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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】水硬性組成物用増粘剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 24/16 20060101AFI20230404BHJP
   C04B 24/02 20060101ALI20230404BHJP
   C04B 24/32 20060101ALI20230404BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20230404BHJP
   C08K 5/06 20060101ALI20230404BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20230404BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20230404BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20230404BHJP
   C04B 103/44 20060101ALN20230404BHJP
【FI】
C04B24/16
C04B24/02
C04B24/32
C04B28/02
C08K5/06
C08L71/02
C08K5/42
C09K3/00 103M
C04B103:44
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019166587
(22)【出願日】2019-09-12
(65)【公開番号】P2021042108
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】寺井 久登
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-154241(JP,A)
【文献】特開2019-104878(JP,A)
【文献】特開2018-083931(JP,A)
【文献】特開2018-062658(JP,A)
【文献】特開2018-048069(JP,A)
【文献】特開2014-214070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
C08K 5/06
C08L 71/02-71/03
C08K 5/42
C09K 3/00-3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性粉体、水、(A)炭化水素基の炭素数が12以上22以下であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が1以上200以下である硫酸エステル又はその塩〔以下、(A)成分という〕、並びに(B)アルキル基の炭素数が12以上20以下であり、HLBが6.0以上11.0以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテル、及びアルケニル基の炭素数が12以上20以下であり、HLBが6.0以上11.0以下であるポリオキシエチレンアルケニルエーテルから選ばれる1種以上の非イオン性界面活性剤〔以下、(B)成分という〕を含有し、(A)成分と(B)成分の合計含有量が、水100質量部に対して、1.5質量部以上40質量部以下である、水硬性組成物。
【請求項2】
(B)成分のエチレンオキサイドの平均付加モル数が1以上7以下である、請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
(A)成分の含有量と(B)成分の含有量との合計に対する(A)成分の含有量の割合が、5質量%以上70質量%以下である、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物用増粘剤組成物、及び水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の分野で用いられる水硬性組成物用増粘剤組成物に対して、粘性、チキソトロピー性などを付与するために増粘剤が用いられることがある。例えば、水硬性組成物用増粘剤組成物の粘性を改質するために、高分子化合物、界面活性剤などを組み合わせて用いることが提案されている。
【0003】
特許文献1には、炭化水素基の炭素数が12以上22以下であり、アルキレンオキサイドの平均付加モル数が0以上25以下である、硫酸エステル又はその塩、及び脂肪酸部分の炭素数が10以上22以下である、脂肪酸アルカノールアミドを含むレオロジー改質剤が開示されている。
【0004】
特許文献2には、炭化水素基の炭素数が14以上24以下であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5以上19以下であるポリエーテル化合物、及び脂肪酸部の炭素数が14以上24以下である脂肪酸アルカノールアミドを含むレオロジー改質剤が開示されている。
【0005】
特許文献3には、水溶性増粘剤、特定の分散剤、及び特定のポリカルボン酸系共重合体及びその塩を、所定条件で含有する液状レオロジー改質剤が開示されている。
【0006】
特許文献4には、ナフタレンスルホン環を含むモノマー単位を有する高分子化合物と、陰イオン界面活性剤と、非イオン界面活性剤とを含有する水硬性組成物用分散剤組成物がが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-83931号公報
【文献】特開2018-62658号公報
【文献】特開2019-1919号公報
【文献】特開2018-048069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、水硬性組成物に対する増粘効果に優れた水硬性組成物用増粘剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(A)炭化水素基の炭素数が12以上22以下であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が1以上200以下である硫酸エステル又はその塩、並びに(B)アルキル基の炭素数が12以上20以下であり、HLBが6.0以上11.0以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテル、及びアルケニル基の炭素数が12以上20以下であり、HLBが6.0以上11.0以下であるポリオキシエチレンアルケニルエーテルから選ばれる1種以上の非イオン性界面活性剤を含有する、水硬性組成物用増粘剤組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、水硬性粉体、水、(A)炭化水素基の炭素数が12以上22以下であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が1以上200以下である硫酸エステル又はその塩〔以下、(A)成分という〕、並びに(B)アルキル基の炭素数が12以上20以下であり、HLBが6.0以上11.0以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテル、及びアルケニル基の炭素数が12以上20以下であり、HLBが6.0以上11.0以下であるポリオキシエチレンアルケニルエーテルから選ばれる1種以上の非イオン性界面活性剤〔以下、(B)成分という〕を含有する水硬性組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水硬性組成物に対する増粘効果に優れた水硬性組成物用増粘剤組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔水硬性組成物用増粘剤組成物〕
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、(A)成分、及び(B)成分を含有する。
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、(A)成分、(B)成分及び水を含有するものであってよい。
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、(A)成分と(B)成分から形成された紐状ミセル及び水を含有するものであってよい。紐状ミセルが形成されている場合、本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、動的粘弾性がMaxwell型に類似した挙動を示す。
【0013】
本発明の効果発現機構の詳細は不明であるが、以下のように推定される。
本発明の(A)成分と(B)成分は、疎水性を有する炭化水素基の相互作用によって水中で会合する一方で、両者が有するエチレンオキサイド基が所定範囲ないし所定HLBを有する範囲であることにより、会合体の親水性も制御される。その結果、水を含む水硬性組成物の増粘に適した会合体、例えば、紐状ミセルが形成されることで、水硬性組成物の増粘を可能としているものと推定される。
【0014】
<(A)成分>
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、(A)成分として、炭化水素基の炭素数が12以上22以下であり、エチレンオキサイドの平均付加モル数が1以上200以下である硫酸エステル又はその塩を含有する。
【0015】
(A)成分の炭化水素基は、好ましくは直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基又は直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基であり、より好ましくは直鎖のアルキル基又はアルケニル基である。
【0016】
(A)成分の炭化水素基の炭素数は、実用上高い粘弾性を得る観点から、12以上、好ましくは14以上、より好ましくは16以上、そして、22以下、好ましくは20以下である。(A)成分は、炭化水素基の炭素数の異なる2種以上の化合物を用いることができ、その場合、各化合物の炭化水素基の炭素数は、前記の範囲からそれぞれ選択されることが好ましい。
【0017】
炭化水素基は、例えば、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、オレイル基、ステアリル基及びドコシル基から選ばれる1種以上が挙げられ、好ましくはミリスチル基、パルミチル基、オレイル基及びステアリル基から選ばれる1種以上であり、より好ましくはパルミチル基、オレイル基及びステアリル基から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはオレイル基及びステアリル基から選ばれる1種以上であり、より更に好ましくはオレイル基である。
【0018】
(A)成分は、エチレンオキサイドの平均付加モル数が1以上200以下である。(A)成分のエチレンオキサイドの平均付加モル数は、水への溶解性の観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上、そして、好ましくは200以下、より好ましくは150以下、更に好ましくは130以下である。
【0019】
(A)成分の硫酸エステルの塩として、ナトリウム塩、アンモニウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等から選ばれる無機塩、モノエタノールアンモニウム塩、ジエタノールアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、モルホリニウム塩等から選ばれる有機アンモニウム塩が挙げられる。塩は、アンモニウム塩、アルカリ金属塩が好ましく、アンモニウム塩がより好ましい。
【0020】
(A)成分としては、具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル又はその塩、及びポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸エステル又はその塩から選ばれる1種以下の化合物が挙げられる。
【0021】
(A)成分としては、高い粘弾性を得る観点から、下記一般式(a1)で表される化合物が好適である。
1a-O-(CHCHO)-SOM (a1)
〔式中、R1aは、炭素数12以上22以下の炭化水素基であり、nは平均付加モル数であり1以上200以下の数である。Mは水素原子又は陽イオン、好ましくは無機又は有機の陽イオンである。〕
【0022】
一般式(a1)中、R1aは、好ましくは直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基又は直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基であり、より好ましくは直鎖のアルキル基又はアルケニル基である。
1aの炭素数は、実用上高い粘弾性を得る観点から、12以上、好ましくは14以上、より好ましくは16以上、そして、22以下、好ましくは20以下である。前記一般式(a1)で表される化合物は、R1aの炭素数の異なる2種以上の化合物を用いることができ、その場合、各化合物のR1aの炭素数は、前記の範囲からそれぞれ選択されることが好ましい。
【0023】
一般式(a1)中、粘弾性を得る観点から、R1aは、例えば、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、オレイル基、ステアリル基及びドコシル基から選ばれる1種以上の併用が挙げられ、好ましくはミリスチル基、パルミチル基、オレイル基及びステアリル基から選ばれる1種以上の併用であり、より好ましくは、パルミチル基、オレイル基及びステアリル基から選ばれる1種以上の併用である。
【0024】
一般式(a1)中、R1aのmは、水への溶解性の観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上、そして、好ましくは200以下、より好ましくは150以下、更に好ましくは130以下である。
【0025】
一般式(a1)中、Mは水素原子、あるいはナトリウムイオン、アンモニウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の無機陽イオン、モノエタノールアンモニウムイオン、ジエタノールアンモニウムイオン、トリエタノールアンモニウムイオン、モルホリニウムイオン等の有機陽イオンが挙げられ、好ましくはナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンの無機陽イオンであり、より好ましくはナトリウムイオン、アンモニウムイオンであり、更に好ましくはアンモニウムイオンである。
【0026】
<(B)成分>
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、(B)成分として、アルキル基の炭素数が12以上20以下であり、HLBが6.0以上11.0以下であるポリオキシエチレンアルキルエーテル、及びアルケニル基の炭素数が12以上20以下であり、HLBが6.0以上11.0以下であるポリオキシエチレンアルケニルエーテルから選ばれる1種以上の非イオン性界面活性剤を含有する。
【0027】
(B)成分のHLBは、高い粘弾性を得る観点から、6.0以上、好ましくは7.0以上、そして、11.0以下、好ましくは10.8以下である。
ここで、(B)成分のHLBは、グリフィン氏の方法で求められたHLBであり、この方法のHLB値は、ポリオキシアルキレン型非イオン界面活性剤の場合には下式により求める。
HLB値=20×(MH/M)(MH:親水基部分の分子量、M:分子量)
親水基部分であるポリオキシアルキレン基のオキシアルキレン基の付加モル数に分布を有す場合には、付加モル数の平均値を用いて親水基部分の分子量を求めることとする。
また、エステル型非イオン界面活性剤の場合には下式により求める。
HLB値=20×(1-S/A)(S:エステルのケン化価、A:脂肪酸の酸価)
これらのHLB値の計算にあたっては、「油化学 第13巻 第4号」(1964)36-39貢、早野茂夫、東京大学生産技術研究所に記載の方法を参考にすることができる。
なお、グリフィン氏の方法ではHLB値を求めることができない非イオン界面活性剤については、HLBは実験によって求めた値を採用するものとする。実験方法は「界面活性剤便覧」産業図書株式会社版、西 一郎ら編集、昭和41年1月10日第5刷、319貢記載の方法を採用する。
【0028】
なお、本発明では、(B)成分を複数用いることができる。
また、(B)成分と(B)成分以外の非イオン性界面活性剤とを、全体のHLBが前記範囲となるように組み合わせて(B)成分として用いることができる。ここで、全体のHLBは、平均HLBとして算出される。平均HLBは、各非イオン性界面活性剤のHLB値を、その配合比率に基づいて相加平均して得ることができる。
【0029】
(B)成分は、炭素数12以上20以下の炭化水素基、更に炭素数12以上20以下のアルキル基又はアルケニル基を有する非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0030】
(B)成分のアルキル基及びアルケニル基の炭素数は、それぞれ、12以上、好ましくは14以上、より好ましくは16以上、そして、22以下、好ましくは20以下である。(B)成分は、アルキル基又はアルケニル基の炭素数の異なる2種以上の化合物を用いることができ、その場合、各化合物のアルキル基又はアルケニル基の炭素数は、前記の範囲からそれぞれ選択されることが好ましい。
【0031】
(B)成分のアルキル基及びアルケニル基は、例えば、オレイル基、ステアリル基、パルミチル基、及びミリスチル基から選ばれる1種以上が挙げられ、好ましくは、パルミチル基、オレイル基、及びステアリル基から選ばれる1種以上である。
【0032】
(B)成分のエチレンオキサイドの平均付加モル数は、水への溶解性の観点から、好ましくは1以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは2.0以上、そして、好ましくは12以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは7以下である。
【0033】
(B)成分としては、粘弾性を得る観点から、下記一般式(b1)で表される、HLBが6.0以上11.0以下の非イオン性界面活性剤が好適である。
1b-O-(CHCHO)-H (b1)
[式中、R1bは炭素数12以上22以下のアルキル基又はアルケニル基であり、nは平均付加モル数であり、1以上12以下の数である。R1b及びnは該非イオン性界面活性剤のHLBが6.0以上11.0以下のとなるように選択される。]
【0034】
一般式(b1)中、R1bは、好ましくは直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基又は直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基であり、更に好ましくは直鎖のアルキル基又は直鎖のアルケニル基である。
1bの炭素数は、粘弾性を得る観点から、12以上、好ましくは14以上、より好ましくは16以上、そして、22以下、好ましくは20以下である。前記一般式(b1)で表される化合物は、R1bの炭素数の異なる2種以上の化合物を用いることができ、その場合、各化合物のR1bの炭素数は、前記の範囲からそれぞれ選択されることが好ましい。
【0035】
一般式(b1)中、R1bは、例えば、オレイル基、ステアリル基、パルミチル基、及びミリスチル基から選ばれる1種以上の併用が挙げられ、好ましくはパルミチル基、オレイル基、及びステアリル基から選ばれる1種以上の併用である。
【0036】
一般式(b1)中、nは、水への溶解性の観点から、1以上、好ましくは1.5以上、より好ましくは2以上、そして12以下、好ましくは10以下、より好ましくは7以下である。
【0037】
<水硬性組成物用増粘剤組成物の組成等>
(A)成分は、例えば、ポリオキシエチレンアルキル又はアルケニルエーテルを硫酸化することにより製造できる。(A)成分は、例えば「スルファミン酸法による高級アルコールの硫酸化について」(油脂化学協会誌 第一巻 第2号(1952) p73-76)に記載の方法で製造することができる。、高い粘弾性を得る観点から(A)成分の反応率は、好ましくは70%、より好ましくは80%、更に好ましくは85%、より更に好ましくは90%以上である。
【0038】
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、(A)成分と(B)成分とを合計で、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、含有する。
【0039】
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、(A)成分を、好ましくは0.25質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、そして、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下、含有する。
【0040】
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、(B)成分を、好ましくは0.25質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、そして、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下、含有する。
【0041】
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、固形分中、(A)成分と(B)成分との合計の割合が、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、そして、好ましくは98質量%以下、より好ましくは96質量%以下である。
【0042】
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、固形分中、(A)成分の割合が、好ましくは20量%以上、より好ましくは25質量%以上、そして、好ましくは49質量%以下、より好ましくは48質量%以下である。
【0043】
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、固形分中、(B)成分の割合が、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、そして、好ましくは49質量%以下、より好ましくは48質量%以下である。
【0044】
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、高い粘弾性を得る観点から、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量との合計に対する(A)成分の含有量の割合が、好ましくは5.0質量%以上、より好ましくは10.0質量%以上、更に好ましくは15.0質量%以上、そして、好ましくは70.0質量%以下、より好ましくは65.0質量%以下、更に好ましくは55.0質量%以下である。この割合は、〔(A)成分の含有量〕/〔(A)成分の含有量と(B)成分の含有量との合計〕×100で求められる質量%である。
【0045】
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、水を含有する場合、(A)成分と(B)成分から形成された紐状ミセルを含有するものであってよい。そして、この紐状ミセルは、せん断力が加わった際の粘性低下(チキソトロピー性)のため、配管と水との摩擦抵抗を低減させる組成物の圧送方法として好適である。
こうした特性から、本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、増粘剤として適度な粘弾性が要求される用途に好適に用いられる。例えば、増粘ゲル化剤、配管摩擦抵抗低減剤、インク用添加剤、農薬助剤、潤滑剤、ワックス、などにおける適用が可能であり、また水硬性組成物のレオロジーを改質するために、材料分離抑制、水中分離抑制用途に有用である。例えば、吹付用コンクリート用、トンネル補修用、水平でない壁への施工用、坑井掘削用添加剤、夏や亜熱帯や熱帯など水硬性組成物の混練温度が高い場合の、工事領域を枠で囲って枠内の水を排水することなしに、護岸工事を行う用途などに用いることが出来る。
【0046】
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物において、(A)成分と(B)成分から紐状ミセルが形成していることは電子顕微鏡写真により確認できる。
【0047】
また本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物において、(A)成分と(B)成分から紐状ミセルが形成している場合、組成物の動的粘弾性がMaxwell型に類似した挙動を示す。この挙動は「界面活性剤水溶液の粘弾性特性」(四方俊幸、表面 vol.29、No5(1991)、p399-499)の記載から、有限の分子量を有する高分子状構造の絡み合いを示唆するものであり、無限の分子量を有する完全な紐状ミセル形状ではないが、実用上有用な粘弾性を発現するために十分な長さの紐状ミセルが形成していると推察することが出来る。
【0048】
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、配管摩擦抵抗低減剤として用いることができる。
配管摩擦抵抗低減剤とは、密閉循環系を形成する配管中の水に添加することにより、配管と水との摩擦抵抗を低減させて冷温水ポンプの搬送動力(圧送エネルギー)を軽減させる剤をいう。
配管摩擦抵抗低減剤には、本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物で述べた事項を適宜適用することができる。
冷温水ポンプの密閉循環系の水に、本発明の配管摩擦低減剤を添加すると、(A)成分と(B)成分が紐状ミセルを形成し、この紐状ミセルが循環水の乱れのエネルギー(乱流渦)を吸収し、循環水の流れを乱流から層流に変化させることができる。これにより、配管内の摩擦が低減されるため、冷温水ポンプの搬送動力を低減させることができる。
また配管摩擦低減剤には、カチオン性界面活性剤と芳香族アニオン活性剤を含むものが提案されており、例えば特開昭58-185692号公報が挙げられる。
【0049】
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、増粘ゲル化剤として用いることができる。
増粘ゲル化剤には、本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物で述べた事項を適宜適用することができる。
本発明の増粘ゲル化剤は、(A)成分と(B)成分が紐状ミセルを形成することで、高い粘弾性を有するため、例えば、洗浄剤組成物に添加すれば、垂直又は傾斜した硬質等の汚れた表面に対して、より長い間付着させることができ、高い洗浄効果を上げることができる。
【0050】
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、カチオン界面活性剤を含有しない為、粘土を含む砂も使用可能であり、粘土を含む場所での施工も可能である。また、ベントナイトは建築土木用のレオロジー改質剤、増粘剤などとして広く利用されているが、ベントナイトとも併用が可能である。
【0051】
本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物は、例えば、(A)成分、(B)成分、及び水を混合することで製造できる。すなわち、本発明により、(A)成分、(B)成分、及び水を混合する、水硬性組成物用増粘剤組成物の製造方法が提供される。
【0052】
〔水硬性組成物〕
本発明の水硬性組成物は、(A)成分、(B)成分、水硬性粉体及び水を含有する。
【0053】
本発明の水硬性組成物は、(A)成分と(B)成分から形成された紐状ミセル、水硬性粉体及び水を含有するものであってよい。紐状ミセルが形成されている場合、本発明の水硬性組成物は、該水硬性組成物の(A)成分、(B)成分及び水の組成で調製した水溶液の動的粘弾性がMaxwell型に類似した挙動を示す。
【0054】
本発明の水硬性組成物には、本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物で述べた事項を適宜適用することができる。
【0055】
本発明の水硬性組成物に使用される水硬性粉体とは、水と混合することで硬化する粉体であり、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、エコセメント(例えばJIS R5214等)が挙げられる。これらの中でも、水硬性組成物の必要な強度に達するまでの時間を短縮する観点から、早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、耐硫酸性ポルトランドセメント及び白色ポルトランドセメントから選ばれるセメントが好ましく、早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメントがより好ましい。
【0056】
また、水硬性粉体には、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム、無水石膏等が含まれてよく、また、非水硬性の石灰石微粉末等が含まれていてもよい。水硬性粉体として、セメントと高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム等とが混合された高炉セメントやフライアッシュセメント、シリカヒュームセメントを用いてもよい。
【0057】
本発明の水硬性組成物は、骨材を含有することが好ましい。骨材は、細骨材や粗骨材等が挙げられ、細骨材は山砂、陸砂、川砂、砕砂が好ましく、粗骨材は山砂利、陸砂利、川砂利、砕石が好ましい。用途によっては、軽量骨材を使用してもよい。なお、骨材の用語は、「コンクリート総覧」(1998年6月10日、技術書院発行)による。
【0058】
本発明の水硬性組成物には、水硬性組成物の流動性の観点から、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物などの水硬性粉体用分散剤を用いることが出来る。水硬性組成物が分散剤を含有する場合、水硬性粉体に水を添加する際に、水と一緒に分散剤、(A)成分及び(B)成分を加えることが好ましい。
【0059】
水硬性組成物は、本発明の効果に影響ない範囲で、更に(A)成分、(B)成分以外のその他の成分を含有することもできる。例えば、AE剤、遅延剤、起泡剤、増粘剤、発泡剤、防水剤、流動化剤、消泡剤等が挙げられる。
【0060】
本発明の水硬性組成物は、(A)成分と(B)成分の合計含有量が、水100質量部に対して、高い粘弾性を得る観点から、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.0質量部以上、更に好ましくは1.5質量部以上であり、そして、組成物の流動性を確保する観点から、好ましくは99質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは40質量部以下である。
また本発明の水硬性組成物は、(A)成分の含有量が、水100質量部に対して、高い粘弾性を得る観点から、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは0.75質量部以上であり、そして、好ましくは25質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。
また本発明の水硬性組成物は、(B)成分の含有量が、水100質量部に対して、高い粘弾性を得る観点から、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.0質量部以上、更に好ましくは1.5質量部以上であり、そして、好ましくは25質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。
本発明の水硬性組成物は、(A)成分と(B)成分の合計含有量が所定の範囲内であり、かつ(A)成分と(B)成分の各含有量が所定の範囲内であることが好ましい。
【0061】
本発明の水硬性組成物は、高い粘弾性を得る観点から、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量との合計に対する(A)成分の含有量の割合が、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは55質量%以下である。この割合は、〔(A)成分の含有量〕/〔(A)成分の含有量と(B)成分の含有量との合計〕×100で求められる質量%である。なお、この割合は、各成分の含有量を、水硬性組成物を製造する際の各成分の添加量に置き換えて求めることもできる。
【0062】
本発明の水硬性組成物は、水/水硬性粉体比(W/P)が、水硬性組成物の流動性を確保する観点から、好ましくは15質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、そして、水硬性組成物の乾燥による収縮を抑える観点から、好ましくは1000量%以下、より好ましくは500質量%以下、更に好ましくは300質量%以下である。
ここで、水/水硬性粉体比(W/P)は、水硬性組成物中の水と水硬性粉体の質量百分率(質量%)であり、水/水硬性粉体×100で算出される。水/水硬性粉体比は、水和反応により硬化する物性を有する粉体の量に基づいて算出される。
【0063】
本発明の水硬性組成物は、水硬性粉体、水、(A)成分、及び(B)成分を混合することで製造できる。すなわち、本発明により、水硬性粉体、水、(A)成分、及び(B)成分を混合する水硬性組成物の製造方法が提供される。本発明の水硬性組成物の製造方法には、本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物及び水硬性組成物で述べた事項を適宜適用することができる。例えば、各成分の具体例及び好ましい態様も本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物及び水硬性組成物と同じである。また、本発明の水硬性組成物用増粘剤組成物及び水硬性組成物における各成分の含有量は、混合量に置き換えて本発明の水硬性組成物の製造方法に適用することができる。
【実施例
【0064】
〔実施例1~11及び比較例1~11〕
表1の(A)成分、表2の(B)成分又は(B’)成分((B)成分の比較化合物)を用いてセメントペーストを製造し、粘度を測定した。セメントペーストの配合及び調製は以下の通りである。(A)成分、(B)成分及び(B’)成分は、表3~15のように用いた。結果を表3~15に示す。
【0065】
<セメントペーストの配合及び調製方法>
容器に、400gのセメントを投入し、所定量の水道水を配合し、30秒間撹拌した。ここで、セメントは、普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製普通ポルトランドセメント/住友大阪セメント株式会社製普通ポルトランドセメント=50/50(質量比)の混合品)を用いた。その後、(A)成分及び(B)成分及び/又は(B’)成分を各表に示す添加量で混合し、3分半撹拌してセメントペーストを調製した。各成分の混合は、市販のハンドミキサーを用いて行った。このセメントペーストは、W/Pが100質量%である。なお、最初にセメントに添加した水道水の量と各成分との合計は400gとなるように調整した。
【0066】
<セメントペーストの粘度>
調製直後のセメントペーストの粘度を測定した。粘度は、ビスコテスターVT-04E(リオン株式会社)を使用し、ローターNo.1、ローター回転数62.5rpmの条件で測定した。測定温度は、表に示すセメントペーストの温度で行った。この配合のセメントペーストでは、粘度が100mPa・s以上であれば粘弾性が確認されるため好ましい。
【0067】
【表1】
【0068】
表1の(A)成分は、ポリオキシエチレンアルキル又はアルケニル硫酸エステル塩の構造の化合物である。表1中、アルキル基又はアルケニル基の炭素数は、数字のみ場合はアルキル基の炭素数を示し、表中、左側の数字の次にfが付されているものは、fの次の数の不飽和結合を有するアルケニル基であることを示す(表2も同様)。例えば、18f1は、炭素数18で不飽和結合を1つ有するアルケニル基を意味する。また、表1中、アルキル基又はアルケニル基の割合は、炭素数の順番と対応している(表2も同様)。
【0069】
【表2】
【0070】
表1の(B)成分及び(B’)成分は、ポリオキシエチレンアルキル又はアルケニルエーテルの構造の化合物である。
【0071】
【表3】
【0072】
表中、(A)成分の添加量、(B)成分の添加量は、それぞれ、セメントペーストの水に対する添加量であり、%は質量%である(以下同様)。
表中、(A)/[(A)+(B)]は、〔(A)成分の添加量〕/〔(A)成分の添加量と(B)成分の含有量との合計〕×100で求められる質量%である(以下同様)。
【0073】
【表4】
【0074】
【表5】
【0075】
【表6】
【0076】
【表7】
【0077】
【表8】
【0078】
【表9】
【0079】
【表10】
【0080】
【表11】
【0081】
【表12】
【0082】
表12では、第1の(B)成分と、第2の(B)成分又は(B’)成分を表12に示す比率で併用して、全体として(B)成分として用いた。表12中、合計添加量は、第1の(B)成分と第2の(B)成分の合計の添加量である。平均HLBは、用いた(B)成分全体のHLBである。表12中、総添加量は、(A)成分と(B)成分との合計の添加量である。
【0083】
【表13】
【0084】
【表14】
【0085】
【表15】
【0086】
表15では、第1の(B)成分と、第2の(B)成分又は(B’)成分を表15に示す比率で併用して、全体として(B)成分又は(B’)成分として用いた。表15中、合計添加量は、第1の(B)成分と第2の(B)成分又は(B’)成分の合計の添加量である。平均HLBは、用いた(B)成分又は(B’)成分全体のHLBである。表12中、総添加量は、(A)成分と(B)成分又は(B’)成分との合計の添加量である。
【0087】
〔比較例12及び13〕
表1の(A)成分、表2の(B’)成分、下記(C)成分を用いてモルタルを製造し、粘度を測定した。モルタルの配合及び調製は以下の通りである。(A)成分、(B’)成分、及び(C)成分は、表16又は表17のように用いた。表16、17では、(B’)成分は、便宜的に(B)成分の欄に示した。結果を表16、17に示す。
【0088】
<モルタルの配合及び調製方法>
容器に、400gのセメントと細骨材100gを投入し、所定量の水道水を配合し、30秒間撹拌した。ここで、セメントは、普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製普通ポルトランドセメント/住友大阪セメント株式会社製普通ポルトランドセメント=50/50(質量比)の混合品)を用いた。細骨材は山砂(城陽産)を用いた。その後、(A)成分、(B)成分、更に場合により(C)成分を各表に示す添加量で混合し、3分半撹拌してモルタルを調製した。(C)成分は、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩(花王株式会社、マイテイ150、重量平均分子量13,000)を用いた。各成分の混合は、市販のハンドミキサーを用いて行った。このモルタルは、W/Pが100質量%である。なお、最初にセメントに添加した水道水の量と各成分との合計は400gとなるように調整した。
【0089】
<モルタルの粘度>
調製直後のモルタルの粘度を、実施例1等と同様に測定した。
【0090】
【表16】
【0091】
【表17】
【0092】
表中、(C)成分の添加量は、セメント100質量%に対する添加量であり、%は質量%である。