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特許7256332メタン生成阻害剤組成物及びメタン生成の抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】メタン生成阻害剤組成物及びメタン生成の抑制方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/14 20060101AFI20230404BHJP
   A23K 20/111 20160101ALI20230404BHJP
   C07C 309/65 20060101ALN20230404BHJP
   C07C 309/68 20060101ALN20230404BHJP
【FI】
C09K17/14 H
A23K20/111
C07C309/65
C07C309/68
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022517019
(86)(22)【出願日】2021-04-16
(86)【国際出願番号】 JP2021015740
(87)【国際公開番号】W WO2021215365
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2020075593
(32)【優先日】2020-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000169
【氏名又は名称】クミアイ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】堀田 雄大
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0219467(US,A1)
【文献】特公昭50-015710(JP,B1)
【文献】特開2002-281912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00
A23K 20/111
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[I-1]~[I-6]で表される化合物から選択される1または2以上の化合物を有効成分として含有することを特徴とするメタン生成阻害剤組成物
【請求項2】
請求項1に記載のメタン生成阻害剤組成物を、メタンが発生する水系または土壌に施用することによって、該水系または土壌からのメタン生成を抑制することを特徴とするメタン生成の抑制方法。
【請求項3】
前記メタンが発生する水系が、水田または湖沼である、請求項に記載のメタン生成の抑制方法。
【請求項4】
前記メタンが発生する土壌が、泥炭地である、請求項に記載のメタン生成の抑制方法。
【請求項5】
前記メタン生成阻害剤組成物の施用量が、前記メタンが発生する水系または土壌の面積1ha当たりの前記式[I-1]~[I-6]で表される化合物から選択される1または2以上の化合物が、50~5,000,000gの範囲になる量である、請求項2~4のいずれか一項に記載のメタン生成の抑制方法。
【請求項6】
請求項1に記載のメタン生成阻害剤組成物を、飼料に混合して家畜に与えることによって、家畜の吐息および排泄物からのメタン生成を抑制することを特徴とするメタン生成の抑制方法。
【請求項7】
前記メタン生成阻害剤組成物の使用量が、前記飼料1kg当たりの前記式[I-1]~[I-6]で表される化合物から選択される1または2以上の化合物が、0.05~5,000mgの範囲になる量である、請求項に記載のメタン生成の抑制方法。
【請求項8】
請求項1に記載のメタン生成阻害剤組成物を、堆肥や腐葉土の材料に混合して発酵させることによって、堆肥や腐葉土の発酵過程および完熟堆肥や完熟腐葉土からのメタン生成を抑制することを特徴とするメタン生成の抑制方法。
【請求項9】
前記メタン生成阻害剤組成物の使用量が、前記堆肥や腐葉土の材料1kg当たりの前記式[I-1]~[I-6]で表される化合物から選択される1または2以上の化合物が、0.05~5,000mgの範囲になる量である、請求項に記載のメタン生成の抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン生成阻害剤組成物及びメタン生成の抑制方法に関するものである。特に、メタン生成を長時間にわたって抑制することが可能なメタン生成阻害剤組成物及びそれを用いたメタン生成の抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メタンは二酸化炭素に次ぐ温室効果ガスであり、地球温暖化への年間寄与は約40%といわれている。メタン生産の主要な発生源は、水田、反芻動物、自然湿地等であり、水田土壌からのメタン排出量の推定値は総排出量の5~19%を占めている。水田におけるメタン排出量を削減するための方法として、土壌浸水の期間を制限すること(中干)と炭素投入量を減らすことが提案されている。その他のメタン削減方法として、イネ栽培時の水田中にメタン生成菌の特異的阻害剤である2-Bromoethanesulfonate(BES、80mg/kg)を処理する方法が提案されており、対照区と比較してメタン排出量が49%削減されている(非特許文献1参照)。
【0003】
また畜産分野では、メタン生成阻害剤3-ニトロオキシプロパノール(3-NOP)の40~80mg/kgを飼料に処理することで、乳牛からのメタン排出量が30%削減されている(特許文献1、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開公報第2012/84629号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Waghmode TR et.al.(2015) PLoS ONE 10(11): e0142569
【文献】Hristov AN et.al.(2015) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 112, 10663-10668
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来から知られているメタン生成阻害剤は実用化がなされておらず、今日においても、優れたメタン生成阻害剤の開発及び実用化が望まれる。本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その主たる目的は、水田及び湖沼等における望ましくないメタン生成を削減するための、低薬量で、持続したメタン生成阻害効果を有するメタン生成阻害剤組成物及びメタン生成を抑制する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明者は、上記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の化合物をメタンが発生する場所や家畜飼料に施用することにより、メタン生成量が減少し、その効果も持続することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
以上のようにして完成された本発明は、以下の要旨を有するものである。
(1)下記式[I-1]~[I-6]で表される化合物から選択される1または2以上の化合物を有効成分として含有することを特徴とするメタン生成阻害剤組成物
)前記(1)に記載のメタン生成阻害剤組成物を、メタンが発生する水系または土壌に施用することによって、該水系または土壌からのメタン生成を抑制することを特徴とするメタン生成の抑制方法。
)前記メタンが発生する水系が、水田または湖沼である、前記()に記載のメタン生成の抑制方法。
)前記メタンが発生する土壌が、泥炭地である、前記()に記載のメタン生成の抑制方法。
)前記メタン生成阻害剤組成物の施用量が、前記メタンが発生する水系または土壌の面積1ha当たりの前記式[I-1]~[I-6]で表される化合物から選択される1または2以上の化合物が、50~5,000,000gの範囲になる量である、前記()~()のいずれかに記載のメタン生成の抑制方法。
)前記(1)に記載のメタン生成阻害剤組成物を、飼料に混合して家畜に与えることによって、家畜の吐息および排泄物からのメタン生成を抑制することを特徴とするメタン生成の抑制方法。
)前記メタン生成阻害剤組成物の使用量が、前記飼料1kg当たりの前記式[I-1]~[I-6]で表される化合物から選択される1または2以上の化合物が、0.05~5,000mgの範囲になる量である、前記()に記載のメタン生成の抑制方法。
)前記(1)に記載のメタン生成阻害剤組成物を、堆肥や腐葉土の材料に混合して発酵させることによって、堆肥や腐葉土の発酵過程および完熟堆肥や完熟腐葉土からのメタン生成を抑制することを特徴とするメタン生成の抑制方法。
)前記メタン生成阻害剤組成物の使用量が、前記堆肥や腐葉土の材料1kg当たりの前記式[I-1]~[I-6]で表される化合物から選択される1または2以上の化合物が、0.05~5,000mgの範囲になる量である、前記()に記載のメタン生成の抑制方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のメタン生成阻害剤組成物は、水田及び湖沼、家畜生産現場、堆肥や腐敗土の製造現場、泥炭地等からのメタン発生を長時間にわたって抑制することができ、ひいては地球の温暖化防止対策として有用な発明である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のメタン生成阻害剤組成物は、下記式[I]で表される化合物から選択される1または2以上の化合物を有効成分として含有する。
(式中、Xは-OR基、水酸基またはハロゲン原子を示し、Yは-OR基または-SO基を示し、Rはベンゾイル基を示し、Rはメチルスルホニル基またはクロロメチルスルホニル基を示し、Rはクロロメチル基またはヒドロキシメチル基を示す。)
【0011】
上記式[I]で表される化合物として好適な化合物の一例としては、下記式[I-1]~[I-6]で表される化合物が挙げられる。
【0012】
上記式[I-1]の化合物(以下、「化合物I-1」と呼ぶ)は、CAS番号が117224-50-7として公知の化合物であり、特開昭63-112554号に記載されている方法で合成できる。上記式[I-2]の化合物(以下、「化合物I-2」と呼ぶ)は、CAS番号が117224-69-8として公知の化合物であり、Chemieliva Pharmaceutical Co., Ltdで購入できる。上記式[I-3]の化合物(以下、「化合物I-3」と呼ぶ)は、CAS番号が54091-06-4として公知の化合物であり、Sigma-Aldrichで購入できる。上記式[I-4]の化合物(以下、「化合物I-4」と呼ぶ)は、CAS番号が56773-30-9として公知の化合物であり、Sigma-Aldrichで購入できる。上記式[I-5]の化合物(以下、「化合物I-5」と呼ぶ)は、CAS番号が872793-78-7として公知の化合物であり、Azepine Ltd.で購入できる。上記式[I-6]の化合物(以下、「化合物I-6」と呼ぶ)は、CAS番号が59722-33-7として公知の化合物であり、Chemieliva Pharmaceutical Co.,Ltdで購入できる。
【0013】
本発明のメタン生成阻害剤組成物は、上記式[I]で表される化合物それ自体でもよいし、必要に応じて添加成分を含有することもできる。この添加成分としては、固体担体又は液体担体等の担体、界面活性剤、結合剤、粘着付与剤、増粘剤、着色剤、拡展剤、展着剤、凍結防止剤、固結防止剤、崩壊剤、分解防止剤、高分子材料等が挙げられる。
【0014】
そして、本発明のメタン生成阻害剤組成物は、液剤、乳剤、水和剤、顆粒水和剤、粉剤、油剤、フロアブル剤、粒剤、錠剤、ジャンボ剤、サスポエマルジョン、マイクロカプセル、ペースト、種子用被覆剤、燻蒸剤、燻煙剤、豆つぶ(登録商標名)剤、ゲル化剤、噴射剤、加硫剤、シート剤等の任意の剤型に製剤化して使用してもよい。これらの製剤は製薬、農薬又は食品などの分野にておいて、製剤化に通常用いられる上記の添加成分を用いて、通常用いられる公知な方法で調製することができる。
【0015】
本発明のメタン生成阻害剤組成物は、メタン生成を長時間にわたって抑制することが可能であるため、メタンが発生する様々な場所、例えば、水田及び湖沼のような水系、泥炭地、家畜生産現場、堆肥や腐敗土の製造現場等で用いることができ、地球温暖化防止への対策に有用であり、特に、メタンの発生量が多い場所、例えば、水田において好適に用いられる。
【0016】
本発明のメタン生成抑制方法においては、本発明のメタン生成阻害剤組成物を水田や湖沼等のメタンが発生する水系や、泥炭地のようなメタンが発生する土壌に施用することにより、該水系または土壌からのメタンの発生を抑制することができる。ここで、湖沼とは、例えば、湖、池、沼、沢、潟などの水深の浅い水域、例えば、水深1m以下の水域を広く指す。泥炭地等のメタンが発生している土壌とは、例えば湿地土壌、沼地土壌、水田土など、有機物が含まれ還元状態になっているためにメタンが生成されている土壌を広く指す。
【0017】
本発明のメタン生成阻害剤組成物を水系に施用する方法は特に限定されず、メタンの発生を抑制したい水系全域に上記式[I]で表される化合物が溶解または分散するように施用すればよく、通常、一般に行われている施用方法、即ち、本発明のメタン生成阻害剤組成物をそのまま、または水やアセトン等の溶媒に懸濁した液として、水系全域に散布または流し込む等の方法で行えばよい。
【0018】
また、本発明のメタン生成阻害剤組成物を、泥炭地等のメタンが発生している土壌に施用する方法も特に限定されず、該土壌の表面全体に本発明のメタン生成阻害剤組成物を散布すればよい。散布後に、該土壌の表層土を混合し、本発明のメタン生成阻害剤組成物が土中に混和された状態にすれば、なおよい。
【0019】
本発明のメタン生成阻害剤組成物を、水田および湖沼のような水系や泥炭地に施用する場合の施用量は、乾土1kgあたり上記式[I]で表される化合物が0.05~5,000mg、好ましくは0.1~1,000mg、更に好ましくは0.5~500mg、最も好ましくは0.5~100mgの範囲になる量であることが望ましい。このように施用した本発明のメタン生成阻害剤組成物は、深さ10cmまでの表層土壌に存在すればメタン生成を有効に抑制できる。
【0020】
上記の施用量を施用する水系または土壌の面積1haあたりに施用する量で表現すると、例えば土壌の乾燥比重(仮比重)が1.0の場合は、上記式[I]で表される化合物が50~5,000,000g、好ましくは100~1,000,000g、更に好ましくは500~500,000g、最も好ましくは500~100,000gの範囲になる量を施用すれば、上記の乾土あたりの施用量に相当する。しかし、土壌の乾燥比重(仮比重)は土質によって異なることが知られており、例えば砂質土壌が1.1~1.8、黒ボク土壌が0.5~0.8、泥炭土壌が0.2~0.6位とされている。施用する場所の土壌の乾燥比重(仮比重)が1.0から大きく異なる場合は、面積1haあたりの上記の施用量に土壌の乾燥比重(仮比重)の数値を乗算すればよい。
【0021】
水田や湖沼のような水系では、その水面に本発明のメタン生成阻害剤組成物を施用することができ、上記式[I]で表される化合物はその多くが水に接している土壌表層に分配され、その後、該土壌中からのメタン生成が抑制されるようになる。この場合、水系の水深が深すぎない方が望ましく、湖沼においては1m以下の水深が好ましく、50cm以下の水深がより好ましい。水田においては、通常、水深は3~5cm程度であるが、15cm程の深水管理の水田に用いることもできる。本発明のメタン生成阻害剤組成物を水田や湖沼の水面に施用するとき、上記式[I]で表される化合物の水中濃度は、例えば、0.05~5,000ppm、好ましくは0.1~1,000ppm、更に好ましくは0.5~500ppm、最も好ましくは0.5~100ppmの範囲となればよい。本発明のメタン生成阻害剤組成物の施用量は、上記式[I]で表される化合物の水中濃度が上記範囲となるように、水田や湖沼の面積と水深から見積もられる総水量によって算出することもできる。
【0022】
本発明のメタン生成抑制方法においては、また、本発明のメタン生成阻害剤組成物を、家畜の飼料に混合して家畜に与えることにより、家畜の吐息および排泄物からのメタンの発生を抑制することができる。本発明のメタン生成阻害剤組成物を飼料に混合する方法は特に限定されず、家畜に与える前の飼料に本発明のメタン生成阻害剤組成物を混合すればよい。この場合、本発明のメタン生成阻害剤組成物の施用量は、飼料1kgあたり上記式[I]で表される化合物が0.05~5,000mg、好ましくは0.1~1,000mg、更に好ましくは0.5~500mg、最も好ましくは0.5~100mgの範囲になるように算出すればよい。
【0023】
さらにまた、本発明のメタン生成抑制方法においては、本発明のメタン生成阻害剤組成物を、堆肥や腐葉土を製造する際にその材料に施用することにより、堆肥や腐葉土の製造中および製造された堆肥や腐葉土からのメタンの発生を抑制することができる。この目的で本発明のメタン生成阻害剤組成物を施用する方法も特に限定されず、堆肥や腐葉土の材料に本発明のメタン生成阻害剤組成物を混合して発酵させればよく、堆肥や腐葉土の発酵過程に生成されるメタンや完熟堆肥や完熟腐葉土から生成するメタンを抑制することができる。この場合、本発明のメタン生成阻害剤組成物の施用量は、堆肥や腐葉土の材料1kgあたり上記式[I]で表される化合物が0.05~5,000mg、好ましくは0.1~1,000mg、更に好ましくは0.5~500mg、最も好ましくは0.5~100mgの範囲になるように算出すればよい。
【実施例
【0024】
以下、本発明についてメタン生成阻害剤の効果について試験例をもって説明するが、本発明はこれらの試験例に何ら制約されるものではない。
【0025】
[試験例1]メタン生成阻害剤(化合物I-1)によるメタン生成抑制試験
ヘッドスペース分析用のガラスバイアル(21.5mL容)に水田土壌(仮比重1.18g/cm)を4.0gはかり取り、蒸留水を8mL加えた。この湛水土壌に、実施例1として、10ppmの化合物I-1含有アセトン溶液を40μL添加した区(0.1mg/kg乾土(118g/ha相当))、実施例2および3として、100ppmの化合物I-1含有アセトン溶液を20μL(0.5mg/kg乾土(590g/ha相当))および40μL(1mg/kg乾土(1180g/ha相当))添加した区を設けた。また、比較例1として、アセトン40μLを添加した無処理区を設けた。これらガラスバイアルに水田土壌微生物の培養液を100μL添加した後、セプタム及びアルミキャップを用いて密栓し、30℃で静置培養した。培養処理21及び28日後、ガラスバイアル試料中のヘッドスペースよりガスタイトシリンジを用いて0.5mLの気体を採取し、ガスクロマトグラフィー(GC)でメタン生成量を分析した。結果を表1に示す。尚、1ha当りの処理量(g)は、用いた水田土壌の仮比重に基づき、2002年発行のOECDガイドラインTest No.307に従って換算した。
【0026】
【表1】
【0027】
試験例1では無処理区(比較例1)に比べ、0.1mg/kg乾土の化合物I-1処理区(実施例1)ではメタン生成量が削減され、0.5mg/kg乾土以上(実施例2および3)では高い削減効果が示された。
【0028】
[試験例2]各種メタン生成阻害剤によるメタン生成抑制試験
ヘッドスペース分析用のガラスバイアル(21.5mL容)に水田土壌(仮比重1.18g/cm)を4.0gはかり取り、蒸留水を8mL加えた。この湛水土壌に、実施例4~9として、下記表2に示す化合物を50ppm含有したアセトン溶液をそれぞれ40μL添加した区(0.5mg/kg乾土(590g/ha相当))を設けた。また比較例2として、アセトン40μLを添加した無処理区を設けた。これらガラスバイアルに水田土壌微生物の培養液を100μL添加した後、セプタム及びアルミキャップを用いて密栓し、30℃で静置培養した。培養処理21及び28日後、ガラスバイアル試料中のヘッドスペースよりガスタイトシリンジを用いて0.5mLの気体を採取し、ガスクロマトグラフィー(GC)でメタン生成量を分析した。結果を表2に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
試験例2では無処理区(比較例2)に比べ、各種メタン生成阻害剤処理区(実施例4~9)の全てでメタン生成量が削減された。0.5mg/kg乾土処理では、化合物I-1及び化合物I-2が特に高い削減効果を示した(実施例4および5)。
【0031】
[試験例3]既存の阻害剤BES(比較化合物)とのメタン生成抑制比較試験
ヘッドスペース分析用のガラスバイアル(21.5mL容)に水田土壌(仮比重1.18g/cm)を4.0gはかり取り、蒸留水を8mL加えた。この湛水土壌に、実施例10として、化合物I-1を100ppm含有したアセトン溶液を20μL添加した区(0.5mg/kg乾土(590g/ha相当))、比較例3として、BES(比較化合物)を100ppm含有した水溶液及びアセトンを20μL添加した区(0.5mg/kg乾土)、及び、比較例4として、アセトン20μLを添加した無処理区を設けた。これらガラスバイアルに水田土壌微生物の培養液を100μL添加した後、セプタム及びアルミキャップを用いて密栓し、30℃で静置培養した。培養処理21及び28日後、ガラスバイアル試料中のヘッドスペースよりガスタイトシリンジを用いて0.5mLの気体を採取し、ガスクロマトグラフィー(GC)でメタン生成量を分析した。結果を表3に示す。尚、比較化合物であるBES(CAS番号:4263-52-9;2-Bromoethanesulfonate)は、既存のメタン生成阻害剤であり、東京化成工業株式会社製の製品を用いた。
【0032】
【表3】
【0033】
試験例3では無処理区(比較例4)に比べ、化合物I-1処理区(実施例10)及び比較化合物処理区(比較例3)共にメタン生成量が削減され、化合物I-1によるメタン削減量は比較化合物による削減量を大幅に上回った。