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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】電池制御システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/262 20210101AFI20230404BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20230404BHJP
   H01M 50/209 20210101ALN20230404BHJP
   H01M 50/211 20210101ALN20230404BHJP
【FI】
H01M50/262 S
H01M10/04 Z
H01M10/04 W
H01M50/262 P
H01M50/209
H01M50/211
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020200078
(22)【出願日】2020-12-02
(65)【公開番号】P2022087931
(43)【公開日】2022-06-14
【審査請求日】2021-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八木 弘雅
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-129132(JP,A)
【文献】特開2017-076503(JP,A)
【文献】特開2010-009989(JP,A)
【文献】特開2019-061937(JP,A)
【文献】特開2018-137099(JP,A)
【文献】特開2018-116914(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0095387(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/20-50/298
H01M 10/04
H01M 10/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池と、
前記電池に圧力を加える制御装置とを備え、
前記電池の主面は、第1領域と第2領域とを有し、
前記制御装置は、第1制御と第2制御とを交互に繰返し実行し、
前記第1制御は、前記第1領域と前記第2領域とにそれぞれ異なる圧力を加える制御であり、
前記第2制御は、前記第1制御で前記第1領域に加える圧力とは異なる圧力を前記第1領域に加えるとともに、前記第1制御で前記第2領域に加える圧力および前記第2制御で前記第1領域に加える圧力のいずれとも異なる圧力を前記第2領域に加える制御である、電池制御システム。
【請求項2】
前記第1制御で前記第1領域に加えられる圧力および前記第2制御で前記第2領域に加えられる圧力は、前記第1制御で前記第2領域に加えられる圧力および前記第2制御で前記第1領域に加えられる圧力よりも大きい、請求項1に記載の電池制御システム。
【請求項3】
前記第1制御で前記第1領域に加えられる圧力と、前記第2制御で前記第2領域に加えられる圧力とは同一であり、
前記第1制御で前記第2領域に加えられる圧力と、前記第2制御で前記第1領域に加えられる圧力とは同一である、請求項2に記載の電池制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、電池制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2020-145063号公報)には、バッテリーシステムが開示されている。このバッテリーシステムは、電池セルと、該電池セルを拘束する拘束部材と、該電池セルにかかる拘束圧を調整部とを備える。この調整部は、電池セルの劣化度に基づいて拘束圧を調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-145063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
たとえば、電池に対して充電および放電を行う場合がある。この場合において、大電流で充電し、かつ充電を終了したときから放電を開始したときのとの間の時間および放電を終了したときから充電を開始するまでの時間が短い場合などには、該電池の満充電容量が減少するという問題が生じ得る。
【0005】
本実施形態は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、電池の満充電容量の減少を抑制する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある局面に従うと、電池制御システムは、電池と、電池に圧力を加える制御装置とを備え、電池の主面は、第1領域と第2領域とを有し、制御装置は、第1領域と第2領域とにそれぞれ異なる圧力を加える。
【0007】
本開示によれば、電池の満充電容量の減少を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】電池制御システムを説明するための図である。
図2】積層型電池の主面などを示す図である。
図3】第1押圧部材と第2押圧部材とを示す図である。
図4】電池の内部を示す図である。
図5】巻回型電池の主面などを示す図である。
図6】実験結果を示す図である。
図7】実験結果を示す図である。
図8】実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0010】
図1は、電池制御システム500を説明するための図である。図1では、電池制御システム500は、電池モジュール200と、制御装置300とを備える。電池モジュール200には、正極の配線と、負極の配線とが接続されている。電池モジュール200は、複数の電池10n(n=1,...,Nであり、Nは1以上の整数)と、第1プレート31と、第2プレート32と、第1押圧部材41、141と、第2押圧部材42、142と、第1油圧シリンダ51、151と、第2油圧シリンダ52、152とを備える。複数の電池10nは、所定の方向において配列されている。以下では、複数の電池の配列方向をY軸方向とする。また、複数の電池の各々の高さ方向(電池の接地面と垂直な方向)をZ軸方向とする。また、Y軸方向およびZ軸方向に垂直な方向をX軸方向とする。電池10nは、リチウム電池であり、典型的には、パウチ型電池または角形電池である。複数の電池10nのうち電池101が本開示の「一端の電池」に対応する。また、複数の電池10nのうち電池10Nが本開示の「他端の電池」に対応する。また、複数の電池10nのうちの1つの電池を「電池10」と称する場合がある。
【0011】
第1プレート31および第2プレート32は、それぞれが複数の電池10nの配列方向(Y軸方向)の両端に設けられている。図1の例では、第1プレート31は、電池10nの配列方向の一端に固定されて配置されている。また、第2プレート32は、電池10nの配列方向の他端に固定されて配置されている。第1プレート31および第2プレート32により複数の電池10nは拘束(保持)されている。換言すれば、第1プレート31および第2プレート32により複数の電池10nに対して、後述の第1圧力および第2圧力とは別の拘束力(後述の基準圧力X)が加えられている。第1プレート31と電池101との間に、第1油圧シリンダ51と、第2油圧シリンダ52と、第1押圧部材41と、第2押圧部材42とが配置されている。第1油圧シリンダ51および第2油圧シリンダ52は、Y軸方向の正方向または負方向に移動可能な(伸縮可能な)ロッドを含む。第1油圧シリンダ51の一端は第1プレート31に接しており、第1油圧シリンダ51の他端(第1油圧シリンダ51のロッド)は第1押圧部材41に接している。また、第2油圧シリンダ52の一端は第1プレート31に接しており、第2油圧シリンダ52の他端(第2油圧シリンダ52のロッド)は第2押圧部材42に接している。
【0012】
制御装置300は、第1油圧シリンダ51と、第2油圧シリンダ52とを制御する。制御装置300は、第1油圧シリンダ51のロッドをY軸方向の正方向を移動させる。これにより、第1油圧シリンダ51が第1押圧部材41を介して電池101の主面の第1領域(後述の図2参照)に第1圧力F1を加える。主面は、複数の電池10nの配列方向(Y軸方向)に垂直な面である。また、制御装置300は、第1油圧シリンダ51のロッドをY軸方向の負方向を移動させる。これにより、電池101の第1領域に加えていた第1圧力F1を弱めることができる。また、制御装置300は、第2油圧シリンダ52のロッドをY軸方向の正方向を移動させる。これにより、第2油圧シリンダ52が第2押圧部材42を介して電池101の主面の第2領域(後述の図2参照)に第2圧力F2を加える。また、制御装置300は、第2油圧シリンダ52のロッドをY軸方向の負方向を移動させる。これにより、電池101の第2領域に加えていた第2圧力F2を弱めることができる。
【0013】
また、第2プレート32と電池10Nとの間に、第1油圧シリンダ151と、第2油圧シリンダ152と、第1押圧部材141と、第2押圧部材142とが配置されている。制御装置300は、第1油圧シリンダ151のロッドをY軸方向の負方向を移動させる。これにより、第1油圧シリンダ151が第1押圧部材141を介して電池10Nの主面の第1領域に第1圧力F1を加える。また、制御装置300は、第1油圧シリンダ151のロッドをY軸方向の正方向を移動させる。これにより、電池10Nの第1領域に加えていた第1圧力F1を弱めることができる。また、制御装置300は、第2油圧シリンダ152のロッドをY軸方向の負方向を移動させる。これにより、第2油圧シリンダ152が第2押圧部材142を介して電池10Nの主面の第2領域に第2圧力F2を加える。また、制御装置300は、第2油圧シリンダ152のロッドをY軸方向の正方向を移動させる。これにより、電池10Nの第2領域に加えていた第2圧力F2を弱めることができる。
【0014】
また、一端の電池101に加えられた第1圧力F1および第2圧力F2が、複数の電池10nのうちの電池101以外の全ての電池にも加えられるように、複数の電池10nは配置される。また、他端の電池10Nに加えられた第1圧力F1および第2圧力F2が、複数の電池10nのうちの電池10N以外の全ての電池に加えられるように、複数の電池10nは配置される。たとえば、一端の電池101に対して加えられた第1圧力F1および第2圧力F2によって該一端の電池101に微小な変形による応力が発生し、該応力が一端の電池101に隣接する電池および他の全ての電池にも伝達されるようになっている。また、他端の電池10Nに対して加えられた第1圧力F1および第2圧力F2によって該他端の電池10Nに微小な変形による応力が発生し、該応力が他端の電池10Nに隣接する電池および他の全ての電池にも伝達されるようになっている。なお、第1押圧部材41および第2押圧部材42により第1圧力F1および第2圧力F2が伝達される主面と、第1押圧部材141および第2押圧部材142により第1圧力F1および第2圧力F2が伝達される主面とは互いに対向する面である。
【0015】
なお、図1では、第1押圧部材141からの第1圧力F1および第2押圧部材142からの第2圧力F2は記載されていない。また、制御装置300から、油圧シリンダに制御信号を送信するための配線が、第2油圧シリンダ52、152に接続されているが、実際は、他の油圧シリンダ(第1油圧シリンダ51、151)にも接続されている。また、第1油圧シリンダ151と、第2油圧シリンダ152と、第1押圧部材141と、第2押圧部材142とはなくてもよい。
【0016】
また、特に図示しないが、制御装置300は、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)と、油圧シリンダに制御信号を送信するためのインターフェースとを備える。CPUは、各種処理を行なう。ROMは、CPUプログラムおよびデータを記憶する。RAMは、CPUの処理結果等を記憶する。
【0017】
図2は、複数の電池10nのうちの1つの電池10の主面10Aなどを示す図である。主面10Aの領域は、第1領域10A1と、第2領域10A2とを含む。第1領域10A1は、主面10Aの中央部の領域である。第2領域10A2は、第1領域10A1の周辺の領域である。
【0018】
図3は、第1押圧部材41と第2押圧部材42とを示す図である。第2押圧部材42は、矩形状の薄板部材に、矩形状の貫通穴45が設けられることにより製造される。第1押圧部材41は、貫通穴45を形成する矩形よりも小さい矩形状の薄板部材であり、貫通穴45内に配置される。
【0019】
第1油圧シリンダ51が第1押圧部材41を押圧することにより、該第1押圧部材41が第1領域10A1を押圧する。また、第2油圧シリンダ52が第2押圧部材42を押圧することにより、該第2押圧部材42が第2領域10A2を押圧する。
【0020】
ここで、たとえば、大型のリチウムイオン電池に対して、電池に対して充電および放電を行う場合がある。この場合において、大電流で充電し、かつ充電終了と放電開始との間の休止時間および放電終了と充電開始との間の休止時間が短い場合には、該電池の満充電容量が減少するという問題が生じ得る。満充電容量は、たとえば、電池が完全に充電された状態から取り出し可能な容量である。このような問題が生じる理由を説明すると、大電流によって電池の電極内のリチウム濃度、および電解液中の電解質(リチウム塩など)濃度が不均一となる傾向にある。以下では、リチウム濃度および電解液中の電解質(リチウム塩など)濃度を、「電解質などの濃度」と称する。上記の休止時間が短いと、電解質などの濃度の不均一が緩和されずに、充電放電の繰り返しにより、充放電反応が進みにくい領域が増大してしまう。その結果、電池の満充電容量が減少するという問題が生じ得る。
【0021】
そこで、本実施の形態の制御装置300は、油圧シリンダおよび押圧部材を用いて第1領域10A1に第1圧力F1を加え、かつ第2領域10A2に第2圧力F2を加える。これにより、以下に示すように電解質などの濃度を均一にすることができる。
【0022】
図4は、第1領域10A1に第1圧力F1を加え、かつ第2領域10A2に第2圧力F2を加えることにより電解質などの濃度が均一になることを説明するための図である。図4(A)~図4(C)においては、電池10の内部が示されている。図4の電池10は、ケース305を有し、該ケース305の内部で、正極合剤301と、セパレータ302と、負極合剤303との各々が複数積層されている積層型電池である。図4の例では、1組の正極合剤301と、セパレータ302と、負極合剤303とが示されている。
【0023】
図4(A)は、正極合剤301および負極合剤303内のリチウムおよび電解質の濃度が不均一であり、かつセパレータ302内の電解質の濃度が不均一の状態(初期状態)を示す図である。制御装置300は、電池10がこのような初期状態である場合において、後述の第1制御および第2制御を交互に繰り替えすことにより、電解質などの濃度を均一にする。なお、「第1制御および第2制御を交互に繰り返す」とは、第1制御の後に第2制御を実行し、該第2制御の後に第1制御を実行し、該第1制御の後に第2制御を実行し、・・・という制御である。
【0024】
図4(B)は、第1制御が実行されているときのケース305の内部の状態を示す図である。図4(B)に示すように、第1制御は、第1領域10A1と第2領域10A2とにそれぞれ異なる圧力を加える制御である。図4(B)の例では、第1領域10A1に加えられる圧力(強い第1圧力F1)が、第2領域10A2に加えられる圧力(弱い第2圧力F2)よりも大きい例が示されている。また、第1制御においては、第1圧力F1が第2圧力F2よりも大きい。
【0025】
第1圧力F1が第2圧力F2よりも大きいことから、正極合剤301と、セパレータ302と、負極合剤303とにおいて、第1領域10A1に対応する箇所が、第2領域10A2に対応する箇所よりも大きくへこむ。したがって、正極合剤301とセパレータ302と負極合剤303との第1領域10A1に対応する内部空間の容積が小さくなる。その結果、該内部空間に含まれていたリチウムおよび電解質などが、第2領域10A2に対応する電池10の内部空間に押し出されることになる(図4(B)の矢印参照)。
【0026】
図4(C)は、第2制御が実行されているときのケース305の内部の状態を示す図である。図4(C)に示すように、第2制御は、第1制御で第1領域10A1に加える第1圧力F1(強い第1圧力F1)とは異なる第1圧力F1(弱い第1圧力F1)を第1領域10A1に加える制御である。さらに、第2制御は、第1制御で第2領域10A2に加える圧力(弱い第2圧力F2)および第2制御で第1領域10A1に加える圧力(弱い第1圧力F1)のいずれとも異なる圧力(強い第2圧力F2)を前記第2領域に加える制御である。また、第2制御においては、第2圧力F2が第1圧力F1よりも大きい。
【0027】
第2圧力F2が第1圧力F1よりも大きいことから、正極合剤301と、セパレータ302と、負極合剤303とにおいて、第2領域10A2に対応する箇所が、第1領域10A1に対応する箇所よりも大きくへこむ。したがって、正極合剤301とセパレータ302と負極合剤303との第2領域10A2に対応する内部空間の容積が小さくなる。その結果、該内部空間に含まれていたリチウムおよび電解質などが、第1領域10A1に対応する電池10の内部空間に押し出されることになる(図4(C)の矢印参照)。なお、上述では、第1領域10A1および第2領域10A2は接している例を説明したが、たとえば、電池10nが角形電池の場合には、第1領域と第2領域とが接していない構成が採用されてもよい。また、電池10nがパウチ型電池である場合には、第1領域10A1および第2領域10A2は接していることが好ましい。理由を説明すると、電池10nがパウチ型電池である場合には、一般的にケース305は柔らかい。第1領域および第2領域が接しておらず、第1領域および第2領域の間に生じる隙間領域が広いと図4(B)および図4(C)の状態においては、圧力が加わらない領域が発生してしまう。圧力が加わらない領域が発生すると、効果的に電解質などの濃度を均一にすることができなくなる。よって、電池10nがパウチ型電池である場合には、第1領域10A1および第2領域10A2は接していることが好ましい。
【0028】
また、電池10nが角形電池の場合には、一般的にケース305は硬い。第1領域および第2領域が接しておらず、第1領域と第2領域との間に隙間領域が生じていたとしても、図4(B)および図4(C)の状態において、隙間領域に第1圧力F1と第2圧力F2との間の大きさの圧力が該隙間領域に加わる。したがって、電池10nが角形電池の場合には、第1領域と第2領域とが接していない構成が採用されても特段の問題はない。
【0029】
また、上述では、主面10Aは、2個の領域を含むが、それぞれに異なる圧力が加えられる3個の領域を有してもよい。また、電池の構造に応じて、第1領域および第2領域の場所は適宜変更されてもよい。たとえば、第1領域は、主面の中央部であり、第2領域は第1領域の上限端の領域としてもよい。
【0030】
上述したように、第1圧力F1および第2圧力F2は、直接的または間接的に全ての電池10nに伝達される。したがって、制御装置300が、第1制御と第2制御とを交互に繰り返して実行することにより、全ての電池10nの正極合剤301、負極合剤303およびセパレータ302に含まれている電解質などを撹拌させることができる。その結果、電解質などの濃度が均一になり、電池の満充電容量の減少を抑制することができる。
【0031】
電池10nは、積層型電池であり、第1圧力F1が加えられる第1領域10A1は、電池10nの中央部の領域である。また、第2圧力F2が加えられる第2領域10A2は、第1領域10A1の周辺の領域である。積層型電池では、電池10nの第1領域10A1に対応する内部空間と、第2領域10A2に対応する内部空間とにおいて、電解質などの濃度差が生じ易い。したがって、第1制御と第2制御とを繰り返し実行することにより積層型電池の電池10nの内部の電解質などの濃度を均一にすることができる。
【0032】
図5は、複数の電池10nが巻回型電池である場合の電池10の主面10Aなどを示す図である。図5の例では、主面10Aの中央部の領域が第1領域10A1である。また、主面10Aの巻回軸方向Bにおいて第1領域10A1の外側(第1領域10A1の両端側(左右側))の領域が第2領域10A2である。巻回型電池である電池10は、シート状の電池材料である正極、負極、および2枚のセパレータを重ねて層状に巻回することにより製造される。巻回軸方向Bは、正極、負極、および2枚のセパレータが巻回される回転軸方向である。巻回型電池では、電池10nの第1領域10A1に対応する内部空間と、第2領域10A2に対応する内部空間とにおいて、電解質などの濃度差が生じ易い。したがって、複数の電池10nが巻回型電池である場合において、第1領域10A1および第2領域10A2を図5に示すような領域とし、第1制御と第2制御とを繰り返し実行することにより巻回型電池の電池10nの内部の電解質などの濃度を均一にすることができる。
【0033】
また、図4で説明した、強いF1と強いF2との値は同一であり、弱いF1と弱いF2との値は同一であることが好ましい。このような構成により、制御装置300の制御を簡素化できる。
【0034】
また、第1圧力F1および第2圧力F2をX±Δxで表現することもできる。Xは、基準圧力と称され、第1制御および第2制御が実行されていないときに複数の電池10nに加えられている圧力(拘束圧)である。たとえば、第1制御での第1圧力F1はX+Δxと表現し、第1制御での第2圧力F2はX-Δxと表現し、第2制御での第1圧力F1はX-Δxと表現し、第2制御での第2圧力F2はX+Δxと表現できる。
【0035】
また、「第1制御では第1領域に第1圧力F1を加え第2領域に第2圧力を加えずに、第2制御では第1領域に第1圧力F1を加えずに第2領域に第2圧力を加える構成(以下、「比較例の構成」と称する。)」が考えられる。しかし、この比較例の構成では、第1制御および第2制御において、第1領域と第2領域との圧力差はΔxとなる。
【0036】
これに対し、本実施形態においては、第1制御および第2制御の各々において第1圧力および第2圧力を加えることから第1領域と第2領域との圧力差、および第2制御での第1領域と第2領域との圧力差をともに2Δxとすることができる。したがって、比較例の構成と比較して、第1領域と第2領域との圧力差を大きくすることができる。よって、本実施形態の電池制御システム500は、比較例の構成と比較して、より効率的に上記の濃度を均一にすることができる。なお、比較例の構成では、第1領域と第2領域との圧力差を大きくするために、基準圧力Xを大きくすることが考えられる。しかしながら、基準圧力Xを過度に大きくすると電池の短絡などが発生する場合がある。本実施形態では、基準圧力Xを過度に大きくすることなく、第1領域と第2領域との圧力差を大きくできる。
【0037】
また、第1押圧部材41、141と、第2押圧部材42、142とにより、Y軸方向において、複数の電池10nの両側から第1圧力および第2圧力を加えることにより、複数の電池10nの位置ずれなどを低減できる。
【0038】
また、電池制御システム500は、車両に搭載されることが好ましい。該車両は、油圧制御系(たとえば、油圧ブレーキなど)を備える。したがって、制御装置300は、電池10nに対する圧力の制御および油圧制御系の制御を、油圧の制御という観点で共通化できる。
【0039】
次に、第1制御および第2制御を開始する開始条件を説明する。仮に、電池10nの充放電中に、第1制御および第2制御が実行されると、充放電中の電池10nの電流、および電池10nの電圧制御が不安定になる場合がある。そこで、開始条件は、電池10nの充放電が休止しているという条件を含むようにしてもよい。電池10nの充放電の休止とは、たとえば、電池10nが搭載されている機器(たとえば、車両)の動作が停止していることである。また、電池10nのSOC(State Of Charge)が高い場合には、電池10nが膨張することから、電池10nの膨張圧が大きくなる。したがって、第1制御および第2制御が実行されたとしても、正極合剤301と、セパレータ302と、負極合剤303とを大きくへこますことができない。その結果、電解液などを適切に撹拌させることができない。そこで、開始条件は、電池10nのSOCが低い値になるという条件を含むようにしてもよい。低い値は、たとえば、0~50%としてもよい。また、電池10nのSOCは、複数の電池10nのSOCの平均値としてもよい。また、制御装置300が、所定のパラメータに基づいて、開始条件が成立したか否かを判断するようにしてもよい。所定のパラメータは、たとえば、充放電の履歴および電池10nの温度履歴などを含む。
【0040】
図6図8は、本実施形態の電池制御システム500の実験結果を示す図である。図6は、容量50Ahの積層型でありかつ角形のリチウムイオン電池についての実験結果である。この電池のサイズは、W148mm×H91mm×D26.5mmである。図7は、容量37Ahの捲回型でありかつ角形のリチウムイオン電池についての実験結果である。この電池のサイズは、W148mm×H91mm×D26.5mmである。図8は、容量50Ahの積層型でありかつパウチ型電池についての実験結果である。この電池のサイズは、W280mm×H90mm×D16mmである。また、図6図8に示す実験において、6つの電池が使用された。
【0041】
図6図8において、「1サイクル」は、「1回の充放電処理」をいう。「100サイクル容量維持率」は、第1制御および第2制御を実行せずに、100回の充放電処理が行われた後の容量維持率である。容量維持率は、電池モジュールの製造時の満充電容量と、現時点での満充電容量との比率である。また、この100回の充放電処理において、角形電池については0.1~3MPaの拘束圧がかけられており、パウチ型電池については0.03~1MPaの拘束圧がかけられている。充放電処理において、1つの電池の充電カットオフ電圧が4.2Vであり、1つの電池の放電カットオフ電圧が2.5Vである。また、充放電処理において、容量50Ahの電池については、電流50Ahとし、容量37Ahの電池については電流37Ahとした。また、「第1領域、第2領域」、「増減範囲(MPa)」、「増減周期(s)」、および「調整時間(s)」は、101~500サイクルの充放電処理が終了した後の休止時間の情報である。「第1領域、第2領域」は、上述の第1領域10A1および第2領域10A2を示す情報である。たとえば、「中央、外周」は、図2に示すように、第1領域10A1が電池の主面の中央であり、第2領域10A2が電池の主面の中央の外周の領域である。また、「左、右」は、第1領域が主面において左側の領域であり、第2領域が主面において右側の領域であることを示す。増減範囲は、基準圧力Xについての増減範囲をいう。たとえば、「±0.1」は、基準圧力X±0.1を示し、第1制御の第1圧力は、X+0.1MPaであり、第1制御の第2圧力は、X-0.1MPaであり、第2制御の第1圧力は、X-0.1MPaであり、第1制御の第2圧力は、X+0.1MPaである。また、基準圧力は、上述の拘束圧である。角形電池の基準圧力Xを0.1~3MPaとし、パウチ型電池の基準圧力Xを0.03~1MPaとした。「増減周期」は、第1制御および第2制御の合計時間であり、第1制御を行っている時間と第2制御を行っている時間とは同一時間である。「調整時間」は、全ての第1制御および第2制御の実行時間である。たとえば、「増減周期」が30秒であり、「調整時間」が300秒であるということは、1回の第1制御が15秒であり、該第1制御の後に実行される第2制御が15秒であることを示し、第1制御および第2制御の各々の実行回数が10回であることを示す。「500サイクル容量維持率」は、500サイクルの充放電が実行された後の容量維持率である。図6図8において、「500サイクル容量維持率」が高いほど、満充電容量の減少が抑制されていることを示す。
【0042】
また、比較例1、3、5については、500サイクル後の休止時間中に圧力を加える制御が行われていない。また、比較例2、4、6については、500サイクル後休止中に、第1制御および第2制御において同一の領域にそれぞれ異なる圧力を加える制御が行われた。図6図8に示すように、比較例1~6では、容量維持率が改善されなかった。
【0043】
また、図6の実施例1~3および図8の実施例13~15に示すように、積層型でありかつ角形のリチウムイオン電池では、実施例1および実施例13のように第1領域が中央部であり第2領域が周辺領域である場合には、第1領域および第2領域が他の領域である場合よりも、容量維持率がより改善されている。また、図7の実施例7~9に示すように、捲回型でありかつ角形のリチウムイオン電池では、実施例7のように第1領域が中央部であり第2領域が主面の巻回軸方向において第1領域の外側の領域である場合には(図7の例では、第1領域が中央部の領域であり第2領域の第1領域の周辺の領域である場合には)、第1領域および第2領域が他の領域である場合よりも、容量維持率がより改善されている。また、実施例4、5、10、11、16、17に示すように圧力の増減幅が小さい場合には、容量維持率の改善効果は低くなってしまう。
【0044】
また、角形電池の場合、圧力の増減幅を1MPa以上にすると、電池の内部構造(電極など)の変形が戻らず、後の充放電が不安定になったり、短絡の原因となることがあるので好ましくない。また、パウチ電池の場合、外装体が角形電池のような硬い金属板でなく、柔軟なラミネートなので、拘束圧による電極変形によって充放電が不安定になりやすい。そのため、拘束圧増減幅を0.3MPa以上にすると、電池の内部構造(電極など)の変形が戻らず、後の充放電が不安定になったり、短絡の原因となることがあるので好ましくない。
【0045】
また、発明者の度重なる実験により増減周期は、1秒~1時間の間であることが好ましいことが判明している。また、基準圧力は、1MPa以下であることが好ましいことが判明している。また、角形電池に対する圧力変動幅は、±の値において、0.01MPa以上であり1MPa以下であることが好ましい。また、パウチ形電池に対する圧力変動幅は、±の値において、0.003MPa以上であり0.3MPa以下であることが好ましい。第1制御および第2制御を1回の制御とすると、該制御の回数は、1~100回であることが好ましい。該制御の価数が過度に多いと、電池の部材の疲労が生じてしまう。また、上述の実施例では、第1制御および第2制御を交互に繰返し実行する構成を説明したが、たとえば、第1制御を1回実行する構成が採用されてもよい。
【0046】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本実施形態の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0047】
制御装置 300、電池制御システム500。
図1
図2
図3
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図8