(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】水素空気二次電池用の水素吸蔵合金負極、及び、この水素吸蔵合金負極を含む水素空気二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/24 20060101AFI20230405BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20230405BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20230405BHJP
H01M 4/80 20060101ALI20230405BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
H01M4/24 J
H01M12/08 K
H01M4/38 A
H01M4/80 C
H01M4/90 X
(21)【出願番号】P 2019090008
(22)【出願日】2019-05-10
【審査請求日】2022-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】梶原 剛史
(72)【発明者】
【氏名】夘野木 昇平
(72)【発明者】
【氏名】石田 潤
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 賢大
(72)【発明者】
【氏名】安岡 茂和
【審査官】式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-055811(JP,A)
【文献】特開2018-098133(JP,A)
【文献】特開2016-152068(JP,A)
【文献】特開2016-186890(JP,A)
【文献】特開2015-195108(JP,A)
【文献】特開2009-074164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/24
H01M 4/38
H01M 4/80
H01M 12/08
H01M 4/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極芯体と、
前記負極芯体に保持された負極合剤と、を備え、
前記負極合剤は、水素吸蔵合金を含んでいる、水素空気二次電池用の水素吸蔵合金負極において、
前記水素吸蔵合金は、Ce
2Ni
7型を主相としており、水素吸蔵合金を構成する元素の総原子数と水素の原子数との比(H/M)で表される水素吸蔵量と、水素圧力との関係を示す圧力-組成-等温特性線図における80℃での水素の吸蔵圧力及び放出圧力のヒステリシスファクター(log
10(吸蔵圧力/放出圧力))の値が、H/M=0.6にて0.022以下である、水素空気二次電池用の水素吸蔵合金負極。
【請求項2】
前記水素吸蔵合金は、
一般式:Ln
1-xMg
xNi
y-zT
z(ただし、Lnは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ti及びZrから選ばれる少なくとも一つの元素を表し、Tは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Fe、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Al、Si、P及びBから選ばれる少なくとも一つの元素を表し、添字x、y及びzは、それぞれ、0≦x≦0.02、3.3≦y≦3.6、0≦z≦0.5の関係を満たしている。)で表される組成を有している、請求項1に記載の水素空気二次電池用の水素吸蔵合金負極。
【請求項3】
前記負極芯体は、ニッケルフォームである、請求項1又は2に記載の水素空気二次電池用の水素吸蔵合金負極。
【請求項4】
容器と、前記容器内にアルカリ電解液とともに収容された電極群とを備え、
前記電極群は、セパレータを介して重ね合わされた正極及び負極を含み、
前記正極は、酸素を正極活物質として用いる空気極であり、
前記負極は、請求項1~3の何れかに記載の水素空気二次電池用の水素吸蔵合金負極である、水素空気二次電池。
【請求項5】
前記アルカリ電解液は、前記水素吸蔵合金負極に含まれている前記水素吸蔵合金に対し、25質量%以上含まれている、請求項4に記載の水素空気二次電池。
【請求項6】
前記アルカリ電解液は、3mol/L以上、10mol/L以下のKOHを含む水溶液である、請求項4又は5に記載の水素空気二次電池。
【請求項7】
前記正極は、Bi
2Ru
2O
7を含んでいる、請求項水4~6の何れかに記載の水素空気二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素空気二次電池用の水素吸蔵合金負極、及び、この水素吸蔵合金負極を含む水素空気二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の酸素を正極活物質とする空気電池が、エネルギー密度が高く、小型、軽量化が容易であること等の理由から注目を集めている。このような空気電池においては、亜鉛空気一次電池が補聴器用の電源として実用化されている。
【0003】
また、充電が可能な空気電池として、負極用金属に、Li、Zn、Al、Mgなどを用いる空気二次電池の研究がなされており、このような空気二次電池は、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を超える新しい二次電池として期待されている。
【0004】
しかしながら、上記したような負極用金属を用いる空気二次電池は、電池における充放電の際の化学反応(以下、電池反応という)にともない当該負極用金属の溶解析出反応が繰り返されるので、負極用金属が樹枝状に析出するいわゆるデンドライト成長が起き、それにともなう内部短絡が発生したり、シェイプチェンジにより負極の形状が変化することで電池容量が低下してしまうといった問題があり、未だ実用化には至っていない。
【0005】
ところで、空気二次電池の一種として、電解液にアルカリ水溶液(アルカリ電解液)を用い、負極活物質に水素を用いる水素空気二次電池の研究がなされている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。これら水素空気二次電池は、負極用金属として水素吸蔵合金を用いている。しかしながら、水素空気二次電池における負極活物質は、水素であり、上記した水素吸蔵合金は負極活物質である水素を吸蔵放出するだけなので、電池反応にともない水素吸蔵合金自体の溶解析出反応は起こらない。このため、水素空気二次電池においては、上記したようなデンドライト成長による内部短絡やシェイプチェンジによる電池容量の低下の問題は起こらない。
【0006】
このような水素吸蔵合金を負極に用いる二次電池としては、例えば、特許文献3に示すようなニッケル水素二次電池がすでに実用化されている。特許文献3に代表されるようなニッケル水素二次電池は、長寿命及び高出力を発揮し、安全性や保存特性にも優れているので広く用いられている。
【0007】
ここで、ニッケル水素二次電池と水素空気二次電池の充放電反応式から両者の違いを説明する。なお、以下に説明する充放電反応式において、Mは水素吸蔵合金を示す。
【0008】
ニッケル水素二次電池は、正極活物質に水酸化ニッケル(Ni(OH)2)を用い、電解液にアルカリ水溶液、負極に水素吸蔵合金を用いる。ニッケル水素二次電池の充放電反応式は、以下の通りである。
充電:Ni(OH)2+M→NiOOH+MH・・・(I)
放電:MH+NiOOH→Ni(OH)2+M・・・(II)
【0009】
充電時には、(I)式に示すように、水素原子Hが正極の水酸化ニッケルから負極の水素吸蔵合金(M)へ移動し、放電時には、(II)式に示すように、水素原子Hが負極の水素吸蔵合金(MH)から正極のオキシ水酸化ニッケルへ移動する。
【0010】
ここで、ニッケル水素二次電池では、過充電時や過放電時に正極でガスの発生が起こり、このガスが負極で吸収されるようになっている。詳しくは、
図1に示すように、過充電時、負極においては、正極から発生した酸素ガスを吸収し、かつ、負極自体から水素ガスが発生しないようにするため、余分に充電可能な未充電部分(充電リザーブという)が設けられている。また、過放電時、負極においては、正極から発生した水素ガスを吸収し、かつ、負極自体から酸素ガスが発生しないようにするため、余分に放電可能な放電部分(放電リザーブという)が設けられている。このため、ニッケル水素二次電池の放電容量は、正極容量によって規制される(正極規制方式と呼ばれる)。通常、ニッケル水素二次電池では、正極に比べ容量が50%程度大きい負極を使用する方式が採用されている。
【0011】
一方、水素空気二次電池は、正極活物質に大気中の酸素を用い、電解液にアルカリ水溶液、負極に水素吸蔵合金を用いる。水素空気二次電池の充放電反応式は、以下の通りである。
充電:1/2H2O+M→1/4O2+MH・・・(III)
放電:1/4O2+MH→1/2H2O+M・・・(IV)
【0012】
充電時は、(III)式に示すように、水(H2O)が酸素と水素に分解され、酸素は大気中に放出され、水素は、水素吸蔵合金に吸収される。一方、放電時は、(IV)式に示すように、大気中の酸素と水素吸蔵合金に蓄えられた水素とから水が生成される。
【0013】
水素空気二次電池では、
図2に示すように、正極活物質が大気中の酸素であるため正極容量は基本的に無限大と言え、正極容量による規制は無い。このため、水素空気二次電池は、負極においてより広い容量範囲が使用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2016-152068号公報
【文献】特開2018-098133号公報
【文献】特許第6282007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、水素空気二次電池では、正極容量による規制がないため、ニッケル水素二次電池と比べ負極の使われ方が異なる。このため、水素空気二次電池では負極からガスが発生する場合があり、特に、過充電や過放電になった場合に、ニッケル水素二次電池とは逆に負極からガスが発生する。詳しくは、
図2に示すように、過充電時は、負極から水素ガスが発生し、過放電時は、負極から酸素ガスが発生する。
【0016】
水素空気二次電池においては、充電時に負極から水素ガスが発生することがあるが、この場合、水素ガスは、水素原子として水素吸蔵合金中に吸収されずに、水素ガスのまま大気中へ散逸してしまう。その結果、負極活物質である水素の量が減る。水素の量が減ると、放電反応において水(H2O)の生成量が減り、ひいては、アルカリ電解液の総量が減る。そうすると、セパレータが乾燥した状態になるので、セパレータを酸素ガスが透過するようになり、負極が自己放電する不具合が生じる。また、アルカリ電解液中の水の量が減ることにより、相対的にアルカリ成分の量が多くなる。その結果、アルカリ電解液の濃度が上昇し、水素吸蔵合金の腐食が進行し易くなる。
【0017】
このように、水素空気二次電池においては、負極にて水素ガスが発生することにより、ニッケル水素二次電池では、想定されていなかった水素ガス発生にともなう負極の劣化が起こり、電池の寿命が短くなるとういう問題がある。
【0018】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、水素空気二次電池の寿命を延ばすことに貢献する水素空気二次電池用の水素吸蔵合金負極、及び、この水素吸蔵合金負極を含む水素空気二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、本発明によれば、負極芯体と、前記負極芯体に保持された負極合剤と、を備え、前記負極合剤は、水素吸蔵合金を含んでいる、水素空気二次電池用の水素吸蔵合金負極において、前記水素吸蔵合金は、Ce2Ni7型を主相としており、水素吸蔵合金を構成する元素の総原子数と水素の原子数との比(H/M)で表される水素吸蔵量と、水素圧力との関係を示す圧力-組成-等温特性線図における80℃での水素の吸蔵圧力及び放出圧力のヒステリシスファクター(log10(吸蔵圧力/放出圧力))の値が、H/M=0.6にて0.022以下である、水素空気二次電池用の水素吸蔵合金負極が提供される。
【0020】
前記水素吸蔵合金は、一般式:Ln1-xMgxNiy-zTz(ただし、Lnは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ti及びZrから選ばれる少なくとも一つの元素を表し、Tは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Fe、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Al、Si、P及びBから選ばれる少なくとも一つの元素を表し、添字x、y及びzは、それぞれ、0≦x≦0.02、3.3≦y≦3.6、0≦z≦0.5の関係を満たしている。)で表される組成を有している構成とすることが好ましい。
【0021】
前記負極芯体は、ニッケルフォームである構成とすることが好ましい。
【0022】
また、本発明によれば、容器と、前記容器内にアルカリ電解液とともに収容された電極群とを備え、前記電極群は、セパレータを介して重ね合わされた正極及び負極を含み、前記正極は、酸素を正極活物質として用いる空気極であり、前記負極は、上記した水素空気二次電池用の水素吸蔵合金負極である、水素空気二次電池が提供される。
【0023】
前記アルカリ電解液は、前記水素吸蔵合金負極に含まれている前記水素吸蔵合金に対し、25質量%以上含まれている構成とすることが好ましい。
【0024】
前記アルカリ電解液は、3mol/L以上、10mol/L以下のKOHを含む水溶液である構成とすることが好ましい。
【0025】
前記正極は、Bi2Ru2O7を含んでいる構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る水素空気二次電池用の水素吸蔵合金負極は、負極芯体と、前記負極芯体に保持された負極合剤と、を備え、前記負極合剤は、水素吸蔵合金を含んでいる、水素空気二次電池用の水素吸蔵合金負極において、前記水素吸蔵合金は、Ce2Ni7型を主相としており、水素吸蔵合金を構成する元素の総原子数と水素の原子数との比(H/M)で表される水素吸蔵量と、水素圧力との関係を示す圧力-組成-等温特性線図における80℃での水素の吸蔵圧力及び放出圧力のヒステリシスファクター(log10(吸蔵圧力/放出圧力))の値が、H/M=0.6にて0.022以下である。この水素吸蔵合金負極は、充電時に水素ガスが発生し難いので、水素ガス発生にともない水が減少する問題の発生を抑制することができ、電池の長寿命化に貢献する。よって、斯かる水素吸蔵合金負極を含む水素空気二次電池は、寿命特性に優れる。このため、本発明によれば、水素空気二次電池の寿命を延ばすことに貢献する水素空気二次電池用の水素吸蔵合金負極、及び、この水素吸蔵合金負極を含む水素空気二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】ニッケル水素二次電池の過充電及び過放電の状態を概略的に示した模式図である。
【
図2】水素空気二次電池の過充電及び過放電の状態を概略的に示した模式図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る水素空気二次電池を概略的に示した平面図である。
【
図4】
図3中のIV‐IV線に沿う断面を示した断面図である。
【
図5】実施例1で使用される水素吸蔵合金のPCT特性線図である。
【
図6】実施例1,2、比較例1,2の水素吸蔵合金のXRDプロファイルである。
【
図7】比較例1で使用される水素吸蔵合金のPCT特性線図である。
【
図8】水素空気二次電池の放電容量とサイクル数との関係を示したグラフである。
【
図9】5サイクル時における電池電圧と充電容量との関係(充電特性カーブ)を示したグラフである。
【
図10】24サイクル時にける電池電圧と充電容量との関係(充電特性カーブ)を示したグラフである。
【
図11】電池の重量変化量とサイクル数との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る水素吸蔵合金負極21(以下、負極21という)を含む水素空気二次電池1(以下、電池1という)について図面を参照しながら説明する。
【0029】
電池1は、
図3に示すように、容器としての電池ケース10を備えている。この電池ケース10は、
図4に示すように、空気極側ケース半体12と負極側ケース半体14とを含んでおり、これら空気極側ケース半体12と負極側ケース半体14とが組み合わされて、全体として箱形状の電池ケース10が形成されている。この電池ケース10は、例えば、アクリル樹脂により形成されている。
【0030】
空気極側ケース半体12は、空気極23に対向する空気極対向壁16と、この空気極対向壁16の周縁部に設けられ、空気極23を囲む空気極側外周壁18とを含んでいる。
【0031】
負極側ケース半体14は、負極21と接する負極側対向壁26と、この負極側対向壁26の周縁部に設けられ、負極21を囲む負極側外周壁28とを含んでいる。
【0032】
電池ケース10の内部には、アルカリ電解液32とともに電極群20が収容されている。
電極群20は、空気極(正極)23と、負極21とがセパレータ22を介して重ね合わされて形成されている。
【0033】
負極21は、多孔質構造をなし多数の空孔を有する導電性の負極芯体と、前記した空孔内及び負極芯体の表面に担持された負極合剤とを含んでいる。上記したような負極芯体としては、例えば、ニッケルフォームを用いることが好ましい。これは、極板全体に導電ネットワークを形成させるためと、充放電にともなう膨張収縮による活物質の剥離・脱落を抑制するためである。さらには、このニッケルフォームに水素発生過電圧が高いSn等の金属でめっき処理をすることやカーボン材料でコートすることを行うと水素ガス発生の抑制に効果がある。
【0034】
負極合剤は、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金の粒子(水素吸蔵合金粒子)、結着剤、増粘剤及び導電材を含む。また、負極合剤には、必要に応じて負極補助剤を添加しても構わない。
【0035】
結着剤は、水素吸蔵合金粒子及び導電材を互いに結着させると同時にこれらを負極芯体に結着させる働きをする。ここで、結着剤としては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、親水性ポリマー、疎水性ポリマー等を用いることができる。
【0036】
増粘剤は、後述する負極合剤ペーストに粘性を付与し、負極の成形をしやすくする。ここで、増粘剤としては、カルボキシメチルセルロースを用いることができる。
【0037】
導電材は、負極合剤に導電性を付与するものであり、カーボンブラックや黒鉛を用いることができる。
負極補助剤としは、ポリアクリル酸ナトリウム等を用いることができる。
【0038】
水素吸蔵合金粒子を構成する水素吸蔵合金としては、以下のようなものが用いられる。
まず、本発明で用いる水素吸蔵合金は、結晶構造がCe2Ni7(A2B7)型の合金を主相としている。なお、主相とは、全体に占める割合が50%を超えている相をいう。このA2B7型の結晶構造を有する水素吸蔵合金は、AB2型ユニット及びAB5型ユニットが積層されてなる、いわゆる超格子構造をなしている。このような超格子構造の水素吸蔵合金は、AB5型合金の特徴である水素の吸蔵放出が安定しているという長所と、AB2型合金の特徴である水素の吸蔵量が大きいという長所とを併せ持っている。このため、A2B7型の水素吸蔵合金は、水素吸蔵能力に優れるので、得られる電池1の高容量化が図れる。
【0039】
ここで、水素吸蔵合金としては、ニッケル水素二次電池用の水素吸蔵合金として既に実用化されており、実績があるAB5型の水素吸蔵合金も知られている。このAB5型の水素吸蔵合金は、サイクル寿命を維持するためには、CoやMnの固溶が必須である。しかし、CoやMnはアルカリ電解液に溶解してセパレータに導電性を有する酸化物を析出させるため自己放電が大きくなり、放置期間が長くなると残存容量が減少するデメリットがある。これに対し、A2B7型の水素吸蔵合金ではCoやMnを含まない組成にて、容量やサイクル寿命を両立することができるため、水素空気二次電池での使用に適している。
【0040】
そして、本発明で用いる水素吸蔵合金は、水素吸蔵合金を構成する元素の総原子数と水素の原子数との比(H/M)で表される水素吸蔵量と、水素圧力との関係を示す圧力-組成-等温特性線図(以下、PCT特性線図という)における80℃での水素の吸蔵圧力及び放出圧力のヒステリシスファクター(log10(吸蔵圧力/放出圧力))の値が、H/M=0.6にて0.022以下である。
【0041】
ここで、PCT特性線図について説明する。PCT特性線図においては、通常、縦軸に水素ガスの平衡水素圧が示され、横軸に固相中の水素原子数Hと水素吸蔵合金を構成する元素の総原子数Mとの比であるH/Mで表される水素組成(水素吸蔵量あるいは水素濃度)が示される。所定の温度で平衡水素圧を徐々に上げていくと、平衡水素圧の上昇に伴い水素吸蔵合金中に水素が吸収され、水素吸蔵合金中の水素吸蔵量が増加する。そして、水素原子の占有可能サイトが水素原子で埋まるにつれて平衡水素圧が上昇し、水素原子配置の幾何学的制約を受ける状態に達することで、平衡水素圧は急上昇する。一方、平衡水素圧を下げていくと水素吸蔵合金中の水素が放出され、水素吸蔵合金中の水素吸蔵量が減少する。このような平衡水素圧と水素組成との関係の変化をプロットすることによりPCT曲線が描かれ、それによりPCT特性線図が得られる。PCT曲線においては、水素の吸蔵過程と放出過程とで平衡水素圧は異なる。水素の吸蔵過程での平衡水素圧を吸蔵圧力Paとし、水素の放出過程での平衡水素圧を放出圧力Pdとした場合に、吸蔵圧力Paと放出圧力Pdとの差をヒステリシスと呼ぶ。このヒステリシスの大小を示す指標として、log10(Pa/Pd)で表されるヒステリシスファクターが用いられる。このヒステリシスファクターは、値が大きいほどヒステリシスが大きいことを表し、値が小さいほどヒステリシスが小さいことを表す。
【0042】
ここで、水素の吸蔵放出のヒステリシスが小さいということは、水素吸蔵合金の表面から内部にかけて水素の濃度勾配が小さい(合金中の水素移動のための活性化エネルギー障壁が小さい)ことを示している。充電時に水素吸蔵合金の表面近傍で生成した水素原子が速やかに合金内部に拡散することで、表面近傍での水素濃度の上昇を抑制し、水素ガスの発生を反応速度論的に抑制すると考えられる。
【0043】
本発明の水素吸蔵合金負極に用いられる水素吸蔵合金は、80℃でのPCT特性線図を採用した場合に、充電末期にさしかかった電池における水素吸蔵合金の水素濃度に相当するH/M=0.6でのヒステリシスファクターの値が0.022以下となる水素吸蔵合金に限定される。充電末期においてもヒステリシスファクターの値が低い、すなわち、ヒステリシスが小さい水素吸蔵合金であれば、充電末期においても、水素ガスが発生し難いので、水素空気二次電池において、水素ガス発生にともなう負極の劣化が起こり、電池の寿命が短くなるとういう不具合の発生を抑制できる。
【0044】
水素吸蔵合金の組成としては、上記の条件を満たすことができれば特に限定されるものではなく、自由に選択できるが、例えば、一般式:
Ln1-xMgxNiy-zTz・・・(V)
で表される水素吸蔵合金を用いることが好ましい。
【0045】
ただし、一般式(V)中、Lnは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ti及びZrから選ばれる少なくとも一つの元素を表し、Tは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Fe、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Al、Si、P及びBから選ばれる少なくとも一つの元素を表し、添字x、y及びzは、それぞれ、0≦x≦0.02、3.3≦y≦3.6、0≦z≦0.5の関係を満たす数を表す。
【0046】
ここで、一般式(V)のうち、NiとTの合計値を表すyの値は、3.3未満では水素吸蔵量が減少し、3.6を上回ると電池の寿命特性を劣化させるため、3.3≦y≦3.6の関係を満たすことが好ましい。また、サイクル特性を良好にするためには、TにはAlを選択し、zは0.17以上とすることが好ましい。一方、Alの量が多くなりすぎると水素吸蔵量が減少するためzの値は0.5以下とすることが好ましい。
【0047】
なお、水素吸蔵合金中からアルカリ電解液に溶解する成分の内、空気極での反応(酸素還元、酸素発生)を阻害する元素に関しては、充放電の過電圧を上げるため使用を避けることが好ましい。例えば、Zn2+、Ca2+、Cd2+、Y3+、Er3+、Tm3+、Yb3+、Lu3+などは、酸素発生電位を貴にシフトさせることが知られているので、これらの元素は水素吸蔵合金の構成元素として除くことがより好ましい。
【0048】
ここで、水素吸蔵合金粒子は、例えば以下のようにして得られる。
まず、所定の組成となるように金属原材料を計量して混合し、この混合物を不活性ガス雰囲気下にて、例えば、高周波誘導溶解炉で溶解してインゴットにする。得られたインゴットは、不活性ガス雰囲気下にて900~1200℃に加熱され、その温度で5~24時間保持する熱処理が施され均質化される。この後、インゴットを粉砕し、篩分けを行うことにより所望粒径の水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末を得る。
【0049】
負極21は、例えば以下のようにして製造することができる。
まず、水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末、結着剤、増粘剤、導電材、負極補助剤及び水を混練して負極合剤ペーストを調製する。得られた負極合剤ペーストは負極芯体に充填され、乾燥処理が施される。乾燥後、水素吸蔵合金粒子等が付着した負極芯体はロール圧延されて、体積当たりの合金量を高められ、その後、裁断がなされ、これにより負極21が製造される。この負極21は、全体として板状をなしている。
【0050】
次に、空気極23は、多孔質構造をなし多数の空孔を有する導電性の空気極芯体と、前記した空孔内及び空気極芯体の表面に担持された空気極合剤(正極合剤)とを含んでいる。上記したような空気極芯体としては、例えば、ニッケルフォームやニッケルメッシュを用いることができる。
【0051】
空気極合剤は、水素空気二次電池用の空気極触媒と、導電材と、結着剤とを含む。
水素空気二次電池用の空気極触媒としては、酸化還元の二元機能を有するものであれば特に限定されない。好ましい酸化還元触媒としては、例えば、パイロクロア型複合酸化物が挙げられ、より好ましくは、パイクロア型のビスマスルテニウム酸化物(Bi2Ru2O7)が挙げられる。
【0052】
次に、空気二次電池用の空気極触媒の製造方法に関して、パイクロア型のビスマスルテニウム酸化物を製造する方法を例に挙げ、以下に説明する。
【0053】
まず、Bi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oを同じ濃度となるように蒸留水の中に投入し、撹拌してBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oの混合水溶液を調製する。このとき蒸留水の温度は、60℃以上、90℃以下とする。そして、この混合水溶液に、1mol/L以上、3mol/L以下のNaOH水溶液を加える。この際の浴温度は60℃以上、90℃以下に保持し、酸素バブリングを行いながら撹拌する。この操作によって生じた沈殿物を含む溶液を80℃以上、100℃以下に保持して水分の一部を蒸発させてペーストを形成する。このペーストを蒸発皿に移し、100℃以上、150℃以下に加熱し、その状態で10時間以上、20時間以下保持して乾燥させ、ペーストの乾燥物を得る。そして、この乾燥物を乳鉢で粉砕した後、空気雰囲気下で400℃以上、700℃以下の温度に加熱し、0.5時間以上、24時間以下保持することにより焼成し、焼成物を得る。得られた焼成物を60℃以上、90℃以下の蒸留水を用いて水洗した後乾燥させる。これにより、パイクロア型のビスマスルテニウム酸化物が得られる。
【0054】
次に、導電材について説明する。この導電材は、空気二次電池の高出力化を図るべく内部抵抗を低下させるため、及び、上記した触媒の担体として用いられる。斯かる導電材として、例えば、ニッケル粒子の集合体であるニッケル粉末を用いることが好ましい。より好ましくは、スパイク状又はそれが鎖状につながったフィラメント状の粒子が用いられる。これらは、カーボニル法により製造され、比表面積の増加、触媒担持性向上、導電ネットワークの形成、ガス拡散性の向上が期待できる。このため、空気極の抵抗値が低く抑えられ、電池の過電圧低減に貢献する。
【0055】
結着剤は、空気極合剤の構成材料を結着させるとともに空気極23に適切な撥水性を付与する働きをする。ここで、結着剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、フッ素樹脂が用いられる。なお、好ましいフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が用いられる。
【0056】
空気極23は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、空気極触媒、導電材、結着剤及び水を含む空気極合剤ペーストを調製する。
【0057】
得られた空気極合剤ペーストは、シート状に成形され、その後、ニッケルメッシュ(空気極芯体)にプレス圧着される。これにより、空気極の中間製品が得られる。
【0058】
次いで、得られた中間製品は、焼成炉に投入され焼成処理が行われる。この焼成処理は、不活性ガス雰囲気中で行われる。この不活性ガスとしては、例えば、窒素ガスやアルゴンガスが用いられる。焼成処理の条件としては、300℃以上、400℃未満の温度に加熱し、この状態で、10分以上、20分以下の間保持する。その後、中間製品を焼成炉内で自然冷却し、中間製品の温度が150℃以下になったところで大気中に取り出す。これにより、焼成処理が施された中間製品が得られる。この焼成処理後の中間製品を所定形状に裁断することにより、空気極23を得る。
【0059】
以上のようにして得られた空気極23及び負極21は、セパレータ22を介して積層され、これにより電極群20が形成される。このセパレータ22は、空気極23及び負極21の間の短絡を避けるために配設され、電気絶縁性の材料が採用される。このセパレータ22に採用される材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの等を用いることができる。ここで、セパレータ22は、全体として矩形状をなしている。そして、セパレータ22の平面視形状は、上記した空気極23の平面視形状及び負極21の平面視形状よりも大きくすることが好ましい。
【0060】
電極群20を形成する際、セパレータ22の四方の端部は、空気極23及び負極21の四方の端部よりも突出するようにして電極群20を組み立てる。
【0061】
得られた電極群20には、更に、空気極23の上に撥水通気部材50を載置することが好ましい。この撥水通気部材50は、空気は透過し、アルカリ電解液の透過は防止する機能を有しているものであれば特に限定されるものではない。このような撥水通気部材50としては、例えば、フッ素樹脂多孔膜を用いることが好ましい。より好ましくは、PTFE多孔膜を用いる。更に、撥水通気部材50として、フッ素樹脂多孔膜に不織布拡散紙を重ね合わせた複合体を用いることが好ましい。
【0062】
撥水通気部材50が載置された電極群20は、アルカリ電解液32とともに電池ケース10内に配設される。詳しくは、
図4に示すように、撥水通気部材50が載置された電極群20は、空気極側ケース半体12の空気極対向壁16と、負極側ケース半体14の負極側対向壁26との間に挟み込まれるとともに、セパレータ22の四方の端部が、空気極側ケース半体12の空気極側外周壁18の先端部19と、負極側ケース半体14の負極側外周壁28の先端部29とによって挟み込まれて固定される。これによって、電池1が形成される。
【0063】
ここで、空気極側ケース半体12の空気極側外周壁18の先端部19と、負極側ケース半体14の負極側外周壁28の先端部29との間は、セパレータ22の端部から外部にアルカリ電解液32が漏出しないようパッキン34で封止されている。
【0064】
なお、上記したアルカリ電解液としては、アルカリ二次電池に用いられる一般的なアルカリ電解液が好適に用いられ、具体的には、NaOH、KOH及びLiOHのうち、少なくとも1種を溶質として含む水溶液が用いられる。ここで、アルカリ電解液として、3mol/L以上、10mol/L以下のKOHを含む水溶液を用いることが好ましい。このような、3mol/L以上、10mol/L以下のKOHを含むアルカリ電解液は、電池の放電特性に優れるためである。また、電池1内に注入されるアルカリ電解液は、負極21に含まれている水素吸蔵合金に対して25質量%以上含まれていることが好ましい。アルカリ電解液の量が水素吸蔵合金に対して25質量%未満であると、充電時に消費する水が足りなくなるためである。
【0065】
また、空気極側ケース半体12は、通気路60を有している。通気路60は、放電時に空気極23へ空気中の酸素を供給するとともに、充電時に空気極23から生じた酸素を外部へ排出する。通気路60の形状としては、特に限定されるものではない。好ましい通気路60の形状としては、例えば、
図3及び
図4に示したような形状が挙げられる。すなわち、通気路60は、空気極対向壁16における空気極側の内壁面17に設けられた空気極開口部としての凹溝63と、凹溝63の一方端に設けられた第1通気口61と、凹溝63の他方端に設けられた第2通気口62とを含んでいる。
【0066】
凹溝63は、
図3から明らかなように、平面視形状が全体として1本のサーペンタイン形状をなしており、
図4から明らかなように、断面形状が、矩形状をなし、空気極23の側(撥水通気部材50の側)に向かって開口している。なお、サーペンタイン形状の折り返す数は特に限定されるものではない。
【0067】
第1通気口61は、凹溝63の一方端の部分にて、空気極対向壁16の内部から外部へ貫かれた貫通孔である。そして、第1通気口61の内周面の一部は、凹溝63と連通している。
【0068】
第2通気口62は、凹溝63の他方端の部分にて、空気極対向壁16の内部から外部へ貫かれた貫通孔である。そして、第2通気口62の内周面の一部は、凹溝63と連通している。
【0069】
上記した撥水通気部材50は、空気極対向壁16と空気極23との間に介在し、空気極対向壁16及び空気極23の両方に密着している。この撥水通気部材50は、凹溝63、第1通気口61及び第2通気口62の全体をカバーする大きさを有している。
【0070】
以上のような態様の電池1においては、通気路60を通じて空気が流れる。通気路60を流れる空気は、通気路60の凹溝63に面する撥水通気部材50の内部に拡散する。そして、撥水通気部材50は、内部に拡散した空気を直下にて接する空気極23に向かって透過させる。つまり、撥水通気部材50はガス拡散層として機能する。また、撥水通気部材50は、空気極23から発生する酸素を凹溝63へ向かって透過させる。凹溝63へ到達した酸素は、通気口を通じて電池ケース10の外部の大気中に放出される。
【0071】
また、電池ケース10の内部のアルカリ電解液32は、撥水通気部材50によって通気路60への透過が妨げられる。このため、通気口を介してアルカリ電解液32が外部へ漏出することは抑制することができる。
【0072】
ここで、本発明に係る電池1においては、第1通気口61に、配管部材72を介して圧送装置としての圧送ポンプ74が取り付けられている。この圧送ポンプ74を駆動させることにより、第1通気口61から凹溝63に空気を送り込むことができる。
【0073】
なお、本実施形態においては、図示することは省略したが、空気極23には空気極リードが、負極21には負極リードが、それぞれ電気的に接続されており、これら空気極リード及び負極リードは、電池ケース10の気密性及び水密性を保持した状態で電池ケース10の内側から外側へ適切に延びている。また、空気極リードの先端には空気極端子が取り付けられており、負極リードの先端には負極端子が取り付けられている。したがって、電池1においては、これら空気極端子及び負極端子を利用して充放電の際の電流の入力及び出力が行われる。
また、
図3においては、圧送ポンプ74の図示を省略している。
【0074】
ここで、電池1においては、空気極側ケース半体12の凹溝63は撥水通気部材50に相対している。撥水通気部材50は、気体は通すが水分は遮断するので、空気極23は撥水通気部材50、凹溝63、第1通気口61及び第2通気口62を介して大気に開放されることになる。つまり、空気極23は、撥水通気部材50を通じて大気と接することになる。
【0075】
[実施例]
1.電池の製造
(実施例1)
【0076】
(1)水素吸蔵合金粉末の製造
La、Sm、Mg、Ni、Al、Crの各金属材料を所定のモル比となるように混合して混合金属材料を調製した後、当該混合金属材料を高周波誘導溶解炉に投入しアルゴンガス雰囲気中にて溶解させ、得られた溶湯を鋳型に流し込み、25℃の室温まで冷却してインゴットを製造した。
【0077】
得られたインゴットをアルゴンガス雰囲気中で機械的に粉砕し、第1の粉末を得た。得られた粉末についてレーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により体積平均粒径(MV)を測定した。その結果、体積平均粒径(MV)は80μmであった。次に、第1の粉末に対し、後工程で行う熱処理の際に蒸発して減少するMgを補填するために所定量のMg源を添加し、これらを混合した。得られた混合粉末を密閉容器にアルゴンガスとともに封入し、温度1000℃にて10時間保持する熱処理を施した。この熱処理は、合金の相を均質化する効果がある。熱処理が終了した混合粉末を25℃の室温まで冷却し、密閉容器から混合粉末を取り出し、再度、アルゴンガス雰囲気中で機械的に粉砕した後、篩い分けを行い、所望の水素吸蔵合金粉末を得た。
【0078】
ここで、得られた水素吸蔵合金粉末のうち、一部は、各種分析用、PCT特性の測定用、及び、合金容量測定用の試料として取り分けておき、残りを負極の製造用とした。
【0079】
まず、得られた水素吸蔵合金粉末について、レーザー回折・散乱式粒径分布測定装置により体積平均粒径(MV)を測定した。その結果、体積平均粒径(MV)は60μmであった。
【0080】
次いで、この水素吸蔵合金粉末の組成を高周波プラズマ分光分析法(ICP)によって分析したところ、組成は、(La0.20Sm0.80)0.98Mg0.02Ni3.19Al0.25Cr0.01であった。
【0081】
(2)PCT特性の測定
得られた水素吸蔵合金粉末の試料をPCT水素化特性評価装置にセットし、80℃に保持したまま、最大水素圧1MPaまで水素化後、脱水素化して水素吸蔵合金粉末の試料の活性化を行った。その後、活性化が済んだ水素吸蔵合金粉末の試料について、80℃で、平衡水素圧を最大で1MPaまで上昇させ、その後下降させることにより、水素の吸蔵過程及び放出過程での平衡水素圧と水素組成との関係の変化をプロットした。これによりPCT曲線を描きPCT特性線図を得た。このPCT曲線のデータより、H/M=0.2におけるヒステリシスファクター(log
10(P
a/P
d))の値と、H/M=0.6におけるヒステリシスファクター(log
10(P
a/P
d))の値とを求め、その結果を表1に示した。また、得られたPCT特性線図を
図5に示した。
【0082】
(3)電気化学的合金容量の測定
水素吸蔵合金粉末0.25gとニッケル粉末0.75gとを混合し、得られた混合粉末を直径10mmの円盤状に成型してペレット電極を作製した。次いで、円筒形の容器を準備し、この容器内に、8mol/LのKOH水溶液100mLを注入した。そして、KOH水溶液が入れられた容器の中央部にペレット電極と酸化水銀参照電極を挿入するとともに、当該容器の縁に合わせてペレット電極(負極)に対し容量が十分に大きい水酸化ニッケル正極を配置した。この負極容量規制の電池にて、合金容量を300mAh/gと仮定して計算した負極容量を1Itとして、0.5Itで200分間の充電を行い、その後、0.5Itにて酸化水銀参照電極に対して負極電位が-0.3Vになるまで放電する充放電試験を実施し、電気化学的合金容量を求めた。
【0083】
(4)負極の作成
得られた水素吸蔵合金の粉末100質量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウムの粉末0.2質量部、カルボキシメチルセルロースの粉末0.04質量部、スチレンブタジエンゴムのディスパージョン3.0質量部、カーボンブラックの粉末0.5質量部、水22.4質量部を添加して25℃の環境下において混練し、負極合剤ペーストを調製した。
【0084】
この負極合剤ペーストを面密度(目付)が580g/m2、厚みが約1.7mmのニッケルフォームのシートに充填した。そして、負極合剤ペーストを乾燥させ、負極合剤が充填されたニッケルフォームのシートを得た。得られたシートは圧延され、体積当たりの合金量を高めた後、縦40mm、横40mmに切断して負極21を得た。なお、負極21の厚さは、0.83mmであり、合金量は7.63gであった。そして、上記した条件にて測定した電気化学的合金容量から負極21の容量を求めた。その結果、負極21の容量は、2560mAh(面積当たり160mAh/cm2)であった。
【0085】
(5)空気極触媒の合成
Bi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oを所定量準備し、これらBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oが同じ濃度となるように75℃の蒸留水中に投入し、撹拌してBi(NO3)3・5H2O及びRuCl3・3H2Oの混合水溶液を調製した。そして、この混合水溶液に、2mol/LのNaOH水溶液を加えた。この際の浴温度は75℃とし、酸素バブリングを行いながら撹拌した。この操作によって生じた沈殿物を含む溶液を85℃に保持して水分の一部を蒸発させてペーストを形成した。このペーストを蒸発皿に移し、120℃に加熱し、その状態で12時間保持して乾燥させ、ペーストの乾燥物(前駆体)を得た。
【0086】
得られた乾燥物を乳鉢で粉砕した後、空気雰囲気下で600℃に加熱し、1時間保持する熱処理を施し、焼成物を得た。得られた焼成物を70℃の蒸留水を用いて水洗した後、吸引濾過し、120℃で乾燥させた。これにより、焼成物を得た。
【0087】
得られた焼成物を、乳鉢を用いて粉砕することにより所定粒子径の粒子の集合体である焼成物の粉末を得た。この焼成物の粉末に関し、走査型電子顕微鏡による二次電子像を観察した結果、第1焼成物の粒子径は0.1μm以下であった。
【0088】
焼成物の粉末1gを20mLの硝酸水溶液とともにスターラーの撹拌槽に入れ、当該硝酸水溶液の温度を25℃の室温に保持したまま1時間撹拌した。ここで、硝酸水溶液の濃度は2mol/Lとした。
【0089】
撹拌が終了した後、硝酸水溶液中から焼成物の粉末を吸引濾過することにより取り出した。取り出された焼成物の粉末は、70℃に加熱した蒸留水1リットルで洗浄した。洗浄後、焼成物の粉末を、120℃に加熱して乾燥を行った。
【0090】
これにより、水素空気二次電池用の空気極触媒(パイロクロア型複合酸化物触媒)を得た。
【0091】
(6)空気極の製造
ニッケルの粒子の集合体であるニッケル粉末を準備した。ここで、ニッケル粉末としては、フィラメント状のニッケル粒子からなるニッケル粉末を用いた。このニッケルの粒子は、平均粒径が2~3μmであった。
【0092】
更に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョン及びイオン交換水を準備した。
【0093】
上記のようにして得られた空気極触媒の粉末に、ニッケル粉末、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョン及びイオン交換水を混合した。このとき、空気極触媒の粉末は20質量部、ニッケル粉末は70質量部、PTFEディスパージョンは10質量部、イオン交換水は30質量部の割合で均一に混合して空気極合剤のペーストを製造した。
【0094】
得られた空気極合剤のペーストをシート状に成形し、25℃の雰囲気下で乾燥させた後、このシート状の空気極合剤のペーストをメッシュ数60、線径0.08mm、開口率60%のニッケルメッシュにプレス圧着させた。
【0095】
ニッケルメッシュに圧着された空気極合剤のペーストを窒素ガス雰囲気下で340℃に加熱し、この温度で13分間保持し、焼成した。焼成された空気極合剤のシートは、縦40mm、横40mmに裁断され、これにより、空気極23を得た。この空気極23の厚さは0.23mmであった。なお、得られた空気極23において、空気極触媒の量は0.22gであった。
【0096】
(7)水素空気二次電池の製造
得られた負極21及び空気極23を、これらの間にセパレータ22を挟んだ状態で重ね合わせ、電極群20を製造した。この電極群20の製造に使用したセパレータ22はスルホン基を有するポリプロピレン繊維製不織布により形成されており、その厚みは0.1mm(目付量53g/m2)であった。
【0097】
一方、撥水通気部材50として、PTFE多孔膜の上に不織布拡散紙を重ね合わせて形成した複合体を準備した。ここで、PTFE多孔膜の寸法は、縦が45mm、横が45mm、厚みが0.1mmであった。また、不織布拡散紙の寸法は、縦が40mm、横が40mm、厚みが0.2mmであった。
【0098】
上記した電極群20における空気極23の上に上記した撥水通気部材50としての複合体を載置し、電池ケース10内に収容した。詳しくは、撥水通気部材50としての複合体が載置された電極群20を、空気極側ケース半体12の空気極対向壁16と、負極側ケース半体14の負極側対向壁26との間に挟み込むとともに、セパレータ22の四方の端部を、空気極側ケース半体12の空気極側外周壁18の先端部19と、負極側ケース半体14の負極側外周壁28の先端部29とによって挟み込み固定した。ここで、空気極側ケース半体12の空気極側外周壁18の先端部19と、負極側ケース半体14の負極側外周壁28の先端部29との間は、セパレータ22の端部から外部にアルカリ電解液32が漏出しないようパッキン34で封止した。
【0099】
ここで、空気極側ケース半体12の空気極対向壁16には、凹溝63として、幅1mm、深さ1mm、山幅1mmのサーペンタイン形状の凹溝63が設けられている。この凹溝63の全長は720mmである。そして、この凹溝63の一方の端部に第1通気口61が設けられており、他方の端部に第2通気口62が設けられている。この凹溝63は、撥水通気部材50側が開放されている。更に、上記した第1通気口61には、配管部材72を介して圧送ポンプ74を取り付けた。
【0100】
また、電池ケース10内には、アルカリ電解液32として5mol/LのKOH水溶液を注入した。なお、このとき注入したKOH水溶液の量は2.5gであった。なお、KOH水溶液の重量は水素吸蔵合金の33質量%であった。
【0101】
以上のようにして、
図3及び
図4に示すような電池1を製造した。得られた電池1は、25℃の環境下で3時間静置し、電極群20にアルカリ電解液を浸透させた。
【0102】
なお、空気極23には空気極リード(図示せず)が、負極21には負極リード(図示せず)が、それぞれ電気的に接続されており、これら空気極リード及び負極リードは、電池ケース10の気密性及び水密性を保持した状態で電池ケース10の内側から外側へ適切に延びている。また、空気極リードの先端には空気極端子(図示せず)が取り付けられており、負極リードの先端には負極端子(図示せず)が取り付けられている。
【0103】
(実施例2)
Sm、Zr、Ni、Alの各金属材料を所定のモル比となるように混合して混合金属材料を調製したこと、及び、Mg源を追加で添加しなかったことを除いて、実施例1と同様にして水素吸蔵合金粉末を製造した。得られた水素吸蔵合金粉末の組成を高周波プラズマ分光分析法(ICP)によって分析したところ、組成は、Sm0.99Zr0.01Ni3.25Al0.25であった。
【0104】
得られた水素吸蔵合金粉末について、実施例1と同様にH/M=0.2におけるヒステリシスファクター(log10(Pa/Pd))の値と、H/M=0.6におけるヒステリシスファクター(log10(Pa/Pd))の値とを求め、その結果を表1に示した。
【0105】
(比較例1)
Nd、Zr、Mg、Ni、Alの各金属材料を所定のモル比となるように混合して混合金属材料を調製したことを除いて、実施例1と同様にして水素吸蔵合金粉末を製造した。得られた水素吸蔵合金粉末の組成を高周波プラズマ分光分析法(ICP)によって分析したところ、組成は、(Nd0.99Zr0.01)0.89Mg0.11Ni3.23Al0.17であった。
【0106】
得られた水素吸蔵合金粉末について、実施例1と同様にH/M=0.2におけるヒステリシスファクター(log
10(P
a/P
d))の値と、H/M=0.6におけるヒステリシスファクター(log
10(P
a/P
d))の値とを求め、その結果を表1に示した。また、得られたPCT特性線図を
図7に示した。
【0107】
次いで、得られた水素吸蔵合金粉末を用いたことを除いて、実施例1と同様にして水素空気二次電池を製造した。
【0108】
(比較例2)
La、Sm、Zr、Mg、Ni、Alの各金属材料を所定のモル比となるように混合して混合金属材料を調製したことを除いて、実施例1と同様にして水素吸蔵合金粉末を製造した。得られた水素吸蔵合金粉末の組成を高周波プラズマ分光分析法(ICP)によって分析したところ、組成は、(La0.30Sm0.69Zr0.01)0.897Mg0.103Ni3.33Al0.17であった。
【0109】
得られた水素吸蔵合金粉末について、実施例1と同様にH/M=0.2におけるヒステリシスファクター(log10(Pa/Pd))の値と、H/M=0.6におけるヒステリシスファクター(log10(Pa/Pd))の値とを求め、その結果を表1に示した。
【0110】
2.水素吸蔵合金粉末及び水素空気二次電池の評価
(1)水素吸蔵合金粉末の分析
実施例1,2、比較例1,2の水素吸蔵合金粉末の分析用試料についてX線回折(XRD)分析を行った。XRD分析には平行ビームX線回折装置を用いた。ここでの分析の条件は、X線源はCuKα、管電圧は40kV、管電流は15mA、スキャンスピードは1度/min、ステップ幅は0.01度であった。分析結果のプロファイルを
図6に示した。また、
図6には、無機結晶構造データベース(ICSD)のCe
2Ni
7のXRDパターン(ICSD:01-071-7025)も併せて示した。Ce
2Ni
7のピークの位置と実施例1,2、比較例1,2のXRDプロファイルを照合した結果、実施例1,2、比較例1,2の水素吸蔵合金には、いずれもCe
2Ni
7のピークが存在していることが確認できた。よって、これらの水素吸蔵合金の結晶構造は、Ce
2Ni
7型であることがわかる。
【0111】
(2)電池特性評価
実施例1及び比較例1の電池を25℃の室温環境下で3時間静置して電極群20にアルカリ電解液32を吸収させた後、負極容量の78%に当たる2000mAhを1Itとして、0.1Itで10時間の充電を行い、続いて0.2Itでの放電(放電終止電圧:0.4V)を行う充放電操作を1サイクルとしたとき、この充放電操作を30サイクル繰り返した。この時、充放電に関わらず、圧送ポンプ74により第1通気口61から空気を送り、空気極23と対向した通気路60に33mL/minの割合で常に空気を供給し続けた。なお、通気路60に供給する空気としては、5mol/LのKOH水溶液の中を通過させて二酸化炭素を吸着除去した空気を用いた。
【0112】
上記した充放電操作において、各サイクルでの放電容量を測定した。この測定結果より、放電容量とサイクル数との関係を求め、その結果を
図8に示した。
【0113】
また、5サイクル時における電池電圧と充電容量との関係(充電特性カーブ)を求め、その結果を
図9に示し、24サイクル時にける電池電圧と充電容量との関係(充電特性カーブ)を求め、その結果を
図10に示した。
【0114】
更に、上記した充放電操作を始める前に実施例1及び比較例1の電池の重量を測定した。この重量を初期重量とした。そして、充放電操作の各サイクル終了時に実施例1及び比較例1の電池の重量を測定した。この重量を充放電後重量とした。そして、これら、初期重量及び充放電後重量から、電池の重量変化量を求め、この重量変化量とサイクル数との関係を求め、その結果を
図11に示した。
【0115】
【0116】
(3)考察
図8に示す放電容量とサイクル数との関係の結果より、実施例1の電池は、比較例1の電池に比べて充放電サイクル時の放電容量の低下が抑制されており、1600mAhまで容量が落ちるのは、比較例1が19サイクルであるのに対し、実施例1は26サイクルである。このことから、実施例1の電池は比較例1の電池に比べ寿命が向上していることがわかる。
【0117】
5サイクル時における電池電圧と充電容量との関係(充電特性カーブ)を示した
図9及び24サイクル時にける電池電圧と充電容量との関係(充電特性カーブ)を示した
図10の結果より、比較例1の電池は、5サイクル時では通常の充電カーブであったが、放電容量が急激に低下した19サイクル以降には、途中から充電電圧の低下が確認された。
【0118】
電池の重量変化量とサイクル数との関係を示した
図11の結果より、充放電サイクルの進行にともない電池の重量が減少しているが、実施例1は比較例1に比べ重量減少が抑制されていることが確認できる。
【0119】
比較例1の電池においては、表1から明らかなように、H/M=0.6におけるヒステリシスファクターが0.119と大きく、また、
図7のPCT特性線図から、水素の吸蔵放出のヒステリシスが大きいことが確認できる。このように、水素の吸蔵放出のヒステリシスが大きいと、水素吸蔵合金表面から内部への水素拡散が遅いと考えられる。つまり、アルカリ電解液中での電気化学反応においても、充電反応により生成した水素原子が、速やかに合金内部に吸蔵・拡散されず、水素ガスが発生してしまっていることが推測される。水素空気二次電池では、発生した水素ガスは空気中に放出されるため、充放電効率を低下させる他、水の減少が起こる。水の減少は、比較例1の電池の重量が実施例1の電池の重量より低下していることからも明らかである(
図11参照)。このように水が減少することで、電解液が減り、セパレータが乾いて酸素ガスを透過するようになるので、負極で自己放電される反応や、電解液濃度の上昇により合金の腐食反応が進行したと考えられる。このため、比較例1の電池では、充放電サイクルに伴い電池重量が低下しており、19サイクルより充電が十分に行えなくなり電池寿命に達したものと考えられる。
【0120】
一方、実施例1の電池においては、表1から明らかなように、H/M=0.6におけるヒステリシスファクターが0.022と小さく、また、
図5のPCT特性線図から、水素の吸蔵放出のヒステリシスが小さいことが確認できる。このように、水素の吸蔵放出のヒステリシスが小さいと、水素吸蔵合金表面から内部への水素拡散が速いと考えられる。つまり、アルカリ電解液中での電気化学反応においても、充電反応により生成した水素原子が、速やかに合金内部に吸蔵・拡散され、水素ガスが発生し難くなっていることが推測される。このため、実施例1の電池では、比較例1の電池に比べ、水の減少の度合いは少ないと考えられる。このことは、実施例1の電池の重量が、比較例1の電池の重量に比べ低下していないことからも明らかである(
図11参照)。このように水の減少の度合いが小さいことで、セパレータを十分に湿らせておくことができ、酸素ガスの透過を抑制し、負極で自己放電される反応や、電解液濃度の上昇により合金が腐食される腐食反応が有効に抑えられていると考えられる。このため、実施例1の電池は、比較例1の電池に比べサイクル寿命特性が良好であると考えられる。
【0121】
本発明に係る水素空気二次電池の評価は、代表的な組成である(La0.20Sm0.80)0.98Mg0.02Ni3.25Al0.25を用いた態様の電池についてのみ行ったが、同様にPCT特性のヒステリシスが小さい水素吸蔵合金を用いることで、同様な効果が期待できる。具体的には、一般式:Ln1-xMgxNiy-zTz(ただし、Lnは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ti及びZrから選ばれる少なくとも一つの元素を表し、Tは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Fe、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Al、Si、P及びBから選ばれる少なくとも一つの元素を表し、添字x、y及びzは、それぞれ、0≦x≦0.02、3.3≦y≦3.6、0≦z≦0.5の関係を満たしている。)で表される組成の合金であれば、同様な効果が期待できる。特に、Mgの含有量を示すxの値が0.02以下とすることにより、ヒステリシスファクターを0.022以下とすることが可能であるので、xの値を0.02以下とすることが好ましいと言える。
【0122】
<本発明の態様>
本発明の第1の態様は、負極芯体と、前記負極芯体に保持された負極合剤と、を備え、前記負極合剤は、水素吸蔵合金を含んでいる、水素空気二次電池用の水素吸蔵合金負極において、前記水素吸蔵合金は、Ce2Ni7型を主相としており、水素吸蔵合金を構成する元素の総原子数と水素の原子数との比(H/M)で表される水素吸蔵量と、水素圧力との関係を示す圧力-組成-等温特性線図における80℃での水素の吸蔵圧力及び放出圧力のヒステリシスファクター(log10(吸蔵圧力/放出圧力))の値が、H/M=0.6にて0.022以下である、水素空気二次電池用の水素吸蔵合金負極である。
【0123】
この第1の態様によれば、負極での水素ガスの発生、特に過充電時の水素ガスの発生を少なく抑えることができ、水素ガス発生にともなう水分の減少を抑えることができる。これにより、電池の長寿命化を図ることができる。
【0124】
本発明の第2の態様は、上記した本発明の第1の態様において、前記水素吸蔵合金は、一般式:Ln1-xMgxNiy-zTz(ただし、Lnは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ti及びZrから選ばれる少なくとも一つの元素を表し、Tは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Fe、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Al、Si、P及びBから選ばれる少なくとも一つの元素を表し、添字x、y及びzは、それぞれ、0≦x≦0.02、3.3≦y≦3.6、0≦z≦0.5の関係を満たしている。)で表される組成を有している、水素空気二次電池用の水素吸蔵合金負極である。
【0125】
この第2の態様によれば、PCT特性のヒステリシスが小さい水素吸蔵合金が得られる。
【0126】
本発明の第3の態様は、上記した本発明の第1又は第2の態様において、前記負極芯体は、ニッケルフォームである、水素空気二次電池用の水素吸蔵合金負極である。
【0127】
この第3の態様によれば、負極合剤を良好に保持するとともに負極における導電性を十分に確保することができる。
【0128】
本発明の第4の態様は、容器と、前記容器内にアルカリ電解液とともに収容された電極群とを備え、前記電極群は、セパレータを介して重ね合わされた正極及び負極を含み、前記正極は、酸素を正極活物質として用いる空気極であり、前記負極は、上記した第1~第3の何れかの態様の水素空気二次電池用の水素吸蔵合金負極である、水素空気二次電池である。
【0129】
この第4の態様によれば、寿命特性に優れる水素空気二次電池が得られる。
【0130】
本発明の第5の態様は、上記した本発明の第4の態様において、前記アルカリ電解液は、前記水素吸蔵合金負極に含まれている前記水素吸蔵合金に対し、25質量%以上含まれている、水素空気二次電池である。
【0131】
この第5の態様によれば、アルカリ電解液の枯渇をより抑制することができ、電池の寿命特性の向上に貢献する。
【0132】
本発明の第6の態様は、上記した本発明の第4又は第5の態様において、前記アルカリ電解液は、3mol/L以上、10mol/L以下のKOHを含む水溶液である、水素空気二次電池である。
【0133】
この第6の態様によれば、電池の放電特性が向上する。
【0134】
本発明の第7の態様は、上記した本発明の第4~第6の何れかの態様において、前記正極は、Bi2Ru2O7を含んでいる、水素空気二次電池である。
【0135】
この第7の態様によれば、Bi2Ru2O7が酸素発生と酸素還元の二元触媒活性を有していることから、正極における酸素の授受がスムーズに行われ、水素空気二次電池全体として充放電特性の向上に寄与する。
【符号の説明】
【0136】
1 空気二次電池(水素空気二次電池)
10 電池ケース
20 電極群
21 負極(水素吸蔵合金負極)
22 セパレータ
23 空気極(正極)
50 撥水通気部材
60 通気路
61 第1通気口
62 第2通気口
63 凹溝
74 圧送ポンプ