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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】鋼材の溶削方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 7/06 20060101AFI20230405BHJP
   F23D 14/56 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
B23K7/06 B
B23K7/06 M
F23D14/56 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019163780
(22)【出願日】2019-09-09
(65)【公開番号】P2021041422
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】土岐 正弘
(72)【発明者】
【氏名】天田 克己
(72)【発明者】
【氏名】青木 利一
(72)【発明者】
【氏名】藤 健彦
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-057447(JP,A)
【文献】特開平09-076060(JP,A)
【文献】特開2012-016709(JP,A)
【文献】特開2018-089653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 7/06
F23D 14/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材の表面に可燃性ガスと酸素を吹き付けて燃焼させ、前記鋼材の表面に湯溜まり部を形成する予熱工程と、
前記鋼材の表面に溶削用酸素を吹き付けるとともに前記鋼材を搬送し、前記溶削用酸素と鉄との酸化反応熱によって、搬送される前記鋼材の表面を溶削する溶削工程と、
を有し、
前記溶削工程では、前記溶削用酸素が前記鋼材と酸化反応して形成される火点の溶削進行方向前方側に、可燃性ガスと酸素からなる前方シールドガスを噴出する構成とされており、
前記前方シールドガスにおいては、前記可燃性ガスが完全燃焼するために必要な理論酸素量よりも酸素が多くなるように、前記酸素(O)と前記可燃性ガス(G)との流量比O/Gを設定することを特徴とする鋼材の溶削方法。
【請求項2】
前記鋼材の初期温度に応じて、前記前方シールドガスにおける前記酸素(O)と前記可燃性ガス(G)との流量比O/Gを調整する構成とされており、前記鋼材の初期温度が低いときは、前記流量比O/Gを大きくすることを特徴とする請求項1に記載の鋼材の溶削方法。
【請求項3】
前記前方シールドガスを噴出するノズル幅を25mm以上とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鋼材の溶削方法。
【請求項4】
前記前方シールドガスの噴射角度を30°以上60°以下の範囲内とすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の鋼材の溶削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材の表面を溶削する鋼材の溶削方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、連続鋳造によって製造される鋳片等の鋼材の表面には、介在物の巻き込みや表面疵等の表面欠陥が発生することがある。
このような鋼材の表面欠陥を除去する際には、例えば特許文献1-3に開示された溶削装置(スカーファー設備)が用いられる。これらの溶削装置(スカーファー設備)は、鋳片(鋼材)の表面を局所的に加熱して溶融し、表面欠陥を除去するものである。
上述の溶削装置(スカーファー設備)においては、鋼材の表面に対向するようにスカーファーユニットが配設されている。
【0003】
このような構成の溶削装置(スカーファー設備)においては、まず、鋼材の表面に対して可燃性ガスと酸素を吹き付けて可燃性ガスを燃焼させ、この燃焼熱により、鋼材の表面を局所的に溶融して湯溜まり部を形成する(予熱工程)。
次に、鋼材の表面に溶削用酸素を供給するとともに鋼材を搬送し、上述の湯溜まり部を熱源として溶削用酸素と鉄とを酸化反応させ、この酸化反応熱によって、鋼材の表面を溶融し、表面欠陥を除去する(溶削工程)。このとき、鋼材の搬送方向後方側に向けて溶削が進行していくことになる。ここで、溶削用酸素が供給され、鋼材の鉄との酸化反応が生じる領域を火点と称す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平03-070856号公報
【文献】特開平09-168862号公報
【文献】特開平10-272561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近では、溶削の生産性向上、及び、溶削時の歩留まり向上のため、溶削深さを浅く、かつ、均一に溶削することが求められている。
従来、上述の溶削装置(スカーファー設備)によって鋼材の表面を溶削する場合には、溶削用酸素の酸素量(酸素圧力)と鋼材の搬送速度を調整することにより、溶削深さを制御していた。すなわち、溶削深さは、おおよそ酸素の供給律速となるため、溶削深さを浅くする場合には、酸素量を少なくするか、あるいは、鋼材の搬送速度を速くすることになる。
【0006】
ここで、溶削深さを浅くするために、酸素量を少なくしたり、鋼材の搬送速度を速くしたりした場合には、火点への酸素の供給が不安定となり、安定して溶削を行うことができず、幅方向において溶削深さに変動が生じ、溶削後の鋼材の表面に大きな凹凸が形成されることがあった。すなわち、鋼材を溶削する場合には、安定して溶削が可能な溶削深さの下限値(限界溶削深さ)及び搬送速度の上限値(限界搬送速度)が存在しており、溶削深さを浅くすることが困難であった。
【0007】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、鋼材の表面を安定して溶削することができ、溶削深さを浅く、かつ、均一に溶削することが可能な鋼材の溶削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。
従来、上述の溶削工程においては、予熱工程において使用される酸素及び可燃性ガスをシールドガスとして利用し、火点に向けて供給される溶削用酸素の純度を確保している。
ここで、前方シールドガスとして利用される酸素を利用して火点近傍で酸化反応させ、火点の溶削進行方向前方側を加熱することにより、鋼材の搬送速度を増速させても安定して溶削することができ、溶削深さを浅く、かつ、均一に溶削可能であるとの知見を得た。
【0009】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明に係る鋼材の溶削方法は、鋼材の表面に可燃性ガスと酸素を吹き付けて燃焼させ、前記鋼材の表面に湯溜まり部を形成する予熱工程と、前記鋼材の表面に溶削用酸素を吹き付けるとともに前記鋼材を搬送し、前記溶削用酸素と鉄との酸化反応熱によって、搬送される前記鋼材の表面を溶削する溶削工程と、を有し、前記溶削工程では、前記溶削用酸素が前記鋼材と酸化反応して形成される火点の溶削進行方向前方側に、可燃性ガスと酸素からなる前方シールドガスを噴出する構成とされており、前記前方シールドガスにおいては、前記可燃性ガスが完全燃焼するために必要な理論酸素量よりも酸素が多くなるように、前記酸素(O)と前記可燃性ガス(G)との流量比O/Gを設定することを特徴としている。
【0010】
この構成の鋼材の溶削方法によれば、前記溶削工程において、火点の溶削進行方向前方側に噴出される前方シールドガスにおける前記酸素(O)と前記可燃性ガス(G)との流量比O/Gを、前記可燃性ガスが完全燃焼するために必要な理論酸素量よりも酸素が多くなるように、設定しているので、可燃性ガスが燃焼した後の余剰の酸素が火点近傍において鋼材と酸化反応し、この反応熱によって火点の溶削進行方向前方側が効率的に加熱されることになり、酸化反応を促進することができる。
よって、鋼材の搬送速度を向上させても安定して溶削することができ、溶削深さを浅く、かつ、均一に溶削することが可能となる。
なお、本発明において、流量比O/Gは、体積比で表すものとする。
【0011】
ここで、本発明の鋼材の溶削方法においては、前記鋼材の初期温度に応じて、前記前方シールドガスにおける前記酸素(O)と前記可燃性ガス(G)との流量比O/Gを調整する構成とされており、前記鋼材の初期温度が低いときは、前記流量比O/Gを大きくすることが好ましい。
この場合、鋼材の初期温度に応じて前記前方シールドガスにおける前記酸素(O)と前記可燃性ガス(G)との流量比O/Gを調整し、前記鋼材の初期温度が低いときは、前記流量比O/Gを大きくして酸素量を増加させる構成としているので、鋼材の初期温度が低い場合でも、火点の溶削進行方向前方側を反応熱によって十分に加熱することができ、安定して鋼材の溶削を実施することが可能となる。
【0012】
さらに、本発明の鋼材の溶削方法においては、前記前方シールドガスを噴出するノズル幅を25mm以上とすることが好ましい。
この場合、前記前方シールドガスを噴出するノズル幅を25mm以上としているので、火点の溶削進行方向前方側の比較的広い領域を加熱することができ、さらに安定して鋼材の溶削を実施することが可能となる。
【0013】
また、本発明の鋼材の溶削方法においては、前記前方シールドガスの噴射角度を30°以上60°以下の範囲内とすることが好ましい。
この場合、前記前方シールドガスの噴射角度が30°以上60°以下の範囲内とされているので、酸化反応によって生成した酸化物を火点の溶削進行方向前方側から効率良く除去することができ、さらに安定して鋼材の溶削を実施することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
上述のように、本発明によれば、鋼材の表面を安定して溶削することができ、溶削深さを浅く、かつ、均一に溶削することが可能な鋼材の溶削方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態である鋼材の溶削装置の概略説明図である。(a)が予熱工程、(b)が溶削工程の状況を示す。
図2図1の鋼材溶削時の拡大説明図である。。
図3】前方シールドガスのノズルの拡大説明図である。(a)が側面図、(b)が一部正面図である。
図4図2に示す前方シールドガスのノズル形状について、本発明の別の実施形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態である鋼材の溶削方法について、添付した図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
まず、本実施形態である鋼材の溶削方法を実施する鋼材の溶削装置について、図1を参照して説明する。
図1に示す鋼材の溶削装置10は、鋼材1の表面に対向するように配置されたスカーファーユニット20と、鋼材1を搬送する搬送テーブル(図示なし)と、を有している。
このスカーファーユニット20には、酸素と可燃性ガスとを噴出する予熱用ガス噴出部21と、溶削用酸素を噴出する溶削用酸素噴出部26、および、後方シールドガス噴出部34が設けられている。
【0018】
鋼材1は、搬送テーブルの上に載置されており、図1の矢印X方向に搬送されるように構成されている。このため、溶削進行方向は、矢印Y方向(矢印X方向とは反対方向)となる。
ここで、図1(a)及び図1(b)に示すように、溶削用酸素噴出部26から噴出される溶削用酸素の噴出流は、予熱用ガス噴出部21から噴出される酸素及び可燃性ガスの噴出流よりも、溶削進行方向Y後方側に衝突するように配置されている。
【0019】
上述の構成の鋼材の溶削装置10においては、まず、図1(a)に示すように、スカーファーユニット20の予熱用ガス噴出部21から酸素及び可燃性ガスを鋼材1の表面に向けて噴出するとともに、この可燃性ガスを燃焼させる。そして、燃焼する可燃性ガスの熱により、鋼材1の表面の一部を溶融して、湯溜まり部3を形成する(予熱工程)。
なお、鋼材1の表面に形成される湯溜まり部3の搬送方向X(溶削進行方向Y)に沿った長さは、例えば20~30mm程度の範囲とされる。
【0020】
次に、図1(b)に示すように、スカーファーユニット20の溶削用酸素噴出部26から溶削用酸素を鋼材1の表面に向けて噴出するとともに、湯溜まり部3が形成された鋼材1を搬送方向Xに向けて搬送する。
すると、溶削用酸素噴出部26から噴出される溶削用酸素の噴出流が、搬送される鋼材1の湯溜まり部3を通過し、この湯溜まり部3を熱源として溶削用酸素と鉄とを酸化反応させ、この酸化反応熱によって、鋼材1の表面を溶融させ、鋼材1の表面を溶削する(溶削工程)。すなわち、湯溜まり部3の搬送方向X後方側(溶削進行方向Y前方側)が、酸化反応熱によって溶削されることになる。なお、溶削用酸素が供給され、鋼材1の鉄との酸化反応が生じる領域が火点となる。
【0021】
ここで、溶削深さを浅くする際には、火点への酸素供給量を減少させるために、溶削用酸素の圧力を低くしたり、鋼材1の搬送速度を速くしたりすることになる。しかしながら、溶削用酸素の圧力を低くしたり、鋼材1の搬送速度を速くしたりすると、火点への酸素供給が不安定となり、溶削を安定して実施することができなくなり、鋼材1の幅方向で溶削深さが不均一となるおそれがある。
このため、溶削深さを浅くし、かつ、安定して均一に溶削するためには、鋼材1の搬送速度を速くしても、安定して酸素と鉄を反応させることが必要となる。
【0022】
そこで、本実施形態の鋼材の溶削方法においては、溶削工程では、図2に示すように、火点の溶削進行方向Y前方側に、予熱用ガス噴出部21から酸素32及び可燃性ガス33を供給し、前方シールドガスとして利用する。
このとき、可燃性ガス33が完全燃焼するために必要な理論酸素量よりも酸素が多くなるように、酸素32と可燃性ガス33との流量比O/Gを設定する。
【0023】
ここで、本実施形態の鋼材の溶削方法においては、鋼材1の初期温度に応じて、シールドガスにおける酸素32と可燃性ガス33との流量比O/Gを調整する構成とされており、鋼材1の初期温度が低いときは、流量比O/Gを大きくして酸素量を増加させることが好ましい。
【0024】
また、図4に示す別の本実施形態の鋼材の溶削方法においては、前方シールドガスを噴出するノズル幅dを25mm以上とすることが好ましい。
さらに、本実施形態の鋼材の溶削方法においては、前方シールドガスの噴射角度θを30°以上60°以下の範囲内とすることが好ましい。
【0025】
以下に、前方シールドガスの酸素32と可燃性ガス33との流量比O/G、鋼材1の初期温度に応じた流量比O/Gの調整、前方シールドガスを噴出するノズル幅d、前方シールドガスの噴射角度θを、上述のように規定した理由を説明する。
【0026】
(前方シールドガスの酸素32と可燃性ガス33との流量比O/G)
上述のように、溶削を安定して実施するためには、溶削用酸素の圧力を低くしたり、鋼材1の搬送速度を速くしたりしても、安定して酸化反応させることが必要となる。
ここで、前方シールドガスの酸素32と可燃性ガス33との流量比O/Gを、可燃性ガス33が完全燃焼するために必要な理論酸素量よりも酸素が多くなるように設定することにより、可燃性ガス33の燃焼に消費された後に残存する余剰の酸素が火点近傍で酸化反応し、反応熱によって火点の溶削進行方向Y前方側が十分に加熱されることになる。これにより、鋼材1の搬送速度を速くしても、安定して酸化反応させることが可能となる。
【0027】
なお、前方シールドガスにおける酸素量は、上述の理論酸素量の1.1倍以上とすることが好ましく、1.2倍以上とすることが好ましい。
例えば、可燃性ガス33としてLPGを用いた場合には、可燃性ガス33が完全燃焼するために必要な理論酸素量から流量比O/Gは5となる。このため、本実施形態の鋼材の溶削方法においては、前方シールドガスにおける流量比が5を超えるように、好ましくは5.5以上、さらに好ましくは6以上となるように設定することが好ましい。
【0028】
(鋼材1の初期温度に応じた流量比O/Gの調整)
上述のように、本実施形態である鋼材の溶削方法では、酸化反応による反応熱を利用していることから、鋼材1を十分に加熱した状態で溶削用酸素を噴射して酸化反応を促進する必要がある。
このため、鋼材1の初期温度が低い場合には、前方シールドガスの流量比O/Gを大きく設定し、余剰の酸素量を確保することで、火点近傍において酸化反応を促進し、反応熱によって火点の溶削進行方向Y前方側を十分に加熱することが可能となる。
例えば、可燃性ガス33としてLPGを用いた場合には、以下の式で示すように、流量比O/Gを設定することが好ましい。
流量比O/G=10-T/K
ここで、T:鋼材の初期温度(℃)、K:定数(160~240)とする。
【0029】
(前方シールドガスを噴出するノズル幅d)
溶削工程において、前方シールドガスを噴出するノズル幅dを25mm以上とすることにより、反応熱によって火点の溶削進行方向Y前方側の比較的広い領域を加熱することができ、反応熱によって火点の溶削進行方向Y前方側を十分に加熱することが可能となる。
なお、前方シールドガスを噴出するノズル幅dは、25mm以上とすることがさらに好ましく、30mm以上とすることがよりに好ましい。一方、ノズル幅の上限に特に制限はないが、40mm以下とすることが好ましく、35mm以下とすることがさらに好ましい。
【0030】
ここで、前方シールドガスのノズル幅dは、図3あるいは図4に示すように、酸素32と可燃性ガス33が噴出される領域の幅dとなる。
また、本実施形態においては、酸素32の噴出口が溶削用酸素噴出部26側に近接して配置されていることが好ましい。
また、予熱用ガス噴出部21から噴出する酸素32と可燃性ガス33は、別々のノズル孔から噴射する方式の他、事前にノズル内で混合させた後に噴出させる方式でもよい。
【0031】
(前方シールドガスの噴射角度θ)
溶削工程においては、酸化反応を利用しているため、酸化物(ノロ)が生じることになる。そこで、本実施形態においては、火点の溶削進行方向Y前方側に位置する酸化物(ノロ)をシールドガスと溶削用酸素噴流によって除去している。
ここで、前方シールドガスの噴射角度θを30°以上60°以下の範囲内とすることにより、酸化物(ノロ)を効率良く排出することが可能となる。
なお、シールドガスの噴射角度θの下限は、30°以上とすることがさらに好ましく、35°以上とすることがより好前方ましい。一方、前方シールドガスの噴射角度θの上限は、60°以下とすることがさらに好ましく、45°以下とすることがより好ましい。
【0032】
以上のような構成とされた本実施形態である鋼材の溶削方法によれば、溶削工程において、火点の溶削進行方向Y前方側に噴出される前方シールドガスにおける酸素32と可燃性ガス33との流量比O/Gを、可燃性ガス33が完全燃焼するために必要な理論酸素量よりも酸素32が多くなるように、設定しているので、余剰の酸素が火点近傍において鋼材1と酸化反応し、この反応熱によって火点の溶削進行方向Y前方側を効率的に加熱することができ、酸素と鋼材1との酸化反応を促進することができる。
よって、鋼材1の搬送速度を向上させても安定して溶削することができ、溶削深さを浅く、かつ、均一に溶削することが可能となる。
【0033】
また、本実施形態において、鋼材1の初期温度に応じて前方シールドガスにおける酸素と可燃性ガスとの流量比O/Gを調整し、鋼材1の初期温度が低いときは、流量比O/Gを大きくして酸素量を増加させる構成とした場合には、鋼材1の初期温度が低い場合でも、火点の溶削進行方向Y前方側を反応熱によって十分に加熱することが可能となる。よって、酸素と鋼材1との酸化反応を促進することができ、安定して鋼材1の溶削を実施することが可能となる。
【0034】
さらに、本実施形態において、前方シールドガスを噴出するノズル幅を25mm以上とした場合には、火点の溶削進行方向Y前方側の比較的広い領域を加熱することができ、さらに安定して鋼材1の溶削を実施することが可能となる。
【0035】
また、本実施形態において、前方シールドガスの噴射角度θを30°以上60°以下の範囲内とした場合には、酸化反応によって生成した酸化物(ノロ)を火点の溶削進行方向Y前方側から効率良く除去することができ、さらに安定して鋼材1の溶削を実施することが可能となる。
【0036】
さらに、本実施形態において、前方シールドガスの酸素32の噴出口が溶削用酸素噴出部26側に近接して配置されている場合には、余剰の酸素が鉄の酸化反応することをさらに促進することが可能となり、火点の溶削進行方向Y前方側をさらに効率良く加熱することが可能となる。
【0037】
以上、本発明の実施形態である本実施形態である鋼材の溶削装置、及び、鋼材の溶削方法について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、図1に示す構成の鋼材の溶削装置を用いるものとして説明したが、これに限定されることはなく、可燃性ガス及び酸素を噴出する予熱用ガス噴出部と、溶削用酸素を噴出する溶削用酸素噴出部と、を有していれば、その他の構成の鋼材の溶削装置を用いてもよい。
【実施例
【0038】
以下に、本発明の効果を確認すべく実施した実験結果について説明する。
【0039】
本実施形態で説明した鋼材の溶削装置において、表1に示すように、鋼材の初期温度T(℃)、前方シールドガスの噴射角度θ(°)、前方シールドガスのノズル幅d(mm)、前方シールドガスの酸素(O)と可燃性ガス(G)の流量比O/Gを設定した。なお、可燃性ガスとしてプロパンガスを用いており、理論酸素量における流量比O/Gは5となる。
そして、目標溶削深さを変更し、溶削状況を確認した。安定して均一に溶削できた場合を「〇」、幅方向で不均一となった場合を「×」と評価した。なお、溶削用酸素は圧力0.3MPaとした。
ここで、表1においては、鋼材の初期温度毎に評価する。すなわち、比較例1と本発明例1-1,1-2を比較し、比較例2と本発明例2-1~2-6を比較し、本発明例3-1~3-3を比較する。
【0040】
【表1】
【0041】
初期温度が30℃の鋼材を、前方シールドガスの酸素(O)と可燃性ガス(G)の流量比O/Gを理論酸素量である5とし、前方シールドガスのノズル幅dを17mm、前方シールドガスの噴射角度θを35°として溶削を実施した比較例1においては、目標溶削深さが2.0mmまでは安定して溶削することが可能であったが、1.8mmでは溶削状況が「×」となった。
【0042】
これに対して、初期温度が30℃の鋼材を、前方シールドガスの酸素(O)と可燃性ガス(G)の流量比O/Gを7とし、前方シールドガスのノズル幅dを17mm、前方シールドガスの噴射角度θを35°として溶削を実施した本発明例1-1においては、目標溶削深さが1.8mmまで安定して溶削することが可能であった。
【0043】
また、初期温度が30℃の鋼材を、前方シールドガスの酸素(O)と可燃性ガス(G)の流量比O/Gを9.8とし、前方シールドガスのノズル幅dを17mm、前方シールドガスの噴射角度θを35°として溶削を実施した本発明例1-2においては、目標溶削深さが1.6mmまで安定して溶削することが可能であった。
【0044】
初期温度が500℃の鋼材を、前方シールドガスの酸素(O)と可燃性ガス(G)の流量比O/Gを理論酸素量である5とし、前方シールドガスのノズル幅dを17mm、前方シールドガスの噴射角度θを35°として溶削を実施した比較例2においては、鋼材の初期温度が高いため、目標溶削深さが1.8mmまでは安定して溶削することが可能であったが、1.6mmでは溶削状況が「×」となった。
【0045】
これに対して、初期温度が500℃の鋼材を、前方シールドガスの酸素(O)と可燃性ガス(G)の流量比O/Gを7とし、前方シールドガスのノズル幅dを17mm、前方シールドガスの噴射角度θを35°として溶削を実施した本発明例2-1においては、目標溶削深さが1.6mmまで安定して溶削することが可能であった。
【0046】
また、初期温度が500℃の鋼材を、前方シールドガスの酸素(O)と可燃性ガス(G)の流量比O/Gを7.5とし、前方シールドガスのノズル幅dを17mm、前方シールドガスの噴射角度θを35°として溶削を実施した本発明例2-2においては、目標溶削深さが1.4mmまで安定して溶削することが可能であった。
【0047】
さらに、初期温度が500℃の鋼材を、前方シールドガスの酸素(O)と可燃性ガス(G)の流量比O/Gを7.5とし、前方シールドガスのノズル幅dを30mm、前方シールドガスの噴射角度θを35°として溶削を実施した本発明例2-3においては、目標溶削深さが1.2mmまで安定して溶削することが可能であった。
【0048】
初期温度が500℃の鋼材を前方シールドガスの酸素(O)と可燃性ガス(G)の流量比O/Gを7.5とし、前方シールドガスのノズル幅dを17mm、前方シールドガスの噴射角度θを20°として溶削を実施した本発明例2-4においては、目標溶削深さが1.6mmまで安定して溶削することができた。
【0049】
初期温度が500℃の鋼材を、前方シールドガスの酸素(O)と可燃性ガス(G)の流量比O/Gを7.5とし、前方シールドガスのノズル幅dを17mm、前方シールドガスの噴射角度θを70°として溶削を実施した本発明例2-5においては、目標溶削深さが1.6mmまで安定して溶削することができた。
【0050】
初期温度が500℃の鋼材を、前方シールドガスの酸素(O)と可燃性ガス(G)の流量比O/Gを7.5とし、前方シールドガスのノズル幅dを17mm、前方シールドガスの噴射角度θを45°として溶削を実施した本発明例2-6においては、目標溶削深さが1.2mmまで安定して溶削することができた。
【0051】
初期温度が800℃の鋼材を、前方シールドガスの酸素(O)と可燃性ガス(G)の流量比O/Gを6とし、前方シールドガスのノズル幅dを17mm、前方シールドガスの噴射角度θを35°として溶削を実施した本発明例3-1においては、目標溶削深さが1.2mmまで安定して溶削することができた。
【0052】
初期温度が800℃の鋼材を、前方シールドガスの酸素(O)と可燃性ガス(G)の流量比O/Gを6とし、前方シールドガスのノズル幅dを30mm、前方シールドガスの噴射角度θを35°として溶削を実施した本発明例3-2においては、目標溶削深さが1.0mmまで安定して溶削することができた。
【0053】
初期温度が800℃の鋼材を、前方シールドガスの酸素(O)と可燃性ガス(G)の流量比O/Gを6とし、前方シールドガスのノズル幅dを17mm、前方シールドガスの噴射角度θを45°として溶削を実施した本発明例3-3においては、目標溶削深さが1.0mmまで安定して溶削することができた。
【0054】
以上の結果から、本発明例によれば、鋼材の表面を安定して溶削することができ、溶削深さを浅く、かつ、均一に溶削することが可能な鋼材の溶削方法を提供できることが確認された。
【符号の説明】
【0055】
1 鋼材
3 湯溜まり部
10 鋼材の溶削装置
20 スカーファーユニット
21 予熱用ガス噴出部
26 溶削用酸素噴出部
図1
図2
図3
図4