(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】生物の海水冷却水系への付着や繁殖の抑制あるいは除去方法、および、海水冷却水系水の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/70 20230101AFI20230404BHJP
【FI】
C02F1/70 Z
(21)【出願番号】P 2019069442
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2022-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000101042
【氏名又は名称】アクアス株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】110001922
【氏名又は名称】弁理士法人日峯国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石間 智生
(72)【発明者】
【氏名】田村 和毅
【審査官】松本 要
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/125504(WO,A1)
【文献】特開2017-186294(JP,A)
【文献】特開2009-028569(JP,A)
【文献】特開2016-215179(JP,A)
【文献】国際公開第2018/116842(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00- 1/78
A01N 1/00-65/48
A01P 1/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最終的に
海に排出される、モノクロラミン添加対象の
海水冷却水系水に対して全残留塩素の濃度が0.01mg/L以上0.15mg/L以下となるようにモノクロラミンを添加する
第一工程と、当該モノクロラミンが添加された前記
海水冷却水系水に対して、
前記海に排出される前に当該
モノクロラミンが添加された海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の1倍以上1.5倍以下のチオ硫酸塩化合物を添加する
第二工程と、をこの順で備えていることを特徴とする生物の
海水冷却水系への付着や繁殖の抑制あるいは除去方法。
【請求項2】
前記
海水冷却水系水の全残留塩素濃度、および/または、前記チオ硫酸塩化合物の添加後の全残留塩素濃度を測定し、当該全残留塩素濃度に応じて前記チオ硫酸塩化合物の添加量を制御することを特徴とする請求項1に記載の生物の
海水冷却水系への付着や繁殖の抑制あるいは除去方法。
【請求項3】
モノクロラミンを全残留塩素が0.01mg/L以上0.15mg/L以下の濃度で含有し、かつ、最終的に
海に排出される
、海水冷却水系水に対して、前記
海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の1倍以上1.5倍以下のチオ硫酸塩化合物を添加することを特徴とする
海水冷却水系水の処理方法。
【請求項4】
前記
海水冷却水系水の全残留塩素濃度、および/または、前記チオ硫酸塩化合物の添加後の全残留塩素濃度を測定し、当該全残留塩素濃度に応じて前記チオ硫酸塩化合物の添加量を制御することを特徴とする請求項3に記載の
海水冷却水系水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、さまざまな障害を引き起こすおそれのある生物の水系への付着や繁殖の抑制、あるいは、除去を目的としてモノクロラミンを比較的低い濃度で添加した水系水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水や各種工程水、食品製造用水、あるいは、純水やボイラー水の原水等の各種水系では、さまざまな障害を引き起こすおそれのある生物の水系への付着、あるいは、繁殖の抑制や除去を目的としてモノクロラミンを添加することが行われている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、これらモノクロラミンを含む水系水をその利用後に、河川、湖、沼、あるいは、海などに排出した場合に、排出口付近の水域に存在する水産資源などの水棲生物に悪影響が及ぶことが懸念される。
【0004】
このために、河川、湖、沼、あるいは、海などに排出した場合であっても、水産資源などの水棲生物に悪影響が及ぶ懸念を抑制、あるいは、解消することが求められている。
【0005】
ここで、特許文献2では純水製造時の原水にモノクロラミンの添加処理を行った後の脱クロラミン化のために、亜硫酸塩を添加する技術が提案されている。そして、本発明者らも同様に、亜硫酸ナトリウムが好適に使用できると考えていた(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-212248号公報
【文献】特開平02-052087号公報
【文献】特開2017-119245号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】社団法人 日本水産資源保護協会、「水産用水基準 第7版(2012年版)」、平成25年1月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、検討の結果、低濃度のモノクロラミンを含有する水に対して、還元剤として亜硫酸塩(重亜硫酸塩を含む)を添加した場合、全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量では不足し、その6倍の量の添加が必要となることが判った。
その原因として、低濃度のモノクロラミンを含有する水に対して亜硫酸塩を添加した場合、これら亜硫酸塩の大部分はモノクロラミン含有量に比して多量に存在する水中の溶存酸素と反応し、その結果、全残留塩素の相殺にはほとんど寄与しないと考えられた。
【0009】
この場合、全残留塩素の相殺に要する還元剤のコストが高くなるのみならず、全残留塩素の全量を相殺したにも関わらず、多量の亜硫酸塩を添加したために溶存酸素濃度が著しく低下した水により水産資源を含む水棲生物に悪影響が生じる懸念がある。
【0010】
本発明はこのような亜硫酸塩を用いたときに生じる上記の問題、すなわち、河川、湖、沼、あるいは、海などへ排出した場合であっても、結合残留塩素や遊離残留塩素、さらには、これらを相殺するために添加する還元剤による溶存酸素濃度の低下による排出口付近の水棲生物への悪影響の懸念を抑制ないし解消しつつ、全残留塩素を相殺する還元剤の必要量を少なくすることが可能な水系水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の生物の海水冷却水系への付着や繁殖の抑制あるいは除去方法は、最終的に海に排出される、モノクロラミン添加対象の海水冷却水系水に対して全残留塩素の濃度が0.01mg/L以上0.15mg/L以下となるようにモノクロラミンを添加する第一工程と、当該モノクロラミンが添加された前記海水冷却水系水に対して、前記海に排出される前に当該モノクロラミンが添加された海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の1倍以上1.5倍以下のチオ硫酸塩化合物を添加する第二工程と、をこの順で備えていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の生物の海水冷却水系への付着や繁殖の抑制あるいは除去方法は、上記の構成に加えて、前記海水冷却水系水の全残留塩素濃度、および/または、前記チオ硫酸塩化合物の添加後の全残留塩素濃度を測定し、当該全残留塩素濃度に応じて前記チオ硫酸塩化合物の添加量を制御する構成とすることができる。
【0013】
本発明の海水冷却水系水の処理方法は、上記の課題を解決するために、モノクロラミンを全残留塩素が0.01mg/L以上0.15mg/L以下の濃度で含有し、かつ、最終的に海に排出される海水冷却水系水に対して、前記海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の1倍以上1.5倍以下のチオ硫酸塩化合物を添加することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の水系水の処理方法は、上記の構成に加えて、前記水系水の全残留塩素濃度、および/または、前記チオ硫酸塩化合物の添加後の全残留塩素濃度を測定し、当該全残留塩素濃度に応じて前記チオ硫酸塩化合物の添加量を制御する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の生物の海水冷却水系への付着や繁殖の抑制あるいは除去方法は、最終的に海に排出される、モノクロラミン添加対象の海水冷却水系水に対して全残留塩素の濃度が0.01mg/L以上0.15mg/L以下となるようにモノクロラミンを添加する第一工程と、当該モノクロラミンが添加された前記海水冷却水系水に対して、前記海に排出される前に当該モノクロラミンが添加された海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の1倍以上1.5倍以下のチオ硫酸塩化合物を添加する第二工程と、をこの順で備えている構成により、海へ排出した場合に、結合残留塩素や遊離残留塩素、さらには、これらを相殺するために添加する還元剤による溶存酸素濃度の低下による排出口付近の水棲生物に悪影響が及ぶ懸念を顕著に抑制ないし解消しつつ、全残留塩素を相殺する還元剤の必要量を少なくすることが可能となる。さらに、結合残留塩素や遊離残留塩素による悪影響を抑制ないし解消することができる。
【0017】
また、上記の構成に加えて、海水冷却水系水の全残留塩素濃度、および/または、チオ硫酸塩化合物の添加後の全残留塩素濃度を測定し、この濃度に応じてチオ硫酸塩化合物の添加量を制御する構成とすることができる。
【0018】
本発明の海水冷却水系水の処理方法は、モノクロラミンを全残留塩素が0.01mg/L以上0.15mg/L以下の濃度で含有し、かつ、最終的に海に排出される海水冷却水系水に対して、前記海水冷却水系水における全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の1倍以上1.5倍以下のチオ硫酸塩化合物を添加する構成により、海へ排出した場合に、結合残留塩素や遊離残留塩素、さらには、これらを相殺するために添加する還元剤による溶存酸素濃度の低下による排出口付近の水棲生物に悪影響が及ぶ懸念を顕著に抑制ないし解消しつつ、全残留塩素を相殺する還元剤の必要量を少なくすることが可能となる。さらに、結合残留塩素や遊離残留塩素による悪影響を抑制ないし解消することができる。
【0019】
また、上記の構成に加えて、水系水の全残留塩素濃度、および/または、チオ硫酸塩化合物の添加後の全残留塩素濃度を測定し、この濃度に応じてチオ硫酸塩化合物の添加量を制御する構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例で用いたモノクロラミン生成装置を示すモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の水系水の処理方法は、モノクロラミンを低濃度で含有する水系水に対して実施する。
【0023】
ここでモノクロラミンは、さまざまな障害を引き起こすおそれのある生物の水系への付着、あるいは、繁殖の抑制や除去を目的として添加される。
【0024】
しかし、上記の目的で水系水にモノクロラミンを添加する場合、添加の効果を十分に得ることができ、かつ、過剰添加とならない範囲、たとえば水系水中のモノクロラミン濃度が0.01mg/L(リットル)以上0.15mg/L以下程度の範囲となるように添加することが好ましい。
【0025】
このような低濃度で水系水にモノクロラミンを含有させる場合、冷却水系などの、有機物を含む水系に対しては、次亜塩素酸化合物とアンモニウム塩化合物との反応により比較的高濃度、たとえば500mg/L以上10000mg/L以下の濃度範囲となるように高濃度のモノクロラミン溶液を調製して、モノクロラミンを水系水に添加することが好ましい。
有機物を含む水系水の場合、次亜塩素酸化合物、および、アンモニウム塩化合物をたとえば数mg/L以下の低濃度となるように別々に直接添加しても、モノクロラミン生成の反応速度が遅いため、これら有機物が低濃度の次亜塩素酸化合物と速やかに反応して次亜塩素酸化合物を分解してしまうため、添加した次亜塩素酸化合物がモノクロラミンの生成に寄与できない。
【0026】
比較的高濃度のモノクロラミン溶液は、たとえば次のようにして連続的に調製することができる。すなわち、下流側端が添加対象水系に接続する配管などの送液経路を流れる水に、水中の遊離残留塩素濃度が、たとえば500mg/L以上10000mg/L以下の範囲の任意の濃度となるように次亜塩素酸化合物を添加し、次亜塩素酸化合物の添加箇所よりも送液経路の下流で、水中の遊離残留塩素濃度とアンモニウムイオン濃度とのモル比が1:1~1:1.5の範囲(境界値を含む)となるようにアンモニウム塩化合物を添加することで、次亜塩素酸化合物とアンモニウム塩化合物とを反応させてモノクロラミン溶液を調製する。
【0027】
用いる送液経路を流れる水としては、水道水や工業用水などの清水の他、モノクロラミンを添加する対象の、有機物を含む水を、単独で、あるいは、清水と併用して用いることもできる。
これら水の中の、次亜塩素酸化合物と反応する有機物の量と比較して次亜塩素酸化合物の添加量を圧倒的に多くすることにより、有機物を含む水を使用してもモノクロラミンの生成に悪影響を及ぼすほど次亜塩素酸化合物が減少することを抑制できる。ただし、これら水中の有機物と次亜塩素酸化合物とが反応すると、トリハロメタンを生成するおそれが生じるので、トリハロメタンの生成を防ぐ上で、清水を用いることが好ましい。
なお、次亜塩素酸化合物とアンモニウム塩化合物とを反応させてモノクロラミン溶液としたものを有機物が含まれる水系水に添加しても、モノクロラミンと水中の有機物とが反応してトリハロメタンが生成することはない。
【0028】
用いる次亜塩素酸化合物としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム、あるいは、これらの併用が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、水中で次亜塩素酸塩を生成する化合物であればよい。
これらのうち、特に市販の5~12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いると、ポンプで注入しやすく、さらに、市販の次亜塩素酸ナトリウム水溶液には適度な遊離アルカリが共存するため、モノクロラミンの生成反応が速やかに進むので好ましい。
【0029】
モノクロラミン溶液の調製時に、次亜塩素酸化合物は水中の遊離残留塩素濃度が500mg/L以上10000mg/L以下となるように添加することが好ましい。次亜塩素酸化合物の添加濃度が低すぎるとモノクロラミンが生成しにくくなる。
また、生成するモノクロラミンも低濃度となるため、モノクロラミンの添加対象水系への添加濃度を望ましい全残留塩素濃度範囲である0.01mg/L以上0.15mg/L以下とするためには、添加対象水系に対して多量のモノクロラミン溶液を添加しなければならなくなる。そのため、モノクロラミン生成装置が大型化してしまうと云う弊害が生じる。
また、添加時のモノクロラミン溶液の濃度が高すぎると、遊離残留塩素に対するアンモニウムイオンのモル比を1以上にしてもモノクロラミン以外に副生成物であるジクロラミンやトリクロラミンが生成してしまうので好ましくない。
このように生成したジクロラミンやトリクロラミンは不安定で、これらとモノクロラミンとが複合的に反応してアンモニア態窒素の分解反応が進行し、モノクロラミン濃度は低下する。
また、この反応はpHの低下を伴う反応であり、溶液のpHが酸性となることで次亜塩素酸イオンから塩素ガスが発生するのできわめて危険である。なお、より好ましい濃度範囲は1000mg/L以上5000mg/L以下である。
【0030】
モノクロラミン溶液の調整に用いるアンモニウム塩化合物としては、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、燐酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、ホウ酸アンモニウムなど、および、これらの併用が挙げられるが、比較的高濃度のモノクロラミン水溶液とすることができ、ポンプでの注入が容易となるので塩化アンモニウムや硫酸アンモニウムが好ましい。
【0031】
アンモニウム塩化合物は、水中の遊離残留塩素濃度(モル濃度)を1としたときに、アンモニウムイオン濃度(モル濃度)が1以上となるように添加するとモノクロラミンを効率よく生成できるので好適である。
【0032】
なお、後述するように、モノクロラミンを低濃度で含有する水系水の全残留塩素をチオ硫酸塩化合物により相殺した水を、水産資源のある河川、湖、沼、あるいは、海などに排出する場合、上記のモル比を1.5超とすると、排出口付近の水域のアンモニア態窒素の濃度が水産用水基準(非特許文献1)を超える恐れが生じるので好ましくない。
【0033】
また、アンモニウム塩化合物の添加は次亜塩素酸化合物の添加箇所の下流で行うことが好ましい。アンモニウム塩化合物の添加箇所を次亜塩素酸化合物の添加箇所の上流とすると、次亜塩素酸化合物の添加箇所付近の次亜塩素酸化合物と水とが完全混合する前の状態では、アンモニウムイオンに対する次亜塩素酸イオン(=遊離残留塩素)のモル比が部分的に1以上となる。その結果、モル比が1以上の部分でモノクロラミン以外に副生成物であるジクロラミンやトリクロラミンが生成してしまう。
【0034】
次亜塩素酸化合物とアンモニウム塩化合物の添加順序やこれらの濃度およびモル比が適切であれば、上記の副反応は起こらず、モノクロラミンのみを生成することが可能であるが、モノクロラミンの生成反応はpH8~9の弱アルカリ性で最も進行しやすい。
したがって、次亜塩素酸化合物として遊離アルカリを含む次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いると、次亜塩素酸化合物添加後の水のpHが自然と弱アルカリ性になるので好ましい。
【0035】
なお、次亜塩素酸化合物の添加箇所やアンモニウム塩化合物の添加箇所の下流にラインミキサ等の攪拌手段を設置するとモノクロラミンが効率よく生成するので好ましい。
特に次亜塩素酸化合物の添加箇所とアンモニウム塩化合物の添加箇所との間にラインミキサを設置すると、水中の次亜塩素酸イオンが均一な濃度となり、次亜塩素酸イオンとアンモニウムイオンとのモル比の部分的な逆転を防止できるので好ましい。また、送液経路の途中に混合槽を設け、この混合槽で攪拌を行ってもよい。
【0036】
モノクロラミン溶液を上記の方法で生成することで、最初に添加した次亜塩素酸化合物由来の遊離残留塩素のほとんどすべてがモノクロラミン生成に寄与する。したがって、生成したモノクロラミン溶液中の全残留塩素濃度は、次亜塩素酸化合物添加時の水中の遊離残留塩素濃度とほぼ同一の、500mg/L以上10000mg/L以下の任意の濃度となる。
【0037】
上記の方法で調製した500mg/L以上10000mg/L以下の任意の濃度のモノクロラミン溶液を、添加対象の水系水に対して全残留塩素濃度として0.01mg/L以上0.15mg/L以下の濃度で添加することが好ましい。
モノクロラミンの添加濃度が0.01mg/L未満であると、さまざまな障害を引き起こすおそれのある生物の水系への付着、あるいは、繁殖の抑制や除去などのモノクロラミンの添加による効果が十分には発揮せれない。他方、その添加濃度が0.15mg/Lを超えて添加した場合、添加濃度の増加に見合う効果の増加は得られず、さらに排出口付近の水域のアンモニア態窒素の濃度が上記の水産用水基準を越えてしまうおそれが生じる。
【0038】
本発明の水系水の処理方法では、水系水中のモノクロラミンが不要となったときに、チオ硫酸塩化合物を添加して残留するモノクロラミンを相殺する。たとえば海水冷却水系などで、生物の水系への付着を目的にモノクロラミンを添加し、最終的に冷却水を海に排出する場合では、排出口の上流で冷却水中に残留するモノクロラミンをチオ硫酸塩化合物の添加で相殺する。
【0039】
チオ硫酸塩化合物としては、ナトリウム塩、カリウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等が知られている。このうち水に可溶で還元性を有する化合物を、単独であるいは2種以上組み合わせて用いる。
なお、これらのうち、入手が容易なチオ硫酸ナトリウムを用いることが好ましい。チオ硫酸塩化合物は通常、水道水や工業用水などの清水の水溶液として添加するが、一部または全部にモノクロラミンを添加する対象の水を用いてもよい。
【0040】
チオ硫酸塩化合物の添加量はモノクロラミンを含む水系水の全残留塩素の全量を相殺可能なものとすることが残留塩素による各種障害の発生の抑制ないし防止を可能とするので好ましい。
【0041】
チオ硫酸塩化合物の水溶液を用いる場合にはその濃度は0.1質量%以上30質量%以下とすると、添加の制御が容易で、かつ、薬液タンクを含む添加装置をコンパクトなものとすることができるので好ましい。
【0042】
本発明では上記のようにチオ硫酸塩化合物を添加することが必須であり、このとき、たとえばモノクロラミンとチオ硫酸ナトリウムとは下記式(I)に示すように4:1のモル比で反応する。
【0043】
<化1>
4NH2Cl + Na2S2O3・5H2O → 2NaHSO4 + 4NH4Cl
……(I)
【0044】
本発明では添加対象の水系水中の全残留塩素がモノクロラミンによるものとして、その全量を相殺しうると想定される量、すなわちこのモノクロラミンのモル数の1/4のモル数のチオ硫酸塩化合物の質量を1としたときに1以上1.5以下の質量のチオ硫酸塩化合物を添加することが好ましい。
【0045】
チオ硫酸塩化合物の添加量が上記の範囲より少ないと、相殺処理後の水を河川、湖、沼や、海に排出したときに、残留するモノクロラミンによる水棲生物への悪影響の懸念が大きくなり、また、多すぎるとチオ硫酸塩化合物の使用量が多くなり、処理コストの上昇を来たすとともに、排出水中の溶存酸素濃度が低下するおそれがある。このため、排出口付近の水域の水棲生物への悪影響の懸念が大きくなる。
したがって、より好ましいチオ硫酸塩化合物の添加量は、添加対象の水系中の全残留塩素の全量を相殺しうると想定される量のチオ硫酸塩化合物を1としたときに1.05以上1.3以下である。
【0046】
チオ硫酸塩化合物の添加にあたり、残留塩素計などによりチオ硫酸塩化合物の添加対象の、および/あるいは、チオ硫酸塩化合物添加後の水系水中の全残留塩素濃度を測定して添加量を制御することで、添加量の最適化が可能となる。その制御により、また残留塩素による水棲生物への悪影響の発生をより確実に抑制ないし防止が可能となり、かつ、高コスト化と溶存酸素の低下を引き起こす過剰添加を防止することが可能となる。
【0047】
ここで、還元剤としてチオ硫酸塩化合物ではなく亜硫酸水素ナトリウム(重亜硫酸ナトリウム)を用いたときのモノクロラミンとの反応式を式(II)に示す。
【0048】
<化2>
NH2Cl + NaHSO3 + H2O → NaHSO4 + NH4Cl
……(II)
【0049】
このように、モノクロラミンと亜硫酸水素ナトリウムが反応する場合には亜硫酸水素ナトリウムによるモノクロラミンの相殺反応が100%進行した場合であっても、モノクロラミンに対して1:1のモル比の亜硫酸水素ナトリウムが必要となる。
そして、処理対象水の溶存酸素に起因すると推察されるが、実際にはその必要量はさらに多くなり、水系水中の全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量の6倍の還元剤が必要となってしまう。
【0050】
なお、チオ硫酸塩化合物の添加箇所の、水系の水路の幅が広い場合、チオ硫酸塩化合物の水系水への添加は水系の水路の幅方向の複数箇所に添加することがその添加によるモノクロラミンの相殺効果が高くなるので好ましい。
また、チオ硫酸塩化合物の添加箇所の水系水流れ方向下流にラインミキサ、水系水の流れを部分的に遮る邪魔板や、攪拌機を備えた混合槽などの混合手段を設置すると残留塩素の相殺効果をより確実とすることが可能となるので好ましい。
【0051】
本発明においてモノクロラミンおよびチオ硫酸塩化合物の添加は常時連続的に行ってもよいが、モノクロラミンの添加目的に応じて断続的に行うこともできる。
【0052】
以上、本発明について、好ましい実施形態を挙げて説明したが、本発明の水系水の処理方法は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。
【0053】
当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の水系水の処理方法を適宜改変することができる。このような改変によってもなお、本発明の水系水の処理方法の構成を具備する限り、もちろん、本発明の範疇に含まれるものである。
【実施例】
【0054】
《実施例1》
調製後1週間経過し、酸素が飽和ないし飽和に近いレベルで溶存していると考えられる純水に、塩素剤としてモノクロラミンを添加して全残留塩素濃度が0.1mg/Lの試験水(15.0℃)を調製した。
【0055】
この試験水1Lを1Lビーカーに採取し、毎分300回転で攪拌しながら試験水中の全残留塩素の全量が前記反応式(I)にしたがってチオ硫酸ナトリウムと反応して相殺しうると想定される量の、0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム水溶液を添加した。試験水の全残留塩素濃度の経緯を表1に示す。
【0056】
【0057】
表1からチオ硫酸ナトリウムを用いた場合、想定される必要量のチオ硫酸ナトリウム水溶液でモノクロラミンによる全残留塩素の全量の相殺が可能であることが判る。
【0058】
《比較例1》
実施例1と同様に、ただし、チオ硫酸ナトリウム水溶液の代わりに0.1mol/Lの亜硫酸水素ナトリウム水溶液を、試験水中のモノクロラミン全量が前記反応式(II)にしたがって硫酸水素ナトリウムと反応すると想定したときの必要量を添加し、試験水の全残留塩素濃度を測定した。
その結果、試験水の全残留塩素濃度が0.08mg/Lであり、亜硫酸水素ナトリウムによる相殺が不十分であったので、試験水の全残留塩素が不検出となるまで、同量の亜硫酸水素ナトリウム水溶液の添加および全残留塩素濃度の測定を繰り返した。このときの試験水の全残留塩素濃度の経緯を表2に示す。
【0059】
【0060】
表2から全残留塩素の全量を相殺するために、本来想定される量の6倍の亜硫酸水素ナトリウム水溶液が必要であることが判る。
【0061】
<実施例2、および、比較例2>
実施例1、および、比較例1と同様に、ただし、純水の代わりに東京湾岸にある工場の海水冷却水系の入口で採取した海水を用いて試験を行った。
【0062】
その結果、チオ硫酸ナトリウムを用いた場合には試験水中の全残留塩素の全量を相殺しうると想定される添加量で、全残留塩素の全量を相殺できたが、亜硫酸ナトリウム水溶液を用いた場合には試験水中の全残留塩素の全量を相殺しうると想定される量の6倍量の亜硫酸ナトリウム水溶液が必要であった。
【0063】
<実施例3>
東京湾岸にある工場の海水冷却水系で試験を行った。
モノクロラミンは
図1にモデル的に示すモノクロラミン生成装置Aを用いて生成した。
【0064】
モノクロラミン生成装置Aにおいて、ボールタップLS制御により一定水量の工業用水を貯留している水タンク10から、ポンプ11によって1時間当たり0.3Lの流量で工業用水を送液経路に送る。
その送液経路で、タンク12内の12質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液をポンプ13により1時間当たり2.5gの添加量で添加し、ラインミキサ14により攪拌し、次いで、さらにその下流でタンク15内の15質量%の塩化アンモニウム水溶液をポンプ16により1時間当たり1.8gの添加量で添加してモノクロラミンを生成した。
このとき、送液経路内で混合する遊離残留塩素濃度とアンモニウムイオン濃度とのモル比は1:1.2であり、生成したモノクロラミン水溶液の濃度は全残留塩素濃度として1000mg/Lであった。
【0065】
このようにして生成したモノクロラミン溶液を、海水冷却水系を流れる海水に全残留塩素濃度として0.1mg/Lとなるように添加した。
【0066】
この海水冷却水系の海への排出口付近の上流に、海水冷却水の流れ方向順に、第一の塩素濃度計、薬注ポンプ、攪拌のための邪魔板、第二の塩素濃度計を設置し、第一の塩素濃度計によって検出された全残留塩素濃度の全量が前記反応式(I)にしたがってチオ硫酸ナトリウムと反応して相殺しうると想定される必要量の1.2倍の30質量%のチオ硫酸ナトリウム水溶液を供給した。なお、第二の塩素濃度計では、全残留塩素は検出されなかった。
【0067】
また、こののち1年を通じて海水冷却水系へのフジツボ、ヒドロ虫、ホヤ、および、ムラサキイガイ等の貝類、さらに、微生物由来のスライム等の海棲生物の冷却水系への付着を防止することができた。
【符号の説明】
【0068】
A モノクロラミン生成装置
LS ボールタップ
10 水タンク
11 ポンプ
12 タンク
13 ポンプ
14 ラインミキサ
15 タンク
16 ポンプ