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特許7255942蛍光イムノクロマトグラフィー用イムノクロマトキット及びこのイムノクロマトキットを備えたハウジングケース
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】蛍光イムノクロマトグラフィー用イムノクロマトキット及びこのイムノクロマトキットを備えたハウジングケース
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
G01N33/543 521
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022565419
(86)(22)【出願日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2021043264
(87)【国際公開番号】W WO2022114079
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】P 2020195626
(32)【優先日】2020-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(72)【発明者】
【氏名】幡野 健
(72)【発明者】
【氏名】松岡 浩司
(72)【発明者】
【氏名】松下 隆彦
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-120120(JP,A)
【文献】特開2006-119011(JP,A)
【文献】特開2013-205336(JP,A)
【文献】国際公開第2017/115863(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/061600(WO,A1)
【文献】特表2005-506530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともメンブレンとバッキングシートとを備えたイムノクロマトキットにおいて、上記メンブレンと上記バッキングシートとの間に発光抑制シートを備え、当該発光抑制シートに波長365nmの励起光を照射した際の量子収率が0.40%以下であることを特徴とするイムノクロマトキット。
【請求項2】
少なくともメンブレンとバッキングシートとを備えたイムノクロマトキットにおいて、上記メンブレンと上記バッキングシートとの間に発光抑制シートを備え、当該発光抑制シートに波長254nmの励起光を照射した際の量子収率が0.40%以下であることを特徴とするイムノクロマトキット。
【請求項3】
メンブレンとバッキングシートとを備えたイムノクロマトキットをハウジングケースの底板表面に載置したイムノクロマトグラフィー装置において、当該イムノクロマトグラフィー装置に波長365nmの励起光を照射した際の量子収率が0.40%以下となることを特徴とするイムノクロマトグラフィー装置。
【請求項4】
請求項1または2のイムノクロマトキットを黒色のハウジングケースに配置したことを特徴とするイムノクロマトグラフィー装置。
【請求項5】
メンブレンへの検体の滴下後に当該メンブレンに表示される抗体ラインの検出方法であって、上記メンブレンとバッキングシートとの間に請求項1又は請求項2の発光抑制シートを配置した状態で、上記メンブレンに光照射を行うことを含む、前記検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光イムノクロマトグラフィー法の実施において生じるバックグラウンド発光を低減させるためのムノクロマトキット及びこのイムノクロマトキットを備えたハウジングケースに関する。
【背景技術】
【0002】
イムノクロマトグラフィー法は、感染症の迅速・簡便な測定方法として、一次検査によく用いられている。これまで金コロイドを用いる方法が主として用いられていたが、感度が低いという問題があった。この問題を解決する有力な手段の1つとして、標識物質に用いている金コロイドを発光物質に代替することが考えられる。しかし、蛍光物質を使った蛍光イムノクロマトグラフィー法では、特別な道具や方法を用いることなく単なる目視で判定できる金コロイドとは異なり、蛍光物質を励起するための紫外線照射が必須となる。しかし、この紫外線照射は、蛍光物質を発光させるのみではなく、イムノクロマトキットを構成するバッキングシート(土台部分)やメンブレン(展開部分)等の構成物をも発光させてしまうという性質がある。そのため、例えば少量の抗原から生じる微弱な蛍光を検出する際には、S/N比が悪化してしまい、抗体ラインが明確に現れにくいものとなる。
【0003】
そこで上記問題を解決するために、特許文献1~3に示す如くいくつかの方法が提案されている。例えば、粒径の揃った着色セルロース微粒子を用いる方法(特許文献1)、コンジュゲートパッドとメンブレンとの間に空間を設けたイムノクロマトグラフィー装置を使用する方法(特許文献2)、標識担体の色と補色の関係にある色の色素を用いる方法(特許文献3)等である。
【0004】
いずれの方法もバックグラウンド発光を低減させる効果を有すると考えられるが、いずれも作業が煩雑になる等の問題があり、より簡便にバックグラウンド発光を低減させる方法の必要性は依然として高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-125909
【文献】特開2013-205336
【文献】特開2016-206117
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記事情に鑑み、以下に示す本願の第一~第七発明は、イムノクロマトグラフィー法、特に発光分子に励起光を照射して発光を検出する工程を含む、蛍光イムノクロマトグラフィー法の実施において、バックグラウンド発光を低減させる方法、および該方法のための蛍光イムノクロマトグラフィー装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一般的な蛍光イムノクロマトグラフィー法に用いるイムノクロマト装置は、図7に示す如く、ハウジングケース(50)内にバッキングシート(51)、メンブレン(52)、吸収パッド(53)、コンジュゲートパッド(54)、サンプルパッド(55)を備えたものである。そして上記ハウジングケース(50)内には、図7に示す如く上からサンプルパッド(55)、コンジュゲートパッド(54)及び吸収パッド(53)、捕捉抗体(検出対象の抗原または1次抗体と特異的に結合する抗体)を固定したメンブレン(反応膜)(52)、バッキングシート(51)の順に積層されている。
【0008】
そして、抗原などを含むサンプル溶液をサンプルパッド(55)に添加すると、標識1次抗体を含むコンジュゲートパッド(54)に移動し、標識1次抗体に抗原が結合する。標識1次抗体と抗原の複合体は、毛細管現象によりメンブレン(52)上を移動し、テストラインに固定化されている2次抗体(抗原と結合する抗体)によって捕捉される。一方、抗原と結合していない標識1次抗体は、テストラインを通過し、コントロールラインに固定化されているコントロール2次抗体(抗原とは結合せず、1次抗体を認識する抗体)に捕捉される。そして試料に検出対象の抗原が含まれている場合には、テストラインとコントロールラインから共に標識由来の発光が検出され、抗原が含まれていない場合には、コントロールラインのみから標識由来の発光が検出される。
【0009】
ここで本発明者らは、ある特性を有するシート、バッキングシート、あるいはハウジングケースを使用することにより、メンブレンに光照射した際にバックグラウンド発光を抑制することができることを見いだした。上記「ある特性」とは、シート、バッキングシート、あるいはハウジングケースの量子収率又は色に関するものであって、上記量子収率が一定数値以下、あるいは黒色であれば、メンブレンのバックグラウンド発光を効果的に抑制することができることが明らかとなった。
【0010】
本願の第一~第七発明は以下の通りである。
第一発明
少なくともメンブレンとバッキングシートとを備えたイムノクロマトキットにおいて、上記メンブレンと上記バッキングシートとの間に発光抑制シートを備え、当該発光抑制シートに波長365nmの励起光を照射した際に、絶対PL量子収率測定装置C11347(浜松ホトニクス株式会社製)にて測定した量子収率が0.40%以下であることを特徴とするイムノクロマトキット。
第二発明
少なくともメンブレンとバッキングシートとを備えたイムノクロマトキットにおいて、上記メンブレンと上記バッキングシートとの間に発光抑制シートを備え、当該発光抑制シートに波長254nmの励起光を照射した際に、絶対PL量子収率測定装置C11347(浜松ホトニクス株式会社製)にて測定した量子収率が0.40%以下であることを特徴とするイムノクロマトキット。
第三発明
メンブレンとバッキングシートとを備えたイムノクロマトキットにおいて、上記バッキングシートに波長365nmの励起光を照射した際に、絶対PL量子収率測定装置C11347(浜松ホトニクス株式会社製)にて測定した量子収率が0.40%以下であることを特徴とするイムノクロマトキット。
第四発明
メンブレンとバッキングシートとを備えたイムノクロマトキットにおいて、上記バッキングシートに波長254nmの励起光を照射した際に、絶対PL量子収率測定装置C11347(浜松ホトニクス株式会社製)にて測定した量子収率が0.40%以下であることを特徴とするイムノクロマトキット。
第五発明
メンブレンとバッキングシートとを備えたイムノクロマトキットをハウジングケースの底板表面に載置したイムノクロマトグラフィー装置において、当該イムノクロマトグラフィー装置に波長365nmの励起光を照射した際に、絶対PL量子収率測定装置C11347(浜松ホトニクス株式会社製)にて測定した量子収率が0.40%以下であることを特徴とするイムノクロマトグラフィー装置。
第六発明
第一発明及び第二発明のイムノクロマトキットを黒色のハウジングケースに配置したことを特徴とするイムノクロマトグラフィー装置。
第七発明
メンブレンへの検体の滴下後に当該メンブレンに表示される抗体ラインの検出方法であって、上記メンブレンとバッキングシートとの間に第一発明又は第二発明の発光抑制シートを配置し、または、上記メンブレンの下側に第三発明又は第四発明のバッキングシートを配置し、または、上記メンブレンとバッキングシートの下側に第五発明又は第六発明のハウジングケースを配置した状態で、上記メンブレンに光照射を行うことを含む、前記検出方法。
【発明の効果】
【0011】
蛍光分子などを標識物質として用いるイムノクロマトグラフィー法において、本願の第一、第二発明は上記の如く、メンブレンとバッキングシートとの間に発光抑制シートを備え、当該発光抑制シートの量子収率が波長365nmの励起光を照射した際0.40%以下、波長254nmの励起光を照射した際には0.40%以下のものについては、メンブレンのバックグラウンド発光を抑制することが可能となる。よって、テストラインからの発光の視認性が向上し、高感度の測定ができる。
【0012】
また本願の第三、第四発明は上記の如く、量子収率が、波長365nmの励起光を照射した際0.40%以下、波長254nmの励起光を照射した際には0.40%以下であるバッキングシートを用いた場合には、メンブレンのバックグラウンド発光を抑制することが可能となる。よって、テストラインからの発光の視認性が向上し、高感度の測定ができるものとなる。
【0013】
また本願の第五、第六発明は上記の如く第一発明及び第二発明のイムノクロマトキットを黒色のハウジングケースに配置した場合には、メンブレンのバックグラウンド発光を抑制することが可能となる。よって、テストラインからの発光の視認性が向上し、高感度の測定ができるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1イムノクロマトグラフィー装置を示す概念図。
図2】実施例1のイムノクロマトグラフィー装置に励起光を照射した際の画像。
図3】実施例2のイムノクロマトグラフィー装置を示す概念図。
図4】実施例2のイムノクロマトグラフィー装置に励起光を照射した際の画像。
図5】実施例3のイムノクロマトグラフィー装置を示す概念図。
図6】実施例3のイムノクロマトグラフィー装置に励起光を照射した際の画像。
図7】従来例のイムノクロマトグラフィー装置を示す概念図。
【実施例1】
【0015】
本願の第一、第二、第七発明に基づく実施例1について以下に説明する。本実施例では図1に示す如く、ハウジングケースの底板表面に、バッキングシート、発光抑制シート、及びメンブレンをこの順番にて積層している。また上記メンブレンの一端表面にコンジュゲートパッドを配置するとともに、他端表面には吸収パッドを配置している。更に上記コンジュゲートパットの一端表面には、サンプルパッドを配置している。上記バッキングシート、発光抑制シート、メンブレン、コンジュゲートパッド、吸収パッド、及びサンプルパッドにより、本実施例のイムノクロマトキットを構成している。尚、本実施例では図1に示す如く、メンブレンとバッキングシートとの間に発光抑制シートを1枚積層配置しているが、他の異なる実施例では、上記発光抑制シートを複数配置することも可能である。
【0016】
尚、メンブレンと上記発光抑制シートとの間には、イムノクロマトグラフィー装置の他の構成要素(メンブレンと一体化しているものは除く)が介在しない方が望ましい。また、本実施例では検体の採取前からメンブレンとバッキングシートとの間に発光抑制シートを配置しているが、当該発光抑制シートは、抗体ラインを検出するときにのみ、メンブレンとバッキングシートとの間に配置されるものであっても良い。
【0017】
また本実施例及び以下の実施例の「メンブレン」とは抗体が固定されている反応膜を意味し、「バッキングシート」とは上記メンブレンを支持する支持体を意味する。そして本実施例の発光抑制シートは、蛍光イムノクロマトグラフフィーによりサンプル中の抗原(以下「検出抗原」とも記載する)を検出する際に、イムノクロマトグラフィー装置等由来のバックグラウンド発光を低減させ、抗原の検出感度を上げるために使用することができる。
【0018】
即ち、検出抗原が結合した標識抗体がテストラインに存在するとき、当該標識由来の発光の視認性を上げるためには、バックグラウンド発光を低減させる必要がある。そこで本実施例にかかる発光抑制シートを、図1に示す如くメンブレンの下側に配置した状態で、当該メンブレンに励起光(抗体の結合した標識分子を励起するための光)を照射した。その結果、イムノクロマトグラフィー装置等に由来するバックグラウンド発光が低減され、抗体に結合した標識由来の発光の視認性が向上することが明らかとなった。
【0019】
尚本実施例の発光抑制シートの形状は、装着する対象のイムノクロマトグラフィー装置の構成に依存するため、特に限定されるものではない。また、シートの厚みについても特に限定されず、たとえば、0.005 mmから1 mm程度の範囲であれば使用できる。また、発光抑制シートの材料は特に限定されず、例えば、ポリ塩化ビニル、セルロース、ポリエチレンおよびこれらの混合物などが例示されるが、その量子収率が後述の範囲であるシートであれば、その材料はいかなるものであってもよい。また、当該シートには、塗料成分が含まれていてもよい。発光抑制シートの具体例として、たとえば、市販されているビニルテープやマスキングテープなどを挙げることができる。また、当該発光抑制シートは、イムノクロマトグラフィー装置の他の構成要素(例えば、バッキングシート)に固定するための接着剤などが塗布されていてもよい。
【0020】
(発光抑制シートの量子収率の測定)
まず、本実施例の発光抑制シートの量子収率を調べた。測定対象の発光抑制シートとして、ビニルテープ(Horyku)を用いた試料1(黒色)、および試料2(白色)マスキングテープ(Copeflap)を用いた試料3(緑色)、試料4(赤色)、試料5(青色)、試料6(クリーム色)、および試料7(ピンク色)を採用した。そして上記各試料を一辺が約1 cmの正方形にカットし、量子収率測定装置(Quantaurus-QY絶対PL量子収率測定装置C11347、浜松ホトニクス株式会社、日本)の計測用シャーレ上にテープを粘着部分が下になるように載置した。そして上記計測用シャーレを試料台にセットし、各試料の量子収率を測定した。測定条件として、室温下で固体測定、励起光365 nmまたは254 nmに設定した。当該測定結果について、各試料とその量子収率との関係を表1に示す。測定の結果、365nm、254nmのいずれも同じような傾向にあり、表1に示す如く試料1、3~5の量子収率は0.4%以下の比較的低い値を示したのに対し、試料2、6、7については1.30%以上の高い値を示した。
【0021】
【表1】
【0022】
(イムノクロマトキットの量子収率の測定)
次に、抗体ラインを含まないメンブレンに励起光(波長365 nm)を照射したときの量子収率の測定実験を行った。この測定に先立ち、抗体を固定していないメンブレン、各種テープおよびバッキングシートからなるイムノクロマトキットを作製した。すなわち、バッキングシート(Lohmann(G&L))を配置し、当該バッキングシートの中央部に各試料(試料1~7)を張り付けた。そして上記各試料の上に、上記メンブレンを当該試料にぴったり重なるように張り付け、メンブレン、各試料およびバッキングシートからなるイムノクロマトキットを作製した(図2参照)。また、図7に示す如くバッキングシートの表面に試料を配置することなく直接メンブレンを配置した従来のイムノクロマトキットについても同様に作製した。測定結果を以下の表2に示す。
【0023】
【表2】
【0024】
表2から、特に上記表1で量子収率が低かった試料1、3~5を用いたイムノクロマトキットの量子収率が、試料無しのイムノクロマトキットと比較して、約半分程度に減少することが確認できた。
【0025】
更に、上記試料1~7を用いて、抗体を固定したメンブレンのバックグラウンド発光がどの程度低減されるかについて、以下の手順で視認性の確認を行った。
【0026】
(抗体を固定したメンブレンの作製)
1次抗体として、抗マウスIgGウサギ抗体(イムノ・プローブ)を使用した。メンブレン(支持体:ポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム)に、1次抗体を含むPBS(1.5 mg/mL)を、ステンレス製の管を用いて直線状に添加し、ドライオーブンを用いて60℃、30分間乾燥させ、ブロッキングバッファー(1.0%カゼイン、0.1 Mホウ酸バッファー pH8.5)に浸し、30分間静置させた。ブロッキングを行ったメンブレンは、洗浄バッファー(10.0 %スクロース、0.1%コール酸ナトリウム、0.1 Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノエタン バッファー pH 7.5)に浸し、30分間振とうさせ、余分な水分をふき取り湿度20%以下で一晩乾燥させた。
【0027】
(メンブレン、各試料およびバッキングシートからなるイムノクロマトキットの作製)
バッキングシート(Lohmann(G&L))を粘着部分が上になるように用意し、バッキングシート中央部に試料1~7を粘着部分が上になるように張り付けた。そして張り付けた試料の上に、上記の如く抗体を固定したメンブレンをテープにぴったり重なるように張り付け、当該メンブレン、各試料、およびバッキングシートからなるイムノクロマトキットを作製した。また同様に、上記試料を張り付けない従来のイムノクロマトキットについても同様に作製した
【0028】
(上記メンブレン上の抗体ラインの視認性の確認)
上記の如く作製した各イムノクロマトキットをハウジングケース内に収納し、当該イムノクロマトキットを蛍光標識したマウスIgG(抗インフルエンザA型抗体)(2次抗体として使用)を含むPBS(100 μg/mL)と反応させた。ここで使用した蛍光標識は、最大蛍光波長510 nmの蛍光色素を内包したポリスチレンビーズである。また、蛍光色素は、シロール誘導体を使用した(Yamaguchiら, Chem. Eur. J., 6(9):1683-1692 2000を参照のこと)。 反応終了後、イムノクロマトキットを蛍光リーダー(武蔵オプティカルシステム株式会社)にセットし、励起光(波長365 nm)をメンブレンに照射して、抗体ラインの観察を行った。観察した画像を図4に示す。
【0029】
各試料をメンブレンとバッキングシートとの間に配置した場合、図2に示す如く各試料を配置しない従来例と比較して、メンブレンのバックグラウンド発光が低減されていることが視認できた。特に、試料1、3~5のように、表1に示す量子収率が小さい発光抑制シートでは、バックグラウンド発光の低減効果がより顕著であることを確認された。
【実施例2】
【0030】
また、従来のイムノクロマトグラフィー装置を構成するバッキングシートからのバックグラウンド発光が、検出感度の阻害要因となることがすでに知られている。このことから、バッキングシートそのものの量子収率が上記実施例1の発光抑制シートの量子収率と同等であれば、バッキングシート由来のバックグラウンド発光を抑制することができると考えられる。よって、365 nmの励起光を照射したときの量子収率が0.4%以下、または、254 nmの励起光を照射したときの量子収率が、0.4%以下であるバッキングシートを使用することにより、上記実施例1と同様にバックグラウンド発光の低減効果を得ることができるといえる。
【0031】
そこで、本願の第三、第四、第七発明に基づく実施例2について以下に説明する。尚、本実施例の「バッキングシート」とは、上述のように、イムノクロマトグラフィー装置の底面を構成する構成物のことであって、より具体的には、イムノクロマトキットの支持体として使用される構成物である。また、例えばポリエチレンテレフタラート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニルまたはこれらの混合物などからなるシート状構造をしており、その上面には粘着剤等が塗布されているものであっても良い。
【0032】
更に当該バッキングシートには、塗料成分が含まれているものであってもよい。使用するイムノクロマトグラフィー装置の種類により、バッキングシートの形状(長さ、幅、厚み等)は、様々なタイプのものを採用することができる。また特に限定はしないが、バッキングシートの厚みは、例えば、0.1 mm~1.0 mm程度であってもよい。
【0033】
そこで、量子収率の低いバッキングシートを使用した場合における、メンブレンのバックグラウンド発光低減効果について、以下の手順で視認性の確認を行った。尚、本実施例では、バッキングシートとして、上記実施例1で良好な結果を示した試料1を使用した。資料1の量子収率については表1に記載した通りである。
【0034】
(抗体を固定したメンブレンの作製)
1次抗体として、抗マウスIgGウサギ抗体(イムノ・プローブ)を使用した。メンブレン(支持体:ポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム)に、1次抗体を含むPBS(1.5 mg/mL)を、ステンレス製の管を用いて直線状に添加し、ドライオーブンを用いて60℃、30分間乾燥させ、ブロッキングバッファー(1.0%カゼイン、0.1 Mホウ酸バッファー pH8.5)に浸し、30分間静置させた。ブロッキングを行ったメンブレンは、洗浄バッファー(10.0 %スクロース、0.1%コール酸ナトリウム、0.1 Mトリス(ヒドロキシメチル)
アミノエタン バッファー pH 7.5)に浸し、30分間振とうさせ、余分な水分をふき取り湿度20%以下で一晩乾燥させた。
【0035】
(メンブレンおよびバッキングシートからなるイムノクロマトキットの作製)
本実施例のバッキングシートに該当する上記試料1を、粘着部分側を表にして配置し、上記の如く作製したメンブレンを試料1にぴったり重なるように張り付け、メンブレンおよび試料1からなるイムノクロマトキットを作製した。またこれと同様に、従来のバッキングシートを用いたイムノクロマトキットを作製した。
【0036】
(イムノクロマトキットの量子収率の測定)
まず、抗体ラインを含まない上記各イムノクロマトキットのメンブレンに励起光(波長365 nm)を照射したときの量子収率を、上記実施例1と同様に測定した。その結果を表3に示す。尚、表3において「実施例2」との表示は試料1のバッキングシートを用いたイムノクロマトキットであり、「従来例」との表示は従来のバッキングシート(Lohmann(G&L))を用いたイムノクロマトキットであることを意味する。
【0037】
【表3】
【0038】
表3から、実施例2と従来例とを比較すると、実施例2の量子収率は大幅に低いものであった。この結果は、上記実施例1の発光抑制シートに関する実験結果と同じ傾向を示しており、より量子収率の低いバッキングシートを使用することによって、メンブレンのバックグラウンド発光をより効果的に抑制できることを示唆するものである。
【0039】
(上記メンブレン上の抗体ラインの視認性の確認)
実施例2及び従来例の各イムノクロマトキットを、ハウジングケースに収納した状態で蛍光標識したマウスIgG(抗インフルエンザA型抗体)(2次抗体として使用)を含むPBS(100 μg/mL)と反応させた。ここで使用した蛍光標識は、最大蛍光波長510 nmの蛍光色素を内包したポリスチレンビーズである。また、蛍光色素は、シロール誘導体を使用した(Yamaguchiら, Chem. Eur. J., 6(9):1683-1692 2000を参照のこと)。反応終了後、各イムノクロマトキットを蛍光リーダー(武蔵オプティカルシステム株式会社)にセットし、励起光(波長365 nm)をメンブレンに照射して、抗体ラインの観察を行った。観察した画像を図4に示す。図4より、従来例の場合と比較して、実施例2の方が、メンブレンのバックグラウンド発光の低減効果が顕著であることが確認できた。
【実施例3】
【0040】
また、上記実施例1及び2の如きイムノクロマトキットを内部に収納するハウジングケースの色によっても、更にメンブレンのバックグラウンド発光の低減効果を得ることができると考えられる。そこで、上記実施例1で使用した資料1、メンブレン、及びバッキングシートから成るイムノクロマトキットを、黒色のハウジングケース及び白色のハウジングケースに収納した医務のグラフィー装置について、以下の手順で視認性の確認を行った。
【0041】
(抗体を固定したメンブレンの作製)
1次抗体として、抗マウスIgGウサギ抗体(イムノ・プローブ)を使用した。メンブレン(支持体:ポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム)に、1次抗体を含むPBS(1.5 mg/mL)を、ステンレス製の管を用いて直線状に添加し、ドライオーブンを用いて60℃、30分間乾燥させ、ブロッキングバッファー(1.0%カゼイン、0.1 Mホウ酸バッファー pH8.5)に浸し、30分間静置させた。ブロッキングを行ったメンブレンは、洗浄バッファー(10.0 %スクロース、0.1%コール酸ナトリウム、0.1 Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノエタン バッファー pH 7.5)に浸し、30分間振とうさせ、余分な水分をふき取り湿度20%以下で一晩乾燥させた。
【0042】
(イムノクロマトグラフィー装置の作製)
従来のバッキングシート(Lohmann(G&L))を粘着部分が上になるように配置し、当該バッキングシートの中央部に各種試料(試料1~7)を、粘着部分が上になるように張り付けた。そして上記各試料の上に、上記メンブレンをテープにぴったり重なるように張り付け、メンブレン、試料1の発光抑制シート、およびバッキングシートからなるイムノクロマトキットを作製した(図参照)。そしてこのイムノクロマトキットを、図5に示す黒色及び白色のハウジングケースに各々収納し、イムノクロマトグラフィー装置を作製した。
【0043】
(上記メンブレン上の抗体ラインの視認性の確認)
上記の如く作製したイムノクロマトキットを、蛍光標識したマウスIgG(抗インフルエンザA型抗体)(2次抗体として使用)を含むPBS(100 μg/mL)と反応させた。ここで使用した蛍光標識は、最大蛍光波長510 nmの蛍光色素を内包したポリスチレンビーズである。また、蛍光色素は、シロール誘導体を使用した(Yamaguchiら, Chem. Eur. J., 6(9):1683-1692 2000を参照のこと)。反応終了後、各イムノクロマトキットを蛍光リーダー(武蔵オプティカルシステム株式会社)にセットし、励起光(波長365 nm)をメンブレンに照射して、抗体ラインの観察を行った。観察した画像を図6に示す。図6から、白色のハウジングケースを使用したものと比較して、黒色のハウジングケースを使用したものの方が、メンブレンのバックグラウンド発光の低減効果が更に顕著であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本願の第一~第七発明は、イムノクロマトグラフィーを用いた検出の感度を上げる効果を有する。従って、本発明は、イムノクロマトグラフィー法による種々の診断を行う上で有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7