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特許7256213導電性ポリマーの粒子および水と共沸混合物を形成する有機溶媒を含む液体組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】導電性ポリマーの粒子および水と共沸混合物を形成する有機溶媒を含む液体組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 65/00 20060101AFI20230404BHJP
   H10K 50/00 20230101ALI20230404BHJP
   H10K 50/15 20230101ALI20230404BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
C08L65/00
H05B33/14 A
H05B33/22 D
H05B33/10
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020571853
(86)(22)【出願日】2019-06-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-04
(86)【国際出願番号】 EP2019067097
(87)【国際公開番号】W WO2020002483
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2021-02-16
(31)【優先権主張番号】18180537.5
(32)【優先日】2018-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515131116
【氏名又は名称】ヘレウス ドイチェラント ゲーエムベーハー ウント カンパニー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】シール アルヌルフ
(72)【発明者】
【氏名】グンターマン ウド
(72)【発明者】
【氏名】ラヴェニッヒ ヴィルフリート
(72)【発明者】
【氏名】ザウッター アルミン
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-294349(JP,A)
【文献】特表2015-534213(JP,A)
【文献】特開2012-054244(JP,A)
【文献】特表2001-506797(JP,A)
【文献】Yoon Kyung Seo, et al.,Efficient ITO-free organic light-emittingdiodes comprising PEDOT:PSS transparent electrodes optimized with2-ethoxyethanol and post treatment,Organic Electronics,2017年,vol.42,p.348-354,https://doi.org/10.1016/j.orgel.2016.12.059
【文献】Seung Hun Eom, et al.,Polymer solar cells based on inkjet-printedPEDOT:PSS layer,Organic Electronics,2009年,vol.10,p.536-542,https://doi.org/10.1016/j.orgel.2009.01.015
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 65/00
C08K 3/00- 13/08
H01L 31/00- 31/18
H05B 33/00- 33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体組成物であって;
i)ポリチオフェンとポリアニオンとの複合体を含む粒子;
ii)液相、前記液相は、
iia)水と
iib)以下
- 1013mbarの圧力で測定して110~250℃の範囲の沸点
および
- 25℃で測定して少なくとも10重量%の水に対する溶解性;
を有する少なくとも1種の有機溶媒
とを含む;
を含み、
前記液相は、共沸混合物であるか、または共沸混合物を形成することができ、
前記ポリチオフェンがポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であり、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸のアニオンであり、
前記少なくとも1種の有機溶媒iib)がジアセトンアルコールであり、
前記液体組成物が、前記液体組成物の総重量に基づいて、前記少なくとも1種の有機溶媒iib)を10重量%未満の量で含み、かつ
前記液体組成物が、ポリチオフェンとポリアニオンとの前記複合体i)を、前記液体組成物の総重量に基づいて、0.001~2.5重量%の範囲の量で含
前記液体組成物で調製された乾燥層は、少なくとも5×10 Ω/sqのシート抵抗を有する、
液体組成物。
【請求項2】
前記液体組成物が、少なくとも1つのさらなる添加剤iii)として低沸点溶媒をさらに含み、前記低沸点溶媒がエタノールである、請求項1に記載の液体組成物。
【請求項3】
前記液体組成物が、少なくとも1つのさらなる添加剤iv)として架橋剤をさらに含み、前記架橋剤がオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)である、請求項1または2に記載の液体組成物。
【請求項4】
前記液体組成物が、ポリチオフェンとポリアニオンとの前記複合体i)を、前記液体組成物の総重量に基づいて、0.005~1.0重量%の範囲の量で含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項5】
前記液体組成物が、前記液体組成物の総重量に基づいて、10~98重量%の範囲の量の水iia)を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項6】
前記液体組成物が、前記液体組成物の総重額に基づいて、前記少なくとも1つの有機溶媒iib)を7重量%未満の量で含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項7】
前記液体組成物で調製された乾燥層が、少なくとも1×10 Ω/sqのシート抵抗を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の液体組成物。
【請求項8】
層状体の製造方法であって、以下のプロセスステップ:
A)基材を提供するステップ;
B)請求項1~7のいずれか一項に記載の液体組成物をこの基材上に適用するステップ;
C)前記液体組成物から前記液相ii)を少なくとも部分的に除去して、前記基材上にコーティングされた導電層を含む層状体を得るステップ
を含む、方法。
【請求項9】
プロセスステップB)における液体組成物の適用が、スロットダイコーティング、スプレーまたはインクジェット印刷によって行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれかに記載の液体組成物の、帯電防止コーティングもしくは電磁放射線シールドの形成のための、または有機発光ダイオード(OLED)もしくは有機光起電性(OPV)素子もしくは有機光検出器(OPD)における正孔輸送層の調製のための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリチオフェンとポリアニオンとの複合体を含む粒子を含む液体組成物、層状体の製造方法、このような方法によって得ることができる層状体、および液体組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ポリマーは、ポリマーが加工性、重量、および化学修飾による特性の標的された調整に関して金属よりも利点を有するので、ますます経済的重要性を獲得している。公知のπ共役ポリマーの例は、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレンおよびポリ(p-フェニレン-ビニレン)である。導電性ポリマーの層は、コンデンサ内のポリマー対向電極として、または電子回路基材のスルーメッキのために、様々な産業用途で採用されている。導電性ポリマーの調製は、モノマー前駆体、例えば、任意に置換されたチオフェン、ピロールおよびアニリン、ならびにそれらの特定の任意にオリゴマー誘導体からの酸化によって、化学的または電気化学的に行われる。特に、液体媒体中または多様な基材上で工業的に実現しやすいことから、化学的酸化重合が広く用いられている。
【0003】
工業的に使用される特に重要なポリチオフェンは、ポリ(3,4-エチレンジオキシ-チオフェン)(PEDOTまたはPEDT)であり、これは、例えば、特許文献1に記載されており、3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOTまたはEDT)の化学重合によって調製され、その酸化形態において非常に高い導電性を有する。多数のポリ(3,4-アルキレンジオキシチオフェン)誘導体、特にポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)誘導体、ならびにそれらのモノマー単位、合成および使用の概要は、非特許文献1によって与えられている。しばしば、3,4-エチレン-ジオキシチオフェンは、ポリスチレンスルホネート(PSS)などのポリアニオンの存在下で水中で重合され、それによって、カチオン性ポリチオフェンおよびポリアニオンの複合体(しばしば「PEDOT/PSS」と呼ばれる)を含む水性組成物が得られる。このようなプロセスは、例えば特許文献2に開示されている。ポリカチオンとしてのPEDOTおよびポリアニオンとしてのPSSの高分子電解質特性のために、これらの組成物は真の溶液ではなく、むしろ分散体である。この文脈において、ポリマーまたはポリマーの部分が溶解または分散される程度は、ポリカチオンおよびポリアニオンの重量比、ポリマーの電荷密度、環境の塩濃度、および周囲媒体の性質に依存する(非特許文献2)。
【0004】
PEDOT/PSS分散体は、特に工業的重要性を獲得している。有機発光ダイオード(OLED)の正孔注入層、有機光起電力素子(OPV素子)の中間層、または有機光検出器(OPD)または電磁干渉(EMI)遮蔽材料としての例として、帯電防止コーティングまたは電子部品の導電層としての多数の使用を見出した透明導電膜。これらはまた、固体電解質コンデンサの製造において、導電性ポリマー層、特に固体電解質層またはポリマー外層の形成のために一般に使用される。
【0005】
しかしながら、従来技術から公知の水性PEDOT/PSS分散体は、空気との接触時にあまりに速く乾燥することが多く、これは、スロットダイコーター、インクジェットプリンターまたは噴霧ノズルなどの、基材上にこれらの分散体を適用するために使用される装置の詰まりをもたらす。水性PEDOT/PSS分散体の乾燥速度を低下させるために、エチレングリコールおよびDMSO(すなわち、水の沸点よりも高い沸点を有する溶媒)などの高沸点溶媒が、添加されている。このようなアプローチは、例えば、特許文献3に開示されている。しかしながら、このような高沸点溶媒の添加はまた、導電性ポリマー層を帯電防止コーティングとして、電磁放射線シールドとして、または有機発光ダイオード(OLED)中もしくは有機光起電性(OPV)素子中もしくは有機光検出器(OPD)中の正孔輸送層として使用する場合には望まれない、得られる導電性ポリマーフィルムのシート抵抗の有意な減少をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】欧州特許第0 339 340 A2号
【文献】欧州特許第0 440 957 A2号
【文献】欧州特許第0 686 662 A2号
【非特許文献】
【0007】
【文献】A.Elschner,S.Kirchmeyer,W.Loevenich,U.Merker,K.Reuter“PEDOT Principles and Applications of an Intrinsically Conductive Polymer”,CRC Press 2011
【文献】V.Kabanov,Russian Chemical Reviews 74,2005,3-20
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ポリチオフェン、特にPEDOT/PSS分散体を含む液体組成物に関連して、従来技術から生じる欠点を克服する目的に基づいた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
特に、本発明は、帯電防止コーティングもしくは電磁放射線シールドの形成のための、または有機発光ダイオード(OLED)もしくは有機光起電性(OPV)素子中もしくは有機光検出器(OPD)中の正孔輸送層の調製のための組成物の使用を可能にする、十分に高いシート抵抗を有する導電層の形成のために使用され得るポリチオフェンを含む液体組成物を提供する目的に基づいており、液体組成物は、インクジェットプリンターまたは噴霧ノズルなどの、基材上にこれらの分散体を適用するために使用される装置の詰まりをもたらさない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
|1|液体組成物であって;
i)ポリチオフェンとポリアニオンとの複合体を含む粒子;
ii)液相、前記液相は、
iia)水と
iib)以下
- 1013mbarの圧力で測定して110~250℃の範囲、好ましくは120~225℃の範囲および最も好ましくは130~200℃の範囲の沸点、ならびに
- 25℃で測定して少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも25重量%、より好ましくは少なくとも50重量%、および最も好ましくは少なくとも90重量%の水に対する溶解性;
を有する少なくとも1種の有機溶媒
とを含む;
を含み、
前記液相は、共沸混合物であるか、または共沸混合物を形成することができる、
液体組成物。
【0011】
|2|液体組成物が、粒子i)が液相ii)中に分散されている分散体である、実施形態|1|に記載の液体組成物。
【0012】
|3|ポリチオフェンが、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)である、実施形態|1|または|2|に記載の液体組成物。
【0013】
|4|ポリアニオンはポリスチレンスルホン酸(PSS)のアニオンである、実施形態|1|~|3|のいずれかに記載の液体組成物。
【0014】
|5|ポリチオフェンとポリアニオンとの複合体は、PEDOT/PSS複合体である、実施形態|1|~|4|のいずれかに記載の液体組成物。
【0015】
|6|粒子i)の重量平均直径(d50)は、10nm~2000nmの範囲、より好ましくは20nm~500nmの範囲、より好ましくは25nm~50nmの範囲である、実施形態|1|~|5|のいずれかに記載の液体組成物。
【0016】
|7|有機溶媒iib)は、アルコール、好ましくはエチルグリコール、ブチルグリコールもしくはジアセトンアルコール、エーテル、好ましくはジエチレングリコールジメチルエーテル(Diglyme)、またはそれらの混合物である、実施形態|1|~|6|のいずれかに記載の液体組成物。
【0017】
|8|有機溶媒iib)はアルコールである、実施形態|7|に記載の液体組成物。
【0018】
|9|アルコールは、エチルグリコール、ブチルグリコール、ジアセトンアルコールまたはそれらの混合物からなる群から選択される、実施形態|8|に記載の液体組成物。
【0019】
|10|アルコールはジアセトンアルコールである、実施形態|9|に記載の液体組成物。
【0020】
|11|アルコールはエチルグリコールである、実施形態|9|に記載の液体組成物。
【0021】
|12|アルコールはブチルグリコールである、実施形態|9|に記載の液体組成物。
【0022】
|13|液体組成物が、
iii)UV安定剤、表面活性物質、低沸点溶媒、pH調整剤、架橋剤、レオロジー調整剤、またはこれらの添加剤の少なくとも2つの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの添加剤
をさらに含む、実施形態|1|~|12|のいずれかに記載の液体組成物。
【0023】
|14|低沸点溶媒はエタノールである、実施形態|13|に記載の液体組成物。
【0024】
|15|液体組成物が、低沸点溶媒、好ましくはエタノールを、各々の場合において液体組成物の総重量に基づいて、10~90重量%、より好ましくは20~85重量%、最も好ましくは30~80重量%の量で含む、実施形態|13|または|14|に記載の液体組成物。
【0025】
|16|UV安定剤は没食子酸、没食子酸の誘導体またはそれらの混合物である、実施形態|13|~|15|のいずれかに記載の液体組成物。
【0026】
|17|没食子酸の誘導体は没食子酸および糖のエステルである、実施形態|16|に記載の液体組成物。
【0027】
|18|没食子酸の誘導体はガロタンニンである、実施形態|17|に記載の液体組成物。
【0028】
|19|ガロタンニンはタンニン酸である、実施形態|18|に記載の液体組成物。
【0029】
|20|没食子酸の誘導体は没食子酸のアルキルエステル、アルケニルエステル、シクロアルキルエステル、シクロアルケニルエステルまたはアリールエステルである、実施形態|16|に記載の液体組成物。
【0030】
|21|エステルは、エステルのアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基またはアリール基中に1~15個のC原子、好ましくは1~6個のC原子を有する、実施形態|20|に記載の液体組成物。
【0031】
|22|エステルは没食子酸メチル、没食子酸エチル、没食子酸プロピルまたはこれらのエステルの少なくとも2つの混合物である、実施形態|21|に記載の液体組成物。
【0032】
|23|架橋剤は、オルトケイ酸テトラアルキルである、実施形態|13|~|22|のいずれかに記載の液体組成物。
【0033】
|24|オルトケイ酸テトラアルキルは、オルトケイ酸テトラメチル、オルトケイ酸テトラエチル、オルトケイ酸テトラプロピル、オルトケイ酸テトラブチル、オルトケイ酸テトラペンチル、オルトケイ酸、これらのオルトケイ酸塩の少なくとも部分的に加水分解された生成物、およびこれらのオルトケイ酸塩の少なくとも2つの混合物からなる群から選択される、実施形態|23|に記載の液体組成物。
【0034】
|25|オルトケイ酸テトラアルキルはオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)である、実施形態|24|に記載の液体組成物。
【0035】
|26|液体組成物が、ポリチオフェンとポリアニオン、好ましくはPEDOT/PSSとの複合体i)を、各々の場合において液体組成物の総重量に基づいて、0.001~2.5重量%、より好ましくは0.005~1.0重量%、最も好ましくは0.01~0.5重量%の量で含む、実施形態|1|~|25|のいずれかに記載の液体組成物。
【0036】
|27|液体組成物は、各場合において、液体組成物の総重量に基づいて、10~98重量%の範囲、好ましくは20~97重量%の範囲、より好ましくは30~96重量%の範囲、およびさらにより好ましくは40~95重量%の範囲の量の水iia)を含む、実施形態|1|~|26|のいずれかに記載の液体組成物。
【0037】
|28|液体組成物が、少なくとも1つの有機溶媒iib)を、各々の場合において液体組成物の総重量に基づいて10重量%未満、好ましくは8.5重量%未満、およびより好ましくは7重量%未満の量で含む、実施形態|1|~|27|のいずれかに記載の液体組成物。2つ以上の有機溶媒iib)の場合、これらの量は、有機溶媒iib)の総量を定義する。
【0038】
|29|液体組成物で調製された乾燥層は、少なくとも1×10Ω/sq、好ましくは少なくとも5×10Ω/sq、およびより好ましくは少なくとも1×10Ω/sqのシート抵抗を有する、実施形態|1|~|28|のいずれかに記載の液体組成物。
【0039】
|30|液体組成物で調製された乾燥層は、少なくとも98%、好ましくは少なくとも98.5%、より好ましくは少なくとも99%、最も好ましくは少なくとも99.5%の内部透過率を有する、実施形態|1|~|29|のいずれかに記載の液体組成物。
【0040】
|31|液体組成物で調製された乾燥層は、少なくとも6H、好ましくは少なくとも7H、より好ましくは少なくとも8H、最も好ましくは少なくとも9Hの鉛筆硬度を有する、実施形態|1|~|30|のいずれかに記載の液体組成物。
【0041】
|32|液体組成物のpHは2.5以上であり、より好ましくはpHは2.5~6の範囲、さらにより好ましくは2.5~5の範囲、最も好ましくは2.5~4の範囲であり、pHは25℃の温度で決定される、実施形態|1|~|31|のいずれかに記載の液体組成物。
【0042】
|33|層状体の製造方法であって、以下のプロセスステップ:
A)基材を提供するステップ;
B)実施形態|1|~|32|のいずれかに記載の液体組成物をこの基材上に適用するステップ;
C)液体組成物から液相ii)を少なくとも部分的に除去して、基材上にコーティングされた導電層を含む層状体を得るステップ
を含む、方法。
【0043】
|34|プロセスステップB)における液体組成物の適用は、スロットダイコーティング、スプレーまたはインクジェット印刷によって行われる、実施形態|33|に記載の方法。
【0044】
|35|実施形態|34|に記載の方法によって得ることができる層状体。
【0045】
|36|層状体の導電層は、以下の特性(α1)~(α3)のうちの少なくとも1つによって、好ましくはこれらの特性の全てによって特徴付けられる、実施形態|35|に記載の層状体:
(α1)少なくとも1×10Ω/sq、好ましくは少なくとも5×10Ω/sq、より好ましくは少なくとも1×10Ω/sqのシート抵抗;
(α2)少なくとも98%、好ましくは少なくとも98.5%、より好ましくは少なくとも99%、最も好ましくは少なくとも99.5%の内部透過率;
(α3)少なくとも6H、好ましくは少なくとも7H、より好ましくは少なくとも8H、最も好ましくは少なくとも9Hの鉛筆硬度。
【0046】
|37|帯電防止コーティングもしくは電磁放射線シールドの製造のため、または有機発光ダイオード(OLED)もしくは有機光起電性(OPV)素子もしくは有機光検出器(OPD)中の正孔輸送層の調製のための、実施形態|1|~|32|のいずれかに記載の液体組成物の使用。
【0047】
上記の目的を達成するための寄与は、以下を含む液体組成物によってなされる。
i)ポリチオフェンとポリアニオンとの複合体を含む粒子;
ii)液相、液相は、
iia)水と
iib)以下
- 1013mbarの圧力で測定して110~250℃の範囲、好ましくは120~225℃の範囲および最も好ましくは130~200℃の範囲の沸点、ならびに
- 25℃で測定して少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも25重量%、より好ましくは少なくとも50重量%、および最も好ましくは少なくとも90重量%の水に対する溶解性;
を有する少なくとも1種の有機溶媒
とを含む;
を含み、
液相は、共沸混合物であるか、または共沸混合物を形成することができる。
【0048】
本発明に係る液体組成物の好ましい実施形態によれば、液体組成物は、液相ii)中に粒子i)が分散されている分散体である。
【0049】
本発明の意味で「共沸混合物を形成することができる」液相は、加熱すると、組成物が共沸混合物である点に到達する液相である。好ましくは、加熱すると組成物が共沸混合物である点に到達するのは、水および高沸点溶媒からなる液相である。
【0050】
「25℃で測定した水に対する溶解性が少なくとも10重量%」とは、25℃の温度で少なくとも10gの有機溶媒iib)を100gの水iiaに溶解することができる場合に示される。
【0051】
驚くべきことに、水性分散体の乾燥速度を遅くする目的で、水性PEDOT/PSS分散体に高沸点有機溶媒を添加することによって、水と共沸混合物を形成することができる高沸点有機溶媒を使用する場合、シート抵抗の望ましくない増加を回避することができることが発見された。
【0052】
本発明による液体組成物は、成分i)として、ポリチオフェンおよびポリアニオンを含む粒子を含む。この文脈において、一般式
【化1】
を有するポリチオフェンが特に好ましく、式中、
Aは、置換されていてもよいC~Cアルキレンラジカルを表し、
Rは、直鎖状または分岐状の、任意に置換されたC~C18アルキルラジカル、任意に置換されたC~C12シクロアルキルラジカル、任意に置換されたC~C14アリールラジカル、任意に置換されたC~C18アラルキルラジカル、任意に置換されたC~Cヒドロキシアルキルラジカルまたはヒドロキシルラジカルを表し、0~8のラジカルRは、Aに結合することができ、1つ以上のラジカルの場合、同一または異なっていてもよい。
【0053】
ポリチオフェンは、好ましくは、それぞれの場合において、末端基上にHを担持する。
【0054】
本発明の文脈において、C~CアルキレンラジカルAは、好ましくはメチレン、エチレン、n-プロピレン、n-ブチレンまたはn-ペンチレンである。C~C18アルキルRは、好ましくは、直鎖状または分岐C~C18アルキルラジカル、例えばメチル、エチル、n-またはイソ-プロピル、n-、イソ-、sec-またはtert-ブチル、n-ペンチル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、1-エチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、1,2-ジメチルプロピル、2,2-ジメチルプロピル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ヘキサデシルまたはn-オクタデシル、C~C12シクロアルキルラジカルを表す。Rは、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニルまたはシクロデシル、C~C14アリールラジカルを表す。Rは、例えば、フェニルまたはナフチル、およびC~C18アラルキルラジカルを表す。Rは、例えば、ベンジル、o-、m-、p-トリル、2,3-、2,4-、2,5-、2,6-、3,4-、3,5-キシリルまたはメシチルを表す。前述のリストは、例として本発明を説明するために役立ち、決定的であると考えられるべきではない。
【0055】
本発明の文脈において、多数の有機基が、ラジカルAおよび/またはラジカルRのさらなる置換基として任意に可能であり、例えば、アルキル、シクロアルキル、アリール、アラルキル、アルコキシ、ハロゲン、エーテル、チオエーテル、ジスルフィド、スルホキシド、スルホン、スルホネート、アミノ、アルデヒド、ケト、カルボン酸エステル、カルボン酸、カーボネート、カルボキシレート、シアノ、アルキルシランおよびアルコキシシラン基およびカルボキサミド基である。
【0056】
Aが置換されていてもよいC~Cアルキレンラジカルを表すポリチオフェンが、特に好ましい。ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)は、ポリチオフェンとして非常に特に好ましい。
【0057】
ポリチオフェンは、中性またはカチオン性であり得る。好ましい実施形態では、それらは、カチオン性であり、「カチオン性」は、ポリチオフェン主鎖上の電荷のみに関する。ポリチオフェンは、ラジカルR上の置換基に依存して、構造単位中で正および負の電荷を担持することができ、正電荷はポリチオフェン主鎖上にあり、負電荷は、場合により、スルホネートまたはカルボキシレート基によって置換されたラジカルR上にある。これに関連して、ポリチオフェン主鎖の正電荷は、ラジカルR上に任意に存在するアニオン性基によって部分的または完全に満たされ得る。全体として、これらの場合、ポリチオフェンは、カチオン性、中性またはさらにアニオン性であり得る。それにもかかわらず、本発明の文脈においては、ポリチオフェン主鎖上の正電荷が決定因子であるので、それらは全てカチオン性ポリチオフェンとみなされる。正電荷は、それらの正確な数および位置を絶対的に決定することができないので、式には示されない。しかしながら、正電荷の数は、少なくとも1および多くてもnであり、nは、ポリチオフェン内のすべての繰り返し単位(同一または異なる)の総数である。
【0058】
ポリチオフェンの正電荷の補償のために、ポリチオフェンを含む粒子i)は、さらに、好ましくは酸基で官能化されたポリマーに基づくポリアニオンを含む。ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸もしくはポリマレイン酸などのポリマーカルボン酸の、またはポリスチレンスルホン酸およびポリビニルスルホン酸などのポリマースルホン酸のアニオンが、特にポリアニオンとして可能である。これらのポリカルボン酸およびポリスルホン酸はまた、ビニルカルボン酸およびビニルスルホン酸の、アクリル酸エステルおよびスチレンなどの他の重合性モノマーとのコポリマーであり得る。さらに可能であるポリアニオンは、過フッ素化コロイド形成ポリアニオンであり、これらは、例えば、Nafion(登録商標)の名称で商業的に入手可能である。酸基で官能化され、ポリアニオンを供給するポリマーの分子量は、好ましくは1000~2,000,000、特に好ましくは2000~500,000である。酸基またはそれらのアルカリ金属塩で官能化されたポリマーは、商業的に入手可能であり、例えば、ポリスチレンスルホン酸およびポリアクリル酸であるか、または公知のプロセスによって調製することができる(例えば、Houben Weyl,Methoden der organischen Chemie,vol.E 20 Makromolekulare Stoffe,part 2,(1987),p.1141 et seq.を参照されたい)。特に好ましいポリアニオンは、ポリスチレンスルホン酸のアニオンである。
【0059】
粒子i)は、ポリチオフェンとポリアニオンとの複合体、特に好ましくはPEDOT/PSS複合体を含む。このような錯体は、チオフェンモノマー、好ましくは3,4-エチレンジオキシチオフェンを、ポリアニオンの存在下で好ましくは水溶液中で酸化的に重合することにより、好ましくは、ポリスチレンスルホン酸のアニオンの存在下で3,4-エチレン-ジオキシチオフェンを酸化的に重合することにより得られる。
【0060】
ポリチオフェンとポリアニオンとの複合体を含む粒子i)の重量平均直径(d50)は、典型的には10nm~2000nmの範囲、より好ましくは20nm~500nmの範囲、さらに好ましくは25nm~50nmの範囲である。直径分布のd50値は、すべての粒子i)の総重量の50%を、d50値以下の直径を持つ当該粒子に割り当てることができることを示している(d50値は重量平均粒子径を表す)。水溶液中に分散したPEDOT/PSS粒子の場合と同様に、粒子は通常膨潤したゲル粒子の形成で存在し、上記の粒径は膨潤したゲル粒子の粒径を指し、超遠心分離測定によって決定される。
【0061】
本発明による液体組成物の好ましい実施形態によれば、液体組成物は、ポリチオフェンとポリアニオンとの複合体i)、好ましくはPEDOT/PSSを、各場合において液体組成物の総重量に基づいて0.001~2.5重量%、より好ましくは0.005~1.0重量%、最も好ましくは0.01~0.5重量%の量で含む。
【0062】
本発明による液体組成物は、成分ii)として、液相を含み、液相は、水iia)と、1013mbarの圧力で決定して、110~250℃の範囲、好ましくは120~225℃の範囲および最も好ましくは130~200℃の範囲の沸点を有し、25℃で決定して少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも25重量%、より好ましくは少なくとも50重量%、および最も好ましくは少なくとも90重量%の水溶解度を有する少なくとも1つの有機溶媒iib)とを含み、液相は共沸混合物であるか、または共沸混合物を形成することができる。
【0063】
本発明によれば、さらに好ましくは、有機溶媒iib)は、アルコール、エーテル、好ましくはジグリム、または混合物であり、したがって、より好ましくは、エチルグリコール(すなわち、2-エトキシエタノール)、ブチルグリコール(すなわち、2-ブトキシエタノール)、ジアセトンアルコール(すなわち、4-ヒドロキシ-4-メチルペンタン-2-オン)、またはこれらのアルコールと最も好ましくはジアセトンアルコールとの混合物からなる群から選択されるアルコールである。
【0064】
本発明に係る液体組成物の好ましい実施形態によれば、液体組成物は、さらに以下を含む。
iii)UV安定剤、界面活性物質、低沸点溶媒、pH調整剤、架橋剤、レオロジー調整剤、またはこれらの添加剤の少なくとも2つの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの添加剤。
【0065】
少なくとも1つのさらなる添加剤ii)として存在することができるUV安定剤は、没食子酸、没食子酸の誘導体またはそれらの混合物であることが好ましい。没食子酸の特に好ましい誘導体は、しばしばタンニンまたはガロタンニンと呼ばれる没食子酸および糖のエステルである(Roempp Chemie、第10版(1999)、4391頁を参照されたい)。没食子酸アルキルエステル、アルケニルエステル、シクロアルキルエステル、シクロアルケニルエステルおよび没食子酸のアリールエステルのさらに好ましい誘導体は、好ましくは、エステルのアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基またはアリール基中に1~15個のC原子、好ましくは1~6個のC原子を有するものである。没食子酸の最も好ましい誘導体は、タンニン酸などのガロタンニン、または没食子酸メチル、没食子酸エチル、没食子酸プロピルなどの没食子酸のアルキルエステル、またはこれらのエステルの少なくとも2つの混合物である。
【0066】
本発明による液体組成物の好ましい実施形態によれば、液体組成物は、没食子酸、没食子酸の誘導体またはそれらの混合物、好ましくはガロタンニン、より好ましくはタンニン酸を、各場合において液体組成物の総重量に基づいて0.0001~5重量%、より好ましくは0.001~2.5重量%、最も好ましくは0.01~1重量%の量で含む。液体組成物が成分iii)として没食子酸およびその誘導体の混合物、または没食子酸の少なくとも2つの誘導体の混合物を含む場合、上記の量は、これらの成分の総量を表す。
【0067】
少なくとも1つのさらなる添加剤iii)として存在することができる架橋剤は、好ましくは、テトラアルキルオルトシリケートである。好ましいテトラアルキルオルトシリケートは、テトラメチルオルトシリケート、テトラエチルオルトシリケート、テトラプロピルオルトシリケート、テトラブチルオルトシリケート、テトラペンチルオルトシリケート、これらのオルトシリケートの少なくとも部分的に加水分解された生成物およびこれらのオルトシリケートの少なくとも2つの混合物からなる群から選択され、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)の使用が特に好ましい。
【0068】
本発明による液体組成物の好ましい実施形態によれば、液体組成物は、各場合において、液体組成物の総重量に基づいて、0.01~15重量%、より好ましくは0.1~10重量%、最も好ましくは1~5重量%の量のテトラアルキルオルトシリケート、好ましくはTEOSを含む。液体組成物が成分iii)として2つ以上のテトラアルコキシシランの混合物を含む場合、上記の量は、これらの成分の総量を表す。
【0069】
本発明の意味において、少なくとも1つのさらなる添加剤iii)として存在することができる「低沸点溶媒」は、1013mbarの圧力で決定して、100℃未満、好ましくは90℃未満、およびより好ましくは80℃未満の沸点を有する溶媒である。好ましい低沸点溶媒は、エタノールである。これに関連して、液体組成物は、低沸点溶媒、好ましくはエタノールを、各場合において液体組成物の総重量に基づいて、10~90重量%、より好ましくは20~85重量%、最も好ましくは30~80重量%の量で含むことも好ましい。
【0070】
これに関連して、本発明による液体組成物中の体積比水:エタノールは、1:1~1:25の範囲、好ましくは1:2~1:20の範囲、より好ましくは1:3~1:10の範囲であることも好ましい。混合前に個々の成分について体積を測定する。
【0071】
少なくとも1つのさらなる添加剤iii)として使用することができる適切な表面活性物質は、例えば、アニオン性界面活性剤、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸および塩、パラフィンスルホネート、アルコールスルホネート、エーテルスルホネート、スルホスクシネート、リン酸エステル、アルキルエーテルカルボン酸またはカルボキシレート、カチオン性界面活性剤、例えば、第四級アルキルアンモニウム塩、非イオン系界面活性剤、例えば、直鎖アルコールエトキシラート、オキソアルコールエトキシラート、アルキルフェノールエトキシラートまたはアルキルポリグルコシド、特に商標Dynol(登録商標)およびZonyl(登録商標)で市販されている界面活性剤である。
【0072】
本発明に係る液体組成物の粘度は、10~100mPa×s(レオメーターを用いて20℃、せん断速度100s-1で測定して)であることが好ましい。より好ましくは、粘度は、1~10mPa×s、特に好ましくは2~5mPa×sである。粘度の調整は、例えば、さらなる添加剤iii)として適切なレオロジー改質剤を添加することによって達成することができる。
【0073】
本発明による液体組成物の好ましい実施形態によれば、液体組成物のpHは2.5以上であり、より好ましくは、pHは、2.5~6の範囲、さらにより好ましくは2.5~5の範囲、最も好ましくは2.5~4の範囲であり、pHは25℃の温度で決定される。pHは、さらなる添加剤iii)として有機酸または無機酸などの適切なpH調整剤を液体組成物に添加することによって調整することができる。適切な酸は、無機酸、例えば硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ケイ酸、もしくはこれらの無機酸の少なくとも2つの混合物、または有機酸、例えば酢酸、ギ酸、安息香酸、p-トルエンスルホン酸、PSS、もしくはこれらの有機酸の少なくとも2つの混合物、またはこれらの無機酸の少なくとも1つとこれらの有機酸の少なくとも1つとの混合物である。
【0074】
本発明に係る液体組成物は、さらに
iv)ポリチオフェンおよびポリアニオンとは異なる少なくとも1つのさらなるポリマー
を含んでもよく、
この少なくとも1つのさらなるポリマーiv)は、好ましくは、結合剤として作用する。適切な結合剤は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリ酪酸ビニル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸エステル、ポリメタクリルアミド、ポリアクリロニトリル、スチレン/アクリルエステル、酢酸ビニル/アクリルエステル、エチレン/酢酸ビニルコポリマー、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリスチレン、ポリエーテル、ポリエステル、スルホン化ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シラン樹脂、セルロースまたはこれらの結合剤の少なくとも2つの混合物からなる群から選択される。さらなる有用なポリマー結合剤は、好ましくはまた、架橋剤、例えばメラミン化合物、キャップドイソシアネートまたは官能性シラン、例えば3-グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、テトラエチルオルトシリケートおよびテトラエチルオルトシリケート加水分解物を、架橋可能なポリマー、例えばポリウレタン、ポリアクリレートまたはポリオレフィンに添加し、その後架橋させることによって得られるものである。スルホン化ポリエステルのような水溶性結合剤が、特に好ましい。
【0075】
本発明による液体組成物の好ましい実施形態によれば、液体組成物は、各場合において、液体組成物の総重量に基づいて、10~98重量%の範囲、好ましくは20~97重量%の範囲、より好ましくは30~96重量%の範囲、およびさらにより好ましくは40~95重量%の範囲の量の水iia)を含む。
【0076】
本発明による液体組成物のさらなる好ましい実施形態によれば、液体組成物は、少なくとも1つの有機溶媒iib)、好ましくはエチルグリコール、ブチルグリコール、ジアセトンアルコールまたはそれらの混合物、より好ましくはジアセトンアルコールを、各場合において液体組成物の総重量に基づいて10重量%未満、好ましくは8.5重量%未満、およびより好ましくは7重量%未満の量で含む。2つ以上の有機溶媒iib)の場合、これらの量は、有機溶媒iib)の総量を定義する。
【0077】
本発明に係る液体組成物で調製される乾燥層は、好ましくは、少なくとも1×10Ω/sq、好ましくは少なくとも5×10Ω/sqおよびより好ましくは少なくとも1×10Ω/sqのシート抵抗を有する。
【0078】
本発明による液体組成物で調製される乾燥層は、好ましくは、少なくとも98%、好ましくは少なくとも98.5%、より好ましくは少なくとも99%、最も好ましくは少なくとも99.5%の内部透過率を有する。
【0079】
本発明による液体組成物で調製される乾燥層は、好ましくは、少なくとも6H、好ましくは少なくとも7H、より好ましくは少なくとも8H、最も好ましくは少なくとも9Hの鉛筆硬度を有する。
【0080】
上記の目的を達成することに向けた寄与は、また、以下のプロセスステップ:
A)基材を提供するステップ;
B)本発明による液体組成物をこの基材上に適用するステップ;
C)液体組成物から液相ii)を少なくとも部分的に除去して、基材上にコーティングされた導電層を含む層状体を得るステップ
を含む、層状体の製造方法によってなされる。
【0081】
プロセスステップA)において、基材が最初に提供され、基材の性質は、本発明による組成物が使用される意図される目的に依存する。好適な基材としては、フィルム、特に好ましくはポリマーフィルム、極めて特に好ましくは熱可塑性ポリマーのポリマーフィルム、またはガラス板が挙げられる。
【0082】
プロセスステップB)において、本発明による液体組成物を、次いで基材上に適用し、公知のプロセス、例えば、スピンコーティング、含浸、注入、滴下、噴霧、霧塗り、ナイフコーティング、スロットダイコーティング、刷毛塗りまたは印刷、例えば、インクジェット、スクリーン、グラビア、オフセットまたはタンポン印刷、好ましくはスロットダイコーティング、噴霧またはインクジェット印刷によって、例えば、0.5μm~250μmの湿潤膜厚さ、好ましくは2μm~50μmの湿潤膜厚さで、この適用を行うことが可能である。
【0083】
プロセスステップC)において、液相ii)の少なくとも一部を、次いで液体組成物から除去して、基材上にコーティングされた導電層を含む層状体を得、この除去は、好ましくは、組成物でコーティングされた基材の20℃~200℃の範囲の温度での乾燥によって行われる。
【0084】
上述の目的を達成するための寄与はまた、上述のプロセスによって得ることができる層状体によってなされる。これに関連して、層状体の導電層は、以下の特性(α1)~(α3)のうちの少なくとも1つによって、好ましくはこれらの特性の全てによって特徴付けられることが特に好ましい:
(α1)少なくとも1×10Ω/sq、好ましくは少なくとも5×10Ω/sq、より好ましくは少なくとも1×10Ω/sqのシート抵抗;
(α2)少なくとも98%、好ましくは少なくとも98.5%、より好ましくは少なくとも99%、最も好ましくは少なくとも99.5%の内部透過率;
(α3)少なくとも6H、好ましくは少なくとも7H、より好ましくは少なくとも8H、最も好ましくは少なくとも9Hの鉛筆硬度。
【0085】
上述の目的を達成するための寄与はまた、本発明による液体組成物、または基材および基材上にコーティングされた導電層を含む層状体の製造のための本発明による方法によって得ることができる液体組成物の使用によってなされる。
【0086】
本発明による液体組成物で調製することができる層状体は、電子部品として、特に導電性または帯電防止手段として、透明加熱として、または電極としての使用に顕著に適している。それらは、有利には、透明であり得る。
【0087】
これらの層状体は、電子部品として、例えば、フィルム、電子部品のパッケージング、プラスチックのフィルムの仕上げ、および画面のコーティングにも使用することができる。さらに、それらは、透明電極として、例えば、ディスプレイにおいて、例えば、インジウム-酸化インジウムスズ電極の代替物として、またはポリマーエレクトロニクスにおける電気導体として使用することができる。さらなる可能性のある使用は、センサー、バッテリー、太陽電池、エレクトロクロミックウィンドウ(スマートウィンドウ)およびディスプレイおよび腐食防護である。
【0088】
本発明による液体組成物で得られるコーティングの低い導電性、高いUV安定性および高い抵抗引っかき傷性を考慮すると、これらの液体組成物は、帯電防止コーティングまたは電磁放射線シールドの製造に特に有用である。それらはさらに、有機発光ダイオード(OLED)または有機光起電性(OPV)素子または有機光検出器(OPD)における正孔輸送層の調製に特に有用である。
【0089】
ここで、本発明を、非限定的な実施例の補助で詳細に説明する。
【0090】
試験方法
シート抵抗の決定
シート抵抗は、リングプローブURS RMH214を搭載したHigh Resistivity Meter Model Hiresta - UX(Model MCP-HT 800)で測定した。測定は、100Vで行った。
【0091】
鉛筆硬度
コーティングの鉛筆硬度は、ISO 15184に従ってガラス板上に堆積したコーティングを横断して種々の硬度のさまざまな鉛筆を滑らせることによって行われる。コーティング上の鉛筆跡の可能な影響は、眼によって評価される。
【0092】
透過
コーティングされた基材の内部透過を、2チャネル分光計(Lambda900,PerkinElmer)で決定する。ここで散乱光の干渉を除外するために、試料は、光度計球(Ulbricht球)で測定され、その結果、散乱光および透過光が、光検出器によって検出される。したがって、透過は、コーティングおよび基材の吸収を意味すると理解される。純粋な基材の透過を、最初に測定する。厚さ175μmのMelinex 506フィルムを、基材として使用する。その後、コーティングされた基材を測定する。透過スペクトルは、可視光の範囲、すなわちステップ幅5nmで320nm~780nmで記録される。
【0093】
試料の標準色値Yは、10°オブザーバ角および光タイプD65を基準として、DIN 5033に従ったスペクトルから計算される。内部透過率は、コーティング(Y)を有する基材とコーティングを有さない基材(Y)との標準色値の比から計算される。内部透過率は、Y/Y×100に相当する(%)。簡潔にするために、以下では透過率のみを参照する。
【実施例
【0094】
実施例1
Clevios P VP CH 8000(Heraeus)(PEDOT/PSS重量比1:20;固形分:2.8重量%)を、表1に示すように種々の量の種々の溶媒と混合した(全て水に完全に可溶性)。例えば、試料2を得るために、95gのClevios P VP CH 8000を、5gのブチルグリコールと混合し、10分間撹拌した。分散体を、ノズル詰まりに関して試験した。試料をガラス基材上にスピンコートし、200℃で15分間乾燥した。シート抵抗を測定した。表1はその結果を要約したものである。本発明の試料2、3、4、5および6は、参照試料7および8と比較される。
【0095】
【表1】
【0096】
水と共沸混合物を形成する高沸点溶媒のみが、CH 8000フィルムの抵抗率を著しく変化させず、一方DMSOまたはエチレングリコールは変化させる。
【0097】
実施例2
タンニン酸0.1gを、エタノール84gに溶解する。12.6gのClevios P(Heraeus)を、250mlのガラスビーカーに入れる。タンニン酸のエタノール溶液を、撹拌下、Clevios P分散体に添加する。3.1gのテトラエチルオルトシリケートを、混合物に添加する。pHを、3.3に調整する。種々の量の追加の溶媒(表2に示される通り)を、分散体に添加した。混合物を、室温で30分間撹拌する。
【0098】
湿潤膜厚12μmのフィルムを、ワイヤーバーを用いて無アルカリガラス上に堆積し、続いて120℃で20分間乾燥させる。結果を表2に示す。本発明試料10および11は、参照試料9および12~16と比較される。
【0099】
【表2】
【0100】
実施例3
Clevios P VP CH 8000を、3.24%固形分に濃縮した。種々の高沸点溶媒を、この「Clevios CH8000濃縮物」(PEDOT/PSS-重量比1:20;固形分:3.24重量%)に、種々の量で添加した。試料をガラス基材上にスピンコートし、200℃で15分間乾燥した。シート抵抗は、表3に示すように決定した。試料の層厚は、200nmであった。
【0101】
【表3】
【0102】
本発明試料18~24は、参照試料17と比較される。