(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/36 20110101AFI20230404BHJP
【FI】
B60R21/36 354
B60R21/36 320
(21)【出願番号】P 2019066276
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-111375(JP,A)
【文献】特開平03-050054(JP,A)
【文献】特開平05-024499(JP,A)
【文献】特開2004-338554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/00-21/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の外側に展開して膨張するエアバッグと、前記エアバッグの内部に膨張ガスを供給するインフレータとを備えたエアバッグ装置において、
前記エアバッグの内部には、
前記インフレータから供給される前記膨張ガスの熱により
収縮する変形部材を備えた、
ことを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
前記変形部材は、
前記エアバッグの内壁に連結されている、
ことを特徴とする請求項
1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記変形部材は、
前記エアバッグの前端部の内壁に連結されている、
ことを特徴とする請求項1
または2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記変形部材は、
車両への衝突を保護する保護対象者が接触しやすい前記エアバッグの保護接触部であって、当該保護接触部の内壁に連結されている、
ことを特徴とする請求項1
または2に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記変形部材は、
紐状に形成され、一端が前記エアバッグの内壁に連結されている、
ことを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載のエアバッグ装置。
【請求項6】
前記変形部材は、
前記膨張ガスを前記エアバッグの内部に供給するための供給口の近傍に配置されている、
ことを特徴とする請求項
1に記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前面側に展開するエアバッグ装置であって、特に、歩行者や二輪車の乗員(以下「歩行者等」という)を保護するためのエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、歩行者等が車両に衝突した際には、車両のフロントピラーの前面側にエアバッグを展開させて膨張させたり(例えば、特許文献1参照)、バンパの前面側にエアバッグを展開させて膨張させたりして(例えば、特許文献2参照)、歩行者等を保護するエアバッグ装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-235007号公報
【文献】特開2012-229014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、歩行者等を保護するエアバッグ装置においては、歩行者等は車両に乗車している乗員よりも一般的に大きな衝撃を受けやすいことから、歩行者等が車両に衝突する際の衝撃吸収をより効率的に行うことが望まれていた。
【0005】
特に、自転車を含む二輪車の乗員が車両に衝突する場合には、二輪車と車両との相対速度も速く、互いに危険を察知する時間が少ないことから、十分な回避行動ができないまま衝突してしまう虞があり、二輪車の乗員が車両に衝突する際の衝撃力は大きくなり、歩行者等の傷害低減を図ることが求められている。
【0006】
そこで、大きな衝撃力を吸収するために、車両前面に大きなエアバッグ装置を設けることが考えられる。
しかし、エアバッグの袋体を大きくすると、衝撃吸収能力は向上するが、歩行者等とエアバッグの接触による袋体が、内部のガスを中心とした無限軌道のように回転し、歩行者等を車両に対し滑らせる可能性がある。
この場合、歩行者等と車両の相対変位をエアバッグが吸収しきれず、車両から跳ね落とされ、歩行者等と路面などとの二次衝突を引き起こすことになる。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、歩行者等が車両に衝突する際のエアバッグによる滑りを抑止すると共に、衝撃吸収自体をより効率的に行うことができるエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、車両の外側に展開して膨張するエアバッグと、前記エアバッグの内部に膨張ガスを供給するインフレータとを備えたエアバッグ装置において、前記エアバッグの内部には、前記インフレータから供給される前記膨張ガスの熱により変形する変形部材を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、歩行者等を保護するエアバッグ装置において、歩行者等が車両に衝突する際のエアバッグによる滑りを抑止すると共に、衝撃吸収自体をより効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のエアバッグ装置を備えた車両の斜視図である。
【
図2】本発明のエアバッグ装置におけるエアバッグが展開しているときの車両の側面図である。
【
図3】実施形態1のエアバッグを示す説明図である。
【
図4】実施形態2のエアバッグを示す説明図である。
【
図5】保護対象者がエアバッグに衝突したときのエアバッグの変形遷移を示す模式図である。
【
図6】実施形態1~4の変形例のエアバッグ装置を備えた車両の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、車両の前面側に展開するエアバッグ装置であって、車両への衝突を保護する保護対象者である歩行者等に対して傷害低減を図るためのエアバッグ装置である。
以下、本発明の実施形態のエアバッグ装置を、
図1~
図6に基づいて説明する。
【0012】
図1は、エアバッグ装置Eを備えた車両1の斜視図であり、
図2は、エアバッグ装置Eにおけるエアバッグが展開しているときの車両1の側面図である。
【0013】
図1及び
図2に示すように、エアバッグ装置Eを備えた車両1は、車両1の前端部にフロントバンパ2、フロントバンパ2の上方かつ後方側にボンネット3、ボンネット3の側方側にフロントフェンダ4、ボンネット3の後方側にフロントガラス5、フロントガラス5の両側縁にフロントピラー6、車両1の天井部にルーフ7、車両1の側面部にサイドドア8、サイドドア8の上方にサイドミラー9等を外部構造として構成している。
【0014】
また、フロントバンパ2の上方には、ボンネット3の内部に空気を取り込むためのフロントグリル10と、装飾性のあるエンブレム11が設けられている。
【0015】
フロントバンパ2の内部(後方側)には、エアバッグ装置Eが設けられており、エアバッグ100が折り畳まれて格納されている。なお、エアバッグ装置Eは、フロントバンパ2の内部ではなく、フロントグリル10の内部(後方側)に設けてもよい。
【0016】
エアバッグ装置Eは、ナイロン等の合成繊維布の基布で構成されたエアバッグ100と、エアバッグ100の内部に膨張ガスを供給するインフレータ(図示せず)とを備えて構成されている。
【0017】
また、エアバッグ装置Eは、保護対象者が車両1に衝突することを事前に検知すると、インフレータを作動させて、エアバッグ100の内部に膨張ガスを供給し、エアバッグ100を膨張させる。このとき、膨張したエアバッグ100の圧力により、フロントバンパ2が取り外されることになる。
【0018】
そして、
図2に示すように、エアバッグ装置Eにおけるエアバッグ100は、フロントバンパ2から車両1の前面側に展開して膨張することになる。
【0019】
このエアバッグ100の内部には、インフレータから供給される膨張ガスの熱により変形する変形部材120が設けられている。
【0020】
変形部材120は、ポリスチレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル等の膨張ガスの熱により収縮する熱収縮部材で構成されている。
なお、変形部材120は、ポリプロピレン、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、ジアゾアミノベンゼン、ジニトロソペンタメチレンテトラミン等の発泡剤を混入させて膨張ガスの熱により膨張する熱膨張部材で構成してもよい。
【0021】
また、エアバッグ100は、エアバッグ100の外部と連通し開孔された排出口111を有しており、排出口111からエアバッグ100に供給された膨張ガスが排出されることになる。
【0022】
次に、エアバッグ100の内部構成について説明する。
【0023】
<実施形態1>
図3は、実施形態1のエアバッグ100を示す説明図である。
【0024】
図3(a)は、車両1の正面視におけるエアバッグ100の正面図であり、
図3(b)は、車両1の前後方向を断面方向とし、変形部材120が収縮する前のエアバッグ100の断面概念図であり、
図3(c)は、車両1の前後方向を断面方向とし、変形部材120が収縮した後のエアバッグ100の断面概念図である。
【0025】
図3(a)に示すように、変形部材120は、車両1の正面視においては、エアバッグ100の中央部の内壁に設けられている。
【0026】
また、
図3(b)に示すように、変形部材120は、紐状に形成されており、一端がエアバッグ100の前端部の内壁に連結されている。なお、
図3(b)に示す状態は、エアバッグ100の膨張が完了する前の状態であって、変形部材120が収縮する前の断面概念図であるが、実際にはエアバッグ100が膨張し始めたときには、変形部材120は収縮を開始している。
【0027】
インフレータからエアバッグ100の内部に膨張ガスが供給されると、
図3(c)に示すように、変形部材120は、膨張ガスの熱によりエアバッグ100の内壁側に向かってボール状に収縮する。
【0028】
また、インフレータから供給される膨張ガスは、供給口101を介してエアバッグ100に供給されるものの、エアバッグ100の下方かつ後方側には、排出口111が設けられている。
【0029】
このため、エアバッグ100に供給された膨張ガスは、排出口111からエアバッグ100の外部に排出されることになり、膨張したエアバッグ100の形状は、保護対象者との衝突により変形可能になる。
【0030】
後述するように、膨張したエアバッグ100の形状が保護対象者との衝突により変形可能になると、エアバッグ100の内部では、ボール状に収縮した変形部材120がエアバッグ100の内壁と擦れることになり、また変形部材同士が擦れたり、絡み合ったりすることで、大きな摩擦力が発生し、保護対象者が車両1に衝突する際のエアバッグ100による滑りを抑止すると共に、衝撃吸収自体をより効率的に行うことができる。
【0031】
また、変形部材120が設けられたエアバッグ100の中央部かつ前端部は、保護対象者が接触しやすいエアバッグ100の部位であることから、変形部材120による摩擦力をより効率的に発生させることができる。
【0032】
なお、実施形態1においては、エアバッグ100の中央部かつ前端部の内壁に変形部材120が連結されるように構成したが、エアバッグ100の略全域の内壁に変形部材120が連結されるように構成してもよい。また、車両の側面視において、外側エアバッグ110及び内側エアバッグ120の下方側にある下方部を除いた特定部に取り付けるように構成してもよい。
【0033】
<実施形態2>
図4は、実施形態2のエアバッグ100を示す説明図であり、変形部材120をエアバッグ100の内壁に連結させるのではなく、膨張ガスの熱により収縮する変形部材130を、膨張ガスが供給される供給口101に設けたことの一例である。
【0034】
図4は、車両1の前後方向を断面方向としたエアバッグ100の断面概念図であり、
図4(a)~(d)において、変形部材130とエアバッグ100の状態を時系列的に示している。
【0035】
図4(a)に示すように、変形部材130は、膨張ガスが供給される供給口101の近傍に設けられている。
【0036】
変形部材130は、短冊状の変形本体部131と、供給口101に接続される細い紐状の連結紐132とから構成されている。
【0037】
変形本体部131は、
図4(a)に示すように、供給口101から膨張ガスが供給され始めると、膨張ガスの風圧による力を受けて、エアバッグ100の内部で広がることになる。
【0038】
そして、
図4(b)に示すように、供給口101から膨張ガスが所定の量が供給されて、エアバッグ100の内部温度が上昇していくと、連結紐132が風圧及び熱により切断され、変形本体部131は、エアバッグ100の内部で飛散することになる。
【0039】
その後、
図4(c)に示すように、変形本体部131は、エアバッグ100の内壁に融着することになる。
【0040】
最終的には、
図4(d)に示すように、変形本体部131は、エアバッグ100の内壁で膨張ガスの熱により収縮が進み、例えば縮れた紐状の、表面に突起の多いボール状になる。
【0041】
実施形態2においても、膨張したエアバッグ100の形状が保護対象者との衝突により変形可能になると、エアバッグ100の内部では、ボール状に収縮した変形本体部131がエアバッグ100の内壁と擦れることになり、大きな摩擦力が発生し、保護対象者が車両1に衝突する際のエアバッグ100による滑りを抑止すると共に、衝撃吸収自体をより効率的に行うことができる。
【0042】
なお、実施形態2においては、変形部材130を、短冊状の変形本体部131と細い紐状の連結紐132とで構成したが、供給口101に接続される連結紐132を有さずに、球体状、平板状または円盤状の変形本体部131のみから構成してもよい。ただし、変形本体部131は、供給口101から供給される膨張ガスの風圧による力を受ける風受部を有していることが望ましい。
【0043】
また、実施形態2においては、変形部材130が供給口101から膨張ガスが供給され始めた時に融着しないように、収縮温度または熱膨温度が、供給口101から膨張ガスが供給され始めた時のエアバッグ100の内部温度よりも高いことが望ましい。
【0044】
<エアバッグの変形遷移>
以上の実施形態1及び2のエアバッグ100により、保護対象者が車両1に衝突する際の衝撃吸収をより効率的に行うことができる仕組みについて、
図5を用いて説明する。
【0045】
図5は、保護対象者がエアバッグ100に衝突したときのエアバッグ100の変形遷移を示す模式図である。
【0046】
図5(a)に示すように、保護対象者が車両1に衝突するときには、保護対象者がまずエアバッグ100に衝突し、保護対象者からの衝撃力によりエアバッグ100の形状が変形する。
【0047】
このとき、エアバッグ100の内壁には、ボール状に収縮した変形部材120が形成されていることになり、変形部材120がエアバッグ100の内壁と擦れることになる。
そして、変形部材120がエアバッグ100の内壁と擦れると、
図5(a)、(b)に示すように、エアバッグ100の内部では、変形部材120によって大きな摩擦力が発生することになる。
【0048】
これにより、保護対象者が車両1に衝突する際のエアバッグ100による滑りを抑止すると共に、衝撃吸収自体をより効率的に行うことができ、保護対象者の傷害低減を図ることができる。
【0049】
<その他の変形例>
上記実施形態1及び2においては、車両1の前面側に展開して膨張するエアバッグは、エアバッグの内部で大きな摩擦力が発生するエアバッグ100の1つのみであったが、他のエアバッグを設けて構成してもよい。
【0050】
例えば、
図6に示すように、車両1の前面側であって、エアバッグ100の下方側に、薄型の半楕円状または矩形状のエアバッグ200を展開させてもよい。
【0051】
また、エアバッグ200の前端部は、車両の前後方向に対して、エアバッグ100の前端部よりも前面側に展開される。さらには、エアバッグ200の上端部は、保護対象者の膝下以下となる高さで展開される。これにより、エアバッグ200は、保護対象者の足払いの役割を果たすことができる。
【0052】
そして、エアバッグ100に対してエアバッグ200を更に備えることにより、まずエアバッグ200により保護対象者に足払いを行い、保護対象者をエアバッグ100側に倒れさせ、その後にエアバッグ100の内部の摩擦力により、保護対象者への衝撃力の衝撃吸収をより効率的に行うことができる。
【0053】
保護対象者の衝突態様は様々であるが、足払いの役割を果たすエアバッグ200により、保護対象者への衝突態様をエアバッグ100側に倒れさせる衝突態様へ誘導させることができ、事前に想定した衝突態様により衝撃吸収を行い易くすることができる。
【0054】
以上のように、本発明のエアバッグ装置Eは、保護対象者が車両1に衝突する際のエアバッグ100による滑りを抑止すると共に、衝撃吸収自体をより効率的に行うことができ、保護対象者の傷害低減を図ることができる。
【符号の説明】
【0055】
1:車両、2:フロントバンパ、3:ボンネット、4:フロントフェンダ、5:フロントガラス、6:フロントピラー、7:ルーフ、8:サイドドア、9:サイドミラー、10:フロントグリル、11:エンブレム、100:エアバッグ、101:供給口、111:排出口、120:変形部材、130:変形部材、131:変形本体部、132:連結紐