(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】固形筆記体
(51)【国際特許分類】
C09D 13/00 20060101AFI20230404BHJP
B43K 19/00 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
C09D13/00
B43K19/00 D
(21)【出願番号】P 2022020159
(22)【出願日】2022-02-14
(62)【分割の表示】P 2018010512の分割
【原出願日】2018-01-25
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】山田 亮
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1199150(KR,B1)
【文献】特開平10-114624(JP,A)
【文献】特開平08-302269(JP,A)
【文献】特開平06-033010(JP,A)
【文献】特開2017-165968(JP,A)
【文献】特開2006-241371(JP,A)
【文献】特開2012-092245(JP,A)
【文献】特開2005-023182(JP,A)
【文献】特開2017-043773(JP,A)
【文献】特開2014-118422(JP,A)
【文献】国際公開第2010/125854(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 13/00
B43K 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、着色剤と、グリセリンと、炭素数が12~20の範囲内である飽和脂肪酸アルカリ金属塩と、ショ糖飽和脂肪酸エステルとを少なくとも含んでなり、グリセリンの含有量に対するショ糖飽和脂肪酸エステルの含有量が質量基準で0.1倍~0.5倍である、固形筆記体。
【請求項2】
前記飽和脂肪酸アルカリ金属塩の含有量が固形筆記体全量に対して1~30質量%である、請求項1に記載の固形筆記体。
【請求項3】
前記飽和脂肪酸アルカリ金属塩の含有量が固形筆記体全量に対して5~25質量%である、請求項2に記載の固形筆記体。
【請求項4】
前記ショ糖飽和脂肪酸エステルがショ糖と直鎖飽和脂肪酸とのエステルであり、前記直
鎖飽和脂肪酸の有する炭素数が14~22の範囲内である、請求項1~3のいずれか1項に記載の固形筆記体。
【請求項5】
前記ショ糖飽和脂肪酸エステルが、炭素数が14~22の範囲内である直鎖飽和脂肪酸
とショ糖とのモノエステルを含む、請求項4に記載の固形筆記体。
【請求項6】
前記ショ糖飽和脂肪酸エステルが、さらに1~16のHLB値を有する、請求項5に記載の固形筆記体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形筆記体に関するものである。さらに詳しくは、筆記感や筆跡形成性に優
れ、強い筆記圧で筆記した際に筆記カスの発生や筆跡の紙面裏抜けを抑制可能な固形筆記
体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からクレヨン、パステル等の固形筆記体が知られ、扱いが簡便であることから幼児
から大人まで幅広い年齢層に利用されている。これらの固形筆記体は、着色剤とワックス
、ゲル化剤等の賦形剤の他、溶剤や体質材(体質顔料)を含むことによって、筆記の際、
固形筆記体が容易に折損せずに滑らかな筆記感や発色性に優れる筆跡を得ることを可能に
している。(特許文献1~2)
【0003】
特許文献1には、顔料と、樹脂と、ワックスと、体質材とを含有する固形描画剤が記載
されている。この固形描画剤(固形筆記体)は、特定の樹脂およびワックスを用いること
によって、滑らかな書き味を有し、平滑な非浸透面に対して格段に濃い筆跡を形成可能と
されたものである。
【0004】
しかしながら、前記固形筆記体は靱性が高く、筆記の際に筆記先端が一様に摩耗しにく
いため、緻密で鮮明な筆跡が得られにくく、また、上記樹脂やワックスは付着力が高いた
め、紙面に筆記する際には筆記先端が筆記面へ密着して、書き味が重くなることがあった
。
【0005】
一方、特許文献2には、蓄光顔料と、ゲル化剤と、水溶性有機溶剤及び水とを含む固形
描画剤(固形筆記体)が記載されている。前記固形筆記体は、筆跡の滲みが少ない固形筆
記体とされたものである。
【0006】
前記固形筆記体はゲル化剤同士が結合することによって形成する網の目状のゲル化剤分
子を骨格として、その中に水溶性有機溶剤及び水を含んだ構造を有する。前記構造は摩擦
を受けると崩れやすく、その際に骨格から水溶性有機溶剤及び水が放出されて摩擦面の潤
滑剤として作用することから、筆記の際に筆記先端は紙面に密着することなく容易に摩耗
し、軽く滑らかな筆記感を奏しつつ緻密で鮮明な筆跡を形成しやすい。
【0007】
しかしながら、上記構造は容易に崩れるものであるがために強く筆記した際には筆記先
端が損壊して筆記カスを形成しやすく、また、上記構造は圧力が加わると骨格内の水溶性
有機溶剤及び水が容易に骨格の中から押し出されるため、筆記先端を強く紙面に押し当て
て筆記した際には、水や水溶性有機溶剤が筆記先端より滲出して、紙の繊維間を浸透し、
筆跡の紙面裏抜けが生じることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許6166507号公報
【文献】特許4327569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、紙面に筆記した際に軽く滑らかな筆記感を奏しつつ緻密で鮮明な筆跡を形成
可能であり、高い筆記圧で筆記した場合においても筆記カスの発生を抑え、筆跡の紙面裏
抜け発生を抑制可能な固形筆記体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するために、
「1.着色剤と、水と、グリセリンと、炭素数が12~20の範囲内である飽和脂肪
酸アルカリ金属塩と、ショ糖飽和脂肪酸エステルとを少なくとも含んでなり、グリセリンの含有量に対するショ糖飽和脂肪酸エステルの含有量が質量基準で0.1倍~0.5倍である、固形筆記体。
2.前記飽和脂肪酸アルカリ金属塩の含有量が固形筆記体全量に対して1~30質量%である、第1項に記載の固形筆記体。
3.前記飽和脂肪酸アルカリ金属塩の含有量が固形筆記体全量に対して5~25質量%である、第2項に記載の固形筆記体。
4.前記ショ糖飽和脂肪酸エステルがショ糖と直鎖飽和脂肪酸とのエステルであり、前
記直鎖飽和脂肪酸の有する炭素数が14~22の範囲内である、第1項~第3項のいずれか1項に記載の固形筆記体。
5.前記ショ糖飽和脂肪酸エステルが、炭素数が14~22の範囲内である直鎖飽和脂
肪酸とショ糖とのモノエステルを含む、第4項に記載の固形筆記体。
6.前記ショ糖飽和脂肪酸エステルが、さらに1~16のHLB値を有する、第5項に記載の固形筆記体。」とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、紙面に筆記した際に軽く滑らかな筆記感を奏しつつ緻密で鮮明な筆跡
を形成可能であり、高い筆記圧で筆記した場合においても筆記カスの発生を抑え、強い筆
記圧で筆記した際に筆跡の紙面裏抜けを抑制可能な固形筆記体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合
を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準である。
【0013】
本発明による固形筆記体(以下、場合により「筆記体」と表すことがある。)は、着色
剤と、水と、グリセリンと、炭素数が12~20の範囲内である飽和脂肪酸アルカリ金属塩と、ショ糖飽和脂肪酸エステルとを少なくとも含んでなる。以下、本発明による固形筆記体を構成する各成分について説明する。
【0014】
(着色剤)
本発明に用いられる着色剤は、従来知られている染料、顔料から任意に選択することが
でき、いずれも好ましく用いることができる。具体的には、染料として、酸性染料、塩基
性染料、直接染料、反応染料、バット染料、硫化染料、含金染料、カチオン染料、分散染
料が挙げられ、顔料としては、無機顔料、有機顔料、光輝性顔料、および熱変色性カプセ
ル顔料が挙げられる。
顔料をより具体的に挙げると、無機顔料としては、カーボンブラックや酸化チタン、酸
化亜鉛、鉄黒、黄色酸化鉄、弁柄、複合酸化物系顔料等の金属酸化物、および群青などが
、また有機顔料としてはアゾ系顔料、インジゴ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリ
ドン系顔料、チオインジゴ系顔料、スレン系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、フ
タロン系顔料、ジオキサン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体系顔料、メチン・
アゾメチン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料などが挙げられ、光沢のある光輝性顔料
としては、アルミニウム顔料やガラスフレーク顔料などが挙げられる。
上記顔料は、溶媒に分散させ、顔料分散体としたものでも良い。本発明に用いられる顔
料分散体としては、例えば、SPシリーズ(冨士色素株式会社製)、SANDYESUP
ERCOLOURシリーズ(山陽色素株式会社製)、EMACOLシリーズ(山陽色素株
式会社製)、ルミコールシリーズ(日本蛍光化学株式会社製)MICROPIGMOシリ
ーズ、(オリヱント化学工業株式会社製)、WAシリーズ(大日精化工業株式会社製)な
どが挙げられる。
なお、このような顔料は、顔料表面が酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、およ
び酸化ジルコニウムなどの金属酸化物、二酸化ケイ素などの無機酸化物、および脂肪酸な
どで被覆処理されたものであってもよい。
【0015】
また、熱変色性カプセル顔料としては(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子
受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体からなる可逆熱変
色性組成物が好適であり、マイクロカプセルに内包させて可逆熱変色性マイクロカプセル
顔料として適用される。
前記可逆熱変色性組成物としては、特公昭51-44706号公報、特公昭51-44
707号公報、特公平1-29398号公報等に記載された、所定の温度(変色点)を境
としてその前後で変色し、高温側変色点以上の温度域で消色状態、低温側変色点以下の温
度域で発色状態を呈し、前記両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在せず、も
う一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱又は冷熱が適用されている間は維持さ
れるが、前記熱又は冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る、ヒステリシス幅
が比較的小さい特性(ΔH=1~7℃)を有する可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル
中に内包させた加熱消色型のマイクロカプセル顔料が適用できる。
更に、特公平4-17154号公報、特開平7-179777号公報、特開平7-33
997号公報、特開平8-39936号公報等に記載されている比較的大きなヒステリシ
ス特性(ΔH=8~50℃)を示すものや、特開2006-137886号公報、特開2
006-188660号公報、特開2008-45062号公報、特開2008-280
523号公報、等に記載されている大きなヒステリシス特性を示す、即ち、温度変化によ
る着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇さ
せていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路
を辿って変色し、完全発色温度以下の低温域での発色状態、又は完全消色温度以上の高温
域での消色状態が、特定温度域で色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包させ加熱
消色型のマイクロカプセル顔料も適用できる。
尚、前記水性インキに適用される色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物として具体的
には、完全発色温度を冷凍室、寒冷地等でしか得られない温度、即ち-50~0℃、好ま
しくは-40~-5℃、より好ましくは-30~-10℃、且つ、完全消色温度を摩擦体
による摩擦熱、ヘアドライヤー等身近な加熱体から得られる温度、即ち50~95℃、好
ましくは50~90℃、より好ましくは60~80℃の範囲に特定し、ΔH値を40~1
00℃に特定することにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機
能させることができる。
【0016】
本発明における着色剤の含有量は、固形筆記体の組成物全量に対して0.1~40質量
%とすることが好ましく、1~30質量%とすることがより好ましい。着色剤の含有量を
上記範囲内とした場合、良好な発色性を有する筆跡を形成することが可能である。
【0017】
(水および多価アルコール)
本発明の筆記体には水と多価アルコールが含まれる。これらは液体混合物として筆記体
に含まれ、筆記の際に着色剤を紙面に均等に付着させるための展色剤や筆記先端の潤滑剤
として作用するものである。筆記体に水のみを用いた場合でも上記の作用は奏するが、水
は容易に揮発してしまうので、筆跡形成性や筆記感が悪化しやすい。それ故、水と、水に
対して高い親和性を有する多価アルコールとを併用することで水の揮発を抑制し、筆記体
の筆跡形成性や筆記感を維持するのである。
【0018】
本発明に用いられる多価アルコールは、高い親水性を有し、保湿剤として機能する物質
であれば特に限りはなく、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレング
リコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、
グリセリン、ポリプロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール等を用いる
ことが可能である。
上記の中でも、本発明に好ましい多価アルコールはグリセリンであり、グリセリンの有
する高い保湿性によって筆記体から水分が揮発し、筆跡形成性や筆記感が悪化することが
抑制されやすくなる。
また、グリセリンと水との液体混合物は、筆記の際に優れた潤滑剤となることから、筆
記体の筆記感をより滑らかなものとしやすいのである。
【0019】
本発明における水と多価アルコールの含有量は、筆記体の組成物全量に対して、水は1
0~40質量%であることが好ましく、15~30質量%であることがより好ましい。ま
た、多価アルコールの含有量は、20~60質量%であることが好ましく。30~50質
量%であることがより好ましい。
さらに、水と多価アルコールの含有量を上記数値範囲内とした場合において、水に対す
る多価アルコールの質量比は、多価アルコール:水=1:1~3:1であることが好まし
く、多価アルコール:水=1.3:1~2.3:1であることがより好ましい。
水と多価アルコールの含有量、および質量比を上記数値範囲とすると、筆記体の筆跡形
成性や筆記感を良好としやすく、さらに、保管の際に筆記体の吸湿や筆記体に含まれる水
の揮発を抑制し、筆記体が変形して筆記体の筆跡形成性や筆記感が悪化することを抑制し
やすくなる。
【0020】
(飽和脂肪酸アルカリ金属塩)
本発明の固形筆記体には、賦形剤として炭素数が12~20の範囲内である飽和脂肪酸
アルカリ金属塩を用いる。本発明の固形筆記体において上記飽和脂肪酸アルカリ金属塩は
構造骨格を形成する物質であり、筆記体は、飽和脂肪酸アルカリ金属塩が結合することに
よって形成する緻密な網目状の分子鎖を骨格とし、着色剤、ショ糖飽和脂肪酸エステル、
多価アルコール、および水をその網目の中に含んだ構造を有している。
【0021】
前記構造を有する筆記体は、筆記の際に損壊しにくい筆記体強度とした場合においても
、被筆記面との摩擦によって摩擦面が容易に摩耗するため、緻密で鮮明な筆跡を紙面上に
形成することが可能であるとともに、滑らかな筆記感を奏することが可能となる。
この良好な筆記感は、多価アルコールと水との液体混合物が、筆記先端が摩耗する際に
潤滑剤として作用することでさらに向上するため、本発明の固形筆記体は軽く滑らかな、
非常に優れた筆記感を得られるのである。
【0022】
本発明に用いられる飽和脂肪酸アルカリ金属塩は、炭素数が12~20の範囲内であり
、前記した骨格を形成するものであれば限りはないが、好ましくは直鎖構造の炭素鎖を有
する飽和脂肪酸のアルカリ金属塩である。
本発明にこのような飽和脂肪酸アルカリ金属塩を用いることで、損壊しにくい強度を有
しつつも、軽く滑らか筆記感を得られる筆記体とすることが容易となる。
【0023】
本発明に用いられる飽和脂肪酸アルカリ金属塩の含有量は、固形筆記体の組成物全量に
対して1~30質量%であることが好ましく、5~25質量%であることがより好ましく
、10~20%であることが特に好ましい。含有量を上記数値範囲内とすることで、筆記
の際に損壊しにくい強度としながらも良好な筆記感を奏し、さらに緻密で鮮明な筆跡を形
成可能な筆記体とすることが容易となる。
【0024】
(ショ糖飽和脂肪酸エステル)
本発明の固形筆記体は、ショ糖飽和脂肪酸エステルを含むことが重要である。
ショ糖飽和脂肪酸エステルは、筆記体において前記飽和脂肪酸アルカリ金属塩が形成す
る網目状骨格内に包含されて飽和脂肪酸アルカリ金属塩や多価アルコールと結合し、骨格
の強度をより高めるとともに、骨格に圧力が加わった際、前記液体混合物が骨格外に押し
出されることを抑制するものである。
このため、本発明の筆記体は高い筆記圧で筆記した場合においても筆記先端が容易に損
壊して筆記カスが発生することなく緻密な筆跡を形成可能であるとともに、筆記先端より
前記液体混合物が滲出して、紙面裏面に裏抜けすることが抑制可能となるのである。
さらに、筆記体の着色剤に熱変色性マイクロカプセル顔料を用いた場合、ショ糖飽和脂
肪酸エステルはカプセル表面に吸着し、顔料の分散安定性を高めるため、顔料の凝集を抑
えて良好な発色性を維持することが容易となる。
ショ糖飽和脂肪酸エステルは下記化学式(1)に示す、ショ糖と飽和脂肪酸とが縮合す
ることによって生成するエステルである。
【化1】
ここで、Xは-OH、または-OCOR(Rは飽和炭化水素基)を示す。
【0025】
本発明に用いられるショ糖飽和脂肪酸エステルは、筆記体の強度を高め、筆記先端から
の前記液体混合物の滲出を抑制するものであれば限りはなく、ショ糖と縮合する飽和脂肪
酸の数や種類が異なる、様々なショ糖脂肪酸エステルを用いることが可能であり、単一種
の脂肪酸を用いて生成したエステルであっても良く、複数種の脂肪酸を併用して生成した
エステルであっても良い。
【0026】
本発明に好ましいショ糖飽和脂肪酸エステルは、前記化学式(1)の構造を有する物質
の中でも、Rで示した飽和炭化水素基が直鎖構造の炭素鎖を有し、さらに飽和炭化水素基
の炭素数が14~22の範囲内である物質、すなわち、炭素数が14~22の範囲内であ
る直鎖飽和脂肪酸とショ糖とから生成されたショ糖飽和脂肪酸エステルであり、モノエス
テルや、ジエステルやトリエステル等の複数のエステル結合を有するものであっても良く
、これらの混合物でも良い。
本発明の筆記体はこのようなショ糖飽和脂肪酸エステルを用いることによって、強度向
上や前記液体混合物の滲出抑制効果を奏しやすくなる。
特に、前記モノエステルを含むショ糖脂肪酸エステルを用いた場合には、上記効果に加
えて筆記体の透明性が増す効果も得られるため、さらに着色剤に染料や熱変色性マイクロ
カプセル顔料を用いると、色鮮やかで透明性の高い筆跡を形成することができる。このよ
うな筆記体は被筆記部分を隠蔽することがないため、アンダーライン用の固形筆記体とし
て好ましく用いることができる。
上記ショ糖脂肪酸エステルは、モノエステルのみからなるものであっても良く、モノエ
ステルと複数のエステル結合を有するエステルとの混合物であっても良い。
【0027】
本発明に特に好ましいショ糖飽和脂肪酸エステルは、さらに、1~16のHLB値を有
するものである。
このようなショ糖飽和脂肪酸エステルは、前記飽和脂肪酸アルカリ金属塩の構造骨格形
成性を阻害することなく、筆記体の強度を高めつつも筆記感を軽く滑らかにしやすいため
本発明の筆記体に特に適している。
【0028】
前記HLB値を有するショ糖飽和脂肪酸エステルとしては、1~16のHLB値を有す
る単一種のショ糖飽和脂肪酸エステルであってもよく、HLB値の異なる複数種のショ糖
脂肪酸エステルを混合物し、混合物のHLB値を上記数値範囲内としたものであっても良
い。
【0029】
本発明に用いられるショ糖飽和脂肪酸エステルの具体例としては、リョートーシュガー
エステルM-1695、同P-170、同P-1570、同P-1670、同S-170
、同S-270、同S-370、同S-370F、同S-570、同S-770、同S-
970、同S-1170、同S-1170F、同S-1570、同S-1670、同B-
370、同S-370F、以上三菱ケミカルフーズ株式会社、が挙げられる。
【0030】
本発明の筆記体におけるショ糖飽和脂肪酸エステルの含有量は、筆記体全量に対して1
~20質量%であることが好ましく、5~15質量%であることがより好ましい。特に好
ましくは7~12質量%である。
ショ糖飽和脂肪酸エステルの含有量を上記数値範囲内とすると、筆記体強度、筆記感、
および筆跡形成性のバランスを良好としやすい。
【0031】
筆記体の強度をより考慮すると、ショ糖飽和脂肪酸エステルの含有量を前記した範囲と
した場合において、さらにショ糖飽和脂肪酸エステルの含有量を前記飽和脂肪酸アルカリ
金属塩の含有量に対して0.1倍~3倍とすることが好ましく、0.3倍~1.5倍とす
ることがより好ましい。ショ糖飽和脂肪酸エステルの含有量を飽和脂肪酸アルカリ金属塩
の含有量に対して上記数値範囲内とすると、高い筆記体強度を有しつつ、良好な筆記感を
奏する筆記体とすることが容易となる。
【0032】
また、筆記先端からの前記液体混合物の滲出を抑制することを考慮すると、筆記体にお
けるショ糖飽和脂肪酸エステルの含有量は前記多価アルコールの含有量に対して、0.1
倍~0.5倍とすることが好ましく、0.2倍~0.4倍とすることがより好ましい。シ
ョ糖飽和脂肪酸エステルの含有量を多価アルコールの含有量に対して上記数値範囲とする
と、液体混合物の滲出を抑制しやすく、さらに筆記感を良好としやすい。
【0033】
(その他)
本発明の固形筆記体は、必要に応じて上記以外の物質を添加することも可能である。具
体的には、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、および
ブタノールなどのアルコール、カオリン、タルク、マイカ、クレー、ベントナイト、炭酸
カルシウム、水酸化アルミニウム、セリサイト、およびチタン酸カリウムなどの体質材、
ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、お
よびフッ素樹脂などからなる樹脂粒子、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン-ブタジ
エン系樹脂、アルキッド樹脂、スルフォアミド樹脂、マレイン酸樹脂、ポリ酢酸ビニル樹
脂、エチレン酢ビ樹脂、塩ビ-酢ビ樹脂、スチレンとマレイン酸エステルとの共重合体、
スチレン-アクリロニトリル樹脂、シアネート変性ポリアルキレングリコール、エステル
ガム、キシレン樹脂、尿素樹脂、尿素アルデヒド樹脂、フェノール樹脂、アルキルフェノ
ール樹脂、テルペンフェノール樹脂、ロジン系樹脂やその水添化合物、ロジンフェノール
樹脂、ポリビニルアルキルエーテル、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ナイロン樹
脂、ポリエステル樹脂、シクロヘキサノン系樹脂などの定着剤、pH調整剤、防腐剤、消
泡剤、粘度調整剤、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロヘキシルアンモ
ニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、およびサポニンなどの
防錆剤、尿素、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、
両性界面活性剤、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの水溶性樹脂からな
る顔料分散剤、還元又は非還元デンプン加水分解物、トレハロース等の二糖類、オリゴ糖
、ショ糖、サイクロデキストリン、ぶどう糖、デキストリン、ソルビット、マンニット、
およびピロリン酸ナトリウムなどの湿潤剤を挙げることができる。
本発明の固形筆記体は上記物質を含むことによって、筆記体の強度、定着性、非浸透面
への筆記性、筆記感等を調整することが可能である。
【0034】
本発明の固形筆記体の作製方法の一例を以下に示す。
加熱下、水と多価アルコールと飽和脂肪酸アルカリ金属塩とショ糖飽和脂肪酸エステルとを撹拌し、飽和脂肪酸アルカリ金属塩およびショ糖飽和脂肪酸エステルが溶解した後、着色剤を加え、均一に混合させる。
その後、混合物を所定の型に流しこみ、室温で放冷後、固化した固形筆記体を取り出す
ことにより、固形筆記体を得ることができる。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
着色剤以外の下記原材料を90℃下で1時間攪拌混合し、着色剤を加えて30分間撹拌
混合した後、均一に混合した原材料を内径10mmの有底筒状体の型に流し込み、室温に
放冷することで固体物(外径10mmの円柱)を得た。
さらに、上記固体物を-20℃に冷却し、青色の固形筆記体を得た。
なお、着色剤には、以下の手順で調整された熱変色性マイクロカプセル顔料を用いた。
(熱変色性マイクロカプセル顔料の調整手順)
1. (イ)成分として4,5,6,7-テトラクロロ-3-[4-(ジエチルアミノ)
-2-メチルフェニル]-3-(1-エチル-2-メチル-1H-インドール-3-イル
)-1(3H)-イソベンゾフラノン2.0部、(ロ)成分として4,4′-(2-エチ
ルヘキサン-1、1-ジイル)ジフェノール3.0部、2,2-ビス(4′-ヒドロキシ
フェニル)-ヘキサフルオロプロパン5.0部、(ハ)成分としてカプリン酸4-ベンジ
ルオキシフェニルエチル50.0部からなる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内
包したマイクロカプセル顔料懸濁液を得た。
2. 前記懸濁液を遠心分離して 熱変色性マイクロカプセル顔料(1)を単離した。前
記マイクロカプセル顔料の平均粒子径は1.8μm、完全消色温度は55℃、完全発色温
度は-20℃であり、温度変化により青色から無色に変色する。
3. 前記マイクロカプセル顔料を-20℃以下に冷却してマイクロカプセル顔料を青
色に発色させた。
・着色剤 熱変色性マイクロカプセル顔料 15.0質量%
・多価アルコール(グリセリン) 40.0質量%
・飽和脂肪酸アルカリ金属塩 12.5質量%
(ステアリン酸ナトリウム、炭素数18、商品名:ノンサールSN-1、日油株式会社製
)
・ショ糖飽和脂肪酸エステル 8.5質量%
(ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖ステアリン酸モノエステルが占める質量比率50
%、商品名:リョートーシュガーエステルS-970、三菱ケミカルフーズ株式会社製)
・水 24.0質量%
【0036】
(実施例2~18、参考例1~2、比較例1~6)
実施例1に対して、配合する成分の種類や添加量を表1~2に示したとおりに変更して
、実施例2~18、参考例1~2、比較例2~6の固形筆記体を得た。
ここで、実施例2~4、実施例8~18、参考例1~2、および比較例2~6で得られた固形筆記体は、原材料を混合し、室温で放冷した後に-20℃に冷却させて得られたものである。
また、実施例5~7で得られた固形筆記体は、原材料を混合した後、室温で放冷して得
られたものである。
なお、比較例1の組成物は放冷後固化しなかった。
上記実施例で使用した材料の詳細は以下の通りである。
・着色剤(1)赤色染料(商品名:フロキシン、保土ヶ谷化学工業株式会社)
・着色剤(2)熱変色性マイクロカプセル顔料 (実施例(1)で用いたマイクロカプセ
ル顔料)
・着色剤(3)熱変色性マイクロカプセル顔料
以下の手順で調整された熱変色性マイクロカプセル顔料である。
(熱変色性マイクロカプセル顔料の調整手順)
1. (イ)成分として2-(ジブチルアミノ)-8-(ジペンチルアミノ)-4-メチル
-スピロ[5H-[1]ベンゾピラノ[2,3-g]ピリミジン-5,1′(3′H)-
イソベンゾフラン]-3-オン1.0部、(ロ)成分として4,4′-(2-エチルヘキ
サン-1、1-ジイル)ジフェノール3.0部、2,2-ビス(4′-ヒドロキシフェニ
ル)-ヘキサフルオロプロパン5.0部、(ハ)成分としてカプリン酸4-ベンジルオキ
シフェニルエチル50.0部からなる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包した
マイクロカプセル顔料懸濁液を得た。
2.前記懸濁液を遠心分離して 熱変色性マイクロカプセル顔料(1)を単離した。
前記マイクロカプセル顔料の平均粒子径は2.0μm、完全消色温度は58℃であり、完
全発色温度は-20℃であり、温度変化によりピンク色から無色に変色する。
3.前記マイクロカプセル顔料を-20℃以下に冷却してマイクロカプセル顔料をピンク
色に発色させた。
・着色剤(4)酸化チタン(顔料、商品名:JR-301、テイカ株式会社製)
・着色剤(5)2,9-ジメチル-5,12-ジヒドロキノ[2,3-b]アクリジン-
7,14-ジオン(顔料、ピグメントレッド122)
・多価アルコール(1)グリセリン
・多価アルコール(2)エチレングリコール
・飽和脂肪酸アルカリ金属塩(1)ステアリン酸ナトリウム(商品名:ノンサールSN-
1、日油株式会社製)
・飽和脂肪酸アルカリ金属塩(2)ミリスチン酸ナトリウム(商品名:ノンサールMN-
1、日油株式会社製)
・飽和脂肪酸アルカリ金属塩(3)パルミチン酸ナトリウムとステアリン酸ナトリウムと
の混合物(混合比 パルミチン酸ナトリウム:ステアリン酸ナトリウム=3:7、和光純
薬工業株式会社製)
・飽和脂肪酸アルカリ金属塩(4)ベヘン酸ナトリウム(商品名:NS-7、日東化成工
業株式会社製)
・オレイン酸ナトリウム (商品名:ノンサールON-Aパウダー、日油株式会社製)
・12-ヒドロキシステアリン酸ナトリウム(商品名:NS-6、日東化成工業株式会社
製)
・ショ糖飽和脂肪酸エステル(1)ショ糖パルミチン酸エステル
(商品名:リョートーシュガーエステルP-1570、ショ糖パルミチン酸モノエステル
が占める質量比率70%、HLB値:15、三菱ケミカルフーズ株式会社製)
・ショ糖飽和脂肪酸エステル(2)ショ糖ステアリン酸エステル
(商品名:リョートーシュガーエステルS-170、ショ糖ステアリン酸モノエステルが
占める質量比率1%、HLB値:1、三菱ケミカルフーズ株式会社製)
・ショ糖飽和脂肪酸エステル(3)ショ糖ステアリン酸エステル
(商品名:リョートーシュガーエステルS-970、ショ糖ステアリン酸モノエステルが
占める質量比率50%、HLB値:9、三菱ケミカルフーズ株式会社製)
・ショ糖飽和脂肪酸エステル(4)ショ糖ステアリン酸エステル
(商品名:リョートーシュガーエステルS-1670、ショ糖ステアリン酸モノエステル
が占める質量比率75%、HLB値:16、三菱ケミカルフーズ株式会社製)
・ショ糖飽和脂肪酸エステル(5)ショ糖ベヘン酸エステル
(商品名:リョートーシュガーエステルB-370、ショ糖ベヘン酸モノエステルが占め
る質量比率20%、HLB値:3、三菱ケミカルフーズ株式会社製)
・ショ糖オレイン酸エステル
(商品名:リョートーシュガーエステルO-1570、三菱ケミカルフーズ株式会社製)
・ショ糖エルカ酸エステル
(商品名:リョートーシュガーエステルER-190、三菱ケミカルフーズ株式会社製)
【0037】
【0038】
【0039】
調製した固形筆記体について、下記の通り、評価を行った。得られた結果は表3に記載
したとおりであった。
【0040】
(筆記感の評価)
実施例1~18、参考例1~2、及び比較例2~6で作製した固形筆記体を用いて手書きによる官能試験を行い評価した。なお、筆記用紙はコピー用紙(商品名;キャンパスレポート箋A4A罫、コクヨ株式会社製)を用いた。
A:非常に軽く、滑らか。
B:滑らかだが、若干重い。
C:引っかかりがあり、重い。実用上懸念がある。
【0041】
(筆跡形成性の評価)
上記固形筆記体により、上記筆記用紙に直線筆記を行い、その際の筆跡の緻密性を目視
により観察した。
A:筆跡にムラが無く、鮮明である。
B:筆跡に若干ムラがあり、筆跡が若干不鮮明であるが、実用上問題なし。
C:筆跡のムラが明瞭であり、不鮮明である。実用上懸念がある。
【0042】
(筆記カス発生の確認)
上記固形筆記体を用いて筆記用紙に直線筆記を行い、筆跡やその周辺に筆記カス(筆記
体の粒や塊)が付着しているかを目視で確認した。なお、筆記用紙は黒紙(商品名;色上
質紙 黒 中厚口、株式会社活英社製)を用いた。
A:筆跡やその周辺に筆記体の粒や塊は確認されない。
B:筆跡やその周辺に筆記体の細かな粒が付着していることが確認されるが、実用上問題
ない。
C:筆跡やその周辺に筆記体の大きな塊が付着している。実用上懸念がある。
【0043】
(筆跡の裏抜け性)
上記固形筆記体を荷重50gで2秒間紙面に押し当てた後、固形筆記体を押し当てた場
所の紙面裏面部分を観察し、固形筆記体(筆跡)が紙面の裏面に滲出した形跡の有無を目
視で確認した。なお、試験紙は上記筆記用紙を用いた。
A:筆跡が滲出した形跡は確認されない。
B:筆跡が滲出した形跡が確認されるが、軽微である。実用上問題はない。
C:筆跡の滲出が顕著である。実用上懸念がある。
【0044】
試験結果を以下の表に記す。
【0045】
【表3】
・比較例1は固形筆記体を作製できなかったため、評価不能。
・比較例4~5は実用上の強度を有していないため、評価不能。