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特許7256108水素化ポリフェニレンエーテル及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】水素化ポリフェニレンエーテル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/322 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
C08G65/322
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019207409
(22)【出願日】2019-11-15
(65)【公開番号】P2021080343
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】福圓 真一
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-275057(JP,A)
【文献】特表2015-518079(JP,A)
【文献】特開2009-062530(JP,A)
【文献】特開平04-257536(JP,A)
【文献】特開2004-099824(JP,A)
【文献】特表2002-536476(JP,A)
【文献】米国特許第06417287(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0324648(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/00-65/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)に記載の繰り返し構造を有するポリフェニレンエーテル原料に含まれるベンゼン環を10~65%水素化して得られる水素化ポリフェニレンエーテルであり、30℃における0.5g/dLの濃度のクロロホルム溶液で測定された還元粘度(ηsp/c)が0.04~0.20dL/gである、水素化ポリフェニレンエーテル。
【化1】
・・・(1)
(式(1)中、R1、R2、R3、R4は各々独立に水素原子又はC1~C10の飽和若しくは不飽和の炭化水素基であり、前記飽和又は不飽和の炭化水素はC1~C10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよい。)
【請求項2】
前記ポリフェニレンエーテル原料が一般式(4)により表される、請求項1に記載の水素化ポリフェニレンエーテル。
【化2】
・・・(4)
(式(4)中、
1、R2、R3、R4は各々独立に水素原子又はC1~C10の飽和若しくは不飽和の炭化水素基であり、前記飽和又は不飽和の炭化水素はC1~C10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよく;
Xはa価の任意の連結基であり;
aは2~6の整数であり;
5は各々独立に任意の置換基であり;
kは各々独立に1~4の整数であり;
Mは水素原子、下記式(8)、式(9)、式(10)、式(11)からなる群から選ばれる少なくとも一つで表される部分構造を有し;
【化3】
【化4】
【化5】
(式(10)中、R6は水素原子又はC1~C10の飽和若しくは不飽和の炭化水素基であり、前記飽和又は不飽和の炭化水素はC1~C10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよい。)
【化6】
(式(11)中、R7はC1~C10の飽和若しくは不飽和の2価の炭化水素基であり、前記飽和又は不飽和の炭化水素はC1~C10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよく、R8は水素原子又はC1~C10の飽和若しくは不飽和の炭化水素基であり、前記飽和又は不飽和の炭化水素はC1~C10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよい。);
nは繰り返し数を表し、各々独立に0~200の整数である。)
【請求項3】
ガラス転移温度が140~180℃である、請求項1又は2に記載の水素化ポリフェニレンエーテル。
【請求項4】
水素加圧条件下、有機溶媒中にて水素化触媒により、ポリフェニレンエーテルに含まれるベンゼン環の水素化反応を行う工程を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の水素化ポリフェニレンエーテルの製造方法。
【請求項5】
前記水素化触媒が、パラジウムの活性炭担持触媒又はロジウムの活性炭担持触媒である、請求項4に記載の水素化ポリフェニレンエーテルの製造方法。
【請求項6】
前記有機溶媒が炭化水素系溶媒、環状エーテル系溶媒からなる群から選ばれる少なくとも一つを含む、請求項4又は5に記載の水素化ポリフェニレンエーテルの製造方法。
【請求項7】
前記水素化反応を行う工程において、水素加圧圧力が3~30MPaであり、反応温度が50~250℃である、請求項4~6のいずれか一項に記載の水素化ポリフェニレンエーテルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素化ポリフェニレンエーテル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンエーテルは、優れた高周波特性、難燃性、耐熱性を有するため、電気・電子分野、自動車分野、その他の各種工業材料分野の材料として幅広く用いられている。近年、通常の高分子量ポリフェニレンエーテルよりも、極めて低分子量のポリフェニレンエーテルが電子材料用途に対して有効であることが期待されてきており、2,6-ジメチルフェノールを原料として用い酸化重合により得られる一般的なポリフェニレンエーテルよりもさらに低誘電化したポリフェニレンエーテルが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-99824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、高周波数帯を利用する電子機器においては信号伝達速度の高速化に伴い、特許文献1に開示されたようなポリフェニレンエーテルと比較しても、さらに低誘電率の材料が求められている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、誘電特性をさらに向上させた低分子量の水素化ポリフェニレンエーテル及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の通りである。
[1]
一般式(1)に記載の繰り返し構造を有するポリフェニレンエーテル原料に含まれるベンゼン環を10~65%水素化して得られる水素化ポリフェニレンエーテルであり、30℃における0.5g/dLの濃度のクロロホルム溶液で測定された還元粘度(ηsp/c)が0.04~0.20dL/gである、水素化ポリフェニレンエーテル。
【化1】
・・・(1)
(式(1)中、R1、R2、R3、R4は各々独立に水素原子又はC1~C10の飽和若しくは不飽和の炭化水素基であり、前記飽和又は不飽和の炭化水素はC1~C10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよい。)
[2]
前記ポリフェニレンエーテル原料が一般式(4)により表される、[1]に記載の水素化ポリフェニレンエーテル。
【化2】
・・・(4)
(式(4)中、
1、R2、R3、R4は各々独立に水素原子又はC1~C10の飽和若しくは不飽和の炭化水素基であり、前記飽和又は不飽和の炭化水素はC1~C10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよく;
Xはa価の任意の連結基であり;
aは2~6の整数であり、R5は各々独立に任意の置換基であり;
kは各々独立に1~4の整数である。);
Mは水素原子、下記式(8)、式(9)、式(10)、式(11)からなる群から選ばれる少なくとも一つで表される部分構造を有し;
【化3】
【化4】
【化5】
(式(10)中、R6は水素原子又はC1~C10の飽和若しくは不飽和の炭化水素基であり、前記飽和又は不飽和の炭化水素はC1~C10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよい。)
【化6】
(式(11)中、R7はC1~C10の飽和若しくは不飽和の2価の炭化水素基であり、前記飽和又は不飽和の炭化水素はC1~C10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよく、R8は水素原子又はC1~C10の飽和若しくは不飽和の炭化水素基であり、前記飽和又は不飽和の炭化水素はC1~C10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよい。);
nは繰り返し数を表し、各々独立に0~200の整数である。)
[3]
ガラス転移温度が140~180℃である、[1]又は[2]に記載の水素化ポリフェニレンエーテル。
[4]
水素加圧条件下、有機溶媒中にて水素化触媒により、ポリフェニレンエーテルに含まれるベンゼン環の水素化反応を行う工程を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の水素化ポリフェニレンエーテルの製造方法。
[5]
前記水素化触媒が、パラジウムの活性炭担持触媒又はロジウムの活性炭担持触媒である、[4]に記載の水素化ポリフェニレンエーテルの製造方法。
[6]
前記有機溶媒が炭化水素系溶媒、環状エーテル系溶媒からなる群から選ばれる少なくとも一つを含む、[4]又は[5]に記載の水素化ポリフェニレンエーテルの製造方法。
[7]
前記水素化反応を行う工程において、水素加圧圧力が3~30MPaであり、反応温度が50~250℃である、[4]~[6]のいずれかに記載の水素化ポリフェニレンエーテルの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、誘電特性をさらに向上させた低分子量の水素化ポリフェニレンエーテル及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は、この本実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
なお、本発明の実施の形態において、A(数値)~B(数値)は、A以上B以下を意味する。
【0009】
<水素化ポリフェニレンエーテル>
本実施形態に係る水素化ポリフェニレンエーテルは、ポリフェニレンエーテル原料に含まれるベンゼン環を10~65%水素化して得られるものであり、30℃における0.5g/dLの濃度のクロロホルム溶液で測定された還元粘度(ηsp/c)が0.04~0.20dL/gである。
【0010】
本実施形態の水素化ポリフェニレンエーテルは、一般式(1)に記載の繰り返し構造を有する。
【化7】
式(1)中、R1、R2、R3、R4は各々独立に水素原子又はC1~C10の飽和若しくは不飽和の炭化水素基であり、前記飽和又は不飽和の炭化水素はC1~C10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよい。
【0011】
飽和若しくは不飽和の炭化水素基としては、炭素数が好ましくは1~6、より好ましくは1~3の基が挙げられ、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、フェニル等が挙げられ、フェニル、メチル、エチルが好ましく、メチルがより好ましい。
飽和若しくは不飽和の炭化水素は、C1~C10の条件を満たす限度で、1又は2以上の置換基で置換されていてもよい。このような置換基としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、炭素数1~6のアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル等)、アリール基(例えば、フェニル、ナフチル等)、アルケニル基(例えば、エテニル、1-プロペニル、2-プロペニル等)、アルキニル基(例えば、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル等)、アラルキル基(例えば、ベンジル、フェネチル等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ等)等が挙げられる。
【0012】
本実施形態において、水素化によってポリフェニレンエーテル原料の式(1)の繰り返し単位のフェニル基の二重結合、又は後述の式(2)の部分構造に含まれるフェニル基の二重結合が水素化されると考えられるが、水素化されるベンゼン環上の部位は特定できず、かつポリフェニレンエーテル分子ごとに異なる部位が水素化されると考えられる。このため、水素化されたポリフェニレンエーテル(水素化ポリフェニレンエーテル)は、単一の化合物ではなく、複数種の化合物を包含する組成物である。
【0013】
本実施形態において、ポリフェニレンエーテル原料に含まれるベンゼン環の水素化率は10~65%であり、15~50%であることがより好ましく、30~45%であることがさらに好ましい。ポリフェニレンエーテル原料の水素化率が10%以上であることで、水素化ポリフェニレンエーテルがポリフェニレンエーテル原料に比べて優れた誘電特性を有する傾向にある。ポリフェニレンエーテル原料の水素化率が65%以下であることで耐熱性に優れ、50%以下であることで高いガラス転移温度を維持することができる傾向にある。
なお、水素化率は、1H NMRを用いて、水素化前後での芳香族領域のピークを比較解析することによって測定することができ、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。
【0014】
本実施形態の水素化ポリフェニレンエーテルの30℃における0.5g/dLの濃度のクロロホルム溶液で測定された還元粘度(ηsp/c)は、0.04~0.20dL/gであり、好ましくは0.06~0.18dL/g、より好ましくは0.08~0.16dL/gである。
なお、還元粘度(ηsp/c)は、ウベローデ粘度管を用いて測定することができ、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。
還元粘度が0.04dL/g以上であることにより、水素化ポリフェニレンエーテルとしての優れた高周波特性、難燃性、耐熱性を有効に活かすことができる。また、還元粘度が0.20dL/g以下であることにより、汎用溶剤(例えばトルエン、ジクロロメタン、メチルエチルケトン等)への溶解性や他の樹脂との混合性を高めることができる。なお、還元粘度は、後述の実施例における測定方法により測定した値とする。
【0015】
還元粘度の制御方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリフェニレンエーテル原料を製造する際に、重合時間やモノマー追添時間を調整することで調整することができる。また、重合をスラリー重合法により行う場合には、より貧溶媒性の高い溶剤の割合を高めることで、還元粘度が小さくなるように制御することができる。
【0016】
本実施形態の水素化ポリフェニレンエーテルのガラス転移温度は、140~220℃であり、好ましくは145~220℃、より好ましくは150~220℃である。
なお、ガラス転移温度は、示差走査熱量計DSCを用いて測定することができ、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。
ガラス転移温度が140℃以上であると、水素化ポリフェニレンエーテルとしての優れた耐熱性を有効に活かすことができる。
【0017】
<水素化ポリフェニレンエーテルの製造方法>
本実施形態に係る水素化ポリフェニレンエーテルの製造方法は、水素加圧条件下、有機溶媒中にて水素化触媒により、ポリフェニレンエーテルに含まれるベンゼン環の水素化反応を行う工程(水素化工程)を有する。
【0018】
-ポリフェニレンエーテル原料-
本実施形態に係る水素化ポリフェニレンエーテルの製造方法の製造方法で用いるポリフェニレンエーテル(ポリフェニレンエーテル原料)は、一般式(1)で表される繰り返し構造を有する。
【化8】
・・・(1)
式(1)中、R1、R2、R3、R4は各々独立に水素原子又はC1~C10の飽和若しくは不飽和の炭化水素基であり、前記飽和又は不飽和の炭化水素はC1~C10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよい。
【0019】
飽和若しくは不飽和の炭化水素基としては、炭素数が好ましくは1~6、より好ましくは1~3の基が挙げられ、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、フェニル等が挙げられ、フェニル、メチル、エチルが好ましく、メチルがより好ましい。
飽和若しくは不飽和の炭化水素は、C1~10の条件を満たす限度で、1又は2以上の置換基で置換されていてもよい。このような置換基としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、炭素数1~6のアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル等)、アリール基(例えば、フェニル、ナフチル等)、アルケニル基(例えば、エテニル、1-プロペニル、2-プロペニル等)、アルキニル基(例えば、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル等)、アラルキル基(例えば、ベンジル、フェネチル等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ等)等が挙げられる。
【0020】
さらに、上記ポリフェニレンエーテル原料は、一般式(2)により表されるポリフェニレンエーテル原料であってもよい。
【0021】
【化9】
式(2)中、各官能基は下記のとおりとしてよい。
1、R2、R3、R4は各々独立に水素原子又はC1~C10の飽和若しくは不飽和の炭化水素基であり、前記飽和又は不飽和の炭化水素はC1~C10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよい。
Zは下記式(3)で表される部分構造を有する。
【化10】
式(3)中、Xはa価の任意の連結基であり、aは2~6の整数であり、R5は各々独立に任意の置換基であり、kは各々独立に1~4の整数である。
Mは水素原子、下記式(8)、式(9)、式(10)、式(11)からなる群から選ばれる少なくとも一つで表される部分構造を有する。
【化11】
【化12】
【化13】
式(10)中、R6は水素原子又はC1~C10の飽和若しくは不飽和の炭化水素基であり、前記飽和又は不飽和の炭化水素はC1~C10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよい。
【化14】
式(11)中、R7はC1~C10の飽和若しくは不飽和の2価の炭化水素基であり、前記飽和又は不飽和の炭化水素はC1~C10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよく、R8は水素原子又はC1~C10の飽和若しくは不飽和の炭化水素基であり、前記飽和又は不飽和の炭化水素はC1~C10の条件を満たす限度で置換基を有していてもよい。
nは繰り返し数を表し、各々独立に0~200の整数である。
【0022】
本実施形態では、式(2)が下記式(4)で表されるものであることが好ましい。
【化15】
式(4)中、R1、R2、R3、R4については、前述の式(2)のR1、R2、R3、R4と同じであり、R5については、前述の式(3)のR5と同じである。
【0023】
より詳細には、式(2)及び式(3)において上記aが2である場合(Xが2価の連結基である場合)、上記式(3)の部分構造は下記式(5)で表される構造としてよい。
【化16】
式(5)中、R9、R10、R11、R12は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、C1~C7のアルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基、少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基からなる群から選ばれる。
式(5)中、Xは、単結合、2価のヘテロ原子、C1~C12の2価の炭化水素基からなる群から選ばれる。
【0024】
上記式(5)で表される代表的な化合物としては、R9及びR10がメチル基で、R11及びR12が水素で、Xが両方のアリール基を直結している単結合である化合物;R9及びR10がメチル基で、R11及びR12が水素で、Xがメチレンである化合物;R9及びR10がメチル基で、R11及びR12が水素で、Xがチオである化合物;R9、R10及びR11がメチル基で、R12が水素で、Xがエチレンである化合物;R9及びR10がメチル基で、R11及びR12が水素で、Xがイソプロピリデンである化合物;R9及びR10がメチル基で、R11及びR12が水素で、Xがシクロヘキシリデンである化合物;R9、R10及びR11がメチル基で、R12が水素で、Xが両方のアリール基を直結している単結合である化合物;R9、R10及びR11がメチル基で、R12が水素で、Xがメチレンである化合物;R9、R10及びR11がメチル基で、R12が水素で、Xが置換又は非置換のエチレンである化合物;R9、R10及びR11がメチル基で、R12が水素で、Xがチオである化合物;R9、R10及びR11がメチル基で、R12が水素で、Xがイソプロピリデンである化合物;R9、R10、R11及びR12がメチル基で、Xがメチレンである化合物;R9、R10、R11及びR12がメチル基で、Xがエチレンである化合物;R9、R10、R11及びR12がメチル基で、Xがイソプロピリデンである化合物;R9がt-ブチル基で、R10がメチル基で、R11及びR12が水素で、Xが置換又は非置換のプロピレンである化合物;等であるが、これらに限定されない。
【0025】
式(2)及び式(3)においてa=2の場合、本実施形態のポリフェニレンエーテル原料は、例えば、下記式(6)で表される一価のフェノール化合物と下記式(7)で表される二価のフェノール化合物とを共重合して得ることができる。
【化17】
式(6)中、R13、R14、R15、R16については、前述の式(1)のR1、R2、R3、R4と同じである。
【0026】
【化18】
式(7)中、R17、R18、R19、R20については、前述の式(5)のR9、R10、R11、R12と同じである。
【0027】
上記式(6)で表されるフェノール化合物としては、例えば、o-クレゾール、2,6-ジメチルフェノール、2-エチルフェノール、2-メチル-6-エチルフェノール、2,6-ジエチルフェノール、2-n-プロピルフェノール、2-エチル-6-n-プロピルフェノール、2-メチル-6-クロルフェノール、2-メチル-6-ブロモフェノール、2-メチル-6-イソプロピルフェノール、2-メチル-6-n-プロピルフェノール、2-エチル-6-ブロモフェノール、2-メチル-6-n-ブチルフェノール、2,6-ジ-n-プロピルフェノール、2-エチル-6-クロルフェノール、2-メチル-6-フェニルフェノール、2-フェニルフェノール、2,6-ジフェニルフェノール、2,6-ビス-(4-フルオロフェニル)フェノール、2-メチル-6-トリルフェノール、2,6-ジトリルフェノール、2,5-ジメチルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノール、2,5-ジエチルフェノール、2-メチル-5-エチルフェノール、2-エチル-5-メチルフェノール、2-アリル-5-メチルフェノール、2,5-ジアリルフェノール、2,3-ジエチル-6-n―プロピルフェノール、2-メチル-5-クロルフェノール、2-メチル-5-ブロモフェノール、2-メチル-5-イソプロピルフェノール、2-メチル-5-n-プロピルフェノール、2-エチル-5-ブロモフェノール、2-メチル-5-n-ブチルフェノール、2,5-ジ-n-プロピルフェノール、2-エチル-5-クロルフェノール、2-メチル-5-フェニルフェノール、2,5-ジフェニルフェノール、2,5-ビス-(4-フルオロフェニル)フェノール、2-メチル-5-トリルフェノール、2,5-ジトリルフェノール、2,6-ジメチル-3-アリルフェノール、2,3,6-トリアリルフェノール、2,3,6-トリブチルフェノール、2,6-ジ-n-ブチル-3-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-3-メチルフェノール、2,6-ジメチル-3-n-ブチルフェノール、2,6-ジメチル-3-t-ブチルフェノール等が挙げられる。
【0028】
上記フェノール化合物の中でも、特に、安価であり入手が容易であるため、2,6-ジメチルフェノール、2,6-ジエチルフェノール、2,6-ジフェニルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノール、2,5-ジメチルフェノールが好ましく、2,6-ジメチルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノールがより好ましい。
なお、上記フェノール化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
例えば、2,6-ジメチルフェノールと2,6-ジエチルフェノールとを組み合わせて使用する方法、2,6-ジメチルフェノールと2,6-ジフェニルフェノールとを組み合わせて用いる方法、2,3,6-トリメチルフェノールと2,5-ジメチルフェノールとを組み合わせて使用する方法、2,6-ジメチルフェノールと2,3,6-トリメチルフェノールとを組み合わせて用いる方法等が挙げられる。このとき、組み合わせるフェノール化合物の混合比は任意に選択できる。
また、使用するフェノール化合物には、製造の際の副産物として含まれ得る、少量のm-クレゾール、p-クレゾール、2,4-ジメチルフェノール、2,4,6-トリメチルフェノール等が含まれていてもよい。
【0030】
上記式(7)で表されるような二価のフェノール化合物は、対応する一価のフェノール化合物と、アルデヒド類(例えば、ホルムアルデヒド等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、シクロヘキサノン等)、又はジハロゲン化脂肪族炭化水素との反応や、対応する一価のフェノール化合物同士の反応等により、工業的に有利に製造できる。
【0031】
さらに、式(2)及び式(3)においてa=3~6の場合、上記式(6)で表されるフェノール化合物と多価フェノール化合物との共重合で得られ、多価フェノール化合物に由来する構造単位を有することも可能である。多価フェノール化合物としては、例えば、分子内に3個以上9個未満のフェノール性水酸基を有する化合物が挙げられる。
【0032】
多価フェノール化合物の例を以下に列挙する。4,4’-[(3-ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス(2,6-ジメチルフェノール)、4,4’-[(3-ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス(2,3,6-トリメチルフェノール)、4,4’-[(4-ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス(2,6-ジメチルフェノール)、4,4’-[(4-ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス(2,3,6-トリメチルフェノール)、4,4’-[(2-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル)メチレン]ビス(2,6-ジメチルフェノール)、4,4’-[(4-ヒドロキシ-3-エトキシフェニル)メチレン]ビス(2,3,6-トリメチルエチルフェノール)、4,4’-[(3,4-ジヒドロキシフェニル)メチレン]ビス(2,6-ジメチルフェノール)、4,4’-[(3,4-ジヒドロキシフェニル)メチレン]ビス(2,3,6-トリメチルフェノール)、2,2’-[(4-ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス(3,5,6-トリメチルフェノール)、4,4’-[4-(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシリデン]ビス(2,6-ジメチルフェノール)、4,4’-[(2-ヒドロキシフェニル)メチレン]-ビス(2,3,6-トリメチルフェノール)、4,4’-[1-[4-[1-(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)-1-メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビス(2,6-ジメチルフェノール)、4,4’-[1-[4-[1-(4-ヒドロキシ-3-フルオロフェニル)-1-メチルエチル]フェニル]エチリデン]ビス(2,6-ジメチルフェノール)、2,6-ビス[(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)エチル]-4-メチルフェノール、2,6-ビス[(4-ヒドロキシ-2,3,6-トリメチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノール、2,6-ビス[(4-ヒドロキシ-3,5,6-トリメチルフェニル)メチル]-4-エチルフェノール、2,4-ビス[(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)メチル]-6-メチルフェノール、2,6-ビス[(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノール、2,4-ビス[(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)メチル]-6-メチルフェノール、2,4-ビス[(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)メチル]-6-シクロヘキシルフェノール、2,4-ビス[(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メチル]-6-シクロヘキシルフェノール、2,4-ビス[(4-ヒドロキシ-2,3,6-トリメチルフェニル)メチル]-6-シクロヘキシルフェノール、3,6-ビス[(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)メチル]-1,2-ベンゼンジオール、4,6-ビス[(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)メチル]-1,3-ベンゼンジオール、2,4,6-トリス[(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)メチル]-1,3-ベンゼンジオール、2,4,6-トリス[(2-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)メチル]-1,3-ベンゼンジオール、2,2’-メチレンビス[6-[(4/2-ヒドロキシ-2,5/3,6-ジメチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノール]、2,2’-メチレンビス[6-[(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノール]、2,2’-メチレンビス[6-[(4/2-ヒドロキシ-2,3,5/3,4,6-トリメチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノール]、2,2’-メチレンビス[6-[(4-ヒドロキシ-2,3,5-トリメチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノール]、4,4’-メチレンビス[2-[(2,4-ジヒドロキシフェニル)メチル]-6-メチルフェノール]、4,4’-メチレンビス[2-[(2,4-ジヒドロキシフェニル)メチル]-3,6-ジメチルフェノール]、4,4’-メチレンビス[2-[(2,4-ジヒドロキシ-3-メチルフェニル)メチル]-3,6-ジメチルフェノール]、4,4’-メチレンビス[2-[(2,3,4-トリヒドロキシフェニル)メチル]-3,6-ジメチルフェノール]、6,6’-メチレンビス[4-[(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)メチル]-1,2,3-ベンゼントリオール]、4,4’-シクロヘキシリデンビス[2-シクロヘキシル-6-[(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メチル]フェノール]、4,4’-シクロヘキシリデンビス[2-シクロヘキシル-6-[(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)メチル]フェノール]、4,4’-シクロヘキシリデンビス[2-シクロヘキシル-6-[(4-ヒドロキシ-2-メチル-5-シクロヘキシルフェニル)メチル]フェノール]、4,4’-シクロヘキシリデンビス[2-シクロヘキシル-6-[(2,3,4-トリヒドロキシフェニル)メチル]フェノール]、4,4’,4’’,4’’’-(1,2-エタンジイリデン)テトラキス(2,6-ジメチルフェノール)、4,4’,4’’,4’’’-(1,4-フェニレンジメチリデン)テトラキス(2,6-ジメチルフェノール)、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,3-トリス-(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
多価フェノール化合物におけるフェノール性水酸基の数は3個以上であれば特に制限はないが、ポリフェニレンエーテル末端が多くなると加熱時の分子量変化が大きくなる可能性があるため、好ましくは3~6個、さらに好ましくは3~4個である。
【0034】
最も好ましい多価フェノール化合物は、4,4’-[(4-ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス(2,6-ジメチルフェノール)、4,4’-[(3-ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス(2,6-ジメチルフェノール)、4,4’-[(4-ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス(2,3,6-トリメチルフェノール)、4,4’-[(3-ヒドロキシフェニル)メチレン]ビス(2,3,6-トリメチルフェノール)、4,4’,4’’,4’’’-(1,4-フェニレンジメチリデン)テトラキス(2,6-ジメチルフェノール)、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1,3-トリス-(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタンである。
【0035】
また、本実施形態のポリフェニレンエーテル原料は、単官能性ポリフェニレンエーテルを場合によっては酸化剤の存在下で二価及び多価フェノールと平衡化する再分配反応によって製造することもできる。再分配反応は、当該技術において公知であり、例えばCooperらの米国特許第3,496,236号明細書、及びLiskaらの米国特許第5,880,221号明細書に記載されている。
【0036】
以下、ポリフェニレンエーテル原料の水素化工程について詳述する。
【0037】
当該水素化工程に用いる溶剤としては、水素化反応前後のポリマーの溶解性及び水素の溶解性が良好であり、水素化される部位を持たない溶媒が好ましい。このような溶媒としては、シクロヘキサンなどの炭化水素系溶剤、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶剤、テトラヒドロフランや1,4-ジオキサンなどの環状エーテル系溶媒などが好適である。ポリフェニレンエーテル原料の溶解性からテトラヒドロフランや1,4-ジオキサンなどの環状エーテル系溶媒などが好ましい。
【0038】
水素化反応時の溶液中におけるポリフェニレンエーテル原料の濃度は、好ましくは5~50質量%、より好ましくは7~30質量%、さらに好ましくは10~25質量%である。上記範囲内であると、反応速度の低下や溶液粘性の上昇による取扱いの不便さを避けることができる。
【0039】
水素化触媒としては、水素化の反応速度が速く、原料の分子切断等による分子量を低下させることがなく、また、水素化条件下で溶媒と反応しない触媒を選定する。具体的には、担持することにより高い金属表面積を得ることができるので、パラジウム(Pd)やロジウム(Rh)を担体に担持した固体触媒が好適である。触媒担体としては、活性炭、アルミナ(Al23)、シリカ(SiO2)、シリカ-アルミナ(SiO2-Al23)、珪藻土、酸化チタン、酸化ジルコニウムなどが用いられる。この中でも、パラジウムの活性炭担持触媒やロジウムの活性炭担持触媒が好ましい。
【0040】
水素化触媒の使用量はポリフェニレンエーテル原料100質量部に対して好ましくは1~40質量部、より好ましくは5~30質量部、さらに好ましくは7~25質量部である。
【0041】
水素化反応条件は3~30MPaの水素加圧圧力で、50~250℃、3~48時間行うのが好ましい。より好ましくは5~20MPaの水素加圧圧で、70~200℃、4~24時間、さらに好ましくは5~20MPaの水素加圧圧で、90~160℃、5~12時間である。反応温度が上記範囲内であると、充分な反応速度が得られ、原料および水素化体の分解を避けることができる。また、水素圧が上記範囲内であると、充分な反応速度が得られる。
【0042】
前記Mが水素原子以外の置換基である水素化ポリフェニレンエーテルを得る場合、末端置換基Mの分解を避けるためM=Hのポリフェニレンエーテル原料の水素化を実施した後に、水素化ポリフェニレンエーテルの末端フェノールユニットに水素原子以外の置換基を導入する工程(変性工程)を有することが好ましい。
変性工程では、エステル、酸塩化物、酸無水物、ハロゲン化炭化水素等を水素化ポリフェニレンエーテルと溶液中で接触ないし反応させてよい。
酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水サリチル酸、無水フタル酸、無水アクリル酸、無水メタクリル酸等が挙げられる。
ハロゲン化炭化水素としては、例えば、クロロメチルスチレン(p-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレン、o-クロロメチルスチレン、これらの混合物)、エピクロロヒドリン、臭化アリル等が挙げられる。
【0043】
水素化反応後は、触媒を濾過又は遠心分離などの公知の方法で分離する。得られた水素化ポリフェニレンエーテル中の残留金属濃度は出来るだけ少ないことが好ましい。残留金属濃度は、100ppm以下が好ましく、より好ましくは10ppm以下、さらに好ましくは1ppmである。
【0044】
触媒を分離した後、水素化ポリフェニレンエーテルの溶液から溶媒を除去し、水素化ポリフェニレンエーテルを単離する。例えば、水素化ポリフェニレンエーテルの溶液から溶媒を除去した濃縮液を溶融状態で押出し、次いでペレット化する方法や、水素化ポリフェニレンエーテルの溶液に貧溶媒を加えて水素化ポリフェニレンエーテルを沈殿させ単離するなどの公知の方法を用いることができる。
【実施例
【0045】
以下、実施例に基づいて本実施形態を更に詳細に説明するが、本実施形態は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
まず、下記に各物性及び評価の測定方法及び評価基準について述べる。
【0047】
(1)還元粘度(ηsp/c)の測定方法
各々の例で得られたポリフェニレンエーテル原料又は水素化ポリフェニレンエーテルを0.5g/dLのクロロホルム溶液として、ウベローデ粘度管を用いて30℃における還元粘度(ηsp/c)を求めた。単位はdL/gである。
【0048】
(2)水素化率の測定
(2-1)水素化ポリフェニレンエーテルの水素化率は1H NMRにより求めた。水素化前のポリフェニレンエーテル原料10mgと、内部標準物質としてジクロロメタン10mgと、を重クロロホルムに溶解させ測定溶液を作成した。測定溶液を用いて、日本電子製 JNM-ECZ500(測定周波数500MHz、積算回数512回)にて1H NMRを測定した。ジクロロメタン(5.3ppm)の積分比を100として、芳香族領域(6.0~8.0ppm)のシグナル積分値(A)を確認した。
(2-2)上記(2-1)と同様に、水素化後のポリフェニレンエーテルの1H NMRを測定し、ジクロロメタン(5.3ppm)の積分比を100として、芳香族領域(6.0~8.0ppm)のシグナル積分値(B)を確認した。
(2-3)水素化前後の芳香族領域のシグナル積分値の減少分(A-B)と水素化前の芳香族領域のシグナル積分値(A)を用い、水素化率(%)を(A-B)/(A)×100として定義した。
なお、水素化により芳香属領域から脂肪族領域にシフトするプロトンのシグナルと、ポリフェニレンエーテルの主鎖や側鎖にもともの存在する脂肪族領域のプロトンのシグナルとは、重なって観測された。
【0049】
(3)比誘電率の測定
測定対象のポリフェニレンエーテル原料又は水素化ポリフェニレンエーテルを150mm×150mm×2mmの金型を用いて、株式会社神藤金属工業所製プレス成型機(テストプレスYSR-10型)によりプレス成型を行った。得られたプレス片の一部を用いて、IEC 62810に準拠し、1GHzにおける比誘電率(―)を測定した。測定装置はアジレント・テクノロジー株式会社製のPNA-Lネットワークアナライザ N5230Aを用いた。
【0050】
(4)ガラス転移温度(Tg)の測定
ポリフェニレンエーテル原料のガラス転移温度は、示差走査熱量計DSC(PerkinElmer製-Pyrisl)を用いて測定した。窒素雰囲気中、毎分20℃の昇温速度で室温から200℃まで加熱後、50℃まで毎分20℃で降温し、その後、毎分20℃の昇温速度でガラス転移温度を測定した。水素化ポリフェニレンエーテルについても、上記と同様にしてガラス転移温度(℃)を求めた。
【0051】
以下、各実施例のポリフェニレンエーテル原料及び水素化ポリフェニレンエーテルの製造方法を説明する。
【0052】
(製造例1)
反応器底部に酸素含有ガス導入の為のスパージャー、攪拌タービン翼及びバッフル、反応器上部のベントガスラインに還流冷却器を備えた1.5リットルのジャケット付き反応器に、0.2512gの塩化第二銅2水和物、1.1062gの35%塩酸、9.5937gのN,N,N’,N’-テトラメチルプロパンジアミン、354.5gのn-ブタノール及び354.5gのメタノール、151.7gの2,6-ジメチルフェノール(表中「2,6-キシレノール」と記す)、28.25gの2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(「ビスフェノール」と記す)を入れた。使用した溶剤の組成質量比はn-ブタノール:メタノール=50:50であった。次いで激しく攪拌しながら反応器へ180mL/分の速度で酸素をスパージャーより導入し始めると同時に、重合温度は45℃を保つようにジャケットに熱媒を通して調節した。重合液は次第にスラリーの様態を呈した。
酸素を導入し始めてから120分後、酸素含有ガスの通気をやめ、この重合混合物に1.30gのエチレンジアミン四酢酸3カリウム塩(同仁化学研究所製試薬)を溶かした50%水溶液を添加し、次いで1.62gのハイドロキノン(和光純薬社製試薬)を少量ずつ添加し、スラリー状のポリフェニレンエーテルが白色となるまで、45℃で1時間反応させた。反応終了後、濾過して、メタノール洗浄液(b)と、洗浄されるポリフェニレンエーテル(a)との質量比(b/a)が4となる量の洗浄液(b)で3回洗浄し、湿潤ポリフェニレンエーテルを得た。次いで120℃で1時間、真空乾燥し乾燥ポリフェニレンエーテルを得た。得られたポリフェニレンエーテル原料の分析結果を表1に示す。
【0053】
(製造例2)
使用した溶剤を709.0gのn-ブタノールとした以外は、製造例1の方法と同様にしてポリフェニレンエーテルを得た。得られたポリフェニレンエーテル原料の分析結果を表1に示す。
【0054】
(製造例3)
反応器底部に酸素含有ガス導入の為のスパージャー、攪拌タービン翼及びバッフル、反応器上部のベントガスラインに還流冷却器を備えた1.5リットルのジャケット付き反応器に、予め調整した0.1026gの酸化第一銅及び0.7712gの47%臭化水素の混合物と、0.2471gのN,N’-ジ-t-ブチルエチレンジアミン、3.6407gのジメチル-n-ブチルアミン、1.1962gのジ-n-ブチルアミン、894.04gのトルエン、73.72gの2,6-ジメチルフェノール、26.28gの1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン(ADEKA製:AO-30)を入れた。
次いで、激しく攪拌しながら反応器へ1.05L/分の速度で空気をスパージャーより導入し始めると同時に、重合温度は40℃を保つようにジャケットに熱媒を通して調節した。空気を導入し始めてから160分後、空気の通気をやめ、この重合混合物に1.1021gのエチレンジアミン四酢酸四ナトリウム塩四水和物(同仁化学研究所製試薬)を100gの水溶液として添加し、70℃に温めた。
70℃にて2時間保温し触媒抽出と副生したジフェノキノン除去処理を行った後、混合液をシャープレス社製遠心分離機に移し、ポリフェニレンエーテル溶液(有機相)と、触媒金属を移した水性相とに分離した。得られたポリフェニレンエーテル溶液をジャケット付き濃縮槽に移し、ポリフェニレンエーテル溶液中の固形分が55質量%になるまでトルエンを留去させて濃縮した。
次いで、230℃に設定したオイルバスとロータリーエバポレーターを用いて更にトルエンを留去し、固形分を乾固させてポリフェニレンエーテル原料を得た。
得られたポリフェニレンエーテル原料の分析結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
(実施例1)
50mLオートクレーブへテトラヒドロフラン20gを投入し、マグネチックスターラーで攪拌しながら、製造例1に記載のポリフェニレンエーテル原料5.0gを徐々に投入して溶解した。0.5gの5%Rh/Cを投入し、容器を密閉してアルゴンを充填し、系内を不活性雰囲気とした。次に水素を充填し、水素圧10MPaとした。温度150℃で4時間水素化反応を行なった。反応液を室温へ降温させ、濾過によりRh/Cを除去した後、得られたろ液を、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下濃縮し、100℃で12時間減圧乾燥した。得られた水素化体の分析結果を表2に示す。
【0057】
(実施例2)
触媒を1.0gの5%Pd/Cとした以外は、実施例1と同様に水素化を行った。得られた水素化体の分析結果を表2に示す。
【0058】
(実施例3)
溶媒をヘキサンとした以外は、実施例1と同様に水素化を行った。得られた水素化体の分析結果を表2に示す。
【0059】
(実施例4)
製造例2に記載のポリフェニレンエーテル原料5.0gを使用した以外は、実施例1と同様に水素化を行った。得られた水素化体の分析結果を表2に示す。
【0060】
(実施例5)
水素圧を5MPaとした以外は、実施例1と同様に水素化を行った。得られた水素化体の分析結果を表2に示す。
【0061】
(実施例6)
反応温度を100℃とした以外は、実施例1と同様に水素化を行った。得られた水素化体の分析結果を表2に示す。
【0062】
(実施例7)
触媒を1.0gの5%Rh/C、反応温度を200℃、反応時間を52時間とした以外は、実施例1と同様に水素化を行った。得られた水素化体の分析結果を表2に示す。
【0063】
(実施例8)
製造例3に記載のポリフェニレンエーテル原料5.0gを使用した以外は、実施例1と同様に水素化を行った。得られた水素化体の分析結果を表2に示す。
【0064】
(実施例9)
実施例1にて得られた水素化ポリフェニレンエーテルのメタクリル変性を実施した。
トルエン80g及び水素化ポリフェニレンエーテルを26g混合して約85℃に加熱した。ジメチルアミノピリジン0.55gを添加した。固体がすべて溶解したと思われる時点で、無水メタクリル酸4.9gを徐々に添加した。得られた溶液を連続混合しながら85℃に3時間維持した。次いで、室温に冷却したメタクリレート変性ポリフェニレンエーテルのトルエン溶液120gを、1Lビーカー中マグネチックスターラーで激しく撹拌したメタノール360g中に30分かけて滴下した。得られた沈殿物を、メンブランフィルターで減圧濾過後乾燥し、38gのポリマーを得た。5.8ppm付近にメタクリル基のオレフィン由来のピークの発現を確認した。また、GC測定により、ジメチルアミノピリジン、無水メタクリル酸、メタクリル酸由来のピークがほぼ消失していることから、NMRのメタクリル基由来のピークは、ポリフェニレンエーテル末端に結合しているメタクリル基のものと判断した。得られた生成物の還元粘度は0.09dL/gであり、比誘電率は2.40であった。
【0065】
(実施例10)
実施例1にて得られた水素化ポリフェニレンエーテルのスチニル変性を実施した。
温度調節器、撹拌装置、冷却設備及び滴下ロートを備えた300mLの3つ口フラスコに、水素化ポリフェニレンエーテルを26g、クロロメチルスチレン(p-クロロメチルスチレンとm-クロロメチルスチレンとの比が50/50,東京化成工業社製)4.4g、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド0.2g、トルエン80gを投入した。混合物を撹拌溶解し、液温を75℃とした。当該混合液に、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム2.2g/水3g)を20分間で滴下し、さらに75℃で4時間撹拌を続けた。次に、10%塩酸水溶液でフラスコ内容物を中和した後、ポリマー溶液120gを、1Lビーカー中マグネチックスターラーで激しく撹拌したメタノール360g中に30分かけて滴下した。得られた沈殿物を、メンブランフィルターで減圧濾過後乾燥し、39gのポリマーを得た。1H NMR測定を行い、ポリフェニレンエーテル由来の水酸基のピークの消失と、スチリル基のオレフィン由来のプロトンピークを確認した。また、GC測定により、クロロメチルスチレン類のピークがほぼ消失していることから、NMRのスチリル基由来のピークは、ポリフェニレンエーテル末端に結合しているスチリル基のものと判断した。得られた生成物の還元粘度は0.09dL/gであり、比誘電率は2.40であった。
【0066】
(実施例11)
実施例8にて得られた水素化ポリフェニレンエーテルを用いて、実施例9と同様に水素化ポリフェニレンエーテルのメタクリル変性を実施した。得られた生成物の還元粘度は0.09dL/gであり、比誘電率は2.40であった。
【0067】
【表2】
【0068】
表1、表2に示す通り、実施例1~8では、使用したポリフェニレンエーテル原料に比べ低い比誘電率を有する水素化ポリフェニレンエーテルを得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の水素化ポリフェニレンエーテルは、通常のポリフェニレンエーテルに比べ、誘電特性をさらに向上させることが出来るため、電子材料用途として産業上の利用価値がある。