IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ センクシア株式会社の特許一覧

特許7256035梁補強金具を用いた梁補強構造および梁補強方法
<>
  • 特許-梁補強金具を用いた梁補強構造および梁補強方法 図1
  • 特許-梁補強金具を用いた梁補強構造および梁補強方法 図2
  • 特許-梁補強金具を用いた梁補強構造および梁補強方法 図3
  • 特許-梁補強金具を用いた梁補強構造および梁補強方法 図4
  • 特許-梁補強金具を用いた梁補強構造および梁補強方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】梁補強金具を用いた梁補強構造および梁補強方法
(51)【国際特許分類】
   E04C 3/08 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
E04C3/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019038474
(22)【出願日】2019-03-04
(65)【公開番号】P2020143431
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】316001674
【氏名又は名称】センクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】望月 久智
(72)【発明者】
【氏名】冨田 拓
(72)【発明者】
【氏名】林 郁実
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-081431(JP,A)
【文献】特開2016-211365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 3/00 - 3/46
E04B 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
梁補強金具を用いた梁補強構造であって、
ウェブに貫通孔が形成された梁と、
前記貫通孔の周囲または縁部であって、梁の長手方向に垂直な上下方向に対向して固定される一対の第1の梁補強金具と、
前記第1の梁補強金具の上下のそれぞれの梁のフランジ近傍に固定される一対の第2の梁補強金具と、
を具備し、
前記第1の梁補強金具と前記第2の梁補強金具は、筒状の梁補強金具素材が周方向に分断されて形成されることを特徴とする梁補強構造。
【請求項2】
前記第2の梁補強金具の長さは、前記第1の梁補強金具の長さ以下であることを特徴とする請求項1記載の梁補強構造。
【請求項3】
梁補強金具を用いた梁補強方法であって、
筒状の梁補強金具素材を周方向に分断して、少なくとも一対の第1の梁補強金具と一対の第2の梁補強金具を形成し、
梁のウェブに形成された貫通孔の周囲または縁部であって、梁の長手方向に垂直な上下方向に対向して一対の前記第1の梁補強金具を固定するとともに、前記第1の梁補強金具の上下のそれぞれの梁のフランジ近傍に一対の前記第2の梁補強金具を固定することを特徴とする梁補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築構造物を構成し、貫通孔を有する梁を補強するための梁補強金具を用いた梁補強構造、梁補強方法および梁補強金具の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築構造物の梁には配管や配線を通すために貫通孔が形成されることがある。この場合、貫通孔により、梁の曲げ耐力が低下する。この梁の曲げ耐力低下を防ぐため梁に梁補強金具を接合し、梁の補強を行っている。
【0003】
このような梁補強金具としては、例えば、リング状の部材であって、梁に形成された貫通孔に接合する梁補強金具がある(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-167615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のようなリング状の梁補強金具のみで梁の曲げ耐力を確保しようとすると、大型の梁補強金具が必要となる場合がある。梁補強金具が大型化すると、重量増をまねくため、取扱い性が悪くなる。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、効率よく梁を補強することが可能な梁補強構造、梁補強方法および梁補強金具の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、梁補強金具を用いた梁補強構造であって、ウェブに貫通孔が形成された梁と、前記貫通孔の周囲または縁部であって、梁の長手方向に垂直な上下方向に対向して固定される一対の第1の梁補強金具と、前記第1の梁補強金具の上下のそれぞれの梁のフランジ近傍に固定される一対の第2の梁補強金具と、を具備し、前記第1の梁補強金具と前記第2の梁補強金具は、筒状の梁補強金具素材が周方向に分断されて形成されることを特徴とする梁補強構造である。
【0008】
前記第2の梁補強金具の長さは、前記第1の梁補強金具の長さ以下であることが望ましい。
【0009】
第1の発明によれば、貫通孔によって最も強度の低くなる部位を効率良く補強するため、大型の梁補強金具が不要である。より詳細には、梁の長手方向に垂直な断面の断面積が最も小さくなる貫通孔の中心の上下に第1の梁補強金具と第2の梁補強金具とを併用して補強するため、従来のリング状梁補強金具のみによる補強と比較して効率よく補強することができ、梁補強金具の総重量を軽量化することができる。また、第1の梁補強金具と第2の梁補強金具とは、筒状の梁補強金具素材が周方向に分断されて形成されるため、製造性が良い。
【0010】
なお、第1の発明の梁補強構造では、貫通孔の周囲または縁部の梁補強金具によって補強されない部位(筒状の梁補強金具素材から第2の梁補強金具を切り出した欠損部に対応する部位)が弱部となり得るが、第2の梁補強金具の長さと第1の梁補強金具の長さとを適切に設定することで、梁にかかる曲げ応力をこれらの弱部にバランス良く分散させることができる。例えば、第2の梁補強金具の長さを第1の梁補強金具の長さ以下とすることで、補強効果と応力の分散効果を効率良く両立させることができる。
【0011】
第2の発明は、梁補強金具を用いた梁補強方法であって、筒状の梁補強金具素材を周方向に分断して、少なくとも一対の第1の梁補強金具と一対の第2の梁補強金具を形成し、梁のウェブに形成された貫通孔の周囲または縁部であって、梁の長手方向に垂直な上下方向に対向して一対の前記第1の梁補強金具を固定するとともに、前記第1の梁補強金具の上下のそれぞれの梁のフランジ近傍に一対の前記第2の梁補強金具を固定することを特徴とする梁補強方法である。
【0013】
第2の発明によれば、筒状の梁補強金具素材を周方向に分断して第1の梁補強金具および第2の梁補強金具を形成することで、梁補強金具の製造性を向上させることができる。また、貫通孔の周囲または縁部のうち最も補強が必要な部位を、第1の梁補強金具と第2の梁補強金具とを併用して効率良く補強することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、効率よく梁を補強することが可能な梁補強構造、梁補強方法および梁補強金具の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】梁補強金具1を示す斜視図。
図2】梁補強金具素材7の平面図。
図3】梁補強構造10を示す斜視図であり、(a)は背面側を示す図、(b)は正面側を示す図。
図4】(a)は梁補強構造10を示す正面図、(b)は(a)のA-A線断面図。
図5】梁補強金具1の他の固定構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施形態にかかる梁補強金具1を示す斜視図である。梁補強金具1は、例えば鋼材やステンレス鋼などの金属製の部材であり、一対の梁補強金具1a(第1の梁補強金具)、一対の梁補強金具1b(第2の梁補強金具)からなる。梁補強金具1は、ウェブに貫通孔が形成された梁を補強するための部材である。
【0020】
梁補強金具1aは、円弧状の本体部3aおよびフランジ部5aから構成される。梁補強金具1bは、円弧状の本体部3bおよびフランジ部5bから構成される。フランジ部5a、5bは、本体部3a、3bの軸方向の一方の側に配置される。本体部3a、3b及びフランジ部5a、5bの内径は略同一であり、内周面には凹凸は形成されない。フランジ部5a、5bは本体部3a、3bに対して外径が大きい。
【0021】
次に、梁補強金具1の製造方法について説明する。図2は、梁補強金具素材7の平面図である。梁補強金具素材7は筒状の部材であり、図1に示す本体部3a、3bとフランジ部5a、5bとが一体で製造される。梁補強金具素材7の内径は、配管等が貫通する配管孔の外径と略同一とする。
【0022】
梁補強金具1は、梁補強金具素材7を周方向に分断することにより製造される。梁補強金具素材7は周方向に4つに分断され、うち2つが梁補強金具1a、残り2つが梁補強金具1bとなる。すなわち、梁補強金具素材7を周方向に分断して、一対の梁補強金具1aと一対の梁補強金具1bとが形成される。
【0023】
このとき、梁補強金具1bの円弧部の長さが、梁補強金具1aの円弧部の長さ以下であることが望ましい。特に、一対の梁補強金具1bの円弧部の長さXの和が、梁補強金具素材7の全周の長さの1/10~1/2であることが望ましい。
【0024】
次に、梁補強金具1を用いた梁補強構造10について説明する。図3(a)は、梁補強構造10をウェブ15の背面15b側から見た斜視図であり、図3(b)は、梁補強構造10をウェブ15の正面15a側から見た斜視図である。また、図4(a)は、梁補強構造10の正面図であり、図4(b)は、図4(a)のA-A線断面図である。
【0025】
梁11は、ウェブ15の上下にフランジ13を有するH鋼である。ウェブ15には、配管等を通すための貫通孔17が形成される。貫通孔17が形成されると、貫通孔17の周囲または縁部であって、梁11の長手方向に垂直な上下方向の部位の曲げ耐力が最も低下する。梁補強構造10は、梁補強金具1を用いてこの部分を補強するものである。
【0026】
梁補強金具1のうち一対の梁補強金具1aは、貫通孔17の周囲または縁部であって、梁11の長手方向に垂直な上下方向に対向して固定される。梁補強金具1aは、本体部3aが貫通孔17に挿入され、フランジ部5aが貫通孔17の縁部近傍のウェブ15の正面15a側に接触する。これにより、貫通孔17の縁にバリがある場合にも、梁補強金具1aで隠すことができる。
【0027】
梁補強金具1aは、ウェブ15に対して溶接によって接合される。本実施形態では、フランジ部5aの外周側の円弧部が、ウェブ15に対して全長にわたって溶接される。すなわち、溶接部19aは、フランジ部5aの外周側の円弧部とウェブ15の正面15aとの間に形成される。
【0028】
梁補強金具1のうち一対の梁補強金具1bは、上側の梁補強金具1aの上方のフランジ13の近傍と、下側の梁補強金具1aの下方のフランジ13の近傍に固定される。梁補強金具1bは、貫通孔17側が円弧の凹側となるように配置される。梁補強金具1bは、フランジ部5bがウェブ15の正面15aに接触し、本体部3bが貫通孔17と反対方向に突出する。すなわち梁補強金具1aの本体部3aと梁補強金具1bの本体部3bが逆向きに配置される。
【0029】
梁補強金具1bは、ウェブ15に対して溶接によって接合される。本実施形態では、フランジ部5bの内周側の円弧部と両側部が、ウェブ15に対して全長にわたって溶接される。すなわち、溶接部19bは、フランジ部5bの内周側の円弧部および両側部とウェブ15の正面15aとの間に形成される。なお、フランジ部5bとフランジ13の間も溶接してもよい。
【0030】
次に、梁補強金具1を用いた梁補強方法(梁補強構造10の施工方法)について説明する。まず、図2に示す筒状の梁補強金具素材7を周方向に分断して、一対の梁補強金具1a、一対の梁補強金具1bを形成する。
【0031】
次に、梁11をウェブ15の正面15a側が上になるように地面に仮置きし、梁補強金具1aの本体部3aを、梁11のウェブ15の正面15a側から貫通孔17に挿入する。この際、梁補強金具1aのフランジ部5aは、梁11に設けられた貫通孔17よりも大きな外径を有している。また、本体部3aは、梁11に設けられた貫通孔17の径よりも小さい外径を有している。このため、本体部3aの外周を貫通孔17に沿わせて挿入すると、フランジ部5aをウェブ15に接触させることができる。すなわち、フランジ部5aは梁補強金具1aを貫通孔17に挿入する際、軸方向の位置決めに使われる。
【0032】
梁補強金具1aの位置が決まった後、図示しないクランプによって梁補強金具1aをウェブ15に仮固定する。そして、ウェブ15の正面15a側からフランジ部5aの外周側の円弧部とウェブ15の正面15aとの間に溶接部19aを形成して、梁補強金具1aをウェブ15に固定する。溶接は例えば被覆アーク溶接で行われる。
【0033】
次に、梁補強金具1bのフランジ部5bを、梁補強金具1aの上下のフランジ13の近傍のウェブ15の正面15a側に接触させて位置決めをし、ウェブ15の正面15a側からフランジ部5bの内周側の円弧部および両側部とウェブ15の正面15aとの間に溶接部19bを形成して、梁補強金具1bをウェブ15に固定する。
【0034】
なお、梁補強金具1aは、ウェブ15の正面15a側からではなく、背面15b側から溶接してもよい。図5は、梁補強金具1の他の固定構造を示す図である。この場合には、まず、梁11をウェブ15の背面15bが上になるように地面に仮置きし、梁11のウェブ15の背面15b側から貫通孔に梁補強金具1aを挿入し、フランジ部5aをウェブ15に接触させて位置決めする。そして、ウェブ15の背面15b側から本体部3aの外周側の円弧部とウェブ15との間に溶接部19aを形成して、梁補強金具1aをウェブ15に固定する。
【0035】
また、梁補強金具1bのフランジ部5bを、梁補強金具1aの上下のフランジ13の近傍のウェブ15の背面15b側に接触させて位置決めをする。そして、ウェブ15の背面15b側からフランジ部5bの内周側の円弧部および両側部とウェブ15の背面15bとの間に溶接部19bを形成して、梁補強金具1bをウェブ15に固定する。
【0036】
梁補強金具1aは、図5に示すように本体部3aの外周面をテーパ形状としてもよい。例えば、本体部3aの外周部に、フランジ部5a側から先端側に向かって徐々に外径が小さくなるようにテーパ形状を形成することで、溶接の際の開先として使用することができる。この場合、溶接部19aは、本体部3aと貫通孔17の内面との間に形成される。
【0037】
なお、図4図5に示す例では、梁補強金具1a、1bをウェブ15の同じ側から溶接したが、一方をウェブ15の正面15a側から溶接し他方を背面15b側から溶接してもよい。但し、同じ側から溶接すれば、梁11を反転させずに梁補強金具1を溶接できるので作業しやすい。図4図5に示す例では、梁補強金具1bのフランジ部5bをウェブ15に接触させたが、本体部3bをウェブ15に接触させてもよい。
【0038】
以上により、梁補強構造10を得ることができる。梁補強金具1によって、梁11の貫通孔17の近傍における曲げ耐力を向上させることができる。
【0039】
以上、本実施の形態によれば、梁補強金具1aおよび梁補強金具1bを、筒状の梁補強金具素材7を周方向に分断して形成するため、製造性が良い。また、貫通孔17を設けたことにより最も補強が必要となる部位を梁補強金具1aと梁補強金具1bとを併用して補強するため、従来のリング状梁補強金具のみによる補強と比較して、効率よく補強することができ、梁補強金具1の総重量を軽量化することができる。
【0040】
本実施の形態によれば、貫通孔17の周囲または縁部のうち梁補強金具素材7から梁補強金具1bを切り出した欠損部に対応する部位が弱部になり得るが、梁補強金具1bの長さを梁補強金具1aに対して適切に設定することにより、梁にかかる曲げ応力をこれらの弱部にバランス良く分散させることができる。
【0041】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0042】
例えば、本実施形態では第1、第2の梁補強金具を本体部とフランジ部とで構成したが、フランジ部を設けなくてもよい。すなわち第1、第2の梁補強金具を本体部のみで構成してもよい。この場合、筒状の梁補強金具素材を周方向に分断するとともに軸方向にも分断することにより、1つの梁補強金具素材から一対以上の第1の梁補強金具および一対以上の第2の梁補強金具を製造できる。
【0043】
また、梁補強金具素材は円筒状に限らない。貫通孔が角形である場合、角筒状の梁補強金具素材を分割して一対の第1の梁補強金具と一対の第2の梁補強金具を形成してもよい。
【符号の説明】
【0044】
1、1a、1b………梁補強金具
3a、3b………本体部
5a、5b………フランジ部
7………梁補強金具素材
9………切断部
10………梁補強構造
11………梁
13………フランジ
15………ウェブ
15a………正面
15b………背面
17………貫通孔
19a、19b………溶接部
図1
図2
図3
図4
図5