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特許7255899組織または流体から分子を選択的に除去するためのデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】組織または流体から分子を選択的に除去するためのデバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/36 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
A61M1/36 149
A61M1/36 165
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020541421
(86)(22)【出願日】2019-01-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-27
(86)【国際出願番号】 ES2019070038
(87)【国際公開番号】W WO2019158791
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-01-21
(31)【優先権主張番号】P201830130
(32)【優先日】2018-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(73)【特許権者】
【識別番号】520271540
【氏名又は名称】フンダシオン・デ・ニューロシエンシアス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マヌエル・メネンデス・ゴンサレス
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-505556(JP,A)
【文献】特表平03-501333(JP,A)
【文献】国際公開第88/006045(WO,A2)
【文献】特開2010-227313(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0216226(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00-1/38,25/00,31/00
A61B 10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織または流体から分子を選択的に除去するためのデバイスであって、組織または流体中に自然抗体(5)とともに一連の標的分子(4)が存在し、前記デバイスは主カテーテル(1)で構成され、前記主カテーテルは、処置される前記流体(3)または組織に前記主カテーテルが到達するまで、対象となる体表面(2)に挿通することができ、主カテーテル(1)は前記標的分子(4)に対して特異抗体またはアプタマー(6)を挿入するためのものであり、前記主カテーテルは、前記標的分子(4)より大きいが、前記抗体、前記自然抗体(5)および前記特異抗体またはアプタマー(6)の両方より小さい細孔サイズを有するナノ膜(8)が位置決めされる主チャンバー(7)内で終端し、前記主チャンバー(7)がナノ膜(8’)を通して第2のカテーテル(9)と連通するという特別な特徴を有しており、前記ナノ膜(8’)は、前記標的分子(4)より大きいが、前記抗体より小さい細孔サイズを有し、前記第2のカテーテル(9)は特異抗体で処置された流体を除去し、濾過し、その結果標的分子(4)の濃度をより低くするための手段を備えることを特徴とする、組織または流体から分子を選択的に除去するためのデバイス。
【請求項2】
前記デバイスは、第3の独立したカテーテル(10)を有し、前記第3の独立したカテーテル(10)は、二次チャンバー(11)内で終端し、前記主チャンバー(7)から独立しており、サイズに関係なく、前記組織または流体中のすべての前記分子によるアクセス、および前記流体への物質の投与を許容する微孔質膜(12)から形成される壁を有することを特徴とする、請求項1に記載の組織または流体から分子を選択的に除去するためのデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織または生体液を含む、任意のタイプの流体溶液または組織から関心対象の特定の分子(標的分子)を選択的に除去することを可能にするように組織または流体から分子を選択的に除去するための埋め込み可能なデバイスに関する。
【0002】
本発明によるデバイスは、デバイスが位置する流体を除去することも可能にし、物質をそこに投与する(たとえば、標的分子の沈着物の分解を促進する酵素を投与する)ことも可能にする。
【背景技術】
【0003】
生体液から病理学的過程のメディエータと考えられる高分子を除去することを伴う技術は、20世紀初頭から応用されてきた。プラズマフェレーシスまたは血漿交換法として一般的に知られている最も普及した技術は、成分のうちのどれかを、程度の差はあれ選択的に除去するように処理された、血液(血漿)中の液体から細胞成分を分離することを含む。処理後に、血漿は再注入される。
【0004】
臨床診療では、プラズマフェレーシスという用語と血漿交換という用語は同義語として使用されるが、大半の場合、血液から分離された血漿は、除去され、同じ体積の交換溶液で置き換えられる。しかしながら、これらの技術には、特異性(選択性)の問題がある。言い換えると、これらの技術は、抗体、免疫複合体、クリオグロブリン、補体成分、リポタンパク質、タンパク質に結合された毒素、および他の未知の物質を含み得る、大量の異なる物質を除去する。実際には、プラズマフェレーシスがその治療効果を発揮する正確なメカニズムは知られていない。
【0005】
エンドトキシンを除去するためのフィルタ/カラムは、血液灌流/吸着によって血漿からエンドトキシンを除去するために使用される体外デバイスである。これらは、内因性および外因性毒素を結合によって除去することができる樹脂または木炭で構成される吸着剤の使用に基づく。
【0006】
トレミキシン(登録商標)は、ポリミキシンB(血流中で循環しているエンドトキシンとの強い結合を生み出すことによって特徴付けられる抗生物質)をポリスチレンおよびポリプロピレン繊維中に組み込む。
【0007】
LPS吸着剤(Alteco Medical AB)は、高いエンドトキシン吸着能力を有する合成ペプチドで覆われた2つの多孔質ポリエチレンディスクで構成されるデバイスである。
【0008】
オキシリス(Gambro-Hospal-Baxter)は、炎症性サイトカインおよびエンドトキシンを吸着する能力を有するポリスルホンおよびポリアクリロニトリルフィルタである(限定された治験)。
【0009】
MATISSE-Freseniusシステムは、エンドトキシンとヒトアルブミンとの親和性に基づく。このシステムは、アルブミンをポリメチルメタクリレートフィルタに組み込む。臨床安全性および耐性研究が実施されている。臨床上の有用性はまだ実証されていない。
【0010】
Cytosorb(登録商標)は、重度の敗血症または敗血性ショックを患っている動物モデルおよびヒト体内の循環サイトカインレベル(IL-1ra、IL-6、IL-10、IL-8、IL-1)を低減するポリスチレンおよびジビニルベンゼンから作られる多孔質材料である。患者に対する研究はほとんど実施されていない。
【0011】
CTRカラムは、疎水性有機配位子と組み合わされたセルロースで構成されているカラムである。CTRカラムは、5000から50,000Daの間の分子量を有するサイトカインおよびエンテロトキシンの除去を可能にする。ネズミ実験で使用され満足のゆく結果が得られた。
【0012】
リポタンパク質の除去
DALI(登録商標)は、従来の治療が効かない高コレステロール血症の患者体内のリポタンパク質およびLDLコレステロールの直接吸着を可能にするデバイスである。
【0013】
TheraSorb(商標)LDL治療システム(Miltenyi Biotec)は、患者の血液からLDL、Lp(a)、およびVLDLコレステロールを除去する、様々なサイズのものが入手可能な2つの再利用可能な吸着システム(セファロースで構成される)を備える。
【0014】
上述のデバイスは、何らかの選択性、および疑いようもなく従来の一般プラズマフェレーシスまたは体外濾過技術を越えるものを有している。しかしながら、それらは、選択性(特異性)の著しい要素を導入する抗原-抗体反応に基づくシステムであり、システムを、抗原特性を持つ高分子の検出、捕捉、および除去のための恐るべきツールに変える。
【0015】
免疫技術に基づく分子の選択的除去のためのシステムの開発および検証の現在までに遂げた進捗状況を詳しく分析してみると、あまり進展していないことが明らかである。現在採用されている唯一の免疫技術ベースデバイスは、病原性抗体の除去に使用されており、抗体のFab断片による抗原認識に基づいておらず、したがって、半選択的と分類され得る。現在の免疫技術的方法は、カラム免疫吸着または体外免疫吸着などの知られている方法の範囲内にある。
【0016】
体外免疫吸着は、患者から(アフェレーシスを使用して)血漿を採取することと、循環免疫複合体およびIgGを選択的に除去するカラムを通して前記血漿を循環させることとを含む。抗体の治療的除去は、広範な自己免疫疾患を治療するために臨床診療において、また臓器移植において使用される。それらは次のものを含む。
【0017】
Immunosorba(登録商標)(Fresenius Medical Care)。ここで、カラムはセファロースの基材内で固定化された高純度のAタンパク質を含む。免疫複合体は、タンパク質Aに結合し、したがって、血漿から選択的に除去される。血漿は患者に戻されてよく、したがって血漿交換の必要がなくなる。
【0018】
GLOBAFFIN(登録商標)(Fresenius Medical Care)は、抗体と親和性のある合成ペプチドGAM-146が固定化されるセファロースのカラムである。
【0019】
Ig-Therasorb(登録商標)(Miltenyi Biotec, Bergishch-Gladbach)。ここで、アフェレーシス療法時に、2つの再利用可能なカートリッジが患者の血液から抗体と免疫複合体とを選択的に除去する。カラムは、ヒツジ抗ヒトIgで覆われている。
【0020】
Selesorb(登録商標)(Kaneka Medical Products)は、全身性エリテマトーデスを治療するように特に設計されている。SELESORB(登録商標)は、SLEの患者から抗DNA抗体、抗カルジオリピン抗体および/または免疫複合体を除去するように設計されている。SELESORB(登録商標)の吸着メカニズムは、セルロースパール上に固定化された硫酸デキストランによる化学吸着に基づく。
【0021】
日本の旭化成メディカル株式会社も、神経系疾患(重症筋無力症、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、多発性硬化症)に対して、自己免疫疾患に対して、およびビリルビン酸および胆汁酸の選択的除去のために、特異的フィルタを使用している。
【0022】
上で述べたように、これらの方法における抗体の治療的除去は、半選択的に達成される。血漿分離を行わず、指向抗体(directed antibody)以外の血漿タンパク質の除去を最小限度に抑えて、全血から直接所与の特異性を有する抗体を選択的に除去する中空糸特異的抗体フィルタ(または体外特異的抗体フィルタ、SAF)に基づき、システムが開発中である。SAFは、内側繊維壁上に固定化された指向抗体に対する特異的抗原を有する中空糸透析膜を備え、したがって、特異的抗原抗体反応に基づき、関心対象の抗体のみを何とか除去する。
【0023】
説明されているすべてのシステムは、嵩張る高価な機器を使用することを伴う。さらに、治療は、入院患者として施されなければならない。その結果、本発明の目的において開発されるべきものと同様の濾過システムは、アクセス性、経済性、選択性が、従来技術において参照されているものに比べて高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明によるデバイスは、単純であるが、非常に効果的な解決方法に基づき組織もしくは流体中の関心対象の分子の選択的除去を可能にする。
【0025】
より具体的には、本発明によるデバイスは、遠位端が、多孔質であることを特徴とし、標的分子より大きいが前記標的分子に結合するように用意された抗体またはアプタマーより小さい細孔サイズを有し、したがって半透膜もしくはナノ膜として働く、壁を備えるチャンバー内に終端する、主カテーテルで構成される。
【課題を解決するための手段】
【0026】
したがって、主カテーテルは、チャンバー内に保持されている抗体またはアプタマーが前記主カテーテルの表面端部を通して装填されることを可能にする。
【0027】
同時に、より小さい、体液または組織中に天然に存在する分子は、通ることが許されないサイズの分子を除き、細孔を通してチャンバーに入る。
【0028】
したがって、抗体は、前記標的分子が前記チャンバーの内側に保持されるようにチャンバーの内側の標的分子に結合する。
【0029】
このプロセスは、抗体の容量が飽和するまで続き、チャンバーの内容物をカテーテルを通して吸引し、新しく1回分の抗体を注入することによって再始動され得る。抗体が変えられる必要があるかどうかは、9および10で標的分子の濃度を測定することによって決定される。この差が小さいとき、これは、抗体またはアプタマーが飽和しており、再装填が必要であることを示す。
【0030】
したがって、デバイスは、標的分子より大きいが、抗体より小さい細孔を有するナノ穿孔膜を有するデバイスの内側の標的分子を指向する特異結合分子(抗体またはアプタマー)の相補的作用によって動作する。
【0031】
前記カテーテルと平行であり、上で説明されている主チャンバーと連通しているのは、第2のカテーテルであり、これは同じタイプのナノ多孔質膜を通して前記チャンバーと連通するように位置決めされる。投与された抗体がなく、組織中に存在する標的分子の濃度より低い標的分子の濃度を有する流体は、したがって、一部は抗体の効果により主チャンバー内に保持されているため、このカテーテルに入ることになる。
【0032】
最後に、デバイスは、第3のカテーテルを有し、この第3のカテーテルは、前の2つからは完全に独立しており、チャンバー内で終端し、また主チャンバーからも独立しており、サイズに関係なく、組織または流体中のすべての分子によるアクセスを許す微孔質膜から形成された壁を有する。このカテーテルの目的は、デバイスが位置する流体を除去すること、および/または物質をそこに投与する(たとえば、標的分子の沈着物の分解を促進する酵素を投与する)ことを可能にすることである。
【0033】
この構造のため、デバイスの遠位端は、標的分子が除去される流体を含む組織、血管、または空洞内に埋め込まれる。3つのカテーテルの表面端部は、外側からアクセス可能な任意のレベルに位置決めされてよい。たとえば、生物では、前記端部は生命体の外側に残されてよく、その場合、それは直接アクセス可能となり、または皮下細胞組織の皮膚の下に残されてもよく、その場合、各カテーテルは穿刺により外側からアクセス可能であるキャップによって覆われる。
【0034】
後に続く説明を補完し、その好ましい実施形態による本発明の特徴をより深く理解するのを助けるために、一組の添付図面が例示的で非限定的な目的のために前記説明の一体部分として提供され、以下のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の目的により組織または流体から分子を選択的に除去するためのデバイスの外形および断面を示す概略図である。
図2】標的分子、自然抗体、および標的分子の濃度を減らすために使用される抗体が示される拡大詳細図を示す、マウスの脳の側脳室内に埋め込まれた前の図におけるデバイスの図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
提示されている図において、組織または流体から分子を選択的に除去するためのデバイスは、流体(3)または組織内に一連の標的分子(4)が自然抗体(5)とともに存在する、処置される流体(3)または組織に到達するまで、対象となる体表面(2)に挿通される主カテーテル(1)で構成されることがわかる。
【0037】
主カテーテル(1)は、標的分子(4)より大きいが、抗体より小さい細孔サイズを有するナノ膜(8)が位置決めされているチャンバー(7)内で終端し、両方の自然抗体(5)が流体または組織中に存在し、特異抗体またはアプタマー(6)が主カテーテル(1)を通して導入される。
【0038】
したがって、主カテーテル(1)は、特異抗体(6)が表面端部を通して装填されることを可能にし、抗体は主チャンバー(7)内に保持される。
【0039】
同時に、標的分子(4)は主チャンバー(7)に入り、そこで標的分子(4)は、前記標的分子を処置するために提供される、特異抗体またはアプタマー(6)によって攻撃される。
【0040】
したがって、標的分子(4)の大部分は、特異抗体またはアプタマー(6)の効果によって主チャンバー(7)の内側に保持され、このときに第2のカテーテル(9)が主カテーテルに平行に、上で説明されているナノ膜(8)と同一の特性を有するナノ膜(8’)を通して主チャンバーと連通するように位置決めされて、提供されており、第2のカテーテルを通して処置流体が除去され、投与された抗体のない前記流体にアクセスし、組織中に存在している標的分子より低い標的分子濃度を有し、このときに一部は抗体の効果によって主チャンバー内に保持されている。
【0041】
抗体の容量が飽和すると、それは主カテーテル(1)を通して主チャンバー(7)の内容物を吸引し、新しく1回分の特異抗体(6)を注入することによって再開することができる。
【0042】
最後に、デバイスは第3のカテーテル(10)を有することが指摘されるべきであり、この第3のカテーテル(10)は、前の2つのカテーテルからは完全に独立しており、二次チャンバー(11)内で終端し、主チャンバー(7)からも独立しており、サイズに関係なく組織または流体中のすべての分子によるアクセスを許容する微孔質膜(12)から形成された壁を有する。前記第3のカテーテル(10)の目的は、デバイスが位置する流体を除去することを可能にし、および/または物質をそこに投与する(たとえば、標的分子の沈着物の分解を促進する酵素を投与する)ことを可能にすることである。
【0043】
この構造のため、デバイスがマウスの脳の側脳室内に埋め込まれている図2においてわかるように、流体中の小分子は、自然抗体を含まずに、主チャンバー(7)内に自由に入り、特異抗体またはアプタマー(6)、特に、標的分子(4)を特異的に指向するモノクローナル抗体が注入され、それに結合し、元の流体中への再入を防ぐことができる。
【0044】
流体(3)の試料は、第3のカテーテル(10)を通して除去されることが可能であり、前記試料は標的分子(4)および抗体(5)の実際の濃度を有するが、元の流体より低い、標的分子(4)の濃度を有する流体(3)は、第2のカテーテル(9)を通して除去され得る。
【符号の説明】
【0045】
1 主カテーテル
2 体表面
3 流体
4 標的分子
5 自然抗体
6 特異抗体またはアプタマー
7 主チャンバー
8 ナノ膜
8’ ナノ膜
9 第2のカテーテル
10 第3のカテーテル
11 二次チャンバー
12 微孔質膜
図1
図2