(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】半導体発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 33/22 20100101AFI20230404BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20230404BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20230404BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
H01L33/22
H01L21/302 104Z
H01L21/31 B
H01L21/78 B
H01L21/78 Q
(21)【出願番号】P 2017161277
(22)【出願日】2017-08-24
【審査請求日】2020-03-05
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 紀隆
(72)【発明者】
【氏名】稲津 哲彦
【合議体】
【審判長】瀬川 勝久
【審判官】吉野 三寛
【審判官】金高 敏康
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0299901(US,A1)
【文献】特開2013-125836(JP,A)
【文献】特開2015-201488(JP,A)
【文献】特開2014-229648(JP,A)
【文献】特表2014-527313(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0209949(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/22, H01L 33/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面と、前記第1主面とは反対側の第2主面とを有する光取出層と、前記光取出層の前記第1主面上に設けられる発光構造体と、を備える積層体を用意する工程と、
前記第2主面の一部領域に複数の柱状体を有するパターンマスクを形成する工程と、
前記パターンマスクが形成される領域に凹凸構造が形成され、前記パターンマスクが形成されずに露出する領域に平坦面により構成される底面を有する凹部が形成されるように前記第2主面をドライエッチングする工程と、
前記平坦面にレーザを照射し、前記平坦面の位置で少なくとも前記光取出層を切断して前記積層体を個片化する工程と、を備えることを特徴とする半導体発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記光取出層は、サファイア(Al
2O
3)層、窒化アルミニウム(AlN)層、酸化シリコン(SiO
x)層、窒化ケイ素層(SiN
x)または酸化アルミニウム層(Al
2O
3)であり、
前記発光構造体は、波長200nm以上360nm以下の紫外光を発する窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系半導体層を含むことを特徴とする請求項
1に記載の半導体発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子および半導体発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、深紫外光を出力する半導体発光素子の開発が進められている。深紫外光用の発光素子は、基板上に順に積層される窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系のn型クラッド層、活性層、p型クラッド層を有する。光出力向上のため、基板の光取出面にモスアイ構造などの凹凸構造が形成される(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Applied physics express 3 (2010) 061004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体発光素子の製造工程では、基板上に多数の素子部分を形成した後、基板を切断して個片化される。個片化の手法として、レーザ光を照射して基板内部に改質部を形成し、改質部を起点として基板を切断する方法が知られている。しかしながら、上述の凹凸構造にレーザ光を照射すると、凹凸構造によりレーザ光が散乱されて改質部の形成が困難となる。発光素子の光出力の向上のためには、凹凸構造の形成とレーザ改質を利用した個片化を好適に両立できることが好ましい。
【0005】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、半導体発光素子の光取出効率を高める技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様の半導体発光素子の製造方法は、凹凸構造が設けられる光取出面を有する光取出層と、光取出層の光取出面とは反対側の主面上に設けられる発光構造体と、を備える積層体を用意する工程と、光取出面の一部領域の凹凸構造上にマスクを形成する工程と、マスクが形成されずに露出する凹凸構造を除去して平坦面を形成する工程と、平坦面にレーザを照射し、平坦面の位置で少なくとも光取出層を切断して積層体を個片化する工程と、を備える。
【0007】
この態様によると、凹凸構造を部分的に除去して形成される平坦面にレーザを照射するため、レーザ照射により好適に改質部を形成できる。また、凹凸構造を除去して平坦面を形成するため、平坦面の位置における光取出層の厚みを小さくでき、平坦面の位置における光取出層の切断を容易化できる。これにより、積層体を個片化する際の発光構造体へのダメージを軽減でき、光取出効率の高い半導体発光素子を提供できる。
【0008】
凹凸構造は、高さが100nm以上であってもよく、平坦面は、算術平均粗さが5nm以下であってもよい。
【0009】
平坦面は、ドライエッチングにより形成されてもよい。
【0010】
凹凸構造を除去して平坦面を形成する工程のエッチング深さは、凹凸構造の高さの3倍以上であってもよい。
【0011】
光取出層は、サファイア(Al2O3)層、窒化アルミニウム(AlN)層、酸化シリコン(SiOx)層、窒化ケイ素層(SiNx)または酸化アルミニウム層(Al2O3)であってもよい。発光構造体は、波長200nm以上360nm以下の紫外光を発する窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系半導体層を含んでもよい。
【0012】
本発明の別の態様は、半導体素子の製造方法である。この製造方法は、第1主面と、第1主面とは反対側の第2主面とを有する光取出層と、光取出層の第1主面上に設けられる発光構造体と、を備える積層体を用意する工程と、第2主面の一部領域にパターンマスクを形成する工程と、パターンマスクが形成される領域に凹凸構造が形成され、パターンマスクが形成されずに露出する領域に平坦面を有する凹部が形成されるように第2主面をドライエッチングする工程と、平坦面にレーザを照射し、平坦面の位置で少なくとも光取出層を切断して積層体を個片化する工程と、を備える。
【0013】
この態様によると、1回のドライエッチング工程により凹凸構造および平坦面を同時形成でき、平坦面へのレーザ照射により好適に改質部を形成できる。第2主面をドライエッチングして平坦面を形成するため、平坦面の位置における光取出層の厚みを小さくでき、平坦面の位置における光取出層の切断を容易化できる。これにより、積層体を個片化する際の発光構造体へのダメージを軽減でき、光取出効率の高い半導体発光素子を提供できる。
【0014】
本発明のさらに別の態様は、半導体発光素子である。この半導体発光素子は、光取出面を有する光取出層と、光取出層の光取出面とは反対側の主面上に設けられる発光構造体と、を備える。光取出面は、外周領域と、外周領域の内側の内側領域と、を有する。外周領域は、算術平均粗さが5nm以下であり、内側領域は、高さが100nm以上の凹凸構造が設けられる。外周領域は、内側領域に対して光取出層の厚み方向に凹むように構成されており、外周領域と内側領域の高低差が凹凸構造の高さの2倍以上である。
【0015】
この態様によると、光取出面の内側領域には凹凸構造が形成されるため、半導体発光素子の光取出効率を高めることができる。また、光取出面の外周領域が平坦化されており、かつ、外周領域の光取出層の厚みが小さいため、レーザ改質を利用した外周領域の切断が容易な構造とできる。したがって、半導体発光素子の個片化に伴う発光構造体へのダメージを軽減でき、光取出効率の高い半導体発光素子を提供できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、半導体発光素子の光取出効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施の形態に係る半導体発光素子の構成を概略的に示す断面図である。
【
図2】
図1の半導体発光素子の光取出面の構成を概略的に示す平面図である。
【
図3】半導体発光素子の製造方法を示すフローチャートである。
【
図4】半導体発光素子の製造工程を模式的に示す図である。
【
図5】半導体発光素子の製造工程を模式的に示す図である。
【
図6】半導体発光素子の製造工程を模式的に示す図である。
【
図7】半導体発光素子の製造工程を模式的に示す図である。
【
図8】半導体発光素子の製造工程を模式的に示す図である。
【
図9】変形例に係る半導体発光素子の製造工程を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、説明の理解を助けるため、各図面における各構成要素の寸法比は、必ずしも実際の発光素子の寸法比と一致しない。
【0019】
図1は、実施の形態に係る半導体発光素子10の構成を概略的に示す断面図である。半導体発光素子10は、ベース構造体20と、発光構造体30とを備える。ベース構造体20は、基板22、第1ベース層24、第2ベース層26を含む。発光構造体30は、n型クラッド層32、活性層34、電子ブロック層36、p型クラッド層38、p側電極40、n側電極42を含む。
【0020】
半導体発光素子10は、中心波長が約365nm以下となる「深紫外光」を発するように構成される半導体発光素子である。このような波長の深紫外光を出力するため、活性層34は、バンドギャップが約3.4eV以上となる窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系半導体材料で構成される。本実施の形態では、特に中心波長が約310nm以下の深紫外光を発する場合について示す。
【0021】
本明細書において、「AlGaN系半導体材料」とは、主に窒化アルミニウム(AlN)と窒化ガリウム(GaN)を含む半導体材料のことをいい、窒化インジウム(InN)などの他の材料を含有する半導体材料を含むものとする。したがって、本明細書にいう「AlGaN系半導体材料」は、例えば、In1-x-yAlxGayN(0≦x+y≦1、0≦x≦1、0≦y≦1)の組成で表すことができ、AlN、GaN、AlGaN、窒化インジウムアルミニウム(InAlN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化インジウムアルミニウムガリウム(InAlGaN)を含むものとする。
【0022】
また「AlGaN系半導体材料」のうち、AlNを実質的に含まない材料を区別するために「GaN系半導体材料」ということがある。「GaN系半導体材料」には、主にGaNやInGaNが含まれ、これらに微量のAlNを含有する材料も含まれる。同様に、「AlGaN系半導体材料」のうち、GaNを実質的に含まない材料を区別するために「AlN系半導体材料」ということがある。「AlN系半導体材料」には、主にAlNやInAlNが含まれ、これらに微量のGaNが含有される材料も含まれる。
【0023】
基板22は、サファイア(Al2O3)基板である。基板22は、変形例において窒化アルミニウム(AlN)基板であってもよい。基板22は、主面22a(第1主面ともいう)と、第1主面22aの反対側の光取出面22cとを有する。第1主面22aは、結晶成長面となる一主面であり、例えば、サファイア基板の(0001)面である。光取出面22cの内側領域C1には、サブミクロン程度の微小な凹凸構造(テクスチャ構造)50が形成される。光取出面22cの外周領域C2には、平坦面22fが形成される。
【0024】
基板22の第1主面22a上には、第1ベース層24および第2ベース層26が積層される。第1ベース層24は、AlN系半導体材料で形成される層であり、例えば、高温成長させたAlN(HT-AlN)層である。第2ベース層26は、AlGaN系半導体材料で形成される層であり、例えば、アンドープのAlGaN(u-AlGaN)層である。
【0025】
基板22、第1ベース層24および第2ベース層26は、n型クラッド層32から上の層を形成するための下地層(テンプレート)として機能する。またこれらの層は、活性層34が発する深紫外光を外部に取り出すための光取出層として機能し、活性層34が発する深紫外光を透過する。第1ベース層24および第2ベース層26は、活性層34からの深紫外光の透過率が高まるように、活性層34よりもAlN比率の高いAlGaN系またはAlN系材料で構成されることが好ましく、活性層34より低屈折率の材料で構成されることが好ましい。また、第1ベース層24および第2ベース層26は、基板22より高屈折率の材料で構成されることが好ましい。例えば、基板22がサファイア基板(屈折率n1=1.8程度)であり、活性層34がAlGaN系半導体材料(屈折率n3=2.4~2.6程度)である場合、第1ベース層24や第2ベース層26は、AlN層(屈折率n2=2.1程度)や、AlN組成比が相対的に高いAlGaN系半導体材料(屈折率n2=2.2~2.3程度)で構成されることが好ましい。
【0026】
n型クラッド層32は、第2ベース層26の上に設けられるn型半導体層である。n型クラッド層32は、n型のAlGaN系半導体材料で形成され、例えば、n型の不純物としてシリコン(Si)がドープされるAlGaN層である。n型クラッド層32は、活性層34が発する深紫外光を透過するように組成比が選択され、例えば、AlNのモル分率が40%以上、好ましくは、50%以上となるように形成される。n型クラッド層32は、活性層34が発する深紫外光の波長よりも大きいバンドギャップを有し、例えば、バンドギャップが4.3eV以上となるように形成される。n型クラッド層32は、500nm~3000nm程度の厚さを有し、例えば、2000nm程度の厚さを有する。
【0027】
活性層34は、n型クラッド層32の一部領域上に形成される。活性層34は、AlGaN系半導体材料で形成され、n型クラッド層32と電子ブロック層36に挟まれてダブルヘテロ接合構造を構成する。活性層34は、単層もしくは多層の量子井戸構造を構成してもよい。このような量子井戸構造は、例えば、アンドープのAlGaN系半導体材料で形成されるバリア層と、アンドープのAlGaN系半導体材料で形成される井戸層とを積層させることにより形成される。活性層34は、波長355nm以下の深紫外光を出力するためにバンドギャップが3.4eV以上となるように構成され、例えば、波長310nm以下の深紫外光を出力できるようにAlN組成比が選択される。
【0028】
電子ブロック層36は、活性層34の上に形成される。電子ブロック層36は、p型のAlGaN系半導体材料で形成される層であり、例えば、アンドープのAlGaN層である。電子ブロック層36は、例えば、AlNのモル分率が40%以上、好ましくは、50%以上となるように形成される。電子ブロック層36は、AlNのモル分率が80%以上となるように形成されてもよく、実質的にGaNを含まないAlN系半導体材料で形成されてもよい。電子ブロック層36は、p型の不純物としてマグネシウム(Mg)がドープされるAlGaN系半導体材料またはAlN系半導体材料で形成されてもよい。電子ブロック層36は、1nm~50nm程度の厚さを有し、例えば、10nm~20nm程度の厚さを有する。
【0029】
p型クラッド層38は、電子ブロック層36の上に形成される。p型クラッド層38は、p型のAlGaN系半導体材料で形成される層であり、例えば、MgドープのAlGaN層である。p型クラッド層38は、電子ブロック層36よりもAlNのモル分率が低くなるように組成比が選択される。p型クラッド層38は、100nm~1000nm程度の厚さを有し、例えば、400nm~600nm程度の厚さを有する。
【0030】
p側電極40は、p型クラッド層38の上に設けられる。p側電極40は、p型クラッド層38との間でオーミック接触が実現できる材料で形成され、例えば、ニッケル(Ni)/金(Au)の積層構造により形成される。
【0031】
n側電極42は、n型クラッド層32の上に設けられる。n側電極42は、Ti/Al系電極であり、例えば、チタン(Ti)/Al/Ti/AuまたはTi/Al/Ni/Auの積層構造により形成される。
【0032】
凹凸構造50は、基板22の光取出面22cに形成される。凹凸構造50は、光取出面22cにおける反射または全反射を抑制し、光取出面22cから出力される深紫外光の外部取出効率を高める。凹凸構造50は、光取出面22cのほぼ全面に形成されるが、光取出面22cの外周領域C2を避けて形成される。凹凸構造50は、光取出面22cの内側領域C1に形成される複数の錐形状部52を有する。錐形状部52は、基板22と同じ材料で構成され、例えばサファイア(Al2O3)や窒化アルミニウム(AlN)で構成される。
【0033】
複数の錐形状部52は、ほぼ均一な高さhAを有するように形成される。錐形状部52の高さhAは、100nm以上1000nm以下であり、好ましくは200nm以上600nm以下である。錐形状部52の高さhAは、ある程度(例えば、5%~30%程度)のばらつきを有してもよい。
【0034】
複数の錐形状部52は、所定のピッチで並ぶように形成される。ここで、錐形状部52のピッチとは、隣接する錐形状部52の頂部間の距離である。錐形状部52のピッチは、100nm以上1000nm以下となるよう形成され、例えば、200nm以上600nm以下となるように形成される。
【0035】
光取出面22cの外周領域C2には、平坦面22fが設けられる。平坦面22fは、凹凸構造50に比べて平坦性が高く、例えば、算術平均粗さRaが10nm以下、好ましくは5nm以下となるように構成される。平坦面22fは、内側領域C1の凹凸構造50に対して基板22の厚み方向に凹むように形成され、内側領域C1と外周領域C2の境界には、高さhBの高低差または段差が設けられる。凹凸構造50の底面に相当する基準面22dと平坦面22fの間の高さhBは、凹凸構造50の高さhAより大きく、好ましくは、凹凸構造50の高さhAの2倍以上である。したがって、外周領域C2における基板22の厚みt2は、内側領域C1における基板22の厚みt1よりも小さい。
【0036】
基板22の内側領域C1の厚さt1は、1μm以上であり、例えば、5μm、10μm、100μm、300μm、500μm程度の厚さを有する。基板22の厚さt1は、凹凸構造50の高さhAの2倍以上であり、典型的には凹凸構造50の高さhAの10倍以上である。一方、基板22の外周領域C2の厚さt2は、0.5μm以上である。基板22の内側領域C1と外周領域C2の厚さの差(t1-t2)は、0.5μm以上であり、例えば、1μm、2μm、3μm、4μm、5μmまたは10μm程度である。
【0037】
基板22の内側領域C1と外周領域C2の境界部分には、段差面22eが設けられる。段差面22eは、例えば、基板22の基準面22dに対して垂直となるように形成される。段差面22eは、基準面22dに対して傾斜するように形成されてもよい。
【0038】
図2は、
図1の半導体発光素子10の光取出面22cの構成を概略的に示す平面図である。光取出面22cは、内側領域C1と外周領域C2を有する。外周領域C2は、光取出面22cの外縁に沿って枠状に設けられる領域であり、凹凸構造50が形成されずに平坦面22fとなる領域である。外周領域C2の幅wは特に限られないが、例えば、1μm~50μm程度の範囲であり、例えば10μm~30μm程度である。内側領域C1は、外周領域C2より内側の領域であり、凹凸構造50(つまり、複数の錐形状部52)が設けられる領域である。
【0039】
複数の錐形状部52は、光取出面22cの内側領域C1に二次元アレイ状に配列され、例えば、図示されるように三角格子状に並んで配置される。複数の錐形状部52は、内側領域C1のほぼ全体を隙間なく占めるように設けられることが好ましく、光取出面22cの平面視の単位面積あたりに複数の錐形状部52が占める面積の割合が70%以上、80%以上または90%以上となるように構成されることが好ましい。錐形状部52は、光取出面22cの平面視での外郭が円形状である。なお、錐形状部52の内側領域C1での充填率を高めるために、錐形状部52の外郭が円形と多角形の中間の形状を有してもよく、例えば、円形と六角形の中間の形状を有してもよい。
【0040】
つづいて、半導体発光素子10の製造方法について述べる。
図3は、半導体発光素子10の製造方法を示すフローチャートである。まず、光取出層と発光構造体を備える積層体を用意し(S10)、光取出層上に凹凸構造を形成する(S12)。つづいて、凹凸構造の一部領域上にマスクを形成し(S14)、マスクが形成されずに露出する凹凸構造を選択的に除去して平坦面を形成する(S16)。その後、平坦面にレーザを照射して光取出層の内部に改質部分を形成し、改質部分を起点として光取出層および発光構造体を切断することにより積層体を半導体発光素子に個片化する(S18)。
【0041】
図4~
図8は、半導体発光素子10の製造工程を模式的に示す図である。
図4は、光取出層となる基板22と、発光構造体30とを備える積層体12の構造を示している。積層体12は、複数の半導体発光素子10に個片化される前の構造体であり、基板22上に形成される複数の素子部分14a,14b,14cを有する。
【0042】
積層体12を用意する工程では、凹凸構造50が形成されていない基板22を用意し、基板22の第1主面22a上に第1ベース層24、第2ベース層26、n型クラッド層32、活性層34、電子ブロック層36、p型クラッド層38を順に積層させる。AlGaN系またはGaN系半導体材料で形成される第2ベース層26、n型クラッド層32、活性層34、電子ブロック層36およびp型クラッド層38は、有機金属化学気相成長(MOVPE)法や、分子線エピタキシ(MBE)法などの周知のエピタキシャル成長法を用いて形成できる。
【0043】
次に、n型クラッド層32の上に積層される活性層34、電子ブロック層36、p型クラッド層38の一部を除去し、n型クラッド層32の一部領域を露出させる。例えば、p型クラッド層38の一部領域を避けてマスクを形成し、反応性イオンエッチングやプラズマ等を用いたドライエッチングを行うことにより、活性層34、電子ブロック層36、p型クラッド層38の一部を除去し、n型クラッド層32の一部領域を露出させることができる。
【0044】
次に、露出したn型クラッド層32の一部領域上にn側電極42が形成され、p型クラッド層38の上にp側電極40が形成される。p側電極40およびn側電極42を構成する各金属層は、例えば、電子ビーム蒸着法やスパッタリング法などの周知の方法により形成することができる。これにより、複数の素子部分14a~14cを有する積層体12ができあがる。
【0045】
つづいて、基板22の第1主面22aとは反対側の第2主面22bの上に第1マスク60を形成する。第1マスク60は、第2主面22bに凹凸構造50を形成するために用いられ、第2主面22bのほぼ全面に形成される。第1マスク60は、凹凸構造50の錐形状部52に対応した二次元アレイ状のパターンを有するパターンマスクであり、二次元アレイ状に配置される複数の柱状体62を有する。複数の柱状体62は、三角格子状に配置され、それぞれが角柱または円柱形状を有する。柱状体62にはわずかなテーパ角が設けられてもよく、角錐台または円錐台形状であってもよい。第1マスク60は、例えば、ナノインプリント技術を用いてレジスト樹脂により形成される。なお、第1マスク60を形成する方法は特に限定されず、露光や電子ビーム描画などによるリソグラフィ技術を用いて形成されてもよい。
【0046】
つづいて、第1マスク60の上から第1ドライエッチング70が実行される。第1ドライエッチング70として、反応性イオンエッチング(RIE;Reactive Ion Etching)を用いることができ、より具体的には、誘導結合型プラズマ(ICP;Inductive Coupling Plasma)によるプラズマエッチングを用いることができる。プラズマエッチングに用いるガス種は特に限定されないが、エッチングガスとして塩素(Cl2)や三塩化ホウ素(BCl3)などの塩素系ガスを用いることが好ましい。これらのエッチングガスを用いることにより、基板22を構成するサファイアまたは窒化アルミニウム、および、第1マスク60を構成するレジスト樹脂を好適にエッチングできる。
【0047】
図5は、第1ドライエッチング70の実行後の状態を示し、凹凸構造50を有する光取出面22cが形成された状態を示す。第1ドライエッチング70では、柱状体62が上方および側方から等方的にエッチングされ、エッチング工程が進むにつれて柱状体62の高さおよび直径が小さくなっていく。一方、第1マスク60の下に位置する基板22の第2主面22bは、柱状体62に覆われていない箇所がエッチングされていく。柱状体62の被覆領域は時間経過とともに柱状体62の中心に向かって縮小していくため、第2主面22bがエッチングされる領域は時間経過とともに増大していく。その結果、柱状体62の中心からの距離に応じて第2主面22bの深さ方向のエッチング量が異なることとなり、側面が傾斜した錐形状部52が形成される。なお、錐形状部52の頂点の高さ位置は、第1ドライエッチング70の完了後において、基板22の第2主面22bの高さより低くなる。
【0048】
図6は、凹凸構造50の上に第2マスク64(64a,64b,64c)を形成する工程を示す。第2マスク64は、上述の半導体発光素子10の内側領域C1に対応する素子領域C3に選択的に設けられ、半導体発光素子10の外周領域C2に対応する分離領域C4を避けて設けられる。分離領域C4は、複数の素子部分14a~14cの境界部分に相当する。第2マスク64は、素子領域C3の凹凸構造50を完全に被覆するように設けられ、第2マスク64の高さh
Cが凹凸構造50の高さh
Aの2倍以上、好ましくは3倍以上となるように設けられる。第2マスク64の高さh
Cは、例えば、1μm以上であり、2μm、3μm、4μm、5μmまたは10μm程度である。
【0049】
図7は、第2マスク64の上から第2ドライエッチング72を実行して分離領域C4の凹凸構造50を除去する工程を示す。図示されるように、第2マスク64が形成されていない分離領域C4では、凹凸構造50が第2ドライエッチング72により除去され、凹部66が形成される。このとき、第2ドライエッチング72によるエッチング深さh
Dを凹凸構造50の高さの2倍以上、好ましくは3倍以上とすることにより、凹部66の底面を平坦化し、算術平均粗さが10nm以下または5nm以下の平坦面22fを形成できる。一方、第2マスク64が形成される素子領域C3では、第2マスク64の厚みが減少するものの、第2マスク64により凹凸構造50が保護され、第2ドライエッチング72の完了後においても凹凸構造50がそのまま残る。第2ドライエッチング72の完了後、凹凸構造50の上に残る第2マスク64は、ウェット処理等により除去される。
【0050】
図8は、レーザ74の照射により基板22の内部に改質部76を形成する工程を示す。改質部76は、レーザ74が基板22の内部で多光子吸収されることにより基板22の内部のみに形成される。レーザ74として、例えば、基板22に対して透明な波長帯域の高強度短パルスレーザを用いればよい。改質部76は、分離領域C4に沿って、各素子部分14a~14cを囲むように格子状に形成される。その後、改質部76を起点にして基板22が切断され、各素子部分14a~14cが個片化される。これにより、
図1に示す半導体発光素子10ができあがる。
【0051】
本実施の形態によれば、光取出面22cに凹凸構造50を形成することにより、半導体発光素子10の光取出効率を高めることができる。また、半導体発光素子10に個片化する前の積層体12の分離領域C4に平坦面22fを形成することで、基板22の内部に改質部76を好適に形成できる。仮に、凹凸構造50の上からレーザ74を照射した場合、凹凸構造50によりレーザ74が散乱され、高強度のレーザ光が十分に集光されないため、改質部76の形成が困難となる。また、凹凸構造50により散乱されたレーザ74の一部が発光構造体30に照射され、発光構造体30の特性に影響を与えるおそれもある。本実施の形態では、分離領域C4のレーザ74の入射面が平坦化されるため、入射面でのレーザ74の散乱を抑え、改質部76を適切に形成することができる。これにより、個片化プロセスにおける発光構造体30へのダメージを軽減でき、光出力の高い半導体発光素子10を提供できる。
【0052】
本実施の形態によれば、分離領域C4に平坦面22fを形成する際に凹部66が形成されるため、分離領域C4の基板22の厚みを相対的に小さくできる。これにより、凹部66が形成されない場合と比較して、基板22の切断をより容易にできる。また、基板22が切断されやすくなる結果、基板22の切断時に積層体12に過度な応力を加える必要がなくなり、切断時における発光構造体30へのダメージをより軽減できる。これにより、光取出効率のより高い半導体発光素子10を提供できる。
【0053】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0054】
上述の実施の形態では、積層体12の第2主面22bの全面に凹凸構造50を形成した後に分離領域C4の凹凸構造50を部分的に除去する製造方法について説明した。変形例においては、素子領域C3に選択的にパターンマスクを形成することにより、パターンマスクを介した凹凸構造50の形成と分離領域C4での凹部66の形成とが同時に実行されてもよい。
【0055】
図9は、変形例に係る半導体発光素子の製造工程を模式的に示す図である。
図9は、上述の実施の形態に係る
図4の工程に対応する。本変形例では、複数の柱状体62を有するパターンマスク68が素子領域C3に選択的に形成され、分離領域C4にはパターンマスク68が形成されない。したがって、分離領域C4は、パターンマスク68が形成されずに第2主面22bが露出した状態となる。この状態でドライエッチング70を実行することにより、素子領域C3には凹凸構造50が形成され、分離領域C4には平坦面22fを伴う凹部66が形成される。その結果、
図8に示す光取出面22cと同様の構造を1回のドライエッチング工程で作製できる。その後、
図8に示されるように、分離領域C4にレーザを照射して改質部76を形成し、改質部76を起点にして基板22が切断され、各素子部分14a~14cが個片化される。本変形例においても、上述の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0056】
上述の実施の形態では、基板22の光取出面22cに凹凸構造50を形成する場合を示した。変形例においては、基板22の光取出面22c上に形成される別の層上に凹凸構造50が形成されてもよい。例えば、光取出面22c上に第3ベース層が形成され、第3ベース層上に凹凸構造50が形成されてもよい。第3ベース層は、活性層34が発する深紫外光の波長に対して、活性層34より屈折率が低く、基板22より屈折率が高い材料で構成されることが好ましい。基板22がサファイア(屈折率n1=1.8程度)であり、活性層34がAlGaN系半導体材料(屈折率n3=2.4~2.6程度)である場合、第3ベース層は、AlN(屈折率n4=2.1程度)や、AlN組成比の相対的に高いAlGaN系半導体材料(屈折率n4=2.2~2.3程度)で構成されることが好ましい。第3ベース層は、窒化シリコン(SiNx、屈折率n4=1.9~2.1程度)、酸窒化シリコン(SiON)、酸化シリコン(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)であってもよい。第3ベース層は、活性層34が発する深紫外光の透過率が高いと好ましく、内部透過率が90%以上となるよう構成されることが好ましい。
【0057】
上述の実施の形態では、発光構造体30を形成した後に光取出層に凹凸構造50および凹部66を形成する場合を示した。さらなる変形例においては、光取出層に凹凸構造50および凹部66を形成した後に発光構造体30を形成してもよい。例えば、凹凸構造50凹部66があらかじめ形成された基板22を用意し、その基板上に発光構造体30を形成してもよい。
【符号の説明】
【0058】
10…半導体発光素子、12…積層体、22…基板、22c…光取出面、22f…平坦面、30…発光構造体、50…凹凸構造、74…レーザ、76…改質部、C1…内側領域、C2…外周領域。