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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】難ろ過性物質の処理方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/10 20060101AFI20230404BHJP
   G21F 9/06 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
G21F9/10 E
G21F9/06 G
G21F9/06 521B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019073988
(22)【出願日】2019-04-09
(65)【公開番号】P2020173130
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】502040041
【氏名又は名称】日揮株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 忠志
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-190749(JP,A)
【文献】特開2015-081898(JP,A)
【文献】特開2012-159419(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108231233(CN,A)
【文献】岩井 重久他,凍結再融解法による放射性汚泥の脱水処理について,土木学会年次学術講演会講演概要 II-218 ,Vol.23巻,日本,土木学会,1968年,587-588頁,http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00035/1968/23-02-0587.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/06
G21F 9/10
G21F 9/30
B09B 1/00-5/00
B09C 1/00-1/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質を含む難ろ過性物質の懸濁液に、可溶性金属塩を添加したのち、pHを6以上にして、金属水酸化物固体を生じさせ、金属水酸化物固体を含む懸濁液を凍結再融解する処理を行うことを特徴とする、難ろ過性物質の処理方法。
【請求項2】
可溶性金属塩が、鉄塩、ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩の少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の難ろ過性物質の処理方法。
【請求項3】
前記可溶性金属塩が、硫酸鉄であることを特徴とする請求項2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記難ろ過性物質が、酸化鉄(α-Fe2O3)および水酸化鉄(Fe(OH)3)を主成分とすることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項5】
前記可溶性鉄塩を、前記難ろ過性物質の鉄元素をα-Fe2O3に換算したときの含有量(重量)を1としたときに、Fe(OH)3に換算した重量比で、0.1倍以上となる量で添加することを特徴とする、請求項4に記載の処理方法。
【請求項6】
前記難ろ過性物質の懸濁液ないし溶液が、原子力発電所の使用済イオン交換樹脂、およびフィルタースラッジを湿式分解して得られた、固形鉄不純物および硫酸ナトリウムを主成分とする分解液であることを特徴とする請求項1に記載の処理方法。
【請求項7】
凍結再融解後の懸濁液をろ過することを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難ろ過性物質のろ過性を向上させる処理方法に関し、特に、原子力発電所で行う処理に伴って発生する使用済イオン交換樹脂やフィルタースラッジの酸化分解液中の酸化鉄など、難ろ過性物質のろ過性を向上させる処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所において放射性核種を含有する排水や固形分の回収処理に使用したフィルタースラッジおよび使用済イオン交換樹脂の処理法として、過酸化水素を作用させて湿式酸化分解する方法が提案されている。この湿式分解法とは、使用済イオン交換樹脂等の有機廃棄物を過酸化水素により、鉄等を触媒として、約100℃の温度条件および大気圧の圧力条件下で酸化分解する方法であり、過酸化水素から発生するOHラジカルが、有機廃棄物の結合の鎖を切断することにより、最終的に二酸化炭素や水に分解するものである。たとえば、陽イオン交換樹脂が分解されると硫酸が生成され、陰イオン交換樹脂が分解されるとアンモニアが生成される。
【0003】
原子力発電所で発生する低レベル放射性廃棄物は、廃止措置で発生する廃棄物に限らず、法令によって以下のとおり区分され、それぞれの基準に沿って処分される。
レベルI[L1]:比較的に放射性物質濃度の高い低レベル放射性廃棄物。地下50m~100m程度の人工構築物の中に埋設処理される(余裕深度埋設(300年間管理))。
レベルII [L2]:比較的に放射性物質濃度の低い、低レベル放射性廃棄物。地下10m程度の人工構築物の中に埋設処理される(コンクリートピット埋設(300年間管理))
レベルIII [L3]:放射性物質濃度の極めて低い低レベル放射性廃棄物で、直接地下に埋設処理される(素掘トレンチ埋設(30~50年間管理))。
【0004】
前記湿式分解後に残存する物質は、原子炉一次冷却系内に体積する放射性腐食生成物に由来するクラッド(主成分が酸化鉄:α-Fe2O3)およびFe 触媒(Fe(OH)3)などを含む固形鉄不純物と、硫酸ナトリウムを主成分とするスラリー状とからなる分解液である。固形鉄不純物は放射線量が高いため、前記区分のL1廃棄物として、埋設処理が必要となるが、硫酸ナトリウム水溶液自体は放射性物質の濃度が低いためL2廃棄物として処理することも可能であり、両者を分離できれば、放射線の高い放射性廃棄物量を低減することができる。
【0005】
また、固形鉄不純物に含まれる放射性物質は、水が共存すると放射線分解により水素ガス発生することもあるたため、最終処分する固形鉄不純物中の水の含有量は低減させることが望まれる。また、固形分に同伴する硫酸ナトリウムは、埋設処理すると漏液や腐食などの原因につながる上に、廃棄物の重量増加につながるため、低減することが望まれる。
【0006】
したがって、固形鉄不純物のみを効率的にスラリー分解液からろ過分離し乾燥すれば、L1廃棄物の処分量を低減できるとともに、水素発生や漏液などの影響も少なくできるが、クラッドおよびFe 触媒に由来するFe(OH)3などの固形鉄不純物は、それ自体が難ろ過性でろ過分離することは難しいという問題点があった。
【0007】
一般に、難ろ過性物質のろ過性能を向上させる方法として、凍結再融解法も知られているが、単に凍結再融解を行っても、湿式分解の分解液スラリーにその効果が乏しいという問題点もあった。また塩濃度が高い場合、特にNaClが高濃度(数%以上)で共存する場合は、凝固点降下により-15℃程度の冷却では凍結しない課題がある。NaClが共存する場合は、-22℃以下まで下げる必要があり冷凍機等への負担が大きい。
【0008】
また、難ろ過性物質の脱水性能を向上させる方法として、凍結融解の前にイオン交換樹脂を用いてpHを下げる方法(特許文献1:特開昭55-157393号公報)、電気伝導度を下げる方法(特許文献2:特開昭55-157394号公報)も知られているが、上記湿式分解による処理液は、硫酸ナトリウム濃度が比較的高いことやイオン交換樹脂の分解物であることから、さらなるイオン交換樹脂を使用することになるため、放射性物質を含むスラリーでは、あらたに吸着して放射性不純物を除去する工程が必要となるため効率的でない。なお、上記特許文献には、凝集剤として塩化第二鉄を添加することが好ましくない方法として記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭55-157393号公報
【文献】特開昭55-157394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このため、難ろ過性物質の懸濁液のろ過性能を改善する方法が望まれていた。また、水は、放射線と反応して水素を発生する可能性もあるため、含有水量は少ない方が望ましいとされる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、固形鉄不純物などの難ろ過性物質を含む懸濁液に対して、適切に可溶性金属塩を添加して処理することにより、凍結再融解によるろ過性能を向上できることを見出し、完成するに至った。
【0012】
本発明の構成は以下の通りである。
[1]放射性物質を含む難ろ過性物質の懸濁液に、可溶性金属塩を添加したのち、pHを6以上にして、金属水酸化物固体を生じさせ、金属水酸化物固体を含む懸濁液を凍結再融解する処理を行う、難ろ過性物質の処理方法。
[2]可溶性金属塩が、鉄塩、ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩の少なくとも1種である[1]の難ろ過性物質の処理方法。
[3]前記可溶性金属塩が、硫酸鉄である[2]の処理方法。
[4]前記難ろ過性物質が、酸化鉄(α-Fe2O3)および水酸化鉄(Fe(OH)3)を主成分とする、[1]~[3]の処理方法。
[5]前記可溶性鉄塩を、前記難ろ過性物質の鉄元素をα-Fe2O3に換算したときの含有量(重量)を1としたときに、Fe(OH)3に換算した重量比で、0.1倍以上となる量で添加することを特徴とする、[4]の処理方法。
[6]前記難ろ過性物質の懸濁液ないし溶液が、原子力発電所の使用済イオン交換樹脂、およびフィルタースラッジを湿式分解して得られた、固形鉄不純物および硫酸ナトリウムを主成分とする分解液である[1]の処理方法。
[7]凍結再融解後の懸濁液をろ過する[1]~[6]の処理方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、難ろ過性の物質である鉄不純物を含む湿式分解スラリーのろ過性を向上できるので、硫酸ナトリウムおよび水分除去が容易になる。分離された固形物質の洗浄効率も高く、また、ろ過ケーキ中への通液や通気も容易となることから、洗浄効率が向上し、乾燥もしやすくなる。
【0014】
このため、埋設処分において高放射線分解による水の分解に起因する水素ガス発生を低減することが可能となる。
【0015】
高線量樹脂は放射能濃度が比較的高いため、湿式分解スラリーはL1廃棄物として処分される予定であるが、分解残渣であるクラッドを効率的にろ過できると、L1廃棄物埋設場への硫酸塩の持ち込みを低減することができる。また、放射性線量が高いクラッドから、放射線線量が低い硫酸ナトリウム溶液を分離することができるため、硫酸ナトリウム溶液を現行のL2廃棄物とすることができるので、L1廃棄物を低減することが可能となる。
【0016】
本発明によれば、湿式分解プロセスと組み合わせることにより、高線量樹脂の処理プロセスがコンパクトになり且つ、放射能による水素ガスの発生を抑制できるため、L1廃棄物処分において有効な技術になることが期待される。
【0017】
また、高線量樹脂処理分解液から回収した固体を乾燥処理して固体として処分することも可能性として考えられ、またガラス固化やジオポリマー固化等の水分を含まない固化処理方法の前工程としても使用することができる。
【0018】
さらに、本発明によればL1廃棄物から主に硫酸ナトリウム等の塩類を低減することが可能であり、実装置のコストとしては、湿式分解および凍結再融解法のプロセスとして、国内の原子力発電所および原子力関連サイトへの適用の可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1でのろ過評価結果を示す。
図2】実施例2でのろ過評価結果を示す。
図3】実施例3でのろ過評価結果を示す。
図4】比較例1でのろ過評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明の方法で処理する放射性物質を含む難ろ過性物質は、固形鉄不純物を主に含む。固形鉄不純物は、酸化鉄(α-Fe2O3)および水酸化鉄(Fe(OH)3)を主成分として含む。たとえば、このような固形鉄不純物は、原子炉一次冷却系内に体積する腐食生成物に由来するクラッド(主成分が酸化鉄:α-Fe2O3)および湿式分解などに使用される鉄触媒に由来する。クラッドの主成分は、冷却系の構成材質や水質条件、運転条件によるが、主な構成材料はステンレス鋼に由来する。難ろ過性物質として、またクロムやニッケルおよびその酸化物を含む場合も同様に処理を行うことができる。
【0021】
難ろ過性物質の懸濁液は、原子力発電所の使用済イオン交換樹脂、およびろ過捕集物であるフィルタースラッジを湿式分解して得られた固形鉄不純物、および硫酸ナトリウムを主成分とする分解液が好適に使用される。以下、一例をとして、湿式分解について説明する。
【0022】
湿式分解
放射性有機廃棄物の処理方法では、たとえば、特開2000-56986号公報、特公昭61-9599号公報にあるように、水性媒体中で鉄イオンの存在下に放射性有機廃棄物に過酸化水素を作用させて酸化分解する。放射性有機廃棄物には、具体的に原子力発電所で発生する使用済の粒状または粉末状のイオン交換樹脂の他に、フィルタースラッジも同様な処理の対象となる。フィルタースラッジには、セルロース系、アクリル繊維系のろ過助剤を含むものでいずれも処理できる。核燃料再処理工場から発生する廃溶媒も、処理が可能であり、クエン酸、シュウ酸、EDTAを含む除染廃液の処理にも適用できる。
【0023】
鉄イオンは第一鉄イオンFe2+、第二鉄イオンFe3+いずれも使用可能であり、鉄源として硫酸鉄、硝酸鉄、塩化鉄などが使用される。また、過酸化水素による湿式酸化は、水性媒体が酸性のときによく進行するため、反応の開始に当たって、硫酸などの酸が添加される。また、廃棄物にアンモニアやアミン類は、反応中は液中に保持されていて揮発しないため、反応終了後、苛性ソーダなどのアルカリを加えて液を中和して、放出される。以上のような処理によって、クラッド(酸化鉄)および硫酸ナトリウムを主成分とする分解液が生成される。本発明ではこのような分解液を処理液として使用する。
【0024】
本発明で使用される処理液中に含まれる固形鉄不純物および硫酸ナトリウムの濃度は特に制限されないが、通常、固形鉄不純物が1~100g/リットル、硫酸ナトリウムが2~200g/リットルの量で含まれる。
【0025】
凍結再融解
本発明では、前記処理液に、可溶性金属塩を添加したのち、pHを6以上にして、金属水酸化物固体を生じさせ、前記金属水酸化物固体を含む懸濁液を凍結再融解する。
可溶性金属塩としては、前記pHは水酸化物の固体を生じるものであれば特に制限されないが、本発明では、鉄塩、ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩の少なくとも1種であることが好ましく、さらに鉄塩が好ましい。
【0026】
可溶性鉄塩は、難ろ過性物質の鉄元素をα-Fe2O3に換算したときの含有量(重量)を1としたときに、Fe(OH)3に換算した重量比で、0.1倍以上、好ましくは0.1~2倍、さらに好ましくは0.15~0.4倍となる量で添加される。難ろ過性物質が鉄以外の元素の場合も同様に、重量比が前記範囲となるように添加される。
また鉄以外の可溶性金属塩を使用する場合、金属水酸化物に換算して重量比が前記範囲となるように添加される。
【0027】
可溶性鉄塩としては、特に制限されないものの、処理液を凍結する必要があるため、凝固点降下を著しく生じさせない程度の可溶性を有する塩が好ましく、20℃の水に50~150g/リットルの溶解度を有する塩が好ましい。具体的には、可溶性鉄塩として硫酸鉄(II)または(III)であることが好ましい。硫酸鉄を使用すると、pH調整して固体を調製する際に、硫酸ナトリウムを生成し、硫酸ナトリウム塩は温度を下げると溶解度が低下するので、ある程度の濃度に達すると固形分として析出するため、塩濃度が高くならず、凝固点降下が生じにくくなる。これにより、-15℃程度の比較的に高い温度でも凍結が容易となる。なお、可溶性鉄塩として、塩化鉄などを添加する場合、固形分が析出することもなく、生成する塩化ナトリウムなどの塩による凝固点降下によって、-15℃程度の冷却では凍結せず、また特開昭55-157393号公報、特開昭55-157394号公報に、難ろ過性物質のろ過に塩化鉄などの塩の添加は好ましくないとする記載として開示されている。また、硫酸マンガン、硫酸コバルト、硫酸ニッケルなどの硫酸塩も使用することが可能である。
【0028】
本発明で可溶性金属塩を添加後、処理液のpHを6以上に調整する。pH調整は公知の方法によって行われ、例えば苛性ソーダなどのアルカリを加えて液のpHを6以上にすればよい。pHは、金属水酸化物固体を生じうる範囲であれば特に制限されないが、好ましくは8~9の範囲に調整する。クラッド自体は難ろ過性であるが、金属水酸化物固体が生成する際に、その固体中にクラッドが取り込まれ、凍結融解処理によってろ過しやすくなる。なお、予め金属水酸化物固体を加えて、凍結融解処理をしても、本発明の効果は発揮されない。
【0029】
なお、凍結融解処理の前に、容量を減らすために、水を蒸発させて、処理液の減容を図ることも可能であり、処理液を減圧したり、加熱して水を蒸散させてもよい。
金属水酸化物固体を含む処理液の固体濃度は、40~120g/l、塩濃度は80~240g/lの範囲にある。この範囲にあるものは、凍結再融解によるろ過効率を高くできる。
【0030】
本発明では、上記処理液を凍結し、凍結物を融解してから、この融解液を固液分離装置に供給して残渣とろ液に分離する。放射性物質を含む難ろ過性物質は金属水酸化物固体とともに残渣として回収される。
【0031】
凍結によって水分が氷の結晶となって成長し、固形分は氷と氷の間に移動して圧縮され、大きなブロック状に結合・合体しながら濃縮して、ろ過特性を改善するものである。更に、全体に凍結すると氷の生成の膨張力により、ブロック状の固形物に強力な圧縮力が加わるため、ゲル状構造などを形成していても、それが破壊されて内部に包含されている水分が流出し、より脱水効果が高くなる。このため、難ろ過性である、固形鉄不純物でもろ過性を向上できる。
【0032】
次にこの凍結物を加温して融解すると、融解状態でもブロック状の粗大粒子の形状が保たれているために、高密度の粗大粒子の固形物が沈降し、水分(可溶性塩を含む)は上澄水として分離される。
凍結は、処理液中の水分が凍結する温度であれば特に制限ない。
【0033】
融解は、冷凍状態を解除して液状化するまで温めればいいが、自然解凍であっても、ヒーターや湯浴などの温熱手段を用いてもよい。
【0034】
固液分離装置は、減圧ろ過、プレスろ過等の他に、遠心分離などの公知の手段を例示することができる。
ろ液中には、硫酸ナトリウムなど可溶性塩類が含まれているものの、放射性物質を含む難ろ過性物質は、固形分として分離されているので、放射線線量が低い排水として処分できる。また、固液分離の際に、残渣を更に水で洗浄して洗浄水相に可溶性塩類を回収することも可能である。
【0035】
固液分離された残渣は、必要に応じて、乾燥して、水分を除去してもよい。ろ過性が改善された残渣は、水分が抜けやすいため、洗浄性も乾燥性も高い。
排水に回収された硫酸ナトリウム溶液はL2廃棄物とすることができるので、L1廃棄物を低減することが可能となる。
【0036】
装置
たとえば処理設備の概略として、被処理物の処理液を一旦貯槽する処理液貯槽と、この貯槽と配管で連結され処理液を濃縮する濃縮槽と、濃縮された処理液の大部分を送給し凍結融解して固液分離させるための凍結融解装置と、融解後の処理液を固液分離させる固液分離装置などを備えて構成されている。貯槽や濃縮層には撹拌手段が設けられていてもよい。
【0037】
そして、冷凍機としては、公知のものを特に制限されずに使用でき、たとえばアンモニア吸収冷凍機を用いることも可能である。冷媒としてアンモニアを使用すると、環境に有害なフロンを用いることなく、安価で熱力学的に優れた物性を有する冷媒として機能するので都合がよいからである。このアンモニア吸収冷凍機を作動させる駆動源として、スラッジなどの焼却、コージェネレーション等の排熱エネルギーを供給するようにすると、一層ランニングコストを低減できて都合がよい。
【0038】
解凍された処理液は、真空脱水機などの脱水装置により固液分離され、残渣は洗浄および乾燥され、ろ液は必要に応じて濃縮されたのち、放射線廃棄物の区分に応じて処理される。
【実施例
【0039】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0040】
実施例1
原子力発電所のフィルタースラッジの模擬処理として、分解反応容積2Lの反応器中で、パウデックス樹脂を湿式分解して、クラッド濃度(α-Fe2O3換算)が4質量%となる処理液を調製した。処理液のpHは12であった。得られた処理液200mlに、可溶性鉄塩として、Fe2(SO4)3・nH2O(n≒7)を、水酸化鉄(Fe(OH)3)換算で、所定の対α-Fe2O3重量比で0.85倍となるように添加したところでpHは3以下まで低下した。これにNaOH溶液を加えpHを変化させて、各pHで、Fe(OH)3を沈殿させた。その後、家庭用冷蔵庫の冷凍庫内で、-15℃に凍結させたのち、室温まで戻して、融解させたのち、ろ過面積:3.2cm2(ろ過径41mmφ)の吸引ろ過器を用いて、ろ過速度を測定した。
結果を、図1に示す。図1(a)はpHによるろ過速度の変化、図1(b)は、ろ液の状態を観察した写真を示す。
【0041】
pHが7~10ではろ過性が良いため、ろ過速度が高く、また、ろ液は混濁もなく無色透明であった。一方、pHが2.5では、ろ過できない水酸化鉄がろ液に混入して赤濁していた。また、pHが高い処理条件では、水酸化鉄の溶解とみられる、ろ液の着色が発生していた。
【0042】
実施例2
実施例1と同様に調製した処理液に硫酸鉄を、α-Fe2O3に対して、Fe(OH)3が0.1~2倍になるように添加した。硫酸鉄添加によって弱酸性になった分解液に、NaOH溶液を添加してpH=9になるように調整した。実施例2では、その後-15℃で凍結させ、融解処理を実施し、ろ過速度を測定した。結果を図2に示す。図2(a)は硫酸鉄添加倍率によるろ過速度の変化、図2(b)は、ろ液の状態を観察した写真を示す
その結果、添加倍率0.1以上でろ過速度の向上が見られ、添加倍率0.2~1.0では、ろ過速度が高く向上した。ろ液は添加倍率が0.1以上で透明となった。
【0043】
実施例3
実施例1と同様に調製した処理液(pH=12)に硫酸鉄を添加した。硫酸鉄添加量は、α-Fe2O3に対して、0.25倍のFe(OH)3となる量とし、添加後、処理液のpHは3程度まで低下した。これにNaOH溶液を加えpHを変化させて、各pHで、Fe(OH)3を沈殿させた。その後、同様にして、凍結融解処理を行い、ろ過速度を測定した。
結果を、図3に示す。図3(a)はpHによるろ過速度の変化、図3(b)はろ液の状態を観察した写真を示す。
その結果、pHは6~12でろ過速度の向上が見られた。また、添加倍率0.2~1.0では、ろ過速度が向上した。ろ液はpHが6~9で、無色透明であり、それより高くなると、着色したが濁りはなかった。pHが2.5では、ろ過できない水酸化鉄がろ液に混入して赤濁していた。
【0044】
比較例1
添加する鉄塩として、硫酸鉄の代わりに、塩化鉄を添加し、その添加量を0.25、0.5、0.75および1.0倍とし、NaOH溶液を添加してアルカリ性とした後、凍結再融解処理を実施してろ過速度を測定した。結果を図4に示す。
凍結温度-15℃では、完全に凍結しない状況が見られ、凍結の有り無しによらず、ろ過速度は向上しなかった。
図1
図2
図3
図4