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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】センサ
(51)【国際特許分類】
   G01B 21/22 20060101AFI20230405BHJP
   G01B 7/30 20060101ALI20230405BHJP
   G01B 5/24 20060101ALI20230405BHJP
【FI】
G01B21/22
G01B7/30 H
G01B5/24
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019001845
(22)【出願日】2019-01-09
(65)【公開番号】P2020112390
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】外山 祐一
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-168969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/00-21/32
G01B 7/30
G01B 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象であるシャフトに対して一体回転可能に設けられる主動歯車と、
前記主動歯車に噛合する少なくとも1つの従動歯車と、
前記主動歯車および前記従動歯車を収容するセンサハウジングと、を有し、
前記主動歯車に連動する前記従動歯車の回転に基づき前記シャフトの回転角度を検出するセンサにおいて、
前記従動歯車は、前記センサハウジングの内部において回転可能かつ前記主動歯車の半径方向に沿って移動可能に支持されていて、前記主動歯車が装着された前記シャフトに前記センサハウジングが挿入されることにより前記主動歯車に噛み合わせられるものであって、
前記従動歯車を前記主動歯車へ向けて付勢する付勢部材と、
前記センサハウジングが前記シャフトに挿入される際、前記従動歯車の一部が前記主動歯車の一部に当接したとき、前記従動歯車に作用する前記シャフトの軸方向と平行な軸方向の力を前記従動歯車の前記主動歯車から離れる方向への力に変換する変換機構と、を有し
前記変換機構は、前記主動歯車および前記従動歯車の少なくとも一方において、前記センサハウジングが前記シャフトに挿入される際、前記シャフトの軸方向において互いに対向する部分に設けられた傾斜面であるセンサ。
【請求項2】
前記従動歯車は2つ設けられていて、これら従動歯車は、前記主動歯車に噛合する歯車部および前記センサハウジングに支持される軸部を有し、
前記付勢部材は、前記センサハウジングの内部に支持されたコイル部、前記2つの従動歯車のいずれか一方の軸部を前記主動歯車へ向けて付勢する第1の腕部、および前記2つの従動歯車のいずれか他方の軸部を前記主動歯車へ向けて付勢する第2の腕部を有するねじりコイルばねである請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記センサハウジングの内部には、前記シャフトに作用するトルクを検出するトルクセンサが設けられている請求項1または請求項2に記載のセンサ。
【請求項4】
前記シャフトは、車両の転舵輪を転舵させる転舵シャフトに噛合するピニオンシャフトである請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載のセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、車両の高機能化に伴い、車両には車両安定性制御システムおよび電子制御サスペンションシステムなどの走行安定性を向上させるための種々のシステムが搭載されることがある。これらシステムは、ステアリングの操舵角を車両の姿勢情報の一つとして取得し、その姿勢情報に基づいて車両の姿勢が安定的な状態になるように制御する。そのため、たとえば車両のステアリングコラムの内部には、ステアリングの操舵角を検出する回転角センサが設けられる。
【0003】
たとえば特許文献1の回転角センサは、ステアリングシャフトと一体的に回転する主動歯車と、当該歯車に歯合する2つの従動歯車とを備えている。2つの従動歯車の歯数は異なっており、これにより主動歯車の回転に伴う両従動歯車の回転角度を異ならせるようにしている。そして、回転角センサは、2つの従動歯車にそれぞれ対応して設けられたセンサにより2つの従動歯車の回転角度を検出し、これら検出される回転角度に基づいてステアリングシャフトの回転角度を求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表平11-500828号公報(図2b)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の回転角センサは、2つの従動歯車が支持されたハウジングを主動歯車が設けられたステアリングシャフトに挿通することにより組み立てられる。このとき、主動歯車および2つの従動歯車の回転位置によっては、ステアリングシャフトの軸方向において従動歯車の歯が主動歯車の歯に干渉することがある。これにより、回転角センサの組み立て作業が阻害されるおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、組立作業を円滑に行うことができるセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成し得るセンサは、検出対象であるシャフトに対して一体回転可能に設けられる主動歯車と、前記主動歯車に噛合する少なくとも1つの従動歯車と、前記主動歯車および前記従動歯車を収容するセンサハウジングと、を有し、前記主動歯車に連動する前記従動歯車の回転に基づき前記シャフトの回転角度を検出する。前記従動歯車は、前記センサハウジングの内部において回転可能かつ前記主動歯車の半径方向に沿って移動可能に支持されていて、前記主動歯車が装着された前記シャフトに前記センサハウジングが挿入されることにより前記主動歯車に噛み合わせられるものである。このことを前提として、センサは、前記従動歯車を前記主動歯車へ向けて付勢する付勢部材と、前記センサハウジングが前記シャフトに挿入される際、前記従動歯車の一部が前記主動歯車の一部に当接したとき、前記従動歯車に作用する前記シャフトの軸方向と平行な軸方向の力を前記従動歯車の前記主動歯車から離れる方向への力に変換する変換機構と、を有している。
【0008】
従動歯車が支持された状態のセンサハウジングを、主動歯車が設けられた状態のシャフトに挿入する際、従動歯車あるいは主動歯車の回転位置によっては、従動歯車の一部がシャフトの軸方向において主動歯車の一部に干渉することが考えられる。この場合、上記の構成によれば、変換機構によって、従動歯車に作用するシャフトの軸方向と平行な軸方向の力が従動歯車の主動歯車から離れる方向への力に変換される。このため、従動歯車は、付勢部材の付勢力に抗して、主動歯車から離れる方向へ向けて移動する。これにより、従動歯車の一部と主動歯車の一部との干渉が回避されつつ、センサハウジングをシャフトに対して、さらに押し込むことが可能となる。そして、センサハウジングがシャフトに対して所定の位置まで挿入されたとき、従動歯車が付勢部材の付勢力によって主動歯車に近づく方向へ向けて移動することによって、従動歯車が主動歯車に噛み合った状態に至る。したがって、シャフトに対するセンサハウジングの挿入作業が従動歯車の一部と主動歯車の一部との干渉によって阻害されることがないため、センサの組立作業を円滑に行うことができる。
【0009】
上記のセンサにおいて、前記従動歯車は2つ設けられていて、これら従動歯車は、前記主動歯車に噛合する歯車部および前記センサハウジングに支持される軸部を有していることが好ましい。また、前記付勢部材は、前記センサハウジングの内部に支持されたコイル部、前記2つの従動歯車のいずれか一方の軸部を前記主動歯車へ向けて付勢する第1の腕部、および前記2つの従動歯車のいずれか他方の軸部を前記主動歯車へ向けて付勢する第2の腕部を有するねじりコイルばねであることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、2つの従動歯車は、ねじりコイルばねの第1の腕部および第2の腕部によって主動歯車へ向けて付勢される。単一のねじりコイルばねを設けるだけでよいので、部品点数の増大を抑えることができる。
【0011】
上記のセンサにおいて、前記変換機構は、前記主動歯車および前記従動歯車の少なくとも一方において、前記センサハウジングが前記シャフトに挿入される際、前記シャフトの軸方向において互いに対向する部分に設けられた傾斜面であることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、主動歯車および従動歯車の少なくとも一方に傾斜面を設けるだけでよいので、構成の簡素化が図られる。
上記のセンサにおいて、前記センサハウジングの内部には、前記シャフトに作用するトルクを検出するトルクセンサが設けられていてもよい。
【0013】
この構成によれば、単一のセンサによって、シャフトの回転角度のみならずシャフトに作用するトルクを検出することができる。
上記のセンサにおいて、前記シャフトは、車両の転舵輪を転舵させる転舵シャフトに噛合するピニオンシャフトであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のセンサによれば、組立作業を円滑に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】センサの一実施の形態が搭載される操舵装置の構成図。
図2】一実施の形態のトルクアングルセンサをピニオンシャフトの軸方向に沿って切断した断面図。
図3図2の3-3線に沿って切断した断面図。
図4】一実施の形態のトルクアングルセンサの分解断面。
図5図2の5-5線に沿って切断した要部断面図。
図6】(a)はトルクアングルセンサの組立時において主動歯車の歯と従動歯車の歯とが軸方向において干渉している状態を示す要部断面図、(b)は従動歯車が主動歯車に対して離れる方向へ向けて移動した状態を示す要部断面図、(c)は従動歯車の歯が主動歯車の歯に噛み合った状態を示す要部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、センサを車両の操舵装置に適用した一実施の形態を説明する。
図1に示すように、車両の操舵装置10は、ステアリングホイール11に連結されたステアリングシャフト12を有している。ステアリングシャフト12におけるステアリングホイール11と反対側の端部には、ピニオンシャフト13が設けられている。ピニオンシャフト13のピニオン歯13aは、ピニオンシャフト13に対して交わる方向へ延びる転舵シャフト14のラック歯14aに噛み合わされている。転舵シャフト14の両端には、それぞれタイロッド15,15を介して左右の転舵輪16,16が連結されている。
【0017】
また、操舵装置10は、操舵補助力(アシスト力)を生成するための構成として、モータ21、減速機構22、ピニオンシャフト23、トルクアングルセンサ(以下、「TAS24」という。)、および制御装置25を有している。
【0018】
モータ21は、操舵補助力の発生源であって、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。モータ21は、減速機構22を介してピニオンシャフト23に連結されている。ピニオンシャフト23のピニオン歯23aは、転舵シャフト14のラック歯14bに噛み合わされている。モータ21の回転は減速機構22によって減速されるとともに、当該減速された回転力が操舵補助力としてピニオンシャフト23から転舵シャフト14を介してピニオンシャフト13に伝達される。
【0019】
TAS24は、ピニオンシャフト13(具体的には、転舵シャフト14と共にピニオンシャフト13を収容するギヤハウジング)に設けられている。TAS24は、トルクセンサと回転角センサとが組み合わせられてなる。TAS24は、ステアリングホイール11の回転操作を通じてピニオンシャフト13に加わるトルクを操舵トルクThとして検出する。また、TAS24は、ピニオンシャフト13の360°を超える多回転にわたる回転角θpaを操舵角θsとして検出する。
【0020】
制御装置25は、TAS24により検出される操舵トルクThおよび操舵角θsを取り込む。また、制御装置25は、車両に設けられる車速センサ26を通じて検出される車速Vを取り込む。制御装置25は、モータ21に対する通電制御を通じて操舵トルクThおよび車速Vに応じた操舵補助力(アシスト力)を発生させるアシスト制御を実行する。制御装置25は、TAS24を通じて検出される操舵トルクTh、および車速センサ26を通じて検出される車速Vに基づき、モータ21に対する給電を制御する。
【0021】
<TASの構成>
つぎに、TAS24の構成を説明する。
図2に示すように、TAS24は、センサハウジング31を有している。センサハウジング31は、転舵シャフト14を収容するギヤハウジング17に取り付けられる。センサハウジング31は、挿通孔32および収容室33を有している。挿通孔32には、ピニオンシャフト13が挿入される。図示は割愛するが、ピニオンシャフト13は、ステアリングシャフト12側の入力軸、転舵シャフト14側の出力軸、およびこれら入力軸と出力軸とを連結するトーションバーを有している。収容室33は、ピニオンシャフト13の軸方向に対して交わる方向へ向けて開口する箱体状をなしている。収容室33の内部は、挿通孔32に連通するとともに、センサハウジング31の外方へ開放されている。収容室33の開口部33aは、カバー34によって閉塞されている。
【0022】
センサハウジング31の内部には、トルクセンサ41および回転角センサ51が設けられている。
図示は割愛するが、トルクセンサ41は、永久磁石、磁気ヨーク、集磁リング、および磁気センサを有している。永久磁石は、ピニオンシャフト13の入力軸に固定される。磁気ヨークは、ピニオンシャフト13の出力軸に固定されて永久磁石の磁界に応じた磁気回路を形成する。集磁リングは、センサハウジング31の内部に固定されて磁気ヨークからの磁束を誘導する。磁気センサは、集磁リングに誘導される磁束を検出する。
【0023】
ステアリングホイール11の操作を通じてピニオンシャフト13のトーションバーがねじれ変形すると、永久磁石と磁気ヨークとの回転方向における相対位置が変化する。これに伴い、永久磁石から磁気ヨークを通じて集磁リングに導かれる磁束密度が変化する。磁気センサは、磁束密度に応じた電気信号を生成する。制御装置25は、磁気センサにより生成される電気信号に基づき、トーションバーに作用するトルクを操舵トルクとして検出する。
【0024】
図3に示すように、回転角センサ51は、主動歯車52、2つの従動歯車53,54を有している。主動歯車52は、ピニオンシャフト13の入力軸に対して一体回転可能に外嵌されている。2つの従動歯車53,54は、センサハウジング31の収容室33の内部において、支持部材55を介して回転可能に支持されている。2つの従動歯車53,54は、主動歯車52に噛合している。このため、ピニオンシャフト13が回転すると、主動歯車52も一体的に回転し、これに伴って2つの従動歯車53,54もそれぞれ回転する。また、2つの従動歯車53,54の歯数は異なっている。このため、ピニオンシャフト13の回転に連動して主動歯車52が回転した場合、主動歯車52の回転角度に対する2つの従動歯車53,54の回転角度は、それぞれ異なった値となる。従動歯車53,54には、それぞれ永久磁石57,58が一体回転可能に設けられている。
【0025】
図2に示すように、センサハウジング31の収容室33の内底面には、基板61が設けられている。基板61の従動歯車53,54側の側面(図2中の上面)には、2つの磁気センサ(図2では1つのみ図示する。)62,63が設けられている。磁気センサ62,63は、センサハウジング31における挿通孔32の軸方向において、永久磁石57,58(図2では1つのみ図示する。)と対向している。磁気センサ62,63としては、ホールセンサまたはMR(磁気抵抗素子)センサが採用される。磁気センサ62,63は、従動歯車53,54の回転に伴う磁界の変化に応じた電気信号を生成する。制御装置25は、磁気センサ62,63により生成される電気信号に基づき、ピニオンシャフト13の回転角θpaを操舵角θsとして検出する。ちなみに、基板61には、トルクセンサ41の磁気センサも設けられる。
【0026】
<TASの組立手順>
つぎに、TASの組立手順を説明する。
図4に示すように、TAS24をギヤハウジング17に取り付ける際には、まず、TAS24の部分組立品(ユニット)を組み立てる。この部分組立品は、従動歯車53,54、基板61、トルクセンサ41の集磁リングをセンサハウジング31に取り付けることによって一体に扱えるようにしたものである。また、ピニオンシャフト13の入力軸には、主動歯車52を取り付ける。ピニオンシャフト13の出力軸には、トルクセンサ41の磁気ヨークを取り付ける。この状態で、ピニオンシャフト13の先端部にTAS24の部分組立品を挿通する。
【0027】
これに伴い、従動歯車53,54は主動歯車52に対してピニオンシャフト13の軸方向に沿って近接する。やがて、センサハウジング31の底部31aがギヤハウジング17の取付孔17aに嵌合するとともに、センサハウジング31における底部31aの周縁部分に設けられた段差部31bがギヤハウジング17の取付孔17aの周縁部分に当接する。また、このタイミングで、従動歯車53,54の歯と主動歯車52の歯とが噛み合う。この状態でセンサハウジング31の締付部にボルトを挿入してギヤハウジング17に締め付けることにより、TAS24の部分組立品がギヤハウジング17に固定される。以上で、TAS24の組立作業が完了となる。
【0028】
ここで、TAS24を組み立てる際、つぎのようなことが懸念される。すなわち、TAS24の部分組立品をピニオンシャフト13に挿入する際、主動歯車52および2つの従動歯車53,54の回転位置によっては、ピニオンシャフト13の軸方向において従動歯車53,54の歯が主動歯車52の歯に干渉するおそれがある。
【0029】
そこで、本実施の形態では、センサハウジング31に対する従動歯車53,54の支持構造として、つぎの構成を採用している。
<従動歯車の支持構造>
図5に示すように、従動歯車53は、円板状の歯車部71および円柱状の磁石保持部72を有している。磁石保持部72の外径は、歯車部71の外径よりも小さく設定されている。磁石保持部72は、歯車部71における基板61側(図5における紙面手前側)の側面の中央に設けられている。歯車部71の外周面には複数の歯71aが設けられている。磁石保持部72の基板61側の側面には、円筒状の保持穴72aが設けられている。保持穴72aには永久磁石57が嵌め込まれている。また、従動歯車54は、従動歯車53と同様に、歯車部73および磁石保持部74を有している。歯車部73の外周面には、複数の歯73aが設けられている。磁石保持部74における基板61側の側面に設けられた保持穴74aには、永久磁石58が嵌め込まれている。
【0030】
図2に示すように、従動歯車53の各歯71aにおける基板61側の端部には、傾斜面71bが設けられている。傾斜面71bは、基板61側へ向かうにつれて互いに近接するように傾斜している。従動歯車54は、従動歯車53と同様の構成を有している。すなわち、図2に括弧書きの参照符号で示すように、従動歯車54の各歯73aにおける基板61側の端部には、傾斜面73bが設けられている。傾斜面73bは、基板61側へ向かうにつれて互いに近接するように傾斜している。また、主動歯車52の各歯52aにおけるギヤハウジング17と反対側(図2における上側)の端部には、傾斜面52bが設けられている。傾斜面52bは、ギヤハウジング17と反対側へ向かうにつれて互いに近接するように傾斜している。
【0031】
図5に示すように、センサハウジング31(収容室33)の内部において、従動歯車53,54は、矩形板状の支持部材55を介して回転可能に支持されている。支持部材55は、その長側面が主動歯車52の接線に沿って延びる姿勢で収容室33の内部に取り付けられている。支持部材55は、2つの支持孔81,82を有している。支持孔81,82は、支持部材55における2つの短側面55a,55b(図5中の上面および下面)と、主動歯車52側の長側面55c(図5中の右側面)とが交わる2つの角部55d,55eに設けられている。支持孔81,82は、主動歯車52の半径方向に沿って延びる長孔である。また、支持孔81,82は、主動歯車52から離れるにつれて互いに離間するように設けられている。
【0032】
図2に示すように、従動歯車53,54の磁石保持部72,74は、支持孔81,82に挿入されている。従動歯車53,54の磁石保持部72,74は、支持部材55に形成された支持孔81,82に向かって基板61が存在する側ではなくその反対側(図2中の上側)から挿入されている。従動歯車53,54の基板61側への移動は、従動歯車53,54の歯車部71,73が支持部材55の基板61と反対側の側面(図2中の上面)に当接することにより規制される。これにより、磁石保持部72,74の先端(歯車部71,73と反対側の端部)は、基板61に設けられた磁気センサ62,63に対して対向した状態に維持される。
【0033】
従動歯車53,54は、歯車部71,73を介して支持部材55に対して摺動回転可能である。また、従動歯車53,54は、支持孔81,82に沿って移動可能である。従動歯車53,54は、第1の位置と第2の位置との間を移動する。第1の位置とは、磁石保持部72,74が支持孔81,82の第1の端部(主動歯車52に近い側の端部)に係合する位置をいう。第2の位置とは、磁石保持部72,74が支持孔81,82の第2の端部(主動歯車52から遠い側の端部)に係合する位置をいう。
【0034】
支持部材55には、基板61と反対側から板状のストッパ83が装着されている。ストッパ83は、従動歯車53,54の基板61と反対側の側面(図2中の上面)を覆っている。従動歯車53,54の基板61と反対側への移動は、歯車部71,73がストッパ83に当接することにより規制される。従動歯車53,54は、歯車部71,73を介してストッパ83に対して摺動回転可能である。
【0035】
図3に示すように、支持部材55における基板61と反対側(図3における紙面手前側)の側面には、円柱状の支持部84が設けられている。支持部84は、支持部材55の長辺方向における2つの支持孔81,82の間に位置している。支持部84には、ねじりコイルばね85が装着されている。
【0036】
図5に示すように、ねじりコイルばね85は、コイル部85a、第1の腕部85b、および第2の腕部85cを有している。コイル部85aは支持部84に挿入されている。第1の腕部85bは、従動歯車53の磁石保持部72における主動歯車52と反対側の部位に係合している。第2の腕部85cは、従動歯車54の磁石保持部74における主動歯車52と反対側の部位に係合している。従動歯車53,54は、ねじりコイルばね85の弾性力によって、主動歯車52に近接する方向へ向けて常に付勢される。従動歯車53,54の主動歯車52に近接する方向へ向けた移動は、磁石保持部72,74が支持孔81,82の第1の端部(主動歯車52に近い側の端部)に係合することにより規制される。
【0037】
<実施の形態の作用>
つぎに、従動歯車53,54の支持構造による作用を説明する。
TAS24の部分組立品をピニオンシャフト13に挿入する際、主動歯車52および従動歯車53,54の回転方向において、主動歯車52の歯52aと従動歯車53,54の歯溝(歯と歯との間の溝)とが互いに一致しているとき、主動歯車52の歯52aは、ピニオンシャフト13の軸方向において従動歯車53,54の歯溝に円滑に進入する。すなわち、主動歯車52の歯52aと従動歯車53,54の歯71a,73aとが互いに噛み合う状態となる。
【0038】
これに対し、TAS24の部分組立品をピニオンシャフト13に挿入する際、主動歯車52および従動歯車53,54の回転方向において、主動歯車52の歯52aと従動歯車53,54の歯溝とが互いに一致していないとき、つぎのような事象が発生する。
【0039】
すなわち、図6(a)に示すように、TAS24の部分組立品をピニオンシャフト13に挿入するにつれて、従動歯車53,54の歯71a,73aは主動歯車52の歯52aに近接する。やがて、従動歯車53,54における歯71a,73aの傾斜面71b,73bは、主動歯車52における歯52aの傾斜面52bに対して、ピニオンシャフト13の軸方向において当接する。
【0040】
図6(b)に示すように、TAS24の部分組立品がピニオンシャフト13にさらに押し込まれると、歯71a,73aの傾斜面71b,73bと歯52aの傾斜面52bとの係合を通じて、従動歯車53,54に作用するピニオンシャフト13の軸方向に沿った方向の力(TAS24の部分組立品をピニオンシャフト13に挿入しようとする力)が、従動歯車53,54の主動歯車52から離間する方向へ向けた力に変換される。これは、ギヤハウジング17に支持されたピニオンシャフト13、ひいては主動歯車52は、その半径方向へ向けて移動することができないからである。このため、歯71a,73aの傾斜面71b,73bが歯52aの傾斜面52bによって主動歯車52の側方へ向けて案内されつつ、従動歯車53,54は、ねじりコイルばね85の弾性力に抗して、主動歯車52から離間する方向へ向けて移動する。
【0041】
従動歯車53,54の傾斜面71b,73bが主動歯車52の傾斜面52bから外れる位置まで従動歯車53,54が主動歯車52から離れた以降、TAS24の部分組立品がピニオンシャフト13に挿入されるにつれて、従動歯車53,54はTAS24の部分組立品の挿入方向(図6中の下方)へ向けて移動する。やがて従動歯車53,54は、各々の歯71a,73aと主動歯車52の歯52aとが半径方向において対応する位置まで移動する。この移動中においても、従動歯車53,54は、ねじりコイルばね85の弾性力により主動歯車52に近接する方向へ向けて付勢される。このため、従動歯車53,54の歯71a,73aが主動歯車52の歯溝に対応していない場合、従動歯車53,54の歯71a,73aは、主動歯車52の歯52aに対して摺動(接触)する。この過程において、従動歯車53,54の回転位置が変化して、従動歯車53,54の歯71a,73aが主動歯車52の歯溝に対応するに至ったとき、従動歯車53,54は、ねじりコイルばね85の弾性力により、主動歯車52に近接する方向へ向けて移動する。
【0042】
そして、図6(c)に示すように、従動歯車53,54の歯71a,73aが主動歯車52の歯溝にその半径方向から進入することにより、従動歯車53,54の歯71a,73aと主動歯車52の歯52aとが回転方向において互いに噛み合う状態に至る。
【0043】
このように、TAS24の部分組立品をピニオンシャフト13に挿入する際、ピニオンシャフト13の軸方向において従動歯車53,54の歯が主動歯車52の歯に干渉する場合であれ、TAS24の部分組立品をピニオンシャフト13に挿入するだけで、TAS24を従動歯車53,54と主動歯車52とが噛み合う適切な状態でギヤハウジング17に取り付けることができる。TAS24をピニオンシャフト13に挿入する途中で、従動歯車53,54の回転位置を調整するなどの手間がない。
【0044】
<実施の形態の効果>
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)TAS24の部分組立品をピニオンシャフト13に挿入する際、ピニオンシャフト13の軸方向において従動歯車53,54の歯が主動歯車52の歯に干渉する場合、従動歯車53,54の傾斜面71b,73bと主動歯車52の傾斜面52bとの係合を通じて、従動歯車53,54は主動歯車52から離れる方向へ向けて移動する。これにより、主動歯車52の歯52aあるいは従動歯車53,54の歯71a,73aが損傷することを抑えつつ、TAS24の部分組立品をピニオンシャフト13に対して、さらに押し込むことが可能となる。そして、従動歯車53,54の歯71a,73aが主動歯車52の歯溝(歯52aと歯52aとの間の部分)に対応する位置まで、TAS24の部分組立品がピニオンシャフト13に挿入されたとき、従動歯車53,54が、ねじりコイルばね85の弾性力によって、主動歯車52に近づく方向へ向けて移動する。これにより、従動歯車53,54の歯71a,73aが主動歯車52の歯52aに噛み合った状態に至る。したがって、TAS24の組立作業(ピニオンシャフト13に対するTAS24の部分組立品の挿入作業)が従動歯車53,54の歯と主動歯車52の歯との干渉によって阻害されることがないため、TAS24の組立作業を円滑に行うことができる。
【0045】
(2)TAS24の組立時、ピニオンシャフト13の軸方向において従動歯車53,54が主動歯車52に干渉する場合、従動歯車53,54の傾斜面71b,73bと主動歯車52の傾斜面52bとの係合を通じて、従動歯車53,54に作用するピニオンシャフト13の軸方向に沿った方向の力(ピニオンシャフト13の軸方向と平行な軸方向の力)が従動歯車53,54の主動歯車52から離れる方向への力に変換される。従動歯車53,54に傾斜面71b,73bを、主動歯車52に傾斜面52bを設けるだけでよいので、従動歯車53,54および主動歯車52の構成の簡素化、ひいてはTAS24の構成の簡素化が図られる。
【0046】
(3)2つの従動歯車53,54は、ねじりコイルばね85の第1の腕部85bおよび第2の腕部85cによって主動歯車52へ向けて常時付勢される。単一のねじりコイルばね85を設けるだけでよいので、TAS24の部品点数の増大を抑えることができる。
【0047】
(4)センサハウジング31の内部には、トルクセンサ41および回転角センサ51が設けられている。このため、単一のセンサ(TAS24)によって、ピニオンシャフト13の回転角度のみならず、ピニオンシャフト13に作用するトルクを検出することができる。
【0048】
(5)TAS24の回転角センサ51は、主動歯車52の回転角度の検出を、この主動歯車52に噛み合う2つの従動歯車53,54の回転を検出することにより行う。このため、とくに主動歯車52が回転動作を開始する場合、あるいは回転方向が反転する場合、主動歯車52と従動歯車53との間、および主動歯車52と従動歯車54との間の二箇所の隙間(バックラッシ)に起因するがたつきが、主動歯車52の回転角度の演算精度に影響を及ぼすおそれがある。この点、本実施の形態によれば、TAS24の組み立てが完了した状態において、従動歯車53,54は、ねじりコイルばね85の弾性力によって、主動歯車52に対して押し付けられた状態に維持される。このため、従動歯車53,54の歯71a,73aと主動歯車52の歯52aとの間の隙間を、より小さくすることが可能である。また、隙間(バックラッシ)に起因するがたつきが抑制される分だけ、主動歯車52の回転角度の演算精度が向上する。
【0049】
<他の実施の形態>
なお、本実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・主動歯車52として傾斜面52bを割愛した構成、あるいは従動歯車53,54として傾斜面71b,73bを割愛した構成を採用してもよい。主動歯車52および従動歯車53,54の少なくとも一方に傾斜面が存在すればよい。このようにしても、TAS24の組立時において、ピニオンシャフト13の軸方向において従動歯車53,54の歯71a,73aが主動歯車52の歯52aに干渉するとき、従動歯車53,54に作用するピニオンシャフト13の軸方向に沿った方向の力を従動歯車53,54の主動歯車52から離れる方向へ向けた力に変換することができる。
【0050】
・主動歯車52として、傾斜面52bに代えて円弧状の曲面を有する構成を採用してもよい。また、従動歯車53,54として、傾斜面71b,73bに代えて円弧状の曲面を有する構成を採用してもよい。このようにしても、TAS24の組立時において、ピニオンシャフト13の軸方向において従動歯車53,54の歯71a,73aが主動歯車52の歯52aに干渉するとき、従動歯車53,54に作用するピニオンシャフト13の軸方向に沿った方向の力を従動歯車53,54の主動歯車52から離れる方向へ向けた力に変換することができる。
【0051】
・本実施の形態では、センサとしてTAS24を例に挙げたが、TAS24からトルクセンサ41を割愛した純粋な回転角センサ51であってもよい。この純粋な回転角センサ51においても、TAS24と同様の課題を有する。
【0052】
・TAS24あるいは先の純粋な回転角センサとして、単一の従動歯車53または従動歯車54を有する構成を採用してもよい。また、TAS24あるいは先の純粋な回転角センサとして、3つあるいはそれ以上の従動歯車を有する構成を採用してもよい。
【0053】
・本実施の形態では、TAS24あるいは先の純粋な回転角センサの搭載先として車両の操舵装置を例に挙げたが、シャフト(回転軸)を有する他の車載装置に適用してもよい。また、TAS24あるいは先の純粋な回転角センサは、車載用途に限らない。
【符号の説明】
【0054】
13…ピニオンシャフト(シャフト)、31…センサハウジング、52…主動歯車、53,54…従動歯車、24…トルクアングルセンサ(センサ)、41…トルクセンサ、71,73…歯車部、52b…変換機構を構成する主動歯車の傾斜面、71b,73b…変換機構を構成する従動歯車の傾斜面、72,74…磁石保持部(軸部)、85…ねじりコイルばね(付勢部材)、85a…コイル部、85b…第1の腕部、85c…第2の腕部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6