(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】リチウム二次電池セパレータ用基材
(51)【国際特許分類】
H01M 50/44 20210101AFI20230404BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20230404BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20230404BHJP
【FI】
H01M50/44
H01M50/449
H01G11/52
(21)【出願番号】P 2020042048
(22)【出願日】2020-03-11
【審査請求日】2022-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】緑川 正敏
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光男
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-082148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-497
H01G 11/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維として、少なくとも主体合成繊維とバインダー合成繊維とを含有してなる不織布からなるリチウム二次電池セパレータ用基材において、繊維長0.2mm以下のフィブリル化されていない合成繊維を含有
し、主体合成繊維とバインダー合成繊維と繊維長0.2mm以下のフィブリル化されていない合成繊維の合計長さに対し、繊維長0.2mm以下のフィブリル化されていない合成繊維の合計長さが0.1%以上2.0%未満であることを特徴とするリチウム二次電池セパレータ用基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池セパレータに用いる基材に関する。以下、「リチウム電池セパレータ用基材」を「基材」と略記する場合がある。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池、アルミニウム電解キャパシタ、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等の電気化学素子には、極板間の接触を防ぐための電気化学素子セパレータが用いられている。
【0003】
特に、リチウム二次電池セパレータ(以下、「リチウム二次電池セパレータ」を「セパレータ」と略記する場合がある)として多く使用されているのは、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系微多孔膜である。これら微多孔膜は、熱による膜の融解により孔を塞ぎ、正極と負極を絶縁するシャットダウン効果を利用して、セパレータに安全性を持たせている。しかし、このようなオレフィン系微多孔膜をセパレータとして使用した場合には、電池が異常発熱した場合に溶融・収縮し、正負極を隔離する機能が失われて著しい内部短絡を生じる問題があった。
【0004】
電池が異常発熱した場合でも溶融・収縮を生じにくい、耐熱性を有するセパレータとして、織布または不織布からなる基材に、アルミナ、シリカ、ベーマイト等の無機粒子を塗工してなるセパレータが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、本技術のセパレータは、耐熱性を向上させるために、無機粒子の塗工量を多くすると、塗工液が基材の裏面に滲みだす現象(以下、該現象を「塗工液の裏抜け」と記す場合がある)により、塗工装置のロールを汚し、またロールに付着した塗工液乾固物がセパレータに再付着して、均一なセパレータが得られにくい問題があった。
【0005】
耐熱性が高く、且つ塗工液の裏抜けが生じにくいセパレータとして、無機粒子、有機ポリマーと共に、繊維長0.10~1.20mm、繊維径1.0μm以下の非フィブリル化繊維を含有させた塗工液を用いたセパレータが提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、塗工液が含有している繊維が塗工装置に付着して、対応する部分の塗工液付着量が不足したり、過剰になったりすることがある。このため、特許文献2に記載する技術には、均一な塗層を形成することが難しく、絶縁層に「ストリーク」と呼ばれる線状欠点が発生しやすいという問題があった。
【0006】
また、水の接触角が125°以上の第1の層と、水の接触角が120°以下である第2の層を備え、少なくとも一の面は最外層が第2の層である不織布基材と、原料繊維のうち少なくとも1種は、ポリオレフィン系樹脂からなる低融点成分と前記低融点成分よりも融点が20℃以上高い熱可塑性樹脂からなる高融点成分とで形成された複合繊維である不織布基材と、その基材に無機粒子を含む絶縁層とを有する電池セパレータが提案されている(例えば、特許文献3参照)。このセパレータは、繊維原料に撥水処理や親水化処理を施す必要があり、作業工程が煩雑となり、コスト高となる問題があった。また、撥水処理や親水化処理に薬剤を用いた場合、電池内で分解して、電池特性を悪化させるおそれがあった。
【0007】
また、耐熱性が高く、且つ無機粒子や樹脂等の複合化物が脱落しにくい基材として、平均繊維径が5μm以下であり、且つ繊維長が2mm以下のポリエステル系極短繊維を必須成分として含有することを特徴とした基材が提案されている(例えば、特許文献4参照)。特許文献4の実施例では、繊維長2.0~0.05mmのポリエステル系極短繊維の含有比率が、基材に含まれる全繊維成分に対し0.7~33質量%である基材が製造されており、セパレータの作製では含浸塗工法が用いられている。しかし、ポリエステル系極短繊維の繊維長が0.2mmを超える場合、表面塗工における裏抜け防止の効果が不十分となるおそれがあった。また、0.2mm以下のポリエステル系極短繊維の含有比率が多い場合、セパレータの内部抵抗が高くなるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-4443号公報
【文献】特開2015-258069号公報
【文献】特開2017-45663号公報
【文献】特開2011-82148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、塗工液が裏抜けしにくいリチウム二次電池セパレータ用基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、下記発明によって解決された。
【0011】
(1)合成繊維として、少なくとも主体合成繊維とバインダー合成繊維とを含有してなる不織布からなるリチウム二次電池セパレータ用基材において、繊維長0.2mm以下のフィブリル化されていない合成繊維を含有し、主体合成繊維とバインダー合成繊維と繊維長0.2mm以下のフィブリル化されていない合成繊維の合計長さに対し、繊維長0.2mm以下のフィブリル化されていない合成繊維の合計長さが0.1%以上2.0%未満であることを特徴とするリチウム二次電池セパレータ用基材。
【発明の効果】
【0013】
本発明のリチウム二次電池セパレータ用基材は、合成繊維として、少なくとも主体合成繊維とバインダー合成繊維とを含有してなる不織布からなるリチウム二次電池セパレータ用基材において、繊維長0.2mm以下のフィブリル化されていない合成繊維を含有することによって、塗工液の裏抜けを防止する効果を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】主体合成繊維とバインダー合成繊維と繊維長0.2mm以下の合成繊維を含むスラリーの繊維長分布図である。
【
図2】主体合成繊維と繊維長0.2mm以下のフィブリル化されていない合成繊維のマイクロスコープ写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のリチウム二次電池セパレータ用基材は、合成繊維として、少なくとも主体合成繊維とバインダー合成繊維とを含有してなる不織布からリチウム二次電池セパレータ用基材において、繊維長0.2mm以下のフィブリルされていない合成繊維を含有することを特徴とする。本明細書では、「繊維長0.2mm以下のフィブリル化されていない合成繊維」を「0.2mm以下の短繊維」と記載することがある。
【0016】
本発明のリチウム二次電池セパレータ用基材は、湿式抄造法によってシートが作製された後に、このシートが熱ロールによって熱圧加工されることによって製造されることが好ましい。本発明の基材は、合成繊維として、主体合成繊維とバインダー合成繊維とを含有してなる不織布である。また、0.2mm以下の短繊維を含有する。
【0017】
図1は、主体合成繊維とバインダー合成繊維と0.2mm以下の短繊維を含む繊維スラリーの繊維長をOpTest Equipment Inc.社製ファイバークオリティーアナライザー(FQA-360)で測定した繊維長分布図である。主体合成繊維とバインダー合成繊維と0.2mm以下の短繊維の合計長さに対する0.2mm以下の短繊維の合計長さは0.5%であった。
【0018】
図2は、主体合成繊維と0.2mm以下の短繊維をマイクロスコープにて倍率200倍で撮影した写真である。円内の繊維が繊維長0.2mm以下の合成繊維であり、その他の繊維は主体合成繊維である。
【0019】
本発明における主体合成繊維とは、基材の骨格を形成する繊維である。主体合成繊維を構成する樹脂としては、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリ酢酸ビニル系、エチレン-酢酸ビニル共重合体系、ポリアミド系、アクリル系、ポリ塩化ビニル系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリビニルエーテル系、ポリビニルケトン系、ポリエーテル系、ポリビニルアルコール系、ポリエステルアミド系、ポリエーテルエーテルケトン系、エチレン-ビニルアルコール共重合体系等の樹脂が挙げられる。また、これらの樹脂の誘導体も使用できる。これらの樹脂の中で、塗層との接着性を高くするためには、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂を使用することが好ましい。また、セパレータの耐熱性を向上させるためには、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂を使用することが好ましい。
【0020】
主体合成繊維の直径は特に限定しないが、好ましくは0.1~15μmであり、より好ましくは0.5~10μmであり、特に好ましくは1~8μmである。主体合成繊維の直径が0.1μm未満の場合、基材が緻密になりすぎて、塗工層が基材内部に滲み込みにくくなり、塗工層と基材との接着性が不十分となることがある。主体合成繊維の直径が15μmより大きいと、厚みを薄くすることが困難になる場合や、裏抜けしやすい基材となるおそれがある。
【0021】
本発明の主体合成繊維の繊維長は特に限定しないが、好ましくは0.2mm超10mm以下であり、より好ましくは1~6mmであり、更に好ましくは3~5mmである。主体合成繊維の断面形状は円形が好ましく、抄紙工程における水への分散前の繊維における断面アスペクト比(繊維断面長径/繊維断面短径)は、1.0~1.2未満であることが好ましい。繊維断面アスペクト比が1.2以上になると、繊維分散性が低下する場合や、繊維の絡まりやもつれの発生によって、基材の均一性や塗工面の平滑性に悪影響を及ぼす場合がある。ただし、T型、Y型、三角等の異形断面を有する繊維も、裏抜け防止、表面平滑性のために、繊維分散性等の他の特性を阻害しない範囲内で含有できる。
【0022】
主体合成繊維のアスペクト比(繊維長/直径)は、10~4500であることが好ましく、より好ましくは20~2000であり、更に好ましくは40~1500である。アスペクト比が10未満の場合は、繊維の分散性は良好となるが、基材から繊維が脱落する場合や、抄紙ワイヤーに繊維が刺さってワイヤーからの剥離性が悪化する場合がある。一方、アスペクト比が4500を超えた場合、繊維の三次元ネットワーク形成に寄与はするものの、繊維の絡まりやもつれの発生によって、基材の均一性や面の平滑性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0023】
本発明において、主体合成繊維の含有比率は、基材に含まれる全繊維成分に対して30質量%以上90質量%未満であることが好ましく、40質量%以上80質量%未満であることがより好ましく、50質量%以上70質量%未満であることがさらに好ましい。主体合成繊維の含有比率が30質量%未満の場合、バインダー合成繊維が軟化又は溶融するまで温度を上げる工程において、基材にシワが発生するおそれがある。また、主体合成繊維の含有率が90質量%以上の場合、基材の強度が不十分となるおそれがある。
【0024】
本発明のリチウム二次電池セパレータ用基材は、バインダー合成繊維を含有している。バインダー合成繊維が軟化又は溶融するまで温度を上げる工程を基材の製造工程に組み入れることで、バインダー合成繊維が基材の機械的強度を向上させる。例えば、基材を湿式抄造法で製造し、その後の乾燥工程でバインダー合成繊維を軟化又は溶融させることができる。
【0025】
バインダー合成繊維としては、芯鞘繊維(コアシェルタイプ)、並列繊維(サイドバイサイドタイプ)、放射状分割繊維等の複合繊維、未延伸繊維等が挙げられる。複合繊維は、皮膜を形成しにくいので、基材の空隙を保持したまま、機械的強度を向上させることができる。より具体的には、ポリプロピレン(芯)とポリエチレン(鞘)の組み合わせ、ポリプロピレン(芯)とエチレンビニルアルコール(鞘)の組み合わせ、高融点ポリエステル(芯)と低融点ポリエステル(鞘)の組み合わせ、ポリエステル等の未延伸繊維が挙げられる。また、ポリエチレンやポリプロピレン等の低融点樹脂のみで構成される単繊維(全融タイプ)や、ポリビニルアルコール系のような熱水可溶性バインダーは、基材の乾燥工程で皮膜を形成しやすいが、特性を阻害しない範囲で使用することができる。本発明においては、高融点ポリエステル(芯)と低融点ポリエステル(鞘)の組み合わせ、ポリエステルの未延伸繊維を好ましく用いることができる。
【0026】
バインダー合成繊維の直径は特に限定しないが、好ましくは0.1~15μmであり、より好ましくは0.5~10μmであり、更に好ましくは1~8μmである。バインダー合成繊維の直径が0.1μm未満の場合には、基材の強度が不十分となるおそれがある。バインダー合成繊維の直径が15μmより太いと、厚みを薄くすることが困難になる場合がある。バインダー合成繊維は基材の機械的強度を向上させる役割の他に、主体合成繊維と共に均一な三次元ネットワークを形成する役割も果たす。さらに、バインダー合成繊維が軟化又は溶融するまで温度を上げる工程では、基材の平滑性をも向上させることができ、該工程では加圧が伴っているとより効果的である。
【0027】
バインダー合成繊維の繊維長は特に限定しないが、0.2mm超10mm以下が好ましく、1~6mmがより好ましく、3~5mmがさらに好ましい。バインダー合成繊維の断面形状は円形が好ましいが、T型、Y型、三角等の異形断面を有する繊維も、裏抜け防止、塗工面の平滑性のために、他の特性を阻害しない範囲内で含有できる。
【0028】
バインダー合成繊維のアスペクト比(繊維長/直径)は、10~4500であることが好ましく、より好ましくは20~2000であり、更に好ましくは40~1500である。アスペクト比が10未満の場合は、繊維の分散性は良好となるが、基材から繊維が脱落する場合や、抄紙ワイヤーに繊維が刺さってワイヤーからの剥離性が悪化する場合がある。一方、アスペクト比が4500を超えた場合、繊維の三次元ネットワーク形成に寄与はするものの、繊維の絡まりやもつれの発生によって、基材の均一性や面の平滑性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0029】
本発明において、バインダー合成繊維の含有比率は、基材に含まれる全繊維成分に対して10質量%以上70質量%未満であることが好ましく、20質量%以上60質量%未満であることがより好ましく、30質量%以上50質量%未満であることが好ましい。バインダー合成繊維の含有比率が10質量%未満の場合、基材の強度が低下し、基材の製造工程において破断が発生するおそれがある。一方、バインダー合成繊維の含有率が70質量%以上の場合、基材表面がフィルム化しやすく、電解液保持性が低下し、内部抵抗の高いセパレータとなるおそれがある。
【0030】
本発明において、0.2mm以下の短繊維は、基材の骨格形成を補う繊維である。0.2mm以下の短繊維を構成する樹脂としては、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリ酢酸ビニル系、エチレン-酢酸ビニル共重合体系、ポリアミド系、アクリル系、ポリ塩化ビニル系、ポリ塩化ビニリデン系、ポリビニルエーテル系、ポリビニルケトン系、ポリエーテル系、ポリビニルアルコール系、ポリエステルアミド系、ポリエーテルエーテルケトン系、エチレン-ビニルアルコール共重合体系等の樹脂が挙げられる。また、これらの樹脂の誘導体も使用できる。これらの樹脂の中で、塗工層との接着性を高くするためには、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂を使用することが好ましい。また、セパレータの耐熱性を向上させるためには、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂を使用することが好ましい。
【0031】
本発明において、後述するように、0.2mm以下の短繊維は、繊維製造工程又は湿式抄造法において、切れることによって短くなった主体合成繊維又はバインダー合成繊維であることから、主体合成繊維又はバインダー合成繊維における好ましい直径と0.2mm以下の短繊維の好ましい直径は、同範囲である。
【0032】
本発明において、0.2mm以下の短繊維の繊維長は、0.2mm以下であり、好ましくは0.05~0.2mmであり、より好ましくは0.1~0.2mmである。0.2mm以下の短繊維の断面形状は円形が好ましいが、T型、Y型、三角等の異形断面を有する0.2mm以下の短繊維も、塗工液の裏抜け防止や塗工層の表面平滑性のために含有できる。0.2mm以下の短繊維は、不織布内部で主体合成繊維やバインダー合成繊維に接した状態で存在し、基材の空隙をコントロールする。バインダー合成繊維同士間の空隙や主体合成繊維とバインダー合成繊維の接点に存在することにより、空隙を細分化することで塗工液の裏抜け防止、塗工層の表面平滑性を向上させる。
【0033】
0.2mm以下の短繊維は湿式抄造法において、例えば、パルパー等の水に分散する装置で回転する攪拌羽と容器のクリアランスによって切れた主体合成繊維又はバインダー合成繊維である。また、繊維製造工程において短く切れた主体合成繊維又はバインダー合成繊維である。
【0034】
本発明の基材において、0.2mm以下の短繊維の含有比率は、「主体合成繊維とバインダー合成繊維と0.2mm以下の短繊維の合計長さに対する、0.2mm以下の短繊維の合計長さの比」で表される。0.2mm以下の短繊維の含有比率は0.1%以上2.0%未満であることが好ましく、より好ましくは0.2%以上1.5%未満であり、さらに好ましくは0.2%以上1.0%未満である。0.2mm以上短繊維の含有比率が0.1%未満の場合、塗工液の裏抜け防止効果が得られない場合がある。一方、2.0%以上の場合、基材から0.2mm以下の短繊維が脱落してコンタミとなりやすく、セパレータ性能が低下する場合がある。本発明における、0.2mm以下の短繊維の含有比率(主体合成繊維とバインダー合成繊維と0.2mm以下の短繊維の合計長さに対する、0.2mm以下の短繊維の合計長さの比)は、パルパー分散スラリーの繊維長をOpTest Equipment Inc.社製ファイバークオリティーアナライザー(FQA-360)で測定した長さ加重繊維長データを基にして算出した値である。
【0035】
本発明の基材においては、必要に応じて、前記した主体合成繊維、バインダー合成繊維、短繊維以外の繊維を加えても良い。例えば、溶剤紡糸セルロースや再生セルロースの短繊維やフィブリル化物、天然セルロース繊維のパルプ化物やフィブリル化物、ポリオレフィン、アクリル、全芳香族ポリエステル、全芳香族ポリエステルアミド、ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエーテル、全芳香族ポリカーボネート、全芳香族ポリアゾメチン、ポリイミド、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリ-p-フェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの樹脂からなるパルプ化物やフィブリル化物や分割物を含有しても良い。これらの繊維は、1種含有しても良いし、2種以上含有しても良い。半芳香族とは、主鎖の一部に例えば脂肪鎖などを有するものを指す。全芳香族ポリアミドはパラ型、メタ型いずれでも良い。これら繊維の中で基材の耐熱性を向上させるためには、特に全芳香族ポリアミドのフィブリル化物を含有することが好ましい。
【0036】
本発明のリチウム二次電池セパレータ用基材の製造方法について説明する。本発明のリチウム二次電池セパレータ用基材は、湿式抄造法によってシートが作製された後に、このシートが熱ロールによって熱圧加工されることが好ましい。
【0037】
湿式抄造法では、まず、繊維を均一に水中に分散させ、その後、スクリーン(異物、塊等除去)等の工程を経て、最終の繊維濃度を0.01~0.50質量%に調整されたスラリーが抄紙機で抄き上げられ、湿紙が得られる。工程中で分散剤、消泡剤、親水剤、帯電防止剤、高分子粘剤、離型剤、抗菌剤、殺菌剤等の薬品を添加する場合もある。
【0038】
抄紙方式としては、例えば、長網、円網、傾斜ワイヤー式等の抄紙方式を用いることができる。これらの抄紙方式の群から選ばれる少なくとも一つの抄紙方式を有する抄紙機、これらの抄紙方式の群から選ばれる同種又は異種の2機以上の抄紙方式がオンラインで設置されているコンビネーション抄紙機を使用することができる。また、2層以上の多層構造の不織布を製造する場合には、各々の抄紙機で抄き上げた湿紙を積層する抄き合わせ法や、一方のシートを形成した後に、該シートの上に繊維を分散したスラリーを流延する方法等を用いることができる。
【0039】
抄紙機で製造された湿紙を、ヤンキードライヤー、エアードライヤー、シリンダードライヤー、サクションドラム式ドライヤー、赤外方式ドライヤー等で乾燥することによって、シートを得る。湿紙の乾燥の際に、ヤンキードライヤー等の熱ロールに密着させて熱圧乾燥させることによって、密着させた面の平滑性が向上する。熱圧乾燥とは、タッチロール等で熱ロールに湿紙を押しつけて乾燥させることをいう。熱ロールの表面温度は、80~180℃が好ましく、100~160℃がより好ましく、110~160℃が更に好ましい。圧力は、好ましくは5~100kN/m、より好ましくは10~80kN/mである。
【0040】
本発明においては、上記した主体合成繊維とバインダー合成繊維と0.2mm以下の短繊維とを含有してなる不織布をそのまま基材とすることもできる。より好ましくは、不織布を加熱された金属ロールと弾性ロールとの間を通過させて、加熱・加圧処理(熱カレンダー処理)が施されて、基材とすることが好ましい。一般に、熱カレンダー処理装置としては、加熱機構を有する金属製のヒートロール(金属ロール)と、金属芯の外周面に弾性体層を被着してある弾性ロールとで構成された装置がある。これは、両ロールを略平行に対接させ、両ロールの間で不織布を挟接し、高いニップ圧を加えながら回転・走行させて、不織布の機械的強度の発現や厚みの調整等を目的に用いられるものである。
【0041】
本発明における、熱カレンダー処理時の金属ロール温度は、バインダー合成繊維の融点(溶融温度)又は軟化温度に対して-60~-10℃であることが好ましく、-50~-20℃であることがより好ましい。
【0042】
例えば、バインダー合成繊維の融点が240℃である場合、金属ロールの温度、基材の表面温度が180~230℃であることが好ましく、190~220℃であることがより好ましい。金属ロールの温度が、バインダー合成繊維の融点又は軟化温度に対して-60℃より低いと、バインダー合成繊維の接着が不十分となりやすく、基材の強度が低下する場合がある。一方、金属ロールの温度がバインダー合成繊維の融点又は軟化温度に対して-10℃より高いと、不織布が金属ロールに貼り付きやすくなり、基材表面に欠陥が生じるおそれがある。
【0043】
熱カレンダー処理時のニップの圧力は、好ましくは19~180kN/mであり、より好ましくは39~150kN/mである。加工速度は、好ましくは3~150m/minであり、より好ましくは5~100m/minである。
【0044】
本発明において、基材の坪量は、5~20g/m2が好ましく、6~18g/m2がより好ましく、7~16g/m2がさらに好ましい。20g/m2を超えると、セパレータの薄膜化が難しい場合があり、5g/m2未満であると、十分な強度を得ることが難しい場合がある。なお、坪量はJIS P 8124:2011(紙及び板紙-坪量測定法)に規定された方法に基づき測定される。
【0045】
本発明において、基材の厚みは、8~30μmが好ましく、10~25μmがより好ましく、12~20μmがさらに好ましい。厚みが8μm未満では、強度が不十分となるおそれがある。一方、厚みが30μmを超えると、セパレータの薄膜化が難しくなる。
【0046】
本発明において、基材の密度(坪量/厚み)は、0.40~0.90g/cm3であることが好ましく、0.45~0.80g/cm3がより好ましく、0.50~0.75g/cm3がさらに好ましい。密度が0.40g/cm3未満では、強度が不十分となるおそれがある。一方、密度が0.90g/cm3を超えると、内部抵抗の高いセパレータとなるおそれがある。
【0047】
本発明のリチウム二次電池セパレータ用基材は、基材と、無機粒子、有機粒子、微細繊維、固体電解質及びゲル状電解質を含む群から選ばれる1種以上とを含有するセパレータに好ましく用いられる。このセパレータは、無機粒子、有機粒子又は微細繊維を含む塗工液を基材に塗工する方法、固体電解質又はゲル状電解質を基材に塗工する方法によって製造することができる。このように、本発明の基材は、そのままではセパレータとはならないものであり、リチウム二次電池セパレータの前駆体シートである。
【0048】
無機粒子としては、アルミナ、ギブサイト、ベーマイト、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、シリカ、二酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化ジルコニウムなどの無機酸化物、窒化アルミニウムや窒化珪素などの無機窒化物、アルミニウム化合物、ゼオライト、マイカなどが挙げられる。
【0049】
有機粒子としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンオキシド、ポリスチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレン-ビニルモノマー共重合体、ポリオレフィンワックスなどの粒子が挙げられる。
【0050】
無機粒子や有機粒子を含む塗工液を調製するための媒体としては、無機粒子、有機粒子等を均一に溶解又は分散できるものであれば特に限定されず、例えば、トルエンなどの芳香族炭化水素類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、メチルエチルケトンなどのケトン類、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、水などを必要に応じて用いることができる。また、必要に応じてこれらの媒体を混合して用いても良い。なお、基材を膨張させない媒体又は溶解させない媒体が好ましい。
【0051】
無機粒子や有機粒子を含む塗工液を基材上に塗工する方法としては、例えばブレード、ロッド、リバースロール、リップ、ダイ、カーテン、エアーナイフ等各種の塗工方式、フレキソ、スクリーン、オフセット、グラビア、インクジェット等の各種印刷方式、ロール転写、フィルム転写などの転写方式、ディッピング等の引き上げ方式等を、必要に応じて選択して用いることができる。
【0052】
本発明において、リチウム二次電池とは、充放電において正負極間をリチウムイオンが移動する二次電池をいう。リチウム二次電池には、負極活物質としてリチウム吸蔵性の物質を用いたリチウムイオン二次電池、負極活物質として金属リチウムを用いた金属リチウム二次電池が含まれる。
【0053】
リチウムイオン二次電池の負極活物質には、リチウム吸蔵性の物質が用いられる。リチウム吸蔵性の物質の例としては、炭素系材料、珪素系材料、遷移金属とリチウムの複合酸化物等が例示される。炭素系材料は、質量当たりのリチウム吸蔵可能量とリチウムの吸収・放出に伴う劣化のし難さとのバランスが良好である点で、好ましく使用される。炭素系材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛;ハードカーボン、ソフトカーボン、メソポーラスカーボン等の非晶性炭素;カーボンナノチューブ、グラフェン等のナノ炭素材料が例示される。珪素系材料は、質量当たりのリチウム吸蔵可能量が大きい点で、好ましく使用される。珪素系材料としては、珪素、一酸化珪素(SiO)、二酸化珪素(SiO2)が例示される。遷移金属とリチウムの複合酸化物の1種であるチタン酸リチウムは、リチウムの吸収・放出に伴う劣化が生じにくい点で、好ましく使用される。
【0054】
リチウムイオン二次電池の負極としては、前記の負極活物質を含む負極材料を、金属箔上に塗工した電極が例示される。負極材料には、必要に応じて、ポリフッ化ビニリデン、スチレン-ブタジエン共重合体等のバインダー;カーボンブラック、ナノ炭素材料等の導電剤;分散剤;増粘剤等を混合することができる。金属箔に使用される金属としては、銅、アルミニウム等が例示される。
【0055】
リチウム二次電池の正極活物質としては、遷移金属とリチウムの複合酸化物、遷移金属とリチウムのオリビン構造を有する複合塩、硫黄等が例示される。遷移金属とリチウムの複合酸化物としては、コバルト、ニッケル、マンガンから選択される1種以上の遷移金属とリチウムの複合酸化物が例示される。これらの複合酸化物には、アルミニウム、マグネシウム等の典型金属;チタン、クロム等の遷移金属等をさらに複合することができる。遷移金属とリチウムのオリビン構造を有する複合塩としては、鉄、マンガンから選択される1種以上の遷移金属とリチウムのオリビン構造を有する複合塩が例示される。
【0056】
リチウム二次電池の正極としては、前記の正極活物質を含む正極材料を、金属箔上に塗工した電極が例示される。正極材料には、必要に応じて、ポリフッ化ビニリデン、アクリル酸エステル共重合体等のバインダー;カーボンブラック、ナノ炭素材料等の導電剤;分散剤;増粘剤等を混合することができる。金属箔に使用される金属としては、アルミニウム等が例示される。
【0057】
リチウム二次電池の電解液としては、極性溶媒にリチウム塩を溶解した溶液、イオン液体にリチウム塩を溶解した溶液が例示される。リチウム二次電池の電解液に用いられる極性溶媒としては、炭酸プロピレン(PC)、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸エチルメチル(EMC)等の炭酸エステル;酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸エチル等の脂肪酸エステルが例示される。リチウム二次電池の電解液に用いられるリチウム塩としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)が例示される。固体電解質又はゲル状電解質としては、ポリエチレングリコールやその誘導体、ポリメタクリル酸誘導体、ポリシロキサンやその誘導体、ポリフッ化ビニリデンなどのポリマーにリチウム塩又はリチウム塩と電解液を溶解させたものが用いられる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。実施例4及び5は参考例である。
【0059】
(実施例1)
主体合成繊維(延伸ポリエステル系繊維、直径2.3μm、繊維長3mm)、バインダー合成繊維(未延伸ポリエステル系繊維、直径4.1μm、繊維長3mm、融点245℃)を60:40の配合比率で固形分2kgの繊維を2m3のパルパー(分散容器)に1m3の分散水と共に投入し、10分間分散してスラリーを調成した。スラリーの繊維長をOpTest Equipment Inc.社製ファイバークオリティーアナライザー(FQA-360)で測定した。0.2mm以下の短繊維の含有比率は1.5%であった。スラリーから傾斜ワイヤー抄紙機で湿紙を形成した後、表面温度150℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、不織布を得た。
【0060】
得られた不織布を、金属ロール-弾性ロール(ショア硬度D91)の構成の熱カレンダー装置を使用して、金属ロール温度200℃、線圧50kN/m、加工速度50m/min、1ニップ(nip)の条件で熱カレンダー処理を行い、リチウム二次電池セパレータ用基材を得た。なお、弾性ロールに接した面を塗工面とした。
【0061】
(実施例2)
主体合成繊維(延伸ポリエステル系繊維、直径2.3μm、繊維長3mm)、バインダー合成繊維(未延伸ポリエステル系繊維、直径4.1μm、繊維長3mm、融点245℃)を60:40の配合比率で固形分2kgの繊維を2m3のパルパー(分散容器)に1m3の分散水と共に投入し、10分間分散してスラリーを調成した。スラリーを18メッシュの網で漉して繊維のみを残して分散水を除去し、新たに水を1m3加えて繊維を解して再分散スラリーを調成した。再分散スラリーの繊維長を測定したところ、0.2mm以下の短繊維の含有比率は0.5%であった。再分散スラリーから傾斜ワイヤー抄紙機で湿紙を形成した後、表面温度150℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、不織布を得た。
【0062】
得られた不織布を、金属ロール-弾性ロール(ショア硬度D91)の構成の熱カレンダー装置を使用して、金属ロール温度200℃、線圧50kN/m、加工速度50m/min、1ニップ(nip)の条件で熱カレンダー処理を行い、リチウム二次電池セパレータ用基材を得た。なお、弾性ロールに接した面を塗工面とした。
【0063】
(実施例3)
主体合成繊維(延伸ポリエステル系繊維、直径2.3μm、繊維長3mm)、バインダー合成繊維(未延伸ポリエステル系繊維、直径4.1μm、繊維長3mm、融点245℃)を60:40の配合比率で固形分2kgの繊維を2m3のパルパー(分散容器)に1m3の分散水と共に投入し、10分間分散してスラリーを調成した。スラリーを18メッシュの網で漉して繊維のみを残して分散水を除去し、新たに水を1m3加えて繊維を解して再分散スラリーを調成した。次に再分散スラリーを18メッシュの網で漉して繊維のみを残して分散水を除去し、新たに水を1m3加えて繊維を解して再々分散スラリーを調成した。再々分散スラリーの繊維長を測定したところ、0.2mm以下の短繊維の含有比率は0.1%であった。再々分散スラリーから傾斜ワイヤー抄紙機で湿紙を形成した後、表面温度150℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、不織布を得た。
【0064】
得られた不織布を、金属ロール-弾性ロール(ショア硬度D91)の構成の熱カレンダー装置を使用して、金属ロール温度200℃、線圧50kN/m、加工速度50m/min、1ニップ(nip)の条件で熱カレンダー処理を行い、リチウム二次電池セパレータ用基材を得た。なお、弾性ロールに接した面を塗工面とした。
【0065】
(実施例4)
主体合成繊維(延伸ポリエステル系繊維、直径2.3μm、繊維長3mm)、バインダー合成繊維(未延伸ポリエステル系繊維、直径4.1μm、繊維長3mm、融点245℃)を60:40の配合比率で固形分2kgの繊維を2m3のパルパー(分散容器)に1m3の分散水と共に投入し、5分間分散してスラリーを調成した。スラリーを18メッシュの網で漉して繊維のみを残して分散水を除去し、新たに水を1m3加えて繊維を解して再分散スラリーを調成した。次に再分散スラリーを18メッシュの網で漉して繊維のみを残して分散水を除去し、新たに水を1m3加えて繊維を解して再々分散スラリーを調成した。再々分散スラリーの繊維長を測定したところ、0.2mm以下の短繊維の含有比率は0.06%であった。再々分散スラリーから傾斜ワイヤー抄紙機で湿紙を形成した後、表面温度150℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、不織布を得た。
【0066】
得られた不織布を、金属ロール-弾性ロール(ショア硬度D91)の構成の熱カレンダー装置を使用して、金属ロール温度200℃、線圧50kN/m、加工速度50m/min、1ニップ(nip)の条件で熱カレンダー処理を行い、リチウム二次電池セパレータ用基材を得た。なお、弾性ロールに接した面を塗工面とした。
【0067】
(実施例5)
主体合成繊維(延伸ポリエステル系繊維、直径2.3μm、繊維長3mm)、バインダー合成繊維(未延伸ポリエステル系繊維、直径4.1μm、繊維長3mm、融点245℃)を60:40の配合比率で固形分2kgの繊維を2m3のパルパー(分散容器)に1m3の分散水と共に投入し、30分間分散してスラリーを調成した。スラリーの繊維長を測定したところ、短繊維の含有比率は2.8%であった。スラリーから傾斜ワイヤー抄紙機で湿紙を形成した後、表面温度150℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、不織布を得た。
【0068】
得られた不織布を、金属ロール-弾性ロール(ショア硬度D91)の構成の熱カレンダー装置を使用して、金属ロール温度200℃、線圧50kN/m、加工速度50m/min、1ニップ(nip)の条件で熱カレンダー処理を行い、リチウム二次電池セパレータ用基材を得た。なお、弾性ロールに接した面を塗工面とした。
【0069】
(比較例1)
主体合成繊維(延伸ポリエステル系繊維、直径2.3μm、繊維長3mm)、バインダー合成繊維(未延伸ポリエステル系繊維、直径4.1μm、繊維長3mm、融点245℃)を60:40の配合比率で固形分2kgの繊維を2m3のパルパー(分散容器)に1m3の分散水と共に投入し、5分間分散して分散スラリーを調成した。分散スラリーを18メッシュの網で漉して繊維のみを残して分散水を除去し、新たに水を1m3加えて繊維を解して再分散スラリーを調成した後に、再分散スラリーを18メッシュの網で漉して繊維のみを残して分散水を除去し、新たに水を1m3加えて繊維を解して再々分散スラリーを調成した。再々分散スラリーに対して、18メッシュの網で漉して繊維を残して分散水を除去し、新たな水を加える操作を更に2回行って、最終スラリーを調成した。最終スラリーの繊維長を測定したところ、短繊維の含有比率は0.0%であった。最終スラリーを円網抄紙機で湿紙を形成した後、表面温度150℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、不織布を得た。
【0070】
得られた不織布を、金属ロール-弾性ロール(ショア硬度D91)の構成の熱カレンダー装置を使用して、金属ロール温度200℃、線圧50kN/m、加工速度50m/min、1ニップ(nip)の条件で熱カレンダー処理を行い、リチウム二次電池セパレータ用基材を得た。なお、弾性ロールに接した面を塗工面とした。
【0071】
実施例及び比較例で得られたリチウム二次電池セパレータ用基材に対して、坪量、厚み、通気度並びに塗工液裏抜けの評価を行い、結果を表1に示した。
【0072】
(坪量)
JIS P8124:2011に準拠して、基材の坪量を測定した。
【0073】
(厚み)
JIS B7502:2016に規定された外側マイクロメーターを用いて、5N荷重時の厚みを測定した。
【0074】
(通気度)
JIS L 1096:2010に準拠してフラジール法による通気度を測定した。
【0075】
<セパレータの作製>
体積平均粒子径0.9μm、BET比表面積5.5g/m2のベーマイト100質量部を、水150質量部に分散したものに、その1質量%水溶液の25℃における粘度が3000mPa・sのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩2質量%水溶液75質量部を添加・攪拌混合し、ガラス転移点-18℃、体積平均粒子径0.2μmのカルボキシ変性スチレン-ブタジエン共重合樹脂エマルション(固形分濃度50質量%)10質量部を添加・攪拌混合し、最後に調整水を加えて固形分濃度を30質量%に調整し、塗工液Aを作製した。
【0076】
(塗工液の裏抜け評価)
実施例及び比較例の基材の弾性ロール面に、塗工装置としてリバースグラビアコーターを用い、50m/minのライン速度にて、塗工液Aを、wet塗工量が40g /m2となるように片面塗工した。塗工された基材は、リバースグラビアコーターに直結されたフローティングエアドライヤーで、90℃の熱風を吹き付けて乾燥させ、セパレータを得た。塗工液の裏抜け評価として、塗工装置のガイドロール及びフローティングエアドライヤー内部への塗工液の付着状態により、次の3段階に分類した。
【0077】
1:ガイドロールまたはフローティングエアドライヤー内部への塗工液の付着がほとんど無い。
2:ガイドロールまたはフローティングエアドライヤー内部に塗工液が付着しているが、セパレータに再転写はしない。
3:裏抜けした塗工液がガイドロールまたはフローティングエアドライヤー内部に付着しており、得られたセパレータに再転写による面の不均一性が生じている。
【0078】
<評価用電池の作製>
各セパレータを用い、正極にマンガン酸リチウム、負極にメソカーボンマイクロビーズ、電解液にヘキサフルオロリン酸リチウムの1mol/L炭酸ジエチル/炭酸エチレン(容量比7/3)混合溶媒溶液を用い、各セパレータの無機粒子層を負極に対向するようにして、設計容量30mAhの評価用パウチ型リチウム二次電池を作製し、下記の内部抵抗の評価に供した。
【0079】
(内部抵抗評価)
各電池について、60mA定電流充電→4.2V定電圧充電(1時間)→60mAで定電流放電→2.8Vになったら次のサイクルのシーケンスにて、5サイクルの慣らし充放電を行った後、60mA定電流充電→4.2V定電圧充電(1時間)→6mAで30分間定電流放電(放電量3mAh)→放電終了直前の電圧を測定(電圧a)→60mA定電流充電→4.2V定電圧充電(1時間)→90mAで2分間定電流放電(放電量3mAh)→放電終了直前の電圧(電圧b)を測定、を行い、内部抵抗Ω=(電圧a-電圧b)/(90mA-6mA)の式で内部抵抗を求めた。結果を表1に記す。
【0080】
A:内部抵抗4.0Ω未満
B:内部抵抗4.0Ω以上5.0Ω未満
C:内部抵抗5.0Ω以上
【0081】
【0082】
表1に示したとおり、実施例1~5のリチウム二次電池セパレータ用基材は、合成繊維として、少なくとも主体合成繊維とバインダー合成繊維とを含有してなる不織布からなり、繊維長0.2mm以下のフィブリル化されていない合成繊維を含有することを特徴とすることから、裏抜け評価において良好な結果を得た。また、実施例1~5の基材を用いて作製したセパレータは、内部抵抗が低く、良好であった。
【0083】
実施例1と実施例5との比較から、0.2mm以下の短繊維の含有比率が2.0%未満である実施例1の基材を用いて作製したセパレータは、0.2mm以下の短繊維の含有比率が、基材に含まれる全繊維成分に対して2.0%以上である実施例5の基材を用いて作製したセパレータよりも低い内部抵抗を示し、良好であった。
【0084】
実施例3と実施例4との比較から、0.2mm以下の短繊維の含有比率が0.1%以上である実施例3の基材を用いて作製したセパレータは、0.2mm以下の短繊維の含有比率が、基材に含まれる全繊維成分に対して0.1%未満である実施例4の基材を用いて作製したセパレータよりも、裏抜けが少なく良好であった。
【0085】
0.2mm以下の短繊維を含有しない比較例1のリチウム二次電池セパレータ用基材は、裏抜けした塗工液がガイドロールやフローティングエアドライヤー内部に付着しており、得られたセパレータに再転写による面の不均一性が生じていた。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のリチウム二次電池セパレータ用基材は、リチウム二次電池セパレータ以外にも、リチウムイオンポリマー電池セパレータ、リチウムイオンキャパシタセパレータ等にも利用でき、さらに、リチウム以外の金属を用いた金属イオン電池セパレータ、金属イオンポリマー電池セパレータ、金属イオンキャパシタセパレータ等にも利用できる。