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特許7256385チタン合金鋳塊の製造方法および製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】チタン合金鋳塊の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   C22B 34/12 20060101AFI20230405BHJP
   B22D 1/00 20060101ALI20230405BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20230405BHJP
   B22D 11/049 20060101ALI20230405BHJP
   B22D 11/10 20060101ALI20230405BHJP
   B22D 21/04 20060101ALI20230405BHJP
   B22D 35/06 20060101ALI20230405BHJP
   B22D 41/015 20060101ALI20230405BHJP
   B22D 43/00 20060101ALI20230405BHJP
   C22B 9/20 20060101ALI20230405BHJP
   C22B 9/21 20060101ALI20230405BHJP
   C22B 9/22 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
C22B34/12 103
B22D1/00 A
B22D11/00 D
B22D11/049
B22D11/10 310D
B22D11/10 310Z
B22D21/04 Z
B22D35/06
B22D41/015
B22D43/00 F
C22B9/20
C22B9/21
C22B9/22
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019110856
(22)【出願日】2019-06-14
(65)【公開番号】P2020204055
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】水上 英夫
(72)【発明者】
【氏名】北浦 知之
(72)【発明者】
【氏名】武田 宜大
(72)【発明者】
【氏名】白井 善久
(72)【発明者】
【氏名】梅田 繁
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特表平04-504283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
B22D 11/00-11/22
C22C 1/00- 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン合金原料を供給する原料供給工程と、
供給された前記原料に電子ビームまたはプラズマを照射することにより前記原料を溶解する溶解工程と、
前記原料の溶融物を含む溶湯をハースで精錬する精錬工程と、
前記ハースで精錬された前記溶湯を鋳型で冷却凝固する鋳造工程と、
前記ハースにおいて生じた前記溶湯のスプラッシュが前記鋳型に供給された前記溶湯へ侵入することを抑制するために前記ハースと前記鋳型との間に配置された遮蔽部材、に付着した付着物であって、前記鋳型における前記溶湯の蒸発によって生じる付着物を除去するための除去工程と、
を有し、
前記除去工程では、前記遮蔽部材から除去された前記付着物を前記鋳型のキャビティ内の前記溶湯へ落下させる、チタン合金鋳塊の製造方法。
【請求項2】
前記除去工程では、前記遮蔽部材に振動を与えることにより前記遮蔽部材から前記付着物を除去する、請求項1に記載のチタン合金鋳塊の製造方法。
【請求項3】
前記除去工程では、物体の変位運動を振動力に変換すること、および、電力を振動力に変換することで前記遮蔽部材に前記振動を与えることの少なくとも一方を行う、請求項2に記載のチタン合金鋳塊の製造方法。
【請求項4】
前記振動は、振幅をy(cm)とし、振動数をx(Hz)とする場合に、
y≧0.2x-0.5、ただし、0.001≦x≦1000、0.01≦y≦6
を満足する、請求項2または請求項3に記載のチタン合金鋳塊の製造方法。
【請求項5】
前記付着物は、前記溶湯から蒸発したアルミニウム、および、スズの少なくとも一方を含む、請求項1~請求項4の何れか1項に記載のチタン合金鋳塊の製造方法。
【請求項6】
前記ハースは、
前記原料が投入される第1ハースと、
前記第1ハースから流入した前記溶湯の一部を冷却凝固させることでスカルを形成し、前記溶湯の残部を前記鋳型へ流す第2ハースと、
を含み、
前記遮蔽部材は、前記第1ハースと前記第2ハースに向かい合うように配置されている、請求項1~請求項5の何れか1項に記載のチタン合金鋳塊の製造方法。
【請求項7】
前記原料供給工程では、前記原料を前記ハースの上方から前記ハースへ落下させる、請求項1~請求項6の何れか1項に記載のチタン合金鋳塊の製造方法。
【請求項8】
チタン合金原料を供給する原料供給部と、
前記原料に電子ビームまたはプラズマを照射することにより前記原料を溶解する電子ビームまたはプラズマ照射部と、
前記原料の溶融物を含む溶湯を精錬するためのハースと、
前記ハースから供給された前記溶湯を冷却してチタン合金鋳塊とする鋳型と、
前記ハースにおいて生じた前記溶湯のスプラッシュが前記鋳型に供給された前記溶湯へ侵入することを抑制するために前記ハースと前記鋳型との間に配置された遮蔽部材と、
前記遮蔽部材に付着した付着物であって、前記鋳型における前記溶湯の蒸発によって生じる付着物を除去するための除去機構と、を備え
前記遮蔽部材は、前記付着物を前記鋳型のキャビティ内の前記溶湯へ落下させるように配置されている、チタン合金鋳塊の製造装置。
【請求項9】
前記除去機構は、前記遮蔽部材に振動を与える加振機構を含む、請求項8に記載のチタン合金鋳塊の製造装置。
【請求項10】
前記加振機構は、アクチュエータの出力部材の変位運動を振動力に変換する構成、および、電力を振動力に変換する振動子の少なくとも一方を含む、請求項9に記載のチタン合金鋳塊の製造装置。
【請求項11】
前記振動は、振幅をy(cm)とし、振動数をx(Hz)とする場合に、
y≧0.2x-0.5、ただし、0.001≦x≦1000、0.01≦y≦6
を満足する、請求項9または請求項10に記載のチタン合金鋳塊の製造装置。
【請求項12】
前記ハースは、
前記原料が投入される第1ハースと、
前記第1ハースから流入した前記溶湯の一部を冷却凝固させることでスカルを形成し、前記溶湯の残部を前記鋳型へ流す第2ハースと、
を含み、
前記遮蔽部材は、前記第1ハースと前記第2ハースに向かい合うように配置されている、請求項8~請求項11の何れか1項に記載のチタン合金鋳塊の製造装置。
【請求項13】
前記原料供給部は、前記原料を前記ハースの上方から前記ハースへ落下させる、請求項8~請求項12の何れか1項に記載のチタン合金鋳塊の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン合金鋳塊(インゴット)の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チタンは、その溶融温度では激しく空気酸化される活性な金属であるため、鉄鋼材料のように耐火物製るつぼを用いて大気雰囲気下で溶解することは難しい。このため、チタン合金鋳塊の製造時、水冷銅ハースを用いる。そして、チタン合金鋳塊の製造において実用化されている技術として、高電圧加速した電子線を被溶解材の表面に照射することにより得られる衝撃熱を利用する電子ビーム溶解(EBM:Electron Beam Melting)技術や、非消耗電極としてプラズマトーチを用いた溶解法であるプラズマ溶解(PAM:Plasma Arc Melting)技術を挙げることができる。
【0003】
電子ビーム溶解技術によるチタンの溶解では、溶解が高真空雰囲気下で行われ、またチタン合金の融点が高いことから、溶解温度が高く、かつ溶解時間も長い。プラズマ溶解技術においても、チタン原料の溶解がAr等の不活性ガス雰囲気下で行われる点以外は、電子ビーム溶解技術の場合と同様である。
【0004】
このため、チタン合金の化学成分を構成する元素、例えば蒸気圧が低いアルミニウムが溶解中に激しく蒸発し、多量のアルミニウムが、ハースおよび鋳型を収容したチャンバーの内壁に蒸着する。非特許文献1には、アルミニウムの蒸気の大きさは1000~4000オングストロームであることが開示されている。
【0005】
このため、製造されるチタン合金鋳塊の化学組成が、あらかじめ用意された原料の化学組成とは異なるものとなり、所定の合金濃度範囲を逸脱する場合がある。この場合、所望の化学組成を有するチタン合金鋳塊を製造できない。
【0006】
また、チャンバーの内壁に付着したアルミニウムは、鋳造時間の経過とともに厚くなり、内壁から脱落する。脱落したアルミニウムがハース内の溶湯に混入すると、溶湯のアルミニウムの濃度が局所的に高まり、製品としてのチタン合金鋳塊が成分規格範囲に収まらなくなることもある。
【0007】
また、アルミニウムの大きな塊がハース内に落下した場合とは異なり、アルミニウムの大きな塊が鋳型内の溶湯に直接落下した場合、チタン合金鋳塊の化学組成が成分規格範囲に収まらなくなるばかりか、鋳型のキャビティ内の湯面近傍に存在する溶湯の量は少ないためにアルミニウムの濃度が局所的に著しく上昇してしまう。このため、完成したチタン合金鋳塊は、成分規格範囲を大きく外れてしまう。このため、アルミニウムの塊の落下に起因してチタン合金鋳塊が欠陥品となることを抑制する技術が不可欠である。
【0008】
さらに、このアルミニウムの塊は、チャンバーの内壁で生成するだけではない。ハース内にはハースの上方から原料が供給されるため、スプラッシュが発生する場合がある。塊状のスプラッシュが鋳型のキャビティ内に落下することにより、鋳型で冷却されている溶湯の成分が所望の範囲を外れ、チタン合金鋳塊が欠陥品となる場合がある。また、複数のハースを用いた溶湯の精錬においても、隣接するハース間を溶湯が移動する際等に、スプラッシュが発生し、このスプラッシュが鋳型内の溶湯に入ることもある。
【0009】
アルミニウムの塊の落下やスプラッシュに起因してチタン合金鋳塊が欠陥品となることを抑制するため、特許文献1の段落0064に記載されるように、ハースと鋳型との間に遮蔽板を配置することが知られる。しかし、チャンバーの内壁と同様に、この遮蔽板にもアルミニウムが蒸着して成長する。このため、遮蔽板に付着したアルミニウムが塊となって、この塊が部分的に鋳型内の溶湯に落下する場合がある。この場合、チタン合金鋳塊のアルミニウム濃度が部分的に上昇する。
【0010】
ただし、チャンバーの内壁に付着したアルミニウムの落下による悪影響と、遮蔽板に付着したアルミニウムの落下による悪影響とを対比すると、遮蔽板に付着したアルミニウムの落下による悪影響が圧倒的に大きい。チャンバーは、ハースと鋳型、さらにこれらに関わる付帯設備を全て収容しているため、容積が大きく、単位面積当たりに付着するアルミニウムの蒸着量は少ないからである。
【0011】
これに対し、遮蔽板の大きさはチャンバーの大きさと比べて小さいことから、単位面積当たりのアルミニウムの付着量が多い。よって、遮蔽板において、アルミニウムが塊に成長する頻度が圧倒的に高い。このため、チタン合金鋳塊のアルミニウムの濃度の上昇を効率的に抑制するには、遮蔽板からのアルミニウムの塊の落下を抑制することが有効である。
【0012】
アルミニウムの塊の落下に起因する欠陥品の発生を抑制するには、次の2つの方法が考えられる。
【0013】
まず、第一の方法は、チタン合金の溶解過程および鋳造過程において、チャンバーの内壁や遮蔽板へのアルミニウムの蒸着を抑制して、アルミニウムの塊の生成を防ぐことである。これがチタン合金鋳塊の欠陥品を無くす根本的な解決策である。しかし、高真空雰囲気下または低圧の不活性ガス雰囲気下での操業では、蒸気圧が低いアルミニウムの蒸発を抑制することは不可能である。
【0014】
第二の方法は、チャンバーの内壁および遮蔽板にアルミニウムを蒸着させないこと、あるいは、遮蔽板にアルミニウムが蒸着してもアルミニウムの塊の大きさを小さくして悪影響を軽減することである。その一つの考え方として、特許文献2には、蒸発し易いアルミニウムを操業中に添加することが開示されている。すなわち、チタン合金の電子ビーム溶解に際し、溶解すべき原料を、複数個のフィーダーにより供給速度をそれぞれ独立に調整してハースに供給しながらハース内で溶解してモールドに注入することにより、チタン合金の化学組成を調整する。
【0015】
特許文献3には、チタン合金を電子ビーム溶解する際に、ハース内の溶融プールの中央部の表面温度を、チタン合金の融点よりも50℃高い温度から2000℃までの範囲とすることが開示されている。さらに、この特許文献3では、予め設定したハース内の溶融プールの中央部の表面温度と合金成分の蒸発率との関係に基づいてチタン合金鋳塊の化学成分を制御する発明が開示されている。
【0016】
さらに、特許文献4には、溶製用金属原料と、溶解法で製造された添加材とから構成される電子ビーム溶解用原料が開示されている。添加材の純度は99.9質量%以上であり、添加材の炭素、酸素、および窒素の合計濃度は100ppm以下であり、さらに、添加材の粒度は3~200mmである。添加元素を原料貯蔵容器に収容し、フィーダーを用いてハースに供給する際に、フィーダー内で撹拌状態にある添加元素が自己崩壊して偏在するが、この電子ビーム溶解用原料によれば、自己崩壊を抑制することができ、化学成分が均一な溶湯を製造できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特開2013-184174号公報
【文献】特開平02-66129号公報
【文献】特開平04-124229号公報
【文献】特開2014-31551号公報
【非特許文献】
【0018】
【文献】N.Wada,Japan Journal of Applied Physics, vol.7, No.10, (1968), p.1287.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
特許文献2により開示された化学組成の原料および添加元素を含む原料をフィーダーでハースに供給してから電子ビームで溶解するためには、これらの原料を同時に一定の速度で溶解する必要がある。
【0020】
しかし、各原料の形状やサイズ、さらには電子ビームの照射面積や照射角度等は一定ではないため、電子ビームから供給される熱量も一定ではない。このため、各原料の溶解速度が異なり、均一な化学組成を有する溶湯を製造することはできない。
【0021】
特許文献3により開示された発明を実施して所望の化学組成を有するチタン合金鋳塊を製造するためには、溶湯の温度および各化学成分の蒸発率に加えて、溶湯のハースでの滞留時間を把握する必要がある。しかし、特許文献3により開示された発明は、溶湯のハースでの滞留時間を考慮しないため、チタン合金鋳塊の化学組成を所望の値に的中させることはできない。
【0022】
さらに、特許文献4により開示された発明では、添加した金属粒の形状を有する元素の、鋳造時間に関する変化を考慮しておらず、単にハース内に添加すると記載されるだけでハース内の溶湯金属の流れを考慮しない。このため、均一な化学成分を有する溶湯を鋳型内に供給することはできない。
【0023】
本発明は、従来の技術が有する上記課題に鑑みてなされたものであり、より均等な品質を高い次元で実現できる、チタン合金鋳塊の製造方法および製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上述のように、ハースを用いて電子ビーム溶解またはプラズマ溶解によりチタン合金鋳塊を製造する際には、溶解された原料がハース内に供給される際に、スプラッシュが発生する。そして、このスプラッシュが固まったままの状態で鋳型内の溶湯に入り、チタン合金鋳塊に取り込まれてアルミニウムの濃度が上昇し、成分規格範囲を超える場合がある。
【0025】
また、複数のハースを用いた操業においても各ハース間を溶湯が移動する際等に、スプラッシュが発生し、このスプラッシュが鋳型に入る場合もある。このようなスプラッシュの侵入を防止するには、特許文献1に記載されるように、遮蔽板をハースと鋳型との間に設置することが有効である。
【0026】
しかし、電子ビーム溶解とプラズマ溶解は、それぞれ、高真空雰囲気下または大気圧より低い不活性ガス雰囲気下で実施される。このため、例えば、チタン合金の構成元素である蒸気圧の低いアルミニウムまたはスズが激しく蒸発する。そして、添加材としてのアルミニウムまたはスズが遮蔽板に付着して成長することにより、添加材が、遮蔽板から部分的に剥がれ落ちて鋳型内に入る場合がある。この場合、チタン合金鋳塊における添加材濃度は部分的に上昇する。このような、添加材濃度の部分的な上昇を抑制するには、遮蔽板から落下する添加材の塊を無くせばよい。
【0027】
非特許文献1に記載されているように、アルミニウムの蒸気の大きさは、1000~4000オングストロームである。蒸気のアルミニウムは、浮遊中に凝集合するが、仮に1000倍に大きくなったとしてもミクロンのオーダーである。この大きさであれば、鋳型内の溶湯中に存在する介在物よりも小さい。このため、鋳型内の溶湯にアルミニウムの凝集合体が落下したとしても、鋳塊のアルミニウムの濃度の上昇量は小さく、製品の規格を超えることはない。
【0028】
本発明者らは、チャンバー内に配置された複数のハースを用いた電子ビーム溶解あるいはプラズマ溶解において、まず、ハースと鋳型との間に遮蔽部材を設けることを想到した。そして、この遮蔽部材にアルミニウム等の添加材の蒸気が付着しても、この添加材を成長して大きくなる前に遮蔽板から剥離させればよいことに思い到り、さらに検討を重ねて本発明を完成した。本発明は、以下に列記の通りである。
【0029】
(1)チタン合金原料を供給する原料供給工程と、
供給された前記原料に電子ビームまたはプラズマを照射することにより前記原料を溶解する溶解工程と、
前記原料の溶融物を含む溶湯をハースで精錬する精錬工程と、
前記ハースで精錬された前記溶湯を鋳型で冷却凝固する鋳造工程と、
前記ハースにおいて生じた前記溶湯のスプラッシュが前記鋳型に供給された前記溶湯へ侵入することを抑制するために前記ハースと前記鋳型との間に配置された遮蔽部材、に付着した付着物であって、前記鋳型における前記溶湯の蒸発によって生じる付着物を除去するための除去工程と、
を有する、チタン合金鋳塊の製造方法。
【0030】
(2)前記除去工程では、前記遮蔽部材に振動を与えることにより前記遮蔽部材から前記付着物を除去する、(1)に記載のチタン合金鋳塊の製造方法。
【0031】
(3)前記除去工程では、物体の変位運動を振動力に変換すること、および、電力を振動力に変換することで前記遮蔽部材に前記振動を与えること、の少なくとも一方を行う、(2)に記載のチタン合金鋳塊の製造方法。
【0032】
(4)前記振動は、振幅をy(cm)とし、振動数をx(Hz)とする場合に、
y≧0.2x-0.5、ただし、0.001≦x≦1000、0.01≦y≦6
を満足する、(2)または(3)に記載のチタン合金鋳塊の製造方法。
【0033】
(5)前記付着物は、前記溶湯から蒸発したアルミニウム、および、スズの少なくとも一方を含み、
前記除去工程では、前記遮蔽部材から除去された前記付着物を前記鋳型のキャビティ内の前記溶湯へ落下させる、(1)~(4)の何れか1項に記載のチタン合金鋳塊の製造方法。
【0034】
(6)前記ハースは、
前記原料が投入される第1ハースと、
前記第1ハースから流入した前記溶湯の一部を冷却凝固させることでスカルを形成し、前記溶湯の残部を前記鋳型へ流す第2ハースと、
を含み、
前記遮蔽部材は、前記第1ハースと前記第2ハースに向かい合うように配置されている、(1)~(5)の何れか1項に記載のチタン合金鋳塊の製造方法。
【0035】
(7)前記原料供給工程では、前記原料を前記ハースの上方から前記ハースへ落下させる、(1)~(6)の何れか1項に記載のチタン合金鋳塊の製造方法。
【0036】
(8)チタン合金原料を供給する原料供給部と、
前記原料に電子ビームまたはプラズマを照射することにより前記原料を溶解する電子ビームまたはプラズマ照射部と、
前記原料の溶融物を含む溶湯を精錬するためのハースと、
前記ハースから供給された前記溶湯を冷却してチタン合金鋳塊とする鋳型と、
前記ハースにおいて生じた前記溶湯のスプラッシュが前記鋳型に供給された前記溶湯へ侵入することを抑制するために前記ハースと前記鋳型との間に配置された遮蔽部材と、
前記遮蔽部材に付着した付着物であって、前記鋳型における前記溶湯の蒸発によって生じる付着物を除去するための除去機構と、を備える、チタン合金鋳塊の製造装置。
【0037】
(9)前記除去機構は、前記遮蔽部材に振動を与える加振機構を含む、(8)に記載のチタン合金鋳塊の製造装置。
【0038】
(10)前記加振機構は、アクチュエータの出力部材の変位運動を振動力に変換する構成、および、電力を振動力に変換する振動子の少なくとも一方を含む、(9)に記載のチタン合金鋳塊の製造装置。
【0039】
(11)前記振動は、振幅をy(cm)とし、振動数をx(Hz)とする場合に、
y≧0.2x-0.5、ただし、0.001≦x≦1000、0.01≦y≦6
を満足する、(9)または(10)に記載のチタン合金鋳塊の製造装置。
【0040】
(12)前記遮蔽部材は、前記付着物を前記鋳型のキャビティ内の前記溶湯へ落下させるように配置されている、(8)~(11)の何れか1項に記載のチタン合金鋳塊の製造装置。
【0041】
(13)前記ハースは、
前記原料が投入される第1ハースと、
前記第1ハースから流入した前記溶湯の一部を冷却凝固させることでスカルを形成し、前記溶湯の残部を前記鋳型へ流す第2ハースと、
を含み、
前記遮蔽部材は、前記第1ハースと前記第2ハースに向かい合うように配置されている、(8)~(12)の何れか1項に記載のチタン合金鋳塊の製造装置。
【0042】
(14)前記原料供給部は、前記原料を前記ハースの上方から前記ハースへ落下させる、(8)~(13)の何れか1項に記載のチタン合金鋳塊の製造装置。
【0043】
なお、前記(1)における除去工程および前記(8)における除去機構は、それぞれ、遮蔽部材に振動を与える工程、および、加振機構には限定されず、ブラシの回転運動またはスクレイパーの往復運動により、遮蔽部材に付着した付着物を掻き落として除去する構成であってもよい。また、前記除去工程および前記除去機構は、それぞれ、遮蔽部材に被せた耐熱性のカバーを定期的に交換することによって付着物を除去する構成であってもよい。
【発明の効果】
【0044】
本発明により、チタン合金鋳塊に関して、より均等な品質を高い次元で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1図1は、本発明に係るチタン合金鋳塊の製造装置を模式的に示す斜視図である。
図2図2(A)は、本実施形態の変形例の主要部を示す模式的な断面図である。図2(B)は、さらに別の変形例を示す主要部の図である。
図3図3は、本発明のさらに別の変形例を示す図である。
図4図4は、遮蔽部材の振動条件について説明するための両対数グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
添付図面を参照しながら、本発明を説明する。以降の説明では、化学組成に関する「%」は特に断りがない限り「質量%」を意味する。また、以降の説明では、本発明における除去機構が、チタン合金鋳塊の製造時に添加される添加材の蒸着物(付着物)を、遮蔽部材を振動させることで除去する加振機構である場合を例にとる。しかしながら、本発明は加振機構のみに限定されるものではなく、例えば、ブラシの回転運動やスクレイパーの往復運動により、遮蔽部材に付着した添加材を掻き落として除去する掻き落とし機構、あるいは、遮蔽部材に被せた耐熱性のカバーを定期的に交換することによって添加材を除去する除去機構にも同様に適用される。
【0047】
1.本発明に係る製造装置
図1は、本発明に係るチタン合金鋳塊52の製造装置1を模式的に示す斜視図である。製造装置1は、原料供給部2と、電子ビームまたはプラズマ照射部(以下、単に「照射部」という)3,9,10と、第1ハース4、湯道5および第2ハース6を有するハース7と、鋳型8と、遮蔽部材11と、遮蔽部材11から付着物54を除去するための除去機構12と、を有している。
【0048】
照射部3,9,10が電子ビームを照射する構成の場合、製造装置1の各部2~12は、真空雰囲気下に置かれ、これらの照射部3,9,10は、電子ビームガン等の公知の電子ビーム発生装置を有している。また、照射部3,9,10がプラズマを照射する構成の場合、製造装置1の各部2~12は、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下に置かれ、これらの照射部3,9,10は、公知のプラズマ発生装置を有している。
【0049】
原料供給部2は、アルミニウムおよびスズの少なくとも一方を添加材として含有するチタン合金を製造するために、原料50を供給する。原料50は、チタン合金原料であり、チタンと、前述した添加材と、を含有している。原料50はチタンブリケット(チタン合金ブリケットを含む。以下同じ。)であることが望ましい。原料50は、チタンブリケットに限らず、必要に応じて板、棒、管等のスクラップをチタン合金原料に混在させてもよい。以降の説明では、原料50がチタンブリケットである場合を例にとる。
【0050】
なお、原料50として、チタン合金製の原料、チタン製とアルミニウム製の混合原料、および、チタン製とチタン合金製の混合原料のいずれも用いることができる。
【0051】
原料供給部2は、原料50を第1ハース4の上方から供給する。原料供給部2は、原料50が載せ置かれる台座2aと、この台座2aから原料50を第1ハース4へ落下させる投入装置(図示せず)と、を有している。原料供給部2は、原料50を、照射部3による原料50の溶解速度に応じた供給速度で供給することが好ましい。また、原料供給部2は、原料50を連続して供給することが好ましく、照射部3は原料50を連続して溶解することが好ましい。
【0052】
なお、原料50は、供給する前に電子ビームあるいはプラズマで溶解して溶湯51とし、第1ハース4の上方から溶湯51を流下して供給してもよい。なぜならば、第1ハース4に供給する溶湯量を一定にすることができ、溶湯温度を安定に保持することができ、第2ハース6に供給される溶湯51の温度も安定に保つことができるからである。
【0053】
照射部3は、原料供給部2から供給された原料50に電子ビームまたはプラズマを照射することにより原料50を溶解する。これにより、原料50の溶融物を含む溶湯51が、第1ハース4に溜められる。照射部3に加えて、照射部9が設けられていることが好ましい。照射部9は、第1ハース4、および、第2ハース6を流れる溶湯51に、溶湯51の温度調整用の電子ビームまたはプラズマを走査しながら照射するために設けられる。
【0054】
本実施形態では、第1ハース4に向けて電子ビームまたはプラズマを照射する照射部9が1基配置されている。また、第2ハース6に向けて電子ビームまたはプラズマを照射する照射部9が、2基配置されている。また、照射部3に加えて、照射部10が設けられていることが好ましい。照射部10は、鋳型8のキャビティ8aに収容された溶湯51に温度調整用の電子ビームまたはプラズマを走査しながら照射する。
【0055】
溶湯51が一定量以上第1ハース4に満たされると、溶湯51は湯道5を介して第2ハース6に注がれる。第2ハース6は、第1ハース4から流入する溶湯51の一部を冷却し、この第2ハース6にスカル(溶湯51が急冷されて直ちに凝固した薄い凝固層)を形成しながら、残部の溶湯51を鋳型8へ流す。
【0056】
ハース7は、溶湯51を精錬するために設けられている。ハース7は、本実施形態のように、原料50が投入される第1ハース4と、第1ハース4から流入する一部の溶湯51を冷却凝固し、底部にスカルを形成しながら、残部の溶湯51を鋳型8へ流す第2ハース6と、を含むことが望ましい。本実施形態では、ハース7の上面7bは、平坦であり、同一平面上に延びている。
【0057】
なお、ハース7は、一つのハースによって形成されていてもよい。ハース7が一つのハースで構成されている場合、遮蔽部材11は、前記一つのハースと鋳型8との間において、ハースからのスプラッシュを受ける位置で、且つ、付着物54をキャビティ8a内の溶湯51へ落下させることが可能な位置に設置される。
【0058】
第1ハース4は、平面視で細長い矩形状に形成されており、当該第1ハース4における溶湯51の主流れ方向Dの一種である第1主流れ方向D1を長手方向として細長く延びている。第1ハース4は、原料50が投入され原料50を溶解する溶解ハースとして設けられている。第1ハース4は、原料50に電子ビームあるいはプラズマを照射して溶解したチタン合金を溜める。
【0059】
第1ハース4は、上流壁21と、下流壁22と、一対の第1側壁23,24と、を有している。
【0060】
上流壁21は、ハース7における溶湯51の主流れ方向Dの上流側端部に配置された、鉛直方向に延びる壁である。下流壁22は、上流壁21と間隔をあけて平行に延び且つ鉛直方向に延びる壁であり、第1ハース4における第1主流れ方向D1の下流型端部に配置されている。
【0061】
一対の第1側壁23,24は、第1主流れ方向D1に沿って互いに平行に延びており、且つ、鉛直方向に延びる壁である。第1側壁24のうち、下流壁22に隣接する箇所は、上端側の一部が切り欠かれた形状を有しており、この切り欠かれた部分が、湯道5を形成している。
【0062】
湯道5は、溶湯51を第1ハース4から第2ハース6へ送るために設けられている。本実施形態では、湯道5の入口および出口における溶湯51の主流れ方向Dは、湯道5の形状に依存して決まる。この主流れ方向Dは、本願実施形態では、下流壁22が延びる方向と平行な方向であり、主流れ方向Dの一種としての第2主流れ方向D2である。
【0063】
第2ハース6は、前述したように、第1ハース4から流入した溶湯51の一部を冷却凝固させることで、溶湯51の下方にスカルを形成し、溶湯51の残部を溶湯出口7aへ流す、精錬ハースとして設けられている。第2ハース6では、電子ビームあるいはプラズマの照射によって溶湯51の温度を調節可能であることが好ましい。このため、第2ハース6を流れる溶湯51の表面に、電子ビームまたはプラズマを走査しながら照射することにより、溶湯51の温度を調整する照射部9が設けられることが望ましい。
【0064】
第2ハース6は、平面視で細長い矩形状に形成されており、当該第2ハース6における溶湯51の主流れ方向Dの一種である第3主流れ方向D3を長手方向として細長く延びている。本実施形態では、第1ハース4の長手方向(第1主流れ方向D1)と第2ハース6の長手方向(第3主流れ方向D3)とは、平行である。
【0065】
第2ハース6は、上流壁31と、下流壁32と、一対の第2側壁33,34と、溶湯出口7aと、を有している。
【0066】
上流壁31は、第2ハース6における溶湯51の主流れ方向Dの上流側端部に配置されている。下流壁32は、上流壁31と間隔をあけて平行に延び且つ鉛直方向に延びる壁であり、第2ハース6における第3主流れ方向D3の下流型端部に配置されている。
【0067】
一対の第2側壁33,34は、第3主流れ方向D3に沿って互いに平行に延びており、且つ、鉛直方向に延びる壁である。この一方の第2側壁33のうち、主流れ方向Dの上流側端部は、下流壁22の一部であるとともに他方の第1側壁24の一部でもあり、湯道5に接続されている。また、一方の第2側壁33のうち、第3主流れ方向D3の下流側端部に溶湯出口7aが設けられている。
【0068】
溶湯出口7aは、本実施形態では、一方の第2側壁33の上端部の一部を切り欠くようにして形成されている。溶湯51は、本実施形態では、溶湯出口7aから、第2方向D2とは平行で且つ第2方向D2とは反対の第4方向D4に向けて流れることで、鋳型8へ導入される。
【0069】
なお、主流れ方向Dとは、溶湯51が溶湯出口7aへ向かうための流れ方向をいい、例えば、溶湯51が局所的に渦を巻いているときのこの渦の流れ方向は含まないことを意味している。
【0070】
本実施形態では、主流れ方向Dは、前述した第1主流れ方向D1と、第2主流れ方向D2と、第3主流れ方向D3と、第4主流れ方向D4と、を含んでいる。
【0071】
第1主流れ方向D1は、第1ハース4において、溶湯51が上流壁21から下流壁22へ流れるときの流れ方向をいう。第1主流れ方向D1は、一対の第1側壁23,24と平行な方向である。
【0072】
第2主流れ方向D2は、湯道5における溶湯51の流れ方向である。第2主流れ方向D2は、本実施形態では、第1ハース4の下流壁22と平行であるとともに、第2ハース6の上流壁31と平行である。溶湯51は、第1ハース4の下流壁22付近、および、第2ハース6の上流壁31付近のそれぞれにおいて、第2主流れ方向D2に沿って流れる。
【0073】
第3主流れ方向D3は、第2ハース6において、溶湯51が上流壁31から下流壁32へ向かって流れるときの流れ方向をいう。第3主流れ方向D3は、一対の第2側壁33,34と平行な方向である。
【0074】
第4主流れ方向D4は、溶湯出口7aにおける溶湯51の流れ方向である。第4主流れ方向D4は、本実施形態では、第2ハース6の下流壁32と平行である。溶湯51は、第2ハース6の下流壁32付近、および、溶湯出口7aのそれぞれにおいて、第4主流れ方向D4に沿って流れる。
【0075】
鋳型8は、ハース4から供給される溶湯51を冷却してチタン合金鋳塊(インゴット)52とする。鋳型8は、筒状(本実施形態では、円筒状)に形成されており、鋳型8のキャビティ8aは、鋳型8の上方および下方に露呈している。鋳型8のキャビティ8a内へは、第2ハース6から溶湯出口7aを通じて溶湯51が注入される。
【0076】
鋳型8の下方には、支持台13が配置されており、この支持台13に形成されたダミーブロック(図示せず)に、チタン合金鋳塊52の下端部が支持されている。支持台13は、図示しない移動機構によって上下方向に移動するように構成されている。キャビティ8aへの溶湯51の注入量に応じて、支持台13は、移動機構によって下方へ移動される。そして、鋳型8で溶湯51が冷却凝固されることに伴い、チタン合金鋳塊52が円柱状に成形され、このチタン合金鋳塊52が、下方に延びていく。なお、鋳型8のキャビティ8a内においては、チタン合金鋳塊52の上方に溶湯51が存在しており、この溶湯51の下方における、溶湯51とチタン合金鋳塊52との界面において、溶湯51がチタン合金鋳塊52となる。
【0077】
鋳型8は、溶湯出口7aの下方に配置されており、ハース7の上面7bの高さ位置よりも低い位置に配置されている。このため、ハース7内の溶湯51(例えば、第1ハース4内の溶湯51)で生じたスプラッシュ53(溶湯51が弾けること等により生じた飛沫)が鋳型8の上方から鋳型8のキャビティ8a内に侵入し易い。特に、ハース7を用いた溶湯51の精錬が減圧雰囲気下で行われるため、スプラッシュ53は、ハース7から鋳型8へ飛散し易い。そこで、本実施形態では、スプラッシュ53が鋳型8のキャビティ8a内に侵入することを抑制するために、遮蔽部材11を設けている。
【0078】
本実施形態では、原料50は、第1ハース4の上方に配置された原料供給部2の台座2aから、第1ハース4内の溶湯51へ落下される。このような構成であるため、原料50は、固形のまま、または、照射部3によって溶解されながら第1ハース4へ落下する。その結果、台座2aから落下した原料50が第1ハース4の溶湯51と衝突することで、スプラッシュ53が発生することがある。台座2aから第1ハース4への原料投入位置は、上流壁21の近傍であって鋳型8から離隔した位置であるけれども、やはり、減圧雰囲気の下、スプラッシュ53は、鋳型8へ向けて飛散してしまう。
【0079】
遮蔽部材11は、ハース7において生じたスプラッシュ53について鋳型8に供給された溶湯51へ侵入することを抑制するために、ハース7と鋳型8との間に配置されている。本実施形態では、遮蔽部材11は、第1ハース4と向かい合うように配置されている。遮蔽部材11は、本実施形態では、チタン材料で形成されている。遮蔽部材11は、純チタン製であってもよいし、チタン合金鋳塊52と同じ成分のチタン合金製であってもよい。遮蔽部材11がチタンまたはチタン合金製であることにより、この遮蔽部材11の耐熱温度(溶融温度)を極めて高くできる。
【0080】
遮蔽部材11は、本実施形態では、所定の厚みを有する矩形の平板状に形成されている。本実施形態では、遮蔽部材11は、鉛直方向に延びて第1主流れ方向D1と直交しており、第2主流れ方向D2と平行に延びている。遮蔽部材11の内部を冷却水等の冷媒が通過する構成の場合、遮蔽部材11の厚みは、この冷媒通路を形成可能な厚みに形成されていることが好ましい。
【0081】
遮蔽部材11の幅(第2主流れ方向D2に沿う方向の長さ)は、第1ハース4の内幅(一対の第1側壁23,24間の間隔)以上に設定されていることが好ましい。遮蔽部材11は、遮蔽部材11の幅方向(第2主流れ方向D2に沿う方向)において、第1ハース4の全域を覆っていることが好ましい。また、遮蔽部材11は、第2主流れ方向D2と平行な方向において、キャビティ8aの全域に亘ってキャビティ8aと向かい合っていることが好ましい。遮蔽部材11は、鉛直方向において、鋳型8の上面8bに接する位置からハース7の上面7bの上方までの位置に亘って延びている。遮蔽部材11の上端面の高さ位置は、第1ハース4から飛散するスプラッシュ53の高さ位置を考慮して設定される。
【0082】
遮蔽部材11は、例えば当該遮蔽部材11の下端部が鋳型8の上面8bに載せられているとともに、図示しないガイド部材によって、後述する加振機構14によって生じる振動の振動方向V1(振幅方向)に移動可能に支持されている。これにより、遮蔽部材11の全体が、加振機構14の振動によって振動することができる。より具体的には、遮蔽部材11の上端部が図示しないフックに引っ掛けられていることにより、遮蔽部材11は、フックによって吊り下げられて支持されている。さらに、遮蔽部材11の下端部と鋳型8の上面8bとの間に隙間が無いように、フックによる遮蔽部材11の吊り下げ位置が設定されている。また、遮蔽部材11の下端部には、平面視において鋳型8の内周面の位置よりも鋳型8の径方向内方の位置へ遮蔽部材11が侵入しないように、鋳型8の上端部にストッパー(図示せず)が設けられている。このストッパーは、鋳型8の径方向外方へ向かう遮蔽部材11の動きは拘束していない。
【0083】
遮蔽部材11は、本実施形態では、溶湯出口7aに対して第1主流れ方向D1の上流側に配置されている。また、遮蔽部材11は、キャビティ8aの外周部に配置されている。遮蔽部材11のうちキャビティ8a側を向く一側面11aの少なくとも一部(本実施形態では、遮蔽部材11の中央部分を含む一部)は、鋳型8の内周面の真上に位置しており、これにより、遮蔽部材11の一側面11aに付着した付着物54を鋳型8のキャビティ8a内へ落下させることができる。遮蔽部材11の一側面11aは、平面視において、例えばキャビティ8aの内周面の接線上に配置される。
【0084】
ここで、付着物54とは、遮蔽部材11の一側面11aに付着した、溶湯51の一部の成分である。遮蔽部材11の一側面11aに付着した付着物54は、主に、鋳型8のキャビティ8a内において溶湯51から蒸発した添加材が蒸着して形成されている。付着物54は、アルミニウム、および、スズの少なくとも一方を含んでいる。
【0085】
なお、遮蔽部材11のうち第1ハース4と対向する他側面11bには、第1ハース4から飛散したスプラッシュ53が付着する。
【0086】
遮蔽部材11は、当該遮蔽部材11の一側面11aがキャビティ8aの外周縁部寄りに配置されている。これにより、遮蔽部材11の付着物54はキャビティ8a内へ落下することが可能であり、且つ、遮蔽部材11に付着したスプラッシュ53は、キャビティ8a内に落下することを抑制される。
【0087】
遮蔽部材11の付着物54が大きな塊となって成長する前に、遮蔽部材11に付着した付着物54を除去するため、除去機構12が設けられている。
【0088】
除去機構12は、遮蔽部材11に振動を与える加振機構14を有している。加振機構14を連続的または間欠的に振動させることにより、チタン合金鋳塊52の製造時に遮蔽部材11に付着した付着物54を脱落させる。
【0089】
加振機構14は、アクチュエータ41と、遮蔽部材11と、を含んでいる。すなわち、本実施形態では、遮蔽部材11は、加振機構14の一部を構成している。
【0090】
アクチュエータ41は、電動モータまたは油圧モータであるモータ42と、このモータ42の出力軸に一体回転可能に連結された物体としての出力部材43と、を含んでいる。本実施形態では、加振機構14は、アクチュエータ41の出力部材43の変位運動を振動力に変換する機構である。
【0091】
モータ42のケーシングは、図示しないステー等に固定されている。出力部材43は、外周部に複数の歯44が形成された部材であり、本実施形態では、出力部材43の全周に亘って歯44が形成されている。加振機構14が遮蔽部材11を連続的に加振する場合、出力部材43は、モータ42の出力軸45と同軸に固定される。加振機構14が遮蔽部材11を間欠的に加振する場合、出力部材43は、モータ42の出力軸45に偏心状態で固定される。出力部材43の歯44は、遮蔽部材11の縁部に接触するように配置される。
【0092】
上記の構成により、出力部材43がモータ42の出力軸45と同軸に配置されている場合、モータ42の出力軸45が回転すると、出力部材43の歯44が遮蔽部材11の縁部を連続的に打撃する。これにより、遮蔽部材11は、例えば、遮蔽部材11の厚み方向(第1主流れ方向D1と平行な方向)を振動方向V1として連続的に振動する。一方、出力部材43がモータ42の出力軸45と偏心状態で配置されている場合、モータ42の出力軸45が回転すると、出力部材43の歯44が遮蔽部材11の縁部を間欠的に打撃する。これにより、遮蔽部材11は、振動方向V1に間欠的に振動する。
【0093】
なお、加振機構14に代えて、図2(A)に示す加振機構14A(除去機構12A)が設けられてもよい。図2(A)は、本実施形態の変形例の主要部を示す模式的な断面図である。加振機構14Aは、アクチュエータ41Aを含んでいる。
【0094】
アクチュエータ41Aは、モータ42と、このモータ42の出力軸45に偏心状態で一体回転可能に連結された円板状の出力部材43Aと、遮蔽部材11に固定され振動方向V1に向かい合った一対の挟み部材46と、を有している。
【0095】
挟み部材46は、出力部材43Aと滑り接触してこの出力部材43Aを挟み込んでいる。この構成により、モータ42の出力軸45の回転とともに出力部材43Aが回転すると、回転部材43Aの首振り運動により挟み部材46が振動方向V1に振動する。この構成において遮蔽部材11を間欠的に振動させる場合、モータ42を間欠的に駆動すればよい。
【0096】
図2(B)は、さらに別の変形例を示す主要部の図である。この変形例では、加振機構14Aは、電力を振動力に変換する振動子47をさらに含んでいる。振動子47は、例えば、遮蔽部材11に埋設されており、電流を流されることにより振動することで、遮蔽部材11を振動させる。すなわち、振動子47は、電力を振動力に変換することで、遮蔽部材11に振動を与える。振動子47として、スピーカーのような電磁コイル式の振動子、および、圧電素子を例示できる。
【0097】
なお、図2(B)では、加振機構14Aに振動子47が付加されている形態を例に説明しているけれども、この通りでなくてもよい。アクチュエータ41Aに代えてアクチュエータ41が設けられてもよいし、アクチュエータ41およびアクチュエータ41Aの何れも設けずに、振動子47を設けてもよい。アクチュエータ41等を用いた機械式の加振機構であれば、大きな振幅を簡易な構成で得られる。一方、振動子47を用いた電気式の加振機構であれば、高い周波数を簡易な構成で得られる。
【0098】
上述の実施形態では、遮蔽部材11が平板状である形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。例えば、図3の変形例に示すように、鋳型8の形状に沿った湾曲状の外形を有する遮蔽部材11Aが用いられてもよい。遮蔽部材11Aは、鋳型8の内周面の形状に沿う円弧状に形成された板部材である。遮蔽部材11Aの材質、遮蔽部材11Aの厚み、および、遮蔽部材11Aの高さ位置は、遮蔽部材11と同様に設定される。一方で、遮蔽部材11Aは、第1ハース4の第1主流れ方向D1に向かい合うように配置されるとともに、第2ハース6の一方の側壁33とは第4主流れ方向D4と平行な方向に向かい合うように配置される。また、遮蔽部材11Aは、湯道5と向かい合うように配置される。遮蔽部材11Aは、第2主流れ方向D2と平行な方向において、キャビティ8aの全域に亘ってキャビティ8aと向かい合っていることが好ましい。
【0099】
上記の構成であれば、遮蔽部材11Aは、第1ハース4において生じたスプラッシュ53に加えて、湯道5や第2ハース6で溶湯51が弾けること等によって生じたスプラッシュ53について、鋳型8のキャビティ8a内に侵入することをより確実に抑制できる。これにより、遮蔽部材11Aによる、スプラッシュ53の遮蔽効率を高めることができる。遮蔽部材11Aに設けられる除去機構12,12Aの構成は、遮蔽部材11に設けられる除去機構と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0100】
なお、図1に示す遮蔽部材11が用いられる場合、第2ハース6側にも遮蔽部材(図示せず)を増設してもよい。この場合、第2ハース6側の遮蔽部材は、例えば矩形の平板状に形成され、鋳型8の上面8b上に設置される。この遮蔽部材は、平面視で第2ハース6の第2側壁33と平行に配置されることが好ましい。また、上記第2ハース6側の遮蔽部材が設けられない場合、遮蔽部材11を図1に示す位置から平面視で鋳型8の中心軸線回りに第2ハース6側に45度回転した位置に設置してもよい。これにより遮蔽部材11は、第1ハース4からのスプラッシュと第2ハース6からのスプラッシュの両方を遮蔽できる。
【0101】
図4は、遮蔽部材11の振動条件について説明するための両対数グラフである。図4において、横軸は遮蔽部材11に与えられる振動数xを示している。また、縦軸は、遮蔽部材11の振幅y(除去機構12の出力部材43と接触している箇所での振幅)を示している。
【0102】
図1および図4を参照して、遮蔽部材11の振動条件は、図4に示す三角形の領域内であることが望ましい。すなわち、この振動は、振幅をy(cm)とし、振動数をx(Hz)とする場合に、
y≧0.2x-0.5
ただし、
0.001≦x≦1000、
0.01≦y≦6
を満足することが望ましい。
【0103】
振動数xが上記の下限に達しない場合、および、振幅yが上記の下限に達しない場合の少なくとも一方においては、遮蔽部材11に付着したアルミニウム等の付着物54(蒸着物)を遮蔽部材11から確実に剥離することが困難である。また、振動数xが上記の上限を超える場合、および、振幅yが上記の上限を超える場合の少なくとも一方においては、遮蔽部材11から付着物54を剥離させる効果は高いものの、除去機構12についての設備コストが上昇する。
【0104】
図4の三角形の領域における斜辺は、振動数xが好適な範囲の下限で且つ振幅yが好適な範囲の上限である点と、振動数xが好適な範囲の上限で且つ振幅yが好適な範囲の下限である点と、を結んだ線である。
【0105】
図4において、三角形の領域内において黒丸で示される点は、実験により、付着物54を遮蔽部材11から少ない設備コストで剥離させるのに効果があると判定された結果を示している。一方、三角形の領域外において白抜きの三角で示される点は、実験により、付着物54を遮蔽部材11から剥離させるのに効果が十分でないか、または、除去機構の設備コストが高すぎると判定された結果を示している。
【0106】
以上が製造装置1の概略構成である。
【0107】
2.本発明に係る製造方法
図1を参照して、本実施形態に係るチタン合金鋳塊52の製造方法は、第1~5の工程を有する。
【0108】
第1の工程は、原料供給工程である。この第1の工程では、原料供給部2が原料50を第1ハース4の上方から第1ハース4へ落下させる。原料供給工程では、原料50を、第2の工程での原料50の溶解速度に応じた供給速度で、供給することが望ましい。
【0109】
第2の工程は、溶解工程である。この第2の工程では、第1ハース4へ供給された原料50に照射部3が電子ビームまたはプラズマを照射することにより原料50を溶解する。なお、原料供給工程で原料50を連続して供給し、溶解工程で原料50を連続して溶解することが望ましい。
【0110】
第3の工程は、ハース7において溶湯51を精錬する精錬工程である。この第3の工程では、固形物のまま落下、または、照射部3によって溶解されて流下する溶湯51を精錬する。この精錬工程では、ハース4を流れる溶湯51に、照射部9から電子ビームまたはプラズマを照射することにより、溶湯51の温度を調整することが望ましい。
【0111】
第4の工程は、鋳造工程である。この第4の工程では、ハース7で精錬された溶湯51を鋳型8で冷却凝固することで、チタン合金鋳塊52を成形する。この鋳造工程では、鋳型8への溶湯51の流入に伴い支持台13が下方へ移動する。これにより、チタン合金鋳塊52が円柱状に成形されていく。この鋳造工程では、ハース7において生じたスプラッシュ53は、遮蔽部材11によって受けられることで、鋳型8のキャビティ8aへの侵入を抑制される。
【0112】
第5の工程は、遮蔽部材11に付着した付着物54を除去するための除去工程である。この第5の工程は、チタン合金鋳塊52の鋳造時に行われてもよいし、チタン合金鋳塊52の鋳造時以外に行われてもよい。この除去工程では、除去機構12または12Aが、遮蔽部材11へ、連続的または間欠的に、機械的または電気的に振動を与える。この振動についての好ましい振動数xと振幅yの関係は、前述したとおりである。この除去工程では、大きく成長する前に遮蔽部材11から除去された付着物54の少なくとも一部を、キャビティ8a内の溶湯51へ落下させる。
【0113】
以上説明したように、本実施形態によると、除去機構12,12Aは、遮蔽部材11に付着した付着物54を遮蔽部材11から除去することができる。これにより、鋳型8のキャビティ8a内の溶湯51から蒸発した添加材が遮蔽部材11に付着して付着物54が形成された場合、この付着物54を大きな塊となる前に、遮蔽部材11から剥離できる。これにより、鋳型8のキャビティ8a内に落下する付着物54のサイズを小さくできる。よって、鋳型8内の溶湯51に局所的に大きな付着物54の塊が混入することを抑制できる。その結果、溶湯51が冷却凝固されることで成形されるチタン合金鋳塊52において、成分の偏りが生じることを抑制できるので、均等な品質を実現できる。これにより、チタン合金鋳塊52の製造に関して、より均等な品質を高い次元で実現できる。
【0114】
また、本実施形態によると、除去機構12,12Aは、遮蔽部材11に振動を与えることにより、遮蔽部材11から付着物54を除去する。これにより、遮蔽部材11から付着物54を容易に満遍なく除去できる。
【0115】
また、本実施形態によると、除去機構12,12Aは、対応するアクチュエータ41,41Aの出力部材43,43Aの回転運動を振動力に変換する。この構成によると、簡易な構成で遮蔽部材11に振動を与えることができる。また、振動子47を用いて遮蔽部材11に振動を与える場合も、簡易な構成で遮蔽部材11に振動を与えることができる。
【0116】
また、本実施形態によると、除去機構12,12Aは、遮蔽部材11から除去された付着物54の少なくとも一部を、鋳型8のキャビティ8a内の溶湯51へ落下させる。この構成によると、鋳型8のキャビティ8aから蒸発した添加材をキャビティ8aへ戻すことができる。しかも、遮蔽部材11から落下する付着物54の大きさは小さいので、鋳型8内の溶湯51の組成が均等な状態を維持できる。よって、チタン合金鋳塊52の製造に関して、より均等な品質を高い次元で実現できる。
【0117】
また、本実施形態によると、遮蔽部材11は、第1ハース4および第2ハース6のうち、原料50が投入されるハースである少なくとも第1ハース4と向かい合うように配置されている。この構成によると、原料供給部2から投下された原料50によるスプラッシュ53が鋳型8内の溶湯51に侵入することをより確実に抑制できる。
【実施例
【0118】
本発明の効果を確認するため、図1に示す製造装置1を用いて、以下に示す試験を実施してその結果を評価した。
(1)溶解および鋳造条件
溶湯成分:Ti-6.4%Al-4.2%V(添加材としてアルミニウム合金を使用)
溶湯温度:1850℃(ハース7内の溶湯温度)
【0119】
鋳型8の内径:750mm
溶解量:10000kg
溶解速度:1000kg/時間
【0120】
ハース7:第1ハース4、第2ハース6の2種類
第1ハース4の寸法:幅500mm×長さ2000mm×深さ150mm
第2ハース6の寸法:幅500mm×長さ1500mm×深さ100mm
【0121】
原料50:チタン合金の直径100mm×長さ200mmのブリケット
原料50の溶解方法:ブリケットを溶解速度に合わせて連続供給
電子ビームまたはプラズマ照射部3:原料溶解用1基
【0122】
電子ビームまたはプラズマ照射部9:第1ハース4用1基、第2ハース6用2基の合計3基
電子ビームまたはプラズマ照射部10:鋳型8の用1基
【0123】
遮蔽部材11:
・設置位置:第1ハース4および第2ハース6の双方に面するように、平面視で第1ハース4の下流壁22に対して45度の向きとなるように、鋳型8の上面8bに設置
・形状および寸法:幅600mm、高さ1000mm、厚み5mmの平板状
・材質:純チタン
【0124】
除去機構12の加振機構14
・振動方法:モータによる機械式の加振を行った
・振動数:0.0001~10000Hz
・振幅:0.001~10cm
【0125】
(2)評価
表1に試験結果を示す。
【0126】
【表1】
【0127】
表1における原料50の供給方法欄の「連続添加」は、溶解速度に合わせて原料50を第1ハース4の直上に一定速度で連続供給し、これに電子ビームあるいはプラズマを照射させて連続的に溶解したことを意味する。また、「一括添加」は、1000kgの原料50を10回に分けて、それぞれを第1ハース4に一括添加して、これに電子ビームあるいはプラズマを照射させて溶解したことを意味する。
【0128】
表1における「遮蔽部材11の付着量比」は、試験終了後に遮蔽部材11を取り出し、試験開始前の遮蔽部材11の重量を基準とした時の比を意味する。表1における「チタン合金鋳塊のAl濃度変動」は、アルミニウムの濃度の変動量であり、目標とするアルミニウム濃度を基準とした場合の比を意味する。
【0129】
さらに、表1における「スプラッシュの混入の有無」は、試験中の製造装置1内を目視で監視することにより、鋳型8のキャビティ8a内へのスプラッシュ53の混入の有無を確認した。
【0130】
本発明の効果を、遮蔽部材11に蒸着したアルミニウムの付着量と、チタン合金鋳塊52のアルミニウム濃度に関して確認した。
【0131】
遮蔽部材11への付着量比は、試験前の遮蔽部材11の重量に対する試験後の遮蔽部材11の重量の比であり、付着量比が大きいほどアルミニウムの付着量が多いことを示す。本発明例1~10のように、遮蔽部材11を振動させることで、遮蔽部材11に付着した付着物54の脱落を促進することで付着物54の付着量を減らすことができた。
【0132】
この結果、付着物が鋳型8内の溶湯51に落下しても、この落下したアルミニウムの量が少ないので、チタン合金鋳塊52のアルミニウム濃度の上昇が少なく、結果的にチタン合金鋳塊52のアルミニウム濃度の変動が小さくなる。
【0133】
ここで、チタン合金鋳塊52のアルミニウムの濃度については、チタン合金鋳塊52の切粉を採取してこの切粉を測定対象とした。切粉は、約7000mm長のチタン合金鋳塊52の下端から上方へ100mm間隔の各高さ位置で、チタン合金鋳塊52の表面から30mmの深さ位置の部分を採取した。
【0134】
本発明例1~10によれば、遮蔽部材11の付着量比は小さく、チタン合金鋳塊52の濃度変動も小さくすることもできた。特に、本発明例1~4,10は、振幅y(cm)および振動数x(Hz)がy≧0.2x-0.5、ただし、0.001≦x≦1000、0.01≦y≦6を満足している。このため、遮蔽部材11の付着量比およびチタン合金鋳塊52の濃度変動がいずれも極めて小さくなった。
【0135】
また、本発明例5~9は、振幅y(cm)および振動数x(Hz)がy≧0.2x-0.5、ただし、0.001≦x≦1000、0.01≦y≦6を満足しないため、遮蔽部材11へのアルミニウムの付着量が本発明例1~4,10よりも若干増加した。このため、付着したアルミニウムの一部の塊が鋳型8内の溶湯51に落下し、チタン合金鋳塊52のアルミニウム濃度が、濃度の規格内ではあったものの、部分的に上昇した。
【0136】
一方、比較例1,2は、遮蔽部材11が設けられていることにより、スプラッシュ混入は防止された。しかしながら、遮蔽部材11に振動を生じさせなかった。このため、遮蔽部材11において付着物54(蒸着物)の塊が大きく成長し、付着量比が大きくなった。また、遮蔽部材11において大きく成長した付着物54の塊が、鋳型8内のチタン合金鋳塊52に混入し、その結果、Al濃度変動が大きくなった。比較例3~5では、遮蔽部材11が無いため、スプラッシュ53が鋳型8内の溶湯に混入し、チタン合金鋳塊52のAl濃度の変動が非常に大きくなった。
【0137】
以上の次第で、遮蔽部材11を設けるとともに、この遮蔽部材11を加振機構14で振動させることで、付着物54が成長する前にこの付着物54を遮蔽部材11から剥離することができ、その結果、チタン合金鋳塊52の品質を極めて高くできることが実証された。
【符号の説明】
【0138】
1 製造装置
2 原料供給部
3,9,10 照射部
4 第1ハース
6 第2ハース
7 ハース
8 鋳型
8a キャビティ
11,11A 遮蔽部材
12,12A 除去機構
14,14A 加振機構
41,41A アクチュエータ
43,43A 出力部材(物体)
47 振動子
50 原料
51 溶湯
52 チタン合金鋳塊
53 スプラッシュ
54 付着物
図1
図2
図3
図4