK-6、SLPI、アルファ-1抗トリプシン、Imp-2、MAL2、Cox-1、プロテインキナーゼC-iota、カドヘリン-6、ADPRT、マトリプターゼ、葉酸受容体、クローディン4、メソセリン、アクアポリン5、コフィリン1、ゲルゾリン、クラステリン、アルファテトラネクチン、ビトロネクチン、PAPP-A及びホリスタチンからなる群から選択される。
【0111】
本開示はまた、本明細書に記載される方法のいずれかで使用するための又は使用する場合に、Teff細胞上のCCR4発現を検出するための試薬を含むキットを提供する。一例では、キットは、生物学的試料を回収する容器と、CD3、CD8、CD4、CD25、CCR4及びFoxP3からなる群から選択される表面抗原に結合する1つ以上の結合試薬とを含む。
【0112】
場合により、本明細書において提供される方法のいずれかは、他の公知の方法、特にがんについての公知の診断、予後診断、予測、及び/又はモニタリング方法と組み合わせて使用され得る。
【0113】
一部の例では、本開示の方法及びキットは、がん患者の層別化を有利に可能にする。これにより、所定の個々の対象に対してより最適な抗がん治療又はレジメンを同定することができる。また、これにより、治療レジメンの調整を、治療の第1のサイクル内でのCCR4レベルの変化を考慮して行うことができる。一部の実施形態では、本開示の方法及びキットは、有利には、容易に入手可能な試料、例えば、血液試料で実行することができるバイオマーカーの試験による予測、層別化、及び/又はモニタリングを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0114】
図1】ヒトCCR4の配列を示す図である。
図2】シクロホスファミドは、T細胞でのCCR4発現を増加させる。末梢血単核細胞(PBMC)は、治療前、及び3日間連続して1日2回、50mgの経口シクロホスファミドによる各治療サイクル後のがん患者から得られた。T細胞上のCCR4の発現は、フローサイトメトリーを使用して決定された。CCR4+T細胞の頻度の変化を決定し、4人の患者が治療後のCCR4+T細胞の頻度の有意な増加を示した。(A)CD3+T細胞上のCCR4の発現は、治療後のCCR4+T細胞の頻度に変化がない患者(一定のCCR4%、n=6)と、治療後のCCR4+T細胞の頻度が少なくとも一度、有意に増加した患者(増加したCCR4%、n=4)との間で比較された。(B)2つの患者群間で全生存率もまた比較した。(C)CCR4+T細胞の頻度が増加し、疾患の安定性が生じた時点。*は、治療前レベルからの倍率変化におけるp<0.05の統計的有意性を表し、グラフは平均±平均の標準誤差(SEM)を示す。
図3】CCR4発現は、エフェクターT細胞集団で上方調節される。CCR4+T細胞(4人の患者からのn=6)の頻度が有意に増加した時点で、増加したCCR4%の患者におけるFoxP3+CD25+CD4+T細胞(Tregs)、FoxP3-CD25-CD4+T細胞(Tconvs)及びCD8+T細胞に分析を限定した。CCR4の平均蛍光強度(MFI)の倍数増加とともに、CCR4+細胞のこれらの頻度における治療前レベルからの倍数増加をプロットした。*p<0.05、治療前レベルからの倍率変化の統計的有意性。B TconvとTreg及びCD8+T細胞とTregの比は、すべての患者の治療の最初の3サイクルについて計算された。次に、これらの比は、一定のCCR4%(6人の患者からのn=12)の患者と増加したCCR4%の患者(4人の患者からのn=11)の間で比較された。*は、p<0.05を表し、**は、患者群間のp<0.01の統計的有意性を表し、グラフは平均値±平均の標準誤差(SEM)を示す。
図4】CCR4発現の上方調節後、T細胞は細胞傷害性を保持する。増加したCCR4+T細胞%の患者からのT細胞の細胞傷害性機能は、CCR4+T細胞の頻度が有意に増加した時点で評価された。PBMCは、タンパク質輸送阻害剤及び抗CD107aの存在下で、50ng/mlのホルボール12-ミリストレート13-アセテート(PMA)及び1μg/mlのイオノマイシンを用いて6時間刺激された。A及びB、次に、CD4+及びCD8+T細胞上のCD107aの発現は、フローサイトメトリーで決定され、治療前レベルと比較された(n=3患者)。グラフは、平均±平均の標準誤差(SEM)を示す。
図5】マホスファミドの最適用量。健康なドナーPBMCは、上記のように様々な濃度のマホスファミドで処理された。CCR4+T細胞(右y軸)及び生細胞(左y軸)の頻度は、フローサイトメトリーを使用して決定された(n=6人のドナー)。*は、p<0.05を表し、***は未処理と比較したp<0.001の統計的有意性を表す。グラフは平均±平均の標準誤差(SEM)を示す。
図6-1】マホスファミドは、T細胞上のCCR4の発現を誘導する。健康なドナー及びがん患者の治療前のPBMCは、1.5μg/mlのマホスファミドの有無にかかわらずに72時間培養された。A 次に、CD3+T細胞上のCCR4の発現はフローサイトメトリーを使用して決定され、未処理細胞とマホスファミド処理細胞間で比較された(健康なドナーn=20及びがん患者n=10)。**は、p<0.01を表し、****は、処理された細胞と未処理の細胞間でp<0.0001の統計的有意性を表す。B 次に、CCR4+T細胞の頻度とCCR4のMFIは、Treg、Tconvs、及びCD8+T細胞について決定され、未処理値に対して標準化された処理値が決定された(健康なドナーn=14及びがん患者n=10)。**は、p<0.01を表し、***は、未処理レベルからの倍率変化におけるp<0.001の統計的有意性を表す。C TconvsとTregs及びCD8+T細胞とTregsの比は、マホスファミド処理細胞について決定され、未処理細胞と比較された(健康なドナーn=11及びがん患者n=10)。*は、p<0.05を表し、**はp<0.01を表し、***は処理群間のp<0.001の統計的有意性を表す。グラフは、平均±平均の標準誤差(SEM)を示す。
図6-2】D CCR4定常(n=6)とCCR4スパイク(n=4)患者間のCCR4+CD4 T細胞エフェクターの頻度の上方調節の比較(p<0.0005)。
図7】パクリタキセル(抗腫瘍薬)はT細胞上のCCR4発現を誘導しない。健康なドナーPBMCは、培地のみ、1.5μg/mlのマホスファミド又は30ng/mlのパクリタキセルとともに、5%CO2加湿インキュベーターで37℃にて72時間培養された。次に、CD8+及びCD4+CD25-T細胞上のCCR4の発現は、フローサイトメトリーを使用して決定され、CCR4発現%は培地のみに対して標準化された(n=8)。*は、p<0.05を表し、**は、処理細胞と培地のみの細胞間のp<0.01の統計的有意性を表す。グラフは平均±平均の標準誤差(SEM)を示す。
図8】一定のCCR4%患者と増加したCCR4%患者間でのCCR4+T細胞の頻度の上方調節の比較を示す図である。(A)、(B)及び(C)、マホスファミドを用いたインビトロ処理後のがん患者の処理前試料におけるCD3+T細胞、Tconvs及びCD8+T細胞上のCCR4発現の倍率変化は、一定のCCR4%患者(n=6患者)と増加したCCR4%患者(n=4患者)間で比較された。*は、患者群間のp<0.05の統計的有意性を表す。グラフは平均±平均の標準誤差(SEM)を示す。
図9】マホスファミドによるCCR4誘導のメカニズムを示す図である。健康なドナーPBMCは、1.5μg/mlのマホスファミドの有無にかかわらずに24、48、72時間培養された。インキュベーションの最後の6時間において、細胞は、50ng/mlのホルボール12-ミリストレート13-アセテート(PMA)及び1μg/mlのイオノマイシンで刺激された。インキュベーションの最後の4時間、ブレファルディンAを3μg/mlで添加した。A IL-4+細胞の頻度は、フローサイトメトリーを使用して決定され、スピアマン相関分析を使用すると、非刺激細胞のCCR4+T細胞の対応する頻度と相関していた(6人のドナーからのn=18ポイント)。B CD4+及びCD8+T細胞は、蛍光活性化細胞選別を使用して精製され、次に、20単位/mlのIL-2の存在下で、1.5μg/mlのマホスファミドの有無にかかわらずに72時間培養された。次に、CCR4+細胞の頻度はフローサイトメトリーを使用して決定され、未処理の試料からの倍率変化を計算した。CCR4+T細胞の頻度の倍数変化は、全PBMCの培養物からの精製T細胞とT細胞との間で比較された(n=3人のドナー)。C PBMCは、1.5μg/mlのマホスファミド(mafos)又は10ng/mlのIL-4又は20単位/mlのIL-2のいずれかとともに72時間培養された。インキュベーションの最後の4時間において、50nM LBH589をIL-2培養物に添加した。H3K9、H3K14、及びH3K18のアセチル化の細胞内レベルは、フローサイトメトリーを使用して決定された(n=6人のドナー)。H3K9、H3K14、及びH3K18のアセチル化のMFIを計算し、CD4+とCD8+T細胞、及びそれらの中のCCR4+とCCR4-細胞の未処理レベルに対して標準化された。*は、未処理レベルからの倍率変化におけるp<0.05の統計的有意性を表す。グラフは平均±平均の標準誤差(SEM)を示す。
図10】CCR4誘導のメカニズムを示す図である。健康なドナーPBMCは、1.5μg/mlのマホスファミドの有無にかかわらずに24時間、48時間、72時間培養された。次に、上記の細胞内サイトカイン分析のために細胞を刺激した。A及びB CD4+及びCD8+T細胞を含むIL-2+細胞の頻度は、スピアマン相関分析を使用すると、未処理細胞のCCR4発現の対応する頻度と相関した(6人のドナーからのn=18ポイント)。
図11】H3K9、H3K14及びH3K18アセチル化の代表的なプロットを示す図である。健康なドナーPBMCは、1.5μg/mlのマホスファミドで72時間処理された。H3K9、H3K14、及びH3K18のアセチル化は、方法のセクションに記載されるフローサイトメトリーを用いて決定された。陽性細胞のゲートは、アイソタイプに基づいて設定された。アセチル化レベルの変化を比較するために、各処理群のポジティブゲートの細胞のMFIを培地のMFIに対して標準化した。
図12】マホスファミドにより誘導したCCR4発現は、T細胞をCCL22に向かって遊走させることを可能にする。健康なドナーPBMCは、上記のようにマホスファミド(mafos)で処理された。次に、細胞をトランスウェルインサート内に2.5×105細胞/100μlの濃度で播種し、CCL22(100ng/ml)又は培地のみのいずれかを含むボトムチャンバーに2時間遊走させた。A CCL22に向かって遊走した細胞の数を、培地に向かって遊走した細胞の数で除することにより、遊走指数を計算した。未処理及びマホスファミドで処理された細胞の遊走指数をプロットした(n=7)。*は、未処理レベルからの倍率変化におけるp<0.05の統計的有意性を表す。B 遊走指標は、スピアマン相関分析を使用すると、CCR4+T細胞の対応する頻度と相関した(7人のドナーからのn=14ポイント)。C 遊走したTconvsとTregs及びCD8+T細胞とTregsの比は、未処理細胞とマホスファミド処理細胞との間で比較された(n=7人のドナー)。*は、治療群間のp<0.05の統計的有意性を表す。グラフは平均±平均の標準誤差(SEM)を示す。
図13】CCL22の血清濃度を示す図である。マルチプレックスビーズイムノアッセイキットを使用して、治療前の患者(n=10人の患者)及び健康なドナー(n=5人のドナー)の血清中のCCL22の濃度を決定した。*は、患者と健康なドナー間のp<0.05の統計的有意性を表す。グラフは平均±平均の標準誤差(SEM)を示す。
図14】対照の生理食塩水処理されたマウスに対して標準化された、ID8腫瘍保有動物における治療後14日目のLDCyによる末梢血中のCCR4を発現するCD8 T細胞の増加を示す図である。CD69を発現している活性化CD8 T細胞について腫瘍浸潤リンパ球(TILS)の同時増加を伴う。**はp<0.02を表す。
【発明を実施するための形態】
【0115】
他に定義されない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本開示が属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似又は同等の任意の材料及び方法を使用して、本開示を実施又は試験することができる。実施者は、当業者に公知である技術及び他の方法の定義及び用語に関して、特に、Ausubelら, Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 47, John Wiley & Sons, New York, 1999年; Colowick and Kaplan,編集, Methods In Enzymology, Academic Press, Inc.; Weir and Blackwell,編集, Handbook of Experimental Immunology, Vols. I-IV, Blackwell Scientific Publications, 1986年; Remington's Pharmaceutical Sciences (第18版, Mack Easton, Pa. (1990年))に向けられる。
【0116】
本明細書を通じて、他に特に記載がない限り、又は文脈が他に要求していない限り、単一のステップ、物質の組成、ステップの群、又は物質の組成の群への言及は、これらのステップ、物質の組成、ステップの群、又は物質の組成の群の1つ及び複数(すなわち、1つ以上)を包含するものとする。
【0117】
当業者は、本明細書に記載された開示が、具体的に記載されたもの以外の変形及び修飾を受け得ることを承認する。本開示は、すべてのこのような変形及び修飾を含むことを理解されたい。本開示はまた、個々に又は集合的に、本明細書において言及又は指示されるすべてのステップ、特徴、組成物及び化合物、並びに上記ステップ又は特徴の任意の及びすべての組み合わせあるいは任意の2つ以上を含む。
【0118】
本開示は、例示のみを目的とすることが意図される、本明細書に記載される特定の実施形態によって範囲が限定されるものではない。機能的に同等の製造物、組成物、及び方法は、明示的に本開示の範囲内である。
【0119】
本明細書に開示される任意の例は、他に特に記載がない限り、必要な変更を加えて他の例に適用されるものとする。
【0120】
本明細書を通じて、「含む(comprise)」という用語、又は変形、例えば、「含む(comprises)」又は「含んでいる(comprising)」は、記載された要素、構成要素(integer)若しくはステップ、又は要素、構成要素若しくはステップの群を意味するが、任意の他の要素、構成要素若しくはステップ、又は要素、構成要素若しくはステップの群を除外しないものと理解される。
【0121】
用語「及び/又は」、例えば、「X及び/又はY」とは、「X及びY」又は「X又はY」のいずれかを意味することが理解され、両方の意味又はいずれかの意味に対する明示的なサポートを提供するものと解釈されるべきである。さらに、最後から2番目と最後の特徴間に「及び/又は」という語句を含むリスト又は特徴は、リストされた特徴の任意の1つ以上が任意の組み合わせで存在する可能性があることを意味する。
【0122】
単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」への言及は、文脈が他に指示をしない限り、複数形の包含を意味すると理解される。
【0123】
本開示で使用されるように、用語「又は」とは、排他的な「又は」というよりはむしろ、包括的な「又は」を意味することが意図される。すなわち、他に特定しない限り、又は文脈から明らかでない限り、「XはA又はBを使用する」とは、自然な包括的な順列のいずれかを意味することが意図される。すなわち、XがAを使用する場合、XはBを使用する。又は、XがAとBの両方を使用する場合、「XはA又はBを使用する」が前述の場合のいずれかで満たされる。さらに、A及びBの少なくとも一方並びに/又はその他は、一般的に、A又はB、又はAとBの両方を意味する。
【0124】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるとき、単数形の用語、及び単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、例えば、内容が他に明確に指示しない限り、複数の指示対象を場合により含む。
【0125】
他に記載がない限り、本明細書で使用される「シクロホスファミド」という用語への言及には、シクロホスファミドの類似体、誘導体又は活性代謝物もまた含まれる。
【0126】
本明細書で使用するとき、用語「約」とは、反対に記載がない限り、指定された値の+/-10%、より好ましくは+/-5%、より好ましくは+/-1%を指す。
【0127】
本明細書に含まれている書面、行為、材料、装置、記事などについての検討は、これらの事項のいずれか又はすべてが、先行技術の基礎の一部を形成する、又は、本出願の各クレームの優先日以前に存在していた本開示に関連する、当該分野における共通の一般知識であると認めるものではない。
【0128】
選択された定義及び語句
用語「対象」とは、本明細書で使用するとき、ヒト及び非ヒト動物を含む哺乳動物を指す。より詳細には、哺乳動物はヒトである。さらにより具体的には、対象は女性である。用語、例えば、「対象」、「患者」又は「個体」は、文脈では、本開示において互換的に使用することができる用語である。特定の例では、対象は、成人又は子供(小児)対象であり得る。用語「成人」とは、本明細書で使用するとき、18歳以上のヒト対象を意味することが理解される。対象は、60歳から85歳までの年齢の成人の対象であり得る。
【0129】
用語「低用量シクロホスファミド」とは、対象においてがんを抑制するのに有効であるが、副作用は最小限である用量を意味することが意図される。低用量シクロホスファミドを構成するものは、典型的には、医師の裁量であり、この用語は特定の用量に限定されることを意図しない。臨床的に、低用量シクロホスファミドは、1日あたり約1.2~2g/m2の経口用量又は約25~150mgの経口用量を指すものと理解される。
【0130】
用語「用量」とは、本明細書で使用するとき、所定量のシクロホスファミドの単回投与を指す。
【0131】
用語「発現レベルを測定する」とは、本明細書で使用するとき、広い意味を有することが意図され、定性的又は定量的な測定のいずれかを包含することができる。発現レベルを測定する方法は、本明細書の他の場所で説明されている。例として、Teff細胞上のCCR4の発現は、所定のマーカー及び適切なアイソタイプ又は他の適切な対照に対して陽性である細胞間の蛍光強度の対数(又は線形)増加を測定することによって定量的に決定することができる。データは、平均蛍光強度(ヒストグラム上のピークによって表される)が対照の平均蛍光強度と比較されるヒストグラムとして表すことができる。ヒストグラムのX軸に沿った右へのシフトは、陽性染色、したがってマーカーの発現を示す。
【0132】
「治療」又は「治療する」という用語は、本明細書で使用するとき、臨床病理学の経過中に治療される個体又は細胞の自然経過を変えるように設計された臨床的介入を指す。治療の望ましい効果には、疾患の進行速度の減少、疾患状態の改善又は緩和、及び寛解又は予後の改善が含まれる。例えば、疾患に関連付けられる1つ以上の症状が緩和又は排除された場合、個体は成功裏に「治療」される。治療は、好ましくは抗がん治療である。本明細書における「抗がん治療」への言及は、がんの治療に向けられる任意の治療を含む。治療には、外科手術、化学療法、放射線療法、及び/又は薬物が含まれ得る。
【0133】
本明細書で使用するとき、「がんを治療する」という用語は、絶対的な用語であることを意図していない。一部の態様では、本開示の方法は、腫瘍のサイズ又はがん細胞の数を減らす、がんを寛解させる、又はがん細胞のサイズ若しくは細胞数の成長を防ぐことを追求する。一部の状況では、「がんを治療する」は、予後及び/又は生存の改善をもたらす。
【0134】
本明細書で使用するとき、用語「予後」とは、疾患の重症度、又は疾患、好ましくはがんに関連付けられる可能性のある経過及び臨床結果のリスク予測を指す。それは、所定の結果が生じる確率を当業者が推定及び/又は決定することができる方法を包含する。予後が関連する結果は、罹患率及び/又は死亡率であり得る。特に、予後は「無増悪生存期間」(PFS)に関連し得、これは、患者が疾患の進行なしに疾患とともに生きる時間の長さである。したがって、PFSは、治療開始からがん進行の日までの時間、又は治療終了からがん進行の日までの時間であり得る。予後は、全生存に関連する可能性がある。「全生存期間」(OS)とは、死に至るまでに、患者が疾患とともに生きる時間の長さを意味する。例えば、全生存期間は、がんの診断、治療の開始、又は治療の完了から死亡までの時間として定義される。全生存期間は、典型的には、「全生存率」として表され、これは、研究又は治療群において、がんなどの疾患について、診断された後、又は治療を開始した後、又は治療を完了した後、一定期間、なおも生存している人々の割合である。全生存率は、例えば、5年生存率として記載することができる。これは、診断又は治療の開始若しくは完了後に5年生存している研究又は治療群の人々の割合である。
【0135】
特定の型のがんを有する患者の平均(例えば、中央値、平均値又は最頻値)OS及びPFSに関する統計情報は、当業者に利用可能である。したがって、対象がこのような平均と比較してOS又はPFSの増加若しくは減少を有するか、あるいは有する可能性が高いかどうかの決定を行うことができる。
【0136】
本明細書で使用するとき、「生存の向上」という用語とは、疾患、例えば、がんに罹患している対象の寿命又は生活の質の向上を指す。例えば、生存の向上はまた、がん寛解の促進、腫瘍浸潤の防止、腫瘍再発の防止、腫瘍成長の遅延、腫瘍成長の防止、腫瘍サイズの減少、総がん細胞数の減少なども含まれる。
【0137】
「進行する」又は「進行」とは、疾患が悪化すること、すなわち、重症度が増加すること、例えば、腫瘍量が増加すること、腫瘍のサイズ及び/又は重量が増加すること、がんが悪性又はより悪性になること、並びに/又はその転移が発生するか若しくは転移の発生率及び/若しくは速度が増加することを意味する。
【0138】
「退行する」又は「退行」とは、疾患が改善すること、すなわち、重症度が低下すること、例えば、腫瘍量が減少すること、腫瘍のサイズ及び/又は重量が減少すること、又は検出できなくなること、がんの悪性度が低下すること、並びに/又は転移の発生率及び/若しくは速度が低下することを意味する。
【0139】
「予測」又は「予測する」という用語は、本明細書で使用するとき、特定の結果の可能性を判断することを指す。
【0140】
「有効量」とは、所望の治療又は予防結果を達成するために、必要な投薬量及び期間で少なくとも有効な量を指す。有効量は、1回以上の投与で提供することができる。本開示の一部の例では、用語「有効量」は、上記の疾患又は状態の治療をもたらすのに必要な量を指すために使用される。有効量は、治療される疾患又は状態、並びに治療される哺乳動物に関する体重、年齢、人種的背景、性別、健康及び/又は身体状態及び他の要因によっても異なり得る。典型的には、有効量は、医師による日常的な試行及び実験を通じて決定できる比較的広い範囲(例えば、「投薬量」範囲)内に収まる。有効量は、単回用量で、又は治療期間にわたって1回若しくは数回繰り返される用量で投与することができる。
【0141】
「治療的有効量」とは、特定の障害(例えば、がん)の測定可能な改善をもたらすのに必要とされる少なくとも最小濃度である。本明細書における治療有効量は、要因、例えば、患者の病状、年齢、性別、及び体重、並びに個体において所望の応答を誘発する細胞組成物の能力によって異なる場合がある。治療有効量はまた、組成物の任意の毒性又は有害な作用より、治療的に有益な効果が上回る量である。がんの場合では、治療有効量は、がんの重症度を軽減、がんの進行を阻害若しくは遅延させる、及び/又はがんに関連付けられる1つ以上の症状をある程度緩和することができる。
【0142】
用語「卵巣がん」とは、本明細書で使用するとき、前悪性病理、悪性病理及びがんとして探索後開腹により分類される状態を意味することが意図される(FIGOステージ1~4)。卵巣がんのステージ決定及び分類は、本明細書の他の場所において記載される。「初期卵巣がん」とは、第1ステージ又は第2ステージの癌に分類される疾患の状態を指す。卵巣がんの早期検出により、5年生存率が大幅に向上する。
【0143】
「対象を同定する」という用語は、本明細書で使用するとき、「対象をスクリーニングする」という用語と互換的に使用され得る。これらの用語は、シクロホスファミド、特に低用量のシクロホスファミド又はその類似体、誘導体若しくは活性代謝物に応答する可能性が高い対象を同定する戦略を指す。本開示のスクリーニング方法は、対象を応答者又は非応答者であると確定的に診断することを意図していない。むしろ、このような方法は、シクロホスファミド治療に応答する可能性が高い対象を同定することを目的とする。このようなスクリーニング方法は、骨盤検査、経膣超音波検査、CTスキャン、MRI、開腹術、腹腔鏡検査、組織試料の生検など、卵巣がん又は婦人科がんを確定的に診断するために使用される1つ以上の他の方法と組み合わせて使用され得る。
【0144】
用語「バイオマーカー」とは、本明細書で使用するとき、組織又は細胞における発現レベルが、正常若しくは健康な細胞又は組織の発現レベルと比較して変化している任意の遺伝子又はタンパク質を指す。
【0145】
「層別化」又は「層別化する」という用語は、本明細書で使用するとき、特定の基準に基づいて集団を部分集団に分割することを指す。より具体的には、特定の基準に基づいて対象又は患者のコホートを少なくとも2つの群に分割することを指し、これは、本出願の文脈において、細胞試料中のCCR4発現を含むか又はそれからなる。
【0146】
「上方調節された」又は「CCR4発現の上方調節」とは、本明細書で使用するとき、シクロホスファミド暴露がない場合のCCR4の発現レベルと比較して、あるいはその類似体、誘導体若しくは活性代謝物を含むシクロホスファミドへの以前の曝露と比較して、シクロホスファミド又はその類似体、誘導体若しくは活性代謝物への曝露後に有意又は実質的に高いCCR4の発現レベルを指す。より具体的には、タンパク質の発現レベル、さらにより具体的には、細胞表面タンパク質の発現レベルを指す。
【0147】
用語「安定疾患」とは、本明細書で使用するとき、増殖も縮小もしていないがん又は腫瘍を意味する。
【0148】
用語「進行性疾患」とは、本明細書で使用するとき、悪化若しくは拡大しているがん又は腫瘍を意味する。
【0149】
詳細な開示
本開示は、対象、特に、対象のTeff細胞上のCCR4発現の上方調節に基づいた、低用量シクロホスファミドを用いた治療のためのがん対象をスクリーニング又は層別化する方法を提供する。
【0150】
本発明者らは、低用量シクロホスファミド(LDCy)を用いたがん患者の治療が、それらの相対的なCCR4発現パターンを変更することにより、制御性T細胞(Treg)に対する有益なTeff細胞のがん微小環境への相対的な遊走能力を変化することを発見した。この発見に基づいて、本発明者らは、低用量シクロホスファミド(LDCy)を受けた後の早期に応答者患者を同定するために使用することができる免疫予測試験(CCR4上方調節前治療(CUP診断)と呼ばれる)を開発した。したがって、この試験では、シクロホスファミド治療から最大の利益を得る患者を同定することができる。
【0151】
本発明者らは、Teff細胞上のCCR4の発現が増加した対象が、より長い生存率と正の相関があることを発見した。
【0152】
CCR4の発現が特定のがんにおいてTregが増加することが、以前の研究で実証されていたため、これらの発見は予想外である。
【0153】
典型的には、細胞の試料は、評価される対象から得られ、試料内のTeff細胞上のCCR4の発現レベルが決定される。シクロホスファミドを用いた治療後のCCR4の発現の増加(すなわち、上方調節)は、対象がシクロホスファミド又はシクロホスファミドのさらなる治療サイクルに応答する可能性がより高いことを示す。シクロホスファミドを用いた治療後のCCR4の定常の発現レベルは、対象がこの薬剤を用いたさらなる治療に応答する可能性が低いことを示す。
【0154】
さらに、LDCyによる治療を受ける前に、応答者の患者を同定することができる(CUP予後)。したがって、応答者として同定された患者のみが、シクロホスファミド化学療法を用いた治療のために選択され得る。
【0155】
LDCyは、現在、患者が他の治療を受けた後の第二選択治療として使用されており、患者は、多くの場合、タキサン又は白金剤に対する耐性を発症している。この設定では、卵巣がん患者の25~44%に臨床的利益がもたらされる(Handolias, D.ら(2013年) Oral cyclophosphamide in recurrent ovarian cancer. Asia-Pacific journal of clinical oncology)。
【0156】
低用量での化学療法の投与は、患者への毒性及び/又は有害事象の頻度の低下のため好ましい。さらに、経口形態のシクロホスファミドの利用可能性は、この薬剤を、資源設定が少ないために特に魅力的なものにする(例えば、病院がない場合又は病院に行くのが難しい場合)。
【0157】
現在、シクロホスファミドは、進行期又は終末期の卵巣がん患者に与えられる。シクロホスファミド治療に応答する患者を同定する能力は、非応答者として同定された患者に代替の有益な治療を遅滞なく与えることができるため有利である。さらに、白金剤及びタキサン剤と比較して、患者における忍容性がより良好であることから、第一選択療法での使用への扉が開かれる。
【0158】
さらに、応答者を同定する能力は、LDCyが後期の治療選択肢である多数の他のがん、例えば、乳がんで迅速に使用される可能性が大きい。さらに、本明細書に記載される方法は、LDCyと他のがん療法、例えば、チェックポイント阻害剤の有効な組み合わせを可能にする。例えば、本明細書に記載される方法は、LDcy治療後に、有益な免疫細胞が腫瘍に遊走する患者を同定し、チェックポイント阻害剤の同時投与は、これらの有益な免疫細胞が免疫抑制細胞、例えば、Tregによって腫瘍環境内で停止することを防ぐ。
【0159】
さらに、初回の再発時のLDCyの使用(現在、使用されていない場合)は、亜臨床的な再発の最初の証拠(第一選択の白金ベースの化学療法の3か月後にCA125が上昇する)がある患者に強力であり、低毒性の治療選択肢を提供する。
【0160】
エフェクターT細胞
本開示の方法は、エフェクターT細胞上のCCR4の発現を検出及び/又は測定することを含む。用語「エフェクターT細胞」とは、刺激に応答して活性化されたT細胞を指す。このクラスのT細胞には、Tヘルパー細胞及び細胞傷害性(キラー)T細胞が含まれる。
【0161】
細胞傷害性(キラー)T細胞は、感染及び形質転換された細胞の破壊に関与し、したがって、ウイルス感染及びがんから宿主を保護するのに役立つ。細胞傷害性(キラー)T細胞はまた移植拒絶に関係している。これらの細胞は、細胞表面にCD8糖タンパク質を発現し、CD8+T細胞と呼ばれることがある。細胞傷害性(キラー)T細胞に見られる他の細胞表面マーカーには、CD3及びαβTCRが含まれる。それらは、EOMES、T-bet、及びBLIMP1転写因子に対しても陽性である。
【0162】
Tヘルパー細胞(TH)は、免疫応答を促進及び支援する。特に、T細胞サイトカインを放出することによって、他のT細胞の活性を助けることが報告されている。Tヘルパー細胞には、TH1、TH2、TH22、TH17、TH9、TFHが含まれる。これらの細胞は、表面タンパク質CD4を発現し、CD4+T細胞とも呼ばれることがある。他の細胞表面マーカーには、CD3及びαβTCRが含まれる。TH細胞上で発現される追加のマーカーには、IL-12R、IFNγR、CXCR3、IL-17RB、IL-1Rが含まれる。したがって、Teff細胞はまた、これらのマーカーの1つ以上を含み得る。
【0163】
一例では、Teff細胞は、Tヘルパー細胞及び/又は細胞傷害性T細胞である。さらなる例では、Teff細胞は、CD4+及びCD8+T細胞である。さらなる例では、Teff細胞は、CD4+CD25-T細胞である。なおさらなる例では、Teff細胞は、FoxP3-CD25-CD4+(Tconv)及びCD8+T細胞である。なおさらなる例において、Teff細胞は、CD8+T細胞である。一例では、CD8+細胞はまたCD69+である。
【0164】
一例では、Teff細胞は、CD3+T細胞である。一例では、Tヘルパー細胞は、以下のTH1細胞、TH2細胞、TH9細胞、TH17細胞、TH22細胞、及びTFH細胞のうちの1つ以上を含む。
【0165】
制御性T細胞
制御性T細胞は、以前には、サプレッサーT細胞として公知であり、免疫系をモジュレートし、自己抗原に対する耐性を維持し、自己免疫疾患を予防するT細胞の亜集団を指す。それらの機能は、エフェクターT細胞の誘導及び増殖を抑制し又は下方調節することである(Bettelli Eら(2006年) Nature 441巻(7090号):235-238頁)。
【0166】
制御性T細胞は、CD4、CD25、及びCD127の発現によって特徴付けられる。制御性T細胞は、CD3+FoxP3+CD25+CD4+を発現する場合もある。ヒトにおける制御性T細胞は、CD25の高レベルの発現によって特徴付けられる。
【0167】
ケモカイン及びケモカイン受容体
CCR4(CCケモカイン受容体4及びケモカイン(C-Cモチーフ)受容体4とも呼ばれる)は、Gタンパク質共役型受容体である。CCR4は、ケモカイン、胸腺及び活性化調節ケモカイン(CCL17とも呼ばれる)及びマクロファージ由来ケモカイン(CCL22とも呼ばれる)の受容体である。CCR4は、主にTヘルパー細胞型2(TH2)細胞及び制御性T(Treg)細胞上に発現する。CCR4の限られた発現は、他の健康な細胞及び組織、例えば1型(インターロイキン(IL)-2、インターフェロン(IFN)-γ及び腫瘍壊死因子(TNF)及び2型(IL-4)サイトカインの組み合わせを分泌する記憶CD8+T細胞上に生じる(Kondo, T. & Takiguchi, M. (2009年). International immunology 21巻, 523-532頁(2009年))。
【0168】
CCR4受容体は、T細胞を、そのリガンドCCL2、CCL4、CCL5、CCL17及び/又はCCL22に富む炎症部位に遊走させることができる(Cronshaw, D.G., Owen, C., Brown, Z. & Ward, S.G. (2004年) Journal of immunology 172巻, 7761-7770頁)。腫瘍腹水に浸潤する卵巣がん細胞及びマクロファージは、大量のCCL22を分泌する(Yigit, R.ら, Cytokine analysis as a tool to understand tumour-host interaction in ovarian cancer. European journal of cancer 47巻, 1883-1889頁(2011年))。外部からの介入なしでは、抑制性CCR4+Tregは、有益なCD8 T細胞又はTH1細胞(CD4+エフェクター細胞)というよりはむしろ、優先的に腫瘍の微小環境にリクルートされる。
【0169】
本開示の方法は、特に、エフェクターT細胞、例えば、CD4+及びCD8+T細胞上におけるCCR4の発現を決定することを含むか、又はそれからなる。
【0170】
卵巣がん腹水では、生理活性Tregは、局所エフェクターT細胞応答を阻害する。
【0171】
ヒトCCR4の配列は、公開されているデータベースで利用可能である。例えば、ヒトCCR4のタンパク質配列は、UniProt参照P51679として利用可能である。代表的な配列を図1に示す。
【0172】
対象
本出願の方法及びキットを使用して、CCR4の発現を決定することによって、化学療法剤を用いた治療に応答する対象を同定することができる。一部の実施形態では、評価される対象はがんを有する。本明細書で使用するとき、「がん」は、新生物、すなわち、細胞の異常な増殖又は分裂によって特徴付けられる状態の総称である。したがって、がん細胞は「新生物」と呼ばれる場合がある。がん細胞の集まりは、しばしば「腫瘍」と呼ばれ、「腫瘍」及び「がん」という用語は、本明細書において互換的に使用される。腫瘍は、良性又は悪性であり得る。好ましくは、悪性である。
【0173】
がんは、任意のがん、例えば、癌腫、肉腫、白血病、リンパ腫、神経膠腫であり得る。一部の実施形態では、がんは、癌腫、肉腫及び/又は神経膠腫である。一部の実施形態では、がんは癌腫である。
【0174】
適切ながんの例には、限定されないが、腎臓がん、卵巣がん、膵臓がん、食道がん、子宮頸がん、子宮がん、膀胱がん、胆嚢がん、肝臓がん、頭頸部がん、扁平上皮癌、胃腸がん、乳がん、前立腺がん、精巣がん、肺がん、非小細胞肺がん、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、白血病、成人T細胞白血病、喉頭がん、脳がん、神経芽細胞腫、胃がん、子宮内膜がん及び黒色腫が含まれる。
【0175】
一部の実施形態では、がんは婦人科がんである。本明細書で使用するとき、「婦人科がん」は、生殖器官に由来する異常な細胞の制御されない増殖及び拡散である。婦人科がんの例には、限定されないが、子宮頸部、妊娠性絨毛性疾患(GTD)、原発性腹膜、卵管、胎盤、卵巣、子宮/子宮内膜、膣及び外陰がんが含まれる。一部の実施形態では、がんは卵巣がんである。
【0176】
好ましくは、がんはCCL22を発現する。CCL22(マクロファージ由来ケモカイン又はMDCとも呼ばれる)は、腫瘍細胞及び腫瘍浸潤マクロファージによって産生されるケモカインである。CCL22はCCR4に結合し、抗がん免疫を低下させる制御性T細胞(Treg)の腫瘍微小環境への走化性に関与する。CCL22を発現するがんの例には、限定されないが、膵臓がん、肝細胞癌(HCC)、胃がん、ルイス細胞癌、肺がん、結腸直腸がん、黒色腫、前立腺がん、乳がん及び卵巣がんが含まれる。
【0177】
本明細書に記載される本発明の方法は、がんに罹患している可能性のある任意の対象で実施することができる。本方法は、一般的に、哺乳動物、例えばヒト、他の霊長類、例えばサル、実験用哺乳動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、モルモット、家畜哺乳動物、例えばウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、又は家庭用ペット、例えばネコ、イヌで行われる。一部の実施形態では、対象はヒトである。しかしながら、他の実施形態では、本方法は、任意の適切な動物モデルで使用され得る。医師の診察を受けている対象は、「患者」と呼ばれる場合がある。したがって、本明細書における「対象」への言及は、患者、好ましくはヒト患者への言及を含むことを理解するべきである。
【0178】
一部の実施形態では、対象は、再発の証拠を示している場合がある。一部の実施形態では、対象は、初回の再発の証拠を示している場合がある。一部の実施形態では、対象は、無症状再発の証拠を示している場合がある。例えば、卵巣がんの場合、対象は、白金ベースの第一選択化学療法の3か月後に血液中のCA125レベルが上昇する場合がある。したがって、本開示の方法は、初回の再発時(現在使用されていない場合)に化学療法剤、例えば、低用量シクロホスファミドの使用を増加させることができる。これにより、無症状再発の最初の証拠が得られた患者に強力であり、低毒性の治療選択肢が提供される。
【0179】
本出願の方法及びキットを使用して、治療が開始される前(対象の血液/細胞試料との薬物のインビトロインキュベーション)又は治療が開始された後(インビトロの血液/細胞試料)のいずれかに、治療に応答する対象を同定することができる。例えば、対象は、化学療法剤を用いた治療を開始したか、又は開始している場合がある。一部の実施形態では、評価される対象は、化学療法剤を用いて治療されていない。一部の実施形態では、対象は、化学療法剤による治療が生存を改善する可能性が高いかどうかを決定するために評価されている場合がある。したがって、本方法は、CCR4発現が決定される前に、対象に由来する細胞の試料を化学療法剤とともにインキュベートすることを含む。一部の実施形態では、評価される対象は治療を開始しており、例えば、評価される対象は化学療法剤を用いた治療の最初のサイクル内にある。この実施形態では、本方法は、治療される対象に由来する細胞の試料におけるCCR4発現を決定することを含む。
【0180】
卵巣がん
卵巣がんは、卵巣で始まる異常な悪性細胞の増殖である。多くの場合、漠然とした非特異的な症状、例えば、腹部膨満感、骨盤痛、腹痛、摂食困難、並びに/又は早期満腹感及び尿の症状と関連付けられる。卵巣がんが診断されると、がんのステージ決定が行われ、疾患がどの程度進行しているかが決定される。
【0181】
典型的には、卵巣がんのステージ決定では、骨盤及び腹部の様々な部分から組織の試料を採取し、疾患が拡がっているかどうか、拡がっている場合はどれだけ拡がっているかを判断する。卵巣がんは、4つの主要なステージを記載する国際産婦人科連合(FIGO)ステージ決定システムを使用してステージ決定される:
第1ステージ-がんが、卵巣(又は複数の卵巣)内でのみ発見され、腹部若しくは骨盤の臓器及び組織、リンパ節、又は遠隔部位には拡がっていない。
第2ステージ-がんが、骨盤内の他の臓器、例えば、子宮、卵管、膀胱、S状結腸、又は直腸に拡がっている。リンパ節又は遠隔部位には拡がっていない。
第3ステージ-がんが、骨盤を超えて腹部の内側に拡がっていて、及び/又は腹部の後ろのリンパ節(後腹膜リンパ節)に拡がっている。
第4ステージ-がんが、脾臓、肝臓、肺、又は腹腔の外側にある他の臓器の内部に拡がっている。
【0182】
FIGOステージは、長期生存の重要な予測因子である。また、治療選択肢を同定するのに使用される。第4ステージは、卵巣がんの最も進行した形態であり、最低5年生存率に関連付けられる。
【0183】
本発明の方法は、任意の臨床ステージで卵巣がんを有する対象に使用することができる。
【0184】
生物学的試料及び細胞
本開示の方法及びキットは、対象、好ましくはがん対象から得られた生物学的試料中のCCR4の発現を決定することを含む。生物学的試料は、Teff細胞が存在する対象から得られる任意の試料である。本明細書で使用するとき、用語「得られる」とは、広く定義され、対象に直接由来する細胞、組織又は器官、並びに何らかの方法で培養又は継続された組織若しくは器官に由来するものを指す。
【0185】
一部の例では、生物学的試料は、限定されないが、骨髄、脾臓、リンパ節、パイエル板、粘膜関連リンパ組織、腸関連リンパ組織、又は血液からなる群から選択される。一部の例では、細胞は、全血試料由来の細胞を含む。
【0186】
生物学的試料は、例えば、静脈穿刺、領域の擦り取り若しくは拭き取り、又は体液若しくは組織を吸引するための針の使用を含む、様々な技術によって対象から得ることができる。種々の生物学的試料を回収する方法は、当技術分野において周知である。
【0187】
一部の例では、細胞は精製される。本明細書で使用するとき、「精製された」とは、それらが天然に存在する状態で、通常関連付けられている他の細胞型から少なくとも部分的に分離された細胞を指す。典型的には、選択された細胞型は、存在する総細胞数の少なくとも50%又は60%である場合に精製される。例えば、選択された細胞型は、存在する総細胞数の少なくとも75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%である。細胞の純度は、フローサイトメトリー及び他の適切な技術によってチェックすることができる。
【0188】
一部の例では、細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)を含む。PBMCには、リンパ球(T細胞、B細胞、及びNK細胞)、単球、及び樹状細胞が含まれ得る。PBMCは、当業者に公知である任意の技術を用いて全血試料から単離することができる。例えば、PBMCは、フィコール密度勾配遠心分離、細胞調製チューブ(例えば、BDVacutainer(登録商標)CPT)、又はSepMateチューブを介して単離することができる。
【0189】
一部の例では、細胞は、特定の細胞表面マーカーの発現に基づいて選択される。一部の例では、細胞は、CD3の細胞表面発現に基づいて選択される。他の例では、細胞は、Tエフェクター(Teff)細胞又は制御性T(Treg)細胞に関連付けられたマーカーの発現に基づいて選択される。
【0190】
例えば、Treg細胞には、細胞表面タンパク質CD4、CD25及びCD27を発現する細胞が含まれる。一例では、Treg細胞はCD27hiである。一例では、Teff細胞は、CD4+又はCD8+である。一部の例では、Teff細胞は、CD25-CD4+細胞である。一部の例では、Treg細胞は、表面マーカーCD3+FoxP3+CD25+CD4+を有する。一部の例では、Teff細胞は、CD3+FoxP3-CD25-CD4+細胞(Tconvとも呼ばれる)である。他の例では、Teff細胞は、CD3+CD8+細胞である。別の例では、Teff細胞は、CD69+CD8+である。別の例では、Teff細胞は、CCR4+CD8+T細胞又はCCR4+CD4+T細胞である。
【0191】
細胞は、当業者に公知である任意の技術を使用して、細胞表面発現に基づいて選択することができる。これらの技術は、陽性検出と陰性検出の両方に基づくことができる。陽性検出技術では、所望の細胞を抗体で標識し、定量化する。抗原の細胞表面発現に基づいて細胞を選択するための適切な技術には、限定されないが、フローサイトメトリー、免疫吸着技術、RosetteSep全血ベースの細胞単離などが含まれる。免疫吸着技術では、細胞は、モノクローナル抗体を用いて選択され、表面に優先的に結合させて、細胞の残り部分から除去することができ、例えば、ビーズのカラム、フラスコ、磁性粒子が挙げられる。免疫吸着技術の例には、限定されないが、磁気抗体ベースの細胞単離、例えば、Life Technologies Dynabeads(登録商標)及びStemcell Technologies EasySep(商標)、RoboSep(商標)及びStemSep(商標)が含まれる。
【0192】
細胞は、新鮮に得られた細胞、又は保存若しくは凍結保存されていた細胞であり得る。細胞は、精製の前後に適切な培地中で、例えば、5%正常ヒト血清(HS, Sigma-Aldrich, USA)を含むAIM-V培地(Life Technologies、USA)(完全AIM-V培地)中で培養することができる。
【0193】
細胞上のCCR4発現の検出及び測定
本発明者は、低用量のシクロホスファミド治療が、血液中のエフェクターCCR4+CD8+T細胞を増加させるが、CCR4+Tregsは増加させないことを見出した。本開示の方法及びキットは、Teff細胞上でのCCR4の発現の上方調節を検出することを含む。CCR4発現の検出のために当技術分野において利用可能な任意の方法を、本開示の方法において使用することができる。一例では、CCR4の発現は、タンパク質レベルで検出される。一部の例では、CCR4発現の上方調節の検出は、シクロホスファミド治療に応答する対象を予後的に同定する。他の例では、CCR4発現の上方調節の検出は、事前のシクロホスファミド治療後のシクロホスファミドのさらなるサイクルに応答する対象を診断する。
【0194】
用語「CCR4の上方調節」とは、本明細書で使用するとき、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体による治療前又は曝露前のTeff細胞上のCCR4の発現レベルと比較して、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体への曝露後又は投与後に実質的に又は有意に高いTeff細胞上のCCR4の発現レベルを指す。一部の方法では、用語「CCR4の上方調節」とは、対象が両方の時点でシクロホスファミドを受けた場合に、第2の時点と比較した第1の時点の間で実質的又は有意に大きいTeff細胞上のCCR4の発現レベルを指し得る。
【0195】
一例では、有意に大きいとは、使用される評価方法の標準誤差よりも大きいレベルを指す。一例では、有意に大きいとは、p<0.05、p<0.01、又はp<0.001の統計的有意性を指す。
【0196】
一例では、CCR4の検出は、生物学的試料に存在するTエフェクター細胞上のCCR4の細胞表面発現を測定することによって決定される。さらなる例では、CCR4の発現は、フローサイトメトリーによって測定される。別の例では、CCR4の発現は、上記で検討した細胞表面発現プロファイルに従って定義されたTeff細胞上で決定される。一例では、CCR4の検出は、CD3+T細胞上で決定される。
【0197】
別の例では、CCR4発現の検出は、CD8+T細胞でもある細胞上で決定される。別の例では、CCR4発現の検出は、CD3+、CD8+T細胞である細胞上で決定される。別の例では、CCR4発現の検出は、CD25-CD4+細胞である細胞上で決定される。別の例では、CCR4発現の検出は、FoxP3-CD25-CD4+細胞である細胞上で決定される。別の例では、CCR4発現の検出は、これらの細胞上のCCR4の上方調節がないことを確認するために、FoxP3+CD25+CD4+(すなわち、Treg)である細胞上でも決定される。
【0198】
一部の例では、CCR4の上方調節は、フローサイトメトリーによって評価した場合、少なくとも2log超、少なくとも3log超、少なくとも3.5log超、又は少なくとも4log超のCCR4の発現レベルを指す。
【0199】
一部の例では、CCR4発現の上方調節は、フローサイトメトリーによって観察されるCCR4の平均蛍光強度(MFI)の増加を指す。
【0200】
一部の例では、CCR4発現の上方調節は、シクロホスファミド治療前のCCR4の発現レベルよりも少なくとも2、3、4、5、6若しくは7倍又はそれ以上大きいシクロホスファミド治療後のCCR4の発現レベルを指す。
【0201】
一部の例では、CCR4発現レベルの上方調節は、治療前と比較して、シクロホスファミド治療後、少なくとも5%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも80%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも300%又はそれ以上である。
【0202】
一部の例では、CCR4発現レベルの上方調節は、治療前と比較して、マホスファミドへの曝露後、少なくとも5%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、若しくは少なくとも50%又はそれ以上である。
【0203】
当業者は、CCR4発現の上方調節は、いくつかの方法で、限定されないが、本明細書の実施例に示されるようなCCR4+細胞%の倍数変化又はCCR4+Tconv/CCR4+Treg比で表し得ることを承認する。
【0204】
一部の例では、それを超えると生物学的試料において上方調節されると考えられるCCR4の閾値レベルが確立され得る。閾値を選択する方法には、限定されないが、CCR4のROCプロットの分析、又は正常な対象集団のCCR4発現レベルの分析が含まれる。本明細書で使用するとき、用語「正常」とは、がんに罹患していない健康な人からの対応する生物学的試料における発現レベルを指す。このような試料は、標準化された形式で存在することができる。例示的な閾値又は「カットオフ」値には、正常な対象集団から決定される、平均CCR4発現レベル+2つの標準偏差;感受性+特異性の最高値を表すROC曲線から選択される発現レベル;治療前に観察されるCCR4発現レベルよりもp<0.05で統計的に高いCCR4発現レベルが含まれる。当業者は、適切な閾値発現値を選択する他の方法を使用して、本明細書に開示される方法を実施できることを理解する。
【0205】
CCR4発現の上方調節は、シクロホスファミド治療の少なくとも1サイクル後に観察されることが好ましい。一部の例では、CCR4発現の上方調節は、シクロホスファミド治療の1、2又は3サイクル後に観察される。
【0206】
本発明者らは、シクロホスファミドを用いた治療に応答しない対象は、ベースライン又は治療前のCCR4のレベルと実質的に同じままであるCCR4の発現レベルを有するものと同定され得ると決定している。したがって、本開示はまた、シクロホスファミド、その類似体、誘導体又は活性代謝物を用いた治療に応答する可能性が低い対象を同定する方法を提供し、本方法は、対象からのTeff細胞上でのCCR4の発現、上記細胞上でのCCR4の安定した発現を決定することを含み、上記の治療に応答しない対象を同定する。
【0207】
これに関連して、「安定発現」という用語は、治療前又はCCR4発現の明らかな増加を有する対象(CCR4スパイク対象と呼ばれる)と比較したCCR4の発現レベルにおいて変化しない頻度を指す。言い換えれば、シクロホスファミド又はその類似体、誘導体若しくは活性代謝物の治療前及び治療後又は曝露前及び曝露後に対象で観察されたCCR4の発現レベルに統計的に有意な差はない。一部の例では、CCR4発現レベルは、シクロホスファミド処理の1、2、3、4サイクル又はそれ以上のサイクル後も安定したままである。
【0208】
CCR4の発現は、CCR4を発現している細胞を同定し及び定量するために使用することができる技術を使用して決定され得る。例えば、CCR4の量は、上記対象に由来する細胞の試料をCCR4に結合する抗体と接触させ、抗体が結合できる条件に試料及び抗体を供し、上記試料中のケモカインの量を決定することにより決定され得る。任意の適切な抗体を使用することができ、これらの例は、本明細書の他の場所に記載されている。例えば、CCR4に対する適切な抗体、又はその特定のエピトープを認識する抗体は、標準的な技術によって、例えば、標識などの点で抗体に適切な修正を加えて、実験動物の免疫化によって調製することができる。CCR4の発現を決定するために使用され得る方法の例には、限定されないが、抗体を用いたフローサイトメトリー、免疫沈降、免疫組織化学又は細胞の染色、マルチプレックスビーズベースのイムノアッセイ、及び酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)が含まれる。
【0209】
対象におけるシクロホスファミドの有効性を評価する方法もまた提供される。このような方法は、典型的には、治療の開始前に調達された第1の生物学的試料(すなわち、ベースライン又は前処理)のCCR4の発現レベルを、治療の少なくとも一部の投与後に得られた第2の生物学的試料(例えば、シクロホスファミドの1つ以上のサイクル)と比較することを含む。第2の試料におけるCCR4の発現レベルが有意に又は実質的に高いことは、治療の有効性を肯定的に指示する。CCR4の発現レベルが有意に又は実質的に低いことは、治療の有効性を否定的に指示する。本明細書で使用するとき、用語「治療の有効性の肯定的な指示」とは、治療が対象のがんの治療において有益な結果をもたらすことを意味する(例えば、腫瘍退縮など)。「治療の有効性の否定的な指示」とは、治療が対象のがんの治療に関して有益な効果をもたらさないことを意味することが意図される。
【0210】
本開示は、対象における卵巣がんの退行又は進行を評価するためのモニタリング方法もまた提供し、本方法は、第1の時点での第1の生物学的試料において、Teff細胞上のCCR4の発現レベルを検出すること、後の時点で得られた第2の生物学的試料を用いてこの分析を反復すること、及び2つの時点でのTeff細胞上のCCR4の発現レベルを比較することを含み、第1と第2の時点の間のTeff細胞上のCCR4発現の上方調節は、卵巣がんの退行を示す。
【0211】
一例では、第1の時点は治療前又はベースラインであり、第2の時点はシクロホスファミド治療後である。一例では、第1の時点はシクロホスファミドの第1のサイクルの後であり、第2の時点はシクロホスファミドの第2又は第3のサイクルの後である。後の時点で生物学的試料中のTeff細胞上でのCCR4の発現レベルが有意又は実質的に高い場合は、卵巣がんが退縮したことを示す。一方、有意に低い発現レベルは、卵巣がんが進行していることを示す。本明細書で使用するとき、「卵巣がんの退行」は、例えば、腫瘍サイズの減少によって特徴付けられるように、卵巣がんに関する対象の状態が改善したことを意味することが意図される。「卵巣がんの進行」とは、例えば、腫瘍サイズの増大、転移などによって特徴付けられるように、卵巣がんに関する対象の状態が悪化したことを意味する。
【0212】
本開示の方法を用いて、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いた治療を開始する前に、対象が、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体に応答するかどうかを予測することができる。例えば、予後診断法は、再発の最初の兆候を示し、それらのがんの無症状再発を示す対象、又はがんを有することが正式に診断された対象に由来する細胞を使用して実施することができる。このような方法は、典型的には、シクロホスファミドへの曝露の前に調達された第1の生物学的試料のTeff細胞上のCCR4の発現レベルを、インビトロでマホスファミドに曝露された第2の生物学的試料のレベルと比較することを含む。第2の試料のTeff細胞上のCCR4の有意又は実質的に高い発現レベルは、対象がシクロホスファミド治療に応答するという肯定的な指示である。CCR4発現の有意又は実質的に低いレベルは、対象がシクロホスファミド治療に応答するという否定的な指示である。言い換えれば、対象はシクロホスファミド治療に応答しないか、準最適に応答する。
【0213】
本開示はまた、シクロホスファミドを用いて以前に治療されていない対象が、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いた治療に応答するかどうかを予測する方法を提供し、本方法は、シクロホスファミド又はその類似体、誘導体若しくは活性代謝物へのインビトロ曝露後に、対象からのエフェクターT細胞(Teff)をCCR4の発現について分析することを含み、上記細胞上のCCR4発現の上方調節は、インビボでシクロホスファミド治療に肯定的に応答する対象を同定する。
【0214】
一例では、分析は、Teff細胞を含む生物学的試料について実施される。
【0215】
CCR4の発現は、CCR4を発現する細胞を同定及び定量化することができる技術を用いて決定され得る。一例では、CCR4の量は、上記対象に由来する細胞の試料を、任意の細胞表面結合剤、例えば、Fab、Fab'、F(ab)2、F(ab')2及び可変ドメイン断片(dAb)、可変重(VH)断片及び可変軽(VL)断片;ペプチド;アプタマー、ナノボディ又は他の非抗体親和性試薬と接触させることにより決定され得る。抗体は、モノクローナル又はポリクローナルであり得るが、特にモノクローナル抗体である。薬剤(例えば、抗体)は、動物(例えば、ハムスター、マウス、ラット、ウサギなど、又はヒト又は霊長類)を含む任意の供給源に由来し得る。抗体は、部分的又は完全にヒト化され得る。
【0216】
特定の例では、CCR4の発現は、抗体を用いて検出される。用語「抗体」は、広く、天然に存在する形態の抗体及び組換え抗体、例えば、一本鎖抗体、キメラ抗体及びヒト化抗体、並びにその抗原結合断片を包含する。一部の例では、抗体は検出可能な物質で標識され、生物学的試料における検出を促進する。検出可能な物質の例には、様々な酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、生物発光物質、放射性物質が含まれる。適切な酵素の例には、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、又はアセチルコリンエステラーゼが含まれる。適切な補欠分子族複合体の例には、ストレプトアビジン/ビオチン及びアビジン/ビオチンが含まれる。適切な蛍光材料の例には、フルオレセイン、ローダミン、フィコエリトリン、及び塩化ダンシルが含まれる。
【0217】
一部の例において、本開示の方法は、ヒトCCR4に結合する市販の抗体を使用して実施される。ヒトCCR4に結合する適切な市販の抗体の例は、Lifespan BioSciences、Invitrogen、Enzo Lifesciences、Inc、Abcam、Miltenyi Biotec、Bio Legend、BD Biosciences、Santa Cruz Biotechnology、Inc及びAbbexa Ltdから購入することができる。
【0218】
CCR4に対する適切な抗体、又はその特定のエピトープを認識する抗体は、標準的な技術、例えば、標識などの点で抗体に適切な修飾を加えて、実験動物の免疫化によって調製することができる。CCR4の発現を決定するために使用され得る方法の例には、限定されないが、抗体を用いたフローサイトメトリー、免疫沈降、免疫組織化学又は細胞の染色、及び酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)が含まれる。
【0219】
化学療法
本開示の方法を使用して、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体に応答する対象を同定することができる。本開示の方法はまた、以前にシクロホスファミドを受けたことがない対象が、シクロホスファミドに応答するかどうかを予測するために使用することができる。
【0220】
卵巣がんは分子的に不均一な疾患であり、分子の違いが明確な臨床挙動を引き起こす。これにもかかわらず、卵巣がんに対する白金/タキサンベースの化学療法の主な治療法は、過去20年にわたって進化せず、結果として卵巣がんの生存率の改善は停滞し、5年生存率の中央値は約40%で変化していない。第III相臨床試験への12,000人を超える女性の関与は、治療の展望を変えていない(Bookman, MA (2011年) Eur J Cancer 47巻 S3)。
【0221】
シクロホスファミドは、がん(Arnoldら、(1958年) Nature 181巻(4613号):931頁)及び自己免疫疾患の治療に長い間使用されてきた化学療法剤である。高用量では免疫抑制性であり、一方、低無毒用量では免疫刺激性である。現在、高用量のシクロホスファミドは、一般的なリンパ枯渇を引き起こすため、自己免疫疾患、例えば、紅斑性狼瘡又は骨髄移植の条件付けを治療する免疫抑制剤として使用されている(Dussanら、(2008年) Lupus. 17巻(12号):1079-85頁; Rossiら、(2003年) Bone marrow transplant. 31巻(6号):441-6頁)。低用量シクロホスファミドは、がんの治療に使用され(Liuら、(2010年) J Immunother 33巻(1号):53-9頁; Lutsiakら、(2005年) Blood. 105巻(7号):2862-8頁; Ghiringhelliら、(2007年). Cancer Immunol Immunother 56巻(5号):641-8頁; Kishimotoら、(1990年) Circulation. 82巻(3号):982-9頁; Brodsky & Jones. (2008年) Autoimmunity 41巻(8号):596-600頁)、高用量シクロホスファミドと比較して、一般的に忍容性が高く、副作用のリスクが大幅に低下している。
【0222】
したがって、LDCyは、様々ながんの免疫療法剤として使用される。それは、マスタード-アルキル化剤のオキサザホスホリンファミリーのメンバーである。シクロホスファミドは、不活性なプロドラッグである。しかしながら、投与すると、シクロホスファミドは、肝臓においてシトクロム酵素P450によってその薬理学的に活性な形態である4-ヒドロキシシクロホスファミドに加水分解され、その互変異性体であるアルドホスファミドと平衡状態で存在する(Clarke & Waxman (1989年) Cancer Res 49巻(9号):2344-50頁; Yuら、(1999年) J. Pharm. Exp. Ther. 288巻(3号):928-37頁)。標的細胞の細胞質ゾルでは、2つの生成物が自発的なβ脱離により、ホスホロアミドマスタード及びアクロレインに変換される(Brode & Cooke, (2008年) Crit. Rev. Immunol. 28巻(2号):109-26頁)。両方の代謝物は、細胞傷害性のあるアルキル化剤であり、一方、ホスホロアミドマスタードはまたDNA架橋を引き起こし、細胞死をもたらす。
【0223】
一例では、シクロホスファミド及びその薬学的に許容される塩、類似体、又は誘導体には、限定されないが、シクロホスファミド、4-ヒドロキシシクロホスファミド、アルドホスファミド、ホスホロアミドマスタード、アクロレイン、マホスファミド、4-ヒドロペルオキシシクロホスファミド、イホスファミド、トロホスファミドなどが含まれる。
【0224】
化学療法剤
一部の実施形態では、本方法は、追加の化学療法剤を投与することをさらに含む。追加の化学療法剤は、化学療法剤を用いた治療の前、実質的に同時、又は治療後に対象に投与することができる。一部の実施形態では、化学療法剤は、追加の化学療法剤の前に投与される。一部の実施形態では、追加の化学療法剤は、化学療法剤の前に投与される。
【0225】
本明細書を通じて、「化学療法剤」及び「がん治療剤」は、互換的に使用される。がん治療剤又は化学療法剤の例には、アルキル化剤、例えば、メルファラン、クロラムブシル、ブスルファン、チオテパ、イホスファミド、カルムスチン、ロムスチン、セムスチン、ストレプトゾシン、デカルバジン、メトトレキセート、及びマイトマイシンC;アルキルスルホネート、例えば、ブスルファン、インプロスルファン及びピポスルファン;アジリジン、例えば、ベンゾドパ、カルボコン、メツレドパ、及びウレドパ;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホロアミド、トリエチレンチオホスファオラミド(triethylenethiophosphaoramide)及びトリメチロロメラミン(trimethylolomelamine)等のエチレンイミン及びメチルアメラミン(methylamelamines);ナイトロジェンマスタード、例えば、クロラムブシル、クロルナファジン、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノベムビチン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード;ニトロソ尿素、例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン;抗生物質、例えば、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、オートラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カリケアマイシン、カラビシン、カミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン、ピューロマイシン、ケラマイシン、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;代謝拮抗剤、例えば、メトトレキセート及び5-フルオロウラシル(5-FU);葉酸類似体、例えば、デノプテリン、メトトレキセート、プテロプテリン、トリメトレキセート;プリン類似体、例えば、フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン;ピリミジン類似体、例えば、アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、5-FU;アンドロゲン、例えば、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン;抗副腎、例えば、アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;葉酸補充剤、例えば、フロリン酸;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキセート;デホファミン;デメコルシン;ジアジコン;エルホルミチン;酢酸エリプチニウム;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダミン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ポドフィリン酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK.RTM.;ラゾキサン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2',2''-トリクロロトリエチルアミン;ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン;アラビノシド(「Ara-C」);チオテパ;タキソイド、例えば、パクリタキセル(TAXOL(商標)、Bristol-Myers Squibb Oncology, Princeton, N.J.)及びドキセタキセル(TAXOTEPvE(商標)、Pvhne-Poulenc Rorer, Antony, France);クロラムブシル;ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキセート;白金類似体、例えば、シスプラチン及びカルボプラチン;ビンブラスチン;トラスツズマブ、ドセタキセル、白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルバイン;ノバントロン;テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;CPT-1 1;トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000;ジフルオロメチルミチン(DMFO);レチノイン酸誘導体、例えば、Targretin(商標)(ベキサロテン)、Panretin(商標)(アリトレチノイン);ONTAKT(商標)(デニロイキンジフチトックス);エスペラマイシン;カペシタビン;及び上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸又は誘導体が含まれる。また、この定義には、腫瘍に対するホルモン作用を調節又は阻害する抗ホルモン剤が含まれ、例えば、抗エストロゲン、例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン、4(5)-イミダゾールを阻害するアロマターゼ、4-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン、及びトレミフェン(フェアストン);及び抗アンドロゲン剤、例えば、フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロリド、及びゴセレリン;並びに上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸又は誘導体が含まれる。さらなるがん治療剤には、ソラフェニブ、及び他のタンパク質キナーゼ阻害剤、例えば、アファチニブ、アキシチニブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、クリゾチニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、ホスタマチニブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、レンバチニブ、ムブリチニブ、ニロチニブ、パニツムマブ、パンゾパニブ、ペガプタニブ、ラニビズマブ、ルキソリチニブ、トラスツズマブ、バンデタニブ、ベムラフェニブ、及びスニチニブ;シロリムス(ラパマイシン)、エベロリムス及び他のmTOR阻害剤が含まれる。他の例には、限定されないが、トポイソメラーゼI阻害剤(例えば、イリノテカン、トポテカン、カンプトテシン及びその類似体若しくは代謝物、及びドキソルビシン);トポイソメラーゼII阻害剤(例えば、エトポシド、テニポシド、及びダウノルビシン);DNAインターカレーター(例えば、シスプラチン、オキサリプラチン、及びカルボプラチン);DNAインターカレーター及びフリーラジカル発生剤、例えば、ブレオマイシン;並びにヌクレオシド模倣薬(例えば、5-フルオロウラシル、カペシチビン、ゲムシタビン、フルダラビン、シタラビン、メルカプトプリン、チオグアニン、ペントスタチン、及びヒドロキシ尿素)が含まれる。さらに、細胞複製を破壊する例示的な化学療法剤には、パクリタキセル、ドセタキセル、及び関連する類似体;ビンクリスチン、ビンブラスチン、及び関連する類似体;サリドマイド、レナリドマイド、及び関連する類似体(例えば、CC-5013及びCC-4047);タンパク質チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、メシル酸イマチニブ及びゲフィチニブ);プロテアソーム阻害剤(例えば、ボルテゾミブ);NF-κB阻害剤、例えば、IκBキナーゼの阻害剤;がんで過剰発現するタンパク質に結合する抗体、並びにがんで上方調節、過剰発現又は活性化されることが公知であるタンパク質又は酵素の他の阻害剤、並びに細胞複製を下方調節する阻害剤が含まれる。
【0226】
当業者は、1つのクラスの下の追加の化学療法剤(例えば、アルキル化剤)の分類は、それを別のクラスの下にも分類されることから除外しないことを認識する。
【0227】
対象における臨床応答の決定
対象が治療に臨床的に応答したかどうかを決定する方法は、当業者に公知である。この用語は広く定義されており、例えば、様々な基準、例えば国立がん研究所の一般的な毒性基準(NCI-CTC)又は固形腫瘍の応答評価基準(RECIST)によって、治療関連の毒性及び治療に対する応答を評価することにより決定され得る。無増悪(PFS)、及び全生存(OS)もまた評価され得る。RESIST基準は、コンピューター断層撮影(CT)又は磁気共鳴画像(MRI)を使用して、標的腫瘍の最大直径又は新しい病変のデノボ出現を測定する。
【0228】
一部の例では、臨床応答は、婦人科がんインターグループ(GCIG)CA125の応答基準に従って決定される。GCICはCA125の血清レベルを測定する。バイオマーカーCA125は、いくつかの婦人科腫瘍によって産生及び放出される糖タンパク質である。GCIGとRECISTの組み合わせを使用して、患者の応答を完全応答(CR)、部分応答(PR)、安定疾患(SD)及び進行性疾患(PD)に分類し得る(Rustin GJら、(2011年) PubMed PMID 21270624)。
【0229】
治療方法
本開示はまた、予測される応答の可能性に関して、それを必要とする対象のがん(例えば、婦人科がん)を治療する方法に関する。例えば、本開示は、対象のTeff細胞上でのCCR4の発現に基づいて、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いた治療に肯定的に応答するものと同定された対象を治療する方法を提供する。したがって、別の態様において、本発明は、本明細書に記載の方法に従って、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いた治療に肯定的に応答する対象を同定し、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いて対象を治療することを含む、それを必要とする対象におけるがんを治療する方法を提供する。
【0230】
対象に投与されるシクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体の量は、治療する医師の裁量による。例えば、対象に投与されるシクロホスファミドの量は、治療される対象、対象の体重、がんの重症度、投与方法、及び治療スケジュールに依存し得る。量及び治療スケジュールを個別に調整して、治療効果又は予防効果を維持するのに十分なレベルの有効成分を提供することができる。
【0231】
一部の例では、低用量シクロホスファミドが投与される。一部の例では、50mgのシクロホスファミドが投与される。一部の例では、100mg又は150mgのシクロホスファミドが投与される。
【0232】
一部の例では、シクロホスファミドは、少なくとも1日2回、少なくとも1日1回、少なくとも2日ごと、少なくとも3日ごと、少なくとも4日ごと、少なくとも5日ごと、少なくとも6日ごと、少なくとも毎週、少なくとも2週間に1回、又は少なくとも1か月に1回投与される。
【0233】
一部の例では、投与はメトロノーム的である。
【0234】
一部の例では、シクロホスファミド、又はその類似体、誘導体若しくは活性代謝物は、経口又は全身に投与される。
【0235】
一部の例では、シクロホスファミド、又はその類似体、誘導体若しくは活性代謝産物は、周期的に投与される。例えば、シクロホスファミド、又はその類似体、誘導体若しくは活性代謝物は、投与が一定期間停止する前に2日間、3日間、4日間、5日間、6日間又は7日間投与することができる(例えば、限定されないが、4週間のうち1、2、3週間)。次に、治療する医師の裁量でこのサイクルを繰り返すことができる。一例では、シクロホスファミド、又はその類似体、誘導体若しくは活性代謝物は、3日間投与され、その後、X日間の休止期間(例えば、14日間)が続く。一例では、50mgのシクロホスファミド、又はその類似体、誘導体若しくは活性代謝物が、3日間、1日2回投与され、その後、X日間の休止期間(例えば、14日間)が続く。
【0236】
一部の実施形態では、治療方法はまた、化学療法剤、チェックポイント阻害剤、ワクチン、及び免疫モジュレート剤からなる群から選択される治療剤を投与することを含み得る。当業者は、1つのクラスの下の治療剤(例えば、チェックポイント阻害剤)の分類が、それを異なるクラスの下にも分類されることから除外しないことを認識する。
【0237】
一部の実施形態では、治療方法は、非薬物ベースの治療を施すことも含み得る。本明細書で使用されるとき、「非薬物ベースの」治療には、限定されないが、放射線療法又は手術等が含まれる。例えば、化学療法剤の投与前に腫瘍を切除し得る。
【0238】
対象に行われる治療の頻度及び種類は、治療する医師の裁量に任される。
【0239】
組み合わせ療法
チェックポイント阻害剤
一部の実施形態では、本方法は、チェックポイント阻害剤を投与することをさらに含む。チェックポイント阻害剤は、シクロホスファミドによる治療の前、実質的に同時、又は治療後に対象に投与することができる。一部の実施形態では、シクロホスファミドは、チェックポイント阻害剤の前に投与される。一部の実施形態では、チェックポイント阻害剤は、シクロホスファミドの前に投与される。
【0240】
本明細書で使用するとき、「チェックポイント阻害剤」には、統計的に有意な方法で免疫系の阻害経路を遮断又は阻害する任意の薬剤が含まれる。例えば、チェックポイント阻害剤はTreg機能に影響を与えることができる。チェックポイント阻害剤には、抗体、又はその抗原結合断片、他の結合タンパク質、生物学的治療剤、又は小分子が含まれる。一部の実施形態では、チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイント受容体に結合し、遮断又は阻害する。一部の実施形態では、チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイント受容体リガンドに結合し、遮断又は阻害する。一部の実施形態では、チェックポイント阻害剤は、CTLA-4、PDL1、PDL2、PD1、B7-H3、B7-H4、BTLA、HVEM、GAL9、LAG3、TIM3、VISTA、KIR、2B4(分子のCD2ファミリーに属し、すべてのNK、γδ、及び記憶CD8+(αβ)T細胞上に発現される)、CD160(BY55とも呼ばれる)、CGEN-15049、CHK 1及びCHK2キナーゼ、A2aR及び様々なB-7ファミリーリガンド、並びにその組み合わせを遮断し又は阻害することを標的にし得る。B7ファミリーリガンドには、限定されないが、B7-1、B7-2、B7-DC、B7-H1、B7-H2、B7-H3、B7-H4、B7-H5、B7-H6及びB7-H7が含まれる。一部の実施形態では、チェックポイント阻害剤は、CTLA-4、PDL1、PDL2、PD1、B7-H3、B7-H4、BTLA、HVEM、TIM3、GAL9、LAG3、VISTA、KIR、2B4、CD160、CGEN-15049、CHK1、CHK2、A2aR、B-7ファミリーリガンド又はそれらの組み合わせであり得るチェックポイントタンパク質のリガンドと相互作用する。チェックポイントタンパク質リガンドには、限定されないが、PD-L1、PD-L2、B7-H3、B7-H4、CD28、CD86及びTIM-3が含まれる。
【0241】
一部の実施形態では、チェックポイント阻害剤は、生物学的治療剤又は小分子である。一部の実施形態では、チェックポイント阻害剤は、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、融合タンパク質又はそれらの組み合わせである。一部の実施形態では、チェックポイント阻害剤には、CTLA-4、PDL1、PDL2、PD1、BTLA、HVEM、TIM3、GAL9、LAG3、VISTA、KIR、2B4、CD160及びCGEN-15049の1つ以上に結合してその活性を遮断又は阻害する抗体又はその抗原結合断片、他の結合タンパク質、生物学的治療剤又は小分子が含まれる。チェックポイント阻害剤の例には、限定されないが、トレメリムマブ(抗CTLA-4抗体)、抗OX40、PD-L1モノクローナル抗体(抗B7-H1;MEDI4736)、MK-3475(PD-1ブロッカー)、Nivolumab(抗PD1抗体)、CT-011(抗PD1抗体)、BY55モノクローナル抗体、AMP224(抗PDL1抗体)、BMS-936559(抗PDL1抗体)、MPLDL3280A(抗PDL1抗体)、MSB0010718C(抗PDL1抗体)及びヤーボイ/イピリムマブ(抗CTLA-4抗体)が挙げられる。
【0242】
ワクチン
一部の実施形態では、本方法は、ワクチンを投与することをさらに含む。ワクチンは、シクロホスファミドによる治療前、実質的に同時、又は治療後に対象に投与することができる。一部の実施形態では、ワクチンの前にシクロホスファミドが投与される。一部の実施形態では、ワクチンはシクロホスファミドの前に投与される。
【0243】
任意の適切なワクチンを使用し得る。本明細書で使用するとき、ワクチンには、限定されないが、がんワクチンが含まれる。本明細書で使用するとき、「がんワクチン」とは、免疫系を刺激して体内のがん細胞を攻撃するワクチンを指す。したがって、疾患を予防する代わりに、がんワクチンは免疫系を刺激して(例えば、CD8 T細胞及び/又はCD4 T細胞を誘導することにより)、すでに存在する疾患を攻撃する。一部の実施形態では、がんワクチンは、がん細胞、細胞の一部、又は純粋な抗原を使用して、すでに体内にあるがん細胞に対する免疫応答を増加させることができる。がんワクチンの非限定的な例には、腫瘍細胞ワクチン、抗原ワクチン、樹状細胞ワクチン、DNA又はRNAワクチン、及びベクターベースのワクチンが含まれる。
【0244】
一部の実施形態では、ワクチンは、抗原及びアジュバント及び任意で担体を含む抗原ワクチンである。適切なアジュバントの例には、Montanide ISO720、Alumなどがある。抗原ワクチンは、数千の抗原を含む腫瘍細胞全体とは対照的に、1つ以上の抗原を使用して免疫系を強化する。これらの抗原は、ペプチド、タンパク質、mRNA又はDNAであり得る。抗原ワクチンは、特定の抗原プロファイルによって各腫瘍の種類が同定される可能性があるため、特定の種類のがんに特異的であり得る。これらのワクチンの効果を最大化するために、特定のがんの抗原プロファイルに応じて、ワクチンに複数の抗原を組み合わせることが有益な場合がある。
【0245】
一部の実施形態では、がんワクチンは、対象から除去された実際のがん細胞から作製することができる。がん細胞は、いったん除去されると、典型的には放射線で、又はがん細胞溶解物の生成を介して、研究室で改変されてさらにがんを形成することができなくなる。がん細胞は、例えば、化学物質又は新しい遺伝子を追加することによりさらに改変されて、細胞を対象の免疫系から異物と見なされる可能性を高めることができる。次に、改変された細胞は対象に戻されて注入される。免疫系はこれらの細胞上の抗原を認識することができ、自然の生理学的プロセスを通じて、目的の抗原を発現する細胞を探し出し、攻撃/死滅させる。
【0246】
一部の実施形態では、がんワクチンは樹状細胞ワクチンを含む。樹状細胞ワクチンは多くの場合自家ワクチンであり、多くの場合、対象ごとに個別に作製する必要がある。それらを作製するために使用されるプロセスは複雑で高価である。例えば、免疫細胞は対象の血液から除去され、がん細胞又はがん抗原、及びそれらを樹状細胞に変えて増殖を促進する他の化学物質にさらされる。次に、樹状細胞は対象に戻され注入され、体内のがん細胞に対する免疫応答を引き起こす。
【0247】
一部の実施形態では、がんワクチンはDNA及び/又はRNAワクチンを含む。
【0248】
がんワクチンの非限定的な例には、DCVax及びSipuleucel-T(又はProvenge(登録商標))が含まれる。DCVaxは、活性化された樹状細胞を使用するプラットフォームテクノロジーであり、がんを攻撃するために免疫系を再活性化して教育するように設計される。DCVaxは、多数の活性剤を使用して、がんの多くの標的を攻撃する(Liau, LMら、Journal of Neurosurgery 90巻:1115-1124頁, 1999年; Prins RMら、J Immunother. 2013年2月; 36巻(2号):152-7頁)。Sipuleucel-Tは、従来の化学療法又はホルモン療法では治療できない進行性前立腺がんの治療に使用される樹状細胞ワクチンである。このワクチンでは、対象自身の免疫細胞を対象から単離し、免疫細胞を化学物質にさらして樹状細胞に変換させる。樹状細胞は、前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)にさらされる。これは、対象に再導入されると、前立腺がんに対する免疫応答を引き起こす。
【0249】
免疫モジュレート剤
一部の実施形態では、本方法は、免疫モジュレート剤を投与することをさらに含む。免疫モジュレート剤は、シクロホスファミドを用いた治療の前、実質的に同時、又は治療後に対象に投与することができる。一部の実施形態では、シクロホスファミドは免疫モジュレート剤の前に投与される。一部の実施形態では、免疫モジュレート剤はシクロホスファミドの前に投与される。
【0250】
本明細書で使用される「免疫モジュレート剤」には、宿主の免疫系によるがん細胞の免疫原性及び免疫認識を誘導又は増加させる化合物が含まれる。例えば、免疫モジュレート剤は、免疫モジュレート抗体、がんワクチン、治療用サイトカイン、細胞療法又はそれらの組み合わせであり得る。一部の実施形態では、免疫モジュレート抗体は、抗CTLA-4、抗PDL1、抗PDL2、抗PD1、抗CD137、抗CD40又は抗OX-40抗体からなる群から選択される。一部の実施形態では、がんワクチンは、本明細書で定義されるとおりである。例えば、がんワクチンは、抗イディオタイプ抗体、血管新生の阻害剤、腫瘍抗原特異的ペプチド又は組換えタンパク質からなる群から選択することができる。一部の実施形態では、細胞療法は、T細胞、幹細胞、樹状細胞、遺伝子若しくは薬理学的に修飾された免疫及び/又はがん細胞からなる群から選択される。
【0251】
本開示の広い一般的範囲から逸脱することなく、上述の実施形態に対して多数の変形及び/又は修飾を行うことができることを当業者は理解する。したがって、本実施形態は、全ての点で例示的であり、限定的ではないと見なされるべきである。
本発明は、例えば以下の実施形態を包含する:
[実施形態1]シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いた治療に臨床的に応答するがん対象を同定する方法であって、少なくとも1用量又は1サイクルのシクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体の投与後に、対象からのTeff細胞上のCCR4発現を検出することを含み、Teff細胞上のCCR4発現の上方調節は、対象が治療に臨床的に応答することを示す、方法。
[実施形態2]対象が婦人科がんを有する、実施形態1に記載の方法。
[実施形態3]Tsupp細胞ではなくTeff細胞上のCCR4発現の上方調節が、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いた治療に臨床的に応答する対象を同定する、実施形態1又は2に記載の方法。
[実施形態4]Teff細胞がTヘルパー細胞及び/又は細胞傷害性T細胞である、実施形態1から3のいずれかに記載の方法。
[実施形態5]Tsupp細胞が制御性T細胞(Treg)である、実施形態1から3のいずれかに記載の方法。
[実施形態6]検出することが、
(i)対象から得られた生物学的試料中のTeff細胞を、Teff細胞の表面上のCCR4に結合する薬剤とインビトロで接触させること、並びに
(ii)細胞上のCCR4の発現レベルを測定すること
を含み、Teff細胞上のCCR4発現の上方調節は、対象がシクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いたさらなるインビボ治療に臨床的に応答することを示す、実施形態1から5のいずれかに記載の方法。
[実施形態7]生物学的試料からTeff細胞を単離又は精製することをさらに含む、実施形態6に記載の方法。
[実施形態8]ステップ(ii)に従って測定されたCCR4の発現レベルを、シクロホスファミドを用いて前治療された対象からのTeff細胞上のCCR4の発現レベルと比較することを含む、実施形態6又は7に記載の方法。
[実施形態9]Teff細胞を含む対象からの生物学的試料を得ることをさらに含む、実施形態1から8のいずれかに記載の方法。
[実施形態10]シクロホスファミドを以前に受けていないがん対象が、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いた治療に臨床的に応答するかどうかを予測する方法であって、対象から得られた生物学的試料中のTeff細胞をインビトロでシクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体に曝露した後、Teff細胞上のCCR4発現を検出することを含み、曝露した後のTeff細胞上のCCR4発現の上方調節は、対象が治療に応答することを示す、方法。
[実施形態11]対象が婦人科がんを有する、実施形態10に記載の方法。
[実施形態12]Tsupp細胞ではなくTeff細胞上のCCR4発現の上方調節が、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いた治療に臨床的に応答する対象を同定する、実施形態10又は11に記載の方法。
[実施形態13]Teff細胞がTヘルパー細胞及び/又は細胞傷害性T細胞である、実施形態10から12のいずれかに記載の方法。
[実施形態14]Tsupp細胞が制御性T細胞(Treg)である、実施形態10から12のいずれかに記載の方法。
[実施形態15]発現を検出することが、
(i)生物学的試料をインビトロでシクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体に曝露すること、
(ii)対象からの生物学的試料中のTeff細胞を、Teff細胞の表面上のCCR4に結合する薬剤と接触させること、並びに
(iii)細胞上のCCR4の発現レベルを測定すること
を含み、Teff細胞上のCCR4発現の上方調節は、対象がシクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を用いた治療に臨床的に応答することを示す、実施形態10から14のいずれかに記載の方法。
[実施形態16]細胞がインビトロでマホスファミドに3日間曝露される、実施形態1から15のいずれかに記載の方法。
[実施形態17]ステップ(iii)に従って測定されたCCR4の発現レベルを、シクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体に予め曝露された対象からのTeff細胞上のCCR4の発現レベルと比較することを含む、実施形態10から16のいずれかに記載の方法。
[実施形態18]ステップ(iii)で決定されたCCR4の発現レベルを、対照の対象からのTeff細胞上のCCR4の発現レベルと比較することを含む、実施形態10から16のいずれかに記載の方法。
[実施形態19]低用量シクロホスファミドを用いて対象を治療することをさらに含むか、又はそれからなる、実施形態1から18のいずれかに記載の方法。
[実施形態20]対象が、シクロホスファミド又はその類似体、誘導体若しくは活性代謝物を用いて治療することができるがんを有する、実施形態1から19のいずれかに記載の方法。
[実施形態21]対象が、CCL22を分泌するがんを有する、実施形態1から20のいずれかに記載の方法。
[実施形態22]対象が、ホジキン及び非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、T細胞リンパ腫(菌状息肉腫)、多発性骨髄腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、ユーイング肉腫、乳がん、精巣がん、子宮内膜がん、卵巣がん;子宮がん、子宮頸がん、外陰がん又は膣がんを含む他の婦人科がん、及び肺がん、又はこれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択されるがんを有する、実施形態1から21のいずれかに記載の方法。
[実施形態23]生物学的試料が末梢血単核細胞(PBMC)を含む、実施形態6から22のいずれかに記載の方法。
[実施形態24](i)対象からの、エフェクターT細胞を含む生物学的試料を得ること、及び
(ii)生物学的試料から細胞懸濁液を調製すること
をさらに含む、実施形態1から23のいずれかに記載の方法。
[実施形態25]がん対象の低用量シクロホスファミド治療の有効性を評価する方法であって、第1の時点でTeff細胞を含む第1の生物学的試料において、CCR4の発現レベルを検出すること、後の時点でTeff細胞を含む第2の生物学的試料を用いてこの分析を反復すること、及び2つの時点でのCCR4の発現レベルを比較することを含み、第1の試料と比較した第2の試料におけるTeff細胞上のCCR4発現の上方調節が、臨床的に有効な治療を示す、方法。
[実施形態26]第1の時点は、対象が少なくとも1用量のシクロホスファミド又はその類似体若しくは誘導体を投与される前又は後にある、実施形態25に記載の方法。
[実施形態27]対象における卵巣がんの退行又は進行を評価するモニタリング方法であって、第1の時点でTeff細胞を含む第1の生物学的試料において、CCR4の発現レベルを検出すること、後の時点でTeff細胞を含む第2の生物学的試料を用いてこの分析を反復すること、及び2つの時点でのCCR4の発現レベルを比較することを含み、第1の試料と比較した第2の試料におけるTeff細胞上のCCR4発現の上方調節が卵巣がんの退行を示す、方法。
[実施形態28]Teff細胞がCD4+T H1 T細胞及び/又はCD8+細胞傷害性T細胞を含む、実施形態1から27のいずれかに記載の方法。
[実施形態29]Teff細胞がFoxP3-CD25-CD4+細胞及びCD8+T細胞を含む、実施形態1から28のいずれかに記載の方法。
[実施形態30]チェックポイント阻害剤(1若しくは複数)、抗がんワクチン(1若しくは複数)、モノクローナル抗体、追加の化学療法剤(1若しくは複数)、サイトカイン、腫瘍溶解性ウイルス、キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法、及び免疫モジュレート剤(1若しくは複数)又はこれらのいずれかの組み合わせからなる群より選択される治療剤を対象に投与することをさらに含む、実施形態1から29のいずれかに記載の方法。
[実施形態31]それを必要とする対象におけるがんを治療する方法であって、
(i)実施形態1から24のいずれかに記載の低用量シクロホスファミドに応答する対象を同定又は予測すること、及び
(ii)対象が低用量シクロホスファミドを用いた治療に臨床的に応答する対象であることが同定又は予測される場合、低用量シクロホスファミドを対象に投与すること
を含む、方法。
[実施形態32](i)対象から得られた生物学的試料中のTeff細胞を、Teff細胞の表面上のCCR4に結合する薬剤と接触させること、及び
(ii)細胞上のCCR4の発現レベルを測定すること
をさらに含む、実施形態31に記載の方法。
[実施形態33]対象が、実施形態1から24のいずれかに記載の低用量シクロホスファミドに応答することが以前に同定又は予測されている、低用量シクロホスファミドを用いて卵巣がんを治療する方法。
[実施形態34]実施形態1から24のいずれかに記載の低用量シクロホスファミドに応答する対象を同定又は予測する方法において使用するための、Teff細胞及びそれに結合するCCR4結合部分を含む複合体。
[実施形態35]実施形態1から24のいずれかに記載の方法において使用するための、Teff細胞上のCCR4発現を検出する試薬を含むキットであって、生物学的試料を回収する容器、並びにCD3、CD8、CD4、CD25、CCR4及びFoxP3からなる群から選択される表面抗原に結合する1つ以上の結合試薬を含む、キット。
[実施形態36]本出願の本明細書において個別に若しくは集合的に開示又は示されるステップ、特徴、構成要素(integer)、組成物及び/又は化合物、並びに前記ステップ又は特徴のうちの2つ以上の任意の及びすべての組み合わせ。
【0252】
以下の具体的な実施例は、単なる例示として解釈されるべきであり、いかなる形であっても、開示の残りの部分を限定するものではない。さらに詳述することなく、当業者は、本明細書の説明に基づいて、本発明を最大限に利用できると考えられる。本明細書で引用されるすべての刊行物は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。URL又は他のこのような識別子若しくはアドレスを参照する場合、このような識別子は変更することができ、インターネット上の特定の情報が行き来することができるが、インターネットを検索することで同等の情報を見つけることができる。それらへの参照は、このような情報の入手可能性及び公衆への普及を明らかにする。
【0253】
[実施例]
方法
1.1 試験設計及び患者の詳細
年齢が62~82歳の婦人科がんの10人のヒト患者が、二中心性(bicentric)の第II相試験で募集された。患者は、進行した治療抵抗性の婦人科腫瘍を有し、オーストラリアのRoyal Women’s Hospital(n=3)及びベルギーのUniversity Hospital Leuven(n=7)から募集された。表1を参照されたい。疾患の進行は、RECIST及びGCIG CA125基準を使用して決定された(Rustin GJら、(2011年) Official journal of the International Gynaecological Cancer Society Feb; 21巻(2号):419-23頁)。募集時から、患者から書面による同意が得られ、治療前の血液試料が回収された。患者は、3日間連続で1日2回(朝及び夕方)、50mgのシクロホスファミドを経口投与され、2週間後に全血用EDTAコーティングチューブ及び血清用血清分離チューブ(BD Vacutainer, BD, USA)に血液を採取した。治療サイクル及び採血は、2週間ごとに最大8サイクル繰り返された。健康な試料については、オーストラリア赤十字血液サービスで取得した定期的な献血からバフィーコートを入手した。
【0254】
【表1】
【0255】
1.2 末梢血単核細胞の単離
末梢血単核細胞(PBMC)は、Ficoll(Amersham Pharmacia Biotech, Sweden)密度勾配遠心分離により血液採取から24時間以内に単離された。次に、細胞をダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水(dPBS、Sigma-Aldrich, USA)で洗浄した。単離したPBMCを、10%DMSO(Sigma- Aldrich, USA)及び90%熱不活化ウシ胎仔血清(GIBCO, Life Technologies, USA)又は90%ヒトAB血清(Sera Laboratories International, UK)を含む凍結培地中で-80℃にて1℃/分の速度で凍結し、その後、液体窒素に保存した。解凍後、凍結したPBMCの各バイアルを37℃の水浴ですばやく解凍し、5%正常ヒト血清(HS, Sigma-Aldrich, USA)を含むAIM-V培地(Life Technologies, USA)に再懸濁した(完全なAIM-V培地)。
【0256】
1.3 細胞カウント
細胞は、倒立顕微鏡(Leica Microsystems, Germany)でガラス血球計算盤(Hausser Scientific, USA)を使用してカウントされた。細胞をトリパンブルー染色(GIBCO, Life Technologies, USA)で希釈して、細胞の生存率を決定した。
【0257】
細胞数の計算式:
総細胞=細胞数×希釈係数×チューブ内の細胞の体積×104
【0258】
1.4 血清CCL22の検出
製造元の指示に従って、Multiplex Bead Immunoassay Kit(ヒトケモカイン5プレックスパネル、Life Technologies, USA)を使用して、がん患者及び健康なドナーの血清中のCCL22の濃度を決定した。試料は、Bio-Plex 200システム(Bio-Rad, USA)で取得し、最低100事象を回収した。結果は、Bio-Plex Managerバージョン5ソフトウェア(Bio-Rad, USA)を使用して分析した。
【0259】
1.5 フローサイトメトリー分析
PBMCのT細胞集団の頻度及び表現型を決定するために、以下の表面抗体を使用してマルチカラーフローサイトメトリーを実施した:抗CD3、抗CD8、抗CD4、抗CD25、及び抗CCR4。抗体は、5%HSを含むdPBS(染色緩衝液)で希釈した。細胞は、室温で15分間、107細胞/150μlの抗体カクテルの最終濃度で染色された。次に、細胞を染色緩衝液で2回洗浄した。固定可能な死細胞色素(生/死、固定可能なアクア死細胞染色キット、 Life Technologies, USA)を使用して、死細胞と生細胞を区別した。色素を染色緩衝液で1/500に希釈し、細胞を室温で15分間、最終濃度107細胞/150μlの希釈染料でインキュベートし、その後、染色緩衝液で2回洗浄した。FoxP3の細胞内レベルは、固定/透過緩衝液キット(eBioscience, USA)を使用して、細胞の固定及び透過処理後に決定された。固定/透過処理濃縮液を希釈剤で1:3に希釈した。次に、細胞を4℃で30分間、50μlの希釈固定/透過処理溶液に再懸濁した。細胞内の抗FoxP3及び抗Ki67は、固定/透過化洗浄緩衝液(eBioscience、USA)で希釈された。細胞を固定/透過化洗浄緩衝液で洗浄し、最終濃度107細胞/150μlの希釈細胞内抗体に再懸濁し、室温で15分間インキュベートした。次に、細胞を2回洗浄し、1%パラホルムアルデヒドを含むdPBS(PFA、Sigma-Aldrich, USA)に再懸濁した。FACSDivaソフトウェアを使用して、Becton Dickinson LSR IIフローサイトメーターでフローサイトメトリーデータを取得し、試料あたり最低100,000事象を取得した。正確なゲーティングを可能にするために、蛍光マイナス1(FMO)対照及びアイソタイプが一致した抗体もまた使用された。Flowjoソフトウェア(TreeStar, USA)を使用してデータを分析した。抗体のリストを表2に示す。
【0260】
1.6 T細胞の細胞傷害性アッセイ
T細胞の細胞傷害能は、48ウェルプレートで106細胞/500μl/ウェルの完全AIM-V培地でPBMCを培養することにより決定された。次に、細胞は、タンパク質輸送阻害剤(ストックの1/1500希釈、BD GolgiStop, BD biosciences, USA)及び抗CD107a(ストックの1/20希釈、BD Pharmingen, USA)の存在下、37℃で、5%CO2の加湿インキュベーター内で、細胞を50ng/mlのホルボール12-ミリスチン酸13-アセテート(PMA、Sigma-Aldrich, USA)及び1μg/mlのイオノマイシン(Sigma- Aldrich, USA)で6時間刺激した。ブレフェルジンA(eBioscience, USA)をインキュベーションの最後の4時間、3μg/mlで添加した。インキュベーション後、細胞を洗浄し、上記のように表面マーカーについて標識した。フローサイトメトリーを用いて細胞を分析し、非刺激細胞、蛍光マイナス1(FMO)及びアイソタイプが一致した抗体も対照として使用した。上記のようにデータを回収して分析した。
【0261】
1.7 インビトロ薬物実験
シクロホスファミドのインビトロでのT細胞における効果を調べるために、患者、治療前及び健康なドナーからのPBMCを、シクロホスファミドの薬理学的に活性な肝臓代謝産物の類似体であるマホスファミド(Niomech, Germany)で処理した。マホスファミドは、使用時に滅菌ミリQ水に80mg/mlの濃度で再構成された。CD4+及びCD8+T細胞は、上記のようにそれぞれの抗体で細胞を標識し、次に、蛍光活性化細胞選別を使用することにより精製された。全PBMC又は精製CD4+及びCD8+T細胞を、96ウェルプレートに3×105細胞/150μl/ウェルで、完全AIM-V培地内で、1.5μg/mlのマホスファミド又は培地のいずれかとともに、37℃で72時間、5%CO2加湿インキュベーター内で培養した。精製された細胞培養物では、細胞生存率を維持するためにIL-2を20単位/mlの濃度で添加した。インキュベーション後、細胞を洗浄し、上記のフローサイトメトリーを使用して、Treg及びエフェクターT細胞でのCCR4発現を決定した。インビトロ処理後のT細胞のサイトカイン分泌プロファイルを決定するために、24、48及び72時間の時間経過で、上記のように細胞をマホスファミドで処理した。各時点でのインキュベーションの最後の6時間で、上記のように細胞をPMA及びイオノマイシンで刺激した。次に、細胞を洗浄し、表面マーカー、続いて、抗IL-4(BD Pharmingen, USA)及び抗IL-2(BD Pharmingen, USA)を使用して上記の細胞内サイトカイン染色のために標識した。
【0262】
1.8 ヒストン3のアセチル化の検出
リジン(H3K)9、H3K14及びH3K18でのヒストン3のアセチル化は、フローサイトメトリーを使用して評価された。最初に、1.5μg/mlのマホスファミド又は10ng/mlのIL-4(R&D systems, USA)又は20単位/mlのIL-2(R&D systems, USA)で上記のように細胞を72時間培養した。培養の最後の4時間で、50nMパノビノスタット(LBH589、汎ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤)をIL-2培養液に添加した。上記のように細胞を回収し、フローサイトメトリー分析用に準備した。表面標識、固定、及び透過処理後、細胞を非結合抗H3K9、抗H3K14及び抗H3K18(Cell Signalling Technology, USA)で標識した。二次標識は、Alexa Fluor 488結合ロバ抗ウサギIg抗体(Biolegend, USA)を使用して実施した。上記のようにデータを回収して分析した。
【0263】
1.9 遊走アッセイ
健康なドナーからのPBMCを上記のようにマホスファミドで処理した。72時間のインキュベーション後、細胞を洗浄し、生細胞を24ウェルトランスウェルインサート(Corning, USA)に、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA、Sigma-Aldrich, USA)を含むAIM-V培地中の2.5×105細胞/100μl/インサートで播種した。AIM-V培地中の100ng/mlのCCL22(R&D Systems, USA)又はAIM-V培地のみの600μlを、トランスウェルインサート下の各ウェルに添加した。細胞を5%CO2加湿インキュベーター内で37℃にて2時間インキュベートし、その後、細胞をカウントし、フローサイトメトリーを使用してT細胞サブセットを決定した。CCL22に向かって遊走した細胞の割合を、培地のみに向かって遊走した細胞の割合で割ることにより、遊走指数を計算した。
【0264】
1.10 統計
統計的有意性を決定するために、ノンパラメトリック検定が使用された。インビトロ及びインビボの治療後及び治療前の試料間の患者における違いを比較するために、Wilcoxonの対応した符号付順位検定を行い、Mann-Whitney検定を使用して患者群間又は患者と健康なドナー間を比較した。治療後の倍数変化の有意性を決定するために、Wilcoxonの符号付順位検定を行い、平均が1であるという帰無仮説を検定した。スピアマン相関検定を使用して、パラメーター間の相関を決定した。GraphPad Prism(v.6、GraphPad Software, Inc, USA)を使用して統計分析を実施した。p<0.05は有意とみなされた。平均値は平均の±標準誤差(SEM)を示した。
【0265】
【表2】
【0266】
[実施例1]
治療後のCCR4+T細胞の増加は、婦人科悪性腫瘍を有する患者の生存率の増加と関連付けられる
T細胞内のCCR4発現に対するシクロホスファミドの効果を調べるために、CCR4+細胞の治療前の頻度(n=7~8時点の平均)は、各個々の患者について、各治療サイクル後の頻度(n=3~6時点の平均)と比較した。10人の患者のうち、4人は少なくとも1サイクルの治療後、CD3+T細胞内のCCR4+細胞の頻度が有意に増加した(CCR4%又はCCR4スパイクの増加、図2A)。これは、初回の3サイクルの治療内で生じた。一方、他の6人の患者では、CD3+T細胞内のCCR4+細胞の頻度は、比較的一定のままであった(一定のCCR4+%又はCCR4定常、図2及び表3)。
【0267】
【表3】
【0268】
「CCR4スパイク」患者は、CCR4定常の患者よりも有意に長く(約3倍長く)生存し、平均全生存期間は163±37日と比較して1年近く長く476±80日であった(p<0.01)。疾患の安定化の時期は、CCR4+T細胞における個々のスパイクの時間と正確に一致した(図示せず)。治療後の「CCR4定常」細胞を有する6人の患者はいずれも、安定した疾患を達成しなかった(図2Bに示される)。4人のCCR4スパイク患者のうち、3人がさらに安定した疾患を達成し、興味深いことに、疾患の安定化はCCR4+T細胞が増加する時間と完全に一致した(図2C)。治療後に不変の一定のCCR4細胞%(CCR4定常)を有する6人の患者のいずれも疾患の安定性を達成しなかった(図2C)。
【0269】
[実施例2]
CD8+T細胞及びエフェクターT細胞ではCCR4発現が増加するが、Tregでは増加しない
低用量シクロホスファミド治療は、患者の亜群のCD3+T細胞内のCCR4+細胞の頻度を一時的に増加させた。CCR4を発現している特定のT細胞サブセットをさらに決定するために、本発明者らは、CD3+T細胞内のCCR4+細胞の頻度の増加が観察された時点でこれらの患者に分析を集中した。次に、T細胞を制御性T細胞、FoxP3+CD25+CD4+(Treg)、及びFoxP3-CD25-CD4+(Tconv)、又はCD8+T細胞であるエフェクターT細胞サブセットに分割した(図3A)。それぞれのサブセット内のCCR4+細胞の頻度を決定し、治療後の値を治療前の値に対して標準化した。CD3+T細胞内のCCR4+細胞の頻度の増加は、治療前レベルと比較して、TconvとCD8+T細胞の両方がCCR4+細胞の頻度において有意に5倍の増加を示したため(両方のケースにおいてp<0.05)、エフェクターT細胞集団でのCCR4発現の増加によって促進された(図3A)。Treg内のCCR4+細胞の頻度は有意に増加しなかった(図3A)。Treg、Tconv、及びCD8+T細胞内のCCR4平均蛍光強度(MFI)の倍数変化はまた、治療前のレベルと比較して評価され、3つの集団すべてでCCR4 MFIは変化しないままであった(図3A)。
【0270】
腫瘍微小環境内のエフェクターT細胞とTregの比は、婦人科がん患者の臨床結果に関連付けられる、十分に確立されたパラメーターである(Gooden MJら、(2011年) British journal of Cancer 28;105(1):93-103頁)。本発明者らは、増加したCCR4%患者と一定のCCR4%患者との間の治療の最初の3サイクル内で、CCR4+Tconv及びCCR4+CD8+T細胞のプール比をCCR4+Tregと比較した。増加したCCR4%患者は、一定のCCR4%患者と比較して、TconvとTregの平均比が2倍以上高く(p<0.01)、CD8+T細胞とTregの平均比が3倍以上高かった(p<0.05)(図3B)。
【0271】
T細胞上のCCR4発現は、細胞傷害性の喪失と関連付けられる(Kondo Tら、(2009年) International Immunology 21巻(5号):523-32頁)。したがって、本発明者らは、CD4+又はCD8+T細胞の細胞傷害機能がこれらの集団内のCCR4+細胞の増加によって影響を受けるかどうかを決定した。CD4+及びCD8+T細胞内のCD107a+細胞の頻度は、CCR4+T細胞の頻度が増加した時点の1つで、4人の増加したCCR4%患者のうち3人の試料を使用して決定された。CD4+とCD8+集団の両方におけるCD107a+細胞の平均頻度は、治療前の試料と比較して増加したが、しかし、どちらの増加も有意ではなかった(図4A及びB)。
【0272】
[実施例3]
マホスファミド前処理によりインビトロでCCR4+エフェクターCD4 T細胞を生成する能力が増加した患者は、インビボでシクロホスファミドに「CCR4スパイク」で応答する
CCR4+T細胞の頻度の増加が直接シクロホスファミドによるものかどうかを決定するために、患者の治療前及び健康なドナーからの末梢血単核細胞(PBMC)を、シクロホスファミドの生理活性アイソフォームであるマホスファミドとともに培養した。滴定により、最適な非毒性マホスファミドの用量は1.5μg/mlであることが決定された(図5)。健康なドナーと患者の治療前のPBMCを、1.5μg/mlのマホスファミド又は培地のみで3日間培養した。健康なドナーと患者の両方からのマホスファミド処理されたPBMCは、培地と比較してCD3+T細胞内のCCR4+細胞の頻度が有意に高かった(健康:15.4%±1.47%と比較して22.9%±1.79%、p<0.001、及びがん:19.6%±2.82%と比較して24.4%±3.14%、p<0.01、図6A)。
【0273】
インビボでの観察と同様に、CCR4+細胞の頻度の倍数変化が、Treg、Tconv、及びCD8+T細胞について、培地と比較して決定された場合、マホスファミド処理されたPBMCは、Tconv内のCCR4+細胞(健康:1.45倍、p<0.05、及びがん:1.18倍、p<0.05)、及びCD8+T細胞(健康:2.52倍、p<0.05、がん:1.61倍、p<0.05)の頻度が有意に増加した。Treg内のCCR4+細胞の頻度に有意な変化は観察されなかった(図6B)。この傾向は、健康なドナーとがん患者の間で類似していたが、しかし、Tconv内のCCR4+T細胞(p<0.01)及びCD8+T細胞(p<0.01)の倍数増加は、がん患者よりも健康なドナーで高かった(図6B)。マホスファミド治療は、健康なドナーとがん患者の両方の細胞集団のいずれのCCR4のMFIを変更しなかった(図6B)。
【0274】
また、インビボの観察と同様に、エフェクターと制御性T細胞集団の間のマホスファミドによるCCR4発現の異なる制御は、健康なドナーとがん患者の両方の未処理細胞と比較して、CCR4+CD4+TconvとCCR4+Treg(p<0.05)及びCCR4+CD8+T細胞とCCR4+Treg(p<0.05)の平均比が2倍以上の有意な増加をもたらした(図6C)。
【0275】
CCR4定常患者(n=6)とCCR4スパイク患者(n=4)の患者の間のCCR4+CD4 T細胞エフェクターの頻度の上方調節の比較(p<0.0005)は、倍数増加として表され、図6Dに示される。
【0276】
本発明者らはさらに、増加したCCR4%患者が、マホスファミドに対する応答において一定のCCR4%患者と区別されるかどうかを調査した。これは、応答バイアス前治療を示している可能性があったためである。しかしながら、CD3+T細胞内のCCR4+細胞の頻度の倍数増加は、一定のCCR4%患者と比較して、増加したCCR4%患者ではわずかに高かったが、この差は統計的に有意ではなかった(図8A)。Tconv及びCD8+T細胞内のCCR4+細胞の倍数変化を、増加したCCR4%患者と一定のCCR4%患者との間で比較した場合、Tconv内の倍数増加は、一定のCCR4%患者と比較して、増加したCCR4%患者で有意に高かった(1.09と比較して1.32、p<0.05、図8B及びC)。
【0277】
[実施例4]
パクリタキセルは、健康なPMBCにおけるCCR4+T細胞の頻度を有意に増加させない
CCR4+T細胞の頻度の増加がパクリタキセル(別の抗腫瘍薬)を用いた治療時に発生するかどうかを決定するために、健康な患者からの末梢血単核細胞(PBMC)をマホスファミドとパクリタキセルとともに培養した。健康なドナーPBMCは、5%CO2加湿インキュベーター内で、培地のみ、シクロホスファミドの活性代謝物マホスファミド1.5μg/ml、又はパクリタキセル30ng/mlで37℃にて72時間インキュベートされた。細胞を回収し、フローサイトメトリー分析を使用して、CD8+及びCD4+CD25-T細胞上のCCR4発現を決定した。健康なドナーからのマホスファミド処理されたCD8+及びCD4+CD25-T細胞は、パクリタキセル処理された細胞と比較して、未処理細胞に対してCCR4+細胞の倍数増加が有意に高かった(CD8+:1.00と比較して1.39、p<0.05、及びCD4+CD25-:1.04と比較して1.14、p<0.01、図7)。
【0278】
[実施例5]
T細胞上のCCR4発現の誘導のメカニズム
CCR4の発現は、TH2分極条件下で誘導される。したがって、本発明者らは、CCR4の上方調節がマホスファミドによるTh2分極によるものかどうかを調べた。PBMC上のIL-4の発現は、1日間隔で3日間の時間経過にわたってCCR4発現と相関した。CD4+とCD8+T細胞集団の両方で、CCR4発現とIL-4発現の間に相関はなかった(図9A)。代わりに、CCR4発現は、CD4+とCD8+T細胞の両方でIL-2+細胞の頻度と正に相関した(図10)。
【0279】
本発明者らはさらに、マホスファミドが、精製されたCD4+及びCD8+T細胞集団でCCR4発現を誘導するかどうかを調査した。未処理細胞とマホスファミド処理された細胞間のCCR4+頻度の倍数変化を決定し、全PBMCと単離細胞間で比較した。全PBMCに含まれるCD4+及びCD8+T細胞と比較して、精製されたCD4+及び精製されたCD8+T細胞内のCCR4+細胞の頻度の平均倍数増加に差はなかった(図9B)。
【0280】
マホスファミドは、CCR4発現を直接調節しているように見えた。シクロホスファミドは、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤として作用し、ヒストン3(H3)のアセチル化をモジュレートすることが以前に示されているため、さらにエピジェネティックな修飾H3は、CCR4遺伝子発現に関連付けられているため、本発明者らは、マホスファミドによるCCR4発現の制御が、エピジェネティックな修飾によるものかどうかを調べた。H3K9、H3K14、及びH3K18のアセチル化レベルは、PBMCをパノビノスタット(LBH589、汎HDAC阻害剤)、マホスファミド又はIL-4で処理した後に決定された。H3K9、H3K14、又はH3K18陽性細胞のMFIを決定し、培地のみで培養した細胞のMFIに対して標準化した。マホスファミドもIL-4処理もH3K14のアセチル化に変化をもたらさなかった(図11)。アセチル化の変化は、H3K9及びH3K18で明らかであった。ゲートは陽性細胞に設定され、その中でアセチル化されたH3K9及びアセチル化されたH3K18のMFIが決定された。細胞をマホスファミドで処理した場合、CD4+とCD8+T細胞の両方で、アセチル化されたH3K9及びH3K18のMFIが1.2倍近く有意に増加した(p<0.05)。IL-4を用いた細胞の処理により、CD8+T細胞のH3K9のアセチル化がわずかではあるが有意に減少した(p<0.05)(図9C)。CCR4+細胞をCD4+及びCD8+T細胞内のCCR4-細胞と比較した場合、H3K9又はH3K18のアセチル化に有意差はなかった(図9C)。
【0281】
[実施例6]
マホスファミド誘導によるCCR4発現はCCL22への細胞遊走を促進する
シクロホスファミド誘導によるCCR4発現は機能的であり、CCL22に応答して細胞遊走を開始できるかどうかを決定するために、1.5μg/mlマホスファミドで処理された健康なドナーPBMCを使用してインビトロ遊走アッセイを実施した。遊走指数は、以前に説明されているように計算された(Govindaraj Cら、(2013年) Clinical Immunology 149巻(1号):97-110頁)。患者のCCL22の血清濃度を図12に示す。
【0282】
CCL22へのマホスファミド処理されたPBMCの遊走指数に有意な増加があったが(p<0.05)、未処理PBMCの遊走指数は変化しないままであった(図13A)。この方向性のある遊走がCCR4発現に関連していることをさらに確認するために、本発明者らはCCR4+T細胞の頻度を遊走指数と相関させ、2つのパラメーター間に有意な正の相関を見出した(p<0.001、r=0.81、図13B)。
【0283】
シクロホスファミドは、Tregではなくエフェクター細胞集団でCCR4発現を差示的に上方調節することにより、腫瘍に遊走する能力があるTregに対するエフェクター細胞の比のシフトをもたらすことが示される。したがって、本発明者らは、これが、CCL22に向かって輸送された細胞内のTregに対するエフェクターの比の実際のシフトを反映しているかどうかを調査した。CCL22に向かって遊走した細胞内のTconvとCD8+T細胞のTregに対する比を、マホスファミドで処理された又は処理されなかったPBMC間で比較した。TconvとTreg及びCD8+T細胞とTregの両方の平均比は、未処理細胞と比較してマホスファミド処理された細胞で2倍以上高かったが、しかし、この差はTconvとTregの比でのみ有意であった(p<0.05、図13C)。
【0284】
[実施例7]
卵巣がんの免疫適格性マウスモデルにおいて、LDCyは末梢血のCCR4+CD8+T細胞及びTILにおける活性化CD8T細胞を増加させる
生体活性エフェクターCD8 T細胞は、インビボで低用量シクロホスファミド(LDCy)により腫瘍浸潤リンパ球(TIL)のTregに比例して増加するという、実施例1のパイロットヒト試験からの予測を試験するために、本発明者は同系上皮癌細胞株ID8に基づく免疫適格性マウスの卵巣がん(OC)モデルを採用した。これは、腹腔内(i.p.)又は嚢内(i.b.)に投与され、血管の変化、緩慢な成長、腫瘍腹水の形成、播種のパターンなどの卵巣がんの病理の重要な側面を再現している(Chiriva-Internati Mら、(2010年) PloS one 5, e10471)。
【0285】
腫瘍を保有する動物の免疫におけるLDCyの影響に対処するために、ID8移植動物(n=5匹/群)をチャレンジ後(インビボで検出可能な腫瘍成長の開始時)にLDCyの1サイクルで処置し、インビボ治療後の1、7、及び14日目にフローサイトメトリーによって、エクスビボでT細胞サブセットの変化を評価した。図14は、14日目からのデータを示す。末梢血では、CCR4+CD8+T細胞の明らかな増加が見られ(図14A)、CCR4+CD4 T細胞エフェクターへの傾向が増加し、ヒト試験の結果に類似するが、CDR4+Tregでは増加しなかった。CCR4は、腫瘍によって局所的に分泌されるCCL22により下方調節され(Mariani Mら、(2004年) Eur J Immunol 34巻:231頁; de Lavareille Aら、(2001年) European Journal of Immunology 31巻:1037-1046頁)、CCR4を介したT細胞浸潤は、活性化された表現型に関連しているため(Kovacsovics-Bankowski Mら、(2014年) Journal for immunotherapy of cancer 2:38)、発明者らはまた、CD69活性化マーカーとの同時染色によって、腫瘍浸潤性リンパ球(TILS)における活性化T細胞の頻度の同時変化について試験した。図14Bは、TILS CD69+CD8+T細胞がLDCy治療後に明らかに増加し、再びCD69+CD4 T細胞エフェクターが増加する傾向があることを示しているが、血液中のCCR4+T細胞の増加とさらに相関するCD69+Tregの増加はない(示さず)。
【0286】
[実施例8]
シクロホスファミド治療に対する応答者の予測
末梢血単核細胞(PBMC)をがん対象から得、採血の24時間以内にフィコール密度勾配遠心分離によって単離する。次に、細胞を5%ヒト血清を含むAMI-V培地に懸濁させる。次に、適切な条件下で、PBMCを1.5μg/mlのマホスファミド又は培地のみで3日間培養する。次に、細胞を回収し、CCR4、CD3、CD8、CD4、及びCD25などの適切な細胞表面マーカーと固定可能な死細胞色素(例えば、PE)で染色して、死細胞を区別する。FoxP3の細胞内レベルは、細胞の固定と透過処理に続いて、抗FoxP3で標識した後に決定される。次に、細胞を適切にゲーティングし、アイソタイプが一致する対照を参照してフローサイトメトリーで分析する。FoxP3-、CD25-、CD4+及びCD8+を発現するTeff細胞をCCR4の発現について分析する。場合によっては、FoxP3+、CD25+、CD4+を発現するTregもまたCCR4の発現について分析される。
【0287】
マホスファミドの存在下で培養されたTeff細胞上のCCR4発現レベルは、マホスファミドの非存在下で培養された細胞上のCCR4発現レベルと比較する。
【0288】
未処理細胞と比較して、マホスファミド処理後にCCR4発現の増加(すなわち、上方調節)を示す対象は、低用量シクロホスファミド又はその類似体、誘導体若しくは活性代謝物による治療のために選択される。
【0289】
備考
がんに対する免疫療法の重点は、免疫抑制の改善及びエフェクターT細胞機能の活性化にある(Dougan M及びDranoff G (2009年) Ann Rev Immunol. 27:83-117)。しかしながら、有益な免疫細胞が必要とされる場所に到達できない場合、これらの努力は無駄になる。本明細書に提示されたデータは、免疫学的に応答し、インビトロでのスクリーニングプロトコルを使用した免疫療法の低用量シクロホスファミド(LDCy)治療から恩恵を受ける患者を事前に同定することが可能であることを示す。スクリーニング試験を遺伝子検査と組み合わせて、付加的な力を提供することができる。
【0290】
CCR4上方調節に対するLDCyの効果は、Tregではなく、エフェクターT細胞では一貫していたが、治療中のインビボ及びCUP事前試験でのインビトロでのCCR4上方調節を有することが観察された患者の生存期間が劇的に増加した(>300日)。
【0291】
動物データは、LDCyが血液中のエフェクターCCR4+CD8+T細胞(CCR4+Tregではない)を増加させ、その後の遊走腫瘍を促進し、活性化CD8 T細胞における腫瘍浸潤を増やすという仮説を支持した。重要なことは、ヒトPBMCの治療前のインビトロ分析はまた、LDCy治療に応答しない患者を予測し、他の治療に移行できるようにすることである。
【0292】
これらのデータは、シクロホスファミドがエフェクターT細胞でのCCR4の発現を直接スイッチさせることができることを示唆する。遊走アッセイでは、マホスファミド処理された細胞がCCL22に応答して遊走する能力が確認され、遊走画分におけるTregに対するエフェクターT細胞の比が増加することも示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
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