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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】溶融紡糸設備
(51)【国際特許分類】
   D01D 5/092 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
D01D5/092 104
D01D5/092 101
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019081480
(22)【出願日】2019-04-23
(65)【公開番号】P2020176354
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳平
(72)【発明者】
【氏名】川本 和弘
(72)【発明者】
【氏名】水谷 光範
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-099941(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0112333(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00 - 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメントを紡出するための紡糸口金を有する紡糸ユニットと、
前記紡糸口金の下方に配置された冷却筒を有し、前記紡糸口金から紡出された前記フィラメントを冷却する冷却ユニットと、
前記フィラメントの走行方向において前記紡糸ユニットと前記冷却ユニットとの間に配置され、前記フィラメントから発生するガスを吸引して排出するための排出流路が形成された排気ユニットと、を備え、
前記排気ユニットは、
前記紡糸口金と前記冷却筒との間に配置され、前記ガスを吸引するための吸引口が形成された吸引部と、
前記ガスが排出されるガス排出方向において、前記吸引部の下流側に配置されたダクト部と、
前記ダクト部の前記ガス排出方向における下流側に配置され、前記ガスを吸引排出する排気装置と、
固定設置された固定管の途中部に接続される、前記排気装置の前記ガス排出方向における下流側に配置された接続管と、
前記固定管から前記接続管への前記ガスの流入を抑制する流入抑制部と、を有することを特徴とする溶融紡糸設備。
【請求項2】
前記排気装置は、出力を変更可能に構成されており、且つ、前記ガスを流入させるためのガス流入部を有し、
前記ガス流入部及び前記ダクト部のうち少なくとも一方に、前記排出流路と前記排出流路の外側の空間とを連通させる外気取込口が形成され、
前記流入抑制部は、前記排気装置と、前記外気取込口とを含むことを特徴とする請求項1に記載の溶融紡糸設備。
【請求項3】
前記排気ユニットは、前記外気取込口の開度を調節するための調節部を有することを特徴とする請求項2に記載の溶融紡糸設備。
【請求項4】
前記調節部は、
前記外気取込口の一部を覆うためのカバー部を有し、
前記カバー部は、前記外気取込口の縁を含む面に沿って移動させられることにより、前記外気取込口を覆っている部分の面積を変更可能であることを特徴とする請求項3に記載の溶融紡糸設備。
【請求項5】
複数の前記排気ユニットを備えることを特徴とする請求項3又は4に記載の溶融紡糸設備。
【請求項6】
前記紡糸ユニットとして、第1紡糸ユニットと、前記第1紡糸ユニットとは別の第2紡糸ユニットと、を備え、
前記排気ユニットは、
前記吸引部として、前記第1紡糸ユニットに対応する第1吸引部と、前記第2紡糸ユニットに対応する第2吸引部と、
前記ダクト部として、前記第1吸引部に対応する第1ダクト部と、前記第2吸引部に対応する第2ダクト部と、を有し、
前記排気装置は、前記ガス流入部として、前記第1ダクト部に対応する第1ガス流入部と、前記第2ダクト部に対応する第2ガス流入部と、を有し、
前記外気取込口として、前記第1ダクト部及び前記第1ガス流入部に対応する第1外気取込口と、前記第2ダクト部及び前記第2ガス流入部に対応する第2外気取込口と、が形成され、
前記調節部として、前記第1外気取込口の開度を調節するための第1調節部と、前記第2外気取込口の開度を調節するための第2調節部と、が設けられていることを特徴とする請求項3~5のいずれかに記載の溶融紡糸設備。
【請求項7】
前記外気取込口は、前記排気装置の前記ガス流入部に形成されていることを特徴とする請求項2~6のいずれかに記載の溶融紡糸設備。
【請求項8】
前記排気装置は、
前記ガス流入部とは別に設けられた、水を流入させるための水流入部と、
前記接続管に接続された、前記ガス及び前記水を流出させるための流出部と、を有するアスピレータであることを特徴とする請求項2~7のいずれかに記載の溶融紡糸設備。
【請求項9】
前記流入抑制部は、
前記接続管の前記ガス排出方向における下流側に配置され、且つ、前記固定管の内側へ延びるように設けられた、前記固定管内の前記ガスが前記接続管に流れ込むことを妨げる遮風部材を有することを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の溶融紡糸設備。
【請求項10】
前記固定管の延在方向における一方側から他方側へ前記ガスが排出され、
前記遮風部材は、
前記延在方向と直交する直交方向に沿って延び、又は、前記直交方向に対して前記延在方向における他方側へ傾けて配置されていることを特徴とする請求項に記載の溶融紡糸設備。
【請求項11】
前記吸引部は、
前記紡糸口金から紡出されたフィラメントを囲うように配置され、周壁に前記吸引口が形成された吸引リングと、
前記排気装置に接続され、且つ、前記吸引リングを囲うように設けられ、前記吸引リングの内側から排出された前記ガスが流れる内部空間が形成された囲い部材と、を有することを特徴とする請求項1~10のいずれかに記載の溶融紡糸設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融紡糸設備に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載された溶融紡糸装置は、溶融されたポリマーをフィラメントとして紡糸口金から紡出する。紡出されたフィラメントは、紡糸口金の下方に配置された冷却筒を介して供給される冷却風によって冷却される。ここで、紡出された直後のフィラメントからは、ポリマーの原料であるモノマーのガスが発生する。ガスが固化して紡糸口金、冷却筒等に付着すると、冷却風が乱されてフィラメントが揺れることによる糸品質の悪化、断糸の発生、設備不具合等の問題が生じうる。
【0003】
そこで、上記溶融紡糸装置は、上記ガスを排出可能に構成されている。具体的には、紡糸口金と冷却筒との間に、壁面に吸引口が形成されたリング状の吸引部材が配置されている。また、一般的に、溶融紡糸装置は、負圧を発生させることにより吸引口を介してガスを吸引排出する排気装置を有する。排気装置によって吸引されたガスは、排気装置が接続された接続管を通って、ガスが排出される方向(ガス排出方向)における下流側へ流れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】DE102013012869A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、糸の生産工場には、一般的に、排気装置をそれぞれ有する複数の溶融紡糸装置が設けられており、1つの大きな溶融紡糸設備として構成されている。また、一般的に、複数の排気装置がそれぞれ接続された複数の接続管は、生産工場に固定設置された固定管に合流するように配置される。つまり、接続管は、固定管の途中部に接続される。このような場合、例えば固定管と接続管との合流地点において気流が乱れると、一部のガスが固定管から接続管に(すなわち、ガス排出方向における上流側に)流れ込むおそれがある。これに起因して、ガス排出方向における上流側の空間の圧力が変動すると、紡出された直後のフィラメントの近傍で気流が乱れてフィラメントが揺れ、糸品質が悪化するおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、フィラメント近傍の気流が乱れることを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明の溶融紡糸設備は、フィラメントを紡出するための紡糸口金を有する紡糸ユニットと、前記紡糸口金の下方に配置された冷却筒を有し、前記紡糸口金から紡出された前記フィラメントを冷却する冷却ユニットと、前記フィラメントの走行方向において前記紡糸ユニットと前記冷却ユニットとの間に配置され、前記フィラメントから発生するガスを吸引して排出するための排出流路が形成された排気ユニットと、を備え、前記排気ユニットは、前記紡糸口金と前記冷却筒との間に配置され、前記ガスを吸引するための吸引口が形成された吸引部と、前記ガスが排出されるガス排出方向において、前記吸引部の下流側に配置されたダクト部と、前記ダクト部の前記ガス排出方向における下流側に配置され、前記ガスを吸引排出する排気装置と、固定設置された固定管の途中部に接続される、前記排気装置の前記ガス排出方向における下流側に配置された接続管と、前記固定管から前記接続管への前記ガスの流入を抑制する流入抑制部と、を有することを特徴とするものである。
【0008】
本発明では、接続管が固定管の途中部に接続される。このような場合、固定管と接続管との合流地点において気流が乱れ、一部のガスが固定管から接続管に逆流するように流れ込むおそれがある。その結果、ガス排出方向における上流側においてフィラメント近傍の気流が乱れることによってフィラメントが揺れやすくなり、糸品質の悪化や断糸の発生という問題が生じうる。本発明では、流入抑制部によって固定管から接続管へのガスの流入を抑制できる。したがって、フィラメント近傍の気流が乱れることを抑制できる。
【0009】
第2の発明の溶融紡糸設備は、前記第1の発明において、前記排気装置は、出力を変更可能に構成されており、且つ、前記ガスを流入させるためのガス流入部を有し、前記ガス流入部及び前記ダクト部のうち少なくとも一方に、前記排出流路と前記排出流路の外側の空間とを連通させる外気取込口が形成され、前記流入抑制部は、前記排気装置と、前記外気取込口とを含むことを特徴とするものである。
【0010】
本発明では、排気装置の出力を強めることで、接続管を流れるガスの流量を増やし、固定管から接続管へのガスの流れ込みを抑えることができる。但し、単に排気装置の出力を強めるだけでは、排気装置よりもガス排出方向における上流側の空間の負圧が強くなり、フィラメントの近傍におけるガスの排出速度が大きくなり過ぎてフィラメント近傍の気流が乱れやすくなるという問題がある。このため、さらなる対策として、例えば、ガス排出方向において吸引部と排気装置との間にバルブを設けて流路抵抗を大きくし、上流側におけるガスの流量を小さく抑えることが考えられる。しかしながら、この方法では、バルブによってガスの排出流路が狭くなり、モノマーのガスが固化した場合に流路が詰まりやすくなってしまうという問題がある。
【0011】
そこで、本発明では、さらに、ガス流入部及びダクト部のうち少なくとも一方に外気取込口が形成されている。これにより、排気装置が動作しているときに、外気取込口を介して排出流路に外気を取り込むことができるので、排出流路を流れてくるガスと外気とを合流させることにより吸引圧(負圧)を弱めることができる。このため、外気取込口が形成されていない場合と比べて、外気取込口よりもガス排出方向における上流側から流れてくるガスの流速を小さくすることができる。したがって、排気装置の出力が強い場合でも、ガスの排出流路を狭めることなく、フィラメント近傍におけるガスの排出速度が大きくなることを抑制でき、フィラメントfの近傍の気流が乱れることを抑制できる。
【0012】
第3の発明の溶融紡糸設備は、前記第2の発明において、前記排気ユニットは、前記外気取込口の開度を調節するための調節部を有することを特徴とするものである。
【0013】
本発明では、外気取込口を介して取り込まれる外気の流量を調節したい場合に、調節部によって外気取込口の開度を調節することで上記流量を調節できる。
【0014】
第4の発明の溶融紡糸設備は、前記第3の発明において、前記調節部は、前記外気取込口の一部を覆うためのカバー部を有し、前記カバー部は、前記外気取込口の縁を含む面に沿って移動させられることにより、前記外気取込口を覆っている部分の面積を変更可能であることを特徴とするものである。
【0015】
本発明では、外気取込口の縁を含む面に沿ってカバー部を移動させるという単純な作業により、外気取込口の開度を容易に調節できる。
【0016】
第5の発明の溶融紡糸設備は、前記第3又は第4の発明において、複数の前記排気ユニットを備えることを特徴とするものである。
【0017】
排気ユニットが複数設けられている(すなわち、複数の接続管が固定管に接続されている)構成では、外気取込口を介して取り込まれる外気の最適な流量が排気ユニットごとに異なりうる。このような構成において、本発明のように各排気ユニットにそれぞれ調節部が設けられていることは、特に有効である。
【0018】
第6の発明の溶融紡糸設備は、前記第3~第5のいずれかの発明において、前記紡糸ユニットとして、第1紡糸ユニットと、前記第1紡糸ユニットとは別の第2紡糸ユニットと、を備え、前記排気ユニットは、前記吸引部として、前記第1紡糸ユニットに対応する第1吸引部と、前記第2紡糸ユニットに対応する第2吸引部と、前記ダクト部として、前記第1吸引部に対応する第1ダクト部と、前記第2吸引部に対応する第2ダクト部と、を有し、前記排気装置は、前記ガス流入部として、前記第1ダクト部に対応する第1ガス流入部と、前記第2ダクト部に対応する第2ガス流入部と、を有し、前記外気取込口として、前記第1ダクト部及び前記第1ガス流入部に対応する第1外気取込口と、前記第2ダクト部及び前記第2ガス流入部に対応する第2外気取込口と、が形成され、前記調節部として、前記第1外気取込口の開度を調節するための第1調節部と、前記第2外気取込口の開度を調節するための第2調節部と、が設けられていることを特徴とするものである。
【0019】
1つの排気装置に第1ガス流入部及び第2ガス流入部が設けられた構成では、ガス流入部ごとに、外気取込口を介して取り込まれる外気の最適な流量が異なりうる。このような構成において、本発明のように第1調節部及び第2調節部が設けられていることは、特に有効である。
【0020】
第7の発明の溶融紡糸設備は、前記第2~第6のいずれかの発明において、前記外気取込口は、前記排気装置の前記ガス流入部に形成されていることを特徴とするものである。
【0021】
排出されているガスと外気とが合流する外気取込口が、ガス排出方向において吸引部の近くに配置されていると、吸引口の近傍で気流が乱れやすくなり、フィラメントが揺れやすくなるおそれがある。本発明では、外気取込口が排気装置のガス流入部に形成されており、吸引部から遠い位置に配置されている。したがって、吸引口の近傍で気流が乱れやすくなることを抑制でき、フィラメントが揺れやすくなることを抑制できる。
【0022】
第8の発明の溶融紡糸設備は、前記第1~第7のいずれかの発明において、前記流入抑制部は、前記接続管の前記ガス排出方向における下流側に配置され、且つ、前記固定管の内側へ延びるように設けられた、前記固定管内の前記ガスが前記接続管に流れ込むことを妨げる遮風部材を有することを特徴とするものである。
【0023】
本発明では、固定管の内側へ延びるように配置された遮風部材によって、固定管内のガスが接続管に流れ込むことが妨げられる。したがって、排気装置の出力変更を伴わず、或いは排気装置の出力変更と併せて、ガスの逆流を抑制できる。
【0024】
第9の発明の溶融紡糸設備は、前記第1~第8のいずれかの発明において、前記固定管の延在方向における一方側から他方側へ前記ガスが排出され、前記遮風部材は、前記延在方向と直交する直交方向に延び、又は、前記直交方向に対して前記延在方向における他方側へ傾けて配置されていることを特徴とするものである。
【0025】
遮風部材が直交方向に対して延在方向における一方側に傾いている構成では、遮風部材に当たったガスが、延在方向における一方側へ逆流して再度他方側へ向かうことにより、接続管に流れ込むおそれがある。本発明では、遮風部材に当たったガスが、延在方向における一方側へ逆流することを抑制できる。したがって、ガスが固定管から接続管に流れ込むことを効果的に抑制できる。
【0026】
第10の発明の溶融紡糸設備は、前記第1~第9のいずれかの発明において、前記吸引部は、前記紡糸口金から紡出されたフィラメントを囲うように配置され、周壁に前記吸引口が形成された吸引リングと、前記排気装置に接続され、且つ、前記吸引リングを囲うように設けられ、前記吸引リングの内側から排出された前記ガスが流れる内部空間が形成された囲い部材と、を有することを特徴とするものである。
【0027】
本発明では、吸引リング及び囲い部材によって、ほぼ密閉された内部空間が形成される。これにより、排気装置によって生成される負圧が弱くても、上記内部空間へ効率的にガスが吸引される。このため、負圧がわずかに変動するだけでもガスの流速が大きく変動し、気流が乱れてフィラメントが揺れるおそれがある。このような構成において、本発明のように、流入抑制部によって固定管から接続管へのガスの逆流を抑制できることは、特に有効である。
【0028】
第11の発明の溶融紡糸設備は、前記第1~第10のいずれかの発明において、前記排気装置は、前記ガス流入部とは別に設けられた、水を流入させるための水流入部と、前記接続管に接続された、前記ガス及び前記水を流出させるための流出部と、を有するアスピレータであることを特徴とするものである。
【0029】
排気装置としてアスピレータが適用されている構成では、アスピレータの内部を水が流れることに伴う随伴流によって負圧が生じ、ガスが吸引される。アスピレータは、水の流量の調節により微小な負圧を生成できるという利点、及び、モノマーを水に溶解させて排出できるという利点を有する。
【0030】
一方で、固定管には、流出部及び接続管を介して水が流れ込むので、固定管内に大量の水が流れて強い随伴流が生じるおそれがある。このような随伴流が固定管から接続管に逆流するように流れ込むと、ガス排出方向における上流側で負圧が大きく変動しうる。したがって、固定管から接続管に流れ込む随伴流を抑えるために、アスピレータに流す水の量を多くして、接続管から固定管に流れ込む随伴流を強くする必要がある。一方で、ガスを吸引するための随伴流が強くなると、負圧が強くなり過ぎて、フィラメントが大きく揺れるおそれがある。このような構成において、本発明のように、流入抑制部によって固定管から接続管へのガスの逆流を抑制できることは、特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本実施形態に係る溶融紡糸設備の概略図である。
図2】紡糸ビーム及びその周辺構成の拡大図である。
図3図2のIII-III線断面図である。
図4】吸引部及びその周辺構成の平面図である。
図5図4のV-V線断面図である。
図6】アスピレータ及びその周辺構成を示す説明図である。
図7】(a)、(b)は、アスピレータの詳細構成を示す説明図である。
図8】(a)、(b)は、調節部材を示す説明図である。
図9】(a)、(b)は、スリットの開度の変化を示す説明図である。
図10】スリットの近傍における気流を示す説明図である。
図11】変形例に係る排気ユニットを示す説明図である。
図12】別の変形例に係る排気ユニットを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、本発明の実施の形態について説明する。なお、図1及び図2に示す方向を前後左右上下方向と定義して、以下の説明を進める。
【0033】
(溶融紡糸設備)
まず、本実施形態に係る溶融紡糸設備1の概略構成について、図1図3を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態に係る溶融紡糸設備1の概略図である。図2は、後述する紡糸ビーム2及びその周辺構成の拡大図である。図3は、図2のIII-III線断面図である。
【0034】
図1に示すように、溶融紡糸設備1は、複数の紡糸ビーム2(本発明の紡糸ユニット)と、複数の糸冷却装置3(本発明の冷却ユニット)と、複数の排気ユニット4とを備える。各紡糸ビーム2は、溶融ポリマーからなるフィラメントfを紡出する。各紡糸ビーム2に対応して設けられた糸冷却装置3は、紡出されたフィラメントfを冷却する。排気ユニット4は、紡出された直後のフィラメントfから発生するモノマー(ポリマーの原料)のガスを吸引して排出する。本実施形態では、2つの紡糸ビーム2及び2つの糸冷却装置3に対応して1つの排気ユニット4が設けられている。具体例として、紡糸ビーム2a(本発明の第1紡糸ユニット)、紡糸ビーム2aとは別の紡糸ビーム2b(本発明の第2紡糸ユニット)及び糸冷却装置3a、3bに対応して排気ユニット4aが設けられている。また、紡糸ビーム2c、2d及び糸冷却装置3c、3dに対応して排気ユニット4bが設けられている。各排気ユニット4によって吸引されたガスは、固定設置された固定管100を通って排出される。
【0035】
紡糸ビーム2は、溶融ポリマーからなる複数の糸Yを紡出するように構成されている。本実施形態において紡出される溶融ポリマーは、例えば、ナイロン6(PA6)である。図2に示すように、紡糸ビーム2は、複数のパックハウジング11を備える。複数のパックハウジング11には、複数の紡糸パック12がそれぞれ装着される。本実施形態では、12個のパックハウジング11に12個の紡糸パック12がそれぞれ装着される。複数のパックハウジング11(複数の紡糸パック12)は、例えば、左右方向に沿って2列に配列され、且つ、千鳥配列されている。各紡糸パック12には、図示しない管等から溶融ポリマーが供給される。なお、パックハウジング11の配列は、上述したものに限られない。例えば、パックハウジング11は、例えば左右方向に沿って1列に並べられていても良い。或いは、パックハウジング11は、3列以上に配列されていても良い。また、パックハウジング11が複数列に配列されている場合、パックハウジング11は、千鳥配列されていても良く、或いは左右方向における位置が揃っていても良い。或いは、複数のパックハウジング11は直線状に並んでいなくても良く、例えば、上下方向から見たときに仮想的な円を形成するように配置されていても良い。
【0036】
各紡糸パック12の下端部には、複数のノズル14が形成された紡糸口金13が配置されている。紡糸パック12は、紡糸口金13の複数のノズル14から溶融ポリマーをフィラメントfとしてそれぞれ紡出する。つまり、1つの紡糸口金13から、複数のフィラメントfで構成された1本のマルチフィラメント糸(糸Y)が紡出される。ここで、紡出された直後のフィラメントfからは、上述したようにモノマーのガスが発生する。モノマーのガスは、排気ユニット4によって吸引排出される。
【0037】
糸冷却装置3は、複数の紡糸パック12から紡出されたフィラメントfを冷却する装置である。糸冷却装置3は、紡糸ビーム2の下方に配置されている。図2及び図3に示すように、糸冷却装置3は、箱体20と、箱体20内に収容された複数の冷却筒21と、複数の仕切筒22等を有する。
【0038】
図2に示すように、箱体20の内部空間は、整流板23によって上下に仕切られている。整流板23は、パンチングメタルなどの整流機能を有する材料で形成された部材であり、水平に配置されている。箱体20の上部空間(整流板23よりも上側の空間)の、紡糸パック12の直下の位置には、冷却筒21が配置されている。複数の冷却筒21は、複数の紡糸パック12の配列に対応して、左右方向に沿って千鳥配列されている(図3参照)。冷却筒21の壁は、整流板23と同様、パンチングメタル等の整流機能を有する材料で形成されている。箱体20の下部空間(整流板23よりも下側の空間)の、複数の冷却筒21の直下の位置には、複数の仕切筒22が配置されている。仕切筒22の壁は、冷却筒21とは異なり、空気を透過させない材料で形成されている。フィラメントfは、紡糸パック12の直下の冷却筒21の内部空間と仕切筒22の内部空間を順に通過する。
【0039】
箱体20の下部の後側部分には、ダクト25が接続されている。ダクト25には、不図示の圧空源によって、フィラメントfを冷却するための空気がダクト25内に送られる。空気は、ダクト25内を通って箱体20の下部空間内に供給される。箱体20の下部空間に流入した冷却用の空気は、水平に配置された整流板23を通過して上向きに整流され、箱体20の上部空間へ流れる。箱体20の上部空間に流入した空気は、冷却筒21の壁を通過する際に整流されて、冷却筒21内へ流れ込む。これにより、冷却筒21内において、冷却筒21の外側全周からフィラメントfに空気が吹き付けられ、フィラメントfが冷却される。なお、仕切筒22の壁は空気を透過させないため、箱体20の下部空間から仕切筒22内へ直接空気が流れ込むことはない。
【0040】
排気ユニット4は、フィラメントfの走行方向において紡糸ビーム2と糸冷却装置3との間に配置されている。排気ユニット4は、紡糸口金13の複数のノズル14から紡出された直後の溶融ポリマーから発生するモノマーのガスを吸引排出する。詳細については後述する。
【0041】
また、冷却筒21及び仕切筒22の下方の位置には、糸Yに油剤を付与するための油剤ガイド5が配置されている。油剤ガイド5には、冷却筒21で冷却された糸Yが接触する。その際に、油剤ガイド5は糸Yに対して油剤を吐出して、糸Yに油剤を付与する。油剤ガイド5によって油剤が付与された糸Yは、油剤ガイド5の下方に配置された引取ローラ(不図示)によって引き取られる。さらに、糸Yは巻取装置(不図示)へ送られ、巻取装置においてボビン(不図示)に巻き取られる。
【0042】
(排気ユニット)
次に、排気ユニット4の構成について、図4図6を用いて説明する。図4は、後述する吸引部材31及びその周辺構成の平面図である。図5は、図4のV-V線断面図である。図6は、後述するアスピレータ33及びその周辺構成を示す説明図である。
【0043】
排気ユニット4は、紡出された直後の溶融ポリマーから発生するモノマーのガスを含む気体(以下、単にガスとする)を吸引して排出するように構成されている。つまり、排気ユニット4には、ガスを吸引して排出するための排出流路30(図1、4参照)が形成されている。図4図6に示すように、排気ユニット4は、2つの吸引部材31(本発明の吸引部)と、2つのダクト32(本発明のダクト部)と、アスピレータ33(本発明の排気装置)と、接続管34(図6参照)とを有する。排気ユニット4は、アスピレータ33内に水が流れることで発生する負圧によって、吸引部材31に設けられた複数の吸引リング42(後述)の径方向内側の空間からガスを吸引し、ダクト32、アスピレータ33及び接続管34を介してガスを排出する(図4の矢印参照)。本実施形態では、1つの紡糸ビーム2(図1参照)に対応して1つの吸引部材31が設けられている。例えば、紡糸ビーム2aに対応して吸引部材31a(本発明の第1吸引部)が設けられ、紡糸ビーム2bに対応して吸引部材31b(本発明の第2吸引部)が設けられている。
【0044】
図4に示すように、各吸引部材31は、囲い部材41と、複数の吸引リング42とを有する。囲い部材41は、複数の吸引リング42が装着されることで複数の吸引リング42を囲い、複数の吸引リング42の内側から排出されたガスを、ガスが排出される方向(ガス排出方向)においてアスピレータ33側へ流すための部材である。囲い部材41は、ダクト32を介してアスピレータ33に接続されている。囲い部材41は、全体として概ね平らな形状を有している。囲い部材41においては、略水平に配置されて上下に並べられた2つの平板43、44と、平板43、44の外周部同士を接続する側壁45とによって、内部空間46が形成されている(図5参照)。内部空間46は、後述する吸引口52が形成された部分を除いて、溶融紡糸設備1が設けられた空間に対してほぼ密閉された空間となっている。
【0045】
囲い部材41は、複数の吸引リング42を囲っている囲い部47と、囲い部47よりもガス排出方向におけるアスピレータ33側に配置された2つの流路部48とを有する(図5において、囲い部47と2つの流路部48とが、二点鎖線101で区切られている)。囲い部47は、上方から見て矩形状である(図4参照)。囲い部47は、上下方向において紡糸ビーム2と糸冷却装置3の間に配置されている(図5参照)。囲い部47には、複数の吸引リング42がそれぞれ嵌合される複数の嵌合穴49が形成されている。複数の嵌合穴49は、複数の紡糸口金13にそれぞれ対応して、左右方向に沿って千鳥配列されている。2つの流路部48は、囲い部47の前端に接続された部分である。2つの流路部48は左右方向に並べて配置されており、それぞれが、上方から見て概ね三角形状を有する。2つの流路部48の前端部は、ダクト32にそれぞれ取り付けられている。
【0046】
複数の吸引リング42は、紡出された直後のフィラメントfから発生したガスを排出するための部材である。図5に示すように、複数の吸引リング42は、上下方向において紡糸パック12と冷却筒21の間に配置されている。各吸引リング42は、紡出された直後のフィラメントfを囲うように配置されている。複数の吸引リング42は、囲い部材41の複数の嵌合穴49にそれぞれ嵌合されており、囲い部材41に囲われるように取り付けられている。各吸引リング42の周壁51には、各吸引リング42の周方向に沿って、複数の吸引口52が並べて形成されている。複数の吸引口52によって、吸引リング42の内側の空間と囲い部材41の内部空間46とが連通している。
【0047】
ダクト32は、囲い部材41とアスピレータ33とを接続するように構成されている。すなわち、ダクト32は、囲い部材41のガス排出方向における下流側に配置され、且つ、アスピレータ33のガス排出方向における上流側に配置されている。ダクト32は、2つの上流部61と、1つの下流部62とを有する。2つの上流部61には、囲い部材41の2つの流路部48の前端部(ガス排出方向における下流側端部)がそれぞれ取り付けられている。2つの上流部61は、下流部62の上流側端部に接続されて合流している。下流部62の、ガス排出方向における下流側端部は、アスピレータ33に接続されている。本実施形態では、1つの吸引部材31に対応して1つのダクト32が設けられている。例えば、吸引部材31aに対応してダクト32a(本発明の第1ダクト部)が設けられ、吸引部材31bに対応してダクト32b(本発明の第2ダクト部)が設けられている(図4参照)。
【0048】
アスピレータ33は、ガスを吸引排出するための装置である。アスピレータ33は、ガス排出方向において吸引部材31及びダクト32の下流側に配置されている。アスピレータ33は、内部に水が流れることに伴って生じる随伴流によって、微小な吸引圧(例えば-5Pa)を発生させることが可能であり、且つ、モノマーのガスを水に溶解させて排出することが可能である。また、アスピレータ33は、内部に流される水の流量の条件を変更することにより、出力を変更可能である。図6に示すように、アスピレータ33は、本体71と、水流入部72と、2つのガス流入部73と、流出部74とを有する。
【0049】
本体71は、上下方向に延びた円筒状の部分である。本体71の上部には、水を流入させるための水流入部72が設けられている。本体71の左右両側面には、ガスを流入させるための2つのガス流入部73が設けられている。本体71の下部には、水及びガスを流出させるための流出部74が設けられている。
【0050】
水流入部72は、本体71の上部に設けられ、図示しない水源と接続された管75に取り付けられている。水流入部72には、水を流入させるための水流入口76(図7(a)参照)が形成されている。
【0051】
2つのガス流入部73は、本体71の左右両側面に設けられた概ね円筒状の部分である。2つのガス流入部73には、ガスを流入させるためのガス流入口77(図7(a)参照)がそれぞれ形成されている。2つのガス流入部73は、それぞれ、ダクト32を介して吸引部材31に接続されている。例えば、ダクト32aに対応してガス流入部73a(本発明の第1ガス流入部)が設けられ、ダクト32bに対応してガス流入部73b(本発明の第2ガス流入部)が設けられている。
【0052】
流出部74は、本体71の下部に設けられ、接続管34に取り付けられている。流出部74には、水及びガスを流出させるための流出口78(図7(a)参照)が形成されている。
【0053】
接続管34は、ガス排出方向において、アスピレータ33の下流側に配置されている。接続管34のガス排出方向における上流側端部には、アスピレータ33の流出部74が取り付けられている。接続管34のガス排出方向における下流側端部は、固定管100の延在方向において、固定管100の途中部に取り付けられる。
【0054】
以上のように、排気ユニット4には、吸引部材31、ダクト32、アスピレータ33及び接続管34によって、ガスを排出するための排出流路30が形成されている。
【0055】
以上の構成を有する排気ユニット4において、アスピレータ33の水流入部72から入った水が本体71の内部を流れる(図6の二点鎖線矢印参照)ことに伴い、下向きの随伴流が発生する。この随伴流によって、吸引リング42(図4参照)の吸引口52の近傍に負圧が発生し、吸引リング42の内側から囲い部材41の内部空間46(図4参照)へガスが吸引される。さらに、ガスは、ダクト32の内部を通ってアスピレータ33のガス流入部73に流れ込む(図6の破線矢印参照)。ガス流入部73に流れ込んだガスは、水とともに流出部74から流出し、接続管34の内部を通って固定管100に流れ込む。このようにして、ガスが排気ユニット4によって吸引排出される。なお、上述したように、囲い部材41によって形成された内部空間46はほぼ密閉されているので、アスピレータ33によって発生する負圧が弱くても、吸引リング42の吸引口52の近傍において強い吸引力を発生させることができる。
【0056】
ここで、上述したように、接続管34は、固定管100の途中部に接続される。このような場合、例えば固定管100と接続管34との合流地点において気流が乱れると、一部のガスが固定管100から接続管34に流れ込むおそれがある(図6の一点鎖線矢印参照)。特に、複数のアスピレータ33が設けられている構成では、固定管100に多くの水が流れ込み、固定管100内に大量の水W(図6参照)が流れて強い随伴流が生じるおそれがある。このような随伴流が固定管100から接続管34に逆流するように流れ込むと、ガス排出方向における上流側で負圧が大きく変動しうる。このため、紡出された直後のフィラメントf(図2参照)の近傍で気流が乱れてフィラメントfが揺れ、糸品質が悪化するおそれがある。
【0057】
したがって、固定管100から接続管34へのガスの流れ込みを抑える必要がある。そのためには、例えば、アスピレータ33に流す水の流量を多くして、接続管34から固定管100側へ(すなわち、ガス排出方向における下流側へ)流れる随伴流を強くすることが考えられる。これにより、固定管100から接続管34への前記ガスの流入が抑制される。
【0058】
一方で、このような随伴流が強くなると、アスピレータ33よりもガス排出方向における上流側の空間の負圧が強くなり、フィラメントfの近傍におけるガスの排出速度が大きくなり過ぎて、フィラメントfが大きく揺れるおそれがある。このため、さらなる対策として、例えば、ガス排出方向において吸引部材31とアスピレータ33との間にバルブを設けて流路抵抗を大きくし、ガスの流量を小さく抑えることが考えられる。しかしながら、この方法では、バルブによってガスの排出流路30が狭くなり、モノマーが固化した場合に流路が詰まりやすくなってしまうという問題が生じる。そこで、本実施形態では、アスピレータ33の出力が強い(すなわち、水の流量が多い)場合でも、ガスの排出流路30を狭めることなく、フィラメントf近傍におけるガスの排出速度が大きくなることを抑制するために、排気ユニット4が以下の構成を有する。具体的には、排気ユニット4は、固定管100から接続管34へのガスの流入を抑制するための流入抑制部70(図7(a)、(b)参照)を有する。流入抑制部70は、上述したアスピレータ33と、後述する外気取込口81とを含む。
【0059】
(排気ユニットの詳細構成)
排気ユニット4のより詳細な構成について、図7(a)、(b)、図8(a)、(b)及び図9(a)、(b)を参照しつつ説明する。図7(a)は、アスピレータ33の前後方向に直交する断面図である。図7(b)は、ガス流入部73の斜視図である。図8(a)は、後述する調節部材83を含むアスピレータ33の正面図である。図8(b)は、調節部材83の斜視図である。図9(a)は、図8(b)のIXa矢視図である。図9(b)は、調節部材83を図9(a)に示す状態から動かした後の、調節部材83の状態を示す説明図である。なお、図7(a)、(b)においては、調節部材83の図示を省略している。
【0060】
図7(a)、(b)に示すように、アスピレータ33の各ガス流入部73には、外気取込口81が形成されている。外気取込口81は、排出流路30と、排出流路30の外側の空間(外部空間82)とを連通させ、外部空間82から排出流路30に外気(空気)を取り込むためのものである。外気取込口81は、例えば、ガス流入部73の周方向に沿って、ガス流入部73を概ね半周するようにスリット状に形成されている。外気取込口81は、例えば上向きに開口している。このようにして、外気取込口81は、排出流路30と外部空間82とを連通させている。ガス流入部73aに対応して外気取込口81a(本発明の第1外気取込口)が形成され、ガス流入部73bに対応して外気取込口81b(本発明の第2外気取込口)が形成されている。本実施形態では、外気取込口81a、81bは2つずつ形成されている。なお、外気取込口81の数は、これに限られるものではない。
【0061】
図8(a)、(b)に示すように、各ガス流入部73には、調節部材83(本発明の調節部)が取り付けられている。調節部材83は、外気取込口81の開度を調節するためのものである。外気取込口81aに対応して調節部材83a(本発明の第1調節部)が設けられ、外気取込口81bに対応して調節部材83b(本発明の第2調節部)が設けられている。調節部材83は、筒部84(本発明のカバー部)と、つまみ部85とを有する。
【0062】
筒部84は、ガス流入部73の外気取込口81が形成されている部分を囲うように配置された円筒状の部分である。筒部84には、筒部84の周方向に沿って、筒部84を概ね半周するようにスリット86が形成されている。スリット86は、ガス流入部73が延びる方向において、外気取込口81と概ね同じ位置に配置されている。筒部84は、ガス流入部73の外気取込口81の縁を含む面(すなわち、ガス流入部73の周面)に沿って、筒部84の周方向に回転可能(すなわち、移動可能)に構成されている(図8(b)の矢印参照)。
【0063】
つまみ部85は、筒部84の周方向における一部分から、筒部84の径方向における外側に突出した部分である。つまみ部85は、作業者が筒部84を手動で回転させることができるように、作業者が手でつまむことが可能な大きさを有している。
【0064】
作業者がつまみ部85を手でつまんで筒部84を回転させることにより、筒部84のスリット86をガス流入部73の周面に沿って移動させることができる。これにより、スリット86と外気取込口81との位置関係を変化させ、外気取込口81の開度を調節することができる。例えば、スリット86が外気取込口81と完全に重なっているとき(図9(a)参照)の外気取込口81の開度は、スリット86が外気取込口81と半分重なっているとき(図9(b)参照)の外気取込口81の開度の2倍である(図9(a)、(b)のハッチング部分参照)。
【0065】
また、ガス流入部73の外気取込口81の近傍には、ガスの圧力を検出する圧力計87が配置されている(図8(a)参照)。
【0066】
(外気取込口の近傍における気流)
次に、上述した流入抑制部70を有する排気ユニット4の、ガス流入部73の外気取込口81の近傍における気流について、図10を参照しつつ説明する。
【0067】
アスピレータ33に水が流れると(図10の二点鎖線矢印参照)、随伴流によって負圧が発生し、ガス流入部73を介してガスが吸引される(図10の破線矢印参照)。ここで、水の流量を多くするほど上記随伴流が強くなり、固定管100(図6参照)から接続管34にガスが流れ込むことを抑制できる。また、上記負圧によって、ガス流入部73に形成された外気取込口81を介して、外部空間82からガス流入部73に外気が取り込まれる(図10の一点鎖線矢印参照)。これにより、外気取込口81の近傍において、排出流路30を流れてくるガスと外気とが合流し、吸引圧(負圧)が弱まる。このため、アスピレータ33に流す水の流量を増やして随伴流を強くしても、外気取込口81が形成されていない場合と比べて、外気取込口81よりもガス排出方向における上流側から流れてくるガスの流速を小さくすることができる。ひいては、紡出された直後のフィラメントf(図2参照)の近傍におけるガスの排出速度が大きくなることを抑制できる。このように、アスピレータ33及び外気取込口81によって、フィラメントfが揺れやすくなることを抑制しつつ、固定管100から接続管34へのガスの流れ込みを抑制できる。
【0068】
また、作業者が、圧力計87による検出結果に基づいて調節部材83を動かし、外気取込口81の開度を調節することにより、外気取込口81を介して取り込まれる外気の流量をガス流入部73ごとに微調整できる。これにより、複数の吸引部材31(図4参照)間で、吸引口52(図5参照)の近傍におけるガスの流速のばらつきを抑制できる。なお、外気取込口81の開度調節は、溶融紡糸設備1を稼動させる前に予め行えば良い。つまり、溶融紡糸設備1の稼動中に外気取込口81の開度調節を随時行う必要はない。
【0069】
以上のように、流入抑制部70によって固定管100から接続管34へのガスの流入を抑制できる。したがって、フィラメントfの近傍の気流が乱れることを抑制できる。
【0070】
また、ガス流入部73に外気取込口81が形成されている。これにより、アスピレータ33が動作しているときに、外気取込口81を介して排出流路30に外気を取り込むことができるので、排出流路30を流れてくるガスと外気とを合流させることにより吸引圧(負圧)を弱めることができる。このため、外気取込口81が形成されていない場合と比べて、外気取込口81よりもガス排出方向における上流側から流れてくるガスの流速を小さくすることができる。したがって、アスピレータ33の出力が強い(水の流量が多い)場合でも、ガスの排出流路30を狭めることなく、フィラメントfの近傍におけるガスの排出速度が大きくなることを抑制でき、フィラメントfの近傍の気流が乱れることを抑制できる。
【0071】
また、外気取込口81を介して取り込まれる外気の流量を調節したい場合に、調節部材83によって外気取込口81の開度を調節することで上記流量を調節できる。
【0072】
また、調節部材83の筒部84がガス流入部73の周面に沿って回転(移動)させられることで、外気取込口81の開度が調節される。このように筒部84を移動させるという単純な作業により、外気取込口81の開度を容易に調節できる。
【0073】
また、排気ユニット4が複数設けられている(すなわち、複数の接続管34が固定管100に接続されている)構成では、外気取込口81を介して取り込まれる外気の最適な流量が排気ユニット4ごとに異なりうる。このような構成において、各排気ユニット4にそれぞれ調節部材83が設けられていることは、特に有効である。
【0074】
また、1つのアスピレータ33にガス流入部73a及びガス流入部73bが設けられた構成では、ガス流入部73ごとに、外気取込口81を介して取り込まれる外気の最適な流量が異なりうる。このような構成において、調節部材83a及び調節部材83bが設けられていることは、特に有効である。
【0075】
また、外気取込口81がアスピレータ33のガス流入部73に形成されており、吸引部材31から遠い位置に配置されている。したがって、外気取込口81が吸引部材31に近い位置に配置されている場合と比べて、フィラメントfの近傍における気流の乱れの発生を抑制でき、フィラメントfが揺れやすくなることを抑制できる。
【0076】
また、本実施形態では、吸引リング42及び囲い部材41によって、ほぼ密閉された内部空間46が形成される。これにより、アスピレータ33によって生成される負圧が弱くても、内部空間46へ効率的にガスが吸引される。このため、負圧がわずかに変動するだけでもガスの吸引量が大きく変動し、気流が乱れてフィラメントfが揺れるおそれがある。このような構成において、外気取込口81を介して外気を取り込むことによって、フィラメントfの近傍における負圧を弱め、ガスの排出速度が大きくなることを抑制できることは、特に有効である。
【0077】
また、ガスを排出するための装置としてアスピレータ33が適用されている構成では、固定管100内に大量の水が流れて強い随伴流が生じるおそれがある。このため、固定管100から接続管34に流れ込む随伴流を抑えるために、アスピレータ33に流す水の量を多くして、接続管34から固定管100に流れ込む随伴流を強くする必要がある。このような構成において、外気取込口81を介して外気を取り込むことによって、フィラメントfの近傍における負圧を弱め、ガスの排出速度が大きくなることを抑制できることは、特に有効である。
【0078】
次に、前記実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0079】
(1)前記実施形態において、外気取込口81はガス流入部73の周方向に沿ってスリット状に延びているものとしたが、これには限られない。外気取込口81は、例えば、ガス流入部73が延びる方向に沿ってスリット状に延びていても良い。或いは、外気取込口81は丸穴でも良い。すなわち、外気取込口81はどのような形状を有していても良い。
【0080】
(2)前記までの実施形態において、調節部材83の筒部84は、ガス流入部73の周面に沿って回転可能であるものとしたが、これには限られない。例えば、筒部84は、ガス流入部73が延びる方向に移動可能に構成されていても良い。
【0081】
(3)前記までの実施形態において、調節部材83は、ガス流入部73の周面に沿って移動させられることにより外気取込口81の開度を変化させるものとしたが、これには限られない。一例として、調節部材83が、スリット86に対してスライド可能な不図示のスライド部材を有していても良い。そして、スライド部材をスライドさせることによってスリット86自体の開度を変化させ、その結果として外気取込口81の開度を変化させても良い。
【0082】
(4)前記までの実施形態において、外気取込口81がアスピレータ33のガス流入部73に形成され、外気取込口81の開度を調節するための調節部材83がガス流入部73を囲うように配置されるものとしたが、これには限られない。例えば図11に示すように、ダクト91に外気取込口92が形成されていても良く、アスピレータ93のガス流入部94には外気取込口が形成されていなくても良い。さらに、調節部材83が、ダクト91を囲うように配置されていても良い。或いは、外気取込口92は、ガス流入部94及びダクト91の両方に形成されていても良い。或いは、外気取込口は、例えば囲い部材41の流路部48に形成されていても良い。この場合、流路部48も本発明のダクト部に相当する。また、囲い部材41の囲い部47及び吸引リング42が本発明の吸引部に相当する。
【0083】
(5)前記までの実施形態において、溶融紡糸設備1は複数の排気ユニット4を備えるものとしたが、これには限られない。排気ユニット4の数は、1つでも良い。
【0084】
(6)前記までの実施形態において、アスピレータ33は、2つのガス流入部73を有するものとしたが、これには限られない。すなわち、1つのアスピレータ33が有するガス流入部73の数は、1つでも良く、或いは3つ以上でも良い。
【0085】
(7)前記までの実施形態において、排気ユニット4は調節部材83を有するものとしたが、これには限られない。調節部材83は、必ずしも設けられていなくても良い。
【0086】
(8)前記までの実施形態において、流入抑制部70はアスピレータ33及び外気取込口81を含むものとしたが、さらに別の部材が流入抑制部として機能しても良い。以下、図12を用いて説明する。まず、図12に示すように、固定管100内のガスは、固定管100の延在方向(左右方向)において、左側(本発明の一方側)から右側(本発明の他方側)へ流れる。接続管34のガス排出方向における下流側には、固定管100の内側へ延びるように設けられた遮風部材96が配置されている。遮風部材96は、例えば、ホースからなる筒状体である。或いは、遮風部材96は、板金によって形成されていても良い。遮風部材96の形状は、必ずしも筒状に限定されず、例えば半筒状でも良い。つまり、遮風部材96は、少なくとも、接続管34の左下端部から固定管100の内側へ延びていれば良い。なお、遮風部材96は、固定管100内のガスが確実に延在方向に流れるようにするために、固定管100を流れる水Wと接しないように配置されている。以上のような遮風部材96によって、固定管100内のガスが下方へ導かれるように流れ(図12の一点鎖線矢印参照)、ガスが接続管34に流れ込むことが妨げられる。また、遮風部材96は、例えば、左右方向に直交する上下方向(本発明の直交方向)に沿って延び、或いは、上下方向に対して右側へ傾けて配置されていても良い(図12参照)。これにより、遮風部材96が上下方向に対して左側に傾いている構成と比べて、遮風部材96に当たったガスが左側へ逆流して再度右側に向かうことが抑制される。したがって、ガスが固定管100から接続管34に流れ込むことを効果的に抑制できる。
【0087】
上記構成において、外気取込口81は形成されていても良く(図12参照)、形成されていなくても良い。言い換えると、流入抑制部70に加えて、遮風部材96も固定管100から接続管34へのガスの流入を抑制しても良い。或いは、外気取込口81が形成されておらず、遮風部材96のみが、固定管100から接続管34へのガスの流入を抑制しても良い。このような構成では、アスピレータ33の出力を強くする必要はない。すなわち、この場合、遮風部材96が本発明の流入抑制部に相当する。
【0088】
(9)前記までの実施形態において、吸引部材31は、フィラメントfを囲うように配置された吸引リング42と、吸引リング42が装着された囲い部材41とを有するものとしたが、これには限られない。すなわち、吸引部材31は、必ずしもフィラメントfを囲うように配置されていなくても良い。
【0089】
(10)前記までの実施形態において、排気装置としてアスピレータ33が設けられているものとしたが、これには限られない。アスピレータ33に加えて、或いはアスピレータ33の代わりに、例えば公知のブロア等が設けられていても良い。なお、アスピレータ33の代わりにブロアが設けられている場合、固定管100の内部に水Wは流れない(すなわち、固定管100の内部には、ブロアによる吸引によって気体のみが流れる)。このような構成であっても、前記までの実施形態のように、固定管100から接続管34へのガスの流入を抑制することは有効である。
【0090】
(11)前記までの実施形態において、紡糸ビーム2はポリマーとしてナイロン6を紡出するものとしたが、これには限られない。他の種類のナイロンやポリエステル等のポリマーが紡出される場合においても、本発明を適用することはもちろん可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 溶融紡糸設備
2 紡糸ビーム(紡糸ユニット)
2a 紡糸ビーム(第1紡糸ユニット)
2b 紡糸ビーム(第2紡糸ユニット)
3 糸冷却装置(冷却ユニット)
4 排気ユニット
13 紡糸口金
21 冷却筒
30 排出流路
31 吸引部材(吸引部)
31a 吸引部材(第1吸引部)
31b 吸引部材(第2吸引部)
32 ダクト(ダクト部)
32a ダクト(第1ダクト部)
32b ダクト(第2ダクト部)
33 アスピレータ(排気装置)
34 接続管
41 囲い部材
42 吸引リング
46 内部空間
51 周壁
52 吸引口
70 流入抑制部
72 水流入部
73 ガス流入部
73a ガス流入部(第1ガス流入部)
73b ガス流入部(第2ガス流入部)
74 流出部
81 外気取込口
81a 外気取込口(第1外気取込口)
81b 外気取込口(第2外気取込口)
83 調節部材(調節部)
83a 調節部材(第1調節部)
83b 調節部材(第2調節部)
84 筒部(カバー部)
96 遮風部材(流入抑制部)
100 固定管
f フィラメント
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12