(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】ポリエチレン系樹脂多層発泡シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20230405BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20230405BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B32B5/18
B32B27/18 J
(21)【出願番号】P 2022571067
(86)(22)【出願日】2021-10-01
(86)【国際出願番号】 JP2021036370
(87)【国際公開番号】W WO2022137710
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2020216578
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角田 博俊
(72)【発明者】
【氏名】藤田 幹大
(72)【発明者】
【氏名】勝山 直哉
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-043122(JP,U)
【文献】特開昭54-107984(JP,A)
【文献】実開昭58-101729(JP,U)
【文献】特開2001-347589(JP,A)
【文献】特開昭62-231739(JP,A)
【文献】特開平02-204034(JP,A)
【文献】特開2020-192701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材樹脂としてポリエチレン系樹脂(A)を含むポリエチレン系樹脂発泡層と、
前記ポリエチレン系樹脂発泡層の少なくとも片面側に積層された導電層と、を備え、
前記導電層が、
低密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンからなる群より選択される1種または2種以上のポリエチレン(B)と、エチレンに由来する構造単位及び極性基を有するモノマーに由来する構造単位を備えたエチレン系共重合体(C)との混合樹脂と、
前記混合樹脂中に配合された導電性カーボンと、を含み、
前記導電層中における前記導電性カーボンの配合量が3質量%以上15質量%以下であり、
前記導電層に含まれる前記ポリエチレン(B)の融点Tm
Bと、前記エチレン系共重合体(C)の融点Tm
Cとの差Tm
B-Tm
Cが30℃以上80℃以下である、ポリエチレン系樹脂多層発泡シート。
【請求項2】
前記導電層中における前記ポリエチレン(B)と前記エチレン系共重合体(C)との配合比率が質量比においてポリエチレン(B):エチレン系共重合体(C)=80:20~20:80である、請求項1に記載のポリエチレン系樹脂多層発泡シート。
【請求項3】
前記導電層中における前記ポリエチレン(B)と前記エチレン系共重合体(C)との配合比率が質量比においてポリエチレン(B):エチレン系共重合体(C)=50:50~25:75である、請求項1または2に記載のポリエチレン系樹脂多層発泡シート。
【請求項4】
前記エチレン系共重合体(C)中における極性基を有するモノマーに由来する構造単位の含有量が30質量%以上50質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエチレン系樹脂多層発泡シート。
【請求項5】
前記導電層中には、エチレン-酢酸ビニル共重合体及びエチレン-メタクリル酸メチル共重合体からなる群より選択される1種または2種のエチレン系共重合体(C)が含まれている、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリエチレン系樹脂多層発泡シート。
【請求項6】
前記エチレン系共重合体(C)の温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレイトが20g/10分以上100g/10分以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリエチレン系樹脂多層発泡シート。
【請求項7】
前記導電層の坪量が1g/m
2以上20g/m
2以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリエチレン系樹脂多層発泡シート。
【請求項8】
前記ポリエチレン系樹脂多層発泡シートの見掛け密度が30kg/m
3以上150kg/m
3以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載のポリエチレン系樹脂多層発泡シート。
【請求項9】
前記ポリエチレン系樹脂多層発泡シートの全体厚みが0.05mm以上3.0mm以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載のポリエチレン系樹脂多層発泡シート。
【請求項10】
前記導電性カーボンのジブチルフタレート吸油量が200mL/100g以上600mL/100g以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載のポリエチレン系樹脂多層発泡シート。
【請求項11】
前記ポリエチレン系樹脂多層発泡シートにおける、前記導電層を有する側の表面の表面抵抗率が1×10
3Ω以上1×10
7Ω以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載のポリエチレン系樹脂多層発泡シート。
【請求項12】
ポリエチレン系樹脂発泡層を形成するための発泡層形成用溶融物と、導電層を形成するための導電層形成用溶融物とを共押出することにより、前記ポリエチレン系樹脂発泡層と、前記ポリエチレン系樹脂発泡層の少なくとも片面側に積層された前記導電層とを備えたポリエチレン系樹脂多層発泡シートを作製する、ポリエチレン系樹脂多層発泡シートの製造方法であって、
前記発泡層形成用溶融物が基材樹脂としてのポリエチレン系樹脂(A)及び物理発泡剤を混練してなり、
前記導電層形成用溶融物が、低密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンからなる群より選択される1種または2種以上のポリエチレン(B)と、エチレンに由来する構造単位及び極性基を有するモノマーに由来する構造単位を備えたエチレン系共重合体(C)と、導電性カーボンと、を混練してなり、
前記導電層形成用溶融物中における前記導電性カーボンの配合量が3質量%以上15質量%以下であり、
前記ポリエチレン(B)の融点Tm
Bと、前記エチレン系共重合体(C)の融点Tm
Cとの差Tm
B-Tm
Cが30℃以上80℃以下である、ポリエチレン系樹脂多層発泡シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン系樹脂多層発泡シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン系樹脂を基材樹脂とするポリエチレン系樹脂発泡シートは、柔軟性が高く、衝撃吸収性に優れているため緩衝材や包装材等の用途に用いられている。これらの中でも、例えば電子機器や電子部品等を包装するために使用される緩衝材や包装材には、被包装物に対する保護性に加えて導電性が求められることがある。
【0003】
導電性を有する発泡シートの例として、例えば特許文献1には、導電性カーボンを含むマスターバッチとポリエチレン系樹脂とを混合し、押出発泡することにより得られる、導電性のポリエチレン系樹脂発泡シートが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、熱分解型発泡剤を含有する非導電性のポリエチレン系樹脂と導電性カーボンを含有する導電性熱可塑性樹脂層の少なくとも二層より成る発泡性多層熱可塑性樹脂シートを加熱発泡することにより得られる、導電性のポリエチレン系樹脂多層発泡シートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭61-31440号公報
【文献】特開昭62-231728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の発泡シートは、導電性を付与するために、発泡シート中に比較的多量の導電性カーボンを配合する必要がある。しかし、発泡シートへの導電性カーボンの配合量が多くなると、発泡性が阻害され、緩衝材や包装材として用いるために必要な緩衝性等の特性が損なわれるおそれがある。
【0007】
特許文献2の発泡シートも同様に、表面抵抗率を1×107Ω以下とするために、導電性熱可塑性樹脂層中に比較的多量の導電性カーボンを配合する必要がある。
【0008】
また、特許文献1及び特許文献2の発泡シートは、導電性カーボンが発泡シートから脱落し、発泡シートの周囲を汚染するおそれがあった。特に、発泡シート中の導電性カーボンの配合量が多くなると、発泡シートから導電性カーボンが脱落しやすくなり、発泡シートの周囲が導電性カーボンにより汚染されやすくなるおそれがある。また、発泡シートを包装材として使用した場合に、発泡シートから脱落した導電性カーボンが被包装物に移行し、被包装物が汚染されるおそれがある。
【0009】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、導電性を備えるとともに、発泡シートからの導電性カーボンの脱落を低減することができるポリエチレン系樹脂多層発泡シート及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、基材樹脂としてポリエチレン系樹脂(A)を含むポリエチレン系樹脂発泡層と、
前記ポリエチレン系樹脂発泡層の少なくとも片面側に積層された導電層と、を備え、
前記導電層が、
低密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンからなる群より選択される1種または2種以上のポリエチレン(B)と、エチレンに由来する構造単位及び極性基を有するモノマーに由来する構造単位を備えたエチレン系共重合体(C)との混合樹脂と、
前記混合樹脂中に配合された導電性カーボンと、を含み、
前記導電層中における前記導電性カーボンの配合量が3質量%以上15質量%以下であり、
前記導電層に含まれる前記ポリエチレン(B)の融点TmBと、前記エチレン系共重合体(C)の融点TmCとの差TmB-TmCが30℃以上80℃以下である、ポリエチレン系樹脂多層発泡シートにある。
【0011】
また、本発明の他の態様は、ポリエチレン系樹脂発泡層を形成するための発泡層形成用溶融物と、導電層を形成するための導電層形成用溶融物とを共押出することにより、前記ポリエチレン系樹脂発泡層と、前記ポリエチレン系樹脂発泡層の少なくとも片面側に積層された前記導電層とを備えたポリエチレン系樹脂多層発泡シートを作製する、ポリエチレン系樹脂多層発泡シートの製造方法であって、
前記発泡層形成用溶融物が基材樹脂としてのポリエチレン系樹脂(A)及び物理発泡剤を混練してなり、
前記導電層形成用溶融物が、低密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンからなる群より選択される1種または2種以上のポリエチレン(B)と、エチレンに由来する構造単位及び極性基を有するモノマーに由来する構造単位を備えたエチレン系共重合体(C)と、導電性カーボンと、を混練してなり、
前記導電層形成用溶融物中における前記導電性カーボンの配合量が3質量%以上15質量%以下であり、
前記ポリエチレン(B)の融点TmBと、前記エチレン系共重合体(C)の融点TmCとの差TmB-TmCが30℃以上80℃以下である、ポリエチレン系樹脂多層発泡シートの製造方法にある。
【発明の効果】
【0012】
前記ポリエチレン系樹脂多層発泡シート(以下、適宜「多層発泡シート」という。)は、導電層の組成を前記特定の態様とすることにより、導電性カーボンの配合量が比較的少量であっても、多層発泡シートに導電性を付与することができる。また、前記特定の組成を有する導電層は、導電性カーボンの脱落を抑制することができる。
【0013】
前記の態様の製造方法においては、前記特定の組成を有する発泡層形成用溶融物及び導電層形成用溶融物を共押出することにより、多層発泡シートが得られる。前記製造方法は、導電層形成用溶融物の組成を前記特定の態様とすることにより、導電性カーボンの配合量が比較的少量であっても多層発泡シートに導電性を付与することができる。また、前記製造方法によれば、導電性カーボンの脱落を低減可能な多層発泡シートを得ることができる。
【0014】
以上のように、前記の態様によれば、導電性を備えるとともに、導電性カーボンの脱落を低減することができるポリエチレン系樹脂多層発泡シート及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(ポリエチレン系樹脂多層発泡シート)
前記多層発泡シートは、ポリエチレン系樹脂発泡層と、ポリエチレン系樹脂発泡層の少なくとも片面側に積層された導電層とを含む2層以上の層を有している。多層発泡シートに含まれる各層は、隣り合う層に積層接着されている。多層発泡シートにおける各層は、隣り合う層と共押出により積層接着されていることが好ましい。
【0016】
例えば、前記多層発泡シートは、ポリエチレン系樹脂発泡層と、ポリエチレン系樹脂発泡層の片面に積層された導電層との2層から構成されていてもよい。また、前記多層発泡シートは、ポリエチレン系樹脂発泡層と、ポリエチレン系樹脂発泡層の両面に積層された導電層との3層から構成されていてもよい。さらに、前記多層発泡シートにおけるポリエチレン系樹脂発泡層と導電層との間や多層発泡シートの最表面には、ポリエチレン系樹脂発泡層及び導電層とは異なる組成を有する層が設けられていてもよい。電子機器や電子部品等の被包装物が静電気により損傷することをより確実に抑制する観点からは、導電層がポリエチレン系樹脂発泡層の両面に積層されていることが好ましく、導電層が多層発泡シートの表面に位置することがより好ましい。
【0017】
<全体厚み>
前記多層発泡シートの全体厚みは、0.05mm以上3.0mm以下であることが好ましい。多層発泡シートの全体厚みを0.05mm以上、より好ましくは0.1mm以上、さらに好ましくは0.2mm以上とすることにより、多層発泡シートの緩衝性をより高めることができる。また、多層発泡シートの全体厚みを3.0mm以下、より好ましくは2.0mm以下、さらに好ましくは1.5mm以下、特に好ましくは1.2mm以下とすることにより、多層発泡シートの取り扱い性をより高め、被包装物の梱包をより容易に行うことができる。
【0018】
多層発泡シートの全体厚みの測定方法は以下の通りである。まず、多層発泡シートを押出方向に垂直な面で切断する。この切断面において、切断面の幅方向(つまり、押出方向及び厚み方向の両方に対して直角な方向)の長さを11等分するようにして10か所の測定位置を設定する。顕微鏡を用いてこれらの測定位置を観察するなどの方法により、各測定位置の厚みを測定する。そして、これらの厚みの算術平均値を多層発泡シートの全体厚みとする。
【0019】
<見掛け密度>
前記多層発泡シートの見掛け密度は30kg/m3以上150kg/m3以下であることが好ましい。多層発泡シートの見掛け密度を30kg/m3以上、より好ましくは35kg/m3以上、さらに好ましくは40kg/m3以上とすることにより、緩衝材や包装材として十分な強度を容易に確保することができる。また、多層発泡シートの見掛け密度を150kg/m3以下、より好ましくは120kg/m3以下、さらに好ましくは100kg/m3以下とすることにより、多層発泡シートの軽量性や柔軟性を十分に確保し、多層発泡シートの緩衝性をより高めることができる。
【0020】
多層発泡シートの見掛け密度の測定方法は以下の通りである。まず、多層発泡シートを幅方向に切断し、試験片を採取する。試験片の形状は、例えば、縦方向の寸法が多層発泡シートの全幅と同一であり、横方向の寸法が10cmである長方形とすることができる。この試験片の質量(単位:g)を試験片の面積で除した後単位換算することにより、多層発泡シートの坪量、つまり、多層発泡シート1m2当たりの質量(単位:g/m2)を算出する。多層発泡シートの坪量を前述した方法により得られる多層発泡シートの全体厚みで除し、次いで単位換算することにより、多層発泡シートの見掛け密度(単位:kg/m3)を算出することができる。
【0021】
<表面抵抗率>
前記多層発泡シートにおける導電層を有する側の表面の表面抵抗率は1×103Ω以上1×107Ω以下であることが好ましい。かかる範囲の表面抵抗率を備えた多層発泡シートは、被包装物等に帯電した静電気を容易に除電できるため、電子部品や電子機器等の緩衝材や包装材として好適である。同様の観点から、前記多層発泡シートの表面抵抗率は5×106Ω以下であることがより好ましい。
【0022】
多層発泡シートの表面抵抗率の測定方法は、JIS K6271-1:2015に準拠した測定方法とする。具体的には、まず、多層発泡シートから一辺100mmの正方形状を呈する試験片を採取する。この試験片における導電層を有する側の表面に電極を取り付けた後、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気中で電極間に1Vの電圧を印加する。そして、電圧を印加してから1分経過した時点での表面抵抗率(単位:Ω)を、多層発泡シートの表面抵抗率とする。
【0023】
[ポリエチレン系樹脂発泡層]
ポリエチレン系樹脂発泡層は、ポリエチレン系樹脂(A)を基材樹脂とする発泡体である。
【0024】
<ポリエチレン系樹脂(A)>
本明細書において、ポリエチレン系樹脂とは、エチレンに由来する構造単位を50モル%以上含む樹脂をいう。ポリエチレン系樹脂(A)としては、例えば、高密度ポリエチレン(つまり、HDPE)や低密度ポリエチレン(つまり、LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(つまり、LLDPE)等のポリエチレンや、エチレン-酢酸ビニル共重合体(つまり、EVA)等のエチレンに由来する構造単位を50モル%以上含有するエチレン系共重合体等を使用することができる。
【0025】
なお、上記ポリエチレン系樹脂(A)として例示した低密度ポリエチレンとは、長鎖分岐構造を有し、密度が910kg/m3以上930kg/m3未満のポリエチレンをいい、直鎖状低密度ポリエチレンとは、エチレンと炭素数4~8のα-オレフィンとの共重合体であって、実質的に分子鎖が線状であり、密度が910kg/m3以上930kg/m3未満のポリエチレンをいい、高密度ポリエチレンとは、エチレン単独重合体又はエチレンと炭素数4~8のα-オレフィンとの共重合体であって、密度が930kg/m3以上のポリエチレンをいう。
【0026】
ポリエチレン系樹脂発泡層には、エチレン単独重合体及びエチレン系共重合体からなる群より選択される1種類のポリエチレン系樹脂(A)が含まれていてもよいし、2種以上のポリエチレン系樹脂(A)が含まれていてもよい。ポリエチレン系樹脂(A)中には、エチレンに由来する構造単位が60モル%以上含まれていることが好ましく、70モル%以上含まれていることがより好ましい。
【0027】
前記多層発泡シートの柔軟性、緩衝性及び発泡性をより向上させる観点からは、ポリエチレン系樹脂発泡層中には、ポリエチレン系樹脂(A)として低密度ポリエチレンが50質量%以上含まれていることが好ましく、80質量%以上含まれていることがより好ましく、90質量%以上含まれていることがさらに好ましく、100質量%、つまり、ポリエチレン系樹脂発泡層の基材樹脂が低密度ポリエチレンのみからなることが特に好ましい。
【0028】
ポリエチレン系樹脂(A)の融点TmAは、100℃以上135℃以下であることが好ましい。ポリエチレン系樹脂(A)の融点TmAを前記範囲とすることにより、押出発泡性に優れると共に、緩衝性に優れる発泡層を安定して形成することができる。かかる観点から、ポリエチレン系樹脂(A)の融点TmAは、100℃以上130℃以下であることが好ましく、105℃以上120℃以下であることがより好ましく、108℃以上115℃以下であることがさらに好ましい。
【0029】
ポリエチレン系樹脂(A)の融点TmAは、JIS K7121:2012に規定されたプラスチックの転移温度測定方法により測定することができる。まず、「一定の熱処理を行った後、融解温度を測定する場合」に従い、加熱速度及び冷却速度を10℃/分として試験片の状態調節を行う。その後、加熱速度を10℃/分に設定して熱流束DSC(つまり、示差走査熱量測定)を行い、DSC曲線を取得する。得られたDSC曲線における吸熱ピークの頂点温度を融点とする。なお、DSC曲線に複数の吸熱ピークが現れている場合には、高温側のベースラインを基準として、最も面積の大きな融解ピークの頂点温度を融点とする。
【0030】
ポリエチレン系樹脂(A)のメルトフローレイト(MFR)は、押出発泡性に優れることから、0.5g/10分以上15g/10分以下であることが好ましく、1g/10分以上8g/10分以下であることがより好ましく、1.5g/10分以上5g/10分以下であることがさらに好ましい。なお、本明細書におけるポリエチレン系樹脂のMFRは、JIS K7210-1:2014に基づき、試験温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定される値である。
【0031】
<その他のポリマー>
ポリエチレン系樹脂発泡層中には、前述した作用効果を損なわない範囲で、基材樹脂であるポリエチレン系樹脂(A)以外の他のポリマーが含まれていてもよい。ポリエチレン系樹脂(A)以外の他のポリマーとしては、例えば、ポリスチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂や、エチレンプロピレンゴム、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体等のエラストマー等が挙げられる。ポリエチレン系樹脂発泡層中のポリエチレン系樹脂(A)以外の他のポリマーの含有量は、ポリエチレン系樹脂(A)100質量部に対して20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることがさらに好ましく、0質量部、つまり、ポリエチレン系樹脂発泡層が発泡層を構成するポリマー成分としてポリエチレン系樹脂(A)のみを含むことが特に好ましい。
【0032】
<添加剤>
ポリエチレン系樹脂発泡層中には、気泡調整剤、酸化防止剤、熱安定剤、耐候剤、紫外線吸収剤、難燃剤、充填材、抗菌剤等の添加剤が含まれていてもよい。ポリエチレン系樹脂発泡層中の添加剤の配合量は、例えば、ポリエチレン系樹脂(A)100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることがさらに好ましい。
【0033】
[導電層]
導電層は、ポリエチレン系樹脂発泡層の片面または両面に積層されている。導電層の基材樹脂は、ポリエチレン(B)とエチレン系共重合体(C)との混合樹脂である。導電層は、多層発泡シートの導電性や取り扱い性、外観を向上させる観点から、非発泡状態であることが好ましい。ただし、多層発泡シートの取り扱い性等を損なわない範囲であれば、導電層中にごく微小な気泡が少量含まれていてもよい。
【0034】
<ポリエチレン(B)>
導電層には、低密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンからなる群より選択される1種または2種以上のポリエチレン(B)が含まれている。ポリエチレン(B)として例示した低密度ポリエチレンとは、長鎖分岐構造を有し、密度が910kg/m3以上930kg/m3未満のポリエチレンをいい、直鎖状低密度ポリエチレンとは、エチレンと炭素数4~8のα-オレフィンとの共重合体であって、実質的に分子鎖が線状であり、密度が910kg/m3以上930kg/m3未満のポリエチレンをいう。これらの中でも、ポリエチレン(B)は、低密度ポリエチレンであることが好ましい。ポリエチレン(B)の融点TmBは、100℃以上120℃以下であることが好ましく、102℃以上115℃以下であることがより好ましい。ポリエチレン(B)の融点TmBが前記範囲内であると、多層発泡シートを共押出により製造する場合においても、導電層をポリエチレン系樹脂発泡層に安定して積層接着させることができる。なお、ポリエチレン(B)の融点TmBの測定方法は、前述したポリエチレン系樹脂(A)の融点TmAの測定方法と同様である。
【0035】
ポリエチレン(B)の温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレイトは5g/10分以上80g/10分以下であることが好ましく、10g/10分以上65g/10分以下であることがより好ましく、12g/10分以上50g/10分以下であることがさらに好ましい。ポリエチレン(B)のメルトフローレイトを前記特定の範囲とすることにより、導電層とポリエチレン系樹脂発泡層との接着性をより高めることができる。また、この場合には、多層発泡シートの導電性をより安定して発現させることができる。
【0036】
<エチレン系共重合体(C)>
導電層中のエチレン系共重合体(C)は、少なくとも、エチレンに由来する構造単位と、極性基を有するモノマーに由来する構造単位とを有している。エチレン系共重合体(C)は、例えば、エチレンと極性基を有するモノマーとの共重合体であってもよいし、エチレン、極性基を有するモノマー及びこれらのモノマー以外の他のモノマーの共重合体であってもよい。エチレン系共重合体(C)中に含まれる前記他のモノマーに由来する構造単位の量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%、すなわちエチレン系共重合体(C)がエチレンと極性基を有するモノマーとの共重合体であることが最も好ましい。
【0037】
前記多層発泡シートは、導電層の基材樹脂をポリエチレン(B)とエチレン系共重合体(C)との混合樹脂とすることにより、導電性を備えるとともに、多層発泡シートからの導電性カーボンの脱落を低減することができる。その理由は、現時点では必ずしも明らかではないが、次のように考えられる。
【0038】
一般に、ポリエチレン系樹脂などの熱可塑性樹脂中に導電性カーボンを分散させた場合、隣接する導電性カーボン粒子同士が一定の距離以下で近接して存在することによって、導電性カーボン粒子による導電性ネットワークが形成され、導電性が発現する。
【0039】
前記多層発泡シートにおいては、前記ポリエチレン(B)と前記エチレン系共重合体(C)とが互いに非相溶であるため、導電層中に、主にポリエチレン(B)からなる相と、主にエチレン系共重合体(C)からなる相とが形成される。導電層中にこのようなモルフォロジーが形成されると、導電性カーボンは、ポリエチレン(B)からなる相及びエチレン系共重合体(C)からなる相のうちいずれか一方の相に偏在すると考えられる。そして、導電性カーボンがいずれかの相に偏在することにより、導電性カーボン粒子による導電性ネットワークが形成されやすくなる。その結果、導電性カーボンの配合量が少量であっても導電性が発現しやすいと考えられる。
【0040】
また、導電層において、導電性カーボンがポリエチレン(B)からなる相及びエチレン系共重合体(C)からなる相のいずれか一方の相に偏在すると、導電層の表面に露出する導電性カーボンの量を低減することができる。これにより、多層発泡シートからの導電性カーボンの脱落が抑制されると考えられる。その結果、多層発泡シートから脱落した導電性カーボンが被包装物に移行し、被包装物が汚染されることを抑制することができる。
【0041】
エチレン系共重合体(C)としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(つまり、EVA)やエチレン-メタクリル酸メチル共重合体(つまり、EMMA)、エチレン-アクリル酸メチル共重合体(つまり、EMA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(つまり、EMAA)、エチレン-アクリル酸共重合体(つまり、EAA)、エチレン-メタクリル酸エチル共重合体(つまり、EEMA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(つまり、EEA)、エチレン-アクリル酸ブチル共重合体(つまり、EBA)等が挙げられる。多層発泡シートの導電性をより高め、導電性カーボンの脱落をより低減する観点からは、導電層中には、エチレン-酢酸ビニル共重合体及びエチレン-メタクリル酸メチル共重合体からなる群より選択される1種または2種以上のエチレン系共重合体(C)が含まれていることが好ましく、エチレン-酢酸ビニル共重合体が含まれていることがより好ましい。
【0042】
エチレン系共重合体(C)における極性基を有するモノマーに由来する構造単位の含有量は30質量%以上50質量%以下であることが好ましい。エチレン系共重合体(C)中の極性基を有するモノマーに由来する構造単位の含有量を30質量%以上とすることにより、多層発泡シートの導電性をより向上させるとともに、多層発泡シートからの導電性カーボンの脱落をより効果的に抑制することができる。これらの作用効果をより高める観点からは、エチレン系共重合体(C)中の極性基を有するモノマーに由来する構造単位の含有量は30質量%よりも多いことがより好ましく、35質量%以上であることがさらに好ましく、40質量%以上であることが特に好ましく、40質量%よりも多いことが最も好ましい。
【0043】
また、エチレン系共重合体(C)中の極性基を有するモノマーに由来する構造単位の含有量を50質量%以下とすることにより、多層発泡シートの取り扱い性をより高めるとともに、導電層をポリエチレン系樹脂発泡層に積層する際の製造安定性をより向上させることができる。これらの作用効果をより高める観点からは、エチレン系共重合体(C)中の極性基を有するモノマーに由来する構造単位の含有量は48質量%以下であることがより好ましく、45質量%以下であることがさらに好ましい。
【0044】
エチレン系共重合体(C)の融点TmCは、30℃以上80℃以下であることが好ましく、32℃以上75℃以下であることがより好ましく、35℃以上70℃以下であることがさらに好ましい。エチレン系共重合体(C)の融点TmCを前記特定の範囲とすることにより、多層発泡シートの導電性をより向上させるとともに、導電層をポリエチレン系樹脂発泡層に積層する際の製造安定性をより向上させることができる。なお、エチレン系共重合体(C)の融点TmCの測定方法は、前述したポリエチレン系樹脂(A)の融点TmAの測定方法と同様である。
【0045】
ポリエチレン(B)の融点TmBとエチレン系共重合体(C)の融点TmCとの差TmB-TmCは、30℃以上80℃以下とする。ポリエチレン(B)との融点差TmB-TmCが前記特定の範囲内であるエチレン系共重合体(C)を用いることにより、多層発泡シートに導電性を付与することができる。
【0046】
融点差TmB-TmCが30℃未満の場合には、多層発泡シートに十分な導電性を付与できないおそれがある。また、融点差TmB-TmCが80℃を超える場合には、多層発泡シートの製造過程においてサイジング装置等にエチレン系共重合体(C)が付着しやすくなり、良好な多層発泡シートを得にくくなるおそれがある。また、この場合には、使用中等にエチレン系共重合体(C)が軟化したり、多層発泡シートを重ね合わせた状態で保管する際に多層発泡シートが互いに融着したりするなどして取り扱い性が損なわれたりするおそれがある。
【0047】
エチレン系共重合体(C)の温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレイトは10g/10分以上120g/10分以下であることが好ましく、20g/10分以上80g/10分以下であることがより好ましい。この場合には、多層発泡シートの導電性をより向上させることができる。また、エチレン系共重合体(C)のメルトフローレイトを前記特定の範囲とすることにより、導電層と、導電層に隣接する層との接着強度をより高めることができる。例えば、導電層とポリエチレン系樹脂発泡層とが積層接着されている場合には、両者の接着強度をより高めることができる。
【0048】
<配合比率>
導電層中におけるポリエチレン(B)とエチレン系共重合体(C)との配合比率は、質量比においてポリエチレン(B):エチレン系共重合体(C)=80:20~20:80であることが好ましく、ポリエチレン(B):エチレン系共重合体(C)=50:50~25:75であることがより好ましく、ポリエチレン(B):エチレン系共重合体(C)=45:55~30:70であることがより好ましい。この場合には、多層発泡シートの導電性をより高めることができる。
【0049】
<導電性カーボン>
導電層中には、導電性カーボン、つまり、主に炭素原子からなり、導電性を有する物質が含まれている。導電性カーボンとしては、具体的には、ファーネスブラックやアセチレンブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック等の導電性カーボンブラックが好ましく例示される。導電層中には、2種類以上の導電性カーボンが含まれていてもよい。多層発泡シートの導電性を確保しつつ導電性カーボンの配合量をより低減する観点からは、導電層中には、導電性カーボンとして、ケッチェンブラック等の高導電性カーボンブラックが含まれていることが好ましい。
【0050】
前記導電性カーボンのジブチルフタレート(DBP)吸油量は、150mL/100g以上700mL/100g以下であることが好ましい。この場合には、多層発泡シートの導電性をより高めることができる。多層発泡シートの導電性をより高める観点からは、導電性カーボンのDBP吸油量は200mL/100g以上600mL/100g以下であることがより好ましく、300mL/100g以上600mL/100g以下であることがさらに好ましい。なお、前述したジブチルフタレート(DBP)吸油量は、ASTM D2414-79に準じて測定される値である。
【0051】
また、前記導電性カーボンのBET比表面積は600m2/g以上2000m2/g以下であることが好ましい。この場合には、多層発泡シートの導電性をより高めることができる。多層発泡シートの導電性をより高める観点からは、導電性カーボンのBET比表面積は、700m2/g以上1600m2/g以下であることがより好ましい。本発明の多層発泡シートは、前記特定のポリエチレン(B)とエチレン系共重合体(C)と導電性カーボンとを含む導電層が、発泡層とは別の層として形成されているため、ポリエチレン系樹脂発泡層の発泡性を阻害せずに比表面積の大きな高導電性カーボンを配合することができる。
【0052】
導電層中の導電性カーボンの配合量は、3質量%以上15質量%以下である。導電性カーボンの配合量を3質量%以上とすることにより、多層発泡シートに導電性を付与することができる。多層発泡シートの導電性をより高める観点からは、導電層中の導電性カーボンの配合量は、4質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。導電層中の導電性カーボンの配合量が少なすぎる場合には、導電層内に導電性カーボン粒子による導電性ネットワークが形成されにくくなり、多層発泡シートの導電性の低下を招くおそれがある。なお、導電性カーボンの配合量は、多層発泡シートにおける導電層中の導電性カーボンの含有量と概ね等しい。
【0053】
また、導電性カーボンの配合量を15質量%以下とすることにより、多層発泡シートからの導電性カーボンの脱落を低減することができる。多層発泡シートからの導電性カーボンの脱落をより低減する観点からは、導電性カーボンの配合量は、12質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、10質量%未満であることがさらに好ましい。導電層中の導電性カーボンの配合量が多すぎる場合には、多層発泡シートから導電性カーボンが脱落しやすくなり、多層発泡シートの周囲の汚染を招くおそれがある。
【0054】
<その他のポリマー>
導電層中には、前述した作用効果を損なわない範囲で、ポリエチレン(B)及びエチレン系共重合体(C)以外の他のポリマーが含まれていてもよい。ポリエチレン(B)及びエチレン系共重合体(C)以外の他のポリマーとしては、例えば、ポリエチレン(B)以外のポリエチレン系樹脂及びポリスチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂や、エチレンプロピレンゴム及びスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体等のエラストマー等が挙げられる。ポリエチレン系樹脂発泡層に導電層を積層する際の製造安定性の観点からは、導電層中には、ポリエチレン系樹脂発泡層に含まれるポリエチレン系樹脂(A)よりも融点の高いポリマーが含まれていないことが好ましい。導電層中のポリエチレン(B)及びエチレン系共重合体(C)以外の他のポリマーの含有量は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。
【0055】
<添加剤>
導電層中には、酸化防止剤、熱安定剤、耐候剤、紫外線吸収剤、難燃剤、充填材、抗菌剤等の添加剤が含まれていてもよい。導電層中の添加剤の配合量は、例えば、ポリエチレン(B)及びエチレン系共重合体(C)の合計100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、3質量部以下であることがさらに好ましい。
【0056】
<平均厚み>
導電層の平均厚みは、1μm以上20μm以下であることが好ましい。導電層の平均厚みを1μm以上、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上とすることにより、多層発泡シートの導電性をより安定して発現させることができる。また、導電層の平均厚みを20μm以下、より好ましくは18μm以下、さらに好ましくは15μm以下、特に好ましくは10μm以下とすることにより、多層発泡シートからの導電性カーボンの脱落をより効果的に抑制することができる。
【0057】
導電層の平均厚みの測定方法は以下の通りである。まず、多層発泡シートを押出方向に垂直な面で切断する。この切断面において、切断面の長手方向(つまり、押出方向及び厚み方向の両方に対して直角な方向)の長さを11等分するようにして10か所の測定位置を設定する。顕微鏡を用いてこれらの測定位置における多層発泡シートの断面を観察し、各測定位置における導電層の厚みを測定する。これらの厚みの算術平均値を、導電層の平均厚み(単位:μm)とする。
【0058】
<坪量>
導電層の坪量は、1g/m2以上20g/m2以下であることが好ましい。導電層の坪量を1g/m2以上、より好ましくは5g/m2以上、さらに好ましくは7g/m2以上とすることにより、多層発泡シートの導電性をより安定して発現させることができる。また、導電層の坪量を20g/m2以下、より好ましくは18g/m2以下、さらに好ましくは15g/m2以下、特に好ましくは10g/m2以下とすることにより、多層発泡シートからの導電性カーボンの脱落をより効果的に抑制することができる。なお、導電層がポリエチレン系樹脂発泡層の両面に積層されている場合には、上記導電層の坪量は、片面当たりの坪量を意味する。
【0059】
片面当たりの導電層の坪量の測定方法は以下の通りである。まず、前述した方法により導電層の平均厚みを算出する。この平均厚みの単位を換算した後、導電層の密度(単位:g/m3)を乗じることにより導電層の坪量(単位:g/m2)を得ることができる。なお、導電層の密度は、導電層中に含まれる導電性カーボンやその他の添加剤等を含む密度である。
【0060】
多層発泡シートを共押出により製造する場合には、片面当たりの導電層の吐出量X[g/時]、多層発泡シートの幅W[m]、多層発泡シートの引取速度L[m/時]を用いて、下記(1)式により片面当たりの導電層の坪量を求めることもできる。
導電層の坪量[g/m2]=〔X/(L×W)〕・・・(1)
【0061】
導電層形成用溶融物と発泡層形成用溶融物とを共押出して多層発泡シートを作製する場合には、熱ラミネーション等によっては形成することができないような、坪量が小さく、厚みの薄い導電層を形成するとともに、導電性を安定的に発現させることができる。
【0062】
(多層発泡シートの製造方法)
前記多層発泡シートは、例えば、共押出発泡法により製造することができる。すなわち、ポリエチレン系樹脂多層発泡シートの製造方法においては、ポリエチレン系樹脂発泡層を形成するための発泡層形成用溶融物と、導電層を形成するための導電層形成用溶融物とを共押出することにより、ポリエチレン系樹脂発泡層と、ポリエチレン系樹脂発泡層の少なくとも片面側に積層された導電層とを備えたポリエチレン系樹脂多層発泡シートを作製する。発泡層形成用溶融物はポリエチレン系樹脂(A)及び物理発泡剤を含有している。導電層形成用溶融物は、ポリエチレン(B)と、エチレンに由来する構造単位及び極性基を有するモノマーに由来する構造単位を備えたエチレン系共重合体(C)と、導電性カーボンとを含有している。導電層形成用溶融物中における導電性カーボンの配合量が3質量%以上15質量%以下である。そして、ポリエチレン(B)の融点TmBと、エチレン系共重合体(C)の融点TmCとの差TmB-TmCが30℃以上80℃以下である。
【0063】
かかる方法を実施するに当たっては、押出発泡の分野において用いられている公知の共押出装置を用いることができる。より具体的には、例えば、発泡層形成用溶融物を押出可能に構成された発泡層形成用押出機と、導電層形成用溶融物を押出可能に構成された導電層形成用押出機と、これらの押出機の吐出口が接続された共押出ダイとを備えた共押出装置を用いて前記多層発泡シートを作製することができる。
【0064】
[発泡層形成用溶融物]
発泡層形成用溶融物には、少なくともポリエチレン系樹脂(A)及び物理発泡剤が含まれている。発泡層形成用溶融物は、例えば以下の方法により作製することができる。まず、発泡層形成用押出機に前記ポリエチレン系樹脂(A)及び必要に応じて添加される添加剤を供給し、溶融混練する。次いで、押出機内で溶融したポリエチレン系樹脂(A)を含む溶融物に物理発泡剤を加圧しつつ供給してさらに混練することにより、発泡層形成用溶融物を得ることができる。
【0065】
物理発泡剤としては、有機系物理発泡剤や無機系物理発泡剤を使用することができる。有機系物理発泡剤としては、例えば、プロパンやノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタンやシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素、塩化メチルや塩化エチル等の塩化炭化水素、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1-ジフルオロエタン等のフッ化炭化水素等が挙げられる。無機系物理発泡剤としては、例えば、窒素や二酸化炭素、空気、水等が挙げられる。発泡層形成用溶融物中には、1種類の物理発泡剤が含まれていてもよいし、2種類以上の物理発泡剤が含まれていてもよい。
【0066】
ポリエチレン系樹脂(A)との相溶性や発泡性の観点からは、発泡層形成用溶融物中には、物理発泡剤として、有機系物理発泡剤が含まれていることが好ましく、ノルマルブタン、イソブタンまたはこれらの混合物を主成分とする有機系物理発泡剤が含まれていることがより好ましい。
【0067】
物理発泡剤の配合量は、発泡剤の種類や所望する見掛け密度等に応じて適宜設定することができる。例えば、イソブタン30質量%とノルマルブタン70質量%とからなる混合ブタンを物理発泡剤として使用する場合には、100質量部のポリエチレン系樹脂(A)に対して3質量部以上30質量部以下、好ましくは4質量部以上20質量部以下、より好ましくは10質量部以上20質量部以下の混合ブタンを添加すればよい。
【0068】
発泡層形成用溶融物中には気泡調整剤を添加することが好ましい。気泡調整剤としては、無機系気泡調整剤や有機系気泡調整剤を使用することができる。無機系気泡調整剤としては、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム、硼砂等のホウ酸金属塩や塩化ナトリウム、水酸化アルミニウム、タルク、ゼオライト、シリカ、炭酸カルシウム、重炭酸ナトリウム等が挙げられる。有機系気泡調整剤としては、リン酸-2,2-メチレンビス(4,6-tert-ブチルフェニル)ナトリウムや安息香酸ナトリウム、安息香酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウム等が挙げられる。さらに、クエン酸と重炭酸ナトリウムとの混合物や、クエン酸アルカリ塩と重炭酸ナトリウム等との混合物等を気泡調整剤として用いることもできる。発泡層形成用溶融物中には、1種類の気泡調整剤が含まれていてもよいし、2種類以上の気泡調整剤が含まれていてもよい。発泡層形成用溶融物中の気泡調整剤の配合量は、物理発泡剤の種類や所望する見掛け密度、気泡径等に応じて適宜設定すればよい。
【0069】
[導電層形成用溶融物]
導電層形成用溶融物には、少なくともポリエチレン(B)、エチレン系共重合体(C)及び導電性カーボンが含まれている。導電層形成用溶融物を作製するに当たっては、例えば、導電層形成用押出機に前記ポリエチレン(B)、エチレン系共重合体(C)、導電性カーボン及び必要に応じて添加される添加剤を供給する。そして、押出機内でこれらを溶融混練することにより、導電層形成用溶融物を得ることができる。
【0070】
導電層形成用溶融物中には、添加剤として、揮発性可塑剤が含まれていてもよい。揮発性可塑剤は、導電層形成用溶融物の溶融粘度を低下させる作用を有するとともに、共押出後に導電層から揮発するように構成されている。揮発性可塑剤は、共押出の際に、導電層形成用溶融物の押出温度を発泡層形成用溶融物の押出温度に近づけることができる。また、揮発性可塑剤は、軟化状態の導電層の溶融伸びを向上させることができる。これらの結果、導電層形成用溶融物中に揮発性可塑剤を添加することにより、発泡層形成用溶融物の発泡中に導電層の熱によってポリエチレン系樹脂発泡層の気泡が破壊されにくくなり、さらに、導電層が発泡中のポリエチレン系樹脂発泡層の膨張に追従して伸びやすくなる。
【0071】
揮発性可塑剤としては、例えば、炭素数3以上7以下の脂肪族炭化水素や炭素数3以上7以下の脂環式炭化水素、炭素数1以上4以下の脂肪族アルコール、炭素数2以上8以下の脂肪族エーテル等が挙げられる。導電層形成用溶融物中には、1種類の揮発性可塑剤が含まれていてもよいし、2種類以上の揮発性可塑剤が含まれていてもよい。
【0072】
揮発性可塑剤の沸点は、120℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましい。このような範囲の沸点を有する揮発性可塑剤は、共押出後の導電層から自然に揮散し、導電層から除去される。なお、揮発性可塑剤の沸点の下限は、概ね-50℃である。
【0073】
揮発性可塑剤の配合量は、導電層及びポリエチレン系樹脂発泡層の組成等に応じて適宜設定することができる。例えば、揮発性可塑剤の配合量は、ポリエチレン(B)及びエチレン系共重合体(C)の合計100質量部に対して5質量部以上50質量部以下とすることができる。導電層形成用溶融物の追従性をより高め、導電層の厚みのばらつきを低減する観点からは、揮発性可塑剤の配合量は、ポリエチレン(B)及びエチレン系共重合体(C)の合計100質量部に対して5質量部以上であることが好ましく、7質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましい。
【0074】
一方、導電層を安定して積層する観点からは、揮発性可塑剤の配合量をポリエチレン(B)及びエチレン系共重合体(C)の合計100質量部に対して50質量部以下とすることが好ましく、45質量部以下とすることがより好ましく、40質量部以下とすることがさらに好ましい。
【0075】
[共押出]
共押出を行うに当たっては、前述したように各押出機内で形成された発泡層形成用溶融物及び導電層形成用溶融物を共押出ダイに導き、共押出ダイの押出口から層状に押し出す。共押出ダイは、例えば、直線状の押出口を備えたフラットダイであってもよい。この場合には、フラットダイの押出口から、発泡層形成用溶融物と導電層形成用溶融物との積層体がシート状に押し出される。押出口から積層体が大気中に押し出されると、発泡層形成用溶融物が発泡しながら膨張する。これに伴い、導電層形成用溶融物が引き伸ばされる。そして、押出口から押し出されたシート状の積層発泡体を拡幅装置に沿わせて引き取りながら冷却することにより、発泡層形成用溶融物及び導電層形成用溶融物を固化させる。これにより、発泡によって形成された気泡構造が固定され、寸法が安定する。以上により、多層発泡シートを得ることができる。
【0076】
また、共押出ダイは、例えば、環状の押出口を備えた環状ダイであってもよい。この場合には、環状ダイの押出口から、発泡層形成用溶融物と導電層形成用溶融物との積層体が筒状に押し出される。押出口から積層体が大気中に押し出されると、発泡層形成用溶融物が発泡しながら膨張する。これに伴い、導電層形成用溶融物が引き伸ばされる。そして、押出口から押し出された筒状の積層発泡体を内側から圧縮空気等で拡幅しつつ、その内側をマンドレル等の拡幅装置に沿わせて引き取りながら冷却することにより、発泡層形成用溶融物及び導電層形成用溶融物を固化させる。これにより、発泡によって形成された気泡構造が固定され、寸法が安定する。最後に、拡幅装置上で筒状の積層発泡体を切り開くことにより、多層発泡シートを得ることができる。共押出ダイとして環状ダイを使用した場合には、例えば1000mm以上の幅を有するような、幅の広い多層発泡シートを製造しやすい。また、例えば3mm以下の全体厚みを有するような、厚みの薄い発泡シートを製造しやすい。
【0077】
従来、共押出により作製されたポリエチレン系樹脂多層発泡シートにおいて、導電性カーボンを含有する導電層を設けることにより、例えば1×107Ω以下の表面抵抗率を実現しようとすると、導電層中に比較的多量の導電性カーボンを配合する必要があった。その理由は、以下のように考えられる。
【0078】
前述したように、共押出によって多層発泡シートを作製しようとする場合、共押出ダイから押し出された発泡層形成用溶融物が発泡によって急速に膨張するため、導電層形成用溶融物が、発泡層形成用溶融物の膨張に追従して強く引き伸ばされる。この延伸の際に導電層中の導電性カーボン粒子同士が引き離されるため、導電性カーボンの配合量が不十分であると、導電性ネットワークを維持することが難しくなりやすい。
【0079】
また、共押出ダイから押し出された積層発泡体は急速に冷却されるため、延伸によって導電性カーボン粒子同士が引き離された状態で導電層の基材樹脂が固化しやすい。さらに、発泡層形成用溶融物の押出発泡温度は、ポリエチレン系樹脂発泡層を構成するポリエチレン系樹脂(A)の融点付近である100~130℃の範囲と比較的低い温度に設定される。これに対応して比較的低い温度に設定された導電層形成用溶融物の押出温度条件においては、導電層の基材樹脂がより固化しやすい。これらの理由により、共押出によって作製された従来の多層発泡シートでは、導電層中に導電性ネットワークを安定して形成することが困難であったと考えられる。
【0080】
これに対し、前記多層発泡シートにおいては、前述したように、導電層中に、前記ポリエチレン(B)と、前記エチレンに由来する構造単位及び極性基を有するモノマーに由来する構造単位を備えたエチレン系共重合体(C)との、互いに非相溶である2種の樹脂が含まれている。そのため、前記多層発泡シートにおいて、導電性カーボンはいずれかの相に偏在して存在していると考えられる。その結果、導電性カーボン粒子による導電性ネットワークが形成されやすいとともに、導電性ネットワークが維持されやすいと考えられる。
【0081】
さらに、前記エチレン系共重合体(C)として、ポリエチレン(B)との融点差TmB-TmCが前記特定の範囲となるような融点の低い樹脂が用いられているため、共押出後の冷却過程において、導電層が固化するまでの間に延伸を緩和することができると考えられる。その結果、導電性ネットワークが再構築されやすいと考えられる。
【0082】
従って、前記製造方法によれば、導電性カーボンの配合量が比較的少量であっても導電性を備えた多層発泡シートを共押出により製造することが可能となる。また、前記製造方法によれば、厚みが薄く、緩衝性に優れ、さらには被包装物に対する汚染性の低い多層発泡シートを容易に得ることができる。
【実施例】
【0083】
前記多層発泡シート及びその製造方法の実施例を以下に説明する。なお、本発明に係る多層発泡シート及びその製造方法の具体的な態様は、以下に示す実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【0084】
まず、本例において用いた樹脂及び導電性カーボンを表1及び表2に示す。
【0085】
【0086】
表1の「変性率」欄には、エチレン系共重合体中の極性基を有するモノマーに由来する構造単位の質量分率(単位:質量%)を記載した。なお、エチレン系共重合体以外の樹脂には極性基を有するモノマーに由来する構造単位が含まれていないため、これらの樹脂については、表1の「変性率」欄に記号「-」を記載した。また、樹脂記号「mLLDPE」は、メタロセン触媒を用いて重合された直鎖状低密度ポリエチレンを意味する。
【0087】
また、表1における各樹脂の融点は、前述した方法、つまり、JIS K7121:2012に規定されたプラスチックの転移温度測定方法により測定された値である。表1の「MFR」欄には、JIS K7210-1(2014)に規定された方法に基づき、温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定されたメルトフローレイトを記載した。
【0088】
【0089】
表2に導電性カーボンの物性を示す。表2中、空隙率は導電性カーボンの嵩密度を導電性カーボンの真密度で除すことにより求められる値である。一次粒子径は、透過型電子顕微鏡による観察により求められる値である。DBP吸油量は、ASTM D 2414-79に準じて測定される値である。BET比表面積はASTM D 2414に準拠して求められる値である。
【0090】
なお、表2中のCB1は、具体的にはライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製「ケッチェンブラックEC300J」である。
【0091】
(実施例1~実施例8)
実施例1~実施例8の多層発泡シートは、ポリエチレン系樹脂(A)を含むポリエチレン系樹脂発泡層と、ポリエチレン系樹脂発泡層の両面に積層された導電層と、からなる3層構造を有する無架橋の多層発泡シートである。導電層は、表3に示す種類及び量のポリエチレン(B)と、エチレン系共重合体(C)と、導電性カーボンとを含んでいる。
【0092】
実施例1~実施例8の多層発泡シートの作製方法は、具体的には以下の通りである。まず、発泡層形成用押出機と、導電層形成用押出機と、これらの押出機の吐出口が接続された共押出ダイとを備えた共押出装置を準備する。本例における共押出ダイは、環状の押出口を有する環状ダイである。
【0093】
発泡層形成用溶融物を作製するに当たっては、発泡層形成用押出機に、表3に示す種類のポリエチレン系樹脂(A)と、100質量部のポリエチレン系樹脂(A)に対して1質量部の気泡調整剤とを供給し、押出機内においてこれらを溶融混練した。なお、気泡調整剤としては、クエン酸と重曹との混合物(大日精化工業株式会社製「ファインセルマスターPO217K」)を使用した。「ファインセルマスター」は、大日精化工業株式会社の登録商標である。
【0094】
押出機内で溶融したポリエチレン系樹脂(A)と気泡調整剤との混合物に物理発泡剤を加圧しながら供給し、押出機内でさらに混練した。以上により、表3に示す押出温度を有する発泡層形成用溶融物を得た。なお、物理発泡剤としては、ノルマルブタン65質量%とイソブタン35質量%とからなる混合ブタンを使用した。物理発泡剤の配合量は、100質量部のポリエチレン系樹脂(A)に対して8質量部とした。
【0095】
導電層形成用溶融物を作製するに当たっては、導電層形成用押出機に、表3に示す種類及び量のポリエチレン(B)、エチレン系共重合体(C)、導電性カーボンを供給するとともに、ポリエチレン(B)とエチレン系共重合体(C)との合計100質量部に対して25質量部の揮発性可塑剤を供給した。そして、押出機内においてこれらを混練することにより、表3に示す押出温度を有する導電層形成用溶融物を得た。なお、揮発性可塑剤としては、ノルマルブタン65質量%とイソブタン35質量%とからなる混合ブタンを使用した。
【0096】
このようにして各押出機内で作製した溶融物を、表3に示す押出温度を維持しつつ同時に共押出ダイに供給し、共押出ダイ内で、発泡層形成用溶融物の両面に導電層形成用溶融物が積層されるように合流させた。そして、これらの溶融物を共押出ダイの押出口から表3に示す吐出量で共押出して発泡させることにより、ポリエチレン系樹脂発泡層の両面に導電層が積層された筒状の積層発泡体を作製した。なお、表3に示す導電層の吐出量は、片面当たりの吐出量である。積層発泡体の内側に直径360mmのマンドレルを挿入し、表3に示す引取速度で積層発泡体をマンドレルに沿って引き取りつつ、積層発泡体を切り開くことにより、実施例1~実施例8の多層発泡シートを得た。実施例1~実施例8の多層発泡シートの幅、全体厚み、坪量、及び見掛け密度は、表3に示す値となった。また、これらの多層発泡シートの導電層は、いずれも非発泡状態であった。
【0097】
(比較例1)
比較例1の多層発泡シートは、導電層中にエチレン系共重合体(C)が含まれていない以外は実施例1の多層発泡シートと同様である。比較例1の多層発泡シートの作製方法は、導電層形成用溶融物中にエチレン系共重合体(C)を配合せず、製造条件等を表4に示すように変更した以外は実施例1の多層発泡シートの作製方法と同様である。
【0098】
(比較例2、比較例4)
比較例2及び比較例4の多層発泡シートは、導電層におけるポリエチレン(B)とエチレン系共重合体(C)との融点差TmB-TmCが前記特定の範囲外となっている以外は実施例1の多層発泡シートと同様の構成を有している。比較例2及び比較例4の多層発泡シートの作製方法は、エチレン系共重合体(C)の種類及び製造条件等を表4に示すように変更した以外は実施例1の多層発泡シートの作製方法と同様である。
【0099】
(比較例3)
比較例3の多層発泡シートは、導電層中に、エチレン系共重合体(C)に替えて直鎖状ポリエチレンが含まれている以外は実施例1の多層発泡シートと同様の構成を有している。比較例3の多層発泡シートの作製方法は、導電層形成用溶融物の組成及び製造条件等を表4に示すように変更した以外は実施例1の多層発泡シートの作製方法と同様である。
【0100】
(比較例5)
比較例5の多層発泡シートは、導電層中の導電性カーボンの配合量を多くした以外は比較例1の多層発泡シートと同様の構成を有している。比較例5の多層発泡シートの作製方法は、導電層形成用溶融物中の導電性カーボンの配合量及び製造条件等を表4に示す値に変更した以外は比較例1の多層発泡シートの作製方法と同様である。
【0101】
(評価)
以下の方法により、実施例及び比較例の多層発泡シートの導電層の溶融粘度、多層発泡シートの全体厚み及び坪量、多層発泡シートの導電層の平均厚み及び坪量、見掛け密度、発泡倍率、汚染性及び導電性を評価した。
【0102】
[導電層の溶融粘度]
キャピラリーレオメータ(チアスト社製「レオビス2100」)を用い、実施例1~実施例8及び比較例1~比較例5のそれぞれにおける導電層形成用溶融物の溶融粘度を測定した。なお、キャピラリーレオメータのオリフィス径は1mm、オリフィス長は10mmとし、測定温度190℃、せん断速度100sec-1の条件で測定を行った。実施例及び比較例の導電層形成用溶融物の溶融粘度は表3または表4に示す通りであった。
【0103】
[多層発泡シートの全体厚み]
まず、多層発泡シートを押出方向に垂直な面で切断した。この切断面において、切断面の長手方向(つまり、押出方向及び厚み方向の両方に直角な方向)における間隔が等しくなるようにして10か所の測定位置を設定した。顕微鏡を用いてこれらの測定位置を観察し、各測定位置の厚みを測定した。これらの厚みの算術平均値を多層発泡シートの全体厚みとし、表3及び表4に記載した。
【0104】
[多層発泡シートの坪量]
多層発泡シートから一辺25mmの正方形状の試験片を採取し、試験片の質量(単位:g)を測定した。この試験片の質量を単位換算することにより、多層発泡シートの坪量、つまり、多層発泡シート1m2当たりの質量(単位:g/m2)を算出した。実施例及び比較例の多層発泡シートの坪量は、表3または表4に示した通りであった。
【0105】
[導電層の平均厚み]
多層発泡シートを押出方向に垂直な面で切断した。この切断面において、切断面の長手方向(つまり、押出方向及び厚み方向の両方に直角な方向)における間隔が等しくなるようにして10か所の測定位置を設定した。顕微鏡を用いてこれらの測定位置における多層発泡シートの断面を観察し、各測定位置における導電層の厚みを測定した。これらの厚みの算術平均値を、導電層の平均厚み(単位:μm)とした。実施例及び比較例の多層発泡シートにおける導電層の平均厚みは、表3または表4に示した通りであった。
【0106】
[導電層の坪量]
多層発泡シートの共押出時の片面当たりの導電層の吐出量X[g/時]、多層発泡シートの幅W[m]、多層発泡シートの引取速度L[m/時]を用い、下記(1)式に基づいて片面当たりの導電層の坪量を算出した。
導電層の坪量[g/m2]=〔X/(L×W)〕・・・(1)
【0107】
[多層発泡シートの見掛け密度]
前述した方法により得られる多層発泡シートの坪量(単位:g/m2)を多層発泡シートの全体厚みで除した後単位換算することにより、多層発泡シートの見掛け密度(単位:kg/m3)を算出した。
【0108】
[汚染性]
実施例及び比較例の多層発泡シートをクリーンペーパーと重ね合わせた後、多層発泡シートを150g/cm2の荷重でクリーンペーパーに押し付けた。この状態で多層発泡シートをクリーンペーパーに対して往復移動させ、多層発泡シートとクリーンペーパーとを摺動させた。なお、往復移動の振幅は5mm、周期は1秒とした。
【0109】
摺動開始から100秒経過した時点で多層発泡シートをクリーンペーパー上から取り除いた。そして、分光色彩計(日本電色工業株式会社製「SE-2000」)を用いてクリーンペーパーの色調を測定し、多層発泡シートと摺動した部分のCIE 1976 L*a*b*色空間におけるL*値を取得した。そして、予め測定した、多層発泡シートと摺動させる前のクリーンペーパーのL*値と摺動後のクリーンペーパーのL*値との差に基づいて多層発泡シートの汚染性を評価した。
【0110】
表3及び表4の「汚染性」欄には、摺動前のクリーンペーパーのL*値から摺動後のクリーンペーパーのL*値を引いた値である、ΔL*値を記載した。L*値は明度を示す値であり、値が大きいほど色調が明るいことを意味する。多層発泡シートとクリーンペーパーとを摺動させると、多層発泡シートから脱落した導電性カーボンがクリーンペーパーに付着する。そして、クリーンペーパーに付着した導電性カーボンの量が多くなると、クリーンペーパーの色調が暗くなる。従って、表3及び表4の「汚染性」欄に示したΔL*値が小さい多層発泡シートほど、多層発泡シートから導電性カーボンが脱落しにくく、周囲を汚染しにくいといえる。
【0111】
[導電性]
JIS K6271-1:2015に準拠した測定方法により、導電層の表面抵抗率を測定した。具体的には、多層発泡シートから一辺100mmの正方形状を呈する試験片を採取した。この試験片における導電層の表面に電極を取り付けた後、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気中で電極間に1Vの電圧を印加した。そして、電圧を印加してから1分経過した時点での表面抵抗率(単位:Ω)を、多層発泡シートの表面抵抗率とした。なお、表面抵抗率の測定には、日東精工アナリテック株式会社製「ハイレスタUX MCP-HT800」を用いた。実施例及び比較例の多層発泡シートにおける表面抵抗率は、表3または表4に示した通りであった。
【0112】
【0113】
【0114】
表3に示したように、実施例1~実施例8の多層発泡シートにおける導電層は、ポリエチレン(B)と、エチレンに由来する構造単位及び極性基を有するモノマーに由来する構造単位を備えたエチレン系共重合体(C)と、導電性カーボンとを含んでいる。また、実施例1~8の多層発泡シートの導電層においては、導電性カーボンの配合量及びポリエチレン(B)とエチレン系共重合体(C)との融点差TmB-TmCが前記特定の範囲である。そして、実施例1~実施例8においては、このような構成を有する導電層が、共押出によりポリエチレン系樹脂発泡層と積層接着されている。実施例1~実施例8の多層発泡シートは、1×107Ω以下の表面抵抗率を有するとともに、多層発泡シートからの導電性カーボンの脱落を低減することができる。
【0115】
表3と表4との比較から、前記特定の組成を備えた導電層を有する多層発泡シートは、導電層中の導電性カーボンが10質量%以下といった比較的少量の配合量であっても優れた導電性を示すことが理解できる。また、例えば導電層中の導電性カーボンの配合量が同程度である実施例1と比較例1、実施例4と比較例4との対比から、前記特定の組成を備えた導電層を有する多層発泡シートはΔL*値が小さく、周囲への汚染を低減できることが理解できる。