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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】隔膜部材
(51)【国際特許分類】
   C25D 17/00 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
C25D17/00 H
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019052952
(22)【出願日】2019-03-20
(65)【公開番号】P2020152960
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】503442592
【氏名又は名称】株式会社ユアサメンブレンシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 憲一
(72)【発明者】
【氏名】小久保 樹
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】実開昭54-023138(JP,U)
【文献】実開昭63-007170(JP,U)
【文献】実開平01-141765(JP,U)
【文献】実開平06-006829(JP,U)
【文献】特開2018-024928(JP,A)
【文献】国際公開第2004/108995(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/031591(WO,A1)
【文献】米国特許第05312533(US,A)
【文献】米国特許第05744013(US,A)
【文献】中国特許出願公開第104562162(CN,A)
【文献】中国実用新案第208055494(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 9/00 - 9/77
C25C 7/00 - 7/08
C25D 1/00 - 21/00
C25F 7/00 - 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極を収容し、引き上げ時にかかる水圧による応力を変形により吸収することができる可撓性樹脂で構成された可撓性を有するケース体と、
前記電極を収容する収容口を有して、前記ケース体に着脱自在に取り付けられる隔膜と、
前記隔膜の収容口側以外の三辺を前記ケース体に支持する枠体と、を備える
隔膜部材。
【請求項2】
前記ケース体の前記隔膜を取り付ける取付部は、前記ケース体の壁部が折り返された折返構造を有し、
前記折り返された部分の壁部は、前記電極を収容する電極収容空間まで延在する請求項1に記載の隔膜部材。
【請求項3】
前記電極収容空間まで延在する壁部には、前記電極の方向に突出する突起が設けられている請求項2に記載の隔膜部材。
【請求項4】
前記折返構造の2つの側面を長手方向につなぐ側面の端部には、前記側面の長手方向に沿って点線状の凹部が設けられている請求項2又は3に記載の隔膜部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解めっき装置に使用する隔膜部材に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント基板や半導体ウエハ基板等の表面に配線等の形成する技術として電解めっきが知られている。
これら電解めっきには、例えば、「電極を収容するケース体と、当該ケース体の前面側開口部に着脱自在に取り付けられる保護フレームとの間に隔膜が挟装された電着塗装用隔膜セルにおいて、前記ケース体の前面側開口部の側縁に沿って突設されたフランジ部と、当該フランジ部に対して着脱自在に重着されるフランジ枠単体との間に隔膜が挟持され、前記保護フレームが前記フランジ枠単体を介して前記ケース体に取り付けられる電着塗装用隔膜セルが開示されている(特許文献1の実用新案登録請求の範囲)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実願昭61-98876(実開昭63-7170)のマイクロフィルム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の隔膜部材は、「隔膜に水張強度を保持させるために頑丈な構造にすることが要求され」、大重量のものが多い(第2頁第8~10)。したがって、当該隔膜部材を電解めっき液から回収するにはクレーン等の回収装置が必要となる。
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、軽量で扱いやすく、かつ、ケース体、隔膜等の損傷の少ない隔膜部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明の隔膜部材は、電極を収容する可撓性を有するケース体と、前記電極を収容する収容口を有して、前記ケース体に着脱自在に取り付けられる隔膜と、前記隔膜の収容口側以外の三辺を前記ケース体に支持する枠体と、を備える。
【0006】
この構成によればケース体が可撓性を有するから、引き上げ時にかかる水圧による応力を変形により吸収することができるので、従来よりもヒビが生じにくい。よって、ケース体の板厚を薄くでき、重量が小さくできる。
【0007】
前記ケース体の前記隔膜を取り付ける取付部は、前記ケース体の壁部が折り返された折返構造を有し、前記折り返された部分の壁部は、前記電極を収容する収容空間まで延在していてもよい。
【0008】
この構成によれば、ケース体の背面に連なる部分(図3における折返構造の上側の側面)の端部からヒビが生じても、隔膜に接する部分(図2における折返構造の下側の側面)にはヒビが生じにくく、この部分でケース体と隔膜とを固定し、電極収容空間を維持することができる。
【0009】
前記折返構造の前記収容空間まで延在する壁部には、前記電極の方向に突出する突起が設けられていてもよい。
【0010】
この構成によれば、水圧の内外差による応力が発生しても、前記突起が前記の応力を吸収することによって、延在する壁部の先端部の移動を抑制することができるので、隔膜の損傷を防止する効果がある。
【0011】
前記折返構造の2つの側面を長手方向につなぐ側面の端部には、前記側面の長手方向に沿って点線状の凹部が設けられていてもよい。
【0012】
この構成によれば、背面に連なる側面側の端部にヒビが入っても、点線に沿ってそのヒビを長手方向に伝播させることによって、隔膜に近い側面側の端部までヒビが伝播することを抑制できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、軽量で扱いやすくかつ、ケース体、隔膜等の損傷の少ない隔膜部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第一の実施形態に係る隔膜部材の分解斜視図
図2】本発明の第二の実施形態に係る隔膜部材の分解斜視図
図3】本発明の第二の実施形態に係る隔膜部材の横断面図
図4】本発明の第三の実施形態に係る隔膜部材の横断面図
図5】本発明の第四の実施形態に係る折返構造の側面の端部を示す図
図6】本発明の他の実施形態に係る隔膜部材の横断面図
図7】従来の隔膜部材の応力印加の説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第一の実施形態に係る隔膜部材を図1に示す。
第一の実施形態に係る隔膜部材は、可撓性を有するケース体と、電極を収容する収容口を有して、ケース体に着脱自在に取り付けられた隔膜と、前記隔膜の収容口側以外の三辺を前記ケース体に支持する枠体とを備え、収容口が開口した電極収容空間を形成している。
前記隔膜は、枠体を用いて、取付部にボルト締めすることにより取り付けることができる。
本発明において、「可撓性を有するケース体」とは、鉄等の金属以外の材料であって、弾性変形する材料で構成されたものをいう。より好ましくは可撓性樹脂ケースである。
【0016】
従来の隔膜部材は、機械的強度を高めるために、ケース体に用いる材料は剛性の高い金属又は硬質プラスチック等である。このような材料では隔膜部材を電解槽から回収する際、図7に示す矢印方向に水圧が加わり、ケース体の隔膜を取り付けた部分の端部からヒビが入りやすい。このヒビがボルト孔まで達すると、ケース体が隔膜から外れ、ケース体が中の電極とともにめっき液中へ落下する恐れがある。したがって、ケース体の強度を増すために板厚が大きくなり、重量が大きく扱いにくいものになる。
これに対して、図1に示す本発明の第一の実施形態に係る隔膜部材では、ケース体が可撓性であるから、前記水圧による応力を変形により吸収することができるので、従来よりもヒビが生じにくい。よってケース体の板厚を薄くでき、重量が小さくできる。
【0017】
図2は、本発明の第二の実施形態に係る隔膜部材の分解斜視図を示す。
この実施形態では、前記ケース体の前記隔膜を取り付ける取付部は、前記ケース体の壁部が折り返された折返構造を有し、前記折り返された部分の壁部は、前記の電極収容空間まで延在している。前記折返構造は、2つの側面とその2つの側面を長手方向につなぐ側面の端部を備えていることが好ましい。
第二の実施形態によると、ケース体の取付部が、折返構造により二重構造になっているので、背面に連なる部分(図3における折返構造の上側の側面)の端部からヒビが生じても、隔膜に近い部分(図3における折返構造の下側の側面)にはヒビが生じにくく、この部分でケース体と隔膜とを固定し、電極収容空間を維持することができる。したがって、ケース体が隔膜から外れ、該ケース体と中の電極がめっき液中へ落下するという事故を防止することができる。
さらに、前記折返構造の電極収容空間まで延在する壁部の部分は、電極の支持部としても機能するから、より落下の危険を抑えることができる。
【0018】
図4は、本発明の第三の実施形態に係る隔膜部材の横断面図を示す。
この実施形態では、前記折返構造の電極収容空間まで延在する壁部に、電極方向に突出する突起が設けられている。
前記延在する壁部の先端部は固定されておらず、可撓性であるので、水圧の内外差による応力に応じて隔膜とこすれ合うように移動し、隔膜を傷つけてしまう恐れがある。
この実施形態における前記突起は、前記の応力を吸収することによって、延在する壁部の先端部の移動を抑制することができるので、隔膜の損傷を防止する効果がある。
【0019】
図5は、本発明の第四の実施形態に係る隔膜部材において、ケース体の折返構造の側面の端部を図3のA’-A方向から見た図である。上側が背面に連なる側面側であり、下側が隔膜に近い側面側である。前述のとおり、ケース体の背面に連なる側面側の端部にはヒビが入りやすいため、長期の使用に伴って、前記のヒビが背面に連なる側面側の端部から、隔膜に近い側面側の端部まで連続してしまう恐れがある。
そこで、この実施形態においては、前記折返構造の側面の端部に、長手方向に沿って点線状の凹部が設けられている。
この点線状の凹部によって、背面に連なる側面側の端部にヒビが入っても、点線に沿ってそのヒビを長手方向に伝播させることによって、隔膜に近い側面側の端部までヒビが伝播することを抑制できる。したがって、隔膜取り付けの確実性をより高めることができる。
【0020】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されず、公知技術に基づく変更又は付加をされた実施形態を含むことは勿論である。
例えば、ケース体と隔膜の取付部は、図3に示すように1枚の枠体を介してボルト締めされてもよいし、図4に示すように2枚の枠体で挟んでボルト締めされてもよい。さらに、図6に示すように3枚の枠体を用いてボルト締めされてもよい。
また、図示はしていないが、隔膜の高さをケース体の高さより低い位置までとし、隔膜全体がめっき液に浸された状態で電解めっきを行うことにより、めっき液面上での析出物の発生を防止することもできる。
【0021】
ケース体に用いる可撓性樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)等を用いることができる。
ケース体は、真空成形や圧空成形で成形されることが好ましい。収容する電極構造に合わせてブリスター成形することがより好ましい。成形品の厚みは0.3mm~2.0mmが好ましく、0.4mm~1.0mmがより好ましく、隔膜部材の軽量化、薄型化、いわゆるソフトケース化が可能となる。
【実施例
【0022】
以下、本発明の実施例を示す。
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)製の不織布よりなる基材にポリフッ化ビニリデン樹脂よりなる膜材をコーティングした微多孔膜(隔膜)を作製した。
可撓性を有するポリ塩化ビニル樹脂(PVC)を、電極の形状に合わせた電極収容空間と、前記電極収容空間から延在する取付部とを有するように真空成形(ブリスター成形)してケース体を作製した。
ステンレス材を用いて、枠体を作製した。
前記枠体と前記取付部の間に前記隔膜を挟み、ボルト締めにより固定し、実施例1に係る隔膜部材を作製した。
【0023】
(実施例2)
前記取付部を折返構造とし、折り返された部分の壁部を前記電極収容空間まで延在させてケース体を作製した以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る隔膜部材を作製した。
【0024】
(実施例3)
前記ケース体の電極収容空間まで延在する壁部に、電極方向に向かって約1mm突出する突起を形成した以外は、実施例2と同様にして実施例3に係る隔膜部材を作製した。
【0025】
(比較例)
ケース体を硬質プラスチックとした以外は、実施例1と同様にして比較例に係る隔膜部材を作製した。
【0026】
実施例1~3に係る隔膜部材は、いずれも比較例より耐久性が優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明に係る隔膜部材は、軽量化が可能であり、かつ、ケース体と隔膜とを確実に取り付けることができるので、めっき液中へのケース体や電極の落下を抑制することができる。また、隔膜の損傷を抑制することができる。したがって、プリント基板や半導体ウエハへの配線形成をはじめ、あらゆる電解めっきに用いることができる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7