(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】高温超伝導線材の接続体および接続方法
(51)【国際特許分類】
H01B 12/02 20060101AFI20230405BHJP
H10N 60/80 20230101ALI20230405BHJP
H01R 4/68 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
H01B12/02 ZAA
H10N60/80 D
H01R4/68
(21)【出願番号】P 2018184184
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-09-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載先 「第96回2018年度春季 低温工学・超電導学会情報」のウェブサイト講演概要 https://www.csj.or.jp/conference/2018s/2A.pdf 掲載日 平成30年5月23日 〔刊行物等〕 集会名 第96回2018年度春季 低温工学・超電導学会 主催者名 公益社団法人低温工学・超電導学会 開催日 平成30年5月29日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業大規模プロジェクト型「高温超電導線材接合技術の超高磁場NMRと鉄道き電線への社会実装」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504193837
【氏名又は名称】国立大学法人室蘭工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100106622
【氏名又は名称】和久田 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100138357
【氏名又は名称】矢澤 広伸
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【氏名又は名称】丹羽 武司
(72)【発明者】
【氏名】金 新哲
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼澤 吉紀
(72)【発明者】
【氏名】朴 任中
(72)【発明者】
【氏名】末富 佑
【審査官】和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-515792(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0247607(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0061458(US,A1)
【文献】特開平08-104522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/02
H10N 60/80
H01R 4/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の酸化物高温超伝導線材と第2の酸化物高温超伝導線材の接続体であって、
前記第1の酸化物高温超伝導線材の第1の超伝導層と、前記第2の酸化物高温超伝導線材の第2の超伝導層とが、M-Cu-O(ただし、Mは第1の超伝導層または第2の超伝導層に含まれる単一または複数の金属元素)を含む接合部を介して超伝導接合されて
おり、
前記第1の超伝導層および前記第2の超伝導層は、Bi2223(Bi
2
Sr
2
Ca
2
Cu
3
O
x
)、Bi2212(Bi
2
Sr
2
Ca
1
Cu
2
O
x
)のいずれかである、
高温超伝導線材の接続体。
【請求項2】
前記第1の超伝導層および前記第2の超伝導層は、いずれも、Bi2223であり、
前記M-Cu-Oは、CaCuO
2である、
請求項1に記載の高温超伝導線材の接続体。
【請求項3】
前記M-Cu-Oは、Bi2212またはBi2201をさらに含む、
請求項
2に記載の高温超伝導線材の接続体。
【請求項4】
前記第1の超伝導層および前記第2の超伝導層は、複数のBi2223フィラメントとAgシースとを含み、
接合箇所ではその他の箇所と比較して、前記Agシースが少ない、
請求項
2または
3に記載の高温超伝導線材の接続体。
【請求項5】
前記第1の超伝導層、前記第2の超伝導層、および前記M-Cu-Oは、接合界面において配向がそろっている、
請求項1から
4のいずれか1項に記載の高温超伝導線材の接続体。
【請求項6】
接合箇所は、Ag、Ni、Pt族金属またはこれらの金属を含む合金の補強部材によって覆われている、
請求項1から
5のいずれか1項に記載の高温超伝導線材の接続体。
【請求項7】
第1の酸化物高温超伝導線材と第2の酸化物高温超伝導線材の接続方法であって、
前記第1の酸化物高温超伝導線材の第1の超伝導層と、前記第2の酸化物高温超伝導線材の第2の超伝導層とを露出させる露出工程と、
前記第1の超伝導層と前記第2の超伝導層とを、溶融拡散接合により接合する接合工程と、
酸素アニール処理により、前記第1の超伝導層および前記第2の超伝導層に酸素を導入するアニール工程と、
を含み、
前記接合工程において前記第1の超伝導層と前記第2の超伝導層の間にM-Cu-O(ただし、Mは第1の超伝導層または第2の超伝導層に含まれる単一または複数の金属元素)を生じさせ、前記第1の超伝導層と前記第2の超伝導層が前記M-Cu-Oを含む接合部を介して超伝導接合され
、
前記第1の超伝導層および前記第2の超伝導層は、Bi2223(Bi
2
Sr
2
Ca
2
Cu
3
O
x
)、Bi2212(Bi
2
Sr
2
Ca
1
Cu
2
O
x
)のいずれかである、
高温超伝導線材の接続方法。
【請求項8】
前記第1の超伝導層および前記第2の超伝導層は、いずれも、Bi2223であり、
前記接合工程では、Bi2223の融点以上まで加熱する、
請求項
7に記載の高温超伝導線材の接続方法。
【請求項9】
前記第1の超伝導層および前記第2の超伝導層は、複数のBi2223フィラメントとAgシースとを含んでおり、
前記露出工程の後かつ前記接合工程の前に、前記Agシースの融点付近または融点以上温度まで加熱し、かつ圧力をかけて、前記Agシースを除去する前処理工程をさらに含む、
請求項
8に記載の高温超伝導線材の接続方法。
【請求項10】
接合箇所を、Ag、Ni、Pt族金属またはこれらの金属を含む合金の補強部材によって覆う補強工程をさらに含む、
請求項
9に記載の高温超伝導線材の接続方法。
【請求項11】
前記補強工程は、前記前処理工程の後かつ前記接合工程の前、または、前記接合工程の後かつ前記アニール工程の前に行われる、
請求項
10に記載の高温超伝導線材の接続方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物高温超伝導線材の接続体および接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導線材は、NMR(Nuclear Magnetic Resonance)装置や、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置などに広く用いられている。超伝導線材同士の接続は、線材の長尺化や永久電流モードの実現などのために、必要不可欠な技術的課題である。
【0003】
酸化物高温超伝導線材のうちBi2212線材(Bi2Sr2Ca1Cu2Ox)については超伝導接合技術が実用化されており、REBCO線材((RE)Ba2Cu3Ox)についても本発明者らが超伝導接合技術を提案済みである(特許文献1)。一方、Bi2223線材(Bi2Sr2Ca2Cu3Ox)については実用的な超伝導接合方法はまだない。
【0004】
非特許文献1,2では、Bi2223のバルクを接合媒体として用いる固相拡散接合(800℃および3MPa)が提案されている。しかしながら、非特許文献1,2で提案されている手法では、実用に必要な程度の十分な臨界電流を得ることができない。また、この手法は、固相成長過程を有する場合もあるので接合に時間がかかるという問題、および接合の強度が弱いという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Guo, Wei, et al. "Superconducting joint of Bi-2223/Ag superconducting tapes by diffusion bonding." Physica C: Superconductivity 469.21 (2009): 1898-1901.
【文献】Guo, Wei, et al. "Fabrication of joint Bi-2223/Ag superconducting tapes with BSCCO superconducting powders by diffusion bonding." Physica C: Superconductivity 470.9-10 (2010): 440-443.
【文献】D. Di Castro, et al. "High Tc superconductivity at the interface between the CaCuO2 and SrTiO3 insulating oxides" Phys. Rev. Lett. 115 (2015): 147001.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような課題を考慮し、本発明は、新規の超伝導接続技術、特にBi2223線材にも適用可能な実用的な接続技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様は、高温超伝導線材の接続方法である。本態様に係る方法は、
第1の酸化物高温超伝導線材の第1の超伝導層と、第2の酸化物高温超伝導線材の第2の超伝導層とを露出させる露出工程と、
前記第1の超伝導層と前記第2の超伝導層とを、液相拡散接合(溶融拡散接合)により接合する接合工程と、
酸素アニール処理により、前記第1の超伝導層および前記第2の超伝導層に酸素を導入
するアニール工程と、
を含む。
【0009】
本態様における接合工程では、接合媒体(インサート金属)を用いずにも接合可能である。具体的には、超伝導層同士を当接し、超伝導層の融点以上まで加熱することで結晶相の少なくとも一部を液体に分解させて、接合面積を増加しながら液相接合を行う。本手法によって、臨界電流の大きな性能のよい超伝導接続が行える。また、本手法は長い加熱時間が必要となる固相成長とは異なって、液相成長により短時間で成長・接続が行える。本手法により、酸化物高温超伝導線材の超伝導接続が実現でき、これまで実用化されていなかったBi2223線材の接続にも適用できる。
【0010】
ここで、第1の酸化物高温超伝導線材と第2の酸化物高温超伝導線材は、Bi2223(Bi2Sr2Ca2Cu3Ox)、Bi2212(Bi2Sr2Ca1Cu2Ox)、REBCO((RE)Ba2Cu3Ox、REは一つ又は複数の希土類元素)のいずれかである。第1の酸化物高温超伝導線材と第2の酸化物高温超伝導線材の材料は同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0011】
本態様において、前記第1の超伝導層および前記第2の超伝導層は、いずれも、Bi2223であってもよい。この場合、媒体なしでの接合工程では、Bi2223の融点(大気中で865℃程度で酸素分圧に依存)以上まで加熱する。なお、加熱温度は、Bi2223が分解溶融して生成されるBi2212の融点(大気中885℃程度で酸素分圧に依存)以下、またはさらに高い温度で瞬間加熱することでBi2223の表面のみを溶融させることがよい。媒体ありでは、上記以外にBi2223融点以下でも実施可能である。
【0012】
また、第1および第2の超伝導層が、複数のBi2223フィラメントとAgシースとを含んでいる場合には、本態様の接続方法は、前記Agシースの融点付近または融点(バルクの場合960℃程度で微粒子の場合は大きく降下し、Agシースの例として880℃)以上の温度まで加熱して、前記Agシースを除去する前処理工程をさらに含むとよい。この前処理工程により各線材内のフィラメント同士が当接または近接し、その後接合まで実施するか、または次の工程である線材間の接合過程で同時に接合することもでき、大きな臨界電流が得られる。
【0013】
本態様に係る接続方法は、加熱を実施する前に接合箇所を、Ag、Ni、Pt族金属またはこれらの金属を含む合金などの高温で酸化しにくい補強部材によって覆う補強工程をさらに含んでもよい。補強部の材料は、酸素アニール工程において酸素が透過するものが必要である場合は、AgまたはAg合金などが採用できる。この補強工程は、前記前処理工程の後かつ前記接合工程の前に行われてもよいし、前記接合工程の後かつ前記アニール工程の前に行われてもよい。接合工程の前に行われる場合には、接合工程において溶融しない材料を用いることが望ましい。
【0014】
本発明の第2の態様は、高温超伝導線材の接続体である。本態様に係る高温超伝導線材の接続体は、第1の酸化物高温超伝導線材の第1の超伝導層と、第2の酸化物高温超伝導線材の第2の超伝導層とが、M-Cu-Oを含む接合部を介して接合されている、ことを特徴とする。ここで、M-Cu-Oは、MとCuとOなどの元素を含む化合物で、結晶構造においてはCuO2層を有することが良い。Mは、第1の超伝導層または第2の超伝導層に含まれる単一または複数の金属元素であることが望ましい。ただし、Mは、超伝導層の臨界温度と臨界電流などの性能変化を引き起こさない金属であれば、第1の超伝導層や第2の超伝導層に含まれる金属元素以外の金属元素であってもよい。例えばPd、Auなど、Cuよりイオン化傾向が低い物質は高温で超伝導層のCuと置換反応をしない。またMg、Baなど超伝導層に含まれている金属と同じ元素の族に属する物質と、Pbなど超
伝導層の性能を向上させるまたは大きく降下させない元素も使用できる。本態様において、接合部におけるM-Cu-Oは配向がそろっているとよい。
【0015】
ここで、第1の酸化物高温超伝導線材と第2の酸化物高温超伝導線材は、Bi2223(Bi2Sr2Ca2Cu3Ox)、Bi2212(Bi2Sr2Ca1Cu2Ox)、REBCO((RE)Ba2Cu3Ox、REは一つ又は複数の希土類元素)のいずれかである。第1の酸化物高温超伝導線材と第2の酸化物高温超伝導線材の材料は同じであってもよいし異なっていてもよい。超伝導層にBi2223またはBi2212を用いる場合には、MはBi、Ca、Srの1~3種であり(Bi2234、Bi2223、Bi2212、Bi2201などを含む)、超伝導層にREBCOを用いる場合にはMはREまたはBaもしくはその両方である。
【0016】
本態様において、前記第1の超伝導層および前記第2の超伝導層は、いずれも、Bi2223であってもよい。この場合、前記M-Cu-Oは、CaCuO2、CaCu2O3、Ca2CuO3、Bi2234、Bi2223、Bi2212、Bi2201などの少なくともいずれかを含むが、結晶構造でCuO2層を有する観点からみればCaCu2O3、Ca2CuO3以外を含むことがより良い。
【0017】
本態様に係る接続体は、接合箇所は、Ag、Ni、Pt族金属またはこれらの金属を含む合金などの補強部材によって覆われていてもよい。補強部材は、金属箔のように薄い部材であってよい。補強部材により高い機械的強度が得られる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、酸化物高温超伝導線材を高性能に接続でき、さらに、Bi2223線材を接続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施形態において接続する超伝導線材(多芯テープ線)の構造を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態にかかる超伝導線材の接続体の構造を示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態にかかる超伝導線材の接続方法を示す流れ図である。
【
図4】
図4は、実施形態にかかる超伝導線材の接続体の臨界電流の温度依存性を示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態にかかる超伝導線材の接続体の臨界電流の外部磁場依存性の結果を示す図である。
【
図6】
図6は、実施形態にかかる超伝導線材の接続体を用いたコイルの永久電流測定の結果を示す図である。
【
図7】
図7は、実施形態にかかる超伝導線材の接続体のX線回折測定(XRD)の結果を示す図である。
【
図8】
図8は、実施形態にかかる超伝導線材の接続体のEDS分析の分析位置を示す図である。
【
図9】
図9は、実施形態にかかる超伝導線材の接続体のEDS分析の分析結果を示す図である。
【
図10】
図10は、実施形態にかかる超伝導線材の接続体のEDS分析の分析位置を示す図である。
【
図11】
図11は、実施形態にかかる超伝導線材の接続体のEDS分析の分析結果を示す図である。
【
図12】
図12は、実施形態にかかる超伝導線材の接続体の湾曲IPX線解析測定の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、図面を参照しながら、この発明を実施するための形態を説明する。
【0021】
<第1の実施形態>
本実施形態は、Bi2223多芯(マルチフィラメント)テープ線材のBi2223相を溶融させて、線材間のフィラメントを直接に接合する。
【0022】
(超伝導線材)
図1は、接続するBi2223多芯テープ線材10の構造を示す図である。多芯テープ線材10は、複数のBi2223フィラメントを含む超伝導層11と、Agシース(銀母材)12と保護材13とを有する。一例として、多芯テープ線材10は、幅4.5mm、厚さ約0.3mmであり、100本以上のBi2223フィラメントを有する。
【0023】
(超伝導線材の接続体)
図2は、Bi2223多芯テープ線材10同士の接続体1の構造を示す図である。多芯テープ線材10a,10bは、例えば、末端の約10mmにおいて超伝導層11が接合されている。後述するように、接合箇所においては保護材13およびAgシース12が除去され、超伝導層11同士が接合部(接合層)20を介して接合される。また、接合箇所を含む末端部分は、接続を補強するための補強部材30によって覆われている。補強部材30は、厚さ0.1mm程度の金属箔を数回巻いてある。
【0024】
(接続方法)
図3は、接続体1の製造方法、すなわち、超伝導線材の接続方法を示す流れ図である。
【0025】
工程S10において、多芯テープ線材10a、10bの接続箇所、すなわち、末端の約10mmの一方の面の保護材13を剥がし、Agシースを研磨して、超伝導層11(Bi2223フィラメント)を露出させる。
【0026】
工程S20において、露出された多芯テープ線材10a,10bの超伝導層11同士を当接させる。
【0027】
工程S30において、接続箇所のAgシースを除去する。具体的には、Agを溶融または軟化させ、かつ圧力(880℃で10MPa)を掛けてAgを拡散させる。これにより、それぞれの多芯テープ線材10a、10bの末端部分において、Bi2223フィラメントが線材の厚さ方向で当接または近接される。なお、末端部分(接続箇所)のBi2223フィラメント間のAgシースを完全に除去して当接させることが望ましいが、必ずしも完全に除去する必要はなく、近接により未処理部分と比較してAgシースが少なくなっていればよい。
【0028】
工程S40において、接続箇所を含む末端部分を、金属箔の補強部材30で被覆する。金属箔は、アニール工程S60において酸化しにくいかつ酸素を透過する材料である必要があり、接合工程S50において酸化しにくいかつ溶融しない材料である必要がある。したがって、補強部材30として、Pt族元素を含んだ合金(例えばPd-Ag合金)を用いることが望ましい。なお、補強部材30は、接合工程S50の後に設けてもよく、この場合は、400℃前後で酸化が小さいAg-Ni合金などを利用することもできる。
【0029】
工程S50において、Bi2223相の融点(空気中865℃)以上かつ補強部材30の融点以下まで加熱し、Bi2223相の少なくとも一部を液体に分解し、最高温度で数分以内の短時間で接合を行う。2つの超伝導層11の接触面近傍のみBi2223相が溶融されてもよいし、接続箇所全体のBi2223相が溶融されてもよい。本実施形態では
、890℃で1分間加熱して超伝導層11同士を接合する。後述するように、熱処理後に、Bi2212相とCa-Cu-Oを含む接合部20が生じる点が本手法の特徴である。
【0030】
工程S60において、酸素アニール処理を行って、超伝導層11に酸素を導入する。接合界面の臨界電流は酸素量に依存するので、工程S60によって超伝導性能が向上する。
【0031】
(試料評価)
上述の方法により製造された接続体1の臨界電流の温度依存性(Ic-T特性)を調べた。
図4は、その結果を示す。77Kでは臨界電流(1μV基準)が12Aであり、4.2Kでは177Aであり、従来のBi2223線材の接続体よりも大きな臨界電流が得られた。このように、特に低温領域において臨界電流の顕著な上昇が見られた。
【0032】
また、接続体1の臨界電流の外部磁場依存性を調べるために、4.2Kにおいて、接続体の外部磁場を変化させながら臨界電流を測定した。
図5はその結果を示す。5.5Tの外部磁場中でも、0Tにおける臨界電流の46%の臨界電流を保持している。これは、接合部が強い磁場中に置かれるマグネット応用において、非常に有用な特性である。
【0033】
また、接続体1の電気抵抗を調べるために、接合部を1箇所だけ有するコイルを作製し、液体窒素温度で永久電流測定を行った。
図6はその結果を示す。コイル中心磁場の時間変化から、コイルの電気抵抗が10
-12Ω程度であることが分かり、永久電流運転が実現できる。
【0034】
次に、接合部20の組成をX線回折測定(XRD)により調べた。
図7の(a)は接合処理前の超伝導層11表面、(b)は超伝導層11の接合界面と反対の表面、(c)は超伝導層11の接合界面における測定結果を示す。なお、
図7の(c)には、2θ=28°付近を拡大図も付している。
図7の(a)に示すように接合処理前にはBi2212相やCa-Cu-Oは存在しないが、
図7の(c)に示すように接合後の界面にBi2212相およびCa-Cu-O(CaCuO
2)が得られていることが分かる。接合後の界面にはCaCuO
2だけでなく、CaCu
2O
3、Ca
2CuO
3も存在する。
【0035】
このように、接合界面にBi2212が現れるので、Bi2223-Bi2212-Bi2223というヘテロ接合が形成され、これにより超伝導接続されていると理解できる。しかしながら、この接合のみでは77Kではほぼ超伝導を示さない(臨界電流が数A以下)ことが知られている。接合界面にCaCuO2が得られていることから、Bi2223-CaCuO2-Bi2223が形成されており、これが高温での超伝導接続に寄与していると考えられる。このことは、単体では超伝導を示さないCaCuO2をヘテロ接合することにより高温超伝導が得られたという報告(非特許文献3)とも一致する。
【0036】
さらに、接合部20の組成をEDS分析(エネルギー分散型X線分析)により調べた。
図8は、接合部20を剥離して得られる接合界面71の一部におけるEDSの分析位置を示す図である。
図8に示すように、point1~point25の25個の位置で分析を行っている。
図9は、EDS分析の詳細結果である。なお、Agの組成比が20%以下の点についてのみ組成比を分析している。
図9に示すように、point16,23においてBi2212が検出され、point3においてCaCuO
2が検出されている。このように、EDS分析からも接合界面にBi2212およびCaCuO
2が現れていることが確認できる。なお、point7,8ではSrCaCu
2O
x,SrCa
5CuO
x(Sr-Ca-Cu-O)も検出されている。
【0037】
また、接続体1の接続箇所を、線材長手方向に垂直な面91で切断した断面についても同様にEDS分析を行った。
図10は、接合断面の一部でのEDSの分析位置を示す図で
ある。
図10に示すように、点p1を中心として厚さ方向と幅方向に複数(20個)の位置で分析を行っている。
図11は、EDS分析の詳細結果である。
図11に示すように、点p2,p3,p4においてCaCuO
2が検出され、点p18でSrCa
2CuO
x,点20でSrCr
3CuO
xが検出されている。
【0038】
また、Bi2212やCaCuO
2(M-Cu-O)層が高温超伝導として高い臨界電流を示すためには、c軸方向で00L面が配向していることが必要である。配向性を確認するために、接合界面に対して湾曲IPX線解析測定を実施した。
図12の(a)は接合後の界面に対する測定結果、(b)は接合前の界面に対する測定結果を示す。接合後の界面には、Bi2201,Bi2212,CaCuO
2はc軸で00L面が配向していることが分かる。
【0039】
(本実施形態の有利な効果)
本実施形態によれば、Bi2223線材同士を実用に十分足りる臨界電流を得ることができる。また、Bi2223線材同士を接続したコイルにおいて永久電流運転を達成することができる。また、本実施形態に係る製造方法では長時間の結晶成長過程を用いないので、短時間で接合が行える。接合の機械的強度も十分高く、さらに補強部材30を用いることで強度がさらに増す。ここで、接合自体の強度が高いため、補強部材30が小さくてもよく、補強部材の自己重力により接合が破壊されることを防止できると共に、取り扱いが容易になるという利点もある。
【0040】
また、接合の前処理として、接続箇所においてBi2212フィラメントの間に存在するAgシースを除去して、フィラメント同士を線材厚さ方向で接合させている。これにより、2つの線材の全てのフィラメントが確実に接合するため大きな臨界電流が得られる。なお、2つの線材をそれぞれ斜めに切断して接合する手法では、フィラメント単位での接合を試みているが、確率的にしか接続されないため、大きな臨界電流が得られなかったり、性能にばらつきが生じたりする。本実施形態では、このような問題を解消できる。
【0041】
<その他の実施形態>
第1の実施形態では、Bi2223-Bi2212-Bi2223あるいはBi2223-CaCuO2-Bi2223というヘテロ接合により超伝導接続が達成されている。しかしながら、接続する超伝導線材は、酸化物高温超伝導線材であればBi2223線材に限られない。
【0042】
例えば、REBCO線材同士を、上記と同様の手法により接続してもよい。REBCO線材同士の接続の場合には、Ba-Cu-O層が超伝導接続に寄与する。また、Bi2212線材同士を、上記と同様の手法により接続してもよい。Bi2212線材同士の接続の場合には、Ca-Cu-O層が超伝導接続に寄与する。さらに、異なる種類の酸化物高温超伝導線材同士を上記と同様の手法により接続してもよい。このような接合の原理は、基本的にBi2223の場合と同様である。その理由は、高温超伝導であるBi2223もBi2212もREBCOも結晶構造における超伝導層は同じCuO2層であり、それが接合においてもBa-Cu-OまたはCa-Cu-Oに含まれているCuO2層によって超伝導層がつながるため、すべて超伝導接合が可能である。
【0043】
第1の実施形態では、超伝導層同士を直接当接させて液相拡散接合により接合しているが、接合層にM-Cu-Oを作成するために、金属薄膜を超伝導層の間に挟んで液相拡散接合を行ってもよい。この場合に金属Mは、酸化物高温超伝導線材に含まれる金属である必要なく、界面で高温超伝導となるものであれば任意であってよい。
【符号の説明】
【0044】
1:接続体
10:高温超伝導多芯テープ線剤 11:超伝導層 12:Agシース 13:保護材20:接合部 30:補強部材