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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】熱間加工システム及び熱間加工方法
(51)【国際特許分類】
   B21J 1/02 20060101AFI20230405BHJP
   B21B 45/00 20060101ALI20230405BHJP
   B21B 45/04 20060101ALI20230405BHJP
   B21J 5/00 20060101ALI20230405BHJP
   B21J 1/06 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
B21J1/02 A
B21B45/00 B
B21B45/04 Z
B21J5/00 A
B21J1/06 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019177538
(22)【出願日】2019-09-27
(65)【公開番号】P2021053656
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100160716
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 力
(72)【発明者】
【氏名】原島 亜弥
(72)【発明者】
【氏名】近藤 泰光
(72)【発明者】
【氏名】日高 康善
(72)【発明者】
【氏名】大川 暁
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-019013(JP,A)
【文献】特開2018-094624(JP,A)
【文献】特開2010-201460(JP,A)
【文献】特開2001-129609(JP,A)
【文献】特開昭54-074229(JP,A)
【文献】特公平02-056085(JP,B2)
【文献】特開2003-306745(JP,A)
【文献】特開2006-224120(JP,A)
【文献】特開平11-221610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 1/02
B21B 45/00
B21B 45/04
B21J 5/00
B21J 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.3~1.5質量%のNi、0.001~0.5質量%のSiを含有する鋼材の表面に、鋼材表面積あたりSi換算で400~1200g/m2の量のSi含有物を配置するSi含有物配置設備と、
前記Si含有物が配置された前記鋼材の表面温度が1170℃以上になるように前記鋼材を加熱する加熱炉と、
加熱された前記鋼材を搬送する搬送設備と、
搬送された前記鋼材をデスケーリングするデスケーリング設備と、
デスケーリングされた前記鋼材を熱間加工する熱間加工設備と、
前記加熱炉と前記デスケーリング設備との間に配置され、前記鋼材を加熱する温度調整設備と、
前記デスケーリング設備に搬送されたときの前記鋼材の表面温度を検出する温度センサと、
前記温度センサによって検出された前記鋼材の表面温度に応じて、前記鋼材の表面温度を1170℃以上になるように前記再加熱装置を制御する制御装置と、
を有することを特徴とする熱間加工システム。
【請求項2】
前記温度調整設備は、前記デスケーリング設備に搬送されたときの温度が1170℃以上になるように、搬送された前記鋼材を再加熱する再加熱装置を含む、請求項1に記載の熱間加工システム。
【請求項3】
前記搬送設備は、前記加熱炉から前記デスケーリング設備に向かって移動する移動装置、前記移動装置の側面から水平方向に延伸する腕部、及び前記腕部の先端に配置され、前記加熱炉から前記デスケーリング設備まで前記鋼材が搬送される間、前記鋼材を保持する保持部を有し、
前記再加熱装置は、前記保持部に保持された前記鋼材を加熱する再加熱部材を有する、請求項2に記載の熱間加工システム。
【請求項4】
0.3~1.5質量%のNi、0.001~0.5質量%のSiを含有する鋼材の表面に、鋼材表面積あたりSi換算で400~1200g/m2の量のSi含有物を配置するSi含有物配置設備と、
前記Si含有物が配置された前記鋼材の表面温度が1170℃以上になるように前記鋼材を加熱する加熱炉と、
加熱された前記鋼材を搬送する搬送設備と、
搬送された前記鋼材をデスケーリングするデスケーリング設備と、
デスケーリングされた前記鋼材を熱間加工する熱間加工設備と、
前記加熱炉と前記デスケーリング設備との間に配置され、前記鋼材が前記デスケーリング設備に搬送されたときの温度が1170℃以上になるように、搬送される前記鋼材を保温する温度調整設備と、
前記デスケーリング設備に搬送されたときの前記鋼材の表面温度を検出する温度センサと、
前記温度センサによって検出された前記鋼材の表面温度が1170℃未満であるときに、スケールが十分に除去されない可能性があることを示す警報信号を出力する制御装置と、
を有することを特徴とする熱間加工システム。
【請求項5】
前記搬送設備は、前記加熱炉から前記デスケーリング設備に向かって移動する移動装置、前記移動装置の側面から水平方向に延伸する腕部、及び前記腕部の先端に配置され、前記加熱炉から前記デスケーリング設備まで前記鋼材が搬送される間、前記鋼材を保持する保持部を有し、
前記保温設備は、前記保持部に保持された前記鋼材を覆うように配置される蓋部材を有する、請求項に記載の熱間加工システム。
【請求項6】
前記保温設備は、前記蓋部材を加熱する蓋部材加熱装置、及び加熱された前記蓋部材を、前記鋼材を覆う位置に移送する蓋部材移送装置を更に有する、請求項に記載の熱間加工システム。
【請求項7】
0.3~1.5質量%のNi、0.001~0.5質量%のSiを含有する鋼材の表面に、鋼材表面積あたりSi換算で400~1200g/m2の量のSi含有物を配置し、
前記Si含有物が配置された前記鋼材の表面温度が1170℃以上になるように前記鋼材を加熱し、
加熱された前記鋼材をデスケーリング設備に搬送し、
前記デスケーリング設備に搬送されたときの前記鋼材の表面温度を検出し、
検出された前記鋼材の表面温度に応じて、搬送された前記鋼材の表面温度を1170℃以上に加熱
表面温度が調整された前記鋼材をデスケーリングし、
デスケーリングされた前記鋼材を熱間加工する、
ことを含むことを特徴とする熱間加工方法。
【請求項8】
0.3~1.5質量%のNi、0.001~0.5質量%のSiを含有する鋼材の表面に、鋼材表面積あたりSi換算で400~1200g/m2の量のSi含有物を配置し、
前記Si含有物が配置された前記鋼材の表面温度が1170℃以上になるように前記鋼材を加熱し、
加熱された前記鋼材を保温しながらデスケーリング設備に搬送し、
前記デスケーリング設備に搬送されたときの前記鋼材の表面温度を検出し、
表面温度が調整された前記鋼材をデスケーリングし、
デスケーリングされた前記鋼材を熱間加工し、
検出された前記鋼材の表面温度が1170℃未満であるときに、スケールが十分に除去されない可能性があることを示す警報信号を出力する、
ことを含むことを特徴とする熱間加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間加工システム及び熱間加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材を加熱するときに生成される鉄酸化物(以下、スケールとも称する)を、高圧水を噴射することにより除去するデスケーリングに関する種々の技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、表面にSi含有物が塗布されたNi含有鋼材を、FeOとFe2SiO4との共晶点である1170℃以上の温度で加熱し、加熱されたNi含有鋼材を高圧水デスケーリングする技術が記載される。特許文献1に記載される技術では、Siとスケールとを反応させて鋼材の表面にFe-Siの液相酸化物を生成して、スケールの粒界及びスケールと鋼材との界面での密着性を弱めることで、デスケーリングが容易になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-019013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の発明者らは、特許文献1に記載される発明を現場に導入するために、種々の試験を行ったときに、Ni含有鋼材に形成されたスケールが十分にデスケーリングされない事態に遭遇した。本発明の発明者らは、Ni含有鋼材に形成されたスケールが十分にデスケーリングされない原因を検討した結果、Ni含有鋼材を加熱する加熱炉からデスケーリング設備まで搬送する搬送工程において鋼材の表面温度が1170℃未満まで低下する現象を見出した。
【0006】
搬送工程における鋼材の表面温度の低下は、種々の原因に起因するものと推定される。例えば加熱炉とデスケーリング設備との間を搬送する搬送時間が長いために、デスケーリング設備に到達したときの鋼材の表面温度が1170℃未満まで低下するおそれがある。また、定期点検等の事由により加熱炉が停止した後に再稼働した直後には、加熱炉による加熱が不安定となり、デスケーリング設備に到達したときの鋼材の表面温度が1170℃未満まで低下するおそれがある。さらに、加熱炉において複数の鋼材を加熱する場合には、加熱の際に鋼材が配置される位置及び鋼材の大きさ等により加熱される温度がばらつき、デスケーリング設備に到達したときの鋼材の表面温度が1170℃未満まで低下するおそれがある。
【0007】
特許文献1に記載される技術において、デスケーリングされる鋼材の表面温度が1170℃未満まで低下すると、スケールに含有されるFe-Si系の酸化物が固相に変化して、スケールの密着性が強くなりデスケーリングが難しくなることが見出された。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するものであり、Niを含有する鋼材を加熱するときに発生するスケールを、より確実にデスケーリングできる熱間加工システム及び熱間加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決する本発明は、以下に示す熱間加工システム及び熱間加工方法を要旨とするものである。
(1)0.3~1.5質量%のNi、0.001~0.5質量%のSiを含有する鋼材の表面に、鋼材表面積あたりSi換算で400~1200g/m2の量のSi含有物を配置するSi含有物配置設備と、
Si含有物が配置された鋼材の表面温度が1170℃以上になるように鋼材を加熱する加熱炉と、
加熱された鋼材を搬送する搬送設備と、
搬送された鋼材をデスケーリングするデスケーリング設備と、
デスケーリングされた鋼材を熱間加工する熱間加工設備と、
加熱炉とデスケーリング設備との間に配置され、デスケーリング設備に搬送されたときの鋼材の表面温度を1170℃以上に調整する温度調整設備と、
を有することを特徴とする熱間加工システム。
(2)温度調整設備は、デスケーリング設備に搬送されたときの温度が1170℃以上になるように、搬送された鋼材を再加熱する再加熱装置を含む、(1)に記載の熱間加工システム。
(3)搬送設備は、加熱炉からデスケーリング設備に向かって移動する移動装置、移動装置の側面から水平方向に延伸する腕部、及び腕部の先端に配置され、加熱炉からデスケーリング設備まで鋼材が搬送される間、鋼材を保持する保持部を有し、
再加熱装置は、保持部に保持された鋼材を加熱する再加熱部材を有する、(2)に記載の熱間加工システム。
(4)デスケーリング設備に搬送されたときの鋼材の表面温度を検出する温度センサと、
温度センサによって検出された鋼材の表面温度に応じて、再加熱装置を制御する制御装置と、
を更に有する、(2)又は(3)に記載の熱間加工システム。
(5)温度調整設備は、鋼材がデスケーリング設備に搬送されたときの温度が1170℃以上になるように、搬送される鋼材を保温する保温設備を含む、(1)に記載の熱間加工システム。
(6)搬送設備は、加熱炉からデスケーリング設備に向かって移動する移動装置、移動装置の側面から水平方向に延伸する腕部、及び腕部の先端に配置され、加熱炉からデスケーリング設備まで鋼材が搬送される間、鋼材を保持する保持部を有し、
保温設備は、保持部に保持された鋼材を覆うように配置される蓋部材を有する、(5)に記載の熱間加工システム。
(7)保温設備は、蓋部材を加熱する蓋部材加熱装置、及び加熱された蓋部材を、鋼材を覆う位置に移送する蓋部材移送装置を更に有する、(6)に記載の熱間加工システム。
(8)0.3~1.5質量%のNi、0.001~0.5質量%のSiを含有する鋼材の表面に、鋼材表面積あたりSi換算で400~1200g/m2の量のSi含有物を配置し、
Si含有物が配置された鋼材の表面温度が1170℃以上になるように鋼材を加熱し、
加熱された鋼材を搬送し、
搬送された鋼材の表面温度を1170℃以上に調整し
表面温度が調整された鋼材をデスケーリングし、
デスケーリングされた鋼材を熱間加工する、
ことを含むことを特徴とする熱間加工方法。
【発明の効果】
【0010】
一実施形態に係る熱間加工システム及び熱間加工方法は、Niを含有する鋼材を加熱するときに発生するスケールを、より確実にデスケーリングできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る熱間鍛造システムの概略図である。
図2図1に示す熱間鍛造システムのブロック図である。
図3図1に示す第1ノズル~第3ノズルの説明のための図であり、(a)は第1ノズル~第3ノズルの噴射角度を示す図であり、(b)は第1ノズル~第3ノズルのねじり角度を示す図であり、(c)は第1ノズルの迎え角を示す図である。
図4図1に示す監視制御装置のブロック図である。
図5図1に示す熱間鍛造システムにより実行される熱間鍛造処理のフローチャートである。
図6】(a)は熱間鍛造処理における鋼材の表面状態を示す図(その1)であり、(b)は熱間鍛造処理における鋼材の表面状態を示す図(その2)であり、(c)は熱間鍛造処理における鋼材の表面状態を示す図(その3)である。
図7】(a)は図5に示すS106の処理に対応する熱間鍛造システムの部分斜視図であり、(b)は図5に示すS108の処理に対応する熱間鍛造システムの部分斜視図であり、(c)は図5に示すS110の処理に対応する熱間鍛造システムの部分斜視図である。
図8】第2実施形態に係る熱間鍛造システムの概略図である。
図9図8に示す熱間鍛造システムのブロック図である。
図10図8に示す監視制御装置のブロック図である。
図11図8に示す熱間鍛造システムにより実行される熱間鍛造処理のフローチャートである。
図12】(a)は図11に示すS205の処理に対応する熱間鍛造システムの部分斜視図であり、(b)は図11に示すS206の処理に対応する熱間鍛造システムの部分斜視図であり、(c)は図11に示すS207の処理に対応する熱間鍛造システムの部分斜視図であり、(d)は図11に示すS209の処理に対応する熱間鍛造システムの部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下図面を参照して、本発明に係る熱間加工システム及び熱間加工方法について説明する。但し、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態に限定されない。
【0013】
(第1実施形態に係る熱間鍛造システムの構成及び機能)
図1は実施形態に係る熱間加工システムの一例である熱間鍛造システムを示す概略図であり、図2図1に示す熱間鍛造システムのブロック図である。図1において破線は電気配線を示す。
【0014】
熱間鍛造システム1は、塗布設備11と、加熱炉12と、搬送設備13と、再加熱装置14と、温度センサ15と、デスケーリング設備16と、熱間鍛造設備17と、監視制御装置20とを有する。熱間鍛造システム1は、Niを含有する鋼材10を熱間鍛造設備16で熱間鍛造するために加熱炉12で加熱する前に、塗布設備11で鋼材10の表面にSi含有物を塗布する。熱間鍛造システム1は、熱間鍛造する前にデスケーリングされる鋼材10の表面温度を、再加熱装置14でFeOとFe2SiO4との共晶点である1170℃以上に再加熱することで、スケールに含まれるFe-Si系酸化物を液相化する。液相化されたFe-Si系酸化物は、スケール内を移動し、スケールと鋼材10の表面に形成される酸化層との界面に到達し、スケールの粒界及びスケールと鋼材との間の密着性を弱めて、デスケーリングを容易にする。
【0015】
鋼材10は、例えば直径が1m以下の円柱状の形状を有し、Ni:0.3~1.5質量%及びSi:0.001~0.5質量%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなるブレーキディスク用の鋼材である。Ni及びSiを含有する材料は、加熱炉12で加熱されることで表面にスケールが生成され易い。なお、鋼材10は円柱状の形状を有するが、実施形態に係る熱間加工システムで熱間加工される鋼材は、ドーナツ状の形状等の他の形状であってもよい。
【0016】
鋼材10のNi含有率が高いほど、デスケーリングは困難となるが、Ni含有率が0.3質量%未満である場合には、熱間加工システム1に寄らなくても、一般的なデスケーリング手法によって、デスケーリング可能である。Ni含有率が0.3質量%以上である場合に、デスケーリングが困難になり、熱間加工システム1を使用する効果が明確に現れる。Ni含有率が1.5質量%を超えると、熱間加工システム1を使用してもデスケーリングが困難である。
【0017】
Siは、強度を確保したり、溶接性を向上させたりする観点から、鋼材に添加される元素であって、求める性能に応じて適宜添加してもよい。ただし、Si含有量を0.001質量%未満にするにはコストの上昇を招くことから、これを下限とする。また、Siは0.5質量%超を含むと、1170℃以上では本発明を用いなくてもデスケーリング性がよい。これは、鋼材が加熱されてスケールを形成する際に、鋼材中に含まれるSi分によって、Fe-Si系の液相酸化物が形成され、デスケーリング性を向上させるからである。そのため、本発明で取り扱う鋼材は、Si含有量の上限を0.5質量%とする。
【0018】
塗布設備11は、Si含有物100を噴射するノズル111を有し、内部に配置された鋼材10の表面にノズル111からSi含有物100を塗布する。Si含有物100は、Siを含んでいる限り特に限定されるものではなく、金属Si、SiC、Si34、及びSiOの何れか、又はその組み合わせを使うことができる。Si含有物100は、安定で取扱いが容易であり、入手も容易であり、且つ安価なシリカ(SiO)であってもよい。
【0019】
Si含有物100を鋼材10の表面に配置する量は、鋼材表面積あたりSi量として400~1200g/mである。ここで、鋼材表面積とは鋼材の表面と裏面と側面の面積の合計である。配置する量が400g/m未満であると、Fe-Si系液相酸化物のスケール全体およびスケール/鋼(内部酸化層)界面への分布が十分でなく、デスケーリング性が向上しないことがある。デスケーリング性を向上される観点からは、Si含有物100を配置する量は多いほど好ましく、配置する量の上限は特に限定されない。ただし、配置する量が1200g/mを超えると、Fe-Si系液相酸化物の余剰分が鋼材から加熱炉内にこぼれ落ちやすくなり、デスケーリング性能の向上に寄与しないだけでなく、こぼれ落ちた液相酸化物が加熱炉内の耐火物を汚損させることがある。そのため、Si含有物100を配置する量は、1200g/mを上限とする。
【0020】
なお、Si含有物100は、必ずしも鋼材10の表面の全面に均一に塗布する必要はなく、Si含有物100が鋼材10の表面の一部に塗布された場合、及びSi含有物100が不均一に散布された場合でも、鋼材10の全面のデスケーリング性を改善できる。具体的には、鋼材表面の上面(おもて面)の一部に配置したSi含有物が、鋼材の側面や下面(裏面)にまで回り込み、鋼材10の全面のデスケーリング性が改善される。
【0021】
加熱炉12は、塗布設備11によってSi含有物100が塗布された鋼材10を、1200℃以上1300℃以下で15分以上10時間以下の時間に亘って加熱し、鋼材の表面温度を1170℃以上にする加熱設備である。加熱炉12は、例えば燃焼ガス雰囲気のロータリー加熱炉である。加熱炉12の構成及び機能は、よく知られているので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0022】
加熱炉12が鋼材10を加熱する温度は、1200℃未満であるとき、熱間鍛造装置17で鋼材10を熱間鍛造できないおそれがあるため、加熱温度の下限は、1200℃とされる。加熱温度の上限は、Fe-Si系酸化物が液相である限り特に限定されるものではないが、1300℃とされた。加熱温度が1300℃を超えるとスケールロスが大きくなり、熱エネルギーの損失にもなるので、好ましくないからである。
【0023】
加熱温度の下限は、鋼材10の表面温度が1170℃であるときに、Fe-Si系の液相酸化物がスケール/鋼(内部酸化層)界面にも浸透する時間に基づいて15分とされた。加熱時間の上限は、15分以上であれば特に制限はないが、必要以上に長い時間に亘って加熱しても、効果は飽和しており、熱エネルギーの損失になるため、10時間が上限とされた。
【0024】
搬送設備13は、移動装置130と、腕部131と、保持部132とを有し、塗布設備11、加熱炉12、デスケーリング設備16及び熱間鍛造設備17との間で鋼材10を搬送する。搬送設備13は、塗布設備11、加熱炉12、デスケーリング設備16及び熱間鍛造設備17との間を単一の装置により鋼材10を搬送してもよく、それぞれの設備の間で別個の装置により鋼材10を搬送してもよい。
【0025】
移動装置130は、車輪及び車輪を駆動するモータ等を有し、監視制御装置20の搬送指示に基づいて塗布設備11、加熱炉12、デスケーリング設備16及び熱間鍛造設備17との間を移動する。移動装置130は、塗布設備11から加熱炉12に向かって移動し、次いで加熱炉12からデスケーリング設備16に向かって移動し、そしてデスケーリング設備16から熱間鍛造設備17に向かって移動する。
【0026】
腕部131は、移動装置130の側面から水平方向に延伸し、先端に保持部132が配置される。保持部132は、円盤状の部材であり、塗布設備11から加熱炉12までの間、加熱炉12からデスケーリング設備16までの間、及びデスケーリング設備16から熱間鍛造設備17までの間、搬送される鋼材10を上面に保持する。
【0027】
再加熱装置14は、電源装置140と、励磁コイル141とを有する。電源装置140は、移動装置130の内部に配置され、インバータ回路を有して商用電源から受電した電力を例えば20kHz~30kHzの高周波電力に変換して励磁コイル141に供給する。励磁コイル141は、鋼材10を再加熱する再加熱部材の一例であり、保持部132の内部に配置され、電源装置140から高周波電力が供給されることに応じて、保持部132の上面に保持される鋼材10にうず電流を誘起させて、鋼材10を誘導加熱する。
【0028】
温度センサ15は、デスケーリング設備16の近傍に配置される温度センサである。温度センサ15は、例えば赤外線放射温度計であり、鋼材の表面温度を非接触で測定して、測定した温度を示す温度情報を監視制御装置20に出力する。温度センサ15は、デスケーリング設備16の近傍に配置されるので、温度センサ15が測定する温度は、デスケーリング設備16が鋼材10をデスケーリングする直前の温度である。
【0029】
デスケーリング設備16は、第1ノズル161と、第2ノズル162と、第3ノズル163とを有し、鋼材10を約1m/sで移動させながらデスケーリングする。デスケーリング設備16は、鋼材10が加熱炉12により加熱されることで鋼材10に生成されたスケールを、鋼材10が加熱炉12から熱間鍛造設備17に搬送される間に、除去するデスケーリングを実行する。
【0030】
図3は、第1ノズル161~第3ノズル163の説明のための図である。図3(a)は第1ノズル161~第3ノズル163の噴射角度を示す図であり、図3(b)は第1ノズル161~第3ノズル163のねじり角度を示す図であり、図3(c)は第1ノズル161の迎え角を示す図である。
【0031】
第1ノズル161~第3ノズル163のそれぞれは、噴射する高圧水164a、164b及び164cが例えば20度から30度程度である所定の噴射角度θiで扇状に広がるフラットスプレーノズルであり、迎え角θaは15度である。第1ノズル161~第3ノズル163のそれぞれは、噴射する高圧水164a、164b及び164cが互いに干渉しないように搬送方向に直交する幅方向から所定のねじり角θtシフトして高圧水164a、164b及び164cを噴射するように配置される。なお、実施形態に係るデスケーリング設備が有するノズルの数は、ノズルが設置される高さHn、ノズルの噴射角度θi及びデスケーリングされる鋼材10の幅Wに応じて適宜設定することができる。
【0032】
高圧水164a、164b及び164cの水圧は、例えば10MPaであるが、1MPa以上100MPa以下であることが好ましく、5MPa以上20MPa以下であることが更に好ましい。また、高圧水164a、164b及び164cの単位幅辺りの1秒当たりの水量は、10kg/m以上20kg/m以下であることが好ましい。高圧水164a、164b及び164cの単位幅辺りの1秒当たりの水量が10kg/m未満である場合、スケールを十分にデスケーリングできない可能性がある。また、高圧水164a、164b及び164cの単位幅辺りの1秒当たりの水量が20kg/mより多い場合、コストが増加するため好ましくない。
【0033】
熱間鍛造設備17は、熱間加工設備の一例であり、鋼材10が搬送設備13によって搬送された鋼材10を熱間鍛造して、鋼材10を所望の形状に変形する。例えば、熱間鍛造設備17は、円柱状の鋼材10を熱間鍛造してブレーキディスク用の鋼材を鍛造する。
【0034】
監視制御装置20は、例えば監視制御室に配置され、熱間鍛造システム1を監視制御するオペレータにより操作され、熱間鍛造システム1の全体を監視制御する。監視制御装置20は、塗布設備11、加熱炉12、搬送設備13、再加熱装置14、温度センサ15、デスケーリング設備16及び熱間鍛造設備17にLAN18を介して通信可能に接続される。
【0035】
図4は、監視制御装置20のブロック図である。
【0036】
監視制御装置20は、熱間鍛造システム1の全体を監視制御する監視制御装置であり、例えば監視制御室に配置され、熱間鍛造システム1を監視制御するオペレータにより操作される。監視制御装置20は、通信部21と、記憶部22と、入力部23と、出力部24と、処理部30とを有する。通信部21、記憶部22、入力部23、出力部24及び処理部30は、バス25を介して互いに接続される。
【0037】
通信部21は、イーサネット(登録商標)などの有線の通信インターフェース回路を有する。通信部21は、塗布設備11、加熱炉12、搬送設備13、再加熱装置14、温度センサ15、デスケーリング設備16及び熱間鍛造設備17等と通信を行う。
【0038】
通信部21は、鋼材10の表面温度を示す温度情報を温度センサ15から受信する。また、通信部21は、塗布指示を塗布設備11に送信し、加熱指示を加熱炉12に送信し、搬送指示を搬送設備13に送信する。通信部21は、再加熱指示を再加熱装置14に送信し、デスケーリング指示をデスケーリング設備16に送信し、鍛造指示を鍛造設備17に送信する。
【0039】
記憶部22は、例えば、半導体記憶装置、磁気テープ装置、磁気ディスク装置、又は光ディスク装置のうちの少なくとも一つを備える。記憶部22は、処理部30での処理に用いられるオペレーティングシステムプログラム、ドライバプログラム、アプリケーションプログラム、データ等を記憶する。例えば、記憶部22は、アプリケーションプログラムとして、鋼材10の熱間鍛造処理を処理部30に実行させるための熱間鍛造プログラム等を記憶する。熱間鍛造プログラムは、例えばCD-ROM、DVD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な可搬型記録媒体から、公知のセットアッププログラム等を用いて記憶部22にインストールされてもよい。また、記憶部22は、熱間鍛造処理で使用される種々のデータを記憶する。さらに、記憶部22は、所定の処理に係る一時的なデータを一時的に記憶してもよい。
【0040】
例えば、記憶部22は、温度センサ15が検出した温度と、再加熱装置14が鋼材10を再加熱して鋼材10の表面温度を1170℃以上とする再加熱時間との関係を示す換算テーブル220を記憶する。換算テーブル220では、1170℃未満の温度は、鋼材10を再加熱することで鋼材10の表面温度が1170℃以上になる再加熱時間と関連付けて記憶される。また、1170℃以上の温度は、再加熱しないことを示す再加熱時間「0」と関連付けて記憶される。
【0041】
入力部23は、データの入力が可能であればどのようなデバイスでもよく、例えば、タッチパネル、キーボード等である。作業者は、入力部23を用いて、文字、数字、記号等を入力することができる。入力部23は、オペレータにより操作されると、その操作に対応する信号を生成する。そして、生成された信号は、オペレータの指示として、処理部30に供給される。
【0042】
出力部24は、映像や画像等の表示が可能であればどのようなデバイスでもよく、例えば、液晶ディスプレイ又は有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等である。出力部24は、処理部30から供給された映像データに応じた映像や、画像データに応じた画像等を表示する。また、出力部24は、紙などの表示媒体に、映像、画像又は文字等を印刷する出力装置であってもよい。
【0043】
処理部30は、一又は複数個のプロセッサ及びその周辺回路を有する。処理部30は、監視制御装置20の全体的な動作を統括的に制御するものであり、例えば、CPUである。処理部30は、記憶部22に記憶されているプログラム(ドライバプログラム、オペレーティングシステムプログラム、アプリケーションプログラム等)に基づいて処理を実行する。また、処理部30は、複数のプログラム(アプリケーションプログラム等)を並列に実行できる。
【0044】
処理部30は、塗布指示部31と、加熱指示部32と、再加熱指示部33と、デスケーリング指示部34と、熱間鍛造指示部35と、搬送指示部36を有する。これらの各部は、処理部30が備えるプロセッサで実行されるプログラムにより実現される機能モジュールである。あるいは、これらの各部は、ファームウェアとして監視制御装置20に実装されてもよい。
【0045】
(第1実施形態に係る熱間鍛造システムにより実行される熱間鍛造処理)
図5は、熱間鍛造システム1により実行される熱間鍛造処理のフローチャートである。図6(a)は熱間鍛造処理における鋼材10の表面状態を示す図(その1)であり、図6(b)は熱間鍛造処理における鋼材10の表面状態を示す図(その2)であり、図6(c)は熱間鍛造処理における鋼材10の表面状態を示す図(その3)である。図7(a)は、図5に示すS106の処理に対応する熱間鍛造システム1の部分斜視図である。図7(b)は、図5に示すS108の処理に対応する熱間鍛造システム1の部分斜視図である。図7(c)は、図5に示すS110の処理に対応する熱間鍛造システム1の部分斜視図である。熱間鍛造処理は、予め記憶部22に記憶されているプログラムに基づいて、主に処理部30により熱間鍛造システム1の各要素と協働して実行される。
【0046】
まず、搬送指示部36は、鋼材10を塗布設備11に搬送する搬送指示を搬送設備13に出力する(S101)。搬送設備13は、鋼材10を塗布設備11に搬送する搬送指示が入力されることに応じて、保持部132で保持した鋼材10を塗布設備11に搬送する。
【0047】
次いで、塗布指示部31は、鋼材10の表面にSi含有物100を塗布することを示す塗布指示を塗布設備11に出力する(S102)。塗布設備11は、塗布指示が入力されることに応じて、鋼材表面積あたりSi量として400~1200g/mの範囲に含まれる所定量のSi含有物100を鋼材10の表面に塗布する。図6(a)に示すように、塗布設備11がS102の処理を実行することにより、鋼材10の表面にSi含有物100が配置される。
【0048】
次いで、搬送指示部36は、鋼材10を加熱炉12に搬送する搬送指示を搬送設備13に出力する(S103)。搬送設備13は、鋼材10を加熱炉12に搬送する搬送指示が入力されることに応じて、保持部132で保持した鋼材10を加熱炉12に搬送する。
【0049】
次いで、加熱指示部32は、鋼材10を加熱することを示す加熱指示を加熱炉12に出力する(S104)。加熱炉12は、1200℃以上1300℃以下の所定の温度で、15分以上10時間以下の所定の時間に亘って鋼材10を加熱する。
【0050】
図6(b)に示すように、加熱炉12がS104の処理を実行することにより、鋼材10の表面に内部酸化物102を含む内部酸化層101が形成される。内部酸化層101は、酸素が鋼(地金)内に拡散し、鉄の酸化物が析出した層である。
【0051】
内部酸化層101の上方には、内層スケール104及び外層スケール105を含むスケール103が形成される。内層スケール104は主に酸素の内方移動により成長したスケールであり、外層スケール105は主に鉄の外方拡散により成長したスケールである。
【0052】
内層スケール104の組織は、FeO中にNiの濃化した金属相106が分散した構造をしており、鋼に食い込んだ複雑な形状となっている。内層スケール104の組織は、NiがFeより貴であるためFeが選択的に酸化され、Niが取り残されて次第に濃化されることにより形成される。Niを含有する鋼材10に形成されるスケール103は、強固である理由は内部酸化層101及び内層スケール104が形成されることにより、鋼材10との接着性が強固になる。
【0053】
また、加熱炉12がS104の処理を実行して鋼材10の表面温度が1170℃以上になることにより、鋼材10からスケール103内を外側に拡散するFeが、スケール103の表面に新たなスケール103を形成する。スケール103の表面で新たなスケール103が形成されるときに、スケール103の内部にSi含有物100が取り込まれて、スケール103の内部にFe-Si系の液相酸化物を生成させる。スケール103の内部に生成されたFe-Si系の液相酸化物は、スケール103の内部を容易に移動することができ、内部酸化層101とスケール103の界面に浸透する。
【0054】
次いで、搬送指示部36は、鋼材10をデスケーリング設備16の近傍に配置される温度センサ15が鋼材10の表面温度が測定可能な位置まで鋼材10を搬送する搬送指示を搬送設備13に出力する(S105)。搬送設備13は、温度センサ15が鋼材10の表面温度が測定可能な位置まで鋼材10を搬送する搬送指示が入力されることに応じて、保持部132で保持した鋼材10を、温度センサ15が鋼材10の表面温度が測定可能な位置まで鋼材10を搬送する。
【0055】
次いで、再加熱指示部33は、図7(a)に示すように、温度センサ15によって測定された鋼材10の表面温度を温度センサ15から取得する(S106)。次いで、再加熱指示部33は、換算テーブル220を参照して、S106の処理で取得した鋼材10の表面温度に関連付けて記憶される再加熱時間を、再加熱装置14による再加熱時間に決定する(S107)。
【0056】
次いで、再加熱指示部33は、温度センサ15が測定した温度に基づいて決定された再加熱時間に亘って鋼材10を再加熱することを示す再加熱指示を再加熱装置14に出力する(S108)。再加熱装置14は、図7(b)に示すように、再加熱指示に対応する再加熱時間に亘って鋼材10を再加熱する。再加熱装置14が鋼材10を再加熱することにより、鋼材10の表面温度は1170℃以上となり、内部酸化層101とスケール103の界面に浸透したFe-Si系の酸化物は、液相に変化する。
【0057】
次いで、搬送指示部36は、鋼材10をデスケーリング設備16に搬送する搬送指示を搬送設備13に出力する(S109)。搬送設備13は、鋼材10をデスケーリング設備16に搬送する搬送指示が入力されることに応じて、保持部132で保持した鋼材10をデスケーリング設備16に搬送する。
【0058】
次いで、デスケーリング指示部34は、鋼材10の表面をデスケーリングすることを示すデスケーリング指示をデスケーリング設備16に出力する(S110)。デスケーリング設備16は、デスケーリング指示が入力されることに応じて、図7(c)に示すように、鋼材10をデスケーリングする。デスケーリング設備16が鋼材10をデスケーリングするとき、鋼材10の表面温度は1170℃以上に再加熱されているので、スケール103の内部、及び内部酸化物102とスケール103との界面に存在するFe-Si系の酸化物は、液相に変化する。スケール103の内部及び内部酸化物102とスケール103との界面に存在するFe-Si系の酸化物が液相に変化するので、図6(c)に示すように、スケール103は、デスケーリングにより鋼材10の表面から容易に剥離して除去される。
【0059】
次いで、搬送指示部36は、鋼材10を熱間鍛造設備17に搬送する搬送指示を搬送設備13に出力する(S111)。搬送設備13は、鋼材10を熱間鍛造設備17に搬送する搬送指示が入力されることに応じて、保持部132で保持した鋼材10を熱間鍛造設備17に搬送する。
【0060】
次いで、熱間鍛造指示部35は、鋼材10を鍛造することを示す熱間鍛造指示を鍛造設備17に出力する(S112)。熱間鍛造設備17は、鍛造指示が入力されることに応じて、鋼材10を熱間鍛造してブレーキディスク用の鋼材を形成する。
【0061】
そして、搬送指示部36は、鋼材10を熱間鍛造設備17から搬送する搬送指示を搬送設備13に出力する(S113)。搬送設備13は、鋼材10を熱間鍛造設備17から搬送する搬送指示が入力されることに応じて、保持部132で保持した鋼材10を熱間鍛造設備17から所定の貯蔵施設に搬送する。
【0062】
(第1実施形態に係る熱間鍛造システムの作用効果)
熱間鍛造システム1は、表面温度が1170℃以上になるように、デスケーリング前に鋼材を再加熱することで、スケールと鋼材との界面等に存在するFe-Si系酸化物が液相化してスケールと鋼材との間の密着性を弱めて、デスケーリング性が向上する。
【0063】
(第2実施形態に係る熱間鍛造システムの構成及び機能)
図8は実施形態に係る熱間加工システムの他の例である熱間鍛造システムを示す概略図であり、図9図8に示す熱間鍛造システムのブロック図である。図8において破線は電気配線を示す。
【0064】
熱間鍛造システム2は、搬送設備43、保温設備44及び監視制御装置40を搬送設備13、再加熱装置14、及び監視制御装置20の代わりに有することが熱間鍛造システム1と相違する。搬送設備43、保温設備44及び監視制御装置40以外の熱間鍛造システム2の構成要素の構成及び機能は、同一符号が付された熱間鍛造システム1の構成要素の構成及び機能と同一なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0065】
搬送設備43は、移動装置430と、腕部431と、保持部432とを有する。移動装置430腕部431及び保持部432は、再加熱装置14が内蔵されないことが移動装置130と、腕部131及び保持部132、搬送設備13と相違する。移動装置430、腕部431及び保持部432は、再加熱装置14が内蔵されないこと以外は、移動装置130、腕部131及び保持部132と同一の構成及び機能を有するので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0066】
保温設備44は、腕部440と、蓋部材441と、蓋部材加熱装置442と、蓋部材移送装置443とを有する。腕部440は、一端が蓋部材移送装置443に移動可能に保持され、他端に蓋部材441を着脱可能に保持する棒状の部材である。蓋部材441は、搬送設備43の保持部432に保持された鋼材10を覆うように配置可能な蓋状の部材であり、例えばタングステン等の融点が1170℃以上の金属で形成される。蓋部材加熱装置442は、炎を噴射可能なバーナー部を有し、蓋部材移送装置443によって移送された蓋部材441を1170℃以上に加熱する。蓋部材移送装置443は、搬送設備43の保持部432と蓋部材加熱装置442との間で蓋部材441を搬送する。
【0067】
図10は、監視制御装置40のブロック図である。
【0068】
監視制御装置40は、記憶部27及び処理部50を記憶部22及び処理部30の代わりに有することが監視制御装置20と相違する。記憶部27及び処理部50以外の監視制御装置40の構成要素の構成及び機能は、同一符号が付された監視制御装置20の構成要素の構成及び機能と同一なので、ここでは、詳細な説明は省略する。記憶部27は、換算テーブル220を記憶しないことが記憶部22と相違する。換算テーブル220を記憶しないこと以外の記憶部27の構成及び機能は、記憶部22の構成及び機能と同一なので、ここでは、詳細な説明は省略する。
【0069】
処理部50は、保温指示部53を再加熱指示部33の代わりに有することが処理部30と相違する。保温指示部53以外の処理部50の構成要素の構成及び機能は、同一符号が付された処理部30の構成要素の構成及び機能と同一なので、ここでは、詳細な説明は省略する。
【0070】
(第2実施形態に係る熱間鍛造システムにより実行される熱間鍛造処理)
図11は、熱間鍛造システム2により実行される熱間鍛造処理のフローチャートである。図12(a)は、図11に示すS205の処理に対応する熱間鍛造システム2の部分斜視図である。図12(b)は、図11に示すS206の処理に対応する熱間鍛造システム2の部分斜視図である。図12(c)は、図11に示すS207の処理に対応する熱間鍛造システム2の部分斜視図である。図12(d)は、図11に示すS209の処理に対応する熱間鍛造システム2の部分斜視図である。熱間鍛造処理は、予め記憶部22に記憶されているプログラムに基づいて、主に処理部50により熱間鍛造システム2の各要素と協働して実行される。
【0071】
S201~S204の処理は、S101~S104の処理と同様なので、ここでは詳細な説明は省略する。次いで、保温指示部53は、蓋部材441を1170℃以上に加熱することを示す蓋部材加熱指示を保温設備44に出力する(S205)。保温設備44は、蓋部材加熱指示が入力されることに応じて、図12(a)に示すように、蓋部材441を蓋部材加熱装置442によって加熱する。
【0072】
次いで、搬送指示部36は、鋼材10を加熱炉12の出側近傍に搬送する搬送指示を搬送設備13に出力する(S206)。搬送設備13は、鋼材10を加熱炉12の出側近傍に搬送する搬送指示が入力されることに応じて、図12(b)に示すように、鋼材10を加熱炉12から取り出して、加熱炉12の出側近傍に搬送する。
【0073】
次いで、保温指示部53は、蓋部材441を搬送設備43の保持部432に移送することを示す蓋部材移送指示を保温設備44に出力する(S207)。保温設備44は、蓋部材移送指示が入力されることに応じて、図12(c)に示すように、蓋部材441を搬送設備43の保持部432に移送する。
【0074】
次いで、搬送指示部36は、鋼材10をデスケーリング設備16の近傍に配置される温度センサ15が鋼材10の表面温度が測定可能な位置まで鋼材10を搬送する搬送指示を搬送設備13に出力する(S208)。搬送設備13は、温度センサ15が鋼材10の表面温度が測定可能な位置まで鋼材10を搬送する搬送指示が入力されることに応じて、保持部132で保持した鋼材10を、温度センサ15が鋼材10の表面温度が測定可能な位置まで鋼材10を搬送する。
【0075】
次いで、保温指示部53は、蓋部材441を搬送設備43の保持部432から除去することを示す蓋部材除去指示を保温設備44に出力する(S209)。保温設備44は、蓋部材除去指示が入力されることに応じて、図12(d)に示すように、蓋部材441を搬送設備43の保持部432から除去する。
【0076】
次いで、保温指示部53は、温度センサ15によって測定された鋼材10の表面温度を温度センサから取得する(S210)。次いで、保温指示部53は、S210の処理で取得した鋼材10の表面温度が1170℃以上であるか否かを判定する(S211)。保温指示部53によって鋼材10の表面温度が1170℃以上であると判定される(S211-YES)、処理はS213に進む。保温指示部53は、鋼材10の表面温度が1170℃未満であると判定する(S211―NO)と、スケールが十分に除去されない可能性があることを示す警報信号を出力する(S212)。S213~S217の処理は、S109~S113の処理と同様なので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0077】
(第2実施形態に係る熱間鍛造システムの作用効果)
熱間鍛造システム2は、デスケーリングされる鋼材の表面温度が1170℃以上になるように保温することで、スケールと鋼材との界面等に存在するFe-Si系液相酸化物によりスケールと鋼材との間の密着性を弱めて、デスケーリング性が向上する。
【0078】
(実施形態に係る熱間鍛造システムの変形例)
熱間鍛造システム1及び2では、Si含有物100は、塗布設備11によって鋼材10の表面に塗布されるが、実施形態に係る熱間鍛造システムでは、Si含有物100は、他の態様によって鋼材10の表面に配置されてもよい。Si含有物100を鋼材10の表面に配置するSi含有物配置設備は、Si含有物100をシートの形態で貼り付けてもよく、Si含有物100を塊状物及び粉体の形態で載せ置いてよい。
【0079】
また、熱間鍛造システム1では、再加熱装置14は、誘導加熱により鋼材10を再加熱するが、実施形態に係る熱間鍛造システムでは、鋼材10を再加熱する再加熱装置は、バーナー加熱及び赤外線加熱等の他の加熱方法で鋼材10を再加熱してもよい。
【0080】
また、熱間鍛造システム2では、保温装置44は、蓋部材441が鋼材10を覆うことで鋼材10を保温するが、実施形態に係る熱間鍛造システムでは、保温装置は、誘導加熱、トンネル炉及び断熱シート等の他の保温方法で鋼材10を保温してもよい。
【0081】
また、熱間鍛造システム1及び2は、温度センサ15を有するが、実施形態に係る熱間鍛造システムは、温度センサ15を有さなくてもよい。実施形態に係る熱間鍛造システムが温度センサ15を有さないとき、再加熱時間は、鋼材10の表面温度が1170℃以上となる一定時間に設定される。
【0082】
また、熱間鍛造システム1では、再加熱装置14は、温度センサ15が測定した鋼材10の表面温度に応じて再加熱時間を変化させて鋼材10の表面温度が1170℃以上になるように再加熱した。しかしながら、実施形態に係る熱間鍛造システムでは、再加熱時間を変化させずに、温度センサが測定した鋼材10の表面温度に応じて、再加熱に使用される電力を変化させてもよい。
【実施例
【0083】
実施例及び比較例の双方において、表1に示す化学成分を含有し残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼材を、空気比が1.1に設定されたLPGの燃料ガス雰囲気中で1180℃~1300℃の範囲の温度で加熱して熱間鍛造処理を実行した。
【0084】
【表1】
【0085】
実施例では、鋼材は、誘導加熱により再加熱した上で、デスケーリングした後に熱間鍛造された。比較例では、鋼材は、再加熱および保温されることなくデスケーリングした後に熱間鍛造された。鋼材の加熱温度及び加熱時間、並びにデスケーリング時の鋼材の表面温度は、表2に示す。実施例及び比較例では、鋼材は、15MPaの水圧でデスケーリングされた後に、2000MPaのプレス圧力で熱間鍛造された。
【0086】
【表2】
【0087】
実施例及び比較例の評価は、熱間鍛造後の鋼材の表面疵の有無に基づいて判定された。表面疵の有無の判定は、鋼材の表面に品質上問題となる程度の疵が目視により確認された場合、及び品質上問題無い程度の疵が鋼材の断面観察で確認された場合に「×」とし、鋼材の表面に疵のないことが目視および断面観察で確認された場合に「○」とした。
【0088】
実施例1~5では、加熱時の鋼材の表面温度は、1170℃以上1300℃以下の温度であり、加熱時間は15分以上10時間以下であった。また、実施例1~5では、再加熱後の温度は、1170℃以上であった。実施例1~5は、何れもデスケーリングによりスケールが十分に除去され、デスケーリング後の熱間鍛造において、表面に品質上許容できない疵、及び断面観察で確認可能な品質上問題無い程度の疵が鋼材に生じることはなかった。
【0089】
比較例1~6では、加熱時の鋼材の表面温度は1170℃以上1300℃以下の温度であり、加熱時間は15分以上10時間以下であるものの、再加熱及び保温をしなかったので、デスケーリングの鋼材の表面温度は1170℃未満であった。比較例1~6は、何れもデスケーリングしてもスケールが十分に除去されず、デスケーリング後の熱間鍛造で表面品質上問題となる疵を生じた。鋼材を加熱したときに、スケール内に生成したFe-Si系の酸化物がデスケーリング前に液相から固相に変化し、スケールの密着性が高くなり、デスケーリング性が低下したものと推察される。
【符号の説明】
【0090】
1、2 熱間鍛造システム(熱間加工システム)
10 鋼材
11 塗布設備(Si含有物配置設備)
12 加熱炉
13、43 搬送設備
14 再加熱装置
15 温度センサ
16 デスケーリング設備
17 熱間鍛造設備(熱間加工設備)
20 監視制御装置(制御装置)
44 保温装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12