(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】免疫グロブリンの噴霧化
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20230404BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20230404BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20230404BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20230404BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230404BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20230404BHJP
A61M 11/00 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
A61K39/395 Y
A61K9/12
A61K9/72
A61K47/22
A61P11/00
A61P37/02
A61M11/00 F
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020196465
(22)【出願日】2020-11-27
(62)【分割の表示】P 2016560576の分割
【原出願日】2015-04-02
【審査請求日】2020-12-25
(32)【優先日】2014-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501091604
【氏名又は名称】ツェー・エス・エル・ベーリング・アクチエンゲゼルシャフト
(73)【特許権者】
【識別番号】508048621
【氏名又は名称】パリ ファーマ ゲーエムベーハー
(73)【特許権者】
【識別番号】506210266
【氏名又は名称】メディツィニシェ ホッホシューレ ハノーヴァー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】セドリック・ピエール・ヴォナーブルク
(72)【発明者】
【氏名】カーリン・シュテインフューラー
(72)【発明者】
【氏名】ウルリヒ・バウマン
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-518852(JP,A)
【文献】特表2006-528025(JP,A)
【文献】特表2013-519654(JP,A)
【文献】特表2011-506396(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0239956(US,A1)
【文献】特表2004-523294(JP,A)
【文献】European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceu,2014年03月15日,[online],doi:10.1016/j.ejpb.2014.03.001,https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0939641114000782,Retrieved from the internet:
【文献】MICRO A-I-Rオムロンメッシュ式ネブライザ NE-U22,日本,2012年,検索日:2022年2月7日、インターネット<https://www.healthcare.omron.co.jp/support/download/cata
【文献】Aeroneb GO Instruction Manual,日本,2009年,検索日:2022年2月28日、インターネット< https://www.global-medical-solutions.com/assets/image
【文献】Expert Opinion on Drug Delivery,日本,2015年01月05日,Volume 12, 2014, Issue 6,pp.1027-1039,インターネット<https://doi.org/10.1517/17425247.2015.999039>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61M 11/00-11/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリクローナル免疫グロブリン(Ig)を含有するエアロゾルを発生させるキットであって、キットは、
(a)ポリクローナル免疫グロブリン(Ig)、ここでIgの濃度は40から200mg/mLの範囲である、を含む水性液体組成物、及び、
(b)前記組成物をその中に充填したリザーバを備える膜噴霧器
を含み、
ここで、
膜噴霧器は能動式膜噴霧器であり、該噴霧器を使用して、前記組成物を噴霧化しエアロゾルを得る工程の前、又は途中に、リザーバ内の圧力が低下
するようにリザーバは大気から隔離していて、
リザーバ(10)内の開口部の上に密封要素(16)が配置され、開口部を気密に密封することによりリザーバは大気から隔離され、かつ、摺動可能な要素(21)が密封要素
(16)に接続し、摺動可能な要素(21)の動作が密封要素(16)の少なくとも一部分(18)の動作に影響を与え、これによりリザーバ(10)内に負圧が発生し、
リザーバの初期負圧は、100~400mbarであり、エアロゾル発生プロセスの間、維持され、そして
前記組成物の動粘度は、20℃±0.1℃の温度で0.8から4.0mPa・sの範囲にある、前記キット。
【請求項2】
組成物中のIgの濃度が40から120mg/mLの範囲である請求項1に記載のキット。
【請求項3】
組成物が更に安定化剤を含む請求項1又は2に記載のキット。
【請求項4】
安定化剤がプロリンである請求項3に記載のキット。
【請求項5】
組成物が更に界面活性剤を含む請求項1~4のいずれか1項に記載のキット。
【請求項6】
膜噴霧器が膜振動噴霧器である請求項1~
5のいずれか1項に記載のキット。
【請求項7】
膜噴霧器が流体と接触する第一の側(124)と反対側の第二の側(125)を有する振動膜(122)を含み、その膜は第一の側から第二の側への延長方向(E)に膜を貫通する複数の貫通孔(126)を有し、液体がこの貫通孔を第一の側から第二の側へ通過し、膜が振動した時、第二の側でエアロゾルが発生し、各貫通孔(126)はその延長方向(E)に沿って、最小径(D
s)、最小径より3倍まで大きいより大きな径(D
L)を有し、各貫通孔は貫通孔の最小径を含む延長方向の貫通孔の連続部分により画定され、かつ貫通孔のより大きな直径により縁辺を形作られるノズル部(132)を備え、
各貫通孔(126)の延長方向の全長は、ノズル部(132)の延長方向の各々の一つの長さに対する比率が少なくとも4であることを特徴とする、請求項1~
6のいずれか1項に記載のキット。
【請求項8】
噴霧器が患者の下部気道を標的とするエアロゾルを発生するように適合した請求項1~
7のいずれか1項に記載のキット。
【請求項9】
噴霧器が患者の上部気道を標的とするよう適合した請求項1~
7のいずれか1項に記載のキット。
【請求項10】
噴霧器が能動的膜噴霧器である請求項1~
9のいずれか1項に記載のキット。
【請求項11】
ポリクローナル免疫グロブリン(Ig)がポリクローナル免疫グロブリンG(IgG)、ポリクローナル免疫グロブリンA(IgA)、及び/又はポリクローナル免疫グロブリンM(IgM)である請求項1~
10のいずれか1項に記載のキット。
【請求項12】
送達されるエアロゾルが、噴霧器のリザーバ内に充填された組成物中の、Igの用量の少なくとも50%を含む請求項1~
11のいずれか1項に記載のキット。
【請求項13】
エアロゾル中のIgの活性度が噴霧器のリザーバ内に充填された組成物中の、Igの少なくとも80%である請求項1~
12のいずれか1項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は治療目的のためのエアロゾルを発生する方法に関する。より具体的には、本発明は、免疫グロブリン(Ig)、特に免疫グロブリンG(IgG)、免疫グロブリンA(IgA)又は免疫グロブリンM(IgM)等のポリクローナル免疫グロブリン若しくはこれらの組み合わせを含む組成物を噴霧化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫グロブリン(Ig)はヒト血漿の成分であり、免疫反応に重要な役割を果たしている。これら特異的免疫タンパク質は、Bリンパ球により合成され、すべての脊椎動物の血漿
、リンパ液、及び他の分泌物中に見出される。免疫グロブリンは、ヒトの血漿タンパク質の約20%を構成している。3種の免疫グロブリンクラス、IgG、IgAおよびIgMが他のものよりも重要である。ヒトIgGは、血漿中で最も豊富な免疫グロブリンを代表し、一方で、IgAは、唾液、涙並びに呼吸器及び腸管の粘膜など、外分泌物中の主な抗体クラスを代表する。IgAは、細菌およびウイルス病原体に対する第一防御ラインの1つを形成する。IgMは、
ヒトの循環系内において物理的にかけ離れて最大の抗体であり、感染の初期過程で出現し、通常、さらに(感染が)露顕した後に、その程度はより少ないが、再出現する。
【0003】
過去1世紀に亘り、免疫グロブリン製剤は、原発性免疫不全疾患を有する患者の補充療
法として感染症の治療のためにおよび種々の炎症性若しくは自己免疫状態ならびに特定の神経疾患の予防及び治療のために、成功裏に使用された。これらの免疫グロブリン製剤は、全身投与のために開発され、そして大部分はIgGを含んでいた。現在、これらの製剤は
、健康なドナー何千かのプールした血漿(1000から60,000ドナー)に由来し、ドナー集団の累積的抗原の経験を反映した、特異的な及び天然の両方の抗体を含む。特異的であり、かつ天然である抗体のこの大きなスペクトルは、広範囲の抗原(例えば、病原体、外来抗原および自己抗原(self/autoantigens))を認識することが出来る。
【0004】
一般に、免疫グロブリンは、静脈内または皮下投与する。市販されている製剤のいくつかは、これらの投与経路用として入手可能である。さらに、免疫グロブリンの局所投与について、より具体的には、気道への投与(上気道としては、鼻、鼻腔、副鼻腔、のど、中咽頭、咽頭、発生器、喉頭及び気管;並びに下気道としては、呼吸気道、肺、分岐部、気管支や細気管支、呼吸細気管支、肺胞管、肺胞嚢、および肺胞)が示唆されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、緑膿菌に対する抗体を局所投与する方法を記載している。抗体は、エアロゾルの形態で、例えば鼻への適用、又は、気管内投与により肺へ、エアロゾルの形態で投与することが出来る。
【0006】
特許文献2には、感受性宿主である下気道へ、小粒子(<2μm)エアロゾルを投与する
ことを含む方法が記載され、前記エアロゾルは主要な保護ウイルス表面抗原上に存在する様々な保護抗原部位に対して向けられる特異的モノクローナル抗体混合物である。
【0007】
Rimensberger and Roth による非特許文献1では、免疫グロブリン溶液(IVIG)の噴霧化を、4種の圧縮空気噴霧器を用いて評価している。
【0008】
特許文献3は、免疫不全および感染を含む疾患の予防または治療のための免疫グロブリンAの定量吸入器または噴霧器によるエアロゾル投与を記載している。
【0009】
特許文献4には、識別マーカー/標識を有する噴霧剤の内容物の同一性に基づいてエア
ロゾル発生器を制御し得るコントローラについて記載している。この装置は、数種の薬物群を噴霧化するために使用可能である。前記薬物群の一つとして抗体が挙げられている。
【0010】
特許文献5には、治療薬を全身送達するための方法および組成物が記載され、肺の中央気道の上皮に、抗体またはFcRn結合パートナーを含む治療薬である複合体を含むエアロゾルを投与している。この方法および生成物は、効果的に全身送達をするための深部肺への投与を必要としないという利点を有する。異なる動作原理を有するエアロゾル発生器の使用が提案されている。
【0011】
特許文献6には、補体系の活性化を阻害し、しかも、肺の疾患または症状を予防または治療するために使用し得る抗体を用いる組成物及び方法を記載している。モノクローナル抗体を投与するため、異なる種類の噴霧器が提案されている。
【0012】
特許文献7には、免疫グロブリン単一可変ドメインのエアロゾルを調製する方法が記載され、凝集体形成量を著しく低減している。
【0013】
これらの文書は、異なるタイプの抗体を適用する数種の方法を示唆しているが、ポリクローナルIg、例えば、IgG、IgA、IgM又はその組み合わせを、特に、迅速かつ効率的な手
法で噴霧化する方法の必要性は依然として存在する。
【0014】
従って、本発明の目的は、ポリクローナルIg、例えば、IgG、IgA、IgM又はその組み合
わせを含む組成物のエアロゾルを発生し、患者の気道にポリクローナルIgを効率的な方法で送達し、例えば、エアロゾル発生器の送達用量(DD)は、少なくとも40%、又は、好ましくは少なくとも50%が可能であり、呼吸可能な画分(MMD粒径5μm未満)は、少なくと
も70%又は好ましくは少なくとも80%は有るべきで、かつ又、発泡特性およびエアロゾル発生後の液体リザーバ内に充填されていた流体の残留量は、例えば1.0 ml未満又は好ましくは0.5 ml未満又はより好ましくは0.3 ml未満に低減し得る方法を提供することにある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】米国特許第4994269号
【文献】国際特許公開第92/01473号
【文献】米国特許公開第2002/0136695号
【文献】国際特許公開第03/059424号
【文献】国際特許公開第2004/004798号
【文献】国際特許公開第2006/122257号
【文献】国際特許公開第2011/098552号
【非特許文献】
【0016】
【文献】"Physical Properties of Aerosolized Immunoglobulin for Inhalation Therapy", Journal of Aerosol Medicine, Vol. 8(3), pp 255-262, 1995
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、エアロゾルを発生する工程、即ち、(a)ポリクローナルIg、例えば、IgG、IgA、IgM又はその組み合わせを含み、Igの濃度がmL当たり20から200mgの範囲である水性
液体組成物を提供する工程、(b)前記組成物を充填したリザーバを備える膜噴霧器を提
供する工程及び(c)噴霧器を使用して、前記組成物を噴霧化し、エアロゾルを得る(エ
アロゾルを発生する)工程を含むエアロゾルを発生する方法を提供する。
【0018】
好ましい実施態様において、Igはポリクローナルである。好ましくは、Igは、ポリクローナルIgG、ポリクローナルIgA単量体、ポリクローナルIgA二量体、ポリクローナルIgM又はその組み合わせである。いくつかの実施態様において、組成物はさらに、分泌成分、好ましくは組換えにより産生されたヒト分泌成分を含み得る。
【0019】
特定の実施態様では、Ig、例えば、IgG、IgA、IgM又はその組み合わせの濃度は、水性
液体組成物中、1ml当たり20から100mgの範囲である。さらに、組成物は安定剤を含んでいても良い。安定剤はプロリンでも良い。界面活性剤などの他の賦形剤を組成物中に含んでいても良い。
【0020】
具体的な実施態様では、噴霧器のリザーバは大気から隔離されているために、リザーバ内の圧力は工程(c)の前又は途中に低下する。好ましい実施態様において、噴霧器は膜
振動噴霧器である。特定の実施態様において、噴霧器は、下気道及び/又は上気道のいずれかを標的とするエアロゾルを発生するように、特に適合されている。
【0021】
一態様において、本発明の方法は、リザーバ内に充填された、Ig、例えば、IgG、IgA、IgM又はその組み合わせた用量の少なくとも40%、好ましくは、少なくとも50%、より好
ましくは、少なくとも60%を含有するエアロゾルを生成する。別の態様において、本方法で製造するエアロゾル中のIg、例えば、IgG、IgA、IgM又はその組み合わせの活性は、リ
ザーバ内に充填された組成物中の活性の少なくとも60%好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%である。
【0022】
以下の詳細な説明、実施例及び特許請求の範囲に基づき、本発明の実施態様はさらに明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明で使用し得る公知の膜噴霧器の概略図を示す。
【
図2】本発明で使用し得る公知の膜のコンピュータ断層撮影(CT)画像を示す。
【
図3】非噴霧化の及び噴霧化IgG組成物(Privigen
TM)をSDS-PAGEにより構造解析した結果を(A)還元条件下及び(B)非還元条件下について示す。
【
図4】非噴霧化の及び噴霧化したIgG(PBS又はグリシン中)、IgA 及び IgAM組成物をSDS-PAGEにより構造解析した結果を(A)還元条件下及び(B)非還元条件下について示す。(C)には、IgA (p, q), IgAM (r, s), SIgAM (t, u) 及び IgG (v, w, x, y)について更に行ったSDS-PAGEの結果を、還元条件下(左図)及び非還元条件下(右図)について示す。
【
図5】肺炎連鎖球菌に対する種々の製剤の結合について、噴霧前( - )及び噴霧後(N)を示す。
【
図6】種々の製剤の活性に及ぼす噴霧の効果を、様々な様相のフレクスナー赤痢菌に感染した上皮細胞単層上に噴霧する前と後とで示し、(A)フレクスナー赤痢菌単独(C+)に応答した又は様々な免疫グロブリン製剤を噴霧化せず( - )若しくは噴霧化した製剤(N)と複合化した上皮細胞による炎症性サイトカイン分泌への影響、(B)フレクスナー赤痢菌感染した単独(C+)の、または様々な免疫グロブリン製剤を噴霧化せず、( - )若しくは噴霧化した製剤(N)と複合化した、細胞単層の経上皮膜抵抗上への影響; (C)フレクスナー赤痢菌単独(C +)に感染させた又は様々な免疫グロブリン製剤の噴霧化をせず、( - )若しくはの噴霧化した(N)製剤と複合化した後の感染領域(左側の図)及び感染病巣(右側の図)の数( - )。
【
図7】噴霧化免疫グロブリン製剤の肺への沈着、及び動物モデルにおけるBAL内の存在の時間経過を示す。
【
図8】抗γ鎖(a)、抗α鎖(b)及び抗μ鎖(c)でプローブし、0時間、1時間、6時間、12時間及び24時間で採取したBAL試料のウェスタンブロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の方法は、水性液体組成物を噴霧化することにより、エアロゾルを発生する方法である。水性液体組成物とは液体系であり、液体の担体又は主に若しくは完全に水からなる溶媒である。特定の場合において、液体担体は、少なくとも部分的に水と混和可能な1
種又はそれ以上の液体の小画分を含み得る。
【0025】
組成物は、通常ヒトドナーの血漿から得られるポリクローナル免疫グロブリンを含む。多数のドナーからの血漿をプールするのが好ましく、例えば100以上のドナーから、好ま
しくは500以上のドナーから、更に1,000以上のドナーからが好ましい。通常、血漿プールは、エタノール分画処理を行い、次いでさらに沈殿工程及び/又はカラムクロマトグラフィー工程等の精製の数工程並びに、ナノ濾過又は溶媒/界面活性剤処理等、ウイルス及び他の病原体を不活性化し、除去する工程を行なう。
【0026】
組成物はまた、Igとも略称するポリクローナル免疫グロブリンを含む。このようなポリクローナルIg、例えばIgG、IgA、IgM又はそれらの組み合わせは、ヒト血液ドナーの血漿
から得ることが出来る。IgG純度が、少なくとも95%を有する、正常ヒトIgGを得ることが出来る。従って、一実施態様において本発明の方法で使用される組成物中に含まれるIgG
は、一般に、少なくともIgG純度95%を、好ましくは少なくともIgG96%、より好ましくは少なくともIgG 98%、より更に好ましくは少なくともIgG 99%を有する。ほんの僅かのIgAを含むのが好ましい。例えば、一実施態様では、組成物はmL当たり最大25μgのIgAを含
む。別の特定の実施態様において、組成物は、純度が、少なくとも90%、好ましくは少なくとも92%、より好ましくは少なくとも94%、更により好ましくは少なくとも96%、最も好ましくは少なくとも98%であるIgAを含む。IgAは、ヒト血漿から精製するのが好ましいが、しかし、IgAの他の供給源として、乳、唾液、又は他のIgA含有体液等も使用し得る。
【0027】
別の特定の実施態様では、IgAは、単量体のIgAである。さらに別の特定の実施態様では、IgAは、二量体のIgAに富化したものであり、好ましくはIgAの少なくとも20%、より好
ましくは少なくとも30%、さらにより好ましくは少なくとも40%、最も好ましくは少なくとも50%が二量体の形態である。場合により、IgAの組成物は、分泌成分、好ましくは組
換え的に産生された分泌成分を更に含み得る。例えば、国際特許公開第2013/132052号に
開示されているような組成物は、その全体を参照として組み込み使用し得る。
【0028】
さらに別の特定の実施態様において、組成物はIgMを含む。一実施態様では、組成物はIgM及びIgAを含む。好ましい実施態様において、組成物は、IgM及び二量体のIgAを含み、
それはまたJ鎖も含む。場合により、組成物は分泌成分、好ましくは組換え的に産生され
分泌成分をも含み得る。さらに別の実施態様において、組成物は、IgM、IgA及びIgGを含
む。特定の実施態様において、そのような組成物は、IgG 76%、IgA 12%及びIgM12%を
含み得る。
【0029】
本発明の方法において、比較的高濃度のIg、例えばIgG、IgA、IgM又はそれらの組み合
わせが使用される。より具体的には、Igの特に、IgG、IgA、IgM又はそれらの組み合わせ
の濃度範囲は、20から200mg/mLの間である。好ましい濃度範囲は、20から190mg/mL 、20
から180mg/mL、20から170mg/mL、20から160mg/mL、20から150mg/mL、30から200mg/mL、30から190mg/mL、30から180mg/mL、30から170mg/mL、30から160mg/mL 、30から150mg/mL、40から200mg/mL、40から190mg/mL、40から180mg/mL、40から170mg/mL、40から160mg/mL、40から150mg/mLの間である。より好ましい濃度範囲は、20から140mg/mL、20から130mg/mL
、20から120mg/mL、30から140mg/mL、30から130mg/mL、30から120mg/mL、40から140mg/mL、40から130mg/mL、40から120mg/mL、50から140mg/mL、50から130mg/mL、又は50から120mg/mLの間であり、更により好ましい濃度は約50mg/mL、60mg/mL、70mg/mL、80mg/mL、90mg
/mL、100mg/mL、110mg/mL又は120mg/mLである。比較的高い濃度は充填体積を低くし、し
かも噴霧化時間を短くし、かくして、この方法の治療効果を確実にするので重要である。
【0030】
本発明の方法では、膜噴霧器を使用して、エアロゾルを発生する。ここで、噴霧器とは、液体材料を分散した液相にエアロゾル化することが可能な装置として定義する。ここで、エアロゾルとは、連続的な気相と不連続の若しくは分散した液体粒子の相とを、その中に分散して含む系であると定義する。
【0031】
エアロゾル発生器は、例えば、Ig、IgG、IgA、IgM又はそれらの組み合わせを含む流体
の初期容量を保持するように構成された液体リザーバ(及び)開口部を有する膜を備えていても良く、液体リザーバは、膜と連通し、例えば重力により、膜の一方の側に液体を供給し、膜は振動可能であり、開口部を通じて、液体を輸送し、これにより液体を膜の他方の側にエアロゾルの形で放出する。
【0032】
エアロゾル発生器は膜及び振動発生装置を備えていても良く、膜は片側に存在する液体から液滴を発生し、流体リザーバの壁の一部が振動した時、他の側にエアロゾルとしてそれらを放出し及び振動発生装置、例えば圧電素子は、流体リザーバの壁の一部を振動するように流体リザーバの壁の一部に結合している(受動式膜噴霧器、I型)。
【0033】
エアロゾル発生器は、膜及び振動発生装置を備えていても良く、膜は片側に存在する液体から液滴を発生し、流体供給器(例、チューブ)の壁の一部が振動した時、他の側にエアロゾルとして、それらを放出し及び振動発生装置、例えば圧電素子は、流体供給器を振動するように流体供給器に結合している(受動式膜噴霧器、II型)。
【0034】
エアロゾル発生器は、膜及び振動発生装置とを備えていても良く、膜は片側に存在する液体から液滴を発生し、膜が振動した時、他の側にエアロゾルとしてそれらを放出し及び振動発生装置、例えば圧電素子は、膜を振動するように膜に結合している(能動式膜噴霧器)。
【0035】
分散相は本質的に液滴からなる。分散相の液滴は、液体環境の中で、ポリクローナルIg、例えばIgG、IgA、IgM又はそれらの組み合わせを含む。液体環境とは、下記に更に示す
ような賦形剤を有するか又は有さない水性相である。当業者であれば、本明細書に開示した液体組成物に関する特徴及び至適品を、それから発生させたエアロゾルの分散相に適用することも、またその逆も可能であることを理解できよう。
【0036】
エアロゾルの連続気相は、薬学的に許容できる任意の気体又は気体状混合物から選択し得る。例えば、気体は単純に、空気又は圧縮空気であっても良く、これはエアロゾル発生器として噴霧器を用いる吸入療法で最も一般的である。あるいは、酸素富化空気、二酸化炭素又は窒素と酸素の混合物等、他の気体及び気体混合物、を使用し得る。
【0037】
2つの数値、質量中央径(MMD)と空気動力学的質量中央径(MMAD)は実験的に決定でき、粒子サイズ又は発生エアロゾルの液滴サイズの記述に有用となり得る。2つの数値間の
差異は、MMADが水の密度(空気動力学的に等価)に規格化されることである。
【0038】
MMADは、インパクター、例えばアンダーソンカスケードインパクター(ACI)又は次世
代インパクター(NGI)で測定し得る。また、例えばマルバーン・マスターサイザー(Malvern Mastersizer)XTMを使用するレーザー回折法でMMDを測定し得る。
【0039】
本発明の方法により発生するエアロゾル分散相の粒子サイズ、MMDは、例えば、好まし
くは10μm未満、好ましくは約1から約6μm、より好ましくは約1.5から約5μm、さらによ
り好ましくは約2から約4.5μmを示す。また、粒子サイズは、好ましくはMMADの10μm未満、好ましくは約1から約6μm、より好ましくは約1.5から約5μm、更により好ましくは約2
から約4.5μmを有し得る。エアロゾルの分散相を記述する他のパラメータとしては、エアロゾル化した液状粒子又は液滴の粒度分布である。幾何標準偏差(GSD)は発生したエア
ロゾル粒子又は液滴の粒子又は液滴サイズの分布幅のために多用される尺度である。
【0040】
エアロゾルを標的とする領域又は組織に沈積するためには、上記記載の範囲内の正確なMMDの選択を考慮すべきである。例えば、口腔、鼻腔又は気管吸入を意図しているかどう
か及び上部、及び下部気道(例えば副鼻腔中咽頭、喉、気管、気管支、肺胞、肺、鼻及び/又は副鼻腔)への送達に焦点を当てているかどうかにより、最適な液滴直径は異なるものとなろう。さらに、年齢に依存する解剖学的位置関係(例えば鼻、口又は呼吸気道の位置関係)並びに患者の呼吸器疾患及び症状若しくはその呼吸パターンは、下部又は上部気道に薬剤を送達するための最適な粒子サイズ(例、MMD及びGSD)を決定する上で、重要な因子に属する。
【0041】
一般に、2mmより小さい内径によって定義される小気道は、肺気量のほぼ99%を代表し
、従って、肺機能における重要な役割を担っている。肺胞は、肺の中の深奥部位にあり、酸素と二酸化炭素を血液と交換する。ある種のウイルスや細菌によって誘起される肺胞の炎症は、その部位での液分泌を起こし、肺による酸素摂取に直接、悪影響を及ぼす。エアロゾルを用いる肺の深奥部気道の標的化治療には、MMD 5.0μm未満の、好ましくは4.0μm未満、より好ましくは3.5μm未満、及び更により好ましくは3.0μm未満のエアロゾルを必要とする。
【0042】
エアロゾルを気道に送達するため、エアロゾルは、10.0μm未満、好ましくは5.0μm未
満、より好ましくは3.3μm未満、より更に好ましくは2.0μm未満のMMDを有する。好まし
くは、MMD(液滴サイズである)は約1.0から約 5.0 μmの範囲内であり、その粒度分布、は、2.2未満のGSD、好ましくは2.0未満、より好ましくは1.8未満又はより更に好ましくは1.6未満を有する。エアロゾル化する薬物の量に関する、このような粒子サイズ及び粒度
分布パラメータは、気管支及び細気管支などヒトの気道(例、肺)に局所的に高い薬物濃度を達成するために特に有用である。
【0043】
この観点から、肺深奥部の沈積は、大人と子供の中央気道における沈積と比べ、より小
さい(MMD)が必要であり、しかも幼児や乳児にとっては、更に小さい液滴サイズ(MMDの)約1.0から約3.3μmがより好ましく、2.0μm未満の範囲がさらに好ましいということを
考慮しなければならない。従って、エアロゾル療法では、5μm(大人が呼吸可能な画分の代表値)より小さな及び3.3μm(子供が呼吸可能な、又は大人の肺深奥部内で沈積する画分の代表値)より小さな、液滴の画分を評価することが一般的である。又、2μm未満の液滴の画分は、多くの場合、大人及び子供の末端細気管支や肺胞に最適に達する可能性があり、幼児や乳児の肺を浸透出来るエアロゾルの画分を代表するとの評価も受けている。
【0044】
本発明の方法において、粒径5μm未満を有する液滴の画分は、好ましくは65%より大きく、より好ましくは70%より大きく、更に好ましくは80%より大きい。3.3μmよりも小さい粒子サイズを有する液滴の画分は、好ましくは25%より大きく、更に好ましくは30%より大きく、より更に好ましくは35%より大きく、更に又、より好ましくは40%より大きい。2μm未満の粒径を有する液滴の画分は、好ましくは4%より大きく、より好ましくは6%より大きく、より更に好ましくは8%より大きい。
【0045】
エアロゾルはまた、呼吸シミュレーション実験で決定された送達用量(DD)によって特徴付けることが出来る。送達用量は、例えば、レーザー回折(例えば、マルバーンのマスターサイザーTM)により又はインパクター(例えば、アンダーソンカスケードインパクタ
ー ACI又は次世代インパクター - NGI)を使用して、測定した呼吸性画分(RF)に基づいて、例えば、呼吸用量(RD)を算出するために使用することが出来る。本発明の方法を呼吸シミュレーション実験(例えば、コプリー社製のBRS3000、又はPARI社製のコンパスIITM 等の呼吸シミュレータを使用)における成人呼吸パターン(正弦波状気流、一回換気
量500mL、15呼吸/分)に適用する場合、でかつ、組成物(Ig 200mg、例えば、IgG 200mg、IgA 200mg、IgM 200mg又はそれらの組み合わせ)の2mLを膜噴霧器に充填する場合
、送達用量(DD)は、好ましくは、40%(Ig 80mg、例えば、IgG、IgA、IgM又はそれら
の組み合わせ)より高く、より好ましくは45%(Ig、90mg、例えば、IgG、IgA、IgM又は
それらの組み合わせ)より高く、より更に好ましくは50%以上(Ig、100mg、例えば、IgG、IgA、IgM又はそれらの組み合わせ)である。
【0046】
上気道、特に、鼻、鼻腔及び/又は副鼻腔粘膜、洞口鼻道系、及び副鼻腔の治療のためには、約5.0μm未満のMMD又は約4.5μm未満又は約4.0μm未満又は約3.3μm未満又は約3.0μm未満が特に適している。
【0047】
上気道への適用のために発生したエアロゾルの適合性は、国際特許公開第2009/027095
号に記載のヒト鼻鋳造模型等の経鼻吸入模型で評価することが出来る。鼻へのエアロゾル送達のために、例えば、パリ社製SinusTM装置(ジェット噴霧器)と膜噴霧器(VibrentTMテクノロジー社製のプロトタイプ)が現存する。
【0048】
本発明の方法において使用する噴霧器は、膜噴霧器である。この膜噴霧器は好ましくは、膜振動噴霧器である。後者の噴霧器の型は、噴霧用液体を充填したリザーバを含む。噴霧器を作動させる時、揺動、即ち、振動する(例えば、圧電素子を用いる方法)ように作成された膜に液体を供給する。
【0049】
振動膜の片側に存在する液体は、振動膜内の開口部(「孔」又は「穴」とも称す)を通じて輸送され、振動膜の反対側上でエアロゾルの形態をとる。(例えば、パリ社製のeFlow rapid 及びeRapid、Health and Life 社製のHL100、並びに、エアロゲン社製のAeronebGo及びAeronebSolo)。このような噴霧器を「能動型膜噴霧器」と称し得る。
【0050】
他の有用な膜噴霧器においては、組成物は膜ではなく液体を振動させることにより噴霧化出来る。このような流体振動膜噴霧器は噴霧用液体を充填したリザーバを含む。噴霧器を作動させる時は、液体は揺動するように(即ち、例えば、圧電素子で振動する)製作された液体供給システムを介して膜に供給される。この液体供給システムは、リザーバが振動裏壁(例 AerovectRxTM技術 , Pfeifer Technology社製)であるか又は振動液体輸送
スライダー(例 Respironics社製, I-NebTM装置、又は、オムロン社製 U22TM装置)であ
っても良い。これらの噴霧器は、「受動型膜噴霧器」と称し得る。
【0051】
膜噴霧器で液体を噴霧化するのに、異種タイプの膜を利用可能である。これらの膜は、孔径の差異に特徴があり、液滴サイズ(MMD及びGSD)の異なるエアロゾルを発生する。組成物の特性や所望とするエアゾール特性に応じて、異種タイプの膜(すなわち、異なる変性膜噴霧器又はエアロゾル発生器)を使用し得る。本発明の方法において好ましく使用される膜としては、発生するエアロゾルのMMDが2.0μmから5.0μmの範囲、好ましくは3.0μmから4.9μmの範囲、より好ましくは3.4μmから4.5μmの範囲である。本発明の別の実施
態様では、エアロゾル発生装置に内蔵し、使用されるタイプの膜で発生するエアロゾル、例えば、等張食塩水液(塩化ナトリウム0.9%)は、好ましくはMMDが2.8μmから 5.5μm
の範囲であり、好ましくは3.3μmから5.0μmの範囲であり、そして、より好ましくは3.3
μmから4.4μmの範囲である。本発明の別の実施態様では、エアロゾル発生装置に内蔵し
使用されるタイプの膜で発生するエアロゾル、例えば、等張食塩水液(塩化ナトリウム0.9%)は、好ましくはMMDが2.8μmから5.5μmの範囲であり、好ましくは2.9μmから5.0μm
の範囲であり、そして、より好ましくは3.8μmから5.0μmの範囲である。
【0052】
本発明者らは、ポリクローナル抗体のIg、例えばIgG、IgA、IgM又はそれらの組み合わせを含有する液体水性組成物を噴霧する工程(即ち、工程(c))の前及び途中にリザーバ内の圧力が低下するようにリザーバが大気から隔離されている場合、本発明の方法が特によく機能することを見出した。換言すれば、水性液体組成物が、エアロゾル液滴が放出される領域の周囲圧より若干下回る圧力下で膜に供給されるならば、この方法は、特に有効である。液体を噴霧する工程前の、リザーバ内の初期圧力は、少なくとも50mbar、より好ましくは少なくとも75mbar、そして最も好ましくは少なくとも100mbarである。
【0053】
更に、エアロゾル発生器は、負圧発生手段を有し液体リザーバが密閉状態にある液体リザーバのリザーバの容積(V1)を、膜が揺動される前に、(即ち、投与開始または使用開始前)容積(V2)に増加するように、液体リザーバと協働する。
【0054】
このような負圧発生装置は米国特許第6983747号に開示されているように、形成しても
良く、その全体が参考として組み込まれる。
【0055】
また、負圧発生装置は、国際特許公開第2007/020073号に開示されるように構成されても良く、その全体が参考として組み込まれる。
【0056】
リザーバ内の圧力の低下を実現するために、特に好ましいのは、リザーバ(10)内の開口部に配置された封止要素(16)で、開口部を気密に封止することにより、大気圧からリザーバを隔離することであり、かつ摺動可能な要素(21)は、封止要素(16)に接続し、摺動可能な要素(21)の動作が、封止要素(16)の少なくとも一部分(18)の動きに影響を与え、これにより、
図1に示すリザーバ(10)内に負圧が発生する。リサーバの内部の圧力を低下するこのような方法は国際特許公開第02/064265号に記載され、その全体が参
考として組み込まれる。また、負圧発生装置も、欧州特許第1353759号に記載されている
ように構成しても良く、その全体が参考として組み込まれる。
【0057】
他の有用な膜噴霧器では、負圧は、閉鎖要素又は機械的なシステム、例えば容積膨張ベローズの使用、動作、吸引、ポンピング、など、を使用する手段により、密封された液体リザーバ内で、発生する。
【0058】
あるいは、リザーバ内の負圧発生装置は、流体又は液体から完全なエアロゾルを発生する工程中にリザーバ内でほぼ一定範囲の負圧を発生するようにも、構成し得る。液体を噴霧化する工程中のリザーバ内の好ましい負圧の範囲は、50から400mbarであり、より好ま
しくは100から400mbarの範囲で、より一層好ましくは100から350mbarの範囲で、最も好ましくは、100から200mbarの範囲である。このような負圧の範囲の装置は国際特許公開第2012/069531号に開示されているように形成しても良く、その全体は参考として取り込む。
【0059】
しかしながら、負圧は、噴霧化している間のみ発生することも出来るし又は上記のような閉鎖要素により発生する負圧は噴霧化(即ち、工程(c))を行いながら、ある程度一
定のレベルで維持することも出来る。
【0060】
この方法は、例えば、気管支又は肺深部と等の下気道を標的として意図する場合には、特に圧電穿孔膜型噴霧器を選択してエアロゾルを発生することが好ましい。適切な噴霧器の例としては、I-NEBTM、U22TM、U1TM、マイクロエアーTM等の受動型膜噴霧器、例えばMultisonicTM等の超音波噴霧器及び/又はHL100TM、RespimateTM 、イーフローTMテクノロ
ジー噴霧器、AeroNebTM、AeroNebプロTM、AeronebGoTM及びAeroDoseTM装置群並びにプロ
トタイプファイファー、クリサリス(フィリップモリス)又はAerovectRxTMデバイス等の
能動型膜噴霧器などを含む。
【0061】
下気道を標的とする薬物を噴霧化するために特に好ましい噴霧器は、振動式穿孔膜噴霧器又は所謂、能動型膜噴霧器と称する、例えばイーフローTM噴霧器(ドイツ、パリ社から入手可能な電子式振動膜噴霧器)である。或いは、受動的膜噴霧器を使用しても良く、例えば、オムロン社製のU22TM又はU1TM又はTelemaq.fr技術やイング・エーリヒ・ファイフ
ァー社の技術に基づく噴霧器を用いても良い。
【0062】
上気道を標的とする好ましい膜噴霧器は、穿孔振動膜の原理を介してエアロゾルを発生する噴霧器でイーフローTM技術を使用する、改造型治験膜噴霧器などがあるが、これは又、脈動空気流を放出することが可能であるため、発生したエアロゾル雲は所望の位置で又は所望の場所(例、副鼻腔又は副鼻腔)にエアロゾル雲を移送している間に脈動する(即ち、圧力変動が起こる)。このタイプの噴霧器はノーズピースを備え、エアロゾル雲流を鼻中に向けて移送する。
【0063】
このように改造した電子式噴霧器により送達されるエアロゾルは、連続(非脈動)モードで送達される時のエアロゾルより、副鼻腔や副鼻腔にはるかに良好な到達が可能である。
【0064】
副鼻腔は脈動圧力波により集中的に換気が達成されるため、同時に適用するエアロゾルがこれらの空腔内により良く分散し、堆積される。
【0065】
より具体的には、患者の上気道を標的とする好ましい噴霧器は、約5L/分未満の有効
流速でエアロゾルを発生するように、かつ、約10から約90Hzの範囲の周波数で、エアロゾルの圧力脈動に影響を与える手段を同時に動作するように適合された噴霧器であり、ここで有効流速とは、患者の呼吸器系に入るときの流速である。このような電子式噴霧装置の例は、国際特許公報第2009/027095号に開示されている。
【0066】
本発明の好ましい実施態様において、上気道を標的とする噴霧器は、エアロゾル雲が所望の位置に到達した時、遮断できる移送流を使用し、次にエアロゾル雲の脈動、例えば交互モードを開始する噴霧器である。詳細は国際特許公報第2010/097119号及び国際特許公報第2011/134940号に記載されている。
【0067】
肺への又は副鼻腔への送達に適合するかどうか、噴霧器は好ましく選択され又は好ましい出力流速で単位用量をエアロゾル化出来るように適合されるべきである。
【0068】
本明細書において、単位用量とは、単回投与の間に投与するように指定された活性化合物、即ちIg、IgG、IgA、IgM又はそれらの組み合わせの有効量を含む水性液体組成物の体
積として定義される。好ましくは、噴霧器は単位用量を、少なくとも0.1mL/minの流速で
又は組成物の相対密度が通常、約1になると仮定すれば、少なくとも100mg/minの流速で送達することが出来る。より好ましくは、噴霧器は各々少なくとも0.4mL/min又は400mg/minの出力流速で発生させることが出来る。さらなる実施態様では、噴霧器又はエアロゾル発生器の液体の出力流速は、少なくとも0.50mL/minであり、好ましくは少なくとも0.55mL/min、より好ましくは少なくとも0.60mL/min、より更に好ましくは少なくとも0.65mL/min、そして最も好ましくは少なくとも0.7mL/minであり、このような装置を高出力型又は高出
力流速型エアロゾル発生器と称する。
【0069】
好ましい液体出力流速範囲は約0.35から約1.0mL/minの間又は約350から約1000mg/minの間であり、好ましい液体流速範囲は約0.5から約0.90mL/minの間又は約500から約800mg/minの間である。液体出力流速とは、単位時間当たり噴霧化する液体組成物の量を意味する
。液体は、活性化合物、薬剤、Ig、IgG、IgA、IgM又はそれらの組み合わせ及び/又は塩
化ナトリウム0.9%等の代用品を含み得る。
【0070】
本発明の方法、即ち、ポリクローナルIg、例えば、IgG、IgA、IgMまたはその組み合わ
せによる、20から200mg/mLの濃度の組成物からエアロゾルを発生する方法について、特定の種類の膜を噴霧器で使用すると、出力流速が増加することを見出した。
【0071】
例えば、出力流速に関して特に有利であることが判明したのは、流体と接触する第一の側(124)と反対側の第二の側(125)を有する膜(122)の使用であり、その膜は、第一
の側から第二の側への延長方向(E)に膜を貫通する複数の貫通孔(126)を有し、これにより、第二の側で、エアロゾル発生のために、膜が振動した時、液体がこの貫通孔を第一の側から第二の側へ通過し、各貫通孔(126)はその延長方向(E)に沿って、最小径(D
s)(及び)より大きな径(D
L)(即ち最小径より大きくかつその直径が最小径の3倍に最
も近く、好ましくは2倍であると定義される)を有し、各貫通孔は貫通孔の最小径を含む
延長方向の貫通孔の連続部分により画定され、かつより大きな直径の貫通孔により縁辺を形作られるノズル部(132)を備え、各貫通孔(126)の延長方向の全長は、ノズル部(132)の延長方向の各々の一つの長さに対する比率が少なくとも4であることを特徴とする。このような膜は、国際特許公開 第2012/168181号に記載され及び
図2に添付説明と共にコンピュータ断層撮影(CT)画像を示す。
【0072】
噴霧器の出力レートは、液体組成物が短い時間で噴霧を達成するように選択されるべきである。噴霧時間が、エアロゾル化すべき組成物の容積及びその出力レートに依存するのは明らかである。好ましくは、噴霧器は、ポリクローナルIg、例えば、IgG、IgA、IgM又
はそれらの組合せの有効用量を含む容積の液体組成物を20分以内にエアロゾル化することが可能であるように選択し、又は適合するべきである。単位用量のためのより好ましい噴霧時間は15分以下である。さらなる実施態様において、噴霧器は、単位用量当たりの噴霧時間が10分以下を可能にするように選択され、又は適合され、より好ましくは6分以下、
より更に好ましくは3分以下である。現在のところ、最も好ましい噴霧時間は0.5から5分
の範囲である。
【0073】
本発明の方法における工程(c)で噴霧化する組成物の体積は、短い噴霧時間を可能に
するために小さい方が好ましい。その体積は、また、用量体積又は用量単位体積又は単位用量体積とも称され、単回投与又は噴霧器治療セッションのために使用することを意図した体積として理解されるべきである。具体的には、体積は0.3mlから6.0mL、好ましくは0.5mLから4.0mL、又はより好ましくは1.0mlから約3.0mlの範囲であり、又はより更に好ましくは、約2mlであり得る。残留量を所望するか役立てる場合、この残留量は1.0mL未満、より好ましくは0.5mL未満であり、そして最も好ましくは0.3mL未満であるべきである。効果的に噴霧化する体積は、従って、好ましくは0.2から3.0mL、又は0.5から2.5mL又はより好ましくは0.75から2.5mL、又は1.0から2.5mLの範囲である。
【0074】
噴霧器は、好ましくは、液体組成物の用量を充填した主要な画分をエアロゾルとして即ち高出力を有するように、送達するエアロゾルを発生するように適合されている。より具体的には、噴霧器は、組成物中にIg、例えば、IgG、IgA、IgM又はそれらを組み合わせた
用量を少なくとも50%を含有する又は、換言すれば、リザーバ内に充填された液体組成物の少なくとも50%を放出するエアロゾルを発生するように適合されている。特に、その特異性のために、用量を、高くする必要のないモノクローナル抗体と比較して、重要な事は、ポリクローナルIg、例えば、IgG、IgA、IgM又はそれらを組み合わせた高出力を発生可
能な噴霧器を選択することである。本発明の方法において使用する膜噴霧器は、ポリクローナルIg、例えば、IgG、IgA、IgM又はそれらを組み合わせた組成物のエアロゾルを特に
高出力で発生する能力があることを見出した。
【0075】
さらに、噴霧器は、エアロゾル室又は混合室とも称する吸気及び呼気弁を備えた小室を含むことができる。膜噴霧器リザーバは、液体で充填され、膜は、混合室内に向かうエアロゾルを発生する。好ましくは、呼気弁は、マウスピースの近くに配置し、吸気弁は外気取入れ口の近くに配置する。これは、患者の呼気過程の間のエアロゾルの損失を減少させる。と言うのは、その過程の間に生成されるエアロゾルの大部分は、患者が吸入するまで、混合室に保持されているからである。このような混合室を有する膜噴霧器は国際特許公開第2001/34232号及び国際特許公開2010/066714号に記載されている。大きさの異なる混
合室を使用しても良い。本発明の方法において、少なくとも45mL、より好ましくは少なくとも50mL、より更に好ましくは少なくとも60mLの容積を有する大きな混合室を使用することが好ましい。また、60から150mLの範囲の容積を有する大きな混合室を使用し得る。こ
のような大きな混合室を有する膜噴霧器は、欧州特許第1 927 373号に記載され、その全
体を参考として取り込む。
【0076】
本発明の方法において使用される水性液体組成物は、好ましくは、1種又はそれ以上の
安定剤を含む。液状免疫グロブリン製剤を調剤する時、一般的に直面する問題は、適切な添加剤で十分に安定化しなければ、免疫グロブリンが凝集し、沈殿物を形成する傾向にあるということである。プロリン、グリシン及びヒスチジン等の数種のアミノ酸、又は糖、又は糖アルコール、又はアルブミン等のタンパク質、又はそれらの組み合わせが、液状製剤中の免疫グロブリンを安定化することが知られ、水性液体組成物中で使用することが出来る。
【0077】
噴霧化により、Ig、例えばIgG、IgA、IgM又はそれらの組合せを、肺に投与するために
は、高濃度のIg、例えばIgG、IgA、IgM又はそれらの組合せ、を使用することが好ましい
。
【0078】
一般には、ポリクローナルIgの高用量が必要とされるが、噴霧時間を出来るだけ短く維持するためには、噴霧すべき容量を最小限にすることが重要である。後者は、服薬遵守(patient compliance)の観点と関連性がある。従って、本発明の方法において、高濃度のIgを有するIg組成物が好ましい。しかしながら、Ig濃度が増加すると、粘度は非直線的な増加をもたらすことが見出された。
【0079】
液体組成物の動粘度は、その組成物の噴霧化により、形成されるエアロゾル液滴の粒度分布及び噴霧化効率に影響を及ぼすことが、一般に知られている。
【0080】
液体組成物を膜噴霧器で噴霧化するため、本発明の方法で使用する液体組成物は、一般的に、20℃±0.1℃の温度で約0.8から約4.0mPa・sの範囲の動粘度を示すことが好ましい。より好ましくは、動的粘度は、欧州薬局方の第6版2.2.49及びDIN 53015.の要件に一致するように、ヘプラーによる落球粘度計(Kugelfallviskosimeter)で測定した時、20℃
±0.1℃の温度で約1から3.5mPa・sの範囲である。これにより、規定の寸法と規定の勾配を有するチューブ又はキャピラリー内でボール又は球体の降下時間を決定する。この降下時間に基づき、チューブ又はキャピラリー内の液体粘度を決定出来る。測定は通常、20.0℃±0.1℃で行なう。
【0081】
本発明の一実施態様は、免疫グロブリン溶液のエアロゾルを発生する方法であり、免疫グロブリン溶液の粘度は1から17mPa・s、1から16mPa・s、1から15mPa・s、1から14mPa・s、1から13 mPa・s、1から12 mPa・s、1から11mPa・s、1から10mPa・s、2から17mPa・s、2から16mPa・s、2から15mPa・s、2から14 mPa・s、2から13mPa・s、2から12mPa・s、2から11mPa・s、2から10mPa・s、3から17mPa・s、3から16mPa・s、3から15mPa・s、3から14mPa・s、3から13mPa・s、3から12mPa・s、3から11mPa・s、3から10mPa・s、であり、好まし
くは、免疫グロブリン溶液の粘度は1から9mPa・s、1から8mPa・s、1から7mPa・s、1から6mPa・s、2から9mPa・s、2から8mPa・s、2から7mPa・s、2から6mPa・s、3から9mPa・s、3
から8mPa・s、3から7mPa・s、又は3から6mPa・s、であり、より好ましくは、1から5mPa・s、1から4mPa・s、2から5mPa・s、2から4mPa・s、3から5mPa・s、又は3から4mPa・s、で
ある。
【0082】
高粘度に起因する噴霧化の問題を回避するために、プロリンが、安定剤として好ましく使用されることが見出されている。と言うのは、国際特許公開第2011/095543号に開示さ
れているように、比較的低粘度のIg、例えば、IgG、IgA、IgM又はそれらを組み合わせた
製剤は、たとえ、Igの濃度が高い場合であっても達成することが出来るからである。従って、これらの組成物を噴霧器でエアロゾルを発生する方法に使用する意図がある場合、ポリクローナルIg組成物にプロリンを添加することが特に有利であることが見出された。プロリンは一方で液体組成物中のIgの所望の安定性を提供し、他方では、組成物の粘度を低下させ、従って、高濃度Igを有する少量液体の噴霧化を許容し、噴霧化による迅速で効果的な治療をもたらす。
【0083】
安定化剤としてプロリンを使用する場合、特に、L-プロリンを使用することが好ましい。L-プロリンは、通常ヒトの体内に存在し、極めて好ましい毒性プロフィールを有する。L-プロリンの安全性は、反復投与毒性試験、生殖毒性試験、変異原性試験及び安全性薬理試験で調査され、悪影響は認められなかった。
【0084】
一般に、組成物に添加するプロリン、より好ましくはL-プロリンの量は、免疫グロブリン組成物中のプロリンの濃度範囲が約10から約1000mmol/L、より好ましくは約100から約500mmol/L、そして、最も好ましくは約250mmol/Lである。
【0085】
本発明の一実施態様において、ポリクローナルIgG、及びプロリンの安定化量を含む水
性液体組成物の粘度は(20.0℃±0.1℃の温度で)1mPa・sから17mPa・sの間の範囲である。ポリクローナルIgG100mg/mL及びプロリン250mMを含む組成物の粘度は、20.0℃±0.1℃
の温度で、約3mPa・sである。
【0086】
本発明で使用し、かつプロリンを含有するIgG組成物のPHは4.2から5.4を有し、好まし
くは4.6から5.0、最も好ましくは約4.8であり、これは製剤の高い安定性に更に寄与する
。
【0087】
プロリンを使用すると、単剤一つの使用で、製剤の安定性が増大し、しかも組成物の粘度を低減した組成物を調製することが可能になる。これは、膜噴霧器でエアロゾルを発生する方法において特に有用な組成物をもたらす。
【0088】
本発明の方法において使用する液体組成物はまた、薬学的に許容される賦形剤を含むことも可能であり、組成物の特性及び/又はエアロゾルの特性を最適化するように働く。そのような賦形剤の例としては、pHの調整又は緩衝のための賦形剤、浸透圧調整のための賦形剤、酸化防止剤、界面活性剤、放出を持続する又は局所滞留を長期化するための賦形剤、矯味剤、甘味料、及び香料を挙げられる。これらの賦形剤は、最適pH、浸透圧、粘度、表面張力及び味を得るために使用され、製剤の安定性、エアロゾル化、耐容性及び/又は吸入の際に製剤の効果を支援する。
【0089】
本発明において使用される免疫グロブリン溶液は、表面張力が約60から75mN/mを有し、好ましくは約64から71mN/mを有する。
【0090】
例えば、界面活性剤を組成物に添加出来る。
【0091】
これらは、組成物中で(即ち、貯蔵中及びリザーバ中で)及び噴霧化の間(即ち、噴霧器の膜を通過している間又は通過の後)免疫グロブリンの凝集速度の制御に役立つことができ、それにより、エアロゾル中でIg、例えばIgG、IgA、IgM又はそれらの組み合わせの
活性に影響を有する。有用な界面活性剤の例としては、ポリソルベート80等のポリソルベートである。
【0092】
一般に、本発明の方法を適用すると、Ig、例えば、IgG、IgA、IgM又はそれらの組み合
わせの活性は、噴霧器のリザーバ内に充填された組成物における活性の少なくとも80%となるエアゾールをもたらすことを見出した。
【0093】
従って、本発明の方法は、Igが著しい凝集を引き起すことはないし、著しい変性も起こさない。Igの活性は、標準的な免疫学的方法(例えばエライサ(ELISA)、フローサイト
メトリー及び細胞系アッセイ)によって決定することが出来る。
【0094】
本発明の方法によって発生するエアロゾルは、ポリクローナルIg、例えば、IgG、IgA、IgM又はそれらの組み合わせを必要とする、数種の症状の治療及び予防のために使用する
ことが出来る。
【0095】
特に、本発明の方法によって発生するエアロゾルは、補充療法を必要とする患者に、即ち、肺疾患、副鼻腔炎、十分な抗体を持たないため再発性感染症のリスクがある患者に又は、換言すれば、免疫不全症候群である患者に使用することが出来る。より具体的には、エアロゾルは、原発性免疫不全(PID)、低ガンマグロブリン血症、および慢性リンパ性
白血病や多発性骨髄腫による再発性細菌感染、等の二次免疫不全(SID)、同種異系間血
液幹細胞移植(HSCT)後の低ガンマグロブリン血症、悪性腫瘍の治療のための化学療法に起因する低ガンマグロブリン血症、悪性腫瘍または自己免疫疾患の治療のための、生物学的製剤、例えば、リツキシマブに起因する低ガンマグロブリン血症、自己免疫疾患または固形臓器移植の治療のための免疫抑制剤に起因する気道感染症に対する感受性、を有する患者、及び、後天性免疫不全症候群(AIDS、HIV)を有する患者、の治療に使用すること
が出来る。
【0096】
更に、エアロゾルは、嚢胞性線維症および原発性線毛機能不全症等の慢性気道感染症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性細菌性副鼻腔炎の症状の治療に、閉塞性細気管支炎、閉塞性細気管支器質化肺炎、非嚢胞性線維症、気管支拡張症、慢性細菌性気管支炎、間質性肺疾患、気管支喘息等の慢性気道感染症又は通常型間質性肺炎の症状に、又は外因性アレルギー性肺胞炎、アレルギー性喘息若しくは慢性副鼻腔炎などのアレルギー症状に、使用することが出来る。
【0097】
さらに、本発明の方法により、発生するエアロゾルは、異常な免疫系を有するため調整する必要がある患者の免疫調節のために使用することが出来る。
【0098】
このように、エアロゾルは、出血の危険性の高く、または手術前に血小板数の補正を必要とする特発性(または原発性)血小板減少性紫斑病(ITP)を有する患者のために及び
ギラン・バレー症候群、川崎病または慢性炎症性脱髄性多発神経障害(CIDP)の患者のために、使用できる。
【0099】
以下の表に挙げた市販の免疫グロブリン製剤は、ポリクローナル免疫グロブリンGを含
む水性液体組成物として、本発明の方法で使用することが出来る。
【0100】
【0101】
【実施例】
【0102】
以下の実施例を本発明の説明に利用するがこれに限定するわけではない。
【0103】
実施例1 IgGの噴霧化
注射用水中、正常ヒト免疫グロブリン100mg/ml及びプロリン0.25mol/Lを含む組成物の
噴霧化を評価した。免疫グロブリン画分は、IgGを少なくとも98%含有し、その組成物は
、IgAをmL当たり最大で25μg含有し、それはヒト血液ドナーの血漿から調製した。組成物は、pH4.82、密度1.0336g/mL, 粘度20℃で3.33mPA・s、表面張力20℃で71.1mN/m及び浸透圧312mOsm/kgを有した。
【0104】
噴霧化は、電子振動膜噴霧器(パリファーマ社製、ドイツ国、イーフローTMテクノロジーを使用する膜噴霧器を改造したもの)を用いて実施し、大きな混合室(略容積90mL)を備え、液体リザーバ内の初期負圧は100から400mbarの範囲内であり、及び異なる孔サイズ及び孔形状を有する様々なタイプの膜を備える。
【0105】
タイプの異なる膜を設計し、異なる液滴又は粒子サイズ(質量中央径(MMD)及び幾何
標準偏差(GSD)及び/又は異なる出力流速(例えば、薬物送達速度(DDR)又は総出力レート(TOR又は所謂出力)によって特徴付けられる)を発生させた。
【0106】
エアロゾル発生装置内に配置された膜の通常出力流速を0.55mL/minより小さく定義し、高出力流速は、少なくとも0.55mL/minの値と定義した。又、出力流速は、mg/minで特徴付ける(又は定義する)ことも出来、その場合は、通常の出力流速は、例えば550mg/minよ
り小さく、高出力流速は例えば少なくとも550mg/minである。
【0107】
(或いは、高出力流速の上限を、少なくとも0.50mL/min、好ましくは少なくとも0.55mL/min、より好ましくは少なくとも0.60mL/min、又は、最も好ましくは少なくとも0.65mL/min であると定義することも出来、及びmg/minによる出力流速は、それに対応する)。
【0108】
上限は、液体の特性、例えば、密度、粘度、表面張力等等に依存し、及びエアロゾル発生装置の品質保証のために定義しても良く、例えば、Ig例えばIgG、IgA及び/又はIgM溶
液の替わり塩化ナトリウム0.9%のような代用溶液のために定義しても良い。
【0109】
その場合、エアロゾル発生装置内に造作された膜から発生する代用品溶液(例えば、塩化ナトリウム0.9%)の通常の出力流速は、少なくとも0.55mL/min、より好ましくは少な
くとも0.60mL/minであり、さらにより好ましくは少なくとも0.65mL/minにより、定義される。
【0110】
或いは、高出力流速は、少なくとも550mg/minであり、好ましくは少なくとも600mg/min、より好ましくは少なくとも650mg/minである。IgGの組成物を噴霧化するために使用した膜のタイプは、表1に示すものに特定し、特徴付けた。
【0111】
【0112】
レーザー回折装置(マルバーンマスターサイザ(Malvern Mastersizer)XTM)を使用して、発生したエアロゾルの液滴サイズ(質量中央径(MMD)として表記)及び液滴サイズ
分布(幾何標準偏差(GSD)で表記)を決定した。IgG組成物の容積2mLを噴霧器のリザー
バに充填し、噴霧器を操作した時発生するエアロゾルは、呼気流速20L/minを用いるエア
ロゾル雲を、マスターサイザーXTM機器のレーザービームに向け、通過させて分析した。
測定中の温度及び相対湿度は、それぞれ23℃(±2℃)及び50%(±5%)であった。同一実験内において、総出力レート(TOR)を評価した。
【0113】
各々の膜タイプ(n = 2)について、測定は2回行った。その結果(平均値と標準偏差(SD))を表2に示す。
【0114】
【0115】
実施例2 IgGの噴霧化の再現性
実施例1に記載した、レーザー回折装置による実験を、イーフローTMテクノロジーを使用する3台の改造膜噴霧器を用いて繰返し、この噴霧器は、大きな混合室(略容積90mL)
を備え、液体リザーバ内の初期負圧は100から400mbarの範囲内であり、及び(上記に特定したように)タイプ2及びタイプ4の膜を使用する。
【0116】
MMD、GSD及びTORを決定する外に、5μm未満、3.3μm未満、及び、2μm未満の液滴の割
合(即ち、異なる割合の呼吸可能画分(RF))を測定した。
【0117】
5μm未満の液滴の画分は、成人の下気道の中に吸入可能な液滴割合が良好であるという指標を与え、一方3.3μm未満の液滴の画分は、子供の下気道の中に吸入可能な液滴の割合の推定値を提供する。2μm未満の液滴の画分は、末端の細気管支及び肺胞に到達可能な液滴の割合を示す。
【0118】
粒径の異なるエアロゾルの肺沈着は、大人、子供、幼児や乳児等さまざまな年齢層について、例えば、ICRPモデル(The Respiratory Tract Deposition Model Proposed by the ICRP Task Group Radiat Prot Dosimetry (1991) 38 (1-3): 159-165, A.C. James et al.),等の数学的モデルによって計算することができる。
【0119】
試験した各噴霧器(n = 2)について、実験は2回実施した。その測定結果を表3に示した。
【0120】
【0121】
実施例3 種々の免疫グロブリン製剤の噴霧化
血漿由来の種々の免疫グロブリンアイソタイプ及び多量体(IgA及びIgM)並びにIgGの
製剤を噴霧化し、得られたエアロゾルを、同じ噴霧器及び膜を用いた実施例1の記載と同
様の方法で特徴付けた。
【0122】
より具体的には以下の製剤の噴霧化により得られるエアロゾルの特性をレーザー回折法により比較した。
【0123】
【0124】
各々閉鎖中は負圧となる、大きな混合室と液体リザーバとを備えた試験用イーフローTM噴霧装置を使用し、噴霧化した製剤の各々をレーザー回折測定(マルバーンマスターサイザー(Malvern Mastersizer)XTM)により、2種の異なるタイプの膜(実施例1で特定したような)に付いて測定し、粒度分布を決定した。各々の場合において充填容量は、2mL
であった。MMD、GSD、総出力レート(TOR)と呼吸用画分のパラメータを測定した。TORは、噴霧化前に充填された噴霧器を計量し、噴霧化を完了した後に、その重量差を噴霧化時間で割ることにより決定した。
【0125】
すべての測定は三回行った。結果(測定3回の平均値及び標準偏差(SD))を表4に示
す。
【0126】
【0127】
これらの結果より、試験した製剤全てが良好な特性で噴霧化出来ることを示した。
【0128】
実施例4 呼吸模擬実験
大きな混合室を備えたイーフローTMテクノロジーの改良型膜噴霧器3台に、タイプ2及
びタイプ4の膜(上記で特定したような)を使用し、実施例1及び実施例3に記載した組成物の噴霧化に付いて、呼吸模実験での評価も行った。噴霧器の各々で、2回の実験を行っ
た(n = 2)。
【0129】
呼吸模擬実験は、Ph. Eur. 2.9.44 (即ち、一回呼吸量 500mLの正弦波気流で、毎分15
回の呼吸であり、吸気:呼気(I:E)比が50:50である)に合致する大人の呼吸パターンを使用して実施した。個々の試験において、噴霧器は鼻用ポンプ(パリ社製コンパスIITM
呼吸模擬試験器)に接続した。吸気フィルタ(3M社製ポリプロピレン)は、マウスピースを具備する噴霧器とポンプとの間に設置し、ゴム接続部材で固定した。噴霧器に実施例1記載の組成物2mLを充填し、噴霧化を開始し、エアロゾル生成が視認出来なくなるまで継続した。エアロゾル液滴を含有する薬剤は、吸入フィルター上に集めた。
【0130】
送達用量、即ち、噴霧化にフィルター上に集めた免疫グロブリンの量を測定するために、吸入フィルタを、ピンセットでフィルタケースから取り出し、ネジ式栓付きの50mLのプラスチック製の筒に入れた。その後、フィルタケースを、精製水中、0.9%生理食塩水及
び0.5%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム、98.5%)を含む40mLの緩衝液でリンスし、次いで、そのリンスした液をフィルターとともに前記筒内に加えた。回転器上で振盪しながら、フィルターから1時間抽出した。
【0131】
更に、噴霧器を上記記載の緩衝液40mLで数回リンスし、次にリンスした液をビーカー
中に集めリザーバ内に残る薬剤量(残渣)を測定した。
【0132】
フィルター抽出から、及び噴霧器のリンス液から得られた溶液を、UV分光光度測定器を使用して分析した。各溶液の試料を緩衝液で希釈し、免疫グロブリンの濃度約0.5mg/mlを得た。希釈した試料溶液約0.8mLを使い捨てマイクロキュベットに充填し、緩衝液に対し
て280nmで測定した。溶液中のIg含有量をランベルト・ベールの法則(A =ε・C・L)に従って、質量吸収係数ε(0.1%) = 1.38mL/(mg・cm)を用い算出した。
より具体的には、Ig含有量の計算式は次式の通りである。
c(mg/mL )=(希釈倍率 × A280)/(ε x L)
【0133】
呼吸用用量は、送達用量及び実施例2のレーザー回折により決定した平均呼吸可能画分
に基づいて算出した。
【0134】
呼吸模擬試験の間は、噴霧化時間も記録した。呼吸模擬試験の結果を表5a及び表5bに総括した。試験した各々のパラメータについて、膜のタイプ毎に6回(即ち、異なる3台の噴霧器で2回の試験)の試験結果の平均値を標準偏差値(SD)と共に示した。
【0135】
【0136】
実施例5 噴霧化後の免疫グロブリンの生化学的性質(分子サイズの特性評価)
実施例1及び実施例3で得た噴霧化組成物を、免疫グロブリンの構造的完全性及び多量体化について特性評価を行行なった。このため、噴霧化組成物試料について(I)、SDS-PAGE、(ii)サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)及び(iii)動的光散乱(DLS)分析を実施した。
【0137】
噴霧化試料は噴霧化工程後に以下のように直接、収集した。遠沈管(Falcon tube)を
噴霧器の混合室の出口に弾性体状コネクタを用いて直接接続した。噴霧器、コネクタ及び遠沈管(Falcon tube)は実験前にオートクレーブ中で処理し、噴霧化は、層流の条件下
で行った。噴霧器のリザーバには、試料製剤4mLを充填した。試料用筒は、ネジ式栓で閉
栓し、完全性性試験の前に-18℃で凍結した。
【0138】
全36試料をSDS-PAGE及びSEC分析にかけた。
【0139】
・プロリンと製剤したIgG、8試料(
図3)は噴霧化しない対照2試料(a)、膜タイプ2
で得た噴霧化3試料(b)、及び、膜タイプ4で得た噴霧化3試料(c)である。試料は、それぞれ、(非噴霧化試料)2重に、及び(噴霧 化試料)3重に分析した。
・PBS中(d,f,g)、及びグリシン中(e, h, i)のIgG、14試料(
図4)は噴霧化しない対照2試料(d, e)、膜タイプ2で得た噴霧化6試料(f, h)、及び、膜タイプ4で得た噴霧化6試料(g, i)である。試料は(噴霧化試料)3重に分析した。
・IgA (j, l, m)及びIgAM(k, n, o)、14試料(
図4)は、噴霧化しない対照2試料(j, k)、膜タイプ2で得た噴霧化6試料(l, n)、及び、膜タイプ4で得た噴霧化6試料(m, o)で
ある。試料は(噴霧化 試料)3重に分析した。
・IgA (p,q)、 IgAM (r, s)、 SIgAM (t, u) 及び IgG (v, w, x, y)、10試料(
図4)
は、噴霧化しない対照5試料(p, r, t, v, x)及び膜タイプ4で得た噴霧化5試料(q, s, u,
w, y)である。
【0140】
免疫グロブリン溶液は全てヒト血液ドナーの血漿から調製した。IgG溶液はタンパク質
濃度、100mg/mLを有し、少なくともIgG 98%を含有していた。3種のIgG製剤(プロリン250mM、グリシン250mM、PBS)は全てpH 4.8を有した。IgA溶液及びIgAM(多量体IgA + IgM
)溶液はタンパク質濃度50mg/mLを有し、pH7.4のPBS中で製剤した。IgA溶液に対する相対的IgM含有量は2%であり、IgAM溶液に対しては35%であった。IgA及びIgAM溶液もプロリ
ン(125mM)の中で製剤した。ヒト組換え分泌成分をPBS中のIgA及びIgMと会合し、次いでプロリン(125mM)中で製剤した。プロリン中で製剤したIgA溶液中のIgM含有量は以下の
通りであった。IgA (<2%)、IgAM (33%)、SIgAM (32%) 。
【0141】
SDS-PAGEはライフテクノロジーズ社のミニ細胞系を使用し、製造業者の手順書に従って実施した。簡単に説明すると、試料を還元条件又は非還元条件下試料緩衝液中で各々変性し、次に、NuPAGETM MES電気泳動緩衝液(ライフテクノロジーズ社製)を使用し、1.0mm
の15ウェル中、NuPAGE NovexTMビス - トリス、4から12%の電気泳動プレキャスト勾配ゲル上で分離する。
【0142】
電気泳動処理後、ゲル中のタンパク質を固定し、クマシーG-250(SimplyBlue SafestainTM ライフテクノロジーズ社製)で、製造業者の手順書に従って染色した。タンパク質染色パターンをImageQuantTM LAS 4000システム(GEヘルスケア ライフサイエンス社製)
を用いてデジタル的に記録した。
【0143】
SDS-PAGE分析によって得られたタンパク質のバンドパターンを、
図3(図中、ラベル、a, b及びcは前述の試料群を指す)及び
図4(図中、ラベルd, e, f, g, h, i, j, k, l, m,
n, o, p, q, r, s, t, u, v, w, x 及び yは前述の試料群を指す)に示した。
【0144】
【0145】
SEC分析のため、アジレント・テクノロジー社製1260 InfinityTM HPLCシステムに試料
、200μg/2μL(IgG)又は100μg/2μL (IgA, IgAM)を注入し、サイズ排除クロマトグラ
フィー用のTSKゲルG3000SWXL 7.8mm 径 x 30cm カラム(東ソーバイオサイエンス社製)
上の流速は0.7mL/minとした。得られたクロマトグラムの結果から(I)免疫グロブリン多量体及び凝集体(ii)単量体及び二量体、ならびに(iii)フラグメントの相対的含有量
をそれぞれ評価した。結果を表6及び表7に示した。
【0146】
DLS分析のため、試料をマルバーンゼータサイザーNanoTMを用い、後方散乱モードで測
定位置、検出器の減衰、実行期間、実行回数、及び、測定数を、同一設定に固定した機器で、測定し、測定結果をゼータサイザー専用のソフトウェアを用いて試料毎に平均した。結果を表8に示す。
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
非噴霧化の、及び噴霧化した免疫グロブリン各々の試料を比較すると、SDS-PAGE分析により得られたタンパク質のバンドパターンは、全ての分析試料について、同じ免疫グロブリン製剤(
図3及び
図4)であれば、還元条件下及び非還元条件下の両方で同一であり、これは噴霧化した試料中の免疫グロブリンの構造的完全性が保持されていることを示唆するものである。
【0151】
この知見は、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SE-HPLC)を使用する分子サイ
ズ分析により、強く支持される。タンパク質サイズのカテゴリ(多量体と凝集物、単量体と二量体、及びフラグメント)の相対的含有量は、分析した全試料で同等である(表6、
表7)。特に、IgGのプロリン又はグリシン製剤で観察されるように、凝集体含有量が1%以下であることは、エアロゾル化され、高度に濃縮したIgGとしては、非常に低く、かつ
静脈内投与するIgGに必要な要件さえも満たしている。さらに、高分子量タンパク質類の
含量を増量した免疫グロブリン製剤、即ち、
酸性PBS中(凝集体含量3%以下)で製剤したIgG10%(w/w)、
PBS中(Ig多量体と凝集体含量17%以下)のIgA 5%(w/w)、
プロリン中(Ig多量体と凝集体含量21%以下)のIgA 5%(w/w)、
PBS中(Ig多量体と凝集体含量55%以下)のIgAMの5%(w/w)、
プロリン中(Ig多量体と凝集体含量54%以下)のIgAMの5%(w/w)及び
プロリン中(Ig多量体と凝集体含量56%以下)のSIgAMの5%(w/w)も、噴霧化工程に
よる顕著な変化は見られなかった。
【0152】
SEC分析は、Ig 多量体と凝集物とを区別しないため、多量体量の多いIgAM試料の噴霧化の前後を、さらに、動的光散乱(DLS)法で、より大きな粒子に対する感度を上げた方法
により分析した。タンパク質凝集体の形成に因るIgタンパク質の粒度分布の変化をDLS分
析によって示す予定であった。しかし、Z平均、多分散性、及び粒子カウンターレートに
関するDLSの結果は噴霧化による粒度分布の変化が生じないことを示していた(表8)。
【0153】
要約すると、上述の生化学的分析は、非噴霧化と噴霧化試料との間ではほとんど差異が無いことを示した。
【0154】
実施例6 噴霧化後の免疫グロブリンの活性
免疫グロブリンは、そのFab(フラグメント抗原結合)及びFc(結晶化可能フラグメン
ト)フラグメントに直接依存する別個の機能を示す。Fab部分は抗原認識に関与している
が、一方、Fc部分は特殊な受容体に結合し、後続する分子経路を活性化することが出来る。重要なのは、それはまた補体の活性化も出来ることである。
【0155】
6a.噴霧化後の免疫グロブリンのFc活性度
実施例1及び実施例3に記載の組成物を、イーフローTMテクノロジーを使用し、かつ(上記に特定した)タイプ2及びタイプ4の膜を用いた大きな混合室を備える改造型膜噴霧器で噴霧化し、発生したエアロゾルを回収した。回収した溶液を使用し、噴霧化後の免疫グロブリンの活性を決定し、噴霧化前組成物中の免疫グロブリンの活性度と比較し、免疫グロブリンの活性度に及ぼす噴霧化工程の影響を評価した。
【0156】
活性度は、最初に抗原認識能力及び噴霧化免疫グロブリンのFc機能を試験することによって決定した。すべてのヒトIg製剤の中には、異種反応性抗体が存在している。そのような組成物に異種抗原(ウサギ赤血球)を添加すると、免疫複合体の形成をもたらす。得られた免疫複合体を、ヒト多形核好中球(PMN)に添加し、その後、それらのFcγRII及びFcγRIIIγ受容体上のIgGのFcフラグメントの、又はCD89(IgAの受容体)上のIgAのFcフラ
グメントの、認識及び結合によって活性化する。その後、遊離酸素ラジカルが発生(呼吸バースト)し、これを化学発光によって検出する。細胞の活性化の程度は免疫グロブリンのFc部分の完全性と赤血球に結合した量に依存している。免疫グロブリンのFc部分の品質にのみ依存するデータを取得するために、ウサギ赤血球に結合した抗体の量をFACSにより測定し、次いで、化学発光及び結合データを計算した。Fcの活性が50%以上を有する免疫グロブリンが正常なFc機能を示した。結果を表9a及び表9bに示した。表9bにおいて、Fc活性を噴霧化前の活性度の百分率として示し、これは次のように計算され、即ち、
Fc活性度(試料)=(噴霧化前の化学発光半値に於けるIgの結合/噴霧化後の化学発光半値に於けるIgの結合)x100%。
【0157】
噴霧化前の免疫グロブリンは、全て50%以上のFc活性度を有した。
【0158】
【0159】
正常なIgGは、好中球上でのFc活性度97%を示した。噴霧化IgGは、どの噴霧化膜タイプを使用しても、IgG対照(FC活性度>90%)に非常に近いFc活性度を示した。従って、噴霧化IgGは異種抗原を認識して結合し、しかもPMNならびに非噴霧化IgGを活性化することが
出来た。
【0160】
種々のプロリン製剤(IgG、IgA、IgAMとSIgAM)のFc活性度を、噴霧化の前後において
比較すると、噴霧化工程中の機能損失がないことを示した(表9a及び表9b)。
【0161】
第二番目の分析では、Fcの機能を補体の活性化を測定することによって評価した。噴霧化IgG及び対照IgGを、ポリスチレン微小球体に吸着させ、免疫複合体のモデルを形成した。これら被覆した微小球体を、次に補体源としてのヒト血清と共にインキュベートした。得られた補体の活性化は、微小球体に沈着した活性化C3フラグメントをFACSにより、測定することによって定量化する。微小球体に結合したIgGの実際の量に関するデータと、こ
れらのデータとを計算することにより、IgGのFc部分の整合性を評価した。
【0162】
従って、IgGの噴霧化は、補体を活性化するIgGの能力に影響を及ぼさないことを見出した。
【0163】
6b.噴霧化後の免疫グロブリンによる抗原認識
噴霧化後の免疫グロブリンは、EBV、CMV、FSME、HB、HAV、HSV、VZV、おたふく風邪、
風疹若しくは麻疹及び結合反応若しくは受容体結合試験の補完物等の抗原認識をELISAに
より行なう分析に含まれる生物学的特性によりさらなる特徴づけを行った。
【0164】
具体的には、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)及び肺炎球菌多糖(PCP)の抗原認識を全ての製剤(5-9)について評価した。ELISAは、製造業者の指示書に従って実施した。結果を表10a及び10bに示した。抗RSV及び抗PCP抗原抗体が、ポリクローナル免疫グロブリンの各製剤中に検出された。重要なことは、RSV及びPCPの抗原認識は、製剤が異なっても、噴霧化の影響を受けないことである。
【0165】
【0166】
抗原認識は、細菌に対して直接試験した。肺炎球菌A66.1株、5 x 107 CFU/mLをポリソーブプレート(NUNC社製)上に被覆し、炭酸塩緩衝液中4℃で一晩置いた。PBS-Tween(0.05%)で洗浄した後、プレートを室温中、1.5時間2.5%のFCS(PBS中)でブロックした。
【0167】
PBS-Tweenで(0.05%)で洗浄した後、製剤333mg/mL(ブロッキングバッファーで希釈
)を添加し、室温で2時間インキュベートした。PBS-Tween(0.05%)で洗浄した後、二次抗体(ヤギ抗ヒトIgG/A/M-HRP(ノベックス社);1mg/ml、1:2000ブロッキングバッファー中)を室温で2時間インキュベートした。PBS-Tween(0.05%)で一回洗浄後、TMB基質
をウェルに加えHCLを添加することによって触媒作用を停止した。次いで、プレートをプ
レートリーダー中で読み取った。結果を
図5に示した。
【0168】
抗-肺炎球菌抗体は全ての製剤(5-9)中で検出された。IgAMとSIgAMは、より高いO. D.が示すように、より優れた抗―肺炎球菌抗体の力価を示した。重要なことは、非噴霧化
対照と噴霧化製剤とを比較しても、製剤の噴霧化による細菌認識に差がなかったことである。従って、噴霧化は、ポリクローナル免疫グロブリンによる細菌抗原認識に影響しない。
【0169】
6c.インビトロ感染モデル中の噴霧化免疫グロブリンの活性度
多量体免疫グロブリンは、粘膜表面で重要な役割を担っている。免疫グロブリンは、細菌の体内侵入防止に関与し、これは免疫排除として知られる過程である。これは、免疫グロブリンによる細菌表面上の抗原を認識するのと同時に、より良い細菌凝集体に変えるという多量体免疫グロブリンの能力を伴うものである。
【0170】
噴霧化により、多量体免疫グロブリンの機能が損なわれる可能性の有無を評価するために、製剤(5-9)を分極粘膜上皮細胞のin vitro感染モデルで試験した。ヒトの腸の粘膜
上皮細胞に感染し下痢を引き起こすと知られている、シゲラ・フレクスネリを感染剤として使用した。腸の細胞単層をこの目的のために使用した。この細胞単層を、未処理のまま(C-)で、又はシゲラ・フレクスネリ単独に(C+)、又は対照製剤( - )若しくは噴霧
化製剤(N)との複合体の中に14時間暴露し放置した。(
図6)シゲラ・フレクスネリの感染により、TNF-α、CXCL8及びCCL3(
図6A)などの上皮細胞による炎症性サイトカインの
分泌を引き起こした。さらに、感染により、膜の完全性と密着結合性の損失を引き起こし、これは経上皮電気抵抗関連の損失の測定により評価出来る(
図6B)。最後に、感染は、感染病巣の数を計数し、かつ感染部位を計測することにより、観察した(
図6C)。これらの終点を測定するための詳細な指示書は、国際特許出願第2013132052号、及びLonget S. et al,J Biol Chem. 2014 Aug 1;289(31):21617-26に公開されている。
【0171】
感染症のようなin vitroモデルでは、単量体の免疫グロブリンは保護されない(Longet
S. et al, J Biol Chem. 2014 Aug 1;289(31):21617-26)。プロリン中のIgAMとSIgAM のみが感染症、炎症性サイトカインの分泌を低減し、かつ膜の完全性を保護した(
図6A、6B、6C、製剤8及び9)。重要なことは、噴霧化したIgAM及び SIgAMを有するシゲラ・フレクスネリの免疫複合体が、噴霧化していないIgAM若しくはSigAMとシゲラ・フレクスネリ
とにより形成された免疫複合体と同程度に、シゲラ・フレクスネリの感染性とサイトカイン分泌を低減出来たということである。単量体免疫グロブリンの噴霧化(
図6、製剤5-7)は、in vitroでの活性度に影響を与えなかった。実際、この感染モデルにおいて、機能的な利得や損失は全く観察されなかった。
【0172】
即ち、全体として、ポリクローナル免疫グロブリンの噴霧化は、免疫グロブリンの抗原認識及びFc機能を変化させないことが見出された。
【0173】
実施例7 動物モデルにおける噴霧化免疫グロブリンの肺沈着
実施例1及び実施例3に記載の組成物を噴霧化し、流路室、ここからエアロゾルを動物に送達する、に接続された膜噴霧器を使用してラットに投与する。
【0174】
エアロゾルを適用して(0、1時間、6時間、12時間及び24時間)の異なる時間後にラッ
トを屠殺した。肺の左葉を気管支肺胞洗浄液(BAL)に使用した。この目的のために、気
管にカニューレを挿入し、肺を無菌のPBSで2回洗浄(2×5mL)した。各個のBALからの収
量を溜め、滅菌プラスチックチューブに収集した。BAL試料を、遠心分離(1500 x g、約4℃で10分間)し、BAL上清を2本の滅菌チューブに等分した(各々約5mL)。右葉は単離
し固定し、標準的な技術を用いて組織学のために調製を行った。次に肺におけるIgの分布を、次にパラフィン切片上で特異的二次抗体を用いる免疫組織化学法で評価した。肺の特定の部位(例えば、呼吸細気管支、肺胞管、肺胞嚢、及び肺胞)を調査した。
【0175】
BAL中の免疫グロブリンの有無を、ELISAで測定した。IgAを検出するために、プレート
(NUNC社製)をヤギ抗ヒトIgA(ベチルラボラトリーズ社製、被覆緩衝液(Na2CO3 1.59g
、NaHCO3 2.93g、H2O 1ml、pH 9.6)中1/500)を室温中で1時間かけて、被覆した。PBS-Tweenで洗浄後、遮断溶液(PBS、1%BSA)をウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。ブロッキングバッファーをPBS-Tweenで洗浄し、試料をプレート内に配散し、37℃
で2時間インキュベートした。PBS-Tweenで洗浄後、ヤギ抗ヒトIgA-HRP(ベチル ラボラトリーズ社製;希釈緩衝液(低交差緩衝性(Candor社製)、カゼイン1%)1/8000)を室温で1時間かけてウェルに添加した。PBS-Tweenで洗浄後、TMB基質を、室温中15分かけてウ
ェルに添加し、触媒作用を、停止液を添加して停止させた。
【0176】
IgGを検出するために、プレート(NUNC社製)をヤギ抗ヒトIgG(Acris 社製、被覆緩衝液(Na
2CO
3 1.59g、NaHCO
3 2.93g、H
2O 1ml、pH 9.6)中最終濃度1.5mg/mL)を室温中で2時間かけて被覆した。PBS-Tweenで洗浄後、遮断溶液(PBS、1.6%BSA)をウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。ブロッキングバッファーをPBS-Tweenで洗浄し、試料をプレート内に配散し、室温で2時間インキュベートした。PBS-Tweenで洗浄後、ヤギ抗ヒトIgG-HRP (Acris 社製;希釈緩衝液(低交差緩衝性(Candor社製)、カゼイン1%)中
最終濃度0.3mg/mL)を室温で1時間かけてウェルに添加した。PBS-Tweenで洗浄後、TMB基
質をウェルに室温中15分かけて添加し、触媒作用は停止溶液を加えて停止した。結果を
図7に示す。
【0177】
BAL中で免疫グロブリンが最高値を検出したのは、エアロゾル(時間0時間)による製剤5、7、8を適用した時であった。時間の経過につれて、噴霧化免疫グロブリンの量が減少
し、動作(kinetic)の終了時(24時間)には、検出もより少なくなった。重要なことは
、噴霧化免疫グロブリンは噴霧化24時間後でもなおBAL中で検出可能であったことである
。
【0178】
ラット由来血漿中の噴霧化免疫グロブリンの有無についても分析した。噴霧化して24時間後に、血漿中にIgA製剤(IgA及びIgAM)は全く検出されなかった。しかしながら、噴霧化IgGは、エアロゾルを浴びた24時間後に3匹のラット由来血漿中で検出することは出来た(表11参照)。
【0179】
【0180】
我々は、噴霧化は、免疫グロブリンの構造に影響しないことを上に示した。しかし、肺内の粘液層にはプロテアーゼが含まれ、それが適用された免疫グロブリンの完全性に影響を与える畏れがあることは知られている。BALからのELISA結果を補完するために、SDS PAGEにより噴霧化免疫グロブリンの完全性を分析した。SDS PAGEは、標準的な指示書に従っ
て、又は国際特許出願第2013132052号記載のように実施した。
【0181】
免疫ブロット法のためにポリクローナルウサギ抗体を使用した。a)ウサギ抗ヒトγ鎖
(DAKO社製、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)複合体、1/10,000希釈)、b)ウサギ抗ヒトα鎖(DAKO、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)複合体、1/5,000希釈)。c)ウサ
ギ抗ヒトμ鎖(DAKO、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)複合体、1/3,000希釈)。インキュベーションは全て、粉乳5%Tween 0.5%を含有するPBS中で周囲温度下、3時間実施した。PBS-Tweenで最終の洗浄後、膜上の免疫検出を化学発光によって現示し、ImageQuant LAS 4000システム(GEヘルスケア ライフサイエンス社)でデジタル的に記録した。還元したゲルからのウェスタンブロットを、
図8に示した。
【0182】
ELISAデータを裏付けるIgGのγ鎖が、噴霧化IgGを浴びたラットの各BALサンプル中で検出された(
図8、5、a)。バンドは噴霧化後24時間後まで検出出来た。
【0183】
噴霧化IgAを浴びたラットのBAL試料では、送達後の初期の時点ではα鎖を検出したが、6時間後には微弱になった(
図8、7、b)。噴霧して24時間後にα鎖を検出することは、実際上、非常に困難であった(
図8、7、b)。噴霧化IgAMを浴びたラットでは、各BAL試料中のα鎖はその24時間後のシグナルはより低くなるが、陽性であった。同じBAL試料中、μ
鎖(c)は、この最後の時点で微弱ではあったが24時間後まで、各試料において検出され
た。
【0184】
BAL試料を非還元ゲル上でも実施した。γ、α及びμ鎖のフラグメントは全く検出され
なかった。検出された免疫グロブリンは無傷であった。
【0185】
全体として、我々は噴霧化免疫グロブリンを効率的に動物の肺に送達出来、しかも、その免疫グロブリンは、たとえその量は経時的漸減傾向があるとしても、この環境で無傷で24時間滞留したことを示した。
【0186】
実施例8 慢性副鼻腔炎の治療と予防のための噴霧化免疫グロブリン
慢性副鼻腔炎(CS)は、最も多い慢性感染症状(免疫不全患者及び正常な集団の罹患率13%)の1つであり、生活の質(Khalid AN, Quraishi SA, Kennedy DW. Long-term quality of life measures after functional endoscopic sinus surgery. Am J Rhinol 2004 May;18(3):131-6)を著しく損ない、しかも、実質的な医療費支出(Anand VK. Epidemiology and economic impact of rhinosinusitis. Ann Otol Rhinol Laryngol Suppl 2004 May;193:3-5.)の原因となっている。
【0187】
現在の治療には、抗生物質、長期ステロイド及び(反復)手術が含まれる。しかしながら、これらの治療介入は、高リスク群(例えば、一次抗体欠損症、嚢胞性線維症)の中での失敗率が高く、かつ反復使用による抗生物質耐性が潜在的に強くなり得るので有効性に限界がある。
【0188】
CSの予防又は治療のために、実施例1に記載の組成物、好ましくはIgA又は多量体IgAとIgMとの、場合により組換え分泌成分を補充した混合物を噴霧化し、大きな混合室を備え、かつ脈動空気流を副鼻腔や副鼻腔を標的にして噴射出来る膜噴霧器を使用し、標的とする患者に投与する。標的とする患者とは高リスク群(例えば、一次抗体欠損症、嚢胞性線維症)に属するか、又はCSの再発症状を有すると分かっている患者である。
【0189】
CSを患っている患者では、適用は鼻ポリープの除去手術、及び/又は抗生物質やステロイド治療後に開始する。患者は、IgG(10%)又はIgA(50mg/mL)又は多量体IgAとIgM(50mg/mL)との混合物、好ましくは多量体IgAと組換え分泌成分を付随したIgM(50mg/mL)
を含む液体組成物2mLを、少なくとも1日1回8週間の期間、噴霧される。これが1回の治療
サイクルに相当する。
【0190】
予防療法においては、患者はIgG(10%)又はIgA(50mg/mL)又は多量体IgAとIgM(50mg/mL)との混合物、好ましくは多量体IgAと組換え分泌成分を付随したIgM(50mg/mL)を
含む液体組成物2mLの噴霧を受けるという治療サイクルを、年間2回受ける。
【0191】
噴霧化免疫グロブリンは、予防的治療の場合には副鼻腔炎発症の慢性化を減少させる。
【0192】
CSの患者に適用すると噴霧化免疫グロブリンは、鼻詰まり及び鼻汁、顔面圧力や痛み及び目、頬及び鼻の周りの腫れなどの症状を軽減する。
【0193】
実施例9 原発性免疫不全(PID)による慢性下気道感染症の治療における噴霧化免疫グ
ロブリン
PID患者へのIgG補充療法は肺炎と重症の感染率を効果的に低下させる。
【0194】
然しながら、これらの患者は依然として患者一人あたり、年間3、4回の感染に見舞われる。炎症と組み合わせると、この高い感染割合から、IgG療法は気管支拡張症、慢性下
痢、自己免疫、及びリンパ球増殖性疾患などの感染症の慢性的副作用に対して与える影響が低いことを示している。
【0195】
肺炎、気管支拡張症及び敗血症についての長期間のIgG補充療法に付随して、IgMが低くなり、一方でIgAが低いと消化管感染症に顕著な増加率があり、(Oksenhendler E, Gerard
L, Fieschi C, 他、「通常の様々の免疫不全症を有する患者252名の感染症」(Infections in 252 patients with common variable immunodeficiency)、Clin Infect Dis 2008 May 15;46(10):1547-54、Gregersen S, Aalokken TM, Mynarek G, 他「臨床的及び免疫学的因子を付随する通常の様々の免疫不全症を有する患者の肺炎異常の発生」(Development of pulmonary abnormalities in patients with common variable immunodeficiency: associations with clinical and immunologic factors) Ann Allergy Asthma Immunol 2010 Jun;104(6):503-10; Quinti I, Soresina A, Guerra A, 他「原発性抗体不全症を有する患者に関する免疫グロブリン補充療法の臨床成績効果。多施設での前向きコホート研究結果より」(Effectiveness of immunoglobulin replacement therapy on clinical outcome in patients with primary antibody deficiencies. Results from a multicenter prospective cohort study.)J Clin Immunol 2011 Mar 2.)、IgA及び/又はIgMが
不足することが重要な要因となり得ることを再度示した。
【0196】
気管支拡張症の患者は、緑膿菌に感染し易い。 X連鎖無γグロブリン血症(XLA)はPID患者の亜集団に影響を及ぼす疾患である。これは、成熟Bリンパ球、並びに特異的抗体の
生成に欠陥があり、かつ血清中の免疫グロブリン濃度が低いことを特徴とする。これらの患者は、気管支拡張症への罹患を導きかねない慢性感染症を現示する。
【0197】
慢性下気道感染症を有する特定の研究対象集団は、緑膿菌による肺感染症に初めて発症した経験を有するXLA患者である。治療の目的は、その後の感染の再発予防や気管支拡張
症の長期的予防になるであろう。この特定の適応症のためにIgA又はIgM/IgA混合物の何れかの商品が検討されている。患者は、IgG(10%)又はIgA(50mg/mL)又は多量体IgAとIgM(50mg/mL)との混合物、好ましくは多量体IgAと組換え分泌成分を付随したIgM(50mg/mL)を含む液体組成物2mLを、少なくとも1日1回、8週間の期間(=1回の治療サイクル)噴霧を受ける。患者は年間2回の治療サイクルを受けねばならない。
【0198】
有効性パラメータはしっかり定義し、その中には、感染の再発率、気管支拡張症の発症
率、誘発性喀痰中の微生物負荷/炎症性パラメータが含まれる。
【0199】
実施例10 粘稠性免疫グロブリン製剤の噴霧化
前出の実施例に示したように、治験用に改造したeFlowテクノロジーを使用する免疫グ
ロブリンの噴霧化は、免疫グロブリン構造やその機能のいずれをも傷つけない。(上部及び/又は下部)気道内に送達される免疫グロブリンの特定量を標的とする場合、噴霧時間をより短くするためには、免疫グロブリンの濃度はより高いほうが好ましい。高分子量(150kDから1040kD)の 免疫グロブリン、並びに高濃度の分子は、別々に又は関連して、両方共に製剤の粘度に影響を与えることが知られている。粘度は、噴霧化の性能に直接影響を与える。
【0200】
粘度が噴霧化性能にどのような影響を及ぼすかをより深く理解するために、数種の製剤を3台の異なる装置で試験した。治験用eFlow噴霧器(変性した膜タイプ4)、オムロン社製Micro Air U22及びエアロゲン社製Aeroneb(R)Goを使用した。
【0201】
製剤を表12に示した。
【0202】
【0203】
実施例1、2及び3に記載したように、レーザ回折試験を実施した。治験用に改造したeFlow 噴霧器(能動的膜振動及び負圧)3台、オムロン社製Micro Air U22(受動的膜振動)3台、及びエアロゲン社製Aeroneb(R)Go(能動的膜振動)1台をこの試験用に使用した。試料は2重(Aeroneb(R)Go)又は3重(治験用に改造したeFlow、Micro Air U22)に試験した。オムロン社製、及びエアロゲン社製噴霧器はそれぞれの製造メーカの仕様書に従って使用した。全ての製剤は、順不同で試験した。結果を表13及び表14に示した。
【0204】
【0205】
【0206】
表13及び表14に示したように、同種のタンパク質(例えば単量体ポリクローナル免疫グロブリン)濃度が増加すると、粘度増加(IgGが5%から20%の範囲について、各々1.75から14.52mPa・s)を伴う。多量体免疫グロブリン(IgA及びIgM)など、より大きくより複
雑なタンパク質については、単量体免疫グロブリンと比べると、粘度がより早く増加した。IgG5%及び9%は、それぞれ1.75及び2.65mPa・sを示し、一方で多量体のIgA及びIgMの
製剤は濃度5%及び9%で粘度が3.88及び15.87mPa・sを示した。粘度が増加すると、総出
力レート(TOR)の減少を伴った。液滴サイズは粘度が増加すると最小限に減少した。
【0207】
ポリクローナルIgGの濃度を増加して噴霧化すると、治験用改造型eFlow噴霧器(IM-eFlow)では13%の濃度まで実現可能であった。IgG15%については、3台のうち1台の噴霧器が、IgGを噴霧化出来た。IgG20%でもまた、3台のうち1台の噴霧器で噴霧化は出来たが、非常に低いTOR (6mg/min)になる。
【0208】
オムロン社製Micro Air U22は、IgG7%より高い濃度の製剤を噴霧化出来ず、非常に低
いTOR(160mg/min)であり、しかもより大きな液滴サイズ(>6μm、IM-eFlow<4μm)であった。エアロゲン社製Aeroneb(R)Goは7%及び9%の製剤を噴霧化出来たが、TORは非常に低
かった(それぞれ117及び20mg/min)。IgG7%と9%に関しては、eFlow噴霧器は、高性能
(例えばTOR> 550mg/min)を示した。
【0209】
IgA及びIgMの製剤(例えばIgAM 5%及び8%)の噴霧化は、eFlow噴霧器を用いると、実現可能であり、しかも優れた性能を有する。IgAM 9%では、通常の性能で一度だけ噴霧化出来た。オムロン社製Micro Air U22は、多量体ポリクローナル免疫グロブリンを含むこ
れらの製剤を噴霧化出来なかった。オムロン社製及びエアロゲン社製の機器は、3mPa・s
より高い粘度を有する免疫グロブリン製剤から、エアロゾルを発生させることは出来なかった。
【0210】
本発明はポリクローナル免疫グロブリン組成物を噴霧化することにより、エアロゾルを発生させる方法であり、現在の方法に比べ、全体として、高濃度の単量体の及び多量体の免疫グロブリンを噴霧化するのに優れた性能を示す。