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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】マイクロ波管及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 23/06 20060101AFI20230404BHJP
   H01J 25/34 20060101ALI20230404BHJP
   H01J 23/087 20060101ALI20230404BHJP
   H01J 23/34 20060101ALI20230404BHJP
   H01J 23/00 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
H01J23/06
H01J25/34
H01J23/087
H01J23/34 A
H01J23/00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021562656
(86)(22)【出願日】2020-12-01
(86)【国際出願番号】 JP2020044669
(87)【国際公開番号】W WO2021112081
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2019218548
(32)【優先日】2019-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599161890
【氏名又は名称】NECネットワーク・センサ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】町田 哲夫
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特公昭36-019323(JP,B1)
【文献】特開2000-243305(JP,A)
【文献】特開2007-273158(JP,A)
【文献】特開2019-186104(JP,A)
【文献】米国特許第5694005(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 23/06
H01J 25/34
H01J 23/087
H01J 23/34
H01J 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを放出する電子銃と、
前記電子銃から放出された前記電子ビームを集束させる磁気回路と、
前記磁気回路を通過した前記電子ビームを捕捉するコレクタと、
前記磁気回路で収束されている前記電子ビームの周囲に螺旋状に配されるとともに高周波が伝送される高周波回路と、
前記電子銃の周囲にて前記電子ビームの放出方向に移動可能に配された磁性体部品と、
を備え、
前記磁性体部品を前記電子ビームの放出方向に移動することによって前記高周波回路から出力される高周波出力を一定に制御するように構成される、
マイクロ波管。
【請求項2】
前記磁性体部品の位置を前記電子ビームの放出方向に移動させることが可能な位置移動機構をさらに備える、
請求項1記載のマイクロ波管。
【請求項3】
前記位置移動機構の動作を制御する制御部をさらに備える、請求項2記載のマイクロ波管。
【請求項4】
前記電子ビームが前記高周波回路に衝突したときに流れるヘリックス電流を検出するヘリックス電流検出部をさらに備え、
前記制御部は、少なくとも前記ヘリックス電流検出部で検出された前記ヘリックス電流に基づいて、前記位置移動機構の動作を制御する、
請求項3記載のマイクロ波管。
【請求項5】
前記電子銃から放出された前記電子ビームを前記高周波回路に入射しないように規制するビームカッタをさらに備え、
前記ヘリックス電流検出部は、前記高周波回路と前記ビームカッタとの間を流れる前記ヘリックス電流を検出する、
請求項4記載のマイクロ波管。
【請求項6】
前記制御部は、前記ヘリックス電流検出部で検出された前記ヘリックス電流が上昇すると、前記ヘリックス電流が第1目標値になるまで、前記磁性体部品の位置を前記磁気回路に近づけるように制御する、
請求項4又は5記載のマイクロ波管。
【請求項7】
前記高周波回路から出力される高周波出力レベルを検出する高周波出力検出部をさらに備え、
前記制御部は、少なくとも前記高周波出力検出部で検出された前記高周波出力レベルに基づいて、前記位置移動機構を用いて前記磁性体部品の位置を制御する、
請求項3乃至6のいずれか一に記載のマイクロ波管。
【請求項8】
前記制御部は、前記高周波出力検出部で検出された前記高周波出力レベルが低下すると、前記高周波出力レベルが第2目標値になるまで、前記磁性体部品の位置を前記磁気回路に近づけるように制御する、
請求項7記載のマイクロ波管。
【請求項9】
電子ビームを放出する電子銃と、
前記電子銃から放出された前記電子ビームを集束させる磁気回路と、
前記磁気回路を通過した前記電子ビームを捕捉するコレクタと、
前記磁気回路で収束されている前記電子ビームの周囲に螺旋状に配されるとともに高周波が伝送される高周波回路と、
前記電子銃の周囲にて前記電子ビームの放出方向に移動可能に配された磁性体部品と、
を備えるマイクロ波管の制御方法であって、
前記磁性体部品を前記電子ビームの放出方向に移動することによって前記高周波回路から出力される高周波出力を一定に制御する、
マイクロ波管の制御方法。
【請求項10】
前記電子ビームが前記高周波回路に衝突したときに流れるヘリックス電流が上昇する、ないし、前記高周波回路から出力される高周波出力レベルが低下すると、前記ヘリックス電流ないし前記高周波出力レベルが目標値になるまで、前記磁性体部品の位置を前記磁気回路に近づけるように制御する、
請求項9記載のマイクロ波管の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願についての記載]
本発明は、日本国特許出願:特願2019-218548号(2019年12月 3日出願)の優先権主張に基づくものであり、同出願の全記載内容は引用をもって本書に組み込み記載されているものとする。
本発明は、マイクロ波管及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波帯(0.3~300GHz)の電磁波(高周波)を増幅する手段として、マイクロ波管がある。マイクロ波管は、入力された高周波を、電子銃から放出された電子ビームと相互作用させることにより増幅して出力する。このようなマイクロ波管1として、例えば、図5のように、電子ビーム2を放出する電子銃10と、電子銃10から放出された電子ビーム2を集束させる磁気回路40と、磁気回路40を通過した電子ビーム2を捕捉するコレクタ30と、磁気回路40で収束されている電子ビーム2の周囲に螺旋状に配されるとともに高周波が伝送される高周波回路50と、を備えるものがある(例えば、特許文献1参照)。このようなマイクロ波管1では、高周波回路50の入口51から入力された高周波は、電子ビーム2と相互作用することによって増幅されて高周波回路50の出口52から出力される。
【0003】
上記のようなマイクロ波管1では、以下のような問題がある。例えば、電子銃10から放出される電子ビーム2は、電子銃10の経年劣化により電子銃10の動作時間とともに減少し、その変化に応じて高周波の増幅作用も減少する。また、周囲温度が変化すると、磁気回路40で発生する磁束密度が増減し、高周波の増幅作用が増減する。さらに、磁気回路40で発生する磁束密度は磁気回路40の動作時間とともに減少するので、磁気回路40の動作時間とともに電子ビーム2の径が大きくなり、高周波回路50に衝突する電子ビーム2が増加し、マイクロ波管1の寿命を縮める原因となる。
【0004】
これらの問題を解決するために、図5のように、電子銃10の周囲に補助電磁石60を配置することがある(例えば、特許文献2参照)。補助電磁石60で発生させる磁束密度を調整することにより、電子ビーム径や高周波出力を調節することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-234344号公報
【文献】特開平9-237582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以下の分析は、本願発明者により与えられる。
【0007】
しかしながら、補助電磁石60を有するマイクロ波管1では、補助電磁石60の発熱により、補助電磁石60で発生する磁束密度が減少するので、高周波出力を長時間一定に保つことが難しくなる可能性がある。また、特許文献2では、補助電磁石60に流す電流を小さくし、かつ、電子銃10の位置を軸方向に調整可能にすることによって高周波の増幅作用の増減を抑えているが、補助電磁石60に流す電流、及び、電子銃10の位置の両方の調整が必要になるため、構成や調整(制御)が複雑化する。また、電子銃10の位置を調整する構成では、電子ビーム2の移動距離を変動し、高周波出力を長時間一定に保つことが難しくなる可能性がある。
【0008】
本発明の主な課題は、構成や調整の複雑化を抑えつつ、マイクロ波管の高周波出力を長時間一定に保つことに貢献することができるマイクロ波管及びその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の視点に係るマイクロ波管は、電子ビームを放出する電子銃と、前記電子銃から放出された前記電子ビームを集束させる磁気回路と、前記磁気回路を通過した前記電子ビームを捕捉するコレクタと、前記磁気回路で収束されている前記電子ビームの周囲に螺旋状に配されるとともに高周波が伝送される高周波回路と、前記電子銃の周囲にて前記電子ビームの放出方向に移動可能に配された磁性体部品と、を備え、前記磁性体部品を前記電子ビームの放出方向に移動することによって前記高周波回路から出力される高周波出力を一定に制御するように構成される。
【0010】
第2の視点に係るマイクロ波管の制御方法は、電子ビームを放出する電子銃と、前記電子銃から放出された前記電子ビームを集束させる磁気回路と、前記磁気回路を通過した前記電子ビームを捕捉するコレクタと、前記磁気回路で収束されている前記電子ビームの周囲に螺旋状に配されるとともに高周波が伝送される高周波回路と、前記電子銃の周囲にて前記電子ビームの放出方向に移動可能に配された磁性体部品と、を備えるマイクロ波管の制御方法であって、前記磁性体部品を前記電子ビームの放出方向に移動することによって前記高周波回路から出力される高周波出力を一定に制御する。
【発明の効果】
【0011】
前記第1~第2の視点によれば、構成や調整の複雑化を抑えつつ、マイクロ波管の高周波出力を長時間一定に保つことに貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1に係るマイクロ波管の構成を模式的に示した断面図である。
図2】実施形態1に係るマイクロ波管の磁性体部品とカソードとの軸方向の距離dを説明するための模式図である。
図3】実施形態1に係るマイクロ波管の磁性体部品とカソードとの軸方向の距離dとビーム径及び出力との関係を模式的に示したグラフである。
図4】実施形態2に係るマイクロ波管の構成を模式的に示した断面図である。
図5】従来例に係るマイクロ波管の構成を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に説明する本開示では、モード1に係るマイクロ波管及びその変形モードを適宜選択して組み合わせることができる。
【0014】
前記モード1に係るマイクロ波管として、電子ビームを放出する電子銃と、前記電子銃から放出された前記電子ビームを集束させる磁気回路と、前記磁気回路を通過した前記電子ビームを捕捉するコレクタと、前記磁気回路で収束されている前記電子ビームの周囲に螺旋状に配されるとともに高周波が伝送される高周波回路と、前記電子銃の周囲にて前記電子ビームの放出方向に移動可能に配された磁性体部品と、を備え、前記磁性体部品を前記電子ビームの放出方向に移動することによって前記高周波回路から出力される高周波出力を一定に制御するように構成される、ことが可能である。
【0015】
前記モード1に係るマイクロ波管の変形モードとして、前記磁性体部品の位置を前記電子ビームの放出方向に移動させることが可能な位置移動機構をさらに備える、ことができる。
【0016】
前記モード1に係るマイクロ波管の変形モードとして、前記位置移動機構の動作を制御する制御部をさらに備える、ことができる。
【0017】
前記モード1に係るマイクロ波管の変形モードとして、前記電子ビームが前記高周波回路に衝突したときに流れるヘリックス電流を検出するヘリックス電流検出部をさらに備え、前記制御部は、少なくとも前記ヘリックス電流検出部で検出された前記ヘリックス電流に基づいて、前記位置移動機構の動作を制御する、ことができる。
【0018】
前記モード1に係るマイクロ波管の変形モードとして、前記電子銃から放出された前記電子ビームを前記高周波回路に入射しないように規制するビームカッタをさらに備え、前記ヘリックス電流検出部は、前記高周波回路と前記ビームカッタとの間を流れる前記ヘリックス電流を検出する、ことができる。
【0019】
前記モード1に係るマイクロ波管の変形モードとして、前記制御部は、前記ヘリックス電流検出部で検出された前記ヘリックス電流が上昇すると、前記ヘリックス電流が第1目標値になるまで、前記磁性体部品の位置を前記磁気回路に近づけるように制御する、ことができる。
【0020】
前記モード1に係るマイクロ波管の変形モードとして、前記高周波回路から出力される高周波出力レベルを検出する高周波出力検出部をさらに備え、前記制御部は、少なくとも前記高周波出力検出部で検出された前記高周波出力レベルに基づいて、前記位置移動機構を用いて前記磁性体部品の位置を制御する、ことができる。
【0021】
前記モード1に係るマイクロ波管の変形モードとして、前記制御部は、前記高周波出力検出部で検出された前記高周波出力レベルが低下すると、前記高周波出力レベルが第2目標値になるまで、前記磁性体部品の位置を前記磁気回路に近づけるように制御する、ことができる。
【0022】
本開示では、モード2に係るマイクロ波管の制御方法として、電子ビームを放出する電子銃と、前記電子銃から放出された前記電子ビームを集束させる磁気回路と、前記磁気回路を通過した前記電子ビームを捕捉するコレクタと、前記磁気回路で収束されている前記電子ビームの周囲に螺旋状に配されるとともに高周波が伝送される高周波回路と、前記電子銃の周囲にて前記電子ビームの放出方向に移動可能に配された磁性体部品と、を備えるマイクロ波管の制御方法であって、前記磁性体部品を前記電子ビームの放出方向に移動することによって前記高周波回路から出力される高周波出力を一定に制御する、ことが可能である。
【0023】
前記モード2に係るマイクロ波管の制御方法の変形モードとして、前記電子ビームが前記高周波回路に衝突したときに流れるヘリックス電流が上昇する、ないし、前記高周波回路から出力される高周波出力レベルが低下すると、前記ヘリックス電流ないし前記高周波出力レベルが目標値になるまで、前記磁性体部品の位置を前記磁気回路に近づけるように制御する、ことができる。
【0024】
以下、実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本出願において図面参照符号を付している場合は、それらは、専ら理解を助けるためのものであり、図示の態様に限定することを意図するものではない。また、下記の実施形態は、あくまで例示であり、本発明を限定するものではない。
【0025】
[実施形態1]
実施形態1に係るマイクロ波管について図面を用いて説明する。図1は、実施形態1に係るマイクロ波管の構成を模式的に示した断面図である。
【0026】
マイクロ波管1は、入力された高周波を、電子銃10から放出された電子ビーム2と相互作用させることにより増幅して出力する電子管である。マイクロ波管1は、封止された空間(真空)において、電子銃10と、ビームカッタ20と、コレクタ30と、磁気回路40と、高周波回路50と、を有する。また、マイクロ波管1は、高周波出力を長時間一定に保つための手段として、磁性体部品70と、位置移動機構71と、制御部72と、ヘリックス電流検出部73と、高周波出力検出部74と、を有する。
【0027】
電子銃10は、電子ビーム2を(直線的に)放出する装置である。電子銃10は、磁気回路40のコレクタ30側に対する反対側に配されている。電子銃10には、例えば、ヒータ13によって加熱されたカソード11(電子放射物質)中の電子を空間に放出させ、放出された電子をウェネルト12により収束させて電子ビーム2を形成し、形成された電子ビーム2をカソード11とアノード14との電位差により加速させてビームカッタ20に導く熱電子放出型の電子銃を用いることができる。カソード11及びウェネルト12には、それぞれ、高周波回路50の電位を基準に負の直流電圧であるボディ電圧が供給される。ヒータ13には、カソード11の電位を基準に正または負の直流電圧であるヒータ電圧が供給される。アノード14には、カソード11の電位を基準に正の直流電圧であるアノード電圧が供給される。
【0028】
ビームカッタ20は、電子銃10から放出された電子ビーム2を高周波回路50に入射しないように規制する環状の部材である。ビームカッタ20は、電子銃10と高周波回路50との間であって磁気回路40の内側に配されている。ビームカッタ20には、高周波回路50よりも熱容量の大きい金属材料を用いることができる。ビームカッタ20は、高周波回路50の螺旋部分の内径より外に拡散した電子ビーム2に衝突させ、拡散した電子ビーム2が高周波回路50に入射することを防止する。ビームカッタ20は、ヘリックス電流検出部73と電気的に接続されている。
【0029】
コレクタ30は、高周波回路50を通過した電子ビーム2を捕捉する電極である。コレクタ30は、磁気回路40の電子銃10側に対する反対側に配されている。コレクタ30には、カソード11の電位を基準に正の直流電圧であるコレクタ電圧が供給される。
【0030】
磁気回路40は、磁気によって電子銃10から放出された電子ビーム2を高周波回路50の全長に渡り集束させる回路(周期磁気装置)である。磁気回路40は、高周波回路50の螺旋部分の外周に配されている。磁気回路40の内側には、高周波回路50の螺旋部分よりも電子銃10側にビームカッタ20が配置されている。磁気回路40は、電磁石及び永久磁石の一方又は両方を用いることができる。
【0031】
高周波回路50は、ビームカッタ20を通過した電子ビーム2の周囲に螺旋状に配されるとともに高周波が伝送される回路(ヘリックス回路)である。高周波回路50の螺旋部分は、電子ビーム2と磁気回路40との間に配される。高周波回路50には、導体を用いることができる。高周波回路50では、高周波が、高周波回路50の入口51から入力され、高周波回路50の螺旋部分を伝送し、高周波回路50の出口52から出力される。高周波回路50では、高周波が、高周波回路50の螺旋部分を伝送しているときにビームカッタ20を通過した電子ビーム2との相互作用(電子ビームのもつ運動エネルギーをマイクロ波エネルギーに変換)により増幅されて出力される。高周波回路50は、ヘリックス電流検出部73と電気的に接続されている。高周波回路50は、高周波出力検出部74と電気的に接続されている。
【0032】
磁性体部品70は、電子銃10(主にカソード11)から放出された電子ビーム2を集束させる磁性体よりなる部品である。磁性体部品70には、永久磁石を用いることができる。磁性体部品70は、電子銃10の周囲にて軸方向(電子ビーム2の放出方向)に移動可能に配されている。磁性体部品70の軸方向の移動は、位置移動機構71によって行われる。磁性体部品70の軸方向の移動により、カソード11から放出された電子ビーム2を収束する軸方向の位置ないし長さを調整することができる。磁性体部品70の軸方向の位置が変わると、カソード11に作用する磁界の変化により、電子ビーム径が変わり、電子ビーム2と、高周波回路50を伝搬する高周波との相互作用が影響を受けて、マイクロ波管1の高周波出力が変わる。
【0033】
位置移動機構71は、磁性体部品70の位置を軸方向に移動させることが可能な機構である。位置移動機構71には、例えば、ラック・ピニオン機構とモータの組み合わせたものや、ソレノイドを用いることができる。位置移動機構71の動作は、制御部72によって制御される。
【0034】
制御部72は、位置移動機構71の動作を制御する機能部である。制御部72には、例えば、集積回路を用いることができる。制御部72は、磁性体部品70の位置に対する出力変化量(高周波出力の変化量)及び電子ビーム径との対応関係を整理したデータベースを記憶する。制御部72は、ヘリックス電流検出部73と電気的に接続されており、ヘリックス電流検出部73を用いて電子ビーム2が高周波回路50に衝突したときに流れる電流(ヘリックス電流)を監視する。制御部72は、高周波出力検出部74と電気的に接続されており、高周波出力検出部74を用いて高周波回路50の出口52から出力される高周波出力レベルを監視する。制御部72は、監視しているヘリックス電流及び高周波出力レベルに基づいて、位置移動機構71を用いて磁性体部品70の位置を制御する。制御部72は、ヘリックス電流が上昇する、ないし、高周波出力レベルが低下すると、ヘリックス電流ないし高周波出力レベルが目標値になるまで、磁性体部品70の位置を磁気回路40に近づけるように制御する。
【0035】
ここで、制御部72は、磁性体部品70の位置に対する高周波出力及びヘリックス電流の対応関係が予め分かっているので、高周波出力ないしヘリックス電流の変化に応じて、高周波出力ないしヘリックス電流が目標値になるまで磁性体部品70の位置を移動するように制御する。このような制御ルーチンを行うことで、高周波出力を一定に調節し、ヘリックス電流の増加を抑制することができる。
【0036】
ヘリックス電流検出部73は、電子ビーム2が高周波回路50に衝突したときに流れる電流(ヘリックス電流)を検出する機能部である。ヘリックス電流検出部73は、高周波回路50及びビームカッタ20と電気的に接続されている。ヘリックス電流検出部73は、高周波回路50とビームカッタ20との間を流れるヘリックス電流を検出し、検出されたヘリックス電流の値を制御部72に提供する。
【0037】
高周波出力検出部74は、高周波回路50の出口52から出力される高周波出力レベルを検出する機能部である。高周波出力検出部74は、高周波回路50の出口52付近と電気的に接続されている。高周波出力検出部74は、検出された高周波出力レベルの値を制御部72に提供する。
【0038】
次に、実施形態1に係るマイクロ波管の磁性体部品とカソードとの軸方向の距離dとビーム径及び出力との関係について図面を用いて説明する。図2は、実施形態1に係るマイクロ波管の磁性体部品とカソードとの軸方向の距離dを説明するための模式図である。図3は、実施形態1に係るマイクロ波管の磁性体部品とカソードとの軸方向の距離dとビーム径及び出力との関係を模式的に示したグラフである。
【0039】
磁性体部品70とカソード11との軸方向の距離を、図2のように、磁性体部品70の軸方向の中心を通る軸方向中心線70aと、カソード11の軸方向の中心を通る軸方向中心線11aと間の距離dと定義すると、距離dを変化させることで、電子ビーム径、高周波出力は図3のように変化する。
【0040】
図3の領域Aでは、距離dが大きくなるほど高周波出力は上昇するので、距離dを大きくするように磁性体部品70を移動することで、高周波出力を上げるように制御することができる。
【0041】
図3の領域Bでは、距離dが大きくなるほど高周波出力は低下するので、距離dを小さくするように磁性体部品70を移動することで、高周波出力を上げるように制御することができる。
【0042】
実施形態1によれば、マイクロ波管1の動作中に位置移動機構71によって磁性体部品70の位置を制御することにより、マイクロ波管1の高周波出力を調整することができるので、構成や調整の複雑化を抑えつつ、マイクロ波管1の高周波出力を長時間一定に保つことに貢献することができる。また、実施形態1によれば、ヘリックス電流及び高周波出力レベルを監視してマイクロ波管1の高周波出力を調整できるので、周囲温度の変化(磁気回路40の磁束密度の温度変化)に関係なく、高周波出力を一定に保つことができる。また、ヘリックス電流及び高周波出力レベルを監視してマイクロ波管1の高周波出力を調整できるので、時間経過(磁気回路40の経年劣化)によるヘリックス電流の増加を抑制し、長期間にわたりマイクロ波管を安定動作させることができる。また、実施形態1によれば、ヘリックス電流及び高周波出力レベルを監視してマイクロ波管1の高周波出力を調整できるので、マイクロ波管1の起動時に生じる高負荷状態(高ヘリックス電流)を緩和させることができる。さらに、上記効果の優先順位と許容範囲を設定し、許容範囲内で優先順位の高い効果の制御を優先させることで、相反する効果であっても、制御ルーチンの破たんを生じることなく、高周波出力を一定に保つことができる。
【0043】
[実施形態2]
実施形態2に係るマイクロ波管について図面を用いて説明する。図4は、実施形態2に係るマイクロ波管の構成を模式的に示した断面図である。
【0044】
マイクロ波管1は、入力された高周波を、電子銃10から放出された電子ビーム2と相互作用させることにより増幅して出力する電子管である。マイクロ波管1は、電子銃10と、ビームカッタ20と、コレクタ30と、磁気回路40と、高周波回路50と、磁性体部品70と、を備える。
【0045】
電子銃10は、電子ビーム2を放出する。磁気回路40は、電子銃10から放出された電子ビーム2を集束させる。コレクタは、磁気回路40を通過した電子ビーム2を捕捉する。高周波回路50は、磁気回路40で収束されている電子ビーム2の周囲に螺旋状に配されるとともに高周波が伝送される。磁性体部品70は、電子銃10の周囲にて前記電子ビームの放出方向に移動可能に配されている。
【0046】
マイクロ波管1は、磁性体部品70を電子ビーム2の放出方向に移動することによって高周波回路50から出力される高周波出力を一定に制御するように構成される。
【0047】
実施形態2によれば、マイクロ波管1の動作中に磁性体部品70の位置を制御することにより、マイクロ波管1の高周波出力を調整することができるので、構成や調整の複雑化を抑えつつ、マイクロ波管1の高周波出力を長時間一定に保つことに貢献することができる。
【0048】
上記実施形態の一部または全部は以下の付記のようにも記載され得るが、以下には限られない。
【0049】
[付記1]
電子ビームを放出する電子銃と、
前記電子銃から放出された前記電子ビームを集束させる磁気回路と、
前記磁気回路を通過した前記電子ビームを捕捉するコレクタと、
前記磁気回路で収束されている前記電子ビームの周囲に螺旋状に配されるとともに高周波が伝送される高周波回路と、
前記電子銃の周囲にて前記電子ビームの放出方向に移動可能に配された磁性体部品と、
を備え、
前記磁性体部品を前記電子ビームの放出方向に移動することによって前記高周波回路から出力される高周波出力を一定に制御するように構成される、
マイクロ波管。
[付記2]
前記磁性体部品の位置を前記電子ビームの放出方向に移動させることが可能な位置移動機構をさらに備える、
付記1記載のマイクロ波管。
[付記3]
前記位置移動機構の動作を制御する制御部をさらに備える、付記2記載のマイクロ波管。
[付記4]
前記電子ビームが前記高周波回路に衝突したときに流れるヘリックス電流を検出するヘリックス電流検出部をさらに備え、
前記制御部は、少なくとも前記ヘリックス電流検出部で検出された前記ヘリックス電流に基づいて、前記位置移動機構の動作を制御する、
付記3記載のマイクロ波管。
[付記5]
前記電子銃から放出された前記電子ビームを前記高周波回路に入射しないように規制するビームカッタをさらに備え、
前記ヘリックス電流検出部は、前記高周波回路と前記ビームカッタとの間を流れる前記ヘリックス電流を検出する、
付記4記載のマイクロ波管。
[付記6]
前記制御部は、前記ヘリックス電流検出部で検出された前記ヘリックス電流が上昇すると、前記ヘリックス電流が第1目標値になるまで、前記磁性体部品の位置を前記磁気回路に近づけるように制御する、
付記4又は5記載のマイクロ波管。
[付記7]
前記高周波回路から出力される高周波出力レベルを検出する高周波出力検出部をさらに備え、
前記制御部は、少なくとも前記高周波出力検出部で検出された前記高周波出力レベルに基づいて、前記位置移動機構を用いて前記磁性体部品の位置を制御する、
付記3乃至6のいずれか一に記載のマイクロ波管。
[付記8]
前記制御部は、前記高周波出力検出部で検出された前記高周波出力レベルが低下すると、前記高周波出力レベルが第2目標値になるまで、前記磁性体部品の位置を前記磁気回路に近づけるように制御する、
付記7記載のマイクロ波管。
[付記9]
電子ビームを放出する電子銃と、
前記電子銃から放出された前記電子ビームを集束させる磁気回路と、
前記磁気回路を通過した前記電子ビームを捕捉するコレクタと、
前記磁気回路で収束されている前記電子ビームの周囲に螺旋状に配されるとともに高周波が伝送される高周波回路と、
前記電子銃の周囲にて前記電子ビームの放出方向に移動可能に配された磁性体部品と、
を備えるマイクロ波管の制御方法であって、
前記磁性体部品を前記電子ビームの放出方向に移動することによって前記高周波回路から出力される高周波出力を一定に制御する、
マイクロ波管の制御方法。
[付記10]
前記電子ビームが前記高周波回路に衝突したときに流れるヘリックス電流が上昇する、ないし、前記高周波回路から出力される高周波出力レベルが低下すると、前記ヘリックス電流ないし前記高周波出力レベルが目標値になるまで、前記磁性体部品の位置を前記磁気回路に近づけるように制御する、
付記9記載のマイクロ波管の制御方法。
【0050】
なお、上記の特許文献の各開示は、本書に引用をもって繰り込み記載されているものとし、必要に応じて本発明の基礎ないし一部として用いることが出来るものとする。本発明の全開示(特許請求の範囲及び図面を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の全開示の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態ないし実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせないし選択(必要により不選択)が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲及び図面を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。また、本願に記載の数値及び数値範囲については、明記がなくともその任意の中間値、下位数値、及び、小範囲が記載されているものとみなされる。さらに、上記引用した文献の各開示事項は、必要に応じ、本願発明の趣旨に則り、本願発明の開示の一部として、その一部又は全部を、本書の記載事項と組み合わせて用いることも、本願の開示事項に含まれる(属する)ものと、みなされる。
【符号の説明】
【0051】
1 マイクロ波管
2 電子ビーム
10 電子銃
11 カソード
11a 軸方向中心線
12 ウェネルト
13 ヒータ
14 アノード
20 ビームカッタ
30 コレクタ
40 磁気回路
50 高周波回路
51 入口
52 出口
60 補助電磁石
70 磁性体部品
70a 軸方向中心線
71 位置移動機構
72 制御部
73 ヘリックス電流検出部
74 高周波出力検出部
図1
図2
図3
図4
図5