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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-04
(45)【発行日】2023-04-12
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/00 20160101AFI20230405BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20230405BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20230405BHJP
   H02P 6/16 20160101ALI20230405BHJP
【FI】
H02P29/00
B62D6/00
B62D5/04
H02P6/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019092350
(22)【出願日】2019-05-15
(65)【公開番号】P2020188607
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】蔵座 翔太
(72)【発明者】
【氏名】中島 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】藤田 祐志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊博
(72)【発明者】
【氏名】パランドレ ザビエ
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-210495(JP,A)
【文献】特開2017-019443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 4/00
H02P 21/00-25/03
H02P 25/04
H02P 25/08-31/00
H02P 6/00-6/34
B62D 6/00
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源であるモータおよび当該モータに連動して回転する回転検出対象を含む、互いに連動する複数の構成要素を有する機械装置の前記モータを前記回転検出対象の位置に応じて制御するモータ制御装置であって、
前記機械装置に設けられる相対角センサを通じて検出される前記機械装置の第1の構成要素の相対回転角と、前記機械装置に設けられる絶対角センサを通じて検出される前記機械装置の第2の構成要素の絶対回転角を前記第1の構成要素の回転数に換算した回転数換算値とを使用して前記回転検出対象の絶対回転角を演算する演算回路を有し、
前記演算回路は、前記第1の構成要素の相対回転角と、前記回転数換算値を求める際に得られる前記第1の構成要素の相対回転角に対応する回転角対応値を前記第1の構成要素の相対回転角に換算した回転角換算値との差が前記第1の構成要素の半回転以内であること、および前記第1の構成要素の相対回転角が正しいことを前提として、前記第1の構成要素の相対回転角と前記回転角換算値との比較に基づき、前記回転数換算値を補正する補正処理部を有しているモータ制御装置。
【請求項2】
前記演算回路は、前記第1の構成要素と前記第2の構成要素との間の減速比に基づき前記第2の構成要素の絶対回転角を前記第1の構成要素の相対回転角に換算した第1の回転角換算値を演算する第1の換算部と、
前記第1の回転角換算値を前記第1の構成要素の1回転分の回転角である360°で除することにより前記回転数換算値を演算する第2の換算部と、を有し、
前記補正処理部は、前記回転数換算値を前記第1の構成要素の回転数に対応する整数部分と、前記第1の構成要素の相対回転角に対応する前記回転角対応値としての小数部分とに分離する第1の処理部と、
前記の前提を踏まえて、前記第1の構成要素の相対回転角と、前記小数部分を前記第1の構成要素の相対回転角に変換した第2の回転角換算値との比較に基づき、前記整数部分に対する補正値を演算する第2の処理部と、
前記整数部分の値と前記補正値とを加算することにより、前記回転検出対象の絶対回転角の演算に使用される前記第1の構成要素の最終的な回転数を演算する第3の処理部と、を有している請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記演算回路は、前記相対角センサを通じて検出される前記第1の構成要素の相対回転角に基づき前記第1の構成要素の回転数を演算する回転数演算部と、
前記補正処理部により演算される最終的な回転数から、前記回転数演算部により演算される前記第1の構成要素の回転数を減算することにより、前記回転数演算部により演算される前記第1の構成要素の回転数に対する補正値を演算する減算器と、
前記相対角センサを通じて検出される前記第1の構成要素の相対回転角、および前記回転数演算部により演算される前記第1の構成要素の回転数に前記補正値を反映させた後の前記第1の構成要素の最終的な回転数に基づき、前記回転検出対象の絶対回転角を演算する絶対角演算部と、を有している請求項1または請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記第1の構成要素は、車両の操舵機構に付与される操舵方向と同方向のトルクである操舵補助力を発生するアシストモータであり、
前記第2の構成要素は、車両の転舵輪を転舵させる転舵シャフトに噛み合うピニオンシャフトであり、
前記回転検出対象は、前記転舵シャフトに前記ピニオンシャフトを介して連結されたステアリングシャフトである請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記第1の構成要素は、車両の転舵輪を転舵させる転舵シャフトとの間の動力伝達が分離されたステアリングシャフトに付与される操舵方向と反対方向のトルクである操舵反力を発生する反力モータであり、
前記第2の構成要素は、前記転舵シャフトに噛み合うピニオンシャフトであり、
前記回転検出対象は、前記ステアリングシャフトである請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記第1の構成要素は、車両の転舵輪を転舵させる転舵シャフトに付与される前記転舵輪を転舵させるための転舵力を発生する転舵モータであり、
前記第2の構成要素は、前記転舵シャフトに噛み合う第1のピニオンシャフトであり、
前記回転検出対象は、前記転舵シャフトに噛み合う第2のピニオンシャフトである請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の操舵機構にモータのトルクを付与することにより操舵を補助する電動パワーステアリング装置(以下、「EPS」という。)が知られている。EPSの制御装置は、トルクセンサを通じて検出される操舵トルクに応じて、モータに供給する電流を制御する。また、制御装置は、絶対角度センサを通じて検出されるステアリングシャフトの回転角度である操舵角に基づき、ステアリングホイールを中立位置に復帰させるステアリング戻し制御などの補償制御を実行する。
【0003】
ステアリングシャフトなどの回転軸の絶対角度を検出するセンサとしては、つぎのようなものが存在する。たとえば特許文献1のセンサは、回転軸の回転を、減速機構を介して減速部材の回転に変換し、この変換される減速部材の回転を検出部により検出する。検出部は減速部材の回転に応じた電気信号を生成する。減速機構の減速比が「1/L」である場合、減速部材の1回転は回転軸のL回転に相当する。このため、検出部により生成される電気信号に基づき、回転軸のL回転以内の絶対角度を検出することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-57236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のセンサを含め回転軸の回転を他の部材の回転に変換し、この他の部材の回転に基づき回転軸の絶対角度を求めるタイプのセンサにおいては、減速機構を含め回転軸の回転を他の部材の回転に変換する変換機構を設ける必要がある。このため、変換機構における各構成部材の寸法公差または組み立て公差に起因して、回転軸の絶対角度の検出精度が低下するおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、回転検出対象の絶対回転角の検出精度を確保することができるモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成し得るモータ制御装置は、動力源であるモータおよび当該モータに連動して回転する回転検出対象を含む、互いに連動する複数の構成要素を有する機械装置の前記モータを前記回転検出対象の位置に応じて制御する。モータ制御装置は、前記機械装置に設けられる相対角センサを通じて検出される前記機械装置の第1の構成要素の相対回転角と、前記機械装置に設けられる絶対角センサを通じて検出される前記機械装置の第2の構成要素の絶対回転角を前記第1の構成要素の回転数に換算した回転数換算値とを使用して前記回転検出対象の絶対回転角を演算する演算回路を有している。前記演算回路は、前記第1の構成要素の相対回転角と、前記回転数換算値を求める際に得られる前記第1の構成要素の相対回転角に対応する回転角対応値を前記第1の構成要素の相対回転角に換算した回転角換算値との差が前記第1の構成要素の半回転以内であること、および前記第1の構成要素の相対回転角が正しいことを前提として、前記第1の構成要素の相対回転角と前記回転角換算値との比較に基づき、前記回転数換算値を補正する補正処理部を有している。
【0008】
この構成によれば、絶対角センサを通じて検出される第2の構成要素の絶対回転角に基づき第1の構成要素の回転数に相当する回転数換算値を得ることができる。絶対角センサは、機械装置の電源がオフからオンへ切り替えられたとき、即時に第2の構成要素の絶対回転角を検出することができる。このため、機械装置の電源がオフからオンへ切り替えられたとき、第2の構成要素の絶対回転角を検出する際の基準位置に対応する第1の構成要素の基準位置を基準とした第1の構成要素の回転数に相当する回転数換算値を即時に演算することができる。したがって、機械装置の電源がオフされている期間、第1の構成要素の回転数を監視する必要がない。このため、機械装置の電源がオフされている期間における消費電力を抑えることができる。また、機械装置の電源がオフからオンへ切り替えられたとき、第1の構成要素の基準位置を基準とした第1の構成要素の回転数に相当する回転数換算値が即時に得られることにより、この第1の構成要素の回転数に相当する回転数換算値、および相対角センサを通じて検出される第1の構成要素の回転角に基づき、回転検出対象の絶対回転角を即時に得ることができる。
【0009】
ところが、機械装置における各構成要素の寸法公差あるいは組み立て公差などに起因して、第1の構成要素の回転数に相当する回転数換算値が第1の構成要素の実際の回転数と異なる値になることが懸念される。この場合、実際の回転数と異なる回転数換算値を使用することにより、回転検出対象の絶対回転角の検出精度が低下するおそれがある。
【0010】
この点、上記の構成では、第1の構成要素の相対回転角と、回転角対応値を第1の構成要素の相対回転角に換算した回転数換算値との比較に基づき、第1の構成要素の回転数に相当する回転数換算値を補正する。これにより、第1の構成要素の実際の回転数に相当する正しい回転数換算値が得られる。そして、この正しい回転数換算値を使用することにより、回転検出対象の正しい絶対回転角を得ることができる。したがって、回転検出対象の絶対回転角の検出精度を確保することができる。ただし、補正処理部による補正は、第1の構成要素の相対回転角と、回転角対応値を第1の構成要素の相対回転角に換算した回転角換算値との差が第1の構成要素の半回転以内であること、および第1の構成要素の相対回転角が正しいことを前提として行われる。
【0011】
ここで、たとえば相対角センサを通じて検出される第1の構成要素の回転角が第1の構成要素のn-1回転目における角度であるのに対し、回転角対応値を第1の構成要素の相対回転角に換算した回転角換算値が第1の構成要素のn回転目における角度である場合について検討する。
【0012】
この場合、相対角センサを通じて検出される第1の構成要素の回転角の位置からみて、回転角対応値を第1の構成要素の相対回転角に換算した回転角換算値が、第1の構成要素のn-1回転目の値なのかn回転目の値なのか不明となることが考えられる。しかし、上記の構成によるように、ここでは相対角センサを通じて検出される第1の構成要素の回転角と、回転角対応値を第1の構成要素の相対回転角に換算した回転角換算値との差が、第1の構成要素の半回転以内の値に収まることを前提としている。このため、回転角対応値を第1の構成要素の相対回転角に換算した回転角換算値が、第1の構成要素のn-1回転目の角度なのかn回転目の角度なのかを特定することが可能である。
【0013】
ここでは、一例としてつぎの状況を仮定する。すなわち、第1の構成要素のn-1回転目における角度は、相対角センサを通じて検出される第1の構成要素の回転角を基準とする第1の構成要素の半回転の範囲から外れた角度である。これに対して、第1の構成要素のn回転目における角度は、相対角センサを通じて検出される第1の構成要素の回転角を基準とする第1の構成要素の半回転の範囲内の角度である。このため、回転角対応値を第1の構成要素の相対回転角に換算した回転角換算値は、第1の構成要素のn-1回転目の角度ではなく、第1の構成要素のn回転目の角度であることが分かる。そして、上記の構成では、相対角センサを通じて検出される第1の構成要素の回転角が正しいことを前提としているため、実際に演算される第1の構成要素の回転数に相当する回転数換算値から1だけ減算することにより、正しい回転数換算値を得ることができる。
【0014】
上記のモータ制御装置において、前記演算回路は、第1の換算部と第2の換算部とを有していることが好ましい。第1の換算部は、前記第1の構成要素と前記第2の構成要素との間の減速比に基づき前記第2の構成要素の絶対回転角を前記第1の構成要素の相対回転角に換算した第1の回転角換算値を演算する。第2の換算部は、前記第1の回転角換算値を前記第1の構成要素の1回転分の回転角である360°で除することにより前記回転数換算値を演算する。また、前記補正処理部は、第1の処理部、第2の処理部、および第3の処理部を有していることが好ましい。第1の処理部は、前記回転数換算値を前記第1の構成要素の回転数に対応する整数部分と、前記第1の構成要素の相対回転角に対応する前記回転角対応値としての小数部分とに分離する。第2の処理部は、前記の前提を踏まえて、前記第1の構成要素の相対回転角と、前記小数部分を前記第1の構成要素の相対回転角に変換した第2の回転角換算値との比較に基づき、前記整数部分に対する補正値を演算する。第3の処理部は、前記整数部分の値と前記補正値とを加算することにより、前記回転検出対象の絶対回転角の演算に使用される前記第1の構成要素の最終的な回転数を演算する。
【0015】
上記のモータ制御装置において、前記演算回路は、回転数演算部と、減算器と、絶対角演算部と、を有していてもよい。回転数演算部は、前記相対角センサを通じて検出される前記第1の構成要素の相対回転角に基づき前記第1の構成要素の回転数を演算する。減算器は、前記補正処理部により演算される最終的な回転数から、前記回転数演算部により演算される前記第1の構成要素の回転数を減算することにより、前記回転数演算部により演算される前記第1の構成要素の回転数に対する補正値を演算する。絶対角演算部は、前記相対角センサを通じて検出される前記第1の構成要素の相対回転角、および前記回転数演算部により演算される前記第1の構成要素の回転数に前記補正値を反映させた後の前記第1の構成要素の最終的な回転数に基づき、前記回転検出対象の絶対回転角を演算する。
【0016】
上記のモータ制御装置において、前記第1の構成要素は、車両の操舵機構に付与される操舵方向と同方向のトルクである操舵補助力を発生するアシストモータであり、前記第2の構成要素は、車両の転舵輪を転舵させる転舵シャフトに噛み合うピニオンシャフトであり、前記回転検出対象は、前記転舵シャフトに前記ピニオンシャフトを介して連結されたステアリングシャフトであってもよい。
【0017】
上記のモータ制御装置において、前記第1の構成要素は、車両の転舵輪を転舵させる転舵シャフトとの間の動力伝達が分離されたステアリングシャフトに付与される操舵方向と反対方向のトルクである操舵反力を発生する反力モータであり、前記第2の構成要素は、前記転舵シャフトに噛み合うピニオンシャフトであり、前記回転検出対象は、前記ステアリングシャフトであってもよい。
【0018】
上記のモータ制御装置において、前記第1の構成要素は、車両の転舵輪を転舵させる転舵シャフトに付与される前記転舵輪を転舵させるための転舵力を発生する転舵モータであり、前記第2の構成要素は、前記転舵シャフトに噛み合う第1のピニオンシャフトであり、前記回転検出対象は、前記転舵シャフトに噛み合う第2のピニオンシャフトであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のモータ制御装置によれば、回転検出対象の絶対回転角の検出精度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】モータ制御装置の第1の実施の形態が搭載される操舵装置の構成図。
図2】モータ制御装置の第1の実施の形態のブロック図。
図3】比較例における演算回路のブロック図。
図4】第1の実施の形態における演算回路のブロック図。
図5】(a)は相対角センサを通じて検出されるモータの回転角を示す単位円、(b)は絶対角センサを通じて検出されるピニオンシャフトの回転角に基づき演算されるモータの回転数換算値の小数点部分を示す単位円。
図6】(a)は絶対角センサを通じて検出されるピニオンシャフトの回転角に基づき演算されるモータの回転数換算値の小数点部分を示す単位円、(b)は相対角センサを通じて検出されるモータの回転角度を示す単位円。
図7】(a)は絶対角センサを通じて検出されるピニオンシャフトの回転角に基づき演算されるモータの回転数換算値の小数点部分を示す単位円、(b)は相対角センサを通じて検出されるモータの回転角を示す単位円。
図8】第1の実施の形態における操舵角とモータの回転角との関係を示すグラフ。
図9】第1の実施の形態における補正値演算部により実行される補正値の演算処理手順を示すフローチャート。
図10】モータ制御装置の第2の実施の形態が搭載される操舵装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1の実施の形態>
以下、モータ制御装置を車両の操舵装置に適用した第1の実施の形態を説明する。
図1に示すように、車両の操舵装置10は、ステアリングホイール11に連結されたステアリングシャフト12を有している。ステアリングシャフト12におけるステアリングホイール11と反対側の端部には、ピニオンシャフト13が設けられている。ピニオンシャフト13のピニオン歯13aは、ピニオンシャフト13に対して交わる方向へ延びる転舵シャフト14のラック歯14aに噛み合わされている。転舵シャフト14の両端には、それぞれタイロッド15,15を介して左右の転舵輪16,16が連結されている。ステアリングシャフト12、ピニオンシャフト13および転舵シャフト14は、車両の操舵機構を構成する。
【0022】
操舵装置10は、操舵補助力(アシスト力)を生成するための構成として、アシストモータ21、減速機構22、ピニオンシャフト23、相対角センサ24、トルクアングルセンサ(以下、「TAS25」という。)、および制御装置26を有している。
【0023】
アシストモータ21は、操舵補助力の発生源であって、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。アシストモータ21は、減速機構22を介してピニオンシャフト23に連結されている。ピニオンシャフト23のピニオン歯23aは、転舵シャフト14のラック歯14bに噛み合わされている。アシストモータ21の回転は減速機構22によって減速されるとともに、当該減速された回転力が操舵補助力としてピニオンシャフト23から転舵シャフト14を介してピニオンシャフト13に伝達される。
【0024】
相対角センサ24は、アシストモータ21に設けられている。相対角センサ24は、アシストモータ21の回転角θを0°から360°までの範囲の相対角で検出する。相対角センサ24としては、たとえばホールセンサあるいはMRセンサ(磁気抵抗効果センサ)などの磁気センサ、またはレゾルバなどの種々のタイプが採用される。
【0025】
TAS25は、ピニオンシャフト13に設けられている。TAS25は、絶対角センサ25aとトルクセンサ25bとが組み合わせられてなる。トルクセンサ25bは、ステアリングホイール11の回転操作を通じてピニオンシャフト13に加わるトルクを操舵トルクTとして検出する。
【0026】
絶対角センサ25aは、ピニオンシャフト13の360°を超える範囲の回転角θpaを絶対角で検出する。絶対角センサ25aとしては、たとえばピニオンシャフト13と一体回転する主動歯車の回転を、この主動歯車に噛み合う2つの従動歯車の回転角に変換し、これら2つの従動歯車の回転角に基づき主動歯車の回転角を絶対角で求めるタイプが採用される。絶対角センサ25aは、車両の直進状態に対応するステアリングホイール11の操舵中立位置(θ=0°)または転舵シャフト14の転舵中立位置(θ=0°)を基準としてピニオンシャフト13の回転角θpaを演算する。このため、ピニオンシャフト13の回転角θpaは、ステアリングホイール11が操舵中立位置に対応する0°を基準として正方向へ回転するときにはプラス方向へ向けて増大し、逆方向へ回転するときにはマイナス方向へ向けて増大する。
【0027】
ちなみに、操舵装置10において、ステアリングホイール11、ステアリングシャフト12およびピニオンシャフト13は一体的に回転する。このため、ピニオンシャフト13の回転角θpaは、ステアリングホイール11の回転角である操舵角θと等しい値となる。
【0028】
制御装置26は、TAS25のトルクセンサ25bを通じて検出される操舵トルクT、および車両に設けられる車速センサ27を通じて検出される車速Vを取り込む。制御装置26は、アシストモータ21に対する通電制御を通じて操舵トルクTおよび車速Vに応じた操舵補助力(アシスト力)を発生させるアシスト制御を実行する。
【0029】
制御装置26は、TAS25の絶対角センサ25aを通じて検出されるピニオンシャフト13の回転角θpaを操舵角θとして取り込む。また、制御装置26は相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θを取り込む。制御装置26は、操舵角θを使用して、より優れた操舵感を実現するための補償制御を実行する。
【0030】
ここで、TAS25の絶対角センサ25aは、アシストモータ21の回転角θを検出する相対角センサに比べて分解能が低いことがある。このため、制御装置26は、相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θ、およびTAS25の絶対角センサ25aを通じて検出されるピニオンシャフト13の回転角θpaを使用して操舵角θを絶対角で演算し、この演算される操舵絶対角を使用して先の補償制御などを実行する。
【0031】
つぎに、制御装置26について詳細に説明する。
図2に示すように、制御装置26は、演算回路31、駆動回路32、およびマイクロコンピュータ33を有している。
【0032】
演算回路31、駆動回路32、およびマイクロコンピュータ33には、エンジンなどの車両の走行用駆動源を作動させる際に操作される電源スイッチがオンされたことを契機として車載されるバッテリから動作電力が供給される。相対角センサ24、TAS25、および車速センサ27を含む各種の車載センサについても、電源スイッチがオンされたことを契機としてバッテリから動作電力が供給される。
【0033】
演算回路31は、相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θ、およびTAS25の絶対角センサ25aを通じて検出されるピニオンシャフト13の回転角θpaを取り込み、これら取り込まれる回転角θ,θpaを使用して、360°を超える範囲の操舵角θを絶対角で演算する。演算回路31については、後に詳述する。
【0034】
駆動回路32は、直列に接続された2つの電界効果型トランジスタ(FET)などのスイッチング素子を基本単位であるレグとして、三相(U,V,W)の各相に対応する3つのレグが並列接続されてなるPWMインバータである。駆動回路32は、マイクロコンピュータ33により生成される制御信号Sに基づいて、バッテリから供給される直流電力を三相交流電力に変換する。当該三相交流電力は各相の給電経路を介してアシストモータ21へ供給される。
【0035】
マイクロコンピュータ33は、操舵トルクTおよび車速Vに基づき目標アシスト力を演算し、この目標アシスト力をアシストモータ21に発生させるために必要とされる電流の目標値である電流指令値を演算する。マイクロコンピュータ33は、アシストモータ21へ供給される実際の電流値を電流指令値に追従させる電流のフィードバック制御の実行を通じて、駆動回路32に対する制御信号Sを生成する。この制御信号Sは、駆動回路32の各スイッチング素子のデューティ比を規定する。駆動回路32の各スイッチング素子が制御信号Sに基づきスイッチングすることによって、アシストモータ21には電流指令値に応じた電流が供給される。これにより、アシストモータ21は目標アシスト力に応じた回転力を発生する。
【0036】
つぎに、演算回路31について詳細に説明する。演算回路31としては、たとえばつぎの比較例としての構成を採用することが考えられる。
図3に示すように、演算回路31は、第1の換算部41、第2の換算部42、回転数演算部43、減算器44、および絶対角演算部45を有している。
【0037】
第1の換算部41は、TAS25の絶対角センサ25aを通じて検出されるピニオンシャフト13の回転角θpaをアシストモータ21の回転角に換算した換算値θmpを演算する。ピニオンシャフト13とアシストモータ21とは、転舵シャフト14、ピニオンシャフト23、および減速機構22を介して連動するため、ピニオンシャフト13の回転角θpaとアシストモータ21の回転角θとの間には相関関係がある。したがって、ピニオンシャフト13の回転角θpaに基づき、アシストモータ21の回転角を求めることができる。
【0038】
第1の換算部41は、たとえば次式(A)に基づき換算値θmpを演算する。
θmp=θpa・G …(A)
ただし、「G」は、ピニオンシャフト13から減速機構22までの減速比である。
【0039】
第2の換算部42は、たとえば次式(B)に基づき、第1の換算部41により演算される換算値θmpをアシストモータ21の回転数に換算した換算値Nmpを演算する。
mp=θmp/360° …(B)
ただし、「360°」は、アシストモータ21が1回転するときの回転角である。
【0040】
回転数演算部43は、相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θに基づき、アシストモータ21の回転数Nを演算する。回転数演算部43は、たとえば相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θが360°を超えるごとにアシストモータ21の回転数Nをカウントアップする。回転数演算部43は、車両の電源スイッチがオフからオンへ切り替えられたとき、アシストモータ21の回転数Nを0回転からカウントする。
【0041】
減算器44は、次式(C)で表されるように、第2の換算部42により演算される換算値Nmpから回転数演算部43により演算されるアシストモータ21の回転数Nを減算することによって、当該回転数Nに対する補正値Nを演算する。
【0042】
=Nmp-N …(C)
第2の換算部42により演算されるアシストモータ21の回転角に相当する換算値Nmpと、回転数演算部43により演算されるアシストモータ21の回転数Nとが同じ値であるとき、補正値Nは「0」となる。車両の電源スイッチがオフされている期間において、ステアリングホイール11に外力が付与されることによりステアリングシャフト12を介してアシストモータ21が回転した場合、その回転は補正値Nとして現れる。補正値Nは、ステアリングシャフト12、ひいてはアシストモータ21の回転方向に応じて正の値になることもあれば、負の値になることもある。
【0043】
絶対角演算部45は、減算器44により演算される補正値Nを使用して、回転数演算部43により演算されるアシストモータ21の回転数Nを補正する。たとえば絶対角演算部45は、次式(D)で表されるように、回転数演算部43により演算されるアシストモータ21の回転数Nに、減算器44により演算される補正値Nを加算することにより、操舵絶対角の演算に使用する最終的な回転数N′を演算する。
【0044】
′=N+N …(D)
ただし、「N」は回転数演算部43により演算されるアシストモータ21の回転数、「N」は減算器44により演算される補正値Nである。
【0045】
減算器44により演算される最終的な回転数N′は、ステアリングホイール11の操舵中立位置または転舵シャフト14の転舵中立位置に対応するアシストモータ21の回転角θ(以下、「モータ中点」という。)を基準とする回転数となる。
【0046】
絶対角演算部45は、補正後の回転数N′および相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θを使用して、操舵角θを絶対角で演算する。絶対角演算部45は、次式(E)で表されるように、アシストモータ21のモータ中点を基準点として、その基準点からのアシストモータ21の回転角θの変化量に基づき、アシストモータ21の回転角θを360°を超える範囲の絶対角で演算し、この演算される回転角θに基づきピニオンシャフト13の回転角θpaを操舵角θとして演算する。
【0047】
θ=θpa=(θ+N′・360°)/G …(E)
ただし、「N′」は減算器44により演算される補正後のアシストモータ21の回転数である。「G」は、ピニオンシャフト13から減速機構22までの範囲における減速比である。この減速比Grを示す情報は制御装置26の図示しない記憶装置に記憶されている。
【0048】
ちなみに、演算回路31として、回転数演算部43および減算器44を割愛した構成を採用することも考えられる。この場合であれ、絶対角演算部45は、第2の換算部42により演算されるアシストモータ21の回転数に相当する換算値Nmp、および相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θに基づき、ピニオンシャフト13の回転角θpaを絶対角で演算することが可能である。この場合、先の式(E)における最終的な回転数N′を第2の換算部42により演算される換算値Nmpに置換する。
【0049】
このように構成した演算回路31によれば、TAS25の絶対角センサ25aを通じて検出されるピニオンシャフト13の回転角θpaに基づき、アシストモータ21の回転数Nに相当する換算値Nmpを得ることができる。絶対角センサ25aは、車両の電源スイッチがオフからオンへ切り替えられたとき、即時にピニオンシャフト13の回転角θpaを絶対角で検出することができる。このため、車両の電源スイッチがオフからオンへ切り替えられたとき、モータ中点を基準とするアシストモータ21の回転数に相当する換算値Nmpについても即時に演算することができる。したがって、車両の電源スイッチがオフされている期間、アシストモータ21の回転数Nを監視する必要がない。このため、車両の電源スイッチがオフされている期間における消費電力を抑えることができる。
【0050】
また、車両の電源スイッチがオフからオンへ切り替えられたとき、回転数演算部43により演算されるアシストモータ21の回転数Nを、第2の換算部42により演算される換算値Nmpを使用して補正することによって、モータ中点を基準としたアシストモータ21の回転数Nが即時に得られる。このモータ中点を基準としたアシストモータ21の回転数N、および相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θに基づき、ピニオンシャフト13の回転角θpa、ひいては操舵角θを絶対角で即時に得ることができる。TAS25の絶対角センサ25aよりも分解能が細かい相対角センサ24の回転角θを使用することにより、ピニオンシャフト13の回転角θpa、ひいては操舵角θの演算精度が確保される。
【0051】
ところが、この演算回路31においては、つぎのことが懸念される。すなわち、アシストモータ21と回転検出対象であるピニオンシャフト13とは、減速機構22、ピニオンシャフト23および転舵シャフト14を介して機械的に連結されている。このため、ピニオンシャフト13の回転角θpaに基づき演算される換算値Nmpが、減速機構22からピニオンシャフト13までの間の動力伝達経路におけるバックラッシあるいは組み立て公差などの影響を受けるおそれがある。そして当該影響を受けることにより、モータ中点を基準とするアシストモータ21の実際の回転数と、ピニオンシャフト13の回転角θpaに基づき得られるアシストモータ21の回転数に相当する換算値Nmpとが異なる値になることが懸念される。この場合、換算値Nmpを使用して演算される補正値N、ひいては絶対角演算部45により演算されるピニオン角の回転角θpaの演算精度が低下するおそれがある。
【0052】
そこで、本実施の形態では、演算回路31として、つぎの構成を採用している。
図4に示すように、演算回路31は、先の第1の換算部41、第2の換算部42、回転数演算部43、減算器44、および絶対角演算部45に加えて、補正処理部50を有している。補正処理部50は、第2の換算部42により演算される換算値Nmpの補正処理を行う。補正処理部50は、分離部51、補正値演算部52、および加算器53を有している。
【0053】
分離部51は、第2の換算部42により演算される換算値Nmpが整数部分と小数部分とからなることを前提として、換算値Nmpの整数部分Nと小数部分Nとを分離する。換算値Nmpの整数部分Nは、アシストモータ21の回転数に相当する。換算値Nmpの小数部分Nは、アシストモータ21の回転角に対応する。すなわち、減速機構22からピニオンシャフト13までの間の動力伝達経路におけるバックラッシあるいは組み立て公差などが無く、かつ先の動力伝達経路の各構成部材が剛体であると仮定した場合、アシストモータ21の回転角θは、次式(F1)で表すことができる。
【0054】
θ=N・360° …(F1)
ただし、「N」は第2の換算部42により演算される換算値Nmpの小数部分である。「360°」はアシストモータ21が1回転したときの回転角である。
【0055】
補正値演算部52は、分離部51により分離される小数部分Nがアシストモータ21の回転角に対応する値であることに着目して、第2の換算部42により演算される換算値Nmpに対する補正値Nを演算する。ただし、補正値演算部52による補正値Nの演算は、相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θと、小数部分Nの値をアシストモータ21の回転角に換算した換算値θnbとの差が、次式(F2)で表されるように、「±180°」の範囲内に収まることを前提として行われる。補正値演算部52については、後に詳述する。
【0056】
-180°<θnb-θ<180° …(F2)
ただし、「180°」はアシストモータ21のモータ中点を基準とする正方向へ向けた半回転分の回転角、「-180°」はアシストモータ21のモータ中点を基準とする逆方向へ向けた半回転分の回転角である。
【0057】
加算器53は、分離部51により分離される整数部分Nに対して、補正値演算部52により演算される補正値Nを加算することにより、操舵中立位置または転舵シャフト14の転舵中立位置に対応するモータ中点を基準としたアシストモータ21の回転数Nを演算する。
【0058】
つぎに、補正値演算部52について詳細に説明する。補正値演算部52は、つぎの観点に基づき補正値Nを演算する。
図5(a)に示すように、相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θの値を円周上にプロットするとき、アシストモータ21の回転角θの値はアシストモータ21の回転に伴い円周上を移動する動点として見ることができる。アシストモータ21がその中立位置であるモータ中点(θ=0°)を基準として正回転するとき、アシストモータ21の回転角θの値は、円周上を図5(a)中の反時計方向へ向けて移動する。アシストモータ21がその中立位置であるモータ中点を基準として逆回転するとき、アシストモータ21の回転角θの値は、円周上を図5(a)中の時計方向へ向けて移動する。図5(a)では、モータ中点を基準とするアシストモータ21の正方向へ向けた1/4回転ごとの角度90°,180°,270°を示す。また、図5(a)では、モータ中点を基準とするアシストモータ21の逆方向へ向けた1/4回転ごとの角度-90°,-180°,-270°を括弧書きで示す。
【0059】
図5(b)に示すように、第2の換算部42により演算される換算値Nmpにおける小数部分Nの値を円周上にプロットするとき、小数部分Nの値は円周上を移動する動点として見ることができる。アシストモータ21がその中立位置であるモータ中点を基準として正回転する場合、アシストモータ21に連動して回転するピニオンシャフト13の回転角θpaに基づく換算値Nmpの小数部分Nの値は、円周上を図5(b)中の反時計方向へ向けて移動する。アシストモータ21がその中立位置であるモータ中点を基準として逆回転する場合、アシストモータ21に連動して回転するピニオンシャフト13の回転角θpaに基づく換算値Nmpの小数部分Nの値は、円周上を図5(b)中の時計方向へ向けて移動する。図5(b)では、モータ中点を基準とするアシストモータ21の正方向へ向けた1/4回転ごとの角度に対応する小数部分Nの値、すなわち「0.25,0.5,0.75」を示す。また、図5(b)では、モータ中点を基準とするアシストモータ21の逆方向へ向けた1/4回転ごとの角度に対応する小数部分Nの値、すなわち「-0.25,-0.5,-0.75」を括弧書きで示す。
【0060】
小数部分Nの値をアシストモータ21の回転角θに換算した換算値θnbの値が正しい場合、この換算値θnbは相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θと同じ値となる。すなわち、換算値Nnbの値が正しい場合、図5(b)のポイントP1で示される小数部分Nの値は、図5(a)にポイントP1′で示される相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θの値に対応した値となる。
【0061】
しかし、実際は先の動力伝達経路における組み立て公差などに起因して、小数部分Nの値をアシストモータ21の回転角θに換算した換算値θnbの値と、相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θとが同じ値にならないことがある。すなわち、換算値Nnbの値が正しい場合、小数部分Nの値は、図5(b)のポイントP1で示される図5(a)のポイントP′に対応する値となるところ、実際の小数部分Nは、たとえば図5(b)のポイントP2,P3,P4,P5で示される値となる。
【0062】
この点、本実施の形態によれば、小数部分Nの値をアシストモータ21の回転角θに換算した換算値θnbと、相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θとの比較を通じて、アシストモータ21の回転数に相当する換算値Nmp、より具体的には換算値Nmpの整数部分Nに対する補正値Nを演算することが可能である。ただし、相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θが正しいこと、および先の式(F2)が成立することを前提とする。
【0063】
図6(a),(b)に示すように、第1の例として、アシストモータ21が正回転している状態において、換算値Nmpの小数部分Nの値が次式(G1)で表される範囲内の値である場合、相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θの値が次式(G2)で表される範囲内の値であるとき、アシストモータ21の回転数に相当する換算値Nmpは正しい値であるといえる。このことは、小数部分Nの値をアシストモータ21の回転角θに換算した換算値Nnb(0°~45°)と、相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θの値との差が許容範囲である±180°以内の値であることから、小数部分Nはアシストモータ21の回転角θと対応した同じ回転数内の値であることが分かる。このため、整数部分Nに対する補正値Nは「0」に設定すればよい。
【0064】
0°≦N<0.125 …(G1)
0°≦θ<45° …(G2)
図7(a),(b)に示すように、第2の例として、アシストモータ21が正回転している状態において、換算値Nmpの小数部分Nの値が次式(H1)で表される範囲内の値である場合、相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θの値が次式(H2)で表される範囲内の値であるとき、アシストモータ21の回転数に相当する換算値Nmpは間違った値であるといえる。このことは、小数部分Nの値をアシストモータ21の回転角θに換算した換算値Nnb(0°~45°)と、相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θの値との差が許容範囲である「±180°」を超える値であることから分かる。また、この場合、アシストモータ21の回転角θは小数部分Nに対して1回転分だけ少ない回転数内の値であること、たとえばアシストモータ21がNn-1回転目である場合、小数部分Nはアシストモータ21のN回転目に対応する位置にあることが分かる。このため、整数部分Nに対する補正値Nは「-1」に設定すればよい。
【0065】
0°≦N<0.125 …(H1)
270°≦θ<315°…(H2)
このことは、つぎのような見方もできる。
【0066】
図8のグラフに示すように、相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θは、操舵角θの変化に伴い「0°~360°」の範囲内における立ち上がりと立ち下がりとを所定の周期で繰り返す。ここでは、たとえば相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θがアシストモータ21のn-1回転目における350°であるのに対し、小数部分Nの値をアシストモータ21の回転角θに換算した換算値θnbがアシストモータ21のn回転目における10°である場合について検討する。この場合、相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θの位置からみて、小数部分Nの値をアシストモータ21の回転角θに換算した換算値θnbである10°は、アシストモータ21のn-1回転目の値なのかn回転目の値なのか不明である。
【0067】
しかし、ここでは相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θと、小数部分Nの値をアシストモータ21の回転角θに換算した換算値θnbとの差が「±180°」の範囲内に収まることを前提としている。そして、アシストモータ21のn-1回転目における10°はアシストモータ21の回転角θを基準とする±180°の範囲から外れた値である一方、アシストモータ21のn回転目における10°はアシストモータ21の回転角θを基準とする±180°の許容範囲内の値である。このため、小数部分Nの値をアシストモータ21の回転角θに換算した換算値θnbである10°は、アシストモータ21のn-1回転目の値ではなく、アシストモータ21のn回転目の値であることが分かる。したがって、換算値Nmpに対する補正値Nは「-1」と設定すればよいことが分かる。
【0068】
<補正値Nの演算処理手順>
つぎに、補正値演算部52により実行される補正値Nの演算処理手順を図9のフローチャートに従って説明する。このフローチャートにかかる各処理は、車両の電源スイッチがオフからオンへ切り替えられることを契機として実行される。
【0069】
図9のフローチャートに示すように、補正値演算部52は、次式(I)で表されるように、TAS25の絶対角センサ25aを通じて検出されるピニオンシャフト13の回転角θpaの値が「0」以上であるかどうかを判定する(ステップS101)。
【0070】
θpa≦0 …(I)
補正値演算部52は、ピニオンシャフト13の回転角θpaの値が「0」以上である旨判定されるとき(ステップS101でYES)、次式(J)で表されるように、第2の換算部42により演算される換算値Nmpの小数部分Nの値が「0.5」以下であるかどうかを判定する(ステップS102)。小数部分Nの値における「0.5」は、アシストモータ21の回転角θにおける180°に対応する値である。
【0071】
≦0.5 …(J)
補正値演算部52は、換算値Nmpの小数部分Nが「0.5」以下である旨判定されるとき(ステップS102でYES)、次式(K)で表されるように、アシストモータ21の回転角θが、換算値Nmpの小数部分Nに「0.5」を加算した値をアシストモータ21の回転角θに換算したしきい値よりも大きい値であるかどうかを判定する(ステップS103)。
【0072】
θ>(N+0.5)・360° …(K)
補正値演算部52は、アシストモータ21の回転角θが、換算値Nmpの小数部分Nに「0.5」を加算した値をアシストモータ21の回転角θに換算したしきい値よりも大きい値である旨判定されるとき(ステップS103でYES)、補正値Nとして「-1」を設定し(ステップS104)、処理を終了する。この処理は、たとえば先の図7(a),(b)に示される状況下で実行される。また、補正値演算部52は、アシストモータ21の回転角θが、換算値Nmpの小数部分Nに「0.5」を加算した値をアシストモータ21の回転角θに換算したしきい値よりも大きい値ではない旨判定されるとき(ステップS103でNO)、補正値Nとして「0」を設定し(ステップS105)、処理を終了する。この処理は、たとえば先の図6(a),(b)に示される状況下で実行される。
【0073】
補正値演算部52は、先のステップS102において、換算値Nmpの小数部分Nが「0.5」以下ではない旨判定されるとき(ステップS102でNO)、次式(L)で表されるように、アシストモータ21の回転角θが、小数部分Nから「0.5」を減算した値をアシストモータ21の回転角θに換算したしきい値よりも大きい値であるかどうかを判定する(ステップS106)。
【0074】
θ>(N-0.5)・360° …(L)
補正値演算部52は、アシストモータ21の回転角θが、換算値Nmpの小数部分Nから「0.5」を減算した値をアシストモータ21の回転角θに換算したしきい値よりも大きい値である旨判定されるとき(ステップS103でYES)、補正値Nとして「0」を設定し(ステップS107)、処理を終了する。また、補正値演算部52は、アシストモータ21の回転角θが、換算値Nmpの小数部分Nから「0.5」を減算した値をアシストモータ21の回転角θに換算したしきい値よりも大きい値ではない旨判定されるとき(ステップS106でNO)、補正値Nとして「+1」を設定し(ステップS108)、処理を終了する。
【0075】
補正値演算部52は、先のステップS101において、ピニオンシャフト13の回転角θpaの値が「0」以上ではない旨判定されるとき(ステップS101でNO)、次式(M)で表されるように、第2の換算部42により演算される換算値Nmpの小数部分Nの値が「-0.5」以上であるかどうかを判定する(ステップS109)。
【0076】
≧-0.5 …(M)
補正値演算部52は、換算値Nmpの小数部分Nが「-0.5」以上である旨判定されるとき(ステップS109でYES)、次式(N)で表されるように、アシストモータ21の回転角θから360°を減算した値が、換算値Nmpの小数部分Nから「0.5」を減算した値をアシストモータ21の回転角θに換算したしきい値よりも大きい値であるかどうかを判定する(ステップS110)。
【0077】
θ-360°>(N-0.5)・360° …(N)
補正値演算部52は、アシストモータ21の回転角θから360°を減算した値が、小数部分Nから「0.5」を減算した値をアシストモータ21の回転角θに換算したしきい値よりも大きい値である旨判定されるとき(ステップS110でYES)、補正値Nとして「0」を設定し(ステップS111)、処理を終了する。また、補正値演算部52は、アシストモータ21の回転角θから360°を減算した値が、小数部分Nから「0.5」を減算した値をアシストモータ21の回転角θに換算したしきい値よりも大きい値ではない旨判定されるとき(ステップS110でNO)、補正値Nとして「+1」を設定し(ステップS112)、処理を終了する。
【0078】
補正値演算部52は、換算値Nmpの小数部分Nが「-0.5」以上ではない旨判定されるとき(ステップS109でNO)、次式(O)で表されるように、アシストモータ21の回転角θから360°を減算した値が、換算値Nmpの小数部分Nに「0.5」を加算した値をアシストモータ21の回転角θに換算したしきい値よりも大きい値であるかどうかを判定する(ステップS113)。
【0079】
θ-360°>(N+0.5)・360° …(O)
補正値演算部52は、アシストモータ21の回転角θから360°を減算した値が、小数部分Nに「0.5」を加算した値をアシストモータ21の回転角θに換算したしきい値よりも大きい値である旨判定されるとき(ステップS113でYES)、補正値Nとして「-1」を設定し(ステップS114)、処理を終了する。また、補正値演算部52は、アシストモータ21の回転角θから360°を減算した値が、小数部分Nに「0.5」を加算した値をアシストモータ21の回転角θに換算したしきい値よりも大きい値ではない旨判定されるとき(ステップS113でNO)、補正値Nとして「0」を設定し(ステップS115)、処理を終了する。
【0080】
<第1の実施の形態の効果>
したがって、第1の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θの値と、換算値Nmpの小数部分Nの値に基づき演算されるアシストモータ21の360°以内の回転角θに相当する換算値θnbとの比較を通じて、換算値Nmpの整数部分Nに対する補正値Nが演算される。この補正値Nが換算値Nmpの整数部分Nに加算されることにより、モータ中点を基準としたアシストモータ21のより正確な回転数Nが得られる。そして、補正処理部50により演算される回転数Nと回転数演算部43により演算されるアシストモータ21の回転数Nとの差である補正値Nを使用して、回転数演算部43により演算されるアシストモータ21の回転数Nを補正することによって、モータ中点を基準としたアシストモータ21のより正確な回転数Nを得ることができる。このアシストモータ21のより正確な回転数Nおよび相対角センサ24を通じて検出されるアシストモータ21の回転角θに基づき、ピニオンシャフト13の回転角θpa、ひいては操舵角θを絶対角で得ることができる。絶対角センサ25aよりも分解能が細かい相対角センサ24の回転角θを使用することにより、ピニオンシャフト13の回転角θpa、ひいては操舵角θの演算精度を確保することができる。
【0081】
(2)絶対角センサ25aは、車両の電源スイッチがオフからオンへ切り替えられたとき、即時にピニオンシャフト13の回転角θpaを絶対角で検出する。このため、演算回路31は、車両の電源スイッチがオフからオンへ切り替えられたとき、モータ中点を基準とするアシストモータ21の回転数に相当する換算値Nmpを即時に演算することができる。したがって、演算回路31は、車両の電源スイッチがオフされている期間、アシストモータ21の回転数Nを監視する必要がない。このため、車両の電源スイッチがオフされている期間における消費電力を抑えることができる。
【0082】
<第2の実施の形態>
以下、モータ制御装置をステアバイワイヤ方式の操舵装置に適用した第2の実施の形態を説明する。
【0083】
図10に示すように、車両の操舵装置100は、ステアリングホイール11に連結されたステアリングシャフト12を有している。ステアリングシャフト12におけるステアリングホイール11と反対側の端部には、ピニオンシャフト13が設けられている。ピニオンシャフト13のピニオン歯13aは、ピニオンシャフト13に対して交わる方向へ延びる転舵シャフト14のラック歯14aに噛み合わされている。転舵シャフト14の両端には、それぞれタイロッド15,15を介して左右の転舵輪16,16が連結されている。
【0084】
また、操舵装置100は、クラッチ61およびクラッチ制御部62を有している。
クラッチ61はステアリングシャフト12の途中に設けられている。クラッチ61としては、励磁コイルに対する通電の断続を通じて動力の断続を行う電磁クラッチが採用される。クラッチ61が切断されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達が機械的に切断される。クラッチ61が接続されるとき、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達が機械的に連結される。
【0085】
クラッチ制御部62は、クラッチ61の断続を制御する。クラッチ制御部62は、クラッチ61の励磁コイルに通電することによってクラッチ61を接続された状態から切断された状態へ切り替える。また、クラッチ制御部62は、クラッチ61の励磁コイルに対する通電を停止することによってクラッチ61を切断された状態から接続された状態へ切り替える。
【0086】
クラッチ61が接続された状態において、ステアリングシャフト12、ピニオンシャフト13および転舵シャフト14は、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達経路として機能する。すなわち、ステアリングホイール11の回転操作に伴い転舵シャフト14が直線運動することにより、転舵輪16,16の転舵角θが変更される。
【0087】
また、操舵装置100は、操舵反力を生成するための構成として、反力モータ71、減速機構72、相対角センサ73、TAS74、および反力制御部75を有している。ちなみに、操舵反力とは、運転者によるステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用する力(トルク)をいう。操舵反力をステアリングホイール11に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。
【0088】
反力モータ71は、操舵反力の発生源である。反力モータ71としてはたとえば三相(U,V,W)のブラシレスモータが採用される。反力モータ71は、減速機構72を介して、ステアリングシャフト12に連結されている。減速機構72は、ステアリングシャフト12におけるクラッチ61とステアリングホイール11との間の部分に設けられている。反力モータ71のトルクは、操舵反力としてステアリングシャフト12に付与される。
【0089】
相対角センサ73は反力モータ71に設けられている。相対角センサ73は、反力モータ71の回転角θを0°から360°までの範囲の相対角で検出する。相対角センサ73としては、たとえばホールセンサあるいはMRセンサ(磁気抵抗効果センサ)などの磁気センサ、またはレゾルバなどの種々のタイプが採用される。
【0090】
TAS74は、ステアリングシャフト12における減速機構72とステアリングホイール11との間の部分に設けられている。TAS74は先の図1に示される第1の実施の形態のTAS25と同一の構成を有している。TAS74は、絶対角センサ74aとトルクセンサ74bとが組み合わせられてなる。絶対角センサ74aは、ステアリングシャフト12の回転角θssを360°を超える範囲の絶対角で検出する。ステアリングシャフト12にはステアリングホイール11が連結されるため、ステアリングシャフト12の回転角θssは、ステアリングホイール11の回転角である操舵角θと等しい値となる。トルクセンサ74bは、ステアリングホイール11の回転操作を通じてステアリングシャフト12に加わるトルクを操舵トルクTとして検出する。
【0091】
反力制御部75は、反力モータ71の駆動制御を通じて操舵トルクTに応じた操舵反力を発生させる反力制御を実行する。反力制御部75は、TAS74のトルクセンサ74bを通じて検出される操舵トルクT、および車速センサ27を通じて検出される車速Vに基づき目標操舵反力を演算し、この演算される目標操舵反力、操舵トルクTおよび車速Vに基づきステアリングホイール11の目標操舵角を演算する。また、反力制御部75は、相対角センサ73を通じて検出される反力モータ71の回転角θに基づきステアリングホイール11の実際の操舵角θを演算する。そして反力制御部75は、目標操舵角と実際の操舵角θとの偏差を求め、当該偏差を無くすように反力モータ71に対する給電を制御する。
【0092】
また、反力制御部75は、クラッチ接続条件の成否に基づきクラッチ61の断続を切り替える断続制御を実行する。クラッチ接続条件としては、たとえばつぎの3つの条件(a),(b),(c)が挙げられる。
【0093】
a.車両の電源スイッチがオフされていること。
b.反力モータ71を含む操舵反力を発生させるための構成要素の異常が検出されること。
【0094】
c.後述する転舵モータ81を含む転舵力を発生させるための構成の異常が検出されること。
反力制御部75は、クラッチ接続条件が成立するときにはクラッチ61を接続する旨の指令信号を生成する一方、クラッチ接続条件が成立しないときにはクラッチを切断する旨の指令信号を生成する。クラッチ制御部62は、反力制御部75により生成される指令信号に基づきクラッチ61の断続を制御する。
【0095】
また、操舵装置100は、転舵輪16,16を転舵させるための動力である転舵力を生成するための構成として、転舵モータ81、減速機構82、ピニオンシャフト83、相対角センサ84、TAS85、および転舵制御部86を有している。
【0096】
転舵モータ81は転舵力の発生源である。転舵モータ81としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。転舵モータ81は、減速機構82を介してピニオンシャフト83に連結されている。ピニオンシャフト83のピニオン歯83aは、転舵シャフト14のラック歯14bに噛み合わされている。転舵モータ81のトルクは、転舵力としてピニオンシャフト83を介して転舵シャフト14に付与される。転舵モータ81の回転に応じて、転舵シャフト14は車幅方向(図中の左右方向)に沿って移動する。
【0097】
相対角センサ84は転舵モータ81に設けられている。相対角センサ84は、転舵モータ81の回転角θを0°から360°までの範囲の相対角で検出する。相対角センサ84としては、たとえばホールセンサあるいはMRセンサ(磁気抵抗効果センサ)などの磁気センサ、またはレゾルバなどの種々のタイプが採用される。
【0098】
TAS85は、ピニオンシャフト13に設けられている。TAS85は先の図1に示される第1の実施の形態のTAS25と同一の構成を有している。TAS85は、絶対角センサ85aとトルクセンサ85bとが組み合わせられてなる。絶対角センサ85aは、ピニオンシャフト13の回転角θpaを360°を超える範囲の絶対角で検出する。トルクセンサ85bは、ピニオンシャフト13に作用するトルクTを検出する。
【0099】
転舵制御部86は、転舵モータ81の駆動制御を通じて転舵輪16,16を操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。転舵制御部86は、相対角センサ84を通じて検出される転舵モータ81の回転角θを検出し、当該検出される回転角θを使用して転舵モータ81を制御する。転舵制御部86は、相対角センサ84を通じて検出される転舵モータ81の回転角θに基づきピニオンシャフト83の実際の回転角θpbを演算する。また、転舵制御部86は、反力制御部75により演算される目標操舵角を使用して目標ピニオン角を演算する。そして転舵制御部86は、目標ピニオン角と実際のピニオンシャフト83の回転角θpbとの偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ81に対する給電を制御する。
【0100】
また、転舵制御部86も先のクラッチ接続条件(a)~(c)の成否に基づきクラッチ61の断続を切り替える断続制御を実行する。転舵制御部86は、クラッチ接続条件が成立するときにはクラッチ61を接続する旨の指令信号を生成する一方、クラッチ接続条件が成立しないときにはクラッチを切断する旨の指令信号を生成する。指令信号はクラッチ制御部62に対するものである。
【0101】
つぎに、反力制御部75について詳細に説明する。
反力制御部75は、基本的には先の図2に示される第1の実施の形態の制御装置26と同様の構成を有している。図2に括弧書きの符号で示すように、反力制御部75は、演算回路75a、マイクロコンピュータ75bおよび駆動回路75cを有している。
【0102】
演算回路75aは、基本的には先の図4に示される第1の実施の形態の演算回路31と同様の構成を有している。先の演算回路31がアシストモータ21の回転角θおよびピニオンシャフト13の回転角θpaを取り込むのに対し、演算回路75aは相対角センサ73を通じて検出される反力モータ71の回転角θおよびTAS74の絶対角センサ74aを通じて検出されるステアリングシャフト12の回転角θssを取り込む。演算回路75aは、これら取り込まれる回転角θ,θssを使用して、360°を超える範囲の操舵角θを絶対角で演算する。
【0103】
演算回路75aにおいては、先の図9のフローチャートと同様の処理手順で、ステアリングシャフト12の回転角θssに基づき演算される反力モータ71の回転数に対する補正値Ncを演算する。ただし、ここでは図9のフローチャートの各処理において、ピニオンシャフト13の回転角θpaをステアリングシャフト12の回転角θssと読み替える。また、アシストモータ21の回転角θを反力モータ71の回転角θと読み替える。
【0104】
マイクロコンピュータ75bは、TAS74のトルクセンサ74bを通じて検出される操舵トルクT、および車速センサ27を通じて検出される車速Vに基づき目標操舵反力を演算し、これら目標操舵反力、操舵トルクTおよび車速Vに基づきステアリングホイール11の目標操舵角を演算する。マイクロコンピュータ75bは、目標操舵角と、演算回路75aにより演算される操舵角θ(絶対角)との偏差を求め、当該偏差を無くすように反力モータ71に対する給電を、駆動回路75cを介して制御する。
【0105】
つぎに、転舵制御部86について詳細に説明する。
転舵制御部86は、基本的には先の図2に示される第1の実施の形態の制御装置26と同様の構成を有している。図2に括弧書きの符号で示すように、転舵制御部86は、演算回路86a、マイクロコンピュータ86bおよび駆動回路86cを有している。
【0106】
演算回路86aは、基本的には先の図4に示される第1の実施の形態の演算回路31と同様の構成を有している。先の演算回路31がアシストモータ21の回転角θおよびピニオンシャフト13の回転角θpaを取り込むのに対し、演算回路86aは相対角センサ84を通じて検出される転舵モータ81の回転角θおよびTAS85の絶対角センサ85aを通じて検出されるピニオンシャフト13の回転角θpaを取り込む。演算回路86aは、これら取り込まれる回転角θ,θpaを使用して、ピニオンシャフト83の360°を超える範囲の回転角θpbを絶対角で演算する。
【0107】
ちなみに、転舵シャフト14のラック歯14a,14bの諸元(歯のピッチおよび圧力角など)が同一の値に設定される場合、ピニオンシャフト13の回転角θpaおよびピニオンシャフト83の回転角θpbは互いに同じ値になる。
【0108】
演算回路86aは、先の図9のフローチャートと同様の処理手順で、ピニオンシャフト13の回転角θpaを変換することによって得られる転舵モータ81の回転数に対する補正値Ncを演算する。ただし、ここでは図9のフローチャートの各処理において、アシストモータ21の回転角θを転舵モータ81の回転角θと読み替える。演算回路86aは、転舵モータ81のモータ中点を基準とするより正確な回転数、および転舵モータ81の回転角θに基づき、ピニオンシャフト83の回転角θpbを絶対角で演算する。
【0109】
マイクロコンピュータ86bは、反力制御部75により演算されるステアリングホイール11の目標操舵角をピニオンシャフト83の目標回転角として取り込む。マイクロコンピュータ75bは、ピニオンシャフト83の目標回転角と、演算回路86aにより演算されるピニオンシャフト83の回転角θpb(絶対角)との偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ81に対する給電を、駆動回路86cを介して制御する。
【0110】
また、マイクロコンピュータ86bは、たとえば操舵反力を発生させるための構成要素(反力モータ71、相対角センサ73、および反力制御部75)に異常が検出されるとき、クラッチ61を接続させる。そしてマイクロコンピュータ86bは、TAS85を通じて検出されるトルクTに基づき目標アシスト力を演算し、当該目標アシスト力を発生させるべく転舵モータ81に対する給電を制御する。転舵モータ81のトルクが減速機構82を介して転舵シャフト14に付与されることにより、ステアリングホイール11の操作が補助される。すなわち、操舵装置100は、電動パワーステアリング装置(EPS)として機能する。
【0111】
したがって、第2の実施の形態によれば、先の第1の実施の形態における(1),(2)と同様の以下の効果を得ることができる。
(3)TAS74の絶対角センサ74aを通じて検出されるステアリングシャフト12の回転角θssを換算することにより得られる反力モータ71のモータ中点を基準とする回転数を、相対角センサ73を通じて検出される反力モータ71の回転数を使用して補正する。ステアリングシャフト12の回転角θssに基づく反力モータ71のモータ中点を基準とするより正確な回転数を使用することにより、操舵角θの演算精度を確保することができる。
【0112】
(4)車両の電源スイッチがオフされている期間において、ステアリングホイール11に外力が付与されることにより、ステアリングホイール11が回転するおそれがある。この点、TAS74の絶対角センサ74aは、車両の電源スイッチがオフからオンへ切り替えられたとき、即時にステアリングシャフト12の回転角θssを絶対角で検出する。このため、演算回路75aは、車両の電源スイッチがオフからオンへ切り替えられたとき、ステアリングシャフト12の回転角θssを反力モータ71のモータ中点を基準とする回転数に即時に換算することができる。したがって、演算回路75aは、車両の電源スイッチがオフされている期間、反力モータ71の回転数を監視する必要がない。このため、車両の電源スイッチがオフされている期間における消費電力を抑えることができる。
【0113】
(5)TAS85の絶対角センサ85aを通じて検出されるピニオンシャフト13の回転角θpaを換算することにより得られる転舵モータ81のモータ中点を基準とする回転数を、相対角センサ84を通じて検出される転舵モータ81の回転数を使用して補正する。ピニオンシャフト13の回転角θpaに基づく転舵モータ81のモータ中点を基準とするより正確な回転数を使用することにより、ピニオンシャフト13の回転角θpa、ひいてはピニオンシャフト83の回転角θpbの演算精度を確保することができる。
【0114】
(6)車両の電源スイッチがオフされるとき、クラッチ61が接続される。このため、車両の電源スイッチがオフされている期間において、ステアリングホイール11に外力が付与されたとき、ステアリングホイール11の回転に伴い転舵輪16,16が転舵するおそれがある。この点、TAS85の絶対角センサ85aは、車両の電源スイッチがオフからオンへ切り替えられたとき、即時にピニオンシャフト13の回転角θpaを絶対角で検出する。このため、演算回路86aは、車両の電源スイッチがオフからオンへ切り替えられたとき、ピニオンシャフト13の回転角θpaを転舵モータ81のモータ中点を基準とする回転数に即時に換算することができる。したがって、演算回路86aは、車両の電源スイッチがオフされている期間、転舵モータ81の回転数を監視する必要がない。このため、車両の電源スイッチがオフされている期間における消費電力を抑えることができる。
【0115】
<他の実施の形態>
なお、第1および第2の実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第1の実施の形態において、制御装置26が搭載されるEPSは、ステアリングシャフト12にアシスト力を付与するタイプであってもよい。
【0116】
・第2の実施の形態において、クラッチ制御部62、反力制御部75および転舵制御部86は、単一の制御装置として構成してもよい。
・第2の実施の形態において、操舵装置100として、クラッチ61およびクラッチ制御部62を割愛した構成を採用してもよい。この場合、ステアリングホイール11と転舵輪16,16との間の動力伝達が機械的に常に分離された状態に維持される。
【0117】
・第2の実施の形態において、反力制御部75の演算回路75aおよび転舵制御部86の演算回路86aの少なくとも一方として、補正処理部50を割愛した構成を採用してもよい。
【0118】
・第1および第2の実施の形態において、操舵装置10,100には、絶対角センサ25a,74a,85aおよびトルクセンサ25b,74b,85bが組み合わせられたTAS25,74,85を設けたが、これら絶対角センサ25a,74a,85aおよびトルクセンサ25b,74b,85bをそれぞれ独立した別個のセンサとして設けてもよい。この場合、第2の実施の形態において、ピニオンシャフト13にはトルクセンサ85bを設けなくてもよい。
【0119】
・第1および第2の実施の形態において、演算回路31,75a,86aは、マイクロコンピュータ33,75b,86bの機能部分としてマイクロコンピュータ33,75b,86bに組み込んでもよい。
【0120】
・第1および第2の実施の形態において、アシストモータ21および転舵モータ81が発生する動力を転舵シャフト14に伝達する伝達機構として、減速機構22,82およびピニオンシャフト23,83に代えて、ベルト伝動機構およびボールねじ機構を採用してもよい。
【0121】
・第1および第2の実施の形態において、制御装置26、反力制御部75あるいは転舵制御部86は、操舵装置10,100に限らず、モータを動力源とする他の機械装置の制御装置に具体化してもよい。この場合、機械装置は、その回転検出対象に連動する第1の回転体の相対回転角を検出する相対角センサ、および回転検出対象に連動する第2の回転体の絶対回転角を検出する絶対角センサを有することを前提とする。
【符号の説明】
【0122】
10,100…操舵装置(機械装置)、12…ステアリングシャフト(回転検出対象)、13…ピニオンシャフト(第2の構成要素)、14…転舵シャフト、21…アシストモータ(第1の構成要素)、24,73,84…相対角センサ、25a,74a,85a…絶対角センサ、26…制御装置(モータ制御装置)、31,75a,86a…演算回路、41…第1の換算部、42…第2の換算部、43…回転数演算部、44…減算器、45…絶対角演算部、50…補正処理部、51…分離部(第1の処理部)、52…補正値演算部(第2の処理部)、53…加算器(第3の処理部)、75…反力制御部(モータ制御装置)、86…転舵制御部(モータ制御装置)、71…反力モータ(第1の構成要素)、81…転舵モータ(第1の構成要素)、83…ピニオンシャフト(回転検出対象)、G…減速比、θmp…換算値(第1の回転角換算値)、θnb…換算値(第2の回転角換算値)、Nmp…換算値(回転数換算値)、N…整数部分、N…小数部分(回転角対応値)、N…補正値、N…回転数、θ,θ,θ…回転角(相対回転角)、θ…操舵角、θpa…回転角(絶対回転角)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10