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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】細胞分析方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/14 20060101AFI20230404BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20230404BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20230404BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20230404BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20230404BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
G01N15/14 L
G01N21/17 A
G01N37/00 101
G01N15/14 C
G01N15/14 K
G01N33/48 M
C12Q1/02
C12M1/00 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019540093
(86)(22)【出願日】2018-01-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 EP2018051986
(87)【国際公開番号】W WO2018138279
(87)【国際公開日】2018-08-02
【審査請求日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】102017201252.8
(32)【優先日】2017-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506407062
【氏名又は名称】ウニヴェルズィテート・ウルム
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】ガイガー ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ネッケルニュス トビアス
(72)【発明者】
【氏名】マルティ オトマール
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0202172(US,A1)
【文献】米国特許第06473698(US,B1)
【文献】特開2015-161670(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0113324(US,A1)
【文献】特表2007-530197(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0177935(US,A1)
【文献】特表2005-524831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/00-15/14
G01N 21/17
G01N 37/00
G01N 33/48
C12Q 1/02
C12M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を分析する方法であって、
a)細胞を分離するユニットを使用して細胞が分離されることで単一の別個の細胞を得て
b)前記単一の別個の細胞は、空間的に分解された放射強度測定のためのユニットの測定領域を通過し、前記細胞から発せられる及び/又は前記細胞によって影響を受ける電磁放射の空間強度パターンの時系列が、前記測定領域の通過の際に前記単一の別個の細胞の少なくとも1つに対して作成され;
c)2つの各空間強度パターンのオプティカルフローは、プロセッシングユニットを用いて強度パターンの時系列の少なくとも一部について計算され;さらに
d)前記計算されたオプティカルフローの評価が行われ、前記細胞の形状、前記細胞のサイズ、前記細胞の体積、前記細胞のタイプ、前記細胞の形態又は前記細胞の変形、及びこれらの組み合わせを含む群より選択される、少なくとも1つの前記細胞の特性がステップd)における前記オプティカルフローの前記評価において決定される、
細胞を分析する方法。
【請求項2】
- 前記計算されたオプティカルフローの前記評価は、ステップd)において、前記プロセッシングユニットによって、又は、前記計算されたオプティカルフローを評価するための追加のユニットによって実施され;又は
- 前記計算されたオプティカルフローの前記評価は、ステップd)において、部分的には前記プロセッシングユニットによって実施され、また、部分的には前記計算されたオプティカルフローを評価するための追加のユニットによって実行されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップb)における強度パターンの時系列の作成において、少なくとも1つの前記単一の別個の細胞に電磁放射線が照射されることを特徴とする、請求項1又は2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
ステップb)における空間強度パターンの時系列の作成において、評価される前記オプティカルフローに可能な限り少ない不連続が生じるように、各細胞について非常に多くの強度パターンが作成されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの特性が、空間的に分解された放射強度測定のための前記ユニットの前記測定領域を通過する複数の細胞から決定され、前記細胞は、この少なくとも1つの特性の違いに基づいて、ステップd)に続いて、セルソーターを用いて少なくとも2つのグループにソートされることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
- 細胞を分離することで単一の別個の細胞を得るための少なくとも1つのユニット;
- 空間的に分解された放射強度測定のための少なくとも1つのユニットであって、前記単一の別個の細胞が空間的に分解された放射強度測定のための前記ユニットの測定領域を通過する間に、前記単一の別個の細胞から発せられる電磁放射線の強度パターンの時系列を作成できるように構成されたもの;及び
- 作成されたそれぞれ2つの強度パターンのオプティカルフローを計算し、前記計算されたオプティカルフローを評価するためのプロセッシングユニットであって、前記細胞の形状、前記細胞のサイズ、前記細胞の体積、前記細胞のタイプ、前記細胞の形態又は前記細胞の変形、及びこれらの組み合わせを含む群より選択される、前記細胞の少なくとも1つの特性を評価するもの、を含む、
細胞を分析するための装置。
【請求項7】
前記計算されたオプティカルフローを評価するための追加のユニットを含むことを特徴とする、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記装置は放射源を含むことを特徴とする、請求項6又は7に記載の装置。
【請求項9】
空間的に分解された放射強度測定のための前記ユニットは電子部品の幾何学的配置を含むことを特徴とする、請求項6~8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記装置が、空間的に分解された放射強度測定のための前記ユニット上の前記単一の別個の細胞をイメージングするためのシステムを含むことを特徴とする、請求項6~9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
空間的に分解された放射強度測定のための前記ユニット及び前記プロセッシングユニットは、共通半導体チップ上に配置されることを特徴とする、請求項6~10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
細胞を分離するための前記ユニットは、マイクロチャネル、又はマイクロ流体チャネルであることを特徴とする、請求項6~11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記装置は、セルソーター、又は制御可能なゲートを含むことを特徴とする、請求項6~12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
請求項6~13のいずれか一項の装置を用いて実施することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離された細胞である細胞を分析する方法に関するものであり、分離された細胞は空間的に分解された放射強度測定のためのユニット(a unit for spatially resolved radiation intensity measurement)の測定領域を通過し、細胞から発せられる及び/又は細胞によって影響を受ける電磁放射の空間強度パターンの時系列が、測定領域の通過の際に分離された細胞の少なくとも1つに対して作成され、2つの各空間強度パターンのオプティカルフローは、プロセッシングユニットを用いて強度パターンの時系列の少なくとも一部について計算され、計算されたオプティカルフローの評価が行われる。本発明はさらに、細胞を分離するための装置、空間分解放射線強度測定のための装置、及び作成された強度パターンのそれぞれ2つのオプティカルフローを計算し、計算されたオプティカルフローを評価するためのプロセッシングユニットを含む、細胞を解析するための装置にも関する。
【0002】
サイトメトリーは、医学とバイオテクノロジーにおいて頻繁に使用される、細胞とその特性を検出する方法である。アプリケーションの可能性は、様々な細胞タイプを検出する間の細胞のカウントから、例えば機械的特性又は個々の細胞のDNA含有量の測定などの内因性の(intrinsic)細胞パラメーターの分析にまでに及ぶ。これらの方法の結果は、今日、医療用診断に不可欠であり、さらに、標的治療アプローチ(特に:白血病、転移の同定)の基礎となっている。
【0003】
様々な手法は、大きく2つのカテゴリに分類することができる。いわゆるイメージサイトメーターは、ビデオ顕微鏡のセットアップを用いて細胞のサンプルを分析する。このプロセスでは、細胞の様々なパラメーターが画像処理によって分析される。この方法は、測定中に動かないため、接着細胞に特に適している。懸濁された細胞(suspended cells)の配列の問題は、フローサイトメトリーでは細胞がマイクロ流体チャネル内の測定ユニットを通過して導かれるため、回避することができる。これは研究及び診断で最も普及している方法であり、使用する検出方法の種類に応じてさらに細分化される。
【0004】
フローサイトメーターの標準的な方法は、細胞での散乱レーザー光の検出と分析に基づいている。このプロセスでは、前方への散乱光(サイズ決定用)と、側方への散乱光(形態学的異常)との両方が検出され、分析される。より高い特異性を達成するため、この方法では細胞を蛍光色素でマークすることができる。視覚的には互いにわずかに異なるだけだが、それにも関わらず異なる生化学を有する細胞も区別することができる。
【0005】
フローサイトメトリーのより最近のアプローチは、Lincoln (B. Lincoln et al., Cytometry Part A 2004, 59A, 203-209)によってもたらされており、また、技術的に実験規模で実施されたのは、例えばvon Jochen Guck (O. Otto et al., Nature Methods 2015, 12, 199-202; WO 2015/024690 A1; J. Guck et al., Biophysical Journal 2005, Vol. 88, 3689-3698; WO 2012/045716 A1)である。医療診断分野におけるアプリケーションもまた分析された(H. T. K. Tse et al., Sci. Transl. Med. 2013, 5, 212ra163, DOI: 10.1126/scitranslmed. 3006559)。ここでの細胞は、光学的特性と蛍光特性に基づいて特定されているのではなく、異なる細胞力学(cell mechanics)に基づいている。細胞タイプが異なると、その硬さもかなり異なる。結果として、既知の力での細胞の変形は、特定の細胞マーカーにもなる。この目的のため、細胞はマイクロ流体チャネルを高速で通過する。チャネル上の圧力勾配により、細胞壁上に異なる力が作用する。細胞壁は一般に、流れの方向に対して後方にせん断される。これにより、細胞の外観が円形~楕円状(round over elliptical)から弾丸状に変わる。これらの異なる形状は、細胞のサイズと特定の速度での弾性に依存する。チャネルはハイスピードカメラによって観察される。アルゴリズムが形状を検出するため、画像から細胞のサイズと細胞の変形との両方が検出される。
【0006】
同様に、光学ストレッチャー(optical stretcher)は懸濁された細胞の機械的特性を測定可能な器具である(J. Guck et al., Biophysical Journal 2005, Vol. 88, 3689-3698)。ここでは、細胞はマイクロ流体チャネル内の2つのレーザービームによってキャプチャされる。レーザーの強度が増加すると、細胞は培養液とは異なる屈折率のため、レーザーの方向に引き離される。この手順(及び同様にストレッチ後の緩和手順)はカメラによって記録され、細胞の形状又は変形はアルゴリズムを用いて決定される。特性評価は、変形が時間の経過とともに加えられる、いわゆるクリープダイアグラムを用いて行われる。これらのダイアグラムを参照して、異なる硬さの細胞を特定することができる。
【0007】
サイトメーターのさらに可能なアプローチには、磁性ナノ粒子による細胞の免疫化学的マーキングが含まれる(D. Issadore et al., Sci. Transl. Med. 2012, 4(141), 141ra92)。検出には小型のホールセンサーが用いられる。この方法を使用すると、多くのサンプルのごく僅かな細胞でも検出することができる。
【0008】
同様に、細胞のソーティングには異なるアプローチがある。通常、ソーティングの前に、制御可能なゲートがアクティブになることを参照した検出ステップが先行する。この種のソーティングは、FACS(蛍光活性化セルソーティング)の例で最も簡単に説明することができる。ソーティングされる細胞は蛍光色素でマークされている。それらは、マイクロ流体チャネル内のレーザーによって照射され、検出された信号に従って分類される。チャネルのさらなるコースでは、液体が個々の液滴に分離し、理想的にはその中に1つの細胞があるように、形状が選択される。液滴には電荷が与えられ、電極は細胞タイプに応じて2つのチャネルのいずれかに液滴を誘導する。蛍光の代わりの決定の基準として細胞のラマン信号を用いる最近開発されたRACS法も同様の原理に基づいている。
【0009】
機械的特性に基づくソーティング手順は、全く異なるアプローチに依存している。様々な変形能の細胞は、チャネル内の様々な狭窄の組み合わせによって、又は様々な近接距離にあるカラムを有する領域への拡大によって互いに分離される。ただし、ここでのソーティングユニットの寸法は、分析された細胞のサイズと弾性に常に適合させる必要がある。
【0010】
程度の差はあるが、散乱光に基づくフローサイトメトリーのみが商業分析に使用されている。様々な細胞タイプは、この方法によってサイズと形態によって区別することができ、例えばヘモグラム(末梢血液像)の作製に使用される。追加の蛍光分析ステップ又はスメアの手動分析により、不十分な特異性が回避される。これらの機器は技術的に洗練されており、医療スタッフが操作可能である。
【0011】
近年、細胞の機械的特性がますます重要になっている。例えば、転移性腫瘍細胞は、しばしば弾性が増加している。したがって、それらは組織を通って体の様々な部分に移動し、そこに付着し、成長し続けることができる。したがって、機械的特性に関する細胞の分析は、診断及びいくつかの腫瘍疾患のステージの決定における重要なポイントである。検出又はソーティングのための変形に高感度な機器は、今日まで「原理の証明」の状態を超えてはならない(M. Xavier et al., Integer. Biol. 2016, 8, 616; A. Mietke et al., Biophysical Journal 2015, Vol. 109, 2023-2036)。
【0012】
蛍光検出と組み合わせた散乱光検出に基づく最も広く普及している方法のために、以下の実質的な欠点を挙げなければならない。このような市販の機器の購入コストは、非常に簡単な設計で既に非常に高く、したがって集中分析研究室にとってのみ経済的である。これはすべて、一方で蛍光フィルターキットを使用する必要な光源と検出システムは非常にコストがかかり、他方で、機械化の程度は非常に高く、アプリケーションのハードルを可能な限り低く抑えるという事実によるものである。後者は何よりも方法の複雑さによるものである。さらに、この方法の欠点は、ある一定の状況下で特定の蛍光色素を使用して、測定する細胞タイプのマーキングを行う必要があることである。そのようなシステムは確かに特定のタンパク質に対して高い選択性を有しているが、例えば機械的な細胞特性の変化を認識することはできない(求められているタンパク質の頻度に関してのみ高感度である)。この手法の大きな欠点は、頻繁に手動で分類する必要がある病理学的サンプルの測定の不確実性が大きいことである。
【0013】
細胞力学に高感度な「リアルタイム変形性サイトメトリー」(Real time deformability cytometry, RT DF)(O. Otto et al., Nature Methods 2015, 12, 199-202)も同様に製品固有の制限がある。検出は画像の評価に基づいているため、最高の品質の顕微鏡に完全なセットアップを配置する必要がある。画像を記録するには、ハイスピードカメラを接続する必要がある。どちらの機器も非常に高価であり、それぞれ数万ユーロの範囲である。開発者によると、現在、完全な機器の単純な購入費用は約150,000ユーロ(顕微鏡を含む)であり、蛍光ベースの機器よりもさらに高くなっている。すべての測定には、粘度と濃度を調整するためのサンプル処理が必要である。さらに、顕微鏡、カメラ、ポンプシステム、及びマイクロ流体チャネルは、常に正しく調整する必要があり、例えば高解像度顕微鏡は、最適ではない設定に対してシャープネスとコントラストで常に非常に高感度に反応する。これには、少なくとも費用をかけた訓練を受けた、又はさらに有能な実験室職員が必要である。同様に、スケーラビリティは、機械的な制限と高い金銭的要件のために大きな制限がある場合にのみ存在する。リアルタイムの処理能力は、画像の3次元データ構造により、最新のコンピューター技術でも同様に制限されている。同時に、処理待ち時間(processing latency)がここで取り入れられ、待ち時間は選択性を低下させるため、ソーティングデバイスとしての用途が損なわれる。文献によると、細胞速度は約1,000細胞/秒に達する(O. Otto et al., Nature Methods 2015, 12, 199-202)。これは、例えば、大量の血液を分析するには十分ではない。したがって、方法のスケーリング又は並列化が望ましいと考えられるが、既に上述の通り、それは簡単には不可能である。最終的な分析結果は、製造元によると約15分の待ち時間が存在するため、リアルタイムのモニタリングができない。
【0014】
細胞の特定のラマン信号に基づくラマン分光サイトメトリーは、変形サイトメトリーのようにマーカーフリーであり、同様に実質的な制限がある。ラマン信号強度が非常に低いため、このセットアップもまた非常に高価であり、増幅とノイズ低減のために多大な労力を費やす必要がある。シグナル対ノイズ比は、通常の場合、1秒未満の積分時間で一桁の中間の範囲にある。したがって、このようなユニットの最大スループットは、約1細胞/秒となる。高い購入コストと検出器の寸法により(シグナル対ノイズ比を改善するために冷却する必要がある)、スケーラビリティも同様に非常に限られた範囲でのみ可能である。
【0015】
光学ストレッチャーの欠点は、他の方法の欠点と同様である。複雑さと、必要な高性能レーザー及び検出器のため、購入費用は250,000ユーロ超である。同時に、測定のために細胞を捕捉しなければならないため、検出率は約2細胞/秒に制限される。したがって、この方法は、一体型光ファイバー(integrated optical fibers)を使用した流体力学的部品のセットアップにも高い要求がある。レーザー出力が高いにもかかわらず、伸張力は非常に小さく、そのため比較的柔らかい細胞タイプに限られる。さらに、装置は調整の不正確さに非常に高感度であり、プロセスのモニタリングは手動で行われるため、この方法では、操作者の高い能力と注意が必要である。同様に、後者の点と、ストレッチャーごとに個別の4ワットのシングルモードレーザーが必要であるという事実のため、システムのスケーラビリティはほぼ除外されている。
【0016】
よって、要約すると、先行技術から知られている方法には以下の欠点が生じる。
従来のフローサイトメトリー:
- 特異性を高めるために、蛍光染料又は他の特定のマーカーでマーキングする必要がある
- 光学系は高価であるため、同様に制限付きでのみスケーラブルであり、高い投資コストが発生する
- 異なる測定システムを統合するには、高度な技術化(technologization)が必要である
- 病理学的変化は通常、手動でのみ分類可能である
- 血液処理などのソーターとしては適していない。
【0017】
変形サイトメトリー
- 150,000ユーロを超える高い投資コスト
- 機械的な制限のため、スケーラビリティは存在しない(さらに、並列化によりコストも調整される)
- 専門スタッフによる調整が必要である(顕微鏡、ポンプシステム、…)
- 並列化は困難及び/又は高価であるため、比較的遅い測定技術は多量の細胞のソーティングには適していない
- 最終的な分析結果は、約15分の遅れで取得される。
【0018】
ラマン分光サイトメトリー:
- 信号強度が極端に低いと、スループットレート(積分時間)が限られる
- ラマン装置は、他のすべての方法よりもかなりコストがかかる
- スケーラビリティが非常に制限されている
【0019】
光学ストレッチャー:
- 遅い検出速度<2細胞/秒
- 膨大な購入コスト>250,000ユーロ
- 操作は有能な技術者のみが可能
- 伸縮力が非常に小さいため、柔らかい細胞タイプに制限される
- スケーラビリティは無い。
【0020】
これから出発して、したがって本発明の目的は、簡単な方法で実施することができ、蛍光色素又は他の必要な特定のマーカーで細胞をマーキングすることなく、高速で細胞の分析を可能にする安価な細胞分析方法を提供することであった。さらに、そのような方法を実行するための安価な装置を提供することが本発明の目的であった。
【0021】
この目的は、方法に関する請求項1の特徴によって、及び装置に関する請求項7の特徴によって達成される。これに関する各従属請求項は、有利なさらなる発展を表す。
【0022】
したがって、本発明によって提供される細胞を分析する方法は、
a)細胞を分離するユニットを使用して細胞が分離され;
b)分離された細胞は、空間的に分解された放射強度測定のためのユニットの測定領域を通過し、細胞から発せられる及び/又は細胞によって影響を受ける電磁放射の空間強度パターンの時系列が、測定領域の通過の際に分離された細胞の少なくとも1つに対して作成され;
c)2つの各空間強度パターンのオプティカルフローは、プロセッシングユニットを用いて強度パターンの時系列の少なくとも一部について計算され;及び
d)計算されたオプティカルフローの評価が行われる。
【0023】
本発明による方法では、あらゆる種類及び起源の生体細胞を分析することができる。ここで、細胞は、好ましくは懸濁された細胞として用いられ、特に好ましくは、分析される細胞の水性懸濁液が用いられる。細胞の懸濁液は、細胞を分離するためのユニットを通って流れることが特に好ましく、細胞は最初にこのユニットによって分離され、その後、このユニットのフロースルーの空間的に分解された放射強度測定のための個々の又は別々のタイプのユニットの測定領域を通過する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明による特定の実施形態を2つの異なる図で示している。上の図では側面を見ることができる。下の図は鳥瞰図を示している。
図2】左側は、弾丸型細胞210の概略図を示す。球状の細胞220(例えば、白血球)が右側に示されている。
図3】センサーの視野の通過に関する図2の概略図に相当する実際に測定された弾丸型細胞のオプティカルフローのグラフ表示を示す。
図4図2に概略的に示されているような実際の円形細胞のOFシグナルが、比較のために概略的に示されている。
【0025】
細胞は、方法のステップa)で最初に分離され、これは細胞を分離するためのユニットを用いて行われる。物理システム、例えば断面を限定する流体パイプは、そのようなユニットとして機能する。マイクロチャネル又はマイクロ流体チャネルは、特に、細胞を分離するためのユニットとして使用可能である。この場合、細胞は原則としてそのようなチャネルの入口で分離される。また一方、抗体反応を有するシステムの使用又は光学ハサミ(pincers)の使用と同様に、細胞を分離するためのより複雑な物理的、化学的及び/又は光学的システムの使用も可能である。最初の懸濁液に対応する希釈による統計的分離も可能である。
【0026】
細胞が分離されると、細胞は方法のステップb)で空間的に分解された放射強度測定のためのユニットの測定領域を通過する。細胞が空間的に分解された放射強度測定のためのユニットを通過する間、電磁放射はそれらによって発せられ、及び/又は電磁放射はそれらの影響を受ける。これは、例えば、空間的に分解された放射強度測定のための測定領域を通過する間及び/又は通過する前に、細胞に電磁放射線を照射することによって実現可能である。この放射は、例えば細胞によって散乱されるか、修正されて再び放射される可能性がある。その後、空間的に分解された放射強度測定のためのユニットから、この(散乱又は放射された)放射を検出することができる。細胞の照射は、例えば、日光又は従来の室内照明などの単純な定義されていない環境光によって行うことができる。また一方、懐中電灯、レーザー、発光ダイオード、又は別の照射源によって照射することもできる。照射は、可視光、UV域の電磁放射、IR域の電磁放射だけでなく、他の形式の電磁放射でも行うことができる。
【0027】
細胞から発せられる電磁放射の空間強度パターンの時系列は、方法のステップb)で測定領域を通過する際に分離された細胞の少なくとも1つに対して空間的に分解された放射強度測定のためのユニットを使用して作成される。これは、空間的に分解された放射強度測定のためのユニットを使用して、測定領域を通過する少なくとも1つの分離された細胞に対して最終的に測定が実施されることを意味する。この測定では、空間的に分解された放射強度測定のためのユニットにより、測定領域を通過する細胞から発せられる電磁放射が連続する時間の複数のポイントで検出され、空間強度パターンは、すべての単独のポイントの時間ごとに作成される。ここで、そのような空間強度パターンは、細胞から発せられる及び/又は細胞によって影響を受ける電磁放射の強度の空間分布として理解されるべきである。したがって、最終的には、分離された細胞が測定領域を通過する間に、測定領域の個々のポイントからどの放射強度が発せられるかの検出が、異なる時点で行われる。細胞が測定領域を通過する間、細胞から発せられる、及び/又は細胞によって影響を受ける電磁放射の空間分布を記述するこの方法で、すべての測定時点で1次元又は2次元の強度パターンが得られる。
【0028】
空間強度パターンは、好ましくは2次元の強度パターンである。しかしながら、それはまた、1次元の強度パターンともすることができる。
【0029】
強度パターンの時系列は、それぞれの1つの分離された細胞に対して作成される。これは、当該細胞が測定領域を通過する間に、同じ小さい谷(dell)の空間強度パターンが複数の異なる時点で測定されることを意味する。したがって、それぞれの1つの細胞から発せられる及び/又は影響を受ける電磁放射の空間強度パターンの時系列が結果として生じる。したがって、細胞から発せられる及び/又は細胞によって影響を受ける電磁放射の空間強度パターンの時系列が、測定領域を通過する複数の分離された細胞に対して作成される場合、細胞から発せられる及び/又は細胞によって影響を受ける電磁放射の空間強度パターンの別個の時系列が、分離された細胞のそれぞれの個々の細胞に対して作成される点について必須である。このようにして、すべての単一細胞を他の細胞とは別個に分析することができる。
【0030】
ここで、細胞から発せられる及び/又は細胞によって影響される電磁放射の空間強度パターンの時系列の作成は、好ましくは測定領域を通過する複数の細胞に対して実施され、特に好ましくは実質的にすべての細胞に対して実施される。この場合、細胞から発せられる及び/又は細胞によって影響を受ける電磁放射の空間強度パターンの別個の時系列が、測定領域を通過する細胞のすべての細胞ごとに作成される。このようにして、測定領域を通過する細胞ごとに、空間強度パターンの別個の時系列を取得でき、当該時系列は、さらなる方法ステップc)及びd)で変換及び評価することができる。
【0031】
空間的に分解された放射強度測定のためのユニットには、電子部品の幾何学的配置を含めることができる。この構成は、好ましくは光ダイオード、CCDセンサー及び/又はカメラを含むことができる。空間的に分解された放射強度測定のためのユニットは、放射強度測定のためのセグメント化された構成要素でも有り得る。例えば光ダイオードの行などの1次元のセグメンテーション、及び行と列の光ダイオードの配置などの2次元のセグメンテーションが考えられ、ハニカムなどのこの形状の脱凝集も2次元のセグメンテーションを満たす。
【0032】
例えば、光学マウスで使用されているようなセンサーは、空間的に分解された放射強度測定のためのユニットとして使用することができる。また一方で、異なる色を検出し、空間情報に加えて色と強度に関する情報が関連付けられている光学ピクセルにセンサーポイント配列の強度を統合する、カメラ用セクタのより複雑なセンサーも考えられる。
【0033】
2つの各空間強度パターンのオプティカルフローは、方法のステップc)でプロセッシングユニットを使用して、強度パターンのシーケンスの少なくとも一部について計算される。
【0034】
オプティカルフローは、時間の経過に伴う強度の空間的変動又は動きを表すパラメーターである。この点で、オプティカルフローはベクトル場として示されるルールであり、ベクトルは最終的に2つの時点間の強度の空間的進行を表す。
【0035】
したがって、ステップb)で作成された個々の細胞の空間強度パターンの変換は、ステップc)で行われる。ここで、オプティカルフローは、各場合において、細胞のそれぞれに対して作成された、ステップb)で作成された空間強度パターンの時系列の、それぞれ2つの空間強度パターンから計算される。したがって、方法の後続のステップd)で評価することができる複数のオプティカルフローは、それぞれ個々の細胞について全体的に得られる。
【0036】
空間強度パターンのそれぞれ2つのオプティカルフローは、ステップc)のプロセッシングユニットを用いて、(それぞれ1つの細胞の)強度パターンの全シーケンスについて計算されることが好ましい。ここで、例えば、直接連続する時間の時系列のすべての空間強度パターンに対して、それぞれのオプティカルフローを作成することができる。また一方、代わりに、強度パターンの時系列の一部のオプティカルフローのみを計算することもでき、つまり、作成された空間強度パターンのすべてがオプティカルフローの計算に使用されるわけではない。
【0037】
ステップc)で計算されたオプティカルフローの評価は、最終的に方法のステップd)で行われる。この点で、細胞の特定の特性について、例えば細胞に対して決定されたオプティカルフローによって、結論を導き出すことができる。したがって、これに基づき、個々の特性に関して、すべての単一細胞をそれ自体で分析することができる。換言すると、計算されたオプティカルフローの評価によって、個々の細胞の特性に関する結論を導き出すことができる。これらの特性は、例えば細胞の形状、細胞のサイズ、細胞の体積、細胞タイプ、又は細胞の形態若しくは細胞の変形である。さらに、色素などの細胞の生化学的成分を定量的に検出することができる。
【0038】
例えば、最初に、細胞の寸法と形態、及びその変形に関する評価によって計算されたオプティカルフローから結論を導き出し、これから、機械的特性について結論を導き出すことができる。さらに、細胞の寸法によって、細胞タイプを簡単に区別することができる。機械的特性の決定は、速度勾配によってチャネルに対して垂直に変形するように、マイクロ流体チャネル内を移動する液体中の懸濁された細胞に基づく。この変形は、例えばチャネルに対する細胞の相対的なサイズと、その機械的特性、特にせん断弾性率に依存する。
【0039】
したがって、本発明の主要な特徴は、分析対象の細胞から発せられる及び/又は影響を受ける電磁放射のオプティカルフローの決定及び評価による細胞の分析に基づくものである。細胞の特定の特性は、評価によって計算されたオプティカルフローから推定可能である。ここでオプティカルフローの概念を用いると、データ量の大幅な削減を可能にする。さらにシンプルなシステムスケーラビリティが存在する。
【0040】
オプティカルフローの概念は、とりわけ光学マウスの使用から知られている。このようなセンサーの原理は、光源で照らされた支持体の画像を記録するCCDチップに基づいている。センサーが支持体に対して移動すると、センサーの画像が変化する。グレー値が2つの画像間でどのように変位したかは、OFアルゴリズム(OF=オプティカルフロー)を用いて決定される。この点で、グレー値のどの部分が変位したかが計算され、サブピクセル解像度が達成される。正味の動きを決定するために、オプティカルフローはセンサー全体でx方向及びy方向の両方で平均化又は合計される。
【0041】
機械的特性、形態及びサイズなどの特性に基づいて個々の細胞を区別することが、本発明により可能である。異なる細胞タイプを区別できるが、病理学的な細胞変化も検出することができる。理論上の検出限界は、すべての単一細胞の個々の測定による単一の病理学的細胞である。
【0042】
市販のセンサーの従来のフレームレートにおいて、本発明による方法では測定可能なスループットが1000細胞/秒を超える結果を得られる。この方法で必要な装置又はユニットのコストは非常に小さい。したがって、本発明による方法は非常に安価であり、細胞の高速分析を可能にする。
【0043】
本発明による方法におけるオプティカルフローの評価は、非常に高い測定スループット又は高い測定速度によって、さらに加えて高速に実施できるオプティカルフローの計算によって、リアルタイムで行うことができる。これは、測定中に個々の細胞の特定の特性を直接決定できることを意味する。これにより、空間的に分解された放射強度測定のためのユニットの測定領域を通過した後、実質的な時間遅延無しに、細胞はすぐに、個々の細胞が評価において決定された1又は複数の特性を参照して、異なるグループに分割又はソートされるセルソーティングステップにかけることができるという結果が得られる。
【0044】
この方法で用いられるユニットの機械的寸法はさらに非常に小さい。既に述べたように、プロセッシングユニット及び空間的に分解された放射強度測定のためのユニットは、共通のコンピューターチップに共に取り付けられる。
【0045】
本発明によるオプティカルフローの決定及び評価は蛍光マーカー又は他の特定のマーカーの使用を必要としないため、蛍光マーカー又は他の特定のマーカーで分析される細胞のマーキングは必要ではない。また、本発明による方法は、細胞に蛍光マーカーを用意するという複雑な実験ステップを省くことができるため、この理由で、より簡単に実施することができる。
【0046】
さらにまた、本発明による方法の簡単な実行可能性は、特殊な顕微鏡やポンプシステムなどの複雑な機器や装置の使用を省くことができることに起因する。
【0047】
2つの測定間の待機時間と測定時間の両方は、簡単なセットアップと小さな機械的要求により全体的に短縮可能である。セットアップの取り扱いがより簡単になり、例えば、専門の研究室の外部で使用可能なハンディーデバイス(hand-held device)も考えられる。
【0048】
本発明による方法の好ましい変形例は、
- 計算されたオプティカルフローの評価は、ステップd)において、プロセッシングユニットによって、又は、計算されたオプティカルフローを評価するための追加のユニットによって実施され;又は
- 計算されたオプティカルフローの評価は、ステップd)において、部分的にはプロセッシングユニットによって実施され、また、部分的には計算されたオプティカルフローを評価するための追加のユニットによって実行されることを特徴とする。
【0049】
オプティカルフローの計算とその評価の両方がプロセッシングユニットによって実施されるため、スペースと評価のための別のデバイスのコストも節約でき、それによってこの方法はさらにスペースを節約し、より安価になる。さらに、この方法では、このように追加の外部ユニットから独立しているため、ポータブル機器を用いて実施することもできる。対照的に、計算されたオプティカルフローを評価するために追加のユニットを使用すると、複雑な評価プロセスが可能となり、分析の可能性が向上する。また、この方法でグラフィカルな評価が可能である。計算されたオプティカルフローを評価するための追加のユニットは、例えば、好ましくは評価用の特別なソフトウェアを備えたコンピューターで有り得る。
【0050】
本発明による方法のさらに好ましい実施形態によれば、細胞の少なくとも1つの特性は、ステップd)におけるオプティカルフローの評価において決定され、好ましくは細胞の形状、細胞のサイズ(又は細胞の長さと幅)、細胞の体積、細胞のタイプ、細胞の形態又は細胞の変形、及びこれらの組み合わせを含む群より選択される。
【0051】
さらに好ましい変形例は、ステップb)における強度パターンの時系列の作成において、好ましくは自然放射線源及び/又は人工放射線源によって、分離した細胞の少なくとも1つに電磁放射線が照射される。ここで、人工放射線源は、特に、コヒーレント放射線源、部分コヒーレント放射線源、インコヒーレント放射線源、ドット状放射線源、面状放射線源、及びこれらの組み合わせを含む群より選択される。放射線源は、例えばレーザーである。暗視野照明による細胞の照射も可能である。
【0052】
さらなる好ましい方法の変形例によれば、ステップb)における空間強度パターンの時系列の作成において、評価されるオプティカルフローに可能な限り少ない不連続が生じるように、各細胞について非常に多くの強度パターンが作成される。これは、好ましくは、

fps[パターン/秒]> v[ピクセル/秒]

が、細胞速度に関するフレームレート(1秒中に記録される強度パターンの数、fps)に適用される。ここで、完全に通過する細胞(a complete passage of a cell)のパターン番号Nは、以下から得られる。
【0053】
【0054】
ここでの検出器の長さは、検出器上の一方向のピクセル数を表す。このようにして、評価されるシグナル又はオプティカルフローにおいて発生し得る不連続性を可能な限り回避し、分析結果の定性的な改善を図る。
【0055】
本発明による方法のさらに好ましい変形例は、少なくとも1つの特性が、空間的に分解された放射強度測定のためのユニットの測定領域を通過する複数の細胞、好ましくはすべての細胞から決定され、細胞は、この少なくとも1つの特性の違いに基づいて、ステップd)に続いて、セルソーター、好ましくは制御可能なゲートを用いて少なくとも2つのグループにソートされることを特徴とする。本発明による方法では分析速度が速いため、ステップd)においてリアルタイムで行われるオプティカルフローの評価の直後に、細胞を異なるグループにソートすることができる。ここでは、方法において分析された特性に基づいてソーティングが行われる。これにより、例えば、健康な血液細胞と病的な血液細胞とを高細胞数で分離することができる。したがって、本発明による方法のこの変形例では、この目的のために蛍光マーク又は他の特別なマーカーを細胞に用意する必要なく、細胞の特に高速で好ましいソーティングが可能である。
【0056】
本発明による方法のさらに好ましい変形例によれば、測定領域を通過する分離された細胞の画像の時系列は、ステップb)において少なくとも1つの細胞に対して作成される。この点で、それぞれ2つの画像(時間的に連続)のオプティカルフローは、その後、ステップc)において時系列の少なくとも一部について計算される。したがって、この実施形態では、空間強度パターンは(二次元)画像である。
【0057】
さらなる方法の変形例は、各細胞の一部が測定領域の通過の際に隠れており、細胞のこの部分から放射される電磁放射が空間的に分解された放射強度測定のためのユニットに到達しないことを特徴とする。これは、例えば、センサーと空間的に分解された放射強度測定のためのユニットの測定領域との間の直接経路の一部が、例えばマスキングによって対応してブロックされることで実行することができる。マイクロ流体チャネルの使用では、例えば、チャネルの一部を覆うことができる。各細胞の実質的に半分が覆われていることが好ましい。対称性の破壊は、細胞の一部又は半分を覆うことで達成することができる。これは特に、対称的な変形の評価によってのみ決定される特性を取得できる場合に実用的(sensible)である。この場合の原則としての平均オプティカルフローの決定は、そのような対称性の破壊が測定において実施されたときに評価することができる結果のみを作り出す。
【0058】
計算されたオプティカルフローは、最初に、ステップd)の評価においてより評価しやすい、より明確な個々の値に変換することができる。例えば、時間的に連続するそれぞれ2つの空間強度パターンのそれぞれのオプティカルフローは、この目的のために、2つのそれぞれの値OFx及びOFyに変換することができる。これらの値の計算は、例えば、それぞれの(2次元)オプティカルフローが、x軸に対して1回、x軸に対して線形に独立したy軸に1回投影され、各平均値が各投影のすべてのピクセルにわたって形成されることで行われる。OFx及びOFyは、最終的に、これらの平均値のいずれかにそれぞれ対応する。また一方、異なる値、例えば個々の値の平均値の代わりに、個々の値の合計を使用することもできる。原則として、決定されたオプティカルフローごとに2つの値OFx及びOFyを計算でき、これにより、オプティカルフローごとのベクトル画像全体の代わりに最終的に2つの単純な値のみを処理し、さらに評価するため、データ量が大幅に削減される。
【0059】
このように好ましい評価方法を使用すると、オプティカルフローは2つの値(OFx及びOFy)のみによって評価することができるため、オプティカルフローを測定変数として使用すると、メモリ空間に対する要求が非常に小さくなる。これにより、信号の高速処理が保証される。従来の機器では、これはカメラのフル画像とは対照的であり、メモリ集約とプロセス集約が数桁高くなっている。
【0060】
続いて、オプティカルフローの値OFx及びOFyから、個々の細胞ごとに、1つの信号を時間OFx(t)にわたって生成し得、1つの信号を時間OFy(t)にわたって生成し得る。このようにして、信号ペアOFx(t)及びOFy(t)は、分析されたすべての細胞に対して最終的に取得することができる。細胞の特定の特性の値は、最終的にこの信号ペアに関連付けることができる。これは、キャリブレーションを使用して行うことが望ましい。信号OFx(t)及びOFy(t)は、例えば、グラフ内に示すこともできる。細胞の特性は、グラフの進行(progression)から推測できる。また一方、値OFx(t)又はOFy(t)のいずれかを単独で観察すると、個々の細胞に関する情報も提供することができる。
【0061】
本発明はまた、細胞を分析するための装置に関するものであり、
- 細胞を分離するためのユニット;
- 空間的に分解された放射強度測定のためのユニットは、細胞が空間的に分解された放射強度測定のためのユニットの測定領域を通過する間に、分離された細胞から発せられる、及び/又は影響を受ける電磁放射線の強度パターンの時系列を作成できるように構成され;及び
- 作成されたそれぞれ2つの強度パターンのオプティカルフローを計算し、計算されたオプティカルフローを評価するためのプロセッシングユニット、を含む。
【0062】
本発明による装置の好ましい実施形態は、計算されたオプティカルフローを評価するための追加のユニットを含むことを特徴とする。これにより、この追加ユニットによって部分的又は完全に評価を実施することができ、それによって、複雑な評価方法又はグラフィカルな評価も可能となる。外部コンピューターは、例えば、好ましくは評価用の特別なソフトウェアを備えている評価用の追加ユニットとして使用することができる。
【0063】
さらに好ましい実施形態では、装置は放射源を含む。放射源は、コヒーレント放射源、部分コヒーレント放射源、インコヒーレント放射源、ドット状放射源、面状放射源、及びこれらの組み合わせを含む群より選択される。暗視野照明用の放射線源も使用可能である。
【0064】
さらに、空間的に分解された放射強度測定のためのユニットは、好ましくは光ダイオード、CCDセンサー及び/又はカメラを含む電子部品の幾何学的配置を含むことが好ましい。
【0065】
本発明による装置のさらに好ましい実施形態は、装置が、空間的に分解された放射強度測定のためのユニット上の細胞をイメージングするためのシステムを含むことを特徴とする。このシステムは、例えばレンズシステムで有り得る。そのようなレンズシステムは、例えば、リソグラフィからの既知のプロセスを使用して準備することができ、その構造はフォトレジストに直接書き込まれることが好ましい。また一方、イメージングシステムは、単純なピンホール開口によって実装することもできる。細胞から発せられる放射線の分解能とシグナルレベルは、細胞をイメージングするためのシステムによって高めることができ、それにより、特に弱い放射線の細胞で、定性的により良い細胞の分析が可能になる。
【0066】
空間的に分解された放射強度測定のためのユニット及びプロセッシングユニットは、共通の半導体チップ上に配置されることがさらに好ましい。装置が放射源及び/又は計算されたオプティカルフローを評価するための追加ユニットをさらに含む場合、この放射源及び/又は計算されたオプティカルフローを評価するためのこの追加ユニットもまた、当該共通半導体チップ上に配置することができる。この実施形態は、ポータブルバージョンとしても構成できる特に省スペースの装置がこのようにして得られるため、特に有利である。
【0067】
さらに好ましい実施形態によれば、細胞を分離するためのユニットは、マイクロチャネル、好ましくはマイクロ流体チャネルである。マイクロチャネルは、例えば、リソグラフィからの既知のプロセスを使用して準備することができる。この目的のために、構造をフォトレジストに直接書き込むことができる。
【0068】
本発明による装置は、セルソーター、好ましくは制御可能なゲートを含むことがさらに好ましい。この実施形態では、細胞は装置によって迅速に、安価に、簡単な方法で分析できるだけでなく、分析された特性を参照して、細胞の分析直後の細胞のソーティングも可能である。
【0069】
細胞を分析するための本発明による装置又は記載された実施形態の1つは、細胞を分析するための本発明による方法又は記載された好ましい変形例の1つを実施する装置であることが特に好ましい。
【0070】
(変形)サイトメトリーにおける従来の方法を超える多くの利点が本発明によりもたらされる。本発明による装置は、エレクトロニクス産業から大量生産された製品を使用して動作することができ、その結果、非常に低コスト、非常に簡単な実行可能性、並びに非常に簡単な実現可能性及び動作がもたらされる。
【0071】
また、空間的に分解された放射強度測定のためのユニットとして使用できるセンサー(例えば、マウスセンサー等)の有用性が高いため、高速カメラに対して価格が数桁低くなっている。さらに、本発明による装置は、顕微鏡を必要とせず、これによりコストが大幅に削減される。完全なシステムは、顕微鏡やカメラなどの大規模なスペースを要する機器の省略により、コンピューターチップに統合することができる。これにより、測定チャンバーの設定が簡素化される(訓練を受けた実験室スタッフが不要で、人の要素が減る)だけでなく、潜在的な生産コストも大幅に削減される。
【0072】
機器の使用範囲は、低コストで同程度に拡大される。投資コストが低いため、ビジネス又は顧客の全く新しい分野を開くことができる。さらに、機器は完全にポータブルとして設計できるため、必要に応じて簡単に移動することができる。技術的にそれほど広く開発されていない地域での使用も考えられる。
【0073】
染色工程は、蛍光サイトメトリーとは対照的に不要である。換言すれば、特定の染料のコストと非常に時間がかかる染色工程が省略される。
【0074】
好ましい実施形態では、本発明による装置は、細胞を分離するための複数のユニット及び/又は空間的に分解された放射強度測定のための複数のユニットを含むことができる。これにより、分析プロセスを非常に高度に並列化できる。そのような統合、すなわち、サイトメーター内の複数のセンサー及びチャネルの設置は、今日の半導体およびチップ技術を用いるため問題ではない。これにより、1秒間に分析される細胞の数が増加するため、よりリジリエント(resilient)な結果が生成される。
【0075】
したがって、要約すると、とりわけ本発明に関して以下の利点が得られる:
・インフラコストが低い
・消耗品のコストが低い
・RT DC(リアルタイム変形性サイトメトリー)よりも高速でより安定した計算
・高いスループットレート
・チップ上で統合可能
・装置の簡単な設定
・並列化可能
・小さなユーザー機器が可能
・マーカーフリー
【0076】
本発明若しくはその好ましい変形例の1つによる細胞を分析する方法は、好ましくは、本発明による細胞を分析する装置を使用して、又はその記載された好ましい実施形態の1つを使用して実施される。
【0077】
本発明は、具体的に示されたパラメーターに本発明を限定することなく、以下の図および実施例を参照してより詳細に説明される。
【0078】
図1は、本発明による特定の実施形態を2つの異なる図で示している。上の図では側面を見ることができる。下の図は鳥瞰図を示している。図示された装置は、マイクロチャネル120を含む。細胞110、111がどのようにマイクロチャネル120を流れるかが示されており、細胞110は最初にチャネルの入り口で分離及び変形(111)される。さらに、図示された装置は、レーザー140、カメラ150及びプロセッシングユニット160を含む、コンピューターチップ130を含む。レンズシステム170はコンピューターチップ130とマイクロチャネル120との間に配置される。細胞111は、分離された後、カメラ150の測定領域180を通過する。ここで、細胞111は、レーザーからの電磁放射によって照射される。測定領域180を通過すると、細胞は、カメラ150を用いて作成された細胞から発せられる電磁放射の空間強度パターンの時系列で、レンズシステム170を用いてカメラ150上に結像される。強度パターンの合計シーケンスに対する空間強度パターンの2つのそれぞれのオプティカルフローは、その後、プロセッシングユニット160を用いて計算される。その後、オプティカルフローは、プロセッシングユニット160によって直接評価されるか、図示されていない外部ユニットによって評価される。
【0079】
本発明による方法においてオプティカルフローを評価するための可能な変形例を、例示的な測定を参照して以下に説明する。示されたデータは実際の測定結果である。ここでは、オプティカルフローを用いて、マイクロ流体チャネル内を移動する細胞の形状やサイズなどの特定の特性を決定できることが示されている。
【0080】
この目的のため、円形細胞と弾丸型細胞の2つの異なる細胞形状がテストされた。両方の細胞を図2に図示する。
【0081】
図2の左側は、弾丸型細胞210の概略図を示す。この形状は、例えば、最初に丸い細胞がせん断され、チャネルの断面にわたる圧力勾配によりチャネルを流れる際に変形する場合に発生する。球状の細胞220(例えば、白血球)が図2の右側に示されているが、これは弾丸型の細胞とは明確に異なる。チャネル230、240のマージンも同様に見える。
【0082】
測定中、細胞は一定の速度でチャネル内を移動する。システムテストにはハイスピードカメラが使用された。オプティカルフローは、Horn-Schunk法を使用した画像から画像(image to image)への個別のステップにおいて、画像から計算された。これにより、画像のすべてのピクセルにオプティカルフローが提供される。次に、画像のすべてのピクセルのOFを加算した。方法の拡張は、チャネルの一部が対称性の破壊の対象にならないように実行されたが、OFの計算においては、上部の画像の半分と下部の画像の半分とが互いに別個に観察される。OFシグナルは、これにより、OFx=OFxボトム+OFxトップ、及び、OFy=OFyボトム-OFyトップ、として生成される。これは、示された方法の制限を表すものではない。ここで、x成分は時間OFx(t)にわたるシグナルに対応し、y成分は時間OFy(t)にわたるシグナルに対応する。高流量を達成し、チャネル内のせん断力による十分な変形を生成するために、細胞はチャネルを可能な限り速く流れる必要がある。選択した約4.85cm/秒の速度で、チャネル内のせん断による変形が十分に大きく、高速で統計的に意味のある測定のために単位時間あたりに十分な細胞を得るのに十分な細胞の流量が確保される。
【0083】
図3は、センサーの視野の通過に関する図2の概略図に相当する実際に測定された弾丸型細胞のオプティカルフローのグラフ表示を示す。データは次のように処理された:オプティカルフローは、Matlab関数「opticalFlowHS」を用いて検出され、その後、シグナルのノイズを補正してさらなるデータ処理を容易にするために平滑化された。オプティカルフロー310は、軸上の時間320にわたって適用される。実線の曲線330は範囲OFx(t)を示し、破線の曲線340は範囲OFy(t)を表す。細胞がセンサーの視野に入るとすぐに、フローはx方向(350)に増加する。細胞の丸い部分が完全に視野に入るまで、OFは長く増大(increase)する。さらに移動すると、細胞の後端がセンサー(360)の領域に配置されるまで、OFがわずかに変化する。細胞がチャネル内を移動して完全に見える場合、OFの値は一定である。細胞が再び視野から離れたとき(370)のみ、OFが段階的に減少し、細胞がセンサー領域を完全に離れたとき(380)に再び0になる。この曲線から様々なパラメーターを計算できるようになった。細胞がセンサー領域内に完全に収まるまで、又は再び離れるまでの時間は、細胞サイズの計算に使用することができる。通過に要した時間により、細胞の速度、及び、細胞の非対称性の基準である出入りの際のプラトーの異なるレベルに関する結論が得られる。細胞の形状(弾丸型、楕円状、円形)は、OFy(t)シグナルの積分値とともに決定することができる。
【0084】
図2に概略的に示されているような実際の円形細胞のOFシグナルは、比較のために図4に概略的に示されている。軸410、420は図3と同じだが、スケーリングは明瞭にするために異なる方法で選択されている。丸い細胞のプラトー(430、440)は、図3の弾丸型の細胞よりも相当顕著ではないことがわかる。積分されたyシグナルの値がはるかに小さいため、弾丸型の細胞は図を参照して、球状細胞と区別し得る。測定データは、本発明による方法によって明確なデータが得られることを明らかに示し、(オプションで参照値およびいわゆるルックアップテーブルと組み合わせて)細胞/細胞タイプの同定又は細胞の変形の同定又は細胞の他の性質の同定をもたらす。この方法から取得したデータを、イメージング法を使用した従来の測定結果と比較した。細胞のサイズと流量の両方が、上記の方法で正しく決定された。上記の例では、細胞の形状の違いが非常によく認識されるため、閾値に基づいたプログラムによって簡単に区別でき、下流のルックアップテーブルの検索範囲が速やかに限定される。
図1
図2
図3
図4