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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】熱硬化性接着剤、及び、接着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 175/04 20060101AFI20230404BHJP
   C09J 171/10 20060101ALI20230404BHJP
   C09J 5/08 20060101ALI20230404BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20230404BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20230404BHJP
【FI】
C09J175/04
C09J171/10
C09J5/08
C09J11/06
C09J7/35
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019018648
(22)【出願日】2019-02-05
(65)【公開番号】P2020125410
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000190611
【氏名又は名称】日東シンコー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】高橋 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】徳永 理子
【審査官】宮崎 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-121289(JP,A)
【文献】国際公開第2016/163514(WO,A1)
【文献】特表2010-529285(JP,A)
【文献】特開2008-248240(JP,A)
【文献】国際公開第2017/204218(WO,A1)
【文献】特開2016-195090(JP,A)
【文献】特開2015-081329(JP,A)
【文献】国際公開第2012/173242(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤成分を含む熱硬化性接着剤であって、
該熱硬化性接着剤が硬化した硬化物の動的粘弾性スペクトルが、200℃以上の領域に軟化温度を示すピークを有し、且つ、160℃以下の領域にはピークを有しておらず、
前記接着剤成分は、
エポキシ変性ポリウレタン樹脂を構成するポリウレタン、イソシアネート、及び、エポキシを含み、
該接着剤成分が、さらにフェノキシ樹脂を含んでおり、
該接着剤成分を発泡状態にさせるための発泡剤成分を含有し、
該発泡剤成分が、発泡開始温度が異なる少なくとも2種類の熱膨張性マイクロカプセルを含んでいる、
熱硬化性接着剤。
【請求項2】
前記動的粘弾性スペクトルは、160℃を超え前記軟化温度未満の範囲にもピークを有していない請求項1に記載の熱硬化性接着剤。
【請求項3】
前記フェノキシ樹脂の軟化温度が50℃以上90℃以下である請求項1又は2記載の熱硬化性接着剤。
【請求項4】
前記接着剤成分は、下記(1)~(4)の条件で2枚の鋼板を接着した際に、全ての条件において、前記鋼板の間に発揮される150℃でのせん断接着力が15MPa以上となり、200℃でのせん断接着力が3.5MPa以上となる請求項1乃至の何れか1項に記載の熱硬化性接着剤。

(1) 100℃×6時間
(2) 110℃×3時間
(3) 150℃×15分
(4) 180℃×5分
【請求項5】
前記接着剤成分は、平均粒子径0.5μm以上2μm以下の無機フィラーをさらに含む請求項1乃至の何れか1項に記載の熱硬化性接着剤。
【請求項6】
シート状の基材で構成された基材層と、請求項1乃至の何れか1項に記載の熱硬化性接着剤で構成された接着剤層とを備え、前記基材層の片面又は両面に前記接着剤層が積層されている接着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性接着剤及び熱硬化性接着剤を含む接着剤層を備えた接着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂を接着剤成分に含んだ熱硬化性接着剤が広く用いられている。
また、熱硬化性接着剤を含む接着剤層を基材シート上に積層した接着シートは、狭小箇所に介挿させることが出来たり、折り曲げて用いることが出来たりすることから適用範囲が広く、種々の用途で用いられている。
感圧接着剤などが高温において接着力を大きく低下させるのに対して、この種の熱硬化性接着剤は、通常、高温でも高い接着力を示すことから、駆動時に発熱する電気機器や動力機械などにおいて部品どうしを接着する目的で広く用いられている。
【0003】
ところで、近年、下記特許文献1に示されているようにマイクロカプセル型の膨張剤を含んだ接着剤を接着層の形成に利用した接着シートの利用が検討されている。
該接着シートは、部材どうしの間に介挿させて加熱するだけで接着層を体積膨張させて部材どうしを接着させることができるため利便性に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-076031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
接着剤成分だけで構成された熱硬化性接着剤や接着剤成分と発泡剤成分とを含む熱硬化性接着剤で、且つ、従来のものよりも耐熱性に優れたものが得られれば、熱硬化性接着剤や接着シートは、その適用範囲の拡大を図ることができる。
ポリウレタン樹脂にエポキシを結合させたエポキシ変性ポリウレタン樹脂は、耐熱性に優れるため上記のような熱硬化性接着剤の接着剤成分の構成材料として好適である。
しかしながらエポキシ変性ポリウレタン樹脂は、靱性に優れるとは言い難く、例えば、接着シートの接着剤層に含有させると当該接着シートを曲げたりしたときに接着剤層にクラックを発生させる原因となる場合がある。
尚、靱性が不十分であることによってクラックなどが発生するという問題は、熱硬化性接着剤を発泡させるか否かに関係なく発生し得る。
【0006】
エポキシ変性ポリウレタン樹脂の靱性を改善する方法として、柔軟なフェノキシ樹脂などを接着剤成分に含有させることが考えられる。
しかし、単にフェノキシ樹脂を含有させただけでは、熱硬化性接着剤を硬化させて得られる硬化物の耐熱性にエポキシ変性ポリウレタン樹脂に比べると耐熱性が低いフェノキシ樹脂の影響が出てしまい、前記硬化物の耐熱性が不十分なものになるおそれがある。
本発明は、このような点に着目してなされたものであり、エポキシ変性ポリウレタン樹脂の耐熱性とフェノキシ樹脂の靱性との両方の特長を併せ持つ熱硬化性接着剤を提供し、ひいては、接着剤層にクラックなどが発生し難い接着シートを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、熱硬化性接着剤にフェノキシ樹脂を含有させるとともにイソシアネートを含有させ、しかも、熱硬化性接着剤の硬化物に対する動的粘弾性スペクトルに基づいて前記イソシアネートの含有量を決定することが上記課題を解決するのに有効であることを見出して本発明を完成させるに至った。
【0008】
上記課題を解決すべく本発明は、接着剤成分を含む熱硬化性接着剤であって、硬化物の動的粘弾性スペクトルが、200℃以上の領域に軟化温度を示すピークを有し、且つ、160℃以下の領域にはピークを有しておらず、前記接着剤成分は、エポキシ変性ポリウレタン樹脂を構成するポリウレタン、イソシアネート、及び、エポキシを含み、該接着剤成分が、さらにフェノキシ樹脂を含んでいる、熱硬化性接着剤を提供する。
【0009】
上記課題を解決すべく本発明は、シート状の基材で構成された基材層と、上記のような熱硬化性接着剤で構成された接着剤層とを備え、前記基材層の片面又は両面に前記接着剤層が積層されている接着シートを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によればエポキシ変性ポリウレタン樹脂の耐熱性とフェノキシ樹脂の靱性との両方の特長を併せ持つ熱硬化性接着剤が提供され、ひいては、接着剤層にクラックなどが発生し難い接着シートが提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】半導体装置の概略平面図。
図2】半導体装置の概略側面図。
図3】一実施形態に係る接着シートの概略断面図。
図4】熱硬化性接着剤の硬化物の動的粘弾性スペクトルを測定した結果を示す図(参考配合での測定カーブ)。
図5】熱硬化性接着剤の硬化物の動的粘弾性スペクトルを測定した結果を示す図(基準配合での測定カーブ)。
図6】熱硬化性接着剤の硬化物の動的粘弾性スペクトルを測定した結果を示す図(変量配合(イソシアネート含有量が基準配合の0.95倍)での測定カーブ)。
図7】熱硬化性接着剤の硬化物の動的粘弾性スペクトルを測定した結果を示す図(変量配合(イソシアネート含有量が基準配合の0.9倍)での測定カーブ)。
図8】熱硬化性接着剤の硬化物の動的粘弾性スペクトルを測定した結果を示す図(変量配合(イソシアネート含有量が基準配合の0.8倍)での測定カーブ)。
図9】熱硬化性接着剤の硬化物の動的粘弾性スペクトルを測定した結果を示す図(変量配合(イソシアネート含有量が基準配合の0.75倍)での測定カーブ)。
図10】熱硬化性接着剤の硬化物の動的粘弾性スペクトルを測定した結果を示す図(変量配合(イソシアネート含有量が基準配合の0.7倍)での測定カーブ)。
図11】熱硬化性接着剤の硬化物の熱重量示差熱分析を行った結果を示す図(参考配合での測定カーブ)。
図12】熱硬化性接着剤の硬化物の熱重量示差熱分析を行った結果を示す図(基準配合での測定カーブ)。
図13】熱硬化性接着剤の硬化物の熱重量示差熱分析を行った結果を示す図(変量配合(イソシアネート含有量が基準配合の0.9倍)での測定カーブ)。
図14】熱硬化性接着剤の硬化物の熱重量示差熱分析を行った結果を示す図(変量配合(イソシアネート含有量が基準配合の0.85倍)での測定カーブ)。
図15】熱硬化性接着剤の硬化物の熱重量示差熱分析を行った結果を示す図(変量配合(イソシアネート含有量が基準配合の0.8倍)での測定カーブ)。
図16】熱硬化性接着剤の硬化物の熱重量示差熱分析を行った結果を示す図(変量配合(イソシアネート含有量が基準配合の0.75倍)での測定カーブ)。
図17】熱硬化性接着剤の硬化物の熱重量示差熱分析を行った結果を示す図(変量配合(イソシアネート含有量が基準配合の0.7倍)での測定カーブ)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について具体例を示して説明する。
以下においては、インバーターやコンバーターなどの半導体装置において接着シートが使用される場合を例に挙げて本発明の実施の形態について説明する。
より詳しくは、端子間の絶縁に用いる絶縁紙に代えて用いられる場合を例に接着シートに係る実施の形態について説明する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る半導体装置1の平面図であり、図2は、側面図である。
本実施形態に係る半導体装置1は、半導体素子10と、半導体素子10を収容する筐体1aとを有する。
半導体装置1は、半導体素子10の正極に電気的に接続された金属板からなる正極端子20と、半導体素子10の負極に電気的に接続された金属板からなる負極端子30とをさらに備えている。
前記正極端子20と負極端子30とは、互いに表面を対向させて配されており、本実施形態における接着シート40によって接着されているとともに該接着シート40によって電気的に絶縁されている。
即ち、本実施形態における接着シートは、2つの部材(正極端子20、負極端子30)の間に介装されて該部材どうしを接着すべく用いられている。
【0014】
本実施形態における接着シート40は、2つの端子20,30の内の一方の端子(正極端子20)の表面に接着する第1接着面40aと、該第1接着面40aの反対面であって2つの端子20,30の内の他方の端子(負極端子30)の表面に接着する第2接着面40bと、の2つの接着面を有している。
【0015】
本実施形態における接着シート40は、片面又は両面が前記接着面となる接着剤層を備えている。
本実施形態の接着シート40は、それぞれ片面側が接着面となる2つの接着剤層を備えている。
本実施形態における接着シート40は、図3に示すように厚さ方向中央部にシート状の基材で構成された基材層43を備え、該基材層43の一面側に積層された第1接着剤層41と、前記基材層43の他面側に積層された第2接着剤層42との2つの接着剤層を備えている。
前記第1接着剤層41は、前記第1接着面40aを構成しており、前記基材層43に接する面の反対面が前記第1接着面40aとなっている。
前記第1接着剤層42は、前記第2接着面40bを構成しており、前記基材層43に接する面の反対面が前記第2接着面40bとなっている。
【0016】
第1接着剤層41及び第2接着剤層42の内の少なくとも一方の接着剤層は、加熱することによって熱硬化した発泡体となるように熱硬化性を有する接着剤成分とともに発泡剤成分を含む熱硬化性接着剤で形成されている。
本実施形態においては、第1接着剤層41と第2接着剤層42との両方が発泡剤成分を含む熱硬化性接着剤で形成されている。
【0017】
本実施形態の前記熱硬化性接着剤は、硬化物の動的粘弾性スペクトルを測定したときに、200℃以上の領域に軟化温度を示すピークが発現する。
尚、前記ピークは、貯蔵弾性率(E’)に対する損失弾性率(E”)の割合を表す損失正接(tanδ:E”/E’)の測定カーブで確認することができ、測定温度を横軸に損失正接(tanδ)を縦軸とした測定カーブで上向きに凸となるピークとして確認することができる。
硬化物の軟化温度とは、上記測定カーブでのピークトップから10~30℃低温側の第1の点と前記ピークトップから10~30℃高温側の第2の点とのそれぞれにおいて接線を引き、第1の点を通る接線と第2の点を通る接線との交点を求めた際の当該交点の温度を意味する。
前記熱硬化性接着剤は、硬化物の動的粘弾性スペクトルを測定したときに、160℃以下の領域にはピークを示さない。
また、本実施形態の前記熱硬化性接着剤は、160℃を超え前記軟化温度未満の範囲にもピークを有していない。
即ち、本実施形態の前記熱硬化性接着剤は、硬化物に対して動的粘弾性スペクトルの測定を実施した際に、少なくとも常温(30℃)から200℃までの間にはピークが現れない。
【0018】
動的粘弾性スペクトルは、熱硬化性接着剤の硬化物によって作製した試験片を用いて下記のような条件で求めることができる。
なお、動的粘弾性スペクトルを測定には、経糸と緯糸とを有する厚み100μmのガラスクロスに前記熱硬化性接着剤を含浸させて硬化させたテストシートより切り出された短冊状の試験片を用いる。
また、前記短冊状の試験片としては、長手方向に対して前記経糸と前記緯糸とがそれぞれ45度の角度をなすように前記テストシートから切り出された幅約3mmの短冊状の試験片を採用する。

<測定条件>
測定モード:引張
測定周波数:1Hz
ひずみ:0.1%
支点間距離:20mm
昇温速度:5/min(30℃~260℃)
【0019】
前記熱硬化性接着剤における前記接着剤成分は、エポキシ変性ポリウレタン樹脂を構成するポリウレタン、イソシアネート、及び、エポキシを含んでいる。
該接着剤成分は、さらにフェノキシ樹脂を含んでいる。
前記イソシアネートは、熱硬化性接着剤のポットライフの長期化を図り得る点において、その一部又は全部がブロック剤でイソシアネート基をブロックしたブロックイソシアネートであることが好ましい。
また、ブロックイソシアネートは、後述するようにブロック剤が熱硬化性接着剤に対して有利な効果をもたらす場合がある点においても好適であるといえる。
本実施形態では、前記イソシアネートの全部が前記ブロックイソシアネートである。
前記ブロックイソシアネートは、加熱することでブロック剤が外れてイソシアネート基となるブロックイソシアネート基を複数有している。
前記ポリウレタンは、前記ブロックイソシアネートを介して連結可能となるように複数の活性水素を有している。
具体的には、前記ポリウレタンは、分子中に複数の水酸基を有している。
前記ポリウレタンは、エポキシと化学結合するための官能基を有しており、本実施形態においては、カルボキシル基を有している。
前記ポリウレタンは、鎖状の分子構造を有し、分子両末端に前記水酸基を有しているとともに水酸基間の1箇所以上に前記カルボキシル基を有している。
前記エポキシは、一分子中に複数のエポキシ基を有している。
即ち、前記熱硬化性接着剤では、ポリウレタン、ブロックイソシアネート、及び、エポキシが加熱されることによって互いに化学結合してエポキシ変性ポリウレタン樹脂を構成する。
より詳しくは、前記熱硬化性接着剤は、加熱することで前記ブロックイソシアネートがポリイソシアネートとなって前記ポリウレタンどうしを結合してエポキシ変性ポリウレタン樹脂の主鎖を形成するとともに該主鎖に備えられているカルボキシル基との反応によってエポキシがグラフトしてエポキシ変性ポリウレタン樹脂が形成されるようになっている。
【0020】
通常、ポリオールと、ポリイソシアネートとを反応させてポリウレタン樹脂とする場合、ポリオールの活性水素とポリイソシアネートのイソシアネート基とが等モル数となるように配合される。
一方で、本実施形態の熱硬化性接着剤では、ブロックイソシアネートのブロックイソシアネート基は、活性水素に対して不足した状態とされ、単位質量あたりに含まれる活性水素のモル数を「MAH(mol/g)」とした場合、単位質量あたりに含まれるブロックイソシアネート基の数「MCN(mol/g)」は、0.85MAH以下とされる。
反応時におけるイソシアネート基の数を活性水素に対して不足させることでフェノキシ樹脂が反応に加わり易くなる。
反応時にイソシアネート基が十分存在してフェノキシ樹脂が反応に関与し難くなると、硬化後の硬化物の耐熱性にフェノキシ樹脂の影響が現れ易くなる。
フェノキシ樹脂は、靱性に優れるものの軟化温度は100℃程度でしかなく、200℃以上もの軟化温度を示すエポキシ変性ポリウレタン樹脂に比べると耐熱性が不十分である。
そのため、硬化物にフェノキシ樹脂の影響が現出し易い状況であると、当該硬化物によって接着されている正極端子20と負極端子30との間にフェノキシ樹脂の軟化温度よりも高い温度の熱が加わると接着状態に緩みが生じ易くなり、加熱状態で正極端子20と負極端子30との間に力が加わった場合に何れかの端子から接着シートが外れてしまうおそれを有する。
一方で本実施形態の熱硬化性接着剤では、エポキシ変性ポリウレタン樹脂の硬化反応時にフェノキシ樹脂が反応に関与し易くなって硬化物の中で強固に拘束される。
そのため、本実施形態においては上記のような加熱による緩みが生じ難くなる。
【0021】
上記のような効果をより確実に発揮させる上において、熱硬化性接着剤における単位質量当たりのブロックイソシアネート基の数「MCN(mol/g)」は、0.80MAH以下とされることがより好ましく、0.77MAH以下とされることがさらに好ましい。
但し、イソシアネート基が不足し過ぎると、熱硬化性接着剤の硬化反応に時間を要したり硬化物の強度が十分に発揮されないおそれを有する。
そのような観点から、ブロックイソシアネート基の数「MCN(mol/g)」は、0.6MAH以上であることが好ましく、0.65MAH以上であることがより好ましい。
【0022】
尚、必要であればブロックイソシアネートの好適な配合量は、動的粘弾性スペクトルを測定することによって正確に求められ得る。
例えば、ブロックイソシアネートが一般的な配合量(例えば、0.9MAH~1.1MAH)であると熱硬化性接着剤を硬化させた硬化物について動的粘弾性スペクトルを測定するとフェノキシ樹脂の軟化温度においてピークが観測されるため、ブロックイソシアネートが少ない数点(例えば、0.7MAH、0.75MAH、0.8MAHの3点)の硬化物を測定用の試料として調製し、この試料に対して動的粘弾性スペクトルを測定し、フェノキシ樹脂の軟化温度に由来するピークが現れなかったものの中で最もブロックイソシアネート含有量が多いものを好適な配合量として決定すればよい。
【0023】
このような熱硬化性接着剤の前記接着剤成分は、下記(1)~(4)の条件で2枚の鋼板を接着した際に、全ての条件において、前記鋼板の間に発揮される150℃でのせん断接着力が1.5MPa以上となることが好ましく、15MPa以上となることがより好ましい。
また、前記接着剤成分は、下記(1)~(4)の条件で2枚の鋼板を接着した際に、全ての条件において、前記鋼板の間に発揮される200℃でのせん断接着力が0.8MPa以上となることが好ましく、3.5MPa以上となることがより好ましい。

(1) 100℃ × 6時間
(2) 110℃ × 3時間
(3) 150℃ × 10分
(4) 180℃ × 5分
【0024】
前記ポリウレタンは、1分子に2以上の水酸基を有するポリオールと、1分子に2以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネートとによって構成させ得る。
前記ポリオール又は前記ポリイソシアネートの何れかにカルボキシル基を有するものを用いることで得られるポリウレタンにカルボキシル基を導入することができる。
カルボキシル基はポリオール側に備えられていることが好ましい。
カルボキシル基を有するポリオールとしては、例えば炭素数5~20のヒドロキシカルボン酸が好適であり、該ヒドロキシカルボン酸としては、例えば3,5-ジヒドロキシ安息香酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)ブタン酸、2,2-ビス(2-ヒドロキシエチル)プロピオン酸、2,2-ビス(3-ヒドロキシプロピル)プロピオン酸、ビス(ヒドロキシメチル)酢酸、ビス(4-ヒドロキシフェニル)酢酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)酪酸、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン酸、酒石酸、及び、N,N-ジヒドロキシエチルグリシンなどが挙げられる
これらの中でポリウレタンにカルボキシル基を導入させるためのポリオールは、ジメチロールプロパン酸、ジメチロールブタン酸であることが好ましく、ジメチロールプロパン酸であることが特に好ましい。
【0025】
前記ポリウレタンは、カルボキシル基の割合を調整する上でカルボキシル基を含まないポリオールをその構成単位として含有することが好ましい。
このようなポリオールの具体例としては、一般的なポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、その他のポリオールなどを挙げることができる。
【0026】
ポリエステルポリオールの具体例としては、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリネオペンチルアジペートジオール、ポリエチレン/ブチレンアジペートジオール、ポリネオペンチル/ヘキシルアジペートジオール、ポリ-3-メチルペンタンアジペートジオール、ポリブチレンイソフタレートジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリ-3-メチルバレロラクトンジオールなどを挙げることができる。
ポリエステルポリオールは、ポリエーテルポリオールに比べ、耐熱性に優れている。
従って、ポリエステルポリオールは、耐熱性に優れた接着剤層を得る上においてポリエーテルポリオールよりも有利である。
【0027】
ポリエーテルポリオールの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、及びこれらのランダム/ブロック共重合体などを挙げることができる。
ポリエーテルポリオールは、ポリエステルポリオールに比べ、耐加水分解性に優れている。
従って、ポリエーテルポリオールは、耐加水分解性に優れた接着剤層を得る上においてポリエステルポリオールよりも有利である。
【0028】
ポリカーボネートポリオールの具体例としては、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリネオペンチルカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリ(1,4-シクロヘキサンジメチレンカーボネート)ジオール、及びこれらのランダム/ブロック共重合体などを挙げることができる。
ポリカーボネートポリオールは、耐加水分解性、耐熱性に優れるので、ポリオールとして好適に用いることができる。
ポリカーボネートポリオールの中では、ポリヘキサメチレンカーボネートが好適である。
【0029】
その他のポリオールの具体例としては、ダイマージオールやその水素添加物、ポリブタジエンポリオールやその水素添加物、ポリイソプレンポリオールやその水素添加物などを挙げることができる。
これらのうちダイマージオールの水素添加物、ポリブタジエンポリオールの水素添加物から得られるジオールは、ポリカーボネートジオールと同様に、耐加水分解性、耐熱性に優れるので、ポリオールとして好適に用いることができる。
なお、カルボキシル基を含まないポリオールは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
これらのポリオールの数平均分子量(Mn、末端官能基定量法による)は、特に限定されないが、500~6,000であることが好ましい。
該ポリオールの数平均分子量(Mn)が大きすぎると、ウレタン結合の凝集力が発現し難くなってエポキシ変性ポリウレタン樹脂の機械特性が低下する傾向にある。
【0031】
ポリオールには、必要に応じて、分子量が500未満の短鎖ジオールを採用してもよい。
短鎖ジオールの具体例としては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,6-ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族グリコールやそのアルキレンオキシド低モル付加物(末端官能基定量法による数平均分子量500未満);1,4-ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、2-メチル-1,1-シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式グリコールやそのアルキレンオキシド低モル付加物(数平均分子量500未満、同上);キシリレングリコールなどの芳香族グリコールやそのアルキレンオキシド低モル付加物(数平均分子量500未満、同上);ビスフェノールA、チオビスフェノール、スルホンビスフェノールなどのビスフェノールのアルキレンオキシド低モル付加物(数平均分子量500未満、同上)などを挙げることができる。
短鎖ジオールとしては、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,6-ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどが好ましく、特に好ましいのはエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコールである。
これらの短鎖ジオールは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
ポリオールには、必要に応じて、多価アルコール系化合物を含有させてもよい。
多価アルコール系化合物の具体例としては、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、トリス-(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、1,1,1-トリメチロールエタン、1,1,1-トリメチロールプロパンなどを挙げることができる。
【0033】
これらのポリオールとともにポリウレタンを構成するポリイソシアネートとしては、従来公知のポリイソシアネートを用いることができる。
ポリイソシアネートの具体例としては、トルエン-2,4-ジイソシアネート、トルエン-2,6-ジイソシアネート、それらの混合体、4-メトキシ-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-イソプロピル-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-クロル-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-ブトキシ-1,3-フェニレンジイソシアネート、2,4-ジイソシアネートジフェニルエーテル、4,4’-メチレンビス(フェニレンイソシアネート)(MDI)、及びクルード又はポリメリックMDI、ジュリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート、ベンジジンジイソシアネート、o-ニトロベンジジンジイソシアネート、4,4’-ジイソシアネートジベンジルなどの芳香族ジイソシアネート;メチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,10-デカメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート;1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,5-テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、イソフォロンンジイソシアネート、水添XDIなどの脂環式ジイソシアネート;これらのジイソシアネートと、低分子量のポリオールとを、末端がイソシアネートとなるように反応させて得られるポリウレタンプレポリマーなどを挙げることができる。
【0034】
ポリイソシアネートは、これらのうち、工業上安定的に廉価で耐熱性に優れる接着剤を得るといった観点から、芳香族イソシアネートであることが好ましい。
ポリイソシアネートは、トルエン-2,4-ジイソシアネート、トルエン-2,6-ジイソシアネート、それらの混合体、4,4’-メチレンビス(フェニレンイソシアネート)(MDI)、及びクルード又はポリメリックMDIであることが特に好ましい。
これらのポリイソシアネートは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
該ポリイソシアネートと前記ポリオールとによって構成される前記ポリウレタンは、エポキシとの反応性(架橋密度)を考慮すると、所定の酸価を示すようにカルボキシル基を含有することが好ましい。
具体的には、ポリウレタンは、酸価が5~30mgKOH/gであることが好ましく、酸価が9~25mgKOH/gであることがより好ましい。
なお、ポリウレタンの酸価は、ポリウレタンをメチルエチルケトン(MEK)などで溶液化して、JIS K1557-5:2007に記載の方法に従って測定することができる。
【0036】
前記ポリウレタンとともに前記エポキシ変性ウレタン樹脂を構成するエポキシとしては、一般的なものを1種単独で又は複数混合して用いることができる。
前記エポキシとしては、例えば、フェノールノボラック型エポキシやクレゾールノボラック型エポキシなどのノボラック型エポキシ;ビスフェノールA型エポキシやビスフェノールF型エポキシなどのビスフェノール型エポキシが挙げられる。
【0037】
該エポキシ及び前記ポリウレタンとともに前記エポキシ変性ウレタン樹脂を構成するブロックイソシアネートとしては、前記ポリイソシアネートのイソシアネート基がブロック剤でブロックされているものを採用することができる。
該ブロック剤としては、加熱することでイソシアネート基から解離するブロック剤であれば、特に制限されず、該ブロック剤は、1種単独で用いても、複数混合して用いてもよい。
該ブロック剤としては、例えば、オキシム系化合物、アルコール系化合物、フェノール系化合物、活性メチレン系化合物、アミン系化合物、イミン系化合物、カルバミン酸系化合物、尿素系化合物、酸アミド系(ラクタム系)化合物、酸イミド系化合物、トリアゾール系化合物、ピラゾール系化合物、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、メルカプタン系化合物、重亜硫酸塩などが挙げられる。
【0038】
前記オキシム系化合物としては、例えば、ホルムアルドオキシム、アセトアルドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、ジアセチルモノオキシム、ペンゾフェノオキシム、2,2,6,6-テトラメチルシクロヘキサノンオキシム、ジイソプロピルケトンオキシム、メチルt-ブチルケトンオキシム、ジイソブチルケトンオキシム、メチルイソブチルケトンオキシム、メチルイソプロピルケトンオキシム、メチル2,4-ジメチルペンチルケトンオキシム、メチル3-エチルへプチルケトンオキシム、メチルイソアミルケトンオキシム、n-アミルケトンオキシム、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオンモノオキシム、4,4’-ジメトキシベンゾフェノンオキシム、2-ヘプタノンオキシムなどが挙げられる。
【0039】
前記アルコール系化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、n-ブタノール、s-ブタノール、2-エチルヘキシルアルコール、1-または2-オクタノール、シクロへキシルアルコール、エチレングリコール、ベンジルアルコール、2,2,2-トリフルオロエタノール、2,2,2-トリクロロエタノール、2-(ヒドロキシメチル)フラン、2-メトキシエタノール、メトキシプロパノール、2-エトキシエタノール、n-プロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、2-エトキシエトキシエタノール、2-エトキシブトキシエタノール、ブトキシエトキシエタノール、2-エチルヘキシルオキシエタノール、2-ブトキシエチルエタノール、2-ブトキシエトキシエタノール、N,N-ジブチル-2-ヒドロキシアセトアミド、N-ヒドロキシスクシンイミド、N-モルホリンエタノール、2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-メタノール、3-オキサゾリジンエタノール、2-ヒドロキシメチルピリジン、フルフリルアルコール、12-ヒドロキシステアリン酸、トリフェニルシラノール、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルなどが挙げられる。
【0040】
前記フェノール系化合物としては、例えば、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、n-プロピルフェノール、イソプロピルフェノール、n-ブチルフェノール、s-ブチルフェノール、t-ブチルフェノール、n-ヘキシルフェノール、2-エチルヘキシルフェノール、n-オクチルフェノール、n-ノニルフェノール、ジ-n-プロピルフェノール、ジイソプロピルフェノール、イソプロピルクレゾール、ジ-n-ブチルフェノール、ジ-s-ブチルフェノール、ジ-t-ブチルフェノール、ジ-n-オクチルフェノール、ジ-2-エチルヘキシルフェノール、ジ-n-ノニルフェノール、ニトロフェノール、ブロモフェノール、クロロフェノール、フルオロフェノール、ジメチルフェノール、スチレン化フェノール、メチルサリチラート、4-ヒドロキシ安息香酸メチル、4-ヒドロキシ安息香酸ベンジル、ヒドロキシ安息香酸2-エチルヘキシル、4-[(ジメチルアミノ)メチル]フェノール、4-[(ジメチルアミノ)メチル]ノニルフェノール、ビス(4-ヒドロキシフェニル)酢酸、ピリジノール、2-または8-ヒドロキシキノリン、2-クロロ-3-ピリジノール、ピリジン-2-チオールなどが挙げられる。
【0041】
前記活性メチレン系化合物としては、例えば、メルドラム酸、マロン酸ジアルキル(例えば、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジn-ブチル、マロン酸ジ-t-ブチル、マロン酸ジ2-エチルヘキシル、マロン酸メチルn-ブチル、マロン酸エチルn-ブチル、マロン酸メチルs-ブチル、マロン酸エチルs-ブチル、マロン酸メチルt-ブチル、マロン酸エチルt-ブチル、メチルマロン酸ジエチル、マロン酸ジベンジル、マロン酸ジフェニル、マロン酸ベンジルメチル、マロン酸エチルフェニル、マロン酸t-ブチルフェニル、イソプロピリデンマロネートなど)、アセト酢酸アルキル(例えば、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸n-プロピル、アセト酢酸イソプロピル、アセト酢酸n-ブチル、アセト酢酸t-ブチル、アセト酢酸ベンジル、アセト酢酸フェニルなど)、2-アセトアセトキシエチルメタクリレート、アセチルアセトン、シアノ酢酸エチルなどが挙げられる。
【0042】
前記アミン系化合物としては、例えば、ジブチルアミン、ジフェニルアミン、アニリン、N-メチルアニリン、カルバゾール、ビス(2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル)アミン、ジ-n-プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、イソプロピルエチルアミン、2,2,4-、または、2,2,5-トリメチルヘキサメチレンアミン、N-イソプロピルシクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ビス(3,5,5-トリメチルシクロヘキシル)アミン、ピペリジン、2,6-ジメチルピペリジン、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、(ジメチルアミノ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジン、6-メチル-2-ピペリジン、6-アミノカプロン酸などが挙げられる。
【0043】
前記イミン系化合物としては、例えば、エチレンイミン、ポリエチレンイミン、1,4,5,6-テトラヒドロピリミジン、グアニジンなどが挙げられる。
【0044】
前記カルバミン酸系化合物としては、例えば、N-フェニルカルバミン酸フェニルなどが挙げられる。
【0045】
前記尿素系化合物としては、例えば、尿素、チオ尿素、エチレン尿素などが挙げられる。
【0046】
前記酸アミド系(ラクタム系)化合物としては、例えば、アセトアニリド、N-メチルアセトアミド、酢酸アミド、ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム、ピロリドン、2,5-ピペラジンジオン、ラウロラクタムなどが挙げられる。
【0047】
前記酸イミド系化合物としては、例えば、コハク酸イミド、マレイン酸イミド、フタルイミドなどが挙げられる。
【0048】
前記トリアゾール系化合物としては、例えば、1,2,4-トリアゾール、ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0049】
前記ピラゾール系化合物としては、例えば、ピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール、3-メチルピラゾール、4-ベンジル-3,5-ジメチルピラゾール、4-ニトロ-3,5-ジメチルピラゾール、4-ブロモ-3,5-ジメチルピラゾール、3-メチル-5-フェニルピラゾールなどが挙げられる。
【0050】
前記イミダゾール系化合物としては、例えば、イミダゾール、ベンズイミダゾール、2-メチルイミダゾール、4-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-イソプロピルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、4-メチル-2-フェニルイミダゾールなどが挙げられる。
【0051】
前記イミダゾリン系化合物としては、例えば、2-メチルイミダゾリン、2-フェニルイミダゾリンなどが挙げられる。
【0052】
前記メルカプタン系化合物としては、例えば、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、ヘキシルメルカプタンなどが挙げられる。
【0053】
前記重亜硫酸塩としては、例えば、重亜硫酸ソーダなどが挙げられる。
【0054】
さらに前記ブロック剤としては、例えば、ベンゾオキサゾロン、無水イサト酸、テトラブチルホスホニウム・アセタート、フェノール、アルコール、オキシム、ラクタムなどであってもよい。
【0055】
前記ブロック剤は、上記のようなもののなかでもフェノール化合物、オキシム化合物であることが好ましい。
前記ブロック剤は、混合する熱硬化性接着剤の保存温度、熱硬化温度をブロック剤の脱離温度に合わせて選択する。熱硬化性接着剤の常温保存性が高く、ブロック剤の低温脱離で低温熱硬化が可能なフェノール化合物、オキシム化合物が好ましい。またオキシム化合物は被着体(本実施形態においては正極端子20や負極端子30)に良好な濡れ性を発揮したり細部への良好な浸透性を示すことからオキシム化合物が特に望ましい。オキシム化合物の代表例としてメチルエチルケトンオキシムなどがある。
【0056】
該ブロックイソシアネート、前記ポリウレタン及び前記エポキシによって構成される前記エポキシ変性ウレタン樹脂とともに熱硬化性接着剤の接着剤成分を構成する前記フェノキシ樹脂としては、熱硬化性接着剤の硬化物に対して良好な靱性を発揮させる上において、軟化点がある程度低い軟質なものが好適である。
具体的には、前記フェノキシ樹脂は、軟化温度が50℃以上90℃以下であることが好ましい。
前記フェノキシ樹脂の軟化温度は、JIS K 7234「エポキシ樹脂の軟化点試験方法」:1986の環球法によって求められる。
このような軟化温度の低いフェノキシ樹脂は、熱硬化性接着剤の硬化物に対して靱性を発揮させるのに特に有効ではあるものの硬化物の耐熱性を低下させるおそれがある。
しかしながら、本実施形態の熱硬化性接着剤では、このようなフェノキシ樹脂の影響を硬化物に発現させ難くできるため、フェノキシ樹脂の靱性に係る特性とエポキシ変性ポリウレタン樹脂の耐熱性とが両立したものとなる。
【0057】
前記フェノキシ樹脂は、エポキシ基を有するものであってもよい。
前記フェノキシ樹脂は、所定のエポキシ当量を有するビスフェノールA型フェノキシ樹脂であることが好ましい。
前記フェノキシ樹脂は、エポキシ当量が5,000g/eq以上であることにより接着剤層に対してより確実に優れた耐熱性を発揮させ得る。
フェノキシ樹脂のエポキシ当量は、7,000g/eq以上であることがさらに好ましい。
フェノキシ樹脂のエポキシ当量は、通常、30,000g/eq以下である。
該エポキシ当量は、JIS K7236:2001に記載された方法によって求めることができる。
【0058】
前記熱硬化性接着剤は、前記ポリウレタン100質量部に対して前記エポキシを5質量部以上40質量部以下含有することが好ましい。
前記熱硬化性接着剤は、前記ポリウレタン100質量部に対して前記フェノキシ樹脂を15質量部以上60質量部以下含有することが好ましい。
前記エポキシの含有量は、前記ポリウレタン100質量部に対して10質量部以上であることがより好ましく、15質量部以上であることがさらに好ましい。
前記エポキシの含有量は、前記ポリウレタン100質量部に対して30質量部以下であることがより好ましく、25質量部以下であることがさらに好ましい。
前記フェノキシ樹脂の含有量は、前記ポリウレタン100質量部に対して20質量部以上であることがより好ましく、25質量部以上であることがさらに好ましい。
前記フェノキシ樹脂の含有量は、前記ポリウレタン100質量部に対して45質量部以下であることがより好ましく、40質量部以下であることがさらに好ましい。
【0059】
前記熱硬化性接着剤は、前記ポリウレタン、前記エポキシ、及び、前記フェノキシ樹脂の合計量を100質量部とした場合、前記ブロックイソシアネートを2質量部以上10質量部以下の割合で含有することが好ましい。
【0060】
前記熱硬化性接着剤の接着剤成分には、熱硬化性接着剤に優れた凝集力を発揮させるべく、前記エポキシ変性ポリウレタン樹脂などとともに充填剤を含有させてもよい。
前記充填剤としては、有機物や無機物からなる短繊維や粒子などが挙げられる。
なかでも、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、タルク、クレーなどの無機物からなる粒子(無機物フィラー)は、前記熱硬化性接着剤に含有させる充填剤として好適である。
特に熱硬化性接着剤の接着剤成分は、前記エポキシ変性ポリウレタン樹脂などとともに平均粒子径0.5μm以上2μm以下の無機フィラーを含有することが好ましい。
該無機フィラーの平均粒子径は、通常、レーザー回折散乱法によって測定される体積基準の累積粒度分布曲線におけるメジアン値(D50)として求めることができる。
【0061】
これらの充填剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
前記熱硬化性接着剤における該充填剤の含有量は、例えば、エポキシ変性ポリウレタン樹脂100質量部に対して10質量部以上60質量部以下とすることができ、15質量部以上55質量部以下とすることが好ましく、20質量部以上50質量部以下とすることがより好ましい。
【0062】
前記熱硬化性接着剤にフェノキシ樹脂を含有させたことで優れた柔軟性が発揮されるため、第1接着剤層41や第2接着剤層42は、無機フィラーを含有させても優れた耐摩耗性を発揮し得る。
例えば、本実施形態の接着シート40は、第1接着剤層41及び第2接着剤層42の内の少なくとも一方に対してISO6722に準拠したスクレープ摩耗を3往復実施した際に、摩耗粉の発生が見られないことが好ましい。
本実施形態の接着シート40は、第1接着剤層41及び第2接着剤層42の両方に対してスクレープ摩耗試験を実施した際に少なくともスクレーパーが3往復するまでは摩耗粉が発生しないことが好ましい。
該スクレープ摩耗は、例えば、TVAB社の試験機(型名:5420-7N)を用いて実施することができる。
スクレープ摩耗試験に際しては、第1接着剤層41或いは第2接着剤層42(耐摩耗性を評価する側)が外表面側となるように直径5mmの金属棒の外周面に接着シート40を貼り付けたものを試験体とすることができる。
スクレープ摩耗試験では、直径0.45mmのピアノ線を装着したスクレーパーを用い、該ピアノ線が金属棒と直交するようにスクレーパーを前記の試験体に当接させ、該スクレーパーを金属棒の長さ方向に沿って22mmのストローク長、且つ、3m/minの速度で往復動させる。
なお、スクレープ摩耗試験では、前記スクレーパーの先端によって1039gfの荷重が試験体(第1接着剤層41や第2接着剤層42の表面)に加わるようにし、前記スクレーパーの先端(0.45mm×7mmの領域)に3.2MPaの圧力が生じるようにして実施する。
【0063】
前記熱硬化性接着剤は、接着シートを平板状の空間のみならず屈折した空間にも介装され得ることを勘案すると曲げ弾性に優れることが好ましい。
前記熱硬化性接着剤は、第1接着剤層41や第2接着剤層42に対して優れた曲げ弾性を発揮させ得る。
本実施形態の接着シート40は、第1接着面40aが谷折となって第2接着面40bが山折となるように常温(30℃)において90度の折り曲げを実施しても、第1接着面40aが山折となって第2接着面40bが谷折となるように90度の折り曲げを実施しても基材層43から熱硬化性接着剤が剥離しないことが好ましい。
本実施形態の接着シート40は、第1接着面40aを内側に半折(180度折り曲げ)をしても第2接着面40bを内側にして半折(180度折り曲げ)をしても熱硬化性接着剤の剥離が見られないことがさらに好ましい。
【0064】
熱硬化性接着剤に無機フィラーを含有させる場合、無機フィラーと樹脂との親和性を向上させて上記のような耐摩耗性や曲げ弾性を接着剤層に発揮させる上において、前記添加剤としてシランカップリング剤を含有させることが好ましい。
該シランカップリング剤としては、一方の分子末端にアルコキシシランを有し、他方の分子末端にエポキシ基を有するものが好ましく、具体的には、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどが好ましい。
該シランカップリング剤は、無機フィラーの含有量を100質量部とした際に、5質量部以上20質量部以下となる割合で熱硬化性接着剤に含有させることができる。
【0065】
該シランカップリング剤以外に熱硬化性接着剤に含有させることができる前記添加剤としては、例えば、酸化防止剤(ヒンダードフェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系など)、光安定剤(ヒンダードアミン系など)、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系など)、ガス変色安定剤(ヒドラジン系など)、金属不活性剤などが挙げられる。
これらの添加剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】
熱硬化性接着剤に含有させる前記発泡剤成分としては、例えば、加熱されることで反応して気体を発生する化学発泡系の発泡剤や、物理発泡剤を封入したマイクロカプセルなどといった物理発泡系の発泡剤が挙げられる。
化学発泡系の発泡剤としては、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、亜硝酸アンモニウムなどの無機系の発泡剤や、アゾジカルボンアミド(ADCA)、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、ベンゼンスルホニルヒドラジド、4,4’-ジフェニルジスルホニルアジドなどの有機系の発泡剤が挙げられる。
【0067】
物理発泡系の発泡剤としては、種々の熱可塑性樹脂からなるカプセル中に、n-ペンタン、イソペンタン、イソブタン、石油エーテルのような炭化水素やそのハロゲン化物といった物理発泡剤を封入したタイプのものが挙げられる。
物理発泡剤を封入した熱膨張性のマイクロカプセルは、発泡開始温度を制御し易い点において好適である。
【0068】
これらの発泡剤は一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
前記発泡剤成分としては、前記熱膨張性マイクロカプセルを採用することが好ましい。
なかでも、本実施形態の前記熱硬化性接着剤には、発泡開始温度が異なる少なくとも2種類の熱膨張性マイクロカプセルを含有させることが好ましい。
熱膨張性マイクロカプセルによる膨張では、一度最大体積にまで膨張した後に僅かに収縮する傾向を示すが、上記のように少なくとも2種類の熱膨張性マイクロカプセルを含有させることで収縮を抑制することができる。
また、2種類の熱膨張性マイクロカプセルを含有させることは、加熱条件の違いによって接着剤層の発泡状態が大きく異なってしまうことを抑制するのに有効である。
【0069】
前記発泡剤の発泡開始温度は、60℃以上170℃以下であることが好ましく、80℃以上160℃以下であることがより好ましい。
【0070】
前記熱硬化性接着剤における該発泡剤の含有量は、例えば、接着剤成分100質量部に対して8質量部以上60質量部以下とすることができ、10質量部以上55質量部以下とすることが好ましく、20質量部以上45質量部以下とすることがより好ましい。
【0071】
第1接着剤層41と第2接着剤層42とは、同じ熱硬化性接着剤によって構成させても、異なる熱硬化性接着剤によって構成させてもよい。
第1接着剤層41と第2接着剤層42とは、厚さが共通していても異なっていてもよい。
第1接着剤層41及び第2接着剤層42の厚さは、通常、各々5μm以上100μm以下とされ、10μm以上80μm以下とされることが好ましく、20μm以上70μm以下とされることがより好ましい。
【0072】
本実施形態の接着シート40は、正極端子20の表面から負極端子30の表面までの最短距離(以下、「端子ギャップ」ともいう)よりも発泡剤成分による膨張前の厚さが小さく、端子間に介装された状態で加熱されることによって第1接着剤層41及び第2接着剤層42が厚さ方向に膨張して前記第1接着面40a及び前記第2接着面40bのそれぞれを正極端子20と負極端子30とに熱接着させ得るように構成されている。
【0073】
第1接着剤層41及び第2接着剤層42の内の少なくとも一方の接着剤層は、発泡させて熱硬化させた後の状態において、200℃の温度で100時間の加熱処理した際の厚さ減少率が1%以下であることが好ましく、第1接着剤層41及び第2接着剤層42の両方の厚さの減少率が1%以下であることがより好ましい。
【0074】
第1接着剤層41及び第2接着剤層42の内の少なくとも一方の接着剤層を構成する前記熱硬化性接着剤は、前記のように発泡剤成分を除いた成分で2枚の鋼板を非発泡な状態で接着した際に前記鋼板の間に発揮される200℃でのせん断接着力が3.5MPa以上であることが好ましい。
発泡剤成分を除いた接着剤成分だけでの200℃でのせん断接着力は、4.0MPa以上であることがより好ましく4.5MPa以上であることが特に好ましい。
該せん断接着力は、通常、50MPa以下である。
このようなせん断接着力を示す前記熱硬化性接着剤は、第1接着剤層41及び第2接着剤層42の両方の構成材料として用いられることが望ましい。
【0075】
上記のせん断接着力は、恒温槽を備えた引張試験機によって測定することができ、5mm/minの引張速度で測定することができる。
なお、200℃でのせん断接着力を測定するためのテストピースは以下のように作製する。
まず、SPC鋼板によって作製された幅15mm×長さ100mm×厚さ1.0mmの短冊状金属片を2枚用意するとともに発泡剤成分を除いて接着剤成分のみによって作製された10mm×15mmのシート片(厚さ、約50μm)を用意する。
2枚の短冊状金属片を輪郭が揃うように上下に重なり合わせ、この状態から2枚の短冊状金属片を長手方向に相対移動させて重なり合う領域を減少させ、この重なり合う領域の長さが10mmとなった時点で短冊状金属片の位置をそれぞれ固定する。
接着剤成分によって作製されたシート片をこの2枚の短冊状金属片が重なりあっている領域に挟み込んで熱プレスを実施し、2枚の短冊状金属片をシート片によって接着し、これを引張試験用のテストピースとする。
このとき、シート片は、十分に熱硬化した状態とする(例えば、150℃で15分以上加熱する)。
そしてテストピースを200℃に設定された恒温槽に収容し、該恒温槽内に配された引張試験機の上下チャックにそれぞれの短冊状金属片を挟み込む。
この状態でテストピースが200℃の温度になるまで待ってから引張試験を実施し、該引張試験で測定された最大荷重(N)を接着面積(150mm)で除してせん断接着力を求める。
せん断接着力は、通常、複数(例えば、5個)のテストピースに対して測定を行った算術平均値として求める。
【0076】
前記熱硬化性接着剤は、接着剤成分によって上記のような優れたせん断接着力が発揮されることで、発泡剤成分で発泡した状態となっても優れたせん断接着力を発揮し得る。
【0077】
接着シート40に優れた耐熱性を発揮させる上において、第1接着剤層41及び第2接着剤層42の支持体となる前記基材層43は、耐熱樹脂製のフィルム、耐熱樹脂製の繊維シート、或いは、これらの複合体シートによって形成させることが好ましい。
本実施形態の接着シート40は、優れた耐熱性と電気絶縁性とを接着シート40に発揮させる上において、図3に示すような積層構造を有する複合体シートによって形成させることが好ましい。
より詳しくは、本実施形態における前記基材層43は、耐熱性樹脂フィルム431の両面に耐熱性樹脂繊維シート432が接着層433を介して貼り合わされたものとなっており、5層構造を有するものとなっている。
耐熱性樹脂フィルム431としては、例えば、10μm~100μmの厚さを有するポリエチレンナフタレート樹脂フィルムやポリイミド樹脂フィルムであることが好ましい。
前記耐熱性樹脂繊維シート432は、例えば、10μm~100μmの厚さを有する芳香族ポリアミド繊維シートやポリエーテルサルフォン繊維シートであることが好ましい。
なかでも前記耐熱性樹脂繊維シート432としては、アラミドペーパーなどと称される芳香族ポリアミド繊維シートが好適である。
前記接着層433は、例えば、耐熱性に優れたアクリル系接着剤などによって構成させることができる。
前記接着層433は、要すれば、第1接着剤層41及び第2接着剤層42を構成する熱硬化性接着剤から発泡剤を除いた成分によって構成してもよい。
【0078】
該基材層43は、50μm~200μmの総厚さであることが好ましい。
基材層43及び接着剤層(41,42)を含めた接着シート40の総厚さは、100μm~250μmであることが好ましい。
接着シート40は、JIS K6911によって求められる体積抵抗率が1×1012Ω・cm以上であることが好ましく、1×1013Ω・cm以上であることがより好ましい。
なお、接着シート40の体積抵抗率は、通常、1×1017Ω・cm以下である。
【0079】
接着シート40は、JIS C2110-1(短時間(急速昇圧)試験)によって求められる絶縁破壊電圧がAC2kVrms以上であることが好ましく、AC3kVrms以上であることがより好ましい。
なお、接着シート40の絶縁破壊電圧は、通常、AC20kVrms以下である。
【0080】
本実施形態の接着シート40は、正極端子20と負極端子30との間に介装された後に加熱されることによって正極端子20と負極端子30とを接着する機能を発揮する。
本実施形態の接着シート40は、正極端子20と負極端子30との間の平均距離が50μm以上500μm以下である場合において上記のような機能がより確実に発揮され得る。
本実施形態の接着シート40が用いられるのにより好適な正極端子20と負極端子30との間の平均距離は、300μm以上500μm以下である。
なお、正極端子20と負極端子30との間の平均距離は、接着シート40が介装される箇所において少なくとも10箇所で正極端子20の表面から負極端子30の表面までの距離を測定し、得られた測定値を算術平均することにより求めることができる。
正極端子20と負極端子30との接着に際しては、正極端子20、接着シート40、及び、負極端子30を所定の状態にセットしたものを用意し、これを発泡剤の発泡開始温度以上(例えば、180℃以上)の温度に設定されたオーブン中で一定時間保持するなどして加熱すればよい。
【0081】
このとき本実施形態の接着シート40は、第1接着剤層41及び第2接着剤層42が体積膨張することから正極端子20と負極端子30とを高い接着力で接着させることができる。
本実施形態の接着シート40は、第1接着剤層41及び第2接着剤層42が発泡剤にて発泡して体積膨張した後、高温環境(例えば、200℃)においても接着剤層の接着力に低下が生じ難く、しかも、高温環境に長時間(例えば、100時間)さらされてもこれらの接着剤層の厚さが収縮などによって減少し難いため正極端子20と負極端子30との良好な接着状態を長期持続的に発揮させ得る。
【0082】
本実施形態の接着シート40は、第1接着剤層41及び第2接着剤層42が発泡剤にて発泡した後、高温環境下(例えば、200℃)においても優れたせん断接着力を発揮することから、正極端子20と負極端子30との良好な接着が不用意に解除されてしまうことを防止し得る。
【0083】
本実施形態の接着シート40は、前記のように第1接着剤層41及び第2接着剤層42が優れた耐摩耗性と曲げ弾性とを有することから曲折箇所に挿入した際に、第1接着剤層41及び第2接着剤層42に“剥がれ”や“削れ”が発生し難い。
即ち、本実施形態の接着シート40は、熱硬化性接着剤の粉末が発生して必要箇所以外に付着してしまうといった問題が生じ難い。
そのため半導体装置1の端子間の接着のみならず種々の目的で用いられるのに適したものである。
【0084】
接着シート40は、電気絶縁性に優れるため、例えば、インバーターやコンバーターなどの半導体装置において空間絶縁がされている箇所に用いられ得る。
接着シート40は、半導体装置の金属製の筐体の内壁面との間に空間絶縁のためのギャップを設けてプリント回路基板が固定されるような場合、当該プリント回路基板の筐体への接着・固定に有用である。
また、半導体装置が、パワー素子を含むパワーユニットを筐体内に備えているような場合に、前記接着シート40は、当該パワーユニットと筐体との接着にも有効活用できる。
【0085】
接着シート40は、電気絶縁性に優れるため、例えば、インバーターが電源をオン-オフするパワー素子と、パワー素子のオン-オフを制御する制御基板との間に電磁遮蔽用の金属板が配され、パワー素子が発するノイズによって前記金属板に誘導電位が生じ、該誘導電位が規定値を超えた場合に金属板から金属製の筐体に放電して該筐体を通じてグランドへと誘導し得るように構成されている場合に、前記金属板と前記筐体との間の放電距離を一定に保つべくこれらの間に介装される絶縁体の代わりに用いられ得る。
接着シート40は、膨張力を利用してこれ等を接着することができ、金属板と筐体とを強固に固定することができる。
しかも、接着シート40は、高温状況下でも優れた接着性を発揮して金属板と筐体とを強固に固定することができる。
このように接着シート40を利用することで、部材どうしの固定に螺子などの締結具を用いることを省略できるため、筐体内における有効スペースの増大を図ることができる。
【0086】
以上のように本発明の接着シートは各種の用途に用いられ得る。
本実施形態においては、正極端子20と負極端子30との間に確実な絶縁信頼性を確保する上において積層構造を有する基材層43を備えた接着シート40を例示しているが、基材層43は単一構造のものであってもよい。
また、本実施形態においては、接着シートの好適な態様として積層構造を有する接着シート40を例示しているが、本発明の接着シートは、熱硬化性接着剤によって形成された単層構造のものであってもよい。
【0087】
ここでは詳細な説明を省略するが、本発明の接着シートには、本発明の効果が著しく損なわれない範囲において種々の変更を加え得る。
即ち、本発明の接着シートは、上記例示に何等限定されるものではない。
【実施例
【0088】
(基準配合)
基準配合の熱硬化性接着剤として、
(a)2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸(DMPA)を含む複数のポリオールと4,4’-メチレンビス(フェニレンイソシアネート)(MDI)とを反応させたポリウレタンと、(b)ビスフェノール型エポキシと、(c)イソシアネート(トルエン-2,4-ジイソシアネート、トルエン-2,6-ジイソシアネート、及び、4,4’-メチレンビス(フェニレンイソシアネート)の混合物)と、(d)フェノキシ樹脂と、を含む熱硬化性接着剤を用意した。
【0089】
(参考配合)
上記の基準配合とは別にフェノキシ樹脂を含まない熱硬化性接着剤を用意した。
即ち、上記の(a)~(c)だけで構成されている参考配合にて熱硬化性接着剤を調製した。
【0090】
(変量配合)
基準配合に対して(c)イソシアネートだけを減量した変量配合にて熱硬化性接着剤を調製した。
具体的には、基準配合に対して、(c)イソシアネートの量を、0.95倍、0.9倍、0.85倍、0.80倍、0.75倍、0.7倍と徐々に減少させたものを用意した。
【0091】
(評価)
基準配合、参考配合、及び、変量配合の熱硬化性接着剤を170℃30分の加熱条件で硬化させた硬化物について動的粘弾性スペクトル(温度-損失正接)の測定と熱重量示差熱分析(TG/DTA)とを実施した。
【0092】
図4図17に、動的粘弾性スペクトル(温度-損失正接)の測定結果と、熱重量示差熱分析(TG/DTA)の測定結果を示す。
このうち、図11(参考配合)と図12(基準配合)との対比からもわかるように、熱硬化性接着剤のTG/DTAでは、350℃付近での質量減少と530℃付近での質量減少との2段階での大きな質量減少が観測され、参考配合に比べ、フェノキシ樹脂を含む熱硬化性接着剤では、第1の質量減少のタイミングが4℃程度早く、第2の質量減少のタイミングが12℃程度早くなっている。
また、図4(参考配合)と図5(基準配合)との対比からもわかるように、フェノキシ樹脂を含む熱硬化性接着剤の測定結果が示された図5では、130℃付近にピークが認められ、フェノキシ樹脂の軟化に由来すると見られるピークが存在する。
ここで、イソシアネートを変量させた場合の図(図6-10、図13-17)からも明らかなように、イソシアネートを減量するとフェノキシ樹脂の軟化に由来すると見られるピークが消失するとともにTG/DTAの質量減少のタイミングが参考配合と同等の状態に回復する。
【0093】
以上のようなことから、本発明によればエポキシ変性ポリウレタン樹脂の耐熱性とフェノキシ樹脂の靱性との両方の特長を併せ持つ熱硬化性接着剤が提供され得ることがわかる。
【符号の説明】
【0094】
10:半導体素子、20:正極端子、30:負極端子、40:接着シート、40a:第1接着面、40b:第2接着面、41:第1接着剤層、42:第2接着剤層、43:基材層
図1
図2
図3
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図10
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