(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】溶融金属の注湯装置
(51)【国際特許分類】
B22D 41/24 20060101AFI20230405BHJP
B22D 41/50 20060101ALI20230405BHJP
B22D 11/10 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
B22D41/24
B22D41/50 520
B22D11/10 320E
(21)【出願番号】P 2019162568
(22)【出願日】2019-09-06
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 広大
(72)【発明者】
【氏名】塚口 友一
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-129646(JP,A)
【文献】実開昭57-082467(JP,U)
【文献】実開昭59-020958(JP,U)
【文献】特開平05-293614(JP,A)
【文献】特表平10-509650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 41/22-41/42、41/50
B22D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取鍋内に収容された溶融金属を注湯するための注湯装置であって、
取鍋底部には溶融金属の流量を調整するスライディングゲートを有し、
前記スライディングゲートは溶融金属が通過する流路孔が形成された複数のプレートを有し、前記プレートのうちの少なくとも1枚のプレートは摺動が可能なスライド板であり、
それぞれのプレートにおける流路孔は、プレートの表面のうち、通過する溶融金属の上流側に位置する上流側表面に上流側表面開孔を形成し、下流側に位置する下流側表面に下流側表面開孔を形成し、上流側表面開孔図形の重心から下流側表面開孔図形の重心に向く方向を流路軸線方向とし、
プレートの摺動面に垂直な下流方向(以下「摺動面垂直下流方向」という。)と前記流路軸線方向とがなす流路軸線傾斜角度αが5°以上75°以下であり、
前記流路軸線方向を摺動面に投影した方向を摺動面流路軸線方向と呼び、スライディングゲートを閉とするときに前記スライド板を摺動する方向を摺動閉方向と呼び、摺動閉方向に対し、前記摺動面流路軸線方向が、前記摺動面垂直下流方向に見て時計回りになす角度を流路軸線回転角度θ(±180度の範囲)と呼び、当該流路軸線回転角度θは、隣接するプレート間で異なっており、最も上流側のプレートのθをθ
1、その一つ下流側のプレートのθをθ
2、さらに一つ下流側のプレートのθをθ
3と順に番号を付け、Δθ
N=θ
N-θ
N+1(Nは1以上の整数でプレートの枚数-1まで)としたとき、
角度Δθ
Nがいずれも10°以上かつ170°未満、又は角度Δθ
Nがいずれも-170°超かつ-10°以下であることを特徴とする溶融金属の注湯装置。
【請求項2】
前記スライディングゲートの下方に、スライディングゲートから流下する溶融金属流を取り囲むように配置した耐火物製の囲繞管と、取鍋から流下した溶融金属を収容する中間容器とを有することを特徴とする請求項1に記載の溶融金属の注湯装置。
【請求項3】
前記囲繞管の内部空間は、円筒もしくは矩形の水平断面形状を有し、
スライディングゲートの流路孔の内径をDとしたとき、前記囲繞管の内径は3×D以上であり、取鍋から流下する溶融金属流が大気から遮断されていることを特徴とする請求項2に記載の溶融金属の注湯装置。
【請求項4】
スライディングゲートを形成するプレートの数が2枚もしくは3枚でありスライド板が1枚であることを特徴とする、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の溶融金属の注湯装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶融金属の注湯装置であり、特に、取鍋底部に設けたスライディングゲートを経由して溶融金属を注湯する、溶融金属の注湯装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融金属、例えば溶鋼の連続鋳造においては、取鍋内に収容された溶鋼がタンディッシュに移注され、さらにタンディッシュから鋳型内に注入される。取鍋底部にはスライディングゲートなどの流量調整機構が設けられ、スライディングゲートの下流側のタンディッシュ内に溶鋼が移注される。取鍋底部のスライディングゲートからタンディッシュ内の溶鋼表面までの溶鋼流について、大気との接触による溶鋼酸化を防止するため、溶鋼流を大気雰囲気から遮断する手段が講じられる。通常は、注入管(連続鋳造用)あるいはロングノズルと呼ばれる、溶鋼流を取り囲む耐火物製の管が設けられる。ここでは注入管やロングノズルを総称して「囲繞(いじょう)管」と呼ぶこととする。
【0003】
溶融金属、例えば溶鋼をインゴット鋳造するに際しても、取鍋内に収容された溶鋼が取鍋底部のスライディングゲートを通じて下方に流出し、鋳型(インゴットケース)内に鋳造される。上注ぎ鋳造であれば、取鍋の下方に鋳型を配置し、取鍋から鋳型内に溶鋼が注入される。下注ぎ鋳造であれば、取鍋の下方に注入管(インゴット鋳造用)を配置し、取鍋からスライディングゲートを通じて注入管内に溶鋼が注入され、注入管から定盤内の湯道を経由して鋳型内に溶鋼が注入される。
【0004】
溶鋼の連続鋳造においては、鋳片を所定の一定鋳造速度で鋳造するので、タンディッシュから鋳型に注入される溶鋼注入速度は一定に保持される。タンディッシュ内の溶鋼量も一定に保持されるので、取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入速度(トン/分)も一定に保持することが必要である。取鍋からの溶鋼注入速度は、取鍋底部のスライディングゲートの開度調整によって制御される。
【0005】
スライディングゲートを通過する溶鋼(溶融金属)の注入速度(トン/分)は、スライディングゲート開口部を通過する溶鋼の流速(m/分)とスライディングゲートの開口面積の積に比例する。そして、溶鋼の流速は、スライディングゲートにおける溶鋼ヘッド(取鍋内の溶鋼表面と下部ノズル下端の間の高度差)の平方根に比例することから、取鍋注入末期で溶鋼ヘッドが小さくなった時点では、スライディングゲート開口部を通過する溶鋼の流速(m/分)が低下するため、スライディングゲートの開度を広げて、必要とされる溶鋼注入速度(トン/分)を確保する必要がある。そこで、スライディングゲートを構成するプレートの流路孔断面積(開度100%のときのスライディングゲートの開口面積に相当する)は、取鍋の注入末期であって溶鋼ヘッドが最低のときでも十分な溶鋼注入速度(トン/分)を確保すべく、必要な流路孔断面積が採用される。取鍋注入初期から中期にかけては溶鋼ヘッドが大きいので、溶鋼注入速度を一定に保持する必要上、スライディングゲートの開度を絞って注入が行われることとなる。スライディングゲートは、絞り注入時に溶鋼流の拡散が生じることが知られている。
【0006】
特許文献1には、連続鋳造において、取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入流を取り囲む囲繞管として注入管を用いた例が開示されている。特許文献1によると、取鍋からの注入流がタンディッシュ内の溶鋼と衝突することにより主として発生するスプラッシュにより、注入管の内壁面に地金が付着・堆積し、正常な注入流による溶鋼の鋳込みができなくなる点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
溶鋼の連続鋳造を行うに際し、取鍋からタンディッシュへの溶鋼の注湯装置として、
図13に示す構造を有するものを用いた。取鍋21底部にスライディングゲート1を有し、さらに、スライディングゲート1下方の下部ノズル11と、下部ノズル11の下方に囲繞管13を有し、囲繞管13の下端はタンディッシュ内の溶融金属23(溶鋼)中に浸漬している。連続鋳造後の囲繞管内壁を調査したところ、内壁に地金付着が見られた。
図13中に地金付着部26を示す。地金付着部26の位置から、地金付着の原因は、スライディングゲートからの吐出流が拡散して囲繞管内部の地金付着部26に付着したものが主体であると推定された。
このような囲繞管13(注入管14)への地金の付着・堆積は注入管の閉塞を引き起こし、連続鋳造のスループットを低下させるだけでなく、注入管の交換周期を短くさせるなど、操業のコストアップにつながる。
本発明は、取鍋底部に設けたスライディングゲートを経由して溶融金属を注湯する、溶融金属の注湯装置において、スライディングゲートからの吐出流の拡散を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
[1]取鍋内に収容された溶融金属を注湯するための注湯装置であって、
取鍋底部には溶融金属の流量を調整するスライディングゲートを有し、
前記スライディングゲートは溶融金属が通過する流路孔が形成された複数のプレートを有し、前記プレートのうちの少なくとも1枚のプレートは摺動が可能なスライド板であり、
それぞれのプレートにおける流路孔は、プレートの表面のうち、通過する溶融金属の上流側に位置する上流側表面に上流側表面開孔を形成し、下流側に位置する下流側表面に下流側表面開孔を形成し、上流側表面開孔図形の重心から下流側表面開孔図形の重心に向く方向を流路軸線方向とし、
プレートの摺動面に垂直な下流方向(以下「摺動面垂直下流方向」という。)と前記流路軸線方向とがなす流路軸線傾斜角度αが5°以上75°以下であり、
前記流路軸線方向を摺動面に投影した方向を摺動面流路軸線方向と呼び、スライディングゲートを閉とするときに前記スライド板を摺動する方向を摺動閉方向と呼び、摺動閉方向に対し、前記摺動面流路軸線方向が、前記摺動面垂直下流方向に見て時計回りになす角度を流路軸線回転角度θ(±180度の範囲)と呼び、当該流路軸線回転角度θは、隣接するプレート間で異なっており、最も上流側のプレートのθをθ1、その一つ下流側のプレートのθをθ2、さらに一つ下流側のプレートのθをθ3と順に番号を付け、ΔθN=θN-θN+1(Nは1以上の整数でプレートの枚数-1まで)としたとき、
角度ΔθNがいずれも10°以上かつ170°未満、又は角度ΔθNがいずれも-170°超かつ-10°以下であることを特徴とする溶融金属の注湯装置。
[2]前記スライディングゲートの下方に、スライディングゲートから流下する溶融金属流を取り囲むように配置した耐火物製の囲繞管と、取鍋から流下した溶融金属を収容する中間容器とを有することを特徴とする[1]に記載の溶融金属の注湯装置。
[3]前記囲繞管の内部空間は、円筒もしくは矩形の水平断面形状を有し、
スライディングゲートの流路孔の内径をDとしたとき、前記囲繞管の内径は3×D以上であり、取鍋から流下する溶融金属流が大気から遮断されていることを特徴とする[2]に記載の溶融金属の注湯装置。
[4]スライディングゲートを形成するプレートの数が2枚もしくは3枚でありスライド板が1枚であることを特徴とする、[1]から[3]までのいずれか1つに記載の溶融金属の注湯装置。
【発明の効果】
【0010】
取鍋底部に設けたスライディングゲートを経由して溶融金属を注湯する、溶融金属の注湯装置において、本発明により、スライディングゲートからの吐出流の拡散を防止することができる。
溶融金属をタンディッシュ内に注湯するための溶融金属の注湯装置として本発明を用いることにより、囲繞管(注入管)内を流下する溶湯流に旋回流を形成した上で、落下流が水平方向に広がることなく、不安定に揺らぐことなく、注入管に接触しないままに流下することで、注入管に地金が付着・堆積することを防ぎ、注入管が閉塞してスループットを低下させることがなく、注入管の寿命を短縮することがない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の溶融金属の注湯装置を示す概念断面図である。
【
図2】本発明の溶融金属の注湯装置のスライディングゲートを示す図であり、(A)は上固定板、(B)はスライド板、(C)は下固定板のそれぞれ平面図、(D)はスライディングゲートと下部ノズルを組み合わせた正面図、(E)はE-E矢視図、(F)はF-F矢視断面図である。
【
図3】本発明の溶融金属の注湯装置のスライディングゲートを示す図であり、(A)はA-A矢視図、(B)はB-B矢視図、(C)はC-C矢視図、(D)はスライディングゲートと下部ノズルを組み合わせた正面図、(E)はE-E矢視図である。
【
図4】本発明のスライディングゲート内の流れを示す図であり、(A)はA-A矢視図、(B)はB-B矢視図、(C)はC-C矢視図、(D)はスライディングゲートと下部ノズルを組み合わせた正面図、(E)はE-E矢視図である。
【
図5】本発明の溶融金属の注湯装置のスライディングゲートを示す図であり、(A)は上固定板、(B)はスライド板、(C)はスライディングゲートと下部ノズルを組み合わせた正面図、(D)はD-D矢視図、(E)はE-E矢視断面図である。
【
図6】本発明の溶融金属の注湯装置のスライディングゲートを示す図であり、(A)はA-A矢視図、(B)はB-B矢視図、(C)はスライディングゲートと下部ノズルを組み合わせた正面図、(D)はD-D矢視図である。
【
図7】本発明の上固定板の一例を示す図であり、(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は側面図、(D)はD-D矢視断面図である。
【
図8】比較例のスライディングゲートを示す図であり、(A)は上固定板、(B)はスライド板、(C)はスライディングゲートと下部ノズルを組み合わせた正面図、(D)はD-D矢視図、(E)はE-E矢視断面図である。
【
図9】比較例のスライディングゲートを示す図であり、(A)はA-A矢視図、(B)はB-B矢視図、(C)はスライディングゲートと下部ノズルを組み合わせた正面図、(D)はD-D矢視図である。
【
図10】従来のスライディングゲートを示す図であり、(A)は上固定板、(B)はスライド板、(C)は下固定板のそれぞれ平面図、(D)はスライディングゲートと下部ノズルを組み合わせた正面図、(E)はE-E矢視図、(F)はF-F矢視断面図である。
【
図11】従来のスライディングゲートを示す図であり、(A)はA-A矢視図、(B)はB-B矢視図、(C)はC-C矢視図、(D)はスライディングゲートと下部ノズルを組み合わせた正面図、(E)はE-E矢視図である。
【
図12】下部ノズル先端からの吐出流の流線を示す図であり、(A)は旋回流を形成した本発明例、(B)は旋回流を形成しない比較例である。
【
図13】比較例の溶融金属の注湯装置を示す概念断面図である。
【
図14】旋回流を形成した本発明例と旋回流を形成しない比較例について、スライディングゲートの開度と吐出流広がり角との関係を示す図である。
【
図15】旋回流を形成した本発明例と旋回流を形成しない比較例について、囲繞管内壁への地金付着量を比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は溶融金属の注湯装置であり、特に、取鍋底部に設けたスライディングゲートを経由して溶融金属を注湯する、溶融金属の注湯装置に関するものである。溶融金属として、好ましくは溶鋼が用いられる。以下、溶融金属が溶鋼である場合を事例として説明を行う。
【0013】
取鍋21底部に配設するスライディングゲート1は、
図10、
図11に示すように、2枚もしくは3枚のプレート2を重ねて構成されたスライディングゲート1において、各プレート2には流路孔6が設けられている。スライディングゲート1を構成するプレートのうちのスライド板4を摺動させ、各プレートの流路孔6の重なりによってスライディングゲート1が「開」となっているとき、流路孔6の上流側から下流側に向けて溶融金属が流通する。プレート2の摺動面30に垂直で下流方向に向かう方向(摺動面垂直下流方向32)は、上から下に向かって鉛直下方に向いている。従来用いられているスライディングゲートにおいて、プレート2の流路孔6は、
図10、
図11に示すように、通常はその内周形状が円筒形であり、円筒の軸方向は摺動面垂直下流方向32に平行に構成されている。スライディングゲート1の下部に下部ノズル11が配設される。
【0014】
鋼の連続鋳造においては、
図13に示すように、取鍋21の下方に中間容器22としてタンディッシュ25が配置され、取鍋底部に設けたスライディングゲート1を経由して、溶鋼がタンディッシュ25に移注され、さらにタンディッシュから図示しない鋳型内に注入される。取鍋底部に設けたスライディングゲート1が流量調整機構として機能する。取鍋底部のスライディングゲート1からタンディッシュ25内の溶鋼表面(溶融金属表面24)までの溶鋼流について、大気との接触による溶鋼酸化を防止するため、溶鋼流を大気雰囲気から遮断する手段として、溶鋼流を取り囲む囲繞管13(注入管14やロングノズル)が配置される。
【0015】
前述のように、取鍋底部のスライディングゲート1を構成する各プレート2の流路孔6の断面積は、取鍋内の溶鋼ヘッドが最低のときでも十分な溶鋼注入速度を確保すべく、必要な流路孔断面積が採用される。取鍋注入初期から中期にかけては溶鋼ヘッドが大きいので、溶鋼注入速度(単位時間流量)を一定に保持する必要上、スライディングゲート1の開度を絞って注入が行われることとなる。スライディングゲート1は、絞り注入時に溶鋼流の拡散が生じることが知られている。溶鋼の連続鋳造において、上述のように、囲繞管13の内壁の地金付着部26に地金が付着した原因は、スライディングゲート1の開度を絞って絞り注入している際に、スライディングゲート1からの吐出流が拡散し、その結果として付着したものではないかと着想した。さらに、スライディングゲート1からその下方の下部ノズル内孔12に流下した流下流に旋回運動を付与することにより、吐出流の拡散が低減可能なのではないかと着想した。
【0016】
ここで、従来のスライディングゲートと、吐出流に旋回運動を付与できる本発明のスライディングゲートについて、
図1~
図11に基づいて説明する。
【0017】
従来用いられているスライディングゲートにおいて、プレート2の流路孔6は、
図10、
図11に示すように、通常はその内周形状が円筒形であり、円筒の軸方向は摺動面垂直下流方向32に平行に構成されている。これに対し本発明は、
図2~
図7に示すように、流路孔6の向く方向を、摺動面垂直下流方向32からある角度を持った斜孔とし、摺動面30に投影した斜孔の方向を2枚ないしは3枚のプレートで異なった方向にしたものを適宜組み合わせることによって、スライディングゲート1及びその下流側の下部ノズル11内部の溶融金属流について、下流側に向かう流れのみでなく、周方向流速を付加し旋回流を形成するのである。
【0018】
流路孔6の断面形状として、通常は軸方向に垂直な断面が真円の円筒形状が用いられる。本発明のスライディングゲート1において、プレート2に形成される流路孔6は、円筒形状に限られるものではなく、また流路孔の軸方向についても、プレート内において変化するものであってもかまわない。そこでまず、プレート2に形成された流路孔6の軸線を定義することとする。
【0019】
図10によって、従来のスライディングゲート1の流路孔6について説明する。
図10のスライディングゲート1は、3枚のプレート2を有し、上流側から上固定板3、スライド板4、下固定板5からなる。各プレート2には、断面が真円の円筒形状であって、円筒の軸方向が摺動面30に垂直下流方向(摺動面垂直下流方向32)に向いた流路孔6が形成されている。各プレートの上流側表面を上流面7u、下流側表面を下流面7dと呼ぶ。上流面7uにおいて流路孔6の内周面が形成する図形(上流側表面開孔)を上流開孔8uと呼ぶ。また、下流面7dにおいて流路孔6の内周面が形成する図形(下流側表面開孔)を下流開孔8dと呼ぶ。
図10に示す例では流路孔6の円筒形状の軸線が摺動面に垂直であるため、
図10(A)~(C)においては、上流開孔8uと下流開孔8dが重なっている。上流開孔8u、下流開孔8dの形状をそれぞれ図形と見なすと、当該図形の重心を定義することができる。それぞれ、上流側表面開孔図形重心を上流開孔重心9u、下流側表面開孔図形重心を下流開孔重心9dと呼ぶこととする。
図10に示す例では、上流開孔8u、下流開孔8dともに図形形状が真円であるため、上流開孔重心9u、下流開孔重心9dは真円図形の中心と一致している。次に、上流開孔重心9uと下流開孔重心9dを通過し、下流側に向く方向を、流路軸線方向10と定義する。
図10に示す例では、流路軸線方向10は摺動面垂直下流方向32と同じ方向となる。
図10(F)おいて、一点鎖線で描写した線が流路軸線方向10である。
【0020】
次に
図2によって、本発明のスライディングゲート1の流路孔6について説明する。
図2のスライディングゲート1は、3枚のプレートを有し、上流側から上固定板3、スライド板4、下固定板5からなる。各プレートには、軸方向断面が真円の円筒形状であって、円筒の軸方向が摺動面垂直下流方向32から傾いた方向となる流路孔6が形成されている。
図2(A)(F)により、上固定板3を例にとって説明する。
図2(F)は
図2(A)のF-F矢視断面図である。円筒の軸方向と摺動面垂直下流方向32とが傾いているため、
図2(A)において上流開孔8uと、下流開孔8dが異なった位置に描かれている。軸方向断面が真円で、軸方向が摺動面垂直下流方向32から傾いた円筒形状であるため、上流開孔8uと下流開孔8dとはそれぞれ僅かに真円から外れた楕円を形成している。ただし、図面上は便宜上真円として描画している。上流開孔8uと下流開孔8dそれぞれの図形の重心を上流開孔重心9u、下流開孔重心9dとして定めることができる。さらに、上流開孔重心9uと下流開孔重心9dとを通過して下流側に向くように、流路軸線方向10を定めることができる。
図2(F)において、一点鎖線で描写した線が流路軸線方向10である。
図2に示す例では、流路軸線方向10は、流路孔6を形成する、軸方向断面が真円の円筒形状の軸線方向と一致している。ここにおいて、プレートの摺動面に垂直な下流方向(摺動面垂直下流方向32)と流路軸線方向10とがなす角度を流路軸線傾斜角度αとおく。ここで、流路軸線方向を定めるのに円の中心ではなく開孔重心を用いているのは、開孔形状が真円でない場合にも普遍的に流路軸線方向を定義するためである。
【0021】
図10に示す例では、上固定板3の下流開孔8dとスライド板4の上流開孔8u、スライド板4の下流開孔8dと下固定板5の上流開孔8uが、それぞれ一致するように、スライド板4の摺動位置が定まっており、即ちスライディングゲート1は全開の状態である(
図10(D)参照)。
図10に示すスライディングゲート1は、スライド板4を図の左方向に移動することにより、スライディングゲート1の開度を小さくすることができる。
図11は、
図10と同じスライディングゲート1について、開度を1/2とした状態を示している。スライド板4の位置をさらに図の左側に移動することにより、スライディングゲート1を全閉とすることができる。
図2、
図3に示す例でも同様である。
図2はスライディングゲート1が全開であり、上固定板3の下流開孔8dとスライド板4の上流開孔8u、スライド板4の下流開孔8dと下固定板5の上流開孔8uが、それぞれ一致するように、スライド板4の摺動位置が定まっている。
図3は
図2と同じスライディングゲート1について、スライディングゲート1の開度が1/2の状態を示している。そこで、スライディングゲート1を閉とするときにスライド板4を摺動する方向を、以下「摺動閉方向33」と呼ぶ。
【0022】
図2に示す本発明の例では、流路軸線方向10が摺動面垂直下流方向32に対して流路軸線傾斜角度αで傾いているため、流路軸線方向10を摺動面に投影した方向を摺動面流路軸線方向31としたとき、摺動面流路軸線方向31を定めることができる。
図2(A)~(C)、(F)それぞれ、摺動面流路軸線方向31を細線矢印で示している。なお、
図2(A)~(C)では、摺動面流路軸線方向31は流路軸線方向10と重なっている。また、
図10に示す例では、流路軸線方向10が摺動面垂直下流方向32を向いているため、
図10(A)~(C)には摺動面流路軸線方向31が現れない。
【0023】
次に、摺動面流路軸線方向31と摺動閉方向33との間の角度関係について定義する。摺動閉方向33に対し、摺動面流路軸線方向31が、摺動面垂直下流方向32に見て時計回りになす角度を流路軸線回転角度θと呼ぶ。流路軸線回転角度θは、±180°の範囲の角度として定義する。即ち、摺動面流路軸線方向31が、摺動面垂直下流方向32に見て時計回りに+180°を超える角度(θ’)となったときには、「θ=θ’-360°」として、角度θをマイナスの値として定める。角度θの下添え字として、最も上流側のプレートのθをθ
1、その一つ下流側のプレートのθをθ
2、さらに一つ下流側のプレートのθをθ
3と順に番号を付ける。代表してθ
Nと表現するとき、Nは1以上の整数でスライディングゲート1のプレート枚数までの数値を意味する。
図2に示す例では、上固定板3は角度θ
1=-45°、スライド板4は角度θ
2=+90°、下固定板5は角度θ
3=-1
35°となる。
【0024】
さらに、スライディングゲート1において、相互に接する2枚のプレート間の流路軸線回転角度の関係について以下のように定義する。即ち、Δθ
N=θ
N-θ
N+1としてΔθ
Nを定める。Δθ
Nは、上記θ
Nと同様、±180度の範囲の角度として定義する。即ち、Δθ
Nが+180°を超える角度(Δθ
N’)となったときには、「Δθ
N=Δθ
N’-360°」として、Δθ
Nをマイナスの値として定める。また、Δθ
Nが-180°未満の角度(Δθ
N’)となったときには、「Δθ
N=Δθ
N’+360°」として、Δθ
Nをプラスの値として定める。これにより、Δθ
Nは±180°の範囲内の数字となる。ここで、Δθ
Nが0°超+180°未満の場合には、上流から下流に向けて、流路軸線回転角度θ
Nが反時計回りに変化していることを示す。逆に、Δθ
Nが-180°超0°未満の場合には、上流から下流に向けて、流路軸線回転角度θ
Nが時計回りに変化していることを示す。
図2に示す例では、Δθ
1=θ
1-θ
2=-135°、Δθ
2’=θ
2-θ
3=225°であるからΔθ
2=Δθ
2’-360°=-135°となる。Δθ
1、Δθ
2いずれも-180~0°の範囲内にあるので、流路軸線回転角度が時計回りに変化していることを示す。
【0025】
以上のような準備のもと、本発明のスライディングゲート1が具備すべき条件とその理由について説明する。
【0026】
従来のスライディングゲート1においては、
図10、
図11に示すように、流路軸線方向10が摺動面に垂直であり、即ち流路軸線傾斜角度αが0°であり、傾きを有していなかった。それに対して本発明は、流路軸線方向10が摺動面垂直下流方向32に対して傾いており、流路軸線傾斜角度αが0°ではないことを第1の特徴とする。流路軸線が摺動面垂直下流方向32に対して傾いていることから、プレート内を流れる溶融金属は、摺動面垂直下流方向32の速度成分のみならず、摺動面垂直下流方向32に対して直角の速度成分(水平方向の速度成分)を有することとなる。本発明においては、流路軸線傾斜角度αが5°以上75°以下である。角度αを5°以上とすることにより、溶融金属は十分な水平方向の速度成分を持つこととなり、下記に示すように下部ノズル内における旋回流の形成を可能とする。角度αは、好ましくは15°以上、より好ましくは25°以上である。一方、角度αが大きすぎると耐火物の強度確保や損耗抑制の観点から好ましくないので、角度αを75°以下とする。角度αは、好ましくは65°以下、より好ましくは55°以下である。
【0027】
連続鋳造中における取鍋底部のスライディングゲート1の開口状況について、一定鋳造速度で鋳造を行っている定常状態においては、取鍋内の溶鋼ヘッドが低下した注入の末期を除き、スライディングゲートの開口を全開(
図10参照)とするのではなく、開度を絞った状態(
図11参照)で鋳造が行えるよう、スライディングゲート流路孔断面積の選択が行われている。
図11はスライディングゲート1の開度が1/2である。この場合、スライディングゲート1の開口面積は、真円である流路孔の断面積の0.31倍と計算される。
【0028】
図3は、
図2に示す形状の本発明のスライディングゲート1(開度全開)の開度を変更し、開度を1/2としたときのスライディングゲートを示している。
図3(A)は
図3(D)のA-A矢視図であり、上固定板3の下流開孔8dが一部実線、一部破線で描かれており、スライド板4については上流開孔8u(4)のみが同じく一部実線、一部破線で描かれている。
図3(B)は
図3(D)のB-B矢視図であり、スライド板4の上流開孔8uが全部実線、下流開孔8dが一部実線、一部破線で描かれており、下固定板5の上流開孔8uが同じく一部実線、一部破線で、下流開孔8dが全部破線で描かれている。
図3(C)は
図3(D)のC-C矢視図であり、下固定板5の上流開孔8uが全部実線、下流開孔8dが一部実線、一部破線で描かれている。
【0029】
図3に示すように開度を1/2としたときの、スライディングゲートの流路孔内及び下部ノズル内の溶融金属の流れについて、
図4に基づいて説明を行う。
図4において、
図4(A)は
図4(D)のA-A矢視図であり、上固定板3の下流開孔8dが一部実線、一部破線で描かれており、スライド板4については上流開孔8uのみが同じく一部実線、一部破線で描かれている。
図4(B)は
図4(D)のB-B矢視図であり、上固定板3の下流開孔8d(3)の位置が2点鎖線で示され、スライド板4の上流開孔8uが全部実線、下流開孔8dが一部実線、一部破線で描かれており、下固定板5の上流開孔8uが同じく一部実線、一部破線で、下流開孔8dが全部破線で描かれている。
図4(C)は
図4(D)のC-C矢視図であり、スライド板4の下流開孔8d(4)の位置が2点鎖線で示され、下固定板5の上流開孔8uが全部実線、下流開孔8dが一部実線、一部破線で描かれている。また、溶融金属の流線18が、
図4(A)~(C)には太線矢印で、(D)(E)には太破線矢印で示されている。
【0030】
図2、
図3のスライディングゲート1については、前述のように、隣接する流路軸線回転角度θ
Nの差Δθ
Nは、Δθ
1=Δθ
2=-135°であって、いずれもΔθ
Nが-180°超0°未満であるから、上流から下流に向けて、流路軸線回転角度θ
Nが時計回りに変化していることを示す。上固定板3の流路孔6内を流れる溶融金属流は、
図4(A)に示すように、上固定板3の流路軸線方向10に沿って流れる。上固定板3とスライド板4の接触面では、上固定板3の下流開孔8d(
図4(B)の2点鎖線)とスライド板4の上流開孔8u(
図4(B)の実線)との重なり部(開口部)の小断面内を下流側に流下する。スライド板4の流路孔6内においては、上固定板3の下流開孔8d(
図4(B)の2点鎖線)とスライド板4の上流開孔8u(
図4(B)の実線)との重なり部(開口部)の小断面から流出した溶融金属流は、
図4(B)に流線18を示すように、スライド板4の流路孔6の内側壁面(円筒面)に沿った旋回流を形成し、下流側の、スライド板4の下流開孔8d(
図4(C)の2点鎖線)と下固定板5の上流開孔8u(
図4(C)の実線)との重なり部(開口部)の小断面から、さらに下固定板5の流路孔6内に流出する。下固定板5の流路孔6内では、
図4(C)に流線18を示すように、下固定板5の流路孔6の内側壁面(円筒面)に沿った旋回流を形成し、そのまま、下流側の下部ノズル11内に流出し、
図4(D)(E)に示すように、流路内で流線18は旋回流を維持したまま、下部ノズル11内を下流側に移動していく。
【0031】
スライディングゲート1の流路孔6内に旋回流を形成し、スライディングゲート下流側の下部ノズル内においても旋回流を形成するための、隣接するプレートの流路軸線回転角度θN相互間の差である角度ΔθNの条件について説明する。前述のように、ΔθNは±180°の範囲内の角度として定義されている。ここにおいて、ΔθN=-10°超かつ+10°未満の場合には、流路軸線回転角度θNとθN+1の差異が小さすぎ、旋回流を形成できない。一方、ΔθNが+170°以上又は-170°以下の場合、ΔθNの絶対値が大きすぎ、かえって旋回流の形成を阻害することとなる。スライディングゲート1が2枚のプレートを有する場合、Δθ1のみが定義され、当該Δθ1が上記条件を満たしていれば良い。スライディングゲート1が3枚以上のプレートを有する場合、Δθ1に加え、Δθ2、さらにはそれ以上のΔθNが定義される。そして、ΔθNがいずれも10°以上かつ170°未満、又は角度ΔθNがいずれも-170°超かつ-10°以下であることが必要である。これにより、プレートの1枚目と2枚目の流路軸線方向10が時計回りに変化するときには3枚目以降についても同じように時計回りに変化し、プレートの1枚目と2枚目の流路軸線方向10が反時計回りに変化するときには3枚目以降についても同じように反時計回りに変化するので、スライディングゲート内で旋回流を有効に形成することが可能となる。ΔθNのより好ましい範囲は、30°以上、165°未満、又は-165°超、-30°以下である。
【0032】
スライディングゲート1を形成するプレートの数は、2枚もしくは3枚であると好ましい。
図2~
図4に示す例は、上述のとおり、プレートの数が3枚の場合である。
図5、
図6は、プレートの数が2枚であり、上流側から1枚目が上固定板3、2枚目がスライド板4を構成している。
図5は開度が全開、
図6は開度が1/2の場合である。α=51.95°、θ
1=-26.57°、θ
2=+26.57°であり、Δθ
1=-53.14°であって、時計回りの旋回流を形成することができる。スライディングゲート1を形成するプレートの数が2枚もしくは3枚であると好ましい理由は、スライディングゲートの絞り機構発現には最低2枚のプレートが必要であり、4枚以上のプレートは流量調整に不要で、プレート数の増加に伴いコストが上昇するからである。
【0033】
プレートに形成する流路孔6については、
図7に示すような形状の流路孔6とすることもできる。
図7は上固定板3の一例を示す。プレートの上流面7uから厚みの途中までは、流路孔6の形状は、断面真円の円筒形状であって、円筒の軸線が摺動面垂直下流方向32に向いている。プレートの下流面7dから厚みの途中までは、流路孔6の形状は、断面真円の円筒形状であって、円筒の軸線が摺動面垂直下流方向32から傾斜して形成されている。プレートの厚み途中において、上流面7uからの流路孔6と下流面7dからの流路孔6が段差なく接続されている。このような形状の流路孔6を有するプレートにおいても、
図7(D)に示すように、上流側表面開孔図形の重心(上流開孔重心9u)から下流側表面開孔図形の重心(下流開孔重心9d)に向く方向を流路軸線方向10として定義することができる。
【0034】
なお、スライディングゲート1を構成するプレートの厚みは同一でもよいが、スライド板4が最も薄いなどプレート毎に厚みが異なっていても構わない。また、スライディングゲート各プレートの入口および出口の流路孔形状は同じ大きさの円でもよいが、これが楕円もしくは長円であっても、本発明の規定を満たす限りにおいては、旋回流を得ることが可能である。あるいはその開孔面積が各プレートの入口および出口で異なっていても構わない。
【0035】
角度αについては、全てのプレートで同一であっても異なっていても構わない。
【0036】
《水モデル実験》
取鍋底部のスライディングゲート1から流出する溶融金属流の挙動について、水モデル実験によってシミュレーションを行った。溶鋼の試験連続鋳造装置で用いる取鍋21とその底部のスライディングゲート1について、1/1水モデル実験機を用意した。スライディングゲート1には、旋回運動を付与する本発明のスライディングゲート(以下「本発明ゲート」という。)と、従来通常に用いられていたスライディングゲート(以下「通常ゲート」という。)を用いた。本発明ゲートは、
図2~4に示すような、3枚のプレート2を有するスライディングゲート1とその下方に下部ノズル11を有する形状であり、α
1=α
3=35.531°、α
2=32°であり、θ
1=36.101°、θ
2=90°、θ
3=-143.899°(36.101-180)であり、下部ノズル11の内孔に流下する溶鋼流に時計回りの旋回流を形成する。通常ゲートは、
図10、11に示す形状を有し、α
1=α
2=α
3=0°であり、θ
1、θ
2、θ
3は値がない。プレート2の流路孔の直径はいずれも40mmφ、プレート2の厚さは30mmである。スライディングゲート1の開度について、開度0mmが全閉、開度40mmが全開となる。
取鍋21内の水面と下部ノズル下端との高さ差(ヘッド)を1.5m一定に保持した。スライディングゲート1の開度については、連続鋳造中における取鍋のスライディングゲートの開度(取鍋注入末期を除いて開度を絞って流量を調整する。)を想定して、15mmと25mmの2種類とし、下部ノズル11の下端から流下する吐出流の挙動を評価した。
【0037】
通常ゲートの吐出流の挙動を、
図12(B)に模式的に示す。吐出流は不規則に拡散し、ある瞬間には図中の吐出流19のように流下し、別の瞬間には吐出流19’のように流下した。全時間を総合した吐出流広がり角φについてみると、スライディングゲートの開度が小さいほど吐出流広がり角φは大きくなり、
図14の黒丸で示す結果が得られた。
本発明ゲートの吐出流の挙動を、
図12(A)に模式的に示す。吐出流19は時間的に不規則に変動することはなく、比較的小さな吐出流広がり角φで広がり、スライディングゲートの開度が小さいほど吐出流広がり角φは小さくなり、
図14の黒三角で示す結果が得られた。
【0038】
図14から明らかなように、連続鋳造中における取鍋21のスライディングゲート1で用いられる開度範囲においては、通常ゲートに比較し、本発明ゲートの方が吐出流広がり角φが小さくなることが判明した。
なお、スライディングゲート1の下方に配置する下部ノズル11の形状については、取鍋底部に設けるスライディングノズルの下方に配置する通常の下部ノズル形状を採用すればよい。
【0039】
《連続鋳造で用いる溶融金属の注湯装置》
連続鋳造においては、取鍋内に収容された溶融金属を注湯するための注湯装置として、
図1、
図13に示すように、取鍋21の底部に設けたスライディングゲート1の下方に、取鍋21から流下した溶融金属を収容する中間容器22と、スライディングゲート1から流下する溶融金属流を取り囲むように配置した耐火物製の囲繞管13とを有する。囲繞管13として具体的には注入管14やロングノズル(図示せず)が用いられる。中間容器22はタンディッシュ25と呼ばれる。
図1、
図13にはタンディッシュ壁上端27を図示している。
【0040】
図10、11に示す形状を有する従来のスライディングゲート(通常ゲート)を用いた場合、
図13に示すように、囲繞管13の内周の地金付着部26に地金の付着が見られた。スライディングゲート1として通常ゲートを用いて絞り注入を行ったとき、吐出流広がり角φが大きくなることが原因と考えられる。それに対して、
図2~4に示すような本発明のスライディングゲート(本発明ゲート)を用いて、
図1に示すような配置としたとき(「囲繞管を設けた本発明の溶融金属の注入装置」という。)、通常ゲート使用時と比較し、囲繞管の内周に付着する地金付着量が大幅に低減することが認められた。
【0041】
囲繞管13を設けた本発明の溶融金属の注入装置において、囲繞管13の内部空間は、円筒もしくは矩形の水平断面形状を有し、スライディングゲート1の流路孔の内径をDとしたとき、囲繞管13の内径は3×D以上であり、取鍋から流下する溶融金属流が大気から遮断されていると好ましい。
【0042】
囲繞管13として注入管14を用いる場合、
図1に示すように囲繞管蓋15と下部ノズル11との間を大気と遮断し、囲繞管13下端をタンディッシュ内の溶鋼(溶融金属23)中に浸漬することにより、取鍋21から流下する溶融金属流が大気から遮断される。囲繞管13を下部の注入管と上部のシール管の2段構造とし、注入管の上端をタンディッシュ蓋上に載置し、タンディッシュ蓋と取鍋底部との間をシール管によって十分にシールする構造としても良い。タンディッシュとタンディッシュ蓋によってタンディッシュ内の空間が十分に大気から遮断される構造であれば、注入管の下端がタンディッシュ内溶鋼中に浸漬していなくても、取鍋から流下する溶融金属流が大気から遮断される。
【0043】
囲繞管としてロングノズルを用いる場合、ロングノズルの上端と下部ノズルとの間を十分にシールし、ロングノズルの下端をタンディッシュ内の溶鋼中に浸漬することにより、取鍋から流下する溶融金属流が大気から遮断される。
【0044】
囲繞管の内部空間は、円筒もしくは矩形の水平断面形状を有するものとすれば、囲繞管を容易に形成することができる。
【0045】
上記のように、スライディングゲート1のプレート2の流路孔6の内径をDとしたとき、囲繞管13の内径は3×D以上であることが望ましい。これよりも小さい内径にした場合、たとえ本発明のスライディングゲートを用いたとしても、囲繞管の内周に落下流が触れ、地金が付着することとなる。
【0046】
囲繞管内周部の入口側から出口側への角度については、垂直とするのではなく、入口側から出口側に行くに従って内周の口径が大きくなり、垂直との角度差が1°以上であることが望ましい。これにより、囲繞管内周に付着した地金が、連々続鋳造での取鍋交換の間に自然冷却されて凝固・収縮する際に剥離して剥がれ落ちていくので、結果として地金付着防止効果をさらに向上することができる。囲繞管の内径や抜き勾配の大きさは、常識的な範囲内で定めればよく、一般的な形状で構わない。
【実施例】
【0047】
試験連続鋳造装置において、本発明を適用した。タンディッシュ容量は0.7トンである。溶融金属の注湯装置として、取鍋21底部には溶融金属の流量を調整するスライディングゲート1を有する。スライディングゲート1の下方に下部ノズル11を配置する。
図1(本発明例)、
図13(比較例)に示すように、囲繞管13として注入管14を用いる。囲繞管13の上端に囲繞管蓋15を有し、囲繞管蓋15の開口と下部ノズル11との間を十分にシールしている。囲繞管13の下端は、タンディッシュ内の溶融金属表面24より下方にあり、囲繞管13は溶融金属23中に浸漬している。スライディングゲート1は溶融金属が通過する流路孔6が形成された3枚のプレート2を有し、中央のプレートは摺動が可能なスライド板4である。
【0048】
スライディングゲート1として、下部ノズル11内で旋回流を形成する本発明のスライディングゲート1(以下「本発明ゲート」という。)と、従来から用いられている通常のスライディングゲート1(以下「通常ゲート」という。)とを準備した。本発明ゲート、通常ゲートのいずれも、プレート2の流路孔径はφ40mm、プレート厚みは30mmである。
プレート2の摺動面30に垂直な下流方向(摺動面垂直下流方向32)と流路軸線方向10とがなす流路軸線傾斜角度αについては、上固定板3のαをα1、スライド板4のαをα2、下固定板5のαをα3と順に番号を付ける。摺動面流路軸線方向31が摺動面垂直下流方向32に見て時計回りになす角度である流路軸線回転角度θについても同様に、上固定板3、スライド板4、下固定板5それぞれのθをθ1、θ2、θ3と順に番号を付ける。
【0049】
本発明ゲートは、
図2~
図4に示す形状を有し、α
1=α
3=35.531°、α
2=32°であり、θ
1=36.101°、θ
2=90°、θ
3=-143.899°(36.101-180)であり、下部ノズル11内孔に流下する溶鋼流に時計回りの旋回流を形成する。通常ゲートは、
図10、11に示す形状を有し、α
1=α
2=α
3=0°であり、θ
1、θ
2、θ
3は値がない。
【0050】
連続鋳造中における、注入管14への地金の付着量を評価するため、「地金付着量」指標を導入した。試験連続鋳造機での連続鋳造を行い、連続鋳造後の注入管14に付着した地金の重さを計量した。単位時間あたりの給湯溶鋼流量はおよそ平均70L/minであり、鋳造時間はおよそ2分(溶鋼量980kg)である。連続鋳造用注湯装置として使用したスライディングゲートごとに、地金付着量について
図15に示す。
図15から明らかなように、通常ゲート使用時と比較し、本発明ゲートを使用したときの地金付着量の低減効果が明らかである。
【符号の説明】
【0051】
1 スライディングゲート
2 プレート
3 上固定板
4 スライド板
5 下固定板
6 流路孔
7u 上流面(上流側表面)
7d 下流面(下流側表面)
8u 上流開孔(上流側表面開孔)
8d 下流開孔(下流側表面開孔)
9u 上流開孔重心(上流側表面開孔図形重心)
9d 下流開孔重心(下流側表面海溝図面重心)
10 流路軸線方向
11 下部ノズル
12 下部ノズル内孔
13 囲繞管
14 注入管
15 囲繞管蓋
18 流線
19 吐出流
21 取鍋
22 中間容器
23 溶融金属
24 溶融金属表面
25 タンディッシュ
26 地金付着部
27 タンディッシュ壁上端
30 摺動面
31 摺動面流路軸線方向
32 摺動面垂直下流方向
33 摺動閉方向
α 流路軸線傾斜角度
θ 流路軸線回転角度