IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧

<>
  • 特許-ステアリングシステム 図1
  • 特許-ステアリングシステム 図2
  • 特許-ステアリングシステム 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】ステアリングシステム
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20230404BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20230404BHJP
   B62D 5/065 20060101ALI20230404BHJP
   B62D 5/07 20060101ALI20230404BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20230404BHJP
   B62D 117/00 20060101ALN20230404BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20230404BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20230404BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D5/065 B
B62D5/07
B62D101:00
B62D117:00
B62D119:00
B62D113:00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019077310
(22)【出願日】2019-04-15
(65)【公開番号】P2020175699
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 聡将
(72)【発明者】
【氏名】藤田 修司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 公紀
(72)【発明者】
【氏名】福井 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】池田 強
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-150644(JP,A)
【文献】特開2018-047715(JP,A)
【文献】特開2006-213094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00-6/10
B62D 5/00-5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるステアリングシステムであって、
運転者によって操作されるステアリング操作部材と、
前記ステアリング操作部材に連結され、そのステアリング操作部材の操作に応じて回転するステアリングシャフトと、
前記ステアリングシャフトが連結されて前記ステアリングシャフトによって回転させられる入力軸と、車輪に連結された転舵部材を有し、前記ステアリングシャフトの回転に応じてその転舵部材を動作させることでその動作に応じた車輪の転舵を実現する転舵機構と、
前記ステアリングシャフトにトルクを付与することで前記ステアリング操作部材の操作をアシストする操作アシスト装置と、
前記車両が備えるエンジンによって回転させられてそのエンジンの回転数に応じた流量の作動液を供給するための作動液供給源として機能するエンジンポンプと、そのエンジンポンプから供給される作動液の流量である供給流量を調整する流量調整機構と、そのエンジンポンプから供給される作動液を受け入れる液圧式のアクチュエータとを有し、前記転舵機構の前記転舵部材の動作をアシストする転舵アシスト装置と、
前記操作アシスト装置が前記ステアリングシャフトに付与するトルクを制御するとともに、前記転舵アシスト装置の前記流量調整機構を制御することで、作動液の供給流量を制御するコントローラと
を備え、
前記転舵アシスト装置が、作動液の供給流量に依存して、前記ステアリングシャフトによって前記入力軸に付与されるトルクである転舵トルクに応じたアシスト力で前記転舵部材の動作をアシストするように構成され、
前記コントローラが、前記ステアリング操作部材の操作速度が設定閾速度以上となったときに、前記アクチュエータが受け入れる作動液の流量が不足しないように、作動液の供給流量を、それまでの設定小流量から設定大流量に増加させるように構成されたステアリングシステム。
【請求項2】
前記操作アシスト装置が、
前記ステアリングシャフトに付与するトルクの発生源として電動モータを有する請求項1に記載のステアリングシステム。
【請求項3】
当該ステアリングシステムが、前記ステアリング操作部材の操作によって前記ステアリングシャフトに付与されるトルクである操作トルクを検出するための操作トルクセンサを備え、
前記コントローラが、前記操作アシスト装置が前記ステアリングシャフトに付与するトルクを、検出された操作トルクに応じて制御するように構成された請求項1または請求項2に記載のステアリングシステム。
【請求項4】
前記コントローラが、前記ステアリング操作部材の操作速度に基づいて、前記操作アシスト装置が前記ステアリングシャフトに付与するトルクを制御するように構成された請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【請求項5】
前記コントローラが、前記ステアリング操作部材の操作量に基づいて、前記操作アシスト装置が前記ステアリングシャフトに付与するトルクを制御するように構成された請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【請求項6】
前記コントローラが、前記車両の走行速度に基づいて、前記操作アシスト装置が前記ステアリングシャフトに付与するトルクを制御するように構成された請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるステアリングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される一般的なステアリングシステムは、(a) 運転者によって操作されるステアリング操作部材と、(b) そのステアリング操作部材に連結され、そのステアリング操作部材の操作に応じて回転するステアリングシャフトと、(c) 車輪に連結された転舵部材を有し、ステアリングシャフトの回転に応じてその転舵部材を動作させることでその動作に応じた車輪の転舵を実現する転舵機構とを含んで構成される。そのようなステアリングシステムにおいて、例えば、下記特許文献に記載されているように、2つのアシスト装置、詳しくは、(d) ステアリングシャフトにトルクを付与することで前記ステアリング操作部材の操作をアシストする操作アシスト装置と、(e) 作動液を供給するための作動液供給源を有し、その作動液供給源から供給される作動液によって前記転舵機構の前記転舵部材の動作をアシストする転舵アシスト装置とを設けることも検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-51263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献に記載されているステアリングシステムでは、操作アシスト装置がステアリングシャフトに付与するトルク(以下、「アシストトルク」という場合がある)と、転舵部材の動作に対するアシスト力とを、ステアリング操作部材の操作量と、車両の走行速度とに基づいて、協調的に制御している。そのような協調制御を行ったとしても、例えば、ステアリング操作部材の操作速度が高い場合には、ステアリング操作部材の操作に対して車輪の転舵が遅れることが予想される。転舵アシスト装置が、作動液供給源から供給される作動液の流量である供給流量に依存したアシスト力で転舵部材の動作をアシストするようにされている場合、供給流量が大きい状態を常に維持しておけば、上記転舵の遅れを生じさせる可能性は低い。しかしながら、供給流量が大きい状態を常に維持しておくことは、作動液供給のためのエネルギ消費が相当に大きなものとなる。そのような問題に対処することは、上記2つのアシスト装置を備えたステアリングシステムの実用性を向上させることに繋がる。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高いステアリングシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のステアリングシステムは、作動液の供給流量に依存したアシスト力で転舵部材の動作をアシストするように構成された転舵アシスト装置を備えたステアリングシステムにおいて、ステアリング操作部材の操作速度が設定閾速度以上となる場合に、作動液の供給流量を設定小流量から設定大流量に増加させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のステアリングシステムによれば、ステアリング操作部材の操作部材の操作速度が比較的高い場合に、転舵アシスト装置の作動液供給源からの作動液の供給流量を大きくして上述の転舵の遅れを防止し、ステアリング操作部材の操作速度が比較的低い場合には、その供給流量を小さくすることで、転舵アシスト装置の作動液供給源のエネルギ消費を小さくすることが可能となる。
【発明の態様】
【0007】
本発明のステアリングシステムの基本的な態様、すなわち、基本態様のステアリングシステムは、
車両に搭載されるステアリングシステムであって、
運転者によって操作されるステアリング操作部材と、
前記ステアリング操作部材に連結され、そのステアリング操作部材の操作に応じて回転するステアリングシャフトと、
車輪に連結された転舵部材を有し、前記ステアリングシャフトの回転に応じてその転舵部材を動作させることでその動作に応じた車輪の転舵を実現する転舵機構と、
前記ステアリングシャフトにトルクを付与することで前記ステアリング操作部材の操作をアシストする操作アシスト装置と、
作動液を供給するための作動液供給源と、その作動液供給源から供給される作動液の流量である供給流量を調整する流量調整機構とを有し、その作動液供給源から供給される作動液によって前記転舵機構の前記転舵部材の動作をアシストする転舵アシスト装置と、
前記操作アシスト装置が前記ステアリングシャフトに付与するトルクを制御するとともに、前記転舵アシスト装置の前記流量調整機構を制御することで、作動液の供給流量を制御するコントローラと
を備え、
前記転舵アシスト装置が、作動液の供給流量に依存したアシスト力で前記転舵部材の動作をアシストするように構成され、
前記コントローラが、前記ステアリング操作部材の操作速度が設定閾速度以上となる場合に、作動液の供給流量を増加させるように構成される。
【0008】
上記基本態様のステアリングシステムにおいて、「ステアリング操作部材」は、例えば、ステアリングホイールのようなものであり、ステアリング操作部材がステアリングホイールである場合の操作量は、ステアリングホイールの回転角、すなわち、操作角と考えることができる。「ステアリングシャフト」は、ステアリング操作部材と後述の転舵機構とを連結するものであり、例えば、いわゆるステアリングコラムによって車体に保持されていればよい。「転舵機構」は、種々の形式のものを採用することが可能である。例えば、ステアリングシャフトに連結されてステアリングシャフトから付与されるトルクによって回転させられる入力軸として、ピニオンを有するピニオン軸を、車輪を転舵するために入力軸の回転によって動作させられる転舵部材として、左右の車輪を繋ぐようにして配設されて上記ピニオンと噛合するラックが形成されたラックバーを、それぞれ有するラック&ピニオン式の機構を採用することが可能である。
【0009】
2つのアシスト装置のうちの一方である「転舵アシスト装置」は、作動液を利用して転舵部材の動作をアシストすることで、車輪の転舵をアシストすることを目的とする装置、いわゆる一般的な液圧式パワーステアリングシステムに採用される転舵アシスト装置である。本転舵アシスト装置は、運転者によってステアリング操作部材に加えられる力(以下、「操作力」という場合がある)によっては、充分な転舵が行われないことを考慮して、転舵部材の動作をアシストする。転舵アシスト装置は、アシスト力を転舵部材に付与するように構成されたものであってもよく、また、例えば、転舵機構が上述の入力軸を有する場合には、アシスト力をその入力軸にトルクとして付与するように構成されたものであってもよい。つまり、転舵アシスト装置は、転舵部材の動作を、直接的若しくは間接的にアシストするものであればよいのである。
【0010】
転舵アシスト装置が上記入力軸を有する場合、ステアリングシャフトからその入力軸に付与されるトルクである転舵トルクに応じたアシスト力を付与するように構成することが望ましい。具体的に言えば、転舵アシスト装置が、入力軸と、作動液を受け入れてアシスト力を転舵部材に付与するアクチュエータとを有するように構成される場合、入力軸とステアリングシャフトとの間にトーションバーを配設し、アクチュエータが受け入れる作動液の量をそのトーションバーの捩れ量に応じて調整するような弁機構を設けることで転舵トルクに応じたアシスト力を付与するように構成することができる。
【0011】
転舵アシスト装置の作動液供給源は、例えば、ポンプであるが、そのポンプは、電動モータを駆動源とする電動ポンプであってもよく、当該車両のエンジンを駆動源とするエンジンポンプであってもよい。エンジンポンプは、信頼性が高く、液圧式の転舵アシスト装置において広く一般的に用いられているものであるため、エンジンポンプを採用することで、一般的な転舵アシスト装置に本態様のステアリングシステムを適用することが可能となる。エンジンポンプを採用する場合、ステアリング操作部材の操作速度が比較的高い場合を除いて作動液の供給流量を小さくできることで、エンジンの負荷が軽減される。したがって、エンジンポンプを採用する場合、本態様のステアリングシステムは、当該車両の燃費の改善に大きく寄与する。
【0012】
転舵アシスト装置の流量調整機構は、例えば、電磁弁を含んで構成し、その電磁弁がコントローラによって制御されることで、作動液供給源から供給される作動液の流量を調整するように構成すればよい。流量調整機構は、供給流量が大きい場合に作動液供給源の負荷が大きくなるものの、供給流量が小さい場合には作動液供給源の負荷が小さくなるようなものとすることが望ましい。なお、作動液の流量とは、一般に、単位時間当たりの流量を意味し、厳密には流速と言うべきであるかもしれないが、本明細書では、断りのない限り、一般的な呼び方に従って、単位時間当たりの流量のことを、単に、「流量」と言うことにする。
【0013】
コントローラによる流量調整機構の制御に関して言えば、ステアリング操作部材の操作速度(以下、単に「操作速度」という場合がある)が設定閾速度以上となる場合に、作動液の供給流量が増加させられる。操作速度が比較的低い場合には、ステアリング操作部材の操作に転舵機構による車輪の転舵は充分に追従可能であるため、供給流量を小さく抑えることで、作動液供給源の負荷が小さくされる。それに対して、操作速度が比較的高い場合には、ステアリング操作部材の操作に転舵機構による車輪の転舵が追従できない可能性が高いため、供給流量を大きくすることで、その転舵の遅れを防止若しくは抑制可能なアシスト力が確保される。ステアリング操作部材の操作速度に基づいて作動液供給源の負荷を切り換えることで、できるだけ作動液供給源のエネルギ消費を抑えつつ(作動液供給源がエンジンポンプであるときには当該車両の燃費を抑えつつ)、ステアリング操作に対する転舵の遅れを防止若しくは抑制することが可能である。
【0014】
なお、操作速度が設定閾速度以上となる場合の供給流量の増加の態様について詳しく言えば、操作速度が設定閾速度となった時点で、作動液の供給流量を、それまでの設定小流量から、設定大流量にまで、一気に増加させてもよく、また、操作速度が設定閾速度となった時点から、作動液の供給流量を、設定小流量から設定大流量まで、操作速度の高さに応じて段階的に若しくは連続的に増加させてもよい。
【0015】
2つのアシスト装置のうちの他方である「操作アシスト装置」は、ステアリングシャフトにトルク、すなわち、アシストトルクを付与することで、運転者の操作力についての負担を軽減し、運転者の操作に対する操作感を良好なものとすることを、主目的とする装置である。このアシストトルクは、積極的に付与させることで、運転者に拠らないステアリング操作を当該ステアリングシステムに行わせることにも利用可能である。つまり、操作アシスト装置によって、例えば、当該車両の自動運転システム,走行レーンの維持等の運転支援システム等からの要求に応じたステアリング操作を当該ステアリングシステムに行わせることが可能となる。なお、操作アシスト装置が付与するアシストトルクは、運転者によるステアリング操作を推進する向きのトルクに限定されない。場合によっては、運転者のステアリング操作に対抗する向きのトルク、すなわち、対抗トルク(「反力トルク」と呼ぶこともできる)であってもよい。
【0016】
操作アシスト装置は、アシストトルクの発生源が特に限定されるものではないが、例えば、電動モータをアシストトルクの発生源とするものであってもよい。発生源として電動モータを採用すれば、応答性の良好な操作アシスト装置を構築することができ、運転者の操作感をより向上させることが可能となる。
【0017】
操作アシスト装置は、操作力に対する運転者の負担を軽減するという目的からすれば、操作トルクに応じたアシストトルクをステアリングシャフトに付与するように構成することが望ましく、コントローラは、そのようなアシストトルクを付与するように操作アシスト装置を制御することが望ましい。操作アシスト装置がアシストトルクの発生源として電動モータを含んで構成されている場合、コントローラは、例えば、その電動モータに供給される電流を制御することで、アシストトルクを制御すればよい。ステアリング操作部材の操作によってステアリングシャフトに付与されるトルクである操作トルクを検出するためのセンサ、すなわち、操作トルクセンサは、例えば、ステアリング操作部材がステアリングホイールである場合には、そのステアリングホイールとステアリングシャフトとの間にトーションバーを配設し、そのトーションバーの捩れ量を検出することで、操作トルクを検出するような構成のものを採用することができる。
【0018】
コントローラによる操作アシスト装置の制御、つまり、コントローラによるアシストトルクの制御について説明すれば、例えば、コントローラは、ステアリング操作部材の操作速度に基づいてアシストトルクを制御してもよい。
【0019】
また、例えば、コントローラは、ステアリング操作部材の操作量(ステアリング操作部材がステアリングホイールである場合にはステアリングホイールの操作角)に基づいてアシストトルクを制御してもよい。
【0020】
さらに、例えば、コントローラは、車両の走行速度に基づいてアシストトルクを制御してもよい。その場合、具体的には、例えば、車両の走行速度が高くなるにつれてアシストトルクが小さくなるように操作アシスト装置を制御すればよい。
【0021】
つまり、ステアリング操作部材の操作速度,ステアリング操作部材の操作量,車両の走行速度等のパラメータのうちの少なくとも1つに基づいてアシストトルクを制御することで、ステアリング操作部材の操作に対してより良好な操作感を運転者に与えることが可能となる。アシストトルクの制御は、1つのパラメータに依拠するものであってもよく、複数のパラメータに基づくものであってもよい。複数のパラメータに依拠してアシストトルクを制御する場合、例えば、各パラメータに対応したアシストトルク成分を決定し、それらアシストトルクの成分を足し合わせることでアシストトルクを決定してもよい。
【0022】
「コントローラ」は、例えば、コンピュータを主要構成要素とし、操作アシスト装置の駆動回路,転舵アシスト装置の流量調整機構の駆動回路等を含んで構成されるような電子制御ユニットを採用すればよい。コントローラは、操作アシスト装置と転舵アシスト装置の流量調整機構との両方を制御する1つの電子制御ユニットによって構成されてもよく、また、それぞれがコンピュータを有する2つの電子制御ユニットを、すなわち、操作アシスト装置を制御する電子制御ユニットと、転舵アシスト装置の流量調整機構を制御する電子制御ユニットとを含んで構成されるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例のステアリングシステムの全体構成を模式的に示す図である。
図2】実施例のステアリングシステムが備える操作アシスト装置によって付与されるアシストトルクの各成分を決定するためのゲインを示すグラフである。
図3】実施例のステアリングシステムにおいて実行される制御プログラムのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態として、本発明の実施例であるステアリングシステムを、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施例の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【実施例
【0025】
[A]ステアリングシステムのハード構成
図1に示すように、実施例のステアリングシステムが搭載されている車両10は、2つの前輪12が、転舵輪でありかつ駆動輪とされている。車両10は、駆動源としてのエンジン14を備え、そのエンジン14の回転が、トルクコンバータ/トランスミッション16,デファレンシャル18,ドライブシャフト20R,20Lを介して、ステアリングナックル22に保持された前輪12に伝達される。前輪12の回転によって、車両10は走行する。
【0026】
実施例のステアリングシステムは、(a) 運転者によって操作されるステアリング操作部材としてのステアリングホイール30と、(b) ステアリングコラム32によって保持され、一端がステアリングホイール30に連結されてステアリングホイール30の操作に応じて回転するステアリングシャフト34と、(c) 両端が前輪12にそれぞれ連結されて車幅方向に延びるように配設された転舵部材としてのステアリングロッド36を有し、そのステアリングロッド36をステアリングシャフト34の回転に応じて動作させることでその動作に応じた前輪12の転舵を実現する転舵機構38とを備えている。
【0027】
転舵機構38は、ステアリングシャフト34の他端が連結されるとともにギヤボックス40に保持された入力軸42を有している。入力軸42には、ギヤボックス40内において、ピニオンが形成されている。一方、ステアリングロッド36もギヤボックス40に保持され、ステアリングロッド36には、そのピニオンに噛合するラック44が形成されている。つまり、転舵機構38は、ラック&ピニオン式の動作変換機構を有しており、ステアリングシャフト34の回転によって入力軸42が回転することで、ステアリングロッド36が車幅方向に移動する。ステアリングロッド36の両端は、それぞれ、リンクロッド46を介して、左右の前輪12をそれぞれ保持するステアリングナックル22のナックルアーム48に連結されており、ステアリングロッド36の移動によって、前輪12が転舵される。
【0028】
ステアリングシャフト34の一端は、第1トーションバー60を介してステアリングホイール30に連結されている。ステアリングコラム32には、その第1トーションバー60の捩れ量を検出して、ステアリングホイール30の操作によってステアリングシャフト34に付与されるトルク(以下、「操作トルク」という場合がある)を検出する操作トルクセンサ62が設けられている。ちなみに、操作トルクは、ステアリング操作によって運転者がステアリングホイール30に加えるトルクと考えることができる。一方、ステアリングシャフト34の他端は、第2トーションバー64を介して転舵機構38の入力軸42に連結されている。この第2トーションバー64の捩れ量は、ステアリングシャフト34によって入力軸42に付与されるトルク(以下、「転舵トルク」という場合がある)に応じたものとなる。
【0029】
本ステアリングシステムは、作動液(作動油である)によって転舵機構38のステアリングロッド36の動作をアシストする転舵アシスト装置70を備えている。転舵アシスト装置70は、ステアリングロッド36に固定されたピストン72と、ピストン72によって内部が2つの液室74R,74Lに区画されるハウジング76とを有する液圧式のアクチュエータ78を有している。また、転舵アシスト装置70は、エンジン14によって駆動される作動液供給源としてのエンジンポンプ80を有している。エンジンポンプ80は、作動液を貯留するリザーバ82から汲上路84を介してその作動液を汲み上げ、その汲み上げた作動液を、供給路86を介して、後述の供給流制御機構88に供給する。
【0030】
供給流制御機構88は、例えば、特開平6-8840号公報の図2に示すような一般的な構造のものであり、具体的には、例えば、第2トーションバー64の捩れ量および捩れの向き、すなわち、転舵トルクと転舵の向きとに基づいて、アクチュエータ78に供給する作動液の流量、および、2つの液室74R,74Lのいずれに作動液を供給するかを制御する機能を有している。供給流制御機構88は、エンジンポンプ80から供給された作動液を受け入れ、転舵トルクが入力軸42に作用していない場合には、帰還路90を介して、リザーバ82に、その受け入れた作動液を帰還させる。つまり、作動液は、循環させられるのである。一方で、転舵トルクが入力軸42に作用している場合には、供給流制御機構88は、受け入れた作動液の少なくとも一部を、転舵の向きに応じたアクチュエータ78の2つの液室74R,74Lの一方に、転舵トルクに応じた流量で供給し、他方からその流量と同じ流量の作動液を受け入れて、その受け入れた作動液をもリザーバ82に帰還させるようにされている。アクチュエータ78は、供給流制御機構88から2つの液室74R,74Lの一方に供給された作動液の圧力に応じた力がピストン72に作用することで、その力(以下、「アシスト力」という場合がある)によって、ステアリングロッド36が前輪12を転舵する力である転舵力をアシストする。つまり、転舵アシスト装置70は、転舵トルクに応じたアシスト力でステアリングロッド36の動作をアシストするように構成されているのである。
【0031】
エンジンポンプ80は、エンジン14の回転数(厳密には、「回転速度」の意味である)に応じた流量の作動液を吐出するようにされている。そのため、転舵アシスト装置70には、エンジンポンプ80の吐出側に、エンジンポンプ80から吐出される作動液の流量を制限する流量制限機構92が設けられている。この流量制限機構92は、例えば、特許第3218788号公報,特開平8-301132号公報,特開平6-8840号公報等に示すような構造、つまり、バルブを含んだ一般的な構造のものであり、具体的には、エンジン14の回転数がある程度高くなった場合に、自身を通過して供給流制御機構88に送られる作動液の流量を、設定された流量に制限する機能を有している。さらに、転舵アシスト装置70では、流量制限機構92からの吐出側において流量制限機構92と直列的に設けられ、流量制限機構92から供給流制御機構88に送られる作動液の流量を制御するための流量制御機構94が設けられている。流量制御機構94は、例えば、特開2014-19290号公報の図2に示すような一般的な構造の電磁バルブ機構であり、ソレノイドに供給される電流に応じた流量の作動液の通過を許容する機能を有している。転舵アシスト装置70は、流量制限機構92と流量制御機構94とを含んで構成された機構、つまり、エンジンポンプ80から供給流制御機構88に供給される作動液の流量(以下、「供給流量」という場合がある)を調整する流量調整機構96を有しているのである。
【0032】
以上説明した構造から解るように、転舵アシスト装置70は、供給流量に依存したアシスト力でステアリングロッド36の動作をアシストするように構成されており、概ね、アシスト力は、供給流量が大きくなる程大きく、供給流量が小さくなる程小さくなる。
【0033】
さらに、本ステアリングシステムは、ステアリングシャフト34にトルクを付与することでステアリングホイール30の操作をアシストする操作アシスト装置100を備えている。操作アシスト装置100は、ステアリングシャフト34に付与するトルク(以下、「アシストトルク」という場合がある)の発生源として、電動モータ102を有しており、その電動モータ102の発生させるトルクは、減速機104を介して、アシストトルクとしてステアリングシャフト36に付与される。電動モータ102は、三相のブラシレスDCモータであり、アシストトルクは、電動モータ102に供給される電流(以下、「供給電流」という場合がある)に応じたものとなる。供給電流が大きい程アシストトルクは大きくなり、供給電流が小さいほどアシストトルクは小さくなる。
【0034】
本ステアリングシステムにおける転舵アシスト装置70および操作アシスト装置100の制御、詳しくは、流量調整機構96の流量制御機構94および電動モータ102の制御は、コントローラとしての電子制御ユニット(以下、「ECU」という場合がある)110によって行われる。ECU110は、CPU,ROM,RAM等を含んで構成される主要構成要素としてのコンピュータと、そのコンピュータからの指令によって作動させられる流量制御機構94のソレノイドの駆動回路および電動モータ102の駆動回路であるインバータとを含んで構成され、作動液の供給流量およびアシストトルクを制御する。なお、本ステアリングシステムには、ステアリングホイール30の操作角を、ステアリング操作部材の操作量として検出するための操作角センサ112や、前輪12を含む4つの車輪の各々の回転速度である車輪回転速度を検出するための車輪速センサ114を備えており、それら操作角センサ112,車輪速センサ114も、先に説明した操作トルクセンサ62とともに、ECU110に接続されている。
【0035】
[B]ステアリングシステムの制御
i)転舵アシスト装置における作動液の供給流量の制御
先に説明した構成から解るように、転舵機構38は、ステアリングホイール30の操作角θに応じた前輪12の転舵を実現するものであり、転舵アシスト装置70は、適切な前輪12の転舵を実現させるためにステアリングロッド36の動作をアシストするものである。本ステアリングシステムでは、ECU110は、操作角センサ112によってステアリングホイール30の操作角θを検出しており、検出された操作角に基づいて、ステアリングホイール30の操作速度dθ/dtを認定するようにされている。
【0036】
ステアリングホイール30の操作速度dθ/dtが比較的高い場合、すなわち、比較的速いステアリング操作が運転者によって行われた場合、アクチュエータ78のピストン72が速く動く分アクチュエータ78は大きな流量の作動液を受け入れる必要がある。そのことを考慮して、本ステアリングシステムでは、操作速度dθ/dtが設定閾速度(dθ/dt)0以上となったときには、アクチュエータ78が受け入れる作動液の流量が不足しないように、作動液の供給流量Qが、比較的大きな流量として設定された設定大流量QHとされる。
【0037】
一方で、ステアリングホイール30の操作速度dθ/dtが比較的低い場合、すなわち、運転者によって行われているステアリング操作が比較的遅い場合には、アクチュエータ78のピストン72の動きは遅く、アクチュエータ78が受け入れる作動液の流量は小さくて済む。そのことを考慮して、本ステアリングシステムでは、操作速度dθ/dtが設定閾速度(dθ/dt)0未満であるときには、エンジンポンプ80の負荷を軽減するために、作動液の供給流量Qが、比較的小さな流量として設定された設定小流量QLとされる。このエンジンポンプ80の負荷の軽減によって、エンジン14の負担が軽減され、当該車両10の燃費が向上させられることになる。
【0038】
なお、先に説明したように、供給流量Qの変更は、流量制御機構94のソレノイドへ供給される電流を変更することによって行われる。
【0039】
ii)操作アシスト装置が付与するアシストトルクの制御
本ステアリングシステムでは、ステアリング操作において運転者が感じるステアリングホイール30の操作感を良好なものとすることを主目的として、操作アシスト装置100が設けられており、その操作アシスト装置100がステアリングシャフト34に付与すべきアシストトルクTAは、以下のようにして決定される。
【0040】
本ステアリングシステムでは、アシストトルクTAを構成する成分として、操作トルク依拠成分TA-TO,操作速度依拠成分TA-R,操作角依拠成分TA-θの3つの成分が設定されており、それら操作トルク依拠成分TA-TO,操作速度依拠成分TA-R,操作角依拠成分TA-θが、次式に従って足し合わされることで、ステアリングシャフト34に付与すべきアシストトルクTAが決定される。
A=TA-TO+TA-R+TA-θ
【0041】
操作トルク依拠成分TA-TOは、操作トルクTOと車両の走行速度vとをパラメータとした関数として、操作速度依拠成分TA-Rは、ステアリングホイール30の操作速度dθ/dtと車両の走行速度vとをパラメータとした関数として、操作角依拠成分TA-θは、ステアリングホイール30の操作角θと車両の走行速度vとをパラメータとした関数として、以下のように設定されており、それら関数に従って、操作トルク依拠成分TA-TO,操作速度依拠成分TA-R,操作角依拠成分TA-θの3つの成分が、それぞれ決定される。
A-TO=fTO(TO,v)
A-R=fR(dθ/dt,v)
A-θ=fθ(θ,v)
【0042】
上記関数に従うことにより、操作トルク依拠成分TA-TO,操作速度依拠成分TA-R,操作角依拠成分TA-θの各々は、自身のパラメータの変化に対して、図2のグラフで示すように変化する。具体的に、それぞれの成分について説明すれば、操作トルク依拠成分TA-TOは、基本的な成分であり、運転者のステアリング操作の負担を軽減すべくステアリング操作を推進するためのアシストトルクTAの成分である。操作トルク依拠成分TA-TOは、図2(a)に示すように、操作トルクTOが大きい程アシストトルクTAが大きく、車両の走行速度vが高い程アシストトルクTAが小さくなるように決定される。操作速度依拠成分TA-Rは、ステアリング操作に対する減衰力と考えることができる成分であり、操作トルク依拠成分TA-TOとは逆の向きのアシストトルクTAを付与するための成分である。この逆向きのアシストトルクTAを便宜的にステアリング操作に対する対抗トルクTAと呼べば、図2(b)に示すように、ステアリングホイール30の操作速度dθ/dtが高い程対抗トルクTAが大きく、車両の走行速度vが高い程対抗トルクTAが大きくなるように決定される。操作角依拠成分TA-θは、ステアリング操作を中立位置に戻すための力(いわゆる「ばね力」である)と考えることができる成分であり、操作速度依拠成分TA-Rと同様に、操作トルク依拠成分TA-TOとは逆の向きの対抗トルクTAを付与するための成分である。操作角依拠成分TA-θは、図2(c)に示すように、ステアリングホイール30の操作角θが大きくなる程対抗トルクTAが大きく、車両の走行速度vが高い程対抗トルクTAが小さくなるように決定される。ちなみに、操作トルク依拠成分TA-TO,操作速度依拠成分TA-R,操作角依拠成分TA-θの符号(±)に関して言えば、図2のグラフから解るように、1つのステアリング操作に対して、概して、操作トルク依拠成分TA-TOの符号と、操作速度依拠成分TA-R,操作角依拠成分TA-θの符号とは、異なることになる。
【0043】
上記のように決定されたアシストトルクTAをステアリングシャフト34に付与すべく、操作アシスト装置100の電動モータ102に、そのアシストトルクTAに基づく電流が供給される。なお、操作トルクTOは、操作トルクセンサ62の検出に基づいて入手され、ステアリングホイール30の操作角θは操作角センサ112の検出に基づいて入手される。ステアリングホイール30の操作速度dθ/dtは、入手された操作角θに基づいて認定され、車両走行速度vは、各車輪に設けられた車輪速センサ114によって検出された車輪回転速度vWに基づいて認定される。
【0044】
iii)制御フロー
上述した転舵アシスト装置70における作動液の供給流量Qの制御、および、操作アシスト装置100が付与するアシストトルクTAの制御は、ECU110のコンピュータが、図3にフローチャートを示す供給流量/アシストトルク制御プログラムを、短い時間ピッチ(例えば、数msec~数十msec)で繰り返し実行することによって行われる。以下に、上記2つの制御の処理の流れについて、そのフローチャートを参照しつつ、簡単に説明する。
【0045】
上記プログラムに従う処理では、まず、ステップ1(以下、「S1」と略す。他のステップも同様である。)において、ECU110は、操作角センサ112,車輪速センサ114,操作トルクセンサ62のそれぞれの検出に基づいて、ステアリングホイール30の操作角θ,車輪の回転速度vW,ステアリングホイール30からステアリングシャフト34に加えられている操作トルクTOを入手する。続くS2において、ECU110は、入手した操作角θ,車輪回転速度vWに基づいて、ステアリングホイール30の操作速度dθ/dt,車両走行速度vを、それぞれ認定する。
【0046】
次のS3において、ECU110は、認定した操作速度dθ/dtが、設定閾速度(dθ/dt)0以上であるか否かを判断する。操作速度dθ/dtが設定閾速度(dθ/dt)0以上であるときには、S4において、転舵アシスト装置70が付与するアシスト力を大きくするために、実現されるべき作動液の供給流量Qを設定大流量QHに決定し、操作速度dθ/dtが設定閾速度(dθ/dt)0以上でないときには、S5において、転舵アシスト装置70が付与するアシスト力が小さいままで維持するために、実現されるべき作動液の供給流量Qを設定小流量QLに決定する。ECU110は、S6において、決定された供給流量Qに基づく電流を、流量調整機構96の上記ソレノイドに供給する。
【0047】
ECU110は、続くS7において、設定されている上記3つの関数に従って、入手した操作トルクTO,入手したステアリングホイール30の操作角θ,認定したステアリングホイール30の操作速度dθ/dt,認定した車両走行速度vに基づいて、操作トルク依拠成分TA-TO,操作速度依拠成分TA-R,操作角依拠成分TA-θを決定する。そして、S8において、それら操作トルク依拠成分TA-TO,操作速度依拠成分TA-R,操作角依拠成分TA-θを足し合わせることで、操作アシスト装置100が付与すべきアシストトルクTAを決定する。
【0048】
そして、ECU110は、S9において、以上のようにして決定されたアシストトルクTAに基づく電流を操作アシスト装置100の電動モータ102に供給する。以上の一連の処理を実行することで、当該制御プログラムに従った1サイクルの処理は終了する。
【符号の説明】
【0049】
10:車両 12:前輪〔車輪〕 14:エンジン 30:ステアリングホイール〔ステアリング操作部材〕 34:ステアリングシャフト 36:ステアリングロッド〔転舵部材〕 38:転舵機構 42:入力軸 60:第1トーションバー 62:操作トルクセンサ 64:第2トーションバー 70:転舵アシスト装置 78:アクチュエータ 80:エンジンポンプ〔作動液供給源〕 88:供給流制御機構 96:流量調整機構 100:操作アシスト装置 102:電動モータ 110:電子制御ユニット(ECU)〔コントローラ〕 112:操作角センサ 114:車輪速センサ
図1
図2
図3